IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 電気化学工業株式会社の特許一覧

特許7606596チタン酸バリウム粉末及びその製造方法、並びに、封止材用フィラー
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】チタン酸バリウム粉末及びその製造方法、並びに、封止材用フィラー
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
C01G23/00 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023508858
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2022008404
(87)【国際公開番号】W WO2022202134
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2021047556
(32)【優先日】2021-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】廣田 利輝
(72)【発明者】
【氏名】大島 康孝
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐三
(72)【発明者】
【氏名】水本 貴久
(72)【発明者】
【氏名】吉開 浩明
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-001180(JP,A)
【文献】特開2005-112665(JP,A)
【文献】国際公開第2017/217235(WO,A1)
【文献】特開2003-327821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムを含む原料を、チタン酸バリウムの融点以上に加熱された高温場に噴射することでチタン酸バリウム粒子を形成する工程aと、
前記工程aで形成されたチタン酸バリウム粒子を含む粉末を焼成する工程bと、
前記工程bで得られた焼成物を水系洗浄液で洗浄する工程cと、を含む、チタン酸バリウム粉末の製造方法であって、
前記工程aで形成されたチタン酸バリウム粒子を含む粉末を分級し、平均粒子径の異なる複数の粉末を得る工程dを更に含み、
前記工程bでは、前記工程dで得られた前記複数の粉末のうち、平均粒子径が2.0~5.0μmであり、真比重が5.60~5.78g/cmである粉末を、前記工程aで形成されたチタン酸バリウム粒子を含む粉末として用いる、チタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項2】
チタン酸バリウム粒子を含む粉末であって、
バリウムイオン濃度が500質量ppm以下であり、
前記粉末30gと、電気伝導度が1μS/cm以下のイオン交換水142.5mLと、純度99.5%以上のエタノール7.5mLとを混合して10分間振とうした後、30分間静置することにより抽出水を調製したとき、前記抽出水の電気伝導度が200μS/cm以下であり、
1GHzにおける比誘電率が100~310である、チタン酸バリウム粉末。
【請求項3】
平均粒子径が3.0~7.0μmである、請求項2に記載のチタン酸バリウム粉末。
【請求項4】
平均球形度が0.80以上である、請求項2又は3に記載のチタン酸バリウム粉末。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか一項に記載のチタン酸バリウム粉末を含む、封止材用フィラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸バリウム系粉末及びその製造方法、並びに、封止材用フィラーに関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウム系化合物は、極めて高い比誘電率を有する材料として知られており、高誘電化が求められる各種電子部品材料(例えば封止材等)におけるフィラーなどに広く使用されている。
【0003】
しかしながら、フィラーに使用されるチタン酸バリウム系粉末は、その製造過程において生じる不純物を内包しやすく、このような不純物が溶出すると、電子部品材料の電気的特性及び長期信頼性が低下するという問題がある。
【0004】
そこで、特許文献1には、チタン化合物とバリウム化合物とを使用して水熱合成法によってチタン酸バリウム系粉末を製造する際に、チタン化合物のpH、チタン化合物の塩素含有率、及び/又はチタン化合物とバリウム化合物との濃度を制御することにより、不純物含有量の少ないチタン酸バリウム系粉末を得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-261912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
製造過程でチタン酸バリウム系粉末に混入するイオン性不純物が封止材等の硬化性を低下させること、及び、溶出する物質の中でも、バリウムイオンは、Cu配線の腐食を引き起こしやすく、封止材の信頼性を低下させることが確認されている。この点、特許文献1の方法では、イオン性不純物(特にバリウムイオン)の溶出量を低減することは難しい。また、チタン酸バリウム系粉末を洗浄(例えば水洗)することでイオン性不純物を部分的に除去することは可能であるものの、一定以上の純度とすることは困難であり、また、洗浄を数十回繰り返す必要があるため生産効率の低下の原因となる。
