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特許7606654マクロファージの細胞付着・再生促進用ナノリガンド、及びこれを用いたマクロファージの細胞付着・再生を促進する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】マクロファージの細胞付着・再生促進用ナノリガンド、及びこれを用いたマクロファージの細胞付着・再生を促進する方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20241219BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20241219BHJP
   C12N 5/0786 20100101ALI20241219BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12M1/00 A
C12N5/0786
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021031826
(22)【出願日】2021-03-01
(65)【公開番号】P2021137005
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2021-03-18
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】10-2020-0025477
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0050357
(32)【優先日】2020-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518107501
【氏名又は名称】コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】145,Anam-ro,Seongbuk-gu,Seoul,Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】カン,ヒ-ミン
(72)【発明者】
【氏名】チャンドラ カトゥーア
(72)【発明者】
【氏名】ペ,グン-ヒュ
(72)【発明者】
【氏名】チェー,ヒョ-ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ミン,スン-ホン
【合議体】
【審判長】中村 浩
【審判官】中根 知大
【審判官】小暮 道明
(56)【参考文献】
【文献】Nano Lett., 2017, Vol.17, pp.1685-1695
【文献】NATURE COMMUNICATIONS, 2019, Vol.10, No.1696, pp.1-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性ナノ粒子を含むコアと、
前記コアを包み込むように設けられ、インテグリン付着性リガンドペプチドを含むコーティング層と、
を含むマクロファージの細胞付着及び再生促進用のスライド可能なナノリガンドであって、
前記インテグリン付着性リガンドペプチドは、負に荷電され、それによって、当該ナノリガンドは、正に荷電された基板と静電気的相互作用を介して結合して、前記基板上でスライド可能であり、磁場を印加して当該ナノリガンドをスライドさせることにより当該ナノリガンドの密度を制御することによって、マクロファージの付着及び再生を促進することを特徴とする、マクロファージの細胞付着及び再生促進用のスライド可能なナノリガンド。
【請求項2】
前記磁性ナノ粒子は、シリカが表面に結合されたことを特徴とする、請求項1に記載のマクロファージの細胞付着及び再生促進用のスライド可能なナノリガンド。
【請求項3】
前記コアとコーティング層を接続するリンカーを更に含み、
前記リンカーは、ポリエチレングリコール(PEG)系リンカーである、請求項1に記載のマクロファージの細胞付着及び再生促進用のスライド可能なナノリガンド。
【請求項4】
前記ナノリガンドは、直径が30nm~60nmであり、前記磁性ナノ粒子は、直径が5nm~30nmである、請求項1に記載のマクロファージの細胞付着及び再生促進用のスライド可能なナノリガンド。
【請求項5】
前記インテグリン付着性リガンドペプチドは、負に荷電されたチオール化インテグリン付着性リガンドペプチドを含み、
前記ナノリガンドの表面は負に荷電されている、請求項1に記載のマクロファージの細胞付着及び再生促進用のスライド可能なナノリガンド。
【請求項6】
磁性ナノ粒子を含むコアを用意するステップと、
コアをリンカーを含む第1の懸濁液と混合してリンカーが結合されたコアを製造するステップと、
前記リンカーが結合されたコアをインテグリン付着性リガンドペプチド(RGD)を含む第2の懸濁液と混合するステップと、
を含む、請求項1~5のうちいずれか1項に記載のマクロファージの細胞付着及び再生促進用のスライド可能なナノリガンドの製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のうちいずれか1項に記載のマクロファージの細胞付着及び再生促進用のスライド可能なナノリガンドを含む溶液に、表面が正に荷電された基板を担持して、負に荷電されたインテグリン付着性リガンドペプチドを含む前記ナノリガンドが前記基板と静電気的相互作用を介して結合したナノリガンド提示基板を製造するステップと、
体外で前記ナノリガンド提示基板に培養液を処理した後、外部の磁場を印加して前記ナノリガンド提示基板上の前記ナノリガンドをスライドさせることにより前記ナノリガンドの密度を制御することによって、マクロファージの細胞付着及び再生性分極化を調整するステップと、
を含む、マクロファージの細胞付着及び再生を促進する方法。
【請求項8】
前記ナノリガンド提示基板を製造するステップは、
基板の表面を酸性溶液に浸漬させるステップと、
浸漬済みの基板をアミノシラン溶液に担持して前記基板の表面が正に荷電させるステップと、
正に荷電された基板を室温で超音波を利用して処理するステップと、
を含む、請求項7に記載のマクロファージの細胞付着及び再生を促進する方法。
【請求項9】
前記表面が正に荷電された基板は、アミノシラン溶液に基板を担持して前記基板の表面が正電荷を帯びるように活性化させることを特徴とする、請求項7に記載のマクロファージの細胞付着及び再生を促進する方法。
【請求項10】
前記マクロファージの細胞付着及び再生性分極化を調整するステップは、体外に前記ナノリガンド提示基板を位置させた後、100~700mTの磁場を12時間~48時間印加して行う、請求項7に記載のマクロファージの細胞付着及び再生を促進する方法。
【請求項11】
前記マクロファージの細胞付着及び再生性分極化を調整するステップは、基板に印加される磁場の位置を変化させて行う、請求項7に記載のマクロファージの細胞付着及び再生を促進する方法。
【請求項12】
前記マクロファージの細胞付着及び再生性分極化を調整するステップは、基板に印加される磁場の位置を経時変化させて行う、請求項7に記載のマクロファージの細胞付着及び再生を促進する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロファージの細胞付着・再生促進用ナノリガンド、及び当該ナノリガンドを用いたマクロファージの細胞付着・再生を促進する方法に関し、具体的には、当該ナノリガンドを用いマクロファージの細胞付着や再生性分極化の遠隔制御を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マクロファージは、先天免疫を担当する主要な細胞である。ほとんどは体中に定着性細胞として存在するが、一部、血液で単球として存在するものもある。当該単球は、樹状細胞やマクロファージに分化することができる。ほとんどのマクロファージは定着性であり、主に肺胞マクロファージ、Fミクログリア、クッパー細胞、ランゲルハンス細胞などが挙げられる。これらの細胞は体中に分布しながら、抗原が侵入すると捕食するか、或いは毒素を分泌して抗原を破壊し、リンパ球に抗原を伝達して免疫反応を引き起こす。血中の単球は敵が傷に侵入すると、好中球のように血管外に出て、マクロファージに分化して細菌を除去する。また、マクロファージは体内複数の場所を移動して食作用をする遊走性(Free form)と指定された臓器に固定されて食作用をする定着性(Fixed form)に分けられる。定着性マクロファージとしては、肝臓のクーパー細胞(Kupffer cell)、肺胞のマクロファージ、結合組織の構造(Histiocyte)、脳の小膠細胞(Microglia)などが挙げられる。
【0003】
このように、マクロファージのM2分極化による再生成効果及びM1分極化による抗炎症性効果を効率的に制御するための方法として、リガンドの提示による体内技術が開示されている。しかしながら、従来の体内におけるナノリガンド提示はほぼ静的で、たとえ動的であってもリアルタイムの遠隔制御による
マクロスケールのナノリガンド密度の可逆的変化を引き起こせないという短所があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】韓国公開特許第2018-0017704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、基板と静電的に結合して移動できるナノリガンドを提供し、当該ナノリガンドを用いて、リアルタイムの遠隔制御により巨視的なナノリガンド密度の可逆的変化を引き起こし、マクロファージの細胞付着や再生性分極化を促進する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、磁性ナノ粒子を含むコアと、コアを包み込むように設けられ、インテグリン付着性リガンドペプチドを含むコーティング層と、を含み、
インテグリン付着性リガンドペプチドは、負に荷電されたことを特徴とする、マクロファージの細胞付着・再生促進用ナノリガンドを提供する。
【0007】
更に本発明は、磁性ナノ粒子を含むコアを用意するステップと、コアをリンカーを含む第1の懸濁液と混合してリンカーが結合されたコアを製造するステップと、リンカーが結合されたコアをインテグリン付着性リガンドペプチド(RGD)を含む第2の懸濁液と混合するステップと、を含む、上述したマクロファージの細胞付着・再生促進用ナノリガンドの製造方法を提供する。
【0008】
