(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】防火扉用差圧緩和構造および差圧緩和構造付き防火扉および防火扉用差圧緩和構造後付けユニット
(51)【国際特許分類】
E06B 5/16 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
E06B5/16
(21)【出願番号】P 2021011649
(22)【出願日】2021-01-28
【審査請求日】2024-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】石田 正樹
(72)【発明者】
【氏名】平井 孝典
【審査官】砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-240080(JP,A)
【文献】特開平10-331544(JP,A)
【文献】特開平11-200723(JP,A)
【文献】実開昭47-35047(JP,U)
【文献】特開昭60-238591(JP,A)
【文献】実開昭53-12243(JP,U)
【文献】特開昭61-270491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 1/00-11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防火扉に設けられる差圧緩和構造であって、
前記防火扉の厚み方向を貫通して形成される通気口と、
前記防火扉の遮蔽面上にスライド可能に保持され、所望時に前記通気口を塞ぐ閉鎖板と、
前記遮蔽面上に設けられ、常温下で前記閉鎖板を前記遮蔽面上の所望の位置に位置決めしてそのスライドを規制するとともに、常温を超える所望に定めた温度で前記閉鎖板の位置決めを解除する規制解除部材と、を備え、
前記差圧緩和構造は、
前記通気口である第1の通気口と、前記閉鎖板であり前記防火扉の正面側の前記遮蔽面上に配されている第1の閉鎖板と、前記第1の閉鎖板の位置決めに用いられ前記規制解除部材である第1の規制解除部材と、を備えている第1のセットと、
前記通気口である第2の通気口と、前記閉鎖板であり前記防火扉の背面側の前記遮蔽面上に配されている第2の閉鎖板と、前記第2の閉鎖板の位置決めに用いられ前記規制解除部材である第2の規制解除部材と、を備えている第2のセットと、を備えていることを特徴とする防火扉用差圧緩和構造。
【請求項2】
防火扉に設けられる差圧緩和構造であって、
前記防火扉の厚み方向を貫通して形成される通気口と、
前記防火扉の遮蔽面上にスライド可能に保持され、所望時に前記通気口を塞ぐ閉鎖板と、
前記遮蔽面上において前記閉鎖板を回動可能に支持する支持軸
と、
前記遮蔽面上に設けられ、常温下で前記閉鎖板を前記遮蔽面上の所望の位置に位置決めしてそのスライドを規制するとともに、常温を超える所望に定めた温度で前記閉鎖板の位置決めを解除する規制解除部材と、を備えていることを特徴とする防火扉用差圧緩和構造。
【請求項3】
前記規制解除部材は、所望の温度で液化する樹脂材又は金属ろう材、あるいは所望の温度で変形する形状記憶合金を備えていることを特徴とする請求項1
又は請求項
2に記載の防火扉用差圧緩和構造。
【請求項4】
防火扉と、
前記防火扉に設けられている請求項1乃至請求項
3のいずれか1項に記載の防火扉用差圧緩和構造と、を備えていることを特徴とする差圧緩和構造付き防火扉。
【請求項5】
前記防火扉を鉛直方向に4等分した際に、最下に位置する領域に前記防火扉用差圧緩和構造を備えていることを特徴とする請求項
4に記載の差圧緩和構造付き防火扉。
【請求項6】
前記防火扉を開閉操作するドアノブ寄りの鉛直下方側に前記防火扉用差圧緩和構造を備えていることを特徴とする請求項
5に記載の差圧緩和構造付き防火扉。
【請求項7】
金属板と、
前記金属板の厚み方向を貫通して形成される通気口と、
前記金属板の表面上にスライド可能に保持され、所望時に前記通気口を塞ぐ閉鎖板と、
前記金属板の前記表面上に設けられ、常温下で前記閉鎖板を前記金属板上の所望の位置に位置決めしてそのスライドを規制するとともに、常温を超える所望に定めた温度で前記閉鎖板の位置決めを解除する規制解除部材と、
前記金属板の周縁に設けられる取付け枠と、を備えていることを特徴とする防火扉用差圧緩和構造後付けユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火扉の内側(正面側)と外側(背面側)に生じる圧力差を緩和して防火扉の開閉を容易にできる防火扉用差圧緩和構造および差圧緩和構造付き防火扉および防火扉用差圧緩和構造後付けユニットに関する。
【0002】
一般に、ビルやプラント設備等の大規模建物の内部は防火区画で区切られており、これら防火区画により建物内全てに火災が広がるのを防止している。また、防火区画間には通路等が設けられており、この通路等に防火扉や防火シャッター等の開閉可能でかつ火災時には常時閉に付勢される防火扉装置が設けられている。
このような防火扉装置は、火災時には付勢手段の付勢力により常時閉じており、かつ人手で簡単に開けることができるため、火災時に建物内の人が避難することが可能であり、しかも火災が広がるのを好適に防止することができる。
【0003】
ところが、プラント設備等の大規模建物では、風量の大きい空調設備を稼働させている等の理由で、建物内部において圧力差が生じ易く、場所によっては防火扉をドアクローザのみで適切に自閉させることができない場合がある。
このような事情に鑑み、防火扉の内側(正面側)と外側(背面側)の圧力差を適宜緩和することができる先願がいくつか開示されている。
【0004】
特許文献1には「差圧緩和機構付き扉装置」という名称で、防火区画の通路に設置される防火扉や風圧および/または水圧が掛かるおそれのある扉などの差圧緩和機構付き扉装置に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示される発明は、扉開閉用のハンドル、ドアクローザ、吊元扉に対し戸先扉を回転させるヒンジクローザ、戸先扉の扉枠に対するラッチA、戸先扉の吊元扉に対するラッチBに対して、ハンドル位置、ラッチ位置、トルクを調整することを特徴とするものである。
上記構成の特許文献1に開示される発明によれば、平時は2枚の扉を一体として作動させることができる一方で、差圧発生時は開放力を低減させるために戸先扉を先に開けることが可能である。
よって、特許文献1に開示される発明によれば、操作性に優れる差圧緩和機構付き扉装置を提供することができる。
【0005】
