(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】エレベータ
(51)【国際特許分類】
B66B 3/00 20060101AFI20241219BHJP
B66B 5/04 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B66B3/00 R
B66B5/04 A
(21)【出願番号】P 2024035637
(22)【出願日】2024-03-08
【審査請求日】2024-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中川 淳一
【審査官】山田 拓実
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-003101(JP,A)
【文献】特開2014-213974(JP,A)
【文献】特開2009-149390(JP,A)
【文献】特開2013-018643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 3/00-5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路内を昇降するかごに接続されるロープと、
前記ロープが巻き掛けられる外周面を有し、前記かごの昇降と連動して回動する綱車と、
前記外周面に付着物が所定高さ付着したことを検出可能な検出部と、
前記かごの速度異常を検出する調速機と、
前記かごを昇降駆動する巻上機と、を備え、
前記綱車は、前記調速機が有する第一綱車と、前記ロープに所定のテンションを与えるための第二綱車と、を含み、
前記ロープは、前記第一綱車と前記第二綱車とに巻き掛けられ、
前記検出部は、前記第一綱車及び前記第二綱車のうちの少なくとも一方の綱車の前記外周面に前記付着物が前記所定高さ付着したことを検出し、
前記調速機は、前記ロープの速度が第一速度になったときに前記かごを電気的に停止させ、
前記所定高さは、前記巻上機が定格速度で前記かごを上昇又は下降させている状態で前記ロープの速度が前記定格速度より大きく且つ前記第一速度より小さな第二速度になる場合の前記付着物の高さに対応する値である、エレベータ。
【請求項2】
昇降路内を昇降するかごに接続されるロープと、
前記ロープが巻き掛けられる外周面を有し、前記かごの昇降と連動して回動する綱車と、
前記外周面に付着物が所定高さ付着したことを検出可能な検出部と、
前記かごの速度異常を検出する調速機と、
前記かごを昇降駆動する巻上機と、を備え、
前記綱車は、前記調速機が有する第一綱車と、前記ロープに所定のテンションを与えるための第二綱車と、を含み、
前記ロープは、前記第一綱車と前記第二綱車とに巻き掛けられ、
前記検出部は、前記第一綱車及び前記第二綱車のうちの少なくとも一方の綱車の前記外周面に前記付着物が前記所定高さ付着したことを検出し、
前記調速機は、前記ロープの速度が第一速度になったときに前記かごを電気的に停止させ、
前記所定高さは、前記巻上機が定格速度で前記かごを上昇又は下降させている状態で前記ロープの速度が前記付着物に基づく振幅で振動するように変化したときに、該ロープの最大速度が前記第一速度より小さな第二速度になる場合の前記付着物の高さに対応する値である、エレベータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降路内をかごが昇降するエレベータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エレベータに配置され、ロープが巻き掛けられる綱車(シーブ等)の溝に付着した付着物(ロープからにじみ出たロープ油や、周囲のごみ、ほこり等)を除去するシーブ溝清掃装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このシーブ溝清掃装置は、シーブ溝に係合可能な係合部を有し、係合部は、弾性部材によって被覆されている。このシーブ溝清掃装置が配置されたエレベータでは、弾性部材を介して係合部がシーブ溝に係合することで、弾性部材が係合部とシーブ溝との間で弾性変形してシーブ溝に嵌まり込み、この状態でシーブが回転して弾性部材がシーブ溝と摺接することで、シーブ溝の清掃が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のシーブ溝清掃装置がエレベータに配置されていても、綱車の溝に付着した付着物を完全には除去できないときがあり、除去できなかった付着物が堆積して所定高さを越えると、エレベータにおいて種々の問題が生じ易くなる。