更に、本発明は、上述したマクロファージの細胞付着・再生促進用ナノリガンドを含む溶液に、表面が活性化された基板を担持して、ナノリガンド提示基板を製造するステップと、ナノリガンド提示基板に培養液を処理した後、外部の磁場を印加し、マクロファージの細胞付着・再生性分極化を調整するステップと、を含む、マクロファージの細胞付着・再生を促進する方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるマクロファージの細胞付着・再生促進用ナノリガンドは、磁性ナノ粒子を含むコア上に負に荷電されたリガンドをコーティングしたもので、基板との静電結合により基板上で容易に移動(スライド)できる。
【0010】
更に、本発明によるマクロファージの細胞付着・再生を促進する方法は、当該ナノリガンドを含む基板に磁場を印加することにより、ナノリガンドのスライドを時間的・空間的に制御するに留まらず、可逆的な制御をも可能とし、磁場ベースの時空間的制御により体外・体内でのマクロファージの細胞付着や表現型の分極を効率的に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施例によるマクロファージの細胞付着・再生促進用ナノリガンド、及びこれを用いたマクロファージの細胞付着・再生方法を示した模式図である。
図2】本発明の一実施例によるマクロファージの細胞付着・再生を促進する方法を図式化した図である。
図3】本発明の一実施例によるスライド可能なナノリガンドの透過型電子顕微鏡像(TEM)である(スケールバー:20nm)。
図4】本発明の一実施例によるスライド可能なナノリガンドの特性を示したもの。(a)は、サイズ分布を有する磁性ナノ粒子(MNP)とアミノ-シリカ被覆MNPの動的光散乱画像、(b)は、代表的なアミノ-シリカ被覆MNPの高角散乱環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(High-angle annular dark-field scanning transmission electron microscopy、HAADF-STEM)画像である(スケールバー:20nm)。
図5】本発明の一実施例によるスライド可能なナノリガンドのフーリエ変換赤外スペクトル画像である。
図6】本発明の一実施例によるスライド可能なナノリガンドの振動サンプル磁力計ヒステリシス(Vibrating sample magnetometer hysteresis)である。
図7】本発明の一実施例による基板とスライド可能なナノリガンドの静電結合(Electrostatic coupling)を図式化した画像である。
図8】本発明の一実施例にマイクロスケールとナノスケールのナノリガンドのスライドに対するIn situ可逆的時空間操作(In situ reversible spatiotemporal manipulation)を撮像した走査電子顕微鏡(SEM)画像、並びに原子間力顕微鏡(AFM)画像である。(a)及び(b)は、正に荷電された基板とナノリガンドの画像、(c)及び(d)は、低速度SEM撮像(Time-lapse SEM imaging)の結果、(e)は、AFM走査によるナノリガンドのスライドにおけるナノスケールの変位を示したものである。
図9】比較例として永久磁石無しで撮影した、In situナノリガンドのスライドの原子間力顕微鏡(AFM)画像である。
図10】本発明の一実施例によるスライドナノリガンドのIn situ制御におけるインテグリンβ1(integrinβ1)結合の調整に関する。(a)基板の「左下」に永久磁石があるスライドナノリガンドの模式図、(b)基板の「磁石」、「中間」、「非磁石」でスライド可能なナノリガンドに結合された後のインテグリンβ1クラスタに対する免疫蛍光の共焦点顕微鏡画像(スケールバー:50μm)、(c)基板の「磁石」、「中間」、「非磁石」でインテグリンβ1クラスタの染色強度の定量を示したグラフでである。
図11】本発明の一実施例によるナノリガンドのスライドのIn situ制御実験結果を示した図である。(a)は、基板の底(「磁石」側)に永久磁石を配置して行った24時間のマクロファージ培養後、ビンキュリン、アクチン、核の免疫蛍光染色と相応の共焦点顕微鏡画像と共に、基板の底(「磁石」の側)に永久磁石を配置することでスライド可能なナノリガンドを操作している概略図である。(b)は、マクロファージの細胞付着細胞密度、細胞の面積、細胞縦横比の定量を示したグラフである。
図12】比較例によるマクロファージの細胞付着性実験の結果である。(a)は、RGDペプチドリガンド又は磁場がない場合、24時間のマクロファージ培養の後、ビンキュリン、アクチン、核の免疫蛍光染色の共焦点顕微鏡画像である。(b)は、マクロファージ密度、面積、縦横比の定量を示したグラフである。
図13】本発明の一実施例によるマクロスケールのナノリガンドの調整によりマクロファージの細胞付着性を制御した実験結果である。(a)は、基板の底に永久磁石を配置した(「磁場(MF)」)状態、又は基板から永久磁石を取り除いた(「磁場なし(NMF)」)状態で行った12時間又は24時間のマクロファージ培養後の、F-アクチンと核を持つビンキュリンに対する免疫蛍光の共焦点顕微鏡画像である。(b)は、基板の「左側」面のマクロファージの密度、細胞の面積、細胞縦横比を計算したグラフである。
図14】本発明の一実施例によるナノリガンドの時間調整による基板の「右側」面におけるマクロファージ密度、面積、縦横比の定量を示したグラフである。
図15】本発明の一実施例によるマクロスケールナノリガンド提示の時間的切り替えに対する(a)免疫蛍光の共焦点顕微鏡画像、(b)マクロファージの密度、細胞の面積、細胞の縦横比を計算したグラフである。
図16】本発明の一実施例によるナノリガンドの時間調整磁気引力に基づいた表現型の実験結果である。(a)は、M2分極培地で培養されたマクロファージのM2表現型マーカ(Arginase-1及びYm1)、又はM1分極培地で培養されたマクロファージのM1表現型マーカ(iNOS及びTNF-α)の定量的遺伝子発現を示したグラフである。(b)~(c)は、培養されたマクロファージのArg-1及び核のiNOSの免疫蛍光の共焦点顕微鏡画像である。
図17】本発明の一実施例によるスライド可能なナノリガンドのM1分極培地(polarizing medium)におけるマクロファージのM2表現型を示したグラフである。
図18】本発明の一実施例によるスライド可能なナノリガンドのM2分極培地(polarizing medium)におけるマクロファージのM1表現型を示したグラフである。
図19】本発明の一実施例によるスライド可能なナノリガンドの磁気引力の静電気的引力に対するマクロファージのM2表現型実験における免疫蛍光の共焦点顕微鏡画像である。
図20】本発明の一実施例によるナノリガンドの自己人材調整実験の、(a)免疫蛍光の共焦点顕微鏡画像、(b)付着性マクロファージの密度、細胞の面積、細胞縦横比を、或いはM2培地で培養した後の面積、縦横比、Arg-1の染色強度の計算を示したグラフである。
図21】本発明の一実施例によるスライド可能なナノリガンドの磁気引力に対する体内での宿主マクロファージの細胞付着性・炎症性M1表現型に関する実験の結果である。(a)は、体内でスライド可能なナノリガンドの磁気制御の凡その模式図である。(b)は、基板の「磁石」側と「非磁石」側に付着した細胞のiNOS、F-アクチン、核の免疫蛍光の共焦点顕微鏡画像である。(c)は、体内の付着細胞のM1表現型マーカ(iNOS及びTNF-α)の遺伝子発現プロファイル(n=3)、密度、細胞の面積、細胞縦横比(n=30)の計算を示したグラフである。
図22】本発明の一実施例によるスライド可能なナノリガンドに関する宿主好中球の体内付着実験の結果である。(a)は、基板上にIL-4及びIL-13を皮下注入して24時間後、スライド可能なナノリガンドを表す基板の「磁石側」と「非磁石側」に付着された宿主細胞のNIMP-R14、F-アクチン、核に関する免疫蛍光染色の共焦点顕微鏡画像である。(b)は、体内に付着されたNIMP-R14陽性宿主好中球の密度の定量を示したグラフである。
図23】本発明の一実施例によるスライド可能なナノリガンドの磁気引力(magnetic attraction)に対する体内での宿主マクロファージの細胞付着性・再生性M2表現型に関する実験の結果を図示したものである。(a)は、IL-4及びIL-13を注入した基板を皮下移植注して24時間後、スライド可能なナノリガンドを有する基板の「磁石」側とと「非磁石」側に付着された宿主細胞のArg-1、F-アクチン、核に関する免疫蛍光染色の共焦点顕微鏡画像である。(b)は、体内の付着細胞のM2表現型マーカ(Arg-1及びYm1)の遺伝子発現プロファイル(n=3)、密度、細胞の面積、細胞縦横比(n=30)の計算を示したグラフである。図4bに図示された(c)ROCK信号阻害(Y27632を有する)の下、核と細胞質のYAP蛍光比と、(d)ミオシンII形成阻害(ブレビスタチンを有する)の細胞面積を計算したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をより具体的に説明するために、本発明による好ましい実施例を、添付の図面を参照しながらより詳しく説明する。ただし本発明は、本願で説明している実施例に限られず、他の形態で具体化されてもよい。
【0013】
マクロファージは、リモデリングされ続けた細胞外マトリックス(ECM)と相互作用を取り成し、これによって体内で空間的且つ時間的に異質なマクロスケールのナノリガンド分布を引き起こす。本発明によりマクロファージの細胞付着・再生促進用ナノリガンドは、マクロスケールのナノリガンド分布を空間的且つ時間的に変化させることで可逆的な遠隔制御を可能にして細胞外マトリックス(ECM)リモデリングを模倣し、時間的且つ空間的な宿主反応(host responses)の制御のためのマクロファージの細胞付着や分極を調整することができる。本発明のナノリガンドは、負に荷電されたスライドナノリガンドと正に荷電された基板との静電相互作用を介して結合し、高分子リンカーと負に荷電されたRGDリガンドコーティング磁性コアナノ粒子(magnetic core nanoparticles)を用いて、ナノリガンドのスライドの可能性を最適化した。マクロスケールのナノリガンド密度を時空間的且つ可逆的に変化させる外部磁場の下、マクロスケールとIn situナノスケールのナノリガンドスライドの特徴を確認した。更に、本発明は、体内で宿主マクロファージの細胞付着や分極表現型を調整するために、スライド可能なナノリガンドを磁気的に引き寄せ、マクロスケールのナノリガンド密度で、新規のIn situ操作を提示する。具体的には、スライド可能なナノリガンドの時間制御を施された磁気引力は、マクロファージの炎症性M1表現型を抑制する一方、再生性M2表現型を刺激する。また、本発明のスライド可能なナノリガンドの磁気引力は、マクロファージ内付着構造の組み立て(assembly)を促進し、M2表現型の分極を刺激する。これにより、本発明によるナノリガンドは、マクロスケールのナノリガンド密度の遠隔、時空間的且つ可逆的な制御により体内インプラント(implant)の免疫調整組織再生成反応の時空間的調整を可能にする。