特許文献2には「差圧対応扉」という名称で、扉の両側面の気圧差が非常に大きくなった時に、通気させることで扉の両側面の気圧差を緩和させて開き易くする扉に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示される発明は、扉の内外で発生する空気の気圧差を緩和する扉において、扉の第1板部材1と第2板部材2の間で、第1通気孔と第2通気孔を連通し、第1表面側の空気を第2表面側に通過させる通気部と、通気部の第1表面側と第2表面側の両内側に設けられた第1及び第2遮蔽板群1-1、2-1を同時に駆動させるリンク機構支持部で構成する通気調整体とからなり、第1表面の第1通気孔と第2表面の第2通気孔、及び第1表面側及び、第2表面側に接する遮蔽板群に、ピット穴部をそれぞれの表面の開口率で30~80%の割合に設けて、通気調整体によって圧力差のある空間を遮蔽板による閉鎖及び通気可能状態に駆動させて、通気孔を開けるよう構成されるものである。
上記構成の特許文献2に開示される発明によれば、扉の表と裏で圧力差が発生した場合、孔位置のずれを利用して通気することで、差圧の緩和を行える扉を提供することができる。
【0006】
特許文献3には「防火扉装置」という名称で、防火扉に差圧が加わったときでも防火扉を容易に開閉できる防火扉装置に関する発明が開示されている。
特許文献3に開示される発明は、防火区画の通路に設置され常時閉状態に付勢される防火扉と、開放操作することにより前記防火扉の開放を可能とするドアーノブとを備えた防火扉装置において、防火扉に開口部を設け、ドアーノブの開放操作で開放され、ドアーノブの操作終了で閉鎖される差圧緩和機構を前記開口部に設けたことを特徴とするものである。
上記構成の特許文献3に開示される発明によれば、ドアーノブの開放操作のみで差圧をなくすことができ、しかも小さな力で避難可能とした防火扉装置を提供することができる。
【0007】
特許文献4には「差圧解消装置」という名称で、室内と室外との間で圧力差がある場合にその差圧を解消するための差圧解消装置に関する発明が開示されている。
特許文献4に開示される発明は、同文献中の
図1に示される符号をそのまま用いて説明すると、室内Aと室外Bとを仕切る仕切部材(例えば、出入りのためのドア)2に、室内Aと室外Bとを連通する空間部3を形成しておき、その内側開口部4Aは内側蓋部材5Aによって開閉可能に構成し、外側開口部4Bは外側蓋部材5Bによって開閉可能に構成し、前記内側蓋部材5Aと外側蓋部材5Bとは連結部材7を介して連動するように構成されるものである。
上記構成の特許文献4に開示される発明によれば、同文献中の
図1に示されるように、内側開口部4Aの内側に内側蓋部材5Aを押し込めるという簡単な操作を行うだけで、外側蓋部材5Bも連動して外側開口部4Bの内側に押し込められる。
これにより、引用文献4に開示される発明によれば、両方の開口部4A,4Bが開口されて室内外の差圧を解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-177803号公報
【文献】特開2018-9379号公報
【文献】特開平7-259407号公報
【文献】特開2012-107466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の特許文献1に開示される発明の場合、例えば空調設備の稼働により常時正圧に保たれている室内において火災が発生し、これによりこの室内の排煙設備が作動して室内が負圧に転じた際に、当該発明に係る戸先扉が正常に閉鎖しないという不具合が生じる可能性がある。
さらに、特許文献1に開示される発明の場合は、戸先扉の開閉時に指ハサミ等の怪我や事故が起きる可能性があり、その使用時の安全性についても課題を有していた。
【0010】
特許文献2乃至特許文献4に開示されるそれぞれの発明の場合は、扉の内外の圧力差を緩和することができるものの、そのための複雑な作動機構を扉の内部(厚み部分)に格納する必要がある。
この場合、扉の使用や劣化に伴なう部品等の脱落や、埃等が溜まるなどの理由で固着等の不具合が生じる可能性があり、必要時に差圧緩和機構を作動させることができないという懸念があった。
また、特許文献2乃至特許文献4に開示される発明では、扉を貫通して設けられる圧力差緩和のための通気路を、火災時に自動で閉鎖することができない。
このため、特許文献2乃至特許文献4に開示される発明では、圧力差を緩和すべく扉に形成される通気路から火災発生区域側への空気の流入が起こり、かえって延焼が起こり易くなるという懸念もある。
また、特許文献2乃至特許文献4に開示される発明の場合は、その差圧緩和機構を既存の防火扉に後付けすることが困難であると考えられる。このため、差圧緩和機構を備えていない防火扉に新たに差圧緩和機構を設けようとすると、扉を新調する必要があり、極めて不経済であった。
【0011】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものでありその目的は、平時は通気口を開放して防火扉の正面側(内側/外側)と背面側(外側/内側)の圧力差を緩和して防火扉の開閉を容易にするとともに、火災時は通気口を自動で閉鎖して火災発生区域側への空気の流入を遮断することができる防火扉用差圧緩和構造および差圧緩和構造付き防火扉および防火扉用差圧緩和構造後付けユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための第1の発明である防火扉用差圧緩和構造は、防火扉に設けられる差圧緩和構造であって、防火扉の厚み方向を貫通して形成される通気口と、防火扉の遮蔽面上にスライド可能に保持され、所望時に通気口を塞ぐ閉鎖板と、遮蔽面上に設けられ、常温下で閉鎖板を遮蔽面上の所望の位置に位置決めしてそのスライドを規制するとともに、常温を超える所望に定めた温度で閉鎖板の位置決めを解除する規制解除部材と、を備えていることを特徴とするものである。
上記構成の第1の発明において、通気口は、防火扉の正面側(内側/外側)から背面側(外側/内側)に、又はその逆方向に空気を流動させるという作用を有する。
また、第1の発明において閉鎖板は、火災時に通気口を塞ぐという作用を有する。
さらに、第1の発明における規制解除部材は、平時である常温下では閉鎖板を遮蔽面上の所望の位置に位置決めしてそのスライドを規制するという作用を有する。その一方で、規制解除部材は、火災時の常温を超える所望に定めた温度で閉鎖板の位置決めを解除するという作用も有する。また、この規制解除部材が遮蔽面上に設けられていることで、規制解除部材のメンテナンスや交換を容易にするという作用も有する。
よって、第1の発明によれば、通気口を備えていることで、平時に防火扉の正面側と背面側の圧力差を緩和するという作用を有する。
さらに、第1の発明によれば、火災が発生した際に、人手に依らず自動で通気口を閉鎖板により閉鎖するという作用を有する。これにより、火災時に防火扉に形成される通気口から火災発生区域側に空気が流入するのを防ぐという作用を有する。
【0013】
