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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】義歯用磁性アタッチメント
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/235 20060101AFI20241219BHJP
   A61C 13/08 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
A61C13/235
A61C13/08 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024137473
(22)【出願日】2024-08-17
【審査請求日】2024-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2024091298
(32)【優先日】2024-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】713000630
【氏名又は名称】マグネデザイン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 義信
(72)【発明者】
【氏名】菊池 永喜
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 晋平
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特許第7125684(JP,B1)
【文献】特許第7125686(JP,B1)
【文献】特許第7125685(JP,B1)
【文献】特許第3861922(JP,B2)
【文献】特開平10-323356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/20-5/35
A61C 5/70-5/88
A61C 8/00-13/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
義歯に配設される磁石構造体と支台歯の上に配設される軟磁性材料よりなるキーパーとを備え、前記磁石構造体の吸着面と前記キーパーの被吸着面とを当接させることにより両者が磁力による自己吸引力によって互いに吸着するように構成された義歯用磁性アタッチメントにおいて、
前記磁石構造体は、開口部を有するカップ状の形状を有し、その底部と側面部はCr系磁性ステンレス鋼よりなるキャップと前記キャップの凹部に収納する永久磁石と前記キャップの開口部に蓋をするシールドプレートとからなり、
かつ、前記磁石構造体は、直径は1.5mm~5mm、高さ0.8mm~2mmの円柱形状からなり、
前記永久磁石は、最大エネルギー積45MGOe~55MGOe、保磁力10kOe~20kOeとして、厚みは0.5mm~1.6mm、外径は1.2mm~4.6mmの円板状に形成し、
前記キャップは、前記キーパーと当接しない上端側の側面部に0.1mm~0.25mmの突起部からなるフランジ部を有し、前記側面部は側面に沿った並行な繊維状組織からなり、硬さはHv220~Hv300を有し、
前記フランジ部は、キャップ上端側に外方向に下降するR形状の傾斜面を有し、かつ半円弧状の繊維組織からなり、
前記シールドプレートは、外周部は非磁性のCr-Ni系ステンレス鋼からなり、外周部以外は厚み方向に繊維状組織を有するCr-Ni系ステンレス磁石からなり、
前記Cr-Ni系ステンレス磁石は、飽和着磁された状態にてその磁石特性としては8,000~12,000Gの飽和磁化、100Oe~200Oeの保磁力、800G以上の異方性磁界かつ6,000G~10,000Gの残留磁気を有し、
前記キャップ側面部の最端部と前記シールドプレートとの境界部は溶接によって接合され、その
溶接部を含む吸着面は平滑化されており、
前記キーパーは、Cr系軟磁性ステンレス鋼からなる円盤状形状で、平滑化された吸着面を有することを特徴とする義歯用磁性アタッチメント。
【請求項2】
請求項1において、
前記キャップの外周側面は、深さと突起幅が同程度で三角錐的な尖りからなるとげとげ状の凹凸面上に厚さ20μm以下の金属接着剤コーティングを有することを特徴とする義歯用磁性アタッチメント。
【請求項3】
請求項2に記載された義歯用磁性アタッチメントの磁石構造体の製造方法において、
(1)まず、前記磁石構造体を構成する3つの部品であるCr系磁性ステンレス鋼よりなる側面上部にフランジを持つキャップ、円板形状の希土類焼結磁石よりなる永久磁石および円板形状のステンレス磁石製のシールドプレートの母材であるシールドプレートの製作において、
工程a)前記キャップは、Cr系磁性ステンレス鋼板を母材にして冷間加工により円板形状に打ち抜き、
工程b)次いで、後方押出しプレス加工により、キャップを形成するとともにキャップ上端側の側面部に0.1mm~0.25mmの突起部を張り出し、キャップ上端側に外方向に下降するR形状の傾斜面を有し、突起部形状に沿った繊維状組織を形成し、
工程c)さらに、前方押出しプレス加工により、前記突起部の下部面を平坦化したフランジ部を形成し、かつ前記フランジ部は半円弧状の繊維組織からなり、
また、後方押出しプレス加工および前方押出しプレス加工により、キャップ側面部は側面に沿った並行な繊維状組織からなり、
硬さはHv220~Hv300を有し、
