(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂成形品の製造装置、及び製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/54 20060101AFI20241219BHJP
B29C 43/52 20060101ALI20241219BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20241219BHJP
B29K 101/12 20060101ALN20241219BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20241219BHJP
【FI】
B29C70/54
B29C43/52
B29C70/42
B29K101:12
B29K105:08
(21)【出願番号】P 2023200671
(22)【出願日】2023-11-28
【審査請求日】2023-11-28
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514154503
【氏名又は名称】株式会社The MOT Company
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】▲済▼藤 友明
(72)【発明者】
【氏名】首藤 祥史
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-160393(JP,A)
【文献】特開2017-154409(JP,A)
【文献】韓国公開実用新案第20-2009-0000243(KR,U)
【文献】国際公開第2022/044258(WO,A1)
【文献】特開2021-102274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
B29C 43/00-43/58
B29C 33/00-33/76
B29K 101/12
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面と、3以上の複数の平面からなる側面とから構成され
、プリプレグから箱形状を有する繊維強化樹脂成形品を製造する
プレス製造装置であって、
凸部を有する下金型と、
凹部を有する上金型とを備え、
前記凸部は、前記繊維強化樹脂成形品の前記底面と隣接する2つの前記平面とが形成する角部に対応する凸角部を加熱する第一加熱手段を有し、
前記凹部は、前記繊維強化樹脂成形品の前記底面と隣接する2つの前記平面とが形成する角部に対応する凹角部を加熱する第二加熱手段を有し、
前記第一加熱手段及び前記第二加熱手段の少なくとも一方は、
前記凸角部に接続する底面又は前記凹角部に接続する底面に平行な直線状のカートリッジヒータと、前記凸角部に接続する底面又は前記凹角部に接続する底面に垂直な直線状のカートリッジヒータとを備えるプレス製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の
プレス製造装置によって、繊維強化樹脂成形品を製造する方法であって、
前記第一加熱手段により、前記繊維強化樹脂成形品の前記底面と隣接する2つの前記平面とが形成する角部に対応する凸角部を加熱する工程と、
前記第二加熱手段により、前記繊維強化樹脂成形品の前記底面と隣接する2つの前記平面とが形成する角部に対応する凹角部を加熱する工程と、
繊維強化樹脂プリプレグを前記下金型に配置する工程と、
前記上金型と前記下金型とで前記繊維強化樹脂成形品の材料であるプリプレグを挟み、プレスする工程と、
前記上金型と前記下金型とを離し、前記繊維強化樹脂成形品を取り出す工程とを含む、製造方法。
【請求項3】
前記第一加熱手段により加熱された凸角部の温度及び前記第二加熱手段により加熱された凹角部の温度は、凸角部及び凹角部以外の金型温度よりも高い、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記繊維強化樹脂成形品は、熱可塑性樹脂を含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
プレス成形時において、前記底面の重心に対応する凸部頂面重心部の温度に対して、前記凸角部の温度が、30℃以上高い、請求項2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグをプレス加工することにより、熱可塑性繊維強化樹脂成形品を製造する製造装置、及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題から、自動車業界や航空業界等において燃費向上への取り組みが進められている。その中で、車体や機体の軽量化のため、金属から繊維強化樹脂への代替が期待されていて、注目が大きくなっている。