第2の発明である防火扉用差圧緩和構造は、上記第1の発明における通気口である第1の通気口と、上記第1の発明における閉鎖板であり防火扉の正面側の遮蔽面上に配されている第1の閉鎖板と、この第1の閉鎖板の位置決めに用いられ上記第1の発明における規制解除部材である第1の規制解除部材と、を備えている第1のセットと、上記第1の発明における通気口である第2の通気口と、上記第1の発明における閉鎖板であり防火扉の背面側の遮蔽面上に配されている第2の閉鎖板と、この第2の閉鎖板の位置決めに用いられ上記第1の発明における規制解除部材である第2の規制解除部材と、を備えている第2のセットと、を備えていることを特徴とするものである。
上記構成の第2の発明において、第1,第2のセットを構成する第1,第2の通気口、第1,第2の閉鎖板及び第1,第2の規制解除部材のそれぞれによる作用は、上述の第1の発明における通気口、閉鎖板及び規制解除部材のそれぞれによる作用と同じである。
また、第2の発明が第1のセットを有することで、火災時に第1,第2の閉鎖板がそれぞれ第1,第2の通気口を閉鎖した場合に、防火扉の正面側から第1の閉鎖板を操作して第1の通気口を開放することができる。
同様に、第2の発明が第2のセットを有することで、火災時に第1,第2の閉鎖板がそれぞれ第1,第2の通気口を閉鎖した場合に、防火扉の背面側から第2の閉鎖板を操作して第2の通気口を開放することができる。
このように、第2の発明では、通気口、閉鎖板及び規制解除部材からなる防火扉用差圧緩和構造を2セット(第1のセット及び第2のセット)備えることで、防火扉の正面側、背面側のいずれからでも閉鎖板を操作して開放することが可能になる。
そして、2つの閉鎖板のうちのいずれかを操作していずれかの通気口を開放することで、第2の発明を備える防火扉の正面側と背面側の圧力差を緩和することができる。
【0014】
第3の発明は、上述の第1又は第2の発明であって、遮蔽面上において閉鎖板を回動可能に支持する支持軸を備えていることを特徴とするものである。
上記構成の第3の発明は、上述の第1又は第2の発明による作用と同じ作用を有する。さらに、第3の発明において閉鎖板の保持構造が支持軸(回動軸)であることで、閉鎖板の保持構造を極めてシンプルにできる。
この場合、防火扉に第3の発明である防火扉用差圧緩和構造を設置するのに要するコストが廉価になる。
【0015】
第4の発明は、上述の第1乃至第3のいずれかの発明であって、規制解除部材は、所望の温度で液化する樹脂材又は金属ろう材、あるいは所望の温度で変形する形状記憶合金を備えていることを特徴とするものである。
上記構成の第4の発明は、上述の第1乃至第3のそれぞれの発明による作用と同じ作用を有する。
さらに、第4の発明において、規制解除部材として特に所望の温度で液化する樹脂材又は金属ろう材を用いる場合は、火災時の温度上昇により規制解除部材が固体から液体に相変態する。これにより、規制解除部材の強度が急激に低下して引きちぎれて、規制解除部材による閉鎖板の位置決め効果(固定効果)がなくなる。この結果、閉鎖板が遮蔽面上をスライドして、閉鎖板により通気口が閉鎖される。
また、第4の発明において、規制解除部材として特に所望の温度で変形する形状記憶合金を用いる場合は、火災時の温度上昇により規制解除部材の立体形状が変形する。これにより、規制解除部材による閉鎖板の係止状態が解除されて、閉鎖板が遮蔽面上をスライドする。この結果、閉鎖板により通気口が閉鎖される。
また、第4の発明において規制解除部材として所望の温度で液化する樹脂材又は金属ろう材、あるいは所望の温度で変形する形状記憶合金を用いることで、規制解除部材による閉鎖板の位置決め構造をシンプルにできる。
【0016】
第5の発明である差圧緩和構造付き防火扉は、防火扉と、この防火扉に設けられている第1乃至第4のいずれかの発明である防火扉用差圧緩和構造と、を備えていることを特徴とするものである。
上記構成の第5の発明は、第1乃至第4のそれぞれの発明である防火扉用差圧緩和構造を備えた防火扉であり、その作用は第1乃至第4のそれぞれの発明による作用と同じである。
【0017】
第6の発明は、上述の第5の発明であって、防火扉を鉛直方向に4等分した際に、最下に位置する領域に防火扉用差圧緩和構造を備えていることを特徴とするものである。
上記構成の第6の発明は、上述の第5の発明による作用と同じ作用を有する。さらに、第6の発明において、防火扉を鉛直方向に4等分した際の最下に位置する領域に防火扉用差圧緩和構造を備えていることで、火災時の温度上昇に伴って閉鎖された通気口を、閉鎖板を操作して再び開放させる際に、閉鎖板の操作を作業者の足先(つま先)により行うことができる。
この場合、作業者は通気口を塞いでいる閉鎖板を操作するのに手を使用する必要がないので、防火扉の開閉操作を両手で行うことができる。
【0018】
第7の発明は、上述の第6の発明であって、防火扉を開閉操作するドアノブ寄りの鉛直下方側に防火扉用差圧緩和構造を備えていることを特徴とするものである。
上記構成の第7の発明は、上述の第6の発明による作用と同じ作用を有する。さらに、第7の発明において、防火扉を開閉操作するドアノブ寄りの鉛直下方側に防火扉用差圧緩和構造を備えていることで、通気口を塞いでいる閉鎖板を操作して再び通気口を開放する際に、作業者が足先(つま先)で閉鎖板を操作しながら、手でドアノブを操作することを容易にするという作用を有する。
【0019】
第8の発明である防火扉用差圧緩和構造後付けユニットは、金属板と、この金属板の厚み方向を貫通して形成される通気口と、金属板の表面上にスライド可能に保持され、所望時に通気口を塞ぐ閉鎖板と、金属板の表面上に設けられ、常温下で閉鎖板を金属板上の所望の位置に位置決めしてそのスライドを規制するとともに、常温を超える所望に定めた温度で閉鎖板の位置決めを解除する規制解除部材と、金属板の周縁に設けられる取付け枠と、を備えていることを特徴とするものである。
上記構成の第8の発明は、上述の第1の発明である防火扉用差圧緩和構造を防火扉に直接設けることに代えて、この防火扉用差圧緩和構造を防火扉とは別体の金属板に設けておき、この金属板にさらに取付け枠を設けて既存の防火扉に後付け可能なユニットにしたものを物の発明として特定したものである。
したがって、第8の発明における金属板は、防火扉における遮蔽面に対応する構成である。よって、第8の発明における通気口、閉鎖板及び規制解除部材のそれぞれによる作用は、上述の第1の発明における通気口、閉鎖板及び規制解除部材のそれぞれによる作用と同じである。
また、第8の発明において取付け枠は、既存の防火扉に本発明に係る防火扉用差圧緩和構造(上述の第1の発明と同じ)を取設可能にするという作用を有する。
そして、上述のような第8の発明によれば、既存の差圧緩和構造を有しない防火扉を、本発明に係る差圧緩和構造を備えた防火扉に改造することが容易になる。
【発明の効果】
【0020】
上述のような第1の発明によれば、平時は通気口が常時開放されるため、防火扉の正面側と背面側の圧力差が緩和されて、防火扉の開閉が容易になる。
