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特許7606759カリックスアレーン化合物およびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】カリックスアレーン化合物およびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/10 20060101AFI20241219BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241219BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20241219BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20241219BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20241219BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20241219BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20241219BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20241219BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20241219BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20241219BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20241219BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 31/439 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 31/4995 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 31/407 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 31/335 20060101ALI20241219BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 31/403 20060101ALI20241219BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241219BHJP
   C07C 309/42 20060101ALN20241219BHJP
   C07D 471/08 20060101ALN20241219BHJP
   C07D 487/08 20060101ALN20241219BHJP
   C07D 209/70 20060101ALN20241219BHJP
   C07D 313/00 20060101ALN20241219BHJP
   C07D 221/22 20060101ALN20241219BHJP
【FI】
A61K31/10
A61P29/00
A61P37/06
A61P37/08
A61P11/00
A61P19/02
A61P1/04
A61P11/06
A61P17/06
A61P39/06
A61P3/06
A61P9/10 101
A61K31/439
A61K31/4995
A61K31/407
A61K31/335
A61P43/00 121
A61P29/00 101
A61K31/403
A61K45/00
C07C309/42
C07D471/08
C07D487/08
C07D209/70
C07D313/00
C07D221/22
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021575255
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-25
(86)【国際出願番号】 EP2020066991
(87)【国際公開番号】W WO2020254507
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】19181021.7
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510300382
【氏名又は名称】ウニベルジテート ウィーン
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】ゲゼル,ターニャ
(72)【発明者】
【氏名】コンラット,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】シーリー,カルドナ・マルコ
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-535272(JP,A)
【文献】米国特許第05441983(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0052154(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108329336(CN,A)
【文献】特開2007-056055(JP,A)
【文献】Iris H. HALL et al.,“Anti-Inflammatory Activity of (Polyphenolic)-Sulfonates and Their Sodium Salts in Rodents”,Metal-Based Drugs,1998年01月01日,Vol. 5, No. 2,p.67-75,DOI: 10.1155/MBD.1998.67
【文献】Benoit-Joseph LAVENTIE et al.,“p-Sulfonato-calix[n]arenes inhibit staphylococcal bicomponent leukotoxins by supramolecular interactions”,Biochemical Journal,2013年02月28日,Vol. 450, No. 3,p.559-571,DOI: 10.1042/BJ20121628
【文献】E. K. STEPHENS et al.,“Structural requirements for anti-oxidant activity of calix[n]arenes and their associated anti-bacterial activity”,Chemical Communications,2015年,Vol. 51, No. 5,p.851-854,DOI: 10.1039/C4CC08576K
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61P 1/00-43/00
C07C 1/00-409/44
C07D201/00-521/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カリックスアレーン環を含むカリックスアレーン化合物であって、
(i)CH リンカーにより連結された4つの同一反復単位であり、該化合物は式(III):
【化1】
の4-スルホカリックス[4]アレーンである、
または、
(ii)メチレンブリッジにより連結された3つのp-スルホン化フェノールの反復単位と、CH リンカーにより連結された第4の単位であり、該第4の単位は該反復単位と異なり、かつ式(II)から構成される、または該第4の単位は1~6アルキルおよび-(CH-O-(CH-より選択されるリンカーである
【化2】
式中、
Bはアリール、5~12員ヘテロアリール、C3~10シクロアルキル、3~8員ヘテロシクロアルキルより選択され、そして
およびRは、互いに独立に、水素、ハロゲン、-OR、-NRからなる群より選択され、
およびRは、互いに独立に、水素、ハロゲン、-SO、-OR、-COORからなる群より選択され、そして
各Rは水素またはC1~3アルキルであり、
nおよびmは、互いに独立に、0、1、または2を示す
または、
(iii)前述のいずれかの薬学的に許容されうる塩
である、カリックスアレーン化合物を含む、慢性炎症疾患または障害を有すると診断された被験体の治療において使用するための組成物
【請求項2】
カリックスアレーン化合物が、5,11,17,23-スルホナト-25,26,27,28-テトラヒドロキシカリックス[4]アレーン、3-スルホカリックス[4]-ベンゼン-アレーン、3-スルホカリックス[4]-ピリジン-2,6-アレーン、3-スルホカリックス[4]-ピラジン-2,6-アレーン、3-スルホカリックス[4]-ピロール-3,4-アレーン、3-スルホカリックス[4]-ピリジン-3,5-アレーン、3-スルホカリックス[3]-アルキルオキシ-アレーン、3-スルホカリックス[3]-アルキル-アレーン、25,26,27,28-テトラヒドロキシカリックス(4)アレーン―5,11,17,23-テトラスルホン酸四ナトリウム、カリックス[4]アレーンテトラ-p-スルホン酸四ナトリウム、25,26,27,28-テトラヒドロキシカリックス(4)アレーン-23-メチル-5,11,17-トリスルホン酸三ナトリウム、25-メトキシ-26,27,28-トリヒドロキシカリックス(4)アレーン-23-メチル5,11,17-トリスルホン酸三ナトリウム、25-メトキシ-26,27,28-トリヒドロキシカリックス(4)アレーン-5,11,17,23-テトラスルホン酸四ナトリウム、25,26,27,28-テトラヒドロキシカリックス(4)アレーン-23-カルボキシル-5,11,17-トリスルホン酸四ナトリウム、24,25,26-トリヒドロキシカリックス[1]ピロール[3]アレーン-5,11,17-トリスルホン酸三ナトリウム、または前述のいずれかの薬学的に許容されうる塩のいずれか1つである、請求項1記載の組成物
【請求項3】
カリックスアレーン化合物が、コルチコステロイド、ヘパリン硫酸、またはヘパン硫酸のいずれか1つまたはそれより多くの模倣体として作用する、請求項1または2記載の組成物
【請求項4】
慢性炎症疾患または障害が、アレルギーまたは自己免疫疾患である、請求項1~3のいずれか一項記載の組成物。
【請求項5】
慢性炎症疾患または障害が、喘息、炎症性腸疾患、関節リウマチ、変形性関節症、慢性閉塞性肺障害、または乾癬のいずれかである、請求項1~4のいずれか一項記載の組成物。
【請求項6】
カリックスアレーン化合物が、5,11,17,23-スルホナト-25,26,27,28-テトラヒドロキシカリックス[4]アレーンまたはその薬学的に許容されうる塩である、請求項1~5のいずれか一項記載の組成物。
【請求項7】
慢性炎症疾患または障害が、アレルギーまたは自己免疫疾患である、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
カリックスアレーン化合物が、鏡像異性体、ラセミ化合物、およびその混合物の形である、請求項1~7のいずれか一項記載の組成物。
【請求項9】
治療が、抗炎症活性を示す、有効量の前記カリックスアレーン化合物の経口、局所、粘膜または非経口投与を含む、請求項1~のいずれか一項記載の組成物
【請求項10】
治療措置が、コルチコステロイド、抗TNF-α阻害剤、IL-17阻害剤、IL-23/IL-12阻害剤、PDE4阻害剤、フマル酸、JAKキナーゼ阻害剤、メトトレキセート、レフノミド、ヒドロキシクロロキン(hydroxcloroquinie)、スルファサラジン、シクロスポリンまたは解離性ステロイド化合物のいずれかの置換または組み合わせ投与を含む、請求項1~のいずれか一項記載の組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式(I)
【0002】
【化1】
【0003】
式中、要素A、L、RおよびRは、明細書および請求項に提示する意味を有する
の新規化合物、これらの化合物を調製するためのプロセス、および薬剤としてのその使用、または他の使用に関する。
【背景技術】
【0004】
炎症プロセスは、多様な病因によって特徴づけられ、そしていくつかのよく確立された療法戦略があり、ステロイド(コルチコステロイドまたはグルココルト(glucocorto))療法が、最も有効であり、そして広く用いられるアプローチの1つである。これらはいくつかの疾患領域(例えば炎症性および自己免疫疾患、例えば関節リウマチ、喘息、潰瘍性大腸炎、クローン病等の治療)で使用されて大きな成功を収めてきた。ステロイド療法によって現在対処されている疾患の大部分は治癒せず、そしてしたがって、典型的には、長期の習慣的な治療が必要である。グルココルチコイド療法が大きな臨床的成功を収めたにもかかわらず、主に、副作用が異なる重症度で現れ、そして長期治療を妨げるため、代替介入戦略に対する、満たされていない医学上の必要性がある。最適有効用量でのコルチコステロイドの習慣的な使用には、高血糖、筋消耗、高血圧、骨粗鬆症および神経学的症状が含まれる。
【0005】
グルココルチコイドの作用様式は、核転位置および遺伝子転写調節を導く受容体活性化であり、その結果、ターゲット遺伝子発現の刺激または抑制を生じる。グルココルチコイドの抗炎症作用は、トランス抑制と呼ばれる機構を通じた、NF-κB転写因子を介するTNFαおよびIL-6などの主要な炎症促進性遺伝子産物の抑制に基づく。グルココルチコイドはまた、副作用に関与する遺伝子の発現にも影響を及ぼす。遺伝子発現の有益な調節および有害な調節が分離された、グルココルチコイド受容体アゴニストに基づく薬剤発見キャンペーンは、これまでのところ、成功してきていない。
【0006】
Satish Balasaheb NimseおよびTaisun Kim(Chem. Soc. Rev. 2013(42):366-386)は、官能化カリックスアレーンの生物学的適用を記載し、抗ウイルス、抗細菌、抗真菌、抗結核菌および抗癌活性に触れている。
【0007】
Yousafら(Drug Des Devel Ther. 2015(9):2831-8)は、カリックスアレーンの抗癌潜在能力およびその薬剤積載(loading)特性を開示する。
【0008】
US 5,489,612は、カリックスアレーン誘導体、その合成および塩化物チャネルブロッカーとしてのその使用を開示する。より正確には、US 5,489,612は、呼吸器障害、骨格筋障害および心臓血管障害の治療におけるいくつかの化合物の使用を開示する。
【0009】
WO00/07585は、線維性疾患の治療におけるカリックスアレーンの使用を開示する。
WO2017093363は、神経変性性疾患の治療において使用するための4-スルホカリックス[4]アレーンのナトリウム塩を開示する。
【0010】
WO9403165A1は、誘導体化カリックス[n]アレーン化合物を用いた抗血栓治療を開示する。
Hallら(Metal-Based Drugs 1998, 5(2):67-75)は、LPS誘導性ショックに対する防御効果、制御性サイトカイン(TNFαおよびIL-1)の放出、ターゲット炎症性細胞上の受容体への結合、ならびにエラスターゼおよびシクロオキシゲナーゼ活性および細胞接着を遮断する効果を持つfポリフェノール性スルホン化化合物を開示する。
【0011】
Pinhalら(Thrombosis Research 2001, 103(1):35-45)は、環状オクタフェノール-オクタスルホン酸ならびにそのメチル化およびアセチル化誘導体、ならびに内皮細胞によって分泌されるヘパラン硫酸プロテオグリカンの合成に対するその効果を記載する。
【0012】
Tyrrellら(Trends in Pharmacological Scien, Elsevier, Haywarth, GB, 1995, 16(6):198-204)は、抗凝血剤としての役割を越えた、ヘパリンの療法的使用を開示する。
【0013】
Rodikら(Current Medicinal Chemistry 2009, 16:1630-1655)は、酵素模倣体、受容体模倣体、酵素、抗体および酵素阻害剤である誘導体化カリックス[n]アレーン化合物、膜活性性(membranoactive)カリックスアレーン、生物活性特性を持つもの、DNAトランスフェクションおよび磁気共鳴画像化におけるこれらの使用を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】US 5,489,612
【文献】WO00/07585
【文献】WO2017093363
【文献】WO9403165A1
【非特許文献】
【0015】
【文献】Satish Balasaheb NimseおよびTaisun Kim(Chem. Soc. Rev. 2013(42):366-386)
【文献】Yousafら(Drug Des Devel Ther. 2015(9):2831-8)
【文献】Hallら(Metal-Based Drugs 1998, 5(2):67-75)
【文献】Pinhalら(Thrombosis Research 2001, 103(1):35-45)
【文献】Tyrrellら(Trends in Pharmacological Scien, Elsevier, Haywarth, GB, 1995, 16(6):198-204)
【文献】Rodikら(Current Medicinal Chemistry 2009, 16:1630-1655)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
新規抗炎症化合物およびこうした化合物を同定する新規アプローチに関する必要性がある。in vitroおよびin vivoでグルココルチコイドまたはヘパラン硫酸を模倣する効果を有し、そして薬剤として用いることを可能にするために適した薬理学的および/または薬物動態学的特性を有する新規化合物を提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0017】
本発明の目的は、抗炎症特性を持つ新規化合物、および抗炎症調製物を提供することである。この目的は、本請求項の、そして本明細書にさらに記載する通りである主題によって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0018】
