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特許7606691金属有機構造体を備えたシート材およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】金属有機構造体を備えたシート材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/22 20060101AFI20241219BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20241219BHJP
   D21H 13/00 20060101ALI20241219BHJP
   D21H 21/14 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B01J20/22 Z
B01J20/30
D21H13/00
D21H21/14 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2024049928
(22)【出願日】2024-03-26
【審査請求日】2024-03-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】道田 航
(72)【発明者】
【氏名】松浦 亜侑美
(72)【発明者】
【氏名】北川 進
(72)【発明者】
【氏名】樋口 雅一
(72)【発明者】
【氏名】大竹 研一
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2024/004660(WO,A1)
【文献】国際公開第2024/004659(WO,A1)
【文献】特開2004-225181(JP,A)
【文献】特開2001-123381(JP,A)
【文献】特開2000-248467(JP,A)
【文献】特表2021-527557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/22
B01J 20/30
D21H 13/00
D21H 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンと有機配位子とを含む金属有機構造体と、
繊維材料を含むペーパ基材と、を備え、
有機バインダを含まず、
前記繊維材料は、有機繊維で構成され、かつ、前記金属イオンとキレート結合可能なキレート官能基を有するキレート繊維を含む、
シート材。
【請求項2】
金属イオンと有機配位子とを含む金属有機構造体と、
繊維材料を含むペーパ基材と、を備え、
前記繊維材料は、有機繊維で構成され、かつ、前記金属イオンとキレート結合可能なキレート官能基を有するキレート繊維としての第1繊維材料と、前記キレート官能基を有しない第2繊維材料と、を含み、
前記第1繊維材料と前記第2繊維材料との合計を100質量%としたときに、前記第1繊維材料の割合が、30質量%以上50質量%以下である、
シート材。
【請求項3】
前記キレート官能基の少なくとも一部が、前記金属イオンとキレート結合している、
請求項1または2に記載のシート材。
【請求項4】
直接空気回収(DAC:Direct Air Capture)に用いられる、
請求項1または2に記載のシート材。
【請求項5】
前記金属イオンが、マグネシウム、クロム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛のうちの少なくとも1つである、
請求項に記載のシート材。
【請求項6】
前記金属有機構造体が、前記金属イオンとしてのニッケルイオンと、前記有機配位子としてのピラジンと、さらに[NbOF2-と、を含み、次の式:NiNbOF(ピラジン);で表される、NbOFFIVE-1-Niである、
請求項1または2に記載のシート材。
【請求項7】
前記ペーパ基材が、前記キレート官能基を有する第1繊維材料と、前記キレート官能基を有しない第2繊維材料と、を含む、
請求項1に記載のシート材。
【請求項8】
前記第1繊維材料が、セルロース繊維を含む、
請求項2または7に記載のシート材。
【請求項9】
前記第2繊維材料が、セルロース繊維、アラミド繊維、パルプ繊維、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維のうちの少なくとも1つを含む、
請求項に記載のシート材。
【請求項10】
前記第1繊維材料と前記第2繊維材料との合計を100質量%としたときに、前記第1繊維材料の割合が、30質量%以上50質量%以下である、
請求項に記載のシート材。
【請求項11】
有機バインダを含まない、
請求項2に記載のシート材。
【請求項12】
請求項1または2に記載のシート材を備える、吸着フィルタ。
【請求項13】
前記シート材が、コルゲート状、ハニカム状、スリット状、プリーツ状、またはロール状に成形されている、請求項1に記載の吸着フィルタ。
【請求項14】
金属イオンと有機配位子とを含む金属有機構造体と、繊維材料を含むペーパ基材と、を備えるシート材の製造方法であって、
前記金属有機構造体には、加熱によって生成されるものと、加熱を行わずに常温で生成されるものと、があり、
(方法1)前記金属有機構造体が、加熱によって生成されるものである場合は、
金属イオン源と有機配位子源とを溶媒中に混合して混合液を得る混合工程と、
少なくとも前記金属イオン源に含まれる金属イオンとキレート結合可能なキレート官能基を有するキレート繊維を含んだペーパ基材を準備する準備工程と、
前記混合液に前記ペーパ基材を浸漬し、前記キレート繊維の前記キレート官能基に前記金属イオンが捕捉された状態で加熱することにより、前記キレート官能基に捕捉されている前記金属イオンと前記有機配位子源に含まれる前記有機配位子とを含んだ金属有機構造体を析出させ、前記金属有機構造体が担持された前記ペーパ基材を得る加熱攪拌工程と、
前記金属有機構造体が担持された前記ペーパ基材を乾燥させる乾燥工程と、
を含み、
(方法2)前記金属有機構造体が、常温で生成されるものである場合は、
金属イオン源を溶媒中に混合して、有機配位子源を含まない初期液を得る調製工程と、
少なくとも前記金属イオンとキレート結合可能なキレート官能基を有するキレート繊維を含んだペーパ基材を準備する準備工程と、
