(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】仔魚を飼育するための水槽および仔魚の飼育装置
(51)【国際特許分類】
A01K 63/00 20170101AFI20241219BHJP
【FI】
A01K63/00 C
(21)【出願番号】P 2024012060
(22)【出願日】2024-01-30
【審査請求日】2024-10-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、水産庁委託事業「ウナギ種苗の商業化に向けた大量生産システムの実証事業」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501168814
【氏名又は名称】国立研究開発法人水産研究・教育機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上住谷 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】須藤 竜介
(72)【発明者】
【氏名】谷田部 誉史
(72)【発明者】
【氏名】里見 正隆
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼崎 竜太朗
【審査官】小林 直暉
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1402645(KR,B1)
【文献】国際公開第2015/093616(WO,A1)
【文献】特開平11-253111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K61/00-61/65
61/80-63/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
仔魚を飼育するための水槽であって、
横方向に広がる平面部と、
前記平面部の前記横方向の一端部および他端部と連結され、前記横方向において互いに反対側に膨らんで上方に延びる一対の曲面部と、
前記一対の曲面部のそれぞれと連結されて上方に延びる一対の側面部と、を有し、
前記一対の側面部の各上端の、前記横方向の間隔をW(mm)とし、
前記平面部から、前記一対の側面部の前記各上端までの高さをH(mm)としたとき、
1.12≦W/H≦1.90 ・・・(1)
を満足する、水槽。
【請求項2】
1.24≦W/H≦1.78 ・・・(1a)
をさらに満足する、請求項1に記載の水槽。
【請求項3】
前記平面部の前記横方向の幅をP(mm)としたとき、
50mm≦P≦350mm ・・・(2)
を満足する、請求項1に記載の水槽。
【請求項4】
前記平面部の前記横方向の幅をP(mm)としたとき、
100mm≦P≦300mm ・・・(2a)
を満足する、請求項2に記載の水槽。
【請求項5】
H≦500mm ・・・(3)
を満足する、請求項1に記載の水槽。
【請求項6】
H≦410mm ・・・(3a)
をさらに満足する、請求項5に記載の水槽。
【請求項7】
前記平面部の法線方向と前記横方向とを含んで規定される断面に垂直な方向に長尺状である、請求項1に記載の水槽。
【請求項8】
前記曲面部は、円弧状である、請求項1に記載の水槽。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の水槽と、
前記水槽内に注水する注水部と、
前記水槽内に注水されて、前記水槽の所定の収容量を超える水を排水する排水部と、を備える、仔魚の飼育装置。
【請求項10】
請求項9に記載の仔魚の飼育装置であって、
前記平面部からの前記排水部の高さをH0(mm)としたとき、
前記式(1)に代えて、
1.12≦W/H0≦1.90 ・・・(A)
を満足する、仔魚の飼育装置。
【請求項11】
請求項7に記載の水槽と、
前記水槽内に注水する注水部と、
前記水槽内に注水されて、前記水槽の所定の収容量を超える水を排水する排水部と、を備え、
前記注水部は、前記水槽の長尺方向に延びる注水管を有し、
前記注水管は、前記長尺方向に並んで形成される複数の注水口を有し、
前記排水部は、前記注水口の数よりも少ない数で、前記長尺方向に並んで配置される、仔魚の飼育装置。
【請求項12】
前記注水口および前記排水部は、前記長尺方向の中央部に対して、前記長尺方向に対称に配置される、請求項11に記載の仔魚の飼育装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仔魚を飼育するための水槽と、その水槽を備えた仔魚の飼育装置と、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウナギの仔魚を飼育するための水槽が提案されている。例えば、特許文献1では、底面がかまぼこ型の水槽(長さ1800mm×幅800mm×高さ800mm)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の水槽では、底面が凹形状の連続的な曲面で構成されており、底面の最下部が下方に突出している。このような底面の形状では、水槽内の仔魚への給餌の際に、水槽内に供給される餌が、水槽の底面の湾曲部分(下端部)に集中する。このため、餌場が狭くなり、水槽内の多くの仔魚に効率よく餌を与えることが困難となる。したがって、特許文献1の水槽は、仔魚の飼育数、つまり、単位水量当たりの生産尾数(生産効率とも言う)を増大させる観点で改善の余地がある。
【0005】
