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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】車両用の心理状態判定装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/06 20060101AFI20241218BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20241218BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20241218BHJP
【FI】
B62D1/06
B62D6/00
B62D113:00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023055307
(22)【出願日】2023-03-30
(65)【公開番号】P2024142909
(43)【公開日】2024-10-11
【審査請求日】2023-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩野 正光
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-500874(JP,A)
【文献】特開平05-252604(JP,A)
【文献】特開平06-293273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/00-1/28
B62D 6/00
B62D 113/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の心理状態を判定する車両用の心理状態判定装置であって、
ステアリングホイールのリムの上下の中央部分で分離するように左右の部分に配置され、前記運転者の生体情報を検出する1対の生体情報センサと、
前記生体情報に基づいて前記運転者の前記心理状態を判定する判定装置と、
前記ステアリングホイールの転舵角を検出する転舵角センサと、を備え、
前記生体情報センサのそれぞれが、前記リムの周方向に延在するように前記リムの表面に設けられた2筋の電極を含み、
前記判定装置は、前記心理状態を判定するべき判定期間を設定し、前記判定期間に検出された前記生体情報に基づいて前記心理状態を判定するように構成されており、且つ、前記転舵角に関連する所定の操舵条件が満たされる場合に前記判定期間を設定する、心理状態判定装置。
【請求項2】
前記2筋の電極は、前記リムの前記表面のうち、前記運転者の側且つ径方向外側の領域に配置されている、請求項1に記載の心理状態判定装置。
【請求項3】
前記2筋の電極は、前記リムの前記表面のうち、前記2筋の電極の間部分に対して突出している、請求項1に記載の心理状態判定装置。
【請求項4】
前記生体情報センサのそれぞれは、前記生体情報として前記運転者の皮膚電気活動を検出するGSR計測センサである、請求項1に記載の心理状態判定装置。
【請求項5】
前記判定装置は、前記皮膚電気活動に基づいて、前記運転者の心拍間隔を取得するように構成され、前記皮膚電気活動及び前記心拍間隔に基づいて前記運転者の前記心理状態を判定する、請求項4に記載の心理状態判定装置。
【請求項6】
前記操舵条件は、前記転舵角が所定角よりも小さいことを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の心理状態判定装置。
【請求項7】
車速を取得する車速取得装置を更に備え、
前記判定装置は、前記車速が所定速度よりも小さい場合、前記転舵角が前記所定角よりも小さいこと前記操舵条件から外すように構成されている、請求項に記載の心理状態判定装置。
【請求項8】
前記判定装置は、前記転舵角に基づく転舵角速度を取得するよう構成され、
前記操舵条件は、前記転舵角速度が所定角速度よりも小さいことを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の心理状態判定装置。
【請求項9】
前記判定装置は、前記操舵条件が所定時間に亘って満たされたときに前記判定期間を設定する、請求項1~5のいずれか1項に記載の心理状態判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の心理状態を判定する車両用の心理状態判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通参加者の中でも脆弱な立場にある人々にも配慮した持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する取り組みが活発化している。この実現に向けて運転支援技術に関する研究開発を通して交通の安全性や利便性をより一層改善する研究開発が注力されている。