【0007】
そこで、本発明は、より高純度のチタン酸バリウム系粉末及びその製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、チタン酸バリウム系化合物を含む原料を、当該化合物の融点以上に加熱された高温場に噴射することでチタン酸バリウム系粒子を形成する工程aと、工程aで形成されたチタン酸バリウム系粒子を含む粉末を焼成する工程bと、工程bで得られた焼成物を水系洗浄液で洗浄する工程cと、を含む、チタン酸バリウム系粉末の製造方法を提供する。
【0009】
上記側面の製造方法によれば、より高純度のチタン酸バリウム系粉末を得ることができる。また、上記側面の製造方法によれば、洗浄を数十回繰り返す必要がなく、生産効率を向上させることもできる。
【0010】
一態様において、チタン酸バリウム系粉末の製造方法は、工程aで形成されたチタン酸バリウム系粒子を含む粉末を分級し、平均粒子径の異なる複数の粉末を得る工程dを更に含んでよい。この場合、工程bでは、工程dで得られた複数の粉末のうち、平均粒子径が5.0μm以下であり、真比重が5.60~5.90g/cmである粉末を、工程aで形成されたチタン酸バリウム系粒子を含む粉末として用いてよい。
【0011】
本発明の他の一側面は、チタン酸バリウム系粒子を含む粉末であって、バリウムイオン濃度が500質量ppm以下であり、上記粉末30gと、電気伝導度が1μS/cm以下のイオン交換水142.5mLと、純度99.5%以上のエタノール7.5mLとを混合して10分間振とうした後、30分間静置することにより抽出水を調製したとき、当該抽出水の電気伝導度が200μS/cm以下である、チタン酸バリウム系粉末を提供する。
【0012】
一態様において、チタン酸バリウム系粉末の1GHzにおける比誘電率は100~310であってよい。
【0013】
一態様において、チタン酸バリウム系粉末の平均粒子径は3.0~7.0μmであってよい。
【0014】
一態様において、チタン酸バリウム系粉末の平均球形度は0.80以上であってよい。
【0015】
本発明の他の一側面は、上記側面のチタン酸バリウム系粉末を含む、封止材用フィラーを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、より高純度のチタン酸バリウム系粉末及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。また、具体的に明示する場合を除き、「~」の前後に記載される数値の単位は同じである。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0019】
一実施形態のチタン酸バリウム系粉末の製造方法は、チタン酸バリウム系化合物を含む原料を、当該化合物の融点以上に加熱された高温場に噴射することでチタン酸バリウム系粒子を形成する工程aと、工程aで形成されたチタン酸バリウム系粒子を含む粉末を焼成する工程bと、工程bで得られた焼成物を水系洗浄液で洗浄する工程cと、を含む。
【0020】
上記方法は、チタン酸バリウム系粉末中のイオン性不純物(特にバリウムイオン)の除去方法といいかえることもできる。上記方法では、工程aの後に工程bを実施することで、工程cにおける洗浄効果を高めることができる。そのため、上記方法によれば、チタン酸バリウム系粉末中のイオン性不純物(特にバリウムイオン)を少ない洗浄回数で効率的に除去することができ、より高純度のチタン酸バリウム系粉末を得ることが可能となる。
【0021】
また、本発明者らの検討の結果明らかになったことであるが、上記方法では、工程bを実施することでチタン酸バリウム系粉末の比誘電率が向上する。そのため、上記方法によれば、高純度且つ高い比誘電率を有するチタン酸バリウム系粉末を得ることができる。
【0022】
また、上記方法によれば、球形度及び正方晶率の更なる向上も可能である。すなわち、上記方法によれば、平均球形度が1に近く、正方晶率が100%に近いチタン酸バリウム系粉末を得ることができる。
【0023】
上記方法は、上記工程aで形成されたチタン酸バリウム系粒子を含む粉末を分級し、平均粒子径の異なる複数の粉末を得る工程dを更に含んでいてよい。この工程dは、工程aの後、工程bの前に実施されてよく、工程aと同時に実施されてもよい。
【0024】
以下、チタン酸バリウム系粉末の製造方法における各工程(工程a、工程b、工程c及び工程d)について説明する。
【0025】
<工程a>
工程aでは、チタン酸バリウム系化合物を含む原料を高温場に噴射することで、当該原料を溶融固化させ、球形度の高いチタン酸バリウム系粒子を形成する。
【0026】
原料は、チタン酸バリウム系化合物を含む固体(例えば粒子)である。一般的にチタン酸バリウムのようなペロブスカイト型酸化物はABOの結晶構造を有する。Aサイト及びBサイトは、両者とも他元素による置換が容易に起こりやすく、Nd、La、Ca、Sr、Zr等の異種元素を結晶構造内へ置換することが可能である。本明細書では、チタン酸バリウムの他、チタン酸バリウムの上記Aサイト及び/又はBサイトに異種元素が置換されてなる化合物を総称してチタン酸バリウム系化合物という。チタン酸バリウム系化合物としては、例えば、下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