【0006】
そこで、本発明は、綱車に付着物が所定高さ付着したことを検出可能なエレベータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエレベータは、
昇降路内を昇降するかごに接続されるロープと、
前記ロープが巻き掛けられる外周面を有し、前記かごの昇降と連動して回動する綱車と、
前記外周面に付着物が所定高さ付着したことを検出可能な検出部と、を備える。
【0008】
かかる構成によれば、検出部が綱車の外周面に付着物が所定高さ付着したことを検出可能である。
【0009】
また、前記エレベータは、前記かごの速度異常を検出する調速機を備え、
前記綱車は、前記調速機が有する第一綱車と、前記ロープに所定のテンションを与えるための第二綱車と、を含み、
前記ロープは、前記第一綱車と前記第二綱車とに巻き掛けられ、
前記検出部は、前記第一綱車及び前記第二綱車のうちの少なくとも一方の綱車の前記外周面に前記付着物が前記所定高さ付着したことを検出してもよい。
【0010】
かかる構成によれば、付着物に起因するロープの速度変化が大きくなる前(即ち、調速機でのかごの速度異常の誤検出が生じる程度まで付着物が大きくなる前)に、付着物が検出される。
【0011】
この場合、具体的には、前記エレベータは、前記かごを昇降駆動する巻上機を備え、
前記調速機は、前記ロープの速度が第一速度になったときに前記かごを電気的に停止させ、
前記所定高さは、前記巻上機が定格速度で前記かごを上昇又は下降させている状態で前記ロープの速度が前記定格速度より大きく且つ前記第一速度より小さな第二速度になる場合の前記付着物の高さに対応する値であってもよい。
【0012】
かかる構成によれば、付着物に起因する調速機でのかごの速度異常の誤検出を防ぐことができる。
【0013】
また、前記エレベータは、前記かごを昇降駆動する巻上機を備え、
前記調速機は、前記ロープの速度が第一速度になったときに前記かごを電気的に停止させ、
前記所定高さは、前記巻上機が定格速度で前記かごを上昇又は下降させている状態で前記ロープの速度が前記付着物に基づく振幅で振動するように変化したときに、該ロープの最大速度が前記第一速度より小さな第二速度になる場合の前記付着物の高さに対応する値であってもよい。
【0014】
かかる構成によれば、共振等によってロープの速度が振動するような場合(即ち、速度の値が所定の範囲で増減を繰り返すような速度変化をする場合)であっても、付着物に起因する調速機でのかごの速度異常の誤検出を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0015】
以上より、本発明によれば、綱車に付着物が所定高さ付着したことを検出可能なエレベータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るエレベータの構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、前記エレベータが備えるガバナの構成を説明するための図である。
【
図3】
図3は、
図2のIII-III位置の拡大断面図である。
【
図4】
図4は、ガバナロープが巻き掛けられた状態のテンションシーブにおける溝周辺の拡大断面図である。
【
図5】
図5は、第一検出部の構成を説明するための模式図である。
【
図6】
図6は、前記第一検出部において溝ローラーが付着物を乗り越える状態を示す模式図である。
【
図7】
図7は、ガバナロープの速度の振動を示すグラフである。
【
図8】
図8は、前記ガバナロープにおいて速度の振動が生じる原理を説明するための模式図である。
【
図9】
図9は、付着物の固着高さと前記ガバナロープの共振速度振幅との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、共振速度振幅を演算により導出するために必要な値の求め方を説明するための図である。