驚くべきことに、要素A、L、RおよびRが以下に記載する意味を有する、一般式(I)の化合物は、特異的抗炎症化合物として作用することが見出されてきている。さらに、驚くべきことに、こうした化合物を、抗炎症、抗酸化、抗加齢、または脂質代謝調節療法または予防において用いてもよいことが見出されてきている。予期せぬことに、以前神経変性性疾患の治療に関して記載された4-スルホカリックス[4]アレーンも含まれる一連の化合物の作用様式によって、新規の医学的、美容的または栄養的適用におけるその使用が可能になった。
【0019】
本発明の多様な目的、特徴、側面、および利点は、本発明の態様の以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、報告された(コルチゾール)、または実験的に検証された(SCA-744)遺伝子発現変化に基づいて決定された、コルチゾールおよびSCA-744によって調節される細胞経路の比較を示す。太字:RNA-Seq分析によって実験的に同定された。
図2-1】図2は、IL-1β、TNF-α、IL-6およびIL-10産生に対するTHP-1マクロファージのLPS刺激の効果を示す。SCA-744による、LPS誘導性TNF-α、IL-βおよびIL-6の用量依存性阻害。以下の細胞を、SCA-744の非存在下、ならびに10、100および500μMの存在下で、[10ng/ml]LPSで処理した。BioLegendのLEGENDplexTMヒト炎症パネルアッセイによって、サイトカインレベルを決定した。バーの高さは、3つ組で行った3回の独立の実験のLPS単独に比較した濃度平均を示す。
図2-2】図2は、IL-1β、TNF-α、IL-6およびIL-10産生に対するTHP-1マクロファージのLPS刺激の効果を示す。SCA-744による、LPS誘導性TNF-α、IL-βおよびIL-6の用量依存性阻害。以下の細胞を、SCA-744の非存在下、ならびに10、100および500μMの存在下で、[10ng/ml]LPSで処理した。BioLegendのLEGENDplexTMヒト炎症パネルアッセイによって、サイトカインレベルを決定した。バーの高さは、3つ組で行った3回の独立の実験のLPS単独に比較した濃度平均を示す。
図3-1】図3は、IL-1β、TNF-α、IL-6およびIL-10産生に対するTHP-1マクロファージのLPS刺激の効果を示す。SCA-754による、LPS誘導性TNF-α、IL-βおよびIL-6の用量依存性阻害。以下の細胞を、SCA-754の非存在下、ならびに30および150μMの存在下で、[10ng/ml]LPSで処理した。BioLegendのLEGENDplexTMヒト炎症パネルアッセイによって、サイトカインレベルを決定した。バーの高さは、3つ組で行った3回の独立の実験のLPS単独に比較した濃度平均を示す。
図3-2】図3は、IL-1β、TNF-α、IL-6およびIL-10産生に対するTHP-1マクロファージのLPS刺激の効果を示す。SCA-754による、LPS誘導性TNF-α、IL-βおよびIL-6の用量依存性阻害。以下の細胞を、SCA-754の非存在下、ならびに30および150μMの存在下で、[10ng/ml]LPSで処理した。BioLegendのLEGENDplexTMヒト炎症パネルアッセイによって、サイトカインレベルを決定した。バーの高さは、3つ組で行った3回の独立の実験のLPS単独に比較した濃度平均を示す。
図4図4は、SCA-744が、HeLa細胞において、抗酸化酵素NQO1の発現を有意に増加させることを示す。
図5図5は、SCA-744が細胞死に対して防御し、そしてMPP+誘導性損傷からミトコンドリア完全性を回復することを示す。下部中央正方形パネル拡大中の矢印は、機能不全ミトコンドリアを示す。
図6図6は、イムノブロッティング(A)および免疫蛍光顕微鏡検査(B)によって、SCA-744がHeLa細胞においてLDLRの発現を誘導することを示す。
図7図7は、SCA-744が、ヘパリンと相互作用する類似のタンパク質領域を含む(B、C)ヘパラン硫酸結合タンパク質、オステオポンチンに結合する(A)ことを示す。
図8図8は、SCA-744およびヘパラン硫酸(HS)の化学構造を示す。
図9図9は、ヘパラン硫酸相互作用分子を通じて、細胞外空間から作用する経路修飾因子としてのSCA-744の作用様式を示す。
図10-1】表1、2、3および4。表1は、SCA-744で処理したヒト細胞において示差的に上方制御され、そして細胞性炎症および酸化反応ならびに脂質代謝に関連する、遺伝子を示す。
図10-2】表2は、SCA-744で処理したヒト細胞において示差的に下方制御され、そして細胞性炎症および酸化反応ならびに脂質代謝に関連する、遺伝子を示す。
図10-3】表3は、SCA-744で処理したヒト細胞において示差的に上方制御され、そして細胞性抗炎症および抗酸化反応ならびに脂質代謝に関連する、p値<0.05およびlog倍変化(logFC)>1のすべての注釈付き代謝物を示す。代謝物をlogFCの順に並べる。
図10-4】表4は、SCA-744で処理したヒト細胞において示差的に下方制御される、p値<0.05およびlogFC<-1の、グルコース代謝に関する抜粋した代謝物を示す。代謝物をlogFCの順に並べる。
図11図11は、プレスチモグラフィ測定に基づき、エンドトキシン(LPS)への曝露によって損なわれ、そしてSCA-744での処置によって有意に改善された、呼吸性肺機能のパラメータを示す。A:機能的残気量(FRC);B:呼気時間(Te);C:Teに対するピーク呼気流(Rpef)、D:呼吸頻度(fBPM)、E:吸入時間(Ti)。適用した統計分析は、一方向ANOVA後、Dunnettの多数比較検定であった。#p<0.05、##p<0.005、対照(未処置)に対する、n=5~7/群。
図12図12は、ヘマトキシリンおよびエオジン染色マウス肺組織の顕微鏡写真を示す。A:対照(未処理);B:LPS+ビヒクル;C:LPS+SCA-744;D:LPS+DEXA、PO:血管周囲浮腫、PL:血管周囲/気管支周囲白血球。
図13図13は、スケール0から3での、顕微鏡スライドの半定量的評価を示す。0:未処理対照に比較して変化なし;1、2および3は、病理重症度の増加に対応する。A:血管周囲浮腫スコア;B:顆粒球スコア;C:マクロファージスコア;D:合成スコア(3つのパラメータすべてを合わせたもの)。適用した統計分析は、Kruskal-Wallis後、Dunnの多数比較検定であった。#p<0.05、##p<0.005、対照(未処理)に比較、n=5~7/群。
図14図14、Aは:陰性対照(偽/ビヒクル)および陽性対照(CFA処置)群由来のヘマトキシリンおよびエオジン染色マウス踵関節組織の顕微鏡写真を示す。矢印は滑膜増殖を示す。Bは:滑膜増殖スコアに関するデータを用いたグラフであり、0は陰性対照に比較して変化がなく、そして3は、陽性対照群で見られる重度の病理に相当する。適用した統計分析は、Kruskal-Wallis検定+Dunnの多数比較検定であった。#p<0.05、##p<0.01、それぞれの損なわれていない(intact)足に比較、n=5~6マウス/群。
図15】スルホカリックスアレーン変異体合成の合成スキーム。
図16】SCA-744に対する細胞反応に関連する重要な代謝物の同定。絶対log倍>1でSCA-744によって影響を受ける、上方制御される、および(抜粋した)下方制御される代謝物をVolcanoプロットでラベルする。
図17】上方および下方制御された代謝物のエンリッチメントプロット。化学的類似性エンリッチメント分析を用いた化学物質群分類によって、261の注釈付き代謝物(FDR<0.05)を分析した。各ノードは、代謝物の有意に改変されたクラスターを反映する。p<0.05で有意に異なるエンリッチメントクラスターのみを示す。エンリッチメントp値は、Kolmogorov-Smirnov検定によって提供される。プロットy軸は、上部に、最も有意に改変されたクラスターを示す。x軸は、谷本類似性ツリー上のクラスター順によって順序付けられる。ノード色スケールは、対照ヒト細胞に比較した、SCA-744における増加(黒)または減少(白)化合物の比率を示す。灰色のノードは、増加および減少の両方の場合がある代謝物を有する。
図18】分子機能に関連する遺伝子オントロジー分析。DESeqおよびedgeRパッケージの統計検定を適用することによって、示差的に発現されている遺伝子(DEG)を同定した。遺伝子オントロジーエンリッチメント分析、および視覚化ツールであるGorillaを用いて、遺伝子オントロジーを生成した。
図19-1】SCA-744(A)およびSCA-754(B)細胞傷害性のin vitro評価。HEK293神経芽細胞腫細胞株を用いて実験を行った。72時間処理した後、標準ATP、CellTiter-Glo(登録商標)発光細胞生存度アッセイを用いて、細胞生存度に対するSCA-744およびSCA-754の効果を評価した。
図19-2】SCA-744(A)およびSCA-754(B)細胞傷害性のin vitro評価。HEK293神経芽細胞腫細胞株を用いて実験を行った。72時間処理した後、標準ATP、CellTiter-Glo(登録商標)発光細胞生存度アッセイを用いて、細胞生存度に対するSCA-744およびSCA-754の効果を評価した。
図19-3】SCA-744(C)およびSCA-754(D)は、哺乳動物細胞において、MPP+誘導性損傷からの酸化ストレスに対して防御する。
図19-4】SCA-744(C)およびSCA-754(D)は、哺乳動物細胞において、MPP+誘導性損傷からの酸化ストレスに対して防御する。
図20】SCA-744は、哺乳動物細胞において、H誘導性損傷からの酸化ストレスに対して防御する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、一般式(I):
【0022】
【化2】
【0023】
式中、
Aはアリール、5~12員ヘテロアリール、C3~10シクロアルキル、3~8員ヘテロシクロアルキルより選択され、そして
Lは結合、または置換されていてもよいC1~6アルキルおよび-(CH-O-(CH-より選択されるリンカー、または式(II)
【0024】
【化3】
【0025】
の化合物であり、
式中、
Bはアリール、5~12員ヘテロアリール、C3~10シクロアルキル、3~8員ヘテロシクロアルキルより選択され、そして
およびRは、互いに独立に、水素、ハロゲン、-OR、-NRからなる群より選択され、
およびRは、互いに独立に、水素、ハロゲン、-SO、-OR、-COORからなる群より選択され、そして
各Rは水素またはC1~3アルキルであり、
nおよびmは、互いに独立に、0、1、または2を示す;
の、随意に、その薬学的に許容されうる塩、鏡像異性体、ラセミ化合物、および混合物の形の化合物を含む、調製物に関する。
【0026】
本明細書記載の化合物は、その薬学的に許容されうる塩、鏡像異性体、ラセミ化合物、および混合物の形で提供されてもよい。したがって、本明細書にさらに記載されるような用語「化合物」または「本発明の化合物」は、構造式によって決定されるような型、その薬学的に許容されうる塩、鏡像異性体、ラセミ化合物、および混合物のいずれも指すものとする。
【0027】
驚くべきことに、こうした化合物は、抗炎症、抗酸化、抗加齢、または脂質代謝調節特性を有する。
驚くべきことに、要素A、L、RおよびRが以下にさらに記載する意味を有し、但し、化合物が5,11,17,23-スルホナト-25,26,27,28-テトラヒドロキシカリックス[4]アレーン(4-スルホカリックス[4]アレーン、本明細書において、SCA-744とも称される)ではない、一般式(I)の化合物は、本明細書にさらに記載する特性を持つ、新規化合物(またはその薬学的に許容されうる塩)として提供されうることが見出されてきている。
【0028】
本発明の1つの態様は、Lが式(II)の化合物である、本明細書に記載するような化合物に関する。
本発明の1つの態様は、Lが、(-CH2-)、式中、n=1、2、3、4、5;または(-CF2-)、式中、n=1、2、3、4、5;または(-CH-O-CH-)、式中、n=1、2、3、4からなるリンカーである、本明細書に記載するような化合物に関する。
【0029】
特定の側面にしたがって、ヘテロアリールは、N-またはO-複素環、随意に、5または6員N-またはO-複素環である。
特定の側面にしたがって、ハロゲンはF、Cl、またはBrの任意の1つである。
【0030】
本発明の1つの態様は、AおよびBが互いに独立にフェニルを示す、本明細書に記載するような化合物に関する。
本発明の1つの態様は、RがHを示す、本明細書に記載するような化合物に関する。
【0031】
本発明の1つの態様は、各CH基が重水素化されている(CD)、本明細書に記載するような化合物に関する。
本発明の1つの態様は、Lが式(II)の化合物であり、そしてAおよびBが互いに独立に、5~6員N-複素環または6員ベンゼン環であり、そしてRおよびRの各々が-COOHである、本明細書に記載するような化合物に関する。
【0032】
本発明の1つの態様は、多様な(-CH2-)リンカーセグメントを持つ3-スルホカリックス[3]アレーンである化合物、例えばLが(-CH2-)、式中、n=1、2、3、4、5からなるリンカーであり;Aがベンゼンを示し、RおよびRの各々が-ORであり;そしてRおよびRの各々が-SOであり、特にRが水素である、本明細書に記載するような化合物に関する。
【0033】
1つの態様は、以下の特徴の1つまたはそれより多くによって特徴づけられる化合物に関する:
a)Aがフェニル(置換されていてもよい)である;
b)Bがフェニル(置換されていてもよい)、ピラジン、ピリジン、またはピロールである;
c)R1および/またはR3が-Hまたは-OHである;
d)R2および/またはR4が-SOHである。
【0034】
カリックスアレーンは、フェノールおよびアルデヒドのヒドロキシアルキル化産物に基づく、大環状分子または環状オリゴマーと一般的に定義される。カリックスアレーンは、三次元バスケット、カップまたはバケツ型により特徴づけられる。カリックス[4]アレーンは環中に4単位を有し、そしてカリックス[3]アレーンは環中に3単位を有する。カリックスアレーン環はまた、本明細書において、「主鎖(backbone)」とも称される。
【0035】
環は、同一または同一でない反復単位、および随意にリンカー要素、例えばリンカーが本明細書にさらに記載するようなLであるもの、特に直鎖リンカーで構成されてもよい。式(II)の化合物以外のいずれかであるリンカーLは、本明細書においてまた、「直鎖リンカー」または「直鎖L」と称される。特定の態様において、Lは、直鎖リンカー、例えば(-CH2-)リンカーセグメント、例えばLが(-CH2-)、式中、n=1、2、3、4、5からなる直鎖リンカーであるもの、特にLがCH2であるもの(「メチレンブリッジ」)である。
【0036】
特定の態様において、カリックスアレーン環は、直鎖L、特にLがCH2であるものによって連結される4つの同一反復単位を含むかまたは該反復単位からなる。
特定の態様において、カリックスアレーン環は、直鎖L、特にLがCH2であるものによって連結される、3つの同一の反復単位および第四の単位を含むかまたはこうした単位からなり;そして第四の単位は反復単位とは異なり、そして式(II)で構成される。
【0037】
カリックス[4]アレーンにおいて、内部体積はほぼ10立方オングストロームである。カリックスアレーンは、広い上部縁および狭い下部縁、ならびに中央の輪(annulus)によって特徴づけられる。出発材料としてフェノールを用い、4つのヒドロキシル基は、下部縁上の輪内である。
【0038】
特定の態様は、各々、付着したスルホン酸基を含むフェニル(式(I)に示す通り)である2つの同一の要素、ならびに本明細書にさらに記載するような、各々、5および/または6員環要素である2つのさらなる要素からなり、それによって4つの環要素からなるカリックスアレーン主鎖を生じる、カリックスアレーン主鎖を含む、本明細書に記載するような化合物(またはその鏡像異性体または薬学的に許容されうる塩)を指す。あるいは、カリックスアレーン主鎖は、本明細書にさらに記載するように、特定の直鎖リンカーによって連結された、各々、5および/または6員環系であり、そのうち少なくとも2つが、各々、スルホン酸基が付着したフェニル(式(I)に示す通り)である同一の要素である、3つの環要素からなってもよい。
【0039】
特定の態様は、例えば、置換フェノール反復単位および反復単位とは異なる少なくとも1つの置換フェノール単位などの、非同一要素で構成される、非対称カリックスアレーンを指す。特定の態様にしたがって、非対称カリックスアレーン化合物は、メチレンブリッジによって連結された2つまたは3つのp-スルホン化フェノール単位、および各々、独立に、p-スルホン化フェノール単位とは異なる1つまたは2つのp-置換フェノール単位を含むか、あるいはこれらで構成される。非対称カリックスアレーンは、連結(例えばメチレンブリッジまたは他のリンカー)によって、互いに環状構造になるように連結された要素で構成され、そして他の要素の任意の1つまたはそれより多くと異なる少なくとも1つの要素によって特に特徴づけられる、大環状分子化合物である。
【0040】
特定の態様は、2+1フラグメント縮合によって得られる3-スルホカリックス[3]アレーン(例えば3つのメチレンブリッジされた環要素および直鎖リンカーからなるカリックスアレーン主鎖を含む);または3+1フラグメント縮合によって得られる4-スルホカリックス[4]アレーン(例えば4つのメチレンブリッジされた環要素からなるカリックスアレーン主鎖を含む)を指す。
【0041】
特定の態様は、3-スルホカリックス[3]アレーン、特に2+1フラグメント縮合によって得られる3-スルホカリックス[3]アレーンを指す。
特定の態様は、4-スルホカリックス[4]アレーン、特に2+2または3+1フラグメント縮合によって得られる4-スルホカリックス[4]アレーンを指す。
【0042】
特定の態様は、式(III)の4-スルホカリックス[4]アレーン、その薬学的に許容されうる塩、例えば4-スルホカリックス[4]アレーンのナトリウム塩、鏡像異性体または誘導体の新規使用を指す。
【0043】
式(III):
【0044】
【化4】
【0045】
特定の態様は、以下の表より選択される化合物(またはこうした化合物いずれかの薬学的に許容されうる塩)を指す。式(IV)および式(V)は、用いられる命名規則を示す。
【0046】
【化5】
