(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】車両制御システム、車両制御装置及び車両制御方法
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20241218BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
B60T7/12 A
G08G1/16 D
(21)【出願番号】P 2023522214
(86)(22)【出願日】2022-02-02
(86)【国際出願番号】 JP2022003971
(87)【国際公開番号】W WO2022244318
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2021086002
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】笠井 優人
(72)【発明者】
【氏名】長塚 敬一郎
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-224700(JP,A)
【文献】特開2011-086204(JP,A)
【文献】特開2009-251761(JP,A)
【文献】特開2006-227811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
8/32-8/96
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周辺の情報である外界情報を認識する外界認識部と、
前記車両のドライバの視線の向きを検知するドライバ監視部と、
前記車両のブレーキが作動した状態を維持するブレーキホールド部と、
前記ブレーキホールド部のON又はOFFを制御するブレーキホールド制御部と、
前記外界認識部が検知した外界情報に基づき、前記ドライバ監視部で検知すべきドライバの視線条件を生成するドライバ監視条件生成部と、を有し、
前記ドライバ監視部が検知した前記ドライバの視線が、前記視線条件を満たす場合、前記ブレーキホールド制御部は前記ブレーキホールド部をOFFにするよう制御することを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御システムであって、
前記外界情報に基づき前記車両が二段階停止するか否かを判断する二段階停止判断部を備え、
前記二段階停止判断部が二段階停止すると判断し、且つ、前記ドライバの視線が前記視線条件を満たす場合、前記ブレーキホールド制御部は前記ブレーキホールド部をOFFにするよう制御することを特徴とする車両制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載の車両制御システムであって、
前記外界認識部は、前記外界情報として、一時停止を指示する標識又は路面標示の周囲の死角を認識し、
前記ドライバ監視条件生成部は、少なくとも前記死角に基づいて、前記ドライバ監視部で検知すべきドライバの視線条件を生成することを特徴とする車両制御システム。
【請求項4】
請求項1に記載の車両制御システムであって、
前記車両の車両運動情報を取得する車両情報取得部と、
前記車両運動情報及び前記外界情報に基づき、前記外界認識部の検知範囲外の外界情報を推定する外界情報推定部と、を有し、
前記ドライバ監視条件生成部は、前記外界情報推定部で推定した外界情報推定結果に基づき前記ドライバ監視部で検知すべきドライバの視線条件を生成することを特徴とする車両制御システム。
【請求項5】
車両の周辺の情報である外界情報を認識する外界認識部が検知した外界情報に基づき、
前記車両のドライバの視線の向きを検知するドライバ監視部で検知すべきドライバの視線条件を生成するドライバ監視条件生成部と、
前記車両のブレーキが作動した状態を維持するブレーキホールド部のON又はOFFを制御するブレーキホールド制御部と、を備え、
前記ドライバ監視部が検知した前記ドライバの視線が、前記視線条件を満たす場合、前記ブレーキホールド制御部は前記ブレーキホールド部をOFFにするよう制御することを特徴とする車両制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両制御装置であって、
