(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】アデノシンデアミナーゼ、並びに関連する生体材料及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 9/14 20060101AFI20241218BHJP
C07K 14/245 20060101ALI20241218BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20241218BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20241218BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241218BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241218BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241218BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241218BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241218BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20241218BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20241218BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20241218BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C12N9/14
C07K14/245
C12N15/55 ZNA
C12N15/31
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A01H5/00 A
C07K19/00
C12N15/62 Z
C12N15/09 110
(21)【出願番号】P 2023530524
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 CN2021098034
(87)【国際公開番号】W WO2022105190
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】202011308944.7
(32)【優先日】2020-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】523183530
【氏名又は名称】中国農業科学院植物保護研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】周煥斌
(72)【発明者】
【氏名】厳芳
(72)【発明者】
【氏名】任斌
(72)【発明者】
【氏名】▲いえん▼大▲ちぃ▼
(72)【発明者】
【氏名】柳浪
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/219990(WO,A1)
【文献】Nat. Biotechnol.,2020年07月,Vol. 38,p. 883-891
【文献】Science,2020年07月,Vol. 369,p. 566-571
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
C12N 9/00 - 9/99
C07K 14/00 - 14/825
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質のアミノ酸配列が配列表の配列番号2の1~167位であることを特徴とするタンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質に関する生
物材料であって、以下のB1)~B7)の少なくとも1つであることを特徴とする生
物材料:
B1)前記タンパク質をコードする核酸分子;
B2)B1)における前記核酸分子を含む発現カセット;
B3)B1)における核酸分子を含む組換えベクター、またはB2)における発現カセットを含む組換えベクター;
B4)B1)における核酸分子を含む組換え微生物、B2)における発現カセットを含む組換え微生物、又はB3)における組換えベクターを含む組換え微生物;
B5)B1)における核酸分子を含むトランスジェニック植物細胞系、B2)における発現カセットを含むトランスジェニック植物細胞系、またはB3)における組換えベクターを含むトランスジェニック植物細胞系;
B6)B1)における核酸分子を含むトランスジェニック植物組織、B2)における発現カセットを含むトランスジェニック植物組織、またはB3)における組換えベクターを含むトランスジェニック植物組織;
B7)B1)における核酸分子を含むトランスジェニック植物器官、B2)における発現カセットを含むトランスジェニック植物器官、またはB3)における組換えベクターを含むトランスジェニック植物器官。
【請求項3】
B1)における核酸分子は、以下のB11)又はB12)に示す遺伝子であることを特徴とする、請求項2に記載の生物材料:
B11)コーディング鎖のコード配列が配列番号1の7~507位で示されるcDNA分子またはDNA分子;
B12)B11)で規定されるヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有し、前記タンパク質をコードするcDNA分子又はDNA分子。
【請求項4】
Casタンパク質とアデノシンデアミナーゼを含むタンパク質であって、
前記アデノシンデアミナーゼが、請求項1に記載のタンパク質であることを特徴とする、融合タンパク質。
【請求項5】
前記Casタンパク質は、ScCas9(D10A)、SpRY(D10A)、SpCas9(D10A)またはSpCas9-NG(D10A)であることを特徴とする、請求項4に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
前記融合タンパク質は、前記アデノシンデアミナーゼと、前記Casタンパク質と、核局在化シグナルとが連結されたタンパク質であることを特徴とする、請求項4または5に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
前記融合タンパク質は、TadA9-ScCas9(D10A)、TadA9-SpRY(D10A)、TadA9-SpCas9(D10A)またはTadA9-SpCas9-NG(D10A)であり、
前記TadA9-SpCas9(D10A)はアミノ酸配列が配列番号2であるタンパク質、前記TadA9-SpCas9-NG(D10A)はアミノ酸配列が配列番号4であるタンパク質、前記TadA9-ScCas9(D10A)はアミノ酸配列が配列番号6であるタンパク質、前記TadA9-S
pRY(D10A)はアミノ酸配列が配列番号8であるタンパク質であることを特徴とする、請求項6に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか1項に記載の融合タンパク質に関する生
物材料であって、以下のD1)~D7)の少なくとも1つである生
物材料:
D1)前記融合タンパク質をコードする核酸分子;
D2)D1)における前記核酸分子を含む発現カセット;
D3)D1)における核酸分子を含む組換えベクター、またはD2)における発現カセットを含む組換えベクター;
D4)D1)における核酸分子を含む組換え微生物、D2)における発現カセットを含む組換え微生物、またはD3)における組換えベクターを含む組換え微生物;
D5)D1)における核酸分子を含むトランスジェニック植物細胞系、D2)における発現カセットを含むトランスジェニック植物細胞系、またはD3)における組換えベクターを含むトランスジェニック植物細胞系;
D6)D1)における核酸分子を含むトランスジェニック植物組織、D2)における発現カセットを含むトランスジェニック植物組織、またはD3)における組換えベクターを含むトランスジェニック植物組織;
D7)D1)における核酸分子を含むトランスジェニック植物器官、D2)における発現カセットを含むトランスジェニック植物器官、またはD3)における組換えベクターを含むトランスジェニック植物器官。
【請求項9】
D1)におけるDNA分子は、請求項
7に記載のTadA9-ScCas9(D10A)をコードする遺伝子、TadA9-SpRY(D10A)をコードする遺伝子、TadA9-SpCas9(D10A)をコードする遺伝子、またはTadA9-SpCas9-NG(D10A)をコードする遺伝子であり;
前記TadA9-SpCas9(D10A)をコードする遺伝子は、
D131)コーディング鎖のコード配列が配列番号1の7~4737位で示されるcDNA分子又はDNA分子;または、
D132)D131)で規定されるヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有し、前記TadA9-SpCas9(D10A)をコードするcDNA分子又はDNA分子;のいずれかであり、
前記TadA9-SpCas9-NG(D10A)をコードする遺伝子は、
D141)コーディング鎖の配列が配列番号3
の7~4737
位で示されるcDNA分子またはDNA分子;または、
D142)D141)で定義される塩基配列と80%以上の同一性を有し、前記TadA9-SpCas9(D10A)をコードするcDNA分子又はDNA分子;のいずれかであり、
前記TadA9-ScCas9(D10A)をコードする遺伝子は、
D111)コーディング鎖のコード配列が配列番号5の7~4758位で示されるcDNA分子又はDNA分子;または、
D112)D111)で規定されるヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有し、前記TadA9-ScCas9(D10A)をコードするcDNA分子又はDNA分子;のいずれかであり、
前記TadA9-SpRY(D10A)をコードする遺伝子は、
D121)コーディング鎖のコード配列が配列番号7の7~4737位で示されるcDNA分子またはDNA分子;または、
D122)D121)で規定されるヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有し、前記TadA9-SpRY(D10A)をコードするcDNA分子又はDNA分子;のいずれかであることを特徴とする、請求項8に記載の生
物材料。
【請求項10】
請求項1に記載のタンパク質、請求項2または3に記載の生
物材料、請求項4から7のいずれか1項に記載の融合タンパク質、または請求項8または9に記載の生
