(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者の予後を予測するための検査方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6851 20180101AFI20241219BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20241219BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20241219BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20241219BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
G01N33/50 P
C12Q1/686 Z
C12Q1/6876 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2020136011
(22)【出願日】2020-08-11
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】内山 和彦
(72)【発明者】
【氏名】高木 智久
(72)【発明者】
【氏名】内藤 裕二
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】Journal of Crohn's and Colitis,2019年,Volume 13, Issue Supplement_1, p.S146,<https://doi.org/10.1093/ecco-jcc/jjy222.240>
【文献】川崎医学会誌,1999年, Vol.25, No.4, p.257-267
【文献】Autoimmunity Highlights,2019年,Vol.10, No.1, p.1-7
【文献】Pediatric Research,2019年07月,Vol.87, No.5, p.839-846
【文献】日泌尿会誌,2009年,Vol.100, No.5, p.586-589
【文献】日消誌,2018年,Vol.115, p.244-253
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00 - 3/00
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者の予後を予測するための検査方法:
(1)寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者から分離された大腸由来組織における下記(a)~(i)を定量する工程:
(a)IL-1β転写産物、
(b)IL-4転写産物、
(c)IL-17A転写産物、
(d)IL-22転写産物、
(e)IL-33転写産物、
(f)IL-10転写産物、
(g)IL-6転写産物、
(h)IL-2転写産物、および
(i)IL-13転写産物、
(2)予め導出されたLCI、MESおよびUCEISと相関する判別関数1およびLCIと相関する判別関数2を用いて、前記(a)~(i)から二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出する工程、
(3)LCI-Aに該当する寛解状態の潰瘍性大腸炎患者の二次元平面上における予め算出された重心座標と工程(2)で算出された座標の直線距離を算出する工程、
(4)前記直線距離を予め算出されたカットオフ値と比較する工程
、
ここで、前記判別関数1および前記判別関数2が、寛解状態の潰瘍性大腸炎患者由来の前記(a)~(i)から導出されたものであり、
前記判別関数1が、IL-10転写産物量、IL-6転写産物量、IL-2転写産物量、IL-13転写産物量およびIL-17A転写産物量を各独立変数として含み、LCI、MESおよびUCEISと相関する係数を該各独立変数の係数として含む、判別関数1であり、
前記判別関数2が、IL-1β転写産物量、IL-4転写産物量、IL-17A転写産物量、IL-22転写産物量およびIL-33転写産物量を各独立変数として含み、LCIと相関する係数を該各独立変数の係数として含む、判別関数2である。
【請求項2】
予め算出されたカットオフ値が4.87である、請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
工程(1)において、下記(j)~(u)をさらに定量することを特徴とする、請求項1に記載の検査方法:
(j)TNF-α転写産物、
(k)IFN-γ転写産物、
(l)IL-8転写産物、
(m)IL-23転写産物、
(n)IL-12転写産物、
(o)IL-17F転写産物、
(p)IL-5転写産物、
(q)IL-15転写産物、
(r)IL-18転写産物、
(s)IL-21転写産物、
(t)IL-27転写産物、および
(u)IL-9転写産物
、
ここで、前記判別関数1が、IL-10転写産物量、IL-6転写産物量、IL-2転写産物量、IL-13転写産物量およびIL-17A転写産物量の全てとIL-1β転写産物、IL-4転写産物、IL-22転写産物、IL-33転写産物、TNF-α転写産物、IFN-γ転写産物、IL-8転写産物、IL-23転写産物、IL-12転写産物、IL-17F転写産物、IL-5転写産物、IL-15転写産物、IL-18転写産物、IL-21転写産物、IL-27転写産物およびIL-9転写産物からなる群から選択される少なくとも1つの転写産物の量を各独立変数として含み、LCI、MESおよびUCEISと相関する係数を該各独立変数の係数として含む、判別関数1であり、
前記判別関数2が、IL-1β転写産物、IL-4転写産物量、IL-17A転写産物量、IL-22転写産物量およびIL-33転写産物量の全てとTNF-α転写産物、IFN-γ転写産物、IL-8転写産物、IL-23転写産物、IL-12転写産物、IL-17F転写産物、IL-5転写産物、IL-15転写産物、IL-18転写産物、IL-21転写産物、IL-27転写産物、IL-9転写産物、IL-10転写産物、IL-6転写産物、IL-2転写産物およびIL-13転写産物からなる群から選択される少なくとも1つの転写産物の量を各独立変数として含み、LCIと相関する係数を該各独立変数の係数として含む、判別関数2である。
【請求項4】
工程(2)において、前記(a)~(u)から二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出することを特徴とする、請求項3に記載の検査方法。
【請求項5】
予め算出されたカットオフ値が1.72である、請求項4に記載の検査方法。
【請求項6】
以下の工程を含む、寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者の予後を予測するための検査方法:
(1)寛解状態の潰瘍性大腸炎患者および寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者から分離された大腸由来組織における下記(a)~(i)を定量する工程:
(a)IL-1β転写産物、
(b)IL-4転写産物、
(c)IL-17A転写産物、
(d)IL-22転写産物、
(e)IL-33転写産物、
(f)IL-10転写産物、
(g)IL-6転写産物、
(h)IL-2転写産物、および
(i)IL-13転写産物、
(2)寛解状態の潰瘍性大腸炎患者由来の前記(a)~(i)から、以下の2つの判別関数を導出する工程、
(i)IL-10転写産物量、IL-6転写産物量、IL-2転写産物量、IL-13転写産物量およびIL-17A転写産物量を各独立変数として含み、LCI、MESおよびUCEISと相関する係数を該各独立変数の係数として含む、判別関数1、および
(ii)IL-1β転写産物量、IL-4転写産物量、IL-17A転写産物量、IL-22転写産物量およびIL-33転写産物量を各独立変数として含み、LCIと相関する係数を該各独立変数の係数として含む、判別関数2、
(3)工程(2)で導出された判別関数を用いて、LCI-Aに該当する寛解状態の潰瘍性大腸炎患者由来の前記(a)~(i)から二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出し、その重心座標を算出する工程、
(4)工程(2)で導出された判別関数を用いて、寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者由来の前記(a)~(i)から二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出する工程、
(5)工程(3)で算出された重心座標と工程(4)で算出された座標の直線距離を算出する工程、
(6)前記直線距離を予め算出されたカットオフ値と比較する工程。
【請求項7】
工程(1)において、下記(j)~(u)からなる群から選択される少なくとも1つをさらに定量することを特徴とする、請求項6に記載の検査方法:
(j)TNF-α転写産物、
(k)IFN-γ転写産物、
(l)IL-8転写産物、
(m)IL-23転写産物、
(n)IL-12転写産物、
(o)IL-17F転写産物、
(p)IL-5転写産物、
(q)IL-15転写産物、
(r)IL-18転写産物、
(s)IL-21転写産物、
(t)IL-27転写産物、および
(u)IL-9転写産物。
【請求項8】
工程(2)において、
(i)判別関数1が、IL-10転写産物量、IL-6転写産物量、IL-2転写産物量、IL-13転写産物量およびIL-17A転写産物量の全てとIL-1β転写産物、IL-4転写産物、IL-22転写産物、IL-33転写産物、TNF-α転写産物、IFN-γ転写産物、IL-8転写産物、IL-23転写産物、IL-12転写産物、IL-17F転写産物、IL-5転写産物、IL-15転写産物、IL-18転写産物、IL-21転写産物、IL-27転写産物およびIL-9転写産物からなる群から選択される少なくとも1つの転写産物の量を各独立変数として含み、LCI、MESおよびUCEISと相関する係数を該各独立変数の係数として含む、判別関数1であり、
(ii)判別関数2が、IL-1β転写産物、IL-4転写産物量、IL-17A転写産物量、IL-22転写産物量およびIL-33転写産物量の全てとTNF-α転写産物、IFN-γ転写産物、IL-8転写産物、IL-23転写産物、IL-12転写産物、IL-17F転写産物、IL-5転写産物、IL-15転写産物、IL-18転写産物、IL-21転写産物、IL-27転写産物、IL-9転写産物、IL-10転写産物、IL-6転写産物、IL-2転写産物およびIL-13転写産物からなる群から選択される少なくとも1つの転写産物の量を各独立変数として含み、LCIと相関する係数を該各独立変数の係数として含む、判別関数2である、
