(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】塗料組成物及び光触媒塗膜
(51)【国際特許分類】
C09D 133/02 20060101AFI20241219BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20241219BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241219BHJP
【FI】
C09D133/02
C09D5/02
C09D7/61
(21)【出願番号】P 2024141647
(22)【出願日】2024-08-22
【審査請求日】2024-08-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524056329
【氏名又は名称】株式会社シーエヌアーツ
(73)【特許権者】
【識別番号】524056330
【氏名又は名称】日本ナノテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】中園 実
(72)【発明者】
【氏名】前田 晶平
(72)【発明者】
【氏名】松永 奉文
(72)【発明者】
【氏名】平尾 雅典
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-003787(JP,A)
【文献】特開2014-136785(JP,A)
【文献】国際公開第2014/017575(WO,A1)
【文献】特開2018-062546(JP,A)
【文献】特開2008-081712(JP,A)
【文献】特開2022-130240(JP,A)
【文献】特開2017-101155(JP,A)
【文献】特開2010-188226(JP,A)
【文献】特表2006-512463(JP,A)
【文献】特開2001-089704(JP,A)
【文献】特開2003-252625(JP,A)
【文献】特開2004-136178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00- 10/00
101/00-201/10
B01J 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒を含む塗料組成物であって、
ペルオキソチタン酸とアンモニウムイオンとを含み、酸化チタン微粒子が水中に分散したものにおいて、
平均粒径が50nm以下の酸化チタン微粒子を塗料組成物の総重量に対して0.4重量%~13.4重量%の範囲で含み、
30万以上80万以下の重合平均分子量を有する
ポリアクリル酸及びポリアクリル酸塩の少なくとも一方が水中に分散したエマルジョン型アクリル系粘着剤を、塗料組成物の総重量に対して0.15重量%~3.0重量%の割合で含むことを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
酸化チタン以外の金属及び金属化合物並びに金属イオンの少なくとも1つ以上を更に含むことを特徴とする請求項
1記載の塗料組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の塗料組成物から形成されることを特徴とする光触媒塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒を含む塗料組成物及びこれを用いた光触媒塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、光の照射により触媒作用を示す物質であり、触媒作用で生ずる活性酸素やヒドロキシラジカルは、細菌やウイルス等の有機物を分解する。これに着目して、人の手指が触れる各種製品の表面部分(以下、「基材表面ともいう」)に光触媒を含む光触媒塗膜を形成することがある。光触媒塗膜の形成に利用される塗料組成物としては例えば特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