【0047】
表:好ましい化合物
【0048】
【表1-1】
【0049】
【表1-2】
【0050】
【表1-3】
【0051】
【表1-4】
【0052】
【表1-5】
【0053】
本明細書記載の化合物は、カリックスアレーン環を含むと理解される。
疾患における役割
本明細書記載の化合物(またはその薬学的に許容されうる塩)は、抗炎症性疾患、抗酸化疾患、抗加齢疾患、神経変性性疾患または脂質代謝疾患の処置(療法または予防)において新規薬剤としての潜在能力を有する。これには、現在、グルココルチコイドで治療される疾患(例えば、関節リウマチ、炎症性腸疾患、変形性関節症、喘息、自己免疫疾患)が含まれる。化合物またはその薬学的に許容されうる塩は、存在するグルココルチコイド治療の置換または付属療法として潜在能力を有する。特に、SCA-744およびSCA-745は、グルココルチコイド(コルチゾール)の作用に関与するものと重複する抗炎症経路に影響を及ぼすことが示されてきているが、グルココルチコイドの副作用に関与する特定の代謝経路には影響を及ぼさないことが示されてきている。
【0054】
さらに、SCA-744は、コルチゾールと同様に、非敗血症モデルにおいてであっても、炎症促進性遺伝子産物、例えばIL-1β、TNFαおよびIL-6を抑制することが示されてきている。コルチゾールおよび該化合物によって影響を受ける代謝経路の大部分は共有される。しかし、コルチゾールによって影響を受け、そして副作用に関与するいくつかの代謝経路は、該化合物によって調節されない(例えば糖代謝および神経伝達物質脱活性化経路)。さらに、コルチゾールによっては誘導されないいくつかの有益な効果、例えば強力な酸化防止および細胞防御反応が、該化合物によって誘発される。SCA-744は、したがって、抗酸化ストレス反応におけるさらなる活性、脂質代謝における好ましい変化、および抗加齢遺伝子活性化を伴う、潜在的に新規の抗炎症産物候補である。
【0055】
ヘパラン硫酸模倣
SCA-744の1つの潜在的な機構は、ヘパラン硫酸(HS)を模倣し、そしてHS相互作用分子に結合することを通じる。ヘパラン硫酸模倣体には、ヘパラン硫酸の少なくとも1つの生物学的機能を実行しうる任意の分子が含まれる。以前のデータは、細胞生存度およびホメオスタシスを維持するために、ヘパラン硫酸模倣体には非常に特異的な構造要件があることを示している(Ziolkowskiら; Journal of Clinical Investigation 2012, 122(1), pp.132-141)。ヘパリン、ヘパラン硫酸模倣体の現在の臨床適用に勝る臨床的使用のために用いられうる、活性HS模倣体である化合物を同定することも可能である。
【0056】
ヘパラン硫酸は、タンパク質に共有結合し、そして大部分の細胞表面上で、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)を形成するグリコサミノグリカンである。ヘパラン硫酸は、細胞外マトリックス(ECM)の重要な構成要素であり、ECMでは、HSが増殖因子、サイトカインおよびケモカイン、酵素および酵素阻害剤を含む多様な分子に結合し、そしてそれらの活性を促進または阻害可能である。HSはまた、受容体複合体の形成を補助することも見出されてきている。ヘパラン硫酸結合タンパク質(HSBP)は、通常の生理学的条件下で、細胞外プロテオグリカンのヘパラン硫酸鎖と相互作用するタンパク質である。HSBPには、血漿タンパク質、細胞外マトリックス構成要素、細胞表面タンパク質、ならびにWnt、ヘッジホッグ、オステオポンチン、線維芽細胞増殖因子および血管内皮増殖因子ファミリーを含む、主要な増殖因子およびシグナル伝達タンパク質ファミリーのメンバーが含まれる(BillingsおよびPacifici, Connect Tissue Res. 2015, 56(4), pp.272-280)。
【0057】
ECMは、感覚および機械的特性を持つ、コラーゲン、プロテオグリカン/グリコサミノグリカン(GAG)、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニンおよびいくつかの他の糖タンパク質で構成される、巨大分子およびポリマーの多次元ネットワークである。ECM構成要素は互いに結合し、微小環境を生成するとともに、細胞接着受容体に結合して、細胞および巨大分子の多次元系にあるすべての組織および臓器において、細胞がその中に存在する複雑なネットワークを形成する。この環境は、細胞のふるまいおよび組織ホメオスタシスの基礎であり、そして細胞の構造、ならびに生存、増殖、活性化、遊走および分化などの機能を維持し、そして調節する際に非常に重要な役割を果たす。ECMは、異なるタイプの細胞表面受容体または共受容体に直接結合し、こうして細胞係留を仲介し、そして細胞内シグナル伝達およびメカノトランスダクションに関与するいくつかの経路もまた、調節することも可能である。プロテオグリカンは、ECMにおいて必須の構造的および機能的生体巨大分子である。ECM組成および構造の調節不全は、いくつかの病的状態、ECMにおけるHSおよびHSPGの役割と関連するいくつかの機構の発展および進行と関連する(Theocharisら Advanced Drug Delivery Reviews 2016, 97:4-27)。
【0058】
炎症におけるHS
HSは、炎症においてよく研究された役割を有する(CollinsおよびTroeberg; Journal of Leukocyte Biology 2018, 105(1), pp.81-92)。一方で、HSは、多様なケモカインに結合し、それによって、これらを細胞表面上で濃縮して、そして炎症部位に向かって白血球を誘引する勾配を形成する。他方で、ECM HSへのサイトカインの結合は、その作用部位の近くでサイトカインを濃縮し、これらをタンパク質分解的分解から保護し、そして特定のサイトカインのためのリザーバーを形成する機構であると示唆されてきている。ケモカインおよびサイトカインとの相互作用を通じた炎症におけるHSの役割に加えて、HSの可溶性断片は、生得的パターン認識受容体、TLR4を通じて、直接シグナル伝達することが示された。炎症および疾患におけるECM HSの役割に関して提唱されるさらなる機構は、ヘパラナーゼの活性を通じるものである。ヘパラナーゼは、HSを切断し、ECMの分解および例えば特定のサイトカインを含むHS結合生体分子の放出を促進するb-D-エンドグルクロニダーゼである。
【0059】
HSはまた、HSBP、オステオポンチン(OPN)との相互作用を通じて炎症に関与する。OPNは、分泌型でシアル酸リッチなケモカイン様タンパク質であり、そしてSIBLING(小分子インテグリン結合リガンドN-連結糖タンパク質)ファミリーのメンバーである。本発明者らのグループが行った以前の研究によって、溶液NMRにより、OPNへのHSの結合部位が示された。この研究により、ヘパリン結合部位は、RGDモチーフを含むOPNの中央インテグリン結合ドメインにマッピングされることが示された。オステオポンチンはいくつかの機能を仲介することが示され;インテグリンとの相互作用およびTh1サイトカインとしての作用を通じて、慢性炎症に関与する。さらに、OPNはまた、バイオミネラル化の制御因子でもある。
【0060】
その結果、HSは、HS/HSPGおよびその結合タンパク質の間の相互作用を改変することによって、炎症プロセスを制御する大きな潜在能力を有する。
標準的アッセイによって決定されるように、LPS刺激後のヒトTHP1マクロファージにおいて、化合物が、IL-1β、IL-6およびTNFαの1つの産生を減少させることが可能であれば、化合物の特異的抗炎症効果または活性が立証される:THP-1ヒト単球細胞株を、100nMのホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)で48時間処理して、成熟マクロファージ様状態を誘導する。次いで、細胞を、500μMの化合物の非存在下および存在下で、100ng/mlのLPSで刺激する。6時間後、処理細胞および未処理細胞の上清を収集し、そしてヒト炎症パネルLEGENDplexヒト炎症促進性ケモカインパネル(カタログ番号740118)を用いて、サイトカインレベルを決定する。化合物が、LPS刺激後のヒトTHP1マクロファージにおいて、IL-1β、IL-6、およびTNFαの産生を減少させるかまたは遮断することが可能であれば、陽性結果と見なす。
【0061】
神経変性性疾患におけるHS
タンパク質凝集は、多くの神経変性性疾患を駆動する。凝集するタンパク質は疾患によって多様であるが、これらは、ベータシートリッチなフォールディング、アミロイド原線維形成を含む、構造的類似性を示す。これらの原線維は、自己触媒作用(「シーディング」として知られる)によって、原線維内に単量体タンパク質をさらに取り込み、そして疾患の伝播を誘発する。HSは、限定されるわけではないが、タウオパシー(taupathies)(アルツハイマー病(AD)、進行性核上性麻痺(PSP)およびピック病)(NainiおよびSoussi-Yanicostas. Front Cell Dev Biol. 2018; 6: 163)、パーキンソン病、レビー小体型認知症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびプリオン病(Maizaら, FEBS Letters 2018; 592:3806-3818)を含む、神経変性性疾患の病因形成に多面的な役割を果たすことが立証された。異常なHSPG集積は、ダウン症候群関連認知症およびアルツハイマー病のような神経変性性疾患の初期段階にしばしば観察され、そして調べた細胞外アミロイドはすべて、HSを含有することが示された(例えば、アルツハイマー病におけるアミロイド-ベータ(Aβ)斑および神経原線維タングル(NFT)の両方)(Snowら Lab Invest. 1987; 56:120-3.)。相互作用は、アミロイドタンパク質中の陽性荷電アミノ酸と、HS中の陰性荷電基を通じて起こり、原線維形成および凝集物の安定化を導くようである。
【0062】
タウオパシーにおいて、ヘパリンはまた、異なるプロテインキナーゼによるタウのリン酸化を増進して、タウ過剰リン酸化を導くことも示された(おそらく、それまではマスキングされていたタウのリン酸化部位を曝露するコンホメーション変化が誘導されることを通じて)。重要なことに、細胞表面HSはまた、アミロイドβ(Aβ)およびタウ凝集物の受容体としても作用し、そして細胞内部移行を増加させる。要約すると、HSは、タウオパシーの開始および伝播において潜在的な役割を果たし、そしてまた、認知症感受性領域において、再生潜在能力を制限する際に役割を果たしている可能性もあり、したがって、HSおよびHSPGをHS類似体によってターゲティングして、そしてタウオパシーにおけるその機能をブロッキングすることで、疾患を防止し、そして治療するか、または逆転させる可能性がある。
【0063】
パーキンソン病病因形成において、α-シヌクレイン(アミロイド原線維型)の内部移行はHSPGに依存し、そしてHSは、オリゴデンドロサイト細胞におけるシーディングプロセスに重要な役割を有することが示された(Ihseら Scientific Reports; 2017, 7: 9008; doi: 10.1038/s41598-017-08720-5)。したがって、HS類似体によって、HSPGとα-シヌクレインの相互作用に干渉すると、疾患において、潜在的に有益な活性を有する。
【0064】
ALSの発展に関与する正確な機構は完全には解明されていないが、HSPGは、分泌性I型NRG1を特定の領域に濃縮することに関与する(NRG1上の特異的HS結合部位により)ことが示され、そして異常なシグナル伝達に寄与する可能性もある(Songら Journal of Neuropathol Exp Neurol. 2012; 71:104-115)。
【0065】
脂質代謝におけるHS
HSおよびHSPGの相互作用は、ターゲット細胞および組織に対するヘッジホッグ(Hh)タンパク質の分布および作用を制御することが示されてきている。Hhシグナル伝達は、発生、増殖および幹細胞維持に必須である。Hhタンパク質は、発生中組織および成体組織の細胞の間の長期間コミュニケーションを可能にする、分泌型リガンドである。脂質代謝は、ヘッジホッグシグナル伝達およびリガンド自体の特性の両方に顕著な影響を有し、Hhシグナル伝達の強度および細胞機能の変化を導く。脂質代謝およびHhシグナル伝達の間の関連は、LDL受容体(LDLR)およびINSIG1発現に関する(Aliら Arthritis Rheumatol. 2016 Jan; 68(1): 127-137)。Hhシグナル伝達に関連付けられているHSPGは、通常、シンデカン-3またはグリピカンのいずれかで構成されるタンパク質コアを有する。これらの巨大分子は、通常、膜貫通ドメインまたはGPIアンカーによって、細胞表面の膜に付着する。Hhは、N末端に見られる非常に保存されたCardin-Weintraub配列を通じて、HSPGと相互作用して、HSPGの陰性荷電硫酸塩およびHhの間の静電相互作用を生成する。HSPGは、Hhとの相互作用を仲介する他の細胞外マトリックス因子、例えばShf、ならびに巨大穿刺構造中に保持される脂質修飾Hhともまた相互作用することが見出されてきている(Farzanら American Journal of Physiology-Gastrointestinal and Liver Physiology 2008, 294(4), pp.G844-G849)。Hhシグナル伝達の制御を通じて、HSはまた、脂質代謝改変においても役割を演じうる。したがって、HSは、コレステロール代謝に関与するHh制御タンパク質の改変を通じて、脂質血液レベルを減少させる潜在能力を有する。
【0066】
さらに、HSは、リポタンパク質リパーゼとの相互作用、そして線維芽細胞増殖因子(FGF-2)および血小板由来増殖因子(PDGF)などの増殖因子との相互作用を通じて、アテローム性動脈硬化症の発展において、複数の役割に関連付けられてきている。
【0067】
標準的アッセイによって決定されるように、化合物が、哺乳動物細胞において、LDLRタンパク質の発現を増加させることが可能であれば、該化合物の特異的脂質代謝調節効果または活性が立証される。
【0068】
試験化合物50、100および500[μM]での処理後、化合物が、哺乳動物細胞抽出物において、LDLRタンパク質の発現を増加させることが可能であれば、該化合物の特異的脂質代謝調節効果または活性が立証される。LDLRの発現レベルは:共焦点レーザー走査型顕微鏡およびウェスタンブロット分析によって決定される。対のLDL-R抗体(C7:sc-18823、Santa Cruz Biotechnologies)およびAlexaFuor Plus 488(A3273、Invitrogen)の蛍光シグナルによって、全細胞画像および蛍光強度を概算した。化合物が、哺乳動物細胞抽出物におけるLDLR発現、および共焦点顕微鏡画像化によるLDRRシグナル増加を誘導可能であれば、陽性結果と見なされる。
【0069】
加齢におけるHS
HSBPとの相互作用を改変する、加齢に関連するHS構造変化があることが示されてきている(Feyziら, Journal of Biological Chemistry 1998, 273(22), pp.13395-13398)。これらの変化は、加齢の複雑な病因形成に関与する可能性もある。
【0070】
抗酸化および加齢関連機構
酸化ストレス反応に関与する3つの主な酵素がある;1.酸化ストレスおよびアポトーシスに関連付けられるCHAC1(遺伝子ID:79094;グルタチオン特異的γ-グルタミルシクロトランスフェラーゼ1)、2.解毒経路に関与するNQO1(遺伝子ID:1728;NAD(P)Hデヒドロゲナーゼ[キノン]1)、ならびに3.グルタチオン(GSH)系とは独立に、細胞外CySS(システイン酸化の結果)の還元型を産生するSLC7A11(遺伝子ID:23657;システイン/グルタミン酸輸送体;xCT、CCBR1)。
【0071】
NQO1は、酸化ストレスおよび毒性キノンに対して細胞を保護する。NQO1は、哺乳動物系における2つの主要なキノンレダクターゼの1つである。NQO1は非常に誘導性が高く、そしてストレスに対する細胞適応に多数の役割を果たす。NQO1は、細胞質ゾル、ゴルジ複合体、核、ミトコンドリア、細胞膜および小胞体に見られる。ミトコンドリアがアポトーシス制御の中心であることは周知である。ミトコンドリア膜電位の喪失は、細胞には破局的であり、そしてまた、細胞質ゾル内へのチトクロームCの放出も導く(Weinberg & Chandel, Nature Chemical Biology 2015, 11(1), pp.9-15)。
【0072】
NRF2は、NQO1の強力な誘導を仲介しうる。NRF2は、塩基性領域-ロイシンジッパー(bZip)転写因子であり、核において、抗酸化反応要素(ARE)と称されるエンハンサー配列を認識する、ヘテロ二量体を形成する。いくつかの研究によって、NRF2が、AREを通じた抗炎症プロセス、およびNF-κβ経路とのクロストークに寄与することが立証されてきている(Ahmedら Molecular Basis of Disease 2017, 1863(2), pp.585-597)。NRF2活性化は、mRNAおよびタンパク質発現を増加し、NF-κβシグナル伝達経路を阻害し、そして炎症促進性サイトカインを抑制することによって、HO-1遺伝子を誘導する。さらに、炎症は、レドックスシグナル伝達を損ない、酸化ストレスを増加させうる、反応性酸素種(ROS)の病的レベルの局所および全身性集積の増加と関連する。この状況は、炎症細胞において、ROS産生上昇の主な寄与因子に相当するNADPHオキシダーゼの、ミトコンドリアが生じる制御不能活性化に影響を及ぼす。ミトコンドリアROSは、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の損傷および放出を引き起こし、したがって、さらなるROS産生およびインフラマソームの活性化を導く事象の悪循環を生じ、最終的に臓器衰弱を生じる(Kovacら Biochimica et Biophysica Acta. BBA 2015, 1850(4), pp.794-801)。NRF2は、中間代謝に影響を及ぼし、基質の利用可能性を増加させ、ミトコンドリア呼吸鎖に関する同等物を減少させるとともに、mtDNAの完全性を維持する(Holmstrom, K. M., Baird, L., Zhang, Y., Hargreaves, I., Chalasani, A., Land, J. M.ら(2013).. Biology Open, 2(8), 761-770.)。NRF2およびNQO1発現を増進させる薬剤および薬剤候補は、抗酸化効果を発揮し、そして酸化ストレスから細胞を保護する。
