(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】衛生材料の表面材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 13/511 20060101AFI20241219BHJP
D04H 5/03 20120101ALI20241219BHJP
【FI】
A61F13/511 400
A61F13/511 300
D04H5/03
(21)【出願番号】P 2022533901
(86)(22)【出願日】2021-06-23
(86)【国際出願番号】 JP2021023703
(87)【国際公開番号】W WO2022004505
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2024-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2020114880
(32)【優先日】2020-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】523419521
【氏名又は名称】エム・エーライフマテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】松永 篤
(72)【発明者】
【氏名】森 章太朗
(72)【発明者】
【氏名】塚原 大治
(72)【発明者】
【氏名】市川 太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐座 規仁
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-040564(JP,A)
【文献】特開平02-088058(JP,A)
【文献】特開平10-251960(JP,A)
【文献】登録実用新案第3218416(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15-13/84
D04H5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コットン繊維で構成されてなるコットン繊維ウェブ
と、
プロピレン系重合体を含む長繊維で構成されてなる
スパンボンド法で得られた第一長繊維不織布、プロピレン系重合体を含み、その繊維径が該コットン繊維及び該長繊維の繊維径よりも細い極細繊維
よりなるメルトブローン法で得られた極細繊維不織布及びプロピレン系重合体を含む長繊維で構成されてなる
スパンボンド法で得られた第二長繊維不織布の順に積層され
、該第一長繊維不織布と該極細繊維不織布と該第二長繊維不織布とが熱圧接により融着されてなるSMS不織布とが、
積層された積層体に高圧水流を施して、該極細繊維不織布を破壊
し該極細繊維を切断する共に、該コットン繊維に該極細繊維を絡合させ
、
その後、乾燥工程を付加して、該高圧水流由来の水を蒸発させることを特徴とする、コットン繊維ウェブ側が肌に当接する衛生材料の表面材の製造方法。
【請求項2】
コットン繊維が未脱脂で漂白されたものである請求項1記載の衛生材料の表面材の製造方法。
【請求項3】
極細繊維不織布の目付が0.1g/m
2~7g/m
2である請求項1又は2記載の衛生材料の表面材の製造方法。
【請求項4】
積層体として、SMS不織布中の第二長繊維不織布側に、コットン繊維及び熱融着性短繊維で構成されてなる混合繊維ウェブを積層してなるものを採用し、乾燥工程で該熱融着性短繊維を軟化又は溶融させて、コットン繊維、極細繊維及び長繊維相互間を融着結合させる請求項1記載の衛生材料の表面材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理用ナプキンや使い捨ておむつ等の衛生材料の肌に当接する箇所に用いる表面材の製造方法に関し、特に、肌触りが良く耐摩耗性に優れた衛生材料の表面材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、衛生材料の表面材として、短繊維不織布又は長繊維不織布が採用されている。短繊維不織布は、肌触りの点で優れているが破断強度が低いという欠点があった。一方、長繊維不織布は、高破断強度であるが肌触りが悪いという欠点があった。このため、特許文献1には、長繊維不織布と特定の短繊維不織布とを接合した衛生材料の表面材が開示されている。そして、肌側に配置される特定の短繊維不織布として、高融点と低融点の少なくとも2種の熱可塑性樹脂成分を有する熱融着性複合短繊維相互間を低融点成分で融着したものが採用されている(特許文献1、請求項1)。また、長繊維不織布としても、高融点と低融点の少なくとも2種の熱可塑性樹脂成分を有する熱融着性複合長繊維相互間を低融点成分で融着したものが採用されている(特許文献1、請求項3)。
