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特許7606717熱硬化型接着シートおよび燃料電池用サブガスケット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】熱硬化型接着シートおよび燃料電池用サブガスケット
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0284 20160101AFI20241219BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20241219BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20241219BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20241219BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20241219BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20241219BHJP
   H01M 8/0273 20160101ALI20241219BHJP
   H01M 8/0276 20160101ALI20241219BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20241219BHJP
【FI】
H01M8/0284
C09J7/35
C09J7/38
C09J11/06
C09J11/08
C09J175/04
H01M8/0273
H01M8/0276
H01M8/10 101
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023544075
(86)(22)【出願日】2023-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2023006160
(87)【国際公開番号】W WO2023167052
(87)【国際公開日】2023-09-07
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2022031205
(32)【優先日】2022-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399020212
【氏名又は名称】東山フイルム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片倉 章
(72)【発明者】
【氏名】青木 智史
(72)【発明者】
【氏名】山脇 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】小田 優
(72)【発明者】
【氏名】寺田 聡
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-262230(JP,A)
【文献】特開2014-051621(JP,A)
【文献】国際公開第2021/044940(WO,A1)
【文献】特開2021-027029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
C09J 7/35
C09J 7/38
C09J 11/06
C09J 11/08
C09J 175/04
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の固体高分子電解質膜の両側に電極を配設した電解質膜・電極構造体の周囲のシールに用いられる熱硬化型接着シートであって、
反応性官能基としてカルボキシ基を有するポリウレタン系樹脂と、多官能エポキシ架橋剤とを含有する接着剤組成物の硬化物から形成された接着剤層を有し、
前記接着剤層のゲル分率が70質量%以上96質量%以下であり、
100℃における貯蔵弾性率(G’100)が5.0×10Pa以上2.2×10 Pa以下であり、
100℃における貯蔵弾性率(G’100)に対する、120℃における貯蔵弾性率(G’120)の低下率が、0.5以下であり、
前記熱硬化型接着シートは、前記固体高分子電解質膜を構成するNafion(登録商標)に圧着されることを特徴とする、熱硬化型接着シート。
【請求項2】
前記接着剤層のガラス転移温度が-10℃以上100℃以下であることを特徴とする、請求項1に記載の熱硬化型接着シート。
【請求項3】
前記接着剤層のガラス転移温度が50℃以上であることを特徴とする、請求項2に記載の熱硬化型接着シート。
【請求項4】
前記ポリウレタン系樹脂のカルボキシ基のモル量(a)と前記多官能エポキシ架橋剤のエポキシ基のモル量(b)との比(b/a)が、1.0以上10.0以下であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の熱硬化型接着シート。
【請求項5】
前記接着剤層は、基材フィルムの一方の面上に形成されており、
前記基材フィルムは、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂材料から構成されるフィルムであることを特徴とする、請求項1からのいずれか1項に記載の熱硬化型接着シート。
【請求項6】
前記熱硬化型接着シートはさらに、前記基材フィルムが設けられたのとは反対側の前記接着剤層の面に、第二の基材フィルムを有し、
前記第二の基材フィルムは、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂材料から構成されるフィルムであることを特徴とする、請求項に記載の熱硬化型接着シート。
【請求項7】
