(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】中空エンジンバルブ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F01L 3/14 20060101AFI20241218BHJP
F01L 3/24 20060101ALI20241218BHJP
F01L 3/20 20060101ALI20241218BHJP
B21K 1/22 20060101ALI20241218BHJP
B21J 5/06 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
F01L3/14 A
F01L3/24 D
F01L3/20 C
B21K1/22
B21J5/06 F
(21)【出願番号】P 2023506452
(86)(22)【出願日】2021-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2021010673
(87)【国際公開番号】W WO2022195730
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000237123
【氏名又は名称】フジオーゼックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003292
【氏名又は名称】弁理士法人三栄国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 隆暁
(72)【発明者】
【氏名】久島 晃二
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-242078(JP,A)
【文献】国際公開第2020/100185(WO,A1)
【文献】実開平01-173305(JP,U)
【文献】実開平04-076907(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 3/14ー3/24
B21K 1/22
B21J 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部及び前記軸部の基端に傘状に拡径する傘部を有し、
中空部を有する第1軸部及び中空部を有する第2軸部を備える前記軸部の内部に設けられた中空の中空部内に冷却材が封入される中空エンジンバルブにおいて、
前記軸部は、先端側の
縮径した前記第1軸部と、前記第1軸部よりも外径が大きい基端側の
縮径しなかった前記第2軸部と、前記第1軸部と前記第2軸部との外径の相違により形成される
中空部を有する段差部とを有し、
前記第1軸部及び前記段差部の各々の肉厚は、前記第2軸部の肉厚よりも厚いことを特徴とする中空エンジンバルブ。
【請求項2】
第1軸部及び前記第1軸部に連続して設けられ前記第1軸部より外径が大きい第2軸部を有する軸部と、前記第2軸部の一端に傘状に拡径する傘部と、少なくとも前記軸部の内部に中空の中空部と備える中空エンジンバルブの製造方法であって、
特殊鋼からなる素材を、鍛造加工及び穴明加工により、前記第2軸部の外径と同径、かつ円筒状の筒状部、及び前記筒状部の一端に前記傘部と同形の傘状部を設ける半完成品を成形する第1工程と、前記半完成品における前記筒状部を絞り加工により縮径することで、前記軸部を成形する第2工程とを含み、
前記第2工程において、前記筒状部を、前記筒状部における軸線方向の予め定めた特定位置まで縮径することによって、縮径した部分を前記第1軸部とし、縮径しなかった部分を前記第2軸部とし、前記第1軸部とともに縮径され、前記第1軸部及び前記第2軸部の外径の相違により形成される部分を段差部とし、
縮径した前記第1軸部の肉厚及び前記段差部の肉厚は、前記第2軸部の肉厚よりも厚いことを特徴とする中空エンジンバルブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空エンジンバルブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や船舶などのエンジンの燃焼室に吸気ガスを流入させ、排気ガスを排出させるためのエンジンバルブには、温度上昇を抑制する金属ナトリウムなどの冷却材を封入するために、内部を中空にした中空部を設けた中空エンジンバルブ(以下、単にエンジンバルブともいう)がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、Co2排出ガス規制が厳格化されるともに燃焼温度が上昇しており、このような中空エンジンバルブにおいても、首部温度が上昇し強度不足が懸念される。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、軸部の強度を高めた中空エンジンバルブ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の第1の態様は、軸部及び前記軸部の基端に傘状に拡径する傘部を有し、少なくとも前記軸部の内部に設けられた中空の中空部内に冷却材が封入される中空エンジンバルブにおいて、前記軸部は、先端側の第1軸部と、前記第1軸部よりも外径が大きい基端側の第2軸部と、前記第1軸部と前記第2軸部との外径の相違により形成される段差部とを有し、前記段差部の肉厚は、前記第2軸部の肉厚よりも厚い。
