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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】亜鉛二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/28 20060101AFI20241218BHJP
   H01M 10/30 20060101ALI20241218BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20241218BHJP
   H01M 50/533 20210101ALI20241218BHJP
   H01M 50/54 20210101ALI20241218BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20241218BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20241218BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241218BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20241218BHJP
   H01M 4/42 20060101ALI20241218BHJP
   H01M 4/50 20100101ALI20241218BHJP
【FI】
H01M10/28 Z
H01M10/30 Z
H01M12/08 K
H01M50/533
H01M50/54
H01M50/446
H01M50/449
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/42
H01M4/50
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023505099
(86)(22)【出願日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2021041503
(87)【国際公開番号】W WO2022190460
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-08-15
(31)【優先権主張番号】P 2021040857
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】高橋 朋大
(72)【発明者】
【氏名】松矢 淳宣
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-059529(JP,A)
【文献】特開平08-111216(JP,A)
【文献】特開2013-045795(JP,A)
【文献】特開2008-091268(JP,A)
【文献】特開2012-129114(JP,A)
【文献】特開2019-128987(JP,A)
【文献】特開2017-022060(JP,A)
【文献】国際公開第2019/230930(WO,A1)
【文献】特開2002-298825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/04-39
H01M 12/06-08
H01M 50/50-598
H01M 50/40-497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層及び正極集電体を含む正極板と、
前記正極板の端部から所定方向に延出する正極集電タブと、
亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む負極活物質層、及び負極集電体を含む負極板と、
前記負極板の端部から前記所定方向に、前記正極集電タブと重ならない位置で延出する負極集電タブと、
前記正極板及び前記負極板を水酸化物イオン伝導可能に隔離する水酸化物イオン伝導セパレータと、
電解液と、
を含む単位セルを複数個備え、それにより複数個の前記単位セルが積み重なって多層セルをなしている亜鉛二次電池であって、
前記正極集電タブ及び前記負極集電タブの各々は、断面視した場合に、少なくとも2箇所で折り曲げられた丸みを帯びていない形状を成しており、それにより、前記正極集電タブ及び前記負極集電タブの各々が、前記正極板及び前記負極板と平行な少なくとも2つのストレート部と、前記少なくとも2つのストレート部の間の傾斜部とを有しており、
前記正極集電タブの、前記正極板から離れた方の前記ストレート部が互いに積み重なって接合され、正極タブ接合部を成しており、かつ、前記負極集電タブの、前記負極板から離れた方の前記ストレート部が互いに積み重なって接合され、負極タブ接合部を成している、
ただし、前記正極タブ接合部及び/又は前記負極タブ接合部と同一平面内に位置する前記正極集電タブ及び/又は前記負極集電タブが存在する場合、該同一平面内の前記正極集電タブ及び/又は前記負極集電タブは、例外的に、折り曲げられることなく前記正極板及び/又は前記負極板と平行な1つのストレート部のみからなるものであってよく、
前記正極集電タブ及び前記負極集電タブの各傾斜部は、前記正極タブ接合部又は前記負極タブ接合部と前記正極板又は前記負極板との間の積層方向の位置のずれを相殺するように、前記ストレート部に対する傾斜角が0°~70°の範囲内で個別に設定されており、それにより隣り合う前記正極集電タブ及び前記負極集電タブの傾斜部が異なる傾斜角を成している、亜鉛二次電池。
【請求項2】
前記正極板、前記正極集電タブ、前記負極板、前記負極集電タブ、及び前記水酸化物イオン伝導セパレータの各々が縦向きに配置されて、それにより前記多層セルが横方向に多層化されている、請求項1に記載の亜鉛二次電池。
【請求項3】
前記正極集電タブ及び前記負極集電タブが上向きに延在している、請求項2に記載の亜鉛二次電池。
【請求項4】