【0003】
しかしながら、熱可塑性樹脂成分よりなる短繊維で構成される短繊維不織布は、コットン繊維や絹繊維等の天然繊維で構成される短繊維不織布に比べると、肌触りが悪く、しかも肌がかぶれる恐れもあった。このため、短繊維不織布として、コットン繊維よりなる不織布を採用し、長繊維不織布中の長繊維とコットン繊維とを絡合させて一体化させた表面材が提案されている(特許文献2、請求項1)。
【0004】
【文献】特開平9-117470号公報
【文献】実用新案登録第3218416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、特許文献2記載の考案の改良発明であって、表面材の肌に当接する面の肌触りを低下させることなく、耐摩耗性を向上させることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、衛生材料の防漏材として用いられることが多いメルトブローン不織布(たとえば、特開2019-209121号公報)を表面材の素材として用いると共に、特定の製造方法を採用することにより、上記課題を解決したものである。すなわち、本発明は、コットン繊維で構成されてなるコットン繊維ウェブと、プロピレン系重合体を含む長繊維で構成されてなるスパンボンド法で得られた第一長繊維不織布、プロピレン系重合体を含み、その繊維径が該コットン繊維及び該長繊維の繊維径よりも細い極細繊維よりなるメルトブローン法で得られた極細繊維不織布及びプロピレン系重合体を含む長繊維で構成されてなるスパンボンド法で得られた第二長繊維不織布の順に積層され、該第一長繊維不織布と該極細繊維不織布と該第二長繊維不織布とが熱圧接により融着されてなるSMS不織布とが、積層された積層体に高圧水流を施して、該極細繊維不織布を破壊し該極細繊維を切断する共に、該コットン繊維に該極細繊維を絡合させ、その後、乾燥工程を付加して、該高圧水流由来の水を蒸発させることを特徴とする、コットン繊維ウェブ側が肌に当接する衛生材料の表面材の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る方法は、極細繊維不織布を含む積層体に高圧水流を施し、極細繊維不織布を破壊し、極細繊維の多くを流出させると共に、極細繊維の一部をコットン繊維相互間の交絡部に滞留せしめて絡合させるというものである。したがって、本発明に係る方法で得られた表面材は、コットン繊維相互間の結合が強固になっており、肌に接するコットン繊維ウェブ面の耐摩耗性が向上するという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】電子顕微鏡を用いて倍率300倍で、第一長繊維不織布/極細繊維不織布/第二長繊維不織布の積層物(以下、この積層物を「SMS不織布」ということもある。)の表面を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で用いるコットン繊維ウェブは、コットン繊維を主体として構成されてなる。コットン繊維の他に、絹繊維又はレーヨン繊維等の親水性繊維が混合されていてもよい。かかるコットン繊維ウェブは、公知のカード法でコットン繊維を開繊及び集積することにより、得ることができる。コットン繊維ウェブの目付は10~20g/m2程度である。コットン繊維としては、未脱脂のもの(未脱脂綿)を採用するのが好ましく、さらに未脱脂で漂白されたもの(未脱脂漂白綿)を採用するのが好ましい。未脱脂綿は、コットン繊維の表面に油脂分(原綿表面に付着しているコットンワックス及び綿実油等)が残存しているため、体液が表面材の面方向に拡散しにくい。したがって、使用時に肌に対してベタツキが生じにくいので好ましい。さらに、未脱脂漂白綿は白色に漂白されており、衛生材料に清潔感を与えるので好ましい。なお、本明細書中で、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味している。
【0010】