前記外界情報に基づき前記車両が二段階停止するか否かを判断する二段階停止判断部を備え、
前記二段階停止判断部が二段階停止すると判断し、且つ、前記ドライバの視線が前記視線条件を満たす場合、前記ブレーキホールド制御部は前記ブレーキホールド部をOFFにするよう制御することを特徴とする車両制御装置。
【請求項7】
請求項5に記載の車両制御装置であって、
前記外界認識部は、前記外界情報として、一時停止を指示する標識又は路面標示の周囲の死角を認識し、
前記ドライバ監視条件生成部は、少なくとも前記死角に基づいて、前記ドライバ監視部で検知すべきドライバの視線条件を生成することを特徴とする車両制御装置。
【請求項8】
請求項5に記載の車両制御装置であって、
前記車両の車両運動情報及び前記外界情報に基づき、前記外界認識部の検知範囲外の外界情報を推定する外界情報推定部を有し、
前記ドライバ監視条件生成部は、前記外界情報推定部で推定した外界情報推定結果に基づき前記ドライバ監視部で検知すべきドライバの視線条件を生成することを特徴とする車両制御装置。
【請求項9】
ドライバ監視条件生成部は、車両の周辺の情報である外界情報を認識する外界認識部が検知した外界情報に基づき、前記車両のドライバの視線の向きを検知するドライバ監視部で検知すべきドライバの視線条件を生成し、
ブレーキホールド制御部は、前記ドライバ監視部が検知した前記ドライバの視線が、生成されたドライバの視線条件を満たす場合、前記車両のブレーキが作動した状態を維持するブレーキホールド部をOFFにするよう制御することを特徴とする車両制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載の車両制御方法であって、
二段階停止判断部は、前記外界情報に基づき前記車両が二段階停止するか否かを判断し、
前記二段階停止判断部が二段階停止すると判断し、且つ、前記ドライバの視線が前記視線条件を満たす場合、前記ブレーキホールド制御部は前記ブレーキホールド部をOFFにするよう制御することを特徴とする車両制御方法。
【請求項11】
請求項9に記載の車両制御方法であって、
前記外界認識部は、前記外界情報として、一時停止を指示する標識又は路面標示の周囲の死角を認識し、
前記ドライバ監視条件生成部は、少なくとも前記死角に基づいて、前記ドライバ監視部で検知すべきドライバの視線条件を生成することを特徴とする車両制御方法。
【請求項12】
請求項9に記載の車両制御方法であって、
外界情報推定部は、前記車両の車両運動情報及び前記外界情報に基づき、前記外界認識部の検知範囲外の外界情報を推定し、
前記ドライバ監視条件生成部は、前記外界情報推定部で推定した外界情報推定結果に基づき前記ドライバ監視部で検知すべきドライバの視線条件を生成することを特徴とする車両制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システムに係り、特に自車両のブレーキ作動状態を制御する車両制御システム、車両制御装置及び車両制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ドライバがブレーキ操作を解除した場合であっても、自車両の停止状態を維持するブレーキホールド機能が広く普及している。ブレーキホールド機能は、運転状況に関わらずドライバのブレーキ操作による減速で自車両が停止した場合にブレーキON状態を維持し、アクセル操作によりブレーキがOFFとなる。
【0003】
また、外界認識装置にて自車両周辺に存在する車両や障害物、死角等を検出すると同時に、ドライバ監視部にてドライバの視線方向を検出し、運転時に注意を払うべき場所をドライバが注視しているかを判断する技術が開発されている。例えば、特許文献1には、自車両が交差点にて右折する状況において、ドライバが対向車両の死角方向に視線を向けていないと判断した場合に、ドライバへ警報する運転支援装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のブレーキホールド機能では、アクセル操作によりブレーキがOFFとなる際に、アクセルの加減によっては自車両が急発進する虞がある。例えば、一時停止義務がある交差点で、且つ、死角等があり見通しの悪い場合においては、停止線にて停止し、その後見通しが効く位置までゆっくりと前進し、再度停止することで安全確認を行う、所謂二段階停止の動作が必要となる。ここでブレーキホールド機能が作動し、ブレーキOFFの際にアクセル操作により自車両が急発進すると、交差車両及び歩行者との衝突事故を引き起こす虞がある。これに対し、自車両周辺或いは自車両内の状況に応じてブレーキホールド機能の有効(ON)と無効(OFF)を適切に切り替えることができれば、安全性を向上できる。