前記初期液に前記ペーパ基材を浸漬し、前記キレート繊維の前記キレート官能基に前記金属イオンが捕捉された状態で有機配位子源を添加して常温で混合することにより、前記キレート官能基に捕捉されている前記金属イオンと、前記有機配位子と、を含む金属有機構造体を析出させ、前記金属有機構造体が担持された前記ペーパ基材を得る常温攪拌工程と、
前記金属有機構造体が担持された前記ペーパ基材を乾燥させる乾燥工程と、
を含む、シート材の製造方法。
【請求項15】
前記(方法1)または前記(方法2)では、前記準備工程において、前記キレート繊維と、キレート官能基を有しない第2繊維材料と、を含むスラリーを、湿式抄紙法によりシート化して、前記キレート繊維と前記第2繊維材料とを含むペーパ基材を準備する、
請求項14に記載のシート材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属有機構造体を備えたシート材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガスの貯蔵や分離、脱臭、空気や水の浄化等に用いられる材料として、金属有機構造体(MOF:Metal Organic Frameworks)の研究が活発に行われている。金属有機構造体は、金属イオンおよび有機配位子からなる格子構造を有し、比表面積と細孔容積が極めて大きい。また、金属有機構造体は、金属イオンや有機配位子の種類、およびその合成条件等を変化させることにより、多様な構造設計が可能である。このため、幅広い分野での利用が期待されている(特許文献1,2参照)。
【0003】
例えば特許文献1には、金属有機構造体(多孔性金属錯体)と有機繊維とを含む吸着シート材が開示されている。特許文献1には、次の工程:金属有機構造体と有機繊維と有機バインダとを溶媒中に分散させて、分散スラリーを調製する工程;分散スラリーを抄紙機で抄紙し、シート状物を成形する工程;シート状物を脱水、乾燥する工程;を含む湿式抄紙法によって、吸着シート材を製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-154302号公報
【文献】特開2016-052620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属有機構造体は通常、サイズが非常に小さいため、取扱いが難しい。また、金属有機構造体が繊維材料を含んだ基材(ペーパ基材)にしっかり固定されていないと、金属有機構造体が脱落しやすくなる課題がある。例えばペーパ基材のところどころで金属有機構造体が剥がれ落ちると、金属有機構造体の担持ムラが大きくなることがありうる。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、金属有機構造体がペーパ基材から脱落しにくいシート材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、繊維材料と金属有機構造体との相互作用を高め、金属有機構造体を繊維材料に対してより強固に固定することを考えた。そして、鋭意検討の結果、本発明を創出した。本発明に係るシート材は、金属イオンと有機配位子とを含む金属有機構造体と、繊維材料を含むペーパ基材と、を備え、上記繊維材料は、上記金属イオンとキレート結合可能なキレート官能基を有するキレート繊維を含む。
【0008】
本発明に係るシート材では、ペーパ基材を構成する繊維材料に、キレート官能基を有するキレート繊維が含まれている。これにより、金属有機構造体の金属イオンがキレート官能基を介して繊維材料に強固に固定されやすくなる。したがって、ペーパ基材がキレート繊維を有していない場合と比べて、金属有機構造体を繊維材料に対して相対的に強固に固定することができる。その結果、繊維材料と金属有機構造体との一体性が高められ、金属有機構造体がペーパ基材から脱落することを抑制できる。ひいては金属有機構造体をペーパ基材に対して均質に配置することも可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属有機構造体がペーパ基材に強固に固定され、ペーパ基材から脱落しにくいシート材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態に係るシート材の製造方法を示すフローチャートである。
図2図2は、変形例に係るシート材の製造方法を示すフローチャートである。
図3A図3Aは、一実施形態に係る吸着フィルタの斜視図である。
図3B図3Bは、一実施形態に係る吸着フィルタの正面図である。
図4図4は、ペーパ基材とシート材の写真である。
図5A図5Aは、比較例に係るシート材の一部を拡大した光学顕微鏡画像である。
図5B図5Bは、実施例に係るシート材の一部を拡大した光学顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、一実施形態に係るシート材について説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。また、本明細書において範囲を示す「X~Y」(X,Yは任意の数値)の表記は、X以上Y以下の意と共に、「Xより大きい」および「Yより小さい」の意を包含する。
【0012】
<シート材>
ここに開示されるシート材は、(A)金属有機構造体と、(B)ペーパ基材と、を必須として備え、必要に応じて、さらに(C)有機バインダや、(D)各種添加剤を備えうる。シート材は、流体組成物ないし環境中から所望の成分を選択的に捕捉する機能を有し、吸着材、吸蔵材、分離材等として、各種用途に使用できる。シート材は、例えば、大気中のCOを直接回収して貯留する直接空気回収(DAC:Direct Air Capture)や、混合ガス中から特定のガス成分を吸着して分離する用途に好適に使用できる。
【0013】
(A)金属有機構造体は、金属イオンと、当該金属イオンと結合可能な有機配位子と、を含んで構成されている。金属有機構造体は、典型的には、金属イオンと有機配位子とで構成された規則性の高い格子構造(多孔性の三次元構造)を有し、特定の分子を収容可能な複数の細孔を備える多孔質な金属錯体である。金属有機構造体は、金属イオンと有機配位子とで構成されていてもよいし、さらに他の成分を含んでいてもよい。なお、ここでいう「金属有機構造体」は、多孔性配位高分子(PCP:Porous Coordination Polymer)や、多孔性金属錯体と同義である。
【0014】
