(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】導電性と耐摩耗性に優れたアルミニウム金属材料およびその製造法。
(51)【国際特許分類】
C25D 11/04 20060101AFI20241219BHJP
C25D 11/12 20060101ALI20241219BHJP
C25D 11/14 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C25D11/04 302
C25D11/12 A
C25D11/14 C
C25D11/14 E
C25D11/14 H
(21)【出願番号】P 2020115220
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】595179549
【氏名又は名称】株式会社アート1
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】田中 成憲
(72)【発明者】
【氏名】秋本 政弘
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/065095(WO,A1)
【文献】特開昭63-170490(JP,A)
【文献】特開2010-071557(JP,A)
【文献】特開平07-173684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/04
C25D 11/12
C25D 11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面と素地との間の電気抵抗は1×10
-2Ω以下の性能を持ち、耐摩耗性は往復運動平面摩耗試験の硬質条件にて測定値が50ds/μm以上であり、
皮膜断面硬度がビッカース硬さ試験でHV300超、HV470未満であって、
中性塩水噴霧試験で720時間での耐食性がRN(レイティングナンバー)7以上であり、
目視にて正面から見たときにクラックが観察されず、
電磁波シールド効果が周波数500KHz~1GHzの範囲において電界と磁界が30dB以上であり、
陽極酸化皮膜の赤外線放射率を被測定物質の測定温度を100℃とし、黒体の放射率を100%(1.00)としたときの全放射率は波長3~6μmの中赤外線領域において75%(0.75)以上であり、波長3~25μmの中~遠赤外線領域において80%(0.80)以上の陽極酸化皮膜を有する陽極酸化皮膜を有することを特徴とする、アルミニウム又はその合金からなる材料。
【請求項2】
陽極酸化皮膜の耐熱性が300℃で2週間の耐熱試験において加熱前と加熱後の色差(ΔE)が3.0以下の陽極酸化皮膜を有することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム又はその合金からなる材料。
【請求項3】
陽極酸化皮膜の耐熱性が500℃で1時間の耐熱試験において加熱前と加熱後の色差(ΔE)が3.0以下の陽極酸化皮膜を有することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム又はその合金からなる材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の材料の製造法であって、
アルミニウム又はその合金の陽極酸化に際し、液組成として第1電解液は硫酸系、スルファミン酸系、有機酸系の脂肪族または芳香族のスルホン酸、カルボン酸もしくはその無水物またはそれらの塩の1種または2種以上を用いて第1電解を行い、
第2電解として第1電解液と同一の電解液中にて段階的に電圧を下げて実質的に0Vまで下げて第2電解を終了し、
第3電解として金属を含んだ酸性溶液中にて1~5秒で電圧を20~50Vまで上げ、5~60秒後に0Vへの一挙に下げ、
第4電解として第3電解と同一液にて電流密度0.1~3.0A/dm
2、電圧3~30Vで、電解時間2~30分、15~30℃で電解を行うこと特徴とする、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム又はその合金からなる材料の製造法。
【請求項5】
アルミニウムまたはその合金の電解処理の波形は、直流波形、交流波形、交直重畳波形、パルス波形、PRパルス波形の単独又は2つ以上の組合せた波形を用いることを特徴とする請求項4に記載のアルミニウム又はその合金材料の製造法。
【請求項6】
電解方法の第1電解を、有機系の電解液に無機酸を添加剤として用いて液温-10~40℃、電解時間10~120分で、電流密度0.6~4.0A/dm
2、10~150V電解法または1サイクルにおける正電流の平均電流密度0.1~10A/dm
2、負電流の平均電流密度0.0~10A/dm
2の条件とし、