【0073】
CHAC1:グルタチオン特異的ガンマ-グルタミルシクロトランスフェラーゼ1は、グルタチオンレベルおよび酸化バランス制御において、非フォールディングタンパク質応答で役割を果たし、そして神経分化を促進する。
【0074】
細胞外CySS(システインの酸化型)の還元を導くシステイン/グルタミン酸輸送体は、グルタチオン(GSH)系とは独立である。下方制御は、フェロトーシスおよび加齢を促進する(Zhangら Nature Cell Biology 2018, pp.1-19)。
【0075】
さらに、SELADIN1(選択的アルツハイマー病指標1)としてもまた知られるDHCR24(遺伝子ID:1718、3ベータ-ヒドロキシステロール-デルタ24レダクターゼ)は、酸化ストレスおよびアミロイド-ベータによって誘導されるアポトーシス中、カスパーゼ3活性を減少させることによって、酸化ストレスから細胞を保護する。DHCR24はまた、コレステロール合成の最後の工程を触媒し、そしてしたがって、脂質代謝にも関与する。
【0076】
LDLR(遺伝子ID:3949)、INSIG1(遺伝子ID:3638)およびDHCR24/Seladin-1(遺伝子ID:1718)の遺伝子は、本明細書記載の化合物、特にSCA-744によって調節されることが見出された。
【0077】
標準アッセイ:半定量的ウェスタンブロット分析によって決定されるように、化合物が、哺乳動物細胞において、ビヒクル処理細胞よりもより高いレベルに、好ましくは、化合物を500μMで用いた際に~3倍、NQO1発現を誘導するならば、該化合物の特異的抗酸化効果または活性が立証される。HeLa細胞をビヒクル、50、100および500μMの化合物で、48時間処理し、そしてTriton X-100抽出緩衝液(50mM HEPES[pH 7.4]、140mM NaCl、1% Triton X-100、1mM EDTA、0.3mM DTTおよび完全プロテアーゼ阻害剤カクテル)中で溶解する。25μgの全細胞抽出物を、10% SDS-PAGE上で分離し、PVDF膜(Bio-Rad)にトランスファーした後、標準的イムノブロッティング法の使用によって、タンパク質を検出する。膜を、NQO1一次抗体(A-5:sc-271116、Santa Cruz Biotechnologies)の1:200希釈とインキュベーションした後、1:3000のヤギ抗マウス(IgG-HRP:sc-2005)とインキュベーションする。装填対照には、GAPDH抗体(0411:sc-47724)を用いる。GAPDHに対して、NQO1タンパク質シグナル強度を概算して、用いる化合物が500μMである場合、ビヒクル処理細胞に関するシグナルよりも、NQO1の少なくとも3倍の増加が示される。タンパク質レベルの分析および定量化には、ImageJ(National Institute of Health、米国:http://imagej.nih.gov/ij)のゲル分析装置を用いる。
【0078】
抗加齢プロセス
慢性炎症、酸化ストレスおよび好ましくない脂質代謝変化は、加齢の重要な要素である。上述の機構はすべて、こうしたプロセスに寄与し、そしてこれらのプロセスの組み合わせを改変する薬剤および薬剤候補は、抗加齢薬剤としての潜在能力を有しうる。
【0079】
NRF2(遺伝子ID:4780)は、最もよく特徴づけられた抗加齢遺伝子の1つであり、炎症および酸化ストレス、ならびに加齢の間の関係を示す一例である。NRF2は、外部からの、あるいは代謝または炎症中に産生されるかいずれかの反応性酸素種レベルの増加に反応して、求電子反応要素の発現を制御する転写因子であり、また抗酸化剤である。活性化剤、例えばスルホラファン(食用化合物)およびより強力な合成類似体が臨床開発中である。例えば、ラパマイシンは、試験したすべての生存生物の寿命を増加させる;ラパマイシンはmTORを阻害し、そしてNRF2の転写を増加させることが示されている。活性化は、典型的には、細胞質中で、結合パートナーKEAP1を通じて起こる。NRF2活性化は、半減期の増加および核への転位置を伴い、核中で、NRFはターゲット遺伝子のプロモーターに結合する。
【0080】
標準アッセイ:半定量的ウェスタンブロット分析によって決定されるように、化合物が、以下の遺伝子NQO1、LDLRの発現を同時に、そして炎症促進性ケモカイン;IL-1β、IL-6、TNFαの阻害を誘導する場合、化合物の特異的抗加齢効果または活性が立証される。タンパク質レベルの分析および定量化のため、ImageJ(National Institute of Health、米国:http://imagej.nih.gov/ij)のゲル分析装置を用いる。
【0081】
NQO1およびLDLRの検出のため、HeLa細胞をビヒクル、50、100および500μMの化合物で、48時間処理し、そしてTriton X-100抽出緩衝液(50mM HEPES[pH 7.4]、140mM NaCl、1% Triton X-100、1mM EDTA、0.3mM DTTおよび完全プロテアーゼ阻害剤カクテル)中で溶解する。25μgの全細胞抽出物を、10% SDS-PAGE上で分離し、PVDF膜(Bio-Rad)にトランスファーした後、標準的イムノブロッティング法の使用によって、タンパク質を検出する。膜を、NQO1(A-5:sc-271116、Santa Cruz Biotechnologies)またはLDLR(C7:sc-18823、Santa Cruz Biotechnologies)一次抗体の1:200希釈とインキュベーションした後、1:3000のヤギ抗マウス(IgG-HRP:sc-2005)とインキュベーションする。装填対照には、GAPDH抗体(0411:sc-47724)を用いる。GAPDHに対して、NQO1タンパク質シグナル強度を概算して、対照よりも少なくとも3倍多い増加が示されるはずである。同時に、化合物は、ヒトTHP1マクロファージにおいて、IL-1β、IL-6およびTNFαの産生を減少させることによって、抗炎症活性を有するはずである。THP-1ヒト単球細胞株を、100nMのホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)で48時間処理して、成熟マクロファージ様状態を誘導する。次いで、細胞を、500μMのSCA-744の非存在下および存在下で、100ng/mlのLPSで刺激する。6時間後、処理細胞および未処理細胞の上清を収集し、そしてヒト炎症パネルLEGENDplexヒト炎症促進性ケモカインパネル(カタログ番号740118)を用いて、サイトカインレベルを決定する。
【0082】
医学的使用
本発明は、コルチコステロイド、ヘパラン硫酸、またはヘパリン硫酸のいずれか1つまたはそれより多くの特異的模倣体によって治療可能な一連の徴候を持つヒトまたは非ヒト動物被験体の処置(例えば予防または療法のための治療)を意図する。特に、コルチコステロイド、ヘパリン硫酸、またはヘパリン硫酸のいずれか1つまたはそれより多くの模倣体として作用する化合物を選択する。
【0083】
用語「治療」は、本明細書において、被験体の治療に関して、個々にまたはともに、「疾患状態」として理解される、疾患、病的状態、または障害を治癒させるか、寛解させるか、安定化させるか、その発生を減少させるか、または防止することが意図される被験体の医学的管理を指す。該用語には、疾患状態の改善に向けて特異的に指示される能動的治療、疾患状態の防止に向けて特異的に指示される予防が含まれ、そしてまた、関連疾患状態の原因の除去に向けて指示される原因治療が含まれる。さらに、該用語には、疾患状態の治癒よりも症状の軽減のために設計された対症的治療、そして関連疾患状態の発展を最小限にするかあるいは部分的にまたは完全に阻害するよう指示される疾患状態のさらなる治癒、および関連疾患状態の改善に向けて指示される別の特異的療法を補助するために使用される補助治療が含まれる。
【0084】
特に
a)好ましくはIL-1β、IL-6、TNFαからなる群より選択される、1つまたはそれより多くの炎症促進性サイトカイン;あるいはIKZF1、GDF10、SPOCK3、MMP1、IL-1β、KCNMA1、CCL7、AQP1、ITIH5、ABI3BPおよびBMP5からなる群より選択される1つまたはそれより多くの炎症促進性遺伝子の発現を減少させるか;
b)好ましくはCHAC1、SLC7A11、NQO1、EGR1、SGK1、SLC6A9およびDHCR24からなる群より選択される、1つまたはそれより多くの抗酸化遺伝子、好ましくはNQO1の発現を増加させるか;
c)LDLR、ID3、NQO1、SLCGA2、またはDHCR24のいずれか1つまたはそれより多くの発現を増加させるか;あるいは
d)コレステロール代謝に関与する酵素、好ましくはLDLRまたはDHCR24の発現を調節する、
化合物を用いる。
【0085】
特に、本明細書記載の治療は、
a)好ましくはIL-1β、IL-6、TNFαからなる群より選択される、1つまたはそれより多くの炎症促進性サイトカイン;あるいはIKZF1、GDF10、SPOCK3、MMP1、IL-1β、KCNMA1、CCL7、AQP1、ITIH5、ABI3BPおよびBMP5からなる群より選択される1つまたはそれより多くの炎症促進性遺伝子の発現を減少させるか;
b)好ましくはCHAC1、SLC7A11、NQO1、EGR1、SGK1、SLC6A9およびDHCR24からなる群より選択される、1つまたはそれより多くの抗酸化遺伝子、好ましくはNQO1の発現を増加させるか;
c)脂質代謝に関与する遺伝子のいずれか1つまたはそれより多く、好ましくはLDLR、ID3、NQO1、SLCGA2、またはDHCR24のいずれか1つまたはそれより多くの発現を増加させるか;あるいは
d)コレステロール代謝に関与する酵素、好ましくはLDLRまたはDHCR24の発現を調節する
ために十分な、有効量の化合物またはその薬学的に許容されうる塩を被験体に投与する工程を含む。
【0086】
特に、本発明は、化合物が抗炎症、抗酸化、抗加齢、または脂質代謝調節特性を有する、疾患および医学的状態を治療するための化合物の使用を提供する。こうした化合物(またはその薬学的に許容されうる塩)またはそれぞれの調製物の使用によって、被験体、例えば炎症性疾患または障害、酸化ストレスまたは酸素ラジカル生成の産生増加と関連する疾患または障害、加齢性疾患または障害、あるいは脂質代謝疾患または障害を有すると診断されたか、あるいはそのリスクがある患者を治療することが可能になる。
【0087】
特に、炎症性疾患は急性または慢性炎症性疾患である。
特定の側面にしたがって、炎症性疾患は肺炎、特に毒物吸入または感染性病原体によって引き起こされる肺炎、例えばウイルス性肺炎、細菌性肺炎、寄生虫性肺炎である。特に、炎症性疾患は、肺炎、例えば急性肺炎、特に血管周囲浮腫、または肺炎における免疫細胞浸潤を治療するためのものである。
【0088】
特定の側面にしたがって、炎症性疾患は、急性呼吸促迫症候群、例えばウイルスによって引き起こされるもの、または慢性閉塞性肺障害である。
特定の側面にしたがって、炎症性疾患は、自己免疫疾患またはアレルギーを生じる疾患状態、炎症または炎症性症状、例えば関節炎症、炎症性腸疾患、あるいは関節リウマチ、変形性関節症、喘息、または乾癬と関連する任意の炎症性疾患状態である。
【0089】
特に、炎症性疾患は、関節炎症または炎症性腸疾患である。
特に、炎症は、敗血症関連ではなく、そして特に敗血症、細菌性敗血症、LPS誘導性ショック、敗血症ショックまたは多臓器不全ではない。
【0090】
例示的な疾患および状態には、以下が含まれる
a)炎症性疾患が、急性または慢性炎症性疾患、自己免疫疾患またはアレルギーで起こる炎症性疾患状態のいずれか;肺炎、毒物吸入または感染性病原体によって引き起こされる肺炎、例えばウイルス性肺炎、細菌性肺炎、寄生虫性肺炎;急性呼吸促迫症候群、関節炎症、炎症性腸疾患、あるいは関節リウマチ、変形性関節症、喘息、アレルギー、慢性閉塞性肺障害または乾癬と関連する任意の炎症性疾患状態であるもの;
b)抗酸化ストレス疾患が虚血再灌流傷害であるもの;または
c)加齢性疾患が早老症候群であるもの;および
d)脂質代謝疾患が高脂血症またはアテローム性動脈硬化症であるもの。
【0091】
別の炎症性疾患には、クローン病、潰瘍性大腸炎、シェーグレン症候群、血管炎、(多発性)皮膚筋炎、グレーブス病、多発性硬化症、サルコイドーシス、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、免疫血小板減少症、前部ブドウ膜炎、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、および湿疹が含まれる。
【0092】
別の抗酸化ストレス疾患には、心臓発作、脳卒中、肝臓/腸虚血およびアテローム性動脈硬化症が含まれる。
別の加齢性疾患には、ハッチンソン-ギルフォード症候群およびウェルナー症候群が含まれる。
【0093】
別の徴候には、アルポート症候群、常染色体優性多発性嚢胞腎疾患、IgA腎症、1型糖尿病性CKD、巣状分節性糸球体硬化症、フリードライヒ運動失調症が含まれる。
用語「被験体」は、本明細書において、任意の動物を指し、本明細書において、診断、スクリーニング、監視または治療が意図される、好ましくは、任意の哺乳動物、そして特にヒトが含まれる、任意の動物を指す。被験体は、特定の疾患状態のリスクがあってもよく、例えば疾患状態に罹患しているか、または疾患状態を決定しようとしているか、または疾患状態のリスクを決定しようとしている患者である。用語「患者」には、本明細書において、健康な被験体も常に含まれる。
【0094】
用語、特定の疾患状態の「リスクがある」は、こうした疾患状態を、例えば特定の素因によって発展させる可能性があるか、または先天性または後天性状態を含む多様な段階で、こうした疾患状態にすでに罹患している被験体を指し、これらの疾患状態には、特に他の原因疾患状態と関連する一過性疾患、あるいはこうした免疫グロブリン不全の結果として続く他の状態または合併症が含まれる。リスク決定は、特に、疾患がまだ診断されていない被験体において、重要である。したがって、このリスク決定には、予防的療法を可能にする初期診断が含まれる。単一の、好ましくは多数のリスクパラメータ、例えば遺伝子バックグラウンド、ストレスレベル、特定の薬剤の摂取等によって、リスク評価を行ってもよい。特に、高リスクの患者、例えば疾患を発展させる可能性が高い患者において、本発明の調製物を用いる。
【0095】
特に、本明細書記載の調製物であって、前記調製物が、前記抗炎症、抗酸化、抗加齢、または脂質代謝調節活性を示すために有効な量の経口、局所、粘膜または非経口投与を含む、医学的使用のため、およびそれぞれの治療のための前記調製物を提供する。
【0096】
特に、治療措置が、コルチコステロイド、抗TNFα阻害剤、IL-17阻害剤、IL-23/IL-12阻害剤、PDE4阻害剤、フマル酸、JAKキナーゼ阻害剤、メトトレキセート、レフノミド、ヒドロキシクロロキン(hydroxcloroquinie)、スルファサラジン、シクロスポリンまたは解離性ステロイド化合物のいずれかの置換または組み合わせ投与を含む、医学的使用およびそれぞれの治療のための本明細書記載の調製物を提供する。
【0097】
特定の態様にしたがって、調製物は、経口、局所、粘膜または非経口投与のために配合された薬学的組成物である。
用語「配合物」は、本明細書において、特定の方式で、被験体を治療するためのすぐに使える調製物を指す。特に、薬学的組成物は、本明細書にさらに記載される化合物、またはその薬学的に許容されうる塩、および薬学的に許容されうる希釈剤、キャリアーまたは賦形剤を含む。
【0098】
特定の側面にしたがって、経口、局所、粘膜または非経口投与のための、薬学的に許容されうるビヒクル中に、本明細書記載の化合物またはその薬学的に許容されうる塩、またはそれぞれの調製物を含む、薬学的配合物を提供する。また、本開示には、凍結乾燥され、そして再構成されて、例えば静脈内、筋内、または皮下注射による投与のための薬学的に許容されうる配合物を形成しうる、こうした化合物またはその塩が含まれる。投与はまた、皮内または経皮であってもよい。
【0099】
特定の態様は、固体として、経口投与されるかまたは吸入を通じて投与されるか、あるいは溶液、懸濁物またはエマルジョンとして筋内または静脈内投与してもよい、配合物を指す。あるいは、また、リポソーム懸濁物として、配合物を吸入によるか、静脈内または筋内で投与してもよい。
【0100】
本明細書記載の化合物またはその薬学的に許容されうる塩またはそれぞれの調製物を、非経口投与以外の任意の経路によって投与するため、活性剤をその不活性化を防止する材料でコーティングするか、またはこうした材料と活性剤を同時投与することが必要でありうる。例えば、適切なキャリアー、例えばリポソーム、または希釈剤を用いてもよい。
【0101】
薬学的に許容されうる希釈剤には、生理食塩水および水性緩衝溶液が含まれる。
本明細書記載の化合物またはその薬学的に許容されうる塩またはそれぞれの調製物を、例えば不活性希釈剤または同化可能または食用キャリアーと共に、経口投与してもよい。例えば、調製物をハードシェルまたはソフトシェルゼラチンカプセル中に封入するか、錠剤に圧縮するか、あるいは被験体の食餌に直接取り込んでもよい。経口療法投与のため、本明細書記載の化合物またはその薬学的に許容されうる塩を、賦形剤とともに取り込んで、そして摂取可能な錠剤、頬側錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル剤、懸濁物、シロップ、ウェーハ等の形で用いてもよい。組成物および調製物中の化合物またはその薬学的に許容されうる塩の割合は、もちろん、多様であってもよい。こうした療法的に有用な組成物中の本明細書記載の化合物またはその薬学的に許容されうる塩は、適切な投薬量が得られるようなものである。
【0102】
用語「粘膜」は、被験体を治療するための調製物またはそれぞれの配合物の投与または適用または他の粘膜使用に関して、全身性または局所投与を含む、粘膜経路を通じた投与を指し、ここで、活性成分は、粘膜表面との接触によって取り込まれる。これには、経口、経口的、鼻、膣、直腸投与ならびに配合物、例えば液体、シロップ、ロゼンジ、錠剤、スプレー、粉末、インスタント粉末、顆粒、カプセル、クリーム、ジェル、ドロップ、懸濁物、エマルジョンまたは食品が含まれる。