金属イオンは、有機配位子との結合により格子構造を形成するものである。金属イオンとしては特に限定されず、例えばシート材の用途や、有機配位子の種類、捕捉したい分子等に応じて、従来この種の用途に使用しうることが知られているものを1種または2種以上、適宜使用することができる。金属イオンは、重金属(比重が4以上の金属)のイオンであってもよいし、軽金属(比重が4未満の金属)のイオンであってもよい。金属イオンは、周期表の2族~14族に属する金属、例えば、アルカリ土類金属、貴金属、希土類金属等のイオンであることが好ましい。金属イオンは、周期表の13族~16族に属する半金属、例えば、ホウ素(B)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、セレン(Se)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)等のイオンであってもよい。
【0015】
金属イオンを構成する金属(および、典型的なイオンの形態)としては、例えば、後述する(B)ペーパ基材のキレート繊維として使用しうる「キレストファイバー(登録商標)シリーズ」を販売するキレスト株式会社のホームページ<URL:https://chelest.co.jp/products/fiber03/>に記載されている金属イオンが挙げられる。具体例として、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、アルミニウム(Al)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、インジウム(In)、ランタノイド、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)、水銀(Hg)、タリウム(Tl)、鉛(Pb)、アクチノイド、ラザホージウム(Rf)、ドブニウム(Db)、シーボーギウム(Sg)、ボーリウム(Bh)、ハッシウム(Hs)、マイトネリウム(Mt)、ウンウンニリウム(Uun)、ウンウンビウム(Uub)等が挙げられる。
【0016】
なかでも、DACの用途では、周期表の第3~5周期に属する金属のイオンが好ましく、第3~4周期に属する金属のイオンがより好ましく、マグネシウム、クロム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛のうちの少なくとも1つのイオンが特に好ましい。これにより、大気中のCOを効率的に回収し安定して貯留できる。金属イオンは、2価であることがより好ましい。
【0017】
有機配位子は、上記金属イオンと配位結合可能な部位を分子内に2つ以上有し、かつ、上記金属イオンとの結合により格子構造を形成する有機化合物である。有機配位子としては特に限定されず、例えば金属イオンの種類や捕捉したい分子等に応じて、従来この種の用途に使用しうることが知られているものを1種または2種以上、適宜使用することができる。有機配位子の具体例としては、ピリジン類、ピラジン類、ピリミジン類、トリアジン類、ピラゾール類、イミダゾール類、トリアゾール類、テトラゾール類、ジカルボン酸、トリカルボン酸、およびこれらの誘導体が挙げられる。
【0018】
幾つかの好適な実施形態において、有機配位子は、C,H,Nの元素で構成された芳香族化合物が好ましく、芳香環内に1つないし2つの窒素原子を含む複素環式芳香族化合物がより好ましい。例えば、ピリジン骨格を有するピリジン類(ピリジンやビピリジン)、ピラジン骨格を有するピラジン類(例えばピラジン)が好ましい。
【0019】
他の幾つかの好適な実施形態において、有機配位子は、カルボン酸化合物が好ましく、ベンゼン環と少なくとも1つ(好ましくは2つ以上)のカルボキシル基とを含む芳香族カルボン酸がより好ましい。例えば、1,3-ベンゼンジカルボン酸(イソフタル酸)、1,4-ベンゼンジカルボン酸(テレフタル酸)、2,3-ピラジンジカルボン酸、3,5-ピリジンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸や、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(トリメシン酸)等の芳香族トリカルボン酸が特に好ましい。
【0020】
幾つかの好適な実施形態において、金属有機構造体は、上記金属イオンと上記有機配位子とで構成される格子が、正方格子であることが好ましい。金属有機構造体は、フッ素元素を含むフッ素化金属有機構造体であることが好ましい。金属有機構造体は、フッ素を含む無機構造部分(inorganic chain)をさらに含んで構成されていてもよい。
【0021】
幾つかの好適な実施形態において、金属有機構造体は、金属イオンとしてのニッケルイオンと有機配位子としてのピラジンを含むことが好ましい。例えば国際公開第2016/162834号等に記載されるように、金属有機構造体は、ニッケルイオンとピラジンとからなるNi(ピラジン)の複数の正方格子が、無機構造部分を介して所定の結晶方向に連結され、例えば柱状に形成されていることが好ましい。金属有機構造体は、金属イオンとしてのニッケルイオンと、有機配位子としてのピラジンと、さらに無機構造部分とを含み、次の式:NiMOF(ピラジン);ただし、M元素は、Al,Fe,V,およびNbから選択される少なくとも1つである、で表される化合物であることが好ましい。なかでも、M元素はNbであることが好ましく、金属有機構造体は、捕捉したい分子との関係で、次の式:NiNbOF(ピラジン);で表される、NbOFFIVE-1-Niであることが特に好ましい。上記金属有機構造体によれば、例えばDACの用途において、大気中のCOを効率的に回収し安定して貯留できる。
【0022】
幾つかの好適な実施形態において、金属有機構造体は、例えば後述する図2の製造方法(所謂、直接沈殿法)を採用できるもの、例えば、ELM-11、SIFSIX-3、HKUST-1、ZIF-8、MOF-5、MOF-74、MOF-177等が好ましい。ELM-11としては、例えば、金属イオンとしての銅イオンと、有機配位子としての4,4'-ビピリジンと、さらに無機構造部分としてのテトラフルオロホウ酸([BF)とを含み、次の式:Cu(bpy)(BF;ただし、bpyは、4,4'-ビピリジンである:で表される、ELM-11-Cuが挙げられる。SIFSIX-3としては、例えば、金属イオンとしての銅イオンと、有機配位子としてのピラジンと、さらに無機構造部分としてのヘキサフルオロケイ酸([SiF2-)とを含み、次の式:Cu(ピラジン)(SiF);で表される、SIFSIX-3-Cuが挙げられる。SIFSIX-3は、金属イオンとしてのニッケルイオンを含むSIFSIX-3-Niであってもよい。HKUST-1としては、例えば、金属イオンとしての銅イオンと、有機配位子としての1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(トリメシン酸)と、さらに無機構造部分としての硝酸イオンとを含み、次の式:Cu(btc);ただし、btcは、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸である:で表される、HKUST-1-Cuが挙げられる。HKUST-1は、金属イオンとしてのニッケルイオンを含むHKUST-1-Niや、亜鉛イオンを含むHKUST-1-Znであってもよい。