【0007】
上記(1)の構成によれば、段差部に対する曲げ応力に対して、強度の向上を図ることができる。
【0008】
(2)本発明の第2の態様は、軸部及び前記軸部の基端に傘状に拡径する傘部を有し、少なくとも前記軸部の内部に設けられた中空の中空部内に冷却材が封入される中空エンジンバルブにおいて、前記軸部は、先端側の主軸部と、前記傘部に連続して設けられ、前記主軸部よりも外径が大きい首部とを有し、前記首部の肉厚は、前記主軸部の肉厚よりも厚く、前記中空部を、少なくとも前記主軸部及び前記首部に亘って一定の内径で設ける。
【0009】
上記(2)の構成によれば、首部の強度の向上を図るとともに、中空部内の冷却材の移動の円滑化を図ることができる。
【0010】
(3)本発明の第3の態様は、第1軸部及び前記第1軸部に連続して設けられ前記第1軸部より外径が大きい第2軸部を有する軸部と、前記第2軸部の一端に傘状に拡径する傘部と、少なくとも前記軸部の内部に中空の中空部と備える中空エンジンバルブの製造方法であって、特殊鋼からなる素材を、鍛造加工及び穴明加工により、前記第2軸部の外径と同径、かつ円筒状の筒状部、及び前記筒状部の一端に前記傘部と同形の傘状部を設ける半完成品を成形する第1工程と、前記半完成品における前記筒状部を絞り加工により縮径することで、前記軸部を成形する第2工程とを含み、前記第2工程において、前記筒状部を、前記筒状部における軸線方向の予め定めた特定位置まで縮径することによって、縮径した部分を前記第1軸部とし、縮径しなかった部分を前記第2軸部とし、前記第1軸部とともに縮径され、前記第1軸部及び前記第2軸部の外径の相違により形成される部分を段差部とし、縮径した前記第1軸部の肉厚及び前記段差部の肉厚は、前記第2軸部の肉厚よりも厚い。
【0011】
上記(3)の構成によれば、強度を高めた軸部を有する中空エンジンバルブを製造することができる。
【0012】
(4)本発明の第4の態様は、軸部と、前記軸部の基端に傘状に拡径する傘部と、前記軸部の基端側に前記傘部に連続して設けられる前記軸部より外径が大きい首部と、少なくとも前記軸部の内部に設けられ予め定めた特定径を有する中空部とを備える中空エンジンバルブの製造方法であって、特殊鋼からなる素材を鍛造加工及び穴明加工により、先端に開口を有する円筒状の筒状部及び前記筒状部の基端に傘状に拡径する傘状部を備える半完成品を成形する第1工程と、前記筒状部を絞り加工により縮径することで、前記軸部及び前記首部を成形する第2工程とを含み、前記第1工程において、前記筒状部の基端側に、前記筒状部の肉厚よりも厚く、かつ先端方向に指数関数的に縮径する首テーパ部を成形し、前記第2工程は、前記首テーパ部を含む前記筒状部の外径を、前記首テーパ部の内径が前記特定径に至るまで縮径して半完成首部を成形する第1成形と、前記半完成首部より先端側の前記筒状部の外径を、前記筒状部の内径が前記特定径に至るまで縮径することによって、縮径した部分を前記軸部とし、縮径しなかった部分を前記首部とする第2成形とを含む。
【0013】
上記(4)の構成によれば、首部の強度を高めるとともに、冷却材の中空部内の移動が円滑に行われる中空エンジンバルブを製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、軸部の強度を高めた中空エンジンバルブを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態における中空エンジンバルブの縦断面図である。
【
図2】同じく中空エンジンバルブの製造過程の形態を示す模式図である。
【
図3】同じく中空エンジンバルブの製造過程の形態を示す模式図である。
【
図4】第2の実施形態における中空エンジンバルブの縦断面図である。
【
図5】同じく中空エンジンバルブの製造過程の形態を示す模式図である。
【
図6】同じく中空エンジンバルブの製造過程の形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、
図1~
図6を参照し、発明の一実施形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施形態は例示であり、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。
