(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】電磁波吸収材料及び電磁波吸収樹脂成型体
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20241219BHJP
B60R 13/04 20060101ALI20241219BHJP
B60R 19/03 20060101ALI20241219BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20241219BHJP
C01B 32/158 20170101ALI20241219BHJP
C01B 32/16 20170101ALI20241219BHJP
C01B 32/18 20170101ALI20241219BHJP
D06M 10/00 20060101ALI20241219BHJP
D06M 11/74 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
H05K9/00 M
B60R13/04 Z
B60R19/03 A
C01B32/05
C01B32/158
C01B32/16
C01B32/18
D06M10/00 A
D06M11/74
(21)【出願番号】P 2019182052
(22)【出願日】2019-10-02
【審査請求日】2022-06-10
【審判番号】
【審判請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000175766
【氏名又は名称】三恵技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】古林 宏之
(72)【発明者】
【氏名】森 正和
(72)【発明者】
【氏名】池田 直
(72)【発明者】
【氏名】狩野 旬
【合議体】
【審判長】山澤 宏
【審判官】村松 貴士
【審判官】北元 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-99989(JP,A)
【文献】特開2019-29549(JP,A)
【文献】特開2017-45946(JP,A)
【文献】特開2015-144294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B60R19/03
B60R13/04
C01B32/158
C01B32/16
C01B32/18
C01B32/05
D06M10/00
D06M11/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波吸収材を用いて45~110GHzの周波数を有する電磁波を吸収させる方法であって、
前記電磁波吸収材は、
炭素材の表面がグラフェン構造を有する炭素ナノ構造体によって被覆され、
前記炭素ナノ構造体がカーボンナノウォールであり、
前記炭素材が炭素繊維であり、
前記炭素ナノ構造体に金属元素が含まれないこと、
を特徴とする電磁波吸収方法。
【請求項2】
前記電磁波吸収材を樹脂基材中に分散させること、
を特徴とする請求項1に記載の電磁波吸収方法。
【請求項3】
前記樹脂基材が炭素繊維強化熱可塑性樹脂であること、
を特徴とする請求項2に記載の電磁波吸収方法。
【請求項4】
前記樹脂基材が自動車用エンブレム又は自動車用バンパーであること、
を特徴とする請求項2又は3に記載の電磁波吸収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁波ノイズの除去に使用可能な電磁波吸収材料及び電磁波吸収樹脂成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
数MHzのラジオ波技術以来、電磁波技術は年々より高い周波数帯の利用が望まれており、現在では100GHz帯の電磁波利用を目指して研究開発が遂行されている。特に、自動車の自動運転化にはミリ波センサーが重要な役割を果たしており、ミリ波によるセンシングが自動運転技術における目として必要不可欠な状況となっている。
【0003】
ミリ波センサーの距離の分解能と精度は利用周波数の高さに依存し、高周波数ほど高性能となる。現在実用化されているミリ波レーダーには24GHzと77GHzの2種類が存在するが、24GHzレーダーの距離の分解能は75cm、77GHzレーダーの距離の分解能は4cmであり、その性能差は約20倍となる。
【0004】
ここで、完全自動運転下においてはセンシング装置の誤作動は人命に直結することから、一切の誤作動が許容されない。即ち、センシング装置の誤作動の原因となる電磁波ノイズを抑制することが喫緊の課題となっている。
【0005】