【0023】
(B)ペーパ基材は、繊維材料を含んでいる。繊維材料としては特に限定されず、従来この種の用途に使用しうることが知られているものを1種または2種以上、適宜使用することができる。特に限定されるものではないが、繊維材料の平均長さは、典型的には0.01μm~30mmが好ましい。繊維材料の平均直径は、典型的には1nm~0.1mmが好ましい。繊維材料は、アスペクト比(平均直径に対する平均長さの比(平均長さ/平均直径)は、概ね10以上、例えば100以上、1000以上が好ましい。なお、平均長さおよび平均直径としては、電子顕微鏡観察に基づく測定で得られた数平均の値を採用することができる。
【0024】
繊維材料は、無機繊維であってもよいし有機繊維であってもよい。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維、炭素繊維等が挙げられる。繊維材料は、有機繊維を主体(質量基準で50%以上を占める成分。以下同じ。)として構成されていることが好ましい。繊維材料は、有機繊維で構成されていてもよい。有機繊維は、天然繊維であってもよいし、化学的に合成された化学繊維(人造繊維)であってもよい。天然繊維としては、パルプ繊維等の植物繊維や、動物繊維、鉱物繊維が挙げられる。化学繊維は、再生繊維であってもよいし、半合成繊維であってもよいし、合成繊維であってもよい。化学繊維としては、例えば、セルロース繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、レーヨン繊維、ポリアミド繊維、ポリイミド繊維、ポリ乳酸繊維等が挙げられる。
【0025】
ここに開示される技術では、繊維材料の少なくとも一部が、上記(A)金属有機構造体の金属イオンとキレート結合(配位結合)可能なキレート官能基を有している。言い換えれば、(B)ペーパ基材は、少なくとも上記キレート官能基を有する第1繊維材料(以下、「キレート繊維」ともいう。)を含んでいる。キレート繊維は、母体となる繊維にキレート剤を化学的に結合させたイオン吸着性の繊維である。特に限定されるものではないが、キレート繊維の母体となる繊維は、上述した繊維材料のうち、セルロース繊維であることが好ましい。キレート官能基は、例えば製造方法に起因して、母体となる繊維の表面に偏在していてもよい。キレート繊維としては特に限定されず、例えば(A)金属有機構造体の金属イオンの種類等に応じて、従来知られているものを1種または2種以上、適宜使用することができる。キレート繊維は従来公知の製造方法で製造することもできるし、市販品を購入して用いることもできる。キレート繊維の市販品としては、例えば、キレスト株式会社製の「キレストファイバー(登録商標)シリーズ」、株式会社カネカ製の「カネカロン(登録商標)シリーズ」等が挙げられる。
【0026】
キレート繊維の具体例としては、カルボン酸型キレート繊維、リン酸型キレート繊維、ポリオール型キレート繊維、アミン型キレート繊維等が挙げられ、なかでもカルボン酸型キレート繊維が好ましい。カルボン酸型キレート繊維は、キレート官能基として、例えば、アミノモノカルボン酸類ないしアミノポリカルボン酸類を含む基を有する。アミノモノカルボン酸類やアミノポリカルボン酸類としては、例えば、イミノ酢酸、アミノ酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸、グルタミン酸二酢酸、エチレンジアミン二コハク酸、イミノ二酢酸等が挙げられる。アミノカルボン酸型キレート繊維の市販品としては、例えば、キレスト株式会社製の「キレストファイバー(登録商標)のIRYシリーズ」が挙げられる。キレストファイバー(登録商標)は、セルロース繊維にキレート剤を化学的に結合させた繊維である。カルボン酸型キレート繊維は、(A)金属有機構造体の金属イオンが、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、重金属イオン、貴金属イオン、希土類金属イオン等の場合に、特に好適に用いることができる。
【0027】
リン酸型キレート繊維は、キレート官能基として、例えば、アミノリン酸ないしリン酸を含む基を有する。ポリオール型キレート繊維は、キレート官能基として、例えば、グルカミンを含む基を有する。ポリオール型キレート繊維の市販品としては、例えば、キレスト株式会社製の「キレストファイバー(登録商標)のGRYシリーズ」が挙げられる。ポリオール型キレート繊維は、(A)金属有機構造体の金属イオンが、半金属イオンである場合に、特に好適に用いることができる。アミン型キレート繊維は、キレート官能基として、例えば、アミン類ないしヒドロキシルアミン類を含む基を有する。アミン類としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンポリアミン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ピロール、ポリビニルアミン等が挙げられる。
【0028】
本実施形態において、(B)ペーパ基材は、キレート官能基を有する第1繊維材料(キレート繊維)に加えて、キレート官能基を有しない繊維材料(第2繊維材料)をさらに含んでいる。これにより、シート材の機械的強度や耐久性を向上できる。第1繊維材料と第2繊維材料との合計を100質量%としたときに、第1繊維材料(キレート繊維)の割合は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上、30質量%以上がより好ましい。これにより、(A)金属有機構造体をより多く担持して、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮できる。また、シート材の機械的強度や耐久性を向上する観点から、第1繊維材料(キレート繊維)の割合は、95質量%以下が好ましく、90質量%以下、80質量%以下、さらには70質量%以下、50質量%以下がより好ましい。第1繊維材料と第2繊維材料との合計を100質量%としたときに、第1繊維材料の割合は、50質量%±20質量%(30~70質量%)、さらには30~50質量%がより好ましい。ただし、他の実施形態において、(B)ペーパ基材は、第1繊維材料のみで構成されていてもよい。