工程d)前記シールドプレートは、Cr-Ni系非磁性ステンレス鋼を母材にして、50%以上の冷間引抜をして、60%以上のオーステナイト組織をマルテンサイトに誘起変態させた後、機械加工による輪切りにして、厚みは0.1mm~0.2mm、外径は1.2mm~4.6mmの円板形状のシールドプレートに形成し、このシールドプレートの外周部をレーザー加熱によりオーステナイト相からなるCr-Ni系非磁性ステンレス鋼に戻す非磁性改質を行なって円板の中央部はステンレス磁石素材で外周部は非磁性である複合シールドプレートを形成し、
工程e)前記永久磁石は、最大エネルギー積45MGOe~55MGOe、保磁力10kOe~20kOeとして、厚みは0.5mm~1.6mm、外径は1.2mm~4.6mmの円板状に形成し、
(2)次に、前記キャップと前記複合シールドプレートと前記永久磁石の3つの部品からなる前記磁石構造体の組み立てにおいて、
工程f)前記キャップのホール部に前記永久磁石を装入し、前記複合シールドプレートで蓋をして3部品を組み立て、
工程g)前記キャップと前記複合シールドプレートとの境界部をレーザー溶接し、
(3)そして、組み立てた前記磁石構造体の表面処理・着磁・検査において、
工程h)前記磁石構造体にショットブラストを行なった後、歯科用金属接着剤を塗布し、キュア処理し、
工程i)前記磁石構造体の吸着面を研磨して平滑面にし、
工程j)2T以上の磁界を高さ方向に印加して前記磁石構造体を着磁し、
工程k)前記磁石構造体とキーパーとの吸着力を検査する、
工程からなる複合シールドプレートを利用することを特徴とする磁石構造体の製造方法。
【請求項4】
義歯用磁性アタッチメントの磁石構造体の製造方法において、
(1)まず、磁石構造体を構成する3つの部品であるCr系磁性ステンレス鋼よりなる側面上部にフランジを持つキャップ、円板形状の希土類焼結磁石よりなる永久磁石および円板形状のステンレス磁石製のシールドプレートの母材であるシールドプレートの製作において、
工程a)前記キャップは、Cr系磁性ステンレス鋼板を母材にして冷間加工により円板形状に打ち抜き、
工程b)次いで、後方押出しプレス加工により、キャップを形成するとともにキャップ上端側の側面部に0.1mm~0.25mmの突起部を張り出し、キャップ上端側に外方向に下降するR形状の傾斜面を有し、突起部形状に沿った繊維状組織を形成し、
工程c)さらに、前方押出しプレス加工により、前記突起部の下部面を平坦化したフランジ部を形成し、かつフランジ部は半円弧状の繊維組織からなり、
また、後方押出しプレス加工および前方押出しプレス加工により、キャップ側面部は側面に沿った並行な繊維状組織からなり、
硬さはHv220~Hv300を有し、
工程d)前記シールドプレートは、Cr-Ni系非磁性ステンレス鋼を母材にして、50%以上の冷間引抜をして、60%以上のオーステナイト組織をマルテンサイトに誘起変態させた後、機械加工による輪切りにして、厚みは0.1mm~0.2mm、外径は1.2mm~4.6mmの円板形状のステンレス磁石素材からなるシールドプレートを形成し、
工程e)前記永久磁石は、最大エネルギー積45MGOe~55MGOe、保磁力10kOe~20kOeとして、厚みは0.5mm~1.6mm、外径は1.2mm~4.6mmの円板状に形成し、
(2)次に、前記キャップと前記シールドプレートと前記永久磁石の3つの部品からなる前記磁石構造体の組み立てにおいて、
工程f)前記キャップのホール部に前記永久磁石を装入し、前記シールドプレートで蓋をして3部品を組み立て、
工程g)前記キャップと前記シールドプレートとの境界部をレーザー溶接し、シールドプレート側のレーザー溶接熱影響部を非磁性に改質することにより前記境界部に非磁性部を形成し、
(3)そして、組み立てた前記磁石構造体の表面処理・着磁・検査において、
工程h)前記磁石構造体にショットブラストを行なった後、金属接着剤を塗布し、キュア処理し、
工程i)前記磁石構造体の吸着面を研磨して平滑面にし、
工程j)2T以上の磁界を高さ方向に印加して前記磁石構造体を着磁し、
工程k)前記磁石構造体とキーパーとの吸着力を検査する、
工程からなるレーザー溶接非磁性改質技術を特徴とする磁石構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科医療分野において強い磁石吸引力を利用した義歯を維持固定することができる義歯用磁性アタッチメントに関する。
【背景技術】
【0002】
近年義歯は、X線画像解析装置や3次元の形状測定を使って、口腔内の歯列状態を診断して、コンピュータで義歯を設計し、設計したデジタルデータをもとに、3次元プリンターで製作され始めている。つまり義歯は、精密鋳造デンチャーからデジタルデンチャーへと変わりつつある。
磁石式義歯用磁性アタッチメントは、精密鋳造デンチャーにおいては、歯にやさしい維持装置として使用されてきたが、デジタルデンチャーの製作に当たっては、磁石の自己吸引力を活用して、デンチャーを支台歯に精度よく安定的に維持する装置として期待されている。そのために、吸着力の増加が求められている。
【0003】
従来、磁気吸着力を利用した義歯用磁性アタッチメントとしては、特許文献1に開示されている図11図12の例がある。図11によれば、義歯50を装着するために、人体の歯根部61には根面板62が埋設され、根面板62の中にはキーパー6が埋め込まれている。義歯50は、キーパー6と対向するように設けた義歯用磁性アタッチメント5と、これを包むレジン床63とホウロウ質の人工歯64からなる。
【0004】
本装置は、可能な限り小型で強い吸着力が求められている。一方、より小型化、より強い吸着力の義歯用磁性アタッチメント5はレジン床63から抜けやすいという課題が浮上してくる。この対策として、