このものでは、光触媒としての酸化チタン微粒子を水中に分散させた分散液を塗料組成物とし、酸化チタン微粒子を基材表面に結合させるバインダーが含まれていない。そのため、基材表面に微細な凹凸があれば、塗料組成物を基材表面に塗布したときに、凹部に酸化チタン微粒子が入り込み、この状態で硬化することで(即ち、アンカー効果により)、基材表面に定着することになる。一方、製品の部分が例えば樹脂製であり、基材表面が平滑であるような場合、酸化チタン微粒子を効果的に定着させることができず、光触媒塗膜が剥がれ易くなって耐久性が劣るという問題がある。また、基材表面に対する酸化チタン微粒子の定着性を向上させるため、基材表面に例えばバインダーを含む下地膜を形成した後、この下地膜上に酸化チタン微粒子を含む塗料組成物を塗装して光触媒塗膜を形成することもできるが、これでは塗装工程が煩雑になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、各種製品の表面状態を問わず、優れた耐久性を発揮する光触媒塗膜及びそれに用いられる塗料組成物を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の光触媒を含む塗料組成物は、ペルオキソチタン酸とアンモニウムイオンとを含み、酸化チタン微粒子が水中に分散し、平均粒径が50nm以下の酸化チタン微粒子を塗料組成物の総重量に対して0.4重量%~13.4重量%の範囲で含み、30万以上80万以下の重合平均分子量を有するポリアクリル酸及びポリアクリル酸塩の少なくとも一方が水中に分散したエマルジョン型アクリル系粘着剤を、料組成物の総重量に対して0.15重量%~3.0重量%の割合で含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の光触媒塗膜は、上記塗料組成物から形成されることを特徴とする。ここで、本願発明者らの鋭意研究の結果、次のことを知見するのに至った。即ち、ペルオキソチタン酸とアンモニウムイオンとを含み、酸化チタン微粒子が分散した塗料組成物に、30万以上80万以下の重合平均分子量を有するアクリル系共重合体が水中に分散したエマルジョン型アクリル系粘着剤を、その総重量に対して0.15重量%~3.0重量%で配合して塗装して得られた光触媒塗膜は、その緻密度が向上することを知見するのに至った。このような知見を基に、上記塗料組成物を塗装して得られる光触媒塗膜は、上記アクリル系粘着剤を含まないものと比較して、酸化チタン微粒子同士の強固性が増強され、酸化チタン微粒子の基材表面に対する定着性が向上することで、光触媒塗膜の硬度が飛躍的に向上する。本発明の光触媒塗膜は、樹脂製の基材表面に塗装されたものでも、JIS K 5600-5-4に基づく引っかき硬度(鉛筆法)試験で4H以上の硬度を有し、優れた耐久性を発揮する。また、本発明の塗料組成物を基材表面に直接塗装すれば、上記硬度を有する光触媒塗膜が得られるため、下地膜等を形成する必要がなく、塗装工程が煩雑にならない。なお、本発明の塗料組成物に含まれるアクリル系粘着剤は、酸化チタン微粒子を基材表面に結合させるものではなく、酸化チタン微粒子同士の強固性を増強させ、より強固に硬化させる役割を担う。
【0009】
また、本発明の光触媒塗膜は、光触媒塗膜中の酸化チタン微粒子がバインダーに埋もれてしまうといった不具合が生じず、酸化チタン微粒子が塗膜表面に表出される。その結果、酸化チタン微粒子の表面は光照射を受けやすくなると共に、酸化チタン微粒子の表面と細菌やウイルス等の有機物との接触面が増加することで、光触媒塗膜の光触媒作用が向上する。また、本発明の光触媒塗膜は、88%以上の可視光線透過率を有する透明膜であり、印字や着色等が施された基材表面に光触媒塗膜を塗装した場合でも、基材表面の印字等の視認性は損なわれない。なお、本発明において、バインダーとは、アクリル、エポキシやウレタン等の有機材料を主成分とする有機バインダーや、シリカ、アルミナや酸化亜鉛等の無機材料を主成分とする無機バインダーをいう。
【0010】
また、本発明の塗料組成物は、酸化チタン以外の金属及び金属化合物並びに金属イオンの少なくとも1つ以上を更に含むことが好ましい。この場合、例えば金属化合物として酸化銅(CuO)等の銅化合物や金属イオンとして銀イオン(Ag+)を含む塗料組成物を塗装して得られる光触媒塗膜は、光照射を受けていないときでも、銅化合物や銀イオンにより、細菌やウイルス等の有機物を分解することができる。また、酸化チタン以外の金属や金属化合物を含むことで、酸化チタンの光触媒作用を可視光領域で増感させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の光触媒塗膜の可視光線透過率を示すスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、光触媒として酸化チタン微粒子を水中に分散して含む塗料組成物及びこれを塗装して得られる光触媒塗膜を例に本発明の実施形態を説明する。酸化チタン微粒子とは、平均粒径が50nm以下(代表的な粒径が4nm~20nm)であるものをいう。酸化チタン微粒子の粒径が50nmよりも大きくなると、酸化チタン微粒子が凝縮し、沈殿し易くなる等の不具合が生じる。また、酸化チタン微粒子の平均粒径は、透過電子顕微鏡により酸化チタン微粒子の画像を撮像及び解析する等の公知の方法により求めることができるため、詳細な説明は省略する。