請求項またはに記載の熱硬化型接着シートを含む、燃料電池用のサブガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池の固体高分子電解質膜の両側に電極を配設した電解質膜・電極構造体(MEA)の周囲のシールに用いられる熱硬化型接着シート、およびそのようなサブガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池は、地球温暖化や環境破壊の抑制手段として、また次世代の発電システムとして大いに期待されており、盛んに研究開発が行われている。燃料電池は、水素と酸素の電気化学的な反応によりエネルギーを発生させるものであり、例えば、リン酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、固体電解質型燃料電池、固体高分子型燃料電池等を挙げることができる。これらの中でも、固体高分子型燃料電池は、常温から起動が可能であるうえ小型で高出力であるため、自動車(二輪、四輪)やポータブル電源等の電力源として注目されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池において、アノード側電極に供給された燃料ガス、例えば、主に水素を含有するガス(以下、水素含有ガスともいう)は、電極触媒上で水素がイオン化され、その水素が固体高分子電解質膜を介してカソード側電極へと移動する。その際にアノード側電極にて生じた電子は外部回路に取り出され、直流の電気エネルギーとして利用される。なお、カソード側電極には、酸化剤ガス、例えば、主に酸素を含有するガスあるいは空気(以下、酸素含有ガスともいう)が供給され、水素イオンと、電子を受け取った酸素分子が反応して水が生成される。
【0004】
そして、燃料電池は、多数のセルが積層されたスタック構造を有している。セルスタックは、電解質膜や電極を有する電極構造体(MEA)、それを挟持するセパレータ、および電極部材の周囲や隣り合うセパレータ間を封止するためのシール材(ガスケット、サブガスケット)を備えている。このようなシール材としては、例えば、特許文献1に開示されるもの等、ホットメルト接着剤が知られている。ホットメルト接着剤以外のシール材として、例えば、特許文献2に、結晶性ポリエステル樹脂と非晶性ポリエステル樹脂とを含有する接着性樹脂組成物を用いた接着シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2019/216402号
【文献】特許公開2015-017237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
燃料電池の使用時には、接着シート等のシール材は、高温高湿の環境に曝される。そのような環境でも高いシール性を維持することが望まれる。また、接着シートでMEAの所定の箇所をシールしながらセルスタックを形成するに際し、接着シートの取り扱いや接着の操作を、簡便に行えることが好ましい。しかしながら、特許文献1のシール材は、ホットメルト接着剤であり、MEAとの接着工程において、高温で長時間プレスする必要があるため、接着操作に長い時間を要するとともに、接着操作に伴ってMEAに熱ダメージを与えるおそれがある。また、特許文献2の接着シートは、低温接着が可能なものであるが、シート形成後に接着工程まで未硬化又は半硬化の状態を保つために、通常は低温で保存したり輸送したりする必要がある。また、接着工程後、熱処理やエージングなどの硬化処理工程が必要である。
【0007】
本発明の課題は、室温で保存でき、加熱圧着後、硬化処理工程を経ることなく接着が完了し、接着後には、高温高湿環境下におかれても、浮き、剥がれ、ボイド等の接着不良を抑制することができる熱硬化型接着シートおよびそのような燃料電池用サブガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明に係る熱硬化型接着シートは、燃料電池の固体高分子電解質膜の両側に電極を配設した電解質膜・電極構造体の周囲のシールに用いられる熱硬化型接着シートであって、反応性官能基を有するポリウレタン系樹脂と、架橋剤とを含有する接着剤組成物の硬化物から形成された接着剤層を有し、前記接着剤層のゲル分率が60質量%以上であり、100℃における貯蔵弾性率(G’100)が5.0×10Pa以上1.0×10Pa以下であり、100℃における貯蔵弾性率(G’100)に対する、120℃における貯蔵弾性率(G’120)の低下率が、0.5以下である。
【0009】
ここで、前記接着剤層のガラス転移温度が-10℃以上100℃以下であるとよい。さらに、前記接着剤層のガラス転移温度が50℃以上であるとよい。また、前記反応性官能基がカルボキシ基を含み、前記架橋剤が多官能エポキシ架橋剤を含有するとよい。前記ポリウレタン系樹脂のカルボキシ基のモル量(a)と前記エポキシ系架橋剤のエポキシ基のモル量(b)との比(b/a)が、1.0以上10.0以下であるとよい。
【0010】
前記接着剤層は、基材フィルムの一方の面上に形成されており、前記基材フィルムは、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂材料から構成されるフィルムであるとよい。また、前記熱硬化型接着シートはさらに、前記基材フィルムが設けられたのとは反対側の前記接着剤層の面に、第二の基材フィルムを有し、前記第二の基材フィルムは、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂材料から構成されるフィルムであるとよい。
【0011】
本発明に係る燃料電池用サブガスケットは、上記の接着剤層が基材フィルムの一方の面上に形成された熱硬化型接着シートを含むものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる熱硬化型接着シートは、接着剤層が上記所定の材料構成と物性を有することにより、保存安定性に優れ、加熱圧着後、硬化処理工程を経ることなく接着を完了でき、高温高湿環境下におかれても、浮き、剥がれ、ボイド等の接着不良を抑制することができる。そのため、熱硬化型接着シートを、燃料電池のシール材として好適に用いることができる。
【0013】
ここで、接着剤層のガラス転移温度が-10℃以上100℃以下である場合には、接着剤層の接着性が良好となり、さらに、高温高湿環境下での浮き、剥がれ、ボイド等の接着不良を効果的に抑制することができる。また接着剤層に付着した異物の除去が容易となる。さらに、接着剤層のガラス転移温度が50℃以上である場合には、接着剤層が高温高湿下におかれても高い接着性を維持しやすい。
【0014】
また、反応性官能基がカルボキシ基を含み、架橋剤が多官能エポキシ架橋剤を含有する場合には、ポリウレタン系樹脂と架橋剤の反応性が高くなる。
【0015】
