(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ステアリングシャフトの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 3/03 20060101AFI20241219BHJP
F16D 1/02 20060101ALI20241219BHJP
B62D 1/18 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
F16C3/03
F16D1/02 210
B62D1/18
(21)【出願番号】P 2021031696
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2024-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】523207386
【氏名又は名称】NSKステアリング&コントロール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 誠一
(72)【発明者】
【氏名】狩野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小池 康男
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-181991(JP,A)
【文献】特開2017-145945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/03
F16D 1/02
B62D 1/00-1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空状のシャフト、及び前記シャフトが圧入される被圧入部材と、を備えるステアリングシャフトの製造方法であって、
治具によって前記シャフトを前記被圧入部材に圧入する圧入工程を備え、
前記シャフトは、
前記被圧入部材とは反対側にある環状の端面と、
前記端面に対して前記被圧入部材側に配置される環状の第1段差面と、
前記端面と前記第1段差面との間に配置される環状の第2段差面と、
を備え、
前記治具は、
前記圧入工程において前記端面に面するベースと、
前記圧入工程において前記第1段差面に面する第1スリーブと、
前記ベースと前記第1スリーブとの間に配置され、前記圧入工程において前記第2段差面に面する第2スリーブと、
前記第1スリーブと前記第2スリーブとの間に配置される第1スプリングと、
前記第2スリーブと前記ベースとの間に配置される第2スプリングと、
を備え、
前記圧入工程において、前記第1スリーブが前記第1段差面に接した後に前記第2スリーブが前記第2段差面に接し、前記第2スリーブが前記第2段差面に接した後に前記ベースが前記端面に接する
ステアリングシャフトの製造方法。
【請求項2】
前記治具は、前記ベースから前記第1スリーブの方向に延びる筒状のガイド部を備え、
前記圧入工程において、前記シャフトは、前記ガイド部の内周面に沿って前記ガイド部に挿入される
請求項1に記載のステアリングシャフトの製造方法。
【請求項3】
前記シャフトは、軸方向に延びる複数の第1歯を備え、
前記ガイド部は、複数の前記第1歯と噛み合う複数の第2歯を備える
請求項2に記載のステアリングシャフトの製造方法。
【請求項4】
前記治具は、前記ベースに固定され且つ前記第2スプリング、前記第2スリーブ、前記第1スプリング及び前記第1スリーブを貫通する心棒を備える
請求項1から3のいずれか1項に記載のステアリングシャフトの製造方法。
【請求項5】
前記心棒は、前記第1スリーブの内径よりも大きい外径を有するフランジ部を先端に備える
請求項4に記載のステアリングシャフトの製造方法。
【請求項6】
前記心棒は、前記第1スリーブを貫通する大径部と、前記第2スリーブを貫通する小径部と、を備え、
前記大径部の外径は、前記第2スリーブの内径よりも大きい
請求項4又は5に記載のステアリングシャフトの製造方法。
【請求項7】
前記大径部の軸方向の長さは、前記第1スリーブが前記第1段差面に接してから前記ベースが前記端面に接するまでの間に生じる前記第1スプリングの変位と前記第2スプリングの変位の和よりも大きい
請求項6に記載のステアリングシャフトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステアリングシャフトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、操作者(運転者)のステアリングホイールに対する操作を車輪に伝えるための装置としてステアリング装置が設けられている。ステアリング装置は、車輪を動かすステアリングギヤと、ステアリングホイールに加えられたトルクをステアリングギヤに伝達する複数のステアリングシャフトと、を備えている。走行時における振動を吸収するため、又は縮めた状態で車両に組み込むため等の理由から、ステアリングシャフトは、伸縮できる構造を有する場合がある。
【0003】
特許文献1には、伸縮するシャフトの一例が記載されている。特許文献1の伸縮自在シャフトは、コーティング層で覆われる雄スプライン部を有するインナシャフトと、当該雄スプライン部と噛み合う雌スプラインを有するアウタチューブと、を備える。雄スプライン部が雌スプラインに対してスライドする時のがたつきを小さくするため、インナシャフトとアウタチューブは、締め代を有する状態(アウタチューブがインナシャフトを締め付けた状態)で連結される。一方、インナシャフトとアウタチューブとの間の摺動抵抗は、インナシャフトとアウタチューブとの相対位置によらずに一定であることが望ましい。しかし、雄スプライン部又は雌スプラインの寸法にバラツキがある場合、相対位置によってインナシャフトとアウタチューブとの間の締め代が変化する。雄スプラインの剛性が高い場合、締め代の変化に対する、インナシャフトとアウタチューブとの間の摺動抵抗の変化率が大きくなりやすい。特許文献1では、インナシャフトが中空部材であることによって、締め代の変化に対する摺動抵抗の変化率を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ステアリングシャフトの製造工程において、インナシャフトは、他の部材(被圧入部材)に圧入される。しかし、インナシャフトが中空部材であるため、圧入荷重が掛かる雄スプライン部の端面周辺が変形することがある。その結果、ステアリングシャフトの歩留まりが低下する。