請求項7に記載の検査方法。
【請求項9】
工程(3)において、LCI-Aに該当する寛解状態の潰瘍性大腸炎患者由来の前記(a)~(i)の全ておよび前記(j)~(u)からなる群から選択される少なくとも1つから二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出し、その重心座標を算出する、請求項8に記載の検査方法。
【請求項10】
工程(4)において、寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者由来の前記(a)~(i)の全ておよび前記(j)~(u)からなる群から選択される少なくとも1つから二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出する、請求項9に記載の検査方法。
【請求項11】
大腸由来組織が盲腸、結腸または直腸である、請求項1~10のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項12】
下記(a)~(i)を含む、寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者の予後予測検査薬
であって、前記検査薬による検査が、請求項1または6に記載の方法により行われる、検査薬:
(a)IL-1β転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット、
(b)IL-4転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット、
(c)IL-17A転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット、
(d)IL-22転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット、
(e)IL-33転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット、
(f)IL-10転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット、
(g)IL-6転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット、
(h)IL-2転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット、および
(i)IL-13転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット。
【請求項13】
下記(j)~(u)からなる群から選択される少なくとも1つさらに含む、請求項12に記載の検査薬
であって、前記検査薬による検査が、請求項3または7に記載の方法により行われる、検査薬:
(j)TNF-α転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット、
(k)IFN-γ転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット、
(l)IL-8転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット、
(m)IL-23転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット、
(n)IL-12転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット、
(o)IL-17F転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット、
(p)IL-5転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット、
(q)IL-15転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット、
(r)IL-18転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット、
(s)IL-21転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット、
(t)IL-27転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット、および
(u)IL-9転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寛解状態の潰瘍性大腸炎患者の集団および同様の状態の被験者から分離された検体について、特定の遺伝子の転写産物を定量し、判別関数を導出し、該判別関数から算出されるLCI-Aに該当する寛解状態の潰瘍性大腸炎患者の重心座標と寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者の座標の直線距離を測定し、予め算出されたカットオフ値と比較することを含む、該被験者の予後を予測するための検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる難治性疾患であり、その原因も未だに不明であるために根本的な治療法が未だ存在しない。本邦においては患者数が急増しており、若年での発症が多く、その病勢コントロールは、その後の長い人生における生活の質(quality of life: QOL)を維持する上で必須となる。
【0003】
潰瘍性大腸炎の治療は対症療法が中心となり、近年、様々な新規治療法が開発され、多くの患者にとって病勢コントロールのための選択肢が増えている。潰瘍性大腸炎治療指針では、重症度、病状に応じて適切な薬剤を選択することが推奨されているが、治療の中心は5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA製剤)と副腎皮質ホルモン製剤である。5-ASA製剤を単独で経口投与又はその他の局所製剤との併用が基本治療となるが、効果不十分な場合は経口副腎皮質ホルモン製剤治療にて寛解導入が行われる。副腎皮質ホルモン製剤治療に対する抵抗性や依存性が認められた患者は難治例とされ、その治療には血球成分除去療法やタクロリムス経口投与、アザチオプリン又は6-メルカプトプリン(6-MP)、抗TNFα抗体製剤が選択される。
【0004】
上記の治療が奏功した潰瘍性大腸炎患者は、一旦寛解期に入る。寛解期に入った患者の一部はそのまま寛解期を維持するが、残りの患者は再び活動期に入り、寛解期と活動期を繰り返すことが多い。寛解期を維持するためには内視鏡的な粘膜治癒(健常に近い内視鏡所見)や組織学的治癒(病理組織で炎症所見が無い状態)が望ましいとの報告が近年相次いでいるものの、未だに確立された内視鏡的粘膜治癒や組織学的治癒の定義が定まっていないのが現状である。この点に関しては、本発明者らは、2017年に内視鏡の新規画像強調システム(Linked Color Imaging: LCI)を用いた潰瘍性大腸炎の予後予測が有用であることを報告している(非特許文献1)。これによると、潰瘍性大腸炎の粘膜を内視鏡観察する際に、LCIを用いて判定することによって、従来の内視鏡診断(Mayo Endoscopic Subscore (MES)またはUlcerative Colitis Endoscopic Index of Severity (UCEIS))と比較し、有意に菜園を予測し、病勢を把握できることが明らかとなった。しかし、LCIを用いるためには専用の医療機器が必要であり、簡単で迅速な寛解状態の潰瘍性大腸炎患者の予後予測方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Uchiyama K et al., J Crohns Colitis, Vol.11, No.8, page 963-969, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者の予後を精度よく予測するための新たな検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、臨床的寛解状態の潰瘍性大腸炎患者の大腸から検体を採取し、各検体をLCI、MESおよびUCEISによって各スコアに分類し、同時に各検体について各種サイトカイン(21種類)のmRNA量を定量し、LC、MESおよびUCEISによって分類されたスコアに相関する判別関数とMESおよびUCEISによって分類されたスコアと相関しないが、LCIによって分類されたスコアと特異的に相関する判別関数を導出し、該判別関数1および2を用いてLCI-Aに該当する寛解状態の潰瘍性大腸炎患者の二次元平面上における重心座標(判別関数1の値、判別関数2の値)と寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者の二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出し、両座標の直線距離を算出したところ、直線距離の一定の値を基準として、被験者における潰瘍性大腸炎の再燃を精度よく予測できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下よりなる。
[1]以下の工程を含む、寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者の予後を予測するための検査方法:
(1)寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者から分離された大腸由来組織における下記(a)~(i)を定量する工程:
(a)IL-1β転写産物、
(b)IL-4転写産物、
(c)IL-17A転写産物、
(d)IL-22転写産物、
(e)IL-33転写産物、
(f)IL-10転写産物、
(g)IL-6転写産物、
(h)IL-2転写産物、および
(i)IL-13転写産物、
(2)予め導出されたLCI、MESおよびUCEISと相関する判別関数1およびLCIと相関する判別関数2を用いて、前記(a)~(i)から二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出する工程、
(3)LCI-Aに該当する寛解状態の潰瘍性大腸炎患者の二次元平面上における予め算出された重心座標と工程(2)で算出された座標の直線距離を算出する工程、
(4)前記直線距離を予め算出されたカットオフ値と比較する工程。