ポリウレタン系樹脂のカルボキシ基のモル量(a)とエポキシ系架橋剤のエポキシ基のモル量(b)との比(b/a)が、1.0以上10.0以下である場合には、接着剤層において高い架橋密度が得られ、好適な貯蔵弾性率が達成されやすくなる。また、接着剤層の被着体に対する密着性が高くなる。
【0016】
接着剤層が、基材フィルムの一方の面上に形成されており、基材フィルムが上記所定の樹脂材料から構成されるフィルムである場合には、熱硬化型接着シートの取り扱い性が高くなり、MEAへの配置等の工程を実施しやすくなる。
【0017】
また、熱硬化型接着シートがさらに、基材フィルムが設けられたのとは反対側の接着剤層の面に、第二の基材フィルムを有し、第二の基材フィルムが上記所定の樹脂材料から構成されるフィルムである場合には、接着シートの両面が基材フィルムおよび第二の基材フィルムで覆われるため、熱硬化型接着シートの取り扱い性が特に高くなる。シートに異物が付着しても容易に除去できる。
【0018】
本発明に係る燃料電池用サブガスケットは、上記の接着剤層が基材フィルムの一方の面上に形成された熱硬化型接着シートを含むものである。上記熱硬化型接着シートを構成する接着剤層が、所定の材料構成と物性を有していることにより、燃料電池用サブガスケットが、保存安定性に優れ、加熱圧着後、硬化処理工程を経ることなく接着を完了でき、高温高湿環境下におかれても、浮き、剥がれ、ボイド等の接着不良を抑制できるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第一実施形態にかかる熱硬化型接着シートの斜視図である。
図2】本発明の第二実施形態にかかる熱硬化型接着シートの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態にかかる熱硬化型接着シートおよび燃料電池用サブガスケットについて説明する。以下では、特記しないかぎり、各種の物性値は、室温(23℃程度)、大気中にて測定される値とする。
【0021】
<熱硬化型接着シートの構成>
図1は、本発明の第一実施形態にかかる熱硬化型接着シート(以下単に接着シートと称する場合がある)10の斜視図である。図1に示すように、本発明の第一実施形態にかかる接着シート10は、基材フィルム12と、基材フィルム12の面上に形成された接着剤層14とを有する。接着剤層14は、接着シート10全体としての最表面に露出している。接着シート10の中央部には、貫通孔状の領域として、開口部W1が設けられている。接着シート10は、電解質膜の両側に電極を配設した電解質膜・電極構造体(MEA)とともに用いられ、MEAの周囲をシールするシール材として用いられる。
【0022】
<基材フィルム>
基材フィルム12の具体的な構成は、特に限定されるものではない。基材フィルム12としては、高分子フィルム、ガラスフィルムなどが挙げられる。基材フィルム12の厚みは、特に限定されるものではないが、取り扱い性の観点から、12μm以上500μm以下の範囲内であることが好ましい。より好ましくは基材フィルム12の厚みは、38μm以上、また50μm以上であるとよく、一方で200μm以下、また100μm以下であるとよい。なお、「フィルム」とは、一般に厚さが0.25mm未満のものをいうが、厚さが0.25mm以上のものであっても、可撓性を有するものであれば、「フィルム」に含まれるものとする。
【0023】
基材フィルム12が高分子フィルムである場合に、基材フィルム12を構成する高分子材料としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、液晶ポリエステルなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフタルアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、シクロオレフィンコポリマー樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂などが挙げられる。基材フィルム12の高分子材料は、これらのうちの1種のみで構成されていてもよいし、積層等により2種以上の組み合わせで構成されていてもよい。これらのうちでは、耐熱性や機械特性などの観点から、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレートの各樹脂が好ましく、そのれらの樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂材料から基材フィルム12が構成されるとよい。
【0024】
基材フィルム12は、上記高分子材料の1種または2種以上を含む層からなる単層で構成されていてもよいし、上記高分子材料の1種または2種以上を含む層と、この層とは異なる高分子材料の1種または2種以上を含む層など、2層以上の層で構成されていてもよい。
【0025】
<接着剤層>
接着剤層14は、反応性官能基を有するポリウレタン系樹脂と、架橋剤とを含有する接着剤組成物の硬化物から形成される。接着剤組成物は熱硬化性を有しており、接着剤層14を備えた接着シート10が、熱硬化型接着シートとして機能する。使用前の接着シート10において、接着剤層14は一部未硬化の材料を残した状態で硬化させておき(半硬化状態)、被着体と接着させる際に、接着剤層14を加熱によってさらに硬化させることで、熱硬化型の接着シートとして使用できる。本明細書において、接着性との概念には、粘着性、つまり感圧接着性を有する形態も含むものとする。
【0026】
(接着剤層の特性)
接着剤層14の厚みは、接着性を確保する観点から、1μm以上、より好ましくは5μm以上であるとよい。一方、燃料電池の大きさを小さくする観点から、接着剤層14の厚みは、50μm以下、より好ましくは25μm以下であるとよい。
【0027】
接着剤層14のゲル分率は、60質量%以上である。ゲル分率が60質量%以上であると、MEAとの接着工程において、加熱圧着後、硬化処理工程を経ることなく接着を完了することができる。また、保存安定性に優れるうえ、高温高湿環境下におかれても、浮き、剥がれ、ボイド等の接着不良を抑制することができる。さらに、接着工程まで未硬化又は半硬化の状態を保つために低温保存することなく、常温で安定して保存することができる。ゲル分率は、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0028】