繊維強化樹脂に用いられる樹脂は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂であり、繊維強化樹脂は、これら樹脂で繊維を強化したものである。繊維強化樹脂は、加熱により成形や賦型が可能で、高い生産性を有し、溶着等の二次加工が容易であり、電気絶縁性を有し、また腐食せずリサイクル性にも優れる等の特徴から様々な分野で広く使用されている。
また、繊維として炭素繊維を使った炭素繊維強化樹脂は、軽量であり、高強度高剛性であることから、前述の自動車業界や航空業界をはじめ、船舶業界や宇宙分野、風力発電やスポーツ用品等、幅広い分野で適用研究が行われ既に使用されている。
【0003】
繊維強化樹脂の成型品の製造法としては、オートクレーブ成形、オーブン成形、プレス成形、RTM/VaRTM法、引き抜き成形、フィラメントワイディング、シートワインディングなどがあるが、この中でも、生産性が高く、良質な繊維強化樹脂成形品が得られるという観点から、プレス成形が望ましいとされている。
【0004】
繊維強化樹脂成形品の成形は、ガラスクロス、炭素繊維のような繊維状補強材に、硬化剤や接着剤などの添加物を混合した樹脂を含浸させ、加熱又は乾燥して半硬化状態にしたプリプレグを材料として行うことが好ましい。
【0005】
しかし、繊維強化樹脂プリプレグは、金属に比べ展延性が小さく、鉄などの金属と同じようなスピードでプレス成形すると、切れたり、皺が発生したりする。また、成形するためにプリプレグに熱をかけすぎると、樹脂粘度が低下しすぎて、樹脂が溶融し、きれいな成形品を形成することができず、また、熱をかけないと粘度が低下しないため、成形不良となってしまうという問題があった。
【0006】
例えば特許文献1では、適切な条件に設定することで、繊維強化樹脂のプリプレグから、繊維強化樹脂成形品を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、繊維強化樹脂成形品は様々な分野で使われており、その用途や形状、大きさ、そして要求されるコスト等は異なる。そこで増加するニーズに対応できるプレス成形が求められている。樹脂系複合材料のマトリックス樹脂はプリプレグ製造性、成形性等の理由から主にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が使用されていたが、高靭性、リサイクル性、量産性等の特長を有すると共に従来の技術課題であったプリプレグ製造性、成形性を改善する技術が開発されつつある熱可塑性樹脂複合材料が注目されている。特許文献1は熱硬化性樹脂のプリプレグのものであり、熱可塑性樹脂プリプレグについての言及はない。熱可塑性樹脂プリプレグの成形温度は熱硬化性樹脂プリプレグの成形温度より高く、そのため熱硬化性樹脂プリプレグで使う金型より高い温度に対応する金型を用いて成形することが望ましい。しかし、熱硬化性樹脂プリプレグが主流で熱硬化性樹脂プリプレグの成形温度に対応する金型を用いる場合は鋼材、加熱装置、金型装着部品の標準部品が存在するが、より高い温度に対応する金型を用いる場合は、標準部品がないためコストが上昇する。
また、熱可塑性樹脂プリプレグを成形温度に加熱して熱硬化性樹脂プリプレグ用の金型で成形する方法が普及しているが、熱可塑性樹脂プリプレグは赤外線ヒーターなどで樹脂の成形するために必要な温度に加熱して、それから成型設備に移動するが、金型に移すまでの数十秒間で温度が下がり、熱可塑性樹脂の成型するために必要な温度までさらに加熱するには、金型全体を加熱する必要があるので、電気コストがかかるばかりか、加熱時間を必要とする。また、十分に加熱していない場合は、プレスすると繊維強化樹脂成形品の表面に白化現象が生じたり、繊維が引っ掛かり繊維強化樹脂成形品の角部分に繊維の切断現象が生じ、歩留まりが悪くなる。
そこで、本発明は、コストを抑え、歩留まりを高める熱可塑性繊維強化樹脂成形品の製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、箱形状の繊維強化樹脂成形品の3つ以上の面で形成される角部分に対応する部分を局所的に加熱するカートリッジヒーターを金型に設けることにより、コストを抑え、歩留まりを高める強化樹脂成形品の製造装置及び製造方法を見出した。すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 底面と、3以上の複数の平面からなる側面とから構成される箱形状を有する繊維強化樹脂成形品を製造する製造装置であって、