【0014】
本発明は、磁性ナノ粒子を含むコアと、コアを包み込むように設けられ、インテグリン付着性リガンドペプチドを含むコーティング層と、を含み、インテグリン付着性リガンドペプチドは、負に荷電されたことを特徴とする、マクロファージの細胞付着・再生促進用ナノリガンドを提供する。
【0015】
図1は、本発明によるマクロファージの細胞付着・再生促進用ナノリガンド、及びこれを用いたマクロファージの細胞付着・再生方法を示した模式図である。
【0016】
図1から、本発明のナノリガンドは磁性ナノ粒子を含むコアと、コアを包み込むように設けられ、インテグリン付着性リガンドペプチド(peptide)を含むコーティング層と、を含み、インテグリン付着性リガンドペプチドは、負に荷電されたインテグリンペプチドであることがわかる。具体的には、コア上に結合されたインテグリン付着性リガンドペプチドは、コアをミセル構造のように取り囲んでもよい。これにより、ナノリガンドの表面電荷は、負電荷を帯びることができる。例えば、スライド可能なナノリガンドは、超常磁性コア酸化鉄ナノ粒子をまず合成し、当該超常磁性コアナノ粒子を官能性アミノシリカシェルで官能基化した後、ポリエチレングリコール(PEG)リンカーでコーティングして負に荷電したインテグリン付着性リガンドペプチド(RGD、CCDRGD)をグラフトさせることで、ナノリガンドのスライド性を向上できる。
【0017】
また、図3は、本発明によるマクロファージの細胞付着・再生促進用ナノリガンドの透過型電子顕微鏡(TEM)画像であり、ナノリガンドのサイズを把握できる。具体的には、ナノリガンドは30~60nmの直径を有してもよい。ナノリガンドの直径が30nm未満の場合、ナノリガンドの移動を制御しづらく、60nmを超えるの場合、マクロファージの細胞付着効率が低下してしまう。より具体的には、当該ナノリガンドは、直径が30~50nm、或いは35~45nmであってもよい。
【0018】
磁性ナノ粒子は、磁性を帯びるナノ粒子であれば特に限定されない。例えば、ナノリガンドは5~30nmの直径を有してもよい。磁性ナノ粒子の直径が5nm未満の場合、粒子の大きさが小さすぎて損失(loss)が多く、効率が低下してしまう。30nmを超える場合、ナノリガンドの直径が大きいため、マイクロファージの細胞付着効率が低下する問題が生じ得る。より具体的には、当該磁性ナノ粒子は、直径が5~15nm、15~20nm、或いは10~20nmであってもよい。上記のような磁性ナノ粒子を含むことにより、本発明のナノリガンドは、磁場を用いて、マクロファージの細胞付着や再生性分極化を促進することができる。
【0019】
また、磁性ナノ粒子は、シリカ表面に結合されていてもよい。具体的には、磁性ナノ粒子は、アミノ-シリカが表面に結合されていてもよい。シリカの種類は、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)と(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)のうちいずれか一つ以上であってもよい。
【0020】
例えば、本発明のナノリガンドは、コアとコーティング層との間をリンカーで連結した構造であり、リンカーは、ポリエチレングリコール(PEG)系リンカーであってもよい。具体的には、ポリエチレングリコール系リンカーは、マレイミド-ポリエチレングリコール-NHSエステル(Mal-PEG-NHS ester)であってもよい。上記のようなリンカーを含むことで、コアとコーティング層との結合力を高め、ナノリガンドの耐久性を向上させることができる。
【0021】
当該コーティング層は、コア、又はコアに結合されたリンカーに結合されてもよく、コアを取り囲んでもよい。具体的には、コーティング層は、インテグリン付着性リガンドペプチド(RGD)を含み、当該インテグリン付着性リガンドペプチドは、負に荷電されてもよく、負に荷電されたチオール化インテグリン付着性リガンドペプチドを含んでもよい。上記のように負に荷電されたインテグリン付着性リガンドペプチドを含むことで、本発明のナノリガンドの表面は負に荷電され、これにより、基板との静電結合によって基板上での移動が自由となる。これらの特徴により、当該ナノリガンドは、「スライド可能なナノリガンド」とも呼ばれ、基板上でのナノリガンドのスライドを介してマクロファージの細胞付着や再生性分極化を促進させることができる。
【0022】
更に本発明は、磁性ナノ粒子を含むコアを用意するステップと、
コアをリンカーを含む第1の懸濁液と混合してリンカーが結合されたコアを製造するステップと、
リンカーが結合されたコアをインテグリン付着性リガンドペプチド(RGD)を含む第2の懸濁液と混合するステップと、を含む、上述のマクロファージの細胞付着・再生促進用ナノリガンドの製造方法を提供する。
【0023】
当該コアを用意するステップでは、磁性ナノ粒子をシラン溶液と撹拌してシランがコーティングされたコアを形成してもよい。具体的には、コアを用意するステップは、磁性ナノ粒子をアミノ-シラン溶液と撹拌してアミノ-シランがコーティングされたコアを形成してもよい。シラン溶液に含まれているシランの種類は、シリカの種類は、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)と(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)のうちいずれか一つ以上であってもよい。
【0024】
具体的には、リンカーが結合されたコアを製造するステップは、当該コアと、リンカーを含む懸濁液を、暗条件下で10時間~20時間、或いは10時間~15時間攪拌して行ってもよい。これにより、リンカーが結合されたコアが得られる。このとき、永久磁石を用いながら溶媒で2回以上洗浄し、リンカーが結合されたコアを得てもよい。当該溶媒は、ジメチルホルムアルデヒド(DMF)やジメチルスルホキシド(DMSO)のいずれか1つ以上を含んでもよい。
【0025】
当該リンカーは、ポリエチレングリコール(PEG)系リンカーであってもよい。具体的には、ポリエチレングリコール系リンカーは、マレイミド-ポリエチレングリコール-NHSエステル(Mal-PEG-NHS ester)であってもよい。上記のようなリンカーをコアに結合させることで、コアとコーティング層との結合力を高め、ナノリガンドの耐久性を向上させることができる。
【0026】
更に、第2の懸濁液と混合するステップは、リンカーと結合されたコアをインテグリン付着性リガンドペプチド(RGD)を含む懸濁液に暗条件下で10時間~20時間、或いは10時間~15時間撹拌することで行ってもよい。この時、永久磁石を用いながら溶媒で洗浄し、負に荷電されたインテグリン付着性リガンドペプチドが結合された磁性ナノ粒子(ナノリガンド)を得ることができる。当該溶媒は、ジメチルホルムアルデヒド(DMF)やジメチルスルホキシド(DMSO)のいずれか1つ以上を含んでもよい。
【0027】
ここで、インテグリン付着性リガンドペプチドと攪拌するプロセスにより、コア上にコーティング層を形成してもよい。具体的には、上記のインテグリン付着性リガンドペプチドは、負に荷電されていてもよく、負に荷電されたチオール化インテグリン付着性リガンドペプチドであってもよい。上記のように負に荷電されたインテグリン付着性リガンドペプチドでコア上にコーティング層を形成することで、本発明のナノリガンドの表面は負に荷電され、これにより、基板との静電結合によって基板上での移動が自由となる。これらの特徴により、当該ナノリガンドは、「スライド可能なナノリガンド」とも呼ばれ、基板上でのナノリガンドのスライドを介してマクロファージの細胞付着と再生を促進させることができる。
【0028】
更に、本発明は、上述したマクロファージの細胞付着・再生促進用ナノリガンドを含む溶液に、表面が正に荷電された基板を担持して、ナノリガンド提示基板を製造するステップと、ナノリガンド提示基板に培養液を処理した後、外部の磁場を印加し、マクロファージの細胞付着・再生性分極化を調整するステップと、を含む、マクロファージの細胞付着・再生を促進する方法を提供する。
【0029】
図1及び図2は、本発明の一実施例によるマクロファージの細胞付着・再生を促進する方法を図式化した図である。図1及び図2に図示されているように、正に荷電された基板上に表面が負に荷電されたナノリガンドを静電結合し、磁場を印加することで、磁場が印加される部分においてマクロファージの細胞付着を促進する一方、炎症性M1表現型が抑制しながら再生性M2表現型は活性化することができる。具体的には、基板とナノリガンドが静電結合によって結合されているため、磁場が印加されている位置に応じてナノリガンドが移動(スライド)し、これにより、磁場が印加される部分においてナノリガンドの密度を調整して、所望の部位にマクロファージの細胞付着や再生性分極化を促進させることができるという利点がある。
【0030】
具体的には、ナノリガンド提示基板を製造するステップは、基板の表面を酸性溶液に浸漬させるステップと、浸漬済みの基板をアミノシラン溶液に担持して基板の表面を正に荷電させるステップと、正に荷電された基板に対して室温で超音波を以って処理を施すステップと、を含んでもよい。
【0031】
当該基板の表面を酸性溶液に浸漬させるステップでは、塩酸と硫酸のうちいずれか1つ以上を含む酸性溶液に30分~2時間、或いは30分~1時間浸漬させてもよい。これにより、当該基板の表面に水酸化基を結合させ、アミノ基との結合が容易になるよう、基板の表面活性化を効果的に行うことができる。
【0032】
当該基板の表面を活性化させるステップは、暗条件下で、アミノシラン溶液に基板を担持し、基板の表面が正電荷を帯びるように活性化させてもよい。アミノシラン溶液は、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)を含んでもよい。このとき、基板の表面を活性化させるということは、基板の表面を正に帯電させるということであり、具体的には、基板上にアミン基を結合させて活性化させることができる。上記のようにアミノシラン溶液に浸漬して、基板の表面を活性化させ、基板の表面を正に帯電させると、当該基板は、ナノリガンドと静電気の引力により結合することができる。