本発明で用いる第一長繊維不織布及び第二長繊維不織布を構成している長繊維は、ポリプロピレン系重合体を含む。本発明の表面材は、第一長繊維不織布及び第二長繊維不織布由来の領域を含むため、引張強度により優れる傾向がある。長繊維不織布における長繊維の含有率は、表面材の引張強度をより向上させる観点から、本数を基準として、50%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また、長繊維におけるプロピレン系重合体の含有率は、紡糸性の観点から、90質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましい。なお、本明細書中で、段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0011】
ポリプロピレン系重合体としては、プロピレン単独重合体、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体又はプロピレン・α-オレフィンブロック共重合体等が用いられる。ここで、α-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン等のプロピレン以外のα-オレフィンが用いられる。なお、α-オレフィンを共重合する場合、その共重合量は、1~10モル%が好ましい。繊維は、これらの重合体の1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいても良い。なお、プロピレン系重合体は、プロピレンに由来する構成単位を50質量%以上含む重合体を意味する。
【0012】
長繊維が含むプロピレン系重合体のメルトフローレイト(MFR、ASTM D1238、230℃、荷重2160g)は、溶融紡糸可能であれば特に制限されない。例えば、MFRは、1g/10分~1000g/10分であってもよく、5g/10分~500g/10分であることが好ましく、10g/10分~100g/10分であることがより好ましい。プロピレン系重合体のMFRが上記範囲内であると、引張強度が向上する傾向にあり好ましい
【0013】
長繊維の平均繊維径は、本発明の効果を奏する限り特に制限されないが、耐摩耗性と引張強度をより向上させる観点から、10μm~50μmが好ましく、11μm~30μmがより好ましい。長繊維の平均繊維径は、実施例の項目中で後述するように、長繊維不織布を撮影した写真に基づいて算出されるものである。この撮影した写真は、長繊維不織布を単独で撮影した写真でもよく、極細繊維不織布と長繊維不織布の積層物を撮影した写真でもよく、表面材を撮影した写真であってもよい。なお、
図1は、SMS不織布の表面を撮影した写真である。
【0014】
長繊維は、単一の成分からなる長繊維であってもよく、芯鞘型や海島型などの複合長繊維であってもよい。表面材の強度をより向上させる観点から、単一の成分からなる長繊維であるのが好ましい。
【0015】
本発明で用いる第一長繊維不織布及び第二長繊維不織布は、いわゆるスパンボンド法により製造するのが一般的である。また、第一長繊維不織布及び第二長繊維不織布は、熱エンボス加工により部分的に熱圧接が施され、形態安定性がより向上されていることが好ましい。
【0016】
第一長繊維不織布及び第二長繊維不織布のそれぞれの目付は、引張強度をより向上させつつ後述する高圧水流により交絡処理を施しやすくする観点から、1~30g/m2が好ましく、3~10g/m2がより好ましい。
【0017】
第一長繊維不織布及び第二長繊維不織布に挟まれている極細繊維不織布は、プロピレン系重合体を含み平均繊維径が0.5~7μmの極細繊維を含む。極細繊維の平均繊維径は、実施例の項目中で後述するように、極細繊維不織布を撮影した写真に基づいて算出されるものである。この撮影した写真は、極細繊維不織布を単独で撮影した写真でもよく、極細繊維不織布と長繊維不織布の積層物を撮影した写真でもよく、表面材を撮影した写真であってもよい。そして、繊維径が8μm以下のものを選択して算出される。したがって、極細繊維は、その繊維径が8μm以下のものである。
【0018】
極細繊維が含むプロピレン系重合体を構成する単量体及びその量は、前述の長繊維に含まれるプロピレン系重合体と同様である。極細繊維不織布における極細繊維の含有率は、耐摩耗性をより向上させる観点から、本数を基準として、50%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。また、極細繊維中のプロピレン系重合体の含有率は、紡糸性の観点から、90質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましい。
【0019】