第2電解を、同一液中にて第1電解の最終電圧から0Vまで、1~10V下げ、10~120秒保持、1~10V下げ、10~120秒保持の繰り返しで段階的に10Vまで下げ、10~120秒保持後、7V,5V,3V,2V,1Vと順次0Vまで下げ、合計5~60分の条件とする、請求項4に記載のアルミニウム又はその合金からなる材料の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性と耐摩耗性に優れたアルミニウム金属材料及びその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム陽極酸化皮膜は絶縁材料として開発されたが、加飾技術、耐食技術、硬さ・耐摩耗性技術等の改良を行うことにより今日のアルミニウムの発展の一翼を担ってきた。例えば、加飾と耐食技術によりビルのカラーパネル、窓枠のカラーサッシ、日用雑貨品のカラー化等があり、硬さ・耐摩耗性技術により摺動性の必要とされる機械部品の軽量化、耐食技術により屋外でのエクステリア、水中カメラ等が軽量化になり、多方面にアルミニウムが使われるようになった。今後、アルミニウムを今以上に発展させるには、素材の開発は勿論のこと、陽極酸化皮膜の出発点である絶縁材料を打破し、導電性を有し軽量で加工がしやすい優位さを利用して電気、電子、半導体分野に進出する必要に迫られ、従来の特性に加えて導電性を有する陽極酸化皮膜の開発、実用化が待ち望まれていた。例えば、陽極酸化皮膜は静電気によるスパークで電子回路を破損する事故、スマホ、衛星放送、タクシー無線等に使用されている中波~極超短波の磁界シールド効果が出せずに、表面にめっきを行なうことによって対応してきたが、めっき液の処理及び廃棄、再生時に重金属が発生し、LCA対応としては問題があり、この問題を解決できるLCA対応可能な皮膜が望まれている。
【0003】
アルマイトの陽極酸化皮膜に導電性を付与することに関しては硝酸イオンを含む陽極酸化浴中で処理する方法が提案されている(特許文献1)。この方法で達成される導電性は、抵抗値で105~6Ω以上のレベルであり、静電防止機能用に作られた皮膜であり各種の電子部品、コンピュータ関連製品に利用できると記載されているが、実用面では静電気によるスパークで電子回路を破損する事故を防ぎ、スマホ、衛星放送、タクシー無線等に使用されている中波~極超短波の磁界シールド効果を発揮するには不十分な性能である。この文献には表面硬度に関する記述がないが実際にはHv300程度の硬さと推察され硬質アルマイトが利用される分野には利用することはできず、改良が必要である。
【0004】
アルマイトの陽極酸化皮膜は、多孔質層とバリヤー層(無孔層)より成り立っている。アルマイトは当初理化学研究所で絶縁材料として開発され、今日に至ってきた。しかし、1970~80年代に硫酸皮膜を硬くする手法として金属材料研究所から論文が出された中に、バリヤー層を除去し、電解着色技術で表面まで金属を析出させたときに導電性があることを確認したことを示した論文が出されている。(技術文献1)
技術文献1には電解液を硫酸とし、皮膜作成時の最終電圧15~20Vから一気に0.05V付近まで降下させ、更にスイッチ切断後バリヤー層を溶解してからNi電析を行ってHV50~100程度の硬度増を達成したことが記載されている。そしてAl素地と皮膜表面との間にはテスターによる導通があることを報告している。しかしこの製法によるニッケル電析の皮膜硬度は最大でHV450に達すると記載されているが、最大の欠点はアルマイトの特徴である耐食性を全くなくしてしまうことで、実用的に使用されにくい製品である。一方陽極酸化皮膜の耐食性に影響のない亜鉛電析では皮膜硬度の向上に全く又はほとんど役立たず、精々HV330が達成された程度であり、硬質アルマイトとしては全く不十分な硬度である。
【先行技術文献】
【0005】
【技術文献1】
金属表面材料Vol33,No5 232-237(1982)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来使用できなかったアルマイトに導電性と耐摩耗性を付与し、軽量の材料としてその製造法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、電気抵抗が1×10-2Ω以下の性能を持ち、耐摩耗性が往復運動平面摩耗試験の硬質条件にて測定値が50ds/μm以上の性能を持つアルミニウム又はその合金からなる陽極酸化皮膜を有する材料及びその製造方法である
【0008】
本発明の電気抵抗の測定法は、低抵抗測定に優れている直流方式4端子法(電圧降下法)を抵抗計RM3548(日置電機株式会社製)にて表面と素地との間の電気抵抗を測定すると1×10-2Ω以下で、且つ耐摩耗性試験はJIS‐H8682-1(往復運動平面摩耗試験)にて行い、試験条件はJIS‐H8603(硬質陽極酸化皮膜)の硬質皮膜を適用し、評価は1μm当たりの往復摩耗回数で表し、50ds/μm以上の耐摩耗性を持つアルミニウム又はその合金からなる陽極酸化皮膜を有する材料及びその製造方法である。
【0009】
本発明は、表面と素地との間の電気抵抗が1×10-2Ω以下で、耐摩耗性が50ds/μm以上の性能を持ち、更に300℃で2週間耐熱試験を実施した場合の加熱前と加熱後の色差(ΔE)が3.0以下、好ましくは2.5以下であり、500℃‐1時間の耐熱試験でも加熱前と加熱後の色差(ΔE)が3.0以下、好ましくは2.5以下であり、皮膜表面のクラックが、空気中にて200℃、30分加温後に、目視にて正面から見たときにクラックが観察されないものである。皮膜断面硬さはJIS‐Z2244(ビッカース硬さ試験)方法にて荷重0.098N(10grf)、保持時間15秒で計測定するとHV300以上、HV470未満の硬さを持つ、導電性、耐摩耗性、耐熱性、硬さに優れたアルミニウム又はその合金からなる材料及びその製造法である。
【0010】
