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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】水素貯蔵放出材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 6/00 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
C01B6/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021558284
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2020041443
(87)【国際公開番号】W WO2021100481
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2019207861
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年(2019年)度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、東工大元素戦略拠点(TIES)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛弘
(72)【発明者】
【氏名】石引 涼太
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大河
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 伸一
(72)【発明者】
【氏名】木下 喜裕
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/074518(WO,A1)
【文献】特開平8-301606(JP,A)
【文献】特開2009-195903(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0166336(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0083643(US,A1)
【文献】NISHINO, H. et al.,Formation and Characterization of Hydrogen Boride Sheets Derived from MgB2 by Cation Exchange,J. Am. Chem. Soc.,2017年09月19日,vol. 139, Issue 39,p. 13761-13769,https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.7b06153
【文献】近藤剛弘,水素とホウ素で構成される新しい二次元物質ボロファンの生成,JXTG Technical Review,日本,2018年09月,第60巻第2号,p. 9-13,https://eneos.co.jp/company/rd/technical_review/vol60.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 6/00
C01B 6/11
CAplus(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可逆的水素貯蔵放出用材料であって、
昇温脱離ガス分析と昇温前後の質量測定により算出されるホウ素と水素のモル比が1:0.999~1:0.001であるn(H)(n≧4、0.001≦x/y≦0.999)を含む二次元ネットワークを有する二次元ホウ化水素含有シートから構成され、
X線光電子分光分析において、ホウ素のB1sに由来する187.5±1.0eVおよび191.2±1.0eV~193±1.0eVにピークを示し、
赤外分光分析にて、2400cm-1~2600cm-1にB-H伸縮振動に由来するピークを有し、1200cm-1~1800cm-1にB-H-B伸縮振動に由来するピークを有し、
前記可逆的水素貯蔵放出用材料は、水素の貯蔵と放出を可逆的に行い、
前記可逆的水素貯蔵放出用材料は、120℃~450℃に加熱されることにより水素を放出し、
水素を放出した前記可逆的水素貯蔵放出用材料は、水に接することにより水素を貯蔵することを特徴とする可逆的水素貯蔵放出用材料。
【請求項2】
前記二次元ホウ化水素含有シートは、ホウ素原子が六角形の環状に配列し、前記ホウ素原子によって形成される六角形が連接してなる網目状の面構造をなし、かつ、前記六角形を形成する前記ホウ素原子に水素原子が特定の周期的な規則性を持たずかつ凝集することなく無作為に結合していることを特徴とする請求項1に記載の可逆的水素貯蔵放出用材料。
【請求項3】
前記二次元ホウ化水素含有シートは、少なくとも一方向の長さが100nm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の可逆的水素貯蔵放出用材料。
【請求項4】
MgB型構造の二ホウ化マグネシウムと、前記二ホウ化マグネシウムを構成するマグネシウムイオンとイオン交換可能なイオンを配位したイオン交換樹脂とを極性有機溶媒中で混合し、水素貯蔵放出材料前駆体を得る工程と、