【0033】
また、超音波を以って処理を施すステップでは、ナノリガンドを含む溶液に表面が正に荷電された基板を担持して、ナノリガンド提示基板を製造してもよい。具体的には、ナノリガンドを含む溶液に、表面が正に荷電された基板を精製水の中に入れて超音波処理を施し、室温で30分~2時間、或いは30分~1時間、担持して行った。
【0034】
マイクロファージの細胞付着・再生性分極化を調整するステップは、体内及び体外にナノリガンド提示基板を位置させた後、100~700mTの磁場を12時間~48時間印加して行ってもよい。具体的には、マクロファージの細胞付着・再生性分極化を調整するステップは、体内又は体外にナノリガンド提示基板を位置させた後、100~600mT、200~600mT、或いは300~550mTの磁場を12時間~36時間、24時間~26時間、或いは12時間~24時間、印加して行ってもよい。上記のように、ナノリガンド提示基板に磁場を印加することにより、基板上に位置するナノリガンドのマクロファージの細胞付着を促進させ、付着されたマクロファージの炎症性M1表現型の分極は抑制し、再生性M2表現型の分極は促進することができる。
【0035】
また、マクロファージの細胞付着・再生性分極化を調整するステップは、基板に印加される磁場の位置を変えて行ってもよい。具体的には、100~600mT、200~600mT、或いは300~550mTの磁場を印加しながら、基板に印加される磁場の位置を変え、マクロファージの細胞付着や再生性分極化を空間的に制御してもよい。例えば、基板の一部分に磁場を印加して基板上のナノリガンドの密度を調整し、基板上の任意の部分のみマクロファージの細胞付着を促進させ、付着されたマクロファージの炎症性M1表現型の分極は抑制し、再作性M2表現型の分極は促進してもよい。
【0036】
また、マクロファージの細胞付着・表現型を調整するステップは、基板の下端に印加される磁場の位置を変えて行ってもよい。具体的には、100~600mT、200~600mT、或いは300~550mTの磁場を印加しながら基板に印加される磁場の位置を時間に応じて変え、マクロファージの細胞付着や表現型を時間的且つ空間的に制御してもよい。より具体的には、基板の各部分ごとに磁場を個別的に印加して基板上に位置するナノリガンドの密度を時間に応じて調整し、基板上の各部分のマクロファージの細胞付着や再生性M2分極の促進の程度を調整してもよい。例えば、基板の左側には、12時間~24時間磁場を印加し、基板の右側には、24時間~36時間磁場を印加した場合には、基板の左側と右側にて付着又は再生性M2分極を起こしたマクロファージの量が異なり得る。
【0037】
以下、本発明の実施例を説明する。しかしながら下記の実施例は本発明の好ましい一実施例に過ぎず、本発明の請求の範囲が下記の実施例に限られる訳ではない。
【0038】
[製造例]
製造例1
スライド可能なナノリガンド(slidable nano-ligand)の製造
1)磁性コアの製造(MNP)
スライド可能なナノリガンドの磁気制御のために、スライド可能なナノリガンドの磁性コアを下記のように製造した。エタノール約80mL、脱イオン水(DI)60 mL、ヘプタン140 mLをまず混合した。この混合物に、不活性環境下で120mmolのオレイン酸ナトリウム(sodium oleate)と40mmolの塩化鉄(III)六水和物(iron(III)chloride hexahydrate)をエタノール80mL、脱イオン水(DI)60mL及びヘプタン140mLの溶媒混合物に70℃で4時間溶解させた。オレ酸鉄を含むヘプタン層を回収し、脱イオン水で洗浄した。ヘプタンを蒸発させて乾燥させたオレ酸鉄を回収し、ここにオレイン酸20mmolと1-オクタデセン200gを乾燥オレ酸鉄約40mmolに添加した。この溶液を100℃で5分間攪拌した。続いて、温度を320℃まで上げ、約30分間維持した。上記の混合物溶液を大気下で懸濁させ、室温に冷却した後、永久磁石を用いてエタノールで3回洗浄し、ナノ粒子を回収した。この磁性コアナノ粒子(MNP)を保存するために、溶液を使用時までヘプタンに保存した。
【0039】
2)磁気コアのアミノシリカの官能化(functionalization)(アミノシリカコーティングMNP)
磁性コアナノ粒子に、スライド可能なナノリガンドのナノアセンブリのため、アミノシリカシェルでコーティングを施した。磁性コアナノ粒子(30mg)をシクロヘキサン(25mL)に分散させた。上記の懸濁液にトリトン-X(Triton-X)(5mL)、1-ヘキサノール(5mL)、NH4OH(0.5mL)、脱イオン水(1mL)を順次添加して30分間攪拌した。エマルジョンを安定化させた後、テトラエチルオルトシリケート(TEOS、12.5μL)を徐々に混合し、10分間攪拌した。アミノ官能基化のために(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES、6.25mL)を混合し、一晩撹拌した。アミノ官能基化の後、アミノシリカシェルでコーティングされたMNPをそれぞれ3回ずつ、アセトン及びジメチルホルムアミド(DMF)で洗浄し、磁石を用いて回収した。
【0040】
3)スライド可能なナノリガンドの製造
ポリエチレングリコール(PEG)リンカーを用いて、ナノリガンドのスライド特性を向上させ、荷電されたRGDペプチドリガンドを表面がアミノシリカシェルでコーティングされたMNPにグラフトした。PEGリンカーは、スライド可能なナノリガンドのナノアセンブリからの細胞吸収を防止するために使用された。DMF(1mL)中、アミノシリカでコーティングされたMNPを使用し、5mgのマレイミド- ポリ(エチレングリコール)-NHSエステル(Mal-PEG-NHS ester;Mn=5000Da、Biochempeg)を溶解させた。N、N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、2μL)を添加し、一晩撹拌した後、DMFで3回、ジメチルスルホキシド(DMSO)で3回洗浄し、永久磁石を使用して回収した。DMSO(1mL)中、PEG-アミノシリカでコーティングされたMNPを添加し、負に荷電されたチオール化RGDペプチド(CDDRGD、GL Biochem、0.5 mg)を溶解させた。二硫化物結合の形成を防止するために、DIPEA(2μl)とトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(Tris(2-carboxyethyl)phosphine hydrochloride、TCEP、10mM)をこの懸濁液に添加し、一晩、暗条件の下で攪拌した。懸濁液をDMSOで洗浄し、静電相互作用を介して結合する基板が結合される前に、永久磁石を使用して回収した。
【0041】
比較製造例1
負に帯電されたチオール化RGDペプチド(CDDRGD、GL Biochem)を添加していないことを除いて、製造例1と同様の方法で「No RGD」ナノリガンドを製造した。
【0042】
[実施例]
実施例1
スライド可能なナノリガンド、並びに当該ナノリガンドと基板との組み合わせ
上記の製造例で製造したスライド可能なナノリガンドを基板に可逆的に結合させるために、培養グレードガラスカバースリップ(culture-grade glass coverslips、22 mm x 22 mm)を使用した。基板を30分間塩酸とメタノールの1:1混合物に浸漬させ、表面の有機汚染物を除去されたことを確認した後、脱イオン水で3回洗浄した。これを硫酸で1時間浸漬させ、脱イオン水で洗浄した。基板を暗条件の下で1時間APTESとエタノールの1:1混合物に浸漬させ、基板をアミノ化させた。次いで基板をエタノールで3回洗浄し、100℃で1時間乾燥させた。静電相互作用を促進するために、1mLのDMSOにおいて、負に荷電されたスライド可能なナノリガンド(RGD-PEG-アミノシリカシェルでコーティングされた磁性ナノ粒子)をDMSO(1:20)で希釈し、超音波処理を施し、正に荷電されたアミノ化基板と1時間培養した。基板を脱イオン水で洗浄し、スライド可能なナノリガンドが存在する基板を得た。
【0043】
[実験例]
実験例1
本発明によるスライド可能なナノリガンドの形態を確認するため、スライド可能なナノリガンドを対象に透過型電子顕微鏡(TEM)、動的光散乱・高角散乱環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF-STEM)分析を行い、その結果図3及び図4に示した。
【0044】
また、スライド可能なナノリガンドの性質及び化学的結合特性を確認するため、スライド可能なナノリガンドを対象にフーリエ変換赤外分光法(FTIR)と振動サンプル磁力測定を行い、その結果を図5及び図6に示すた。
【0045】
具体的には、透過型電子顕微鏡(TEM)実験は、スライド可能なナノリガンドのサイズや形の特性を確認するため、Tecnai 20(FEI、USA)を用いて、TEM撮像を行った。
【0046】
また、高角散乱環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF-STEM)は、代表的なスライド可能なナノリガンドのサイズや形状の特性を確認するためのもので、HAADF-STEM撮像は1nmのプローブサイズ、20μmコンデンサ開口(condenser aperture) 、Z比のための80-150mrad収集角度を有するJEOL 2100Fを使用して行われた。
【0047】
更に、動的光散乱(DLS)分析は、スライドナノリガンドの組立工程でサイズ分布プロファイル(流体力学的直径、hydrodynamic diameter)を定量するために、DLS測定(Zetasizer Nano ZS90 Malvern Panalytical、Malvern、UK)を行った。
【0048】
また、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)は、スライド可能なナノリガンドの化学的結合特性を確認するため、GX1(Perkin Elmer Spectrum、USA)を用いて行われた。化学的結合特性の変化の分析を経たサンプルを分析する前に、凍結乾燥させ、KBrペレットで密度高くパッキングした。
【0049】