物材料の、植物における一塩基編集への使用。
【請求項11】
前記植物の一塩基編集は、植物ゲノムについてAからGへの標的変異であることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アデノシンデアミナーゼ、それに関連する生体材料及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム編集技術は、人工のヌクレアーゼを用いて生物のゲノムの特定部位を改変する遺伝子工学技術である。このプロセスは、特定のヌクレアーゼによる標的部位の切断によってDNA二本鎖切断を生じさせ、その後、非相同末端結合(Non-homologous end-joining, NHEJ)修復または相同組換え修復(Homology-directed repair, HDR)で塩基の欠失、挿入、ミスマッチの現象を導入し、生物の突然変異の目的を達成する。近年では、ZFN、TALEN、CRISPRをメインとしての人工ヌクレアーゼ技術の開発に成功した。特に、CRISPR/Cas技術は、その操作性の良さ、効率の良さ、汎用性の高さから、研究者の注目を集めている。
【0003】
一塩基多型(Single-nucleotide polymorphism, SNP)は作物の農耕形質の遺伝的基盤であり、植物の重要な農耕形質の多くは一塩基の遺伝子座によって決定される。現在、SNPは次々と発見され、植物の表現型形質のスクリーニングに使用されている。CRISPR/Cas技術の発展に伴い、これをベースにゲノム上に一塩基の変化を引き起こす一塩基編集技術(シトシン塩基編集システムやアデニン塩基編集システムを含む)が、植物の標的塩基置換を誘導するために利用されている。塩基編集技術は、効率的であること、DNAの二本鎖切断に依存しないこと、ドナーDNAの存在を必要としないことから、その開発以来、動植物を含む幅広い生物への応用が成功した。植物の塩基編集システムへの適用に成功したシチジンデアミナーゼには、APOBEC1、APOBEC3、AIDなどが含まれ、アデノシンデアミナーゼにはTadA7.10が含まれる。
【0004】
アデノシンデアミナーゼに基づくアデニン塩基編集技術は、主に切除酵素Cas9n(D10A)とアデノシンデアミナーゼとを組み合わせた融合タンパク質を用い、sgRNAの誘導下で塩基編集活性ウィンドウ内にある標的塩基Aを脱アミンしてヒポキサンチンIとし、DNA修復と複製後に徐々にGに置換させ、最終的にAからGへの方向性置換を形成する(A>G)。しかし、現在の植物のアデニン塩基編集技術では、主にアデノシンデアミナーゼTadA7.10(Yan, et al. Molecular Plant, 2018, 11:631-634)およびTadA8e(Li,et al.Molecular Plant, 2021, 14: 352-360)を使用しているが、一般的に編集効率が低く、様々なCasタンパク質との適合性が低く、さらには、塩基編集活性ウィンドウ内に存在する標的部位が依然として効果的な塩基編集イベントを達成できない。
【発明の概要】
【0005】
本発明が解決しようとする技術的課題は、植物におけるアデニン塩基編集の効率をどのように向上させるか、及び/又は、現在の技術では達成できないものの、期待されるアデニン塩基編集をどのように実現させるかということにある。
【0006】
上記技術的課題を解決するために、本発明は、アデノシンデアミナーゼを提供する。
【0007】
本発明が提供するアデノシンデアミナーゼは、TadA9と名付けられ、大腸菌のtRNAアデノシンデアミナーゼTadAの変異体であるTadA7.10を人工変異させて得られる高活性アデノシンデアミナーゼである非天然タンパク質である。アデノシンデアミナーゼは、配列表の配列番号2(SEQ ID No.2)の1~167位(すなわち、配列表の配列番号1の7~507位のヌクレオチド(CDS)によりコードされるタンパク質)のアミノ酸配列を有するタンパク質である。また、上記技術的課題を解決するために、本発明は、前記TadA9に関連する生物材料を提供する。
【0008】
本発明により提供される前記TadA9に関連する生体材料は、以下のB1)~B7)のうち少なくとも1つである:
B1)前記タンパク質をコードする核酸分子;
B2)B1)の前記核酸分子を含む発現カセット;
B3)B1)に記載の核酸分子を含む組換えベクター、またはB2)に記載の発現カセットを含む組換えベクターを含む組換えベクター;
B4)B1)に記載の核酸分子を含む組換え微生物、B2)に記載の発現カセットを含む組換え微生物、またはB3)に記載の組換えベクターを含む組換え微生物;
B5)B1)に記載の核酸分子を含むトランスジェニック植物細胞株、B2)に記載の発現カセットを含むトランスジェニック植物細胞株、またはB3)に記載の組換えベクターを含むトランスジェニック植物細胞株;
B6)B1)に記載の核酸分子を含むトランスジェニック植物組織、B2)に記載の発現カセットを含むトランスジェニック植物組織、またはB3)に記載の組換えベクターを含むトランスジェニック植物組織;
B7)B1)に記載の核酸分子を含むトランスジェニック植物体、B2)に記載の発現カセットを含むトランスジェニック植物体、またはB3)に記載の組換えベクターを含むトランスジェニック植物体。
【0009】
上記生体材料において、B1)に記載の核酸分子は、以下のB11)またはB12)に示す遺伝子であり得る。
B11)コーディング鎖のコード配列(CDS)が、配列番号1の7~507位に示されるcDNA分子又はDNA分子である;
B12)は、B11)で規定されるヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有し、前記タンパク質をコードするcDNA分子またはDNA分子。
【0010】
本発明は、アデニン塩基エディターも提供する。
【0011】
本発明が提供するアデニン塩基エディタでは、前記融合タンパク質は、Casタンパク質とアデノシンデアミナーゼを含む融合タンパク質であり、前記アデノシンデアミナーゼは前記TadA9である。
【0012】
前記アデニン塩基エディタにおいて、前記Casタンパク質は、SpCas9(D10A)、SpCas9-NG(D10A)、ScCas9(D10A)またはSpRY(D10A)であってもよい。
【0013】
上記アデニン塩基エディターにおいて、前記SpCas9(D10A)は、アミノ酸配列が配列番号2の200位~1567位であるタンパク質(すなわち、配列表の配列番号1の604位~4707位のヌクレオチド(CDS)にコードされるタンパク質)、SpCas9-NG(D10A)は、アミノ酸配列が配列番号4の200位~1567位であるタンパク質(すなわち、配列表の配列番号3の604-4707位のヌクレオチド(CDS)にコードされるタンパク質)、ScCas9(D10A)はアミノ酸配列が配列番号6の200-1574位であるタンパク質(配列表の配列番号5の604-4728位のヌクレオチド(CDS)にコードされるタンパク質)、そしてSpRY(D10A)はアミノ酸配列が配列番号8の200-1567位であるタンパク質(配列表の配列番号5の604-4728位のヌクレオチド(CDS)にコードされるタンパク質)である。SpRY(D10A)はアミノ酸配列が配列番号8の200-1567位であるタンパク質(すなわち、配列表の配列番号7のヌクレオチド604-4707(CDS)によりコードされるタンパク質)である。
【0014】
上記アデニン塩基エディターにおいて、前記アデニン塩基エディターは、アデノシンデアミナーゼと、Casタンパク質と、核局在化シグナル(nuclear localization signal, NLS)連結体とを連結して形成されるタンパク質であってもよい。
【0015】
上記アデニン塩基エディターにおいて、前記アデニン塩基エディターは、具体的には、TadA9-SpCas9(D10A)、TadA9-SpCas9-NG(D10A)、TadA9-ScCas9(D10A)またはTadA9-SpRY(D10A)であってもよく、前記TadA9-SpCas9(D10A)はそのアミノ酸配列が配列番号2であるタンパク質(すなわち、配列表の配列番号1の7~4737位のヌクレオチド(CDS)によってコードされるタンパク質)、前記TadA9-SpCas9-NG(D10A)はアミノ酸配列が配列番号4であるタンパク質(すなわち、配列表の配列番号3の7~4737位のヌクレオチド(CDS)によってコードされるタンパク質)、前記TadA9-SCas9(D10A)は、アミノ酸配列が配列番号6であるタンパク質(すなわち、配列表の配列番号5の7~4758位のヌクレオチド(CDS)によってコードされるタンパク質)であり、前記TadA9-SpRY(D10A)は、アミノ酸配列が配列番号8であるタンパク質(すなわち、配列表の配列番号7の7~4737位のヌクレオチド(CDS)によってコードされるタンパク質)である。
【0016】
前記アデニン塩基エディターに関連する生体材料も、本発明の保護範囲に入る。
【0017】
前記アデニン塩基エディターに関連する生体材料は、特に、以下のD1)~D7)のうちの少なくとも1つであり得る:
D1)前記アデニン塩基エディターをコードする核酸分子;
D2)D1)の前記核酸分子を含む発現カセット;
D3)D1)に記載の核酸分子を含む組換えベクター、またはD2)に記載の発現カセットを含む組換えベクター;
D4)D1)に記載の核酸分子を含む組換え微生物、D2)に記載の発現カセットを含む組換え微生物、またはD3)に記載の組換えベクターを含む組換え微生物;
D5)D1)に記載の核酸分子を含むトランスジェニック植物細胞系、D2)で規定される発現カセットを含むトランスジェニック植物細胞系、またはD3)で規定される組換えベクターを含むトランスジェニック植物細胞系;
D6)D1)に記載の核酸分子を含むトランスジェニック植物組織、D2)に記載の発現カセットを含むトランスジェニック植物組織、またはD3)に記載の組換えベクターを含むトランスジェニック植物組織;
D7)D1)に記載の核酸分子を含むトランスジェニック植物器官、D2)に記載の発現カセットを含むトランスジェニック植物器官、またはD3)に記載の組換えベクターを含むトランスジェニック植物器官。
【0018】
(a)上記アデニン塩基編集者に関連する生物材料のうち、
D1)の前記核酸分子は、TadA9-SpCas9(D10A)をコードする遺伝子、TadA9-SpCas9-NG(D10A)をコードする遺伝子、TadA9-SaCAs9(D10A)をコードする遺伝子又はTadA9-SpRY(D10A)をコードする遺伝子のいずれかであってもよい。
【0019】
前記TadA9-SpCas9(D10A)をコードする遺伝子は、以下に示す遺伝子のいずれかであってもよい:
(D131)コーディング鎖のコード配列(CDS)が配列番号1の7~4737位に示されるcDNA分子またはDNA分子;
D132)D131)で規定される塩基配列と80%以上の同一性を有し、前記TadA9-SpCas9(D10A)をコードするcDNA分子又はDNA分子。