(Ba(1-x)Ca)(Ti(1-y)Zr)O …(1)
[式(1)中、x及びyは、0≦x+y≦0.4を満たす。]
LaBa(1-x)Ti(1-x/4) …(2)
[式(2)中、xは0<x<0.14を満たす。]
【0027】
原料の形状は特に限定されず、定形であっても、不定形であってもよい。原料は、チタン酸バリウム系化合物以外の成分(例えば、不可避的に含有する不純物等の成分)を含んでいてよい。原料中のチタン酸バリウム系化合物の含有量は、原料の全質量を基準として、98~100質量%であってよく、99~100質量%であってもよい。
【0028】
原料の平均粒子径は、0.5~3.0μmであってよく、1.0~2.5μm又は1.5~2.0μmであってもよい。原料の平均粒子径が大きいほど、工程aで得られるチタン酸バリウム系粒子の平均粒子径が大きくなり、原料の平均粒子径が小さいほど、工程aで得られるチタン酸バリウム系粒子の平均粒子径が小さくなる。原料の平均粒子径が上記範囲であると、工程aにおいて、平均粒子径が3.0~7.0μmのチタン酸バリウム系粒子が得られやすくなる。本明細書中、平均粒子径は、レーザー回折光散乱法による質量基準の粒度測定により得られる粒度分布において、累積質量が50%となる粒子径(D50)であり、マルバーン社製「マスターサイザー3000、湿式分散ユニット:Hydro MV装着」を用いて測定することができる。
【0029】
工程aでは、原料を溶媒と混合してスラリー状にしてから使用してもよい。すなわち、工程aでは、原料及び溶媒を含むスラリーを高温場に噴射してよい。スラリーを噴射する場合、溶媒の表面張力により、チタン酸バリウム系粒子の球形度が向上しやすくなる。
【0030】
溶媒としては、例えば、水が用いられる。溶媒としては、発熱量の調整を目的として、メタノール、エタノール等の有機溶媒を用いることもできる。これらは単独で使用してよく、混合して使用してもよい。
【0031】
スラリーにおける原料の濃度(含有量)は、チタン酸バリウム系粒子の球形度を高めることが容易となる観点から、スラリーの全質量を基準として、1~50質量%であってよく、20~47質量%又は40~45質量%であってもよい。
【0032】
高温場は、例えば、燃焼炉等の中に形成された高温火炎であってよい。高温火炎は、可燃ガスと助燃ガスとによって形成することができる。高温場(例えば高温火炎)の温度は、原料に使用するチタン酸バリウム系化合物の融点以上の温度であり、例えば、1625~2000℃である。
【0033】
可燃性ガスとしては、例えば、プロパン、ブタン、プロピレン、アセチレン、水素等が挙げられる。これらは一種を単独で、又は、二種以上を組み合わせて用いることができる。助燃ガスとしては、例えば、酸素ガス等の酸素含有ガスを用いることができる。ただし、可燃性ガス及び助燃ガスは、これらに限定されるものではない。
【0034】
原料の噴射(噴霧)は、例えば、二流体ノズルを用いて行うことができる。原料の噴射速度(供給速度)は、0.3~32kg/hであってよく、9~29kg/h又は22~27kg/hであってもよい。原料の噴射速度が上記範囲であると、チタン酸バリウム系粒子の球形度が向上しやすくなる。スラリーを用いる場合、スラリー中の原料の噴射速度が上記範囲であってよい。
【0035】
原料の噴射時には分散気体を使用してよい。すなわち、原料(又は原料を含むスラリー)を分散気体に分散させながら噴射してよい。これにより、チタン酸バリウム系粒子の球形度が向上しやすくなる。分散気体としては、空気、酸素等の支燃性ガス、窒素、アルゴン等の不活性ガスなどを使用することができる。ガスの発熱量調整を目的として、不活性ガスに燃焼性ガスを混合することもできる。分散気体の供給速度は、チタン酸バリウム系粒子の球形度を高めることが容易となる観点から、20~50m/hであってよく、30~47m/h又は40~45m/hであってもよい。
【0036】
上記工程aで形成されるチタン酸バリウム系粒子は、チタン酸バリウム系化合物以外の成分(例えば、不可避的に含有する不純物等の成分)を含んでいてよい。チタン酸バリウム系粒子中のチタン酸バリウム系化合物の含有量は、チタン酸バリウム系粒子の全質量を基準として、98~100質量%であってよく、99~100質量%であってもよい。
【0037】
上記工程aで形成されるチタン酸バリウム系粒子の平均球形度(チタン酸バリウム系粒子を含む粉末の平均球形度)は、例えば、0.70超である。上記工程aでは、原料の噴射速度の調整、スラリーの使用及び分散気体の使用等により、0.80以上又は0.85以上の平均球形度を有するチタン酸バリウム系粒子を得ることもできる。また、後述する工程dを実施する場合には、分級により、球形度を更に高めることも可能である。平均球形度の最大値は1である。
【0038】