接着剤層14の100℃におけるせん断貯蔵弾性率(G’100)は、5.0×10Pa以上である。5.0×10Pa以上であれば、接着剤層14は加熱圧着前の状態でも適度に硬化しているため、短時間の圧着で接着を完了することができる。またこの効果をさらに高める観点から、G’100は、好ましくは7.0×10Pa以上、より好ましくは1.0×10Pa以上である。またG’100は、1.0×10Pa以下である。1.0×10Pa以下であれば、高温でも接着剤層14が弾性を維持できるため、接着性を良好なものとすることができる。G’100は、好ましくは1.0×10Pa以下以下、より好ましくは5.0×10Pa以下である。
【0029】
接着剤層14の100℃における貯蔵弾性率(G’100)に対する、120℃における貯蔵弾性率(G’120)の低下率は、0.5以下である。この低下率が0.5以下であれば、接着剤層14が高温高湿環境下におかれても、浮き、剥がれ、ボイド等の接着不良を抑制することができる。またこの効果をさらに高める観点から、上記低下率は、好ましくは0.48以下、より好ましくは0.45以下、さらに好ましくは0.3以下である。低下率の下限に特に制限はないが、通常は-0.1以上、好ましくは0以上である。なお、上記低下率は、(G’100-G’120)/G’100の式により求められる。
【0030】
接着剤層14の120℃におけるせん断貯蔵弾性率(G’120)は、5.0×10Pa以上であることが好ましい。5.0×10Pa以上であれば、高温環境でも接着強度を維持しやすくなるため、耐湿熱性を良好なものとすることができる。またこの効果をさらに高める観点から、G’120は、より好ましくは7.0×10Pa以上、さらに好ましくは1.0×10Pa以上である。またG’120は、1.0×10Pa以下であることが好ましい。1.0×10Pa以下であれば、高温でも接着剤層14が弾性を維持できるため、接着性を良好なものとすることができる。G’120は、より好ましくは1.0×10Pa以下、さらに好ましくは5.0×10Pa以下である。
【0031】
接着剤層14のガラス転移温度は、-10℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度が-10℃以上であれば、高温高湿環境下におかれても、浮き、剥がれ、ボイド等の接着不良を効果的に抑制することができ、また接着剤層14に付着した異物の除去を容易なものとすることができる。また、この観点からガラス転移温度は、より好ましくは-8℃以上、さらに好ましくは-5℃以上であり、高温高湿下におかれても高い接着性を維持する観点から、特に好ましくは50℃以上である。一方で、ガラス転移温度は100℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が100℃以下であると、MEAとの接着性を特に良好なものとすることができる。また、この観点からガラス転移温度は、より好ましくは95℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。
【0032】
接着剤層14の23℃における基材フィルム12およびMEAに対する接着力は、好ましくは1N/25mm以上、より好ましくは1.2N/25mm以上、さらに好ましくは2N/25mm以上である。接着力が1N/25mm以上であれば、接着剤層14の浮きや剥がれを好適に抑制することができる。接着力の上限は特に制限はないが、通常は50N/25mm以下、また40N/25mm以下である。接着剤層14の接着力の評価は、後の実施例における「初期剥離力」の測定と同様の方法によって行えばよい。
【0033】
(ポリウレタン系樹脂)
接着剤層14を構成する接着剤組成物は、上記のように、反応性官能基を有するポリウレタン系樹脂を含有する。ポリウレタン系樹脂を用いることで、接着剤層14が、適度な柔軟性や耐湿熱性を有し、また短時間の加熱圧着により接着を完了できるものとなる。ポリウレタン系樹脂とは、1分子中にウレタン結合を2つ以上含む化合物の総称である。ポリウレタン系樹脂は、ポリイソシアネートと、ポリオールとを重合させた構造を有する。
【0034】
ポリイソシアネートは1分子中に2つ以上のイソシアネート基を有するものであればよく、接着剤層14の物性の点から、ジイソシアネート又はトリイソシアネートが好ましく、ジイソシアネートがより好ましい。ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネートのような脂肪族ジイソシアネートや、ベンゼン-1,3-ジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートの中から、接着剤層14の物性を考慮して、適宜選択して用いることができる。ポリイソシアネートは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、ポリオールと過剰のポリイソシアネートを反応させて得られたイソシアネート基末端プレポリマーをポリウレタン系樹脂の中間体として用いてもよい。
【0035】
ポリオールは1分子中に2つ以上の水酸基を有するものであればよく、接着剤層14の物性の点から、ジオール又はトリオールが好ましく、ジオールがより好ましい。ジオールとしてはエチレングリコールなどの脂肪族ジオールや、ベンゼンジオールなどの芳香族ジオールの中から、接着剤層14の物性を考慮して、適宜選択して用いることができる。ポリオールは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどのプレポリマーを用いてもよい。
【0036】
ポリウレタン系樹脂は、更にウレア結合を有するポリウレタンウレア系樹脂であってもよい。ポリウレタンウレア系樹脂は、例えば、末端にイソシアネート基を有するウレタン系樹脂に、ポリアミンを結合させた構造を有する。ポリアミンは1分子中に2つ以上のアミノ基を有するものであればよく、接着剤層14の物性の点から、ジアミン又はトリアミンが好ましく、ジアミンがより好ましい。ジアミンとしてはエチレンジアミンなどの公知の脂肪族ジアミンや、フェニレンジアミンなどの公知の芳香族ジアミンの中から、接着剤層14の物性を考慮して、適宜選択して用いることができる。ポリアミンは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