【0006】
特許文献1では、外界認識装置より得られる死角情報と、ドライバ監視手段より得られるドライバ視線情報に基づき、ドライバが死角方向に視線を向け安全確認を実施したか否かを判断する技術が記載されている。しかしながら、この技術は自車両が交差点にて右折する状況において、死角方向への安全確認をドライバが怠った場合に、ドライバへ警報することを目的としており、ブレーキ作動状態の制御については何ら考慮されておらず、更には二段階停止については何ら開示されていない。
【0007】
そこで、本発明は、二段階停止において、自車両が急発進することを防止し、安全性の高い車両制御システム、車両制御装置及び車両制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る車両制御システムは、車両の周辺の情報である外界情報を認識する外界認識部と、前記車両のドライバの視線の向きを検知するドライバ監視部と、前記車両のブレーキが作動した状態を維持するブレーキホールド部と、前記ブレーキホールド部のON又はOFFを制御するブレーキホールド制御部と、前記外界認識部が検知した外界情報に基づき、前記ドライバ監視部で検知すべきドライバの視線条件を生成するドライバ監視条件生成部と、を有し、前記ドライバ監視部が検知した前記ドライバの視線が、前記視線条件を満たす場合、前記ブレーキホールド制御部は前記ブレーキホールド部をOFFにするよう制御することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る車両制御装置は、車両の周辺の情報である外界情報を認識する外界認識部が検知した外界情報に基づき、前記車両のドライバの視線の向きを検知するドライバ監視部で検知すべきドライバの視線条件を生成するドライバ監視条件生成部と、前記車両のブレーキが作動した状態を維持するブレーキホールド部のON又はOFFを制御するブレーキホールド制御部と、を備え、前記ドライバ監視部が検知した前記ドライバの視線が、前記視線条件を満たす場合、前記ブレーキホールド制御部は前記ブレーキホールド部をOFFにするよう制御することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る車両制御方法は、ドライバ監視条件生成部は、車両の周辺の情報である外界情報を認識する外界認識部が検知した外界情報に基づき、前記車両のドライバの視線の向きを検知するドライバ監視部で検知すべきドライバの視線条件を生成し、ブレーキホールド制御部は、前記ドライバ監視部が検知した前記ドライバの視線が、生成されたドライバの視線条件を満たす場合、前記車両のブレーキが作動した状態を維持するブレーキホールド部をOFFにするよう制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、二段階停止において、自車両が急発進することを防止し、安全性の高い車両制御システム、車両制御装置及び車両制御方法を提供することが可能となる。
具体的には、ブレーキホールド機能が搭載された車両であっても、二段階停止が必要な場面において、自車両周辺或いは自車両内の状況に応じてブレーキホールド機能の有効(ON)と無効(OFF)を適切に切り替えることで、ドライバの安全確認動作を確実に判断し、車両が急発進することがない安全な車両制御が実現される。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施例に係る車両制御システムの全体構成例を示す機能ブロック図である。
【
図2】交差点一時停止を例にした実施例1に係る車両制御システムを説明する俯瞰図である。
【
図3】交差点一時停止を例にした実施例1に係る車両制御システムを説明するカメラセンサ画像例である。
【