【0013】
塗料組成物を得るのに際しては、先ず、ペルオキソチタン酸とアンモニウムイオンとを含み、酸化チタン微粒子が分散した酸化チタン微粒子分散液を調製する。酸化チタン微粒子分散液の調製には、例えば、上記特許文献(特許第2875993号公報)記載の方法が利用できるが、酸化チタン微粒子分散液はこれに限定されず、他の方法により調製したものや市販のものを用いることができる。酸化チタン微粒子の原料となるチタン含有物質としては、例えば水酸化チタン、酸化チタンや水酸化チタンゲル等の微粒子が分散した分散液を用いることができる。水酸化チタンゲルを原料とする場合、塩化チタン、硫酸チタン等の無機チタン化合物の水溶液をアンモニアや水酸化ナトリウム等と反応させる等の方法によって調製したものを用いることができる。そして、分散液中の水酸化チタンゲルや酸化チタン等の微粒子を分離し、これら微粒子を懸濁した懸濁液に過酸化水素水を混合することで、水酸化チタンや酸化チタン等を反応させて、ペルオキソチタン酸溶液を調製する。
【0014】
溶液中の未反応の過酸化水素を分解させた後、この溶液を95℃~100℃の温度で4時間~8時間加熱する。これにより、ペルオキソ基を有するアナターゼ型酸化チタンの結晶核が生じ、表面がペルオキソ基で修飾されたアナターゼ型酸化チタン微粒子が水中に分散した酸化チタン微粒子分散液が得られる。また、この時、酸化チタン微粒子分散液のpH(例えば7~8.6)やイオン強度(例えばアンモニウムイオン濃度が100ppm~500ppmの範囲となるように)を適宜調整する。得られた酸化チタン微粒子分散液中には、ペルオキソチタン酸とアンモニウムイオンとが含まれ、ペルオキソチタン酸の少なくとも一部は、アンモニウムイオンが配位したペルオキソチタン錯体として存在する。このペルオキソチタン錯体は、全体としてプラスの電荷を帯びており、この電荷によって、ペルオキソチタン酸錯体が吸着した酸化チタン微粒子が、互いに反発することで、酸化チタン微粒子の凝集を防ぎ、酸化チタン微粒子が水中に安定して分散する。このため、上記方法で酸化チタン微粒子分散液を調製する場合、酸化チタン微粒子を水中に分散させる分散剤や有機溶媒等の助剤が不要となる(言い換えると、上記方法で得られる酸化チタン微粒子分散液には、水以外に特別な助剤等が含まれない)。また、上記酸化チタン微粒子分散液を用いて得られる本発明の塗料組成物には、ペルオキソチタン酸が塗料組成物の総重量に対して0.09重量%~0.4重量%の範囲で含まれることが好ましく、酸化チタン微粒子(酸化チタン)が塗料組成物の総重量に対して0.4重量%~13.4重量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0015】
次に、酸化チタン微粒子分散液にアクリル系粘着剤を混合して塗料組成物を得る。アクリル系粘着剤としては、アクリル系共重合体が水性媒体等の溶媒に分散したエマルジョン型アクリル系粘着剤等(例えば、藤倉化成株式会社製、商品名「LKG-1101」、「LKG-1102」、「LKG-1104」、「LKG-1202A」、DIC株式会社製、商品名「ボンコートW-26」、「ボンコートW-386」、東亞合成株式会社製、商品名「HV-C9500」等)を用いることができる。この場合、アクリル系粘着剤に含まれるアクリル系共重合体の分子量(重合平均分子量)は、30万以上80万以下の範囲であることが好ましい。アクリル系共重合体の分子量が30万未満では、十分な粘着性が得られないため、酸化チタン微粒子同士の強固性が増強されず、これを塗装して得られる光触媒塗膜の硬度が4H以上とならない。一方で、アクリル系共重合体の分子量が80万を超えると、塗料組成物中の酸化チタン微粒子の凝縮・沈殿が生じ易くなり、これを塗装して得られる光触媒塗膜の硬度は4H以上とならない。また、アクリル系粘着剤に含まれるアクリル系共重合体としては、ポリアクリル酸ナトリウムやポリアクリル酸カリウム等のポリアクリル酸塩やポリアクリル酸が好ましい。なお、エマルジョン型アクリル系粘着剤のpHは中性域(7~8.6)であることが好ましく、カチオン系やアニオン系のアクリル系共重合体、また、ポリアクリル酸塩等と比較して極性が高いスチレン・アクリル酸共重合体を主成分とするエマルジョン型アクリル系粘着剤や、アルコール等の有機溶媒や分散剤等が含まれるエマルジョン型アクリル系粘着剤を用いる場合には、アクリル系粘着剤を混合することで、酸化チタン微粒子の沈殿を誘発する虞がある。
【0016】