以下のような発明が開示されている。
特許文献2において、図13に示すように、外周が略たいこ状である吸引力の向上と脱落防止力の高い磁気アタッチメントが提案されている。
特許文献3において、図14に示すように、キャップの側面にフランジを取り付けることが提案されている。
特許文献4において、接着用レジンによる樹脂層付きの磁石構造体により義歯内に埋め込まれる磁石構造体の密着力の向上と脱落防止対策工程での歯科医師等による手作業工程の手間の削減の製造工程が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献2の略たいこ状の磁気アタッチメントは脱落防止力が向上するもののたいこ部が大きくなって小型化に反するものである。
特許文献3のフランジを取り付ける対策は、脱落防止には効果があるが取り付ける位置がキャップ上面の外周方向により高すぎて吸着力が低下する問題があった。同様に、キャップ側面に切り込みを付ける対策も吸着力が低下する問題があった。
特許文献4の対策は、バレル研磨で粗研磨する方法のためキャップ表面の凹凸は滑らかな状態で接着レジンを塗布しているため密着力の向上は十分でなかった。
また、歯科医師がキャップの表面にサンドブラスト処理して金属接着剤を刷毛で塗布する方法は品質にばらつきを生じやすく品質面で不安が残る対策であった。
さらに、特許文献5には、図2に示すように、シールドプレートにステンレス磁石を採用することからその残留磁気の強度により800~1000gfに増加し、従来品の1.4倍以上の強力な吸着力が可能となってきている。
よって、小型化、強い吸着力に対応できる脱落を防止する対策が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-227253号公報
【文献】特開平10-127664号公報
【文献】特開2011-224109号公報
【文献】特開2001-112791号公報
【文献】特許第7125684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
脱落防止の従来の対策は、キャップの側面に切削加工によりフランジ部(つば部ともいう。)または切込みを設けることである。
しかし、切込みは十分な脱落防止を付与しようとすると、図3に示すようにキャップ部内の磁束の流れを乱して吸着力を低下させる欠点があった。また、レジン床のレジンと切込み内部のレジンとの関係からして脱落防止力は次の突起方式に比べると低下している。
突起方式(フランジ)は、その大きさは大きいほど効果的であるがアタッチメントの最大径を大きくすると義歯への埋設が困難になるとともに、義歯が破損しやすくなる。突起を設ける位置として、突起下の長さが短くなると脱落防止機能が弱くなるので、従来はアタッチメントの上面に合わせて突起を付けていた。しかし、図4に示すように磁束の流れを乱し、突起の付け根部で磁束渦が発生して吸着力を低下させる欠点があった。
本発明の課題は、脱落防止機能を有するとともに吸着力の低下を抑制するフランジ付きの義歯用磁性アタッチメントを提供することである。
なお、高い吸引力と、十分な磁気的遮断性と優れた溶接強度を有する溶接部からなり、合わせて工程の簡素化を図る発明は、本発明者らによって特許第7125684号公報により開示している。
本願は、その発明を改良したもので、引用しながら本発明の課題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、強い吸着力を発生させる磁石構造体において複合磁石からの磁束の流れを乱さないフランジ部の形状・位置・大きさおよびその製造方法について鋭意検討した。
磁束の流れは、図5に示す流れにすることにより磁束渦の発生などの乱れのない整流化とすることができる。永久磁石とステンレス磁石とからなる複合磁石からの磁束はキャップ上部(キャップの底部に相当する。)では中央部から周辺部に拡散して流れ、キャップ側面では上部から下部へと流れる。そこで周辺部へ流れてきた磁束の流れをキャップ側面の上部の曲面で受け止め滑らかな流れの整流にすることによってフランジ内部に発生する渦や乱れを防ぐことができる。
その手段として、キャップ上端部に外方向にR状に下降する傾斜面でもって、磁束の流れを誘導することである。さらに、キャップ上端部の外方向にR状に下降する傾斜面を有するフランジ部位の材料の組織は滑らかな繊維状組織とすることにより、その繊維状組織に沿って磁束が流れるようにすることができる。
すなわち、フランジ部の外周部の断面は扇状であり、扇のR形状が年輪の1/4程度の繊維状組織からなり、かつフランジ部の下部からキャップの側面へ向かって小さな逆R形状の繊維状組織からなっている。
【0009】
フランジ部の位置について、フランジ上端部はキャップ上端部から外方向に延びており、次第に傾斜面で低下している。フランジ部の下端(下面)は、図5ではキャップの内側の底面とほぼ同じ位置にあり、その下端は平坦状である。
次に、フランジ部の幅、言い換えるとキャップ側面から突起部は0.1mm~0.25mmが好ましい。突起部が0.1mm未満の場合には脱落防止力が確保できない。逆に0.25mmを超えると脱落防止力は向上するがアタッチメントの小型化にはならない。
【0010】