また、給餌後に水槽の底面付近に仔魚が滞留すると、水槽の底面に仔魚が頭をこすりつけて、顎外れ(脱臼)が生じることがある。このような現象を低減するためには、給餌後に、底面付近に滞留する仔魚を、適切な速さで流れる水流に乗せて底面付近から追い払うことが必要である。一方で、上記の水流が速すぎると、仔魚の背骨が折れるなどの奇形が生じやすくなる。注水制御を容易にする観点から、水槽への注水速度(所定時間あたりの水の注水量)を一定とした場合、仔魚に異常(脱臼、奇形など)が生じることを低減するためには、水槽の内面(底面を含む)に沿って適切な速さで水流が流れるように、水槽の形状を適切に設定することが必要となる。特許文献1の水槽は、仔魚の異常発生の低減も考慮して形状が設定されておらず、この点でも改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、水槽の形状を適切に設定することにより、仔魚に異常(脱臼、奇形など)が生じることを低減しつつ、仔魚の飼育数(生産効率)を増大させることができる、仔魚を飼育するための水槽と、その水槽を備えた仔魚の飼育装置と、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る、仔魚を飼育するための水槽は、横方向に広がる平面部と、前記平面部の前記横方向の一端部および他端部と連結され、前記横方向において互いに反対側に膨らんで上方に延びる一対の曲面部と、前記一対の曲面部のそれぞれと連結されて上方に延びる一対の側面部と、を有し、前記一対の側面部の各上端の、前記横方向の間隔をW(mm)とし、前記平面部から、前記一対の側面部の前記各上端までの高さをH(mm)としたとき、
1.12≦W/H≦1.90 ・・・(1)
を満足する。
【0008】
本発明の他の側面に係る仔魚の飼育装置は、上記の水槽と、前記水槽内に注水する注水部と、前記水槽内に注水されて、前記水槽の所定の収容量を超える水を排水する排水部と、を備える。
【0009】
本発明のさらに他の側面に係る仔魚の飼育装置は、上記の水槽と、前記水槽内に注水する注水部と、前記水槽内に注水されて、前記水槽の所定の収容量を超える水を排水する排水部と、を備え、前記注水部は、前記水槽の長尺方向に延びる注水管を有し、前記注水管は、前記長尺方向に並んで形成される複数の注水口を有し、前記排水部は、前記注水口の数よりも少ない数で、前記長尺方向に並んで配置される。
【発明の効果】
【0010】
仔魚に異常(脱臼、奇形など)が生じることを低減しつつ、仔魚の飼育数(生産効率)を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の一形態に係る仔魚の飼育装置の概略の構成を示す斜視図である。
【
図2】上記飼育装置が備える水槽の注水部および排水部の概略の構成を示す平面図である。
【
図3】上記水槽の上記排水部付近の構成を示す正面図である。
【
図4】上記水槽を長尺方向に垂直な面で切ったときの断面図である。
【
図6】上記水槽のさらに他の構成を示す断面図である。
【
図8】長さの異なるハーフパイプ水槽でそれぞれ仔魚を飼育した場合における、仔魚の日齢での成長度合いを模式的に示すグラフである。
【
図9】径の異なるクライゼル水槽でそれぞれ仔魚を飼育した場合における、仔魚の日齢での成長度合いを模式的に示すグラフである。
【
図10】実施例および比較例の各水槽における、長尺方向に垂直な断面内での水流の分布を模式的に示す説明図である。
【
図11】実施例の各水槽における長尺方向での水流の分布を模式的に示す説明図である。
【
図12】実施例および比較例の各水槽における長尺方向での水流の分布を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0013】
〔1.飼育装置について〕
(1-1.飼育装置の概要)
図1は、本実施形態の仔魚の飼育装置100の概略の構成を示す斜視図である。飼育装置100は、水槽10と、注水部20と、排水部30と、を備える。本実施形態では、飼育対象の仔魚の例として、ウナギの仔魚を考える。なお、ウナギ以外の仔魚の飼育にも、本実施形態の飼育装置100を適用することは可能である。
【0014】
水槽10は、断面が略U字形で一方向に延びる長尺状である。ここで、以下での説明の便宜上、本明細書では、方向を以下のように定義する。まず、水槽10が延びる上記一方向(長手方向、奥行方向)をA方向とする。そして、A方向に垂直な断面内で互いに垂直な2方向を、それぞれB方向およびC方向とする。B方向は、水槽10の高さ方向、すなわち、上下方向である。C方向は、水槽10の横方向(幅方向)である。
【0015】
水槽10は、上方が開口し、下方に凹んだ形状の壁部10Wを有する。壁部10Wは、A方向に延びて設けられ、前壁部10Fと後壁部10Bとを連結している。前壁部10Fおよび後壁部10Bは、A方向において互いに反対側に位置する。水槽10は、複数のリブ40によって壁部10Wが支持されて所定の位置に設置される。なお、水槽10のさらなる詳細については後述する。
【0016】
水槽10内には、注水部20により飼育水が供給される。飼育水は、例えば海水である。以下、飼育水のことを、単に「水」と称する。水槽10内の水に仔魚を投入し、定期的に給餌を行うことにより、水槽10内で仔魚が飼育される。給餌の際には、注水部20による注水は停止され、給餌後に注水が再開される。注水部20による注水により、水槽10内には所定の収容量の水が溜められる。注水によって上記収容量を超える水(オーバーフロー水)は、排水部30から排水される。
【0017】
このように、飼育装置100は、仔魚を飼育するための水槽10と、水槽10内に注水する注水部20と、水槽10内に注水されて、水槽10の所定の収容量を超える水を排水する排水部30と、を備える。この構成では、注水部20による注水と、排水部30による排水とを同時に行って、水槽10内に適切な水の流れを生じさせることができる。したがって、仔魚にとって良好な流場を水槽10内に形成する点では、飼育装置100は上記構成を備えることが望ましいと言える。
【0018】