ポリウレタン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は5,000以上が好ましく、より好ましくは10,000以上、さらに好ましくは50,000以上である。一方でMwは、1,000,000以下が好ましく、より好ましくは500,000、さらに好ましくは200,000以下である。Mwが5,000以上であれば、接着剤層14の耐湿熱性を高めることができ、1,000,000以下であれば、接着剤組成物の塗工作業性がより良好となる。
【0038】
ポリウレタン系樹脂が有する反応性官能基は、架橋剤と反応して結合を形成しうる官能基であれば特に限定されるものではないが、例えば、水酸基、フェノール性水酸基、メトキシメチル基、カルボキシ基、アミノ基、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリン基、オキサジン基、アジリジン基、チオール基、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、ブロック化カルボキシル基、シラノール基などを挙げることができる。ポリウレタン系樹脂は、これらの反応性官能基を、1種単独で、または2種以上を含んでもよい。この中でも特に水酸基、カルボキシ基、アミノ基、エポキシ基が好ましく、入手のしやすさや架橋剤との反応性の観点からカルボキシ基がより好ましい。ポリウレタン系樹脂において、反応性官能基は、ポリオール部分など、ポリウレタン鎖に直接結合されていても、ポリウレタン鎖に結合された側鎖に導入されていてもよい。
【0039】
ポリウレタン系樹脂がカルボキシ基を有する場合、ポリウレタン系樹脂の酸価は4.0mgKOH/g以上、また40mgKOH/g以下であることが好ましい。ポリウレタン系樹脂の酸価を上記範囲とすることで、架橋剤との架橋密度を最適化でき、接着剤層14の100℃および120℃における貯蔵弾性率、損失正接を好適な範囲に収めやすくなる。酸価は6.0mgKOH/g以上、また8.0mgKOH/g以上であると、さらに好ましい。一方、30mgKOH/g以下、また20mgKOH/g以下であると、さらに好ましい。
【0040】
(架橋剤)
上記のように、接着剤層14を構成する接着剤組成物は、ポリウレタン系樹脂に加え、架橋剤を含有する。架橋剤は、ポリウレタン系樹脂が有する反応性官能基と反応し得る反応性基を1分子中に2つ以上有する化合物であり、接着剤組成物の加熱を経て、ポリウレタン系樹脂の分子鎖の間に架橋を形成する。架橋剤は、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート型架橋剤、メラミン樹脂系架橋剤、尿素樹脂系架橋剤等が挙げられる。これらの中でも、接着性や耐熱性等の観点から、エポキシ系架橋剤がより好ましい。
【0041】
エポキシ系架橋剤は、反応性基としてエポキシ基を1分子中に2つ以上有する化合物をいう。前記エポキシ系架橋剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
エポキシ系架橋剤としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ系樹脂、エピクロルヒドリン型エポキシ系樹脂、エチレングリシジルエーテル、N,N,N’,N’-テトラキス(2,3-エポキシプロピル)-1,4-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラキス(オキシラン-2-イルメチル)-4,4’-メチレンビスアニリン、N,N-ジグリシジル-4-(グリシジルオキシ)アニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、1,1,2,2-テトラキス(3-グリシジルオキシフェニル)エタン、ジグリシジルアニリン、ジアミングリシジルアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、o-フタル酸ジグリシジルエステル、トリグリシジル-トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノール-S-ジグリシジルエーテルが挙げられる。これらのエポキシ系架橋剤の中でも、高接着性、耐熱性の点から、1分子中に3~5個のエポキシ基を有する多官能エポキシ系架橋剤が好ましい。
【0043】
接着剤組成物における架橋剤は、25℃における粘度が500mPa・s以上の液体、または軟化点が100℃以下の固形物である架橋剤であることが好ましい。また、接着剤組成物における架橋剤の分子量は、200以上が好ましく、より好ましくは400以上、さらに好ましくは600以上である。一方、分子量は、10000以下が好ましく、より好ましくは5000以下、さらに好ましくは1000以下である。接着剤組成物における架橋剤の反応性基の官能基当量(エポキシ系架橋剤の場合はエポキシ当量)は、50g/eq以上が好ましく、より好ましくは100g/eq以上、さらに好ましくは150g/eq以上である。一方、官能基当量は、1000g/eq以下が好ましく、より好ましくは600g/eq以下、さらに好ましくは400g/eq以下、特に好ましくは250g/eqである。架橋剤の分子量および反応性基の含有量が上記の範囲であれば良好なMEAとの接着性、および耐湿熱性を得ることができる。
【0044】
接着剤組成物における架橋剤の含有量は、ポリウレタン系樹脂100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上、特に好ましくは10質量部以上である。一方その含有量は、30質量部以下が好ましく、より好ましくは25質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下である。架橋剤(B)の含有量が上記範囲内であれば良好なMEAとの接着性、および耐湿熱性を得ることができる。
【0045】
接着剤組成物における、カルボキシル基等、ポリウレタン系樹脂の反応性官能基のモル量(a)と、エポキシ系架橋剤のエポキシ基等、架橋剤の反応性基のモル量(b)との比(b/a)は、1.0以上が好ましく、より好ましくは1.1以上、さらに好ましくは1.3以上である。一方、そのモル比は、10.0以下が好ましく、より好ましくは8.0以下、さらに好ましくは7.0以下である。モル比が1.0以上であれば、十分な架橋密度が得られ、貯蔵弾性率を好適なものとすることができる。モル比が10.0以下であれば、接着剤層14の被着体に対する密着性が高くなり、剥がれ等が効果的に抑制され、耐久性が向上する。