【0006】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、被圧入部材に圧入される中空のシャフトの変形を抑制できるステアリングシャフトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本開示のステアリングシャフトの製造方法は、中空状のシャフト、及び前記シャフトが圧入される被圧入部材と、を備えるステアリングシャフトの製造方法であって、治具によって前記シャフトを前記被圧入部材に圧入する圧入工程を備え、前記シャフトは、前記被圧入部材とは反対側にある環状の端面と、前記端面に対して前記被圧入部材側に配置される環状の第1段差面と、前記端面と前記第1段差面との間に配置される環状の第2段差面と、を備え、前記治具は、前記圧入工程において前記端面に面するベースと、前記圧入工程において前記第1段差面に面する第1スリーブと、前記ベースと前記第1スリーブとの間に配置され、前記圧入工程において前記第2段差面に面する第2スリーブと、前記第1スリーブと前記第2スリーブとの間に配置される第1スプリングと、前記第2スリーブと前記ベースとの間に配置される第2スプリングと、を備え、前記圧入工程において、前記第1スリーブが前記第1段差面に接した後に前記第2スリーブが前記第2段差面に接し、前記第2スリーブが前記第2段差面に接した後に前記ベースが前記端面に接する。
【0008】
これにより、治具に加えられる圧入力が、シャフトの3か所(第1段差面、第2段差面、及び端面)に分散して伝達される。このため、端面のみに圧入力をかける場合と比較して、端面の周辺部の変形が抑制される。したがって、本開示のステアリングシャフトの製造方法は、被圧入部材に圧入される中空のシャフトの変形を抑制できる。
【0009】
上記のステアリングシャフトの製造方法の望ましい態様として、前記治具は、前記ベースから前記第1スリーブの方向に延びる筒状のガイド部を備え、前記圧入工程において、前記シャフトは、前記ガイド部の内周面に沿って前記ガイド部に挿入される。
【0010】
これにより、圧入工程においてシャフトが治具に対して傾く可能性が低減する。したがって、本開示のステアリングシャフトの製造方法は、第1段差面、第2段差面、及び端面のそれぞれにおける圧力分布を、より均等にすることができる。
【0011】
上記のステアリングシャフトの製造方法の望ましい態様として、前記シャフトは、軸方向に延びる複数の第1歯を備え、前記ガイド部は、複数の前記第1歯と噛み合う複数の第2歯を備える。
【0012】
これにより、治具を回転させることによって、シャフトを回転させることが可能である。このため、本開示のステアリングシャフトの製造方法は、圧入工程において、シャフト及び被圧入部材の相対角度の調整を容易にすることができる。
【0013】
上記のステアリングシャフトの製造方法の望ましい態様として、前記治具は、前記ベースに固定され且つ前記第2スプリング、前記第2スリーブ、前記第1スプリング及び前記第1スリーブを貫通する心棒を備える。
【0014】
これにより、第2スプリング、第2スリーブ、第1スプリング及び第1スリーブを一直線上に配置することが容易になる。本開示のステアリングシャフトの製造方法は、圧入工程の作業をより容易にすることができる。
【0015】
上記のステアリングシャフトの製造方法の望ましい態様として、前記心棒は、前記第1スリーブの内径よりも大きい外径を有するフランジ部を先端に備える。
【0016】
これにより、治具において、第2スプリング、第2スリーブ、第1スプリング及び第1スリーブがベースから外れることが抑制される。本開示のステアリングシャフトの製造方法は、圧入工程の作業をより容易にすることができる。
【0017】
上記のステアリングシャフトの製造方法の望ましい態様として、前記心棒は、前記第1スリーブを貫通する大径部と、前記第2スリーブを貫通する小径部と、を備え、前記大径部の外径は、前記第2スリーブの内径よりも大きい。
【0018】
これにより、小径部と大径部との間の段差面によって第2スリーブを位置決めすることが可能である。このため、第1スプリング及び第2スプリングの弾性力のつり合いによって第2スリーブを位置決めする場合と比較して、第1スプリング及び第2スプリングの長さ及びばね定数に関する制約が少なくなる。したがって、本開示のステアリングシャフトの製造方法は、シャフトの3か所(第1段差面、第2段差面、及び端面)の荷重分担の調整をより容易にすることができる。
【0019】
上記のステアリングシャフトの製造方法の望ましい態様として、前記大径部の軸方向の長さは、前記第1スリーブが前記第1段差面に接してから前記ベースが前記端面に接するまでの間に生じる前記第1スプリングの変位と前記第2スプリングの変位の和よりも大きい。
【0020】
これにより、ベースが端面に接した時点で、第1スリーブは大径部に重なっている。このため、第1スリーブは、大径部から外れない。本開示のステアリングシャフトの製造方法は、圧入工程において第1スリーブががたつく可能性を低減できる。
【発明の効果】
【0021】