図5】実施例1に係る車両制御システムを構成する車両制御装置の処理動作を示すフローチャートである。
【
図6】駐車シーンを例にした実施例1に係る車両制御システムを説明する俯瞰図である。
【
図7】交差点右折待ちシーンを例にした実施例1に係る車両制御システムを説明する俯瞰図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0014】
[車両制御システムの構成]
図1は、本発明の一実施例に係る車両制御システムの全体構成例を示す機能ブロック図である。
図1に示すように、車両制御システム1は、車両に搭載され、車両情報取得部110、外界認識部120、ドライバ監視部130、車両制御装置140、及びブレーキホールド部150より構成される。
【0015】
図1に示すように、車両情報取得部110は、自車両の車輪速情報を取得する車輪速センサ、ヨーレート情報を取得するヨーレートセンサ及びブレーキペダル押下情報を取得するブレーキペダルスイッチを備え、これらをまとめた車両運動情報を取得する。
【0016】
外界認識部120は、撮像素子を用いたカメラセンサ、ミリ波或いはレーザ等を用いたレーダセンサ、または衛星測位情報と地図情報を使用して、対象物と自車両との相対位置、相対速度、対象物の種別(例えば、歩行者、バイク或いは自動車等)等の外界情報を算出する。
ドライバ監視部130は、撮像素子を用いたカメラセンサを使用してドライバ視線情報を算出する。
【0017】
車両制御装置140は、CPUやメモリ(ROM、RAM)を備えた一般的なECUに搭載されており、予めメモリ内に格納された各種処理プログラムを実行する。また、車両制御装置140は、外界情報推定部141、二段階停止判断部142、ドライバ監視条件生成部143、及びブレーキホールド制御部144より構成される。ここで、外界情報推定部141、二段階停止判断部142、ドライバ監視条件生成部143、及びブレーキホールド制御部144は、例えば、図示しないCPUなどのプロセッサ、各種プログラムを格納するROM、演算過程のデータを一時的に可能するRAM、外部記憶装置などの記憶装置にて実現されると共に、CPUなどのプロセッサがROMに格納された各種プログラムを読み出し実行し、実行結果である演算結果をRAM又は外部記憶装置に格納する。なお、車両制御装置140は、ECUに搭載される場合に限られず、他の電子制御システムに搭載される構成としても良い。
【0018】
外界情報推定部141は、外界情報を車両制御システム1がロストした場合において、記憶部(図示せず)に格納される過去の外界情報と車両運動情報を入力として現在の外界情報を推定する。
二段階停止判断部142は、外界認識部120による現在の実測された外界情報又は外界情報推定部141により推定された現在の外界情報を入力として、自車両が二段階停止をするか否かを判断し、二段階停止情報を生成する。
ドライバ監視条件生成部143は、外界認識部120による現在の実測された外界情報又は外界情報推定部141により推定された現在の外界情報を入力として、ドライバ視線条件を生成する。なお、ドライバ視線条件の詳細については後述する。
ブレーキホールド制御部144は、車両情報取得部110から得られる車両運動情報、二段階停止判断部142から得られる二段階停止情報、ドライバ監視条件生成部143から得られるドライバ視線条件、ドライバ監視部130から得られるドライバ視線情報及びブレーキホールド部150から得られるブレーキホールド機能状態を入力として、ブレーキホールド機能状態の有効(ON)又は無効(OFF)を制御するブレーキホールド制御信号をブレーキホールド部150へ送信する。
【0019】
ブレーキホールド部150は、車両制御装置140より送信されるブレーキホールド制御信号を入力として、ブレーキホールド機能状態を設定する。ブレーキホールド機能状態が有効(ON)の場合、ブレーキホールド部150は通常通りにブレーキホールド機能を作動させ、ブレーキのON又はOFFを制御する。これに対し、ブレーキホールド機能状態が無効(OFF)の場合、ブレーキホールド部150はブレーキホールド機能の作動を停止する。
【0020】
ここで本実施例を説明するにあたり、代表例として
図2にしめされるような左右両側の見通しの悪い交差点において、自車両SVが一時停止をするシーンを想定する。停止前俯瞰