極細繊維が含むプロピレン系重合体のメルトフローレイト(MFR、ASTM D1238、230℃、荷重2160g)は、溶融紡糸可能であれば特に制限されない。例えば、MFRは、1g/10分~2000g/10分であってもよく、100g/10分~1500g/10分であることが好ましく、200g/10分~1000g/10分であることがより好ましい。プロピレン系重合体のMFRが上記範囲内であると、極細繊維の強度が向上する傾向にあり、好ましい。また、プロピレン系重合体のMFRが上記範囲内であると、平均繊維径を所定範囲に調整しやすくなり、水流交絡による繊維同士の交絡がより適切に形成できる傾向にあるため、好ましい。なお、極細繊維の平均繊維径は、高圧水流による交絡処理をより施しやすくする観点から、1μm~5μmであるのが好ましい。
【0020】
極細繊維不織布の目付は、高圧水流による交絡処理をより施しやすくして、耐摩耗性をより向上させる観点及び取り扱い性をより容易にする観点から、0.1g/m2~7g/m2が好ましく、0.3g/m2~5g/m2がより好ましい。
【0021】
本発明で用いる第一長繊維不織布、極細繊維不織布及び第二長繊維不織布は、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、スリップ剤、防曇剤,滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、脂肪酸アミド等の種々公知の添加剤を含んでいてもよい。各不織布中におけるこれらの添加剤の含有率は、0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましく、0.01質量%以下が更に好ましい。
【0022】
第一長繊維不織布、極細繊維不織布及び第二長繊維不織布は、各々を別個に製造した後に、積層して得ることもできるが、一般的に、以下の方法で得るのが好ましい。すなわち、いわゆるスパンボンド法によって得られた第一長繊維ウェブ上に、いわゆるメルトブローン法で得られた極細繊維ウェブを積層し、さらに極細繊維ウェブ上にいわゆるスパンボンド法で得られた第二長繊維ウェブを積層する。その後、熱エンボス加工により部分的に熱圧接して各ウェブ中の繊維相互間を融着し、第一長繊維不織布、極細繊維不織布及び第二長繊維不織布の順に積層されたSMS不織布を得る方法が好ましい。
【0023】
コットン繊維ウェブ、第一長繊維不織布、極細繊維不織布及び第二長繊維不織布の順に積層して積層体を得る。この場合、コットン繊維ウェブにSMS不織布を積層して積層体を得るのが好ましい。極細繊維不織布単独で取り扱うよりも、高強度のSMS不織布として取り扱う方が、取り扱いやすいからである。そして、この積層体に高圧水流を施す。高圧水流はコットン繊維ウェブ側から施してもよいし、第二長繊維不織布側から施してもよいし、両側から施してもよい。高圧水流の作用により、コットン繊維及び長繊維は交絡するが、極細繊維不織布は破壊されて極細繊維が切断され或いは高圧水流と共に流出する。しかしながら、一部の極細繊維はコットン繊維相互間の交絡部や長繊維相互間の交絡部に滞留し絡合する。すなわち、コットン繊維相互間の交絡部に絡合して、コットン繊維相互間の結合がより強固になるのである。この作用により、コットン繊維ウェブ側、すなわち、表面材の肌に当接する面の耐摩耗性が向上するのである。また、極細繊維不織布が破壊されていることにより、もはや防水機能はなく、体液を適当に通過させうる体液透過性を持つ表面材となるのである。
【0024】
第二長繊維不織布側には、他の任意の繊維ウェブが積層されていてもよい。たとえば、コットン繊維及び熱融着性短繊維で構成されてなる混合繊維ウェブが積層されていてもよい。混合繊維ウェブの目付は10~20g/m2程度であり、混合繊維ウェブ中におけるコットン繊維と熱融着性短繊維の混合割合は、コットン繊維:熱融着性短繊維=100:50~150(質量比)であるのが好ましい。コットン繊維としては、上述した未脱脂綿や未脱脂漂白綿を採用するのが好ましい。熱融着性短繊維としては、融点を持つ熱可塑性樹脂で形成されてなるものが採用される。たとえば、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維又はポリアミド繊維等が用いられる。本発明においては、同心芯鞘型複合短繊維であって、鞘成分の融点が芯成分の融点よりも低いものである熱融着性短繊維を用いるのが好ましい。かかる芯鞘型複合短繊維の鞘成分のみを軟化又は溶融せしめることにより、各繊維相互間が融着結合されるのである。鞘成分のみが軟化又は溶融する際に、複合短繊維が収縮しにくいように、同心芯鞘型にしておくのが好ましい。熱融着性短繊維が収縮すると、得られる表面材にシワ等が発生しやすくなる。具体的には、芯成分がポリプロピレンで鞘成分がポリエチレンである同心芯鞘型複合短繊維や、芯成分がポリエステルで鞘成分がポリエチレンである同心芯鞘型複合短繊維が用いられる。熱融着性短繊維の繊度及び繊維長は任意であるが、一般的に、繊度は1~5デシテックス程度で繊維長は10~100mm程度である。