また、塗料組成物中のアクリル系粘着剤の濃度は、塗料組成物の総重量に対して0.15重量%~3.0重量%の範囲であることが好ましい。アクリル系粘着剤の濃度が塗料組成物の総重量に対して0.15重量%未満の塗料組成物では、これを塗装して得られる光触媒塗膜の硬度が4H以上とならない。一方で、アクリル系粘着剤の濃度が塗料組成物の総重量に対して3.0重量%を超えると、塗料組成物中の酸化チタン微粒子の凝縮・沈殿が生じ、これを塗装して得られる光触媒塗膜の硬度は4H以上とならない。また、これを塗装して得られる光触媒塗膜は、白濁した塗膜になってしまうといった不具合が生じる。
【0017】
酸化チタン微粒子分散液にアクリル系粘着剤を混合する際には、例えば不溶性の固体粒子や酸化チタン以外の金属及び金属化合物並びに金属イオン等、基材表面との濡れ性を向上させるための界面活性剤等を添加剤として加えることができる。金属及び金属化合物としては、例えば、窒化チタン(TiN)、炭化チタン(TiC)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ジルコニウム(Zr)及び、これらの金属の酸化物、窒化物や炭酸塩等の金属化合物のうち、少なくとも1種以上を加えることができる。また、金属イオンとしては、例えば、銅イオン、銀イオン、金イオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、ニオブイオン、コバルトイオン、マンガンイオン、ジルコニウムイオン及びこれら金属イオンを含む錯体のうち、少なくとも1種以上を加えることができる。これらの添加剤は、アクリル系粘着剤を混合する前の酸化チタン微粒子分散液またはアクリル系粘着剤が混合された塗料組成物に添加・混合することができる。
【0018】
上記のようにしてアクリル系粘着剤が混合された塗料組成物が得られると、これを基材表面に塗布することで光触媒塗膜を得ることができる。具体的には、アクリル系粘着剤が混合された塗料組成物を、20ml/m2~40ml/m2となるように基材表面に塗布する。なお、塗料組成物の塗布には、例えばスプレーコータが用いられるが、塗布方法はこれに限定されるものではない。そして、塗料組成物を基材表面に塗布した後、塗料組成物を乾燥させることで、基材表面に光触媒塗膜が形成される。これにより得られる光触媒塗膜は、JIS K 5600-5-4に基づく引っかき硬度(鉛筆法)試験で4H以上の硬度を有する。なお、乾燥方法は、室温で乾燥させる方法や乾燥機を用いる方法等、公知のものを利用できる。
【0019】
以上説明したように、本実施形態によれば、30万以上80万以下の重合平均分子量を有するアクリル系共重合体が水中に分散したエマルジョン型アクリル系粘着剤が、塗料組成物の総重量に対して0.15重量%~3.0重量%の割合で含まれることで、本実施形態の塗料組成物を塗装して得られる光触媒塗膜は、塗装される製品の表面状態を問わず、4H以上の硬度を有し、優れた耐久性を発揮する。また、塗料組成物を基材表面に直接塗装すれば、4H以上の硬度を有する光触媒塗膜が得られるため、塗装工程が煩雑になることもない。
【0020】
また、本実施形態の塗料組成物及びこれを塗装して得られる光触媒塗膜にはバインダーが含まれず、酸化チタン微粒子の表面が表出される。このため、酸化チタン微粒子の表面は光照射を受けやすくなると共に酸化チタン微粒子の表面と細菌やウイルス等の有機物との接触面が増加することで、光触媒塗膜の光触媒作用が向上する。また、この光触媒塗膜は、88%以上の可視光線透過率を有する透明膜であるため、印字や着色等が施された基材表面に光触媒塗膜を塗装する場合でも、基材表面の印字等の視認性が損なわれない。
【0021】
また、塗料組成物が銀イオン(Ag+)等を更に含む場合には、塗料組成物を塗装して得られる光触媒塗膜は、光の照射を受けていないときでも、銀イオン等により、細菌やウイルス等の有機物を分解することができる。また、酸化チタン以外の金属や金属化合物を含むことで、酸化チタンの光触媒作用を可視光領域で増感させることができる。以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。
【0022】
[実施例1]