【
図11】
図11は、他実施形態に係る綱車及び検出部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、
図1~
図10を参照しつつ説明する。
【0018】
本実施形態に係るエレベータは、いわゆるトラクション式エレベータである。このエレベータ1は、
図1に示すように、建物等において上下方向に延びる昇降路S1と、昇降路S1の上部又は昇降路S1の上方に設けられた機械室S2等に配置され且つ主シーブ2aを有する巻上機2と、主シーブ2aに巻き掛けられているメインロープ3と、メインロープ3の一端に接続され且つ昇降路S1内を昇降するかご4と、メインロープ3の他端に接続されるカウンターウェイト5と、を備える。
【0019】
また、エレベータ1は、テンションシーブ61を有し且つ昇降路S1の下部に配置される下部シーブ部6と、テンションシーブ61の上方に位置するガバナシーブ71を有し且つ昇降路S1の上部又は昇降路S1の上方に設けられた機械室S2等に配置されるガバナ(調速機)7と、かご4に連結され且つテンションシーブ61とガバナシーブ71とに無端状に巻き掛けられたガバナロープ(調速ロープ)8と、を備える。本実施形態のガバナ7は、機械室S2に配置されている。
【0020】
また、エレベータ1は、ガバナシーブ71に付着した付着物Fを検出可能な第一検出部(検出部)9Aを備える(
図5参照)。本実施形態のエレベータ1は、テンションシーブ61に付着した付着物を検出可能な第二検出部(検出部)9Bも備える。
【0021】
このエレベータ1では、巻上機2が主シーブ2aを回転駆動することによって、メインロープ3の一端に接続されているかご4が昇降路S1内を昇降(走行)する。このかご4の昇降に伴って、ガバナロープ8がかご4の昇降速度と同速度で走行(回転)する。
【0022】
ガバナ7は、ガバナロープ8が巻き掛けられたガバナシーブ71の回転速度によってかご4の速度(走行速度)を検出し、かご4の上昇速度又は下降速度が規定の値を超えた速度になると、該かご4を停止させる。本実施形態のガバナ7は、昇降路S1の上方に設けられた機械室S2において巻上機2と共に配置されている。
【0023】
具体的に、ガバナ7は、
図2にも示すように、ガバナロープ8が巻き掛けられるガバナシーブ71と、水平方向に延びる回転軸部材72aを有し且つガバナシーブ71を回転軸部材72a周りに回転自在な状態で支持する基部72と、ガバナシーブ71の回転速度が第一規定値(過速度値)V
1を越えたときにかご4を電気的に停止させる過速検出スイッチ73と、ガバナロープ8を挟み込み可能なロープ挟み込み機構74と、ガバナシーブ71の回転速度が第一規定値V
1より大きな第二規定値(超過速度値)V
2を超えたときにロープ挟み込み機構74を作動させる振子部75と、を有する。本実施形態の例では、第一規定値は、例えば、定格速度の1.3倍であり、第二規定値は、例えば、定格速度の1.4倍である。
【0024】
以下では、回転軸部材72aの延びる方向を直交座標系におけるX軸方向とし、回転軸部材72aの延びる方向と直交し且つ水平な方向を直交座標系におけるY軸方向とし、上下方向を直交座標系におけるZ軸方向とする。
【0025】
ガバナシーブ71は、
図3にも示すように、外周部に溝(外周面)711を有し、ガバナロープ8が溝711に沿って巻き掛けられる。この溝711の幅(X軸方向の寸法)α1は、ガバナロープ8の径と対応している(詳しくは、ガバナロープ8が嵌まり込む大きさである)。
【0026】
ロープ挟み込み機構74は、かご4の上昇又は下降速度が第二規定値まで上昇したときに、ガバナロープ8を挟み込むことによってかご4を停止させる。本実施形態のロープ挟み込み機構74は、ガバナロープ8を挟み込むことによって停止させ、これにより、かご4に配置され且つガバナロープ8に連結された非常止め装置(図示省略)を作動させることでかご4を停止させる(即ち、かご4を機械的に停止させる)。
【0027】