本明細書中、平均球形度とは、以下の方法で測定される値を意味する。まず、試料粉末とエタノールを混合して、試料粉末の濃度が1質量%のスラリーを調整し、BRANSON社製「SONIFIER450(破砕ホーン3/4”ソリッド型)」を用い、出力レベル8で2分間分散処理する。得られた分散スラリーを、スポイトでカーボンペーストが塗布された試料台に滴下する。試料台で、滴下されたスラリーが乾燥するまで大気中で静置した後、オスミウムコーティングを行い、これを、日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡「JSM-6301F型」で撮影する。撮影は、倍率3000倍で行い、解像度2048×1536ピクセルの画像を得る。得られた画像を撮影パソコンに取り込み、株式会社マウンテック製の画像解析装置「MacView Ver.4」を使用し、簡単取り込みツールを用いて粒子を認識させ、粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)から球形度を測定する。周囲長(PM)に対応する真円の面積を(B)とすると、その粒子の球形度はA/Bとなるが、試料の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円(半径r)を想定すると、PM=2πr、B=πrであるから、B=π×(PM/2π)となり、個々の粒子の球形度(A/B)はA×4π/(PM)となる。このようにして得られた任意の投影面積円相当径2μm以上の粒子200個の球形度を求め、その算術平均値を平均球形度とする。
【0039】
<工程d>
工程dでは、工程aで形成されたチタン酸バリウム系粒子を含む粉末を分級する。分級方法は特に限定されず、スクリーン分級であっても風力分級であってもよい。効率的に分級を行う観点では、工程aが実施される燃焼炉の下部に捕集系ラインを直結させ、捕集系ラインの後方(燃焼炉とは反対側)に設置されたブロワにより捕集系ラインを介して燃焼炉内のチタン酸バリウム系粒子を吸引することにより、チタン酸バリウム系粒子を含む粉末を分級することが好ましい。捕集系ラインは、燃焼炉に接続された熱交換器の他、サイクロン及びバグフィルターを有していてよい。熱交換器、サイクロン及びバグフィルターはこの順で直列に接続されていてよい。この場合、燃焼炉、熱交換器、サイクロン及びバグフィルターのそれぞれでチタン酸バリウム系粒子を含む粉末が捕集される。捕集される各粉末の粒子径は、例えば、ブロワの吸引量等により調整可能である。
【0040】
工程dで上記捕集系ラインを使用する場合、上流側(燃焼炉に近い側)で捕集される粉末ほどチタン酸バリウム系化合物の比重に近い真比重を有する傾向がある。これは、下流側(ブロワに近い側)ほど、捕集される粉末中に比重の小さい不純物(炭酸バリウム等)が混入しやすくなるためであると推察される。また、工程dで上記捕集系ラインを使用する場合、サイクロンで捕集される粉末の球形度が最も高くなる傾向がある。
【0041】
工程dでは、得られる粉末のうちの少なくとも一つの平均粒子径が5.0μm以下となるようにチタン酸バリウム系粒子を含む粉末の分級を行ってよい。上記平均粒子径を有する粉末を工程bで使用することにより、工程cにおける洗浄効果がより向上する傾向があり、また、チタン酸バリウム系粉末の比誘電率がより向上する傾向がある。上記粉末の平均粒子径は、3.0~5.0μmであってよく、3.2~4.8μm又は3.5~4.5μmであってもよい。
【0042】
<工程b>
工程bでは、工程aで形成されたチタン酸バリウム系粒子を含む粉末を焼成することにより、当該粉末の焼成物を得る。
【0043】
工程aで形成されたチタン酸バリウム系粒子を含む粉末としては、工程aで形成されたチタン酸バリウム系粒子を含む粉末を分級することにより得られた複数の粉末のうちの一つを使用してよい。すなわち、工程bでは、工程dで得られた粉末のうちの一つを使用してよい。工程dで上記捕集系ラインを使用する場合、サイクロンで捕集される粉末を用いると、工程cにおける洗浄効果がより向上する傾向があり、また、チタン酸バリウム系粉末の比誘電率がより向上する傾向がある。
【0044】
工程bで使用する粉末の平均粒子径は、工程cにおける洗浄効果がより向上しやすくなる観点及びチタン酸バリウム系粉末の比誘電率がより向上しやすくなる観点から、5.0μm以下であってよく、4.5μm以下又は4.0μm以下であってもよい。工程bで使用する粉末の平均粒子径は、焼成時の粒子同士の凝集及び合着を防止する観点から、2.0μm以上であってよい。これらの観点から、工程bで使用する粉末の平均粒子径は、2.0~5.0μm、2.0~4.5μm又は2.0~4.0μmであってよい。
【0045】
工程bでは、粉末の真比重がチタン酸バリウム系化合物の比重に近いほど、焼成による比誘電率の向上効果が得られやすくなる。工程bで使用する粉末の真比重は、得られるチタン酸バリウム系粉末の比誘電率がより向上しやすくなる観点から、5.60~5.90g/cmであってよく、5.60~5.80g/cm、5.65~5.78g/cm又は5.70~5.75g/cmであってもよい。本明細書中、真比重は、株式会社セイシン企業製のAuto True Denser MAT-7000型により測定することができる。
【0046】
上記観点から、工程bでは、平均粒子径が5.0μm以下であり、真比重が5.60~5.90g/cmである粉末を用いることが好ましい。工程dで上記捕集系ラインを使用する場合、サイクロン捕集によって、このような平均粒子径及び真比重を有する粉末を容易に得ることができる。