[2]予め算出されたカットオフ値が4.87である、[1]に記載の検査方法。
[3]工程(1)において、下記(j)~(u)をさらに定量することを特徴とする、[1]に記載の検査方法:
(j)TNF-α転写産物、
(k)IFN-γ転写産物、
(l)IL-8転写産物、
(m)IL-23転写産物、
(n)IL-12転写産物、
(o)IL-17F転写産物、
(p)IL-5転写産物、
(q)IL-15転写産物、
(r)IL-18転写産物、
(s)IL-21転写産物、
(t)IL-27転写産物、および
(u)IL-9転写産物。
[4]工程(2)において、前記(a)~(u)から二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出することを特徴とする、[3]に記載の検査方法。
[5]予め算出されたカットオフ値が1.72である、[4]に記載の検査方法。
[6]以下の工程を含む、寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者の予後を予測するための検査方法:
(1)寛解状態の潰瘍性大腸炎患者および寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者から分離された大腸由来組織における下記(a)~(i)を定量する工程:
(a)IL-1β転写産物、
(b)IL-4転写産物、
(c)IL-17A転写産物、
(d)IL-22転写産物、
(e)IL-33転写産物、
(f)IL-10転写産物、
(g)IL-6転写産物、
(h)IL-2転写産物、および
(i)IL-13転写産物、
(2)寛解状態の潰瘍性大腸炎患者由来の前記(a)~(i)から、以下の2つの判別関数を導出する工程、
(i)IL-10転写産物量、IL-6転写産物量、IL-2転写産物量、IL-13転写産物量およびIL-17A転写産物量を各独立変数として含み、LCI、MESおよびUCEISと相関する係数を該各独立変数の係数として含む、判別関数1、および
(ii)IL-1β転写産物量、IL-4転写産物量、IL-17A転写産物量、IL-22転写産物量およびIL-33転写産物量を各独立変数として含み、LCIと相関する係数を該各独立変数の係数として含む、判別関数2、
(3)工程(2)で導出された判別関数を用いて、LCI-Aに該当する寛解状態の潰瘍性大腸炎患者由来の前記(a)~(i)から二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出し、その重心座標を算出する工程、
(4)工程(2)で導出された判別関数を用いて、寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者由来の前記(a)~(i)から二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出する工程、
(5)工程(3)で算出された重心座標と工程(4)で算出された座標の直線距離を算出する工程、
(6)前記直線距離を予め算出されたカットオフ値と比較する工程。
[7]工程(1)において、下記(j)~(u)からなる群から選択される少なくとも1つをさらに定量することを特徴とする、[6]に記載の検査方法:
(j)TNF-α転写産物、
(k)IFN-γ転写産物、
(l)IL-8転写産物、
(m)IL-23転写産物、
(n)IL-12転写産物、
(o)IL-17F転写産物、
(p)IL-5転写産物、
(q)IL-15転写産物、
(r)IL-18転写産物、
(s)IL-21転写産物、
(t)IL-27転写産物、および
(u)IL-9転写産物。
[8]工程(2)において、
(i)判別関数1が、IL-10転写産物量、IL-6転写産物量、IL-2転写産物量、IL-13転写産物量およびIL-17A転写産物量の全てとIL-1β転写産物、IL-4転写産物、IL-22転写産物、IL-33転写産物、TNF-α転写産物、IFN-γ転写産物、IL-8転写産物、IL-23転写産物、IL-12転写産物、IL-17F転写産物、IL-5転写産物、IL-15転写産物、IL-18転写産物、IL-21転写産物、IL-27転写産物およびIL-9転写産物からなる群から選択される少なくとも1つの転写産物の量を各独立変数として含み、LCI、MESおよびUCEISと相関する係数を該各独立変数の係数として含む、判別関数1であり、
(ii)判別関数2が、IL-1β転写産物、IL-4転写産物量、IL-17A転写産物量、IL-22転写産物量およびIL-33転写産物量の全てとTNF-α転写産物、IFN-γ転写産物、IL-8転写産物、IL-23転写産物、IL-12転写産物、IL-17F転写産物、IL-5転写産物、IL-15転写産物、IL-18転写産物、IL-21転写産物、IL-27転写産物、IL-9転写産物、IL-10転写産物、IL-6転写産物、IL-2転写産物およびIL-13転写産物からなる群から選択される少なくとも1つの転写産物の量を各独立変数として含み、LCIと相関する係数を該各独立変数の係数として含む、判別関数2である、
[7]に記載の検査方法。
[9]工程(3)において、LCI-Aに該当する寛解状態の潰瘍性大腸炎患者由来の前記(a)~(i)の全ておよび前記(j)~(u)からなる群から選択される少なくとも1つから二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出し、その重心座標を算出する、[8]に記載の検査方法。
[10]工程(4)において、寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者由来の前記(a)~(i)の全ておよび前記(j)~(u)からなる群から選択される少なくとも1つから二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出する、[9]に記載の検査方法。
[11]大腸由来組織が盲腸、結腸または直腸である、[1]~[10]のいずれか1つに記載の検査方法。
[12]下記(a)~(i)を含む、寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者の予後予測検査薬:
(a)IL-1β転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(b)IL-4転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(c)IL-17A転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(d)IL-22転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(e)IL-33転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー,
(f)IL-10転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(g)IL-6転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(h)IL-2転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、および
(i)IL-13転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー。
[13]下記(j)~(u)からなる群から選択される少なくとも1つさらに含む、[12]に記載の検査薬:
(j)TNF-α転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(k)IFN-γ転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(l)IL-8転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(m)IL-23転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(n)IL-12転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(o)IL-17F転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(p)IL-5転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(q)IL-15転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(r)IL-18転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(s)IL-21転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(t)IL-27転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、および
(u)IL-9転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー。
【発明の効果】
【0009】
特定の遺伝子の転写産物量を測定し、判別関数から算出される再燃しなかった潰瘍性大腸炎患者の座標と被験者の座標の直線距離を測定することによって、寛解した潰瘍性大腸炎患者の予後を予測するための検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】LCI分類ごとの21種のサイトカイン値に基づくプロット(判別関数1の値、判別関数2の値)の散布図を示す図である。LCI-A:発赤なし。LCI-B:発赤あり(発赤領域内に血管模様あり)、LCI-C:発赤あり(発赤領域内に血管模様なし)
【
図2】潰瘍性大腸炎を再燃および非再燃患者の21種のサイトカイン値に基づくプロットの散布図ならびにLCI-A患者のプロットから算出される重心と潰瘍性大腸炎を再燃および非再燃患者のプロット間の距離を示すグラフである。
【
図3】判別関数1:LCI分類、MES分類およびUCEIS分類全てに相関する。判別関数2:LCI分類にのみ相関する。
【
図4】判別関数1:LCI分類、MES分類およびUCEIS分類全てに相関する。判別関数2:LCI分類にのみ相関する。
【
図5】LCI分類ごとの9種のサイトカイン値に基づくプロット(判別関数1の値、判別関数2の値)の散布図を示す図である。LCI-A:発赤なし。LCI-B:発赤あり(発赤領域内に血管模様あり)、LCI-C:発赤あり(発赤領域内に血管模様なし)
【