振動サンプル磁気測定(Vibrating sample magnetometry、VSM)は、ナノリガンドの超常磁性の特性を確認するために、スライド可能なナノリガンドの磁性ナノ粒子コアは、印加された磁場の下、室温でVSM測定(EV9;Microsense)に適用された。対応する磁気モーメント(magnetic moment)は、スライド可能なナノリガンドで磁性コアに乾燥重量に正規化した後、ヒステリシスループ(hyteresis loop)に表示された。
【0050】
図3は、スライド可能なナノリガンドの透過型電子顕微鏡画像でもあり、スケールバーは20nmである。図4の(a)は、サイズ分布を有する磁性ナノ粒子(MNP)とアミノ-シリカコーティングMNPの動的光散乱の結果の画像であり、(b)は、アミノ-シリカコーティングMNPの高角散乱環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF-STEM)画像で、スケールバーは20nmである。
【0051】
図3によると、超常磁性コア(16±2nm)とスライド可能なナノリガンドコアシェル(42±5nm)を含むスライド可能なナノリガンドの球体は、均一な形状を示している。また、図4によると、動的光散乱によって決定されたように、15±4nmの超常磁性コアと41±5nmのスライド可能なナノリガンドコアシェルの均一な直径で、TEM及び高角散乱環状暗視野走査TEM (high-angle annular dark-field scanning TEM、HAADF-STEM)画像と一致した。
【0052】
図5は、一実施例によるスライド可能なナノリガンドのフーリエ変換赤外スペクトル画像である。具体的には、MNP、シリカコーティングMNP、RGDリガンド提示PEGグラフトシリカ被覆MNP(RGD-PEG-シリカコーティングMNP、スライド可能なナノリガンドに相当)のフーリエ変換赤外スペクトル画像である。図6は、スライド可能なナノリガンドの振動サンプルの磁力計ヒステリシスである。
【0053】
図5によると、スライド可能なナノリガンドの製造過程における化学結合の変化は、FTIRで知ることができる。具体的には、Fe-O結合は、超常磁性酸化鉄コアナノ粒子にて699cm-1の吸収ピーク値で検出された。Si-O結合は、シリカシェルから1168 cm-1の吸収ピーク値で検出された。スライド可能なナノリガンドでは、PEGリンカー(M=5000Da)は、先行技術で証明されているように、スライド特性を向上させるに留まらず、細胞による吸収を抑制し、CDDRGDは1152cm-1の吸収ピークでC=O結合を、1635cm-1の吸収ピークでアミド(amide)結合を表した。このようなTIR分析から、スライド可能なナノリガンドの組み立てが成功的であることが確認された。
【0054】
図6において、20emu/gのMsで超常磁性を確認した。これにより、本発明によるスライド可能なナノリガンドは、超常磁性特性を以って可逆的スライドが可能である。この特性は、時間的且つ可逆的にナノリガンドのスライドの磁気制御に非常に重要である。
【0055】
実験例2
本発明によるスライド可能なナノリガンドのIn situ可逆的・時空間的制御を実証するために、スライド可能なナノリガンドを対象に走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、原子間力顕微鏡(AFM)イメージングを行い、その結果を図8及び図9に示した。
【0056】
図7は、基板上におけるスライド可能なナノリガンドの静電結合を図式化した画像である。図7によると、磁性ナノ粒子(コア)はPEG化され、その磁性ナノ粒子上に、負に荷電されたRGDペプチドリガンド(CDDRGD)でコーティングしてスライド可能なナノリガンドを形成し、これを、静電気的相互作用を介して正に荷電された基板に結合した。具体的には、図7に図示されているように、本発明は、静電的にマクロスケールのナノリガンドの提示を制御するために、ナノリガンドのスライドのIn situ時空間的制御のための正に荷電された基板にスライド可能なリガンドを結合させた。ナノリガンドと基板との静電結合によりナノリガンドが可逆的なスライドを可能にした。
【0057】
ここで、走査型電子顕微鏡(SEM)は、静電気的相互作用を介して正に荷電された基板に結合された負に荷電されたスライド可能なナノリガンドを確認するためのものであり、電界放出SEM撮像(FE-SEM、FEI、Quanta250FEG)は、乾燥された白金コーティング基板上で行った。基板と結合されたスライド可能ナノリガンドの密度は相違する画像10個を用いてImage Jで測定された。マクロスケールのナノリガンド密度の可逆的且つ時空間的操作の特徴を確認するために、SEM撮像も行われた。永久磁石(150mT)の位置は、基板の左下から右下に切り替え、12時間ごとに左下に更に切り替えた。マクロスケールのナノリガンド密度での対応する変化はImage Jを用いて計算されており、その結果を図8に図示した。
【0058】
また、In situ磁気原子間力顕微鏡(In situ magnetic atomic force microscopy、AFM)は、基板上にスライド可能なナノリガンドの3D撮像、並びにスライド可能なナノリガンドのIn situナノスケールの動きの特徴の確認を
目的とし、AFM撮像(Asylum Research、XE- 100 System)を25℃にて大気モードのACで行った。バネ定数(spring constant、5-3N/m)と共振周波数(resonance frequency、96~175 kHz)を有するAFMカンチレバー(cantilever)(Nanosensors、SSS-SEIHR-20)を使用した。基板の近傍において磁石のない静的シリアル撮像を、スライド可能なナノリガンドの磁石介在変位を検査するため、基板の同スキャン領域において行った。In situ磁気撮像のために、まず撮像を行って、永久磁石を基板の底やスキャン領域の反対側に配置し、In situナノスケールのナノリガンドスライドを特徴づけられるよう、同スキャン領域における撮像を行った。その結果は、図8及び図9に示した。
【0059】
図8は、マクロスケールとナノスケールのナノリガンドのスライドのIn situ可逆的時空間操作(In situ reversible spatiotemporal manipulation)の画像である。図8a~bによると、正に荷電されたアミノ官能基化基板は、走査型電子顕微鏡(SEM)と3D原子間力顕微鏡(AFM)によって表されるように、ナノリガンドは、基板の表面にランダム且つ均一に結合されている。また、マクロなナノリガンドの密度は、20±3ナノリガンド粒子/μmと計算された。上記のような密度を有することにより、ナノリガンドの摺動性(モビリティ)を効果的に制御することができ、ナノリガンドの凝集を誘発しないことが分かる。従って、本発明のナノリガンドは、基板上に可逆的なスライド(移動)が可能で、マクロファージの細胞付着や表現型を時空間的且つ可逆的に制御することができる。
【0060】
図8c~dは時空間的制御実験のSEM撮像の結果であり、磁気制御を用いたマクロスケールのナノリガンドの密度を調整してスライド性を制御できることが分かる。具体的には、SEM撮像において、永久磁石を基板の左下に位置させてスライド可能なナノリガンドを左に引き付けた後、右側に切り替え、それぞれ12時間ごとに左側に戻した。低速度SEM撮像(Time-lapse SEM imaging)は、右側に比べ、左側のナノリガンド密度は、12時間後に81%と高く、24時間後31%に低く、36時間後82%と著しく高かった。
【0061】
図8eは時空間的制御実験の比較例として、スキャン領域における外部の磁場の有無に係らず、同一のスキャン領域で行った連続のIn situ磁気AFMスキャンによるIn situ磁気AFM画像であり、ナノリガンドのスライドのナノスケールの変位を図示した。図8eにおいて、スライド可能ナノリガンドを表す基板の下端(走査領域の反対面)に磁石を配置して磁場を発生させた。磁石がない状態では明確に識別されたが、ナノスケールのナノリガンドスライドを示す磁石がある場合、スキャン領域から消えた。
【0062】
図9は、比較例の実験であって、同一のスキャンにおいて磁石の不在下で撮影した、ナノリガンドのスライドのIn situ原子間力顕微鏡(AFM)画像である。図9によると、二つの異なる画像でスライド可能なナノリガンドに沿って黒い点線が描かれる。スケールバーは50μmであった。基板の近傍において、磁石がない状態での繰り返し可能且つ安定した撮像を特徴としており、スライド可能なナノリガンドの動きが基板の同領域で連続スキャンしたとき、4nmくらい変位したので、無視してもよいことを確認した。
【0063】
これにより、本発明によるナノリガンドは、磁場を用いて、マクロスケールのナノリガンドの密度を時空間的且つ可逆的に変化させ、ナノリガンドのスライドを可逆的に制御することができることが分かった。
【0064】
実験例3
本発明によるスライド可能なナノリガンドを用いたマクロファージの細胞付着や再生を促進する方法で、マクロスケールのナノリガンドの密度を調整することがマクロファージの細胞付着調整に及ぼす影響を確認するために、次のような実験を行った。
【0065】
スライド可能なナノリガンドのインテグリンβ1の結合実験を、次のように行った。スライド可能なナノリガンドの基板を用いてインテグリンβ1のスライド可能なナノリガンドの結合効率を定量化した。基板の左下に永久磁石を配置することにより、約12時間、4℃でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に、インテグリンβ1(50μg/mL)に浸漬させた。処理済みの基板を、インテグリンβ1(Santa Cruz Biotechnology)に対する免疫蛍光染色と、その後の共焦点撮像とにより、In situスライド可能なナノリガンドと結合されたインテグリンβ1を定量化して、その結果を図10に図示した。
【0066】
図10は、スライドナノリガンドのIn situ制御におけるインテグリンβ1(integrinβ1)結合の時間的調整に関する。(a)は、基板の「左下」に永久磁石があるスライドナノリガンドの模式図、(b)基板の「左側」、「中間」、「右側」でスライドナノリガンドに結合されたインテグリンβ1クラスタに対する免疫蛍光の共焦点顕微鏡画像である。スケールバーは50μmで、これらのクラスタは緑色の矢印で示される。(c)は、基板の「磁石側」、「中間」、「非磁石側」でインテグリンβ1クラスタの染色強度の定量を示す。データは、平均±標準誤差(n=30)と表される。統計学的に有意な差は、異なるアルファベット文字で表示される。