【0103】
経口的配合物には、液体溶液、エマルジョン、懸濁物等が含まれてもよい。こうした組成物の調製に適した薬学的に許容されうるビヒクルは、当該技術分野に周知である。シロップ、エリキシル剤、エマルジョンおよび懸濁物のキャリアーの典型的な構成要素には、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、液体スクロース、ソルビトールおよび水が含まれる。懸濁物に関しては、典型的な懸濁剤には、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、トラガカント、およびアルギン酸ナトリウムが含まれ;典型的な湿潤剤には、レシチンおよびポリソルベート80が含まれ;そして典型的な保存剤には、メチルパラベンおよび安息香酸ナトリウムが含まれる。経口的液体組成物はまた、上に開示する甘味料、フレーバー剤および着色剤などの1つまたはそれより多い構成要素も含有してもよい。
【0104】
また、対象の剤が所望の局所適用の近傍の胃腸管において、または所望の作用を延長するため、多様な時間で放出されるように、慣用法によって、典型的にはpHまたは時間依存性コーティングによって薬学的組成物をコーティングしてもよい。こうした投薬型には、典型的には、限定されるわけではないが、酢酸フタル酸セルロース、フタル酸酢酸ポリビニル、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ワックス、およびシェラックの1つまたはそれより多くが含まれる。
【0105】
本明細書記載の化合物またはその薬学的に許容されうる塩またはそれぞれの調製物の全身送達を達成するために有用な他の組成物には、舌下、頬側および鼻投薬型が含まれる。こうした組成物は、典型的には、1つまたはそれより多い可溶性充填物質、例えばスクロース、ソルビトールおよびマンニトール;ならびに結合剤、例えばアラビアゴム、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース、または流動促進剤、潤滑剤、甘味料、着色剤、酸化防止剤およびフレーバー剤を含む。
【0106】
また、本明細書記載の化合物またはその薬学的に許容されうる塩またはそれぞれの調製物を、例えば、被験体の表皮または上皮組織上にこれらを含有する組成物を直接置くかまたは広げることによって、あるいは「パッチ」を通じて経皮的に、被験体に局所投与してもよい。こうした組成物には、例えば、ローション、クリーム、溶液、ジェルおよび固体が含まれる。これらの局所組成物は、有効量、通常、少なくとも約0.1wt%、またはさらに約1wt%~約5wt%の本明細書記載の化合物またはその薬学的に許容されうる塩を含んでもよい。局所投与のための適切なキャリアーは、典型的には、連続フィルムとして皮膚上で適所に留まり、そして発汗または水への浸漬による除去に抵抗する。一般的に、キャリアーは、有機性であり、そして療法剤がその中で分散または溶解されることが可能である。キャリアーには、薬学的に許容されうる皮膚軟化剤、乳化剤、増粘剤、溶媒等が含まれてもよい。
【0107】
注射可能使用に適した薬学的組成物には、無菌水性溶液(特に、化合物または薬学的に許容されうる塩が水溶性である場合)または分散物、および無菌注射可能溶液または分散物の即時調製のための無菌粉末が含まれる。特に、組成物は、特に無菌で、そして容易な注射針通過能(syringability)が存在する度合いまで流動性であり;製造および保存の条件下で安定であり、そして細菌および真菌などの微生物の混入作用に対して保持されている。
【0108】
適切な薬学的に許容されうるビヒクルには、限定なしに、経口、非経口、鼻、粘膜、経皮、静脈内(IV)、動脈内(IA)、筋内(IM)、および皮下(SC)投与経路に適した任意の非免疫原性薬学的アジュバント、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が含まれる。
【0109】
特定の側面にしたがって、式(I)の化合物またはその薬学的に許容されうる塩を、食物または飼料製品、栄養補助食品または美容調製物、例えば栄養補給食品または薬用化粧品として用いてもよい。
【0110】
特定の態様は、式(I)の化合物またはその薬学的に許容されうる塩を含む、食物、飼料または美容組成物を指す。
用語「食物」または「食品」は、本明細書において、動物(ヒトおよび非ヒト動物を含む)による摂取に適しているかまたはそのために意図される、任意の化合物、調製物、混合物、または組成物を指す。これには、おそらく食餌として用いられる、食品への栄養的または機能的補助として理解される、栄養、栄養補助または食品補充物、ダイエット食品、完全または不完全バランス食餌または補助剤または医学的食物である、任意の化合物が含まれる。特定の機能食品は、シリアルバー、ヨーグルトおよび同様の乳製品、ベーカリー製品、フルーツジュースおよび飲料一般を含む群より選択される。典型的には、機能食品は、毒を含む病原体と関連する疾患状態の防止または予防および/または治療、あるいは体の生理学的不均衡の治療を補助する。該用語はまた、おそらく非ヒト動物に給餌するための食餌として用いられる、飼料または飼料製品も含むものとする。食品は、有機または合成供給源のものであってもよく、乳製品または混合前に適切に精製されている物質の人工的混合物に基づく合成組成物を含む、天然または天然様組成物中に配合されていてもよい。本発明にしたがった食品は、典型的には、食品等級品質で提供される。等級品質は、動物に許容されうる食品の品質特性である。これには、外見(サイズ、形状、色、光沢、およびコンシステンシー)などの外部要因、質感およびフレーバーが含まれる。品質標準はまた、許容されうる最大量の混入物質も提供する。成分品質に加えて、病原体を不活性化するかまたは枯渇させる衛生要件もまたある。消費者のために、ありうる最も安全な食品を産生するため、食品プロセシング環境が可能な限り清潔であることを確実にすることが重要である。
【0111】
用語「栄養補助」は、本明細書において、例えば植物油/動物油、ビタミン、コレステロール、クレアチン、アミノ酸、ミネラル塩、ベータ-カロテン、フラボノイド、植物または酵母エキス、ヒアルロン酸、イノシトール、ハーブ、およびすべての他の適切な成分などの、特定の食餌またはプロセシングされた食品中に含まれるべき、任意の栄養素、食餌補助剤および製品を指すよう意味される。
【0112】
用語「薬用化粧品」は、本明細書において、例えば、ビタミン、アルファおよびベータ-ヒドロキシル酸、リポ酸、ジメチルアミノエタノール、グリコール酸、サリチル酸、ヒアルロン酸などの、体に対して薬剤と同様に有益である、任意の美容製品を指すよう意味される。
【0113】
特に、適切な調製物は、例えば、それぞれの配合物を提供するための、特定の賦形剤または補助手段を含む、液体、シロップ、ロゼンジ、錠剤、チューイングガム、スプレー、粉末、インスタント粉末、顆粒、カプセル、クリーム、ジェル、ドロップ、懸濁物、エマルジョンまたは食品として提供されてもよい。
【0114】
特定の側面にしたがって、本明細書記載の化合物またはその薬学的に許容されうる塩またはそれぞれの調製物、および美容的に許容されうるビヒクルを含む、適切な美容配合調製物を、局所適用のために提供する。特定の美容配合物は、水和および保存特性を有し、そしてケラチン基質、加齢徴候、環境要因への曝露(exposition)による皮膚損傷を治療可能であり、そしてしたがって、皮膚の外見を改善する。
【0115】
ケラチン基質の治療は、皮膚および/または毛髪および/または爪の健康な機能を保持するかまたは回復すること、あるいは外見および/または構造を保持するかまたは改善する手段を提供する任意の治療を目指すよう意味される。こうした治療の例には:皮膚強化、皺減少、加湿、任意の種類の侵害からの保護、特に日光照射および加齢指標からの保護が含まれる。
【0116】
加齢徴候の治療は、加齢および光加齢による皮膚の外見に関するすべての変化を指すよう意味される。これらの変化の例には、皺および細い線、けば立った(floss)皮膚、やせた皮膚、皮膚弾性および/または色調の喪失、光沢のない皮膚が含まれる。また、外見変化に直接影響しない、内部皮膚修飾もまた含まれる。これらの内部修飾の例は、UV照射への反復曝露によって、皮膚内部で起こる分解である。
【0117】
皮膚外見の改善のための治療は、皮膚外見の視覚的改善を生じうるすべての現象を指すよう意味される。これらの現象の例は、より美しく引き締まりそして滑らかな皮膚を導く。
【0118】
詳細な説明
本明細書において、別に記載されない限り、以下の定義が適用される:
用語「アルキル」は、単独で、あるいは他の基または原子と組み合わせて用いられた場合、いくつかの水素置換炭素原子のみからなる飽和直鎖または分枝鎖を指し、そしてこれには、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、1-メチルプロピル、イソブチル、tert-ブチル、2,2、-ジメチルブチル、2,2-ジメチルプロピル、n-ペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、n-ヘキシル等が含まれる。
【0119】
用語「アリール」は、随意に完全にまたは部分的に飽和または不飽和である炭素環と融合していてもよく、そして随意に1つまたはそれより多くの同一のまたは異なる置換基、適切には1~3の置換基で置換されていてもよい、5または6~14炭素原子、好ましくは6~10炭素原子を含有する芳香族単環または二環基を指す。アリール基の例には、フェニル、ナフチル、インダニル等が含まれる。
【0120】
用語「シクロアルキル」は、単独で、あるいは他の基または原子と組み合わせて用いられた場合、各々飽和していてもまたは不飽和(シクロアルケニル)であってもいずれでもよい、単環炭化水素環、二環炭化水素環またはスピロ炭化水素環を指す。用語「不飽和」は、問題の環系において、少なくとも1つの二重結合があるが、芳香族系は形成されないことを意味する。二環炭化水素環において、2つの環は、これらが、少なくとも2つの炭素原子を共通に有するように連結される。スピロ炭化水素環において、1つの炭素原子(スピロ原子)が2つの環に共有される。シクロアルキルが置換される場合、置換は、互いに独立に、すべての水素所持炭素原子で、各場合でモノまたはポリ置換であってもよい。シクロアルキル自体を、環系の任意の適切な位で、置換基として、分子に連結してもよい。
【0121】
用語「ヘテロアリール」は、5または6~14炭素原子、好ましくは5または6~12炭素原子を含有し、そのうち1~5がN、SおよびOより選択されるヘテロ原子で置換され、随意に非芳香族複素環に還元されてもよく、そして随意に1つまたはそれより多くの同一のまたは異なる置換基で置換されてもよい、芳香族単環または二環基を指す。ヘテロアリール基の例には、ピロリル、ジヒドロピロリル、ピロリジニル、オキソピロリジニル、インドリル、イソインドリル、インドリジニル、イミダゾリル、ピラゾリル、ベンズイミダゾリル、イミダゾ(1,2-a)ピリジニル、インダゾリル、プリニル、ピロロ(2,3-c)ピリジニル、ピロロ(3,2-c)ピリジニル、ピロロ(2,3-b)ピリジニル、ピラゾロ(1,5-a)ピリジニル、1,2,3-トリアゾリル、1,2,4-トリアゾリル、テトラゾリル、オキサゾリル、1,2オキサゾリル、イソキサゾリル、1,3,4-オキサジアゾリル、1,2,5-オキサジアゾリル、1,2,4-オキサジアゾリル、1,2,3-オキサジアゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、1,3,4-チアジアゾリル、1,2,5-チアジアゾリル、1,2,4-チアジアゾリル、1,2,3-チアジアゾリル、フラニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロフラニル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、チオフェニル、ジヒドロチオフェニル、テトラヒドロチオフェニル、ベンゾチオフェニル、ベンゾイソチオフェニル、ピリジル、ピペリジニル、キノリニル、イソキノリニル、テトラヒドロイソキノリニル、キノリジニル、ピラジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラニル、テトラヒドロピラニル、1,2,3-トリアジニル、1,2,4-トリアジニル、1,3,5-トリアジニル、クロメニル、モルホリニル、ジアゼピニル、ベンゾジアゼピニル等が含まれる。
【0122】
用語「ヘテロシクロアルキル」によって、炭化水素環において、1つまたはそれより多くの-CH-基が、互いに独立に、-O-、-S-、または-NH-基によって置換されるか、あるいは1つまたはそれより多くの=CH-基が=N-基によって置換される一方、総数5を超えないヘテロ原子が存在してもよく、2つの酸素原子間および2つのイオウ原子間または1つの酸素および1つのイオウ原子間に少なくとも1つの炭素原子が存在しなければならず、そして全体として基が化学的に安定でなければならない場合の、先に定義するようなシクロアルキル由来の基を意味する。ヘテロ原子は、すべてのありうる酸化段階(イオウ→スルホキシド-SO-、スルホン-SO-;窒素→N-オキシド)で同時に存在してもよい。シクロアルキルの間接的な定義/由来から、ヘテロシクロアルキルが、サブグループ、単環複素環、二環複素環およびスピロヘテロ環で構成される一方、各サブグループもまた、飽和および不飽和(ヘテロシクロアルケニル)にさらに細分可能であることが直ちに明らかである。用語「不飽和」は、問題の環系において、少なくとも1つの二重結合があるが、芳香族系は形成されないことを意味する。二環複素環において、2つの環は、これらが、少なくとも2つの炭素原子を共通に有するように連結される。スピロヘテロ環において、1つの炭素原子(スピロ原子)が2つの環に共有される。ヘテロシクロアルキルが置換される場合、置換は、互いに独立に、すべての水素所持炭素原子および/または窒素原子で、各場合でモノまたはポリ置換であってもよい。ヘテロシクロアルキル自体を、環系の任意の適切な位で、置換基として、分子に連結してもよい。
【0123】
用語「複素環基」は、本明細書において、随意に、芳香族アリールまたはヘテロアリール基に融合されていてもよい、ヘテロシクロアルキル基を指す。
個々のサブグループの典型的な例を以下に列挙する:単環複素環(飽和および不飽和):オキソラン、ピロリジニル、ピロリニル、イミダゾリジニル、チアゾリジニル、イミダゾリニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピペリジニル、ピペラジニル、オキシラニル、アジリジニル、アゼチジニル、1,4-ジオキサニル、アゼパニル、ジアゼパニル、モルホリニル、チオモルホリニル、ホモモルホリニル、ホモピペリジニル、ホモピペラジニル、ホモチオモルホリニル、チオモルホリニル-S-オキシド、チオモルホリニル-S,S-ジオキシド、1,3-ジオキソラニル、オキサン、テトラヒドロチオピラニル、1,4-オキサゼパニル、テトラヒドロチエニル、ホモチオモルホリニル-S,S-ジオキシド、オキサゾリジノニル、ジヒドロピラゾリル、ジヒドロピロリル、ジヒドロピラジニル、ジヒドロピリジル、ジヒドロ-ピリミジニル、ジヒドロフリル、ジヒドロピラニル、テトラヒドロチエニル-S-オキシド、テトラヒドロチエニル-S,S-ジオキシド、ホモチオモルホリニル-S-オキシド、2,3-ジヒドロアゼット、2H-ピロリル、4H-ピラニル、1,4-ジヒドロピリジニル等;二環複素環(飽和および不飽和):8-アザビシクロ[3.2.1]オクチル、8-アザビシクロ[5.1.0]オクチル、2-オキサ-5-アザビシクロ[2.2.1]ヘプチル、8-オキサ-3-アザ-ビシクロ[3.2.1]オクチル、3,8-ジアザ-ビシクロ[3.2.1]オクチル、2,5-ジアザ-ビシクロ-[2.2.1]ヘプチル、1-アザ-ビシクロ[2.2.2]オクチル、3-8-ジアザ-ビシクロ[3.2.1]オクチル、3,9-ジアザ-ビシクロ[4.2.1]ノニル、2,6-ジアザ-ビシクロ[3.2.2]ノニル、ヘキサヒドロ-フロ[3,2-b]フリル等;スピロヘテロ環(飽和および不飽和)1,4-ジオキサ-スピロ[4.5]デシル;1-オキサ-3,8-ジアザ-スピロ[4.5]デシル;2-オキサスピロ[3.3]ヘプチル、5-アザスピロ[2.4]ヘプチル、2,6-ジアザ-スピロ[3.3]ヘプチル;2,7-ジアザ-スピロ[4.4]ノニル;2,6-ジアザ-スピロ[3.4]オクチル;3,9-ジアザ-スピロ[5.5]ウンデシル;2,8-ジアザ-スピロ[4.5]デシル等。
【0124】
用語「適切な置換基」によって、一方ではその価によって適合し、そして他方では化学的安定性を有する系を導く置換基を意味する。
分子中の特定の位置での任意の置換基または変数の定義は、その分子中の別の箇所での定義とは独立であると意図される。本発明の化合物上の置換基および置換パターンは、化学的に安定であり、そして当該技術分野において知られる技術ならびに本明細書に示す方法によって、容易に合成可能である化合物を提供するように、一般の当業者によって選択されうることが理解される。
【0125】
本明細書に提供するいかなる式または構造も、定義する式の化合物を含めて、化合物の非標識型ならびに同位体標識型に相当することもまた意図される。同位体標識化合物は、選択する原子質量または質量数を有する原子によって、1つまたはそれより多くの原子が置換されていることを除き、本明細書に提供する式によって示される構造を有する。本発明の化合物内に取り込まれてもよい同位体の例には、水素、炭素、窒素、酸素、リン、フッ素、および塩素の同位体が含まれ、限定されるわけではないが、例えば2H(重水素、D)、3H(トリチウム)、11C、13C、14C、15N、18F、31P、32P、35S、36Cl、および125Jがある。
【0126】
用語「薬学的に許容されうる」はまた、「薬理学的に許容されうる」とも称され、動物、特にヒトの治療と適合することを意味する。用語「薬理学的に許容されうる塩」には、薬理学的に許容されうる酸付加塩および薬理学的に許容されうる塩基付加塩の両方が含まれる。
【0127】