本開示のステアリングシャフトの製造方法は、被圧入部材に圧入される中空のシャフトの変形を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施形態のステアリング装置の模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態のステアリング装置の斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態のインターミディエートシャフトの断面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態のステアリングシャフトの製造に用いられる治具の断面図である。
【
図5】
図5は、本実施形態の治具の分解斜視図である。
【
図6】
図6は、本実施形態の治具及びインナシャフトの分解斜視図である。
【
図7】
図7は、本実施形態の圧入工程における治具及びインナシャフトの断面図である。
【
図8】
図8は、本実施形態の圧入工程における治具及びインナシャフトの断面図である。
【
図9】
図9は、本実施形態の圧入工程における治具及びインナシャフトの断面図である。
【
図10】
図10は、本実施形態の圧入工程における治具及びインナシャフトの断面図である。
【
図11】
図11は、変形例のステアリングシャフトの製造に用いられる治具の断面図である。
【
図13】
図13は、変形例の治具及びインナシャフトの分解斜視図である。
【
図14】
図14は、変形例の圧入工程における治具及びインナシャフトの断面図である。
【
図15】
図15は、変形例の圧入工程における治具及びインナシャフトの断面図である。
【
図16】
図16は、変形例の圧入工程における治具及びインナシャフトの断面図である。
【
図17】
図17は、変形例の圧入工程における治具及びインナシャフトの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0024】
(実施形態)
図1は、実施形態のステアリング装置の模式図である。
図2は、実施形態のステアリング装置の斜視図である。
図1に示すように、ステアリング装置80は、ステアリングホイール81と、ステアリングシャフト100と、操舵力アシスト機構83と、を備える。
【0025】
図1に示すように、ステアリングシャフト100は、第1シャフト82と、第1ユニバーサルジョイント84と、第2シャフト85と、第2ユニバーサルジョイント86と、第1シャフト82は、入力軸82aと、出力軸82bとを備える。入力軸82aの一端は、ステアリングホイール81に接続される。入力軸82aの他端は、出力軸82bに接続される。出力軸82bの一端は、入力軸82aに接続される。出力軸82bの他端は、第1ユニバーサルジョイント84に接続される。
【0026】
図1に示すように、第2シャフト85の一端は、第1ユニバーサルジョイント84に接続される。第2シャフト85の他端は、第2ユニバーサルジョイント86に接続される。第2シャフト85は、インターミディエートシャフトとも呼ばれる。ピニオンシャフト87の一端は、第2ユニバーサルジョイント86に接続される。ピニオンシャフト87の他端は、ステアリングギヤ88に接続される。第1ユニバーサルジョイント84及び第2ユニバーサルジョイント86は、例えばカルダンジョイントである。第1シャフト82の回転は、第2シャフト85を介してピニオンシャフト87に伝わる。第2ユニバーサルジョイント86は、ピニオンシャフト87に接続される。
【0027】
図1に示すように、ステアリングギヤ88は、ピニオン88aと、ラック88bとを備える。ピニオン88aは、ピニオンシャフト87に接続される。ラック88bは、ピニオン88aに噛み合う。ステアリングギヤ88は、ピニオン88aに伝達された回転運動をラック88bで直進運動に変換する。ラック88bは、タイロッド89に接続される。ラック88bが移動することで車輪の角度が変化する。
【0028】
図1に示すように、操舵力アシスト機構83は、減速装置92と、電動モータ93と、を備える。減速装置92は、例えばウォーム減速装置である。電動モータ93で生じたトルクは、減速装置92の内部のウォームを介してウォームホイールに伝達され、ウォームホイールを回転させる。減速装置92は、ウォーム及びウォームホイールによって、電動モータ93で生じたトルクを増加させる。減速装置92は、出力軸82bに補助操舵トルクを与える。すなわち、ステアリング装置80は、コラムアシスト方式である。
【0029】
図1に示すように、ステアリング装置80は、ECU(Electronic Control Unit)90と、トルクセンサ94と、車速センサ95と、を備える。電動モータ93、トルクセンサ94及び車速センサ95は、ECU90と電気的に接続される。トルクセンサ94は、入力軸82aに伝達された操舵トルクをCAN(Controller Area Network)通信によりECU90に出力する。車速センサ95は、ステアリング装置80が搭載される車体の走行速度(車速)を検出する。車速センサ95は、車体に備えられ、車速をCAN通信によりECU90に出力する。
【0030】
ECU90は、電動モータ93の動作を制御する。ECU90は、トルクセンサ94及び車速センサ95のそれぞれから信号を取得する。ECU90には、イグニッションスイッチ98がオンの状態で、電源装置99(例えば車載のバッテリ)から電力が供給される。ECU90は、操舵トルク及び車速に基づいて補助操舵指令値を算出する。ECU90は、補助操舵指令値に基づいて電動モータ93へ供給する電力値を調節する。ECU90は、電動モータ93から誘起電圧の情報又は電動モータ93に設けられたレゾルバ等から出力される情報を取得する。ECU90が電動モータ93を制御することで、ステアリングホイール81の操作に要する力が小さくなる。
【0031】
図3は、実施形態のインターミディエートシャフトの断面図である。