【0067】
図11は、本発明の一実施例によるナノリガンドのスライドのIn situ制御実験結果を示した画像で、スライド可能なナノリガンドの磁気的引力によりマクロスケールのリガンドの密度を調整することで、マクロファージ(Macrophage)の付着を促進している。(a)は、基板の底(「磁石」側)に永久磁石を配置して行った24時間のマクロファージ培養後、ビンキュリン、アクチン、核の免疫蛍光染色と相応の共焦点顕微鏡画像と共に、基板の底(「磁石」の側)に永久磁石を配置することでスライド可能なナノリガンドを操作している概略図である。付着性マクロファージの画像は、基板の「磁石側」、「中間」、「非磁石側」の中心(模式図で赤点線の枠)で撮影された。スケールバーは20μmである。制御群は、「No RGD」群と「No magnet」群を含んでいる。(b)は、マクロファージの細胞付着細胞密度、細胞の面積、細胞縦横比の定量を示したグラフである。データは、平均±標準誤差(n=30)と表される。統計的有意性は、異なるアルファベット文字で表示される。
【0068】
図12は比較零によるマクロファージの細胞付着性実験の結果であり、(a)は、RGDペプチドリガンド又は磁場がない場合、24時間のマクロファージ培養の後、ビンキュリン、アクチン、核の免疫蛍光染色の共焦点顕微鏡画像である。付着性マクロファージの画像は、基板の「左側」、「中間」、「右側」の中心で撮影した。スケールバーは20μmである。(b)は、マクロファージ密度、面積、縦横比の定量を示したグラフである。データは、平均±標準誤差(n=30)と表される。統計学的に有意な差は、異なるアルファベット文字で表示される。
【0069】
図10aは、インテグリンβ1の結紮がIn situスライド可能なナノリガンドによって操作できるか否かを調査したもので、スライド可能なナノリガンド提示基板を12時間インテグリンβ1と共に培養する一方、永久磁石を、基板の下に(「磁石側」)に位置させた。図10b~cによると、免疫蛍光の共焦点顕微鏡画像は、ナノリガンドに対するインテグリンβ1の結合効率が非常に高いことを明らかにし、基板の中間(medium)や非磁気側と比べ、基板の磁石に向かってそれぞれ30%と55%ずつ引き寄せられた。インテグリン結紮がマクロファージの細胞付着を容易にするため、これらの結果は、マクロファージがスライド可能なナノリガンドに強く付着され得ることを意味し、これは磁石の方に向かって移動して、磁石側のマクロスケールのナノリガンド密度を上昇させる。更に、本発明は、マクロスケールのIn situナノリガンド密度の制御下にマクロファージの細胞付着性を調べた。
【0070】
図11aによると、培養中に基板の下(「磁石」側)に磁石を配置し、基板の「磁石側」、「中間」、「非磁石側」の中心から撮像されたマクロファージの細胞付着を観察した。また、スライド可能なナノリガンドを表す基板や磁石がない(「No magnet」)、或いは結合された(conjugated)RGDペプチドリガンドのないナノ粒子が存在する基板(「No RGD」)で制御実験を行った。
【0071】
その結果、マクロファージが著しいアクチンフィラメントアセンブリとして、相当高い密度や、細胞領域と基板の「中間」と「非磁石側」に付着されたものよりも長い形態のビンキュリン発現により、基板の「磁石側」より強固に付着された(図11a~b)。定量的には、「磁石側」の付着性マクロファージの密度は、「中間」や「非磁石側」に比べ、それぞれ59%と82%ずつ高かった。同様に、「磁石側」の付着性マクロファージの面積は、「中間」や「非磁石側」に比べ、それぞれ57%と60%ずつ高かった。更に、付着性マクロファージの縦横比(延長形状係数、elongation shape factor)は、「中間」や「非磁石側」に比べ、「磁石側」の方がそれぞれ54%と50%ずつ高かった。
【0072】
図12a~bによると、ナノリガンド介在制御に基づいたマクロファージの細胞付着の調整は、基板の「左側」、「中間」、「右側」で同様の付着性マクロファージ密度と面積を示す「No RGD」群と「No magnet」群に対して非効率である。「No RGD」群は、最小限のマクロファージの細胞付着を示し、効果的なブロックを示した。これらの結果から、In situスライド可能なナノリガンドの磁気引力でマクロスケールのナノリガンド密度を増加させることが、マクロファージのインテグリン結紮介在付着を効率的に促進することが分かる。
【0073】
実験例4
本発明によるナノリガンドのマクロスケールの密度調整がマクロファージの可逆的な付着を制御しているか否かに関する実験を下記のように行った。
【0074】
マクロファージは、ECMでの動的付着や分極を見せ、これは、空間的且つ時間的に変化するマクロスケールリガンド分布で連続的にリモデリングされる。したがって、空間的、時間的、可逆的に変化するマクロスケールのナノリガンド分布の遠隔制御は、マクロファージの細胞付着を調整するECMリモデリングを模倣することができる。そのため、本発明は、スライド可能なナノリガンドを引き寄せることでマクロスケールのナノリガンド提示の時間切り替えマクロファージの細胞付着を変更できるか否かの実験を行い、図13図15に示した。
【0075】
図13は、マクロスケールのナノリガンドの調整によりマクロファージの細胞付着性を制御した実験結果である。(a)は、基板の底に永久磁石を配置した(「磁場(MF)」)状態、又は基板から永久磁石を取り除いた(「磁場なし(NMF)」)状態で行った12時間又は24時間のマクロファージ培養後の、F-アクチンと核を持つビンキュリンに対する免疫蛍光の共焦点顕微鏡画像である。「MF」又は「NMF」は、24時間の培養期間中に適用されるか、或いは12時間後に交互に適用された。付着性マクロファージの画像は、基板の「左側」又は「右側」の中心で撮影した。スケールバーは20μmである。(b)は、基板の「左側」面のマクロファージの密度、細胞の面積、細胞縦横比を計算したグラフである。データは、平均±標準誤差(n=30)と表される。統計的有意性は、異なるアルファベット文字で表示される。
【0076】
図14は、図13の実験において、基板の「右側」面におけるマクロファージ密度、面積、縦横比の定量を示したグラフである。永久磁石は、12時間又は24時間、マクロファージが培養される一方、基板の「左側」の底に配置され(「磁場(MF)」)、或いは、基板から取り除かれる(「磁場なし(NMF)」)。「MF」又は「NMF」は、24時間の培養期間中に適用されるか、或いは12時間後に交互に適用された。データは、平均±標準誤差(n=30)と表される。統計学的に有意な差は、異なるアルファベット文字で表示される。
【0077】
図15は、対向する面の間で、永久磁石の位置を基板の「左側」の底、「右側」の底、「左側」の底の順で12時間ごとに切り替えて行った、基板の「左側」及び「右側」における12時間、24時間、36時間のマクロファージの培養の後、ビンキュリン、アクチン、核に対する(a)免疫蛍光染色の時間分解共焦点顕微鏡画像である。スライド可能なナノリガンドは、基板の「左側」及び「右側」の中心(模式図で赤点線の枠)で撮影された。スケールバーは20μmである。(b)は、基板の「左側」面のマクロファージの密度、細胞の面積、細胞縦横比を計算したものである。データは、平均±標準誤差(n=30)と表される。統計的有意性は、異なるアルファベット文字で表示される。
【0078】
図13によると、永久磁石を24時間、基板の左下に(磁場、Magnetic field、「MF」)に置き続けた。24時間、基板の近傍に磁石のない群も配置しておいた(磁場なし、No magnetic field、「NMF」)。更に、本発明は、初期の12時間は磁石が近傍に配置されなかったが、12時間後、基板の左側に磁石が配置された群(「NMF-MF」)を含む。24時間後、「MF」群は、「NMF」群より左側(磁石側)から著しく大きいマクロファージ付着、特に高い付着細胞の面積が63%、縦横比が66%ずつ高かった(図13a~b)。この傾向は、磁石のない状態につき、12時間の時点で低レベルのマクロファージの細胞付着を示す「NMF-MF」群に反映されたが、スライド可能なナノリガンドの左側(磁石)での磁気介在引力から24時間後、著しいマクロファージの細胞付着が観察された。このスライド可能なナノリガンドは、磁石(左)側に引き寄せられれば、「MF-NMF」群で24時間後、マクロファージ付着性を維持することにより、既に証明されたように、12時間後に磁石を取り外した後でも、残っていると思われる。このようなナノリガンドスライドの劇的な時間制御切り替えは、左側(磁石側)におけるマクロファージの細胞付着の調整には効果的であったが、図14によると、右側(非磁石側)におけるマクロファージ付着は効果的に調整できない。よって、ナノリガンドスライドの磁石介在In situ制御を確認できる。
【0079】
更に、本発明は、マクロファージの可逆的な付着における、ナノリガンドスライドの時空間的調整(tuning)の効果について実験を行った。図15によると、スライド可能なナノリガンドを左側へ12時間引き寄せるように、基板の左下に永久磁石を配置した。次いで、磁石を12時間、基板の右下に位置づけ、12時間左下に置いた。左側と右側における、時間分解マクロファージ付着性を調べた(図15a)。図15によると、ナノリガンドスライドの時間的調整は、可逆的なマクロファージの細胞付着性を制御する。12時間の時点で、基板の左側は、右側と比べ、付着性マクロファージの面積が60%、縦横比が44%で、相当増加したことが分かった(図15a~b)。24時間の時点で、基板の右側は、左側と比べ、付着性マクロファージの面積と縦横比がそれぞれ67%と70%ずつ高くなった。36時間後、可逆的に、基板の左側は、右側よりも高い付着性マクロファージの密度、細胞の面積、縦横比を示し、をそれぞれ51%、67%、68%ずつ増加した。従って、マクロスケールのナノリガンド分布の遠隔・時空間的調整は、マクロファージの細胞付着の可逆的調整で強力な制御を示す。
【0080】
実験例5
本発明によるスライド可能なナノリガンドが、時間制御調整(tuning)により、マクロファージの細胞付着依存分極を調整できることを確認するために、次のように実験を行った。その結果を図16~20に図示した。
【0081】