さらに、永久磁石とステンレス磁石との複合磁石化による磁気吸着力は、図2に示すように、1000gfレベルに対応するために磁石構造体の表面を深さと突起幅が同程度で三角錐的な尖りからなるとげとげ状の凹凸面とし、その凹凸面上に厚さ20μm以下の強力な金属接着剤を塗布し、キュア処理することに想到した。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、永久磁石とシールドプレートに採用されたCr-Ni系ステンレス磁石との複合磁石によって実現された高い吸引力を義歯用磁性アタッチメントに強い脱落防止機能を付与して、高い吸着力のメリットを如何なく発揮できるようにしたものである。また、製造方法の簡素化と溶接部の高強度化を可能にしたものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】義歯用磁性アタッチメントの断面を示す図である。
図2】磁気吸着力に及ぼすCr-Ni系ステンレス磁石の残留磁気との関係を示す図である。
図3】切込み(機械加工)における磁束の乱れを示す図である。
図4】フランジ(機械加工)における磁束の乱れを示す図である。
図5】R形状からなる傾斜面を有するフランジ(冷間加工)における整流化した磁束の流れを示す図である。
図6】(a)後方押出しプレス加工により形成された突起部と突起部形状に沿った繊維状組織、(b)前方押出しプレス加工により形成されたフランジ部とその繊維状組織、(c)過度の前方押出しプレス加工によるキャップ底面のコーナー部クラックを示す図である。
図7】シールドプレートを示す図である。
図8】磁石構造体の溶接部の一例を示す図である。
図9】磁石構造体の溶接部の他の例を示す図である。
図10】ショットブラストによりとげとげ状の凹凸面となっている磁石構造体の表面のSEM写真である。
図11】従来例における、義歯を説明する図である。
図12】従来例における、義歯用磁性アタッチメントの断面を示す図である。
図13】従来例における、たいこ状付きの義歯用磁性アタッチメントの断面を示す図である。
図14】従来例における、フランジ付き義歯用磁性アタッチメントの断面を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第1の実施形態は次の通りである。
本発明の義歯用磁性アタッチメントは、
義歯に配設される磁石構造体と支台歯の上に配設される軟磁性材料よりなるキーパーとを備え、前記磁石構造体の吸着面と前記キーパーの被吸着面とを当接させることにより両者が磁力による自己吸引力によって互いに吸着するように構成された義歯用磁性アタッチメントにおいて、
前記磁石構造体は、開口部を有するカップ状の形状を有し、その底部と側面部はCr系磁性ステンレス鋼よりなるキャップと前記キャップの凹部に収納する永久磁石と前記キャップの開口部に蓋をするシールドプレートとからなり、
かつ、前記磁石構造体は、直径は1.5~5mm、高さ0.8~2mmの円柱形状からなり、
前記永久磁石は、最大エネルギー積45MGOe~55MGOe、保磁力10kOe~20kOeとして、厚みは0.5mm~1.6mm、外径は1.2mm~4.6mmの円板状に形成し、
前記キャップは、前記キーパーと当接しない上端側の側面部に0.1mm~0.25mmの突起部からなるフランジ部を有し、かつ前記側面部は側面に沿った並行な繊維状組織からなり、硬さはHv220~Hv300を有し、
前記フランジ部は、キャップ上端側に外方向に下降するR形状の傾斜面を有し、かつ半円弧状の繊維組織からなり、
前記シールドプレートは、外周部は非磁性のCr-Ni系ステンレス鋼からなり、外周部以外は厚み方向に繊維状組織を有するCr-Ni系ステンレス磁石からなり、
前記Cr-Ni系ステンレス磁石は、飽和着磁された状態にてその磁石特性としては8,000G~12,000Gの飽和磁化、100Oe~200Oeの保磁力、800G以上の異方性磁界かつ6,000G~10,000Gの残留磁気を有し、
前記キャップ側面部の最端部と前記シールドプレートとの境界部は溶接によって接合され、その溶接部を含む吸着面は平滑化されており、
前記キーパーは、Cr系軟磁性ステンレス鋼からなる円盤状形状で、平滑化された吸着面を有することを特徴とする。
これにより、高い磁気吸着力を有する磁石式義歯用磁性アタッチメントが得られるとともに義歯からの脱落を防止することができる。
【0014】
また、前記キャップの外周側面は、深さと突起幅が同程度で三角錐的な尖りからなるとげとげ状の凹凸面上に厚さ20μm以下の金属接着剤コーティングを有することを特徴とする。
これにより、さらに高い磁気吸着力を有する義歯用磁性アタッチメントの脱落防止が可能となる。
【0015】
本発明の第2の実施形態は次の通りである。
本発明の義歯用磁性アタッチメントの磁石構造体の製造方法は、
(1)まず、磁石構造体を構成する3つの部品であるCr系磁性ステンレス鋼よりなる側面上部にフランジを持つキャップ、円板形状の希土類焼結磁石よりなる永久磁石および円板形状のステンレス磁石製のシールドプレートの母材であるシールドプレートの製作において、
工程a)前記キャップは、Cr系磁性ステンレス鋼板を母材にして冷間加工により円板形状に打ち抜き、
工程b)次いで、後方押出しプレス加工により、キャップを形成するとともにキャップ上端側の側面部に0.1mm~0.25mmの突起部を張り出し、キャップ上端側に外方向に加工するR形状の傾斜面を有し、かつ突起部形状に沿った繊維状組織を形成し、
工程c)さらに、前方押出しプレス加工により、前記突起部の下部面を平坦化したフランジ部を形成し、かつフランジ部は半円弧状の繊維組織からなり、
また、後方押出しプレス加工および前方押出しプレス加工により、キャップ側面部は側面に沿った並行な繊維状組織からなり、
硬さはHv220~Hv300を有し、