その一方で、第1の発明を備えた防火扉の近くで火災が発生した場合は、その際に生じる熱を利用して閉鎖板を動作させて、閉鎖板により通気口を閉鎖することができる。つまり、第1の発明によれば、火災時に人手に依らず自動でかつ速やかに通気口を閉鎖して火災発生区域側への空気の流入を遮断することができる。
また、第1の発明である防火扉用差圧緩和構造は、その通気口を閉鎖するための機構を防火扉の内部(厚み部分)に配設する必要がない。
つまり、第1の発明では、発明を構成する全ての部品や部材が、防火扉の正面側又は背面側に裸出した状態になる。このため、第1の発明によれば、発明品を構成する部品等が破損したり、劣化したりした際の修理やメンテナンス、あるいは点検等の作業を極めて容易に行うことができる。
さらに、第1の発明はその構造が極めてシンプルであるため、第1の発明を備えた防火扉の製造に要するコストを廉価にできる。
【0021】
第2の発明は、上述の第1の発明による効果と同じ効果を有する。さらに、第2の発明が上述の第1の発明の構成要素を2セット(第1のセット及び第2のセット)備えていることで、火災時に通気口を閉鎖した閉鎖板を再度開放する必要がある場合に、防火扉の正面側、背面側のどちらからでも閉鎖板の操作を行うことができる。
よって、第2の発明によれば、第1の発明に比べて利便性及び実用性が優れた防火扉用差圧緩和構造を提供することができる。
【0022】
第3の発明は、上述の第1又は第2の発明による効果と同じ効果を有する。さらに、第3の発明において、防火扉の遮蔽面上における閉鎖板の保持構造を支持軸(回動軸)にすることで、第3の発明である防火扉用差圧緩和構造を一層シンプルにすることができる。
この場合、第3の発明を備えた防火扉の破損や不具合を起こり難くするとともに、その製造コストを廉価にできる。
【0023】
第4の発明は、上述の第1乃至第3のそれぞれの発明による効果と同じ効果を有する。さらに、第4の発明によれば、規制解除部材として、所望の温度で液化する樹脂材又は金属ろう材、あるいは所望の温度で変形する形状記憶合金を用いることで、第4の発明である防火扉用差圧緩和構造をさらにシンプルにすることができる。
この場合、第3の発明を備えた防火扉の破損や不具合を一層起こり難くするとともに、その製造コストを廉価にできる。
【0024】
第5の発明は、先にも述べたが上述の第1乃至第4のそれぞれの発明である防火扉用差圧緩和構造を備えた防火扉を物の発明として特定したものである。
よって、第5の発明による効果は、上述の第1乃至第4のそれぞれの発明による効果と同じである。
【0025】
第6の発明は、上述の第5の発明による効果と同じ効果を有する。さらに、第6の発明は、火災時に通気口を閉鎖した閉鎖板を再度開放すべく閉鎖板を操作する際に、その操作を作業者の足先(つま先)で行うことができる。
この場合、作業者は閉鎖板を操作する際に手を使用する必要がないので、足先(つま先)で閉鎖板を操作して通気口を開放しながら、ドアノブを操作して防火扉を開閉するという動作を容易に行うことができる。
つまり、第6の発明において閉鎖板を操作して通気口が開放されることで防火扉の正面側と背面側の圧力差が緩和される。この結果、第6の発明におい閉鎖板が一旦作動した後も、防火扉の開閉動作を容易に行うことができる。
このため、第6の発明によれば、防火扉用差圧緩和構造を備えた防火扉の操作性を向上させることができる。
【0026】
第7の発明は、上述の第6の発明による効果と同じ効果を有する。さらに、第7の発明は、防火扉における防火扉用差圧緩和構造の設置位置を、防火扉を開閉操作するドアノブ寄りの鉛直下方側に特定することで、防火扉の水平方向幅が特に大きい場合に、作業者の足先(つま先)で閉鎖板を操作して通気口を開放しながら、ドアノブを操作して防火扉を開閉するという動作を行うことを一層容易にすることができる。
したがって、第7の発明によれば、防火扉用差圧緩和構造を備えた防火扉の操作性を一層向上させることができる。
【0027】
第8の発明は、上述の第1の発明である防火扉用差圧緩和構造を、既存の差圧緩和構造を備えていない防火扉に後付け可能にするためのユニットである。
よって、第8の発明の発明によれば、既存の差圧緩和構造を備えていない防火扉を、容易かつ廉価に差圧緩和構造付き防火扉に改造することができる。
この場合、既存の設備を活用しつつ、その機能性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】(a)本発明の実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造およびそれを備えた防火扉の正面図であり、(b)同防火扉用差圧緩和構造および同防火扉の背面図である。
【
図2】(a)本発明の実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造の作動前の様子を示す斜視図であり、(b)同防火扉用差圧緩和構造の作動後の様子を示す斜視図である。
【
図3】(a)本発明の実施例2に係る防火扉用差圧緩和構造の作動前の様子を示す斜視図であり、(b)同防火扉用差圧緩和構造の作動後の様子を示す斜視図である。
【
図4】(a)本発明の実施例2の変形例に係る防火扉用差圧緩和構造の作動前の様子を示す斜視図であり、(b)同防火扉用差圧緩和構造の作動後の様子を示す斜視図である。
【
図5】(a)本発明の実施例3に係る防火扉用差圧緩和構造の作動前の様子を示す斜視図であり、(b)同防火扉用差圧緩和構造の作動後の様子を示す斜視図である。
【
図6】本発明の実施例4に係る防火扉用差圧緩和構造後付けユニットの要部を拡大して示す斜視図である。
【
図7】(a)本発明の実施例4に係る防火扉用差圧緩和構造後付けユニットを取り付ける前の防火扉の様子を示す正面図であり、(b)同防火扉用差圧緩和構造後付けユニットを取り付けた後の防火扉の様子を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態に係る防火扉用差圧緩和構造および差圧緩和構造付き防火扉および防火扉用差圧緩和構造後付けユニットについて
図1乃至
図7を参照しながら詳細に説明する。
【0030】
<1;本発明の基本構成について>
[実施例1]
はじめに、
図1,2を参照しながら実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造および差圧緩和構造付き防火扉の構造について説明する。
図1(a)は本発明の実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造およびそれを備えた防火扉の正面図であり、(b)は同防火扉用差圧緩和構造および同防火扉の背面図である。また、
図2(a)は本発明の実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造の作動前の様子を示す斜視図であり、(b)は同防火扉用差圧緩和構造の作動後の様子を示す斜視図である。