本発明の耐食試験はJIS‐Z2371の中性塩水噴霧試験機STP‐90V‐4((株)スガ試験機株式会社製)を用いて、連続噴霧時間1カ月(720時間)後、評価法はJIS‐H8679‐1(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜に発生した孔食の評価方法‐第1部:レイティングナンバー方法(RN)にて行う。レイティングナンバーとは皮膜を貫通し金属素地に達した孔食だけに適応し、(皮膜を貫通していない変色などの表面欠陥及び試験片に生じた端面の腐食は評価の対象としない。)レイティングナンバーと孔食の腐食面積率との関係は、表1に示す。判定基準はJIS‐H8603‐5.6(アルミニウム及びアルミニウム合金の硬質陽極酸化皮膜‐耐食性)にて行うがH8603-4:種類(素材の材質)によって表2のように分けられており、1種は中性塩水噴霧試験機にて336時間噴霧試験を行い点食(孔食)がないこと(RN10)と規定され、1種以外の材質に関しては受渡当事者間の協定によると規定されている。本願発明では上記規定を適合し、更に720時間(1ヵ月)における判定基準を加えた。実際は塩水噴霧試験機より取り出し後、表面の腐食生成物を物理的、化学的に除去し、よく水洗し表面に付着物がないのを確認後、乾燥し、孔食の大きさ、数量をレイティングナンバー標準図表と比較して評価する。本願発明の材料は通電性があり耐摩耗性が50ds/μm以上で、断面硬度がHV300以上、HV470未満を有するが、技術文献1の記載では通電性があり且つ硬度が大きいが、腐食においては「24時間の塩水噴霧試験でピットが発生し、240時間で表面がかなり腐食生成物によって覆われていた」とあり、再現実験を行い塩水噴霧試験で噴霧時間720時間行った結果RN6未満であった。また本願発明の材料を表2に沿って分類した時のRNとの関係は1種、2種-(b)の材料においてはRN9.5以上、2種―(a)においてはRN7以上、3種―(a)材料においては8以上を達成する耐食性を有するものである。
【0011】
【0012】
【0013】
陽極酸化皮膜の厚さはJIS‐H8680‐2(渦電流式測定法)を用い校正用標準板(プラスチックフィルム)にて校正後計測をすると6~50μmで、好ましくは10~30μm、特に好ましくは20~30μmで、色調が薄い褐色~濃い褐色系~黒系の皮膜を形成する。一般にアルマイトの皮膜は、皮膜厚さを厚くすると褐色から黒になる傾向にあり、80μmを越えると黒となるが、100℃に加熱するとクラックで全面が網目模様となってしまう。本発明の皮膜は従来よりも薄膜で黒系になっており、且つ硬さがあり、クラック発生が目視では観察できない特性を併せ持っている。
【0014】
本発明の製造工程は電解が4工程と後処理より組み立てられており、第1電解は母体となる皮膜作成(
図1,2)、第2電解は第1電解と同一又は異なる電解液にて微細孔の皮膜の底部にあるバリー層の除去(
図3)、第3電解で微細孔底面部位に金属の核を強制的に析出(
図4)、第4電解で金属の微細孔への析出(
図5)より成り立ち、更に後処理として封孔等の作業を行うことにより電気抵抗が1×10
-2Ω以下で、耐摩耗性が往復運動平面摩耗試験の硬質条件にて測定値が50ds/μm以上で、ビッカース硬さ試験法での皮膜断面硬さがHV300以上、HV470未満あり、色調は薄い褐色形~濃い褐色系~黒系の色調を持つ陽極酸化皮膜を形成するアルミニウム又はその合金からなる材料及びその製造法である。
【0015】
第1電解では皮膜に一定以上の硬さを付加する必要があるが硫酸系のみでは添加剤を加えても硬さがHV350~400で、これ以上を求める時には有機酸系を単体もしくは添加剤を加えることにより、硬さはHV450程度まで上げることが出来る。しかし、この電解条件、液管理が複雑なので実際には特殊処理以外に使われることはない。又、この皮膜は本発明工程第2電解方法でバリヤー層の除去が短時間でできず、長すぎると皮膜の溶解が起きカブリとなり、短すぎるとバリヤー層が除去できず抵抗が高くなり、第4電解の金属の析出にバラツキが生じたり、スポーリング(皮膜が破壊され素地が現れる現象)が発生することがある。
本発明の第1電解は母体となる皮膜作成を行う工程で、液組成は好ましくは有機酸の溶液を主とし、無機酸及び/または主成分とした有機酸以外の有機酸と必要に応じて添加剤を加えた電解液中で、電解方式は直流波形で液温-10~40℃、電流密度0.6~4.0A/dm
2、10~120分、好ましくは液温10~30℃、電流密度0.8~2.0A/dm
2、電圧10~150V、電解時間20~90分で行うか、パルス波形、PRパルス波形、交流波形で、1サイクルでの正電流の平均電流密度0.1~10A/dm
2、負電流の平均電流0.0~10A/dm
2、液温0~40℃で好ましくは、1サイクルでの正電流の平均電流密度0.6~3.0A/dm
2、負電流の平均電流0.0~3.0A/dm
2、液温10~30℃で、直流波形、交流波形パルス波形、PRパルス波形の単独又は2つ以上の組合せた電流または電圧波形を用いて陽極酸化処理し、色調は薄い褐色形~濃い褐色系~黒系の色調を持つ陽極酸化皮膜を形成する。ここで形成された陽極酸化皮膜の全体像を
図1に示し、その断面及び表面視野図を
図2に示す。
【0016】
本発明の第2電解は第1電解において目的の皮膜厚さに達したら、電源を切らずに1~5分保持し、その後段階的に電圧を0Vまで下げる。方法は第1電解の最終電圧から1~10V下げ、その電圧で10~120秒保持、更に1~10V下げ、10~120秒保持の繰り返しで10Vまで下げ、10~120秒保持後、7V、5V、3V、2V、1V、0Vと順次下げていく、この時の保持時間は各10~120秒とし、全体の電圧効果時間は5~60分で行い、好ましくは2~5V下げ、20~120秒保持で、10~40分で0Vまで到達することが望ましい。この工程で微細孔の低位部にあるバリヤー層が除去される。この模式図を
図3に示す。
【0017】