具体的に、ロープ挟み込み機構74は、ガバナロープ8に沿った位置に固定される固定側シュー741と、固定側シュー741との間にガバナロープ8を挟み込み可能な可動側シュー742を有するヘッド部743と、可動側シュー742が固定側シュー741と間隔をあけた位置でヘッド部743を保持している保持フック744と、を有する。このロープ挟み込み機構74では、保持フック744がヘッド部743を解放することで、ヘッド部743が回動して可動側シュー742と固定側シュー741との間にガバナロープ8が挟み込まれる。
【0028】
過速検出スイッチ73は、巻上機2のスイッチを切り且つ巻上機2の制動装置(ブレーキ)を作動させる(即ち、かご4を電気的に停止させる)。
【0029】
振子部75は、遠心力を利用してかご4の速度(上昇速度及び降下速度)を検出し、ロープ挟み込み機構74を作動させる。この振子部75は、ガバナシーブ71に回動可能に取り付けられる複数(
図2に示す例では、二つ)の振子751と、振子751を付勢する弾性部材752と、を有する。
【0030】
複数の振子751のそれぞれは、ガバナシーブ71に対し、X軸方向に延びる回動軸753周りに回動可能に取り付けられている。各振子751では、ガバナシーブ71の回転方向における回動軸753の一方側(かご4が下降するときにガバナシーブ71が回転する方向側:
図2における時計回り側)の部位(第一部位)751aと他方側の部位(第二部位)751bとにおいて重さが異なる。本実施形態の振子751では、第一部位751aが第二部位751bより重い。これにより、かご4の上昇又は下降する方向にガバナシーブ71が回転したときに、遠心力によって、第一部位751aが径方向の外側に向かうように各振子751が回動軸753まわりに回動しようとする。
【0031】
この状態で、ガバナシーブ71の回転速度(即ち、ガバナロープ8の速度)が上昇してかご4の定格速度の1.3倍になると、振子751の回動軸753まわりの回動によって第一部位751aがガバナシーブ71の径方向の外側に移動し、過速度検出スイッチ73と当接する。そして、さらにガバナシーブ71の回転速度が上昇してかご4の定格速度の1.4倍になると、振子751(詳しくは、第一部位751a)がガバナシーブ71の半径方向のさらに外側に移動し、保持フック744に当接する。
【0032】
以上のガバナ7によれば、ガバナロープ8によってガバナシーブ71がかご4の走行(昇降)に同期して回転し、振子751が回動軸753を中心に遠心力で広がり、かご4が定格速度の1.3倍(130%)となると、振子751の当接(衝突)によって過速検出スイッチ73が動作して巻上機2への電源回路を開き(即ち、スイッチを切り)、巻上機2の制動装置を作動させ、これにより、かご4が電気的に停止させられる。
【0033】
また、かご4が上昇時又は下降時にさらに過速して定格速度の1.4倍(140%)になると、振子751は、より大きく広がり、保持フック744に当接(衝突)してロープ挟み込み機構74のヘッド部743から保持フック744を外し(換言すると、保持フック744がヘッド部743を解放し)、これにより、ロープ挟み込み機構74が作動してガバナロープ8をキャッチする。その結果、ガバナロープ8が停止してかご4の非常止め装置が作動する。
【0034】
下部シーブ部6は、上下動自在で且つX軸方向(ガバナシーブ71の回転軸部材72aの延びる方向と同方向)に延びる軸61aまわりに回転自在のテンションシーブ61と、テンションシーブ61に接続される錘62と、を有する。
【0035】
テンションシーブ61は、
図4にも示すように、外周部に溝(外周面)611を有し、ガバナロープ8が溝611に沿って巻き掛けられる。この溝611の幅(X軸方向の寸法)α2は、ガバナロープ8の径と対応しており(詳しくは、ガバナロープ8が嵌まり込む大きさであり)、本実施形態の溝611の幅α2は、ガバナシーブ71の溝711の幅α1と同じ又は略同じである。
【0036】
錘62は、自重によってテンションシーブ61に対して下向きの力を加えることで、ガバナシーブ71とテンションシーブ61とに無端状に巻き掛けられたガバナロープ8に対して所定のテンションを付与する。
【0037】
第一検出部9Aは、ガバナシーブ71の外周面(本実施形態の例では、溝)711に付着物Fが所定高さ付着したことを検出する。この第一検出部9Aは、溝711の底面からの付着物Fの高さ(ガバナシーブ71の径方向の寸法)が、予め設定された値(検出設定値:例えば、3~6mm程度)になったときに付着物Fを検出する。尚、検出設定値の詳細については後述する。また、本実施形態における付着物Fは、ガバナロープ8からにじみ出たロープ油や、周囲のごみ、ほこり等が固着したものであり、時間の経過と共に大きくなる。