図6】潰瘍性大腸炎を再燃および非再燃患者の9種のサイトカイン値に基づくプロットの散布図ならびにLCI-A重心と潰瘍性大腸炎を再燃および非再燃患者のプロット間の距離を示すグラフである。
【
図7】21種のサイトカイン値を使用し、LCI-A重心とLCI-Cに分類される寛解状態の患者のプロットとの間の距離に関してロジスティック回帰分析から作成したROC曲線を示す図である。
【
図8】9種のサイトカイン値を使用し、LCI-A重心とLCI-Cに分類される寛解状態の患者のプロットとの間の距離に関してロジスティック回帰分析から作成したROC曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者の予後を予測するための検査方法(本発明の検査方法)を提供する。
【0012】
本発明の検査方法が適用できる寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者は、臨床的に寛解状態であると判断された潰瘍性大腸炎に罹患した被験者であれば特に制限されないが、例えば、Rachmilewitz index(Clinical activity index:CAI)、Sutherland index(Disease activity index:DAI)、Seo index、Lichtiger index等の指標で寛解状態にあると診断された被験者が挙げられる。被験者としては、例えば、ヒト、ヒト以外の哺乳類(例えば、サル、ウシ、ウマ、ブタ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ等)が挙げられる。好ましい被験者は、ヒトである。
【0013】
本発明の検査方法は、1つの実施態様として、以下の工程を含む(以下の工程を含む本発明の検査方法を、本発明の検査方法1と呼ぶ)。
(1)寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者から分離された大腸由来組織における下記(a)~(i)を定量する工程:
(a)IL-1β転写産物、
(b)IL-4転写産物、
(c)IL-17A転写産物、
(d)IL-22転写産物、
(e)IL-33転写産物、
(f)IL-10転写産物、
(g)IL-6転写産物、
(h)IL-2転写産物、および
(i)IL-13転写産物。
(2)予め導出されたLCI、MESおよびUCEISと相関する判別関数1およびLCIと相関する判別関数2を用いて、前記(a)~(i)から二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出する工程。
(3)LCI-Aに該当する寛解状態の潰瘍性大腸炎患者の二次元平面上における予め算出された重心座標と工程(2)で算出された座標の直線距離を算出する工程。
(4)前記直線距離を予め算出されたカットオフ値と比較する工程。
【0014】
本発明の検査方法1は、寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者から分離された大腸由来組織における転写産物量を定量する工程(工程(1))を含む。
【0015】
工程(1)において、寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者から分離される大腸由来組織としては、検査対象である上記被験者から採取されるものであって、定量される転写産物を含有し得る大腸由来組織であれば特に制限されない。そのような大腸由来組織としては、例えば、盲腸、結腸(上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)、直腸などが挙げられる。
【0016】
被験者から分離された大腸由来組織における転写産物の定量は、該組織からRNA(例:全RNA、mRNA)画分を調製し、該画分中に含まれる転写産物の量を測定することにより調べることができる。
従って、一実施態様において、被験者から分離された大腸由来組織における転写産物の定量は、転写産物をそれぞれ特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマーを用いて実施することができる。
【0017】
RNA画分の調製は、グアニジン-CsCl超遠心法、AGPC法など公知の手法を用いて行うことができるが、市販のRNA抽出用キット(例:RNeasy Mini Kit;QIAGEN製等)を用いて、微量検体から迅速且つ簡便に高純度の全RNAを調製することができる。RNA画分中の転写産物を検出する手段としては、例えば、ハイブリダイゼーション(ノーザンブロット、ドットブロット等)を用いる方法、あるいはPCR(RT-PCR、競合PCR、リアルタイムPCR等)を用いる方法などが挙げられる。微量検体から迅速且つ簡便に定量性よく遺伝子の発現変動を検出できる点で競合PCRやリアルタイムPCRなどの定量的PCR法が好ましい。
【0018】
ノーザンブロットまたはドットブロットハイブリダイゼーションによる場合、転写産物の定量は、例えば、各転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブを用いて行うことができる。そのような核酸プローブは、各転写産物であるポリヌクレオチドのうち、約15塩基以上、好ましくは約18~約500塩基、より好ましくは約18~約200塩基、いっそう好ましくは約18~約50塩基の連続したヌクレオチド配列またはその相補配列をふくむポリヌクレオチドである。該核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAが挙げられる。また、プローブとして用いられる核酸は、二本鎖であっても一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。一本鎖の場合は、アンチセンス鎖を用いることができる。
【0019】
また、本発明の検査方法1に用いられる核酸プローブは、各転写産物であるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドである。ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(J. Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab.Press,1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。ストリンジェントな条件としては、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)中45℃でのハイブリダイゼーション反応の後、0.2×SSC/0.1%SDS中65℃での一回以上の洗浄などが挙げられる。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。
【0020】
プローブとして機能する核酸は、転写産物の一部もしくは全部を増幅し得るプライマーセットを用い、ヒト又はヒト以外の哺乳類(例:サル、マウス、ラット、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット等)のあらゆる細胞[例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくは癌細胞など]もしくはそれらの細胞が存在するあらゆる組織[例えば、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、脂肪組織、骨格筋など]由来のcDNAもしくはゲノムDNAを鋳型としてPCR法によって所望の長さの核酸を増幅するか、前記した細胞、組織由来のcDNAもしくはゲノムDNAライブラリーから、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション等により上記の遺伝子もしくはcDNAをクローニングし、必要に応じて制限酵素等を用いて適当な長さの断片とすることにより取得することができる。ハイブリダイゼーションは、例えば、モレキュラー クローニング(Molecular Cloning)第2版(前述)に記載の方法などに従って行なうことができる。あるいは、該核酸は、公知の塩基配列情報に基づいて、該塩基配列および/またはその相補鎖配列の一部もしくは全部を市販のDNA/RNA自動合成機等を用いて化学的に合成することによっても得ることができる。
【0021】
該核酸は、転写産物の定量を可能とするために、標識剤により標識されていることが好ましい。標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔32P〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリホスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、プローブと標識剤との結合にビオチン-(ストレプト)アビジンを用いることもできる。
【0022】
ノーザンハイブリダイゼーションによる場合は、上記のようにして調製したRNA画分をゲル電気泳動にて分離した後、ニトロセルロース、ナイロン、ポリビニリデンジフロリド等のメンブレンに転写し、上記のようにして調製された標識プローブを含むハイブリダイゼーション緩衝液中、特異的にハイブリダイゼーションさせた後、適当な方法でメンブレンに結合した標識量をバンド毎に測定することにより、転写産物量を測定することができる。ドットブロットの場合も、RNA画分をスポットしたメンブレンを同様にハイブリダイゼーション反応に付し、スポットの標識量を測定することにより、転写産物量を測定することができる。
【0023】
別の好ましい実施態様によれば、転写産物を定量する方法として定量的PCR法が用いられる。定量的PCRとしては、例えば、競合PCRやリアルタイムPCRなどが挙げられ、好ましくは、リアルタイムPCRが挙げられる。
PCRにおいてプライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドのセットとしては、例えば、転写産物を特異的に検出し得る核酸プライマーを挙げることができる。1つの好ましい態様においては、本発明の検査方法に用いられる核酸プライマーとしては、例えば、転写産物であるポリヌクレオチドのうち、約15塩基以上、好ましくは約15~約50塩基、より好ましくは約15~約30塩基、いっそう好ましくは約15~約25塩基の連続したヌクレオチド配列の長さを有し、約100bp~数kbpのDNA断片を増幅するようにデザインされたポリヌクレオチド(センス鎖)配列に相補的なポリヌクレオチド、及び前記のポリヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド(アンチセンス鎖)にハイブリダイズし得るポリヌクレオチドのオリゴヌクレオチドのセットが挙げられる。