前記水素貯蔵放出材料前駆体を120℃~450℃で加熱処理する工程と、を有することを特徴とする、請求項1~3に記載のいずれか一項の可逆的水素貯蔵放出用材料の製造方法。
【請求項5】
前記水素貯蔵放出材料前駆体は、昇温脱離ガス分析と昇温前後の質量測定により算出されるホウ素と水素のモル比が1:1である(HB)(n≧4)を含む二次元ネットワークを有し、X線光電子分光分析において、負に帯電したホウ素のB1sに由来する188eV±1.0eVにピークを示し、電子線エネルギー損失分光において、ホウ素のsp構造に由来する191eV±1.0eVにピークを示すスペクトルを有することを特徴とする請求項4に記載の可逆的水素貯蔵放出用材料の製造方法。
【請求項6】
前記水素貯蔵放出材料前駆体は、ホウ素原子が六角形の環状に配列し、前記ホウ素原子によって形成される六角形が連接してなる網目状をなし、前記ホウ素原子のうち隣接する2つが同一の水素原子と結合する部位を有する二次元ネットワークを含むことを特徴とする請求項4または5に記載の可逆的水素貯蔵放出用材料の製造方法。
【請求項7】
前記イオン交換樹脂は、スルホ基を有することを特徴とする請求項4~6のいずれか1項に記載の可逆的水素貯蔵放出用材料の製造方法。
【請求項8】
前記極性有機溶媒は、アセトニトリルであることを特徴とする請求項4~7のいずれか1項に記載の可逆的水素貯蔵放出用材料の製造方法。
【請求項9】
水素貯蔵放出材料を120℃~450℃に加熱して水素を放出し、水素を放出した水素貯蔵放出材料を水に接して水素を貯蔵する、可逆的水素貯蔵放出方法であって、
前記水素貯蔵放出材料は、昇温脱離ガス分析と昇温前後の質量測定により算出されるホウ素と水素のモル比が1:0.999~1:0.001であるn(H)(n≧4、0.001≦x/y≦0.999)を含む二次元ネットワークを有する二次元ホウ化水素含有シートから構成され、
X線光電子分光分析において、ホウ素のB1sに由来する187.5±1.0eVおよび191.2±1.0eV~193±1.0eVにピークを示し、
赤外分光分析にて、2400cm-1~2600cm-1にB-H伸縮振動に由来するピークを有し、1200cm-1~1800cm-1にB-H-B伸縮振動に由来するピークを有することを特徴とする可逆的水素貯蔵放出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素貯蔵放出材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水から水素や酸素を発生させる方法としては、水の電気分解(例えば、特許文献1参照)や、光触媒を用いる方法(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-67689号公報
【文献】特開平10-121266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の方法では、水の分解で生成する水素と酸素が同じタイミングで発生するため、水素が爆発する危険があった。そのため、特許文献1や特許文献2に記載の方法では、水素と酸素を別々のタイミングで且つ分離して回収する必要があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、水素と酸素を別々のタイミングで発生させることができ、すなわち水から水素を貯蔵し、また貯蔵した水素を酸素放出とは別のタイミングで放出することができる水素貯蔵放出材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]昇温脱離ガス分析と昇温前後の質量測定により算出されるホウ素と水素のモル比が1:0.999~1:0.001であるn(H)(n≧4、0.001≦x/y≦0.999)を含む二次元ネットワークを有する二次元ホウ化水素含有シートから構成され、X線光電子分光分析において、ホウ素のB1sに由来する187.5±1.0eVおよび191.2±1.0eV~193±1.0eVにピークを示し、赤外分光分析にて、2400cm-1~2600cm-1にB-H伸縮振動に由来するピークを有し、1200cm-1~1800cm-1にB-H-B伸縮振動に由来するピークを有する水素貯蔵放出材料。
[2]前記二次元ホウ化水素含有シートは、ホウ素原子が六角形の環状に配列し、前記ホウ素原子によって形成される六角形が連接してなる網目状の面構造をなし、かつ、前記六角形を形成する前記ホウ素原子に水素原子が特定の周期的な規則性を持たずかつ凝集することなく無作為に結合している[1]に記載の水素貯蔵放出材料。
[3]前記二次元ホウ化水素含有シートは、少なくとも一方向の長さが100nm以上である[1]または[2]に記載の水素貯蔵放出材料。
[4]MgB型構造の二ホウ化マグネシウムと、前記二ホウ化マグネシウムを構成するマグネシウムイオンとイオン交換可能なイオンを配位したイオン交換樹脂とを極性有機溶媒中で混合し、水素貯蔵放出材料前駆体を得る工程と、前記水素貯蔵放出材料前駆体を110℃~450℃で加熱処理する工程と、を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の水素貯蔵放出材料の製造方法。