実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aは、防火扉50に設けられて、平時は防火扉50の内外(正面側と背面側)の圧力差を緩和するとともに、火災時は防火扉50の気密性を高めて遮蔽体として機能させるものである。なお、実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aの設置対象である防火扉50は、例えばその扉本体51が互いに対向して配される一対の遮蔽板55により構成されている。
実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aは、
図1(a)及び
図2(a)に示すように、防火扉50の扉本体51の厚み方向を貫通して設けられる通気口4と、扉本体51の正面側遮蔽面51a上にスライド可能に保持され、所望時に通気口4を塞ぐ閉鎖板5と、扉本体51の正面側遮蔽面51a上に設けられ、平時の常温下で閉鎖板5を正面側遮蔽面51a上の所望の位置に位置決めしてそのスライドを規制するとともに、火災時の常温を超える所望に定めた温度で閉鎖板5の位置決めを解除する規制解除部材7と、を備えてなるものである。
なお、本実施形態における「常温」は、特定の温度又は温度帯域を意味しているのではなく、火災が発生していない状態における実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aの設置場所周囲の雰囲気温度を意味している。
【0031】
また、
図1(a)及び
図2(a)に示すように、例えば実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aの閉鎖板5は、支持軸6(例えばビス等)により、遮蔽板55の正面側遮蔽面51a上に回動可能に軸支されている。
なお、遮蔽板55の正面側遮蔽面51a上に支持軸6により閉鎖板5を固定する場合は、閉鎖板5の外縁寄りに支持軸6を設けておくとよい。この場合、閉鎖板5の重心位置が、支持軸6の設置位置からずれた状態になり、閉鎖板5の自重を利用して閉鎖板5を容易に回動させることができる。
また、本実施例では、支持軸6を基軸にした閉鎖板5の回動動作が、扉本体51の正面側遮蔽面51a上における閉鎖板5のスライド動作に対応している。
さらに、通気口4の周囲に段差を有する場合は、閉鎖板5が支持軸6を基軸に回動した際に、通気口4の周囲の段差に干渉するおそれがある。このような場合は、必要に応じて正面側遮蔽面51a上から閉鎖板5までの距離を、高さ調整リング10を用いるなどして調整してもよい。
【0032】
さらに、実施例1では、規制解除部材7として所望の温度で液化する金属ろう材7aを用いる場合を例に挙げて説明しているが、規制解除部材7の材質は、金属ろう材7aに限定される必要はなく、平時の常温下で閉鎖板5を固定しておくことができる程度の十分な強度を有するものであれば、所望の温度で液化する樹脂材[蝋(ろう)を含む]を用いることもできる。
なお、規制解除部材7が液化する温度については特に特定していないが、実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aの設置環境の雰囲気温度や火災発生時に想定される温度上昇を勘案して適宜設定すればよい。
規制解除部材7が液化する温度は、50℃以上に設定してもよい。なお、この温度の上限は特に特定されないが、防火扉用差圧緩和構造1Aを構成する各部材、あるいはその周辺部材が変形又は変性する温度よりも低い温度に設定する必要があることは言うまでもない。
また、規制解除部材7が液化する温度が高いほど、火災時に通気口4が閉鎖板5により閉鎖されるタイミングが遅くなり、その間通気口4を通じて火災発生区域側に空気が供給され続けるため、火災発生区域側の延焼の広がりを抑制し難くなる。
したがって、規制解除部材7が液化する温度は、50℃に近いより低い温度に設定されることが好ましい。
ただし、恒常的に室温の上昇が起こりやすい場所で実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aを使用する場合で、かつ規制解除部材7が液化する温度を50℃に近い温度に設定した場合は、火災が発生していない状況で通気口4が閉鎖板5により閉鎖されてしまう可能性があり好ましくない。
なお、規制解除部材7として金属ろう材7aに代えて後段に示す形状記憶合金7bを用いる場合は、上記説明における「規制解除部材7が液化する温度」が、「規制解除部材7が変形する温度」に置き換えられる。
【0033】
さらに、金属ろう材7aは、例えば
図2(a)に示すように、短いバンド状に成形された固形状物の一の端部側を、例えば止め具8a及びビス9により閉鎖板5上に固定するとともに、他の端部側を例えば止め具8b及びビス9により正面側遮蔽面51aに固定してもよい。
また、防火扉50の所望箇所に実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aを備えてなるものが実施例1に係る差圧緩和構造付き防火扉2Aである[
図1(a),(b)を参照]。
【0034】
つづいて、
図2(a),(b)を参照しながら実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aの動作について説明する。
実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aは、平時は
図2(a)に示される状態で使用される。
すなわち、平時の防火扉用差圧緩和構造1Aは、防火扉50の正面側遮蔽面51a上に支持軸6により軸支される閉鎖板5が、規制解除部材7により正面側遮蔽面51a上の所望の位置に固定されている。つまり、閉鎖板5は、通気口4を塞がない位置で、規制解除部材7により固定されている。
【0035】
この場合、防火扉50に形成される通気口4は開放され、この通気口4を通じて防火扉50の内外を空気が出入りする。この結果、防火扉50の内外の圧力差を緩和することができる。したがって、防火扉50の内外の圧力差が緩和された状態であれば、防火扉50に設けられるドアノブ52aを操作して容易に防火扉50を開閉することができる。
また、上述のような圧力差の緩和効果は、通気口4が閉鎖されない限り発揮される。
【0036】
その一方で、防火扉50の内外(正面側遮蔽面51a又は背面側遮蔽面51b)のいずれかで火災が起きた場合は、その熱で実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aの規制解除部材7の温度が上昇する。