【0024】
上記の定量方法に従って定量された転写産物の値は、どのような表現されてもよく、濃度、分子数、リアルタイムPCRによって初期転写産物量が所定の量に達するまでに必要なの増幅回数(定量される転写産物が複数ある場合は、内部標準遺伝子の初期転写産物量が所定の量に達するまでに必要なの増幅回数によって補正された値)などが挙げられる。
【0025】
工程(1)において、定量される転写産物としては、下記(a)~(i)が挙げられる。
(a)IL-1β転写産物、
(b)IL-4転写産物、
(c)IL-17A転写産物、
(d)IL-22転写産物、
(e)IL-33転写産物、
(f)IL-10転写産物、
(g)IL-6転写産物、
(h)IL-2転写産物、および
(i)IL-13転写産物。
さらに、工程(1)においては、前記(a)~(i)に加えて、下記(j)~(u)をさらに定量してもよい。
(j)TNF-α転写産物、
(k)IFN-γ転写産物、
(l)IL-8転写産物、
(m)IL-23転写産物、
(n)IL-12転写産物、
(o)IL-17F転写産物、
(p)IL-5転写産物、
(q)IL-15転写産物、
(r)IL-18転写産物、
(s)IL-21転写産物、
(t)IL-27転写産物、および
(u)IL-9転写産物。
【0026】
上記(a)~(u)の各転写産物は公知の転写産物であり、それぞれGenbank Accession No.: NM_000576 (IL-1β)、Genbank Accession No.: M13982 (IL-4)、Genbank Accession No.: NM_002190 (IL-17A)、Genbank Accession No.: NM_020525 (IL-22)、Genbank Accession No.: AY905581 (IL-33)、Genbank Accession No.: NM_000572 (IL-10)、Genbank Accession No.: M54894 (IL-6)、Genbank Accession No.:NM_000586 (IL-2)、Genbank Accession No.: L06801 (IL-13)、Genbank Accession No.: NM_000594 (TNF-α)、Genbank Accession No.: NM_000619 (IFN-γ)、Genbank Accession No.: BT007067 (IL-8)、Genbank Accession No.: NM_016584 (IL-23)、Genbank Accession No.: AF180562 (IL-12)、Genbank Accession No.: NM_052872 (IL-17F)、Genbank Accession No.: NM_000879 (IL-5)、Genbank Accession No.: U14407 (IL-15)、Genbank Accession No.: AY044641 (IL-18)、Genbank Accession No.: AF254069 (IL-21)、Genbank Accession No.: NM_145659 (IL-27)、Genbank Accession No.: NM_000590 (IL-9)として塩基配列が開示されている。本発明の検査方法1においてはIL-1β、IL-4、IL-17A、IL-22、IL-33、IL-10、IL-6、IL-2、IL-13、TNF-α、IFN-γ、IL-8、IL-23、IL-12、IL-17F、IL-5、IL-15、IL-18、IL-21、IL-27およびIL-9の各転写産物は、それぞれ配列番号:1 (IL-1β)、配列番号:2 (IL-4)、配列番号:3 (IL-17A)、配列番号:4 (IL-22)、配列番号:5 (IL-33)、配列番号:6 (IL-10)、配列番号:7 (IL-6)、配列番号:8 (IL-2)、配列番号:9 (IL-13)、配列番号:10 (TNF-α)、配列番号:11 (IFN-γ)、配列番号:12 (IL-8)、配列番号:13 (IL-23)、配列番号:14 (IL-12)、配列番号:15 (IL-17F)、配列番号:16(IL-5)、配列番号:17 (IL-15)、配列番号:18 (IL-18)、配列番号:19(IL-21)、配列番号:20 (IL-27)および配列番号:21 (IL-9)で表される塩基配列と同一または実質的に同一な塩基配列を含む核酸などが挙げられる。
配列番号:1~配列番号:21で表される塩基配列と実質的に同一な塩基配列を含む核酸としては、例えば、配列番号:1~配列番号:21で表される塩基配列と約85%以上、好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、特に好ましくは約98%以上の相同性を有する塩基配列を含有し、IL-1β(あるいはIL-4、IL-17A、IL-22、IL-33、IL-10、IL-6、IL-2、IL-13、TNF-α、IFN-γ、IL-8、IL-23、IL-12、IL-17F、IL-5、IL-15、IL-18、IL-21、IL-27またはIL-9)と実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードする核酸などが用いられる。
本明細書における塩基配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。
あるいは、配列番号:1~配列番号:21で表される塩基配列と実質的に同一な塩基配列を含む核酸としては、例えば、配列番号:1~配列番号:21で表される塩基配列と約85%以上、好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、特に好ましくは約98%以上の同一性を有する塩基配列を含有し、IL-1β(あるいはIL-4、IL-17A、IL-22、IL-33、IL-10、IL-6、IL-2、IL-13、TNF-α、IFN-γ、IL-8、IL-23、IL-12、IL-17F、IL-5、IL-15、IL-18、IL-21、IL-27またはIL-9)と実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードする核酸などが用いられる。
【0027】
本発明の検査方法1は、予め導出されたLCI、MESおよびUCEISと相関する判別関数1およびLCIと相関する判別関数2を用いて、前記(a)~(i)(または前記(a)~(u))から二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出する工程(工程(2))を含む。本発明の検査方法1においては、全ての解析は、公知の利用可能な統計解析ソフトウェアを用いて実施することができ、例えば、SPSSなどを用いることができる。
【0028】
工程(2)において、予め導出された判別関数1および判別関数2は、寛解状態の潰瘍性大腸炎患者から分離される大腸由来組織の前記(a)~(i)(または前記(a)~(u))を基に、多次元尺度法における判別分析を用いて、Linked Color Imaging (LCI)分類(A、B、C)に対するサイトカインパラメータを用いて構築される判別式である。より具体的には、LCI分類(A、B、C)をグループ化変数、各サイトカインパラメータ値を独立変数とした解析モデルを構築する。ここでサイトカインパラメータ値は、前記(a)~(i)(または前記(a)~(u))の各ΔCt値に103を掛けて、自然対数変換を実施した値を採用する。Ct値は、蛍光強度を指標に、PCRによる前記(a)~(i)(または前記(a)~(u))の各増幅量をリアルタイムにモニタリングし、一定の蛍光強度に達した時点の増幅サイクル数として定義され、ΔCt値は、内部標準遺伝子のCt値によって補正された前記(a)~(i)(または前記(a)~(u))のCt値である。また、自然対数変換の実施によって得られる値は-4を下限とし、-4未満の値は-4として取り扱う。上記の解析モデルにおいて、正準判別関数係数を算出し、2次元の判別関数1および判別関数2を構築する。
【0029】
予め導出された判別関数1は、LCI、MESおよびUCEISと相関する判別関数である。また、予め導出された判別関数2は、MESおよびUCEISと相関せず、LCIとのみ相関する判別関数である。予め導出された判別関数1および2としては、例えば、後述する実施例に記載された判別関数1および2を使用することができる。
【0030】
LCI(Linked Color Imaging)とは、発明者らによって報告された、内視鏡の新規画像強調システムを用いた潰瘍性大腸炎の予後予測基準(Uchiyama K et al., J Crohns Colitis, Vol.11, No.8, page 963-969, 2017)であり、該基準に基づき潰瘍性大腸炎を3つのスコア(A、B、C)に分類することができる。LCI-Aに分類される潰瘍性大腸炎の内視鏡画像では、発赤は確認されない。LCI-Bに分類される潰瘍性大腸炎の内視鏡画像では、発赤が確認されるが、発赤領域内に血管模様は見られる。LCI-Cに分類される潰瘍性大腸炎の内視鏡画像では、発赤が確認され、発赤領域内に血管模様も見られない。LCI-Aに分類される潰瘍性大腸炎は、その後寛解状態を維持し続けるが、LCI-Bに分類される潰瘍性大腸炎では、一部が再燃し、LCI-Cに分類される潰瘍性大腸炎では、再燃率が更に高くなる。
【0031】
MES(Mayo Endoscopic Subscore)は、従来から最も使用されてきた公知の内視鏡診断基準であり、該基準に基づき潰瘍性大腸炎を4つのスコア(0、1、2、3)に分類することができる。MES-0に分類される潰瘍性大腸炎の内視鏡画像では、正常または非活動性であると認められる。MES-1に分類される潰瘍性大腸炎の内視鏡画像では、発赤が確認され、血管透見像が不明瞭であり、軽度の易出血性が認められ、軽症に分類される。MES-2に分類される潰瘍性大腸炎の内視鏡画像では、著明な発赤が確認され、血管透見像が消失し、易出血性およびびらんが認められ、中等症に分類される。MES-3に分類される潰瘍性大腸炎の内視鏡画像では、自然出血および潰瘍が認められ、重症に分類される。従来からMES-0またはMES-1に分類される潰瘍性大腸炎は、粘膜寛解または粘膜治癒と判断されてきたが、患者の長期的モニタリングでは、正常であると判断されるMES-0であっても再燃することが報告されている。
【0032】