電磁波ノイズの低減には電磁波吸収材料の使用が一般的であり、パソコンや携帯電話等に関しては電磁波吸収材料を含むノイズ抑制シート等が活用されているが、これらの電子デバイスでは高くても5GHz程度の周波数帯が利用されており、電磁波ノイズ対策も5GHz程度までで十分である。しかしながら、ミリ波センサーでは~100GHzの周波数帯が利用されることから、電磁波ノイズ対策も同様の周波数帯が対象となる。
【0006】
これに対し、例えば、特許文献1(特開2019-57561号公報)においては、軟磁性金属粉末を含む電磁波吸収材料料であって、前記軟磁性金属粉末から構成される銅被覆鉄粉と該銅被覆鉄粉の間に介在する接合材料とを含み、前記銅被覆鉄粉が60質量%以上95質量%以下であり、かつ前記接合材料が5質量%以上40質量%以下であることを特徴とする電磁波吸収材料料、が提案されている。
【0007】
前記特許文献1に記載の電磁波吸収材料料においては、高周波域において電磁波吸収能力に優れており、比較的安価な鉄粉をベースとしているので、電磁波吸収材料料を安価で作製することができる、とされている。
【0008】
また、例えば、特許文献2(特開2017-118073号公報)においては、絶縁材料及び導電材料を含有し、体積抵抗率が10-2オーム・cm以上9×105オーム・cm未満であり、且つ、20GHz以上の周波数領域の電磁波を吸収する電磁波吸収材料料、が提案されている。
【0009】
前記特許文献2に記載の電磁波吸収材料料においては、膜の厚み方向の体積抵抗率を10-2オーム・cm以上9×105オーム・cm未満とすることで、20GHz以上といった高周波数領域の電磁波に対する吸収能を十分に高めることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2019-57561号公報
【文献】特開2017-118073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1に記載の電磁波吸収材料料の対象は10GHzの電磁波である。また、上記特許文献2に記載の電磁波吸収材料料では20GHz以上の高周波数領域の電磁波を対象とするとされているが、実施例で示されている電磁波吸収性能は20GHzに関するものであり、実質的に20GHzの電磁波を対象とする電磁波吸収材料料である。
【0012】
即ち、現在存在する電磁波吸収材料は周波数が高くても20GHz程度の電磁波を吸収するものであり、ミリ波レーダー等に使用される45~100GHzの高周波数帯に対応した安価な電磁波吸収材料は存在しないのが実情である。
【0013】
加えて、自動運転の高度化を目的として電磁波吸収材料が用いられる場合、当該電磁波吸収材料は自動車用部品となるため、軽量かつ高強度とすることが望まれる。
【0014】
以上のような状況に鑑み、本発明の目的は、45~100GHzの高周波数帯を含む電磁波を効率的に吸収することができる安価な電磁波吸収材料及び当該電磁波吸収材料を含む軽量かつ高強度な電磁波吸収樹脂成型体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記目的を達成すべく炭素材料の電磁波吸収特性について鋭意研究を重ねた結果、グラフェン構造を有する炭素ナノ構造体によって表面を被覆された炭素材料が高周波数帯の電磁波を効率的に吸収することを見出し、本発明に到達した。
【0016】
即ち、本発明は、
炭素材の表面がグラフェン構造を有する炭素ナノ構造体によって被覆され、
前記炭素ナノ構造体に金属元素が含まれないこと、
を特徴とする電磁波吸収材料、を提供する。
【0017】
本発明の電磁波吸収材料においては、前記炭素ナノ構造体がカーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノウォールであること、が好ましい。本発明の電磁波吸収材料が高周波数帯の電磁波を効率的に吸収する理由は必ずしも明らかになっていないが、炭素材の表面に形成したグラフェン構造を有する炭素ナノ構造体が電磁波の吸収に寄与しており、特に、当該炭素ナノ構造体をカーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノウォールとすることで、当該電磁波吸収性能を確実に発現させることができる。
【0018】
また、本発明の電磁波吸収材料においては、前記炭素材が炭素繊維であること、が好ましい。炭素材を炭素繊維とすることで、炭素繊維単体でも電磁波吸収材料として容易に利用することができ、各種基材の強化材とする態様で電波吸収材料として利用することもできる。ここで、炭素繊維単体として用いる場合はそのまま使用してもよく、二次元的又は三次元的に編み込んで使用してもよい。また、強化材とする場合は、長繊維であっても短繊維であってもよい。