【0029】
特に限定されるものではないが、第2繊維材料は、上述した繊維材料のうち、セルロース繊維、アラミド繊維、パルプ繊維、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維のうちの少なくとも1つであることが好ましい。第2繊維材料は、第1繊維材料の母体となる繊維と同じ種類であってもよい。例えば、第1繊維材料と第2繊維材料とがいずれも有機繊維を含んでいてもよい。例えば、第1繊維材料と第2繊維材料とがいずれもセルロース繊維を含んでいてもよい。第1繊維材料と第2繊維材料とに同じ種類の繊維を含むことで、ペーパ基材としての一体性が向上しうる。第2繊維材料は、第1繊維材料の母体となる繊維と異なる種類であってもよい。例えば、第1繊維材料がセルロース繊維を含み、第2繊維材料が天然繊維ないし無機繊維からなってもよい。例えば、第1繊維材料がセルロース繊維を含み、第2繊維材料がアラミド繊維、パルプ繊維、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維のうちの少なくとも1つからなってもよい。第1繊維材料と第2繊維材料とが異なる種類の樹脂を含むことで、ペーパ基材の諸特性、例えば、耐久性、耐薬品性、耐食性、耐熱性等を、バランスよく向上できる。
【0030】
(C)有機バインダは、(A)金属有機構造体と(B)ペーパ基材との結合性を高める成分である。なお、本実施形態のシート材は、有機バインダを含まない。これにより、金属有機構造体の表面が有機バインダによって覆われることがないので、分離の対象(例えばガス)と金属有機構造体との接触面積を増やすことができ、シート材の性能(例えば吸着材として使用する場合の吸着性能)をより良く高められる。ただし、他の実施形態において、シート材は、必要に応じて有機バインダを含んでもよい。
【0031】
有機バインダとしては、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸等の(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、酢酸ビニル等のビニル系樹脂、ポリウレタン等のウレタン系樹脂、メチルセルロースやエチルセルロース等のセルロース類等が挙げられる。有機バインダの割合は、シート材の全体を100質量%としたときに、5質量%以下に抑えることが好ましく、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、さらには0.1質量%以下に抑えること(実質的に含まないこと)がより好ましい。
【0032】
(D)各種添加剤としては、シート材の諸特性、例えば、機械的強度や耐久性等の向上を目的として、従来この種の用途に使用しうることが知られているものを1種または2種以上、適宜使用することができる。添加剤の具体例として、無機フィラー、無機バインダ等の無機添加剤や、酸化防止剤、分散剤、凝集剤、防腐剤、安定剤、着色剤(顔料、染料等)等の有機添加剤が挙げられる。これら添加剤の割合は、シート材の全体を100質量%としたときに、10質量%以下が好ましく、5質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下がより好ましい。
【0033】
以上のように、本実施形態のシート材では、ペーパ基材を構成する繊維材料に、キレート官能基を有するキレート繊維が含まれている。これにより、金属有機構造体の金属イオンがキレート官能基を介して繊維材料に強固に固定されやすくなる。したがって、ペーパ基材がキレート官能基を有していない場合と比べて、相対的に金属有機構造体を繊維材料に対して強固に固定することができる。その結果、金属有機構造体と繊維材料との一体性が高められ、金属有機構造体がペーパ基材から脱落することを抑制できる。ひいては金属有機構造体をペーパ基材に対して均質に配置することができる。
【0034】
本実施形態のシート材では、上記キレート官能基の少なくとも一部が、上記金属イオンとキレート結合(配位結合)している。繊維材料の金属イオンがキレート結合を介して金属有機構造体の金属イオンと結合することで、金属有機構造体がペーパ基材に、より強固に固定される。したがって、金属有機構造体がペーパ基材から脱落することを、より高いレベルで抑制できる。
【0035】
本実施形態のシート材は、直接空気回収(DAC:Direct Air Capture)に好適に用いることができる。DACの用途においては、上記金属イオンが、マグネシウム、クロム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛のうちの少なくとも1つであることが好ましい。これにより、大気中のCOを効率的に回収し安定して貯留できる。
【0036】
本実施形態のシート材では、上記金属有機構造体が、上記金属イオンとしてのニッケルイオンと、上記有機配位子としてのピラジンと、さらに[NbOF2-と、を含み、次の式:NiNbOF(ピラジン);で表される、NbOFFIVE-1-Niである。上記金属有機構造体によれば、例えばDACの用途において、大気中のCOを効率的に回収し安定して貯留できる。
【0037】
本実施形態のシート材では、上記ペーパ基材が、上記キレート官能基を有する第1繊維材料と、上記キレート官能基を有しない第2繊維材料と、を含む。これにより、シート材の機械的強度や耐久性を向上できる。
【0038】
本実施形態のシート材では、上記第1繊維材料が、セルロース繊維を含む。セルロース繊維は熱に対して安定性が高く、例えば80℃程度の高温環境においても、優れた性能(例えば吸着材として使用する場合の吸着性能)を発揮できる。
【0039】
本実施形態のシート材では、上記第2繊維材料が、セルロース繊維、アラミド繊維、パルプ繊維、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維のうちの少なくとも1つを含む。これにより、シート材の機械的強度や耐久性をより良く向上できる。