【0038】
具体的に、第一検出部9Aは、
図5及び
図6にも示すように、ガバナシーブ71と接触する接触部91と、接触部91を支持する支持部95と、接触部91の所定量(本実施形態の例では、検出設定値)以上の移動を検出可能な検出スイッチ96と、を有する。尚、
図5及び
図6において、符号711aで示す部位は、ガバナシーブ71の溝711の底面711aであり、符号Fで示す部位は、底面711aに付着した付着物である。
【0039】
支持部95は、周方向の所定位置で接触部91がガバナシーブ71に接触するように該接触部91を支持する。この所定位置としては、ガバナシーブ71に巻き掛けられたガバナロープ8から最も離れた位置が好ましく、本実施形態のエレベータ1では、ガバナシーブ71の下端位置で接触部91が溝711の底面711aに接触するように、支持部95が接触部91を支持している。
【0040】
具体的に、支持部95は、ガバナ7の基部72(詳しくは、回転軸部材72a周辺)から下方に延びる第一部位951と、第一部位951の下端から水平方向に延びる第二部位952と、を有する。
【0041】
接触部91は、溝711の底面711aに接触することによってガバナシーブ71の回転に伴って回転する溝ローラー92と、溝ローラー92を溝711の底面711aに向けて付勢した状態で溝ローラー92と支持部95(詳しくは、第二部位952)とを接続する付勢部93と、を有する。
【0042】
溝ローラー92は、X軸方向に延びる軸92aまわりに回転自在なローラーである。この溝ローラー92のX軸方向の厚さ寸法は、ガバナシーブ71の溝711の幅(開口幅)α1より小さい(
図3参照)。これにより、溝ローラー92は、溝711内に入り込み、該溝ローラー92の周面を底面711aに接触させる。
【0043】
付勢部93は、ガバナシーブ71の径方向に伸縮可能に第二部位952と溝ローラー92(詳しくは、軸92a)とを接続する伸縮部931と、伸縮部931を伸ばす向きに(即ち、溝ローラー92を溝711の底面711aに向けて)付勢するスプリング部932と、を有する。
【0044】
検出スイッチ96は、溝ローラー92が溝711の底面711aからガバナシーブ71の径方向に検出設定値以上離間したときに検出信号を出力する(スイッチ応答する)。本実施形態のエレベータ1では、検出スイッチ96から出力され検出信号は、エレベータ1の遠隔監視を行っているセンター等に送信(発報)される。尚、本実施形態の例では、この発報を受信したセンター等は、付着物Fの除去作業を行うように作業員等に指示を送る。
【0045】
第二検出部9Bは、第一検出部9Aの構成と同じである。即ち、第二検出部9Bは、接触部91と支持部95と検出スイッチ96とを有する。そして、接触部91は、溝ローラー92と付勢部93とを有し、支持部95は、第一部位951と第二部位952とを有する。この第二検出部9Bの接触部91がテンションシーブ61に接触する位置(テンションシーブ61の周方向の位置)も、テンションシーブ61に巻き掛けられたガバナロープ8から最も離れた位置が好ましく、本実施形態のエレベータ1では、テンションシーブ61の上端位置で接触部91が溝611の底面611aに接触するように、支持部95が接触部91を支持している。
【0046】
次に、第一及び第二検出部9A、9Bの検出設定値について説明する。
【0047】
この検出設定値は、巻上機2が定格速度でかご4を走行(上昇又は下降)させている状態でガバナロープ8の速度(速度値)が定格速度より大きく且つ第一規定値V1より小さな速度(警報速度)VKになる場合の付着物Fの高さ(固着高さ)hに対応する値である。この警報速度(警報速度の値)VK(即ち、警報速度VKに相当する固着高さh)は、所定の幅を有してもよい。
【0048】
本実施形態の検出設定値は、巻上機2が定格速度でかご4を走行させている状態でガバナロープ8の速度Vが付着物Fに基づく振幅(速度振幅)V
Aで振動するように変化したときに(即ち、ガバナロープ8の速度の値が所定の範囲で増減を繰り返すような速度変化をする場合:
図7参照)、該ガバナロープ8の最大速度が第一規定値V