[5]前記水素貯蔵放出材料前駆体は、昇温脱離ガス分析と昇温前後の質量測定により算出されるホウ素と水素のモル比が1:1である(HB)(n≧4)を含む二次元ネットワークを有し、X線光電子分光分析において、負に帯電したホウ素のB1sに由来する188±1.0eVにピークを示し、電子線エネルギー損失分光において、ホウ素のsp構造に由来する191±1.0eV近傍にピークを示すスペクトルを有する[4]に記載の水素貯蔵放出材料の製造方法。
[6]前記水素貯蔵放出材料前駆体は、ホウ素原子が六角形の環状に配列し、前記ホウ素原子によって形成される六角形が連接してなる網目状をなし、前記ホウ素原子のうち隣接する2つが同一の水素原子と結合する部位を有する二次元ネットワークを含む[4]または[5]に記載の水素貯蔵放出材料の製造方法。
[7]前記イオン交換樹脂は、スルホ基を有する[4]~[6]のいずれかに記載の水素貯蔵放出材料の製造方法。
[8]前記極性有機溶媒は、アセトニトリルである[4]~[7]のいずれかに記載の水素貯蔵放出材料の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、水の分解によって生じる水素と酸素を別々に発生させることができ、すなわち水から水素を貯蔵し、また貯蔵した水素を酸素放出とは別のタイミングで放出することができる水素貯蔵放出材料およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の水素貯蔵放出材料を構成する二次元ホウ素含有シートの分子構造を示す模式図であり、(a)がXY平面を示す図、(b)がYZ平面を示す図、(c)がZX平面を示す図である。
図2】本発明の水素貯蔵放出材料の製造方法に用いられる水素貯蔵放出材料前駆体の分子構造を示す模式図であり、(a)がXY平面を示す図、(b)がYZ平面を示す図、(c)がZX平面を示す図である。
図3】実験例1および実験例2における昇温脱離ガス分析の結果を示す図である。
図4】実験例3および実験例4におけるX線光電子分光分析の結果を示す図である。
図5】実験例5における赤外分光分析の結果を示す図である。
図6】実験例6における熱重量示唆熱分析の結果を示す図である。
図7】実験例7におけるガス分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の水素貯蔵放出材料およびその製造方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0010】
[水素貯蔵放出材料]
本実施形態の水素貯蔵放出材料は、ホウ素と水素のモル比が1:0.999~1:0.001であるn(H)(n≧4、0.001≦x/y≦0.999)を含む二次元ネットワークを有する二次元ホウ化水素含有シートから構成される。すなわち、本実施形態の水素貯蔵放出材料は、ホウ素原子(B)と水素原子(H)がモル比で1:0.999~1:0.001の割合で存在し、これら2つの原子を含む二次元ネットワークを有する二次元ホウ化水素含有シートから構成されるシート状の材料である。
【0011】
本実施形態の水素貯蔵放出材料において、ホウ素原子(B)と水素原子(H)の割合(モル比)は、後述する昇温脱離ガス分析と昇温前後の質量測定により算出される。
【0012】
また、本実施形態の水素貯蔵放出材料を構成する二次元ホウ化水素含有シートは、X線光電子分光分析において、ホウ素のB1sに由来する187.5±1.0eVおよび191.2±1.0eV~193±1.0eVにピークを示す。
【0013】
本実施形態の水素貯蔵放出材料において、X線光電子分光分析について、後述する。
【0014】
また、本実施形態の水素貯蔵放出材料を構成する二次元ホウ化水素含有シートは、赤外分光分析にて、2400cm-1~2600cm-1にB-H伸縮振動に由来するピークを有し、1200cm-1~1800cm-1にB-H-B伸縮振動に由来するピークを有する。
すなわち、本実施形態の水素貯蔵放出材料を構成する二次元ホウ化水素含有シートは、B-H結合のみならず、B-H-B結合を有する。
【0015】
本実施形態の水素貯蔵放出材料において、赤外分光分析について、後述する。
【0016】
本実施形態の水素貯蔵放出材料を構成する二次元ホウ化水素含有シートは、図1に示すように、ホウ素原子(B)が、ベンゼン環のような六角形の環状に配列するとともに、その六角形の頂点に存在しており、ホウ素原子(B)によって形成される六角形が連接して、網目状の面構造(二次元ネットワーク)をなしている。さらに、本実施形態における二次元ホウ化水素含有シートは、図1に示すように、六角形を形成するホウ素原子(B)に水素原子(H)が特定の周期的な規則性を持たずかつ凝集することなく無作為に結合している。このため図1のz方向に原子同士の結合が傾いていたりシート自体が曲がったりしている構造を形成したりしている。
本実施形態における二次元ホウ化水素含有シートにおいて、ホウ素原子(B)によって形成される六角形の網目状とは、例えば、ハニカム状のことを言う。
【0017】
本実施形態の水素貯蔵放出材料は、ホウ素原子(B)と水素原子(H)を含む二次元ネットワークを有する薄膜状の物質である。また、本実施形態の水素貯蔵放出材料は、後述する本実施形態の水素貯蔵放出材料の製造方法に用いられる二ホウ化マグネシウムに由来するマグネシウム、または、その他の金属原子をほとんど含まない。
本実施形態の水素貯蔵放出材料において、上記の二次元ホウ化水素含有シートの網目状の面構造を形成するホウ素原子(B)と水素原子(H)の総数は、1000個以上である。