UCEIS(Ulcerative Colitis Endoscopic Index of Severity)は、MESと同様、従来から使用されてきた公知の内視鏡診断基準であり、血管透見像、出血、びらんと潰瘍の3項目に関してそれぞれスコア化したものの合計となる。血管透見像は、正常(0)、部分的に消失(1)、完全に消失(2)、出血は、出血なし(0)、点状あるいは線状の凝結塊が粘膜表面に見られるが洗浄で除去可能(1)、軽度の管腔内出血(2)、中等度あるいは重症の管腔出血(3)、びらんと潰瘍は、びらんと潰瘍なし(0)、5mm以下の小さな粘膜欠損(びらん)(1)、5mmを超える浅い潰瘍(2)、深い潰瘍(3)と定義される。
【0033】
前記判別関数1および判別関数2を用いて、前記(a)~(i)(または前記(a)~(u))から二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)が算出される。例えば、後述の実施例に記載される判別関数1に対しては、寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者から分離された大腸由来組織におけるIL-10転写産物、IL-6転写産物、IL-2転写産物、IL-13転写産物、IL-17A転写産物の量を測定し、得られた値を当てはめることによって、2次元平面上の横軸に対する値を算出することができる。同様に、判別関数2に対しては、寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者から分離された大腸由来組織におけるIL-1β転写産物、IL-4転写産物、IL-17A転写産物、IL-22転写産物、IL-33転写産物の量を測定し、得られた値を当てはめることによって、2次元平面上の縦軸に対する値を算出することができる。得られた横軸の値、縦軸の値は2次元平面上の座標として扱うことができる。
【0034】
本発明の検査方法1は、LCI-Aに該当する寛解状態の潰瘍性大腸炎患者(以下、LCI-A患者)の二次元平面上における予め算出された重心座標と工程(2)で算出された座標の直線距離を算出する工程(工程(3))を含む。
【0035】
工程(3)において、LCI-A患者の二次元平面上における重心座標は、前記判別関数1および判別関数2を用いて、LCI-A患者の集団から分離された大腸由来組織における前記(a)~(i)(または前記(a)~(u))から二次元平面上における各座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出し、該各座標から重心座標を計算することによって予め導出することができる。例えば、後述の実施例に記載される判別関数1に対しては、LCI-A患者の集団から分離された大腸由来組織におけるIL-10転写産物、IL-6転写産物、IL-2転写産物、IL-13転写産物、IL-17A転写産物の量を測定し、得られた値を当てはめることによって、2次元平面上の横軸に対する値を算出することができる。同様に、判別関数2に対しては、LCI-A患者の集団から分離された大腸由来組織におけるIL-1β転写産物、IL-4転写産物、IL-17A転写産物、IL-22転写産物、IL-33転写産物の量を測定し、得られた値を当てはめることによって、2次元平面上の縦軸に対する値を算出することができる。得られた横軸の値、縦軸の値は2次元平面上の座標として扱い、各座標の横軸の値の和の平均、縦軸の値の和の平均からそれらの重心座標を計算することができる。後述する実施例の通り、前記(a)~(i)を定量した場合、LCI-A患者の二次元平面上における重心座標としては、それに限定されるものではないが、例えば、(0.7596, 0.7645)が挙げられる。あるいは、前記(a)~(u)を定量した場合、LCI-A患者の二次元平面上における重心座標としては、それに限定されるものではないが、例えば、(-0.445, -0.517)が挙げられる。
【0036】
前記重心座標は、潰瘍性大腸炎を再燃しないLCI-Aに該当する患者から算出された重心座標であり、2次元平面上において該重心座標に近い座標が算出された被験者は、LCI-A患者と同様に、潰瘍性大腸炎を再燃しにくい患者であると判断することができる。従って、工程(3)においては、以上の通りにして得られた重心座標と工程(2)で算出された座標から両座標の直線距離が算出される。
【0037】
本発明の検査方法1は、前記直線距離を予め算出されたカットオフ値と比較する工程(工程(4))を含む。
【0038】
工程(3)で算出された直線距離は、被験者の潰瘍性大腸炎の予後を予測する上での指標として用いることができる。従って、工程(3)においては、重心座標は、潰瘍性大腸炎を再燃しないLCI-A患者から算出された重心座標であり、2次元平面上において該重心座標に近い座標が算出された被験者は、LCI-A患者と同様に、潰瘍性大腸炎を再燃しにくい患者であると判断することができる。従って、工程(4)において、前記直線距離は予め算出されたカットオフ値と比較される。比較された結果、前記直線距離が所定のカットオフ値以上であった場合、寛解状態の潰瘍性大腸炎は潰瘍性大腸炎を再燃すると予測することができる。一方、前記直線距離が所定のカットオフ値未満であった場合、寛解状態の潰瘍性大腸炎は潰瘍性大腸炎を再燃しないと予測することができる。
【0039】
後述する実施例の通り、前記(a)~(i)を定量した場合、所定のカットオフ値としては、それに限定されるものではないが、例えば、4.87が挙げられる。あるいは、前記(a)~(u)を定量した場合、所定のカットオフ値としては、それに限定されるものではないが、例えば、1.72が挙げられる。
【0040】
本発明の検査方法は、別の実施態様として、以下の工程を含む(以下の工程を含む本発明の検査方法を、本発明の検査方法2と呼ぶ)。
(1)寛解状態の潰瘍性大腸炎患者および寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者から分離された大腸由来組織における下記(a)~(i)を定量する工程:
(a)IL-1β転写産物、
(b)IL-4転写産物、
(c)IL-17A転写産物、
(d)IL-22転写産物、
(e)IL-33転写産物、
(f)IL-10転写産物、
(g)IL-6転写産物、
(h)IL-2転写産物、および
(i)IL-13転写産物。
(2)寛解状態の潰瘍性大腸炎患者由来の前記(a)~(i)から、以下の2つの判別関数を導出する工程、
(i)IL-10転写産物量、IL-6転写産物量、IL-2転写産物量、IL-13転写産物量およびIL-17A転写産物量を各独立変数として含み、LCI、MESおよびUCEISと相関する係数を該各独立変数の係数として含む、判別関数1、および
(ii)IL-1β転写産物量、IL-4転写産物量、IL-17A転写産物量、IL-22転写産物量およびIL-33転写産物量を各独立変数として含み、LCIと相関する係数を該各独立変数の係数として含む、判別関数2。
(3)工程(2)で導出された判別関数を用いて、LCI-Aに該当する寛解状態の潰瘍性大腸炎患者由来の前記(a)~(i)から二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出し、その重心座標を算出する工程。
(4)工程(2)で導出された判別関数を用いて、寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者由来の前記(a)~(i)から二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出する工程。
(5)工程(3)で算出された重心座標と工程(4)で算出された座標の直線距離を算出する工程。
(6)前記直線距離を予め算出されたカットオフ値と比較する工程。
【0041】
本発明の検査方法2は、寛解状態の潰瘍性大腸炎患者および寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者から分離された大腸由来組織における転写産物量を定量する工程(工程(1))を含む。
【0042】
工程(1)において、寛解状態の潰瘍性大腸炎患者は、臨床的に寛解状態であると判断された潰瘍性大腸炎に罹患した患者であれば特に制限されないが、例えば、Rachmilewitz index(Clinical activity index:CAI)、Sutherland index(Disease activity index:DAI)、Seo index、Lichtiger index等の指標で寛解状態にあると診断された患者が挙げられる。患者としては、例えば、ヒト、ヒト以外の哺乳類(例えば、サル、ウシ、ウマ、ブタ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ等)が挙げられる。好ましい患者は、ヒトである。また、患者の数は、本発明の検査方法2を実施可能な程度の集団であれば特に制限されないが、通常、100人以上、好ましくは、300人以上、より好ましくは、500人以上である。
【0043】
工程(1)において、定量される転写産物としては、下記(a)~(i)が挙げられる。
(a)IL-1β転写産物、
(b)IL-4転写産物、
(c)IL-17A転写産物、
(d)IL-22転写産物、
(e)IL-33転写産物、
(f)IL-10転写産物、
(g)IL-6転写産物、
(h)IL-2転写産物、および
(i)IL-13転写産物。
さらに、工程(1)においては、前記(a)~(i)に加えて、下記(j)~(u)からなる群から選択される少なくとも1つをさらに定量してもよい。
(j)TNF-α転写産物、
(k)IFN-γ転写産物、
(l)IL-8転写産物、
(m)IL-23転写産物、
(n)IL-12転写産物、
(o)IL-17F転写産物、
(p)IL-5転写産物、
(q)IL-15転写産物、
(r)IL-18転写産物、
(s)IL-21転写産物、
(t)IL-27転写産物、および
(u)IL-9転写産物。
【0044】
本発明の検査方法2は、寛解状態の潰瘍性大腸炎患者由来の前記(a)~(i)(または前記(a)~(i)全ておよび前記(j)~(u)からなる群から選択される少なくとも1つ)から、2つの判別関数(判別関数1および2)の導出する工程(工程(2))を含む。工程(2)で導出される判別関数は、本発明の検査方法1に記載の判別関数と同じ導出方法で導出することができる。
【0045】