【0025】
高圧水流を施すことにより水を含有することになるので、乾燥させて水を蒸発する。これにより、衛生材料の表面材を得ることができる。積層体に熱融着性短繊維が含有されている場合には、この乾燥を行う工程で又は乾燥を行った後に、熱融着性短繊維を軟化又は溶融させて、各繊維相互間を融着結合するのが好ましい。たとえば、熱融着性短繊維として、芯成分がポリプロピレンで鞘成分がポリエチレンである同心芯鞘型複合短繊維を用いた場合、乾燥温度を130℃程度とすれば、水が蒸発すると共にポリエチレンが軟化又は溶融し、各繊維相互間が融着結合し、形態安定性に優れた表面材を得ることができる。
【0026】
得られた表面材は、コットン繊維で構成されてなるコットン繊維ウェブ領域とプロピレン系重合体を含む長繊維を含む領域とを含み、該コットン繊維及び該長繊維の繊維径よりも細い繊維径の極細繊維が、該コットン繊維及び該長繊維と交絡している衛生材料の表面材である。ここで、コットン繊維ウェブ領域と長繊維を含む領域とは明確に区別しうるものではなく、各領域の繊維は他の領域に侵入しているものである。すなわち、相対的にコットン繊維の多い領域がコットン繊維ウェブ領域となり、相対的に長繊維を多く含む領域が長繊維を含む領域となる。各領域における各繊維の多少は、衛生材料の表面材を厚み方向に切断し、その断面を顕微鏡で観察して、各繊維の本数を数えればよい。
【0027】
表面材の厚みは、0.50mm以下であるのが好ましい。厚みを0.50mm以下にすると、肌に当接するコットン繊維と極細繊維の交絡がより向上して、耐摩耗性がより向上する傾向がある。このような厚みの衛生材料の表面材は、例えば、本発明の製造方法で製造することができる。厚みは、強度をより向上させる観点から、0.25mm以上であるのが好ましい。衛生材料の表面材の目付は、25g/m2~50g/m2であるのが好ましい。目付が25g/m2以上であると、強度がより向上する傾向にある。一方、目付が50g/m2以下であると、コットン繊維ウェブ領域中のコットン繊維と極細繊維との交絡が多くなり、耐摩耗性が向上する傾向が生じる。
【0028】
衛生材料の表面材の引張強度は、機械方向の引張強度が15N/50mm幅~100N/50mm幅であるのが好ましく、25N/50mm幅~90N/50mm幅であるのがより好ましく、30N/50mm幅~85N/50mm幅であるのがさらに好ましい。また、機械方向と直交する方向(幅方向)の引張強度が10N/50mm幅~50N/50mm幅であるのが好ましい。引張強度が下限値未満であると、衛生材料製造時の取扱性が低下する傾向が生じる。また、引張強度が上限値を超えると、過剰品質の表面材となり、非合理的である。ここで、機械方向とは、不織布を製造する際の搬送方向のことをいう。すなわち、不織布中の長繊維が配列する方向のことである。したがって、長繊維の配列方向である機械方向の引張強度は高く、幅方向の引張強度は低い。
【0029】
以上のようにして得られた表面材は、生理用ナプキン、使い捨ておむつ及びフェイスマスク等の衛生材料の表面材として使用される。そして、コットン繊維ウェブ側が肌に当接するようにして使用されるので、肌触りが良好なのである。
【実施例】
【0030】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。なお、本明細書で使用される下記の物性及び特性は、以下の測定方法によって測定されたものである。
【0031】
(1)目付(g/m2)
表面材又は不織布から、機械方向100mm×幅方向100mmの試料を10点採取した。そして、各試料の質量を測定し、合計の質量を合計の面積で除して目付(g/m2)を算出した。
(2)厚み(mm)
目付を測定した試料の中央及び四隅の5点の厚みを、厚み計(PEACOCK社製、品番「R1-250」、測定端子25mmφ)を用いて、荷重7g/m2で測定した。目付を測定した試料の10点の試料につき、この方法で厚みを測定し、その平均値を厚み(mm)とした。
【0032】
(3)機械方向の引張強度(N/50mm幅)
表面材から、機械方向200mm×幅方向50mmの試料を5点採取した。そして、JIS L 1913に準拠し、引張試験機(島津製作所社製、オートグラフAGS-J)を用いて、チャック間距離100mm及びヘッドスピード300mm/minの条件で、各試料につき破断強度を測定した。5点の試料の破断強度の平均値を、機械方向の引張強度(N/50mm幅)とした。