【0003】
特許文献1には、装置を操作中の操作者の心拍を連続して計測するための心拍信号の計測技術が開示されている。この技術は、心電信号の変動から覚醒度など生体の状態を推定し、推定した覚醒度に応じたアクションを提示しそのアクションの効果的なフィードバックを可能にする。
【0004】
また、特許文献2には、乗員状態判定システムとして、運転者の生体情報として脈拍を検知するための検知部が操舵ハンドルに設けられたものが開示されている。検知部は、操舵ハンドルのフレーム(リム)の内部空間に配設された紫外線発生源と、フレームの表面に配置されて乗員の脈波を電気信号として捉えるための電極とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-142575号公報
【文献】特開2004-16581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、運転支援技術においては、運転をする全ての人に対して支援が適切に行われる必要があり、そのためには、ステアリングホイールが様々な運転者によってどのような態様で把持されていても、適切に生体情報を検知する必要がある。また、従来技術は心拍を計測し、心拍に基づいて覚醒度を推定しているが、運転支援を適切に行うためには改善の余地があった。
【0007】
本発明は、以上の背景に鑑み、適切に生体情報を検知して、運転支援を適切に行い得るようにすることを目的とし、延いては持続可能な輸送システムの発展に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、運転者の心理状態を判定する車両用の心理状態判定装置(10)であって、ステアリングホイール(2)のリム(6)の上下の中央部分で分離するように左右の部分に配置され、前記運転者の生体情報(皮膚電気活動)を検出する1対の生体情報センサ(11)と、前記生体情報に基づいて前記運転者の前記心理状態を判定する判定装置(20)と、を備え、前記生体情報センサのそれぞれが、前記リムの周方向に延在するように前記リムの表面(7)に設けられた2筋の電極(12)を含む。
【0009】
この態様によれば、1対の生体情報センサは、リムの上下の中央部分で分離するように左右の部分に配置され、生体情報センサが2筋の電極を含むため、ステアリングホイールのリムが運転者によってどのような態様で把持されていても生体情報センサが適切に生体情報を検知することができる。また、生体情報センサが検出した生体情報に基づいて判定装置が運転者の心理状態を判定するため、心理状態に基づく適切な運転支援が可能になる。
【0010】
上記の態様において、前記2筋の電極は、前記リムの前記表面のうち、前記運転者の側且つ径方向外側の領域(R)に配置されていると良い。
【0011】
様々な運転者が様々な態様でリムを把持するときに、殆どの態様において運転者の手はリムの表面の運転者側且つ径方向外側の部分に接触する。この態様によれば、運転者がリムを把持する殆どの場合に生体情報センサが適切に生体情報を検知することができる。
【0012】
上記の態様において、前記2筋の電極は、前記リムの前記表面のうち、前記2筋の電極の間部分(7a)に対して突出していると良い。
【0013】
この態様によれば、リムを把持する運転者の手がより確実に2筋の電極に接触する。したがって、生体情報センサが検知できる運転者の把持態様がより広がる。
【0014】
上記の態様において、前記生体情報センサのそれぞれは、前記生体情報として前記運転者の皮膚電気活動を検出するGSR計測センサ(11)であると良い。
【0015】
この態様によれば、ステアリングホイールのリムを把持する運転者の皮膚電気活動を検出し、皮膚電気活動に基づいて運転者の心理状態を判定することができる。
【0016】
上記の態様において、前記判定装置は、前記皮膚電気活動に基づいて、前記運転者の心拍間隔を取得するように構成され、前記皮膚電気活動及び前記心拍間隔に基づいて前記運転者の前記心理状態を判定すると良い。
【0017】
この態様によれば、判定装置は皮膚電気活動に基づいて心理状態を判定するだけでなく皮膚電気活動及び運転者の心拍間隔に基づいて心理状態を判定することができる。よって、心拍間隔に応じたより適切な運転支援が可能になる。
【0018】
上記の態様において、前記ステアリングホイールの転舵角(θ)を検出する転舵角センサ(15)を更に備え、前記判定装置は、前記心理状態を判定するべき判定期間を設定し、前記判定期間に検出された前記生体情報に基づいて前記心理状態を判定するように構成されており、且つ、前記転舵角に関連する所定の操舵条件が満たされる場合に前記判定期間を設定すると良い。