第3電解は金属塩を含む酸性液と添加剤より成り立っている電解液で行われる。電解液中では金属塩は溶解して金属イオンとして用いられている。電解は直流、交流、パルス、PRパルス波形を単独または2つ以上を組合せて行い、液温は10~40℃、好ましくは15~30℃で行い、電解は1~5秒で電圧を20~50Vまで上げ、5~60秒後に、一挙に0Vに戻す。電源に極性がある場合は(被処理部材を)陰極側にセットし、陽極側は炭素板電極を用いて電解を行う。この工程で瞬時にしかも強制的に金属イオンが移動し陽極酸化皮膜の微細孔中の底部に金属が析出し核を作る。この模式図を
図4に示した。
この核によって第4電解の際に微細孔中に金属が析出しやすくなる。
【0018】
第4電解は第3電解の電解液、液温は同じで、電解条件は直流、交流、パルス、PRパルス波形を単独または2つ以上の組合せにより行い、電流密度0.1~3.0A/dm
2、電圧は3~30V、時間は2~30分、好ましくは0.2~1.5A/dm
2、10~25V、5~15分、15~30℃で行い、電源に極性がある場合は(被処理部材を)陰極側にセットし、陽極側は炭素板電極を用いて電解を行い、電解前後の水洗は脱イオン水又は純水で十分に行う。この工程で陽極酸化皮膜の微細孔中に金属が析出する。この模式図を
図5に示した。
【0019】
本発明の第1、2電解に用いられる電解液は、脂肪族又は芳香族のスルホン酸および/又はカルボン酸系の有機酸を主とする単独又は混合系が好ましい。これらの液濃度は0.1~4.5mol/Lが好ましい。また、これに無機酸などを添加剤として加えることが好ましい。
【0020】
第3、4電解に用いる電解液は金属塩を含む酸性液と添加剤より成り立っており、金属塩は溶解可能な金属イオンの状態で用いられている。酸性液の代表的なものとして硫酸化合物、シュウ酸化合物を主とし、添加剤としてカルボン酸系の有機酸、ホウ酸等を加えた液、添加される金属塩化合物としては、金、銀、銅、白金、錫、コバルト、ニッケル、鉄、タングステン、モリブデン、クロム、亜鉛、パラジウム、ジルコニウム、ロジウム、ルテニウム、バナジウム、チタン、マンガンなどの化合物が用いられる。得られた材料の陽極酸化皮膜の優れた耐食性を維持するには亜鉛化合物が最も好ましい。
【0021】
本発明は、厚さ6~50μm、特に10~30μmの皮膜においても薄い褐色系~濃い褐色系~黒系の陽極酸化皮膜が形成されているが、この黒色系皮膜は染料または顔料などで着色されたものではなく、第5電解の金属析出により形成されたものである。この皮膜は300℃に2週間加熱処理しても、500℃にて1時間加熱しても目視での色調の変化が殆ど認められない。一方、一般的な染色系の黒アルマイトは200℃で加熱すると短時間の内に変色が始まり、200℃を越えた使用環境下で変色無く長時間使用できる染色系の黒アルマイト製品は殆どないのが現状である。
【0022】
本発明において退色の指標を示す色差ΔEを検知するために300℃という温度を使用した理由は次のようなところにある。アルミニウムには再結晶化温度が凡そ250℃であり、この温度を境にアルミニウム加工品内に残る加工硬化(常温で圧延など変形加工を施した際に生ずる加工ひずみ)の原因である粗結晶が250℃以上で軟化し、再結晶化して生成した結晶粒は内部ひずみを持たない安定したものとなる。実用上は凡そ350℃で軟化させて内部応力を下げる作業、いわゆる焼きなまし(焼鈍)が必要となる。アルミニウムを加工する場合に再結晶温度以下で行なう場合を冷間加工というが、この加工法の場合は常に加工硬化が起こるので、焼きなましが必要になるが、加工製品を使用時に長時間再結晶温度以上で使用することはまれであるので、軟化の起点である300℃での耐熱試験で色の退色性に異常がなければ、実用面においての退色に関しても問題なく使用することができる、というところから選んだ試験温度である。
【0023】
本発明において瞬間的の耐熱試験を500℃の1時間に設定したのは、軟化の起点である300℃以上で長時間行うと素材自体に異常が生じるために実用上1時間が限界であるため、この間の耐熱性があれば十分とした。
【0024】
本発明における第1電解及び第2電解において好ましく用いる有機酸は、脂肪族又は芳香族のスルホン酸および/又はカルボン酸系の単独又は混合系で、具体的にはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸、酒石酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸など、スルホン酸系ではスルホサリチル酸、スルホフタル酸、スルホ酢酸などで、これらを1種又は2種以上組合せて陽極酸化の際の電解液として用いる。これらの液濃度は0.1~4.5mol/Lが好ましい。電解方式は直流波形で液温-10~40℃、電流密度0.6~4.0A/dm2、10~120分、好ましくは液温10~30℃、電流密度0.8~2.0A/dm2、電圧10~150V、電解時間20~90分で行うか、パルス波形、PRパルス波形、交流波形で、1サイクルでの正電流の平均電流密度0.1~10A/dm2、負電流の平均電流0.0~10A/dm2、液温0~40℃で好ましくは、1サイクルでの正電流の平均電流密度0.6~3.0A/dm2、負電流の平均電流0.0~3.0A/dm2、液温10~30℃で、直流波形、交流波形パルス波形、PRパルス波形の単独又は2つ以上の組合せた電流または電圧波形を用いて、陽極酸化処理し皮膜の厚さを6~50μmに製造する。
【0025】
