(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-17
(45)【発行日】2024-12-25
(54)【発明の名称】接合体
(51)【国際特許分類】
C04B 37/02 20060101AFI20241218BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C04B37/02 B
H01L21/68 R
(21)【出願番号】P 2024539577
(86)(22)【出願日】2023-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2023041672
【審査請求日】2024-06-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】三崎 雅斗
(72)【発明者】
【氏名】吉野 浩一
(72)【発明者】
【氏名】服部 亮誉
(72)【発明者】
【氏名】▲のぼり▼ 和宏
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/063016(WO,A1)
【文献】特開2014-208567(JP,A)
【文献】特開2005-145746(JP,A)
【文献】特開2021-116218(JP,A)
【文献】特開2018-064055(JP,A)
【文献】特開昭61-275174(JP,A)
【文献】特開2017-108107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00 - 37/04
H01L 21/31
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウムを含むセラミックプレートと、
前記セラミックプレートの一方の側と対向して設けられ、
Si、C及びTiを含む金属基複合材料(MMC)で構成されるMMCプレートと、
前記セラミックプレートと前記MMCプレートとの間に設けられ、前記セラミックプレート及び前記MMCプレートを接合する接合層であって、Alを主成分として含み、かつ、Si及びMgを副成分として含む接合層と、
を備え、前記セラミックプレートと前記接合層との間の接合界面がMg含有層を含む、
接合体。
【請求項2】
前記Mg含有層が、Al及びOをさらに含む、請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
前記Mg含有層における、Al:Mg:Oの重量比が1:0.01~0.50:0.001~0.100である、請求項2に記載の接合体。
【請求項4】
前記Mg含有層の厚さが、1~10μmである、請求項1又は2に記載の接合体。
【請求項5】
前記セラミックプレート、前記接合層及び前記MMCプレートの接合
を、熱圧接
により行うことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の接合体
の製造方法。
【請求項6】
前記MMCプレートが、前記接合層と前記MMCプレートとの間の接合界面から所定の深さD
Alにわたって前記接合層に由来するAlが拡散されたAl拡散層を有している、請求項1~3のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項7】
前記MMCプレートが、前記接合層と前記MMCプレートとの間の接合界面から所定の深さD
Mgにわたって前記接合層に由来するMgが拡散されたMg拡散層を有している、請求項
6に記載の接合体。
【請求項8】
前記Al拡散層の深さD
Alが前記Mg拡散層の深さD
Mgよりも大きい、すなわちD
Al>D
Mgを満たす、請求項
7に記載の接合体。
【請求項9】
前記MMCプレートの接合界面側の表面が、0.01~1.0μmの算術平均粗さRaを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項10】
4点曲げ試験において200MPa以上の接合強度を呈する、請求項1~3のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項11】
前記セラミックプレートが
、内部電極が埋設されたものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項12】
酸化アルミニウムを含むセラミックプレートと、
前記セラミックプレートの一方の側と対向して設けられ、Si、C及びTiを含む金属基複合材料(MMC)で構成されるMMCプレートと、
前記セラミックプレートと前記MMCプレートとの間に設けられ、前記セラミックプレート及び前記MMCプレートを接合する接合層であって、Alを主成分として含み、かつ、Si及びMgを副成分として含む接合層と、