そして、規制解除部材7の温度が予め設定された所望の温度に達すると、常温下で固体である規制解除部材7が相変態して液化する。さらに、規制解除部材7の液化にともないその強度が著しく低下して、規制解除部材7が破断する。この結果、規制解除部材7による閉鎖板5の固定状態(位置決め状態)が解除される。
これにより、遮蔽板55上において支持軸6により支持される閉鎖板5が回動可能になり、支持軸6を基軸に
図2(a)中の符号Aで示す方向に閉鎖板5が回動し、
図2(b)に示すように閉鎖板5により通気口4が閉鎖される。
【0037】
そして、上述のように閉鎖板5により通気口4が閉鎖された場合は、火災発生区域側への空気の流入が遮断される。この結果、火災発生区域側において延焼が広がるのを好適に防ぐことができる。
したがって、実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aおよびそれを備えた差圧緩和構造付き防火扉2Aによれば、平時は通気口4を開放しておくことができるので、防火扉50の内外の圧力差を緩和することができる。この場合、防火扉用差圧緩和構造1Aを備えた防火扉50の開閉を容易にかつスムーズに行うことができる。
他方、火災時は人手によらず自動で防火扉用差圧緩和構造1Aの通気口4を閉鎖して、空気の流れを遮断することで、火災発生区域側の延焼の広がりを好適に防止できる。
【0038】
また、防火扉用差圧緩和構造1Aにおける通気口4が閉鎖板5により閉鎖されていると、防火扉50を開く際に、その内外に圧力差が生じて防火扉50をスムーズに開くことができない。
このような場合でも、実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aおよびそれを備えた差圧緩和構造付き防火扉2Aでは、通気口4を塞いでいる閉鎖板5を例えば
図2(b)中の符号Bで示す方向に揺動して通気口4を開放することで、防火扉50の内外の圧力差を緩和することができる。
この結果、例えば
図1(a)に示すドアノブ52aを操作することで、容易に防火扉50を開くことができる。
【0039】
また、通気口4、閉鎖板5及び規制解除部材7からなる実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aを防火扉50に1セットのみ備える場合は、閉鎖板5が取設されている側からしか閉鎖板5を揺動する操作を行うことができない。
つまり、実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aが、例えば
図2(a),(b)に示される通気口4、閉鎖板5及び規制解除部材7(例えば金属ろう材7a及びその固定構造)のみを備える場合、通気口4を再度開放する作業は、扉本体51の正面側遮蔽面51a側においてのみ行うことができ、背面側遮蔽面51b側からは行うことができない。
このことは、実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aを防火扉50に1セットのみ備える場合は、通気口4が閉鎖板5で閉鎖された後に、必ずしも防火扉50の内外の圧力差を緩和する効果を発揮させることができないことを意味している。
このような事情に鑑み、実施例1に係る差圧緩和構造付き防火扉2Aは、実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aを防火扉50に2セット備えていてもよい(任意選択構成要素)。
【0040】
ここで、防火扉50に実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aを2セット備える場合について
図1(a),(b)を参照しながら説明する。
図1(a),(b)に示すように、実施例1の変形例に係る防火扉用差圧緩和構造1A’は、防火扉用差圧緩和構造1Aにおける閉鎖板5及び規制解除部材7(例えば金属ろう材7a及びその固定構造)が防火扉50の正面側遮蔽面51a上に設けられている第1のセット3aと[
図1(a)を参照]、防火扉用差圧緩和構造1Aにおける閉鎖板5及び規制解除部材7(例えば金属ろう材7a及びその固定構造)が防火扉50の正面側遮蔽面51b上に設けられている第2のセット3bと[
図1(b)を参照]、を備えてなるものである。
【0041】
また、上述のような変形例に係る防火扉用差圧緩和構造1A’を構成する第1,第2のセット3a,3bの動作は、上述の実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aの動作と同じである。
そして、上述のような変形例に係る防火扉用差圧緩和構造1A’を備える防火扉50の近辺で火災が起こると、その熱で第1のセット3a及び第2のセット3bの規制解除部材7がともに溶断されて、2つの通気口4がそれぞれの閉鎖板5により閉鎖される。
この結果、防火扉50の正面側遮蔽面51a側から背面側遮蔽面51b側への、又はこの逆方向への空気の流動が遮断されて、火災発生区域において延焼が広がるのを好適に防ぐことができる。
【0042】
さらに、防火扉50に形成される2つの通気口4,4がともに閉鎖板5,5により閉鎖されている状態では、防火扉50の内外の圧力差によって防火扉50をスムーズに開くことができない。
しかしながら、変形例に係る防火扉用差圧緩和構造1A’を備える差圧緩和構造付き防火扉2Aでは、正面側遮蔽面51a上にも、背面側遮蔽面51b上にも閉鎖板5を備えているため、これらのうちのいずれかを操作することで2つの通気口4のうちのいずれかを開放することができる。
この結果、実施例1に係る差圧緩和構造付き防火扉2Aの内外の圧力差を緩和することができるので、防火扉50をスムーズに開放することができる。
つまり、防火扉50の正面側遮蔽面51a側に配される閉鎖板5を操作して通気口4を開放する場合は、ドアノブ52a[
図1(a)を参照]を操作することで容易に防火扉50を開くことができる。また、防火扉50の背面側遮蔽面51b側に配される閉鎖板5を操作して通気口4を開放する場合は、ドアノブ52b[
図1(b)を参照]を操作することで容易に防火扉50を開くことができる。
よって、変形例に係る防火扉用差圧緩和構造1A’を備える差圧緩和構造付き防火扉2Aによれば、防火扉50に防火扉用差圧緩和構造1Aを1セットのみ備える場合に比べて、利便性及び実用性に優れた防火扉を提供することができる。
【0043】
また、実施例1に係る差圧緩和構造付き防火扉2Aでは、
図1(a),(b)に示すように、防火扉50を鉛直方向に4等分した際の最下に位置する領域に防火扉用差圧緩和構造1A又は防火扉用差圧緩和構造1A’を備えていてもよい(任意選択構成要素)。
この場合、作業者は、閉鎖板5により塞がれている通気口4を再び開放すべく閉鎖板5を揺動させる操作を、自身の足先(つま先)により行うことができる。
この場合、作業者は、閉鎖板5を揺動させるのに自身の手を使用する必要がないので、閉鎖板5を足先(つま先)で操作して通気口4を開放しつつ、手でドアノブ52a又はドアノブ52bを操作することで容易に防火扉50を開くことができる。