図210は、一時停止直前の自車両SV周辺の俯瞰図である。自車両SVに設置された外界認識部120が、一時停止標識SS、路面標示SP、停止線SL、第一死角エッジE1及び第二死角エッジE2を検知した場合に、自車両SVと一時停止標識SSとの相対位置、自車両SVと路面標示SPとの相対位置、自車両SVと停止線SLとの相対位置、自車両SVと第一死角エッジE1および第二死角エッジE2との相対位置、第一死角エッジ角度A1及び第二死角エッジ角度A2等からなる外界情報を算出する。第一死角エッジ角度A1及び第二死角エッジ角度A2は、ドライバ両眼間の中心を原点とし進行方向をXとする座標系において、X軸と原点から第一死角エッジE1及び第二死角エッジE2を結ぶそれぞれの線分のなす角度とする。本実施例では、外界認識部120の一例として検知範囲DAを有するカメラセンサを用い、撮像された進行路画像より外界情報を算出する場合を説明する。但し、これに限られるものではない。例えば、レーダセンサによる進行路周辺の障害物点群情報や、衛星測位情報と地図情報を用いて外界情報を算出する構成としても良い。また、外界情報としてドライバが死角を確認するために交差点付近に設置されるカーブミラーCM(
図3参照)の情報を含んでも良い。外界認識部120は、算出した外界情報に対し、同一の情報を時系列に追跡するトラッキング処理を行い、車両制御装置140の記憶部(図示せず)に処理されたトラッキング情報が格納される。
【0021】
停止中俯瞰
図220は、停止線停止中の自車両SV周辺の俯瞰図である。本ケースでは、第二死角エッジE2が外界認識部120を構成するカメラセンサの検知範囲DAから外れ、ロストする。これをカメラセンサの撮像画像で見た例を
図3に示す。停止前カメラセンサ画像310では、第一死角エッジE1及び第二死角エッジE2共に画像内に入っている。一方、停止中カメラセンサ画像320では第二死角エッジE2は画像外となるため、自車両SVと第二死角エッジE2との相対位置及び第二死角エッジ角度A2が算出できない。このような場合、上述のトラッキング情報に基づくロスト直前の第二死角エッジE2と自車両SVとの相対位置、及び、車両情報取得部110から得られる第二死角エッジE2ロスト後の車輪速情報積分値(走行距離)とヨーレート積分値(横ずれ距離)より、外界情報推定部141が、第二死角エッジE2の推定位置を算出する。換言すれば、外界情報推定部141は、外界認識部120による外界情報と車両情報取得部110による車両運動情報に基づき、外界認識部120の検知範囲外の外界情報を推定する。ここで、第二死角エッジE2の推定位置は外界情報と地図情報の重ね合わせによる自己位置推定により求めても良い。なお、上述の検知範囲外の外界情報は、第二死角エッジE2に限られるものではない。例えば、一時停止標識SS、路面標示SP、停止線SL、或いは第一死角エッジE1が外界認識部120を構成するカメラセンサの検知範囲DAから外れロストする場合には、これら、一時停止標識SS、路面標示SP、停止線SL、或いは第一死角エッジE1も検知範囲外の外界情報に相当する。
【0022】
ドライバ監視条件生成部143は、第一死角エッジ角度A1及び第二死角エッジ角度A2を中心に許容角度幅を持たせた死角方向範囲と、ドライバが死角を注視したと判断するための注視時間をドライバ視線条件として生成する。本実施例では第一死角エッジE1及び第二死角エッジE2の直接確認を想定するが、カーブミラーCM(
図3参照)による間接確認を想定し、カーブミラーCM方向の角度をドライバ視線条件に含んでも良い。更に、自車両SVのフロント先端に交差道路を撮像するカメラセンサが設置され、車室内モニタに撮像画像が表示される機能を搭載している場合は、モニタ方向の角度をドライバ視線条件に含んでも良い。また本実施例では、第一死角エッジ角度A1及び第二死角エッジ角度A2のように、対象物までの水平方向角度を主な条件として想定しているが、垂直方向角度も条件に含んでも良い。
ドライバ監視条件生成部143によるドライバ視線条件生成と同時に、ドライバ監視部130は、
図4に示すドライバ視線角度A3を算出する。ドライバ視線角度A3は、ドライバ頭部DHの向きとドライバ眼球DEの角膜位置から算出する。
【0023】