を備え、前記MMCプレートが、前記接合層と前記MMCプレートとの間の接合界面から所定の深さD
Alにわたって前記接合層に由来するAlが拡散されたAl拡散層を有しており、前記Al拡散層の深さD
Alが40μm以上である、接合体。
【請求項13】
前記MMCプレートが、前記接合層と前記MMCプレートとの間の接合界面から所定の深さD
Mgにわたって前記接合層に由来するMgが拡散されたMg拡散層を有している、請求項
12に記載の接合体。
【請求項14】
前記Al拡散層の深さD
Alが前記Mg拡散層の深さD
Mgよりも大きい、すなわちD
Al>D
Mgを満たす、請求項
13に記載の接合体。
【請求項15】
前記セラミックプレートが
、内部電極が埋設されたものである、請求項
12~14のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項16】
前記セラミックプレート、前記接合層及び前記MMCプレートの接合
を、熱圧接
により行うことを特徴とする、請求項
12~14のいずれか一項に記載の接合体
の製造方法。
【請求項17】
前記MMCプレートの接合界面側の表面が、0.01~1.0μmの算術平均粗さRaを有する、請求項
12~14のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項18】
4点曲げ試験において200MPa以上の接合強度を呈する、請求項
12~14のいずれか一項に記載の接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造における回路形成は、プラズマエッチングにより一般的に行われている。プラズマエッチングは、プラズマエッチング装置内の真空チャンバに不活性ガスを導入してプラズマ化することにより行われる。プラズマエッチング装置内には、エッチングされるべきウェハが載置されるためのサセプタとして機能する、静電チャックアセンブリが設けられている。典型的な静電チャックアセンブリは、静電チャックとして機能する電極埋設セラミックプレートと、電極埋設セラミックプレートの底面を支持する冷却プレートとを備える。ウェハは電極内蔵セラミックプレートに静電吸着されることで、静電チャックアセンブリに固定された状態でプラズマエッチングが施される。一方、冷却プレートは、電極内蔵セラミックプレートの底面に設けられることで、プラズマエッチングによりウェハに発生する熱を奪うように構成される。電極埋設セラミックプレートは、耐熱性や耐食性に優れた酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等で構成されたセラミック基体の内部に、静電チャック(ESC)電極、RF電極、ヒータ電極等の内部電極が埋設された構成を有するのが一般的である。
【0003】
静電チャックアセンブリの一例として、特許文献1(特開2009-141204号公報)には、第1のセラミック焼結体で構成される第1基体と、第2のセラミック焼結体で構成される第2基体とが、Alを含む金属の接合膜を介して接合された、基板保持体が開示されている。この文献には、第1基体と第2基体との間にAlを含む金属の接合膜を挟んで当該金属を加熱しながら4~20MPaの圧力で熱圧接することで、第1基体と第2基体を、接合膜を介して接合することが開示されており、Alを含む金属が、Mgを0.5~5重量%の範囲で含むAl合金であることが望ましいとされている。
【0004】
ところで、近年、金属基複合材料(MMC:Metal Matrix Composite)が注目されている。金属基複合材料は、Alや金属Si等の金属で構成される金属マトリックスにSiCやTiC等のセラミック強化材を複合させた材料であり、軽量、高剛性、高熱伝導、低熱膨張等の利点を有するものとして知られている。金属基複合材料(MMC)とセラミック材料とを接合させる手法が提案されており、特許文献2(特許第4373538号公報)には、アルミニウム合金をマトリックスとして含むMMCと、セラミック材料とが、Mgを含むAl合金で構成されるろう材を介して接合された接合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-141204号公報
【文献】特許第4373538号公報
【文献】特開2006-196864号公報
【発明の概要】
【0006】
静電チャックアセンブリの冷却プレートとして、高熱伝導、低熱膨張等の利点から、MMCプレートを用いることが望まれる。そこで、MMCプレートとセラミックプレートとの接合体における接合強度の改善が求められている。
【0007】
本発明者らは、今般、(1)MMCプレートとセラミックプレートとの間に所定の接合層を設け、かつ、(2a)セラミックプレートと接合層との間の接合界面がMg含有層を含むようにすることで、及び/又は(2b)MMCプレートが、接合層とMMCプレートとの間の接合界面から所定の深さ(厚さ)にわたってAl拡散層を有するようにすることで、高い接合強度を有するセラミックプレート及びMMCプレートの接合体を提供できることを見出した。