前記多層セルの外側から、前記正極タブ接合部及び/又は前記負極タブ接合部と同一の平面に向かって、前記正極集電タブ及び前記負極集電タブの前記傾斜角が徐々に小さくなる、請求項1~のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【請求項5】
前記多層セルの外側から中心部に向かって、前記正極集電タブ及び前記負極集電タブの前記傾斜角が徐々に小さくなる、請求項1~のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【請求項6】
前記亜鉛二次電池が、前記正極板及び/又は前記負極板に接触する保液部材を更に備えている、請求項1~のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【請求項7】
前記水酸化物イオン伝導セパレータが、層状複水酸化物(LDH)及び/又はLDH様化合物を含むLDHセパレータである、請求項1~のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【請求項8】
前記LDHセパレータが、多孔質基材を更に含み、前記LDH及び/又はLDH様化合物が前記多孔質基材の孔に充填された形態で前記多孔質基材と複合化されている、請求項に記載の亜鉛二次電池。
【請求項9】
前記多孔質基材が高分子材料製である、請求項に記載の亜鉛二次電池。
【請求項10】
前記正極活物質層が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、それにより前記亜鉛二次電池がニッケル亜鉛二次電池をなす、請求項1~のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【請求項11】
前記正極活物質層が空気極層であり、それにより前記亜鉛二次電池が空気亜鉛二次電池をなす、請求項1~のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
集電タブが延出した正極板及び負極板を交互に複数枚積み重ねた構成の多層セル型の二次電池が知られている。これらの二次電池において、複数枚の集電タブを束ねて集電端子に接続させる構成が知られている。例えば、特許文献1(国際公開第2019/163220号)には、集電タブが、活物質配置部と集電端子との間で湾曲する湾曲部と、活物質配置部と反対側の先端部とを有し、当該先端部が集電端子に接合させた構造の二次電池が開示されている。また、特許文献2(国際公開第2020/071049号)には、集電タブが屈曲した状態で電池ケースに収容された二次電池が開示されており、集電タブが、集電端子との接合部と、接合部から離間し、かつ、電極体側の位置に設けられた、集電タブが屈曲する起点となる屈曲部とを有するとされている。
【0003】
ところで、ニッケル亜鉛二次電池、空気亜鉛二次電池等の亜鉛二次電池では、充電時に負極から金属亜鉛がデンドライト状に析出し、不織布等のセパレータの空隙を貫通して正極に到達し、その結果、短絡を引き起こすことが知られている。このような亜鉛デンドライトに起因する短絡は繰り返し充放電寿命の短縮を招く。この問題に対処すべく、水酸化物イオンを選択的に透過させながら、亜鉛デンドライトの貫通を阻止する、層状複水酸化物(LDH)セパレータを備えた電池が提案されている(例えば、特許文献3(国際公開第2016/076047号)、特許文献4(国際公開第2019/124270号)参照)。また、LDHとは呼べないもののそれに類する層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物としてLDH様化合物が知られており、LDHとともに水酸化物イオン伝導層状化合物と総称できる程に類似した水酸化物イオン伝導特性を呈する。例えば、特許文献5(国際公開第2020/255856号)には、多孔質基材と、前記多孔質基材の孔を塞ぐ層状複水酸化物(LDH)様化合物とを含む、水酸化物イオン伝導セパレータが開示されている。特許文献6(国際公開第2019/069760号)及び特許文献7(国際公開第2019/077953号)には、負極活物質層の全体を保液部材及びLDHセパレータで覆う又は包み込み、かつ、正極活物質層を保液部材で覆う又は包み込んだ構成の亜鉛二次電池が提案されている。保液部材としては不織布が用いられている。かかる構成によれば、LDHセパレータと電池容器との煩雑な封止接合を不要にして、亜鉛デンドライト伸展を防止可能な亜鉛二次電池(特にその積層電池)を極めて簡便にかつ高い生産性で作製することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/163220号
【文献】国際公開第2020/071049号
【文献】国際公開第2016/076047号
【文献】国際公開第2019/124270号
【文献】国際公開第2020/255856号
【文献】国際公開第2019/069760号
【文献】国際公開第2019/077953号
【発明の概要】
【0005】
特許文献1及び2に開示されるような従来の集電タブは、複数枚の集電タブを束ねて端子に接合させる際に、集電タブが引っ張られることになる。その際に、電極板の端部に過剰な負荷が掛かり、電極板(特に活物質層)やセパレータに欠陥が生じ、短絡のリスクが高まる。また、亜鉛二次電池の場合、充放電を繰り返していくにつれて、負極の形状が変化していくシェイプチェンジが起こる。このシェイプチェンジによる負極板端部の変形に伴って集電タブが更に引っ張られて短絡リスクがより一層高まる懸念がある。そこで、集電タブを束ねて端子と接合する構造を含む多層セル型の亜鉛二次電池において、短絡しにくい集電タブ構造が求められる。
【0006】
本発明者らは、今般、少なくとも2箇所で折り曲げられた丸みを帯びていない形状の集電タブを採用することで、短絡が発生しにくい多層セル型の亜鉛二次電池を提供できるとの知見を得た。
【0007】
したがって、本発明の目的は、集電タブを束ねた接合構造を有しながらも、短絡が発生しにくい、多層セル型の亜鉛二次電池を提供することにある。
【0008】
本発明の一態様によれば、
正極活物質層及び正極集電体を含む正極板と、