【0040】
本実施形態のシート材では、上記第1繊維材料と上記第2繊維材料との合計を100質量%としたときに、上記第1繊維材料の割合が、30~70質量%である。これにより、優れた性能(例えば吸着材として使用する場合の吸着性能)と、機械的強度および耐久性とを、高いレベルで兼ね備えることができる。
【0041】
本実施形態のシート材は、有機バインダを含まない。これにより、金属有機構造体の表面が有機バインダによって覆われることがないので、分離の対象(例えばガス)と金属有機構造体との接触面積を増やすことができ、シート材の性能(例えば吸着材として使用する場合の吸着性能)をより良く高められる。
【0042】
<シート材の製造方法1>
次に、上記したようなシート材の製造方法の一好適例について説明する。図1は、本実施形態に係るシート材の製造方法を示すフローチャートである。図1に示すように、本実施形態の製造方法は、加熱することで金属有機構造体を析出(合成)させるものであり、混合工程S1aと、準備工程S1bと、加熱攪拌工程S2と、洗浄工程S3と、乾燥工程S4と、を含んでいる。なお、混合工程S1aと準備工程S1bとの順序は特に限定されず、いずれか一方を先に行ってもよいし、略同時に行ってもよい。また、洗浄工程S3は必ずしも必須ではなく、他の実施形態において省略することもできる。また、ここに開示される製造方法は、任意の段階でさらに他の工程を含んでもよい。
【0043】
混合工程S1aは、金属有機構造体の原料溶液を準備する工程である。詳しくは、金属イオン源と有機配位子源とを溶媒中に混合して混合液を得る工程である。溶媒は、典型的には水であるが、水を主体とする混合溶媒であってもよい。混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶剤、例えば低級アルコール、低級ケトン等を用いうる。水としては、不純物の混入を防止する観点から、イオン交換水、蒸留水、限外濾過水、逆浸透水等を好適に用いることができる。
【0044】
本実施形態では、まず反応槽内に溶媒としての水を添加し、図1に示すように、金属イオン源と有機配位子源とを反応槽内に添加する。なお、添加の順序は特に限定されないが、ここでは、金属イオン源を添加した後に有機配位子源を添加している。
【0045】
金属イオン源は、上述したような金属有機構造体の金属イオンを含んだ化合物である。金属イオン源は、1種類の化合物であってもよく、2種以上の化合物を併用してもよい。金属イオン源は、ここでは金属塩(具体的には、NiNbOF・4HO)であり、金属イオンとしてのNi2+と、無機構造部分のアニオンとしての[NbOF2-と、を含んでいる。なお、金属イオン源が粉末状である場合は、予め溶媒としての水に溶解させた状態で反応槽に添加することが好ましい。
【0046】
有機配位子源は、典型的には、上述したような金属有機構造体の有機配位子を含んだ化合物である。有機配位子源は、ここではピラジンである。なお、有機配位子源が粉末状である場合は、予め溶媒としての水に溶解させた状態で反応槽に添加することが好ましい。
【0047】
次に、金属イオン源と有機配位子源とを溶媒中で混合して、混合液を得る。混合には、マグネティックスターラー、プラネタリーミキサー、ディスパー等の従来公知の撹拌混合装置を適宜用いることができる。混合は、混合液が均質になるまで行うことが好ましい。本工程の温度環境は、金属イオン源や有機配位子源の溶解性を高める観点等から、10℃以上が好ましく、20℃以上が好ましい。一方、溶媒の揮発を抑制する観点や、金属イオン源と有機配位子源との反応を抑制する観点等から、100℃以下が好ましく、50℃以下が好ましく、35℃以下がより好ましい。以上のようにして、混合液を得ることができる。
【0048】
混合液は、金属有機構造体の原料溶液である。混合液は、ここでは、金属イオン(Ni2+)と有機配位子(ピラジン)と無機構造部分([NbOF2-)とが、溶媒としての水に溶解した水溶液である。特に限定されるものではないが、混合液における金属イオンの濃度は、ここでは、0.1~2mol/Lが好ましく、0.3~1mol/Lがより好ましく、0.5~0.7mol/Lがさらに好ましい。混合液における有機配位子の濃度は、例えば金属イオンの濃度等によっても異なりうるため、特に限定されないが、ここでは、1~10mol/Lが好ましく、2~7mol/Lがより好ましく、5~6mol/Lがさらに好ましい。
【0049】
準備工程S1bは、キレート繊維を含んだペーパ基材を準備する工程である。キレート繊維は、少なくとも上記混合液(詳しくは金属イオン源)に含まれる金属イオンとキレート結合可能なキレート官能基を有している。ペーパ基材は、市販品を購入して用意してもよいし、原料としての繊維材料を用い、従来公知の方法(例えば湿式抄紙法)で自らペーパ基材を作製して用意することもできる。ペーパ基材は、キレート繊維(第1繊維材料)のみで構成されていてもよいし、キレート繊維(第1繊維材料)に加えて、キレート官能基を有しない繊維材料(第2繊維材料)を含んで構成されていてもよい。本実施形態では、図1に示すように、溶媒中に、第1繊維材料としてのキレート繊維と、第2繊維材料としてのアラミド繊維とを分散させてスラリーを調製し、湿式抄紙法によりシート化してペーパ基材を製造する。以上のようにして、ペーパ基材を準備することができる。
【0050】
加熱攪拌工程S2は、金属有機構造体の合成と、ペーパ基材への金属有機構造体の担持とを、略同時に行う工程である。詳しくは、混合工程S1aで得られた混合液に、準備工程S1bで準備したペーパ基材を浸漬し、加熱攪拌することにより、金属有機構造体が担持されたペーパ基材(MOF担持ペーパ基材)を得る工程である。加熱には、オートクレーブ、オイルバス、マントルヒータ等の従来公知の加熱装置を適宜用いることができる。
【0051】
本工程では、金属イオン(例えばNi2+)と有機配位子(例えばピラジン)とが溶解した混合液中に、準備工程S1bで準備したペーパ基材を浸漬させると、キレート繊維のキレート官能基によって金属イオンが捕捉され、典型的にはキレート繊維に金属イオンがキレート結合する。この状態で、反応槽を加熱すると、ペーパ基材(特には、ペーパ基材の表面)に、金属イオンと有機配位子とを含む金属有機構造体が析出する。ここでは、金属イオン(Ni2+)と有機配位子(ピラジン)と無機構造部分([NbOF2-)とを含む金属有機構造体が析出する。またこのとき、キレート繊維では、キレート官能基に結合している金属イオンが有機配位子と金属有機構造体を形成する。そのため、金属有機構造体はキレート官能基を介してキレート繊維に固定される。