【0008】
したがって、本発明の目的は、高い接合強度を有するセラミックプレート及びMMCプレートの接合体を提供することにある。
【0009】
本開示によれば、以下の態様が提供される。
[態様1]
セラミックプレートと、
前記セラミックプレートの一方の側と対向して設けられ、金属基複合材料(MMC)で構成されるMMCプレートと、
前記セラミックプレートと前記MMCプレートとの間に設けられ、前記セラミックプレート及び前記MMCプレートを接合する接合層であって、Alを主成分として含み、かつ、Si及びMgを副成分として含む接合層と、
を備え、前記セラミックプレートと前記接合層との間の接合界面がMg含有層を含む、
接合体。
[態様2]
前記Mg含有層が、Al及びOをさらに含む、態様1に記載の接合体。
[態様3]
前記Mg含有層における、Al:Mg:Oの重量比が1:0.01~0.50:0.001~0.100である、態様2に記載の接合体。
[態様4]
前記Mg含有層の厚さが、1~10μmである、態様1~3のいずれか一つに記載の接合体。
[態様5]
前記セラミックプレート、前記接合層及び前記MMCプレートの接合が、熱圧接である、態様1~4のいずれか一つに記載の接合体。
[態様6]
前記MMCが、Si、C及びTiを含む、態様1~5のいずれか一つに記載の接合体。
[態様7]
前記MMCプレートが、前記接合層と前記MMCプレートとの間の接合界面から所定の深さDAlにわたって前記接合層に由来するAlが拡散されたAl拡散層を有している、態様1~6のいずれか一つに記載の接合体。
[態様8]
前記MMCプレートが、前記接合層と前記MMCプレートとの間の接合界面から所定の深さDMgにわたって前記接合層に由来するMgが拡散されたMg拡散層を有している、態様7に記載の接合体。
[態様9]
前記Al拡散層の深さDAlが前記Mg拡散層の深さDMgよりも大きい、すなわちDAl>DMgを満たす、態様8に記載の接合体。
[態様10]
前記MMCプレートの接合界面側の表面が、0.01~1.0μmの算術平均粗さRaを有する、態様1~9のいずれか一つに記載の接合体。
[態様11]
4点曲げ試験において200MPa以上の接合強度を呈する、態様1~10のいずれか一つに記載の接合体。
[態様12]
前記セラミックプレートが酸化アルミニウム及び/又は窒化アルミニウムを含み、かつ、内部電極が埋設されたものである、態様1~11のいずれか一つに記載の接合体。
[態様13]
セラミックプレートと、
前記セラミックプレートの一方の側と対向して設けられ、Si、C及びTiを含む金属基複合材料(MMC)で構成されるMMCプレートと、
前記セラミックプレートと前記MMCプレートとの間に設けられ、前記セラミックプレート及び前記MMCプレートを接合する接合層であって、Alを主成分として含み、かつ、Si及びMgを副成分として含む接合層と、
を備え、前記MMCプレートが、前記接合層と前記MMCプレートとの間の接合界面から所定の深さDAlにわたって前記接合層に由来するAlが拡散されたAl拡散層を有しており、前記Al拡散層の深さDAlが40μm以上である、接合体。
[態様14]
前記MMCプレートが、前記接合層と前記MMCプレートとの間の接合界面から所定の深さDMgにわたって前記接合層に由来するMgが拡散されたMg拡散層を有している、態様13に記載の接合体。
[態様15]
前記Al拡散層の深さDAlが前記Mg拡散層の深さDMgよりも大きい、すなわちDAl>DMgを満たす、態様14に記載の接合体。
[態様16]
前記セラミックプレートが酸化アルミニウム及び/又は窒化アルミニウムを含み、かつ、内部電極が埋設されたものである、態様13~15のいずれか一つに記載の接合体。
[態様17]
前記セラミックプレート、前記接合層及び前記MMCプレートの接合が、熱圧接である、態様13~16のいずれか一つに記載の接合体。
[態様18]
前記MMCプレートの接合界面側の表面が、0.01~1.0μmの算術平均粗さRaを有する、態様13~17のいずれか一つに記載の接合体。
[態様19]
4点曲げ試験において200MPa以上の接合強度を呈する、態様13~18のいずれか一つに記載の接合体。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明による接合体の一例を示す模式断面図である。
【
図2】本発明による接合体の他の一例を示す模式断面図である。
【
図3A】例7の接合体におけるセラミックプレート12、接合界面20及び接合層16を含む断面のSEM像(Compo像)及びそれに対応する領域のSi、C及びTiマッピング像を示す。
【
図3B】例7の接合体におけるセラミックプレート12、接合界面20及び接合層16を含む断面のSEM像(Compo像)及びそれに対応する領域のO、Mg及びAlマッピング像を示す。