工程d)前記シールドプレートは、Cr-Ni系非磁性ステンレス鋼を母材にして、50%以上の冷間引抜をして、80%以上のオーステナイト組織をマルテンサイトに誘起変態させた後、機械加工による輪切りにして、厚みは0.1mm~0.2mm、外径は1.2mm~4.6mmの円板形状のシールドプレートに形成し、このシールドプレートの外周部をレーザー加熱によりオーステナイト相からなるCr-Ni系非磁性ステンレス鋼に戻す非磁性改質を行なって円板の中央部はステンレス磁石素材で外周部は非磁性である複合シールドプレートを形成し、
工程e)前記永久磁石は、最大エネルギー積45MGOe~55MGOe、保磁力10KOe~20KOeとして、厚みは0.5mm~1.6mm、外径は1.2mm~4.6mmの円板状に形成し、
(2)次に、前記キャップと前記複合シールドプレートと前記永久磁石の3つの部品からなる前記磁石構造体の組み立てにおいて、
工程f)前記キャップのホール部に前記永久磁石を装入し、前記複合シールドプレートで蓋をして3部品を組み立て、
工程g)前記キャップと前記シールドプレートとの境界部を溶接し、
(3)そして、組み立てた前記磁石構造体の表面処理・着磁・検査において、
工程h)前記磁石構造体にショットブラストを行なった後、金属接着剤を塗布し、キュア処理し、
工程i)前記磁石構造体の吸着面を研磨して平滑面にし、
工程j)2T以上の磁界を高さ方向に印加して前記磁石構造体を着磁し、
工程k)前記磁石構造体とキーパーとの吸着力を検査する、
工程からなることを特徴とする。
これにより、従来の切削加工からプレス加工への変更により、脱落防止機能を確保しつつ工程の簡素化を図ることが可能となる。
【0016】
また、工程d)において、高周波加熱によりシールドプレートの外周部を非磁性改質してもよい。
さらに、工程d)においてはシールドプレートの形成のみにして、(2)においてシールドプレートとキャップと永久磁石の組み立てを行い、キャップとシールドプレートとの境界部のレーザー溶接と同時にレーザー溶接熱によりシールドプレートの外周部を非磁性化してもよい。
このレーザー溶接非磁性改質技術により、複合シールドプレートを形成するためのレーザー加熱または高周波加熱を省略し工程の簡素化が可能となる。
【0017】
義歯用磁性アタッチメントおよび義歯用磁性アタッチメントの製造方法について、図1~11を用いて説明する。
義歯用磁性アタッチメント10は、図1に示すように、磁石構造体101とキーパー102とから構成されている。磁石構造体101は義歯床63に配設されて磁気吸着力を発揮している。一方、キーパーは支台に配設される軟磁性材料からなる。両者の関係は、一方は磁石構造体に吸着面が設けられ、他方はキーパーには被吸着面が設けられており、吸着面と被吸着面とは当接されることにより両者が磁気吸着力によって互いに吸着し、吸着されるように構成されている。
さらに、両者の磁気吸着力によって、図11に示すように、磁石構造体5が義歯床63から脱落しないように磁石構造体5の形状として磁石構造体101に突起部からなるフランジ11を設け、磁石構造体の101の吸着面を除く表面にはショットブラストによって形成された凹凸面に金属接着剤を塗布しキュア処理している。
以下、詳細に説明する。
【0018】
<磁石構造体101>
磁石構造体101は、永久磁石2と永久磁石2を収容するフランジ11付きのキャップ1とキャップの開口部の蓋をするシールドプレート3から構成される。
その大きさは、直径は1.5mm~5mmにて高さは0.8mm~2mmの円柱形状からなる。これらの寸法は人工歯の形状に適合するものである。大きすぎると義歯が割れやすくなり、小さすぎると十分な吸着力が得られない。
【0019】
<キャップ1>
Cr系磁性ステンレス鋼製のキャップ1は、18Crステンレス鋼、18Cr-2Moステンレス鋼などの軟磁性Crステンレス鋼板を母材にして冷間加工により作製する。円板形状に打ち抜き、それを後方押し出しプレス加工・前方押出しプレス加工の組合せにより、キーパーと当接しない上端側の側面に0.1mm~0.25mmの突起部、すなわちフランジの幅からなるフランジ11を有する円柱形状の容器を作製する。
【0020】
図6に、(a)後方押出しプレス加工により形成された突起部と突起部形状に沿った繊維状組織、(b)前方押出しプレス加工により形成されたフランジ部とその繊維状組織、(c)過度の前方押出しプレス加工をした場合によるキャップ面のコーナー部クラックを示す。
後方押出しプレス加工により、キャップを形成するとともにキャップ上端側の側面部に材料が張り出して突起部を形成し、突起部形状に沿った繊維状組織が形成される。これにより、硬さと磁気吸着力は得られるが、突起部の下面は滑らかなR形状からなる丸みを有するために、突起部を有するものの十分な脱落防止機能は発揮されていない。
その対策として、突起部の下面を平坦化するための前方押出しプレス加工を追加し、フランジ部を完成する。
【0021】
フランジ部11の位置は、上面はキャップの上端面とほぼ同じであり、下面は上面からキャップ1の上部の厚みと同程度に相当する位置である。前方押出しプレス加工において、押しすぎてキャップ1上部の厚みより薄くなると、図6(c)に示すように、キャップ底面のコーナー部にクラックが発生しやすくなる。
フランジ部11の形状は、キャップ1の上端面に外方向に下降するR形状の傾斜面を有し、その内部組織は半円弧状の繊維組織よりなる。フランジ部の下面は、R形状の傾斜面の端部から平坦面となり、円筒側面に向かって小さなR形状に周りこんでいる。
【0022】