【0019】
また、本発明の電磁波吸収材料においては、炭素材をミルドファイバーとすることがより好ましい。ミルドファイバーは機械的な粉砕によって炭素繊維を短繊維化したものであり、表面近傍に欠陥や歪が導入されていることから、C=C結合の切断及び再結合による炭素ナノ構造体の形成をより効率的に進行させることができ、炭素ナノ構造体をより密に形成させることができる。
【0020】
また、本発明の電磁波吸収材料においては、45~110GHzの周波数を有する電磁波を吸収させることが好ましく、75~110GHzの周波数を有する電磁波を吸収させることがより好ましい。本発明の電磁波吸収材料は、炭素材の表面に存在するグラフェン構造を有する炭素ナノ構造体によって、45~110GHzの周波数を有する電磁波を極めて効率的に吸収することができる。より具体的には、グラフェン構造を有する炭素ナノ構造体で炭素材の全表面積の3%程度を被覆することで、45~110GHz(好ましくは75~110GHz)の電磁波に対して、-6dB前後の高い電磁波吸収性能を発現させることができる。
【0021】
グラフェン構造を有する炭素ナノ構造体は、グラフェン構造を有するナノメートルオーダーの大きさの炭素構造体であれば特に限定されないが、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン及びカーボンナノウォールを挙げることができ、カーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノウォールであることが好ましい。また、炭素ナノ構造体は酸化されていてもよく、酸化された炭素ナノ構造体としては、例えば、酸化グラフェンを挙げることができる。
【0022】
また、本発明の電磁波吸収材料においては、炭素材の表面を被覆する炭素ナノ構造体に金属元素が含まれていない。一般的に、気相法では金属粒子を触媒として炭素ナノ構造体が形成されるが、本発明の電磁波吸収材料における炭素ナノ構造体は、炭素材のCの切断及び再結合によって形成したものであり、金属触媒を使用していないことから金属元素は含まれていない。金属元素を含まない炭素ナノ構造体を有する電磁波吸収材料が高周波数帯の電磁波を効率的に吸収する理由は必ずしも明らかになっていないが、金属元素を内包する炭素ナノ構造体として均質な状態となっており、導電損失型の電磁波吸収が高周波数帯の電磁波に対して効率的に進行する状態になっていると考えられる。
【0023】
更に、本発明は、本発明の電磁波吸収材料が樹脂基材中に存在していること、を特徴とする電磁波吸収樹脂成型体、も提供する。電磁波吸収材料が粒子状や短繊維状等の場合は樹脂基材に分散させればよく、電磁波吸収材料が長繊維の場合は樹脂基材に二次元的又は三次元的に配置すればよい。
【0024】
本発明の電磁波吸収樹脂成型体は、炭素繊維強化熱可塑性樹脂であること、が好ましい。この場合、一般的な炭素繊維強化熱可塑性樹脂に本発明の電磁波吸収材料を分散させてもよく、炭素繊維を本発明の電磁波吸収材料としてもよい。電磁波吸収樹脂成型体を炭素繊維強化熱可塑性樹脂とすることで、軽量かつ高強度な電磁波吸収樹脂成型体とすることができる。
【0025】
また、本発明の電磁波吸収樹脂成型体は、自動車用途としては、電子回路の外部からの電磁干渉遮蔽に用いることが好ましい。実施形態としては、ミリ波レーダー等の電磁波が、フロントグリルあるいは、リアグリル内で反射しノイズ源となることを防止するために、例えば、エンブレム又はバンパーに使用することができる。また、電磁波ノイズ遮蔽体として自動車内の電子回路を有する部品の一部あるいは全部を電磁的に遮蔽するためにも利用することができる。更に、自動車以外の用途としては、ETCや航空機、長距離無線通信及び電磁波測定用電磁暗室の構築など、45~110GHzの高周波域のノイズ低減等、電磁的に遮蔽する必要がある場面で利用することが可能である。本発明の電磁波吸収樹脂成型体は45~110GHzの周波数を有する電磁波を効率的に吸収することができ、最大81GHzの周波数を有するミリ波レーダーもノイズ源となる自動車用の電磁波吸収材料として好適に使用することができる。なお、将来的には100GHz帯の電磁波利用が想定されているところ、本発明の電磁波吸収材料及び電磁波吸収樹脂成型体は当該周波数帯の電磁波も効率的に吸収することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、45~100GHzの高周波数帯を含む電磁波を効率的に吸収することができる安価な電磁波吸収材料及び当該電磁波吸収材料を含む軽量かつ高強度な電磁波吸収樹脂成型体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の電磁波吸収材料の概略断面図である。