【
図4A】例7の接合体における接合層16、接合界面22及びMMCプレート14を含む断面のSEM像(Compo像)及びそれに対応する領域のSi、C及びTiマッピング像を示す。
【
図4B】例7の接合体における接合層16、接合界面22及びMMCプレート14を含む断面のSEM像(Compo像)及びそれに対応する領域のO、Mg及びAlマッピング像を示す。
【
図5A】例7の接合体における接合層16、接合界面22及びMMCプレート14を含む断面のSEM像(Compo像)及びそれに対応する領域のSi、C及びTiマッピング像の濃度スケールを縮小したバージョンを示す。
【
図5B】例7の接合体における接合層16、接合界面22及びMMCプレート14を含む断面のSEM像(Compo像)及びそれに対応する領域のO、Mg及びAlマッピング像の濃度スケールを縮小したバージョンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
接合体
図1に本発明による接合体の一例を示す。
図1に示される接合体10は、セラミックプレート12と、MMCプレート14と、接合層16とを含む。好ましくは、セラミックプレート12は酸化アルミニウム及び/又は窒化アルミニウムを含み、内部電極18が埋設されている。MMCプレート14は、金属基複合材料(MMC)で構成されるプレートであり、セラミックプレート12の一方の側と対向して設けられる。金属基複合材料(MMC)はSi、C及びTiを含むのが好ましい。接合層16は、セラミックプレート12及びMMCプレート14を接合する層であって、セラミックプレート12とMMCプレート14との間に設けられる。接合層16は、Alを主成分として含み、かつ、Si及びMgを副成分として含む。本発明の第一の態様においては、セラミックプレート12と接合層16との間の接合界面20がMg含有層24を含む。一方、本発明の第二の態様においては、
図2により具体的に示されるように、MMCプレート14が、接合層16とMMCプレート14との間の接合界面22から所定の深さD
Alにわたって接合層16に由来するAlが拡散されたAl拡散層26を有する。Al拡散層の深さD
Alは40μm以上であるのが好ましい。第一の態様は第二の態様の特徴を含んでいてもよく、その逆もまた然りである。このように、(1)MMCプレート14とセラミックプレート12との間に所定の接合層16を設け、かつ、(2a)セラミックプレート12と接合層16との間の接合界面20がMg含有層24を含むようにすることで、及び/又は(2b)MMCプレート14が、接合層16とMMCプレート14との間の接合界面22から所定の深さ(厚さ)にわたってAl拡散層26を有するようにすることで、高い接合強度を有するセラミックプレート12及びMMCプレート14の接合体10を提供することができる。すなわち、所定の接合層16の採用のみならず、Mg含有層24及び/又はAl拡散層26を設けることで、MMCプレート14とセラミックプレート12との間で高い接合強度を実現することができる。
【0012】
セラミックプレート12は、セラミック焼結体を含む板状部材であり、公知のセラミックサセプタ(例えば静電チャックアセンブリやセラミックヒータ等)で採用されるセラミックプレートと同様の構成でありうる。典型的には、セラミックプレート12には内部電極18が埋設されている。セラミックプレート12の内部電極18以外の主要部分(すなわちセラミック基体)を構成するセラミック焼結体は、優れた熱伝導性、高い電気絶縁性、及びシリコンに近い熱膨張特性等の観点から、酸化アルミニウム及び/又は窒化アルミニウムを含むのが好ましく、より好ましくは窒化アルミニウムを含む。セラミックプレート12を構成するセラミック焼結体は酸化アルミニウム及び/又は窒化アルミニウムの他に、MgO等の添加剤を含みうる。この場合、セラミックプレート12を構成するセラミック焼結体における酸化アルミニウム及び/又は窒化アルミニウムの含有率は、典型的には50~100質量%であり、残部にはMgO等の添加剤が含まれうる。セラミックプレート12の厚さは、一般的なセラミックプレートの厚さであることができ、特に限定されないが、典型的には2~10mmであり、より典型的には2~5mmでありうる。
【0013】