【0020】
前記TadA9-SpCas9-NG(D10A)をコードする遺伝子は、以下に示す遺伝子のいずれかであってもよい:
D141)コーディング鎖のコーディング配列(CDS)が配列番号3の7~4737で示されるcDNA分子またはDNA分子;
D142)D141)で規定されるヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有し、前記TadA9-SpCas9(D10A)をコードするcDNA分子又はDNA分子。
前記TadA9-ScCas9(D10A)をコードする遺伝子は、以下に示す遺伝子のいずれかであってもよい:
(D111)コーディング鎖のコード配列(CDS)が配列番号5の7~4758位に示されるcDNA分子又はDNA分子;
D112)D111)で規定されるヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有し、前記TadA9-ScCas9をコードするcDNA分子又はDNA分子(D10A)。
前記TadA9-SpRY(D10A)をコードする遺伝子は、以下のように示される遺伝子のいずれかであってもよい:
D121)コーディング鎖のコード配列(CDS)が、配列番号7の7~4737位に示されるcDNA分子またはDNA分子;
D122)D121)で規定されるヌクレオチド配列と80%以上の同一性を有し、前記TadA9-SpRY(D10A)をコードするcDNA分子又はDNA分子。
【0021】
上記において、前記発現カセットとは、宿主細胞(例えば、植物細胞など)において前記タンパク質を発現可能なDNAを意味し、DNAには、前記タンパク質遺伝子の転写を開始させるプロモーターだけではなく、前記タンパク質遺伝子の転写を終了させるターミネーターを含んでいてもよい。さらに、前記発現カセットは、エンハンサー配列を含んでいてもよい。本発明で使用できるプロモーターとしては、構成的プロモーター、組織、器官および発育に特異的なプロモーター、および誘導性プロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。プロモーターの例としては、トウモロコシ由来のユビキチンプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス由来の構成的プロモーター35S、トマト由来の外傷誘導性プロモーター、ロイシンアミノペプチダーゼ(「LAP」、Chao et al. (1999)Plant Physiology 120:979-992);タバコ由来の化学的に誘導可能なプロモーター、病歴依存タンパク質1(PR1)(サリチル酸およびBTH(ベンゾチアジアゾール-7-チオヒドロキサム酸S-メチル)により誘導されたもの);トマトプロテアーゼ阻害剤IIプロモーター(PIN2)またはLAPプロモーター(両方ともメチルジャスモン酸により誘導可能);熱ショックプロモーター(米国特許5,187,267);テトラサイクリン誘導可能プロモーター(米国特許5,057,422);穀物種子特異的プロモーターpF128(CN101063139B(中国特許2007 1 0099169.7))などのような種子特異的プロモーター、種子貯蔵タンパク質に特異的プロモーター(例えば、ファゼオリン、ナピン、オレオシンおよび大豆ベータコングリシンのプロモーター(Beachy et al.1985)emboJ.4:3047-3053))が挙げられる。これらは単独で、または他の植物プロモーターと組み合わせて使用することができる。なお、本明細書において引用された文献は、すべて全文引用するものとする。好適な転写ターミネーターとしては、農桿菌・ノパリンシンターゼターミネーター(NOSターミネーター)、カリフラワーモザイクウイルスCaMV 35Sターミネーター、tmlターミネーター、エンドウrbcS E9ターミネーター、およびノパリン・オクトパミンシンターゼターミネーター(例えば、odell等(I985) Nature 313:810;Rosenberg etc. ら(1987)Gene,56:125;Guerineauら(1991)Mol. Gen.Genet,262:141;Proudfoot(1991)Cell,64:671;Sanfaconら.Cell,2:1261;Munroeら(1990)Gene,91:151;Balladら(1989)Nucleic Acids Res.17:7891;Joshiら(1987)Nucleic Acid Res.15:9627)を含むが、これらに限らない。
【0022】
本発明の一実施形態において、前記発現カセットは、Ubipプロモーター(ヌクレオチド配列は配列番号9)、前記アデニン塩基エディターをコードする核酸分子およびNOSターミネーター(ヌクレオチド配列は配列番号10)を連結して構成されているものである。
【0023】
ここで、「同一性」という用語は、核酸配列間の配列類似性を意味する。同一性は、肉眼またはコンピューターソフトウェアによって評価することができる。コンピューターソフトウェアを用いると、2つ以上の配列間の同一性は、当該配列間の同一性を評価するために使用できるパーセント(%)で表すことができる。なお、前記80%以上の同一性は、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%以上の同一性でもよい。
【0024】
上記において、前記組換え微生物は、具体的には、細菌、酵母、藻類、真菌類であってもよい。
【0025】
また、以下のいずれの用途も、本発明の保護範囲に含まれる:
1)植物の一塩基編集におけるTadA9の使用。
2)植物の一塩基編集のためのTadA9関連生物材料の使用。
3)植物の一塩基編集における上記アデニン塩基エディターの使用。
4)植物の一塩基編集における上記アデニン塩基エディターに関連する生物材料の使用。
【0026】
上記技術的課題を解決するために、本発明は、植物ゲノムについてAをGに標的変異させる方法を提供する。
【0027】
本発明が提供する、植物ゲノムについてAをGに標的変異させる方法は、前記アデニン塩基エディターおよびsgRNAを発現するDNA分子をレシピエント植物に導入して、AがGに標的変異した目的植物を得るステップを含み、前記sgRNAの標的配列は5’-N19-20PAM-3’であり、前記N19-20は19-20個のNであり、前記PAM(protospacer adjacent motif)は3個のNであり、前記NはA、G、CまたはTである。
【0028】
前記アデニン塩基エディターおよびsgRNAを発現するDNA分子をレシピエント植物に導入する際に、PEG媒介変換の方法を用いてもよいし、遺伝子銃器法又は農桿菌侵染法のうちの1つを用いて前記塩基編集ツールボックスをイネ原形質体又はカルス織に導入する方法を用いることもできる。これは当業者には容易に理解できる。イネゲノムDNAが2本の鎖からなることは当業者によく知られているので、前記標的ヌクレオチド配列はその相補的な任意の鎖上に位置することができる。このシステムは、例えば、前記標的ヌクレオチド配列が機能性遺伝子のセンス鎖に位置し、且つ、機能性遺伝子の特定遺伝子座のAをGへ標的変異させた後、その突然変異のうちの1つにより、所望のアミノ酸を含む対応する機能タンパク質を得ことが可能な場合、すなわち、センス鎖上の塩基置換を直接行うことによって三重体コドン中のAをGに置換することが可能な場合には、イネ遺伝子の機能に関する「補正」変異体を得るためにこのシステムを利用することができる。或いは、標的ヌクレオチド配列が機能性遺伝子のアンチセンス鎖に位置し、且つ、機能性遺伝子の特定部位におけるTをCへの変異の標的とし、変異のうちの1つにより、所望のアミノ酸を含む対応する機能性タンパク質が得られる場合でも、このシステムを使用することができる。すなわち、このシステムによれば、アンチセンス鎖の、AからGへの標的変異により、センス鎖上の前記三重項コドンがコードするアミノ酸を、センス鎖の対応する相補的なTをCに置換して変更することができ、これによりイネ遺伝子の機能に関する「補正」変異体を得る。
【0029】
上記では、植物は双子葉植物または単子葉植物であってもよい。単子葉植物は水稲であってもよい。一塩基編集は、アデニンAをグアニンGに置き換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図2】pENTR4:sgRNAのスペクトルである。
【
図3】pUbi-rBE-sgRNAのスペクトルである。
【
図4】rBE14、rBE46b及びrBE49bが媒介するイネ内因性遺伝子Ostms9のアデニン塩基編集の突然変異の効果図である。図中、refはイネの参照ゲノムの対応する配列を示し、ヌクレオチド配列は配列14である。WTはベース編集を行っていないイネジャポニカ品種Kitaakeの対応する配列を示し、ヌクレオチド配列は配列14である。T>Cは突然変異体株の対応する配列を示し、ヌクレオチド配列は配列15である。
【
図5】rBE14、rBE46b及びrBE49bが媒介するイネ内因性遺伝子OsWRKY45のアデニン塩基編集突然変異の効果図である。図中、refはイネの参照ゲノムの対応する配列を示し、ヌクレオチド配列は配列16である。WTは塩基編集を行っていないイネジャポニカ品種Kitaakeの対応する配列を示し、ヌクレオチド配列は配列16である。A>Gは変異株の対応する配列を表し、ヌクレオチド配列は配列17である。
【
図6】rBE23、rBE50及びrBE53が媒介するイネ内因性遺伝子OsDEP2のアデニン塩基の編集突然変異の効果図である。図中、refはイネの参照ゲノムの対応する配列を示し、ヌクレオチド配列は配列18である。WTは塩基編集を行っていないイネジャポニカ品種Kitaakeの対応する配列を示し、ヌクレオチド配列は配列18である。2A>2Gは変異株の対応する配列を表し、ヌクレオチド配列は配列19である。
【
図7】rBE23、rBE50及びrBE53が媒介するイネ内因性遺伝子OsWRKY45のアデニン塩基の編集突然変異の効果図である。図中、refはイネの参照ゲノムの対応する配列を示し、ヌクレオチド配列は配列20である。WTは塩基編集が行われていないイネジャポニカ品種Kitaakeの対応する配列を示し、ヌクレオチド配列は配列20である。T>Cは変異株の対応する配列を表し、ヌクレオチド配列は配列21である。
【
図8】rBE26、rBE54及びrBE57が媒介するイネ内因性遺伝子OsGS1のアデニン塩基編集の突然変異の効果図である。図中、refはイネの参照ゲノムの対応する配列を示し、ヌクレオチド配列は配列22である。WTは塩基編集が行われていないイネジャポニカ品種Kitaakeの対応する配列を示し、ヌクレオチド配列は配列22である。3A>3Gは突然変異株の対応する配列を表し、ヌクレオチド配列は配列23である。4A>4Gは変異株の対応する配列を表し、ヌクレオチド配列は配列24である。
【