【
図2】本発明の電磁波吸収樹脂成型体の概略断面図である。
【
図3】炭素繊維に表面改質を施す状況の一例を示す模式図である。
【
図4】実施例における表面処理後のカーボンフェルトのSEM写真である。
【
図5】実施例における表面処理を施したカーボンフェルトの電磁波吸収特性である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の電磁波吸収材料及び電磁波吸収樹脂成型体の好適な一実施形態について、炭素材を炭素繊維とする場合を代表として、詳細に説明する。なお、以下の説明では、本発明の一実施形態を示すに過ぎず、これらによって本発明が限定されるものではなく、また、重複する説明は省略することがある。
【0029】
(1)電磁波吸収材料
本発明の電磁波吸収材料は、炭素材の表面がグラフェン構造を有する炭素ナノ構造体によって被覆され、当該炭素ナノ構造体に金属元素が含まれないこと、を特徴とするものである。
【0030】
図1に炭素材を炭素繊維とする場合の本発明の電磁波吸収材料の概略断面図を示す。電磁波吸収材料2においては、直径が1~20μmの炭素繊維4の表面に炭素ナノ構造体6が形成している。また、炭素繊維4の長さは特に限定されず、一般的に知られている長繊維又は短繊維等を用いることができる。ここで、炭素ナノ構造体6は密に形成されており、炭素繊維4の表面の全域を被覆した状態となっていることが好ましいが、炭素繊維4の表面の一部のみを被覆した状態でもよい。ここで、炭素ナノ構造体6は炭素繊維4の表面近傍のCによって形成されていることから、炭素繊維4と炭素ナノ構造体6は比較的良好な密着性を有しており、炭素繊維4を各種マトリックスの強化材として使用する場合に、炭素繊維4と各種マトリックスとの間の相互作用を増加させることができる(炭素繊維4の機械的性質をより反映させることができる)。
【0031】
炭素ナノ構造体6はナノメートルオーダーの大きさを有する炭素構造体であり、基本的にグラフェン構造を有している。炭素ナノ構造体6は特に限定されず、例えば、カーボンナノチューブ(単層又は多層)やグラフェンが数枚積層したカーボンナノウォールを挙げることができる。また、炭素ナノ構造体6は酸化されていてもよく、例えば、酸化された炭素ナノ構造体6としては、酸化グラフェンを挙げることができる。
【0032】
また、炭素ナノ構造体6には金属元素が含まれていない。一般的に、気相法では金属粒子を触媒として炭素ナノ構造体が形成されるが、炭素ナノ構造体6は、炭素繊維4の表面近傍のCの切断及び再結合によって形成したものであり、金属元素は含まれていない。即ち、金属元素を内包する炭素ナノ構造体と比較して、均質な特性を有している。
【0033】
また、炭素繊維4は、短繊維とすることが好ましく、ミルドファイバーとすることがより好ましい。ミルドファイバーは機械的な粉砕によって炭素繊維を短繊維化したものであり、表面近傍に欠陥や歪が導入されていることから、C=C結合の切断及び再結合による炭素ナノ構造体6の形成をより効率的に進行させることができ、表面により多くの炭素ナノ構造体6を形成させることができる。
【0034】
また、炭素ナノ構造体6を表面に有する炭素繊維4は、45~110GHzの周波数を有する電磁波を極めて効率的に吸収することができる。炭素ナノ構造体6を表面に有する炭素繊維4が45~110GHzの周波数を有する電磁波を極めて効率的に吸収することができる理由については必ずしも明らかにはなっていないが、グラフェン構造を有する炭素ナノ構造体6によって、45~110GHzの周波数を有する電磁波が極めて効率的に吸収されていると考えられる。グラフェン構造を有する炭素ナノ構造体6で炭素繊維4の全表面積の3%程度を被覆することで、45~110GHzの電磁波に対して-6dB前後の高い電磁波吸収性能を発現させることができる。
【0035】
(2)電磁波吸収樹脂成型体
本発明の電磁波吸収樹脂成型体は、本発明の電磁波吸収材料が樹脂基材中に存在していること、を特徴とするものである。
【0036】
図2に炭素材を炭素繊維(炭素短繊維)とする場合の本発明の電磁波吸収樹脂成型体の概略断面図を示す。電磁波吸収樹脂成型体10は、樹脂基材12に電波吸収材料2が分散したものである。
図2においては電波吸収材料2の炭素材が炭素繊維4であり、電波吸収材料2が樹脂基材12に均一に分散している。電波吸収材料2の体積分率は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、所望する電磁波吸収性能、機械的性質及び成形性等に応じて適宜調整すればよい。
【0037】