【0019】
この態様によれば、判定装置は、心理状態を判定するべき判定期間に検出された前記生体情報に基づいて心理状態を判定するため、心理状態をより適切に判定することができる。
【0020】
上記の態様において、前記操舵条件は、前記転舵角が所定角(θ1)よりも小さいことを含むと良い。
【0021】
転舵角が所定角よりも大きいときは、車両が旋回中である可能性があり、そのようなときは運転者の心理状態が緊張状態である可能性が高い。この態様によれば、車両が旋回中でないときに検出した生体情報に基づいて、判定装置が運転者の心理状態を判定するため、より適切に運転者の心理状態を判定することができる。
【0022】
上記の態様において、車速(V)を取得する車速取得装置(15)を更に備え、前記判定装置は、前記車速が所定速度(V1)よりも小さい場合、前記転舵角が前記所定角よりも小さいこと前記操舵条件から外すように構成されていると良い。
【0023】
車速が所定速度よりも小さいときには、車両が停止している可能性があり、そのような場合にはステアリングホイールがニュートラル位置からずれていても、運転者の心理状態は安定していると考えられる。この態様によれば、車速が所定速度よりも小さいときには、転舵角の大小にかかわらず、より広い車両の状態において、判定装置が心理状態を判定することができる。
【0024】
上記の態様において、前記判定装置は、前記転舵角に基づく転舵角速度(ω)を取得するよう構成され、前記操舵条件は、前記転舵角速度が所定角速度(ω1)よりも小さいことを含むと良い。
【0025】
たとえ転舵角が小さな値であったとしても、瞬間的に操舵を行ったときに転舵角速度が所定角速度よりも大きくなることがある。このような場面では生体情報が大きく変化し、心理状態を適切に判定することができない。この態様によれば、そのようなときに心理状態を判定することを回避することができる。
【0026】
上記の態様において、前記判定装置は、前記操舵条件が所定時間(T1)に亘って満たされたときに前記判定期間を設定すると良い。
【0027】
操舵状態が変化しているときには生体情報が変化し易く、そのようなときには心理状態を適切に判定することができない。この態様によれば、生体情報が所定時間に亘って安定しているときに心理状態を判定することにより、適切な判定結果を得ることができる。
【発明の効果】
【0028】
以上の態様によれば、適切に生体情報を検知して、適切な運転支援を可能にし、延いては持続可能な輸送システムの発展に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】ステアリングホイールの正面図
図2】ステアリングホイールの断面図
図3】心理状態判定装置が適用された車両のブロック図
図4】判定期間の設定条件を示す表
図5】判定期間の設定処理のフロー図
図6】心理状態判定装置の作用を説明するための図
図7】心理状態判定装置の作用を説明するためのタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明に係る車両用の心理状態判定装置10の実施形態について詳細に説明する。
【0031】
図1は車両1に設けられるステアリングホイール2の正面図であり、図2図1中のII-II線に沿うステアリングホイール2の断面図である。図1及び図2に示すように、ステアリングホイール2は、車両1の操舵部材として車両1の運転席の前方に配置され、ステアリングシャフトに取り付けられる態様で車両1に搭載される。ステアリングホイール2は、ステアリングシャフトに固定されるハブ4と、ハブ4から径方向外側に延びる複数のスポーク5と、ハブ4と同軸をなすようにスポーク5によって支持されたリム6とを備える。
【0032】
図示例では2つのスポーク5が設けられているが、3つ以上のスポーク5が設けられても良い。また、図示例ではリム6は円環状をしているが、これに限られず、リム6の円弧の一部が直線であっても良く、円弧の一部の曲率が他の部分の曲率と異なっていても良い。リム6は略円形の断面を有している。
【0033】
リム6には、左右に対をなす1対のGSR計測センサ11が設けられている。GSR計測センサ11は、リム6の上下の中央部分で分離するように左右の部分に配置されている。GSR計測センサ11は、運転者の生体情報としてリム6を把持する手の皮膚電気活動(Galvanic Skin Responce:GSR、ガルヴァニック皮膚反応ともいう)を検出する生体情報センサである。
【0034】