用語「薬理学的に許容されうる酸付加塩」は、本明細書において、本開示の任意の塩基化合物の任意の非毒性有機または無機塩、あるいはその中間体のいずれかを意味する。酸付加塩を形成可能な本開示の塩基性化合物には、例えば、塩基性窒素原子を含有する化合物が含まれる。適切な塩を形成する例示的な無機酸には、塩酸、臭化水素酸、硫酸およびリン酸、ならびに金属塩、例えばオルトリン酸一水素ナトリウムおよび硫酸水素カリウムが含まれる。適切な塩を形成する例示的な有機酸には、モノ、ジ、およびトリカルボン酸、例えばグリコール酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、マレイン酸、安息香酸、フェニル酢酸、桂皮酸およびサリチル酸、ならびにスルホン酸、例えばp-トルエンスルホン酸およびメタンスルホン酸が含まれる。一、二、または三酸塩のいずれを形成してもよく、そしてこうした塩は、水和、溶媒和または実質的に無水の型で存在してもよい。一般的に、本開示の化合物の酸付加塩は、水および多様な親水性有機溶媒中でより可溶性であり、そして一般的に、その遊離塩基型に比較して、より高い融点を示す。適切な塩の選択は当業者に知られるであろう。例えば、本開示の化合物の単離において、実験室使用のため、または薬理学的に許容されうる酸付加塩に続いて変換するため、他の薬理学的に許容されえない酸付加塩、例えばオキサレートを用いてもよい。
【0128】
用語「薬理学的に許容されうる塩基性塩」は、本明細書において、動物、特にヒトの治療に適しているかまたは適合する、本開示の任意の酸化合物の任意の非毒性有機または無機塩基付加塩、あるいはその中間体のいずれかを意味する。塩基付加塩を形成可能な本発明の酸性化合物には、例えば、カルボン酸、スルホン酸、スルフィン酸、スルホンアミド、N-非置換テトラゾール、リン酸エステル、または硫酸エステルを含有する化合物が含まれる。適切な塩を形成する例示的な無機塩基には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、または水酸化バリウムが含まれる。適切な塩を形成する例示的な有機塩基には、脂肪族、脂環式または芳香族有機アミン、例えばメチルアミン、トリメチルアミンおよびピコリンまたはアンモニアが含まれる。適切な塩の選択は当業者に知られるであろう。例えば、本発明の化合物の単離において、実験室使用のため、または薬理学的に許容されうる塩基付加塩に続いて変換するため、他の薬理学的に許容されえない塩基付加塩を用いてもよい。標準技術を用いて、望ましい化合物塩の形成を達成する。例えば、中性化合物を、適切な溶媒中、塩基で処理して、そして形成された塩を、濾過、抽出または任意の他の適切な方法によって単離する。
【0129】
用語、本発明の化合物の「療法的有効量」、「有効量」または「十分量」は、哺乳動物を含む被験体、例えばヒトに投与した際、臨床結果を含む、有益なまたは望ましい結果を達成するために十分な量であり、そしてこうしたものとして、有効量またはその同義語は、適用される背景に依存する。
【0130】
こうした有効用量は、特に、本明細書記載の障害に関連する状態の治癒、防止または改善を生じるために十分な化合物の量を指す。有効用量は、治療しようとする個体の健康状態および身体状態、治療しようとする個体の分類上の群、組成物の配合、医学的状況の評価および他の適切な要因に応じて多様であろう。
【0131】
特定の側面にしたがって、本明細書記載の薬学的組成物は、本明細書に定義するような化合物(または薬学的に許容されうる塩)の有効量を含有する。本明細書記載の調製物を、単回または多数回投薬使用のために提供してもよく、特に、ここで、化合物(またはその薬学的に許容されうる塩)を、約0.01mg~約5.0g、好ましくは約0.05mg~2g、より好ましくは約0.5mg~1g、さらにより好ましくは約1mg~500mgであってもよい用量で投与する。特定の側面にしたがって、化合物(またはその薬学的に許容されうる塩)を、患者に、体重kgあたり、約0.01mg~約5g、好ましくは約0.05mg~2g、より好ましくは約0.5mg~1g、さらにより好ましくは約1mg~約500mgの量で投与してもよい。
【0132】
用語「単回用量」は、本明細書において、以下のように理解される。単回用量または単回使用のための量は、単一の被験体、例えばヒトまたは動物いずれかの患者における、単一症例/処置/投与に関する使用が意味される投与に意図される量である。単回用量を含むパッケージは、典型的には製造者によってそのように標識される。単回用量量は、有効量を提供するための、個体、例えば小児または成人のための1日用量と特に理解される。
【0133】
適切な投与経路には、例えば、経口、直腸、経粘膜、または腸投与;筋内、皮下、髄内注射、ならびにクモ膜下、直接心室内、静脈内、腹腔内または鼻内注射を含む、非経口送達が含まれてもよい。化合物(またはその薬学的に許容されうる塩)または本明細書記載の薬学的組成物の投与を、多様な慣用的方法で、例えば経口摂取、吸入、局所適用、あるいは皮膚、皮下、腹腔内、非経口または静脈内注射で行ってもよい。患者への静脈内および経口投与が好ましい。
【0134】
好ましい態様は、0.01mg~5.0g/kg体重の範囲の有効量を指し、好ましくは、投与は静脈内または経口で行われる。
本明細書記載の薬学的組成物は、好ましくは、1つまたはそれより多い薬学的に許容されうる補助剤を含有し、そして活性薬学的化合物を高い生物学的利用能で投与することを可能にする薬学的型である。適切な補助剤は、例えば、シクロデキストリンに基づいてもよい。適切な配合物は、例えば、アクリレート、メタクリレート、シアノアクリレート、アクリルアミド、ポリアセテート、ポリグリコレート、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ゼラチン、アルブミン、ポリスチレン、ポリビニル、ポリアクロレイン、ポリグルタルアルデヒド、ならびにその誘導体、コポリマーおよび混合物からなる群より選択されるポリマーで形成される、合成ポリマー性ナノ粒子を取り込んでもよい。
【実施例
【0135】
以下の実施例は、本発明の理解を補助するために示されるが、本発明の範囲をいかなる意味でも限定するよう意図されず、そしてそのように見なしてはならない。実施例には、慣用法の詳細な説明は含まれない。こうした方法は、一般の当業者には周知である。
【0136】
実施例1. SCA-744は、ヒト細胞の遺伝子発現、特に炎症および抗酸化反応、ならびに脂質代謝に関与するものにおいて、広範囲の変化を誘導する
SCA-744(カタログ番号55523-250MG Sigma-Aldrich)に対する細胞反応、ヒトin vitro培養細胞の処理に際しての遺伝子発現の広範囲の変化を決定するため、RNAseq分析によって、SH-SY5Y(神経芽細胞腫細胞株:SH-SY5Y-ATCC-CRL-2266)を分析した。SH-SY5Yは、レチノール酸およびホルボール-12-ミリステート-13-アセテートで分化した細胞であった(Presgravesら Experimental Neurology 2004, 190(1), pp.157-170)。細胞培養を500μMのSCA-744またはビヒクル(DPBS)で24時間処理した。ライブラリーを調製するため、Lexogen SENSE mRNAキットを用いて、総RNAを単離して、そして配列決定化学反応v4を用い、50bp単回読み取りモードで実行する、HiSeq2500(Illumina)を用いて、配列決定した。DESeq(Anders & Huber, Genome biology 2010, 11(10), p.R106)およびedgeR(Robinsonら Bioinformatics 2009, 26(1), pp.139-140.)パッケージの統計検定を適用することによって、示差的に発現される遺伝子(DEG)を同定した。ホモ・サピエンス(Homo sapiens)識別子で比較を行った。
【0137】
特に、炎症、抗酸化、抗加齢反応および脂質代謝に関与するいくつかの遺伝子が、SCA-744において示差的に制御された(表1、表2、図10)。
SCA-744誘導性遺伝子発現変化のさらに拡張された分析において、Cytoscapeに遺伝子セットをインポートし、そして次いで、ClueGOプラグインで、遺伝子オントロジー、疾患領域および経路分析に用いた(Bindeaら Bioinformatics 2009, 25(8), pp.1091-1093)。さらに、経路比較のための新規計算アプローチを適用して、実験で決定したSCA-744のプロファイルと、抗炎症化合物コルチゾール(ヒドロコルチゾン、Sigma-Aldrich, Inc.、米国ミズーリ州セントルイス)に関して報告されたものを比較した。このアプローチは、タンパク質一次構造情報および小分子ケミインフォマティクスを利用して、薬剤のありうるタンパク質ターゲットを同定し、そして(隠れた)薬剤間類似性を明らかにする。
【0138】
SCA-744によって影響を受けると予測される経路(その大部分はまた、RNASeq分析によって実験的にも同定された)を、コルチゾールによって調節されると報告されたもの(Wanら Scientific Reports 2016, pp.1-14.)に比較すると、有意な重複が示された(図1)。しかし、コルチゾールによって影響を受け、そしてその副作用に関与するいくつかの代謝経路、例えば糖代謝および神経伝達物質脱活性化経路は、SCA-744によっては調節されない。
【0139】
他の先行技術はいずれも、このプロファイルを持つ抗炎症薬剤を記述してきていない。これらの知見に基づいて、SCA-744および本明細書記載の化合物は、新規抗炎症化合物の潜在能力を有する。
【0140】
実施例2. SCA-744は、in vitroおよびin vivoで、炎症促進性サイトカインの産生を減少させる
mRNA発現分析に基づいて、SCA-744は、炎症促進性反応に関与する重要な遺伝子を下方制御する(表1、図10)。これらのデータを検証するため、よく性質決定され、そして広く用いられる炎症促進性シグナル伝達のin vitroモデルであるLPS刺激THP-1ヒト単球細胞株を使用した(Bosshart & Heinzelmann, Annals of Translational Medicine 2016, 4(21), pp.438-438)。細胞を、100nMのホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)で48時間処理して、成熟マクロファージ様状態を誘導した。次いで、細胞を、500μMのSCA-744の非存在下および存在下で、100ng/mlのリポ多糖(LPS)で刺激した。6時間後、処理細胞および未処理細胞の上清を収集し、そしてLEGENDplexマルチ分析物フローアッセイのヒト炎症パネルを用いて、3つの主要な炎症促進性サイトカイン、TNF-α、IL-6およびIL-1βのレベルを決定した。SCA-744処理THP-1細胞の培養上清において、未処理細胞のものに比較して、有意に減少した炎症促進性サイトカインレベルが測定された(図2)。
【0141】
直接サイトカイン測定(タンパク質発現レベル)から生じるこれらのデータによって、異なるヒト細胞タイプ(神経芽細胞腫)中で検出されたmRNAレベルでの遺伝子発現変化(RNASeq)によって予測されるように、細胞が、SCA-744に反応して、炎症シグナル伝達を減少させることが確認される。したがって、SCA-744の抗炎症効果が一般的なものであり、そして免疫細胞に限定されないと結論付けることも可能である。
【0142】
第二のセットの実験において、SCA-744の抗炎症効果を、加齢動物モデルにおいて、in vivoで試験した。加齢プロセスが低等級の炎症と関連することがよく確立されている。18ヶ月より高齢のマウスは、高齢のヒトの多くの特性を示し、そしてヒト加齢の適切なモデルと見なされる。20を超えるサイトカインおよびケモカインの濃度を、若年および高齢動物の肺溶解物中で決定し、そしてこれらの大部分が、若い動物に比較して高齢動物において、有意により高いレベルで存在することが見出された(Janeschら Cytokine 2018, 111, pp.389-397)。高齢マウス(5匹のマウス/群)をSCA-744で2週間処置した(2または3日間隔、30mg/kg用量、i.p.)後、マウス肺を採取し、そして溶解物を調製した。BioLegendのLEGENDplexTMマウス炎症パネルアッセイによって、サイトカインレベルを決定した。炎症促進性サイトカインIL-6およびTNF-αならびに炎症マーカー、リポカリン(LCN2)が有意に減少した量で検出された(図3)。重要なことに、抗炎症サイトカインIL-10は、SCA-744によって影響を受けなかった。
これらのデータに基づいて、SCA-744は、細胞炎症促進性サイトカインシグナル伝達を下方制御し、そして抗炎症効果を発揮する。
【0143】
実施例3. SCA-744は、培養ヒト細胞において、抗酸化細胞反応を誘導する
mRNA発現分析(RNASeq)は、異なる酸化ストレス反応経路に関与する3つの主要な抗酸化遺伝子:1.酸化ストレスおよびアポトーシスに関連付けられるCHAC1(グルタチオン特異的γ-グルタミルシクロトランスフェラーゼ1)、2.解毒経路に関与するNQO1(NAD(P)Hデヒドロゲナーゼ[キノン]1)、ならびに3.グルタチオン(GSH)系とは独立に細胞外CySS(システイン酸化の結果)の還元型を産生するSLC7A11(システイン/グルタミン酸輸送体;xCT、CCBR1)の有意な上方制御を示した。
【0144】
SCA-744の抗酸化効果を実験的に検証するため、これらの3つの遺伝子のうち1つであり、主要抗酸化酵素であるNQO1の誘導を調べた。HeLa(ヒト子宮頸部上皮細胞、ATCC CCL-2)をSCA-744(50、100および500μM)で48時間処理し、そして抗ヒトNQO1抗体(A-5:sc-271116、Santa Cruz Biotechnologies)を用いたイムノブロット分析のため、採取して細胞溶解物を調製した。SCA-744処理細胞で得たシグナル強度は、SCA-744濃度依存性方式で、NQO1の非常に有意な上方制御を確認した(図4)。実際、適用される実験条件下で、対照細胞においてNQO1はまったく検出されず、一方、試験したSCA-744の最低濃度である50μMであっても顕著なシグナルが誘導され、SCA-744濃度を増加させると増加した(500μMでおよそ3.5倍より高いシグナル)。装填対照(SCA-744によって改変されるとは予期されないタンパク質;GAPDH)によって、実験の信頼性を確認した。
【0145】
ミトコンドリアの電子伝達系(ETC)が、細胞反応性酸素種(ROS)の大部分(80~90%)を生じることが広く認められている(Jarrett, S. G.ら Progress in Retinal and Eye Research 2008, 27(6), pp.596-607)。ミトコンドリア機能不全が仲介する酸化ストレスが、いくつかの疾患病理において主要な役割を果たすことを示す証拠が増加している。したがって、酸化ストレス増加に反応する抗酸化酵素の生理学的活性化は、細胞を保護すると考えられる。
【0146】
SCA-744がミトコンドリア機能不全によって誘導される酸化損傷から細胞をレスキュー可能であるかどうかを試験するため、SH-SY5Y神経芽細胞腫細胞を1-メチル-4-フェニルピリジニウム(MPP+)(0.5mM、48時間)で処理して、ミトコンドリア断片化を誘導した。MPP+は、神経細胞のミトコンドリアにおいて、主に、ラジカル反応性遊離酸素種の形成を促進して、さらなる全体的な細胞損傷を導くことによって、その毒性を発揮する(Przedborskiら Journal of bioenergetics and biomembranes 2004, 36(4), pp.375-379)。ミトコンドリアを視覚化するため、細胞を、ミトコンドリア標識のための、穏やかなチオール反応性クロロメチル部分である、MitoTarcker Red CMXRos(MitoTracker Red CMXRos #9082 Cell Signaling)とインキュベーションし、固定し、そしてマウントした。ミトコンドリア形態を、レーザー走査型共焦点顕微鏡LSM710 Zeissで画像化した。SCA-744(500μM)の存在下で、細胞はミトコンドリア完全性を維持し、ROSの形成が非常に減少したかまたは防止されたことが示唆された(図5)。
2つの独立なin vitro実験モデルからのこれらのデータに基づいて、SCA-744は、細胞の抗酸化能を増加させ、そして抗酸化剤として作用する。
【0147】
実施例4. SCA-744は脂質代謝を調節する
表1(図10)に例示するように、SCA-744は、脂質代謝に関与するいくつかの遺伝子、例えば血漿中のコレステロールレベルの主要な決定因子である低密度リポタンパク質受容体、LDLRの発現に影響を及ぼす。興味深いことに、これらの遺伝子のいくつかの発現は、Wntおよびヘッジホッグシグナル伝達経路によって制御されると報告されている(Bandariら Current Protein and Peptide Science 2015, 16(1), pp.66-76; Aliら Arthritis & Rheumatology 2015, 68(1), pp.127-137.)。LDL-R発現レベルに対するSCA-744の影響を直接評価するため、HeLa細胞を50または500μM濃度のSCA-744で、24または48時間処理した。細胞を採取し、細胞溶解物を調製し、そして次いで、抗ヒトLDL-R抗体(C7: sc-18823、Santa Cruz Biotechnologies)を用いたイムノブロッティングによって分析した。
【0148】
対照細胞において(処理なし)、LDL-Rシグナルは観察されない一方、SCA-744のどちらの濃度でも、LDL-Rは細胞溶解物中で検出され、SCA-744濃度がより高く、そして曝露がより長ければ、LDL-Rはより高いレベルである傾向があった(48時間対24時間)(図6A)。
【0149】
別のセットの実験において、HeLa細胞を同じ方式で処理した(50または500μMのSCA-744で48時間)。細胞を4%パラホルムアルデヒド溶液で、10分間室温で固定し、そして0.1% Triton X-100で、室温で15分間透過処理し、そしてイムノブロッティングに使用したものと同じ抗ヒトLDLR抗体を用いて、免疫蛍光顕微鏡によって分析した。この検出法はより感受性が高く、そして対照細胞においてさえ、LDL-Rの存在を示した。半定量的分析(いくつかの異なる視野で蛍光ドットの数を比較する)に基づいて、SCA-744は、濃度依存方式で、LDL-Rのレベルを有意に増加させた(図6B)。
【0150】