前記正極板の端部から所定方向に延出する正極集電タブと、
亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む負極活物質層、及び負極集電体を含む負極板と、
前記負極板の端部から前記所定方向に、前記正極集電タブと重ならない位置で延出する負極集電タブと、
前記正極板及び前記負極板を水酸化物イオン伝導可能に隔離する水酸化物イオン伝導セパレータと、
電解液と、
を含む単位セルを複数個備え、それにより複数個の前記単位セルが積み重なって多層セルをなしている亜鉛二次電池であって、
前記正極集電タブ及び前記負極集電タブの各々は、断面視した場合に、少なくとも2箇所で折り曲げられた丸みを帯びていない形状を成しており、それにより、前記正極集電タブ及び前記負極集電タブの各々が、前記正極板及び前記負極板と平行な少なくとも2つのストレート部と、前記少なくとも2つのストレート部の間の傾斜部とを有しており、
前記正極集電タブの、前記正極板から離れた方の前記ストレート部が互いに積み重なって接合され、正極タブ接合部を成しており、かつ、前記負極集電タブの、前記負極板から離れた方の前記ストレート部が互いに積み重なって接合され、負極タブ接合部を成している、
ただし、前記正極タブ接合部及び/又は前記負極タブ接合部と同一平面内に位置する前記正極集電タブ及び/又は前記負極集電タブが存在する場合、該同一平面内の前記正極集電タブ及び/又は前記負極集電タブは、例外的に、折り曲げられることなく前記正極板及び/又は前記負極板と平行な1つのストレート部のみからなるものであってよい、亜鉛二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明による亜鉛二次電池の一例を示す模式断面図である。
図2図1に示される亜鉛二次電池のA-A’線断面を模式的に示す図である。
図3図2に示される集電タブの接合構造の拡大図である。
図4図1に示される亜鉛二次電池の電池要素を模式的に示す斜視図である。
図5図1に示される亜鉛二次電池の電池要素を模式的に示す断面図である。
図6】本発明による集電タブの接合構造の製造手順を示す図である。
図7】本発明による集電タブにおける傾斜部の傾斜角を示す断面図である。
図8】本発明による集電タブにおける折り曲げ箇所の近傍を概念的に示す断面図である。
図9】従来の集電タブの接合構造の一例を模式的に示す断面図である。
図10】従来の集電タブの接合構造の他の一例を模式的に示す断面図である。
図11】従来の集電タブの接合構造の製造手順を模式的に示す図である。
図12】従来の集電タブにおける折り曲げ箇所の近傍を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
亜鉛二次電池
本発明の亜鉛二次電池は、亜鉛を負極として用い、かつ、アルカリ電解液(典型的にはアルカリ金属水酸化物水溶液)を用いた二次電池であれば特に限定されない。したがって、ニッケル亜鉛二次電池、酸化銀亜鉛二次電池、酸化マンガン亜鉛二次電池、空気亜鉛二次電池、その他各種のアルカリ亜鉛二次電池であることができる。例えば、正極活物質層が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、それにより亜鉛二次電池がニッケル亜鉛二次電池をなすのが好ましい。あるいは、正極活物質層が空気極層であり、それにより亜鉛二次電池が空気亜鉛二次電池をなしてもよい。
【0011】
図1~5に本発明による亜鉛二次電池及びその内部構造の一態様を示す。これらの図に示される亜鉛二次電池10は、電池要素11を電池ケース20中に備えたものであり、正極板12と、正極集電タブ12bと、負極板14と、負極集電タブ14cと、水酸化物イオン伝導セパレータ16と、電解液18とを含む単位セル10aを複数個備える。これにより複数個の単位セル10aが積み重なって多層セルをなしている。正極板12は正極活物質層12a及び正極集電体(図示せず)を含み、正極集電タブ12bが正極板12から所定方向に延出する。負極板14は、負極活物質層14a及び負極集電体14bを含む。負極活物質層14aは、亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む。負極集電タブ14cは、負極板14から所定方向に、正極集電タブ12bと重ならない位置で延出する。水酸化物イオン伝導セパレータ16は、正極板12及び負極板14を水酸化物イオン伝導可能に隔離する。そして、正極集電タブ12b及び負極集電タブ14cの各々は、断面視した場合に、少なくとも2箇所Fで折り曲げられた丸みを帯びていない形状を成しており、それにより、正極集電タブ12b及び負極集電タブ14cの各々が、正極板12及び負極板14と平行な少なくとも2つのストレート部Sと、少なくとも2つのストレート部Sの間の傾斜部Iとを有している。正極集電タブ12bの、正極板12から離れた方のストレート部Sが互いに積み重なって接合され、正極タブ接合部(図示せず)を成しており、かつ、負極集電タブ14cの、負極板14から離れた方のストレート部Sが互いに積み重なって接合され、負極タブ接合部30を成している。ただし、正極タブ接合部及び/又は負極タブ接合部30と同一平面内に位置する正極集電タブ12b及び/又は負極集電タブ14cが存在する場合、該同一平面内の正極集電タブ12b及び/又は負極集電タブ14cは、例外的に、折り曲げられることなく正極板12及び/又は負極板14と平行な1つのストレート部のみからなるものであってよい。このように、少なくとも2箇所で折り曲げられた丸みを帯びていない形状の集電タブを採用することで、集電タブを束ねた接合構造を有しながらも、短絡が発生しにくい多層セル型の亜鉛二次電池を提供することができる。
【0012】