【0047】
工程bで使用する粉末の平均球形度は、0.80超であってよく、0.82以上又は0.85以上であってもよい。平均球形度の最大値は1である。
【0048】
粉末の焼成(加熱)には、焼成炉を用いてよい。粉末の焼成温度(例えば焼成炉内の温度)は、例えば700℃以上であり、800℃以上、900℃以上、1000℃以上又は1100℃以上であってもよい。焼成温度が高いほど、正方晶率が向上する傾向がある。粉末の焼成温度は、例えば1300℃以下であり、球形度を向上させる観点では、1200℃以下、1100℃以下又は1000℃以下であってよい。粉末の焼成温度は、工程cにおける洗浄効果がより向上しやすくなる観点及びチタン酸バリウム系粉末の比誘電率がより向上しやすくなる観点では、800~1200℃又は900~1100℃であってもよい。粉末の昇温速度は、特に限定されないが、2~5℃/minであってよく、2.5~4.5℃/min又は3~4℃/minであってもよい。
【0049】
粉末の焼成時間は、工程cにおける洗浄効果がより向上しやすくなる観点及びチタン酸バリウム系粉末の比誘電率がより向上しやすくなる観点では、2時間以上であってよく、4時間以上又は6時間以上であってもよい。粉末の焼成時間が6時間以上となると、上記洗浄効果の向上傾向及び比誘電率の向上傾向が小さくなることから、生産効率の観点では、粉末の焼成時間は、8時間以下であってよい。なお、上記焼成時間には、昇温時間は含まない。
【0050】
焼成後の冷却条件は、特に限定されない。焼成後の冷却は、炉内での自然冷却であってよい。
【0051】
工程bで得られる焼成物は、チタン酸バリウム系粒子を含む粉末であり、焼成前の粉末よりも高い比誘電率を有する。
【0052】
<工程c>
工程cでは、工程bで得られた焼成物を水系洗浄液で洗浄することにより、焼成物中のイオン性不純物の少なくとも一部を除去し、高純度のチタン酸バリウム系粉末を得る。
【0053】
水系洗浄液は、主成分として水を含む。水系洗浄液中の水の含有量は、水系洗浄液の全質量を基準として、60~100質量%、70~100質量%又は80~100質量%であってよい。水系洗浄液は水(例えば純水)のみからなっていてよく、他の構成成分を含んでいてもよい。他の構成成分としては、例えば、エタノール、アセトン等が挙げられる。
【0054】
洗浄は、焼成物を水系洗浄液に接触させることにより実施する。具体的には、例えば、洗浄液中に焼成物を投入し、攪拌することにより、焼成物を洗浄することができる。この際、洗浄液の温度は、10~25℃であってよい。攪拌は、例えば、撹拌機、マグネットスターラー、ディスパーサー等を用いて行うことができる。攪拌時間は、5~30分であってよい。攪拌速度は、200~400rpmであってよい。
【0055】
洗浄液に接触させる焼成物の量は、より高い洗浄効果が得られやすくなる観点から、洗浄液100質量部に対して、10~40質量部であってよく、15~35質量部又は20~30質量部であってもよい。なお、上記焼成物の量は、洗浄一回あたりに洗浄液に接触させる焼成物の量である。
【0056】
洗浄は、複数回繰り返し行ってもよい。例えば、洗浄液中に焼成物を投入し、攪拌することにより、焼成物を洗浄する操作を行った後、焼成物を沈降させてから上澄み液を除去し、再度、洗浄液を加えて攪拌することにより、焼成物を洗浄してよい。洗浄回数を増やすことで更なる高純度化が可能である。洗浄回数は、2回以上であってよく、3回以上であってもよい。本実施形態の方法によれば、少ない洗浄回数でイオン性不純物を充分に除去することができることから、洗浄回数は、10回以下であってよく、5回以下であってもよい。洗浄回数が少ないほど、得られるチタン酸バリウム系粉末の比誘電率は高くなる傾向がある。
【0057】
洗浄後は、焼成物を乾燥させてよい。乾燥条件は、洗浄後の焼成物(チタン酸バリウム系粉末)を充分に乾燥させることができる条件であればよい。乾燥温度は、100~110℃であってよい。乾燥時間は、12~24時間であってよい。
【0058】
以上説明したチタン酸バリウム系粉末の製造方法によれば、より高純度のチタン酸バリウム系粉末を効率的に得ることができる。具体的には、バリウムイオン濃度が500質量ppm以下であるチタン酸バリウム系粉末を得ることができる。すなわち、本発明は、一実施形態において、バリウムイオン濃度が500質量ppm以下であるチタン酸バリウム系粉末を提供する。また、上記方法で製造されるチタン酸バリウム系粉末の抽出水電気伝導度は、例えば、200μS/cm以下である。すなわち、本発明は、一実施形態において、抽出水電気伝導度が200μS/cm以下であるチタン酸バリウム系粉末(例えばバリウムイオン濃度が500質量ppm以下であり、抽出水電気伝導度が200μS/cm以下であるチタン酸バリウム系粉末)を提供する。
【0059】
チタン酸バリウム系粉末中のバリウムイオン濃度は、洗浄回数を増やすことで低減可能である。チタン酸バリウム系粉末中のバリウムイオン濃度は、480質量ppm以下、400質量ppm以下、300質量ppm以下、200質量ppm以下又は150質量ppm以下とすることもできる。チタン酸バリウム系粉末中のバリウムイオン濃度の下限値は、例えば、130質量ppmである。すなわち、チタン酸バリウム系粉末中のバリウムイオン濃度は、130~500質量ppmであってよく、130~480質量ppm、130~400質量ppm、130~300質量ppm、130~200質量ppm又は130~150質量ppmであってもよい。