給餌は、例えば以下のようにして行われる。水槽10の上方から底面に向かって給餌管を挿入し、給餌管を介して餌を底面に載置(塗布)する。水槽10の上方に配置した照明装置を点灯させると、仔魚は習性(負の走光性)により照明装置とは逆方向に移動(遊泳)する。つまり、仔魚は水槽10内を上方から底面に向かって移動する。仔魚は、水槽10の底面に載置された餌にたどり着くと、その餌を摂取する。このような給餌は、例えば1日に5回、2時間おきに行われるが、給餌の頻度は、仔魚の種類、飼育時期等に応じて適宜調整されればよい。
【0019】
水槽10の底面に餌が残っていると、水槽10の底面および水槽10内の水が汚れて、水槽10内に細菌が繁殖しやすくなる。仔魚は細菌に弱いため、水槽10を定期的に清掃することが必要となる。このため、水槽10は例えば2つ並べて設けられ、一方の水槽10内の仔魚を他方の水槽10内に移す水槽替えが定期的に(例えば1日おきに)行われる。このような水槽替えにより、一方の水槽10を清掃している間でも、他方の水槽10で仔魚を継続して飼育することができる。なお、水槽替えは、例えば2つの水槽10の前壁部10Fに設けられた接続口10P同士をホースで連結し、サイフォンの原理を利用して、一方の水槽10内の水を、上記ホースを介して他方の水槽10に移すことによって行うことが可能である。
【0020】
(1-2.注水部および排水部の詳細について)
図2は、水槽10の注水部20および排水部30の概略の構成を示す平面図である。注水部20は、水槽10内に注水を行う。このような注水部20は、注水管21と、接続管22と、を有する。注水管21は、A方向、つまり、水槽10の長手方向に延びる管である。
【0021】
注水管21は、複数の注水口21aを有する。各注水口21aは、注水管21の外周面の下端部に、A方向に並んで形成されている。本実施形態では、注水口21aは、注水管21の中央部からA方向の一方側および他方側に9個ずつ設けられている。つまり、注水口21aの数は、合計18個である。なお、注水口21aの数は18個に限定されるわけではなく、他の個数であってもよい。
【0022】
接続管22は、注水管21のA方向の中央付近に接続されている。接続管22における注水管21とは反対側の端部は、接続ホースを介して給水ポンプに接続される。
【0023】
給水ポンプから供給されて接続管22を流れる水は、注水管21との接続部で、A方向の互いに反対側に分岐して流れる。そして、A方向に並ぶ各注水口21aから水槽10内に水が供給(注水)される。
【0024】
排水部30は、A方向に間隔をおいて2つ並んで設けられる。2つの排水部30は、A方向において、注水管21の中央部に対して互いに反対側に位置するとともに、注水管21の中央部から等距離に位置する。つまり、A方向において、2つの排水部30は、注水管21の中央部に対して対称な位置に配置される。なお、排水部30の数は、上記の2つには限定されず、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0025】
図3は、水槽10の排水部30付近の構成を示す正面図である。排水部30は、排水筒部31と、本体部32と、を有する。排水筒部31は、B方向に延びる筒体である。排水筒部31の下端部には、水槽10内の水が流入する流入口31aが位置する。水槽10内に所定の収容量の水が溜められたときの水面の位置をS0としたとき、排水筒部31は、位置S0よりも下方に流入口31aが位置するように、本体部32を介して水槽10に固定される。なお、上述した注水部20の注水管21も、位置S0よりも下方に位置する。
【0026】
排水筒部31には、ストレーナ31bが取り付けられる。ストレーナ31bは、メッシュ状の部材であり、流入口31aを囲むように設けられる。ストレーナ31bにより、水槽10内の仔魚が流入口31aに入り込むことが防止される。
【0027】
本体部32は、C方向に延びて排水筒部31と連通する。本体部32は、水槽10の壁部10Wを貫通して設けられる。本体部32は、その最下部が位置S0と同じか、位置S0よりも低く位置するように、水槽10の壁部10Wに固定される。
【0028】
水槽10内の水は、ストレーナ31bの網目部分(隙間)を通って流入口31aに入り、排水筒部31の内部に入る。注水部20により、水槽10内に所定の収容量を超える水が注水されると、排水筒部31の内部における水の高さが位置S0を超えて上昇しようとする。排水筒部31は本体部32と連通しているため、位置S0を超える分の水は、本体部32に流れ込み、水槽10の外部に排出される。
【0029】
本実施形態では、排水部30の数は2つであり、注水部20の注水口21aの数(例えば18個)よりも少ない。この場合、注水口21aから注水されて水槽10内を流れて排水部30に向かう水の流れを、A方向に広げることができる。したがって、仔魚にとって良好な流場を水槽10内に形成する観点では、排水部30は、注水口21aの数よりも少ない数でA方向に並んで配置されることが望ましい。
【0030】
また、仔魚にとって良好な流場を水槽10内に確実に形成するためには、A方向において、水槽10内で水が流れる流路の分布を対称に近づけることが望ましい。この点では、
図2に示すように、注水口21aおよび排水部30は、A方向の中央部に対して、A方向に対称に配置されることが望ましい。
【0031】
〔2.水槽の詳細について〕
図4は、上述した水槽10の断面図である。なお、
図4では、水槽10をA方向に垂直な面で切ったときの断面を示す。また、
図4では、便宜的に、上述した注水部20および排水部30の図示を省略している。このような図示の仕方(断面の示し方)は、以降の
図5~
図7でも同様とする。
【0032】
水槽10は、平面部11と、曲面部12と、側面部13と、を有する。平面部11、曲面部12、および側面部13は、水槽10の壁部10Wの内面10Sに形成される。本実施形態では、水槽10は上述のようにA方向に長尺状であるため、平面部11、曲面部12、および側面部13も、A方向に長尺状である。