図3に示すように、第2シャフト85は、アウタチューブ10と、インナシャフト20と、を備える。アウタチューブ10は、金属で形成される中空状の部材である。アウタチューブ10は、略円筒状である。アウタチューブ10は、第2ユニバーサルジョイント86と接続される。インナシャフト20は、金属で形成される中空状の部材である。インナシャフト20は、略円筒状である。インナシャフト20は、第1ユニバーサルジョイント84と接続される。アウタチューブ10及びインナシャフト20は、軸方向において相対的に移動可能である。これにより、車両の走行時における振動が吸収される。また、第2シャフト85を縮めた状態で車両に組み込むことが可能となる。
【0032】
以下の説明において、第2シャフト85の回転軸Zに沿う方向は、単に軸方向と記載される。回転軸Zの中心を通り且つ軸方向に対して直交する直線に沿う方向は、単に径方向と記載される。径方向は、放射方向とも呼ばれる。回転軸Zを中心とした円周に沿う方向は、単に周方向と記載される。周方向は、回転軸Zを中心とした円の接線方向ということもできる。また、第1ユニバーサルジョイント84から第2ユニバーサルジョイント86に向かう方向は、単に前方と記載される。前方は、
図3における左方向である。第2ユニバーサルジョイント86から第1ユニバーサルジョイント84に向かう方向は、単に後方と記載される。後方は、
図3における右方向である。
【0033】
図3に示すように、アウタチューブ10は、本体部11と、雌スプライン部13と、を備える。本体部11は、第2ユニバーサルジョイント86と接続される。本体部11の外径は、後方に向かって小さくなっている。雌スプライン部13は、本体部11の後方に配置される。雌スプライン部13の外径は、略一定である。雌スプライン部13は、内周面に複数の歯131を備える。歯131は、軸方向に延びている。複数の歯131は、周方向において等間隔に配置される。
【0034】
図3に示すように、インナシャフト20は、本体部21と、雄スプライン部23と、を備える。本体部21は、第1ユニバーサルジョイント84と接続される。本体部21は、第1ユニバーサルジョイント84のヨーク841に圧入される。本体部21の外径は、略一定である。雄スプライン部23は、本体部21の前方に配置される。雄スプライン部23の外径は、本体部21の外径よりも大きく、略一定である。雄スプライン部23の外周面には、樹脂コーティングが施される。雄スプライン部23は、雌スプライン部13に挿入され、雌スプライン部13に嵌まる。雄スプライン部23は、雌スプライン部13に対して締め代を有する状態で連結される。締め代を有する状態とは、連結する前の雄スプライン部23の外径が雌スプライン部13の内径よりも大きい状態を意味する。言い換えると、雄スプライン部23は、雌スプライン部13に圧入される。これにより、雄スプライン部23が雌スプライン部13に対してスライドする時のがたつきが小さくなる。雄スプライン部23と雌スプライン部13との間には、潤滑剤が配置される。潤滑剤は、例えばグリースである。
【0035】
図3に示すように、雄スプライン部23は、薄肉部232と、厚肉部231と、複数の歯230と、端面235と、第1段差面236と、第2段差面237と、を備える。薄肉部232は、雌スプライン部13のうち前方端部に配置される。薄肉部232の外径及び内径は、略一定である。厚肉部231は、薄肉部232の後方に配置される。厚肉部231の外径及び内径は、略一定である。厚肉部231の外径は、薄肉部232の外径と同じである。厚肉部231の内径は、薄肉部232の内径よりも小さい。複数の歯230は、薄肉部232及び厚肉部231の外周面に設けられる。歯230は、軸方向に延びている。複数の歯230は、周方向において等間隔に配置される。複数の歯230は、アウタチューブ10の複数の歯131と噛み合う。複数の歯230は、例えばセレーションである。
【0036】
端面235は、薄肉部232の前方端部にある前方を向いた端面である。端面235は、インナシャフト20のうちヨーク841とは反対側にある端面であるともいえる。端面235は、回転軸Zを中心とした環状である。第1段差面236は、雄スプライン部23の内周面の一部である。第1段差面236は、端面235に対して後方(ヨーク841側)に配置される。第1段差面236は、回転軸Zを中心とした環状である。回転軸Zを含む断面において、第1段差面236は、回転軸Zに対して傾斜している。第1段差面236の直径は、後方(ヨーク841側)に向かって小さくなっている。第2段差面237は、雄スプライン部23の内周面の一部である。第2段差面237は、端面235と第1段差面236との間に配置される。第2段差面237は、回転軸Zを中心とした環状である。回転軸Zを含む断面において、第2段差面237は、回転軸Zに対して傾斜している。第2段差面237の直径は、後方(第1段差面236側)に向かって小さくなっている。第2段差面237の最大直径は、第1段差面236の最大直径よりも大きく、端面235の最大直径よりも小さい。
【0037】
雄スプライン部23又は雌スプライン13の寸法にバラツキがある場合、相対位置によってインナシャフト20とアウタチューブ10との間の締め代が変化することがある。雄スプライン23が例えば中実部材であり剛性が高い場合、締め代の変化に対する、インナシャフト20とアウタチューブ10との間の摺動抵抗の変化率が大きくなりやすい。これに対して、本実施形態のインナシャフト20は、中空部材であることによって、剛性を下げやすい。これにより、本実施形態のステアリングシャフト100は、締め代の変化に対する摺動抵抗の変化率を低減できる。一方、インナシャフト20を第1ユニバーサルジョイント84のヨーク841に圧入する時に、中空部材であるインナシャフト20に変形が生じることがある。例えば、薄肉部232が変形することがある。このため、インナシャフト20の剛性を低くすることと、インナシャフト20をヨーク841に圧入する時の変形を抑制することと、を両立できるステアリングシャフトの製造方法が求められる。