図9】rBE54とrBE57が媒介するイネ内因性遺伝子OsSERK2のアデニン塩基編集の突然変異効果図である。図中、refはイネの参照ゲノムの対応する配列を示し、ヌクレオチド配列は配列25である。WTは塩基編集を行っていないイネジャポニカ品種Kitaakeの対応する配列を示し、ヌクレオチド配列は配列25である。2T>2Cは変異株の対応する配列を表し、ヌクレオチド配列は配列26である。
【
図10】rBE62とrBE65が媒介するイネ内因性遺伝子OsMPK13のアデニン塩基編集の突然変異の効果図である。図中、refはイネの参照ゲノムの対応する配列を示し、ヌクレオチド配列は配列27である。WTは塩基編集を行っていないイネジャポニカ品種Kitaakeの対応する配列を示し、ヌクレオチド配列は配列27である。A>Gは変異株の対応する配列を表し、ヌクレオチド配列は配列28である。2A>2Gは変異株の対応する配列を表し、ヌクレオチド配列は配列29である。
【
図11】rBE62とrBE65が媒介するイネ内因性遺伝子OsGSK 4のアデニン塩基編集の突然変異効果図である。図中、refはイネの参照ゲノムの対応する配列を示し、ヌクレオチド配列は配列30である。WTは塩基編集が行われていないイネジャポニカ品種Kitaakeの対応する配列を示し、ヌクレオチド配列は配列30である。T>Cは変異株の対応する配列を表し、ヌクレオチド配列は配列31である。2T>2Cは変異株の対応する配列を表し、ヌクレオチド配列は配列32である。4T>4Cは変異株の対応する配列を表し、ヌクレオチド配列は配列33である。
【
図12】rBE62とrBE65が媒介するイネ内因性遺伝子OsJAR 1のアデニン塩基編集の突然変異効果図である。図中、refはイネの参照ゲノムの対応する配列を示し、ヌクレオチド配列は配列34である。WTは塩基編集を行っていないイネジャポニカ品種Kitaakeの対応する配列を示し、ヌクレオチド配列は配列34である。2T>2Cは変異株の対応する配列を表し、ヌクレオチド配列は配列35である、3T>3Cは変異株の対応する配列を表し、ヌクレオチド配列は配列36である。
【
図13】各標的遺伝子の標的ヌクレオチド配列情報である。図中、二本鎖DNA断片合成に必要なオリゴヌクレオチド鎖中の大文字はattB1-sgRNA発現カセット-attB2のN
19に対応し、小文字のgtgtはBsaI位に対応し、小文字のtgttはBtgZI位に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、具体的な実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。提供される実施例は、本発明の範囲を限定するのではなく、本発明を説明するためにのみ提供される。以下に提供される実施例は、本発明の限定を構成するものではなく、当業者による更なる改善のための指針とすることができる。
【0032】
以下の実施例における実験方法は、特に断らない場合、通常に用いられる方法であり、当該技術分野の文献に記載されている技術または条件に従って、または製品仕様書に従って実施される。以下の実施例で使用される材料、試薬等は、特に指定がない場合、市販されている。
【0033】
以下の実施例におけるpUbi-Cas 9は発明者が所属する実験室によって保存され提供される(H.Zhou、B.Liu、D.P.Weeks、M.H.Spalding&B.Yang.Large chromosoma deletions and heritable small genetic changes induced by CRISPR/Cas 9 in rice.Nucleic Acids Res.2014、42(17):10903-10914)。生体材料は、発明者の研究室から一般に入手可能であり、本発明に関連する実験を繰り返すためにのみ使用され、それ以外の目的には使用されないものとする。
【0034】
実施例1 イネゲノムにおけるAからGへの標的型変異
本実施例は、アデノシンデアミナーゼTadA7.10(以下、TadA7.10と略称)の人工変異体、すなわちアデノシンデアミナーゼTadA9(以下、TadA9と略称)を提供した。TadA7.10は配列番号12の塩基番号598~1095でコードされるタンパク質である。TadA9は、アミノ酸配列が配列表2の1~167位であり、TadA7.10と比較して、アミノ酸配列に以下の変異を有する:
V81S/A108S/T110R/D118N/H121N/Y146D/F148Y/Q153R/T165I/D166N.
【0035】
本実施例において、TadA9コントロールとして、wtTadA-TadA7.10(配列番号12のヌクレオチド1~1095でコードされるタンパク質)およびTadA-R(配列番号13のヌクレオチド1~501でコードされるタンパク質)の二つのアデニン塩基編集のためのコントロールアデノシンデアミナーゼを提供する。wtTadA-TadA 7.10は、植物に一般的に使用されている既存のアデノシンデアミナーゼ二量体である。TadA-RはTadA 9と比較して、アミノ酸配列の変異がV 81 SとQ 153 Rの2つ少なく、TadA 7.10と比較して、アミノ酸配列上に以下の突然変異が存在する:
A 108 S/T 110 R/D 118 N/H 121 N/Y 146 D/F 148 Y/T 165 I/D 166 N。
【0036】
本実施例は、TadA 9を含む4種類のイネアデニン塩基エディター発現ベクターpUbi-rBE(
図1)を提供する。各イネアデニン塩基エディター発現ベクターの名称はそれぞれpUbi-rBE 49 b、pUbi-rBE 53、pUbi-rBE 57、およびpUbi-rBE 65である。pUbi-rBE 49 bが発現するアデニン塩基エディターは、rBE 49 bという名称の融合タンパク質(TadA 9-SpCas 9(D 10 A)とも呼ばれる)であり、TadA 9という名称のアデノシンデアミナーゼ、SpCas 9(D 10 A)という名称のCasタンパク質及びNLSという名称の核局在化シグナルを結合してなるタンパク質である。rBE 49 bのアミノ酸配列は配列2である。配列2において、1~167位はTadA 9のアミノ酸配列、168~199位は結合ペプチドのアミノ酸配列、200~1567位はSpCas 9(D 10 A)のアミノ酸配列、1568~1576位はNLSのアミノ酸配列である。イネコドン使用の選好性と、異種タンパク質発現コドンの最適化戦略とに基づいてキメラ遺伝子であるrBE 49 b遺伝子のヌクレオチド配列をコドン最適化したうえで、バイオテクノロジー(上海)株式会社に4743 bpのrBE 49 b遺伝子の人工合成を依頼した。pUbi-Cas 9のBamHI認識部位とBcuI認識部位の間の小断片(Cas 9)を、配列1の7-4737位に示すrBE 49 b遺伝子に置き換え、pUbi-Cas 9の他のヌクレオチドを維持し、rBE 49 b遺伝子発現ベクターpUbi-rBE 49 bを得た。配列1では、1~6位はBamHI認識部位、7~507位はTadA 9のCDS、508~603位はペプチドを結合するCDS、604~4707位はSpCas 9(D 10 A)のCDS、4708~4734位はNLSのCDS、4735~4737位は終端コドンTGA、4738~4743位はBcuInoの認識部位であった。pUbi-rBE 49 bにはLR反応のための素子attR 1-ccdB-attR 2が含まれていた。
【0037】
pUbi-rBE 53が発現するアデニン塩基エディターは、rBE 53という名称の融合タンパク質(TadA 9-SpCas 9-NG(D 10 A)とも呼ばれる)であり、TadA 9という名称のアデノシンデアミナーゼ、SpCas 9-NGという名称のCasタンパク質及びNLSという名称の核局在化シグナルを結合してなるタンパク質である。rBE 50のアミノ酸配列は配列表中の配列4である。配列4において、1~167位はTadA 9のアミノ酸配列、168~199位は結合ペプチドのアミノ酸配列、200~1567位はSpCas 9-NG(D 10 A)のアミノ酸配列、1568~1576位はNLSのアミノ酸配列である。イネのコドン使用の選好性に基づいてキメラ遺伝子rBE 53遺伝子のヌクレオチド配列をコドン最適化したうえで、バイオテクノロジー(上海)株式会社に4743 bpのrBE 53遺伝子の人工合成を依頼した。pUbi-Cas 9のBamHIの認識部位とBcuI認識部位間の小断片(Cas 9)を、配列3の7-4737位に示すrBE 53遺伝子に置き換え、pUbi-Cas 9の他のヌクレオチドを維持し、rBE 53遺伝子発現ベクターpUbi-rBE 53を得た。配列3では、1~6位はBamHI認識部位、7~507位はTadA 9のCDS、508~603位はペプチドを結合するCDS、604~4707位はSpCas 9-NG(D 10 A)のCDS、4708~4734位はNLSのCDS、4735~4737位は終端コドンTGA、4738~4743位はBcuIの認識部位であった。pUbi-rBE 50にはLR反応のための素子attR 1-ccdB-attR 2が含まれていた。
【0038】
pUbi-rBE 57が発現するアデニン塩基エディターは、rBE 57という名称の融合タンパク質(TadA 9-ScCas 9(D 10 A)とも呼ばれる)であり、TadA 9という名称のアデノシンデアミナーゼ、ScCas 9(D 10 A)という名称のCasタンパク質及びNLSという名称の核局在化シグナルを結合してなるタンパク質である。rBE 57のアミノ酸配列は配列表中の配列6である。配列6において、1~167位はTadA 9のアミノ酸配列、168~199位は結合ペプチドのアミノ酸配列、200~1574位はScCas 9(D 10 A)のアミノ酸配列、1575~1583位はNLSのアミノ酸配列である。イネのコドン使用の選好性に基づいてキメラ遺伝子rBE 57遺伝子のヌクレオチド配列をコドン最適化したうえで、バイオテクノロジー(上海)株式会社に4764 bpのrBE 57遺伝子の人工合成を依頼した。pUbi-Cas 9のBamHI認識部位とBcuI認識部位の間の小断片(Cas 9)を配列5の7-4758位に示すrBE 57遺伝子に置き換え、pUbi-Cas9の他のヌクレオチドを変更せずに、rBE57遺伝子発現ベクターrBE57を得た。配列5では、1 ~ 6位はBamHI 認識部位、7~507位はTadA9のCDS、508~603位は接続ペプチドのCDS、604~4728位はScCas9 (D10A) のCDS、および604-4728 位はScCas9 (D10A) のCDS、4729-4755位は NLS のCDS、4756-4758位はターミネーターコドン TGA、4759-4764位はBcuI の認識部位である。pUbi-rBE57 には、LRのLR反応のための素子attR1-ccdB-attR2が含まれていた。
【0039】