本実施例では、左右両側の見通しの悪い交差点を想定して説明したが、左右どちらか片方のみ見通しが悪い交差点も存在する。その場合、見通しが良い方向は本実施例と同様に死角エッジと死角エッジ角度に基づきドライバ視線条件を生成するが、同時に見通しが良い方向の確認動作もドライバ視線条件に含める。見通しが良い方向は、注視すべき特定の場所が無いため、既定角度範囲(左方向確認範囲/右方向確認範囲)をドライバ視線条件とする。
【0024】
[車両制御装置の処理動作]
図5は、本実施例に係る車両制御システム1構成する車両制御装置140の処理動作を示すフローチャートである。以下に説明する処理は、車両制御装置140内で所定の周期で繰り返し実行される。
まずステップS510では、車両制御システム1構成する外界認識部120より、外界情報を取得し、同一の外界情報を時系列に追跡するトラッキング処理を行い、トラッキング情報を車両制御装置140内の記憶部(図示せず)に格納する。なお、上述では、外界認識部120が、算出した外界情報に対し、同一の情報を時系列に追跡するトラッキング処理を実行する旨説明したが、これに限らずここでは車両制御装置140がトラッキング処理を実行する場合を一例として説明する。
【0025】
ステップS511では、車両情報取得部110より、上述の車両運動情報を取得する。ステップS512では、車両制御装置140を構成する外界情報推定部141が、現在と過去のトラッキング情報を比較し、ロストしている外界情報(上述の検知範囲外の外界情報)があると判断した場合はステップS513に進む。一方、ロストしている外界情報が無いと判断した場合は、ステップS513をスキップしステップS514に進む。
【0026】
ステップS513では、車両制御装置140を構成する外界情報推定部141が、上述したように推定の外界情報を算出する。推定対象の外界情報は、第二死角エッジE2のような死角位置だけでなく、一時停止標識SS、路面標示SPおよび停止線SLも含む。
【0027】
ステップS514では、車両制御装置140を構成するブレーキホールド制御部144が、ブレーキホールド部150より、ブレーキホールド機能状態を取得する。
ステップS515では、車両制御装置140を構成するブレーキホールド制御部144が、取得したブレーキホールド機能状態より、ブレーキホールド機能が有効(ON)か無効(OFF)かを判断する。判断の結果が、ブレーキホールド機能が有効(ON)である場合はステップS516に進む。一方、判断の結果が、ブレーキホールド機能が無効(OFF)である場合は、前周期で既にブレーキホールド部150が無効化(OFF)されており、ステップS522に進む。
【0028】
ステップS516では、車両制御装置140を構成する二段階停止判断部142は、自車両SVが二段階停止をするか否かを判断する。具体的には、一時停止標識SS又は路面標示SPを検知し、且つ、死角等を検知し見通しの悪い交差点である場合に、自車両SVから停止線SLまでの距離が閾値以下となった(停止線に近づいた)とき、自車両SVは二段階停止をすると判断し、ステップS517に進む。二段階停止しないと判断した場合は、以降の処理をスキップし処理フローを終了する。
【0029】
ステップS517では、車両制御装置140を構成するドライバ監視条件生成部143は、上述のようにドライバ視線条件を生成する。
ステップS518では、車両制御装置140を構成するブレーキホールド制御部144は、ドライバ監視部130よりドライバ視線情報を取得する。
【0030】
ステップS519では、車両制御装置140を構成するブレーキホールド制御部144は、ドライバ視線情報がドライバ視線条件を満たすか否かを判断する。具体的には、ドライバ視線角度A3が、ドライバが注視すべき死角方向範囲内を満たした周期の累計カウントが閾値(注視時間)以上となったとき、ドライバ視線情報がドライバ視線条件を満たしたと判断し、ステップS520に進む。なお、上述の閾値(注視時間)は、例えば、1秒或いは2秒である。但し、これに限られず、閾値(注視時間)は適宜設定すれば良い。一方、ドライバ視線情報がドライバ視線条件を満たさいと判断した場合は、以降の処理をスキップし処理フローを終了する。車両制御装置140では、ドライバ視線情報がドライバ視線条件を満たした周期の累計カウントを記憶部(図示せず)に格納する。
【0031】