【0033】
平面部11は、水槽10の内面10Sの最下部に、C方向に広がって位置する。曲面部12は、平面部11に対してC方向の両側に一対設けられる。より詳しくは、曲面部12は、平面部11のC方向の一端部11aおよび他端部11bと連結され、C方向において互いに反対側に膨らんで上方に延びる。
【0034】
ここで、以下での説明において、一対の曲面部12を互いに区別する場合、平面部11におけるC方向の一端部11aと連結される曲面部12を、第1曲面部12aと称する。そして、平面部11におけるC方向の他端部11bと連結される曲面部12を、第2曲面部12bと称する。第1曲面部12aおよび第2曲面部12bはそれぞれ、
図4の断面において、水槽10の内側から外側に向かって突出する形状に湾曲している。したがって、第1曲面部12aおよび第2曲面部12bのC方向における互いの間隔は、平面部11との連結側からその反対側(上方)に向かうにつれて広がる。
【0035】
曲面部12(第1曲面部12a、第2曲面部12b)は、
図4の断面において、曲率半径R(曲率中心Oとの距離)が一定である円弧状に形成されている。なお、曲面部12は、円弧状以外の曲面形状(例えば曲率半径Rが途中で変化する形状)で形成されてもよい。
【0036】
側面部13は、一対の曲面部12のそれぞれと連結されて上方に延びる。したがって、側面部13は、一対の曲面部12のそれぞれに対応して一対設けられる。ここで、一対の側面部13のうち、第1曲面部12aと連結される側面部13を、第1側面部13aとも称し、第2曲面部12bと連結される側面部13を、第2側面部13bとも称する。この場合、第1側面部13aは、第1曲面部12aと連結されて上方に延びる、と言い換えることができる。同様に、第2側面部13bは、第2曲面部12bと連結されて上方に延びる、と言い換えることができる。本実施形態では、第1側面部13aおよび第2側面部13bは、平行に位置している。つまり、第1側面部13aおよび第2側面部13bのC方向における互いの間隔は、一定である。
【0037】
図4に示すように、一対の側面部13、つまり、第1側面部13aおよび第2側面部13bの各上端のC方向の間隔をW(mm)とする。また、平面部11から、一対の側面部13の各上端までの高さをH(mm)とする。このとき、本実施形態の水槽10は、以下の条件式(1)を満足する。なお、上記のWは、水槽10の幅と言い換えることができる。また、上記のHは、水槽10の高さと言い換えることができる。
1.12≦W/H≦1.90 ・・・(1)
【0038】
例えば、
図4に示す、平面部11のC方向の幅をP(mm)として、P=100mmとし、第1曲面部12aおよび第2曲面部12bの曲率半径をRとして、R=230mmとし、W=460mm、H=370mmの水槽10を設計した場合、W/H=1.24となる。したがって、上記の設計により、条件式(1)を満足する水槽10を実現することができる。
【0039】
図5は、水槽10の他の構成を示す断面図である。
図5の水槽10は、
図4の水槽10のPおよびWを、P=200mm、W=560mmに変更した構成である(RおよびHは
図4と同じで、Rの曲率中心をOまたはO’とする)。
図5の水槽10では、W/H=1.51となる。したがって、
図5の設計によっても、条件式(1)を満足する水槽10を実現することができる。
【0040】
図6は、水槽10のさらに他の構成を示す断面図である。
図6の水槽10は、
図4の水槽10のPおよびWを、P=300mm、W=660mmに変更した構成である(RおよびHは
図4と同じ)。
図6の水槽10では、W/H=1.78となる。したがって、
図6の設計によっても、条件式(1)を満足する水槽10を実現することができる。
【0041】
図4~
図6で示した水槽10の構成、つまり、平面部11のC方向の両端に一対の曲面部12(第1曲面部12a、第2曲面部12b)がそれぞれ連結され、さらに各曲面部12と連結されて各側面部13(第1側面部13a、第2側面部13b)が上方に延びる水槽10の構成では、平面部11が水槽10の底面に位置する。この場合、水槽10内の仔魚に給餌する際に、餌を平面部11に配置して、餌場をC方向に広げることができる。したがって、例えば平面部11を持たない従来の水槽(断面が単純な凹形状の水槽)のように、底面の最下部の狭い範囲に餌が集中して配置されることがない。その結果、水槽10をC方向に少し広げるだけで(水槽10を必要以上に広げることなく)、多くの仔魚に効率よく餌を与えて、仔魚の飼育数(生産効率)を増大させることができる。
【0042】
また、W/Hの値が条件式(1)を満足する範囲内にあることにより、水槽10内で適切な流速の水流を生じさせることができる。例えば、給餌後、一方の側面部13(例えば第1側面部13a)付近から下向きに所定の流速で注水することにより、一方の曲面部12(例えば第1曲面部12a)および平面部11に沿って水流を生じさせ、他方の曲面部12(例えば第2曲面部12b)および他方の側面部13(例えば第2側面部13b)に側に流れる水流を適切な流速で生じさせることができる。これにより、給餌後に平面部11付近に滞留する仔魚を他方の側面部13(例えば第2側面部13b)側に追い払って、水槽10内で適切に遊泳させることができる。したがって、給餌後に仔魚が水槽10の底面(例えば平面部11)に頭をこすりつけて顎外れ(脱臼)が生じる現象を低減することができる。
【0043】
また、流速が速すぎると、仔魚の背骨が折れるなどの異常(奇形)が生じやすくなる。W/Hの値が条件式(1)を満足する範囲内にあることにより、注水時に水槽10内で適切な流速を発生させて、そのような異常の発生を低減することも可能となる。
【0044】