pUbi-rBE 65が発現するアデニン塩基エディターは、rBE 65という名称の融合タンパク質(TadA 9-SpRY(D 10 A)とも呼ばれる)であり、TadA 9という名称のアデノシンデアミナーゼ、SpRY(D 10 A)という名称のCasタンパク質及びNLSという名称の核局在化シグナルを結合してなるタンパク質である。rBE 65のアミノ酸配列は配列表中の配列8である。配列8において、1~167位はTadA 9のアミノ酸配列、168~199位は結合ペプチドのアミノ酸配列、200~1567位はSpRY(D 10 A)のアミノ酸配列、1568~1576位はNLSのアミノ酸配列である。イネコドン使用の選好性に基づいてキメラ遺伝子rBE 65遺伝子のヌクレオチド配列をコドン最適化したうえで、バイオテクノロジー(上海)株式会社に4743 bpのrBE 65遺伝子の人工合成を依頼した。pUbi-Cas 9のBamHI認識部位とBcuI認識部位の間の小断片(Cas 9)を配列7の7-4737位に示すrBE 65遺伝子に置き換え、pUbi-Cas 9の他のヌクレオチドを変更せずに、rBE 65遺伝子発現ベクターpUbi-rBE 65を得た。配列7では、1~6位はBamHI認識部位、7~507位はTadA 9のCDS、508~603位はペプチドを連結するCDS、604~4707位はSPRY(D 10 A)のCDS、4708~4734位はNLSのCDS、4735~4737位は終端コドンTGA、4738~4743位はBcuI認識部位であった。pUbi-rBE 65には、LR反応のための素子attR 1-ccdB-attR 2が含まれていた。
【0040】
pUbi-rBE 49 b、pUbi-rBE 53、pUbi-rBE 57及びpUbi-rBE 65は、アデニン塩基エディターrBEのコード遺伝子のみが異なる。rBE49b、rBE53、rBE57およびrBE65の4種類のアデニン塩基エディターはCasタンパク質のみ異なる。
【0041】
ベクターのpUbi-rBE 49 b、pUbi-rBE 53、pUbi-rBE 57及びpUbi-rBE 65の主な構成要素は以下の通りである:RB T-DNA repeat配列(ヌクレオチド配列はgenbank登録番号LC 506530.1の第13973~第13997位、2020年3月20日)、attR 1(ヌクレオチド配列はgenbank登録番号KR 233518.1の第2055~第2179位、2015年8月8日)、ccdB発現カセット(ヌクレオチド配列はgenbank登録番号KR 233518.1の第3289~第3594位、2015年8月8日)、attR 2(ヌクレオチド配列はgenbank登録番号KR 233518.1の第3635~第3759位、2015年8月8日)、Ubipプロモーター(ヌクレオチド配列は配列9)、イネアデニン塩基エディターrBE遺伝子(rBE 49 b遺伝子(ヌクレオチド配列は配列1の第7~4737位)、rBE 53遺伝子(ヌクレオチド配列は配列3の7-4737位)、rBE 57遺伝子(ヌクレオチド配列は配列5の7-4758位)またはrBE 65遺伝子(ヌクレオチド配列は配列7の7-4737位)、NOSターミネーター(ヌクレオチド配列は配列10)、CaMV 35 Sプロモーター(ヌクレオチド配列はgenbank登録番号がFJ 362600.1の10414から11092位、2008年11月26日)、潮マイシン遺伝子(ヌクレオチド配列はgenbank登録番号KY 420085.1の511~1536位、2017年7月10日)、CaMV poly(A)ターミネーター(ヌクレオチド配列はgenbank登録番号MK 896900.1の8618~8792位、2019年9月4日)、LB T-DNA repeat(ヌクレオチド配列はgenbank登録番号LC 506530.1、3635~3795位、2020年3月20日)。
【0042】
また、本実施例では、コントロールとして7つのイネアデニン塩基エディター発現ベクターを用意した。本発明のpUbi-rBE49bのコントロールとして用いるコントロールベクターの名称はpUbi-rBE14及びpUbi-rBE46bであり、本発明のpUbi-rBE53のコントロールとして用いるコントロールベクターの名称はpUbi-rBE23及びpUbi-rBE50であり、また本発明のpUbi-rBE57のコントロールベクターの名称はpUbi-rBE26およびpUbi-rBE54であり、本発明としてのpUbi-rBE65のコントロールベクターの名称はpUbi-rBE62である。
【0043】
pUbi-rBE 14が発現するアデニン塩基エディターは、rBE 14という名称の融合タンパク質(wtTadA-TadA 7.10-SpCas 9(D 10 A)-NLSとも呼ばれる)であり、wtTadAという名称の野生型アデノシンデアミナーゼ、TadA 7.10という名称の突然変異型アデノシンデアミナーゼ、SpCas 9(D 10 A)という名称のCasタンパク質及びNLSという名称の核局在化シグナルを結合してなるタンパク質である。アミノ酸配列におけるrBE14は、rBE- 49 bにおけるTadA9という名称のアデノシンデアミナーゼを、wtTadAという名称の野生型アデノシンデアミナーゼとTadA7.10という名称の変異型アデノシンデアミナーゼとを結合したタンパク質wtTadA-TadA7.10に置き換えたという点のみを除き、他のアミノ酸はrBE49bのアミノ酸配列とは同じである。rBE14遺伝子は、rBE 49 b遺伝子(ヌクレオチド配列は配列1の7~4737位)のうち、TadA 9のCDS(ヌクレオチド配列は配列1の7~507位)を、配列12に示すwtTadA-TadA 7.10遺伝子に置き換え、配列1の他のヌクレオチドを変更せずにして得られたDNA分子である。配列12はタンパク質wtTadA-TadA 7.10のコード遺伝子であり、そのCDSは配列12である。配列12において、1~501位はwtTadAのCDS、502~597位は結合ペプチドのCDS、598~1095位はTadA 7.10のCDSである。pUbi-rBE 14は、pUbi-rBE 49 bのrBE 49 b遺伝子をrBE 14遺伝子に置き換え、pUbi-rBE 49 bの他のヌクレオチドを変更せずにして得られたrBE 14遺伝子発現ベクターである。
【0044】
pUbi-rBE 46 bが発現するアデニン塩基エディターは、rBE 46 bという名称の融合タンパク質(TadA-R-SpCas 9(D 10 A)-NLSとも呼ばれる)であり、TadA-Rという名称の変異型アデノシンデアミナーゼ、SpCas 9(D 10 A)という名称のCasタンパク質及びNLSという名称の核局在化シグナルを結合してなるタンパク質である。rBE 46 bは、rBE 49 bにおけるTadA 9という名称のアデノシンデアミナーゼを、TadA-Rという名称の変異型アデノシンデアミナーゼに置き換えた点を除き、他のアミノ酸はrBE 49 bのアミノ酸配列とは全く同じである。rBE 46 b遺伝子は、rBE 49 b遺伝子(ヌクレオチド配列は配列1の7~4737位)のうち、TadA 9のCDS(ヌクレオチド配列は配列1の7~507位)を、配列13に示すTadA-R遺伝子配列に置き換え、配列1の他のヌクレオチドを変更せずにして得られたDNA分子である。pUbi-rBE 46 bは、pUbi-rBE 49 bのrBE 49 b遺伝子をrBE 46 b遺伝子に置き換え、pUbi-rBE 49 bの他のヌクレオチドを変更せずにして得られたrBE 46 b遺伝子発現ベクターである。
【0045】
pUbi-rBE 23が発現するアデニン塩基エディターは、rBE 23という名称の融合タンパク質(wtTadA-Tada 7.10-SpCas 9-NG(D 10 A)-NLS)であり、wtTadAという名称の野生型アデニンデアミナーゼ、TadA 7.10という名称の突然変異型アデニンデアミナーゼ、SpCas 9-NG(D 10 A)という名称のCasタンパク質及びNLSという名称の核局在化シグナルが結合してなるタンパク質である。rBE 23は、rBE 53中のTadA 9という名称のアデニンデアミナーゼを、wtTadAという名称の野生型アデニンデアミナーゼとTadA 7.10という名称の突然変異型アデニンデアミナーゼとを結合したタンパク質wtTadA-TadA 7.10に置き換えた点を除き、他のアミノ酸はrBE 53のアミノ酸配列とは全く同じである。rBE 23遺伝子は、rBE 53遺伝子(ヌクレオチド配列は配列3の7~4737位)のうちTadA 9のCDS(ヌクレオチド配列は配列3の7~507位)を、配列番号12に示すwtTadA-TadA 7.10遺伝子に置き換え、配列3の他のヌクレオチドを変更せずにして得られたDNA分子である。pUbi-rBE 23は、pUbi-rBE 53中のrBE 53遺伝子をrBE 23遺伝子に置き換え、pUbi-rBE 53の他のヌクレオチドを変更せずにして得られたrBE 23遺伝子発現ベクターである。
【0046】
pUbi-rBE 50で発現するアデニン塩基エディターは、rBE 50という名称の融合タンパク質(wtTadA-TadA 7.10-SpCas 9-NG(D 10 A)-NLSとも呼ばれる)であり、TadA-Rという名称の変異型アデノシンデアミナーゼ、SpCas 9-NG(D 10 A)という名称のCasタンパク質及びNLSという名称の核局在化シグナルを結合してなるタンパク質である。rBE 50は、rBE 53のTadA 9という名称のアデノシンデアミナーゼをTadA-Rという名称の変異型アデノシンデアミナーゼに置き換えた点を除き、他のアミノ酸はrBE 53のアミノ酸配列とは全く同じである。rBE 50遺伝子は、rBE 53遺伝子(ヌクレオチド配列は配列3の7~4737位)のうちTadA 9のCDS(ヌクレオチド配列は配列1の7~507位)を、配列13に示すTadA-R遺伝子に置き換え、配列3の他のヌクレオチドを変更せずにして得られたDNA分子である。pUbi-rBE 50は、pUbi-rBE 53中のrBE 53遺伝子をrBE 50遺伝子に置き換え、pUbi-rBE 53の他のヌクレオチドを変更せずにして得られたrBE 50遺伝子発現ベクターである。
【0047】
pUbi-rBE 26が発現するアデニン塩基エディターは、rBE 26という名称の融合タンパク質(wtTadA-Tada 7.10-ScCas 9(D 10 A)-NLS)であり、wtTadAという名称の野生型アデニンデアミナーゼ、TadA 7.10という名称の突然変異型アデニンデアミナーゼ、ScCas 9(D 10 A)という名称のCasタンパク質及びNLSという名称の核局在化シグナルを結合してなるタンパク質である。rBE 26は、rBE 57のうちTadA 9という名称のアデニンデアミナーゼを、wtTadAという名称の野生型アデニンデアミナーゼとTadA 7.10という名称の突然変異型アデニンデアミナーゼとを結合したタンパク質wtTadA-TadA 7.10に置き換えた点を除き、他のアミノ酸はrBE 57のアミノ酸配列とは全く同じである。rBE 26遺伝子は、rBE 57遺伝子(ヌクレオチド配列は配列5の7~4758位)のうちTadA 9のCDS(ヌクレオチド配列は配列5の7~507位)を、配列12に示すwtTadA-TadA 7.10遺伝子に置き換え、配列5の他のヌクレオチドを変更せずにして得られたDNA分子である。pUbi-rBE 26は、pUbi-rBE 57中のrBE 57遺伝子をrBE 26遺伝子に置き換え、pUbi-rBE 57の他のヌクレオチドを変更せずにして得られたrBE 26遺伝子発現ベクターである。