【0018】
図1(a)に示す、隣り合う2つのホウ素原子(B)間の結合距離dは、0.155nm~0.190nmである。
【0019】
本実施形態の水素貯蔵放出材料の厚さは、0.2nm~10nmである。
本実施形態の水素貯蔵放出材料を構成する二次元ホウ化水素含有シートにおいて、少なくとも一方向の長さ(例えば、図1(a)においてX方向またはY方向の長さ)が100nm以上であることが好ましい。本実施形態の水素貯蔵放出材料において、二次元ホウ化水素含有シートの少なくとも一方向の長さが100nm以上であれば、本実施形態の水素貯蔵放出材料料は、水素貯蔵放出材料として有効に利用することができる。
本実施形態の水素貯蔵放出材料の大きさ(面積)は、特に限定されず、後述する本実施形態の水素貯蔵放出材料の製造方法によって、任意の大きさに形成することができる。
【0020】
本実施形態の水素貯蔵放出材料を構成する二次元ホウ化水素含有シートは、酸化物や窒化物や炭化物で終端されていてもよい。すなわち、本実施形態における水素貯蔵放出材料は、その分子構造の末端が酸化物や窒化物や炭化物を形成していてもよい。本実施形態における二次元ホウ化水素含有シートの分子構造の末端をなす酸化物や窒化物や炭化物としては、例えば、ホウ酸(B(OH))や酸化ホウ素(B)やヒドロキシ基(OH)や窒化ホウ素(BN)や炭化ホウ素(BC)が挙げられる。本実施形態の水素貯蔵放出材料を構成する二次元ホウ化水素含有シートは、酸化物や窒化物や炭化物で終端されることにより、より安定な分子構造を形成する。
【0021】
本実施形態の水素貯蔵放出材料を構成する二次元ホウ化水素含有シートは、六角形の環を形成するホウ素原子(B)間、および、ホウ素原子(B)と水素原子(H)の間の結合力が強い。そのため、本実施形態における二次元ホウ化水素含有シートは、製造時に複数積層されてなる結晶(凝集体)を形成したとしても、グラファイトと同様に結晶面に沿って容易に劈開し、単層の二次元シートとして分離(回収)することができる。
【0022】
本実施形態の水素貯蔵放出材料によれば、昇温脱離ガス分析と昇温前後の質量測定により算出されるホウ素と水素のモル比が1:0.999~1:0.001であるn(H)(n≧4、0.001≦x/y≦0.999)を含む二次元ネットワークを有する二次元ホウ化水素含有シートから構成され、X線光電子分光分析において、ホウ素のB1sに由来する187.5±1.0eVおよび191.2±1.0eV~193±1.0eVにピークを示し、赤外分光分析にて、2400cm-1~2600cm-1にB-H伸縮振動に由来するピークを有し、1200cm-1~1800cm-1にB-H-B伸縮振動に由来するピークを有するため、水素と酸素を同時に発生することがなく、水から水素を貯蔵し、また貯蔵した水素を放出することができる。また、本実施形態の水素貯蔵放出材料によれば、水素の貯蔵と放出を可逆的に行うことができる。本実施形態の水素貯蔵放出材料が水から水素を貯蔵すると、ほぼ酸素ガスのみが放出される。また、本実施形態の水素貯蔵放出材料が貯蔵した水素を放出する際には、ほぼ水素ガスのみが放出される。従って、本実施形態の水素貯蔵放出材料によれば、水素が爆発する危険が小さく、また、水素と酸素を分離する作業を必要としない。さらに、本実施形態の水素貯蔵放出材料によれば、水素を貯蔵または放出する際に、二酸化炭素が発生することがない。
【0023】
[水素貯蔵放出材料の製造方法]
本実施形態の水素貯蔵放出材料の製造方法は、MgB型構造の二ホウ化マグネシウムと、二ホウ化マグネシウムを構成するマグネシウムイオンとイオン交換可能なイオンを配位したイオン交換樹脂とを極性有機溶媒中で混合し、水素貯蔵放出材料前駆体を得る工程(以下、「第1の工程」と言う。)と、水素貯蔵放出材料前駆体を120℃~450℃で加熱処理する工程(以下、「第2の工程」と言う。)と、を有する方法である。
【0024】
本実施形態の水素貯蔵放出材料の製造方法では、MgB型構造の二ホウ化マグネシウムと、二ホウ化マグネシウムを構成するマグネシウムイオンとイオン交換可能なイオンを配位したイオン交換樹脂とを極性有機溶媒中で混合し、水素貯蔵放出材料前駆体を得る(第1の工程)。
【0025】
二ホウ化マグネシウムを構成するマグネシウムイオンとイオン交換可能なイオンを配位したイオン交換樹脂としては、特に限定されないが、例えば、二ホウ化マグネシウムを構成するマグネシウムイオンとイオン交換可能なイオンを配位した官能基(以下、「官能基α」と言う。)を有するスチレンの重合体、官能基αを有するジビニルベンゼンの重合体、官能基αを有するスチレンと官能基αを有するジビニルベンゼンの共重合体等が挙げられる。
官能基αとしては、例えば、スルホ基、カルボキシル基等が挙げられる。これらの中でも、極性有機溶媒中にて、容易に二ホウ化マグネシウムを構成するマグネシウムイオンとのイオン交換を行うことができることから、スルホ基が好ましい。
【0026】
極性有機溶媒としては、特に限定されず、例えば、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノール等が挙げられる。これらの中でも、酸素を含んでいない点からアセトニトリルが好ましい。
なお、二ホウ化マグネシウムは、極性有機溶媒中にて、容易にイオン交換樹脂とのイオン交換を行うことができる。
【0027】