通常使用される直流電解の電流密度とは電気量(A・秒)を電解時間(秒)と被処理物の表面積(dm2)で割った値をいい、直流定電流電解(通常直流電解という)では被処理物に対して時間によって電流変化がないので電流密度と平均電流密度は同意語として使われており、その単位はA/dm2で表される。しかし、パルス、PRパルス波形の様な場合には時間によって「正電流」、「0(電流の流れない時間)」または極性が反転した「負電流」が流れるので波形における平均電流密度は電流波形の1周期(サイクル)において、正電流部分と負電流部分に分けてそれぞれの電気量(A・秒)を電解時間と被処理物の表面積で割った値を、正電流平均電流密度、負電流平均電流密度として表示することが必要になる。例として、PR波形で、電解面積2dm2の被処理物を電解した際に、波形の1サイクルを10秒として正電流2Aで4秒流した後に負電流を1Aで6秒流す場合、正電流及び負電流の平均電流密度はそれぞれ0.4A/dm2、0.3A/dm2となる。なお、正電流のみを使用する場合には負電流の平均電流密度は0.0A/dm2になる。
【0026】
有機酸を主とする電解液に添加剤として添加できるものは、無機酸系もしくは有機酸系の1種又は2種以上の化合物である。有機酸系の化合物としては上記した脂肪族又芳香族のスルホン酸および/又はカルボン酸系の化合物であるが、有機酸を主とする電解液に用いた有機酸とは異なるものを添加剤として用いる。他にまたエチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール系化合物も溶媒として使用でき、その量は60%までとし、これらアルコール系化合物は水と共に溶媒の一部として使用することも可能である。無機酸系の化合物としてはホウ酸、ケイ酸、フッ酸、硫酸、リン酸、硝酸もしくはこれらの塩類、ピロリン酸、スルファミン酸もしくはこれらの塩類、又はフッ化物塩、重フッ化物塩、過マンガン酸塩などの1種または2種以上を使用することが出来る。これら添加剤の使用量は、電解液に主として使用した有機酸の使用量より少ない量で、0.001~0.9mol/Lの液濃度とすることは好ましい。
【0027】
第3電解の電解条件は、電流もしくは電圧波形として直流、交流パルス、PRパルス波形を単独または2つ以上を組合せて行い、液温は-10~40℃、好ましくは15~30℃で行い、電解は1~5秒で電圧を20~50Vまで上げ、5~60秒後に、一挙に0Vに戻す。電源に極性がある場合は(被処理部材を)陰極側にセットし、陽極側は炭素板電極を用いて電解を行う。
【0028】
本発明の第4電解は第3電解と同一の液、液温で行い、薄い褐色系~黒系の耐候・退色性に優れ、優れた表面硬度を持つ陽極酸化皮膜を製造することが出来る。その場合の第4電解の電解条は、電流もしくは電圧波形として直流、交流、パルス、PRパルス波形を単独または2つ以上を組合せて行い、電圧は3~30V、時間は2~30分、液温は10~40℃、好ましくは10~25V、5~15分、15~30℃で行い、電源に極性がある場合は(被処理部材を)陰極側にセットし、陽極側は炭素板電極を用いて電解を行い、電解前後の水洗は脱イオン水又は純水で十分に行う。
【0029】
本発明で退色性の少なさを示す尺度として用いている色差(ΔE)とは、従来官能評価することしかできなかった「色の差」を定量的に表すようにしたものである。例えば人間の目には同じに見えても測色器を用いて、基準色の点の色相、彩度、明度を三次元測定し、サンプル色の点についても同様に測定し、この三次元2点間の距離を色差として表す手法である。本発明では耐熱試験を実施する際に、加熱前の色を基準点とし、加熱後の色を分光測色計で測定し、三次元2点間の距離をΔEで表示したもので、現在では分光測色計で自動的に数値が表示できるようになっている。一般的に色差ΔE=1程度は二つの色を横に並べて見比べたときに違いが判別できる程度の差、ΔE=2~3程度は二つの色を離して見比べたときに違いが判る程度を示している。
【0030】
色についての表現方法にはマンセル(1905年)法があり、色相、明度、彩度で表されている。これを数値化する過程で国際照明委員会(CIE)が1931年にXYZ表色系、1976年にL*a*b*色空間が制定され、日本でもJISZ8781-4に採用された。後L*a*b*色空間に改良され、JIS規格になっている。本発明の色差はL*a*b*色空間で表した色の2点簡の距離を色差(ΔE)として表し、本発明の色差(ΔE)は試料の同一面をコニカミノルタ社製の分光測色計(CM-700d)を用いて、L*a*b*色空間法で測定し、その各色差を算出した。
【0031】
本発明の陽極酸化皮膜は、従来品ならば200℃を超える温度での加熱で茶褐色系へ退色し始め、300℃では凡そ1時間程度で色差ΔEが3.0を越えてしまうが、本発明品では同温度で2週間耐熱試験してもΔEは3.0以下を保つことが出来き、短時間ならば500℃で1時間の耐熱試験においても同様の結果が得られる。また、電解着色皮膜の場合、ニッケル又はコバルトを多孔質細孔内に沈着させた皮膜では400℃で100時間(4日間)、褪色性に変化がない皮膜の提案もあるが、黒系の陽極酸化皮膜の300℃で2週間もの加熱処理で、ΔEが3.0以下であるような材料はまだ見出されていない。更に耐摩耗性が50ds/μm以上で実用上は耐傷の防止にもなる。
【0032】
また、本発明の陽極酸化皮膜は、表面と素地との間の電気抵抗が4探針法で1×10-2Ω以下の性能を持つのと同時に耐摩耗性が平面往復運動摩耗試験機で50ds/μm以上あり、更にビッカース硬さ試験でHV300以上、HV470未満の硬さがあり、電磁波シールド効果にも優れた特徴を同時に有している。
【0033】