セラミックプレート12に埋設される内部電極18の例としては、ESC電極、ヒータ電極、RF電極が挙げられる。セラミックプレート12内に、2種類の内部電極18を設けてもよい。ESC電極は、静電チャック(ESC)電極の略称であり、静電電極とも称される。ESC電極は、セラミックプレート12よりもやや小径の円形の薄層電極であるのが好ましく、例えば、細い金属線を網状に編み込んでシート状にしたメッシュ状の電極でありうる。ESC電極はプラズマ電極として利用してもよい。すなわち、ESC電極に高周波を印加することにより、ESC電極をプラズマ電極としても使用することができ、プラズマCVDプロセスによる成膜を行うこともできる。ESC電極は、外部電源によって電圧が印加されるとセラミックプレート12の表面に載置されたウェハをジョンソン・ラーベック力によりチャッキングする。ヒータ電極は、特に限定されないが、例えば導電性のコイルをセラミックプレート12の全面にわたって一筆書きの要領で配線したものでありうる。ヒータ電極は、ヒータ電源から電力が供給されると発熱してセラミックプレート12の表面に載置されたウェハを加熱する。ヒータ電極は、コイルに限定されるものではなく、例えばリボン(細長い薄板)であってもよいし、メッシュであってもよい。リボン形状のヒータ電極は、印刷法によって形成されたものであってもよい。
【0014】
MMCプレート14は、金属基複合材料(Metal Matrix Composite(MMC))で構成される。MMCは、金属マトリックス中にセラミック強化材を複合させた公知の材料であってよく、特に限定されない。金属マトリックスの例としては、アルミニウムや金属シリコンが挙げられる。セラミック強化材の例としては、SiCやTiC等が挙げられる。好ましいMMCは、Si、C及びTiを含む。Si、C及びTiを含むMMCの例としては、炭化珪素を37~60質量%含有し、かつ、チタンシリコンカーバイド及び炭化チタンをそれぞれ炭化珪素の含有量(質量%)よりも少ない量で含有する複合材料が挙げられる。MMCプレート14の厚さは、特に限定されないが、典型的には5~35mmである。
【0015】
MMCプレート14の接合界面22側の表面は、0.01~1.0μmの算術平均粗さRaを有するのが好ましく、より好ましくは0.05~0.70μm、である。上記範囲内の算術平均粗さRaであると接合強度をより効果的に高めることができる。これは、Raが高すぎないことでMMCプレート14と接合層16との密着性が向上することに加え、Raが低すぎないことでMMCプレート14の表面粗さ又は凹凸によるアンカー効果が得られることによるものと考えられる。
【0016】
接合層16は、Alを主成分として含み、かつ、Si及びMgを副成分として含む金属層である。ここで、「主成分」とは接合層16の80重量%以上を占める成分を意味する。「副成分」とは、主成分よりも低い含有量で含まれる成分(ただし不可避不純物は除く)である。したがって、接合層16を構成する接合材は、Si及びMg含有Al合金であるのが好ましい。このAl合金におけるSi含有量は5~15重量%が好ましい。また、このアルミニウム合金におけるMg含有量は0.1~5.0重量%が好ましい。すなわち、接合層16は、Si:5~15重量%、Mg:0.5~5.0重量%を含み、残部がAl及び不可避不純物を含むAl合金で構成されるのが好ましい。
【0017】
セラミックプレート12と接合層16との間の接合界面20は、Mg含有層24を含むのが好ましい。接合界面20にMg含有層24が存在することで、セラミックプレート12と接合層16との接合強度が改善され、その結果、セラミックプレート12とMMCプレート14との間で高い接合強度を実現できるものと考えられる。Mg含有層24はEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)により取得した元素マッピング像において接合界面20においてその周囲よりも高濃度にMgを含む層として特定される。Mg含有層24はAl及びOをさらに含むのが好ましい。この場合、Mg含有層24における、Al:Mg:Oの重量比は1:0.01~0.50:0.001~0.100の範囲内であるのが好ましく、さらに好ましくは1:0.05~0.30:0.005~0.050の範囲内である。Al:Mg:Oの重量比はEPMAにより測定することができる。Mg含有層24の厚さは、接合強度改善の観点から、1~10μmであるのが好ましく、より好ましくは1~7μmである。
【0018】
セラミックプレート12、接合層16及びMMCプレート14の接合が、熱圧接であるのが好ましい。熱圧接は、接合されるべき2つの部材の間に金属接合膜(接合層16に相当)を挟み込み、金属接合膜の液相線温度未満の温度に加熱しながら2つの部材を加圧接合する方法をいう(特許文献1参照)。
【0019】
MMCプレート14は、
図2に示されるように、接合層16とMMCプレート14との間の接合界面22から所定の深さD
Alにわたって接合層16に由来するAlが拡散されたAl拡散層26を有しているのが好ましい。前述したとおり、Al拡散層26を設けることで、MMCプレート14とセラミックプレート12との間で高い接合強度を実現することができる。Al拡散層26は、後述する