第1の工程では、極性有機溶媒に二ホウ化マグネシウムとイオン交換樹脂を投入し、極性有機溶媒、二ホウ化マグネシウムおよびイオン交換樹脂を含む混合溶液を撹拌し、二ホウ化マグネシウムとイオン交換樹脂を充分に接触させる。これにより、二ホウ化マグネシウムを構成するマグネシウムイオンと、イオン交換樹脂の官能基αのイオンとがイオン交換して、ホウ素原子と、イオン交換樹脂の官能基αに由来する原子によって形成される二次元ネットワークを有するシート状の水素貯蔵放出材料前駆体が生成する。
【0028】
イオン交換樹脂としてスルホ基を有するイオン交換樹脂を用いれば、二ホウ化マグネシウムのマグネシウムイオン(Mg2+)と、イオン交換樹脂のスルホ基の水素イオン(H)とが置換して、上述のようなホウ素原子(B)と水素原子(H)を含む二次元ネットワークを有するシート状の水素貯蔵放出材料前駆体が生成する。
【0029】
第1の工程では、混合溶液に超音波等を加えることなく、二ホウ化マグネシウムを構成するマグネシウムイオンと、イオン交換樹脂の官能基αのイオンとがイオン交換する反応を、穏やかに進めることが好ましい。
【0030】
混合溶液を撹拌する際、混合溶液の温度は、15℃~35℃であることが好ましい。混合溶液を撹拌する時間は、特に限定されないが、例えば、700分~7000分とする。
【0031】
また、第1の工程は、窒素(N)やアルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる不活性雰囲気下で行う。
【0032】
次いで、撹拌が終了した混合溶液を濾過する。
混合溶液の濾過方法は、特に限定されず、例えば、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過等の方法が用いられる。また、濾材としては、例えば、セルロースを基材とする濾紙、メンブレンフィルター、セルロースやグラスファイバー等を圧縮成型した濾過板等が用いられる。なお、濾過をせずに上澄み液を抽出してもよい。
【0033】
濾過あるいは上澄み液の抽出により沈殿物と分離されて回収された生成物を含む溶液を、自然乾燥するか、または、加熱により乾燥することにより、最終的に生成物のみを得る。
この生成物は、ホウ素原子と、イオン交換樹脂の官能基αに由来する原子(水素:H)によって形成される二次元ネットワークを有するシート状の水素貯蔵放出材料前駆体である。
【0034】
本実施形態の水素貯蔵放出材料の製造方法によって得られた、生成物の分析方法としては、例えば、昇温脱離ガス分析、X線光電子分光分析法(X-ray Photoelectron Spectroscopy、XPS)、フーリエ変換赤外分光分析法(Fourier Transform Infrared Spectroscopy、FT-IR)等が挙げられる。
【0035】
昇温脱離ガス分析では、例えば、ESCO社製のTDS-1400TV装置内で試料を加熱し、付属の四重極質量分析器で生成ガス量の時間変化を分析する。水素放出量があらかじめ分かっている試料のシグナル強度を基にして検量線を構成しておくことで生成ガス量の定量、生成する温度等が得られる。
【0036】
X線光電子分光分析法(XPS)では、例えば、日本電子(JEOL)社製のX線光電子分光分析装置(商品名:JPS9010TR)を用いて、生成物の表面にX線を照射し、そのときに生じる光電子のエネルギーを測定することによって、生成物の構成元素とその電子状態を分析する。この分析において、原料の二ホウ化マグネシウムを構成するマグネシウムに起因する光電子のエネルギーがほとんど検出されず、ホウ素と上記のイオン交換樹脂の官能基αに由来する元素に起因する光電子のエネルギーのみが検出されれば、生成物はホウ素と上記のイオン交換樹脂の官能基αに由来する元素のみから構成されていると言える。官能基αに由来する元素が水素の場合はX線光電子分光では検出が困難であるため、他の分析で水素を確認する必要がある。X線光電子分光分析法による分析により、原料の二ホウ化マグネシウムを構成するマグネシウムに起因する光電子のエネルギーがほとんど検出されず、ホウ素に起因する光電子のエネルギーのみが検出されれば、生成物はホウ素から構成されていると言える。
【0037】
フーリエ変換赤外分光分析法(FT-IR)では、例えば、日本分光社製のFT/IR―300装置を用いて、ホウ素と水素の結合に関連する振動に由来する吸収強度や酸素官能基などの存在を分析する。
【0038】
本実施形態の水素貯蔵放出材料の製造方法の第1の工程で得られた、シート状の水素貯蔵放出材料前駆体は、ホウ素と水素のモル比が1:1である(HB)(n≧4)を含む二次元ネットワークを有するシート状の材料である。すなわち、シート状の水素貯蔵放出材料前駆体は、ホウ素原子(B)と水素原子(H)がモル比で1:1の割合で存在し、これら2つの原子を含む二次元ネットワークを有するシート状の材料である。
【0039】
シート状の水素貯蔵放出材料前駆体において、ホウ素原子(B)と水素原子(H)の割合(モル比)は、後述する昇温脱離ガス分析と昇温前後の質量測定により算出される。
【0040】
また、シート状の水素貯蔵放出材料前駆体は、X線光電子分光分析において、負に帯電したホウ素のB1sに由来する188±1.0eVにピークを示す。
【0041】
また、シート状の水素貯蔵放出材料前駆体は、電子線エネルギー損失分光において、ホウ素のsp構造に由来する191±1.0eVにピークを示すスペクトルを有する。