(4)幅方向の引張強度(N/50mm幅)
表面材から、機械方向50mm×幅方向200mmの試料を5点採取した。そして、上記(3)と同様の方法で、各試料につき破断強度を測定した。5点の試料の破断強度の平均値を、幅方向の引張強度(N/50mm幅)とした。
【0033】
(5)耐摩耗性(回)
表面材から、無作為の方向で長さ293mm×巾165mmの試料を50点採取した。この試料6点をJIS L 0849に準拠し、学振型摩擦堅牢度試験機(大栄科学精器製作所社製、型式「RT-300」)に、コットン繊維ウェブ面が摩擦端子側となるようにセットして、耐摩耗性を測定した。試料をセットする際には、試料の下に予めウレタンマットを敷き、シワが入らないように学振型摩擦堅牢度試験機備え付けの固定具に試料を固定した。また、摩擦端子表面を布粘着テープで覆い、摩擦端子に荷重300gを掛けて、布粘着テープと試料が当接するようにした。そして、摩擦端子を30回/minの往復速度で摺動し、試料6点の全てに破れが目視できたときの往復回数を測定した。この測定を5回行い、これらの平均値を耐摩耗性(回)とした。なお、往復回数が500回を超えても、試料6点の全てに破れが目視できなかったときは測定を中止し、往復回数500回とした。したがって、耐摩耗性(回)の値は、500回が最大値となる。
【0034】
(6)長繊維の平均繊維径
長繊維不織布表面の電子顕微鏡写真に基づいて測定する。具体的には、SMS不織布を用いて長繊維の平均繊維径を測定する方法を説明する。SMS不織布の表面を、電子顕微鏡(日立製作所社製、型番;S-3500N)を用いて、倍率300倍の写真を撮影する。撮影された写真において、極細繊維より表面側に位置する繊維径が9μm以上の繊維の本数が合計で50本(n=50)以上になるまで撮影を繰り返す。得られた写真のうち、極細繊維の表面側に位置する繊維径が9μm以上の繊維の全ての繊維の直径(幅)を測定し、その算術平均値を、表面側の長繊維不織布における長繊維の平均繊維径とする。裏面側も同様にして測定する。
(7)極細繊維の平均繊維径
極細繊維不織布表面の電子顕微鏡写真に基づいて測定する。具体的には、SMS不織布を用いて極細繊維の平均繊維径を測定する方法を説明する。SMS不織布の表面を、電子顕微鏡(日立製作所社製、型番;S-3500N)を用いて、倍率2000倍の写真を撮影する。撮影された写真において、繊維径が8μm以下の繊維の本数が合計で50本(n=50)以上になるまで撮影を繰り返す。得られた写真のうち、繊維径が8μm以下の繊維の全ての繊維の直径(幅)を測定し、その算術平均値を、極細繊維不織布における極細繊維の平均繊維径とする。
なお、上記(6)及び(7)において、繊維の直径(幅)の測定は、写真の中で繊維の幅が最も小さい位置で測定すればよい。また、繊維同士が融着している場合には、融着していない部分で測定すればよく、融着していない部分が存在しない場合には本数から除外すればよい。
【0035】
実施例1
[コットン繊維ウェブの準備]
平均繊維長25mmの未脱脂漂白綿を、パラレルカード機で開繊及び集積し、目付20g/m2のコットン繊維ウェブを得た。
【0036】
[SMS不織布の準備]
融点162℃でMFR60g/10分(MFRは、ASTMD1238に準拠し温度230℃荷重2.16kgで測定した。以下、MFRの測定法は同一である。)のプロピレン単独重合体を用い、溶融温度230℃で0.6mmφの紡糸孔を多数備えた紡糸口金を用いて常法のスパンボンド法により溶融紡糸を行って、長繊維を捕集面に集積し、第一長繊維ウェブを得た。第一長繊維ウェブ中の長繊維の平均繊維径は12.8μmであり、第一長繊維ウェブの目付は5.75g/m2であった。
次いで、融点160℃でMFR400g/10分のプロピレン単独重合体を用い、溶融温度280℃で溶融した溶融物を、0.4mmφの吐出孔を多数備えたダイから吐出するとともに、吐出孔出口において280℃の加熱空気を吹き付ける常法のメルトブローン法により極細繊維を、上記第一長繊維ウェブ上に集積し、極細繊維ウェブを得た。極細繊維ウェブ中の極細繊維の平均繊維径は1.4μmであり、極細繊維ウェブの目付は1.5g/m2であった。
上記第一長繊維ウェブを得た方法と同様にして、極細繊維ウェブ上に長繊維を集積し、第二長繊維ウェブを得た。第二長繊維ウェブ中の長繊維の平均繊維径は12.8μmであり、第二長繊維ウェブの目付は5.75g/m2であった。
第一長繊維ウェブ、極細繊維ウェブ及び第二長繊維ウェブの順に積層されたウェブに、全圧接面積が18%となるように、熱エンボスロールにてエンボスロールの温度145℃でミラーロールの温度150℃で、部分的に熱圧接し、3層を一体化して、第一長繊維不織布、極細繊維不織布及び第二長繊維不織布の順に積層されたSMS不織布を得た。なお、SMS不織布の目付は13g/m2であった。