【0060】
チタン酸バリウム系粉末中のバリウムイオン濃度はICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析により求めることができる。具体的には、まず、20℃のイオン交換水70mLに試料粉末(チタン酸バリウム系粉末)を10g投入して1分間振とうする。次いで、得られた混合物を95℃で20時間乾燥させる。その後、室温まで冷却した後、蒸発した分のイオン交換水を混合物に追加して定量した後、遠心分離を行い、上澄み液を分取しこれを供試液とする。この供試液についてICP発光分光分析を行うことで、バリウムイオン濃度を測定する。この供試液とは別に、試料粉末を用いないこと以外は上記と同じ操作を行って空試験用供試液とし、当該空試験用供試液に対して同様の測定を行い、供試液の測定結果を補正することで、バリウムイオン濃度を求めることができる。ICP発光分光分析は、株式会社島津製作所社製の「ICPE-9000型」を用いて実施することができる。
【0061】
チタン酸バリウム系粉末の抽出水電気伝導度は、洗浄回数を増やすことで低減可能である。チタン酸バリウム系粉末の抽出水電気伝導度は、100μS/cm以下又は70μS/cm以下とすることもできる。チタン酸バリウム系粉末の抽出水電気伝導度の下限値は、例えば、25μS/cmである。すなわち、チタン酸バリウム系粉末の抽出水電気伝導度は、25~200μS/cmであってよく、25~100μS/cm又は25~70μS/cmであってもよい。
【0062】
抽出水電気伝導度は、チタン酸バリウム系粉末30gと、電気伝導度が1μS/cm以下のイオン交換水142.5mLと、純度99.5%以上のエタノール7.5mLとを混合して10分間振とうした後、30分間静置することにより調製される試料液(抽出水)の電気伝導度を意味する。抽出水電気伝導度は、静置後の試料液に電気伝導率セルを浸し、1分後に読み取った値であり、イオン交換水の電気伝導度は、イオン交換水150mLに電気伝導率セルを浸し、1分後に読み取った値である。上記電気伝導度の測定は、東亜ディーケーケー株式会社製の電気伝導率計「CM-30R」及び電気伝導率セル「CT-57101C」を用いて実施することができる。また、上記抽出操作における振とうは、アズワン株式会社製の「ダブルアクションラボシェイカーSRR-2」を用いて実施することができる。
【0063】
上記方法では、チタン酸バリウム系粉末の塩化物イオン濃度も低減することができる。チタン酸バリウム系粉末中の塩化物イオンの濃度は、例えば、1.5質量ppm以下であり、1.0質量ppm以下又は0.9質量ppm以下とすることもできる。チタン酸バリウム系粉末中の塩化物イオン濃度の下限値は、例えば、0.7質量ppmである。すなわち、チタン酸バリウム系粉末中の塩化物イオンの濃度は、0.7~1.5質量ppmであってよく、0.7~1.0質量ppm又は0.7~0.9質量ppmであってもよい。
【0064】
チタン酸バリウム系粉末中の塩化物イオン濃度は、IC(イオンクロマトグラフィー)により求めることができる。具体的には、バリウムイオン濃度の測定と同様にして、供試液及び空試験用供試液を作製し、これらについてIC分析を行い、空試験用供試液の測定結果を用いて供試液の測定結果を補正することで塩化物イオン濃度を求めることができる。IC分析は、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製の「INTEGRION型」を用いて実施することができる。
【0065】
上記方法で得られるチタン酸バリウム系粉末は比誘電率にも優れる傾向がある。チタン酸バリウム系粉末の比誘電率は、例えば、100以上であり、120以上又は140以上とすることもできる。チタン酸バリウム系粉末の比誘電率の上限値は、例えば、310以下、250以下又は200以下である。すなわち、チタン酸バリウム系粉末の比誘電率は、100~310であってよく、120~250又は140~200であってもよい。なお、上記比誘電率は、1GHzにおける比誘電率であり、キーコム株式会社製の粉体誘電率測定器「TM空洞共振器」(円筒空洞共振法)を用いて測定することができる。測定値は、充填重量及び真比重を入力することにより補正された値である。なお、測定の際には、測定セル内にチタン酸バリウム系粉末を充填する際に、10回以上のタップ(セル内への落とし込み)を行う。これにより、空隙率を充分に低下させることでばらつきを抑えることができる。
【0066】
上記方法で得られるチタン酸バリウム系粉末は高い球形度及び高い正方晶率を有する傾向がある。チタン酸バリウム系粉末の平均球形度は、例えば、0.80以上であり、0.83以上、0.85以上、0.87以上、0.88以上、0.89以上又は0.90以上とすることもできる。平均球形度の最大値は1であり、上記方法では、平均球形度が1に近い(例えば、0.80~0.99、0.83~0.97、0.85~0.95、0.87~0.93、0.88~0.93、0.89~0.93又は0.90~0.93である)チタン酸バリウム系粉末が得られる。また、チタン酸バリウム系粉末の正方晶率は、例えば、65%以上であり、68%以上又は70%以上とすることもできる。正方晶率の最大値は100%であり、上記方法では、正方晶率が100%に近い(例えば、65~95%、68~85%又は70~75%である)チタン酸バリウム系粉末が得られる。正方晶率は、BRUKER社製D2 PHASERを用いてチタン酸バリウム粉末のX線回折(XRD)パターンを測定し、リートベルト法により求めることができる。