動的ECMリモデリングは、時間的に、様々な異種リガンド分布を示し、これは、それらの機能的分極表現型を調整するマクロファージの細胞付着構造の開発を調整し、インプラントの宿主反応を空間的且つ時間的に調整する。細胞骨格のアクチンアセンブリと延長された形態の付着構造を生成するマクロファージが、再生性M2表現型として機能的に活性化されることは周知の事実である。既存の報告は、以前の発見がマクロスケールのナノリガンド提示の時間的調整がマクロファージの細胞付着依存性分極を変更できることを示唆する。
【0082】
図16の(a)は、基板の「左側」に位置した磁石で行った、基板の「左側」及び「右側」において36時間M2分極培地で培養されたマクロファージのM2表現型マーカ(Arginase-1及びYm1)、又はM1分極培地で培養されたマクロファージのM1表現型マーカ(iNOS及びTNF-α)の定量的遺伝子発現を示したグラフである。データは、平均±標準誤差(n=3)と表される。(b)~(c)は、板の底に永久磁石を配置した(「磁場(MF)」)状態、或いは配置しない(「磁場なし(NMF)」)状態で培養されたマクロファージのArg-1と核のiNOSに対する免疫蛍光の共焦点顕微鏡画像である。「MF」又は「NMF」は36時間の培養期間中に適用されるか、12時間後に適用された。分極されたマクロファージの画像は、基板の「左側」又は「右側」の中心から撮影した。スケールバーは20μmである。異なるアルファベットの文字は、統計的有意性を示す。
【0083】
図17は、本発明の一実施例によるスライド可能なナノリガンドのM1分極培地(polarizing medium)におけるマクロファージのM2表現型を示したグラフである。M1分極培地(polarizing medium)におけるスライド可能なナノリガンドの下で、マクロファージのM2表現型の制御は効率的ではなかった。基板の「左側」の底に配置(「磁石側」)された永久磁石に露出され、36時間、基板の「左側」及び「右側」にてM1分極培地で培養されたマクロファージのM2マーカ(Arginase-1及びYm1)の定量的遺伝子発現を示した。データは、平均±標準誤差(n=3)と表される。
【0084】
図18は、本発明の一実施例によるスライド可能なナノリガンドのM2分極培地(polarizing medium)におけるマクロファージのM1表現型を示したグラフである。マクロファージのM1表現型の制御は、M2分極培地でスライド可能なナノリガンドの下では非効率であった。基板の「左側」の底に配置(「磁石側」)された永久磁石に露出され、36時間、基板の「左側」及び「右側」にてM1分極培地で培養されたマクロファージのM1マーカ(iNOS及びTNF-α)の遺伝子プロファイルを示す。データは、平均±標準誤差(n=3)と表される。
【0085】
図19は、本発明の一実施例によるスライド可能なナノリガンドの磁気引力の電気的引力に対するマクロファージのM2表現型実験の結果である。スライド可能なナノリガンドの磁気的引力は、マクロファージの細胞付着構造が生成されたとき、ROCK2の発現を促進してM2表現型を促進する。基板の「左側」の底に配置(「磁石側」)された永久磁石に露出され、基板の「磁石側」及び「非磁石側」にて36時間、基礎培地又はM2分極培地でマクロファージを培養した後、ROCK2と核に対する免疫蛍光染色の共焦点顕微鏡画像を図示する。スケールバーは20μmである。
【0086】
図20は、本発明の一実施例によるナノリガンドの自己人材調整実験の、(a)免疫蛍光の共焦点顕微鏡画像、(b)付着性マクロファージの密度、細胞の面積、細胞縦横比を、或いはM2培地で培養した後の面積、縦横比、Arg-1の染色強度の計算を示したグラフである。具体的には、スライド可能なナノリガンド引力の磁気的操作は、M2表現型を刺激するマクロファージの細胞付着構造の組み立てを促進する。(a)基板の底に位置する(「磁石」側)の磁石で実験を行った結果、基板の「磁石側」と「非磁気側」の表現型は、ROCK信号阻害(50μMY27632同様)、ROCK信号形成阻害(10μMブレビスタチン同様)、或いはアクチン重合阻害(2μg/mLサイトカラシンD同様)の下、36時間M2分極培地でのマクロファージを培養した後、アクチンと核のArg-1に対する、更には、36時間基礎培地でのマクロファージを培養した後、アクチンと核に対する免疫蛍光の共焦点顕微鏡画像である。スケールバーは20μmである。(b)は、基板の「磁石」側と「非磁石」側にて基礎培地を培養した後、付着性マクロファージの密度、細胞の面積、細胞縦横比を、或いは、M2培地で培養した後の面積、縦横比、Arg-1の染色強度の計算を示したものである。データは、平均±標準誤差(n=30)と表される。統計的有意性は、異なるアルファベット文字で表示される。
【0087】
図16によると、スライド可能なナノリガンドの時間調整磁気的引力はM2表現型を刺激しながら、マクロファージのM1表現型を抑制する。スライド可能なナノリガンドの時間制御操作において、マクロファージの表現型提示につき、スライド可能なナノリガンドが存在する基板を検査して、上記の基板は、基板の左下に永久磁石を36時間連続して配置する(「MF」群)、或いは、36時間連続して基板の近傍から取り除き(「NMF」分)、12時間ごとに「NMF」から「MF」に切り替えた。M1分極培地でマクロファージを培養した後、遺伝子発現プロファイルは、「MF」群では、M1マーカiNOS(誘導性酸化窒素シンタアゼ、inducible nitric oxide synthase)とTNF-α(腫瘍壊死因子-α、tumor necrosis factor-α)の発現が右側(非磁気側)より左側(磁石側)でそれぞれ192%と231%ずつ、著しく低かった(図16a)。それに対して、「MF」群でM2分極培地を用いて培養した後、M2マーカArg-1(arginasae-1)とYm1(chitinase-like 3)の発現は、右側(非磁気側)より左側(磁石側)で、それぞれ715%と383%ずつ、著しく増加した。図17及び図18によると、「MF」群では、M2分極培地での培養後のM1マーカ、又はM1分極培地培養後のM2マーカの発現は、左側と右側で変わりなく、これはマクロファージ分極を調整するためのナノリガンドスライドの磁気制御を有する分極性溶解刺激の必要条件である。
【0088】
図16b~cから、免疫蛍光の共焦点顕微鏡画像が、遺伝子発現プロファイルの発見を図示していることが分かる。「MF」群では、iNOS蛍光はM1分極バッジ培養後、相当低かった、Arg-1免疫蛍光は、右側(非磁石側)と比べ、左側(磁石側)でM2分極培地に培養した後、より高かった。このような傾向は更に、M1分極培地での培養の後、低いiNOS免疫蛍光を示すが、これは磁石側でM2分極培地により培養した後、高いArg-1免疫蛍光を示す「NMF-MF」群で一致しており、これはM2分極を活性化させるため、任意の規定された時間にスライド可能なナノリガンドが磁石の上で引き寄せられ得ることを示唆している。「NMF」群では、両方のiNOSとArg-1免疫蛍光での有意な差が観察されなかった。これにより、磁気側に行き渡る(pervasive)付着構造の開発を向上させたスライド可能なナノリガンドの磁気引力は、炎症性M1分極を抑制しつつ、マクロファージを再生性M2表現型に分極したことがわかる。
【0089】
次に、マクロファージから付着構造の組み立てで、スライド可能なナノリガンドの磁気引力によってM2表現型への偏光を容易にする方法について実験を行った。図19によると、細長い形状、アクチン骨格構造の器官及び収縮性、ROCKを含むマクロファージの細胞付着構造はM2表現型を介在する。基礎培地とM2分極培地の培養では、マクロファージは、非磁気側より磁石側で、相当高いROCK2免疫蛍光を示した。特に、図20によると、M2分極培地に培養する間、Y27632によるROCK信号阻害は付着性マクロファージの面積と縦横比をそれぞれ32%と33%ずつ低減し、更には、Arg-1免疫蛍光を磁石側で29%ほど、著しく減少させた。一貫的に、M2分極培地に培養中にブレビスタチンによるROCK信号形成阻害の下、付着性マクロファージの面積、縦横比、Arg-1免疫蛍光が磁石側でそれぞれ33%、31%、29%ずつ減少した。付着性マクロファージの面積、縦横比、Arg-1免疫蛍光の減少は、サイトカラシン(cytochalasin)Dによるアクチン重合阻害によっても明確に観察された。非磁気側で、ROCK、ミオシンIIアクチン重合の阻害は、M2表現型の付着構造と生産に大きな変化をもたらしていない。これにより、スライド可能なナノリガンドは、磁気制御によりM2表現型の発生を促進する過程で、マクロファージの細胞付着構造の組み立てを効果的に促進することが分かる。
【0090】
実験例6
本発明によるスライド可能なナノリガンドはIn situ制御により体内宿主マクロファージの細胞付着及び表現型を空間的に調整することを確認するために、下記のような実験を行い、その結果を図21図23に図示した。
【0091】
材料インプラントは、宿主反応を誘発してインプランドの宿主反応を誘導するために、マクロファージの細胞付着性と機能表現型を制御することが最も重要である。時空間的、可逆的、マクロスケールのナノリガンド変異の遠隔制御は、インプランドの宿主反応を空間的に調整するために、動的且つ異種のECMリモデリングを模倣することができる。特に、マクロファージの細胞付着や再生性・抗炎症性M2表現型の生産を調整し、炎症を抑えながら組織の修復を介在するのは非常に有利である。このため、本発明は、インプラントの再生性・抗炎症性免疫反応を空間的に多様な調整し、付着性マクロファージの細胞付着構造アセンブリを介在するM2表現型の体内翻訳を探求した。最近、UV光によるマクロファージの細胞付着の空間的に不均一な調整が可能であることが明らかになった。しかしながら、本発明では、マクロファージの細胞付着のみならず、付着性マクロファージの機能表現型を調整するため、磁場を用いて組織透過性と細胞互換性を活用した。
【0092】
図21は、本発明の一実施例によるスライド可能なナノリガンドの磁気引力に対する体内での宿主マクロファージの細胞付着性・炎症性M1表現型に関する実験の結果である。(a)は、体内でスライド可能なナノリガンドの磁気制御の凡その模式図である。皮下移植後のスライド可能なナノリガンド気質を持つ基板上にIL-4とIL-13の両方を注入した。(b)は、基板の「磁石」側と「非磁石」側に付着した細胞のiNOS、F-アクチン、核の24時間後の免疫蛍光の共焦点顕微鏡画像である。永久磁石を24時間、基板の底(「磁石側」)に置き続けた。細胞の画像は、基板の「磁石側」又は「非磁石側」の中心で撮影された。スケールバーは20μmである。(c)は、体内の付着細胞のM1表現型マーカ(iNOS及びTNF-α)の遺伝子発現プロファイル(n=3)、密度、細胞の面積、細胞縦横比(n=30)の計算を示したグラフである。データは、平均±標準誤差と表される。異なるアルファベットの文字は、統計的有意性を示す。