図5Bに例示されるように、EPMAにより取得したAl元素マッピング像において、MMCプレート14における接合界面22に隣接した領域に観察される(MMCプレート14の他の領域よりも)高濃度にAlを含む層として特定される。すなわち、Al元素マッピング像において、高濃度のAlを示す画素が、接合層16から連続してMMCプレート14の接合界面22に隣接した領域にわたって分布する場合、MMCプレート14の上記隣接領域に高濃度に観察されるAlは、接合層16に由来するAlであるといえる。こうして、Al拡散層26が特定される。Al拡散層26の深さD
Alは40μm以上であるのが好ましく、より好ましくは40~600μm、さらに好ましくは50~500μm、特に好ましくは250~500μmである。
【0020】
MMCプレート14は、
図2に示されるように、Al拡散層26に加えて、接合層16とMMCプレート14との間の接合界面22から所定の深さD
Mgにわたって接合層16に由来するMgが拡散されたMg拡散層28も有しているのが好ましい。この場合、Al拡散層26及びMg拡散層28とは少なくとも部分的に重なっている(すなわちMMCプレート14にはAl拡散層26及びMg拡散層28の両方に該当する部分が存在する)。Mg拡散層28も、Al拡散層26とともに高い接合強度の実現に寄与しうるものと考えられる。Mg拡散層28は、後述する
図5Bに例示されるように、EPMAにより取得したMg元素マッピング像において、MMCプレート14における接合界面22に隣接した領域に観察される(MMCプレート14の他の領域よりも)高濃度にMgを含む層として特定される。すなわち、Mg元素マッピング像において、高濃度のMgを示す画素が、接合層16から連続してMMCプレート14の接合界面22に隣接した領域にわたって分布する場合、MMCプレート14の上記隣接領域に高濃度に観察されるMgは、接合層16に由来するMgであるといえる。こうして、Mg拡散層28が特定される。Mg拡散層28の深さD
Mgは10~300μmであるのが好ましく、より好ましくは20~200μm、さらに好ましくは90~180μmである。典型的には、Al拡散層26の深さD
AlはMg拡散層28の深さD
Mgよりも大きい(すなわちD
Al>D
Mgを満たす)。
【0021】
MMCプレート14は、内部に冷媒を通すこと可能な流路等の内部空間を有していてもよい。こうすることで、MMCプレート14は、静電チャックアセンブリの冷却プレートに適した構成となる。
【0022】
接合体10は、4点曲げ試験において、好ましくは200MPa以上、より好ましくは250MPa以上、さらに好ましくは300MPa以上の接合強度を呈する。4点曲げ試験は、後述する実施例に開示される手順及び条件に従って行うものとし、それにより得られる最大曲げ応力を接合強度として採用するものとする。接合強度は高いことが望まれるため、上限値は特に限定されるものではないが、典型的には500MPa以下、より典型的には450MPa以下である。
【0023】
接合体の製造方法
本発明の接合体は、所定の層構成の接合体が得られるかぎり、いかなる方法により製造されたものであってもよいが、以下に好ましい製造方法を説明する。
【0024】
まず、内部電極が埋設されたセラミックプレート、MMCプレート、及び接合層を用意する。各部材の詳細については上述したとおりである。セラミックプレート、MMCプレート、及び接合層はいずれも、公知のものを使用することができるが、公知の方法に基づき適宜製造してもよい。
【0025】
次に、セラミックプレート、MMCプレート、及び接合層の各々に対して、有機溶剤を用いて超音波洗浄を行う。超音波洗浄により各部材の表面に付着した汚れを除去することができ、各部材と接合層との接合性が向上し、結果として高い接合強度を実現ことができる。有機溶剤の好ましい例としては、アセトンやイソプロピルアルコール(IPA)が挙げられる。超音波洗浄時間を長くすることで汚れをより一層除去することができ、熱圧接時にMgやAlといった元素の移動や拡散を促進することができる。したがって、超音波洗浄時間を制御することで、後続の熱圧接において、Mg含有層の形成/非形成を制御し、かつ、Al拡散層の深さ(厚さ)及びMg含有層の深さ(厚さ)を変化させることができる。例えば、超音波洗浄時間を長くすることで、Mg含有層を形成させ、かつ、Al拡散層の深さ及びMg含有層の深さを大きくすることができる。各部材の表面に付着した汚れをより効果的に除去する観点から、アセトンを用いた超音波洗浄と、イソプロピルアルコール(IPA)を用いた超音波洗浄の両方を行うのが望ましい。超音波洗浄が施されたセラミックプレート及びMMCプレートは、純水を用いた流水洗浄、N2ガスでのブロー、有機溶媒(IPA等)を含浸させたワイプシートでの拭き取り、及び乾燥を施すことで更に清浄化されるのが好ましい。また、超音波洗浄が施された接合層は、N2ガスでのブローを施すことで更に清浄化されるのが好ましい。
【0026】