1より小さな所定の速度(警報速度)V
Kになる場合の付着物Fの高さ(固着高さ)hに対応する値である。詳しくは、以下の通りである。
【0049】
図8(A)に示すように、各シーブ(ガバナシーブ71、テンションシーブ61)に付着物Fが付着していない場合、かご4が定格速度V
0で走行(
図8(A)に示す例では、上昇)しているときに、ガバナロープ8及び各シーブ71、61は、かご4に追従して一定の速度(定格速度)V
0で移動又は回転する。
【0050】
一方、
図8(B)に示すように、ガバナシーブ71の周方向の一箇所に付着物Fが付着(固着)している場合、定格速度V
0になった直後の走行の初期段階では、ガバナシーブ71が慣性でほぼ定格速度V
0で回転する一方、付着物Fにガバナロープ8が乗り上げるタイミングでガバナロープ8が余分に巻き上げられる。
【0051】
この状態で、ガバナロープ8の伸縮に起因する共振が発生すると、共振によるガバナロープ8の速度変化が大きいために、ガバナシーブ71の回転速度にも影響が生じる。このときのガバナロープ8の速度Vは、定格速度V
0を中心にして±V
Aの間で速度の上下が繰り返されて振動する(
図7及び
図8(C)参照)。
【0052】
この共振時の速度振幅(共振速度振幅)V
Aは、実験や過去の実績に基づいて求めることができ、
図9に示すように付着物Fの固着高さhに比例する。
【0053】
尚、ガバナロープ8の速度振幅VAは、演算によっても求めることもできる。この演算では、付着物Fにガバナロープ8が乗り上げるタイミングで余分に巻き上げられるガバナロープ8の長さ(余分長さ)L0が用いられるが、この余分長さL0は、付着物Fの形状を三角状であると擬制して、以下のように求められる。
【0054】
図10に示すように、ガバナシーブ71に付着した付着物Fをガバナシーブ71の回転軸方向から見て、固着高さがh、固着角がθ、の三角状と擬制したときに、ガバナロープ8が経路ABCを通るとき(付着物Fの付着時)の経路ABCの距離L
1は、ガバナシーブ71の半径をr、sinθ≒θとしたときに、
L
1=2(r+h)sinθ=2(r+h)θ
で求められ、ガバナロープ8が経路ACを通るとき(付着物Fが無いとき)の円弧ACの距離L
2は、
L
2=2πr×θ/2π×2=2rθ
で求められ、余分長さL
0は、L
1とL
2の差であるため、
L
0=L
1-L
2=2hθ
となる。
【0055】
以上のようにして求めた余分長さL0を用いた演算によって、速度振幅VAを求めることができる。
【0056】
図7に戻り、ガバナシーブ71に付着物Fが付着することによってガバナロープ8の速度Vにおいて共振による振動が生じているときに、付着物Fが徐々に大きくなる(即ち、固着高さhが徐々に大きくなる)のに伴って速度振幅V
Aも徐々に大きくなり、第一規定値V
1に達すると、定格速度V
0が第一規定値V
1より小さくても、ガバナ7の過速検出スイッチ73によってかご4が停止させられる(即ち、ミストリップが発生する)。
【0057】
そこで、速度振幅VAが第一規定値V1より小さな警報速度VKになったときの付着物Fを検出して発報等が行われることで、この付着物を除去して、ミストリップの発生を防ぐことができる。このため、本実施形態のエレベータ1では、速度振幅VAが警報速度VKになったときの付着物の高さhを第一及び第二検出部9A、9Bの検出設定値として設定している。
【0058】
尚、本実施形態のエレベータ1では、例えば、警報速度VKは、定格速度V0の1.1~1.2倍程度に設定されている。警報速度VKをこのような値とすることで、ミストリップの発生が効果的に抑えられる。
【0059】
以上のエレベータ1は、昇降路S1内を昇降するかご4に接続されるガバナロープ(ロープ)8と、ガバナロープ8が巻き掛けられる溝(外周面)711、611を有し、かご4の昇降と連動して回動するシーブ(綱車)71、61と、溝711、611に付着物Fが検出設定値の高さ(所定高さ)まで付着したことを検出可能な検出部9A、9Bと、を備える。これにより、検出部9A、9Bがシーブ71、61の溝711、611に付着物Fが検出設定値の高さまで付着したことを検出できる。換言すると、付着物Fに起因するガバナロープ8の速度変化が大きくなる前(即ち、付着物Fに起因するガバナ7でのかご4の速度異常の誤検出(ミストリップ)が生じる程度まで付着物Fが大きくなる前)に、付着物Fを検出できる。