0.6重量%の四塩化チタン水溶液1000mlに、2.5重量%のアンモニア水を110ml滴下し、沈殿した水酸化チタンを分離した。分離した水酸化チタンを180mlの蒸留水に懸濁し、この懸濁液に、30重量%の過酸化水素水を20ml混合してペルオキソチタン酸を得た。溶液中の未反応の過酸化水素水を分解させた後、溶液を100℃で6時間加熱した。そして、この時、アンモニア水を適宜滴下して、pH及びアンモニウムイオン濃度を調整した。これにより、ペルオキソチタン酸濃度が固形分量で0.23重量%、アンモニウムイオン濃度が300ppm、また酸化チタン微粒子の平均粒径が20nm以下であり、酸化チタンを固形分量で1.11重量%含む酸化チタン微粒子分散液を調製した。次に、この酸化チタン微粒子分散液72mlに蒸留水18mlを加えたものに対し、蒸留水で20重量%に調整したエマルジョン型アクリル系粘着剤(藤倉化成株式会社製、商品名「LKG-1101」、重合平均分子量43万のアクリル系共重合体溶液)を10ml混合し、塗料組成物の総重量に対して固形分量で0.17重量%のペルオキソチタン酸と塗料組成物の総重量に対して固形分量で0.8重量%の酸化チタンとを夫々含み、また塗料組成物の総重量に対して2.0重量%のエマルジョン型アクリル系粘着剤を含む塗料組成物を調製した。そして、5cm四方のABS樹脂製の基板を基材とし、この基板の片面に上記塗料組成物を30ml/m2となるように塗布した後、室温で2時間乾燥させて、厚さが約0.1μmの光触媒塗膜を得た。このようにして得られた光触媒塗膜が形成されたABS樹脂製の基板を複数枚作製し、これらを試験片として、JIS K 5600-5-4に基づいて、鉛筆(三菱鉛筆株式会社、ユニ)硬度を評価したところ、光触媒塗膜の硬度は4Hであった。
【0023】
また、上記塗料組成物を用いて、白板強化ガラス板(厚み0.1cm)の片面に、上記塗料組成物を30ml/m
2となるように塗布した後、室温で2時間乾燥させて、厚さが約0.1μmの光触媒塗膜を得た。この光触媒塗膜が形成されたガラス板の可視光線透過率を測定した。測定したスペクトルを
図1中、実線で示す。
図1のスペクトルから求めた可視光線(380nm~780nm)の平均透過率は88%であった。なお、上記塗料組成物を塗布する前の白板強化ガラス板の可視光線透過率を測定したスペクトルを
図1中、一点鎖線で示す。
図1のスペクトルから求めた可視光線(380nm~780nm)の平均透過率は90%であった。
【0024】
[実施例2]
酸化チタン微粒子分散液72mlに、蒸留水に代えて0.28重量%の銀イオン(Ag+)水18mlを加えたものに対し、エマルジョン型アクリル系粘着剤(20重量%)を10ml混合する(即ち、塗料組成物中の銀イオン濃度を0.05重量%とする)点以外は、上記実施例1と同様の方法で塗料組成物を調製した。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により試験片を作製して鉛筆硬度を評価したところ、その硬度は4Hであった。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により光触媒塗膜が形成されたガラス板を作製し、その可視光線透過率を測定したところ、平均透過率は88%以上であった。また、当該試験片について、以下の条件で、抗菌性及び抗ウイルス性を評価した。
<抗菌性試験>
抗菌性試験は、JIS Z 2801:2010の抗菌性試験方法に準拠し、フィルム密着法により行った。具体的には、上記試験片と上記塗料組成物が塗布されていないABS樹脂製基板とに、試験菌液として大腸菌液を夫々滴下した後、24時間培養した。そして、「log(塗料組成物が塗布されていないABS樹脂製基板1cm2当たりの培養後生菌数)-log(試験片1cm2当たりの培養後生菌数)」の式から、上記試験片の抗菌活性値を算出したところ、抗菌活性値は6.1であった。なお、抗菌活性値は、2.0以上であれば、抗菌性を有するものとして判断される。
<抗ウイルス活性試験>
抗ウイルス活性試験は、ISO 21702の抗菌性試験方法に準拠し、フィルム密着法により行った。具体的には、上記試験片と上記塗料組成物が塗布されていないABS樹脂製基板とに、試験ウイルス液としてインフルエンザウイルス懸濁液を夫々滴下した後、24時間静置した。そして、塗料組成物が塗布されていないABS樹脂製基板の24時間静置後のウイルス感染価(PFU/cm2)の常用対数の平均と試験片の24時間静置後のウイルス感染価(PFU/cm2)の常用対数の平均との差より、抗ウイルス活性値を算出したところ、上記試験片の抗ウイルス活性値は、4.3であった。なお、抗ウイルス活性値は、2.0以上であれば、抗ウイルス性を有するものとして判断される。
【0025】
[比較例1]
酸化チタン微粒子分散液72mlに蒸留水18mlを加えたものに対し、エマルジョン型アクリル系粘着剤に代えて、蒸留水10mlを混合する(即ち、塗料組成物にエマルジョン型アクリル系粘着剤を含まない)点以外は、上記実施例1と同様の方法で塗料組成物を調製した。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により試験片を作製して鉛筆硬度を評価したところ、その硬度は2Hであった。
【0026】
[比較例2]