つまり、水槽10の底面に平面部11を設けるとともに、条件式(1)によって水槽10の断面形状(W/Hの値の範囲)を適切に設定することにより、仔魚に異常(脱臼、奇形など)が生じることを低減しつつ、仔魚の飼育数を増大させることができる、
【0045】
給餌後の水槽10内への注水において、仔魚の顎外れおよび奇形の発生を低減し得る流速を確実に実現する観点では、本実施形態の水槽10は、さらに以下の条件式(1a)を満足することが望ましい。
図4~
図6で示した水槽10は、条件式(1a)をさらに満足しており、望ましい形態である。
1.24≦W/H≦1.78 ・・・(1a)
【0046】
また、条件式(1a)を満足する水槽10を確実に実現する観点では、本実施形態の水槽10は、以下の条件式(2a)を満足することが望ましい。
図4~
図6で示した水槽10は、条件式(2a)をさらに満足しており、望ましい形態である。
100mm≦P≦300mm ・・・(2a)
【0047】
ところで、前述の特許文献1では、水槽の幅が800mmであり、高さが800mmであることから、W/H=800/800=1と考えることができる。また、水槽の底面に平面部は存在しないため、P=0mmと考えることもできる。この構成では、前述のように、水槽内に供給される餌が、水槽の底面の下端部に集中して餌場が結果的に狭くなるため、仔魚の飼育数の増大が困難である。水槽の長尺方向の長さを一定としたとき、仔魚の飼育数増大の観点では、P>0mmとして、水槽の底面に平面部を(少しの幅でも)設けることがよいと言える。この点では、W/Hの下限は、従来のW/Hの値である“1”と、条件式(1a)の下限の“1.24”との間の中央値、すなわち“1.12”を、少なくとも本実施形態の効果が得られる臨界点として考えることができる。
【0048】
また、
図7は、水槽10Aの構成を示す断面図である。
図7の水槽10Aは、
図4の水槽10のPおよびWを、P=400mm、W=760mmに変更した構成である(RおよびHは
図4と同じ)。
図7の水槽10では、W/H=2.05となる。この設計では、水槽10の平面部11の幅を示すPの値が大きく、餌場を広げる点では、
図4~
図6の構成よりも有効である。しかし、
図7の構成では、平面部11の幅が広くなりすぎるため、一定の注水速度では、給餌の後に平面部11付近に滞留する仔魚を追い払うことが可能な水流の流速(例えば0.045m/s)を実現することが困難であることが、後述のシミュレーションの結果からわかっている。このことから、W/Hの上限としては、条件式(1a)の上限の “1.78”と、
図7の構成でのW/Hの値である“2.05”との間の中央値、すなわち“1.90”を、少なくとも本実施形態の効果が得られる臨界点として考えることができる。
【0049】
上述した条件式(1)は、このような考えに基づいて、W/Hの範囲(上限、下限)を規定したものである。
【0050】
同様に、水槽10内で餌場を少しでも広げる観点では、Pの下限は、従来のPの値である“0mm”と、条件式(2a)の下限の“100mm”との間の中央値、すなわち“50mm”を、少なくとも本実施形態の効果が得られる臨界点として考えることができる。
【0051】
また、給餌の後に平面部11付近に滞留する仔魚を追い払うことが可能な水流の流速を実現する観点では、Pの上限は、条件式(2a)の上限の“300mm”と、
図7の構成でのPの値である“400mm”との間の中央値、すなわち“350mm”を、少なくとも本実施形態の効果が得られる臨界点として考えることができる。
【0052】
以上より、条件式(1)を満足する水槽10を確実に実現する観点では、本実施形態の水槽10は、以下の条件式(2)を満足することが望ましいと言える。
50mm≦P≦350mm ・・・(2)
【0053】
また、本実施形態の水槽10は、
図1で示したように、A方向に長尺状である。言い換えれば、水槽10は、平面部11の法線方向(B方向)と横方向(C方向)とを含んで規定される断面に垂直なA方向に長尺状である。この場合、水槽10のA方向の長さに応じて、仔魚の飼育数(絶対数)を容易に増大させることができる。例えば、水槽10のA方向の長さをn倍(nは1よりも大きな正の数)にすれば、仔魚の飼育数も単純にn倍にすることができる。つまり、仔魚の飼育数の増大の観点では、本実施形態のように、水槽10は、A方向に長尺状であることが望ましい。
【0054】
また、水槽10をA方向に任意の長さに延ばしても、仔魚の成長に悪影響がないことが、以下の考察よりわかった。
図8は、ハーフパイプ水槽(収容量は20L、30L、100Lの3種類)における、仔魚の日齢での成長度合い(仔魚の全長の分布)を模式的に示すグラフである。ここで、ハーフパイプ水槽は、円筒を横向きに載置して、中心軸を含む面で円筒を水平に切断し、両端部を上方に延ばした水槽とする。収容量が20Lのハーフパイプ水槽では、開口部の幅が247mmであり、A方向の長さが497mmである。収容量が30Lのハーフパイプ水槽では、開口部の幅が228mmであり、A方向の長さが752mmである。100Lのハーフパイプ水槽では、開口部の幅が230mmであり、A方向の長さが2491mmである。即ち、各ハーフパイプ水槽では、開口部の幅は略一定であり、A方向の長さが互いに異なる。
【0055】
なお、本実施形態の水槽10は、上述のように平面部11を有するが、
図8に示す考察においては、水槽のA方向の長さによる仔魚の成長度合いへの影響のみを調べたいため、つまり、平面部11の影響を排除するため、上記のハーフパイプ水槽として、底面に平面部を持たない水槽を考えた。
【0056】
同図より、20L、30L、100Lのどのハーフパイプ水槽を用いた場合でも、20日齢から40日齢にかけて、仔魚の最大全長が増えていることがわかる。したがって、水槽10をA方向に延ばしても、仔魚の成長に悪影響を与えることなく、水槽10を大型化することが可能であると言える。