【0093】
図22は、本発明の一実施例によるスライド可能なナノリガンドに関する宿主好中球の体内付着実験の結果である。(a)は、基板上にIL-4及びIL-13を皮下注入して24時間後、スライド可能なナノリガンドを表す基板の「磁石側」と「非磁石」側に付着された宿主細胞のNIMP-R14、F-アクチン、核に関する免疫蛍光染色の共焦点顕微鏡画像である。永久磁石を24時間、基板の底(「磁石側」)に置き続けた。細胞の画像は、基板の「左側」又は「右側」の中心で撮影した。スケールバーは20μmである。(b)は、体内に付着されたNIMP-R14陽性宿主好中球の密度の定量を示したグラフである。データは、平均±標準誤差(n=30)と表される。異なるアルファベットの文字は、統計的に有意な差を示す。
【0094】
図23は、本発明の一実施例によるスライド可能なナノリガンドの磁気引力(magnetic attraction)に対する体内での宿主マクロファージの細胞付着性・再生性M2表現型に関する実験の結果を図示したものである。(a)は、IL-4及びIL-13を注入した基板を皮下移植注して24時間後、スライド可能なナノリガンドを有する基板の「磁石」側とと「非磁石」側に付着された宿主細胞のArg-1、F-アクチン、核に関する免疫蛍光染色の共焦点顕微鏡画像である。永久磁石は、基板の底(「磁石側」)に連続的に位置づけられた。細胞の画像は、基板の「磁石」側、又は「非磁石」側の中心から撮影された。スケールバーは20μmである。(b)は、体内の付着細胞のM2表現型マーカ(Arg-1及びYm1)の遺伝子発現プロファイル(n=3)、密度、細胞の面積、細胞縦横比(n=30)の計算を示したグラフである。図4bに図示された(c)ROCK信号阻害(Y27632を有する)の下、核と細胞質のYAP蛍光比と、(d)ROCK信号形成阻害(ブレビスタチンを有する)の細胞面積を計算したグラフである。データは、平均±標準誤差と表される。異なるアルファベットの文字は、統計的有意性を示す。
【0095】
図21によると、ナノリガンド提示基板をbalb/cマウスに皮下移植した。移植後、M2分極溶解性因子(インターロイキン-4及び-13)を基板に注入した(図21a)。永久磁石をマウスの腹部側から見て基板の底(「磁石側」)に付着て、基板の磁石側を向けるナノリガンドのスライドを促進させた。上記の基板は、免疫蛍光の共焦点撮像と遺伝子発現解析のために、24時間後に回収した。iNOS及びF-アクチンの免疫蛍光の共焦点顕微鏡画像は、明確な同一位置化(colocalization)は、磁石側が非磁気側より優勢であることを示した(図21b)。同時に、磁気側でマクロファージの密度、面積、縦横比(それぞれ67%、36%、53%)が著しく高い付着構造の優れた発達が観察され、これは非磁気側より宿主マクロファージでiNOSとTNFの両方の発現がそれぞれ33%と60%ずつ、著しく低くなることを促進させた(図21b~c)。
【0096】
図22によると、宿主マクロファージのみならず宿主好中球も急性炎症の期間においてNIMP-R14免疫蛍光により観察された。同時に、図23aによると、Arg-1とF-アクチンに対する免疫蛍光の共焦点顕微鏡画像は、F-アクチンによって付着構造の非常に明確な組み立てを示し、これは、非磁気側より磁石側の方で、遥かに多い再生性Arg-1発現と同一位置化(colocalization)を表す結果をもたらした。図23a~bによると、非磁石側と比べ、磁石側の宿主マクロファージでArg-1及びYm1(再生M2マーカー)の両方が、27%と60%ずつ高く発現している。これにより、、スライド可能なナノリガンドの磁気引力による遠隔制御は、宿主マクロファージの再生性M2表現型を促進する一方、空間的に調整された方式で体内における炎症性M1表現型を抑制することが分かる。早期急性炎症と再生反応の厳しい制御が、インプラントの長期宿主反応に影響を及ぼすことが知られている。
深部の内部組織で組織の修復を促進し、炎症や繊維カプセルの形成を抑制することにおいて、磁場を介在した時空間的、可逆的、長期的調整に関する実験を行い、臨床環境でインプラントの免疫調整が可能であることを確認した。
【0097】
上記の実験例では、ナノリガンドスライドのIn situ制御の下、培養物からのマクロファージの細胞付着性と表現型につき、次のように実験を行った。インビトロナノリガンドスライドがマクロファージの細胞付着性や表現型に及ぼす影響を調べた。ナノリガンドが存在する基板を1時間UV光で滅菌した。滅菌された基板は、マクロファージの非ナノリガンド(non-nano-ligand)特異的付着を最小限に抑えるため、1%ウシ血清アルブミン(BSA)でブロックした。50kcells/cmのマクロファージ(RAW264.7、passage5、ATCC)を、処理済みの基板にプレーティングした。マクロファージを、10%(v/v)の熱不活性化されたウシ胎児血清、及び50U/mLのペニシリン/ストレプトマイシンが37℃・5%CO2で充填された、高グルコースDMEM(high glucose DMEM)を含む基礎培地で培養した。細胞を基板の底(「磁石側」又は「左側」)に配置された磁石(270mT)を適用し、様々な側の中心(磁石側、中間、非磁気側)で、付着性を調べた。RGDペプチドリガンド又はナノリガンドのないナノ粒子、或いは磁石を適用していないナノリガンドが存在する基板を対照群として用いた。スライド可能なナノリガンドの時間的操作の下、マクロファージの細胞付着性基板の底に永久磁石を配置する(「磁場(MF)」)、或いは基板から永久磁石を取り除く(「磁場なし(NMF)」)ことによる、ナノリガンドが存在する基板で検査された。永久磁石の時間的切り替えは、二つの対向面の間で基板の「左側」の底から「右側」の底に動かし、次いで「左側」の底に戻るように行った。スライド可能なナノリガンドの時間制御操作の下、マクロファージの分極表現型は、基板の底に永久磁石を配置する(「磁場(MF)」)状態、或いは基板から永久磁石を取り除いた(「磁場なし(NMF)」)状態に依存しているため、「NMF」と「MF」を切り替えるナノリガンドが存在する基板を使用して検査した。M1分極培地はリポ多糖(lipopolysaccharide)(LPS、10ng/mL)と組換えインターフェロン-ガンマ(interferon-gamma)(IFN-γ、10ng/mL)を充填した基礎培地を含む。M2分極培地はインターロイキン-4(interleukin-4)(IL-4、20ng/mL)とインターロイキン-13(interleukin-13)(IL-13、20ng/mL)を充填した基礎培地を含む。マクロファージの細胞付着構造アセンブリ介在M2表現型は、ROCK信号阻害(50μMY27632同様)、ROCK信号形成阻害(10μMブレビスタチン同様)、或いはアクチン重合阻害(2μg/mLサイトカラシンD同様)の下、基板の底(「磁石側」)に配置された磁石に適用させた後、検査を行った。
【0098】
更に、免疫蛍光及び共焦点撮像により、In situスライド可能なナノリガンドの下で、マクロファージの細胞付着性の分析につき、次にように実験を行った。
【0099】
マクロファージ培養物は、4%(w/v)のパラホルムアルデヒド溶液に10分間浸漬させた後、PBSで洗浄した。培養物をPBS中の3%PSAと0.1%トリトン-Xのブロック緩衝液で30分間培養した。培養物をインテグリンβ1、ビンキュリン、iNOS、アルギナーゼ-1(Arginase-1)、ROCK2、NIMP-R14に対する1次抗体として溶液に4℃で一晩浸漬し、PBSで洗浄した。培養物を、室温で30分間2次抗体、ファロイジン、DAPIを混合した溶液に、室温で30分間浸漬させた後、PBSで洗浄した。培養物を顕微鏡スライドに取り付け、全ての比較群に対して同じ露出条件を適用して共焦点顕微鏡(LSM700、Carl Zeiss)で撮像し、ImageJソフトウェアで検査を行った。共焦点顕微鏡画像を使用して、マクロファージの細胞付着性を定量化した。インテグリンβ1の結合強度をヒストグラム機能で計算した。付着性マクロファージの密度は、DAPI染色核を集計することにより計算された。付着性マクロファージの面積及び縦横比は、以前にも報告されているように、F-アクチン染色を分析することにより計算された。
【0100】
更に、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応を有するIn situスライド可能なナノリガンドにおけるマクロファージ分極分析は、次のように行われた。
【0101】
マクロファージをM1又はM2分極培地で培養し、サンプル当たり1mLのトリゾルで採集した。基板を2つ(磁石側と非 磁気側)に分けた。各サンプルについて、900ngの抽出されたRNAを、大容量RNA-の-cDNAキットを用いてcDNAに逆転写させた。Sybr Green分析法に用いられるcDNAにより、リアルタイムPCR反応(StepOne Plus Real-Time PCR System、Applied Biosystems)を行った。GAPDH発現に対する正規化の後、標的遺伝子(iNOS、TNF-α、Arginase-1、Ym1)の相対的なフォールディング発現(relative fold expressions)が提示された。
【0102】
更に、宿主の食細胞の付着性や表現型を調整するためのナノリガンドスライドの体内の遠隔制御につき、次のように実験を行った。宿主マクロファージの細胞付着性及び表現型に対する体内ナノリガンドスライドの効果を調べるため、ナノリガンド提示シリコン基板を皮下移植に用いた。高麗大学校の動物管理・使用委員会の承認を受けた約8週齢balb/cマウスを実現動物として使用した。2mLのアルファキサロン(alfaxan)と1mLのロムポン(rompun)の混合物を腹腔内注射で投与した。マウスの背面を約2.5cmの長さで切開した。注入後、IL-4(50ng)とIL-13(50ng)を基板上に注入した。基板に対するマウスマクロファージの細胞付着性をテストした。基板の底(腹部側)に取り付けられた永久磁石(「磁石側」)は、磁石に向かってのナノリガンドのスライドを促進させた。移植後24時間が経過した時点で、免疫蛍光及びRT-PCRの共焦点撮像のために基板を回収した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
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図18
図19
図20
図21
図22
図23