本発明皮膜の電磁波シールド効果測定は一般社団法人KEC関西電子工業振興センター、試験事業部においてKEC法にて100KHz-1000MHz(1GHz)までの電解、磁界測定を行った結果、保証可能な数値として500KHz-1000MHz(1GHz)においては30db以上あり、これはアルミニウム素地と同じ値で、アルミニウムの限界値と同等のシールド効果を持っている。これにより耐熱性があり、耐食性があることにより腐食がされにくく、シールド効果が長期にわたり安定に保たれ、しかも傷が付きにくく、熱吸収・放射の良い材料としての役割が加わり従来にない材料として考えられる。
【0034】
電磁波は空間の電場と磁場の変化によって形成される波(波動)で、光や電波は電磁波の1種であり、一般に赤外線よりも波長が長いもの(mm以上のもの)を電波、1μm程度までを赤外線、0.7~0.3μmまでを可視光、更に短く数nmまでを紫外線とよび、10nm~1pmまでをX線と大まかに分類をしている。また電磁波は波と粒子の性質を併せ持ち、散乱、反射、屈折や干渉など、波長によって様々な波としての性質を示す一方で、微視的には粒子として個数を数えることができる。本発明に使用する電波を大別すると、長波(LF)、中波(MF),短波(HF)、超短波(VHF)、極超短波(UHF)、センチ波(SHF)、ミリ波(EHF),サブミリ波があり、この中の中波~極超短波の500KHz~1000MHz(1GHz)で、主な用途として携帯電話、スマートフォン、TV,タクシー無線、航空機電話、AMラジオ、FM放送、船舶、国際放送、船舶・航空機用ビーコン等に使用されている波長域のシールドを行う目的である。
【0035】
近年、携帯電話はスマートフォンとなり、ロボット、ドローン等の多くの機器が無線で通信するようになり身の回りに電子機器が満ち溢れている。これらは必要な電磁波を受け入れ、不必要な電磁波を排除(シールド)するという電磁両立性(EMC対策)がますます高まってきた。また、機器同士のノイズ対策に加え、電磁波過敏症等の人体への影響を心配する人たちも実際に多く存在する。ここで一般的には電磁波シールドはRFと呼ばれ約300Hz~3THzの周波数を対象にしている。電磁波シールドの基本は反射損失、吸収損失またはそれらの組み合わせの多重反射損失よりシールドの性能を上げている。反射損失とは電磁波がシールド材に入射し透過する際にシールド表面で反射することによる損失(減衰)、吸収損失は電磁波がシールド材に入射する際にシールド材内部に誘導電流として吸収され、多重反射損失は複数のシールド材を積層に組み、電磁波がシールド材の内側に侵入するときに一部は反射し、1部は透過し、次のシールド材に伝播し、再び反射と侵入と透過を繰り返すことにより減衰しシールド効果を高める。
【0036】
電磁波シールド効果はデシベル(dB)を使って表します。電磁波がシールド前とシールド後でどのくらい減衰したかを相対的に表す単位で、以下の計算式より導き出されている。
デシベル(dB)=20Log10(E0/E1
E0:シールド材がない時の電界強度(V/m)
E1:シールド材を透過した電解強度(V/m)
デシベルとシールド率と減衰率の関係は表3に表す。
電磁波シールド材の性能を評価の代表的な方法は社団法人関西電子工業センターが開発した「KEC法」と株式会社アドバンテスト社が開発した「アドバンテスト法」がある。
【0037】
【発明の効果】
【0038】
アルミニウムの陽極酸化皮膜が当初絶縁材料として開発され、長い年月が過ぎ改良に改良を加え今日の陽極酸化皮膜となり、アルミニウムの発展に寄与したことは間違いがないが、近年の半導体の進歩により実装密度が格段に上がりこれに伴って電子機器の小型化が急速に進んできた。このために従来問題にならなかった空間が極端に狭められ、静電気によるスパークが発生しそれが電子機器に重大なダメージを招く結果となってきた。この問題を解決する為に静電気を表面に溜めないで常にグラウンドに落とせるような、導体で硬さを兼ね備えしかもLCAを満足できる皮膜が求められていたところ、本発明の陽極酸化皮膜が導電性と硬さに加えさらに耐熱性、耐摩耗性、耐食性、電磁波シールド効果、放熱・吸熱効果も併せ持った優れた皮膜が開発された。これらを組み合わせることにより電子機器の更なる小型化、通信では5Gのシールド効果、スマホ等のチャージ等としても使用されることに期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
なお、実施例において、電気抵抗の測定法は、低抵抗測定に優れている直流方式4端子法(電圧降下法)を抵抗計RM3548(日置電機株式会社製)にて
図6のように表面と素地とに接触面積1cm
2の金メッキ電極にトータル10g/cm
2の加重をかけ、電気抵抗を測定する。耐摩耗性は(株)スガ試験機社製の往復運動平面磨耗試験機にて硬質皮膜試験条件にて計測した実測値であり、ビッカース硬さ試験は顕微鏡断面測定法により(株)島津製作所社製の微小硬度計(HMV-G-XY-D)を用いて荷重10gfで15秒行って測定した平均皮膜硬さを示す。但し、皮膜厚さが20μm以下の場合にはヌープ式の圧子を用いて同一荷重、同一時間にて測定したものである。皮膜厚さは(株)ケット科学研究所社製渦電流膜厚計(LH-373)で計測した平均厚さを示す。耐食試験はJIS‐Z2371の中性塩水噴霧試験機((株)スガ試験機社製)を用いて、連続噴霧時間1カ月(720時間)後、評価法はJIS‐H8679‐1(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜に発生した孔食の評価方法‐第1部:レイティングナンバー方法(RN)にて行う。実際は塩水噴霧試験機より取り出し後、表面の腐食生成物を物理的、化学的に除去し、乾燥後レイティングナンバー標準図表と比較して評価する。耐熱試験は2種類あり、1方は300℃で2週間加熱処理、他方は500℃,1時間の加熱処理を行い、室温になった時点でコニカミノルタ社製の分光測色計(CM-700d)で計測し、加熱前後の色差をL