【0046】
(その他添加剤)
接着剤組成物には、ポリウレタン系樹脂、架橋剤以外に、その他添加剤を配合して使用することができる。その他の添加剤としては、架橋促進剤、架橋遅延剤、充填剤、可塑剤、軟化剤、剥離助剤、シランカップリング剤、染料、顔料、色素、蛍光増白剤、帯電防止剤、湿潤剤、界面活性剤、増粘剤、防黴剤、防腐剤、酸素吸収剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、近赤外線吸収剤、水溶性消光剤、香料、金属不活性剤、造核剤、アルキル化剤、難燃剤、滑剤、加工助剤等が挙げられる。これらは接着シート10の用途や使用目的、つまり接着シート10を適用するMEAの具体的な種類や構成、使用環境等に応じて、適宜選択して配合して使用される。
【0047】
上記の添加剤のうち、充填剤は、耐湿熱性の向上、弾性率の調節、接着シート10をタックフリーにして付着した異物除去性を向上させる等の目的で配合される。充填剤としては、無機充填剤、有機充填剤のいずれであってもよい。無機充填剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、タルク、クレーなどの無機粒子が挙げられる。また、このような樹脂充填剤としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン樹脂、セルロースなどの樹脂からなる樹脂粒子が挙げられる。
【0048】
(接着剤組成物の製造方法)
接着剤組成物は、ポリウレタン系樹脂、架橋剤、および必要に応じて用いられるその他添加剤を混合することにより製造することができる。接着剤組成物は、適当な溶剤が加えられ、接着剤層14を形成するのに適した粘度となるように希釈された溶液であってもよい。
【0049】
溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル;エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤;エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のアルコール系溶剤が挙げられる。これらの溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。溶剤の使用量は、接着剤組成物が塗工に適した粘度となるように適宜調節すればよく、特に制限はないが、塗工性の観点から、例えば、1質量%~90質量%が好ましく、より好ましくは10質量%~80質量%、さらに好ましくは20質量%~70質量%である。
【0050】
(接着シートの製造方法)
本実施形態の接着シート10は、(1)基材フィルム12の一方面上に接着剤組成物を直接塗布したうえで熱処理による乾燥および硬化工程を実施し、必要に応じて養生(エージング)を行う方法、(2)離型フィルムの面上に接着剤組成物を塗布して熱処理し、基材フィルム12の一方面上に転写した後、必要に応じて養生を行う方法などにより形成することができる。これらのうちでは、基材との密着性の観点から、(1)の基材フィルム12の一方面上に接着剤組成物を直接塗布して形成する方法が好ましい。
【0051】
接着組成物の塗工には、例えば、リバースグラビアコート法,ダイレクトグラビアコート法,ダイコート法,バーコート法,ワイヤーバーコート法,ロールコート法,スピンコート法,ディップコート法,スプレーコート法,ナイフコート法,キスコート法等の各種コーティング法や、インクジェット法、オフセット印刷,スクリーン印刷,フレキソ印刷等の各種印刷法を採用できる。また、接着剤組成物を塗工する前に、基材フィルム12の表面にコロナ処理、プラズマ処理、熱風処理、オゾン処理、紫外線処理等の表面処理を施してもよい。特に、接着剤層14の密着性の観点から、コロナ処理を施すとよい。
【0052】
乾燥及び硬化工程は、接着剤組成物に用いた溶剤等を除去し、硬化させることができれば特に限定されるものではないが、60℃~200℃の温度で20秒~300秒程度行うことが好ましい。特に、乾燥温度は、120℃~130℃が好ましい。接着剤組成物の硬化状態としては、一部未硬化の材料を残すように(半硬化状に)留めておくことが好ましい。
【0053】
養生は、例えば40℃~80℃で3日間~20日間程度が挙げられ、好ましくは60℃で4日間~7日間程度である。上記乾燥および硬化工程、および必要に応じて養生工程を実施することにより、接着剤層14のゲル分率を所定の範囲とすることができ、短時間の接着工程でMEAとの接着性を強固なものとすることができる。
【0054】
接着シート10は、使用するまでは接着剤層14の表面に剥離シートを有していてもよい。剥離シートは接着剤層14の保護材として用いられ、本発明の接着シートを被着体に貼付する際に剥がされる。前記剥離シートとしては、例えば、グラシン紙、コート紙、ラミネート紙などの紙、および各種プラスチックシートにシリコーン樹脂などの剥離剤を塗布したものなどが挙げられる。また接着剤層14が粘着性を有しない場合、少なくとも一方面に粘着性を有するシートを用いてもよい。剥離シートに用いるプラスチックシートとしては、基材フィルム12として挙げたものを適宜使用することができる。剥離シートの厚さとしては特に制限はないが、通常、10μm~150μmである。
【0055】
(接着シートの使用方法)
接着シート10は、MEAのサブガスケットとして用いることができる。この場合に、接着シート10の接着剤層14が形成された面をMEAに接触させて、接着シート10とMEAを積層する。この際、接着シー10の開口部W1にMEAの固体電解質膜が臨むように位置を合わせておく。そして、接着シート10をMEAに押し付ける方向に圧力を印加した状態で加熱し、接着剤層14をMEAに接着させる。圧力としては、0.5~10MPa、加熱温度としては130~170℃、加圧・加熱時間としては3~60秒を例示することができる。そして、加熱圧着工程後、熱処理やエージングなどの硬化処理工程を経なくても、続く発電セルの積層などの工程に使用することができる。
【0056】
<その他の実施形態>