具体的には、各GSR計測センサ11は、リム6の周方向に延在するようにリム6の表面7に設けられた2筋の電極12、直流の電圧供給部、スイッチ、信号増幅部、バンドパスフィルタ等を含んでいる。GSR計測センサ11は、スイッチがオンのときに、電圧供給部から2筋の電極12に電圧を供給する。運転者の手がリム6を握り、両電極12に触れると、両電間に微少電流が流れる。微少電流は人の手の平の発汗状態に応じて変化するため、この微少電流による電気的信号を計測することで、運転者の皮膚電気活動を取得することができる。
【0035】
1対のGSR計測センサ11は、リム6の上下の中央部分で分離するように左右の部分に配置され、GSR計測センサ11が2筋の電極12を含む。そのため、ステアリングホイール2のリム6が運転者によってどのような態様で把持されていても、GSR計測センサ11が適切に皮膚電気活動を検知することができる。
【0036】
この皮膚電気活動は、運転者の汗腺機能のパラメータとして自律神経の応答を表し、人の精神状態或いは心理状態を表すパラメータとして利用され得る。このように、GSR計測センサ11がステアリングホイール2のリム6を把持する運転者の生体情報である皮膚電気活動を検出することにより、皮膚電気活動に基づいて運転者の心理状態を判定することが可能になる。
【0037】
図2に示すように、2筋の電極12は、リム6の表面7のうち、運転者の側且つ径方向外側の領域Rに配置されている。つまり、運転者がリム6を把持する殆どの場合において手が接触する領域Rに2筋の電極12が配置されている。したがって、GSR計測センサ11が適切に皮膚電気活動を検知することができる。
【0038】
各電極12は、リム6の表面7のうち、2筋の電極12の外側の部分に対して概ね整合している。そのため、リム6を握った運転者は、リム6の表面7に凹凸があることによる違和感を覚えない。一方、各電極12は、リム6の表面7のうち、2筋の電極12の間部分7aに対して突出している。そのため、リム6を把持する運転者の手がより確実に2筋の電極12に接触する。したがって、GSR計測センサ11が検知できる運転者の把持態様がより広がる。
【0039】
図3は心理状態判定装置10が適用された車両1のブロック図である。心理状態判定装置10は、車両1に搭載されて運転者の心理状態を判定する装置である。詳細な図示は省略するが、車両1は、車輪を転舵させる操舵装置と、車輪を回転させる駆動装置と、車輪の回転を制動する制動装置とを含む走行装置13を備えている。また車両1は、車輪の転舵角θを検出する転舵角センサ14、車両1の走行速度即ち車速Vを検出する車速センサ15、運転者や乗員に報知を行う報知装置16等を備えている。車速センサ15が設けられる代わりに、エンジン回転速度やモータ回転速度等に基づいて車速Vを取得する車速取得装置が設けられても良い。報知装置16は、スピーカ、ディスプレイ、ステアリングホイール2に設けられた振動装置等であって良い。
【0040】
心理状態判定装置10は、上記のステアリングホイール2に設けられた左右のGSR計測センサ11と、GSR計測センサ11によって計測された生体情報に基づいて運転者の心理状態を判定する判定装置をなす制御装置20とを備える。制御装置20は、報知装置16や走行装置13等の車両1に搭載された装置の作動を制御する装置であり、その機能部分の少なくとも一部によって判定装置が構成される。
【0041】
制御装置20は、演算処理装置(CPU、MPU等のプロセッサ)、記憶装置(ROM、RAM等のメモリ)を備えるコンピュータからなる電子制御装置(ECU)である。制御装置20は、後述する判定期間設定処理や、走行装置13の駆動処理、報知装置16の駆動処理等に必要な各種処理を実行するように構成されている。即ち、制御装置20は、演算処理装置が記憶装置から必要なデータ及びアプリケーションソフトウェアを読み取り、当該ソフトウェアにしたがって当該所定の演算処理を実行するようにプログラムされている。制御装置20は1つのハードウェアとして構成されていても良く、複数のハードウェアからなるユニットとして構成されていても良い。
【0042】
制御装置20は、機能部として、転舵角速度演算部21、操舵条件判定部22、判定期間設定部23、心拍間隔取得部24、心理状態判定部25、装置制御部26を有する。なお、これらのうち転舵角速度演算部21、操舵条件判定部22、判定期間設定部23、心拍間隔取得部24及び心理状態判定部25は、心理状態判定装置10の判定装置を構成する。心理状態判定装置10の判定装置は装置制御部26を含んでいても良く、制御装置20の機能部の全てを含んでも良い。
【0043】
転舵角速度演算部21は、転舵角センサ14により検出されたステアリングホイール2の転舵角θを時間微分することによって転舵角速度ωを演算する。
【0044】