【0042】
シート状の水素貯蔵放出材料前駆体において、電子線エネルギー損失分光について、後述する。
【0043】
シート状の水素貯蔵放出材料前駆体は、図2に示すように、ホウ素原子(B)が、ベンゼン環のような六角形の環状に配列するとともに、その六角形の頂点に存在しており、ホウ素原子(B)によって形成される六角形が連接して、網目状の面構造(二次元ネットワーク)をなしている。さらに、シート状の水素貯蔵放出材料前駆体は、図2に示すように、ホウ素原子(B)のうち隣接する2つが同一の水素原子(H)と結合する部位を有する。シート状の水素貯蔵放出材料前駆体において、ホウ素原子(B)によって形成される六角形の網目状とは、例えば、ハニカム状のことを言う。さらに、六角形を形成するホウ素原子(B)に水素原子(H)が図2で示しているように特定の周期的な規則性を持っても良いが、持たなくても良く、かつ凝集することなく無作為に結合している。このため、図2のz方向に原子同士の結合が傾いていたり、シート自体が曲がったりしている構造を形成したりしている。
【0044】
シート状の水素貯蔵放出材料前駆体は、ホウ素原子(B)と水素原子(H)を含む二次元ネットワークを有する薄膜状の物質である。また、シート状の水素貯蔵放出材料前駆体は、水素貯蔵放出材料の製造方法に用いられる二ホウ化マグネシウムに由来するマグネシウム原子、または、その他の金属原子をほとんど含まない。
シート状の水素貯蔵放出材料前駆体において、上記の網目状の面構造を形成するホウ素原子(B)と水素原子(H)の総数は、1000個以上である。
【0045】
図2(a)に示す、隣り合う2つのホウ素原子(B)間の結合距離Dは、0.155nm~0.190nmである。また、図2(b)に示す、1つの水素原子(H)を介して、隣り合う2つのホウ素原子(B)間の結合距離Dは、0.155nm~0.190nmである。また、図2(b)に示す、隣り合うホウ素原子(B)と水素原子(H)間の結合距離Dは、0.12nm~0.15nmである。
【0046】
シート状の水素貯蔵放出材料前駆体の厚さは、0.20nm~10.00nmである。 シート状の水素貯蔵放出材料前駆体において、少なくとも一方向の長さ(例えば、図2(a)においてX方向またはY方向の長さ)が100nm以上であることが好ましい。シート状の水素貯蔵放出材料前駆体の大きさ(面積)は、特に限定されず、本実施形態の水素貯蔵放出材料の製造方法の第1の工程によって、任意の大きさに形成することができる。
【0047】
シート状の水素貯蔵放出材料前駆体は、酸化物や窒化物や炭化物で終端されていてもよい。すなわち、シート状の水素貯蔵放出材料前駆体は、その分子構造の末端が酸化物や窒化物や炭化物を形成していてもよい。シート状の水素貯蔵放出材料前駆体の分子構造の末端をなす酸化物や窒化物や炭化物としては、例えば、ホウ酸(B(OH))や酸化ホウ素(B)やヒドロキシ基(OH)や窒化ホウ素(BN)や炭化ホウ素(BC)が挙げられる。シート状の水素貯蔵放出材料前駆体は、酸化物や窒化物や炭化物で終端されることにより、より安定な分子構造を形成する。
【0048】
シート状の水素貯蔵放出材料前駆体は、六角形の環を形成するホウ素原子(B)間、および、ホウ素原子(B)と水素原子(H)の間の結合力が強い。そのため、シート状の水素貯蔵放出材料前駆体は、製造時に複数積層されてなる凝集体を形成したとしても、グラファイトと同様にシート面に沿って容易に劈開し、単層の二次元シートとして分離(回収)することができる。
【0049】
次いで、シート状の水素貯蔵放出材料前駆体を120℃~450℃で加熱処理し、本実施形態の水素貯蔵放出材料を得る(第2の工程)。
【0050】
第2の工程では、シート状の水素貯蔵放出材料前駆体を加熱処理する時間は、特に限定されないが、例えば、5分~1200分とする。
【0051】
また、第2の工程は、真空下、または、窒素(N)やアルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる不活性雰囲気下で行う。
【0052】
本実施形態の水素貯蔵放出材料の製造方法によれば、ホウ素原子と、イオン交換樹脂の官能基αに由来する原子(水素:H)を含む二次元ネットワークを有する二次元ホウ素化合物含有シートから構成される水素貯蔵放出材料を容易に生成することができる。
なお、原料のMgB型構造の二ホウ化マグネシウムの大きな結晶を用いることにより、より大面積のシート状の水素貯蔵放出材料前駆体を得ることができる。その結果として、より大面積のシート状の水素貯蔵放出材料を得ることができる。
【0053】
また、本実施形態の水素貯蔵放出材料の製造方法によれば、シート状の水素貯蔵放出材料前駆体を形成する第1の工程において、二ホウ化マグネシウムを構成するマグネシウムイオンと、イオン交換樹脂の官能基αのイオンとをイオン交換させるために酸性溶液を用いずに、極性有機溶媒を用いるため、極性有機溶媒、二ホウ化マグネシウムおよびイオン交換樹脂を含む混合溶液のpHの調整が不要である。
【実施例
【0054】
以下、実験例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0055】
[実験例1]
アセトニトリルに、二ホウ化マグネシウム(純度:99%、レアメタリック社製)500mgを加えるとともに、スルホ基を有するイオン交換樹脂(アンバーライト(登録商標)IR120B、オルガノ社製)を体積で30mL加えて、ガラス棒で撹拌し、二ホウ化マグネシウムとイオン交換樹脂の混合溶液を調製した。