これらのデータは、タンパク質レベルで、RNASeqに基づくLDL-Rの遺伝子発現増加を確認した。これらに基づいて、SCA-744に曝露された細胞は、これに反応して、LDL-Rの産生を増加させると結論付けることも可能である。LDL-Rは、脂質代謝に本質的に関連し、そしてコレステロール合成に関与するいくつかの他の遺伝子は、mRNAレベルで、SCA-744の存在下で示差的に発現された(表1、図10)。
【0151】
実施例5. SCA-744は、ヘパラン硫酸結合タンパク質、オステオポンチンに結合し、そしてHSと拮抗する
どちらも陰性荷電硫酸化炭水化物である(図8に示す)ヘパラン硫酸(HS)へのSCA-744の化学的類似性、およびどちらもヘパラン硫酸結合タンパク質を伴う(Xu & Esko, Annual Review of Biochemistry 2014, 83(1), pp.129-157)ヘッジホッグシグナル伝達によって制御されるかまたは炎症促進性シグナル伝達に関与する脂質代謝遺伝子に対するSCA-744の調節効果(表1、図10、実施例2および4)に基づいて、SCA-744が、HS模倣によって、細胞代謝に対する多面的効果を発揮するという仮説を提示した。
【0152】
SCA-744の予測されるヘパラン硫酸模倣活性を検証するため、物理的相互作用を、細胞外マトリックス(ECM)の構成要素であるプロトタイプHS結合タンパク質、オステオポンチン(OPN)で探査した(probed)。この目的に向け、NMR分光法を用いて、タンパク質主鎖に沿って相互作用を直接探査し、そして相互作用部位の位置をマッピングした。実験戦略は以下の通りであった:まず、よく確立された分子生物学テクノロジー技術にしたがって、15N標識OPNを調製した。個々の残基位を、いわゆる15N-H異核種単一量子コヒーレンス(HSQC)分光法によって直接監視し、ここで、二次元(2D)周波数スペクトルの個々の交差ピークは、タンパク質の個々の残基位(アミノ酸)に対応する。リガンド結合は、結合部位に位置する残基の化学環境を変化させ、そしてHSQCスペクトルの変化を導く。シグナル割り当てが利用可能であるため、リガンド結合によって影響を受けている残基位は、タンパク質のアポ(リガンド不含)およびリガンド結合状態のHSQCスペクトルを比較することによって、容易に同定可能である(図7A)。リガンド不含およびリガンド結合HSQCスペクトルの検査によって、OPNへのSCA-744結合の明確な証明が提供された。残基位の関数として化学シフト変化(リガンド結合によって誘導される)を分析することが非常に好適である(図7B、C)。最大化学シフト変化を示す残基は、典型的には、結合界面の一部である。HSおよびSCA-744はどちらも、重複する結合部位を示すことが明らかに見られうる(同じ残基セグメントが結合プロセスによって影響を受ける)。したがって、SCA-744およびHSは、同じリガンド相互作用部位を共有し、そしてしたがって、結合に関して競合すると結論付けられうる。
【0153】
これらのデータおよび遺伝子発現パターンに基づいて、SCA-744は、化学的類似性に基づいてヘパラン硫酸を模倣することが見出され、そしてヘパラン硫酸相互作用分子を通じて、細胞外空間からの経路修飾因子として作用する(図9)。このモデルにしたがって、SCA-744は、多数のECMタンパク質、例えばヘッジホッグシグナル伝達経路のメンバー、線維芽細胞増殖因子(FGF)および線維芽細胞増殖因子細胞外受容体(FGFR)相互作用、サイトカインおよびケモカインによるシグナル伝達をターゲティングし、炎症促進反応の減少を生じる。
【0154】
実施例6. 作用様式および標準アッセイを用いた化合物の選択
ヘパラン硫酸(HS)模倣体として作用するSCA-744
HS結合タンパク質との拮抗:上述のように、SCA-744は、HS結合タンパク質のオステオポンチンと相互作用し、そしてHSおよびSCA-744結合部位は共有される。競合拮抗はNMRに基づく測定によって立証される。細胞シグナル伝達に関与するいくつかの他のHS結合タンパク質を試験する(例えばヘッジホッグシグナル伝達に関与するもの)。
【0155】
SCA-744仲介効果とHSの干渉:
SCA-744は、in vitroアッセイにおいて、LPSによって誘導されるサイトカイン産生を有意に減少させ、そして抗酸化酵素を誘導することが示された。HSとの同時インキュベーションを用いて、HSがSCA-744の効果を減少させるかどうかを試験する。HSは、商業的に入手可能なポリマー糖であるが、異なる調製物のポリマーの長さは非常に異なる。HS下位種(短鎖、中鎖および長鎖)を精製し、そしてその効果を個々に試験する。小分子量ヘパリン(別の硫酸化ポリマー性炭水化物)は、抗炎症効果を有すると報告されたが、高分子量型はこうした効果を持たなかった。これもまた、平行して試験する。
【0156】
炎症促進性シグナル伝達に対する効果
NF-κBレポーター細胞株を用いて、SCA-744が炎症促進性反応を遮断する強度および選択性を測定する(THP1-LuciaTM細胞、NF-κBシグナル伝達経路を監視するために特に設計される)。SCA-744によるNF-κB活性の調節を機械的に監視する。NF-κB活性化は、古典的(またはカノニカル)および代替NF-κBシグナル伝達経路として知られる、2つの主なシグナル伝達経路に依存する。細胞表面受容体とSCA-744の結合に反応した抗炎症キナーゼシグナル伝達ネットワークに関与するシグナル伝達経路を理解するため、KINOMEscanアッセイを行う。このスクリーニングプラットフォームは、新規活性部位特異的競合結合アッセイを使用して、化合物および450を超えるキナーゼの間の相互作用を測定する。
【0157】
抗酸化反応
SCA-744は、反応性酸素種(ROS)の除去に関与するいくつかの遺伝子の発現を誘導することによって、細胞培養において、抗酸化特性を示した。NQO1は、核因子(赤血球由来2)様2(NRF2)によって制御される、主要な下流抗酸化遺伝子の1つである。NRF2は、遍在性に発現され、そして必須なロイシンジッパー転写因子である。NRF2は、抗酸化反応要素(ARE)への結合に際して、細胞保護、ならびに有害な内因性および生体異物物質の解毒およびクリアランスにおいて、非常に重要な役割を果たすタンパク質をコードする多様な遺伝子の発現を制御する。ヒトNRF2受容体細胞は、タンデム抗酸化反応要素(ARE)を含有するプロモーターに機能的に連結するルシフェラーゼレポーター遺伝子を含む安定細胞株である。したがって、処理されたレポーター細胞におけるルシフェラーゼ発現の変化を定量化すると、NRF2活性の変化の高感度読み取り測定値が提供される。既知のNRF2アゴニストを陽性対照として用いる。
【0158】
ヘッジホッグシグナル伝達
細胞培養におけるRNAseqトランスクリプトーム薬剤プロファイリングは、脂質/コレステロール代謝を制御する主要経路である、ヘッジホッグ(Hh)シグナル伝達経路に関与する遺伝子の上方制御を示した。Hhシグナル伝達に対するSCA-744の効果を研究するため、既知のHhアゴニストおよびアンタゴニストを用いて、主要陰性制御因子INSG1および転写制御因子SREBF2、ならびにまた、コレステロールのホメオスタシスに関与する遺伝子、例えばヒドロキシメチルグルタリル補酵素Aレダクターゼ(HMGCR)、7-デヒドロコレステロールレダクターゼ(DHCR7)、低密度リポタンパク質受容体(LDLR)、およびATP結合カセット輸送体(ABCA1)の活性/発現を測定する。
【0159】
SCA-744およびコルチゾール誘導性遺伝子発現の比較
RNAseqトランスクリプトーム薬剤プロファイリングは、薬剤刺激に際しての遺伝子制御を研究するために適したツールである。示差遺伝子発現に基づく経路レベルでの類似性および相違を分析するため、SCA-744およびコルチゾールの間の上述のインシリコアプローチによって予測される類似性および相違に基づいて、コルチゾールRNAseq薬剤トランスクリプトームを生成する。
【0160】
BioMapTM DiscoverX(Th1炎症駆動性マクロファージ活性化、慢性炎症に関与するB細胞のT細胞依存性活性化)を用いて、SCA-744の表現型プロファイリングを行って、SCA-744の存在下での炎症促進性タンパク質バイオマーカーの変化を監視し、そしてコルチゾールで見られた変化と比較する。
【0161】
グルコース代謝:抗炎症性コルチコステロイドの主要な限界の1つは、その糖尿病誘発性副作用である。上述の知見は、SCA-744およびコルチゾールの間に、グルコースレベルおよび転写レベルのインスリン代謝で、明らかな相違があることを示唆する。これらの相違は、より高い解像度で確認される。
【0162】
i. ウェスタンブロッティングによって、コルチゾールに比較した、SCA-744の存在下でのインスリンおよびサイトカインに反応した、Akt1およびIRS1のリン酸化を研究し;そして
ii. 機能アッセイを行って、ハイスループットアッセイにおいて、高感度検出のために特に設計された蛍光グルコース類似体である2-NBDGを用いて、グルコースの細胞取り込みを監視する。FACSおよびハイコンテンツ顕微鏡を用いて、SCA-744およびコルチゾールの存在下での、インスリンに反応した2-NBDG取り込みの相違を定量化する。
【0163】
実施例7. ヒト疾患関連モデルにおけるSCA-744の試験
乾癬
MatTek Corp.は、乾癬に関するヒト皮膚同等(HSE)3D組織モデルを開発している。該モデルは、乾癬患者由来の線維芽細胞および自社(proprietary)サイトカイン混合物を用いて、乾癬を誘導する。このモデルを用いて、異なる用量で、炎症性サイトカイン反応を減少させる際のカリックスアレーンの有効性を評価することができる。潜在的に、該モデルには、免疫細胞を補充してもよい。
【0164】
乾癬は、厳密にはヒト疾患であるが、該疾患に対する候補を試験するため、イミキモド(IMQ)誘導性乾癬モデルが成功裡に用いられてきている(Horvathら; Scientific Reports 2019, 9, Article number:3685])。IMQは、マウスにおいて、尋常性乾癬に似た炎症性皮膚病変を迅速に誘導する生得的TLR7/8リガンドであり、そしてIL-23/IL-17サイトカイン軸を通じて作用する(van der Fitsら; Journal of Immunology 2009, 182, pp.5836-584)。このモデルを用いて、全身投与したカリックスアレーンの、臨床徴候および病変中で誘導される組織病理学的変化に対する有効性を評価し、同時に、皮膚サイトカイン反応における変化を監視してもよい。リード候補を、異なる用量で、全身投与および局所投与で試験する。
【0165】
関節炎:
完全フロイントアジュバント(CFA)誘導性慢性関節炎マウスモデルを使用して、カリックスアレーンが関節炎症を減少させる有効性を試験することができる(Horvathら; Arthritis Research and Therapy, 2016; 18: 6.)。このモデルにおいて、関節炎は、CFAの足底内および反復皮下注射によって誘導される。カリックスアレーンを全身にまたは経口で毎日投与してもよい。臨床徴候(例えば踵浮腫)、局所炎症徴候(例えば血漿漏洩)、関節の組織病理的分析および関節中のサイトカインレベルを3週間監視する。
【0166】
ラットにおけるコラーゲン誘導性関節リウマチモデルで、リード候補分子をさらに試験してもよい。CFA関節炎とは異なり、このモデルでは、踵に制限されず、関節の一般的な炎症がある。ウシ・コラーゲンの2回の続く皮内注射によって、関節炎を誘導する。療法設定で(すなわち関節炎発展後)、全身でまたは経口のいずれかで、リード化合物を投与してもよい。陽性対照として、メトトレキセート(RAに対して、クリニックで用いられる免疫抑制剤)を用いて、有効性を比較してもよい。炎症の臨床徴候(関節腫脹および非特異的臨床徴候)および生化学的パラメータを、処置動物およびプラセボ対照動物において評価してもよい。さらに、組織病理検査用に肢を保存してもよく、こうした検査は、他の読み取り値が、処置動物対対照動物の間で有意な相違を示さない場合にのみ行われる。
【0167】
喘息:
喘息患者は、健康な個体に比較して、改変された基底上皮サイトカインレベルを有することが示されてきている(Freishtatら; American Journal of Respiratory Cell and Molecular Biology 2011, 44, pp.863-869)。喘息患者由来の細胞を用いた3D上皮肺組織モデルによって、抗喘息化合物が正常サイトカインレベルを回復する際の有効性を試験することが可能になる。試験の読み取り値を、クリニックで用いられる抗炎症薬剤(コルチコステロイドおよびステロイド類似体)で検証し(Damskerら; PLoS One 2013, 8(5):e63871)、そしてカリックスアレーンを試験する際の陽性対照として用いてもよい。マウスにおけるオボアルブミン(OVA)誘導性肺炎症モデルを用いて、喘息に対するカリックスアレーンの有効性を評価してもよい(Elekesら; European Journal of Pharmacology 2008, 578, pp.313-322)。このモデルにおいて、動物をi.p.投与OVAでプライミングした後、気道反応性亢進を鼻内投与OVAで誘導する。カリックスアレーン、プレドニゾンまたはビヒクルを、鼻内OVA投与の1日前および投与全体で、マウスに全身投与する。全身プレチスモグラフによって気道反応性を評価し、そして肺中の炎症変化を、組織病理検査で検出する。異なる投与経路(例えば経口)、措置(予防、療法)および用量で、喘息に対して選択したリード候補を試験してもよい。
【0168】
ステロイド様副作用研究:
コルチコステロイドの長期使用は、しばしば、有効性ばかりでなく使用すらも制限する、重度の副作用と関連する。こうした副作用は、急性および慢性のインスリン耐性増加(最終的には糖尿病につながる)、骨代謝減少(骨脱ミネラル化および骨折または小児における成長遅延につながる)、抑うつおよび免疫抑制である。免疫毒性および成長関連副作用は、若年マウスを長期間ステロイドで処置する(15週モデル)と検出されうる。カリックスアレーンをこの長期投与モデルにおいて試験し、そしてデキサメタゾンのものと、成長遅延(全体長および脛骨長)および免疫毒性(脾臓サイズ)副作用を比較してもよい。
【0169】
ヘパラン硫酸模倣活性
1. NMR:NMR分光法を用いて、HS結合タンパク質オステオポンチン(OPN)との物理的相互作用を測定して、相互作用を直接探査し、そしてタンパク質中の相互作用部位の位置をマッピングする。15N標識OPNを用い、ここで、個々の残基位を、いわゆる15N-H異核種単一量子コヒーレンス(HSQC)分光法によって直接監視し、ここで、二次元(2D)周波数スペクトルの個々の交差ピークは、タンパク質の個々の残基位(アミノ酸)に対応する。リガンド結合は、結合部位に位置する残基の化学環境を変化させ、そしてHSQCスペクトルの変化を導く。リガンド不含およびリガンド結合HSQCスペクトルを比較すると、OPNへのSCA-744結合の明確な証明が提供される。最大化学シフト変化を示す残基は、典型的には、結合界面の一部である。重複結合部位は、結合に関する競合の指標である。
【0170】
2. Biacoreまたはバイオレイヤー干渉法(BLI)-例:オステオポンチンまたは他のHS結合タンパク質をセンサーチップ上にコーティングし(例えば、ストレプトアビジンコーティングチップ上で、ビオチン標識組換えタンパク質を用いる)、HSへの結合は容易に検出され、SCA-744の添加は、結合シグナルを減少させるかまたは除去すると予期される。
【0171】
3. アフィニティクロマトグラフィ-例:オステオポンチンまたは他のHS結合タンパク質をクロマトグラフィマトリックス上に固定し(例えばストレプトアビジンコーティングクロマトグラフィビーズのビオチン標識タンパク質)、HSを添加し、カラムを洗浄した後、カラムからのSCA-744によるHS溶出を検出する。
【0172】
実施例8: SCA-744は、急性肺炎症のネズミモデルにおいて、顕著な抗炎症効果を有する
方法:
8~12週齢のメスC57BL/6Jマウスを4群(5~7動物/群)の実験で用いた:1)PBS-陰性対照群、2)LSのみ、3)LPS+SCA-744および4)LPS+デキサメタゾン。
【0173】
エンドトキシン(リポ多糖:LPS)誘導性急性肺炎症モデル
ケタミン(120mg/kg ip.;Calypsol、Gedeon Richter Plc.、ハンガリー・ブダペスト)およびキシラジン(6mg/kg ip.;Sedaxylan、Eurovet Animal Health B.V.、オランダ・ブラーデル)麻酔下、60μlの無菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に溶解した100μg LPS(大腸菌(Escherichia coli)O111:B4;Sigma Aldrich、米国ミズーリ州セントルイス)の気管内投与によって、急性肺炎症を誘導した。投与24時間後、呼吸機能パラメータを評価し、そして組織病理学的評価のため、肺試料を採取した。
【0174】
処置および実験設計
SCA-744(60mg/kg)およびビヒクルを、LPSの気管内投与の24時間前、12時間前、20分前、および12時間後に腹腔内(i.p.)注射した。長期作用ステロイド・デキサメタゾン(5mg/kg;排除T1/2:36~54時間)をLPS処置の24時間前および20分前に、ip.投与した。LPS投与の24時間後、呼吸機能測定を行った。
【0175】
呼吸機能測定
Buxco FinePoint非侵襲性気道力学(NAM)二重チャンバープレチスモグラフィ(DSI Harvard Bioscience Inc.)を用いて、麻酔を使用せず、覚醒した拘束動物において、換気および気管支収縮パラメータを監視した。プレチスモグラフは、鼻および胸部流を独立に測定する。第-2日(-42時間)および-1日(-18時間)に、2x20分間、動物を順化した後、LPS投与の24時間後に、プレチスモグラフィチャンバーに動物を入れた。10分間の馴化期間後、頻度、1回換気量、分時換気量、呼気/吸気時間、ピーク呼気/吸気流、および気管支収縮の測定値である特異的気道耐性などの、ベースライン肺機能を評価した。
【0176】
終結、組織採取
呼吸機能評価後、動物を麻酔し、そして組織病理学的評価のため、その肺を採取した。
組織病理学的評価