【0067】
上記方法で得られるチタン酸バリウム系粉末の平均粒子径は、例えば、3.0~7.0μmである。チタン酸バリウム系粉末の平均粒子径は、3.2μm以上又は3.5μm以上とすることもでき、6.5μm以下、6.0μm以下、5.0μm以下、4.5μm以下、4.2μm以下、4.0μm以下又は3.9μm以下とすることもできる。
【0068】
上記方法で得られるチタン酸バリウム系粉末は、高い比誘電率を有することから、各種電子部品材料に好適に用いられ、特に、高比誘電率が求められる封止材用のフィラーとして好適に用いられる。封止材としては、例えば、アンテナ・イン・パッケージに用いられる封止材が挙げられる。チタン酸バリウム系粉末を封止材用のフィラーとして用いる場合、他のフィラー成分と混合して使用することも可能である。
【実施例
【0069】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
<比較例1>
(原料の準備)
原料として共立マテリアル株式会社製の「BT-SA」(商品名、チタン酸バリウム粉末、平均粒子径:1.6μm)を用意し、これを水と混合してスラリー(BT-SAの濃度:43質量%)を調製した。
【0071】
(チタン酸バリウム粒子の形成)
内炎及び外炎を形成可能な二重管構造のLPG-酸素混合型バーナーが頂部に設置された燃焼炉と、燃焼炉の下部に直結された捕集系ラインと、捕集系ラインに接続されたブロワと、を備える装置を用意した。捕集系ラインは、燃焼炉に接続された熱交換器と、熱交換器の上部に接続されたサイクロンと、サイクロンの上部に接続されたバグフィルターとを有しており、バグフィルターがブロワに接続されている。
【0072】
上記装置の燃焼炉内に高温火炎(温度:約2000℃)を形成し、バーナーの中心部から、上記スラリーを37L/Hr(BT-SA換算で25kg/h)の供給速度で、キャリア空気(供給速度:40~45m/h)に同伴させ噴射した。火炎の形成は、二重管構造のバーナーの出口に数十個の細孔を設け、細孔からLPG(供給速度17m/h)と酸素(供給速度90m/h)との混合ガスを噴射することによって行った。これにより球状のチタン酸バリウム粒子を形成した。
【0073】
(チタン酸バリウム粒子を含む粉末の分級)
燃焼炉で形成したチタン酸バリウム粒子を含む粉末をブロワで吸引することにより分級し、燃焼炉、熱交換器、サイクロン及びバグフィルターのそれぞれでチタン酸バリウム粒子を含む粉末を捕集した。捕集した複数の粉末のうち、サイクロン捕集によって捕集した粉末を比較例1のチタン酸バリウム粉末とした。
【0074】
<比較例2>
比較例1と同様にして、「チタン酸バリウム粒子の形成」及び「チタン酸バリウム粒子を含む粉末の分級」を行った後、サイクロン捕集によって捕集した粉末に対して焼成処理を行った。具体的には、サイクロン捕集によって捕集した粉末8kgをムライトさやに充填し、3.3℃/minの昇温速度で1000℃まで昇温した後、1000℃で6時間焼成することにより比較例2のチタン酸バリウム粉末を得た。なお、焼成後の冷却は炉内での自然冷却により行った。
【0075】
<実施例1~3>
比較例1と同様にして、「チタン酸バリウム粒子の形成」及び「チタン酸バリウム粒子を含む粉末の分級」を行った後、比較例2と同様にして、サイクロン捕集によって捕集した粉末に対して焼成処理を行った。
【0076】
次いで、焼成後に得られた粉末に対し、水洗操作を3回、4回又は10回繰り返し行った。水洗操作は、チタン酸バリウム粉末500gに純水2L(20℃)を加え10分間300rpmで撹拌した後、30分間静置し、粉末を沈降させ、上澄み液をチューブポンプにて除去する操作を1回とした。水洗操作の終了後、得られた粉末を110℃で充分に乾燥させ、実施例1~3のチタン酸バリウム粉末を得た。
【0077】
<比較例3~5>
比較例1と同様にして、「チタン酸バリウム粒子の形成」及び「チタン酸バリウム粒子を含む粉末の分級」を行った後、実施例1~3と同様にして、サイクロン捕集によって捕集した粉末に対して水洗操作を3回、4回又は10回繰り返し行った。水洗操作の終了後、得られた粉末を110℃で充分に乾燥させ、比較例3~5のチタン酸バリウム粉末を得た。
【0078】
<分析・評価>
[真比重の測定]
比較例1~5及び実施例1~3で得られたチタン酸バリウム粉末の真比重を株式会社セイシン企業製のAuto True Denser MAT-7000型により測定した。結果を表1に示す。
【0079】
[平均球形度の測定]