操舵条件判定部22は、判定期間設定処理で必要になる操舵条件が満たされているか否かを判定する。図4は判定期間の設定条件を示す表である。図に示すように、判定期間の設定条件の1つである操舵条件として、転舵角θが所定角θ1よりも小さいこと、及び、転舵角速度ωが所定角速度ω1よりも小さいこと設定されている。
【0045】
転舵角θの閾値である所定角θ1は、本実施形態では5degに設定されるが、8degや10deg等であっても良い。なお、転舵角θはニュートラル位置を0として与えられ、左右の一方の値はマイナスになるが、ここでの転舵角θは絶対を意味する。転舵角速度ωの閾値である所定角速度ω1は、本実施形態では10deg/sに設定されるが、8deg/sや5deg/s等であっても良い。ここでの転舵角速度ωも絶対を意味する。転舵角速度ω車輪の転舵角θが所定角θ1よりも小さいことの代わりに、ステアリングホイール2の操舵舵角が所定値よりも小さいことが操舵条件に用いられても良い。
【0046】
図3に戻り、判定期間設定部23は、生体情報に基づく心理状態の判定を行うべき時期であるか否かを判定する。言い換えれば、判定期間設定部23は、生体情報に基づく心理状態の判定を行うべき期間である判定期間を設定する。判定期間の設定については、後に図4を参照して説明する。
【0047】
心拍間隔取得部24は、左右のGSR計測センサ11によって計測された皮膚電気活動に基づいて、運転者の心拍間隔を取得する。具体的には、心拍間隔取得部24は、GSR計測センサ11が設けられたステアリングホイール2の左右の部分を運転者が両手で把持しているときに、検出された両手の皮膚電気活動の電気的信号をフィルタ処理するによって心拍を検出し、心拍間隔を取得する。心拍間隔取得部24が心拍間隔を取得する代わりに、心拍間隔の逆数である脈拍を演算する脈拍取得部が設けられても良い。
【0048】
心理状態判定部25は、判定期間設定部23によって設定された判定期間のときに、判定期間に検出された生体情報に基づいて心理状態を判定する。心理状態判定部25は、生体情報として、少なくとも皮膚電気活動を用いて心理状態を判定する。本実施形態の心理状態判定部25は、運転者が両手でステアリングホイール2を把持しているときには、皮膚電気活動及び心拍間隔に基づいて心理状態を判定する。
【0049】
心理状態を判定する際、心理状態判定部25は、GSR計測センサ11の一方の検出値を用いると良い。心理状態の判定に用いるGSR計測センサ11は、例えば、両手把持になる前の片手把持のときに皮膚電気活動を検出していたものであって良い。或いは、判定期間が開始される前数秒間のデータ状態に基づいて、心理状態判定部25が採用するべきGSR計測センサ11を決定しても良い。状態判定部が一方のGSR計測センサ11の検出値を用いることにより、皮膚電気活動の変動が大きくなることが抑制される。
【0050】
装置制御部26は、走行装置13及び報知装置16の作動を制御する。例えば、装置制御部26は、運転者の心理状態が通常の心理状態と異なる異常状態(不安状態、緊張状態、パニック状態等)のときに、報知装置16を駆動して運転者に「お困りですか?」のように問いかけを行って良い。また、装置制御部26は、運転者の心理状態が異常状態のときに、操舵装置、駆動装置及び制動装置の少なくとも1つを駆動して運転者の運転を補助しても良い。
【0051】
このように、生体情報センサであるGSR計測センサ11が検出した生体情報に基づいて、心理状態判定部25が運転者の心理状態を判定するため、心理状態に基づく適切な運転支援が可能になる。
【0052】
また、判定装置をなす制御装置20は、皮膚電気活動に基づいて運転者の心拍間隔を取得するように構成され、皮膚電気活動及び心拍間隔に基づいて運転者の心理状態を判定する。そのため、心拍間隔を用いたより適切な運転支援が可能になる。
【0053】
図4に示すように、生体情報に基づく心理状態の判定を行うべきこと(その時期であること)を示す判定期間は、図4に示す表の各行に示される8つの条件のうち、判定期間の欄にYesと記される3つの条件のときに設定される。条件の1つは、車速Vが1km/h(所定速度V1)よりも大きく、転舵角θが5deg(所定角θ1)よりも小さく、転舵角速度ωが10deg/s(所定角速度ω1)よりも小さいことが、5秒(所定時間T1)継続した場合である。この場合は車両1が直進走行中と考えられる。条件の2つ目及び3つ目は、車速Vが1km/h(所定速度V1)よりも小さく、転舵角速度ωが10deg/s(所定角速度ω1)よりも小さいことが、5秒(所定時間T1)継続した場合である。このうちの1つは、転舵角θが5deg(所定角θ1)よりも大きい、車両1が交差点を曲がる前の一時停止の状態を想定して設定され、他の1つは、転舵角θが5deg(所定角θ1)よりも小さい、車両1が駐停車中の状態を想定して設定されている。