【0038】
図4は、本実施形態のステアリングシャフトの製造に用いられる治具の断面図である。
図5は、本実施形態の治具の分解斜視図である。
図6は、本実施形態の治具及びインナシャフトの分解斜視図である。
【0039】
上述したように、ステアリングシャフト100を製造する時、インナシャフト20は、第1ユニバーサルジョイント84のヨーク841に圧入される。本実施形態のステアリングシャフト100の製造方法は、第2シャフト85をヨーク841に圧入する圧入工程を備える。圧入工程においては、
図4に示す治具40が使用される。
図4に示すように、治具40は、ベース41と、ガイド部42と、心棒43と、第1スリーブ45と、第2スリーブ46と、第1スプリング47と、第2スプリング48と、を備える。
【0040】
図4に示すように、ベース41は、円筒状の部材である。ベース41は、内周面にねじ山を備える。すなわち、ベース41の穴は、雌ねじである。ベース41は、圧入工程においてインナシャフト20の端面235に面する第3押圧面411を備える。
【0041】
ガイド部42は、ベース41から延びる円筒状の部材である。ガイド部42は、ベース41と一体に形成されている。ガイド部42は、ベース41とは反対側の端部に、インナシャフト20が挿入される開口を備える。ガイド部42は、複数の歯420を内周面に備える。複数の歯420は、例えばセレーションである。圧入工程においてインナシャフト20がガイド部42に挿入される時、複数の歯420は、雄スプライン部23の複数の歯230と噛み合う。
【0042】
心棒43は、ベース41に固定される棒である。心棒43は、第2スプリング48、第2スリーブ46、第1スプリング47及び第1スリーブ45を貫通する。心棒43は、大径部431と、小径部433と、固定部435と、フランジ部437と、を備える。大径部431は、円柱状であり、第1スプリング47及び第1スリーブ45を貫通する。小径部433は、大径部431のベース41側に配置される。小径部433は、大径部431の外径よりも小さい外径を有する円柱状である。小径部433と大径部431との間には段差がある。小径部433は、第2スプリング48及び第2スリーブ46を貫通する。固定部435は、小径部433のベース41側に配置される。固定部435は、ねじ山を外周面に備える。すなわち、固定部435は、雄ねじである。固定部435は、ベース41の穴(雌ねじ)に取り付けられる。フランジ部437は、ベース41とは反対側の端部に配置される。フランジ部437の外径は、大径部431の外径よりも大きい。フランジ部437の外径は、インナシャフト20の本体部21の内径以下である。
【0043】
第1スリーブ45は、円筒状の部材である。第1スリーブ45の内径は、大径部431の外径以上であり、且つフランジ部437の外径よりも小さい。第1スリーブ45は、フランジ部437に接する。第1スリーブ45は、圧入工程においてインナシャフト20の第1段差面236に面する第1押圧面451を備える。第1押圧面451は、ベース41の中心軸Cを中心とした環状である。中心軸Cを含む断面において、第1押圧面451は、中心軸Cに対して傾斜している。具体的には、中心軸Cを含む断面において第1押圧面451が中心軸Cになす角度は、15°以上30°以下であることが望ましい。第1押圧面451の直径は、ベース41から離れるにしたがって小さくなっている。圧入工程においてインナシャフト20がガイド部42に挿入された状態において、中心軸Cは回転軸Zと略一致する。中心軸Cが回転軸Zと一致した状態において、第1押圧面451は、第1段差面236と平行になる。
【0044】
第2スリーブ46は、円筒状の部材である。第2スリーブ46の内径は、小径部433の外径以上であり、且つ大径部431の外径よりも小さい。第2スリーブ46は、小径部433と大径部431との間の段差面に接する。第2スリーブ46は、圧入工程においてインナシャフト20の第2段差面237に面する第2押圧面461を備える。第2押圧面461は、中心軸Cを中心とした環状である。中心軸Cを含む断面において、第2押圧面461は、中心軸Cに対して傾斜している。具体的には、中心軸Cを含む断面において第2押圧面461が中心軸Cになす角度は、15°以上30°以下であることが望ましい。第2押圧面461の直径は、ベース41から離れるにしたがって小さくなっている。中心軸Cが回転軸Zと一致した状態において、第2押圧面461は、第2段差面237と平行になる。
【0045】
第1スプリング47は、第1スリーブ45と第2スリーブ46との間に配置される。第1スプリング47の一端は、第1スリーブ45に接する。第1スプリング47の他端は、第2スリーブ46に接する。
【0046】
第2スプリング48は、第2スリーブ46とベース41との間に配置される。第2スプリング48の一端は、第2スリーブ46に接する。より具体的には、第2スプリング48の一端は、第2スリーブ46のベース41側の表面に設けられる凹部に嵌まっている。第2スプリング48の他端は、ベース41に接する。より具体的には、第2スプリング48の他端は、ベース41の第2スリーブ46側の表面に設けられる凹部に嵌まっている。
【0047】
図7から
図10は、本実施形態の圧入工程における治具及びインナシャフトの断面図である。
図7に示すように、圧入工程において、インナシャフト20の雄スプライン部23が治具40のガイド部42に挿入される。雄スプライン部23は、ガイド部42の内周面に案内されながらガイド部42の内部に入っていく。雄スプライン部23の複数の歯230は、ガイド部42の複数の歯420と噛み合う。第1スリーブ45は、薄肉部232を通過し、厚肉部231の内部に入る。第2スリーブ46は、薄肉部232の内部に入る。
【0048】
図7の状態から雄スプライン部23がガイド部42にさらに挿入されると、