すなわち、従来の多層セル用の集電タブは、図9に示されるように正極集電タブ12b及び負極集電タブ14cに折り目Fが無いか、又は図10に示されるように正極集電タブ12b及び負極集電タブ14cに折り目Fが一か所しか存在しないものである。いずれも丸みを帯びた形状(曲面形状)を含む。これらの場合、前述したとおり、複数枚の集電タブを束ねて端子に接合させる際に、集電タブが引っ張られることになる。例えば、図11に示されるように、多層セルとすべく正極板12及び負極板14を交互に積み重ねて、正極集電タブ12b同士又は負極集電タブ14c同士を束ねてプレスし、正極端子26又は負極端子(図示せず)に接合することを含む従来の製法においては、特にプレス時に、図12に示されるように正極活物質層12aや負極活物質層14aの端部に過剰な負荷が掛かり、正極活物質層12a、負極活物質層14a及び/又はセパレータ16に欠陥Dが生じやすく、短絡のリスクが高まる。しかも、亜鉛二次電池の場合、充放電を繰り返していくにつれて、負極の形状が変化していくシェイプチェンジが起こる。これは、負極活物質層14aが充放電を繰り返すにつれて中央に向かって不均一に縮小していく、すなわち負極活物質層14a(ZnO層)の外周部分が不均一に浸食されて失われていく現象である。このシェイプチェンジによる負極板端部の変形に伴って集電タブが更に引っ張られて短絡リスクがより一層高まる懸念がある。
【0013】
これに対し、本発明においては、図6に示されるように、正極集電タブ12b及び負極集電タブ14cの各々は、断面視した場合に、従来の集電タブとは異なり、少なくとも2箇所Fで折り曲げられた丸みを帯びていない形状を成している。その結果、正極集電タブ12b及び負極集電タブ14cの各々が、正極板12及び負極板14と平行な少なくとも2つのストレート部Sと、少なくとも2つのストレート部Sの間の傾斜部Iとを有している。このため、正極板12及び負極板14を交互に積み重ねた場合、正極集電タブ12bの、正極板12から離れた方のストレート部Sが互いに接するように積み重なる(すなわち束ねられる)ことができる一方、負極集電タブ14cの、負極板14から離れた方のストレート部Sが互いに接するように積み重なる(すなわち束ねられる)ことができる。これは、傾斜部Iの存在によって、正極板12又は負極板14に近い方のストレート部Sと、正極板12又は負極板14から方の離れたストレート部Sとの間の積層方法の位置のずれ(ギャップ)が相殺されるためである。そして、そのギャップが個々の正極板12又は個々の負極板14ごとに異なるため、傾斜部Iの傾斜角を個別に設定することで個々のギャップを好都合に相殺することができる。その結果、正極集電タブ12bや負極集電タブ14cを引っ張ることなく、正極集電タブ12b同士、及び負極集電タブ14c同士をそれぞれ束ねて、端子等の部材に接合することが可能となる。すなわち、従来の製法の図12とは対照的に、図8に示されるように正極活物質層12aや負極活物質層14aの端部に過剰な負荷が掛かることがなく、正極活物質層12a、負極活物質層14a及び/又はセパレータ16に欠陥Dが生じにくくなり、短絡のリスクが低減される。
【0014】
もっとも、図6及び7に示されるように、正極タブ接合部(図示せず)と同一平面内に位置する正極集電タブ12bが存在することがある。同様に、負極タブ接合部30と同一平面内に位置する負極集電タブ14cが存在することがある。このような場合には、かかる同一平面内の正極集電タブ12b及び/又は負極集電タブ14cは、例外的に、折り曲げられることなく正極板12及び/又は負極板14と平行な1つのストレート部Sのみからなるものであってよい。このような場合には上述したような積層方法の位置のずれ(ギャップ)がそもそも生じないため、傾斜部Iを設けてギャップを相殺する意味が無いからである。なお、上記「同一平面」は完全な同一平面である必要はなく、傾斜部Iを不要することができる程度の公差を含めた略同一な平面であってよい。
【0015】
ストレート部Sに対する傾斜部Iの傾斜角は、0°~90°の範囲内であることができ、典型的には0°~85°、より典型的には0°~80°、さらに典型的には0°~70°である。このような範囲内であると、多くの枚数の正極板12及び負極板14を積み重ねる場合であっても、正極集電タブ12b又は負極集電タブ14cを引っ張ることなく無理なく端子等の部材に接合することができる。なお、傾斜角が90°の集電タブが存在する場合は、その隣の集電タブに傾斜部Iが当たらないようにストレート部Sの長さを個別に変えることで無理なく複数の集電タブを束ねて端子等の部材に接合することができる。ストレート部Sに対する傾斜部Iの傾斜角は、図7に示されるように正極板12又は負極板14の板面と平行に配置されるストレート部Sと平行な面を基準面とし、当該基準面と傾斜部Iが成す鋭角ないし90°の角度(すなわち鈍角ではない)として定義される。したがって、図7に示されるように2つのストレート部Sの間に1つの傾斜部Iが存在する典型的な態様の場合、その断面形状によって形成される2つの傾斜角θとθは幾何学的に等しくなる。もっともθとθは完全に等しい必要はなく、端子側のストレートS部を問題無く束ねられる程度の公差を加味して略等しいものであってよい。
【0016】
好ましくは、図7に示されるように、正極集電タブ12b及び負極集電タブ14cの各傾斜部Iは、正極タブ接合部(図示せず)又は負極タブ接合部30と正極板12又は負極板14との間の積層方向の位置のずれを相殺するように、ストレート部Sに対する傾斜角が個別に設定されており、それにより隣り合う正極集電タブ12b及び負極集電タブ14cの傾斜部が異なる傾斜角を成している。こうすることで、多くの枚数の正極板12及び負極板14を積み重ねる場合であっても、正極集電タブ12b又は負極集電タブ14cを引っ張ることなく無理なく束ねて端子等の部材に接合することができる。この場合、多層セルの外側(例えば図7において#1と付記された正極板12及び#nと付記された正極板12)から、正極タブ接合部(図示せず)及び/又は負極タブ接合部30と同一の平面に向かって、正極集電タブ12b及び負極集電タブ14cの傾斜角が徐々に小さくなるのが好ましい。したがって、多層セルの外側から中心部に向かって、正極集電タブ12b及び負極集電タブ14cの傾斜角が徐々に小さくなるのが典型的であるが、これに限定されない。例えば、正極タブ接合部(図示せず)及び/又は負極タブ接合部30が多層セルの中心部からずれている場合、当該中心部からずれた接合部と同一の平面に向かって、正極集電タブ12b及び負極集電タブ14cの傾斜角が徐々に小さくなる構成であってもよい。したがって、多層セルの一方の外側から他方の外側に向かって傾斜角が徐々に小さく構成も採り得る。