【0060】
また、固着高さ(付着高さ)hが検出設定値になった付着物Fを検出できることで、付着物Fに起因(乗り上げ等)して溝711、611からガバナロープ8が外れる程度まで大きくなる前に付着物Fを検出できるため、付着物Fに起因したシーブ71、61からのロープ外れを防ぐこともできる。
【0061】
また、本実施形態のエレベータ1は、かご4の速度異常を検出するガバナ(調速機)7を備え、綱車は、ガバナ7が有するガバナシーブ(第一綱車)71と、ガバナロープ(ロープ)8に所定のテンションを与えるためのテンションシーブ(第二綱車)61と、を含み、ガバナロープ8は、ガバナシーブ71とテンションシーブ61とに巻き掛けられ、検出部9A、9Bは、ガバナシーブ71及びテンションシーブ61のうちの少なくとも一方のシーブ(綱車)の溝(外周面)711、611に付着物Fが検出設定値の高さ(所定高さ)まで付着したことを検出する。
【0062】
かかる構成によれば、ガバナ7でのかご4の速度異常の誤検出(ミストリップ)が生じる程度まで付着物Fが大きくなる前に、付着物Fをより確実に検出できる。
【0063】
また、本実施形態のエレベータ1は、かご4を昇降駆動する巻上機2を備え、ガバナ(調速機)7は、ガバナロープ(ロープ)8の速度が第一規定値(第一速度)V1になったときにかご4を電気的に停止させる。そして、検出部9A、9Bの検出設定値(所定高さ)は、巻上機2が定格速度で前記かご4を上昇又は下降させている状態でガバナロープ8の速度が定格速度V0より大きく且つ第一規定値V1より小さな警報速度(第二速度)VKになる場合の付着物Fの高さhに対応する値である。これにより、付着物Fに起因するガバナ7でのかご4の速度異常の誤検出(ミストリップ)を防ぐことができる。
【0064】
また、本実施形態のエレベータ1は、かご4を昇降駆動する巻上機2を備え、ガバナ(調速機)7は、ガバナロープ(ロープ)8の速度が第一規定値(第一速度)V1になったときにかご4を電気的に停止させる。そして、検出部9A、9Bの検出設定値(所定高さ)は、巻上機2が定格速度V0でかご4を上昇又は下降させている状態でガバナロープ8の速度が付着物Fに基づく共振速度振幅(振幅)VAで振動するように変化したときに、該ガバナロープ8の最大速度が第一規定値より小さな警報速度(第二速度)VKになる場合の付着物Fの高さhである。これにより、共振等によってガバナロープ8の速度が振動するような場合(即ち、速度の値が所定の範囲で増減を繰り返すような速度変化をする場合)であっても、付着物Fに起因するガバナ7でのかご4の速度異常の誤検出(ミストリップ)を確実に防ぐことができる。
【0065】
尚、本発明のエレベータは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。
【0066】
上記実施形態のエレベータ1では、検出部9A、9Bは、ガバナシーブ71やテンションシーブ61に対して配置されているが、この構成に限定されない。検出部9A、9Bは、巻上機2の主シーブ2aに対して配置されていてもよい。この場合、所定の高さ(所定の固着高さ)より大きくなる前に主シーブ2aに付着した付着物Fを検出して除去等することによって、主シーブ2aに付着した付着物Fに起因するかご4の走行時の振動の発生や主シーブ2aからのロープ外れを好適に防ぐことができる。
【0067】
また、検出部9A、9Bは、他のシーブ(綱車)に配置されてもよい。即ち、検出部9A、9Bが配置されるシーブ(綱車)は、昇降路S1内を昇降する(走行する)かご4に接続されるロープが巻き掛けられる外周面を有し、かご4の昇降と連動して回動するシーブ(綱車)であればよい。
【0068】
また、上記実施形態のエレベータ1では、検出部9A、9Bは、ガバナシーブ71とテンションシーブ61とに対してそれぞれ配置されているが、この構成に限定されない。検出部9A、9Bは、いずれか一方に対してのみ配置されていてもよい。
【0069】