【0048】
pUbi-rBE 54が発現するアデニン塩基エディターは、rBE 54という名称の融合タンパク質(TadA-R-ScCas 9(D 10 A)-NLSとも呼ばれる)であり、TadA-Rという名称の突然変異型アデノシンデアミナーゼ、ScCas 9(D 10 A)という名称のCasタンパク質及びNLSという名称の核局在化シグナルを結合してなるタンパク質である。rBE 54は、rBE 57におけるTadA 9という名称のアデノシンデアミナーゼをTadA-Rという名称の変異型アデノシンデアミナーゼに置き換えた点を除き、他のアミノ酸はrBE 57のアミノ酸配列とは全く同じである。rBE 54遺伝子は、rBE 57遺伝子(ヌクレオチド配列は配列5の7~4758位)のうちTadA 9のCDS(ヌクレオチド配列は配列5の7~507位)を、配列13に示すTadA-R遺伝子配列に置き換え、配列5の他のヌクレオチドを変更せずして得られたDNA分子である。pUbi-rBE 54は、pUbi-rBE 57中のrBE 57遺伝子をrBE 54遺伝子に置き換え、pUbi-rBE 57の他のヌクレオチドを変更せずにして得られたrBE 54遺伝子発現ベクターである。
【0049】
pUbi-rBE 62が発現するアデニン塩基エディターは、rBE 62という名称の融合タンパク質(TadA-R-SpRY(D 10 A)-NLS)であり、TadA-Rという名称の突然変異型アデノシンデアミナーゼ、SpRY(D 10 A)という名称のCasタンパク質及びNLSという名称の核局在化シグナルを結合してなるタンパク質である。rBE 62は、rBE 65のうちTadA 9という名称のアデノシンデアミナーゼをTadA-Rという名称の変異型アデノシンデアミナーゼに置き換えた点を除き、他のアミノ酸はrBE 65のアミノ酸配列とは全く同じである。rBE 62遺伝子は、rBE 65遺伝子(ヌクレオチド配列は配列7の7~4737位)のうちTadA 9のCDS(ヌクレオチド配列は配列7の7~507位)を、配列13に示すTadA-R遺伝子配列に置き換えて、配列7の他のヌクレオチドを変更せずにして得られたDNA分子である。pUbi-rBE 62は、pUbi-rBE 65中のrBE 65遺伝子をrBE 62遺伝子に置き換え、pUbi-rBE 65の他のヌクレオチドを変更せずにして得られたrBE 62遺伝子発現ベクターである。
【0050】
二、イネアデニン塩基エディター発現ベクターによるイネ内因性遺伝子の標的塩基のA>G置換
1、標的配列に対する塩基編集ベクターpUbi-rBE-sgRNAの構築
選択された標的遺伝子(
図13を参照)のゲノムDNA配列は、イネゲノムデータベース(https://rapdb.dna.affrc.go.jp/)から取得し、PAMを識別する要件に応じて、各塩基エディターが対応する標的配列、及びフォワードおよびリバースオリゴヌクレオチド鎖を設計した。
図13中の各標的配列(5’-N19PAM-3’)のフォワードおよびリバースオリゴヌクレオチド鎖(具体的な配列は
図13を参照)の合成を株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモに委託し、人工合成した後、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いてプライマーをリン酸化処理し、アニールして二本鎖DNA断片(sgRNAを含む標的配列では、5’-N19-3’)とし、二本鎖DNAフラグメントをそれぞれpENTR4:sgRNA(
図2、attL1-sgRNA発現カセット-attL2を含む)ベクターの2つのBtgZIまたは2つのBsaI酵素切断部位にクローニングした。プライマーU6p-F1(5’-AAGAACGAACTAAGCCGGAC-3’(配列番号37)を配列決定して、挿入フラグメントが完全に正確であることを確認した後(挿入フラグメントがsgRNAを含む標的配列の5’-N19-3’)、得られたプラスミドをAatII酵素カットにより線形化し、GatewayのLR反応により、sgRNA発現カセット(sgRNAを含むコードDNA)を水稲アデニン塩基エディター発現ベクターpUbi-rBE(
図1)のattR1-ccdB-attR2にそれぞれクローニングし、各標的配列のベース編集ベクターpUbi-rBE-sgRNAを得た(
図3)。pUbi-rBE-sgRNAは、pUbi-rBEの素子attR1-ccdB-attR2をattB1-sgRNA発現カセット-attB2に置き換え、pUbi-rBEの他のヌクレオチドを変更せずにして得られた組換え発現ベクターである。OsTms9遺伝子を標的とするpUbi-rBE49b-sgRNA-Ostms9、pUbi-rBE14-sgRNA-Ostms9、およびpUbi-rBE46b-sgRNA-Ostms9という3種類の塩基編集ベクターをそれぞれ得た。OsWRKY45遺伝子の標的配列1(配列76、NGGPAMを含む)を標的とする3種類の塩基編集ベクターは、それぞれpUbi-rBE49b-sgRNA-OsWRKY45、pUbi-rBE14-sgRNA-OsWRKY45、およびpUbi-rBE46b-sgRNA-OsWRKY45であった。OsDEP2遺伝子を標的とするpUbi-rBE53-sgRNA-OsDEP2、pUbi-rBE23-sgRNA-OsDEP2およびpUbi-rBE62-sgRNA-OsJAR2という3種類の塩基編集ベクターをそれぞれ得た。OsWRKY45遺伝子の標的配列2(配列79、NGT PAMを含む)を標的とする3種類の塩基編集ベクターは、それぞれpUbi-rBE53-sgRNA-OsWRKY45、pUbi-rBE23-sgRNA-OsWRKY45、およびpUbi-rBE50-sgRNA-OsWRKY45であった。OsGS1遺伝子を標的とする3種類の塩基編集ベクターは、それぞれpUbi-rBE57-sgRNA-OsGS1、pUbi-rBE54-sgRNA-OsGS1、およびpUbi-rBE26-sgRNA-OsGS1であった。OssERK2遺伝子を標的とする2種類の塩基編集ベクターは、pUbi-rBE57-sgRNA-OssERK2およびpUbi-rBE54-sgRNA-OssERK2であった。OsMPK13遺伝子を標的とする2種類の塩基編集ベクターはpUbi-rBE65-sgRNA-OsMPK13とpUbi-rBE62-sgRNA-OsMPK13であった。OsGSK4遺伝子を標的とする2種類の塩基編集ベクターは、pUbi-rBE65-sgRNA-OsGSK4とpUbi-rBE62-sgRNA-OsGSK4であった。OsJAR1遺伝子を標的とする2種類の塩基編集ベクターは、pUbi-rBE65-sgRNA-OsJAR1とpUbi-rBE62-sgRNA-OsJAR1であった。
【0051】
ここで、pENTR4:sgRNAの構築方法は以下の通りである:
5’末端から3’末端に向かう方向に、U6プロモーター配列1、2つのBtgZI酵素カット部位を含むヌクレオチド配列、sgRNAScaffold配列、(T)8ターミネーター配列、U6プロモーター配列2、2つのBsaI酵素カット部位を含むヌクレオチド配列、sgRNA Scaffold配列、(T)8ターミネーター配列を順次に結合させ、sgRNA発現カセットとした。これを、生工生物工程(上海)有限公司に委託し、人工的に合成させた。同社の合成された遺伝子をテンプレートとして、プライマー対(sgRNA-F:5’-GCAGGCTGTCGACTGGATCCAAGCTTAAGAACGAACTAAGCC-3’(配列38)およびsgRNA-R:5’-CAAGAAAGCTGGGTGAATTCGATATCAAGCTTATCGATACCG-3’(配列39))を増幅して1kbのsgRNA発現カセット断片(ヌクレオチド配列は配列表の配列11)を取得した。pENTR4(Invitrogen)ベクターをテンプレートとして、pENTR4-F1:(5’-CGAATTCACCCAGCTTTCTTGTACAAAGTTGGCATTATAAGA-3’(配列40)とpENTR4-R1:(5’-CTTAGTTCGTTCTTAAGCTTGGATCCAGTCGACAGCCTGCTTTTTTGTACAAAGT-3’(配列41)を増幅し、2.2kbのpENTR4ベクター骨格(pENTR4のccdB遺伝子発現カセットの断片を除去したDNA断片)を取得した。試薬カセットClonExpress II One Step Cloning Kit(南京諾唯賛生物科学技術株式会社から購入)を用いて、sgRNA発現カセット断片とpENTR 4ベクター骨格とをinfusion結合し、ベクターpENTR 4:sgRNAを獲得した(
図2)。そのうちの2つのBtgZIまたは2つのBsaI酵素カット部位はクローン中の特定遺伝子の識別配列(sgRNAの標的配列中の5’-N19-3’)に使用されている。配列11において、27~348位はU 6プロモーター配列1、349~389位は2つのBtgZI部位を含むヌクレオチド断片、390~465位はsgRNA Scaffold配列、466~473位は(T)8ターミネーター配列、474~782位はU 6プロモーター配列2、783~806位は2つのBsaI部位を含むヌクレオチド断片、807~882位はsgRNA Scaffold配列、883~890位は(T)8ターミネーター配列である。
【0052】
2、農桿菌は水稲の安定した遺伝転化を媒介する
得られた各標的遺伝子塩基の編集ベクターを電気ショック法により農桿菌EHA 105に形質転換し(EHA 105電気ショック受容細胞は北京博雅遺伝子技術有限公司から購入)、Hieiら(Hiei Y.、Ohta S.、Komari T.、and Kumashiro T.(1994);Efficient transformation of rice (Oryza sativa L.)mediated by Agrobacterium and sequence analysis of the boundaries of the T-DNA. Plant J.6:271-282.)に開示された方法を参考にして、イネ農桿菌が介在する遺伝変換を行い、T0世代の各標的遺伝子塩基編集イネ材料を得た。
【0053】
3、T 0世代のトランスジェニックイネ標的遺伝子座の塩基編集効率の測定
通常のCTAB法を用いてT 0世代トランスジェニックイネ材料のゲノムDNAを抽出した。