【0017】
正極板12は、正極活物質層12aを含む。正極活物質層12aを構成する正極活物質は、亜鉛二次電池の種類に応じて公知の正極材料を適宜選択すればよく、特に限定されない。例えば、ニッケル亜鉛二次電池の場合には、水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む正極を用いればよい。あるいは、空気亜鉛二次電池の場合には、空気極を正極として用いればよい。正極板12は正極集電体(図示せず)をさらに含んでおり、正極集電体は正極板12の端部(例えば上端)から所定方向に(例えば上方向に)延出する正極集電タブ12bを有するのが好ましい。正極集電体の好ましい例としては、発泡ニッケル板等のニッケル製多孔質基板が挙げられる。この場合、例えば、ニッケル製多孔質基板上に水酸化ニッケル等の電極活物質を含むペーストを均一に塗布して乾燥させることにより正極/正極集電体からなる正極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の正極板(すなわち正極/正極集電体)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。なお、図5に示される正極板12は正極集電体(例えば発泡ニッケル)を含むものであるが図示されていない。これは、ニッケル亜鉛二次電池の場合、正極集電体が正極活物質と渾然一体化しているため、正極集電体を個別に描出できないためである。正極集電タブ12bは正極集電体と同じ材料で構成されていてもよいし、異なる材料で構成されていてもよい。正極集電体が発泡ニッケル板等のニッケル製多孔質基板の場合、これをプレスすることでタブ状に加工することができる。いずれにしても、そのようなタブにタブリード等の別の集電部材を継ぎ足して正極集電タブ12bを延長してもよい。いずれにしても、複数枚の正極集電タブ12bが1つの正極端子26又はそれと電気的に接続された部材に接合されて正極タブ接合部(図示せず)を構成するのが好ましい。こうすることで簡素な構成でスペース効率良く集電を行えるとともに、正極端子26への接続もしやすくなる。正極集電タブ12bと端子等の部材との接合は、超音波溶接(超音波接合)、レーザ溶接、TIG溶接、抵抗溶接等の公知の接合手法を用いて行えばよい。
【0018】
正極板12は、銀化合物、マンガン化合物、及びチタン化合物からなる群から選択される少なくとも1種である添加剤を含んでいてもよく、これにより自己放電反応により発生する水素ガスを吸収する正極反応を促進することができる。また、正極板12は、コバルトをさらに含んでいてもよい。コバルトは、オキシ水酸化コバルトの形態で正極板12に含まれるのが好ましい。正極板12において、コバルトは導電助剤として機能することで、充放電容量の向上に寄与する。
【0019】
負極板14は負極活物質層14aを含む。負極活物質層14aを構成する負極活物質は、亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む。亜鉛は、負極に適した電気化学的活性を有するものであれば、亜鉛金属、亜鉛化合物及び亜鉛合金のいずれの形態で含まれていてもよい。負極材料の好ましい例としては、酸化亜鉛、亜鉛金属、亜鉛酸カルシウム等が挙げられるが、亜鉛金属及び酸化亜鉛の混合物がより好ましい。負極活物質はゲル状に構成してもよいし、電解液18と混合して負極合材としてもよい。例えば、負極活物質に電解液及び増粘剤を添加することにより容易にゲル化した負極を得ることができる。増粘剤の例としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、CMC、アルギン酸等が挙げられるが、ポリアクリル酸が強アルカリに対する耐薬品性に優れているため好ましい。
【0020】
亜鉛合金として、無汞化亜鉛合金として知られている水銀及び鉛を含まない亜鉛合金を用いることができる。例えば、インジウムを0.01~0.1質量%、ビスマスを0.005~0.02質量%、アルミニウムを0.0035~0.015質量%を含む亜鉛合金が水素ガス発生の抑制効果があるので好ましい。とりわけ、インジウムやビスマスは放電性能を向上させる点で有利である。亜鉛合金の負極への使用は、アルカリ性電解液中での自己溶解速度を遅くすることで、水素ガス発生を抑制して安全性を向上できる。
【0021】
負極材料の形状は特に限定されないが、粉末状とすることが好ましく、それにより表面積が増大して大電流放電に対応可能となる。好ましい負極材料の平均粒径は、亜鉛合金の場合、短径で3~100μmの範囲であり、この範囲内であると表面積が大きいことから大電流放電への対応に適するとともに、電解液及びゲル化剤と均一に混合しやすく、電池組み立て時の取り扱い性も良い。
【0022】
負極板14は、負極集電体14bをさらに含む。負極集電体14bは、負極集電タブ14cとして延出する部分を除いて、負極活物質層14aの内部及び/又は表面に設けられる。すなわち、負極集電体14bの両面に負極活物質層14aが配置される構成であってもよいし、負極集電体14bの片面にのみ負極活物質層14aが配置される構成であってもよい。そして、負極集電タブ14cが、負極集電体14bは負極板14の端部(例えば上端)から所定方向に(例えば上方向に)、正極集電タブ12bと重ならない位置で延出する。負極集電タブ14cは、正極集電タブ12bと重ならない位置に設けられるのが好ましい。負極集電タブ14cは負極集電体14bと同じ材料で構成されていてもよいし、異なる材料で構成されていてもよい。いずれにしても、そのようなタブにタブリード等の別の集電部材を継ぎ足して負極集電タブ14cを延長してもよい。いずれにしても、複数枚の負極集電タブ14cが1つの負極端子28又はそれと電気的に接続された部材に接合されて負極タブ接合部30を構成するのが好ましい。こうすることで簡素な構成でスペース効率良く集電を行えるとともに、負極端子28への接続もしやすくなる。負極集電タブ14cと端子等の部材との接合は、超音波溶接(超音波接合)、レーザ溶接、TIG溶接、抵抗溶接等の公知の接合手法を用いて行えばよい。