【0017】
(第1の実施形態)
図1~
図3を参照し、第1の実施形態について説明する。なお、本実施形態の中空エンジンバルブ100の方向については、
図1のエンジンバルブ100(弁傘部110)の方向(例えば、軸部111の先端側(軸端部材120側)が上、軸部111の基端側(傘部113側)が下)を基準として説明する。
【0018】
(中空エンジンバルブ100)
中空エンジンバルブ(以下、単にエンジンバルブという)100は、自動車等のエンジン(図示略)のシリンダヘッドに設けられ、かつ燃焼室に連通した吸気ポート及び排気ポートの内部に配置される弁体であって、エンジン実動時に上下方向へ移動して吸気ポート及び排気ポートを開閉可能とする。エンジンバルブ100は、吸気ポートを開放することによって吸気ガスを吸気ポートから燃焼室内に供給可能とし、排気ポートを開放することによって燃焼室内の排気ガスを排気ポートから燃焼室外に排出可能とする。
【0019】
図1に示すように、エンジンバルブ100は、本体部分である弁傘部110と、蓋体部分である軸端部材120とを備える。
【0020】
弁傘部110は、丸棒状の軸部111と、軸部111の下端部に連続して設けられ、下方に向かって同心状かつ傘状に拡径した傘部113とを備える。
【0021】
軸部111は、上部の第1軸部111aと、第1軸部111aよりも外径が大きい下部の第2軸部111bとを備え、第1軸部111aと第2軸部111bとの間には、外径が異なる両軸部111a、111bを連設するために上方に向かって漸次縮径するテーパ状の段差部111cが設けられている。
【0022】
弁傘部110の軸部111の内部には、上部が開口する有底の中空部115が設けられている。中空部115、すなわち弁傘部110の内形は、第1軸部111a及び第2軸部111bの外形とほぼ相似形をなしている。具体的に、第1軸部111aの内径Φd‘は、第2軸部111bの内径Φdよりも細く設定されており、段差部111cにおける中空部115(段差部111cの内形)は、上方に向かって漸次縮径するテーパ状をなしている。
【0023】
図1に示すように、第1軸部111aの厚さt3(例えば1.6mm)及び段差部111cの厚さt2(例えば1.6mm)は、第2軸部111bの厚さt1(例えば1.0mm)よりも厚肉となっている(t3=t2>t1)。
【0024】
これにより、軸部111において、エンジン作動の際に、エンジンバルブが着座することによって最大曲げ応力が生じる段差部111cの強度を向上させることができ、エンジンバルブ100の劣化及び破損を抑制することができる。
【0025】
弁傘部110は、中空部115へ図示略のチタン等のゲッタ材や金属ナトリウム等の冷却材が投入された後、軸端部材120を軸部111の上端部に接合(例えば、摩擦圧接)して固着することにより、軸部111の開口が閉塞される。これにより、中空部115は密閉され、冷却材等は中空部115内に封入される。これにより、軸端部材120は、軸部111と一体的(分離不能)になって、軸部111を成形し、冷却材等が封入されたエンジンバルブ100が完成する。
【0026】
なお、必要に応じて、エンジンバルブ100の全部又は一部(傘部113の一部や全部、軸部111の全部や一部)に、例えばセラミックのような熱伝導率が低い金属によって断熱コーティングを施したり、窒化処理や研磨などの表面処理を施すようにしてもよい。
【0027】
(エンジンバルブ100における弁傘部110の製造方法)
弁傘部110の成形工程は、大別すると、中実丸棒10から半完成品300を成形する第1工程(
図2参照)と、半完成品300から弁傘部110を成形する第2工程(
図3参照)からなる。
【0028】
図2(4)に示すように、半完成品300は、弁傘部110における軸部111の加工前の筒状部301と、弁傘部110における中空部115の加工前の円筒穴305と、弁傘部110における傘部113の加工前の傘状部303とを有する。
【0029】
筒状部301は、外径がΦD(例えばφ7mm)、内径(穴径)がΦd(例えばφ5mm)、厚さがt1(例えば1.0mm)であって、ストレートの円筒状をなしている。また、傘状部303は、傘部113と同じ形状をなしている。
【0030】
(第1工程)
本実施形態では、第1工程において、
図2(1)に示す例えば円柱状の特殊鋼からなる中実丸棒10に対する搾出加工によって、
図2(2)に示すようにエンジンバルブ100の軸部111に相当する部分を縮径させた半完成軸部21、及び半完成軸部21よりも外径が大きいヘッド部23を設けるようにして搾出済み中実棒20を成形する。また、この搾出済み中実棒20に対する鍛造加工によって、