図8に示すように、第1スリーブ45の第1押圧面451が第1段差面236に接する。これにより、治具40に加えられる圧入力が、第1押圧面451を介してインナシャフト20に伝達される。また、第1押圧面451が第1段差面236に接することによって、治具40の中心軸Cがインナシャフト20の回転軸Zに対してずれにくくなる。その後、フランジ部437及び大径部431が、インナシャフト20の本体部21の内部に入っていく。第1スリーブ45と第2スリーブ46に挟まれた第1スプリング47が縮み始める。
【0049】
図8の状態から雄スプライン部23がガイド部42にさらに挿入されると、
図9に示すように、第2スリーブ46の第2押圧面461が第2段差面237に接する。これにより、治具40に加えられる圧入力が、第2押圧面461を介してインナシャフト20に伝達される。また、第2押圧面461が第2段差面237に接することによって、治具40の中心軸Cがインナシャフト20の回転軸Zに対してよりずれにくくなる。第1押圧面451が第1段差面236に接すると共に第2押圧面461が第2段差面237に接することによって、中心軸Cが回転軸Zに対して傾斜しにくくなる。その後、第2スリーブ46とベース41に挟まれた第2スプリング48が縮み始める。
【0050】
図9の状態から雄スプライン部23がガイド部42にさらに挿入されると、
図10に示すように、ベース41の第3押圧面411が端面235に接する。これにより、治具40に加えられる圧入力が、第1押圧面451、第2押圧面461、及び第3押圧面411を介してインナシャフト20に伝達される。
【0051】
具体的には、
図9の状態において第1スプリング47に生じる弾性力(第1スプリング47の最大弾性力)は、
図10の状態において第2スプリング48に生じる弾性力(第2スプリング48の最大弾性力)よりも小さい。また、治具40に加えられる圧入力は、第1スプリング47の最大弾性力と第2スプリング48の最大弾性力との和よりも大きい。これにより、治具40に加えられる圧入力が、インナシャフト20の3か所(第1段差面236、第2段差面237、及び端面235)に分散して伝達される。
【0052】
また、大径部431の軸方向の長さは、第1押圧面451が第1段差面236に接してから第3押圧面411が端面235に接するまでの間に生じる第1スプリング47の変位と第2スプリング48の変位の和よりも大きい。このため、
図10に示すように、第3押圧面411が端面235に接した時点において、第1スリーブ45は大径部431に重なっている。第1スリーブ45は、大径部431から外れない。
【0053】
なお、本実施形態のステアリングシャフトの製造方法は、必ずしもインナシャフト20とヨーク841との組立に適用されなくてもよい。本実施形態のステアリングシャフトの製造方法は、中空状のシャフトと、シャフトが圧入される被圧入部材と、を備えるステアリングシャフトの製造に広く適用できる。インナシャフト20はシャフトの一例にすぎず、ヨーク841は、被圧入部材の一例に過ぎない。例えば、被圧入部材は、トーションバー等であってもよい。
【0054】
治具40の心棒43は、必ずしも大径部431及び小径部433を備えていなくてよい。例えば、心棒43において、第2スリーブ46を保持する部分の直径が、第1スリーブ45を保持する部分の直径と同じであってもよい。また、治具40は、心棒43を備えていなくてもよい。例えば、第1スリーブ45、第1スプリング47、第2スリーブ46及び第2スプリング48がガイド部42に収納されていてもよい。
【0055】
以上で説明したように、本実施形態のステアリングシャフトの製造方法は、中空状のシャフト(インナシャフト20)、及びシャフトが圧入される被圧入部材(ヨーク841)と、を備えるステアリングシャフト100の製造方法である。本実施形態のステアリングシャフトの製造方法は、治具40によってシャフトを被圧入部材に圧入する圧入工程を備える。シャフトは、被圧入部材とは反対側にある環状の端面235と、端面235に対して被圧入部材側に配置される環状の第1段差面236と、端面235と第1段差面236との間に配置される環状の第2段差面237と、を備える。治具40は、ベース41と、第1スリーブ45と、第2スリーブ46と、第1スプリング47と、第2スプリング48と、を備える。ベース41は、圧入工程において端面235に面する。第1スリーブ45は、圧入工程において第1段差面236に面する。第2スリーブ46は、ベース41と第1スリーブ45との間に配置され、圧入工程において第2段差面237に面する。第1スプリング47は、第1スリーブ45と第2スリーブ46との間に配置される。第2スプリング48は、第2スリーブ46とベース41との間に配置される。圧入工程において、第1スリーブ45が第1段差面236に接した後に第2スリーブ46が第2段差面237に接し、第2スリーブ46が第2段差面237に接した後にベース41が端面235に接する。
【0056】
これにより、治具40に加えられる圧入力が、シャフト(インナシャフト20)の3か所(第1段差面236、第2段差面237、及び端面235)に分散して伝達される。このため、端面235のみに圧入力をかける場合と比較して、端面235の周辺部の変形が抑制される。したがって、本実施形態のステアリングシャフトの製造方法は、被圧入部材に圧入される中空のシャフトの変形を抑制できる。なお、第1スプリング47の自然長が第1段差面236から第2段差面237までの長さより短い場合、圧入工程において、先に、第2スリーブ46が第2段差面237に接することができる。しかしながら、第1スプリング47の自然長が第1段差面236から第2段差面237までの長さより短いので、第2スリーブ46が第2段差面237に接した後に第1スリーブ45が第1段差面236に接することはできない。第2スリーブ46が第2段差面237に接した後に第1スリーブ45が第1段差面236に接する順では、端面235の周辺部の変形が抑制されにくい。