この混合溶液を25℃にて72時間撹拌した後、この混合溶液を、孔径1.0μmのメンブレンフィルターで濾過し、濾液を回収した。その後、窒素雰囲気下、ホットプレートを用いて、90℃にて濾液を乾燥させて、生成物(水素貯蔵放出材料前駆体)を得た。得られた生成物について、昇温脱離ガス分析と昇温前後の質量測定を行い、ホウ素と水素のモル比を算出した。昇温脱離ガス分析には、ESCO社製のTDS-1400TV装置を用いた。昇温前後の質量測定には、アズワン社製の分析天秤ITX220装置を用いた。質量はバキューム型グローブボックス(UNICO社製バキューム型グローブボックスUN-800L-BG)内で測定した。昇温脱離ガス分析の結果を図3に示す。
【0056】
[実験例2]
実験例1の生成物(水素貯蔵放出材料前駆体)を350℃にて真空中で1時間加熱した生成物、および450℃にて真空中で加熱した生成物を得た。
得られた生成物について、実験例1と同様にして、ホウ素と水素のモル比を算出した。
【0057】
実験例1で得られた生成物(水素貯蔵放出材料前駆体)は、ホウ素(B)と水素(H)のモル比が1:1であることが分かった。具体的な算出方法は以下の通りである。水素放出量があらかじめ分かっている試料のシグナル強度を基にして検量線を構成しておき、図3で得られた信号強度を用いて水素の放出モル数を計算し、事前に測定しておいた試料質量からホウ素と水素のモル比を算出する。同様の方法により、実験例2で得られた生成物は、ホウ素(B)と水素(H)のモル比が350℃の加熱の場合は1:0.73、450℃の加熱の場合は1:0.57であることが分かった。
【0058】
[実験例3]
実験例1で得られた生成物(水素貯蔵放出材料前駆体)について、日本電子(JEOL)社製のX線光電子分光分析装置(商品名:JPS9010TR)を用いて、X線光電子分光分析を行った。X線光電子分光分析の結果を図4内の20℃という記載のある図として示す。
【0059】
[実験例4]
実験例1で得た生成物(水素貯蔵放出材料前駆体)を350℃にて真空中で1時間加熱して得た試料について、実験例3と同様にして、X線光電子分光分析を行った。X線光電子分光分析の結果を図4内の350℃という記載のある図として示す。
【0060】
図4に示すように、実験例3の生成物は、X線光電子分光分析において、ホウ素のB1sに由来する187eVにピークを示し、マグネシウムに由来するピークを示さないスペクトルを有することが確認された。この結果は、実験例3では、二ホウ化マグネシウム(MgB)のMg2+イオンとイオン交換樹脂のスルホ基の水素イオンがイオン交換したことを示唆している。実験例4ではこの試料から水素が一部抜けていることを示している。
【0061】
[実験例5]
実験例1と同様にして得た生成物(水素貯蔵放出材料前駆体)を真空中で30℃、50℃、100℃、120℃、200℃、250℃、300℃、350℃または400℃に加熱し、その状態のまま真空中で試料の赤外分光分析を行った。
赤外分光分析には、フーリエ変換赤外分光光度計(Fourier transform infrared spectrometer、FT-IR、商品名:Alpha、Bruker社製)を用いた。赤外分光分析の結果を図5に示す。
図5に示すように、どの場合も生成物は、赤外吸収スペクトルにおいて、2500cm-1付近にB-H伸縮振動に由来するピークを有し、1700cm-1付近および1200cm-1付近にB-H-B伸縮振動に由来するピークを有することが確認された。1200cm-1付近のB-H-B伸縮振動に由来するピークは250℃までは確認ができ300℃以上では極めて強度が少ないことがわかる。実験例1~実験例5の結果から、水素貯蔵放出材料前駆体を350℃に加熱して得られた実験例2の生成物は、昇温脱離ガス分析と昇温前後の質量測定により算出されるホウ素と水素のモル比が1:0.73であり、X線光電子分光分析において、ホウ素のB1sに由来する187eVおよび191eVにピークを示し、マグネシウムに由来するピークを示さないスペクトルを有し、赤外分光分析にて、2400cm-1~2600cm-1にB-H伸縮振動に由来するピークを有し、1200cm-1~1800cm-1にB-H-B伸縮振動に由来するピークを有すること分かった。従って、実験例2の生成物は、n(H)(n≧4、0.001≦x/y≦0.999)を含む二次元ネットワークを有する二次元ホウ化水素含有シートであることが確認された。
【0062】
[実験例6]
赤外線加熱炉水蒸気差動型示差熱天秤TG-DTA(商品名:TG-DTA/HUM-1、リガク社製)を用い、以下の手順で、実験例1で得られた生成物の水素貯蔵性能および水素放出性能を確認した。
まず、約10mgの試料(実験例1で得られた生成物)を秤量した。なお、この試料は吸湿性であるため、素早く採取して、厳密に10mg(目標値)を秤量するのではなく、白金容器に採取できた質量とした。
次いで、試料を収容した白金容器を赤外線加熱炉水蒸気差動型示差熱天秤TG-DTAに設置した。
白金容器が設置された装置内の雰囲気を、純度99.99%以上のアルゴンとし、水素貯蔵時のみ20体積%の水蒸気を導入した。