凸部を有する下金型と、
凹部を有する上金型とを備え、
前記凸部は、前記繊維強化樹脂成形品の前記底面と隣接する2つの前記平面とが形成する角部に対応する凸角部を加熱する第一加熱手段を有し、
前記凹部は、前記繊維強化樹脂成形品の前記底面と隣接する2つの前記平面とが形成する角部に対応する凹角部を加熱する第二加熱手段を有する、製造装置。
[2] 前記繊維強化樹脂成形品は、熱可塑性樹脂を含む、[1]に記載の製造装置。
[3] プレス成形時において、前記底面の重心に対応する凸部頂面重心部の温度と、前記凸角部の温度との差が、30℃以上である、[1]に記載の製造装置。
[4] [1]に記載の製造装置によって、繊維強化樹脂成形品を製造する方法であって、
前記第一加熱手段により、前記繊維強化樹脂成形品の前記底面と隣接する2つの前記平面とが形成する角部に対応する凸角部を加熱する工程と、
前記第二加熱手段により、前記繊維強化樹脂成形品の前記底面と隣接する2つの前記平面とが形成する角部に対応する凹角部を加熱する工程と、
繊維強化樹脂プリプレグを前記下金型に配置する工程と、
前記上金型と前記下金型とで前記繊維強化プリプレグを挟み、プレスする工程と、
前記上金型と前記下金型とを離し、前記繊維強化樹脂成形品を取り出す工程とを含む、製造方法。
[5] 前記第一加熱手段により加熱された凸角部の温度及び前記第二加熱手段により加熱された凹角部の温度は、凸角部及び凹角部以外の金型温度よりも高い、[4]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
繊維強化樹脂成形品の3つ以上の面で形成される角部分に対応する部分を加熱するカートリッジヒーターを有する熱硬化性樹脂プリプレグ用の金型を備えた製造装置を用いて製造することにより、コストを抑え、高い歩留まりで強化樹脂成形品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、金型を用いたプレス成形を説明する概略断面図である。
【
図2】
図2は、プレス成形で成形された繊維強化樹脂成形品4の斜視図である。
【
図3】
図3は、実施例1の金型の斜視図(a:上金型、b:下金型)、平面図(c:上金型、d:下金型)、断面図(e:上金型のD面、f:下金型のE面)である。
【
図4】
図4は、実施例2の金型の斜視図(a:上金型、b:下金型)、平面図(c:上金型、d:下金型)、断面図(e:上金型のF面、f:下金型のG面)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態を、実施例の図に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、実施例に限定されるものではなく、当業者に周知された範囲で適宜設計変更等することが可能である。
【0013】
本明細書において、繊維強化樹脂成形品とは、繊維束、例えば、カーボンファイバー、ガラスファイバー等の繊維束を熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂で含浸・乾燥させたプリプレグを加熱及び冷却により硬化させて得られる成形品であり、熱可塑性繊維強化樹脂成形品とは、上記繊維強化樹脂成形品のうち、樹脂が熱可塑性の樹脂で構成されたものをいう。
また、本発明では、熱可塑性繊維強化樹脂成型品は、熱可塑性樹脂及びそれらの一種を含む樹脂組成物で構成される。
また、熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、テフロン(登録商標)、アクリル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテル(ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン等)、ポリエステル又はこれらの組み合わせ等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、また、複数混合して用いてもよい。
なお、本実施例では、熱可塑性樹脂を含むプリプレグを用いて説明するが、本明細書に記載された製造方法及び製造装置は、熱可塑性樹脂プリプレグの成形のみならず、熱硬化性樹脂のプリプレグにも適用可能である。
【0014】
図1は、金型を用いたプレス成形を説明する概略断面図である。1は凹部を有する上金型である。2は凸部を有する下金型である。3はプリプレグである。4は繊維強化樹脂成形品である。