図2(3)に示す搾出済み中実棒20のヘッド部23を拡径させた傘状の傘状部33を設けるとともに、半完成軸部21を軸線方向に短寸化し、かつ拡径させた中実軸31を設けるようにして傘付き中実棒30を成形する。なお、第1工程の搾出加工及び鍛造加工においては、下向き凹状の成形部Sを設けたダイスKにワークを装填して、パンチPが設けられたプレス装置(図示略)により上方から押圧することによりワークを成形する。さらに、
図2(3)に示す傘付き中実棒30を上下反転させた中実軸31に対する穴明加工によって、
図2(4)に示すように、例えばドリルMにより軸線方向に有底の円筒穴305を穿設して筒状部301を設けて半完成品300を成形する。なお、半完成品300の傘状部303の形状は、傘付き中実棒30の傘状部33と同じであり、また、筒状部301の外径は、中実軸31と同じである。
【0031】
なお、本実施形態の第1工程については、搾出加工を省略してもよく、また、傘状部33を成形する前に、円筒穴305を設けるようにしてもよい。この円筒穴305の成形は、ドリル等による穴明加工ではなく、例えば、鍛造加工により中実丸棒10の一端を盃状に成形してから、絞り加工により外壁を起立させるようにしごくようにして、段階的に行ってもよい。
【0032】
(第2工程)
図3に示すように、第2工程では、複数のダイス51、ダイス52、ダイス53(以下、まとめてダイス51~53ともいう)を用いた冷間鍛造加工によって、筒状部301を段階的に縮径して弁傘部110を成形する。なお、ダイスの数(種類)は工程数などに応じて適宜増減するようにしてもよい。
【0033】
ダイス51~53は、上下が貫通する成形孔50を有する。成形孔50は、一定の内径を有する縮径部50aと、縮径部50aの下端部から下方へ拡径するテーパ部50bとを有する。縮径部50aは、半完成品300の筒状部301を縮径して弁傘部110の第1軸部111aを成形可能とし、テーパ部50bは、弁傘部110の段差部111cを成形可能となっている。
ダイス51~53は、第2工程において工程の進行に応じて配置され、各成形孔50(縮径部50a及びテーパ部50b)における径の関係は、ダイス51>ダイス52>ダイス53となっている。
【0034】
第2工程において、
図3(1)に示すダイス51が、半完成品300の上方から、半完成品300の中間位置(特定位置)Cを折り返し点とする往復運動を行うことによって、
図3(2)に示す半完成品320を成形し、さらに、ダイス52の往復運動により、
図3(3)に示す半完成品330を成形し、最終的には、ダイス53の往復運動により、
図3(4)に示す弁傘部110を成形する。なお、中間位置Cは、エンジンバルブの仕様に応じて適宜変更可能である。
【0035】
具体的には、
図3(2)に示す半完成品320は、
図3(1)に示す半完成品300において弁傘部110の第1軸部111aに相当する部分、及び弁傘部110の段差部111cに相当する部分の内径及び外径を縮径するとともに肉厚を増加(以下、厚肉化という)させ、かつ軸線方向へ延伸させて、半完成第1軸部321a、半完成段差部321c及び段付きの半完成中空部325を成形したものである。
また、
図3(3)に示す半完成品330は、前工程における半完成品320の半完成第1軸部321a、及び半完成段差部321cの内径及び外径を、さらに縮径するとともに厚肉化させ、かつ軸線方向へ延伸させて、半完成第1軸部331a、半完成段差部331c及び段付きの半完成中空部335を成形したものである。
また、
図3(4)に示す弁傘部110は、前工程における半完成品330の半完成第1軸部331a及び半完成段差部331cの内径及び外径を、さらに縮径するとともに厚肉化させ、かつ軸線方向へ延伸させて、第1軸部111a及び段差部111c及び段付きの中空部115を成形したものである。
【0036】
その結果、弁傘部110の第2軸部111bの厚さt1よりも、第1軸部111aの厚さt3、及び段差部111cの厚さt2を厚肉とすることができる。
【0037】
これにより、最大曲げ応力が発生する段差部111cの強度を向上させることができ、エンジンバルブ100の劣化及び破損を抑制することができる。
【0038】
一方、第2工程において、
図3(2)、(3)に示す半完成品320、330における半完成第2軸部321b、331b、及び傘状部323、333は、いずれも成形の対象ではないため、各部位の形状は維持される。したがって、筒状部301、半完成第2軸部321b、331b及び第2軸部111bの外径ΦD及び内径Φdと、傘状部303、323、333、及び傘部113の形状は同じである。
【0039】
(第2の実施形態)
図4~
図6を参照して第2の実施形態のエンジンバルブ200について説明する。
なお、本実施形態のエンジンバルブ200は、弁傘部210の形状及び加工方法が第1の実施形態のエンジンバルブ100と異なり、他の構成(軸端部材120、冷却材等、断熱コーティング)は共通するため、共通する構成についての説明は省略する。また、本実施形態の中空エンジンバルブ200の方向については、