【0057】
本実施形態のステアリングシャフトの製造方法において、治具40は、ベース41から第1スリーブ45の方向に延びる筒状のガイド部42を備える。圧入工程において、シャフト(インナシャフト20)は、ガイド部42の内周面に沿ってガイド部42に挿入される。
【0058】
これにより、圧入工程においてシャフト(インナシャフト20)が治具40に対して傾く可能性が低減する。したがって、本実施形態のステアリングシャフトの製造方法は、第1段差面236、第2段差面237、及び端面235のそれぞれにおける圧力分布を、より均等にすることができる。
【0059】
本実施形態のステアリングシャフトの製造方法において、シャフト(インナシャフト20)は、軸方向に延びる複数の第1歯(歯230)を備える。ガイド部42は、複数の第1歯(歯230)と噛み合う複数の第2歯(歯420)を備える。
【0060】
これにより、治具40を回転させることによって、シャフト(インナシャフト20)を回転させることが可能である。このため、本実施形態のステアリングシャフトの製造方法は、圧入工程において、シャフト(インナシャフト20)及び被圧入部材(ヨーク841)の相対角度の調整を容易にすることができる。
【0061】
本実施形態のステアリングシャフトの製造方法において、治具40は、ベース41に固定され且つ第2スプリング48、第2スリーブ46、第1スプリング47及び第1スリーブ45を貫通する心棒43を備える。
【0062】
これにより、第2スプリング48、第2スリーブ46、第1スプリング47及び第1スリーブ45を一直線上に配置することが容易になる。本実施形態のステアリングシャフトの製造方法は、圧入工程の作業をより容易にすることができる。
【0063】
本実施形態のステアリングシャフトの製造方法において、心棒43は、第1スリーブ45の内径よりも大きい外径を有するフランジ部437を先端に備える。
【0064】
これにより、治具40において、第2スプリング48、第2スリーブ46、第1スプリング47及び第1スリーブ45がベース41から外れることが抑制される。本実施形態のステアリングシャフトの製造方法は、圧入工程の作業をより容易にすることができる。
【0065】
本実施形態のステアリングシャフトの製造方法において、心棒43は、第1スリーブ45を貫通する大径部431と、第2スリーブ46を貫通する小径部433と、を備える。大径部431の外径は、第2スリーブ46の内径よりも大きい。
【0066】
これにより、小径部433と大径部431との間の段差面によって第2スリーブ46を位置決めすることが可能である。このため、第1スプリング47及び第2スプリング48の弾性力のつり合いによって第2スリーブ46を位置決めする場合と比較して、第1スプリング47及び第2スプリング48の長さ及びばね定数に関する制約が少なくなる。したがって、本実施形態のステアリングシャフトの製造方法は、シャフト(インナシャフト20)の3か所(第1段差面236、第2段差面237、及び端面235)の荷重分担の調整をより容易にすることができる。
【0067】
本実施形態のステアリングシャフトの製造方法において、大径部431の軸方向の長さは、第1スリーブ45が第1段差面236に接してからベース41が端面235に接するまでの間に生じる第1スプリング47の変位と第2スプリング48の変位の和よりも大きい。
【0068】
これにより、ベース41が端面235に接した時点で、第1スリーブ45は大径部431に重なっている。このため、第1スリーブ45は、大径部431から外れない。本実施形態のステアリングシャフトの製造方法は、圧入工程において第1スリーブ45ががたつく可能性を低減できる。
【0069】
(変形例)
図11は、変形例のステアリングシャフトの製造に用いられる治具の断面図である。
図12は、変形例の治具の分解斜視図である。
図13は、変形例の治具及びインナシャフトの分解斜視図である。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0070】
図12に示すように、インナシャフト30は、中空状であって、本体部31と、雄スプライン部33と、突出部35と、を備える。本体部31は、第1ユニバーサルジョイント84と接続される。本体部31は、第1ユニバーサルジョイント84のヨーク841に圧入される。本体部31の外径は、略一定である。雄スプライン部33は、本体部31の前方に配置される。雄スプライン部33の外径は、本体部31の外径よりも大きく、略一定である。雄スプライン部33の外周面には、樹脂コーティングが施される。雄スプライン部33は、雌スプライン部13(
図3参照)に挿入され、雌スプライン部13に嵌まる。雄スプライン部33は、雌スプライン部13に対して締め代を有する状態で連結される。雄スプライン部33と雌スプライン部13との間には、潤滑剤が配置される。潤滑剤は、例えばグリースである。
【0071】
図12に示すように突出部35は、雄スプライン部33から前方に向かって突出している。突出部35は、端面355と、第1段差面356と、第2段差面357と、を備える。
【0072】
端面355は、突出部35の前方端部にある前方を向いた端面である。端面355は、インナシャフト30のうちヨーク841とは反対側にある端面であるともいえる。端面355は、回転軸Zを中心とした環状である。第1段差面356は、突出部35の外周面の一部である。第1段差面356は、端面355に対して後方(ヨーク841側)に配置される。第1段差面356は、回転軸Zを中心とした環状である。回転軸Zを含む断面において、第1段差面356は、回転軸Zに対して直交している。第2段差面357は、突出部35の外周面の一部である。第2段差面357は、端面355と第1段差面356との間に配置される。第2段差面357は、回転軸Zを中心とした環状である。回転軸Zを含む断面において、第2段差面357は、回転軸Zに対して直交している。第2段差面357の最大直径は、第1段差面356の最大直径よりも小さく、端面355の最大直径よりも大きい。