よって、上述のような実施例1に係る差圧緩和構造付き防火扉2Aによれば、防火扉50の操作性を一層向上させることができる。
【0044】
さらに、実施例1に係る差圧緩和構造付き防火扉2Aでは、防火扉50を開閉操作するドアノブ52a又はドアノブ52b寄りの鉛直下方側に、防火扉用差圧緩和構造1A又は防火扉用差圧緩和構造1A’を備えていてもよい(任意選択構成要素)。
より好ましくは、実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1A又は防火扉用差圧緩和構造1A’は、防火扉50において床面54側の辺に極力接近させて設けておくとよい。
この場合、防火扉用差圧緩和構造1A又は防火扉用差圧緩和構造1A’の設置対象である防火扉50の水平方向幅が大きい場合に、より具体的には防火扉50の水平方向幅が例えば一間を超えて大きい場合に、作業者は閉鎖板5を足先(つま先)で操作して通気口4を開放しつつ、手でドアノブ52a又はドアノブ52bを操作する作業を容易に行うことができる。
よって、上述のような実施例1に係る差圧緩和構造付き防火扉2Aによれば、防火扉50の水平方向幅が大きい場合でもその操作性を向上させることができる。
【0045】
<2;本発明の変形例について>
続いて、
図3乃至
図7を参照しながら本発明に係る防火扉用差圧緩和構造の変形例について説明する。
[実施例2]
図3(a)は本発明の実施例2に係る防火扉用差圧緩和構造の作動前の様子を示す斜視図であり、(b)同防火扉用差圧緩和構造の作動後の様子を示す斜視図である。なお、
図1,2に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
先の実施例1では規制解除部材7として、所望の温度で液化する金属ろう材7a(又は蝋を含む樹脂材)を用いる場合を例に挙げて説明したが、規制解除部材7は金属ろう材7a以外のものを用いることもできる。つまり、規制解除部材7として所望の温度で変形する形状記憶合金7bを用いることができる。
なお、形状記憶合金7bが変形する温度に関する定義は、先に述べた金属ろう材7aが溶融する温度に関する定義と同じである。
【0046】
より具体的には、実施例2に係る防火扉用差圧緩和構造1Bは、例えば
図3(a)に示すように、扉本体51の正面側遮蔽面51a上に支持軸6により軸支される閉鎖板5の周縁に突起状の係止用突起5aを備えるとともに、この係止用突起5aを正面側遮蔽面51a上に例えばビス9等の固定具で固定される形状記憶合金7bで係止して位置決めしたものである。
上述のような実施例2に係る防火扉用差圧緩和構造1Bでは、例えば
図3(a)に示すように常温下で平坦状又は直線状をなしている形状記憶合金7bが、火災時に生じる熱で所望の温度にまで熱せられることで、
図3(b)に示すようにその外形が例えば湾曲状又は屈曲状に変形する。
これにより、閉鎖板5における係止用突起5aと形状記憶合金7bの係合関係が解除されて、支持軸6を基軸に閉鎖板5が回動する。つまり、
図3(a)中の符号Aで示す方向に閉鎖板5が回動する。この結果、閉鎖板5により通気口4が閉鎖されて、通気口4内の空気の流動が遮断される。
なお、実施例2に係る防火扉用差圧緩和構造1Bを備えることによる作用・効果は、実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aを備えることによる作用・効果と同じである。
【0047】
なお、実施例2に係る防火扉用差圧緩和構造1Bにおいて規制解除部材7である形状記憶合金7bは、扉本体51における正面側遮蔽面51a上に直接固設してもよいが、必要に応じて正面側遮蔽面51aと形状記憶合金7bの間に高さ調整板11を介設してもよい(任意選択構成要素)。
この場合は、正面側遮蔽面51a上における閉鎖板5の配設位置と、正面側遮蔽面51a上における規制解除部材7の配設位置が一致しない場合や、閉鎖板5の厚みと規制解除部材7の厚みが大幅に異なる場合でも、閉鎖板5の係止用突起5aに規制解除部材7を確実に係止することができる。
また、
図3(a),(b)では、閉鎖板5の周縁に係止用突起5aを設ける場合を例に挙げて説明しているが、係止用突起5aは必ずしも設ける必要はない。
この場合は、扉本体51の正面側遮蔽面51a上における形状記憶合金7bの固設位置を適宜調整して、閉鎖板5の周縁に直接形状記憶合金7bを係止させればよい。
この場合も、閉鎖板5が係止用突起5aを備えている場合と同様の作用・効果を発揮させることができる。
【0048】
ここで、
図4を参照しながら実施例2に係る防火扉用差圧緩和構造1Bの変形例について説明する。
図4(a)は本発明の実施例2の変形例に係る防火扉用差圧緩和構造の作動前の様子を示す斜視図であり、(b)同防火扉用差圧緩和構造の作動後の様子を示す斜視図である。なお、
図1乃至
図3に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
先の実施例1,2に係る防火扉用差圧緩和構造1A,1Bでは、通気口4の開口形状、及び、閉鎖板5の平面形状が略円形である場合を例に挙げて説明しているが、これらの形状を図示される形状に限定する必要はない。
より具体的には、例えば
図4(a)に示すように、変形例に係る防火扉用差圧緩和構造1B’では、通気口4’の開口形状を例えば四角形状にするとともに、閉鎖板5’の平面形状も四角形状にしてもよい(任意選択構成要素)。
さらに、通気口4’の近傍にストッパー12を設けておくことで、通気口4’を塞ぐ位置で閉鎖板5’の回動動作を確実に停止させることができる。この場合、閉鎖板5’の外形サイズを可能な限り小さくできるというメリットを有する。
ただし、正面側遮蔽面51a上における閉鎖板5’の取設位置を適宜調整することで、ストッパー12の設置を省略することもできる。
なお、上記以外の実施例2の変形例に係る防火扉用差圧緩和構造1B’を備えることによる作用・効果は、実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aを備えることによる作用・効果と同じである。
【0049】
[実施例3]
先の実施例1,2に係る防火扉用差圧緩和構造1A~1B’では、扉本体51の正面側遮蔽面51a上に支持軸6により閉鎖板5や閉鎖板5’を軸支する場合を例に挙げて説明しているが、閉鎖板5の保持構造として支持軸6以外の構造を採用することもできる。
ここで、扉本体51の正面側遮蔽面51a上における閉鎖板5の他の支持構造について
図5を参照しながら説明する。
図5(a)は本発明の実施例3に係る防火扉用差圧緩和構造の作動前の様子を示す斜視図であり、(b)同防火扉用差圧緩和構造の作動後の様子を示す斜視図である。なお、
図1乃至
図4に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