図4のエンジンバルブ200(弁傘部210)の方向(例えば、軸部211の先端側(軸端部材120側)が上、軸部211の基端側(傘部213側)が下)を基準として説明する。
【0040】
図4に示すように、弁傘部210は、丸棒状の軸部(主軸部)211と、軸部211の下端部に連続して設けられ、下方に向かって同心状かつ傘状に拡径した傘部213とを備える。
【0041】
傘部213の下端面には、平坦状の傘表面213aが設けられ、上面には、傘状の傘裏面213bが設けられている。エンジンバルブ200がエンジンのシリンダヘッドのポート内に設けられる際、エンジンバルブ200は、傘表面213aがエンジンの燃焼室側を向き、傘裏面213bがポート側を向くように配置される。
【0042】
図4に示すように、軸部211の下部には、傘裏面213bの上部に連続して設けられ、軸部211よりも外径が大きい首部214が成形されている。首部214と首部214を設けていない軸部211との間には、外径が異なる両構成211、214を連設するため上方に向かって縮径するテーパ状の段差部214aが設けられている。
【0043】
首部214の厚さt5(例えば1.8mm)は、軸部211の厚さt4(例えば1.6mm)よりも、厚肉となっている(t4<t5)。
【0044】
このようにエンジンバルブ200において、厚肉の首部214を設けることにより、温度が最も上昇する首部の強度を向上させることができ、エンジンバルブ200の劣化及び破損を抑制することができる。
【0045】
弁傘部210の内部には、上部が開口し軸部211から傘部213に亘って中空部215が設けられている。中空部215は有底であって、軸部211(首部214を含む)の中空部215は一定の内径Φd2(特定径、例えばφ3mm)を有しており、傘部213の中空部215は下方(底部)に向かって拡径し、底部215aの内径Φd(例えばφ10mm)が中空部215内で最も大径となっている。
【0046】
これにより、傘部213の中空部215の容積を確保することができるため、中空部215内に一定量のゲッタ材(例えばチタン粉末等)や冷却材(例えば、金属ナトリウム)を封入することができる。また、軸部211の中空部215においては、段差等が存在しないため、中空部215内の冷却材の移動の円滑化を図ることができ、エンジンバルブ200のシェイキング効果による冷却効率を高めることができる。
【0047】
(エンジンバルブ200における弁傘部210の製造方法)
本実施形態の弁傘部210の成形工程は、中実丸棒10から半完成品400を成形する第1工程(
図5参照)と、半完成品400から弁傘部210を成形する第2工程(
図6参照)からなる。
【0048】
図5に示す第1工程は、第1の実施形態の第1工程と同様の手順で行われるものであるため、詳細な説明は省略する。また、
図5(1)に示す中実丸棒10、及び
図5(2)に示す搾出済み中実棒20についても、第1の実施形態のものと形態が同じであるため、説明は省略する。
【0049】
図5(3)に示す傘付き中実棒40は、
図5(2)に示す搾出済み中実棒20を鍛造加工することによってヘッド部23を拡径させた傘状の傘状部43を設けるとともに、半完成軸部21を軸線方向に短寸化し、かつ拡径させた中実軸41を設ける。また、中実軸41の傘状部43(基端)側には、傘状部43から中実軸41(先端)に向かって徐々に縮径する首テーパ部44を設けている。このとき、傘付き中実棒40の全長R(例えば48mm)に対して、首テーパ部44は、傘状部43の傘表面43aから距離L(例えば、17mm、全長Rの約1/3)延伸し、テーパ角α°(例えば、3°)を有する指数関数的な傾斜面をなしている。これにより、首テーパ部44は、基端に向けて肉厚が漸次大となっている。
【0050】
さらに、
図5(4)に示す半完成品400は、
図5(3)に示す傘付き中実棒40を上下反転させた中実軸41に対する穴明加工により、内径Φdを有する円筒穴405を設けて筒状の筒状部401成形する。また、半完成品400は、傘付き中実棒40と外形が同じであるため、首テーパ部44と同形の首テーパ部404を設けている。
【0051】
(第2工程)
図6に示すように、第2工程では、複数のダイス61、ダイス62、ダイス63(以下、まとめてダイス61~63ともいう)を用いた冷間鍛造加工によって、筒状部401を段階的に縮径して弁傘部210を成形する。なお、ダイスの数(種類)は工程数などに応じて適宜増減するようにしてもよい。
【0052】
ダイス61~63は、上下が貫通する成形孔60を有する。成形孔60は、一定の内径を有する縮径部60aと、縮径部60aの下端部から下方へ拡径するテーパ部60bとを有する。縮径部60aは、ダイスの種類に応じて、半完成品400の筒状部401や首テーパ部404を縮径して弁傘部210の軸部211及び首部214を成形可能とし、テーパ部60bは、後述する