酸化チタン微粒子分散液72mlに蒸留水22mlを加えたものに対し、蒸留水で2.0重量%に調整したエマルジョン型アクリル系粘着剤を0.6ml混合する(即ち、塗料組成物の総重量に対してエマルジョン型アクリル系粘着剤を0.12重量%含む)点以外は、上記実施例1と同様の方法で塗料組成物を調製した。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により試験片を作製して鉛筆硬度を評価したところ、その硬度は2Hであった。
【0027】
[実施例3]
酸化チタン微粒子分散液72mlに蒸留水20.5mlを加えたものに対し、蒸留水で2.0重量%に調整したエマルジョン型アクリル系粘着剤を7.5ml混合する(即ち、塗料組成物の総重量に対してエマルジョン型アクリル系粘着剤を0.15重量%含む)点以外は、上記実施例1と同様の方法で塗料組成物を調製した。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により試験片を作製して鉛筆硬度を評価したところ、その硬度は4Hであった。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により光触媒塗膜が形成されたガラス板を作製し、その可視光線透過率を測定したところ、平均透過率は88%以上であった。
【0028】
[実施例4]
酸化チタン微粒子分散液72mlに蒸留水25.5mlを加えたものに対し、エマルジョン型アクリル系粘着剤(20重量%)を2.5ml混合する(即ち、塗料組成物の総重量に対してエマルジョン型アクリル系粘着剤を0.5重量%含む)点以外は、上記実施例1と同様の方法で塗料組成物を調製した。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により試験片を作製して鉛筆硬度を評価したところ、その硬度は4Hであった。
【0029】
[実施例5]
酸化チタン微粒子分散液72mlに蒸留水13mlを加えたものに対し、エマルジョン型アクリル系粘着剤(20重量%)を15ml混合する(即ち、塗料組成物の総重量に対してエマルジョン型アクリル系粘着剤を3.0重量%含む)点以外は、上記実施例1と同様の方法で塗料組成物を調製した。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により試験片を作製して鉛筆硬度を評価したところ、その硬度は4Hであった。
【0030】
[比較例3]
酸化チタン微粒子分散液72mlに蒸留水12mlを加えたものに対し、20重量%のエマルジョン型アクリル系粘着剤を16ml混合する(即ち、塗料組成物の総重量に対してエマルジョン型アクリル系粘着剤を3.2重量%含む)点以外は、上記実施例1と同様の方法で塗料組成物を調製した。このものでは、塗料組成物中の酸化チタン微粒子の凝縮・沈殿が生じることが確認された。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により試験片を作製したところ、得られた光触媒塗膜は白濁した塗膜であり、また鉛筆硬度を評価したところ、その硬度は2Hであった。
【0031】
[比較例4]
エマルジョン型アクリル系粘着剤として、蒸留水で20重量%に調整済みのエマルジョン型アクリル系粘着剤(大成ファインケミカル株式会社製、商品名「1HY-3025」、重合平均分子量25万のアクリル系共重合体溶液)を用いる点以外は、上記実施例1と同様の方法で塗料組成物を調製した。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により試験片を作製して鉛筆硬度を評価したところ、その硬度は2Hであった。
【0032】
[実施例6]
エマルジョン型アクリル系粘着剤として、蒸留水で20重量%に調整済みのエマルジョン型アクリル系粘着剤(藤倉化成株式会社製、商品名「LKG-1104」、重合平均分子量30万のアクリル系共重合体溶液)を用いる点以外は、上記実施例1と同様の方法で塗料組成物を調製した。上記実施例1と同様の方法で塗料組成物を調製した。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により試験片を作製して鉛筆硬度を評価したところ、その硬度は4Hであった。
【0033】
[実施例7]
エマルジョン型アクリル系粘着剤として、蒸留水で20重量%に調整済みのエマルジョン型アクリル系粘着剤(藤倉化成株式会社製、商品名「LKG-1202A」、重合平均分子量60万のアクリル系共重合体溶液)を用いる点以外は、上記実施例1と同様の方法で塗料組成物を調製した。上記実施例1と同様の方法で塗料組成物を調製した。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により試験片を作製して鉛筆硬度を評価したところ、その硬度は4Hであった。