【0054】
車速Vが1km/hよりも大きく、転舵角θが5degよりも大きい場合は、転舵角速度ωが10deg/sよりも大きければ、運転者によって車両1が意識的に操舵されている状態であり、判定に適さない状態であると考えられため、判定期間に設定されていない。一方、転舵角速度ωが10deg/sよりも小さければ、車両1が定常旋回中の状態であり、判定に適さない状態であると考えられるため、判定期間に設定されていない。また、車速Vが1km/hよりも大きい場合は、転舵角θが5degよりも大きくても、転舵角速度ωが10deg/sよりも大きい場合は、車両1は運転者によって瞬間的に操舵されている状態であり、判定に適さない状態であると考えられるため、判定期間に設定されていない。
【0055】
車速Vが1km/hよりも小さく、転舵角速度ωが10deg/sよりも大きい場合は、転舵角θが5degよりも大きければ、車両1は運転者によって据え切りされている状態と考えられる。一方、転舵角θが5degよりも大きければ、車両1は運転者によって瞬間的に操舵されている状態と考えられる。これらの状態は、判定に適さない状態であると考えられるため、判定期間に設定されていない。
【0056】
制御装置20は、このような条件に応じて判定期間を設定するために、図5に示す判定期間の設定処理を所定の時間間隔ごとに繰り返し実行する。以下、図5を参照して、具体的な手順を説明する。
【0057】
制御装置20は、まず、転舵角θが所定角θ1よりも小さいか否かを判定する(ステップST1)。転舵角θが所定角θ1(5deg)以上である場合(ST1:No)、制御装置20は車速Vが所定速度V1(1km/h)よりも小さいか否かを判定する(ステップST2)。転舵角θが所定角θ1よりも小さい場合(ST1:Yes)及び、車速Vが所定速度V1よりも小さい場合(ST2:Yes)、制御装置20は転舵角速度ωが所定角速度ω1(10deg/s)よりも小さいか否かを判定する(ステップST3)。
【0058】
転舵角速度ωが所定角速度ω1よりも小さい場合(ST3:Yes)、制御装置20は操舵条件フラグが0であるか否かを判定する(ステップST4)。操舵条件フラグは、上記操舵条件(転舵角θが所定角θ1よりも小さいこと(ST1:Yes)、及び、転舵角速度ωが所定角速度ω1よりも小さいこと(ST3:Yes))が満たされている場合に1に、満たされていない場合に0に設定されるべきフラグである。操舵条件フラグが0である場合(ST4:Yes)、制御装置20は操舵条件フラグに1を設定し(ステップST5)、タイマをスタートさせ(ステップST6)、本ルーチンを終了してスタートからの処理を繰り返す。
【0059】
ステップST4において操舵条件フラグが1である場合(No)、制御装置20はタイマを確認し、所定時間T1が経過したか否かを判定する(ステップST7)。所定時間T1が経過していない場合(ST7:No)、制御装置20は本ルーチンを終了してスタートからの処理を繰り返す。一方、所定時間T1が経過している場合(ST7:Yes)、制御装置20は判定期間を設定する、即ち生体情報に基づく心理状態の判定を開始する。心理状態の判定は、判定期間に検出された生体情報に基づいて制御装置20によって行われる。
【0060】
転舵角θが所定角θ1以上であり(ST1:No)、且つ車速Vが所定速度V1以上である場合(ST2:No)、制御装置20は操舵条件フラグが1であるか否かを判定する(ステップST9)。ステップST3において転舵角速度ωが所定角速度ω1以上である場合(No)にも、制御装置20はステップST9の処理を実行する。操舵条件フラグが1である場合(ST9:Yes)、制御装置20は操舵条件フラグに0を設定し(ステップST10)、タイマをリセットし(ステップST11)、判定期間を解除する、即ち生体情報に基づく心理状態の判定を終了する。そして制御装置20は本ルーチンを終了してスタートからの処理を繰り返す。また、ステップST9において操舵条件フラグが0である場合(ST9:No)、制御装置20は何ら処理を行うことなく、本ルーチンを終了してスタートからの処理を繰り返す。
【0061】
制御装置20がこのような手順で判定期間の設定処理を実行することにより、図4の表にYesと示される3つの条件のときには判定期間設定され、Noと示される5つの条件のときには判定期間が設定されない。
【0062】
次に、図6及び図7を参照して、心理状態判定装置10の作用を説明する。ここでは、図6に示すように、車両1が直進から右折し、その後左折するときの動作を説明する。この間の期間は、車両1の状態に応じ、直進状態の第1期間P1、右折(右旋回状態)の第2期間P2、直進状態の第3期間P3、左折(左旋回状態)の第4期間P4、直進状態の第5期間P5と分けることができる。