*a
*b
*色空間法における色差(ΔE)で表した。電磁波シールド効果測定は一般社団法人KEC関西電子工業振興センター、試験事業部においてKEC法にて100KHz-1000MHz(1GHz)までの電界、磁界測定を行った結果を表し、熱放射率は赤外線放射率測定器として(株)島津製作所製の分光放射率測定システム(IRTracer-100)を用いて被測定物温度を100℃とし、黒体の放射率を100%としたときの中赤外線波長3~6の全放射率及び波長3~25μmの中~遠赤外線領域の全放射率をそれぞれ測定し、%で表示する。皮膜表面のクラックの判定は、空気中にて200℃、30分加温、大気放置後常温にて、目視にて正面から見たときにクラックが観察されないものである。
【実施例1】
【0040】
アルミニウムA1050材(Si 0.25%、Mn0.05%以下)で50×100×t1.0mmのテストピースを前処理として、エマルジョン脱脂・45℃×5分―中和・5%硝酸・室温×3分-エッチング・20%水酸化ナトリウム・50℃×30秒―脱スマット・10%硫酸・室温×3分、各工程間に水洗を十分に行い、第1電解はマロン酸0.7mol/Lに、添加剤として硫酸0.05mol/Lを加えたものとし、液温25±1℃、電源は直流波形を用い、電流密度1.2±0.1A/dm2で65分行ない、第2電解は電源を切らずに第1電解の最終電圧65Vを2分保ち、その後5V下げ、60秒保持、次に再び5V下げ―60秒保持を電圧10Vまで繰り返し、その後7V,5V,3V,2V,1V、0Vと順次下げていく、この時の保持時間は各60秒で、18分で0Vになった。第2電解終了後水洗を十分に行い、第3電解は直流波形で、液組成は硫酸亜鉛300g/L、硫酸アンモニウム28g/L、ホウ酸25g/L、の液で、PH=2~3.5、浴温29±1℃、電解は3秒で40Vまで上昇させ、10秒保ち一気に0Vまで下げる。第4電解は同一電解液、液温で直流波形にて電流密度1.0A/dm2で20分電解した後、十分に脱イオン水で水洗をし、更に封孔処理を95~98℃で20分沸騰水封孔を行った結果、皮膜表面とアルミニウム素地の電気抵抗は平均0.17mΩ(1.7×10-4Ω)、耐摩耗性平均値は121.7ds/μm、断面平均皮膜硬さはHV457で、平均皮膜厚さは26μm、色調は濃い褐色系の黒、耐食性は720時間でRN9.8、電磁波シールド効果は電界が45dB以上,磁界が38dB以上、耐熱性は300℃加熱前後のL*a*b*色空間の色差(ΔE)は2.8であり、500℃で色差(ΔE)2.5、赤外線放射率の中赤外線波長領域3~6μmの全放射率は75.8%、波長3~25μmの中~遠赤外線領域の全放射率は88.1%が得られ、クラックの発生は見られなかった。
【比較例1】
【0041】
試験片A1050材、100×50×t1.0mmを用いて、皮膜の計測は実施例1と同様に行い、有機脱脂後―50g/dm3の水酸化ナトリウム水溶液、70℃で30秒エッチングしてから、第1電解は98g/dm3硫酸水溶液、30℃、電圧20V(3±0.3A/dm2)時間30分、対極はカーボンとし電解をし、第2電解のバリヤー除去は電解終了前に浴電圧を3分で0.08Vまで下げ電源を切り、更に試験片と対極(カーボン)とを導線でつないだまま液中でガルバニックに溶解を15分行った後、十分に脱イオン水で水洗を行い、第3電解はニッケルの電析を行い、硫酸ニッケル(NiSO4・7H20)280g/L、塩化ニッケル(NiCl2・6H2O)45g/L、ホウ酸(H3BO3)浴で対極にカーボンを用い、27±1.5℃、交流14V、5分行った後、直流にて電流密度0.2A/dm2、25分電解を行い、十分に水洗後、第4工程として沸騰水にて20分封孔処理を行った。結果は、電気抵抗が1.3×10-1Ω、耐摩耗性平均値は48ds/μm、断面平均皮膜硬さはHV390、平均皮膜厚さは25μm、耐食性はRN6、200℃に加熱冷却後クラックは網目状に発生、この製法では本発明が目的とする材料が得られない。
【比較例2】
【0042】
試験片A1100材、100×100×t1.0を用いて、皮膜の計測は実施例1と同様に行い、有機脱脂後―50g/Lの水酸化ナトリウム、70℃、30秒エッチング―30%硝酸溶液、常温、10秒浸漬による脱スマットをおこない、第1電解は硫酸100g/L、30℃、電圧20V、電解時間10分、対極はカーボンとし、第2電解のバリヤー除去は皮膜作成後電圧を一気に0Vまで下げ、その後0.1Vの電圧を13分行った後、十分に脱イオン水で推薦を行い、第3電解の金属析出は硫酸ニッケル280g/L、塩化ニッケル45g/L、ホウ酸30g/L、硫酸コバルト15g/L、サッカリン1g/L、PH4.0、液温50~60℃、電流密度0.15A/dm2、10分、対極Ni、第4工程として封孔を酢酸ニッケル5g/L,ホウ酸5g/L,70℃、20分、さらに純水を98℃以上の沸騰水にて、10分を行った結果、平均皮膜厚さは10.7μm、電気抵抗は平均1.72×10-1Ω、耐摩耗性は素地露出により中止、硬さはHV305、耐食性はRN6以下、耐熱性は300℃‐2週間、色差(ΔE)3.6、500℃‐1時間で、色差(ΔE)3.3、熱放射率は3~6μmで0.617(61.7%)、3~25μmでは0.728(72.8%)、200℃にてクラックは網目状に発生、この製法では本発明が目的とする材料が得られない。
【比較例3】
【0043】