【0034】
[実施例8]
エマルジョン型アクリル系粘着剤として、蒸留水で20重量%に調整済みのエマルジョン型アクリル系粘着剤(藤倉化成株式会社製、商品名「LKG-1102」、重合平均分子量77万のアクリル系共重合体溶液)を用いる点以外は、上記実施例1と同様の方法で塗料組成物を調製した。上記実施例1と同様の方法で塗料組成物を調製した。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により試験片を作製して鉛筆硬度を評価したところ、その硬度は4Hであった。
【0035】
[比較例5]
エマルジョン型アクリル系粘着剤として、蒸留水で20重量%に調整済みのエマルジョン型アクリル系粘着剤(藤倉化成株式会社製、商品名「LKG-1008A」、重合平均分子量100万のアクリル系共重合体溶液)を用いる点以外は、上記実施例1と同様の方法で塗料組成物を調製した。このものでは、塗料組成物中の酸化チタン微粒子の凝縮・沈殿が生じることが確認された。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により試験片を作製したところ、得られた光触媒塗膜は白濁した塗膜であり、また鉛筆硬度を評価したところ、その硬度は2Hであった。
【0036】
[実施例9]
酸化チタン微粒子分散液40mlに蒸留水50mlを加えたものに対し、エマルジョン型アクリル系粘着剤(20重量%)を10ml混合する(即ち、塗料組成物の総重量に対して固形分量で0.09重量%のペルオキソチタン酸と、塗料組成物の総重量に対して固形分量で0.4重量%の酸化チタンとを夫々含む)点以外は、上記実施例1と同様の方法で塗料組成物を調製した。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により試験片を作製して鉛筆硬度を評価したところ、その硬度は4Hであった。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により光触媒塗膜が形成されたガラス板を作製し、その可視光線透過率を測定したところ、平均透過率は88%以上であった。
【0037】
[実施例10]
酸化チタン微粒子分散液90mlに対し、エマルジョン型アクリル系粘着剤(20重量%)を10ml混合する(即ち、塗料組成物の総重量に対して固形分量で0.2重量%のペルオキソチタン酸と、塗料組成物の総重量に対して固形分量で1.0重量%の酸化チタンとを夫々含む)点以外は、上記実施例1と同様の方法で塗料組成物を調製した。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により試験片を作製したところ、その硬度は4Hであった。
【0038】
[実施例11]
酸化チタン粉体(テイカ株式会社製、商品名「AMT-100」、酸化チタン微粒子の平均粒径6nm)を用いて、分散液の総重量に対して固形分量で1.0重量%の酸化チタンを含む酸化チタン微粒子分散液(ペルオキソチタン酸濃度0.2重量%、アンモニウムイオン濃度300ppm)を調整した。この分散液90mlに対し、上記実施例1と同じく蒸留水で20重量%に調整したエマルジョン型アクリル系粘着剤(重合平均分子量43万のアクリル系共重合体溶液)を10ml混合し、上記実施例1と同様の方法で塗料組成物を調製した。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により試験片を作製して鉛筆硬度を評価したところ、その硬度は4Hであった。
【0039】
[実施例12]
酸化チタン微粒子分散液72mlに、蒸留水に代えて0.28重量%の酸化銅(CuO)溶液18mlを加えたものに対し、エマルジョン型アクリル系粘着剤を10ml混合する(即ち、塗料組成物中の酸化銅濃度を0.05重量%とする)点以外は、上記実施例1と同様の方法で塗料組成物を調製した。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により試験片を作製して鉛筆硬度を評価したところ、その硬度は4Hであった。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例1と同様の方法により光触媒塗膜が形成されたガラス板を作製し、その可視光線透過率を測定したところ、平均透過率は88%以上であった。
【0040】
[比較例6]