こうしてそれぞれ清浄化されたセラミックプレート、MMCプレート、及び接合層を用いて熱圧接により接合体を作製する。例えば、セラミックプレートとMMCプレートとの間に接合層を挟んで、接合材膜の液相線温度未満の温度に加熱しながら、4MPa~30MPaの圧力で熱圧接して、セラミックプレートとMMCプレートとを接合層を介して接合すればよい。熱圧接温度は、接合層の液相線温度未満で、かつ、固相線温度より約30℃低い温度以上であることが望ましい。例えば、Si:10重量%及びMg:1重量%を含有するアルミニウム合金の液相線温度は約590℃であり、固相線温度は約560℃である。したがって、この場合における熱圧接温度は約520℃以上約540℃未満の範囲が望ましいといえる。こうして、セラミックプレートとMMCプレートとが接合層を介して接合された本発明の接合体を得ることができる。
【実施例】
【0027】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0028】
例1~9
(1)セラミックプレートの作製
セラミックプレートとして、ESC電極が埋設された円板状の酸化アルミニウム焼結体(厚さ:5mm、直径:300mm)を以下のようにして作製した。まず、円盤状のアルミナ製の第1及び第2グリーンシートを準備した。第1グリーンシートの一方の表面にスクリーン印刷によりESC電極を形成する一方、第2グリーンシートの一方の表面にスクリーン印刷によりヒータ電極を形成した。次に、第1グリーンシートのESC電極が形成された面に、別のアルミナ製のグリーンシート(以下、第3グリーンシートという)を積層し、その上に第2グリーンシートをヒータ電極が第3グリーンシートと接するように積層した。得られた積層体をホットプレス法により焼成することによりESC電極及びヒータ電極が埋設されたセラミック焼結体を得た。得られたセラミック焼結体の両面に研削加工、ブラスト加工等を施すことにより形状や厚みを調整し、平板状の静電チャックをセラミックプレートとして得た。この静電チャックの具体的な製造条件については、特開2006-196864号公報に記載される条件を参考にして設定した。
【0029】
(2)MMCプレートの作製
MMCプレートとして、Si、C及びTiを含むプレート(SiSiCTiプレート)を以下のようにして作製した。まず、原料として、SiC原料(純度97%以上、平均粒径15.5μmの市販品)、金属Si原料(純度97%以上、平均粒径9.0μmの市販品)、及び金属Ti原料(純度99.5%以上、平均粒径31.1μmの市販品)を準備した。SiC原料、金属Si原料、及び金属Ti原料を、SiC:49.5質量%、Si:20.0質量%、Ti:30.5質量%の配合割合となるように秤量し、溶媒としてのイソプロピルアルコールとともにナイロン製のポットに投入し、直径10mmの鉄芯入りナイロンボールを用いて4時間湿式混合した。得られたスラリーを取り出し、窒素気流中110℃で乾燥した後、30メッシュの篩に通して調合粉末とした。 調合粉末を、200kgf/cm2の圧力で一軸加圧成形し、直径50mm、厚さ17mm程度の円盤状成形体を作製し、焼成用黒鉛モールドに収納した。円盤状成形体をホットプレス焼成することによりMMCプレートを得た。このホットプレス焼成は、真空雰囲気下で200kgf/cm2のプレス圧力を加えながら、焼成温度(最高温度)1400℃で4時間保持することにより行った。
【0030】
こうして準備されたMMCプレートにおける接合層が接合されるべき表面に対して、触針式表面粗さ測定機を用いて、JIS B 0601-2001に準拠する算術平均粗さRaを測定した。結果は表1に示されるとおりであった。
【0031】
(3)接合層の準備
接合層とすべく、厚さ0.12mmのSi及びMg含有Al合金シート(合金組成:Si:10重量%、Mg:1重量%、残部:Al及び不可避不純物)を準備した。
【0032】
(4)清浄化工程
セラミックプレート及びMMCプレートの各々に対して以下の清浄化工程(i)~(v)を順に行う一方、Si及びMg含有Al合金シートに対して以下の清浄化工程(i)、(ii)及び(iv)のみを順に行った。
<清浄化工程>
(i)アセトンを用いた超音波洗浄(例9では実施せず)
(ii)イソプロピルアルコール(IPA)を用いた超音波洗浄(例9では実施せず)
(iii)純水を用いた流水洗浄
(iv)N2ガスでのブロー
(v)120℃で10分間の乾燥
【0033】
このとき、(i)アセトンを用いた超音波洗浄と(ii)イソプロピルアルコール(IPA)を用いた超音波洗浄との合計洗浄時間、すなわち有機溶剤での超音波洗浄時間を表1に示されるように実験例ごとに変化させた。したがって、上述のとおり、例9については上記(i)及び(ii)の超音波洗浄は行わなかった。
【0034】
(5)熱圧接