【0052】
加熱温度は、例えば金属イオンや有機配位子の種類等によっても異なりうるため特に限定されないが、常温よりも高い温度であり、溶媒の沸点以上とすることが好ましく、溶媒に水を含む場合は100℃以上、例えば100~200℃、100~150℃とすることが好ましい。なお、本明細書において「常温」とは、特段の加熱ないし冷却を行わない温度をいい、概ね25℃±10℃(15~35℃)の温度範囲をいう。
【0053】
保持時間は、例えば反応液中の金属イオンや有機配位子の濃度、加熱温度等によっても異なりうるため、特に限定されないが、概ね1~72時間とすることが好ましく、2~48時間、12~36時間とすることがより好ましい。本工程では、金属有機構造体の析出を促進する観点等から、混合液を攪拌することが好ましい。攪拌には、上記したような従来公知の撹拌混合装置を適宜用いることができる。以上のようにして、MOF担持ペーパ基材を得ることができる。
【0054】
洗浄工程S3は、加熱攪拌工程S2で得られたMOF担持ペーパ基材を、第2の溶媒で洗浄する工程である。本実施形態では、上記混合液に含まれる溶媒(水)を第2の溶媒に置換し、遠心分離によって上澄みを除去する。第2の溶媒は、混合液に含まれる溶媒よりも揮発性が高いことが好ましい。第2の溶媒は、典型的には有機溶剤であり、ここではアルコール(例えばエタノール)である。溶媒を置換し遠心分離する操作は、複数回(例えば2~3回)行うことが好ましい。
【0055】
乾燥工程S4は、ここでは洗浄工程S3の後、MOF担持ペーパ基材を乾燥させる工程である。乾燥方法は特に限定されず、例えば、従来公知の加熱乾燥、真空乾燥等を適宜採用することができる。乾燥温度は、上記混合液に含まれていた溶媒の沸点以上とすることが好ましく、溶媒に水が含まれていた場合は100℃以上とすることが好ましい。乾燥温度は、上記加熱温度以下とすることが好ましく、例えば120℃以下、110℃以下とすることがより好ましい。以上のようにして、ここに開示されるシート材を製造することができる。
【0056】
本実施形態の製造方法は、金属イオン源と有機配位子源とを溶媒中に混合して混合液を得る混合工程と、少なくとも上記金属イオン源に含まれる金属イオンとキレート結合可能なキレート官能基を有するキレート繊維を含んだペーパ基材を準備する準備工程と、上記混合液に上記ペーパ基材を浸漬し、加熱することにより、上記金属イオンと上記有機配位子源に含まれる上記有機配位子とを含んだ金属有機構造体を析出させ、上記金属有機構造体が担持された上記ペーパ基材を得る加熱攪拌工程と、上記金属有機構造体が担持された上記ペーパ基材を乾燥させる乾燥工程と、を含む。上記態様では、キレート繊維と金属イオンとを接触(キレート結合)させた状態で加熱し、金属有機構造体を析出させることで、上記したようなシート材を好適に製造できる。
【0057】
本実施形態の製造方法は、上記準備工程において、上記キレート繊維と、キレート官能基を有しない第2繊維材料と、を含むスラリーを、湿式抄紙法によりシート化して、上記キレート繊維と上記第2繊維材料とを含むペーパ基材を準備する。これにより、諸特性、例えば機械的強度や耐久性に優れたシート材を好適に製造できる。
【0058】
<シート材の製造方法2>
なお、上記した図1の製造方法は、加熱することで金属有機構造体を析出させるものであったが、いくつかの種類の金属有機構造体については、加熱を行わずに、常温で金属有機構造体を析出させる方法(所謂、直接沈殿法)を採用することができる。これにより、シート材をより簡便に製造できる。かかる方法は、例えば、次の種類の金属有機構造体:ELM-11、SIFSIX-3、HKUST-1、ZIF-8、MOF-5、MOF-74、MOF-177;を合成する場合に好適に適用しうる。
【0059】
図2は、変形例に係るシート材の製造方法を示すフローチャートである。図2に示すように、変形例の製造方法は、調製工程S11aと、準備工程S11bと、常温攪拌工程S12と、洗浄工程S13と、乾燥工程S14と、を含んでいる。なお、準備工程S11bと洗浄工程S13と乾燥工程S14とは、上記した図1の製造方法の準備工程S1b、洗浄工程S3、乾燥工程S4とそれぞれ同じであるため、詳しい説明を省略する。また、ここに開示される製造方法は、任意の段階でさらに他の工程を含んでもよい。
【0060】
調製工程S11aは、金属イオン源を溶媒中に混合して初期液を得る工程である。溶媒、金属イオン源、および混合方法については、上記した混合工程S1aと同様であってよい。金属イオン源は、例えばELM-11-Cu、SIFSIX-3-Cu、HKUST-1-Cu等を合成する場合、銅イオン源である。金属イオン源は、金属イオンと無機構造部分とを含む金属塩であってもよい。一例として、ELM-11-Cuを合成する場合は、テトラフルオロホウ酸銅を使用でき、SIFSIX-3-Cuを合成する場合は、ヘキサフルオロケイ酸銅の水和物を使用でき、HKUST-1-Cuを合成する場合は、硝酸銅の6水和物を使用できる。初期液は、ここでは、金属イオン(例えばCu2+)と無機構造部分のアニオンとが、溶媒としての水に溶解した水溶液である。初期液は、上記した図1の混合液とは異なり、有機配位子を含んでいない。
【0061】
常温攪拌工程S12は、調製工程S11aで得られた初期液に、準備工程S11bで準備したペーパ基材を浸漬した後、有機配位子源を添加して常温で攪拌することにより、MOF担持ペーパ基材を得る工程である。本工程では、金属イオンが溶解した初期液中に、準備工程S11bで準備したペーパ基材を浸漬させると、キレート繊維のキレート官能基に金属イオンがキレート結合する。この状態で、有機配位子源をさらに添加し、常温で攪拌混合する。有機配位子源については、上記した混合工程S1aと同様であってよい。一例として、ELM-11-Cuを合成する場合は、4,4-ビピリジンを使用でき、SIFSIX-3-Cuを合成する場合は、ピラジンを使用でき、HKUST-1-Cuを合成する場合は、トリメシン酸を使用できる。有機配位子源を添加すると、ペーパ基材に、金属イオンと有機配位子とを含む金属有機構造体が析出する。このとき、キレート繊維では、キレート官能基に結合している金属イオンが有機配位子と金属有機構造体を形成する。そのため、金属有機構造体はキレート官能基を介してキレート繊維に固定される。なお、本工程の保持時間は、上記した加熱攪拌工程S2と同様であってよい。