比較例1~5及び実施例1~3で得られたチタン酸バリウム粉末の平均球形度を以下の方法で測定した。まず、チタン酸バリウム粉末とエタノールを混合して、チタン酸バリウム粉末の濃度が1質量%のスラリーを調整し、BRANSON社製「SONIFIER450(破砕ホーン3/4”ソリッド型)」を用い、出力レベル8で2分間分散処理した。得られた分散スラリーを、スポイトでカーボンペーストが塗布された試料台に滴下した。試料台で、滴下されたスラリーが乾燥するまで大気中で静置した後、オスミウムコーティングを行い、これを、日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡「JSM-6301F型」で撮影した。撮影は、倍率3000倍で行い、解像度2048×1536ピクセルの画像を得た。得られた画像を撮影パソコンに取り込み、株式会社マウンテック製の画像解析装置「MacView Ver.4」を使用し、簡単取り込みツールを用いて粒子を認識させた。粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)から、得られた任意の投影面積円相当径2μm以上の粒子200個の球形度を求め、その平均値を平均球形度とした。結果を表1に示す。
【0080】
[平均粒子径の測定]
比較例1~5及び実施例1~3で得られたチタン酸バリウム粉末の平均粒子径(D50)を、マルバーン社製「マスターサイザー3000、湿式分散ユニット:Hydro MV装着」を用いたレーザー回折光散乱法による質量基準の粒度測定により求めた。測定に際しては、チタン酸バリウム粉末を水と混合し、前処理として2分間、株式会社トミー精工製「超音波発生器UD-200(微量チップTP-040装着)」を用いて200Wの出力をかけて混合液に分散処理を行った後、分散処理後の混合液を、レーザー散乱強度が10~15%になるように分散ユニットに滴下した。分散ユニットスターラーの撹拌速度は1750rpm、超音波モードは無しとした。粒度分布の解析は粒子径0.01~3500μmの範囲を100分割にして行った。水の屈折率には1.33を用い、チタン酸バリウムの屈折率には2.40を用いた。結果を表1に示す。
【0081】
[正方晶率の測定]
比較例1~5及び実施例1~3で得られたチタン酸バリウム粉末の正方晶率を、BRUKER社製D2 PHASERを用いてチタン酸バリウム粉末のX線回折(XRD)パターンを測定し、リートベルト法により求めた。XRDの測定条件は以下のとおりとした。結果を表1に示す。
-測定条件
・照射X線源:Cuフィラメント(0.4×12mm
・使用出力:30KV-10mA
・検出器:BRUKER社製のLYNXEYE(1D-半導体検出器)
・測定は2θ=20°~100°の範囲を0.02°/step、0.6秒/stepの条件で行った。
【0082】
[比誘電率の測定]
比較例1~5及び実施例1~3で得られたチタン酸バリウム粉末の比誘電率をキーコム株式会社製の粉体誘電率測定器「TM空洞共振器」(円筒空洞共振法)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0083】
[Baイオン濃度及びClイオン濃度の測定]
比較例1~5及び実施例1~3で得られたチタン酸バリウム粉末中のバリウム(Ba)イオン濃度及び塩化物(Cl)イオン濃度を以下の方法で測定した。まず、20℃のイオン交換水70mLにチタン酸バリウム粉末を10g投入して1分間振とうした。次いで、得られた混合物を乾燥器に入れ、95℃で20時間乾燥させた。その後、室温まで冷却した後、蒸発した分のイオン交換水を混合物に追加して定量した後、遠心分離を行い、上澄み液を分取しこれを供試液とした。この供試液についてICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析及びIC(イオンクロマトグラフィー)分析を行うことで、バリウムイオン濃度及び塩化物イオン濃度を測定した。この供試液とは別に、チタン酸バリウム粉末を用いないこと以外は上記と同じ操作を行って空試験用供試液とし、当該空試験用供試液に対して同様の測定を行い、供試液の測定結果を補正することで、チタン酸バリウム粉末中のバリウムイオン濃度及び塩化物イオン濃度を求めた。ICP発光分光分析には、島津製作所株式会社製の「ICPE-9000型」を用い、IC分析には、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製の「INTEGRION型」を用いた。結果を表1に示す。
【0084】
[抽出水電気伝導度の測定]
比較例1~5及び実施例1~3で得られたチタン酸バリウム粉末の抽出水電気伝導度を以下の方法で測定した。まず、300mLポリエチレン製容器に、チタン酸バリウム粉末30gを投入した後、電気伝導度が1μS/cm以下のイオン交換水142.5mL及び純度99.5%以上のエタノール7.5mLを加えた。次いで、アズワン株式会社製の「ダブルアクションラボシェイカーSRR-2」を用いて、得られた混合液を往復振とう方式で10分間振とうした後、30分間静置することにより試料液(抽出水)を調製した。静置後の試料液に電気伝導率セルを浸し、1分後に値を読み取り、これを抽出水電気伝導度とした。イオン交換水の電気伝導度は、イオン交換水150mLに電気伝導率セルを浸し、1分後に読み取った値を用いた。また、電気伝導度の測定には、東亜ディーケーケー株式会社製の電気伝導率計「CM-30R」及び電気伝導率セル「CT-57101C」を用いた。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示されるように、焼成処理を行った実施例1~3では、焼成処理を行わなかった比較例3~5よりも少ない洗浄回数で、より高純度のチタン酸バリウム粉末が得られることが確認された。