冷間加工により作製される容器の硬さは、繊維状組織によりHv220~Hv300と硬化している。硬さがHv220より小さい場合には、キャップ1の側面部の最端部の吸着面を構成する部位(リング)の耐研磨性および研磨後の吸着面としての耐摩耗性が十分でない。また、その部位の硬さは、シールドプレートのマルテンサイト組織の硬さHv350に比べて柔らかすぎると研磨時にその部位(リング)の外周部がだれて平坦な吸着面が形成されがたく、磁気吸着力低下の一要因にもなる。なお、好ましくはHv260~Hv280の硬さがよい。
その磁気特性は、保磁力Hcは50Oe以下にてBsは1.3T以上が好ましい。これにより十分な磁気吸着力を得ることができる。
【0023】
フランジ部11は加工硬化によりHv250~300と硬化している。Hv220未満の硬さでは、義歯床から磁石構造体101の脱落防止力が十分でなく、Hv300を超えると磁気吸着力の低下につながる。
また、半円弧上の繊維組織は複合磁石からの磁束の流れにおいて、図5に示すように、キャップ1内の流れの中で乱れを生じさせやすいフランジ部11の流れの整流化に寄与する。
キャップ1の側面部は、側面に沿った並行な繊維状組織からなり、磁束の流れを円滑にしている。
【0024】
<永久磁石2>
永久磁石2は、Nd-Fe-B系磁石(NdFeB磁石)など希土類磁石が好ましい。NdFeB磁石では、最大エネルギー積BHmaxは大きいほど好ましいので、BHmaxは45MGOe~55MGOeとする。BHmax45MGOe未満の最大エネルギー積では十分な磁気吸着力を得ることができない。汎用的なNdFeB磁石の上限を考慮してBHmax55MGOeとする。保磁力iHcは、大きいほど好ましいが、大きすぎると着磁が困難になる。保磁力iHcは、10kOe~20kOeとする。
キャップ1内に収納する永久磁石の大きさは、厚みは0.5mm~1.6mm、外径は1.2mm~4.6mmの円盤状である。
【0025】
<シールドプレート3>
シールドプレート3は、円板状形状で、外周部は非磁性32で、外周部以外はCr-Ni系ステンレス磁石31からなっている。Cr-Ni系ステンレス磁石は厚み方向に繊維状組織を有し、その方向に着磁されており、その性能は、飽和磁化は8,000G以上、保磁力は100Oe~200Oe、異方性磁界は800G以上で、かつ残留磁気を6,000G以上とした。特に残留磁気を大きくするほど、図2に示すように、磁気吸着力は増加するので、6,000G以上確保することが重要である。Cr-Ni系ステンレス磁石31とキャップ1に収容されている永久磁石2とよりなる複合磁石を形成し大きな磁気吸着力を実現している。
同時にシールドプレート3は、キャップとの境界部を溶接して、永久磁石2を口腔内の唾液などから保護し腐食から守っている。さらにシールドプレート3の非磁性部は、複合磁石とキャップとを磁気的に遮断し、磁気吸着力の低下を防止している。
【0026】
<Cr-Ni系ステンレス磁石の製造方法>
先ず、Cr-Ni系ステンレス製のプレート磁石の製造方法は、図7(A)に示すように、オーステナイト相のCr-Ni系ステンレス鋼棒を50%以上の冷間引抜加工により60%以上のマルテンサイト変態を生ぜしめ、そこから輪切りして、厚み方向の繊維状組織を持つシールドプレート311を作製する。このシールド311板の大きさは、厚みは0.1mm~0.2mm、外径は1.2mm~4.6mmである。
次に、このマルテンサイト変態状態よりなる半硬質磁性材料のシールドプレート311の外周部をレーザー加熱してオーステナイト相からなるCr-Ni系ステンレス鋼32に戻す非磁性改質を行なう。その幅は0.15mm~0.3mm、厚みはシールドプレートの厚みと同じで、具体的には0.05mm~0.20mmである。これにより、中央部は半硬質磁性材料からなるとともに外周部は非磁性材料(非磁性部)からなる複合シールドプレート312を作製する(図7(B))。
なお、シールドプレート311の外周部の加熱には、高周波加熱でもよい。
このシールドプレート311および複合シールドプレート312の着磁は、電磁石を用いて3,000Oe~4,000Oeの磁界を円板の厚み方向に印可して行ない永久磁石とする。また、複合シールドプレート312とNdFeB磁石2を重ねて、一緒にパルス着磁をしてもよい。
なお、プレート磁石の製造方法は、残留磁気を6,000G以上確保する方法であれば、上記方法に限るものではない。
【0027】
<磁石構造体101の組み立て>
Cr系磁性ステンレス鋼よりなるキャップ1に永久磁石2を装入し、キャップ1の開口部に蓋としてのCr-Ni系非磁性ステンレス鋼32とCr-Ni系半硬質磁性ステンレス311鋼よりなる複合シールドプレート312を圧入して磁石構造体を組み立てる。
【0028】
次に、Cr系磁性ステンレス鋼のキャップ1の側面部の最端部と複合シールドプレート312のリング状のCr-Ni系ステンレス鋼32との境界部(接合部)の表面側をレーザー溶接する。図8に示すように、レーザー溶接により形成される溶接部33は、Cr系磁性ステンレス鋼1とCr-Ni系ステンレス鋼32を溶け込ました合金にてδフェライト相が微量に析出するので、非磁性部32の幅は十分な長さを確保して溶接部は非磁性改質部の内側まで至らないようにすることが必要である。その結果磁気的遮断は完全にすることができる。
本方法はレーザー溶接の条件は接合強度を確保するための条件を考慮するだけでよい。非磁性部32とCr-Ni系ステンレス磁石31との境界は左右に直線状となっている。なお、溶接部33のサイズは、幅0.1mm~0.25mm(シールドプレート側の幅は0.05mm~0.125mm)、深さはシールドプレートとの厚みの50%~90%である。
【0029】