図2は、本発明の第二実施形態にかかる接着シート20の斜視図である。図2に示すように、本発明の第二実施形態にかかる接着シート20は、基材フィルム12と、基材フィルム12の面上に形成された接着剤層14に加え、第二の基材フィルム16を有する。第二の基材フィルム16は、基材フィルム12が設けられたのとは反対側の接着剤層14の面に設けられている。第二の基材フィルム16は、接着剤層14のMEAとは接しない部分において、接着剤層14の面上を被覆している。つまり、第二の基材フィルム16には、基材フィルム12および接着剤層14に設けられた開口部W1よりも大きい(開口部W1全体を内部に含む)貫通孔として、露出口W2が設けられている。そして、露出口W2の内部に、開口部W1を囲む箇所の接着層14が露出している。この露出口W2の内部で露出した接着層14が、接着シート20に重ねたMEAと接触し、MEAと接着されることになる。本実施形態の接着シートは、MEAと接着する露出口W2の内部の箇所以外の部分において、接着剤層14が最表面に露出していないため、接着剤層14への異物の付着を抑制できるとともに、付着した異物等を容易に除去することができる。第二の実施形態にかかる接着シート20のその他の構成としては、上記で説明した第一の実施形態にかかる接着シート10と同様の構成を適用することができる。
【0057】
第二の基材フィルム16は、上記基材フィルム12と同様、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、液晶ポリエステルなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフタルアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、シクロオレフィンコポリマー樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂などが挙げられる。第二の基材フィルム16の高分子材料は、これらのうちの1種のみで構成されていてもよいし、積層等により2種以上の組み合わせで構成されていてもよい。これらのうちでは、耐熱性や機械特性などの観点から、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレートの各樹脂が好ましく、そのれらの樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂材料から第二の基材フィルム16が構成されるとよい。
【0058】
以上に説明した第一形態および第二形態にかかる接着シート10,20においては、基材フィルム12の一方面にのみ接着剤層14(および第二の基材フィルム16)が設けられたが、基材フィルム12の両面に接着剤層14(および第二の基材フィルム16)が設ける形態としてもよい。また、基材フィルム12や第二の基材フィルム16を用いることで、接着シートの取り扱い性が高くなり、MEAとの積層等の操作も行いやすくなるが、基材フィルム12および第二の基材フィルム16を用いず、自立した接着剤膜として、接着剤層14のみより接着シートを構成してもよい。さらに、上記では、接着シート10,20を開口部W1を有する形状に構成し、MEAと積層して用いるサブガスケットの形態としているが、本発明の実施形態にかかる接着シートは、必ずしもサブガスケットを構成するものでなくてもよく、燃料電池においてシールが必要な箇所に、用途に応じた形状に成形して用いることができる。
【実施例
【0059】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。以下、特記しない限り、試料の作製および評価にかかる各工程は、大気中、室温にて実施している。
【0060】
<試料の作製>
(実施例1)
・接着剤組成物の調製
下記ポリウレタン樹脂<1>(トーヨーケム製「VA-9302」)の固形分100質量部に対し、下記エポキシ系架橋剤<1>(トーヨーケム製「HD-901」)を6.0質量部(固形分)加え、さらに固形分濃度が19質量%となるようにトルエンを加えて、接着剤組成物を調製した。
【0061】
・接着シートの作製
ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(東洋紡製「テオネックスQ51」の一方面上に、ベーカー式フィルムアプリケーターを用いて、乾燥後の厚さが10μmとなるように接着剤組成物を塗布し、150℃で3分加熱した。その後、接着剤組成物のPENフィルムで覆われていない面に、剥離フィルム(東山フイルム製「HY-S10」、シリコーン系PET剥離フィルム、厚み25μm)の剥離面を貼り合わせた。さらにその後、60℃で6日間エージングし、接着シートを作製した。
【0062】
(実施例2~11、比較例1~3)
接着剤組成物の配合組成、およびエージング条件を表1に記載の通りとし、上記実施例1と同様にして、それぞれ接着シートを作製した。
【0063】
実施例1~11および比較例1~3の試料の作製に用いた材料は以下のとおりである。
・樹脂<1>:VA-9302(トーヨーケム製、ポリウレタン樹脂、溶剤:トルエン・イソプロパノール、固形分濃度:25.5質量%、反応性官能基:カルボキシ基、酸価:10mgKOH/g)
・樹脂<2>:VA-9320(トーヨーケム製、ポリウレタン樹脂、溶剤:トルエン・イソプロパノール、固形分濃度:25質量%、反応性官能基:カルボキシ基、酸価:10mgKOH/g)
・樹脂<3>:アロンマイティAS-350(東亞合成製、変性エポキシ樹脂、溶剤:トルエン・メタノール・エチレングリコールモノメチルエーテル・ジメチルホルムアミド・キシレン・ジエチレングリコールジメチルエーテル、固形分濃度:30質量%)
・樹脂<4>:VA-9315(トーヨーケム製、ポリウレタン樹脂、溶剤:トルエン・イソプロパノール、固形分濃度:22.0質量%、反応性官能基:カルボキシ基、酸価:10mgKOH/g)
・樹脂<5>:VA-9315H1(トーヨーケム製、ポリウレタン樹脂、溶剤:トルエン・イソプロパノール、固形分濃度:22.2質量%、反応性官能基:カルボキシ基、酸価:10mgKOH/g)
・樹脂<6>:VA-9315H2(トーヨーケム製、ポリウレタン樹脂、溶剤:トルエン・イソプロパノール、固形分濃度:21.3質量%、反応性官能基:カルボキシ基、酸価:10mgKOH/g)