工程(2)で導出される判別関数1は、LCI、MESおよびUCEISと相関する判別関数であれば制限されない。例えば、寛解状態の潰瘍性大腸炎患者由来の前記(a)~(i)から導出される判別関数1としては、IL-10転写産物量、IL-6転写産物量、IL-2転写産物量、IL-13転写産物量およびIL-17A転写産物量を各独立変数として含み、LCI、MESおよびUCEISと相関する係数を該各独立変数の係数として含む、判別関数1が挙げられる。あるいは、前記(a)~(i)全ておよび前記(j)~(u)からなる群から選択される少なくとも1つから導出される判別関数1としては、IL-10転写産物量、IL-6転写産物量、IL-2転写産物量、IL-13転写産物量およびIL-17A転写産物量の全てとIL-1β転写産物、IL-4転写産物、IL-22転写産物、IL-33転写産物、TNF-α転写産物、IFN-γ転写産物、IL-8転写産物、IL-23転写産物、IL-12転写産物、IL-17F転写産物、IL-5転写産物、IL-15転写産物、IL-18転写産物、IL-21転写産物、IL-27転写産物およびIL-9転写産物からなる群から選択される少なくとも1つの転写産物の量を各独立変数として含み、LCI、MESおよびUCEISと相関する係数を該各独立変数の係数として含む、判別関数1が挙げられる。具体的な判別関数1としては、後述する実施例に記載された判別関数1が挙げられる。
【0046】
工程(2)で導出される判別関数2は、MESおよびUCEISと相関せず、LCIとのみ相関する判別関数であれば制限されない。例えば、寛解状態の潰瘍性大腸炎患者由来の前記(a)~(i)から導出される判別関数2としては、IL-1β転写産物量、IL-4転写産物量、IL-17A転写産物量、IL-22転写産物量およびIL-33転写産物量を各独立変数として含み、LCIと相関する係数を該各独立変数の係数として含む、判別関数2が挙げられる。あるいは、前記(a)~(i)全ておよび前記(j)~(u)からなる群から選択される少なくとも1つから導出される判別関数2としては、IL-1β転写産物量、IL-4転写産物量、IL-17A転写産物量、IL-22転写産物量およびIL-33転写産物量の全てとTNF-α転写産物、IFN-γ転写産物、IL-8転写産物、IL-23転写産物、IL-12転写産物、IL-17F転写産物、IL-5転写産物、IL-15転写産物、IL-18転写産物、IL-21転写産物、IL-27転写産物、IL-9転写産物、IL-10転写産物、IL-6転写産物、IL-2転写産物およびIL-13転写産物からなる群から選択される少なくとも1つの転写産物の量を各独立変数として含み、LCIと相関する係数を該各独立変数の係数として含む、判別関数2が挙げられる。具体的な判別関数2としては、後述する実施例に記載された判別関数2が挙げられる。
【0047】
本発明の検査方法2は、工程(2)で導出された判別関数を用いて、LCI-A患者由来の前記(a)~(i)(または、前記(a)~(i)の全ておよび前記(j)~(u)からなる群から選択される少なくとも1つ)から二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出し、その重心座標を算出する工程(工程(3))を含む。
【0048】
工程(3)における座標、重心座標は、本発明の検査方法1に記載の座標、重心座標と同じ算出方法で算出することができる。後述する実施例の通り、前記(a)~(i)を定量した場合、LCI-A患者の二次元平面上における重心座標としては、それに限定されるものではないが、例えば、(0.7596, 0.7645)が挙げられる。あるいは、前記(a)~(u)を定量した場合、LCI-A患者の二次元平面上における重心座標としては、それに限定されるものではないが、例えば、(-0.445, -0.517)が挙げられる。
【0049】
本発明の検査方法2は、工程(2)で導出された判別関数を用いて、寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者由来の前記(a)~(i)(または、前記(a)~(i)の全ておよび前記(j)~(u)からなる群から選択される少なくとも1つ)から二次元平面上における座標(判別関数1の値、判別関数2の値)を算出する工程(工程(4))を含む。
【0050】
工程(4)における座標は、本発明の検査方法1に記載の座標と同じ算出方法で算出することができる。
【0051】
本発明の検査方法2は、工程(3)で算出された重心座標と工程(4)で算出された座標の直線距離を算出する工程(工程(5))を含む。
【0052】
工程(3)で算出された重心座標は、潰瘍性大腸炎を再燃しないLCI-A患者から算出された重心座標であり、2次元平面上において該重心座標に近い座標が算出された被験者は、LCI-A患者と同様に、潰瘍性大腸炎を再燃しにくい患者であると判断することができる。従って、工程(5)においては、工程(3)で算出された重心座標と工程(4)で算出された座標の直線距離から両座標の直線距離が算出される。
【0053】
本発明の検査方法2は、前記直線距離を予め算出されたカットオフ値と比較する工程(工程(6))を含む。
【0054】
工程(5)で算出された直線距離は、被験者の潰瘍性大腸炎の予後を予測する上での指標として用いることができる。工程(6)において、前記直線距離は予め算出されたカットオフ値と比較された結果、前記直線距離が所定のカットオフ値以上であった場合、寛解状態の潰瘍性大腸炎は潰瘍性大腸炎を再燃すると予測することができる。一方、前記直線距離が所定のカットオフ値未満であった場合、寛解状態の潰瘍性大腸炎は潰瘍性大腸炎を再燃しないと予測することができる。
【0055】
後述する実施例の通り、前記(a)~(i)を定量した場合、所定のカットオフ値としては、それに限定されるものではないが、例えば、4.87が挙げられる。あるいは、前記(a)~(u)を定量した場合、所定のカットオフ値としては、それに限定されるものではないが、例えば、1.72が挙げられる。
【0056】
さらに、本発明は、寛解状態の潰瘍性大腸炎被験者の予後予測検査薬(以下、本発明の検査薬)を提供する。本発明の検査薬は、上述の本発明の検査方法を簡便に実施するための検査薬であればよく、特に限定されないが、例えば、
(a)IL-1β転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(b)IL-4転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(c)IL-17A転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(d)IL-22転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(e)IL-33転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(f)IL-10転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(g)IL-6転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(h)IL-2転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、および
(i)IL-13転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー
を含む。
【0057】
本発明の検査薬はさらに、前記(a)~(i)に加えて、下記(j)~(u)をさらに含んでもよい。
(j)TNF-α転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(k)IFN-γ転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(l)IL-8転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(m)IL-23転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(n)IL-12転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(o)IL-17F転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(p)IL-5転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(q)IL-15転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(r)IL-18転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(s)IL-21転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、
(t)IL-27転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー、および
(u)IL-9転写産物を特異的に検出し得る核酸プローブまたは核酸プライマー。
【0058】
本発明の検査薬が前記の核酸プローブまたは核酸プライマーを構成として含む場合、該核酸プローブまたは核酸プライマーとしては、本発明の検査方法において前記したプローブ用核酸もしくはプライマー用オリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0059】
転写産物を定量し得る核酸は、乾燥した状態もしくはアルコール沈澱の状態で、固体として提供することもできるし、水もしくは適当な緩衝液(例:TE緩衝液等)中に溶解した状態で提供することもできる。標識プローブとして用いられる場合、該核酸は予め上記のいずれかの標識物質で標識した状態で提供することもできるし、標識物質とそれぞれ別個に提供され、用時標識して用いることもできる。
あるいは、該核酸は、適当な固相に固定化された状態で提供することもできる。固相としては、例えば、ガラス、シリコン、プラスチック、ニトロセルロース、ナイロン、ポリビニリデンジフロリド等が挙げられるが、これらに限定されない。また、固定化手段としては、予め核酸にアミノ基、アルデヒド基、SH基、ビオチンなどの官能基を導入しておき、一方、固相上にも該核酸と反応し得る官能基(例:アルデヒド基、アミノ基、SH基、ストレプトアビジンなど)を導入し、両官能基間の共有結合で固相と核酸を架橋したり、ポリアニオン性の核酸に対して、固相をポリカチオンコーティングして静電結合を利用して核酸を固定化するなどの方法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
本発明の検査薬に含有される核酸は、同一の方法(例:ノーザンブロット、ドットブロット、DNAアレイ技術、定量RT-PCR等)により転写産物を定量し得るように構築されていることが特に好ましい。
【0061】