また、Cr系磁性ステンレス鋼よりなるキャップ11に永久磁石12を装入し、キャップ11の開口部に蓋としてのCr-Ni系半硬質磁性ステンレス鋼よりなるシールドプレート131を圧入して磁石構造体を組み立てる。
【0030】
次に、Cr系磁性ステンレス鋼のキャップ11の側面部の最端部とシールドプレート131のCr-Ni系半硬質磁性ステンレス鋼との境界部(接合部)の表面側をレーザー溶接する。複合シールドプレートを使用しない場合、図9に示すように、レーザー溶接により境界部の接合と同時に溶接凝固部131aのシールドプレート131側の外周部に溶接熱による熱影響部131bが非磁性化される。
磁石素材と非磁性改質部の境界部は、溶接による凝固部131aの丸みの影響を受けて、丸みを有する形状の熱影響部(非磁性部)131bが形成される。凝固部131aはCr系磁性ステンレス鋼1とCr-Ni系ステンレス鋼を溶け込ました合金にてδフェライト相が析出はしているが、周辺の熱影響部に形成される非磁性部131bによって、磁気的遮断は完全にすることができる。
レーザー溶接の条件は、接合強度の確保と溶接熱による非磁性部の形成と溶接熱伝達による内部の磁石の熱ダメージ(すなわち磁石特性の劣化)の回避を可能とする条件とするものとする。レーザー溶接の熱量の調整により接合と非磁性部の形成を同時に行うことが実現できる。具体的には溶接溶け込み深さを、内部の磁石にダメージを与えない範囲でシールドプレートの厚み一杯に拡大して熱影響部を最大限に大きくすることである。
なお、溶接部131aのサイズは、幅0.1mm~0.25mm、深さはシールドプレートの厚みの90%~100%である。
【0031】
<磁石構造体の表面処理と検査>
磁石構造体のキャップの外周面に、50~100μmのサイズのアルミナ粉末によるショットブラストを行なう。その外周面には、アルミナ粉末の表面の破砕粒により、図10に示すように、深さと突起幅が同程度で三角錐的な尖りからなるとげとげ状の凹凸面が形成される。この凹凸面に金属接着剤を塗布してキュア処理を行う。
とげとげ状の凹凸面からなるCr系磁性ステンレス鋼のキャップ1と金属接合剤は複雑に絡み合って強固な結合力が形成され、この金属接着剤と義歯床のレジンとの間に大きな凝着力を得ることができ、脱落防止力のさらなる改善を図ることができる。
なお、金属接着剤の厚さは、10~20μmである。とげとげ状の凹凸の深さを覆うような10μm以上の厚さが少なくとも必要であり、20μmを超える大きな厚さは塗布量、塗布時間およびキュア処理時間などの生産性の点から好ましくない。
【0032】
キーパー102と当接する磁石構造体101の吸着面は平坦面である。上記の表面処理を終えた磁石構造体の溶接部を含む吸着面は研磨により平坦面とする。
冷間加工により形成されたキャップは、繊維状組織を有するとともに加工硬化によりフランジ部の硬さはHv280であった。また、キャップ端面(吸着面となるリング)の硬さはHv270にて、耐研磨性も良好でリングの外周の研磨だれも生じなかった。
【0033】
<キーパー102の作製>
キーパー102は、Cr系軟磁性ステンレス鋼板を円板状の所定のサイズに打ち抜いて作製する。その被吸着面も研磨により平坦面となっている。なお、キーパーとしては、ルートキーパほか各種の形状のものがあるが、いずれも上面は磁石構造体との被吸着面である。
なお、キーパーの被吸着面の硬さが磁石構造体の硬さより低い場合には、打ち抜く前にCr系軟磁性ステンレス鋼板を冷間加工により硬化させてもよい。また、キーパーの被吸着面に厚み3~8μmのCr拡散層を形成して硬くしてもよい。これにより、キーパーの耐摩耗性が向上してキーパーの寿命が長くなる。
【0034】
<磁石構造体の着磁>
磁石構造体1に組み込まれた永久磁石2、例えば実施例1に使用したNdFeB系磁石の保磁力は11kOe~12kOeを有している。このNeFeB系磁石を着磁するためには少なくとも保磁力以上の磁界を印加する必要があり、高すぎる磁界による印加は不要であり設備的にも困難である。そこで通常はその保磁力11kOeの場合は、1.1T~3.6Tの磁界を印加して行っている。義歯用磁性アタッチメントの磁石構造体に使用するNdFeB系磁石の保磁力iHcは、10kOe~20kOeであるので、着磁においては2T以上の磁界とすれば十分である。しかし設備の制約上4T以下とすべきである。
【0035】
検査は、磁石構造体101の吸着面とキーパー102の被吸着面とを接合して上下方向に引張試験機により、引張強さを求めて磁気吸着力とする。
磁気吸着力は、800gf~1000gfを得ることができる。
【0036】
<脱落防止試験>
最後に、脱落防止試験を行なった。試験方法は、図11に示す義歯床63に相当するレジンからなる仮義歯に磁石構造体5に相当する本発明の磁石構造体10を埋設し、その磁石構造体10を固定する引張治具を作製する。仮義歯と引張治具とを引張試験機にて引っ張ってその引張強さを求めた。
本発明のキャップ1にフランジ11を設けることにより、直径4.0mmにて高さ1.5mmの磁石構造体の引張強さは40~60kgfで、さらに表面処理を追加することにより60kgf~75kgfである。比較として、フランジおよび表面処理を行なわない場合は15kgf~25kgfであった。
【実施例
【0037】
[実施例1]
本発明にかかる義歯用磁性アタッチメントおよびその製造方法について、図1、6~10を用いて説明する。
本例の義歯用磁性アタッチメント10は、図1に示すように、磁石構造体101は永久磁石2と、永久磁石2を収納する容器であるフランジ11付きのキャップ1と、キャップ1の凹所開口部の蓋となるシールドプレート3とからなり、キーパー102とともに構成されている。