【0057】
水槽10の上述した曲面部12(第1曲面部12a、第2曲面部12b)は、
図4等の断面において、円弧状に形成されている。上述したように、曲面部12は、水槽10の内側から外側に向かって突出する形状であればよく、上記の円弧状には限定されない。ただし、曲面部12が円弧状であれば、水槽10の内面10Sに沿って注水するときに、曲面部12の全体にわたって、水流の向きを滑らかに変えることができる。これにより、水流の流速が低減するロスを少なくすることができる。したがって、水槽10の内面10Sの各位置において、所望の流速の実現が容易となる点では、曲面部12は円弧状であることが望ましい。
【0058】
ところで、
図4~
図6で示した水槽10の高さHが500mmを超えると、仔魚の遊泳力では、水槽10内の水面付近から平面部11まで(平面部11に配置された餌まで)仔魚が辿り着きにくくなり、仔魚の適切な飼育が困難となる。例えば、仔魚の餌の摂取量が低下して、仔魚の成長に遅れが生じやすくなり、ひいては仔魚の生存率も低下しやすくなる。
【0059】
図9は、クライゼル水槽(収容量は20L、60L、100Lの3種類)における、仔魚の日齢での成長度合い(仔魚の全長の分布)を模式的に示すグラフである。ここで、クライゼル水槽は、円筒を横向きに載置して、中心軸方向に平行な面で円筒を切断したときの切断面における開口部の幅が、円筒の内径(直径)よりも短く、周方向に半周以上の壁部を有する水槽とする。
【0060】
各クライゼル水槽において、20Lの水槽の内径および高さは、どちらも410mmである。60Lの水槽の内径および高さは、どちらも533mmである。100Lの水槽の内径および高さは、どちらも671mmである。
【0061】
なお、本実施形態の水槽10は、上述のように平面部11を有するが、
図9に示す検証においては、仔魚の成長度合いへの影響として、水槽の内径(=高さ)の影響のみを調べたいため、つまり、平面部11の影響を排除するため、上記のクライゼル水槽として、底面に平面部を持たない水槽を考えた。
【0062】
図9より、高さが500mmを超えた60Lおよび100Lの水槽では、高さが500mm以下である20Lの水槽に比べて、仔魚の20日齢および40日齢の両方において、仔魚の全長の範囲が狭く、仔魚の成長度合いが低下していることがわかる。したがって、給餌の際に、仔魚が底面の餌に辿り着くことを容易にして、仔魚の適切な飼育を可能にする観点では、水槽の高さHは500mm以下であることが望ましいと言える。つまり、本実施形態の水槽10は、以下の条件式(3)を満足することが望ましい。
H≦500mm ・・・(3)
【0063】
特に、給餌の際に、仔魚が底面の餌に辿り着くことを確実に容易にして、仔魚の適切な飼育を確実に可能にする観点では、
図8より、水槽の高さHは410mm以下であることが望ましいと言える。つまり、本実施形態の水槽10は、以下の条件式(3a)をさらに満足することが望ましい。
H≦410mm ・・・(3a)
【0064】
〔3.実施例〕
次に、本実施形態の水槽10の実施例について、比較例と併せて説明する。以下では、
図4~
図6で示した3つの水槽10と、
図7で示した水槽10Aについて、各水槽内での水流の分布(特にA方向に垂直な断面内での分布)をシミュレーションによって具体的に検証した。
【0065】
まず、
図4に示すように、平面部11のC方向の幅をP(mm)として、P=100mm、W=460mm、H=370mmである水槽10を、実施例1の水槽として設計した。水槽10の曲面部12の曲率半径をRとしたとき、R=230mmとした。また、水槽10のA方向の長さは、1500mmとした。なお、水槽の高さH(=370mm)は、給餌時に、仔魚が下方に遊泳して餌を摂取することが十分に可能な高さ(500mm以下)を考慮して設定した。
【0066】
図5に示すように、実施例1の水槽10のPおよびWを、P=200mm、W=560mmに変更し、それ以外のパラメータ(H、RおよびL)は実施例1と共通にして、実施例2の水槽10を設計した。
【0067】
図6に示すように、実施例1の水槽10のPおよびWを、P=300mm、W=660mmに変更し、それ以外のパラメータ(H、RおよびL)は実施例1と共通にして、実施例3の水槽10を設計した。
【0068】
図7に示すように、実施例1の水槽10のPおよびWを、P=400mm、W=760mmに変更し、それ以外のパラメータ(H、RおよびL)は実施例1と共通にして、比較例1の水槽10Aを設計した。
【0069】
実施例1~3および比較例1の各水槽(水槽10および10A)に注水を行う注水部20の注水管としては、
図2に示すように、A方向の中央部から、A方向の一方側および他方側に、70mmピッチで9個の注水口21aをそれぞれ形成した注水管21を想定した(注水口21aの数は計18個である)。注水口21aの径は、3.5mmとした。そして、注水管21の各注水口21aからの注水によって水槽内に所定の収容量の水を溜めたときの、
図3に示す距離Dを、D=78mmに設定した。なお、距離Dは、水槽の側面部13の上端から、水槽内の初期の水面の位置S0(水槽10内に所定の収容量の水を溜めたときの水面の位置)までのB方向の距離を指す。なお、水槽10の底面(平面部11)から位置S0までの距離を、排水部30の高さH0(
図10参照)としたとき、H0=H-D0=370-78=292mmである。
【0070】
また、水槽内への注水は、水槽の一方の側面部の近傍で、位置S0よりも低い位置に注水管21を位置させ、接続管22に10L/minの速さで水を供給し、各注水口21aから下向きに海水を吐出する場合を想定した。ここでは、一方の側面部、一方の曲面部、平面部、他方の曲面部、および他方の側面部は、
図4~