【0037】
上記で準備したコットン繊維ウェブ及びSMS不織布を積層した積層体を、高圧水流噴出装置(孔径0.1mmの噴出孔が孔間隔0.6mmで横一列に配置されてなる装置)に通し、コットン繊維ウェブ側から3MPaの噴出圧力で高圧水流を施し、次いで6MPaの噴出圧力で高圧水流を施した。この後、第二長繊維不織布側から6MPaの噴射圧力で高圧水流を施した後、120℃で乾燥して表面材を得た。
【0038】
実施例2
[コットン繊維ウェブ及びSMS不織布の準備]
実施例1で用いたのと同一のコットン繊維ウェブ及びSMS不織布を得た。
【0039】
[混合繊維ウェブの準備]
熱融着性短繊維として、鞘成分が融点130℃のポリエチレンで、芯成分が融点260℃のポリエチレンテレフタレートである同心芯鞘型複合短繊維(ユニチカ株式会社製、繊度2.2デシテックス、繊維長51mm)を用いた。そして、平均繊維長25mmの未脱脂漂白綿50質量%とこの熱融着性短繊維50質量%とを均一に混合し、ランダムカード機で開繊及び集積し、目付17g/m2の混合繊維ウェブを得た。
【0040】
上記で準備したコットン繊維ウェブ、SMS不織布及び混合繊維ウェブの順に積層した積層体を、実施例1で用いた高圧水流噴出装置に通し、コットン繊維ウェブ側から3MPaの噴出圧力で高圧水流を施し、次いで6MPaの噴出圧力で高圧水流を施した。この後、混合繊維ウェブ側から6MPaの噴射圧力で高圧水流を施した後、乾燥して表面材を得た。なお、乾燥温度を135℃としたところ、同心芯鞘型複合短繊維のポリエチレンのみが軟化又は溶融し、各繊維相互間が融着結合した表面材を得た。
【0041】
実施例3
実施例1で用いたSMS不織布において、第一長繊維ウェブ及び第二長繊維ウェブの目付を6.25g/m2に変更するとともに、極細繊維ウェブの目付を0.5g/m2に変更した他は、実施例1と同様にして表面材を得た。なお、目付の変更は、捕集面の移動速度と極細繊維の吐出量を調整することで行った。
【0042】
比較例1
SMS不織布を用いずに、目付35g/m2のコットン繊維ウェブのみを用いて、実施例1と同一の条件で高圧水流を施して、目付35g/m2の表面材を得た。
【0043】
比較例2
SMS不織布に代えて、以下の方法で得られた長繊維ウェブを用いたことの他は、実施例1と同様にして、目付33g/m2の表面材を得た。
[長繊維ウェブの製造]
融点162℃でMFR60g/10分のプロピレン単独重合体を用い、溶融温度230℃で0.6mmΦの紡糸孔を多数備えた紡糸口金を用いて常法のスパンボンド法により溶融紡糸を行って、長繊維を捕集面に集積し、長繊維ウェブを得た。長繊維ウェブ中の長繊維の平均繊維径は33.5μmであり、長繊維ウェブの目付は13.0g/m2であった。
【0044】
実施例1~3、比較例1及び比較例2で得られた表面材のそれぞれについて、上述した方法で、その目付、厚み、機械方向の引張強度、幅方向の引張強度及び耐摩耗性を評価した。その結果を、表1に示した。表1の結果から、実施例で得られた表面材の肌に当接する面は、耐摩耗性に優れていることが分かる。
【0045】
[表1]
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実施例1 実施例2 実施例3 比較例1 比較例2
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目付 33 47 33 35 33
(g/m2)
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厚み 0.33 0.43 0.34 0.32 0.34
(mm)
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引張強度
(N/50mm幅)
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機械方向 38 73 36 30 37
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幅方向 17 26 15 12 16
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耐摩耗性 500 500 500 200 150
(回)
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