ステップS520では、車両制御装置140を構成するブレーキホールド制御部144は、車両情報取得部110より取得された車両運動情報に含まれるブレーキペダル押下情報に基づき、現在ドライバにてブレーキペダルが押下中か否かを判断する。ステップS521では、車両制御装置140を構成するブレーキホールド制御部144は、ブレーキホールド機能状態を無効(OFF)とするブレーキホールド制御信号をブレーキホールド部150へ送信する。
【0032】
ステップS522では、車両制御装置140を構成するブレーキホールド制御部144は、自車両SVが交差点を通過したか否かを判断する。具体的には、自車両SVと停止線SPの距離が増加に転じた場合に、交差点を通過したと判断し、ステップS523に進む。一方、判断結果が、自車両SVが交差点を通過していない場合は、処理フローを終了する。ここで、交差点通過判断は、停止線SP以外の外界情報或いは車両運動情報に基づいて実行する構成としても良い。
ステップS523では、車両制御装置140を構成するブレーキホールド制御部144は、ブレーキホールド機能状態を有効(ON)へ復帰させるブレーキホールド制御信号をブレーキホールド部150へ送信する。
【0033】
なお、本発明に係る車両制御システム1はブレーキホールド機能が不要に作動するシーンに適用可能であり、上述の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、
図6に示すような駐車シーンにおける後退や切り返し(前進)時の不要なブレーキホールド機能の作動に対して適用することができる。駐車前俯瞰
図610において、外界認識部120より取得される外界情報に基づき、車両制御システム1を構成する車両制御装置140が、駐車スペース左右の駐車車両PVの情報を記憶部(図示せず)に格納する。続いて、後退時俯瞰
図620において、駐車車両情報に基づき、ドライバが駐車車両のある側のサイドミラー方向を注視していると車両制御システム1が判断した場合にブレーキホールド機能を無効(OFF)とする。切り返し(前進)時にも、駐車車両情報に基づき、ドライバが駐車車両のある側の死角方向を注視していると車両制御システム1が判断した場合にブレーキホールド機能を無効(OFF)とする。
【0034】
また、
図7に示すような交差点右折待ちシーンにおける不要なブレーキホールド機能の作動に対して本発明に係る車両制御システム1を適用することができる。右折待ち俯瞰
図710において、対向右折待ち車両OVにより対向直進車両の有無が確認できず、右折待ち前進俯瞰
図810のように、少し前進して安全確認を行いたい場合を想定する。外界認識部120より取得される外界情報に基づき対向右折待ち車両OVの死角エッジE3を検知し、その方向をドライバが注視していると車両制御システム1が判断した場合にブレーキホールド機能を無効(OFF)とする。ここで、ドライバ頭部DH(
図4参照)が死角方向に傾く動作や、ドライバが身を乗り出す動作を検知し、利用しても良い。
【0035】
以上の通り本実施例によれば、二段階停止において、自車両が急発進することを防止し、安全性の高い車両制御システム、車両制御装置及び車両制御方法を提供することが可能となる。
具体的には、ブレーキホールド機能が搭載された車両であっても、二段階停止が必要な場面において、自車両周辺或いは自車両内の状況に応じてブレーキホールド機能の有効(ON)と無効(OFF)を適切に切り替えることで、ドライバの安全確認動作を確実に判断し、車両が急発進することがない安全な車両制御が実現される。
また、本実施例によれば、一時停止義務がある交差点で、且つ、左右両方又は一方に死角があり見通しの悪い場合における二段階停止の実施において、外界情報及びドライバ視線情報等に応じてブレーキホールド機能の有効(ON)と無効(OFF)を適切に切り替えることで、自車両が急発進することがなく、安全性の高い車両制御を実現できる。
【0036】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0037】
1…車両制御システム、110…車両情報取得部、120…外界認識部、130…ドライバ監視部、140…車両制御装置、141…外界情報推定部、142…二段階停止判断部、143…ドライバ監視条件生成部、144…ブレーキホールド制御部、150…ブレーキホールド部