図7で示した第1側面部13a、第1曲面部12a、平面部11、第2曲面部12b、および第2側面部13bを指すとする。排水部30については、注水管21の近傍で、かつ、注水管21のA方向の中央部に対して互いに対称となる位置に配置する場合を想定した。
【0071】
実施例1~3および比較例1のそれぞれにおいて、水流(流速、流量)の分布の解析は、VOF(Volume of Fluid )法を用いた混相流解析で行った。VOF法は、気体と液体の混相流解析のうち、自由表面流れの解析手法の一種である。
図10は、実施例1~3および比較例1の各水槽における、注水開始から40秒の間での水流の分布を模式的に示す。なお、
図10では、各水槽における、長尺方向に垂直な断面内での水流の分布を示す。
図10において、破線は水流を示し、実線は全体的な水の流れを示す。
【0072】
解析の結果、以下のことが分かった。まず、実施例1~3では、水槽の内面(一方の側面部、一方の曲面部、平面部、他方の曲面部、他方の側面部)に沿って水が流れ、水槽内で良好な水の流場が形成されている。
【0073】
ここで、底面流速(平面部の付近での水流の流速)が0.045m/sを下回ると、仔魚を底面付近から水流によって追い払うことが困難となり、仔魚が底面に頭をこすりつけて顎外れが増える傾向にあることがわかっている。この点、実施例1~3では、解析の結果、底面流速としては0.045m/s~0.05m/sが確保されており、仔魚の顎外れの発生が低減されると考えられる。また、給餌後は、仔魚が0.05m/s以下で流れる穏やかな水流に載って水槽内を泳ぐため、仔魚に背骨が折れるなどの奇形が生じにくくなると考えられる。
【0074】
なお、仔魚の顎外れを低減するための上記した底面流速の条件は、平面部全体、つまり、平面部の一端部側(一方の曲面部との連結側)から他端部側(他方の曲面部との連結側)までの全体で考える必要がある。ただし、平面部における水流の上流側端部よりも、相対的に流速が低下する下流側端部で流速0.045m/s以上を満足すれば、平面部全体で流速0.045m/s以上を満足することになる。したがって、
図10の例では、平面部の少なくとも他端部側(下流側端部)において、底面流速0.045m/s以上を満足すればよい。
【0075】
これに対して、比較例1では、底面流速(特に平面部の下流側端部での流速)が0.04m/sであり、基準となる0.045m/sを下回っている。これは、比較例1では、水槽の底面の幅が広くなりすぎて、一方の側面部に沿って流れた水が、底面付近を通って他方の側面部に届かないため、つまり、底面および他方の側面部から離れた位置を水が流れるためと考えられる。比較例1では、底面流速が遅いため、給餌後も仔魚が底面付近に滞留し、仔魚に顎外れが発生しやすくなることが懸念される。
【0076】
また、水流が速すぎると、仔魚の背骨が折れるなどの奇形が生じやすくなることは上述の通りである。水槽内に適切な水流を形成するため、平面部よりも上流側の曲面部に沿って流れる水の流速の上限値は、0.1m/s以下であることが望ましく、0.08m/s以下であることがより望ましい。
【0077】
実施例1~3の水槽は、上述した本実施形態の各条件式を満足しており、上述した本実施形態の効果が得られることが十分に期待される。
【0078】
図11および
図12は、実施例1~3および比較例1の各水槽における長尺方向(A方向)での水流の分布を模式的に示す。長尺方向については、いずれの水槽においても、A方向の中央に対してほぼ対称な分布となることがわかった。
【0079】
〔4.その他〕
上記の実施例では、H=370mmの水槽10に対して、排水部30の高さH0を292mmに設定した例について説明したが、排水部30の高さH0は、水槽10の高さH以下であればよい。本実施形態では、上述の条件式(3)および(3a)で示したように、H≦500mm、望ましくは、H≦410mmであるため、排水部30の高さH0についても、H0≦500mm、望ましくは、H0≦410mmであることが結論付けられる。この場合、本発明に係る水槽10の横方向の幅Wは、水槽10に所定の収容量の水を溜めたときの水面の横方向の幅Wと言い換えることもできる。また、水槽10の高さHは、平面部11から水面までの高さHと言い換えることもできる。
【0080】
また、水槽10の高さHは、水槽10の容積(収容可能な水の最大収容量)を規定するパラメータである。一方、排水部30が水槽10の高さH以下に設置されれば、排水部30の高さH0も、水槽10に収容可能な水の最大収容量を規定するパラメータとなる。このように、水槽10の高さHと、排水部30の高さH0とは、どちらも、水槽10に収容可能な水の最大収容量を規定するパラメータとなる点で共通する。したがって、上記した条件式(1)および(1a)は、以下の条件式(A)および(B)でそれぞれ代替することができる。すなわち、水槽10の平面部11からの排水部30の高さをH0(mm)として、
1.12≦W/H0≦1.90 ・・・(A)
1.24≦W/H0≦1.78 ・・・(B)
である。
【0081】
本実施形態の水槽10は、上述した条件式(2)、すなわち、50mm≦P≦350mmを満足している。ここで、実施例1の水槽10において、平面部11の幅Pを100mmから50mmに変更すると、水槽10の幅Wは、460mmから50mm減少して410mmとなる。また、実施例3の水槽10において、平面部11の幅Pを300mmから350mmに変更すると、水槽10の幅Wは、660mmから50mm増加して710mmとなる。したがって、水槽10のWの取り得る範囲は、410mm≦W≦710mmとなる。よって、W/Pの比で考えると、本実施形態の水槽10は、以下の条件式(4)を満足するとも言える。
2.03≦W/P≦8.20 ・・・(4)
【0082】
中でも、W/Pの望ましい範囲は、実施例1~3で示した値に基づき、以下の条件式(4a)を満足する範囲であると言える。
2.20≦W/P≦4.60 ・・・(4a)
【0083】