【0023】
負極集電体14bは複数(又は多数)の開口部を有する金属板を用いるのが、負極活物質を集電体に固定する観点から好ましい。そのような負極集電体14bの好ましい例としては、エキスパンドメタル、パンチングメタル、及びメタルメッシュ、及びそれらの組合せが挙げられ、より好ましくは、銅エキスパンドメタル、銅パンチングメタル、及びそれらの組合せ、特に好ましくは銅エキスパンドメタルが挙げられる。この場合、例えば、銅エキスパンドメタル上に、酸化亜鉛粉末及び/又は亜鉛粉末、並びに所望によりバインダー(例えばポリテトラフルオロエチレン粒子)を含んでなる混合物を塗布して負極/負極集電体からなる負極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の負極板(すなわち負極/負極集電体)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。なお、エキスパンドメタルとは、金属板をエキスパンド製造機によって千鳥状に切れ目を入れながら押し広げ、その切れ目を菱形や亀甲形に成形したメッシュ状の金属板である。パンチングメタルは、打抜金網(perforated metal)とも呼ばれ、金属板に打ち抜き加工により孔を開けたものである。メタルメッシュとは、金網構造の金属製品であり、エキスパンドメタルやパンチングメタルとは異なるものである。
【0024】
水酸化物イオン伝導セパレータ16は、正極板12及び負極板14を水酸化物イオン伝導可能に隔離するように設けられる。例えば、図5に示されるように、負極板14が、水酸化物イオン伝導セパレータ16で覆われ又は包み込まれる構成としてもよい。こうすることで、水酸化物イオン伝導セパレータ16と電池容器との煩雑な封止接合を不要にして、亜鉛デンドライト伸展を防止可能なニッケル亜鉛二次電池(特にその積層電池)を極めて簡便にかつ高い生産性で作製することが可能となる。もっとも、正極板12又は負極板14の一面側に水酸化物イオン伝導セパレータ16が配置されるシンプルな構成であってもよい。
【0025】
水酸化物イオン伝導セパレータ16は、正極板12及び負極板14を水酸化物イオン伝導可能に隔離可能なセパレータであれば特に限定されないが、典型的には、水酸化物イオン伝導固体電解質を含み、専ら水酸化物イオン伝導性を利用して水酸化物イオンを選択的に通すセパレータである。好ましい水酸化物イオン伝導固体電解質は、層状複水酸化物(LDH)及び/又はLDH様化合物である。したがって、水酸化物イオン伝導セパレータ16はLDHセパレータであるのが好ましい。本明細書において「LDHセパレータ」は、LDH及び/又はLDH様化合物を含むセパレータであって、専らLDH及び/又はLDH様化合物の水酸化物イオン伝導性を利用して水酸化物イオンを選択的に通すものとして定義される。本明細書において「LDH様化合物」は、LDHとは呼べないかもしれないがLDHに類する層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、LDHの均等物といえるものである。もっとも、広義の定義として、「LDH」はLDHのみならずLDH様化合物を包含するものとして解釈することも可能である。LDHセパレータは多孔質基材と複合化されているのが好ましい。したがって、LDHセパレータは、多孔質基材を更に含み、LDH及び/又はLDH様化合物が多孔質基材の孔に充填された形態で多孔質基材と複合化されているのが好ましい。すなわち、好ましいLDHセパレータは、水酸化物イオン伝導性及びガス不透過性を呈するように(それ故水酸化物イオン伝導性を呈するLDHセパレータとして機能するように)LDH及び/又はLDH様化合物が多孔質基材の孔を塞いでいる。多孔質基材は高分子材料製であるのが好ましく、LDHは高分子材料製多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれているのが特に好ましい。例えば、特許文献1~7に開示されるような公知のLDHセパレータが使用可能である。LDHセパレータの厚さは、5~100μmが好ましく、より好ましくは5~80μm、さらに好ましくは5~60μm、特に好ましくは5~40μmである。
【0026】
図1~3及び5に示されるように、正極板12、正極集電タブ12b、負極板14、負極集電タブ14c、及び水酸化物イオン伝導セパレータ16の各々は縦向きに配置されて、それにより多層セルが横方向に多層化されているのが好ましい。また、正極集電タブ12b及び負極集電タブ14cが上向きに延在しているのが好ましい。
【0027】
亜鉛二次電池10は、正極板12及び/又は負極板14に接触する保液部材17を更に備えていてもよい。例えば、正極板12及び負極板14の間に、水酸化物イオン伝導セパレータ16のみならず、保液部材17が介在されているのが好ましい。そして、図5に示されるように、正極板12及び/又は負極板14が保液部材17で覆われる又は包み込まれているのが好ましい。もっとも、正極板12又は負極板14の一面側に保液部材17が配置するシンプルな構成であってもよい。いずれにしても、保液部材17を介在させることで、正極板12及び/負極板14と水酸化物イオン伝導セパレータ16の間に電解液18を万遍なく存在させることができ、正極板12及び/負極板14と水酸化物イオン伝導セパレータ16との間における水酸化物イオンの授受を効率良く行うことができる。保液部材17は電解液18を保持可能な部材であれば特に限定されないが、シート状の部材であるのが好ましい。保液部材17の好ましい例としては不織布、吸水性樹脂、保液性樹脂、多孔シート、各種スペーサが挙げられるが、特に好ましくは、低コストで性能の良い負極構造体を作製できる点で不織布である。保液部材17ないし不織布は10~200μmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは20~200μmであり、さらに好ましくは20~150μmであり、特に好ましくは20~100μmであり、最も好ましくは20~60μmである。上記範囲内の厚さであると、正極構造体及び/又は負極構造体の全体サイズを無駄無くコンパクトに抑えながら、保液部材17内に十分な量の電解液18を保持させることができる。