装置内雰囲気を昇温し、120℃にて30分保持し、試料に吸着した水分を脱離させ、試料の初期質量とした。その後昇温し、300℃にて30分保持し、水素を脱離させ、質量の減少を測定した。その後、降温し80℃とし10分保持した後に、20体積%の水蒸気を導入し60分保持し、水蒸気の導入を止めて更に10分間、80℃にて保持した。その後、120℃に昇温し10分間保持することで、吸着水を除いた試料の乾燥質量を測定した。改めて300℃に昇温し、30分間保持することで、乾燥質量からの減少分として、水素脱離量を測定した。
「300℃→80℃→水蒸気導入/停止→120℃」を1サイクルとし、このサイクルを10回繰り返した。
熱重量示唆熱分析の結果を図6に示す。
図6に示す結果から、300℃に加熱すると、試料の質量が減少することが確認された。試料の質量が減少するのは、300℃に加熱することで、試料が貯蔵していた水素を放出することに起因すると考えられる。一方、80℃にて水蒸気を導入することで、試料の質量が増加することが確認された。試料の質量が増加するのは、雰囲気中の水蒸気と接し、水分の吸着および水素を貯蔵することに起因すると考えられる。試料が、雰囲気中の水蒸気から水素を貯蔵することにより、酸素が生成する。また、図6に示すように、試料による水素の貯蔵、放出は、繰り返し実現することができる。
【0063】
ここでは、試料の乾燥後質量と試料の300℃保持後質量の差分を水素貯蔵量と定義して、下記の式(1)、式(2)に基づいて、初期の試料の水素貯蔵量A(0)(質量%)、再生n回目の試料の水素貯蔵量A(n)(質量%)を算出した。
(0)=(Wdry-W1(0))/Wdry×100 (1)
(n)=(W2(n)-W3(n))/Wdry×100 (2)
但し、上記の記の式(1)、式(2)において、Wdryは試料の乾燥後質量、W1(0)は水素放出(300℃保持)30分後の試料の質量、W2(n)は80℃にて水蒸気導入後に120℃にて10分間保持した乾燥後質量、W3(n)は水素放出(300℃保持)後の試料の質量である。
結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示す結果から、初期から再生2回目にかけては、水素貯蔵量が増加することが分かった。また、再生2回目から再生9回目にかけては、ばらつきがあるものの、ほぼ一定の水素貯蔵量であった。再生2回目から再生9回目にかけての水素貯蔵量の平均値は14.2質量%であった。
また、再生後の試料は、橙色を呈していた。このことより、再生後の試料は、水素を貯蔵している可能性が高いと考えられる。
【0066】
[実験例7]
ガスクロマトグラフ(商品名:TCDガスクロマトグラフGC-8A、島津製作所製)を用い、以下の手順でガス分析を行い、実験例1で得られた生成物の水素貯蔵性能を確認した。
カラムとしては、(商品名:モレキュラーシーブ5A、ジーエルサイエンス社製、並びに商品名:ポラパックQ、ウォーターズコーポレーション製)を用いた。このガスクロマトグラフを用いたガス分析では、カラム温度を120℃、インジェクションポートおよび検出器の温度を140℃とした。熱伝導度検出器(GC/TCD)における電流値を60mAとした。アルゴンキャリアガスの流量を30mL/minとした。
【0067】
まず、約100mgの試料(実験例1で得られた生成物)を秤量し、両端に封止バルブが設けられた筒状のステンレス製の反応容器に収容した。
試料を収容した反応容器を触媒反応装置内に設置し、両方の封止バルブを開けた状態で、アルゴン流通下(アルゴン流量25mL/min)、250℃にて2時間熱処理した後、温度を下げて、90℃にて両方の封止バルブを閉じた状態で30分間保持した。その後、上記のガスクロマトグラフにより、反応容器内のガス(水素)を定量分析した(工程1)。
次いで、両方の封止バルブを開けた状態で、アルゴン流通下(アルゴン流量25mL/min)、90℃にて30分間保持した。その後、両方の封止バルブを閉じた状態で、インジェクションポートから反応容器内に0.10mLの水を導入して、90℃にて1時間保持した。その後、上記のガスクロマトグラフにより、反応容器内のガス(酸素)を定量分析した(工程2)。「工程1→工程2」を第0サイクル目すなわち前処理とした。
次いで、両方の封止バルブを開けた状態で、アルゴン流通下(アルゴン流量25mL/min)、90℃にて30分間保持した。その後、両方の封止バルブを閉じた状態で250℃に昇温し、昇温後、250℃にて30分間保持した。その後、上記のガスクロマトグラフにより、反応容器内のガス(水素)を定量分析した(工程3)。
上記の「工程3→工程2」を1サイクルとして、10回繰り返し、第1サイクル目~第10サイクル目とした。第1~10サイクル目の工程3で測定された水素ガス量および工程2で測定された酸素ガス量を図7に示す。
【0068】
図7に示すように、各サイクルにおけるHとOのモル比が2:1に近くなっていることが確認され、水分子が水素と酸素に転換されていることが分かった。すなわち、実験例1で得られた生成物は、反応容器に導入した水に対して、水素の貯蔵と放出を繰り返していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の水素貯蔵放出材料は、水から水素と酸素を生成させる新しい手法として水素、酸素発生に利用可能であり、水素社会に向けた根幹の材料となる可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7