ここで、例えば、電波吸収材料2の炭素材が長繊維の場合は、任意の状態で樹脂基材12に配置すればよく、長繊維の織物を二次元的に配置することや三次元的に配置することが考えられ、一般的な長繊維強化樹脂成型体と同様の状態とすることができる。
【0038】
樹脂基材12は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、従来公知の種々の樹脂材料を用いることができる。樹脂基材12としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、ポリスチレン(PS)、シクロオレフィンポリマー(COP)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート共重合(ASA)、アクリロニトリル-エチレンプロピルラバー-スチレン共重合体(AES)等の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができ、又、添加剤を含有させてもよい。
【0039】
電磁波吸収樹脂成型体10は、炭素繊維強化熱可塑性樹脂であること、が好ましい。この場合、一般的な炭素繊維強化熱可塑性樹脂に本発明の電磁波吸収材料2を分散させてもよく、炭素繊維4を電磁波吸収材料2としてもよい。電磁波吸収樹脂成型体10を炭素繊維強化熱可塑性樹脂とすることで、軽量かつ高強度な電磁波吸収樹脂成型体とすることができる。
【0040】
また、電磁波吸収樹脂成型体10は、自動車用エンブレム又は自動車用バンパーであること、が好ましい。電磁波吸収樹脂成型体10は45~110GHzの周波数を有する電磁波を効率的に吸収することができ、最大81GHzの周波数を有するミリ波レーダーもノイズ源となる自動車用の電磁波吸収材料として好適に使用することができる。なお、将来的には100GHz帯の電磁波利用が想定されているところ、電磁波吸収材料2及び電磁波吸収樹脂成型体10は当該周波数帯の電磁波も効率的に吸収することができる。
【0041】
なお、電磁波吸収樹脂成型体10の製造方法は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、従来公知の種々の樹脂成型体の製造方法を用いることができる。この際、適当な方法で樹脂基材12に電磁波吸収材料2を分散させればよい。
【0042】
(3)電磁波吸収材料の製造方法
電磁波吸収材料2は、炭素繊維4に表面改質を施すことによって得ることができる。炭素繊維4の表面改質方法は、ガス雰囲気下で炭素繊維4にマイクロ波を照射して炭素繊維4をマイクロ波加熱し、マイクロ波によってガスの励起状態を誘導し、ガスの発光過程で発生する紫外線で炭素繊維4のC=C結合を切断すること、を特徴としている。以下、これらの各構成要件について詳しく説明する。
【0043】
炭素繊維4に表面改質を施す状況の一例を模式的に
図3に示す。マイクロ波発生装置20にガラス管22が挿入され、アルミナボート24に入れられた炭素繊維4がガラス管22の内部に配置されている。また、ガラス管22にはガス流入口30及びガス流出口32が設けられ、ガラス管22の内部はガス雰囲気となっている。
【0044】
(1-1)炭素繊維(炭素材料)
炭素繊維4は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の炭素繊維を用いることができる。なお、炭素繊維4は直径が1~20μmであり、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーとは全く異なるものである。
【0045】
炭素繊維4には、短繊維を用いることが好ましく、ミルドファイバーを用いることがより好ましい。ミルドファイバーは機械的な粉砕によって炭素繊維を短繊維化したものであり、表面近傍に欠陥や歪が導入されていることから、C=C結合の切断及び再結合による炭素ナノ構造体6の形成をより効率的に進行させることができる。
【0046】
(1-2)ガス雰囲気
炭素繊維4の表面改質は、炭素繊維4のマイクロ加熱のみでは達成されず、ガスプラズマを利用することが必要である。炭素繊維4がマイクロ波加熱さると同時にガラス管22の内部に存在するガスの発光過程で発生する紫外線によって、炭素繊維4の表面近傍のC=C結合が切断される結果、炭素繊維4の表面にグラフェン構造を有する炭素ナノ構造体6(カーボンナノチューブ、グラフェン及び酸化グラフェン等)が密に形成される。
【0047】
ガスの発光過程で発生する紫外線によって炭素繊維4の表面のC=C結合が切断される限りにおいて、ガラス管22に充填又は流通させるガスの種類は限定されないが、空気、アルゴン、ヘリウム、窒素及び二酸化炭素のうちの少なくとも一つを含むことが好ましい。これらのガスは1種で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。空気、アルゴン、ヘリウム、窒素及び二酸化炭素のいずれかにマイクロ波を照射することで、炭素繊維4表面近傍のC=C結合の切断に寄与する紫外線を効率的に発生させることができる。