【0038】
磁石構造体101の構成について、説明する。
永久磁石2は、組成はNdFeB系磁石にて、そのBHmaxは52MGOe、保磁力iHcは11kOe,Msは1.33Tである。サイズは直径3.0mm、高さ0.8mmにて、コーナーにはR部が形成されている。
キャップ1は、18Cr-2Moステンレス鋼にて、その保磁力Hcは30Oe、飽和磁束密度Bsは16kGである。サイズは直径3.8mm、高さ1.3mmである。
【0039】
その製造方法は、厚さ0.3mmの18Cr-2Moステンレス鋼板を直径6.4mmの円板状
に打ち抜いて、次いで絞り加工・押し出し加工法により直径3.8mm、高さ1.3mmの円筒状
の容器としたものである。
そして、キャップ1の上端面の側面部にはR形状の0.25mmの突起部を有するフランジ11
が形成されている。そのフランジ11の高さは円筒容器の底の厚みと同じ0.25mmであった。
【0040】
シールドプレート3は、円板状で、外周部は非磁性32で、外周部以外は18Cr-8Niステンレス磁石31からなっている。18Cr-8Niステンレス磁石31は厚み方向に繊維状組織を有し、その方向に着磁されており、その性能は、飽和磁化は8,500G、保磁力は150Oe、異方性磁界は860G、かつ残留磁気は6,400Gである。18Cr-8Niステンレス磁石3とキャップ1に収容されている永久磁石2と複合磁石を形成し大きな磁気吸着力を実現している。
同時にシールドプレート3は、キャップとの境界部を溶接して、NdFeB磁石2を口腔内の唾液などから保護し腐食から守っている。さらにシールドプレート3の非磁性部は、複合磁石とキャップ1とを磁気的に遮断し、磁気吸着力の低下を防止している。
【0041】
NdFeB磁石2をキャップ1に装入し、次いでキャップ1の凹所開口部に蓋となる複合シールドプレートを圧入して、18Cr-2Mo磁性ステンレス鋼のキャップ1と複合シールドプレートのリング状の18Cr-8Niステンレス鋼32との接合部の表面側をレーザー溶接する。溶接部33の幅は0.3mm、深さは0.08mmとした。
この磁石構造体101の着磁は2.5Tの磁界を印加して行った。
【0042】
次に、キーパー102は、18Cr-2Moステンレス鋼にて、その保磁力は11kOe,飽和磁束密度Bsは16kGである。
【0043】
本発明のCr系磁性ステンレス鋼のフランジ付きかつ表面処理を施したキャップとCr-Ni系ステンレス鋼磁石とから構成される義歯用磁性アタッチメントと、従来の軟磁性ステンレス鋼のキャップとシールプレートから構成される義歯用磁性アタッチメントについて、磁気吸着力の比較試験を行なった。両者ともにサイズおよび永久磁石等は同じで、磁石式か軟磁性ステンレス鋼式かの相違のみである。
その結果、従来の義歯用磁性アタッチメントは600gfに対して、本発明の義歯用磁性アタッチメントは920gfと磁気吸着力は53%の向上が得られた。
また、脱落防止試験では、引張強さは55kgfであった。従来品の23kgfに対して大幅に改善された。
【0044】
[実施例2]
実施例1において、複合シールドプレートの代わりにシールドプレートを用いて、組み立て~レーザー溶接を行なった。特性については、実施例1と同等であった。
【0045】
実施例2のキャップ1に表面処理を行なった。
70μmのアルミナ粉末を噴出圧力4kgf/mmにて10秒間のショットブラストであった。金属接着剤に浸漬してその厚みは12μmで、自然乾燥によるキュア処理を行なった。
その結果、脱落防止試験では、引張強さは62kgfと向上していた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、複合磁石の採用により従来品の1.4倍以上の高い磁気吸着力を有する義歯用磁性アタッチメントが義歯から脱落することなく使用することが可能となり、幅広い普及が期待される。
【符号の説明】
【0047】
10:磁性アタッチメント
101:磁石構造体
102;キーパー
1;キャップ(フランジ付きキャップ)
2;永久磁石
3;シールドプレート
31;Cr-Ni系ステンレス磁石(外周部以外)
32;Cr-Ni系ステンレス鋼の非磁性部(外周部)
33;溶接部
301;半硬質磁性材料
311;シールドプレート
312;複合シールドプレート
11;キャップ(フランジ付きキャップ)
12;永久磁石
131;半硬質磁性材料(シールドプレート)
131a;溶接部(凝固部)
131b;熱影響部(非磁性部)

















【要約】      (修正有)
【課題】優れた脱落防止力、高い磁気吸着力と、十分な磁気的遮断性と優れた溶接強度を有する溶接部からなり、併せて工程の簡素化を図る。
【解決手段】永久磁石2を収容するCr系磁性ステンレス鋼のキャップ1に後方押出しプレス加工と前方押出しプレス加工との組合せ冷間加工により突起部よりなるフランジを設けるとともに磁石構造体の吸着面を除く外表面にはとげとげ状の凹凸面に金属接着剤を塗布・キュア処理を施し、キャップ1の凹所開口部の蓋であるシールドプレート3は外周部以外31には18Cr-8Niステンレス鋼磁石とその外周部32は非磁性改質した18Cr-8Niステンレス鋼の非磁性部からなり、キャップ1とシールドプレート3の非磁性部からなる外周部32の境界部をレーザー溶接による溶接部を形成する。キーパー102は、Cr系軟磁性ステンレス鋼からなる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14