図4等で示した水槽10において、第1側面部13aおよび第2側面部13bは、本実施形態のように平行に位置することが望ましいが、平行に位置していなくてもよい。例えば、上方に向かうにつれて、第1側面部13aおよび第2側面部13bのC方向における互いの間隔が若干広がってもよい。この場合のC方向の間隔Wは、第1側面部13aおよび第2側面部13bの最大間隔(上端同士の間隔)とする。
【0084】
〔5.付記〕
本実施形態で説明した水槽および飼育装置は、以下のように表現することができる。
【0085】
付記(1)の水槽は、
仔魚を飼育するための水槽であって、
横方向に広がる平面部と、
前記平面部の前記横方向の一端部および他端部と連結され、前記横方向において互いに反対側に膨らんで上方に延びる一対の曲面部と、
前記一対の曲面部のそれぞれと連結されて上方に延びる一対の側面部と、を有し、
前記一対の側面部の各上端の、前記横方向の間隔をW(mm)とし、
前記平面部から、前記一対の側面部の前記各上端までの高さをH(mm)としたとき、
1.12≦W/H≦1.90 ・・・(1)
を満足する。
【0086】
付記(2)の水槽は、付記(1)に記載の水槽において、
1.24≦W/H≦1.78 ・・・(1a)
をさらに満足する。
【0087】
付記(3)の水槽は、付記(1)に記載の水槽において、
前記平面部の前記横方向の幅をP(mm)としたとき、
50mm≦P≦350mm ・・・(2)
を満足する。
【0088】
付記(4)の水槽は、付記(2)に記載の水槽において、
前記平面部の前記横方向の幅をP(mm)としたとき、
100mm≦P≦300mm ・・・(2a)
を満足する。
【0089】
付記(5)の水槽は、付記(1)から(4)のいずれかに記載の水槽において、
H≦500mm ・・・(3)
を満足する。
【0090】
付記(6)の水槽は、付記(5)に記載の水槽において、
H≦410mm ・・・(3a)
をさらに満足する。
【0091】
付記(7)の水槽は、付記(1)から(6)のいずれかに記載の水槽において、
前記平面部の法線方向と前記横方向とを含んで規定される断面に垂直な方向に長尺状である。
【0092】
付記(8)の水槽は、付記(1)から(7)のいずれかに記載の水槽において、
前記曲面部は、円弧状である。
【0093】
付記(9)の仔魚の飼育装置は、
付記(1)から(8)のいずれかに記載の水槽と、
前記水槽内に注水する注水部と、
前記水槽内に注水されて、前記水槽の所定の収容量を超える水を排水する排水部と、を備える。
【0094】
付記(10)の仔魚の飼育装置は、付記(9)に記載の仔魚の飼育装置であって、
前記平面部からの前記排水部の高さをH0(mm)としたとき、
前記式(1)に代えて、
1.12≦W/H0≦1.90 ・・・(A)
を満足する。
【0095】
付記(10)の仔魚の飼育装置は、以下のように言い換えることもできる。すなわち、付記(10)に記載の仔魚の飼育装置は、
水槽と、
前記水槽内に注水する注水部と、
前記水槽内に注水されて、前記水槽の所定の収容量を超える水を排水する排水部と、を備え、
前記水槽は、
横方向に広がる平面部と、
前記平面部の前記横方向の一端部および他端部と連結され、前記横方向において互いに反対側に膨らんで上方に延びる一対の曲面部と、
前記一対の曲面部のそれぞれと連結されて上方に延びる一対の側面部と、を有し、
前記一対の側面部の各上端の、前記横方向の間隔をW(mm)とし、
前記平面部からの前記排水部の高さをH0(mm)としたとき、
1.12≦W/H0≦1.90 ・・・(A)
を満足する。
【0096】
付記(10)の仔魚の飼育装置は、望ましくは、
1.24≦W/H0≦1.78 ・・・(B)
を満足する。
【0097】
付記(11)の仔魚の飼育装置は、
付記(7)に記載の水槽と、
前記水槽内に注水する注水部と、
前記水槽内に注水されて、前記水槽の所定の収容量を超える水を排水する排水部と、を備え、
前記注水部は、前記水槽の長尺方向に延びる注水管を有し、
前記注水管は、前記長尺方向に並んで形成される複数の注水口を有し、
前記排水部は、前記注水口の数よりも少ない数で、前記長尺方向に並んで配置される。
【0098】
付記(12)の仔魚の飼育装置は、付記(11)に記載の飼育装置において、
前記注水口および前記排水部は、前記長尺方向の中央部に対して、前記長尺方向に対称に配置される。
【0099】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で拡張または変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の仔魚を飼育するための水槽は、例えばウナギの仔魚の飼育に利用可能である。
【符号の説明】
【0101】
10 水槽
11 平面部
11a 一端部
11b 他端部
12 曲面部
12a 第1曲面部(一対の曲面部の一方)
12b 第2曲面部(一対の曲面部の他方)
13 側面部
13a 第1側面部(一対の側面部の一方)
13b 第2側面部(一対の側面部の他方)
20 注水部
21 注水管
21a 注水口
30 排水部
100 飼育装置
A 長尺方向
B 横方向
H 側面部の高さ
H0 排水部の高さ
P 幅
W 間隔
【要約】
【課題】仔魚に異常(脱臼、奇形など)が生じることを低減しつつ、仔魚の飼育数(生産効率)を増大させることができる水槽を提供する。
【解決手段】仔魚を飼育するための水槽は、横方向に広がる平面部と、平面部の横方向の一端部および他端部と連結され、横方向において互いに反対側に膨らんで上方に延びる一対の曲面部と、一対の曲面部のそれぞれと連結されて上方に延びる一対の側面部と、を有する。一対の側面部の各上端の、横方向の間隔をW(mm)とし、平面部から、一対の側面部の各上端までの高さをH(mm)としたとき、1.12≦W/H≦1.90を満足する。
【選択図】
図4