図1に示すように、金型を用いたプレス成形では、上金型1と下金型2との間にプリプレグ3を配置し、上金型1と下金型2でプリプレグ3を挟み、上金型1と下金型2とで荷重をかけることによりプリプレグ3を変形し繊維強化樹脂成形品4を得る。
図1において、線で囲まれてAを付されている部分は繊維樹脂強化成形品4の底面と側面が形成する角部である。線で囲まれてBを付されている部分は繊維樹脂強化成形品4の底面と側面が形成する角部に対応する、下金型2における凸角部である。線で囲まれてCを付されている部分は繊維樹脂強化成形品4の底面と側面が形成する角部に対応する、上金型1における凹角部である。
【0015】
図2は、プレス成型で成形された繊維強化樹脂成形品4の斜視図であり、線で囲まれてAを付されている部分は底面と側面の隣接する2つの平面とが形成する角部である。
図3及び4の実施例1及び2の金型の斜視図において線で囲まれてBを付されている部分は繊維強化樹脂成形品4の底面と隣接する2つの平面とが形成する角部に対応する凸角部である。線で囲まれてCを付されている部分は繊維強化樹脂成形品4の底面と隣接する2つの平面とが形成する角部に対応する凹角部である。
【実施例】
【0016】
実施例1
(構成)
本発明の繊維強化樹脂成形品4の製造装置は、凸部を有する下金型2と凹部を有する上金型1を備えている。下金型2は
図3のbに示すように、凸部に繊維樹脂強化成形品4の底面と隣接する2つの平面が形成する角部に対応する凸角部Bを加熱する加熱手段としてカートリッジヒーター5を有している。例えば、凸角部Bの凸部頂面と凸部側面の交線に沿って、頂面の下に、直角にカートリッジヒーター5を有している。ここで、カートリッジヒーター5は、凸部頂面に平行に配置する521と、凸部頂面に垂直方向に配置する522から構成される。なお、当該加熱手段は、凸部頂面に平行に配置するカートリッジヒーター521のみから構成されてもよいし、凸部頂面に垂直方向に配置するカートリッジヒーター522のみから構成されてもよいし、カートリッジヒーター521及び522の両方から構成されてもよい。
なお、本発明において、凸角部を加熱する第一加熱手段としては、カートリッジヒーター521又はカートリッジヒーター522であり、必要により、カートリッジヒーター521及びカートリッジヒーター522の両方を含むものとすることができる。
上金型1は
図3のaに示すように、凹部に繊維樹脂強化成形品4の底面と隣接する2つの平面が形成する角部に対応する凹角部Cを加熱する加熱手段としてカートリッジヒーター5を有している。例えば、凹角部の凹部底面と凹部側面の交線に沿って、底面の下に、直角にカートリッジヒーター5を有している。ここで、カートリッジヒーター5は、凹部頂面に平行に配置する511と、凹部頂面に垂直方向に配置する512から構成される。なお、当該加熱手段は、凹部頂面に平行に配置するカートリッジヒーター511のみから構成されてもよいし、凹部頂面に垂直方向に配置するカートリッジヒーター512のみから構成されてもよいし、カートリッジヒーター511及び512の両方から構成されてもよい。
なお、本発明において、凹角部を加熱する第二加熱手段としては、カートリッジヒーター511又はカートリッジヒーター512であり、必要により、カートリッジヒーター511及びカートリッジヒーター512の両方を含むものとすることができる。
図示されてはいないが、上金型1及び下金型2には、繊維強化樹脂プリプレグを成形できるように、金型全体を所定の温度まで上昇できるヒーターを備えることもできるし、金型の周囲にヒーターを配置して、金型全体の温度を上昇させることもできる。
【0017】
(金型)
上金型1及び下金型2は樹脂の成形温度に対応する金型であれば、特に限定されない。例えば、160℃対応の金型を用いることができる。
【0018】
(カートリッジヒーター)
カートリッジヒーター5は、上金型1の凹角部C及び下金型2の凸角部Bを熱可塑性樹脂プリプレグ3の成形温度に加熱できるカートリッジヒーターであれば特に限定されない。カートリッジヒーター5により上金型1の凹角部C及び下金型2の凸角部Bを熱可塑性樹脂プリプレグ3の成形温度(例えば、220℃)に上金型1と下金型2とで荷重をかけプリプレグ3を変形する間維持すればプリプレグ3は軟化し、角部Aを形成しながら、上金型1及び下金型2に引き込まれる。これにより、金型の繊維強化樹脂成形品の角部Aに対応する金型の凸角部B及び凹角部Cに繊維が引っ掛かることなく繊維の切断が生じにくくなる。また、白化現象は一般的に、繊維強化樹脂成形品の3つ以上の面で形成される角部分で一番多く発生するが、そのような白化現象も防ぐことができる。さらに、他の部分で白化現象が生じる場合は、金型の対応する部分にカートリッジヒーター5を追加して加熱してもよい。