【0054】
各標的遺伝子の標的配列情報及びその検出プライマーは
図14に示す通りであり、プライマーは全て、生工生物工程(上海)株式会社に人工合成を委託した。検査時に関わるPCR反応はすべて、ハイファイ酵素予備混合液I-5
TM 2×High-Fidelity Master Mix(克労寧(北京)生物科学技術有限公司から購入)を用いてPCR増幅の目的の断片を行った。PCR製品は直接生工生物工程(上海)株式会社にSangerシーケンシングを委託した。
【0055】
シーケンシング結果は以下の通りである:
塩基エディターrBE 14による、Ostms 9のNGGPAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は0%、塩基エディターrBE 46 bによる、Ostms 9のNGG PAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は64.58%、塩基エディターrBE 49 bによる、Ostms 9のNGG PAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は97.92%(表1)。
【0056】
T0世代トランス-pUbi-rBE14-sgRNA-OsTms9イネ54株のうち、アデニンAが脱アンモニアによってグアニンGに置換されたものが0株あった。T0世代トランス-pUbi-rBE46b-sgRNA-OsTms9イネ48株のうち、アデニンAが脱アンモニアによってグアニンGに置換されたものが31株あった。そのいずれも、標的配列の5’から3’の方向における5位のA (
図4のT
5に相当)を脱アンモニアによってGに置換できた。試験したT0世代のトランス-pUbi-rBE49b-sgRNA-OsTms9イネ48株のうち47株は、アデニンAが脱アンモニアによってグアニンGに置換され、いずれも、標的配列の5’から3’の方向に第5位のA(
図4のT5に相当)を脱アンモニアによって、Gに置換できた。
【0057】
塩基エディターrBE 14による、OsWRKY 45のNGGPAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は0.00%、塩基エディターrBE 46 bによる、OsWRKY 45のNGG PAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は0.00%、塩基エディターrBE 49 bによる、OsWRKY 45のNGG PAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は2.86%(表1)であった。検出された53株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 14-sgRNA-OsWRKY 45イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによってグアニンGに置換されたものが0株あった。検出された48株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 46 b-sgRNA-OsWRKY 45イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによってグアニンGに置換されたものが0株あった。検出された35株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 49 b-sgRNA-OsWRKY 45イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによりグアニンGに置換されたものが1株ありいずれも、標的配列の5’から3’の方向における第4位のAを脱アンモニアによってGに置換できた(
図5のA 4に対応)。
【0058】
塩基エディターrBE 23による、OsDEP 2のNGA PAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は0.00%、塩基エディターrBE 50による、OsDEP 2のNGA PAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は27.08%、塩基エディターrBE 53による、OsDEP 2のNGA PAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は78.72%(表2)であった。検出された96株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 23-sgRNA-OsDEP 2イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによりグアニンGに置換されたものが0であった。検出された48株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 50-sgRNA-OsDEP 2イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによりグアニンGに置換されたものが13株あった。標的配列の5’から3’の方向における4位と6位のAを脱アンモニアによってGに置換できたもののうち、4位のアデニンA(
図6のA 4に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが10株、6位のアデニンA(
図6のA 6に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが13株あった。検出された47株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 53-sgRNA-OsDEP 2イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによりグアニンGに置換されたものが37株あった。標的配列5’から3’の方向における第4位と第6位のAを脱アンモニアによってGに置換できたもののうち、4位のアデニンA(
図6中のA 4に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが37株あり、6位のアデニンA(
図6中のA 6に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが28株あった。
【0059】
塩基エディターrBE 23による、OsWRKY 45のNGPAMターゲットに対するターゲット基編集効率は0%、塩基エディターrBE 50による、OsWRKY 45のNGPAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は89.36%、塩基エディターrBE 53による、OsWRKY 45のNGT PAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は93.75%(表2)であった。検出された52株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 23-sgRNA-OsWRKY 45イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによりグアニンGに置換されたものが0株あった。検出された47株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 50-sgRNA-OsWRKY 45イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによりグアニンGに置換されたものが42株あり、いずれも、標的配列の5’から3’の方向における第5位のAを脱アンモニアによってGに置換できた(
図7のT
5に対応)。検出された48株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 53-sgRNA-OsWRKY 45イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによりグアニンGに置換されたものが45株あり、いずれも、標的配列の5’から3’の方向における5位のAを脱アンモニアによりGに置換できた(
図7のT
5に対応)。
【0060】
塩基エディターrBE 26による、OsGS 1のNAG PAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は0.00%、塩基エディターrBE 54による、OsGS 1のNAG PAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は25.00%、塩基エディターrBE 57による、OsGS 1のNAG PAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は54.17%(表3)であった。検出された36株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 26-sgRNA-OsGS 1イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによりグアニンGに置換されたものが0株あった。検出された48株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 54-sgRNA-OsGS 1イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによりグアニンGに置換されたものが12株あり、標的配列の5’から3’の方向における第3、6及び9位のAを脱アンモニアによってGに置換できたもののうち、第3位のアデニンA(
図8中のA
3に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが3株、第6位のアデニンA(
図8中のA
6に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたもの11株、第9位のアデニンA(
図8中のA
9に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが12株あった。検出された48株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 57-sgRNA-OsGS 1イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによりグアニンGに置換されたものが23株あり、標的配列の5’から3’の方向における第3、4、6、9及び11位のAを脱アンモニアによってGに置換できたもののうち、第3位のアデニンA(