本発明の検査薬を構成する試薬は、転写産物を定量し得る核酸に加えて、転写産物を定量するための反応において必要な他の物質であって、共存状態で保存することにより反応に悪影響を及ぼさない物質をさらに含有することができる。あるいは、該試薬は、転写産物を定量するための反応において必要な他の物質を含有する別個の試薬とともに提供されてもよい。例えば、転写産物を定量するための反応がPCRの場合、当該他の物質としては、例えば、反応緩衝液、dNTPs、耐熱性DNAポリメラーゼ等が挙げられる。競合PCRやリアルタイムPCRを用いる場合は、competitor核酸や蛍光試薬(上記インターカレーターや蛍光プローブ等)などをさらに含むことができる。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではないことは明らかである。
【0063】
検体の採取
臨床的寛解状態(Lichtiger index≦4)の潰瘍性大腸炎患者(61症例)から回盲部、S字結腸、直腸の3か所について検体(計183か所)を得た。患者背景を表1に示す。
【0064】
【0065】
採取した検体におけるサイトカイン発現の統計的解析
採取した各検体についてreal time PCR法により各種サイトカイン(TNFα、IFNγ、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-17A、IL-17F、IL-18、IL-21、IL-22、IL-23、IL-27およびIL-33)のmRNA発現量を定量した。real time PCRより得られたサインカイン値をΔΔCt法によりそれぞれのサイトカイン発現を内視鏡分類(Linked Color Imaging (LCI)、Mayo Endoscopic Subscore (MES)およびUlcerative Colitis Endoscopic Index of Severity (UCEIS))別に比較検討した。なお、LCI分類は従来のMES分類やUCEIS分類よりも潰瘍性大腸炎の再燃をより的確に予測することが可能である。
【0066】
多次元尺度法における判別分析を用いたサイトカインパラメータによるLCI分類に対する判別関数の算出(1)
上記の21種のサイトカイン値に対して対数変換を行い、LCI分類をグループ化変数、サイトカイン値を独立変数とした解析モデルにて判別分析を行った。下記の計算式により正準判別関数係数を算出の上、LCI分類、MES分類及びUCEIS分類に相関する判別関数1とLCI分類にのみ相関する判別関数2を構築し、各LCI分類の重心の算出と、判別関数第1軸及び第2軸についてプロットを行った。その後、MES分類及びUCEIS分類において、判別関数がどのような特徴を示すかを検討するために、MES分類及びUCEIS分類間での正準判別関数の群間比較を行った。その結果、
図1に示すとおり、LCI分類による散布図を描出した。LCI-Aに分類される寛解状態の患者では潰瘍性大腸炎の再燃を認めないことから、散布図におけるLCI-Aに分類される寛解状態の患者のプロットの重心(LCI-A重心)は、潰瘍性大腸炎患者の再燃判定のための基準となりうる。そこで、まず、各潰瘍性大腸炎患者のS字結腸、直腸の3か所の検体から得られるプロットのうち、最もLCI-A重心から遠いプロットを該患者を示すプロットとして扱った。その上で、それぞれの患者を示すプロットとLCI-A重心との距離を算出した。その結果、潰瘍性大腸炎の再燃はLCI-A重心から遠いプロットを有する症例で有意に高いことが分かり、潰瘍性大腸炎患者を示すプロットとLCI-A重心との距離を算出することによって潰瘍性大腸炎の再燃を予測しうることが判明した(
図2)。
【0067】
関数式
関数1:
Function 1 = (0.1672*ln_TNFα_*10^3) + (0.7617*ln_IL-10_*10^3) + (0.8036*ln_IL-6_*10^3) + (-0.1215*ln_IFNγ_*10^3) + (-0.0554*ln_IL-1β_*10^3) + (0.1647*ln_IL-8_*10^3) + (-0.7998*ln_IL23_*10^3) + (0.5548*ln_IL12_*10^3) + (-1.3550*ln_IL17F_*10^3) + (-1.1933*ln_IL2_*10^3) + (0.1310*ln_IL5_*10^3) + (-0.8450*ln_IL13_*10^3) + (0.4299*ln_IL15_*10^3) + (0.7382*ln_IL18_*10^3) + (0.1920*ln_IL21_*10^3) + (-0.1565*ln_IL4_*10^3) + (-0.1200*ln_IL27_*10^3) + (0.0602*ln_IL33_*10^3) + (0.0329*ln_IL9_*10^3) + (-0.1109*ln_IL22_*10^3) + (1.0076*ln_IL17A_*10^3) -1.5295
関数2:
Function 2 = (0.3834*ln_TNFα_*10^3) + (-0.1385*ln_IL-10_*10^3) + (0.1570*ln_IL-6_*10^3) + (-0.2092*ln_IFNγ_*10^3) + (0.5000*ln_IL-1β_*10^3) + (0.1547*ln_IL-8_*10^3) + (0.6801*ln_IL23_*10^3) + (0.3162*ln_IL12_*10^3) + (0.7492*ln_IL17F_*10^3) + (-0.0659*ln_IL2_*10^3) + (-0.5527*ln_IL5_*10^3) + (-0.3090*ln_IL13_*10^3) + (-0.2303*ln_IL15_*10^3) + (0.2235*ln_IL18_*10^3) + (0.1802*ln_IL21_*10^3) + (0.5542*ln_IL4_*10^3) + (-0.3643*ln_IL27_*10^3) + (1.0020*ln_IL33_*10^3) + (0.0515*ln_IL9_*10^3) + (-0.5224*ln_IL22_*10^3) + (-1.2609*ln_IL17A_*10^3) -2.4371
※ln: 対数変換(自然対数)
※各変数加減:対数変換後に「-4」を関数計算時下限とする。
【0068】
また、発明者らは、測定した21種のサイトカインの変動を抽出し、変動の大きいサイトカインを判別関数1および2について選別した(
図3)。なお、判別関数2はMES分類およびUCEIS分類には相関を認めなかった(
図4)。発明者らは、
図2において、判別関数1においてLCI分類、MES分類及びUCEIS分類に有意に相関する上位5因子としてIL-10、IL-6、IL-2、IL-13およびIL-17Aならびに判別関数2においてLCI分類に有意に相関するIL-1β、IL-4、IL-17A、IL-22、IL-33を抽出した。抽出された上記9種のサイトカインを潰瘍性大腸炎の予後を予測する因子として使用可能か否か、判別式を再構築した。
【0069】
多次元尺度法における判別分析を用いたサイトカインパラメータによるLCI分類に対する判別関数の算出(2)
抽出された上記9種のサイトカイン値に対して対数変換を行い、LCI分類をグループ化変数、サイトカイン値を独立変数とした解析モデルにて判別分析を行った。下記の計算式により正準判別関数係数を算出の上、LCI分類、MES分類及びUCEIS分類に相関する判別関数1とLCI分類にのみ相関する判別関数2を構築し、各LCI分類の重心の算出と、判別関数第1軸及び第2軸についてプロットを行った。その後、MES分類及びUCEIS分類において、判別関数がどのような特徴を示すかを検討するために、MES分類及びUCEIS分類間での正準判別関数の群間比較を行った。その結果、
図5に示すとおり、LCI分類による散布図を描出した。21種のサイトカイン値を用いた場合と同様、それぞれの患者を示すプロットとLCI-A重心との距離を算出した。その結果、上記9種のサイトカイン値のみを用いた場合であっても、潰瘍性大腸炎の再燃はLCI-A重心から遠いプロットを有する症例で有意に高いことが分かり、潰瘍性大腸炎患者を示すプロットとLCI-A重心との距離を算出することによって潰瘍性大腸炎の再燃を予測しうることが判明した(
図6)。
【0070】
関数式
関数1:
Function 1 = (0.7617*ln_IL-10_*10^3) + (0.8036*ln_IL-6_*10^3) + (-1.1933*ln_IL2_*10^3) + (-0.8450*ln_IL13_*10^3) + (1.0076*ln_IL17A_*10^3)
関数2:
Function 2 = (0.5000*ln_IL-1β_*10^3) + (0.5542*ln_IL4_*10^3) + (1.0020*ln_IL33_*10^3) + (-0.5224*ln_IL22_*10^3) + (-1.2609*ln_IL17A_*10^3)
※ln: 対数変換(自然対数)
※各変数加減:対数変換後に「-4」を関数計算時下限とする。
【0071】
本発明者らは、2017年に内視鏡の新規画像強調システム(Linked Color Imaging: LCI)を用いた潰瘍性大腸炎の予後予測が有用であることを報告しており、本実施例で集めた患者ではLCI-Aに分類される寛解状態の患者は再燃せず(再燃0%(0/12))、LCI-Cに分類される寛解状態の患者は高い確率で再燃した(再燃71.4%(20/28))。しかし、LCI-Bに分類される寛解状態の患者は再燃の予測が立ちにくかった(再燃42.9%(9/21))。上記の通り、潰瘍性大腸炎の再燃はLCI-A重心から遠い症例で有意に高いことが判明したため、統計解析ソフトJMP Pro14.0.0を用いて、寛解状態における各患者のLCI-A重心からの距離に関してロジスティック回帰分析からROC曲線(
図7、8)を作成し、潰瘍性大腸炎の再燃および非再燃におけるカットオフ値、AUC、感度、特異度を算出した。結果として、21種のサイトカイン値を使用した場合、カットオフ値として1.72が算出され、9種のサイトカイン値を使用した場合、カットオフ値として4.87が算出された。ここで、LCI-Bに分類される寛解状態の患者の再燃予測に上記のカットオフ値が適用可能かどうかを検証した。上記2種類のカットオフ値を基準にLCI-Bに分類される寛解状態の患者を2群に分け、潰瘍性大腸炎の再燃の有無との関連性を検証した。結果を表2および3に示す。
【0072】
【0073】
【0074】
LCI-Bに分類される寛解状態の患者に関して、カットオフ値1.72を基準とした21種のサイトカインを用いた再燃性予測とカットオフ値4.87を基準とした9種のサイトカインを用いた再燃性予測は同程度の予測能を有すると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の検査方法を採用することにより、高価な専用の医療機器を必要とせず、簡単で迅速な寛解状態の潰瘍性大腸炎患者の予後予測が可能となる。
【配列表】