カートリッジヒーター5の数は上金型1の凹角部及び下金型2の凸角部Bを熱可塑性樹脂プリプレグ3の成形温度に加熱できる数であれば特に限定されない。
また、本実施例では加熱手段として棒状のカートリッジヒーターを用いたが、角部を加熱できるものであれば、限定されるものではない。
【0019】
プレス成形時において、繊維強化樹脂成形品の底面の重心に対応する凸部頂面重心部の温度と、凸角部Bの温度との差が、30℃以上である。30℃未満であると温度が低く、プリプレグが変形しない恐れがあり、また、繊維強化樹脂成形品の表面に白化現象が生じたり、繊維が引っ掛かり繊維強化樹脂成形品の角部分に繊維の切断現象が生じる可能性がある。
ここで、重心は、例えば、平面が四角形の場合、4頂点のうち、2頂点ずつの組から作られる2線分の中点を結ぶ線分の中点である。
【0020】
(繊維強化樹脂成形品の製造方法)
本発明の底面と3以上の複数の平面からなる側面から構成される箱形状を有する繊維強化樹脂成形品4の製造方法は、第一加熱手段により、繊維強化樹脂成形品の底面と隣接する2つの平面とが形成する角部に対応する凸角部を加熱する工程と、第二加熱手段により、繊維強化樹脂成形品の前記底面と隣接する2つの平面とが形成する角部に対応する凹角部を加熱する工程と、繊維強化樹脂プリプレグを下金型に配置する工程と、上金型と下金型とで繊維強化プリプレグを挟み、プレスする工程と、上金型と下金型とを離し、繊維強化樹脂成形品を取り出す工程とを含む。
【0021】
最初に、上金型1及び下金型2を第一温度に加熱する。ここで第一温度は、一般的な金型材料が耐えうる温度(例えば、熱硬化性樹脂プリプレグを成形できる温度)であれば、特に限定されないが、例えば、140~180°である。上金型1及び下金型2は金型に備えられた金型全体を所定の温度まで上昇できるヒーターによって第一温度まで加熱してもよく、金型の周囲にヒーターを配置して、第一温度まで加熱してもよい。
【0022】
次に、凸部を有する下金型2の、箱形状を有する繊維強化樹脂成形品4の底面と隣接する2つの平面とが形成する角部Aに対応する凸角部Bをカートリッジヒーター5により第二温度まで加熱する。第二温度は、第一温度よりも高ければ特に限定されるものではないが、例えば、熱可塑性樹脂プリプレグを成形できる温度であり、例えば、200乃至250℃である。また、下金型2の凸角部Bと共に凹角部Cをカートリッジヒーター5により第二温度まで加熱してもよい。凸角部Bと凹角部Cをいずれも加熱することにより、より角部Aの精度を高め、製品の歩留りを上げることができる。なお、第一温度と第二温度との境界はなく、徐々に温度変化するものである。したがって、凸角部Bと凹角部Cの温度は、金型におけるその他の位置の温度よりも高い温度になっている。
【0023】
なお、本実施例においてプリプレグ3は、炭素繊維とポリプロピレンからなる熱可塑性繊維強化樹脂プリプレグを用いているが、特に限定されるものではない。
また、本実施例は、プリプレグは三菱ケミカル製(綾織り、1枚あたり0.23mm)を使用し、完成後の熱可塑性繊維強化樹脂成形品の厚さが1.6mmになるように複数枚積層して実施した。なお、本明細書に開示の技術は、熱可塑性繊維強化樹脂成形品の厚さが0.2~5.0mmの厚さまで使用可能であり、プリプレグの積層枚数により完成品の厚さを調整することができる。さらには、プリプレグを積層する際に、プリプレグとプリプレグの間に接着剤及び/又は接着剤樹脂シートを配置して、プリプレグの積層強度を高める(プリプレグ同士を剥がれにくくする)こともできる。接着剤樹脂シートとして、例えば、アクリル系接着剤や、アクリル系接着剤樹脂シートを使用することができ、積層するすべてのプリプレグとプリプレグの間に配置してもよいし、プリプレグとプリプレグの間のうち、必要な箇所のみ接着剤樹脂シートを配置してもよい。
【0024】
本実施例で使用した熱可塑性繊維強化樹脂プリプレグを成形するために必要な温度は、220℃である。第二温度は、材料を成形するための温度に近傍の温度であり、後に配置するプリプレグ3が、上金型1の凹角部と下金型2の凸角部との間で樹脂が十分に軟化し、賦形できる温度である。成形温度及び保持温度は、例えば、プリプレグ3の熱可塑性樹脂融点の温度から熱可塑性樹脂融点+100℃の範囲であり、一例では、熱可塑性樹脂融点の温度から熱可塑性樹脂融点+60℃である。成形温度又は保持温度が高すぎると、熱可塑性繊維強化樹脂成形品の焼けや光沢不良の原因となり、保持温度が低すぎると樹脂の流動性が悪くなるため、ひずみや白化の原因となる。
【0025】
繊維強化樹脂プリプレグ3を下金型2に配置する。繊維強化樹脂プリプレグ3はあらかじめ熱可塑性樹脂プリプレグの成形温度に予備的に加熱しておくことが望ましい。