【0048】
ガラス管22内部のガス圧力やガス流量は特に限定されず、所望する炭素繊維4の表面状態に応じて適宜調整すればよいが、ガラス管22内部の総圧を1000Pa未満とすることが好ましい。ガラス管22内部を1000Paとしてマイクロ波を照射することで、炭素繊維4表面近傍のC=C結合の切断に寄与する紫外線を効率的に発生させることができる。
【0049】
(1-3)マイクロ波照射条件
マイクロ波発生装置20によってマイクロ波を発生させ、炭素繊維4及びガラス管22内部のガスに照射する。ここで、マイクロ波とは、波長が100μm~1mの範囲内であり、周波数が30MHz~3THzの電磁波を意味する。マイクロ波発生装置20としては、例えば、汎用の電子レンジを用いることができる。
【0050】
炭素繊維4の表面改質に用いるマイクロ波の出力については特に限定されず、炭素繊維4の挿入量(処理量)、処理速度及び所望の表面状態等に応じて適宜調整すればよいが、例えば、10mgの炭素繊維4を処理する場合は10~1000Wとすることが好ましく、100~800Wとすることがより好ましい。
【0051】
マイクロ波の照射時間についても特に限定されず、炭素繊維4の挿入量(処理量)、処理速度及び所望の表面状態等に応じて適宜調整すればよいが、10秒~10分とすることが好ましく、1分~5分とすることがより好ましい。処理時間を10秒~10分の範囲で長くすると、炭素繊維4の表面に形成される炭素ナノ構造体6の生成量が増加して密度が高くなるが、処理時間を10分以上とすると炭素繊維4の損傷が大きくなることに加えて、生成した炭素ナノ構造体6も損傷してしまう場合がある。
【0052】
一般的に、気相法では金属粒子を触媒として炭素ナノ構造体が形成されるが、炭素ナノ構造体6は、炭素繊維のCの切断及び再結合によって形成したものであり、金属触媒を使用していないことから、炭素ナノ構造体6に金属元素は含まれていない。
【0053】
以下、実施例において本発明の電磁波吸収材料及び電磁波吸収樹脂成型体について更に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
≪実施例1≫
炭素材として炭素繊維から構成されるカーボンフェルト(有限会社 筑波物質情報研究所,e-4-1 carbon felt, A4 size, 2t)を用い、
図3に示す状態で表面処理を施した。具体的には、幅20mm×長さ80mm×厚さ2mmのカーボンフェルト表面に活性炭粉末50mgをふりかけたものを入れたアルミナボートをガラス管に挿入し、市販の電子レンジを用いて出力700Wでマイクロ波を照射させた。ここで、ガラス管の内部は約1Paのアルゴン置換雰囲気とし、マイクロ波の照射時間は5分とした。なお、マイクロ波の照射中は発光が認められた。
【0055】
表面処理後のカーボンフェルトのSEM写真を
図4に示す。カーボンフェルトの表面側を向いた炭素繊維の表面に、炭素ナノ構造体が形成している様子が確認できる。当該炭素ナノ構造体の形成は、カーボンフェルトの最表面から深さ100μm程度までに認められた。なお、当該炭素ナノ構造体を高倍率で観察したところ、複雑な襞状の構造物やシート状の構造物が確認でき、グラフェンシートが複数枚積層したカーボンナノウォールが密に生成しているものと考えられる。
【0056】
表面処理を施したカーボンフェルトの電磁波吸収特性を
図5に示す。参考として、未処理のカーボンフェルトの電磁波吸収特性も示している。
図4に示すように、炭素ナノ構造体が形成されている領域は限られているが、未処理のカーボンフェルトと比較すると電磁波吸収特性が飛躍的に向上している。具体的には、75~110GHzの周波数を有する電磁波に関して、-6dB(吸収割合換算で75%程度)もの高い電磁波吸収性能を有している。なお、炭素ナノ構造体は付与率に換算すると全表面積の3%程度である。電磁波吸収特性の測定は、株式会社マックシステムス゛社製のFree Space Microwave Measurement System(HVSFS)を使用し、自由空間法によって実施した。測定バンドは、バンドV-1(45.0~67.0GHz)、バンドV-2(67.0~75.0GHz)、バンドW(75.0~110.0GHz)において測定を実施した。
【符号の説明】
【0057】
2・・・電磁波吸収材料、
4・・・炭素繊維、
6・・・炭素ナノ構造体、
10・・・電磁波吸収樹脂成型体10、
12・・・樹脂基材、
20・・・マイクロ波発生装置、
22・・・ガラス管、
24・・・アルミナボート、
30・・・ガス流入口、
32・・・ガス流出口。