材料、前処理、第1電解、第4電解、封孔処理及び皮膜の計測は実施例1と同様に行う予定で、第2,3電解を除き電解処理を行うと、スポーリングが発生し、皮膜が火山の噴火口の様に見られたので以後の工程を中止した。
【比較例4】
【0044】
材料、前処理、第4電解、封孔処理及び皮膜の計測は実施例1と同様に行い、第1電解を硫酸15%、電流密度1.1±0.1A/dm2、電解電圧14~16V、浴温19~20℃、電解時間40分、電解終了後十分に脱イオン水にて水洗をし、第2電解、第3電解を除き、第4電解と封孔処理を行った結果、均一な濃い褐色となり、平均皮膜厚さは13.3μm、皮膜表面とアルミニウム素地の電気抵抗は106Ω以上の絶縁体で、耐摩耗性は素地露出により中止、硬さはヌープ式の断面平均硬さHV310、耐食性はRN10で腐食無し、電磁波シールド効果は電界が43dB,磁界が26dB以上、耐熱試験は300℃‐14日で加熱処理前後のL*a*b*色空間での色差(ΔE)は3.5、500℃‐1時間で色差(Δ3.4)、赤外線放射率は中赤外線領域(3~6μm)の全放射率は64.1%、中~遠赤外線領域(3~25μm)の全放射率は73.8%で、クラックは全面に網目状に発生した。この製法では本発明が目的とする材料が得られない。
【比較例5】
【0045】
材料、前処理、第1電解、第2電解、第3電解、封孔処理及び皮膜の計測は実施例1と同様に行い、第4電解を除いた結果、皮膜表面とアルミニウム素地の電気抵抗は1×106Ω以上で、耐摩耗性平均値は101.8ds/μm、顕微鏡断面測定法による平均皮膜硬さはHV427で、平均皮膜厚さは24.7μm、色調は褐色、耐食性は720時間でRN9.3、電磁波シールド効果は電界が42dB,磁界が28dB以上、耐熱性は300℃加熱前後のL*a*b*色空間の色差(ΔE)は3.2であり、500℃で色差(ΔE)2.8、赤外線放射率は中赤外線波長領域3~6μmの全放射率で65.2%、波長3~25μmの中~遠赤外線領域の全放射率は83.7%が得られ、クラックの発生は見られなかった。
【実施例2】
【0046】
材料、前処理、第2電解、第3電解、第4電解、封孔処理及び皮膜の計測は実施例1と同様に行い、第1電解の液組成は同じで、電解条件をPRパルス波形で、プラス側電流密度を2.0A/dm2、マイナス側の電流密度を0.5A/dm2、プラス側最大電圧70V、マイナス側最大電圧-15Vで、1パルスを3.3msとし、プラス側を20パルス、マイナス側を3パルスとし、極性が変わるときに3パルス分の休止時間を入れ、これを1サイクルとして、液温25±1℃、電解時間60分処理した結果、皮膜の色調は濃い褐色で、以後第2、第3、第4電解、封孔処理と進めた結果、皮膜表面とアルミニウム素地の電気抵抗は1.3×10-3Ω、耐摩耗性は111.8ds/μm、平均皮膜硬さはHV465で、平均皮膜厚さは20.2μm、色調は濃い褐色系の黒、耐食性は720時間でRN9.8、電磁波シールド効果は電界が35dB,磁界が31dB、耐熱性は300℃加熱前後のL*a*b*色空間の色差(ΔE)は2.9であり、500℃で2.7、赤外線放射率の中赤外線波長領域3~6μmの全放射率は88.3%、波長3~25μmの中~遠赤外線領域の全放射率は91.6%が得られ、クラックの発生は見られなかった。
【実施例3】
【0047】
材料、前処理、第2電解、第3電解、第4電解、封孔処理及び皮膜の計測は実施例1と同様に行い、第1電解の液組成をシュウ酸3%、電解条件は交直重畳で、電流密度は+側で、1.7A/dm2、-側で0.5A/dm2、電圧は直流分が50V、交流分が85V、浴温25℃、電解時間60分の条件で行なった結果、皮膜表面とアルミニウム素地の電気抵抗は5.2×10-3Ω、耐摩耗性平均値は116.7ds/μm、濃い褐色、平均皮膜厚さ28.7μm、断面平均硬さはHV447、耐食性は720時間でRN9.8、電磁波シールド効果は電界が35dB以上,磁界が32dB以上、耐熱性は300℃加熱前後のL*a*b*色空間の色差(ΔE)は2.8であり、500℃で色差(ΔE)2.5、赤外線放射率の中赤外線波長領域3~6μmの全放射率は75.7%、波長3~25μmの中~遠赤外線領域の全放射率は88.6%が得られ、クラックの発生は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の材料はアルミニウムの陽極酸化皮膜で1×100以下の低抵抗の皮膜と耐摩耗性が50ds/μm以上の性能を併せ持つことにより、導電性がある軽量で傷つきにくい筐体、電子機器における静電気のスパークによる破損防止と500KHz~1000MHzまでの特に磁界のシールド効果、更に耐熱性として、300℃‐2週間と、500℃‐1時間の加熱処理で色差ΔE3.0以下の耐熱性効果を持ち未利用エネルギー温度帯材料として軽量で硬い摺動性のある導体材料として使用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】 第1電解により生成した陽極酸化皮膜の全体像
【
図2】 第1電解により生成した陽極酸化皮膜の表面、断面の模式図
【
図3】 第2電解により微細孔の底部位(バリヤー層)を除去した時の模式図
【
図4】 第3電解により陽極酸化皮膜の微細孔の底に核を析出した状態の模式図
【
図5】 第4電解により陽極酸化皮膜の微細孔中に金属析出した状態の模式図
【符号の説明】
【0050】
1.微細孔 2.壁
3.素材(アルミニウム) 4.多孔質層
5.バリヤー層 6.核の析出
7.微細孔中への金属析出 8.抵抗計:RM354
9.直流定電圧電源 10.電圧計
11.金めっき電極 12.陽極酸化皮膜