【0028】
正極板12及び/又は負極板14が、保液部材17及び/又はセパレータ16で覆われる又は包み込まれる場合、それらの外縁が(正極集電タブ12bや負極集電タブ14cが延出される辺を除いて)閉じられているのが好ましい。この場合、保液部材17及び/又はセパレータ16の外縁の閉じられた辺が、保液部材17及び/又はセパレータ16の折り曲げや、保液部材17同士及び/又はセパレータ16同士の封止により実現されているのが好ましい。封止手法の好ましい例としては、接着剤、熱溶着、超音波溶着、接着テープ、封止テープ、及びそれらの組合せが挙げられる。特に、高分子材料製の多孔質基材を含むLDHセパレータはフレキシブル性を有するが故に折り曲げやすいとの利点を有するため、LDHセパレータを長尺状に形成してそれを折り曲げることで、外縁の1辺が閉じた状態を形成するのが好ましい。熱溶着及び超音波溶着は市販のヒートシーラー等を用いて行えばよいが、LDHセパレータ同士の封止の場合、外周部分を構成するLDHセパレータの間に保液部材17の外周部分を挟み込むようにして熱溶着及び超音波溶着を行うのが、より効果的な封止を行える点で好ましい。一方、接着剤、接着テープ及び封止テープは市販品を用いればよいが、アルカリ電解液中での劣化を防ぐため、耐アルカリ性を有する樹脂を含むものが好ましい。かかる観点から、好ましい接着剤の例としては、エポキシ樹脂系接着剤、天然樹脂系接着剤、変性オレフィン樹脂系接着剤、及び変成シリコーン樹脂系接着剤が挙げられ、中でもエポキシ樹脂系接着剤が耐アルカリ性に特に優れる点でより好ましい。エポキシ樹脂系接着剤の製品例としては、エポキシ接着剤Hysol(登録商標)(Henkel製)が挙げられる。
【0029】
セパレータ16の上端となる1辺の外縁は開放されているのが好ましい。この上部開放型の構成はニッケル亜鉛電池等における過充電時の問題への対処を可能とするものである。すなわち、ニッケル亜鉛電池等において過充電されると正極板12で酸素(O)が発生しうるが、LDHセパレータは水酸化物イオンしか実質的に通さないといった高度な緻密性を有するが故に、Oを通さない。この点、上部開放型の構成によれば、電池ケース20内において、Oを正極板12の上方に逃がして上部開放部を介して負極板14側へと送り込むことができ、それによってOで負極活物質のZnを酸化してZnOへと戻すことができる。このような酸素反応サイクルを経ることで、上部開放型の電池要素11を密閉型亜鉛二次電池に用いることで過充電耐性を向上させることができる。なお、セパレータ16や保液部材17の上端となる1辺の外縁が閉じられている場合であっても、閉じられた外縁の一部に通気孔を設けることで上記開放型の構成と同様の効果が期待できる。例えば、LDHセパレータの上端となる1辺の外縁を封止した後に通気孔を開けてもよいし、封止の際、通気孔が形成されるように上記外縁の一部を非封止としてもよい。
【0030】
電解液18はアルカリ金属水酸化物水溶液を含むのが好ましい。図5において電解液18は局所的にしか図示されていないが、これは正極板12及び負極板14の全体に行き渡っているためである。アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等が挙げられるが、水酸化カリウムがより好ましい。亜鉛及び/又は酸化亜鉛の自己溶解を抑制するために、電解液中に酸化亜鉛、水酸化亜鉛等の亜鉛化合物を添加してもよい。前述のとおり、電解液は正極活物質及び/又は負極活物質と混合させて正極合材及び/又は負極合材の形態で存在させてもよい。また、電解液の漏洩を防止するために電解液をゲル化してもよい。ゲル化剤としては電解液の溶媒を吸収して膨潤するようなポリマーを用いるのが望ましく、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどのポリマーやデンプンが用いられる。
【0031】
電池要素11は、図3~7に示されるように、複数枚の正極板12と、複数枚の負極板14、複数枚のセパレータ16を備え、正極板12/セパレータ16/負極板14の単位が繰り返されるように積層された正負極積層体の形態とされる。すなわち、亜鉛二次電池10は、単位セル10aを複数個有し、それにより複数個の単位セル10aが全体として多層セルをなしている。これはいわゆる組電池ないし積層電池の構成であり、高電圧や大電流が得られる点で有利である。
【0032】
電池ケース20は樹脂製であるのが好ましい。電池ケース20を構成する樹脂は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有する樹脂であるのが好ましく、より好ましくはポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテルであり、さらに好ましくはABS樹脂又は変性ポリフェニレンエーテルである。電池ケース20は上蓋20aを有する。電池ケース20(例えば上蓋20a)はガスを放出するための放圧弁を有していてもよい。また、2以上の電池ケース20が配列されたケース群を外枠内に収容して、電池モジュールの構成としてもよい。
【実施例
【0033】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0034】
例1
以下に示される正極板、正極集電タブ、負極板、負極集電タブ、LDHセパレータ、不織布、電池ケース、及び電解液を用意する。
・正極板:発泡ニッケルの孔内に水酸化ニッケル及びバインダーを含む正極ペーストを充填して乾燥させたもの(発泡ニッケルの端部1辺の近傍に正極ペーストを塗工しない未塗工部が存在)。
・正極集電タブ:正極板を構成する発泡ニッケルの未塗工部をロールプレスで圧縮してタブに加工し、このタブにタブリード(純ニッケル製、厚さ:100μm)を超音波溶接して延長させたもの。