それぞれ清浄化されたセラミックプレート、MMCプレート及びボンディングシートを用いて以下のとおり熱圧接を行った。すなわち、セラミックプレートとMMCプレートとの間に接合層としてボンディングシートを挟んで530℃(Si及びMg含有Al合金の液相線温度未満で、かつ、固相線温度より約30℃低い温度以上の温度)に加熱しながら真空中20MPaの圧力で熱圧接して、セラミックプレート、ボンディングシート(接合層)及びMMCプレートを互いに接合した。こうして、セラミックプレートとMMCプレートとが接合層を介して接合された接合体を得た。
【0035】
(6)接合体の評価
作製した接合体について以下の評価を行った。
【0036】
<EPMAによる元素マッピング像の取得>
得られた接合体における断面を切り出して鏡面研磨を行った後、Arイオンによるフラットイオンミリングを実施して観察断面を得た。得られた観察断面におけるセラミックプレート12、接合界面20及び接合層16を含む75μm×75μmの領域をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察するとともに、当該領域に対してEPMA(日本電子株式会社製)による元素分析を加速電圧15kVの測定条件で行い、Si、C、Ti、O、Mg及びAlの元素マッピング像を得た。
図3A及び3Bに、例7の接合体におけるセラミックプレート12、接合界面20及び接合層16を含む断面のSEM像(Compo像)及びそれに対応する領域の各種元素マッピング像を示す。その結果、表1並びに
図3A及び3Bに示されるように、例1~7の接合体においては、接合界面20にその周囲よりも高濃度にMgを含むMg含有層24が観察されるとともに、このMg含有層24がAl及びOをさらに含むことも確認された。一方、例8及び9(比較例)の接合体においては、そのようなMg含有層は観察されなかった。
【0037】
また、得られた観察断面における接合層16、接合界面22及びMMCプレート14
を含む75μm×75μmの領域についても、上記同様にしてSEM観察及びEPMA元素分析を行った。
図4A及び4Bに、例7の接合体における接合層16、接合界面22及びMMCプレート14を含む断面のSEM像(Compo像)及びそれに対応する領域の各種元素マッピング像を示す。その結果、例1~9の接合体の全てにおいて、
図4A及び4Bに示されるように、MMCプレート14(SiSiCTiプレート)内にTiC粒子(図中の黒色粒子を参照)、TiSi
2母相(図中の灰色部分を参照)及びSiC粒子(図中の白色粒子を参照)を有する微構造が観察された。また、例1~7の接合体においては、MMCプレート14を構成するSiSiCTi内にMg及びAlが拡散されていることも確認された。
【0038】
さらに、接合層16、接合界面22及びMMCプレート14
を含む、より広い300μm×300μmの断面領域についても、倍率を低くしたこと及び濃度スケールを縮小したこと以外は上記同様にしてSEM観察及びEPMA元素分析を行った。
図5A及び5Bに、例7の接合体における接合層16、接合界面22及びMMCプレート14を含む断面のSEM像(Compo像)及びそれに対応する領域の各種元素マッピング像の濃度スケールを縮小したバージョンを示す。その結果、例1~9の接合体において、MMCプレート14内における、接合界面22からMMCプレート14の深さ方向にわたって接合層16に由来するAl及びMgがそれぞれ拡散されたものと認められるAl拡散層26及びMg拡散層28の存在が確認された。Al拡散層26の接合界面22からの深さD
Al及びMg拡散層28の接合界面22からの深さD
Mgを測定したところ、表1に示されるとおりの値が得られた。
【0039】
<Mg含有層におけるAl:Mg:Oの重量比>
EPMA測定結果から0.24μm×0.24μmに相当する1ピクセルごとの各元素の半定量値を算出し、300ピクセルの平均値より重量比計算を行いAl:Mg:Oの重量比を算出した。
【0040】
<接合強度>
得られた接合体から、接合層が長尺方向の中心に位置するように長尺状の試料を切り出し、試料の表面を研削加工して1.5mm×2.0mm×20mmの寸法の試験片を作製した。この試験片に対して、接合界面を中心となるように下部スパン15mm、上部スパン5mm、クロスヘッド速度:0.5mm/分の条件で、4点曲げ試験を行い、得られた最大曲げ応力(MPa)を接合強度とした。結果は、表1に示されるとおりであった。
【0041】
【要約】
高い接合強度を有するセラミックプレート及びMMCプレートの接合体が提供される。この接合体は、セラミックプレートと、セラミックプレートの一方の側と対向して設けられ、金属基複合材料(MMC)で構成されるMMCプレートと、セラミックプレートとMMCプレートとの間に設けられ、セラミックプレート及びMMCプレートを接合する接合層であって、Alを主成分として含み、かつ、Si及びMgを副成分として含む接合層とを備え、セラミックプレートと接合層との間の接合界面がMg含有層を含む。