エマルジョン型アクリル系粘着剤に代えて、無機バインダーとして1.2重量%の酸化ケイ素溶液を10ml混合する点以外は、上記実施例2と同様の方法で塗料組成物を調製した。また、この塗料組成物を用いて、上記実施例2と同様の方法により試験片を作製して抗菌性及び抗ウイルス性を評価したところ、抗菌活性値、抗ウイルス活性値とも上記実施例2で得られた光触媒塗膜と比べて低い値を示した。
【0041】
上記実施例1~12及び比較例1~6の各塗料組成物の概要及びこれらを塗装して得られた光触媒塗膜の硬度を纏めて表1に示す。上記実施例1~12より、30万以上80万以下の重合平均分子量を有するアクリル系共重合体が水中に分散したエマルジョン型アクリル系粘着剤が、塗料組成物の総重量に対して0.15重量%~3.0重量%の割合で含まれるものでは、ABS樹脂製の基材表面に塗装された光触媒塗膜で、4H以上の硬度が得られた。これに対し、エマルジョン型アクリル系粘着剤を含まない、またはエマルジョン型アクリル系粘着剤が含まれる場合でも、塗料組成物の総重量に対してアクリル系粘着剤の濃度が0.15重量%未満の上記比較例1,2、アクリル系粘着剤に含まれるアクリル系共重合体の分子量が30万未満の上記比較例4では、4H以上の硬度が得られなかった。これらの結果より、30万以上の重合平均分子量を有するアクリル系共重合体が水中に分散したエマルジョン型アクリル系粘着剤が、塗料組成物の総重量に対して0.15重量%以上の割合で含まれるものを塗装して得られた光触媒塗膜では、優れた耐久性を発揮することが判った。一方で、エマルジョン型アクリル系粘着剤が塗料組成物の総重量に対して3.0重量%を超過する上記比較例3、アクリル系粘着剤に含まれるアクリル系共重合体の重合平均分子量が80万を超過する上記比較例5では、塗料組成物中の酸化チタン微粒子の凝縮・沈殿が生じ、4H以上の硬度が得られないことから、エマルジョン型アクリル系粘着剤としては、アクリル系共重合体の重合平均分子量が30万以上80万以下であり、そのようなエマルジョン型アクリル系粘着剤が塗料組成物の総重量に対して0.15重量%~3.0重量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0042】
【0043】
また、上記実施例9~12より、塗料組成物中の酸化チタン微粒子の種類や酸化チタン微粒子の量(酸化チタンの濃度)、ペルオキソチタン酸濃度やアンモニウムイオン濃度が変化しても、エマルジョン型アクリル系粘着剤を塗料組成物の総重量に対して0.15重量%~3.0重量%の範囲で含むものであれば、これらを塗装して得られた光触媒塗膜でも4H以上の硬度を発揮することが判った。
【0045】
また、上記実施例2,12より、酸化チタン微粒子及びエマルジョン型アクリル系粘着剤以外の添加剤として銀イオンや酸化銅を含むものでも、これら添加剤は光触媒塗膜の硬度に影響を与えず、エマルジョン型アクリル系粘着剤を塗料組成物の総重量に対して0.15重量%~3.0重量%の範囲で含むものであれば、これを塗装して得られた光触媒塗膜では4H以上の硬度を発揮することが判った。なお、上記実施例2,12の光触媒塗膜は、光の照射を受けていないときでも、光触媒塗膜に含まれる銀イオンや酸化銅により、細菌やウイルス等の有機物を分解することができる。また、上記実施例2で得られた光触媒塗膜は、バインダーが含まれる光触媒塗膜(上記比較例6)と比べて、抗菌活性値や抗ウイルス活性値が高く、バインダーが含まれないことで、抗菌活性値や抗ウイルス活性値が向上されることが確認された。
【0046】
なお、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。上記実施例では、酸化チタン微粒子として、表面がペルオキソ基で修飾されたアナターゼ型酸化チタン微粒子、表面が酸性リン酸エステルで修飾された酸化チタンナノ粒子分やルチル型酸化チタン微粒子が分散するものを例に説明したが、酸化チタン微粒子はこれに限定されない。酸化チタン微粒子として、例えば鉄イオン、銅やハロゲン化物等の担持物を用いることもできる。
【0047】
また、上記実施例では、樹脂製の基材として、ABS樹脂製の基板を用いるものを例に説明したが、これに限定されず、PBT樹脂、POM樹脂、アクリル樹脂、PC樹脂等の樹脂製の基材に塗装する場合にも本発明を適用することができる。
【要約】
【課題】各種製品の表面状態を問わず、優れた耐久性を発揮する光触媒塗膜及びそれに用いられる塗料組成物を提供する
【解決手段】光触媒を含む塗料組成物は、ペルオキソチタン酸とアンモニウムイオンとを含み、酸化チタン微粒子が水中に分散し、30万以上80万以下の重合平均分子量を有するアクリル系共重合体が水中に分散したエマルジョン型アクリル系粘着剤を、塗料組成物の総重量に対して0.15重量%~3.0重量%の割合で含む。
【選択図】なし