実施例3に係る防火扉用差圧緩和構造1Cは、例えば
図5(a)に示すように、通気口4の鉛直上方側に閉鎖板5を配し、この閉鎖板5を規制解除部材7である金属ろう材7aで扉本体51の正面側遮蔽面51a上に固定してもよい。
さらに、実施例3に係る防火扉用差圧緩和構造1Cでは、閉鎖板5の左右両側縁側に保持枠13を設け、この保持枠13の間に閉鎖板5を介設して、保持枠13の間を閉鎖板5がスライドするよう構成してもよい(任意選択構成要素)。
つまり、実施例3に係る防火扉用差圧緩和構造1Cにおいて一対の保持枠13は、閉鎖板5のガイドとして作用する。
【0050】
この場合、火災時に生じる熱で金属ろう材7aが溶けて(液化して)溶断されることで、閉鎖板5の位置決め状態が解除される。この後、閉鎖板5は、保持枠13,13の間を鉛直下方側に、つまり、
図5(a)中の符号Cで示す方向に自由落下する。
そして、鉛直下方側に自由落下した閉鎖板5が保持枠13,13の下端側に設けられるストッパー12で受け止められて、通気口4が閉鎖板5により閉鎖される[
図5(b)を参照]。
また、閉鎖板5により閉鎖された通気口4を再度開放するには、作業者は自らの手や足を使って通気口4を塞いでいる閉鎖板5を鉛直上方側に押し上げて、通気口4を開放すればよい。
なお、上述のような実施例3に係る防火扉用差圧緩和構造1Cを備えることによる作用・効果は、実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aを備えることによる作用・効果と同じである。
【0051】
また、
図5では保持枠13,13の下端側にストッパー12を備える場合を例に挙げて説明しているが、ストッパー12を設ける必要は必ずしもなく、保持枠13,13の鉛直下方側を図示しない別の保持枠で連結したり、保持枠13,13の下端側の平面形状を略L字状形成しておくことによっても、ストッパー12と同様の作用・効果を発揮させることができる。
【0052】
[実施例4]
最後に、実施例4に係る防火扉用差圧緩和構造後付けユニットについて
図6,7を参照しながら説明する。
図6は本発明の実施例4に係る防火扉用差圧緩和構造後付けユニットの要部を拡大して示す斜視図である。また、
図7(a)は本発明の実施例5に係る防火扉用差圧緩和構造後付けユニットを取り付ける前の防火扉の様子を示す正面図であり、(b)は同防火扉用差圧緩和構造後付けユニットを取り付けた後の防火扉の様子を示す正面図である。なお、
図1乃至
図5に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
先に述べた実施例1~3に係る防火扉用差圧緩和構造1A~1Cはいずれも、防火扉50に予め取設しておくことを想定している。しかしながら、本発明の別の実施形態として、既存の防火扉50に防火扉用差圧緩和構造1A~1Cを後付けする態様も想定される。
また、通常防火扉50は、先の
図2乃至
図5に示すように、一対の金属製の遮蔽板55,55からなる扉本体51により構成されている。このため、実施例1~3に係る防火扉用差圧緩和構造1A~1Cを後付けする場合は、対をなす遮蔽板55,55に連穿孔を形成して、この連穿孔を通気口4にする必要があるため、その作業が煩雑である。
さらに、特に既存の防火扉50に対して実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aを2セット設ける場合(=防火扉用差圧緩和構造1A’)は、扉本体51に2つの通気口4を設ける必要があるため、その作業がさらに煩雑になる。
【0053】
このような事情に鑑み、本発明に係る防火扉用差圧緩和構造1A~1Cを、既存の防火扉50に容易に後付けできるよう構成したものが実施例4に係る防火扉用差圧緩和構造後付けユニット14である。
このような実施例4に係る防火扉用差圧緩和構造後付けユニット14は、例えば
図6に示すように、既存の防火扉50とは別に準備される金属板15に、本発明に係る防火扉用差圧緩和構造(例えば
図6に示す防火扉用差圧緩和構造1B等)を1セット又は2セット設け、さらにこの金属板15の周縁に取付け枠16を備えてなるものである。
また、上述のような実施例4に係る防火扉用差圧緩和構造後付けユニット14を既存の防火扉50に後付けするには、例えば
図7(a)に示すように、既存の防火扉50における扉本体51の所望箇所に取付け用開口19を形成し、この取付け用開口19に防火扉用差圧緩和構造後付けユニット14を嵌め込んで、その取付け枠16を扉本体51に、例えばボルト18等の固定具により固定すればよい。この場合、取付け枠16に予めボルト孔17を形成しておいてもよいし、ボルト孔17を備えない場合はボルト18でなく図示しないビスにより固定してもよい。
あるいは、既存の防火扉50に形成される取付け用開口19に、実施例4に係る防火扉用差圧緩和構造後付けユニット14の取付け枠16を溶接して固定してもよい。
【0054】
上述のような実施例4に係る防火扉用差圧緩和構造後付けユニット14を用いることで、既存の防火扉50を容易に本発明に係る差圧緩和構造付き防火扉2Bに改造することができる。
なお、上記以外の実施例4に係る防火扉用差圧緩和構造後付けユニット14を備えることによる作用・効果は、実施例1に係る防火扉用差圧緩和構造1Aを備えることによる作用・効果と同じである。
【0055】
なお、本実施形態では防火扉50の開閉構造としてヒンジ53のみを備える場合を例に挙げて説明しているが、この開閉構造はヒンジ53のみに限定される必要はなく、従来公知の他の開閉構造(例えばドアクローザ等)を支障なく採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように本発明は、平時は通気口を開放して防火扉の正面側(内側/外側)と背面側(外側/内側)の圧力差を緩和して防火扉の開閉を容易にするとともに、火災時は通気口を自動で閉鎖して火災発生区域側への空気の流入を遮断することができる防火扉用差圧緩和構造および差圧緩和構造付き防火扉および防火扉用差圧緩和構造後付けユニットであり、建築や防火設備に関する技術分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1A~1C…防火扉用差圧緩和構造 2A,2B…差圧緩和構造付き防火扉 3a…第1のセット 3b…第2のセット 4,4’…通気口 5,5’…閉鎖板 5a…係止用突起 6…支持軸 7…規制解除部材 7a…金属ろう材 7b…形状記憶合金 8a,8b…止め具 9…ビス 10…高さ調整リング 11…高さ調整板 12…ストッパー 13…保持枠 14…防火扉用差圧緩和構造後付けユニット 15…金属板 16…取付け枠 17…ボルト孔 18…ボルト 19…取付け用開口 50…防火扉 51…扉本体 51a…正面側遮蔽面 51b…背面側遮蔽面 52a,52b…ドアノブ 53…ヒンジ 54…床面 55…遮蔽板