図6(2)に示す半完成品410の半完成首部414の一部、及び
図6(3)に示す弁傘部210の段差部214aを成形可能となっている。
ダイス61~63は、第2工程において工程の進行に応じて配置され、各成形孔60(縮径部60a及びテーパ部60b)における径の関係は、ダイス61>ダイス62>ダイス63となっている。
【0053】
第2工程において、
図6(1)に示すダイス61(ダイス61の鍛造後はダイス62)が、半完成品400の上方から、半完成品400(半完成品410)の第1位置C1を折り返し点とする往復運動を行うことによって、
図6(2)に示す半完成品410を成形し(以下、第1成形という)、さらに、ダイス63が、半完成品410の第1位置C1よりも上方の第2位置C2を折り返し点とする往復運動を行うことによって、
図6(3)に示す弁傘部210を成形する(以下、第2成形という)。なお、第2位置C2は、エンジンバルブの仕様に応じて適宜変更可能である。
【0054】
具体的に第1成形は、ダイス61及びダイス62によって、
図6(1)に示す半完成品400における弁傘部210の軸部211に相当する部分、及び弁傘部210の首部214に相当する部分(内径、外径)を段階的に縮径するとともに厚肉化させ、かつ軸線方向へ延伸させて、内径がΦd1の半完成軸部411及び内径がΦd2の半完成首部414を成形して半完成品410を成形する。
【0055】
この成形段階で、半完成首部414は、半完成品400の首テーパ部404の厚みによって半完成軸部411よりも厚肉となる。また、半完成軸部411及び半完成首部414の外径は、ダイス62によって、第1位置C1の近傍(ダイス62における縮径部60aの移動範囲)まで同一に成形されるが、半完成首部414の内径Φd2は、内側へくびれたくびれ部415aによって、半完成軸部411の内径Φd1よりも小さくなるように成形される。
【0056】
すなわち第1成形では、半完成首部414の内径がΦd2に至るまで筒状部401に対して冷間鍛造を行う。
【0057】
次に、第2成形は、ダイス63によって、
図6(2)に示す半完成品410の半完成首部414より上方の半完成軸部411(内径、外径)を、さらに縮径するとともに厚肉化させ、かつ軸線方向へ延伸させて、内径がΦd2の軸部211及び首部214と、段差部214aを成形したものである。
【0058】
すなわち第2成形では、軸部211全体の内径がΦd2に至るまで半完成軸部411に対して冷間鍛造を行う。なお、第2工程においては、半完成品400の傘状部403の外形、及び円筒穴405の内径Φdは、弁傘部210の傘部213の外形、及び中空部215の底部215aの内径において、それぞれ維持される。
【0059】
その結果、本実施形態の弁傘部210は、軸部211の肉厚よりも首部214の肉厚を厚くすることによって、温度が最も上昇する首部の強度を向上させることができ、エンジンバルブ200の劣化及び破損を抑制することができる。
【0060】
また、首部214から傘部213亘って成形された中空部215を内径Φdが維持された底部215aに向かって漸次拡径することによって、中空部215の容量を確保することにより、一定量のゲッタ材(例えば、チタン粉末等)や冷却材(例えば、金属ナトリウム)を封入可能とすることができる。
【0061】
また、軸部211から首部214に亘って成形された中空部215を一定の内径Φd2とすることによって、エンジン実動時において中空部215内の冷却材の移動が円滑に行われるため、エンジンバルブ200のシェイキング効果による冷却効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0062】
K ダイス P パンチ
S 成形部
10 中実丸棒 20 搾出済み中実棒
21 半完成軸部 23 ヘッド部
30 傘付き中実棒 31 中実軸
33 半完成傘部
40 傘付き中実棒 41 中実軸
43 傘状部 44 首テーパ部
50 成形孔 50a 縮径部
50b テーパ部 51、52、53 ダイス
60 成形孔 60a 縮径部
60b テーパ部 61、62、63 ダイス
100 中空エンジンバルブ 110 弁傘部
111 軸部 111a 第1軸部
111b 第2軸部 111c 段差部
113 傘部 115 中空部
120 軸端部材
210 弁傘部 211 軸部
213 傘部 214 首部
215 中空部
300 半完成品 301 筒状部
303 傘状部 305 円筒穴
320 半完成品 321a 半完成第1軸部
321b 半完成第2軸部 321c 半完成段差部
323 半完成傘部 325 半完成中空部
330 半完成品 331a 半完成第1軸部
331b 半完成第2軸部 331c 半完成段差部
333 半完成傘部 335 半完成中空部
400 半完成品 401 筒状部
403 傘状部 404 首テーパ部
405 円筒穴 410 半完成品
411 半完成軸部