また、検出部9A、9Bの具体的な構成は限定されない。例えば、上記実施形態の検出部9A、9Bでは、接触部91が溝711、611(シーブ71、61の外周面)に接触することで付着物Fの高さ(固着高さ)を検出しているが、この構成に限定されず、非接触で付着物Fの固着高さhを検出する構成であってもよい。即ち、検出部9A、9Bは、シーブ71、61の外周面に付着した付着物Fが所定高さ(検出設定値)になったことを検出できる構成であればよい。
【0070】
また、上記実施形態のエレベータ1では、付着物Fが所定高さ(検出設定値)になったことが第一及び第二検出部9A、9Bによって1回検出されると、検出信号がエレベータ1の遠隔管理を行っているセンター等に送信(発報)されるが、この構成に限定されない。例えば、エレベータ1の制御部が、検出部9A、9Bからの検出信号を予め設定された複数回(例えば、3回、5回等)受信したときに、前記遠隔管理しているセンター等に送信(発報)等する構成であってもよい。このように一つの付着物Fが複数回検出された後に遠隔管理しているセンター等へ送信(発報)等される構成とすることで、固着高さhが検出設定値になった付着物Fの検出精度を向上させることができる。
【0071】
また、上記実施形態のエレベータ1では、検出部9A、9Bが配置されているシーブ(綱車)は、溝711、611が一つのシーブ71、61であるが、
図11に示すような複数の溝Mを有するシーブ(綱車)Tであってもよい。この場合、検出部9A、9Bは、全ての溝Mの付着物Fを検出対象にしてもよい。この場合、検出部9A、9Bが各溝Mに対してそれぞれ配置されてもよい。即ち、一つのシーブTに対して複数(溝Mの数に対応する数)の検出部9A、9Bが配置されてもよい。また、複数の溝Mを有するシーブTに対して一つの検出部9が配置される構成であってもよい。この場合、検出部9は、何れかの溝Mにおいて付着物Fが所定高さになったときに、これを検出できる構成等であってもよい。例えば、
図11に示す例では、一つの軸Jの各溝Mと対応する位置に該軸Jまわりに回転自在なローラーRがそれぞれ配置され、何れか一つのローラーRが付着物Fを乗り越えるときに、軸Jが複数のローラーRと共にシーブTから離間する方向に動く(
図11の矢印参照)ことで前記付着物Fを検出する構成であってもよい。
【0072】
また、検出部9、9A、9Bは、シーブTが有する複数の溝Mのうちの一部の溝Mの付着物Fを検出対象にしてもよい。この場合、時間経過に伴う各溝Mにおける付着物Fの付着の程度が同じ場合には、何れの溝Mの付着物Fを検出対象とする検出部9A、9Bの配置又は構成でもよい。また、時間経過に伴う各溝Mにおける付着物Fの付着の程度に偏りがある場合には、付着物Fが付着し易い溝Mの付着物を検出対象とする検出部9A、9Bの配置又は構成が好ましい。
【符号の説明】
【0073】
1…エレベータ、2…巻上機、2a…主シーブ(綱車)、3…メインロープ(ロープ)、4…かご、5…カウンターウェイト、6…下部シーブ部、61…テンションシーブ(綱車)、61a…軸、611…溝、611a…底面、62…錘、7…ガバナ(調速機)、71…ガバナシーブ(綱車)、711…溝、711a…底面、72…基部、72a…回転軸部材、73…過速検出スイッチ、74…ロープ挟み込み機構、741…固定側シュー、742…可動側シュー、743…ヘッド部、744…保持フック、75…振子部、751…振子、751a…第一部位、751b…第二部位、752…弾性部材、753…回動軸、8…ガバナロープ(ロープ)、9…検出部、9A…第一検出部(検出部)、9B…第二検出部(検出部)、91…接触部、92…溝ローラー、92a…軸、93…付勢部、931…伸縮部、932…スプリング部、95…支持部、951…第一部位、952…第二部位、96…検出スイッチ、F…付着物、J…軸、S1…昇降路、S2…機械室、T…シーブ(綱車)、R…ローラー、V…速度、V0…定格速度、V1…第一規定値(第一速度)、V2…第二規定値、VA…速度振幅、VK…警報速度(第二速度)、α1、α2…溝の幅
【要約】
【課題】綱車に付着物が所定高さ付着したことを検出可能なエレベータを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、昇降路内を昇降するかごに接続されるロープと、ロープが巻き掛けられる外周面を有し、かごの昇降と連動して回動する綱車と、外周面に付着物が所定高さ付着したことを検出可能な検出部と、を備える、ことを特徴とする。
【選択図】
図6