・負極板:ZnO粉末、金属Zn粉末、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びプロピレングリコールを含む負極ペーストを集電体(銅エキスパンドメタル)に圧着したもの(銅エキスパンドメタルの端部1辺の近傍に負極ペーストを塗工しない未塗工部が存在)。
・負極集電タブ:銅エキスパンドメタルの未塗工部にタブリード(銅製、厚さ:100μm)を超音波溶接で接続したもの。
・LDHセパレータ:ポリエチレン微多孔膜の孔内及び表面にNi-Al-Ti-LDH(層状複水酸化物)を水熱合成により析出させてロールプレスしたもの、厚さ:20μm
・不織布:ポリプロピレン製、厚さ100μm
・電池ケース:変性ポリフェニレンエーテル樹脂製の筐体(ケース内で発生したガスを放出可能とする放圧弁を備える)
・電解液:0.4mol/LのZnOを溶解させた5.4mol/LのKOH水溶液
【0035】
正極板を両面から覆うように不織布で包み込んで、正極集電タブが延出する1辺を除く残り3辺から不織布が若干はみ出すようにする。正極板の3辺からはみ出した不織布の余剰部分をヒートシールバーで熱融着封止して、正極構造体を得る。また、負極板を両面から不織布及びLDHセパレータで順に包み込み、負極集電タブが延出する1辺を除く残り3辺から不織布及びLDHセパレータが若干はみ出すようにする。負極板の3辺からはみ出した不織布及びLDHセパレータの余剰部分をヒートシールバーで熱融着封止して、負極構造体を得る。こうして、9枚の正極構造体及び10枚の負極構造体からなる合計19枚の電極構造体を準備する。
【0036】
合計19枚の電極構造体に1~19のシリアル番号を付与する。このとき、図7に示されるように負極板14及び正極板12が交互に繰り返されるようにシリアル番号を付ける。そして、シリアル番号1~19の各電極構造体の正極集電タブ12b又は負極集電タブ14cに対して、板金折り曲げ機を用いて、表1に示される傾斜角θ及びθ(ただしθ=θ)の2本の折り目Fを、正極板12及び負極板14の、正極集電タブ12b又は負極集電タブ14cが延出する辺と平行に形成する。こうして、正極集電タブ12b及び負極集電タブ14cの各々が、断面視した場合に正極板12及び負極板14と平行となる2つのストレート部Sと、2つのストレート部Sの間の傾斜部Iとを有するように塑性変形(フォーミング)される。
【0037】
【表1】
【0038】
こうしてフォーミングにより塑性変形が施された集電タブを備えた電極構造体を、図6及び7に示されるように、シリアル番号順になるように積み重ねる。このとき、図4に示される構成と同様に、9枚の正極集電タブ12bと、10枚の負極集電タブ14cは、平面視した場合に、電極集電体から互いに異なる位置から延出する設計になっているため、9枚の正極集電タブ12b同士が重ねられる一方、それとは別の位置で10枚の負極集電タブ14c同士が重ねられる。こうして、9枚の正極集電タブ12bの、正極板12から離れた方のストレート部Sの重なり部分をまとめて正極端子26にレーザー溶接により接合して、正極タブ接合部(図示せず)を形成する。同様に、10枚の負極集電タブ14cの、負極板14から離れた方のストレート部Sの重なり部分をまとめてレーザー溶接により負極端子28に接合して、負極タブ接合部30を形成する。こうして表1に示される様々な傾斜角θ及びθの傾斜部Iを有する正極集電タブ12b及び負極集電タブ14cを備えた電極構造体のスタックを電池要素11として得る。図1及び2に示されるように、この電池要素11を電池ケース20に入れて、電解液18を注入して電池要素11に含浸させて、蓋20aを閉じて封止する。
【0039】
例2
11枚の正極構造体及び12枚の負極構造体からなる合計23枚の電極構造体を準備したこと、負極板14及び正極板12が交互に繰り返されるようにシリアル番号を付けて表2に示される傾斜角θ及びθ(ただしθ=θ)の2本の折り目Fを形成したこと以外は、例1と同様にして多層セル型のニッケル亜鉛二次電池を作製する。
【0040】
【表2】
【0041】
例3
13枚の正極構造体及び14枚の負極構造体からなる合計27枚の電極構造体を準備したこと、及び負極板14及び正極板12が交互に繰り返されるようにシリアル番号を付けて表3に示される傾斜角θ及びθ(ただしθ=θ)の2本の折り目Fを形成したこと以外は、例1と同様にして多層セル型のニッケル亜鉛二次電池を3個作製した。
【0042】
【表3】
【0043】
例4(比較)
折り目Fの形成、すなわち塑性変形(フォーミング)を行わなかったこと以外は例3と同様にして、多層セル型のニッケル亜鉛二次電池を3個作製した。
【0044】
結果
例3及び4で作製した電池(各例につき3個)について短絡の有無を以下のようにして評価した。結果は表4に示されるとおりであった。
【0045】
(短絡の有無の評価)
作製した3個の電池に対して充放電サイクル試験を実施し、短絡挙動を示したセルを解体して、電極板に発生したデンドライト貫通の有無を外観観察により調べた。その結果、フォーミングを経て作製した例4(比較例)の電池はタブ付近の電極活物質領域にデンドライト短絡の痕跡が多数確認された。一方、フォーミングを経て作製された例3の電池は、タブ付近の電極活物質付近にデンドライト短絡の痕跡は確認されなかった。表4に各例の諸条件と結果を示す。
【0046】
【表4】
【0047】
表4から分かるように、本発明に従い塑性変形(フォーミング)を経て作製された例3の多層セルは、従来の手法で作製された例4(比較例)の多層セルと比べて、短絡が発生しにくいものであった。これは、短絡が、短絡集電タブが延出する電極板の端部における負荷が製造時のみならず使用時(特に負極シェイプチェンジが起こる際)においても生じにくいためと考えられる。例1及び2についても、フォーミングを経て作製された2箇所で折り曲げられた丸みを帯びていない形状の集電タブを採用したものであるため、集電タブを引っ張ることなく集電タブ同士を束ねて端子に接合できるため、活物質層の端部に過剰な負荷が掛かることがなく、それ故例3と同様に短絡が発生しにくいものといえる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12