・架橋剤<1>:HD-901(トーヨーケム製、四官能エポキシ樹脂、溶剤:トルエン・メチルエチルケトン、固形分濃度:50質量%、エポキシ当量:200g/eq、軟化点:92℃)
・架橋剤<2>:jER604(三菱ケミカル製、四官能エポキシ樹脂、固形分濃度:100質量%、エポキシ当量:120g/eq、25℃における粘度:8000mPa・s)
・架橋剤<3>:jER630(三菱ケミカル製、三官能エポキシ樹脂、固形分濃度:100質量%、エポキシ当量:98g/eq、25℃における粘度:800mPa・s)
・架橋剤<4>:TETRAD-C(三菱ガス化学製、四官能エポキシ樹脂、固形分濃度:100質量%、エポキシ当量:103g/eq、25℃における粘度:2300mPa・s)
【0064】
<評価方法>
(貯蔵弾性率、ガラス転移温度)
上記で調製した各接着剤組成物を、離型フィルムの離型面に塗布して150℃で3分間乾燥した。さらに接着剤層上に接着剤組成物を塗布し、150℃で3分間乾燥する工程を繰り返して、厚さ0.5mmになるまで積層した。その後所定の条件でエージングして試験用サンプルを作製した。このサンプルに対して、離型フィルムを剥がしたうえで、粘弾性測定装置(TA instrument社製、Discovery HR-2)を用いて、-40℃から150℃におけるせん断貯蔵弾性率(G’)を測定した。測定時の条件としては、せん断モードにて、ジオメトリ:直径8mmパラレルプレート、軸力:1.0N、法線荷重:1.0N、周波数:1Hz、昇温速度:5℃/分とした。
合わせて、損失弾性率(G”)も測定し、上記損失弾性率(G”)を上記貯蔵弾性率(G’)により除した値(G”/G’)として算出される損失正接(tanδ)が最大値となる温度を、ガラス転移温度とした。
【0065】
(ゲル分率)
幅50mm、長さ120mmに切り出した金網(400メッシュ)の質量W1を測定した。上記で作製した接着シートから接着剤層を0.1g採取し、金網で包んで試験片を作製し、この試験片の質量W2を測定した。試験片をガラス瓶に入れ、トルエンを40g注いで軽く振った後、常温(25℃)で76時間静置した。静置後、試験片をガラス瓶から取り出して室温で12時間放置、さらに100℃の真空オーブンで4時間乾燥させた。乾燥後の試験片を室温まで冷却し質量W3を測定し、以下の式よりゲル分率を算出した。
ゲル分率(質量%)=((W3-W1)/(W2-W1))×100
【0066】
(厚さ)
厚さ測定機(テスター産業製、「TH-104」)を用いて、接着シート全体の総厚を測定し、この総厚から基材フィルムおよび剥離フィルムの厚さを除することで、接着剤層の厚さを求めた。
【0067】
(初期剥離力)
接着シートの剥離シートを接着剤層より剥離し、接着剤層の面に固体高分子電解質膜(DuPont製、「Nafion PFSA NR-212」、厚み:50.8μm)を重ね合わせ、アズワン製小型熱プレス機「H400-15」を用いて圧着して、試験用サンプルを作製した。
【0068】
作製した試験用サンプルを常温(23℃)で30分保管後、幅25mm、長さ150mmの大きさに切り出し、JIS Z 0237(2009)の方法に準じ、島津製作所製精密万能試験機「AUTOGRAPH(登録商標) AGS-1kNX、50Nロードセル」を用いて、剥離速度50mm/min、剥離角度180°の条件で、剥離力を測定した。剥離力がおおむね1N/25mmであれば、初期剥離力として十分に大きく、接着を完了できていると言える。
【0069】
(煮沸試験)
上記初期剥離力の評価に用いたサンプルと同様にして作製した試験用サンプルを、幅50mm、長さ50mmの大きさに切り出したものを5枚準備した。それらのサンプルを98℃以上の沸騰水に270時間浸漬し、接着剤層の剥がれ程度を下記の4段階にて目視評価した。
◎:5枚全てにおいて、浮き、剥がれ、ボイドなし。
〇:5枚中2枚以下のサンプルで、端部に長さ1mm未満の浮き、剥がれがあるが、他のサンプルは浮き、剥がれ、ボイドなし。長さ1mm未満の浮きや剥がれ、ボイドは、MAE用サブガスケットの高温高湿環境下での接着状態として許容できるものである。
△:5枚中3枚以上のサンプルで、端部に長さ1mm未満の浮き、剥がれ、またはボイドがあるが、長さ1mm以上の浮き、剥がれがが生じたサンプルはなし。なお、各実施例、比較例で、この段階に分類されるものはなかった。
×:5枚中1枚以上のサンプルで、長さ1mm以上の浮き、剥がれ、またはボイドが見られた。
【0070】
<試験結果>
下の表1に、各試料の構成と評価の結果を示す。接着剤組成物の配合組成については、各成分の含有量を質量部を単位として表示している。
【0071】
【表1】
【0072】
実施例1~11においては、熱硬化型接着シートの接着剤層が、反応性官能基を有するポリウレタン系樹脂と、架橋剤とを含有する接着剤組成物の硬化物から形成され、接着剤層のゲル分率が60質量%以上であり、100℃における貯蔵弾性率(G’100)が5.0×10Pa以上1.0×10Pa以下であり、100℃における貯蔵弾性率(G’100)に対する、120℃における貯蔵弾性率(G’120)の低下率が、0.5以下となっている。そのことと対応して、接着シートが、保存安定性に優れ、初期剥離力の評価結果に示されるように短時間の加熱圧着で接着を完了でき、また煮沸後外観の評価結果に示されるように、高温高湿環境下におかれても、浮き、剥がれ、ボイド等の接着不良を抑制することができることがわかる。なかでも、接着剤層のゲル分率が90質量%以上、貯蔵弾性率の低下率が0.2以下である実施例1,2,4~6では、特に大きな初期剥離力と高湿高温環境への高い耐性が得られている。ガラス転移温度が50℃以上である実施例8~11においても、高温高湿環境への高い耐性が得られている。
【0073】
比較例1および比較例2は貯蔵弾性率の低下率が0.5を超えることと対応して、煮沸試験において接着剤層の剥がれが生じた。特に比較例1は、G’100が5.0×10Pa未満、ゲル分率も60質量%未満であり、接着性が悪く、初期剥離力は測定しなかった。比較例3は、G’100が1.0×10Paを超えることと対応して、接着剤層の接着性が低く、固体高分子電解質膜に接着することができなかった。
【0074】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0075】
10 接着シート
12 基材フィルム
14 接着剤層
16 第二の基材フィルム
W1 開口部
W2 露出口
図1
図2