【0073】
図11に示すように、治具60は、ベース61と、ガイド部62と、第1スリーブ65と、第2スリーブ66と、第1スプリング67と、第2スプリング68と、を備える。
【0074】
図11に示すように、ベース61は、円筒状の部材である。ベース61は、内周面にねじ山を備える。すなわち、ベース61の穴は、雌ねじである。ベース61は、圧入工程においてインナシャフト20の端面355に面する第3押圧面611を備える。
【0075】
ガイド部62は、ベース61から延びる円筒状の部材である。ガイド部62は、ベース61と一体に形成されている。ガイド部62は、ベース61とは反対側の端部に、インナシャフト30が挿入される開口を備える。
【0076】
第1スリーブ65は、円筒状の部材である。第1スリーブ65は、圧入工程においてインナシャフト30の第1段差面356に面する第1押圧面651を備える。第1押圧面651は、ベース61の中心軸Cを中心とした環状である。中心軸Cを含む断面において、第1押圧面651は、中心軸Cに対して直交している。
【0077】
第2スリーブ66は、円筒状の部材である。第2スリーブ66は、圧入工程においてインナシャフト30の第2段差面357に面する第2押圧面661を備える。第2押圧面661は、中心軸Cを中心とした環状である。中心軸Cを含む断面において、第2押圧面661は、中心軸Cに対して直交している。
【0078】
第1スプリング67は、第1スリーブ65と第2スリーブ66との間に配置される。第1スプリング67の一端は、第1スリーブ65に接する。第1スプリング67の他端は、第2スリーブ66に接する。
【0079】
第2スプリング68は、第2スリーブ66とベース61との間に配置される。第2スプリング68の一端は、第2スリーブ66に接する。より具体的には、第2スプリング68の一端は、第2スリーブ66のベース61側の表面に設けられる凹部に嵌まっている。第2スプリング68の他端は、ベース61に接する。より具体的には、第2スプリング68の他端は、ベース61の第2スリーブ66側の表面に設けられる凹部に嵌まっている。
【0080】
図14から
図17は、変形例の圧入工程における治具及びインナシャフトの断面図である。
図14に示すように、圧入工程において、インナシャフト30が治具60のガイド部62に挿入される。インナシャフト30は、ガイド部62の内周面に案内されながらガイド部62の内部に入っていく。
【0081】
図14の状態からインナシャフト30がガイド部62にさらに挿入されると、
図15に示すように、第1スリーブ65の第1押圧面651が第1段差面356に接する。これにより、治具60に加えられる圧入力が、第1押圧面651を介してインナシャフト30に伝達される。その後、第1スリーブ65と第2スリーブ66に挟まれた第1スプリング67が縮み始める。
【0082】
図15の状態からインナシャフト30がガイド部62にさらに挿入されると、
図16に示すように、第2スリーブ66の第2押圧面661が第2段差面357に接する。これにより、治具60に加えられる圧入力が、第2押圧面661を介してインナシャフト30に伝達される。その後、第2スリーブ66とベース61に挟まれた第2スプリング68が縮み始める。
【0083】
図16の状態からインナシャフト30がガイド部62にさらに挿入されると、
図17に示すように、ベース61の第3押圧面611が端面355に接する。これにより、治具60に加えられる圧入力が、第1押圧面651、第2押圧面661、及び第3押圧面611を介してインナシャフト30に伝達される。
【0084】
具体的には、
図16の状態において第1スプリング67に生じる弾性力(第1スプリング67の最大弾性力)は、
図17の状態において第2スプリング68に生じる弾性力(第2スプリング68の最大弾性力)よりも小さい。また、治具60に加えられる圧入力は、第1スプリング67の最大弾性力と第2スプリング68の最大弾性力との和よりも大きい。これにより、治具60に加えられる圧入力が、インナシャフト30の3か所(第1段差面356、第2段差面357、及び端面355)に分散して伝達される。これにより、端面355のみに圧入力をかける場合と比較して、端面355の周辺部の変形が抑制される。
【符号の説明】
【0085】
10 アウタチューブ
11 本体部
13 雌スプライン部
20 インナシャフト
21 本体部
23 雄スプライン部
30 インナシャフト
31 本体部
33 雄スプライン部
35 突出部
40 治具
41 ベース
42 ガイド部
43 心棒
45 第1スリーブ
46 第2スリーブ
47 第1スプリング
48 第2スプリング
60 治具
61 ベース
62 ガイド部
65 第1スリーブ
66 第2スリーブ
67 第1スプリング
68 第2スプリング
80 ステアリング装置
81 ステアリングホイール
82 第1シャフト
82a 入力軸
82b 出力軸
83 操舵力アシスト機構
85 第2シャフト(シャフト)
87 ピニオンシャフト
88 ステアリングギヤ
88a ピニオン
88b ラック
89 タイロッド
90 ECU
92 減速装置
93 電動モータ
94 トルクセンサ
95 車速センサ
98 イグニッションスイッチ
99 電源装置
100 ステアリングシャフト
131 歯
230 歯
231 厚肉部
232 薄肉部
235 端面
236 第1段差面
237 第2段差面
355 端面
356 第1段差面
357 第2段差面
411 第3押圧面
420 歯
431 大径部
433 小径部
435 固定部
437 フランジ部
451 第1押圧面
461 第2押圧面
611 第3押圧面
651 第1押圧面
661 第2押圧面
841 ヨーク(被圧入部材)
C 中心軸
Z 回転軸