【0063】
図7は、この間の車両情報及び運転者の生体情報を示すタイムチャートである。第1期間P1は、車速Vが大きい一方、転舵角θ及び転舵角速度ωが共に小さいため、判定期間に設定される。第2期間P2は、転舵角θ及び転舵角速度ωが共に大きいため、非判定期間に設定される。第3期間P3は、車速Vが大きい一方、転舵角θ及び転舵角速度ωが共に小さいため、判定期間に設定される。第4期間P4は、転舵角θ及び転舵角速度ωが共に大きいため、非判定期間に設定される。第5期間P5は、車速Vが大きい一方、転舵角θ及び転舵角速度ωが共に小さいため、判定期間に設定される。
【0064】
このように制御装置20は、転舵角θに関連する所定の操舵条件が満たされる場合(ST1:Yes、ST2:Yes)にステップST8で判定期間を設定する(ST8)。そして制御装置20は、心理状態を判定するべき判定期間に検出された生体情報に基づいて心理状態を判定するため、心理状態をより適切に判定することができる。
【0065】
転舵角θが所定角θ1よりも大きいときは、車両1が旋回中である可能性があり、そのようなときは運転者の心理状態が緊張状態である可能性が高い。そこで制御装置20は、ステップST8で判定期間を設定するための操舵条件として、ステップST1で転舵角θが所定角θ1よりも小さいことを確認する。これにより、車両1が旋回中でないときに検出した生体情報に基づいて、制御装置20が運転者の心理状態を判定することになるため、より適切に運転者の心理状態を判定することができる。
【0066】
車速Vが所定速度V1よりも小さいときには、車両1が停止している可能性があり、そのような場合にはステアリングホイール2がニュートラル位置からずれていても、運転者の心理状態は安定していると考えられる。そこで制御装置20は、車速Vが所定速度V1よりも小さい場合(ST2:Yes)、処理をステップST3に進める、即ち転舵角θが所定角θ1よりも小さいことを操舵条件から外す。これにより、車速Vが所定速度V1よりも小さいときには、転舵角θの大小にかかわらず、より広い車両1の状態において、制御装置20が心理状態を判定することができる。
【0067】
たとえ転舵角θが小さな値であったとしても、瞬間的に操舵を行ったときに転舵角速度ωが所定角速度ω1よりも大きくなることがある。このような場面では生体情報が大きく変化し、心理状態を適切に判定することができない。そこで制御装置20は、操舵条件に、ステップST3における転舵角速度ωが所定角速度ω1よりも小さいことを含めている。これにより、そのようなときに心理状態を判定することが回避される。
【0068】
操舵状態が変化しているときには生体情報が変化し易く、そのようなときには心理状態を適切に判定することができない。そこで制御装置20は、操舵条件が所定時間T1に亘って満たされたときに(ST7:Yes)、ステップST9で判定期間を設定する。これにより、生体情報が所定時間T1に亘って安定しているときに心理状態を判定することになり、適切な判定結果を得ることができる。
【0069】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。例えば、生体情報センサとしてGSR計測センサ11が設けられる代わりに、心電図計測センサや脈拍計測センサ、皮膚温計測センサ等の他の生体情報センサが設けられても良い。この他、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、素材、判定閾値の数値など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。また、上記実施形態で示した処理手順は一例であり、これに限定されるものではない。更に、上記実施形態に示した各構成要素は全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 :車両
2 :ステアリングホイール
4 :ハブ
5 :スポーク
6 :リム
7 :表面
7a :間部分
10 :心理状態判定装置
11 :GSR計測センサ(生体情報センサ)
12 :電極
13 :走行装置
14 :転舵角センサ
15 :車速センサ(車速取得装置の一例)
16 :報知装置
20 :制御装置(判定装置)
21 :転舵角速度演算部
22 :操舵条件判定部
23 :判定期間設定部
24 :心拍間隔取得部
25 :心理状態判定部
26 :装置制御部
R :領域
T1 :所定時間
V :車速
V1 :所定速度
θ :転舵角
θ1 :所定角
ω :転舵角速度
ω1 :所定角速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7