【0026】
上金型1と下金型2とで繊維強化樹脂プリプレグ3を挟み、プレスする。
プリプレグ3を配置した後、上金型1及び下金型2並びに凸角部又は凸角部及び凹角部の温度を保持しながら、上金型1及び/又は下金型2を移動し、繊維強化樹脂プリプレグ3を挟む。上金型1を下降する場合で説明すると、上金型1がプリプレグ3に接し、さらに上金型1が下死点まで達するまで下降する。上金型1が下死点に達し、荷重は最大値となる。
【0027】
上金型1が下死点に達した後、荷重及び温度をその状態で所定の時間保持する。下死点における保持時間は、主にプリプレグ3の厚さによって、調整される。通常、保持時間は、プリプレグ3の厚さ1mmあたり0.3~2分の間である。本実施例では、1.6mmの熱可塑性繊維強化樹脂成形品を製造するために、約2分間保持する。保持時間が短いと、材料全体に熱が伝わらないため、所望の形状が得られにくい。特に、角の成形が不十分である。また、保持時間が長すぎると、樹脂の流動性と色調が変化する。
【0028】
上金型1が下死点における荷重は、特に限定されるものではなく、800~1500KNが好ましく、900~1400KNがより好ましい。
【0029】
上金型1と下金型2とを離し、繊維強化樹脂成形品4を取り出す。
上金型1が下死点の位置で、温度及び荷重を保持した後、上金型1と下金型2の温度を低下させ、熱可塑性樹脂が固まる温度まで低下したとき、上金型1の加圧を停止し、上金型1を元の位置になるように上昇させ、上金型1から繊維強化樹脂成形品4を脱型し、プレス成形を終了する。
【0030】
連続的にプレスを行う場合、金型全体の温度は室温に戻す必要はなく、例えば、60~90℃であってもよい。ある程度高い温度であれば、再加熱する時間を短縮し、必要とするエネルギーを減少させることができる。
【0031】
本発明の繊維強化樹脂成形品4の製造装置では、金型としては標準部品が存在する熱硬化性樹脂プリプレグの成形温度に対応する金型を用いているため、コストが抑えられ、成形温度に加熱した熱可塑性樹脂プリプレグの成形時にプリプレグの温度の低下及び温度の低下による硬化の影響の大きい成形品の角部分に対応する金型の凸角部を熱可塑性樹脂プリプレグの成形温度に加熱することにより歩留まりを高めることが出来る。熱可塑性樹脂プリプレグは熱硬化性樹脂プリプレグより成形に必要とする時間が短いため金型の凸角部の軟化又は変質が生じることなく耐用する。
【0032】
実施例2
実施例2の繊維強化樹脂成形品4の製造装置は、成形する深さが深い場合に特に有効である。実施例2の下金型2は
図4のbに示すように、繊維樹脂強化成形品4の底面と側面の隣接する2つの平面が形成する角部に対応する凸角部を加熱する加熱手段としてカートリッジヒーター5を有している。例えば、実施例1と同様に凸角部の凸部頂面と凸部側面の交線に沿って、頂面の下にカートリッジヒーター5を有し、それに加えて側面の高さ方向の中部及び下部に凸角部の凸部頂面と凸部側面の交線の平行線に沿ってカートリッジヒーター5を有している。上金型1は
図4のaに示すように、繊維樹脂強化成形品4の底面と側面の隣接する2つの平面が形成する角部に対応する凹角部を加熱する加熱手段としてカートリッジヒーター5を有している。例えば、実施例1と同様に凹角部の凹部底面と凹部側面の交線に沿って、底面の下にカートリッジヒーター5を有し、それに加えて側面の下に凹角部の凹部底面と凹部側面の交線に沿ってカートリッジヒーター5を有している。
これにより、角部Aのみならず、側面の2平面により構成される部分も加熱することが可能となる。
実施例2においては、凸部頂面又は凹部底面に平行な複数のカートリッジヒーター5を備えているが、実施例1の凸部頂面又は凹部底面に垂直方向に配置するカートリッジヒーター512又は522を備えてよい。
【符号の説明】
【0033】
1:上金型
2:下金型
3:プリプレグ
4:繊維強化樹脂成形品
5:カートリッジヒーター
A:角部
B:凸角部
C:凹角部
【要約】
【課題】
コストを抑え、歩留まりを高める熱可塑性繊維強化樹脂成形品の製造装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】
底面と、3以上の複数の平面からなる側面とから構成される箱形状を有する繊維強化樹脂成形品を製造する製造装置であって、凸部を有する下金型と、凹部を有する上金型とを備え、前記凸部は、前記繊維強化樹脂成形品の前記底面と隣接する2つの前記平面とが形成する角部に対応する凸角部を加熱する第一加熱手段を有し、前記凹部は、前記繊維強化樹脂成形品の前記底面と隣接する2つの前記平面とが形成する角部に対応する凹角部を加熱する第二加熱手段を有する、製造装置。
【選択図】
図1