図8中のA
3に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが26株、第4位のアデニンA(
図8中のA
4に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが13株、第6位のアデニンA(
図8中のA
6に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが26株、第9位のアデニンA(
図8中のA
9に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが26株、11位のアデニンA(
図8のA
11に対応)が脱アンモニアによりGに置換されたものが1株あった。
【0061】
塩基エディターrBE54による、OssERK2のNAG PAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は28.26%、塩基エディターrBE 57による、OssERK2のNAG PAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は72.34%(表3)であった。検出された46株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 54-sgRNA-OssERK 2イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによりグアニンGに置換されたものが13株あった。標的配列の5’から3’の方向における第4及び6位のAを脱アンモニアによりGに置換できたもののうち、第4位のアデニンA(
図9中のT
4に対応)が脱アンモニアによりGに置換されたものが3株、第6位のアデニンA(
図9中のT
6に対応)が脱アンモニアによりGに置換されたものが13株あった。検出された47株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 57-sgRNA-OssERK 2イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによりグアニンGに置換されたものが34株あり、標的配列の5’から3’の方向における第4及び6位のAを脱アンモニアによりGに置換できたもののうち、第4位のアデニンA(
図9中のT
4に対応)が脱アンモニアによりGに置換されたものが34株、第6位のアデニンA(
図9中のT
6に対応)が脱アンモニアによりGに置換されたものが34株あった。
【0062】
塩基エディターrBE 62による、OsMPK 13のNAA PAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は29.17%、塩基エディターrBE 65による、OsMPK 13のNAA PAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は31.91%(表4)であった。検出された48株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 62-sgRNA-OsMPK 13イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによりグアニンGに置換されたものが14株あり、いずれも、標的配列の5’から3’の方向における6位のA(
図10のA
6に対応)が脱アンモニアによりGに置換された。検出された47株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 65-sgRNA-OsMK 13イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによりグアニンGに置換されたものが15株あり、標的配列の5’から3’の方向における第4及び6位のAを脱アンモニアによってGに置換できたもののうち、第4位のアデニンA(
図10中のA
4に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが2株、第6位のアデニンA(
図10中のA
6に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが15株あった。
【0063】
塩基エディターrBE 62による、OsGSK 4のNAC PAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は51.28%、塩基エディターrBE65による、OsGSK 4のNAC PAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は73.17%(表4)であった。検出された39株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 62-sgRNA-OsGSK 4イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによりグアニンGに置換されたものが20株あり、標的配列の5’から3’の方向における第4及び11位のAを脱アンモニアによってGに置換できたもののうち、第4位のアデニンA(
図11のT
4に対応)が脱アンモニアによりGに置換されたものが20株、第11位のアデニンA(
図11のT
11に対応)が脱アンモニアによりGに置換されたものが2株あった。検出された41株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 65-sgRNA-OsGSK 4イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによりグアニンGに置換されたものが30株、標的配列の5’から3’の方向における第4、8、9及び11位のAを脱アンモニアによってGに置換できたもののうち、第4位のアデニンA(
図11中のT 4に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが30株、第8位のアデニンA(
図11中のT 8に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが1株、第9位のアデニンA(
図11中のT 9に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが1株、第11位のアデニンA(
図11中のT 11に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが9株あった。
【0064】
塩基エディターrBE 62による、OsJAR 1のNAT PAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は36.17%、塩基エディターrBE 65による、OsJAR 1のNAT PAMターゲットに対するターゲット塩基編集効率は45.00%(表4)であった。検出された47株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 62-sgRNA-OsJAR 1イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによりグアニンGに置換されたものが17株あり、標的配列の5’から3’の方向における4位と6位のAを脱アンモニアによってGに置換できたもののうち、4位のアデニンA(
図12中のT
4に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが17株、6位のアデニンA(
図12中のT
6に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが9株あった。検出された40株のT 0世代のトランスpUbi-rBE 65-sgRNA-OsJAR 1イネのうち、アデニンAが脱アンモニアによりグアニンGに置換されたものが18株あり、標的配列の5’から3’の方向における第2、4及び6位のAを脱アンモニアによってGに置換できたもののうち、第2位のアデニンA(
図12中のT 2に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが3株、第4位のアデニンA(
図12中のT 4に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが18株、第6位のアデニンA(
図12中のT 6に対応)が脱アンモニアによってGに置換されたものが18株あった。
【0065】
上記の結果から、本発明におけるTadA 9とSpCas 9 n/ScCas 9/SpCas 9-NG/SpRYとの融合後に媒介されるアデニン塩基編集技術の編集効率はTadA 7.10などのTadA-R変異体に媒介されるアデニン塩基編集技術よりはるかに高く、かつその編集活性窓を拡張でき、アデニン塩基編集技術の効率を高め、その応用範囲を広げることができる。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
以上、本発明を詳細に説明した。当業者であれば、本発明を、本発明の目的および範囲から逸脱することなく、また不必要な実験をせずに、広範囲の同等のパラメータ、濃度および条件にて実施することができる。本発明は特定の実施形態が与えられているが、本発明に対してさらなる改良を加えることができることが理解されるべきである。要するに、本発明の原理に従って、本願は、本願の開示範囲外で当技術分野にて既知の従来技術を使用して実施される変更を含む。本発明の任意の変更、使用または改良を含むことが意図されている。添付した特許請求の範囲に従って、本質的な特徴にかかる応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、TadAタンパク質を人為に変異させることにより高活性変異体TadA9を取得し、これを用いて新規CRISPR/Casベース編集ツールキットを開発する。SpCas9(D10A)、SpCas9-NG(D10A)、ScCas9(D10A)およびSpRY(D10A)との融合を介したアデニン塩基編集技術は、TadA7.10およびTadA-R変異体を介したアデニン塩基編集技術よりも編集効率が著しく高く、その編集活性の範囲を拡張し、アデニン塩基編集技術の効率を向上させ、その応用範囲を広げることができる。特に、TadA7.10を介した塩基編集ベクターでは編集できないターゲットでのアデニン塩基編集の問題を解決し、植物ゲノムの標的編集への利用範囲を広げ、植物研究および作物遺伝子改良分野の研究者へ遺伝子機能研究および修正に重要なツールセットを提供することができる。本発明は、アデニン塩基編集の効率を向上させ、標的部位の塩基変異を正確に媒介することができ、イネ、さらには他の植物細胞においても広く応用することが可能である。
【配列表】