【0062】
変形例の製造方法は、金属イオン源を溶媒中に混合して初期液を得る調製工程と、少なくとも上記金属イオンとキレート結合可能なキレート官能基を有するキレート繊維を含んだペーパ基材を準備する準備工程と、上記初期液に上記ペーパ基材を浸漬した後、有機配位子源を添加して常温で混合することにより、上記金属イオンと上記有機配位子とを含む金属有機構造体を析出させ、上記金属有機構造体が担持された上記ペーパ基材を得る常温攪拌工程と、上記金属有機構造体が担持された上記ペーパ基材を乾燥させる乾燥工程と、を含む。上記態様では、加熱を必要としないため、シート材をより簡便に製造できる。また製造コストを低減できる。
【0063】
<吸着フィルタ>
上述したシート材は、例えば、コルゲート状、ハニカム状、スリット状、プリーツ状、ロール状等の種々の形状に成形して、吸着フィルタとして用いることができる。成形体に加工することで、分離の対象(例えばガス)との単位体積当たりの接触面積を増やすことができ、シート材の性能をより良く発揮できる。
【0064】
図3Aは、吸着フィルタ100の斜視図であり、図3Bは、吸着フィルタ100の正面図である。吸着フィルタ100は、上述したシート材を含んで構成されている。図3Aに示すように、吸着フィルタ100は、ここでは外形が円筒状である。ただし、吸着フィルタ100の外形は円筒状に限定されず、他の実施形態において種々の形状とすることができる。図3Bの吸着フィルタ100は、上述したシート材がコルゲート状(波形)ないしプリーツ状に成形された成形体10を備えている。吸着フィルタ100は、例えば、大気中のCOを直接回収して貯留する直接空気回収(DAC:Direct Air Capture)や、自動二輪車や発電機等のエンジンから排出される排気ガスを浄化するために用いることができる。
【0065】
吸着フィルタ100は、例えば、シート材をコルゲート状に成形(波付け)ないしプリーツ状に成形(襞付け)して、成形したシート材と平板状のシート材とを重ね合わせて巻回し、円筒状に成形することで製造できる。あるいは、例えば図1ないし図2の製造方法の準備工程S1bにおいて、湿式抄紙法で繊維材料をシート化した後、シート状のペーパ基材を折り曲げ等によって適宜加工し、所望の形状に成形した後、加熱攪拌工程S2ないし常温攪拌工程S12を行ってもよい。
【0066】
本実施形態の吸着フィルタ100は、上述したシート材を備える。本実施形態では、上記シート材が、コルゲート状、ハニカム状、スリット状、プリーツ状、またはロール状に成形されている。これにより、分離の対象(例えばガス)との単位体積当たりの接触面積を増やすことができ、シート材の性能をより良く発揮できる。
【0067】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0068】
<比較例> 比較例では、キレート官能基を有しない繊維材料のみを使用して(言い換えれば、キレート繊維を用いずに)、シート材を製造した。すなわちまず、反応槽に、溶媒としての純水10.0mLを添加し、そこに、金属イオン源としてのNiNbOF・4HO(0.200g、0.60mmol)を純水に溶解させた状態で添加し、さらに、有機配位子源としてのピラジンを0.389g、4.79mmol)を純水に溶解させた状態で添加し、混合して混合液を得た(混合工程)。また、キレート官能基を有しないアラミド繊維を水溶媒中に分散させてスラリーを調製し、湿式抄紙法によりシート化して、ペーパ基材を準備した(準備工程)。
【0069】
次に、準備したペーパ基材を混合液に含浸させ、攪拌混合しながら、130℃のオートクレーブ内で24時間、加熱した。これにより、青色の金属有機構造体(MOF)を混合液から析出させ、MOF担持ペーパ基材を得た(加熱攪拌工程)。次に、得られたMOF担持ペーパ基材をエタノール15mLで2回洗浄し、脱溶媒させた(洗浄工程)。次に、洗浄したMOF担持ペーパ基材を105℃で24時間、真空乾燥した(乾燥工程)。これにより、シート材を得た。
【0070】
<実施例> 実施例では、準備工程において、キレート官能基を有するキレート繊維(第1繊維材料)と、キレート官能基を有しないアラミド繊維(第2繊維材料)とを、質量比1:1(各50質量%)で混合して、シート材を製造した。このように、準備工程において、キレート繊維(第1繊維材料)と第2繊維材料とを水溶媒中に分散させてスラリーを調製し、湿式抄紙法によりシート化してペーパ基材を準備したこと以外は、上記比較例と同様にして、シート材を得た。
【0071】
図4は、比較例と実施例に係るペーパ基材とシート材の写真である。図4に示すように比較例のシート材では、丸印を付した2つの個所で、金属有機構造体(MOF)の担持量が大きく異なっており、担持ムラが大きかった。また、図5Aに示すように、比較例のシート材では、繊維の上にMOFが乗っかったような、不安定な状態となっていることが看取された。
【0072】
これに対して、繊維材料としてキレート繊維を用いた実施例のシート材では、比較例のシート材に比べて、相対的に多くの金属有機構造体(MOF)が、均質にペーパ基材に固定されていることが看取された。また、図5Bに示すように、実施例のシート材では、比較例のシート材に比べて、繊維間をMOFが埋めるような状態となり、MOFと繊維材料との一体性が高められていることが看取された。かかる結果は、ここに開示される技術の意義を示すものである。
【0073】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、上述の実施形態は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0074】
10 成形体
100 吸着フィルタ
S1a 混合工程
S1b、S11b 準備工程
S2 加熱攪拌工程
S3、S13 洗浄工程
S4、S14 乾燥工程
S11a 調製工程
S12 常温攪拌工程
【要約】
【課題】金属有機構造体が脱落しにくいシート材を提供すること。
【解決手段】ここに開示されるシート材は、金属イオンと有機配位子とを含む金属有機構造体と、繊維材料を含むペーパ基材と、を備える。上記繊維材料は、上記金属イオンとキレート結合可能なキレート官能基を有するキレート繊維を含む。
【選択図】図5B
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B