切除した肺組織試料をホルマリン固定し(6%)、そしてパラフィン中に包埋し、5μm切片を切り、そして組織学的分析のため、ヘマトキシリン-エオジンで染色した。各動物由来の肺の3つの深度からの2つの視野中、0~3の範囲の半定量的スケールで、血管周囲/気管支周囲浮腫、好中球、マクロファージおよびリンパ球炎症細胞浸潤、ならびに杯細胞異形成を評価するため、気道炎症評価をブラインド方式で行った。
【0177】
結果:
LPSで処置したマウスは、有意に改変された呼吸機能、例えば呼吸速度(分あたりの呼吸数、(f)BPM)増加、機能的残気量(FRC)増加、呼気時間(Te)減少、Teに対するPEF(Rpef)の増加、鼻および胸部呼吸の間の時間(Kataからのより正確な説明を加える)増加を有した。SCA-744を投与された動物において、対照動物(LPSで処置しない)において測定したものと比較して、LPS処置は、これらのパラメータに統計的に有意な改変を誘導しなかった(図11)。デキサメタゾンでの処置は、いくつかの陽性効果を有するが、パラメータは、対照動物に比較して、なお有意に改変された。
【0178】
組織の組織学的検査は、SCA-744処置が、血管周囲浮腫、ならびに好中球およびマクロファージによる血管周囲/気管支周囲浸潤を防止するかまたは非常に減少させることを明らかにした(図12)。染色した組織の半定量的分析によって、SCA-744処置肺試料は、3つのパラメータおよび複合病理スコアのいずれにおいても、未処置対照とは統計的に有意に異ならず、一方、LPS+ビヒクル処置試料は未処置対照と有意に異なり、SCA-744が炎症関連改変を防止することが立証された(図13)。デキサメタゾン処置群において、これらの炎症パラメータは減少する傾向があったが、顆粒球数減少を例外として、統計的有意性には到達しなかった。
【0179】
実施例9: 慢性関節炎マウスモデルにおける、SCA-744の有益な効果
方法
完全フロイントアジュバント(CFA)誘導性慢性関節炎モデル
20μlの完全フロイントアジュバント(CFA、パラフィンオイル中に懸濁された熱殺菌マイコバクテリウム、1mg/ml;Sigma Aldrich、米国ミズーリ州セントルイス)を右後足内に足底内(i.pl.)注射し、そして20μlを尾の付け根に皮下(s.c.)注射することによって、慢性関節炎を誘導した。全身効果を増強してヒトの状態を模倣するため、さらなるs.c.注射(20μl)を翌日(第1日)、尾の付け根に投与した。
【0180】
処置および実験設計
SCA-744(60mg/kg)または参照化合物デキサメタゾン(60mg/kg)、ならびにSCA-744のビヒクルを、CFA投与直前の第0日に始まって、そして21日間の実験期間全体で、毎日、i.p.注射した。
【0181】
後足の機械侵害受容的(mechanonociceptive)閾値の測定
力学的足底知覚計(DPA、Ugo Basile 37400、イタリア・コメーリオ)を後足の足底表面の機械的感受性の評価に用いた。マウスをワイヤグリッド床のプレキシガラスの箱に入れ、次いで、順化後、動物が足を引っ込めるまで、増加する上方への力(4s以内に到達する10gが最大力)で持ち上げて、まっすぐな金属フィラメントを足底表面に触れさせた。機械的感受性過敏を、最初の(CFA投与前の)引っ込め閾値の減少パーセントとして表す。
【0182】
足体積の測定
体積測定法(Ugo Basileプレチスモメーター7140、イタリア・コメーリオ)によって足体積を決定し、そして立方センチメートル(cm3)で表し、次いで浮腫を最初の体積の増加パーセントとして表す。
【0183】
好中球ミエロペルオキシダーゼ活性のin vivo生物発光画像化
好中球ミエロペルオキシダーゼ(MPO)由来反応性酸素種(ROS)産生および酵素活性を、ルミノール由来生物発光で評価した。無菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS、30mg/mL)に溶解したルミノール(5-アミノ-2,3-ジヒドロ-1,4-フタラジン-ジオン)ナトリウム塩(150mg/kg、Gold Biotechnology、米国ミズーリ州オリベット)を、麻酔したマウスにi.p.注射する。ケタミン(120mg/kg ip.;Calypsol、Gedeon Richter Plc.、ハンガリー・ブダペスト)およびキシラジン(6mg/kg ip.;Sedaxylan、Eurovet Animal Health B.V.、オランダ・ブラーデル)でマウスを麻酔した。IVIS Lumina III(PerkinElmer、米国ウォルサム;120s獲得、ビニング=8、F/Stop=1)を用いて、注射10分後に生物発光画像化を行った。同一関心領域(ROI)を踵の周囲に適用し、そして発光を総放射輝度(総光子束/s)として表した。
【0184】
組織学
切除した脛骨足根骨関節を4%緩衝ホルムアルデヒド中で固定し、脱灰し、そしてパラフィン包埋して、切片(5μm)にスライスし、そしてヘマトキシリンおよびエオジンで染色する。1)乳輪組織内への単核細胞浸潤、2)滑膜過形成、3)軟骨破壊、4)骨侵食にしたがって、0~3のスケールを用いて、ブラインド化された観察者によって、関節炎変化をスコア化する。
【0185】
結果:
足領域中のCFA誘導性炎症の効果を踵関節中で検出することができ、そして骨侵食、軟骨破壊、滑膜過形成および単核細胞浸潤として表す(図14A)。関節炎症プロセスの初期段階では、滑膜過形成が有意な知見である。CFA注射によって増加する滑膜過形成スコアは、同時にSCA-744で処置したマウスにおいて有意により低く、そしてこの効果は、デキサメタゾン処置に際して観察されるものに匹敵した(図14B)。
【0186】
これらのデータは、SCA-744が、関節炎治療において一般的に用いられる薬剤であるデキサメタゾンと同様に、滑膜組織病理の防止を導く有益な効果を有することを示唆する。
【0187】
実施例10. 例示的化合物の合成経路
カリックスアレーンの化学合成は、3+1フラグメント縮合戦略に基づき、そしてよく確立された化学合成法にしたがう(Gutsche, CD Calixarenes Revisited in “Monographs in Supramolecular Chemistry”, Stoddard, FJ監修, Royal Society of Chemistry (pg-38-47))。三環系を含有するフラグメントは、メチレン(-CH-)リンカーを通じて連結された-OHおよびt-ブチル置換基を所持する。末端(隣接)芳香環は、単一フラグメントへのカップリング反応に用いられる反応基を含有する。単一フラグメントは、一般式に記載される多様な置換または非置換アリール(ヘテロアリールも)系、ならびに三環フラグメントにカップリングするための2つの反応性官能基を含む。例えば、-CH-Brは、25~30%収率でカリックス[4]アレーンを生じる、カップリング反応の効率的な官能基と記載されてきている(TiCl、ジオキサン、80~120時間環流)(Gutsche, CD Calixarenes Revisited in “Monographs in Supramolecular Chemistry”, Stoddard, FJ監修, Royal Society of Chemistry(pg-38-47))。
【0188】
カリックスアレーン化合物の合成(図15
2,6-ビス(ヒドロキシメチル)-4-tert-ブチルフェノール2
水性NaOH溶液(27mL HO中の2.7g)を4-tert-ブチルフェノール1(10g)に添加した。水性ホルムアルデヒド溶液(33%;10mL)を添加した後、アルゴン大気下、40℃で3日間、混合物を攪拌した。鹹水(100mL)を添加した後、沈殿したナトリウム塩をろ過し、そして鹹水(30mL)で洗浄した。次いで、この固形物を35mLの水に再溶解して、そして希HCl(1M)を用いて、生じた溶液をpH=1に酸性化した。次いで、混合物を、CHCl(3x30mL)で抽出し、そして合わせた有機相を、続いて水(50mL)で洗浄し、そしてMgSO上で乾燥させた。溶媒の蒸発は、油性残渣を生じ、この残渣を、溶出剤としてヘプタンおよび酢酸エチル(4:3)の混合物を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィを通じて精製した。産物含有分画を、UVランプ下、TLC上で同定した。産物分画を合わせ、そして溶媒を蒸発させて、白色固体としての3.4gの化合物2を得た。
【0189】
【化6】
【0190】
2,6-ビス(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルベンジル)-4-tert-ブチル-フェノール3
4-tert-ブチルフェノール1(2.8g)および2,6-ビス(ヒドロキシメチル)-4-tert-ブチルフェノール2(0.5g)の混合物を、p-トルエンスルホン酸一水和物(12mg)の存在下、乾燥トルエン(10mL)中、140℃油槽温度で一晩攪拌した。反応混合物を室温にし、そして減圧下でトルエンを除去した。残渣油を、少量のアセトン中に再溶解し、そして溶液が濁るまで、ヘプタンを添加した。この混合物を冷蔵庫中で保存する間に産物は沈殿した。化合物3を濾過によって単離し、ヘプタンで洗浄し、そして真空中で乾燥させて、415mgを得た。
【0191】
【化7】
【0192】
2,6-ビス(ブロモメチル)-4-メチルフェノール5
パラホルムアルデヒド(1.69g)をHBr/酢酸(33%、15mL)中に溶解した。この混合物を氷槽中で冷却した後、滴下漏斗を用いて、クレゾール4(2.7g)を1滴ずつ添加した。0℃でさらに1時間、そして次いで、室温で1.5時間、攪拌を続けた。氷/水混合物内に混合物を注ぎ、そしてCHCl(3x30mL)で抽出した。合わせた有機層を水(2x20mL)で洗浄し、そしてMgSO上で乾燥させた。減圧下での溶媒の蒸発は、油性残渣を生じ、これを再び、少量のCHClに溶解した。ヘプタンを添加することによって産物の沈殿を誘発し、そして混合物を4℃で保存することによって沈殿を完了させた。固体産物をろ過し、そして真空中で乾燥させて、1.11gの化合物5を得た。
【0193】
【化8】
【0194】
シクロ-(2-ヒドロキシ-5-メチル-1,3-フェニレン)メチレン-トリス[(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチル-1,3-フェニレン)メチレン]6
2,6-ビス(ブロモメチル)-4-メチルフェノール5(1.5g)および2,6-ビス(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルベンジル)-4-tert-ブチル-フェノール3(2.37g)を酢酸(300mL)中に溶解し、そして滴下漏斗を用い、118℃の温度、6時間以内で、酢酸(300mL)にゆっくりと添加した。混合物を同じ温度でさらに48時間攪拌した後、減圧下で溶媒を除去した。2つの連続シリカゲルクロマトグラフィカラム(溶出剤:ヘプタン/酢酸エチル(4:6)およびヘプタン/トルエン(3:1))を用いて残渣を精製した。KMnO染色を用いて産物含有分画を同定し、そして真空中で蒸発させて400mgの産物6を得た。
【0195】
【化9】
【0196】
シクロー(2-ヒドロキシ-5-メチル-1,3-フェニレン)メチレン-トリス[(フェニレン)メチレン]7
化合物6(248mg)、フェノール(220mg)およびAlCl(400mg)の混合物を、乾燥トルエン(6mL)中に溶解し、そしてアルゴン大気下、60℃で5時間攪拌した。反応を室温にし、そして3%HCl(5mL)を添加した後、攪拌を30分間続けた。溶液をトルエン(3x30mL)で抽出し、そして合わせたトルエン相をMgSO上で乾燥させた。溶媒を真空中で蒸発させ、そして油性残渣にメタノール(2mL)を添加することによって、産物を沈殿させた。生じた固体を濾過して、そしてCHClおよびメタノールの混合物から再結晶化した。該反応は、白色固体として化合物7の80mgを生じた。
【0197】
【化10】
【0198】
シクロ-(2-ヒドロキシ-5-メチル-1,3-フェニレン)メチレン-トリス[(2-ヒドロキシ-5-スルホナト-1,3-フェニレン)メチレン]8
化合物7(80mg)を濃硫酸(0.7mL)中に溶解し、そして80℃で4時間攪拌した。熱い溶液を氷槽中の2.5mLの水に一滴ずつ添加した。次いで、鹹水(2.5mL)を添加し、そして混合物を加熱して、10分間還流した。減圧下で溶媒を除去し、そして残渣固体にメタノール(10mL)を添加した。この不均一な混合物を超音波槽中で3分間照射し、次いで2500rpmで3分間遠心分離し、そして上清を分離した。メタノール添加、超音波処理および遠心分離の同じ処置をさらに2回反復した。合わせた上清から溶媒を蒸発させ、白色固体化合物として、100mgの化合物8を得た。
【0199】
【化11】
【0200】
参考文献:
【0201】
【化12】
【0202】
分析
化学合成の成功結果を、生じたスルホカリックスアレーン誘導体のNMRおよび質量分析によってチェックした。NMR分光分析は、Hおよび13C NMR分光法に頼った。個々のプロトンの化学シフトをテキスト中に列挙する。陰性および陽性イオンモードの両方で、質量分析実験を得た。期待される分子式、C292613に基づいて、678,0536ダルトンの正確な質量が予期されるはずである。
【0203】
スルホカリックスアレーン変異体SCA-754に関して質量分析結果を得て、陰性および陽性イオンモードスペクトルの両方を示し、そしてm/zピークを計算した。陰性イオンモードでは、単一のナトリウム付加物のみが観察される一方、陽性モードでは、4つの付加物フラグメントが解像可能であった。実験MSデータによって、化合物の化学的同一性が明らかに示され、そして望ましい変異体分子の完成が成功したことが明確に立証された。
【0204】
質量スペクトル
【0205】
【化13】
【0206】
実施例11 SCA-744の代謝分析
ヒト神経芽細胞腫細胞の代謝プロファイリング
ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞を分化させ、そして500μM SCA-744で24時間処理した。MeOH:ACN:H2O(2:2:1、v/v)溶媒混合物を用いて、細胞ペレットを抽出した。高分解度質量分析を使用して、VBCFメタボロミック装置(www.vbcf.ac.at)で、非ターゲティング代謝プロファイリングを行った。
【0207】
重要な代謝物の同定
Compound Discoverソフトウェア(バージョン3.1)で、非ターゲティングメタボロミックデータを分析した。Vienna Biocenterコア施設の内部データベースを通じて、最初のセットの代謝物を分析した。化合物の測定保持時間を、以前測定された標準の保持時間に比較した。MS2スペクトルが利用可能である場合、これもまた、同定のため考慮に入れた。第二のセットの代謝物にmzCloudで注釈をつけた(少なくとも75%マッチ)。同定は、測定分子量(5ppm許容度)およびMS2スペクトルのmzCloudデータベース比較に基づいた。分子量マッチ(最大質量許容度5ppm)を通じたChemSpider同定(CSID)によって、第三のセットの代謝物に注釈をつけた。生物学的および技術的(T1-T2、MS)複製物から、Compound Discoverソフトウェアによって、P値を計算した。さらなる注釈のため、KEGG、HMDB、BioCyc、MetabolikaおよびPubChemデータベースを用いた。
【0208】
化学基分類およびエンリッチメント分析
p値および対応する倍変化を伴う、<0.05の偽発見率(FDR)の代謝物を抽出し、そして化学的および代謝的ネットワークエンリッチメント分析に供した。生化学的経路割り当てとは独立であり、むしろタニモト下位構造類似性係数および医学件名標目表(medical subject headings)オントロジーを利用して、別個の化学クラス内の代謝物の重複しないクラスターを生じる、ChemRichを用いて、化学的類似性に基づくエンリッチメント分析を行った。Kolmogov-Smirnov検定によって、統計検定を決定し、そして<0.05のFDR補正P値は有意と見なされた。
【0209】
代謝分析は、SCA-744が、定量可能な薬理学的反応、特に、脂質代謝改変、解糖下方制御、およびNADH、ATPの減少の形の反応を示すことを示す。これは、脂肪細胞-炎症軸がSCA-744によって影響を受ける、一体化された解釈を導く。この分析は、さらなる反応、例えばヌクレオチドおよびアミノ酸生合成の減少を示す。
【0210】
非対単変数分析によって、対照細胞および処理細胞の間の相対代謝物存在量の比較を決定した。計算したP値を0.05のFDRに基づいて調整し、そして対数倍変化(logFC)分析によってフィルタリングした(表3)。例示的な目的のため、volcanoプロット上で、logFC>1 logFC<-2の代謝物に注釈をつける。総数261の注釈付き代謝物はFDR<0.05であることが見出された。絶対logFC>1である総数74はSCA-744処理群において有意に異なり;11代謝物の増加(表3)および63の代謝物の減少(選択した代謝物を表4に示す)に相当した。
【0211】
上方制御:
logFC>1より大きい変化および<0.05のFDR補正P値を有する代謝物のみを、表3に含めた(図10)。大部分の上方制御代謝物はリゾホスファチジル(LPI)である。LPIは、炎症および神経障害性疼痛の両方の治療に療法的潜在能力を有する、その受容体GPR55を含めて、いくつかの刊行物において、抗炎症効果を有することが示されている2、3。LPIは、いくつかの細胞種において、細胞増殖、分化および運動性などの多様な機能に影響を及ぼしうる。LPIの機構は、ヒト肺動脈において弛緩を誘導した。LPIは、異なる生理学的および病理学的背景において、重要な役割を果たし、これには、代謝およびグルコースホメオスタシスにおける役割が含まれる。エンリッチメント分析は、代替脂質代謝およびイノシトール上方制御を裏付ける(表3)。IL-6(SCA-744によって下方制御される)は、ミオイノシトールの主なターゲットである。イノシトールは抗炎症効果を有する。
【0212】
上位の11の上方制御される代謝物にはまた、非常に有意に上方制御されるヒポキサンチンおよびイノシンもまた含まれる。イノシンおよびヒポキサンチンは、抗酸化および抗炎症効果を有することが示された。例えば、イノシンは、炎症促進性サイトカインの過剰産生を防ぐ能力を有する一方、保護性のIL-10の産生を増進させることも可能である
【0213】
表3は、さらなる有意に上方制御される代謝物、ならびに細胞抗炎症および抗酸化反応、ならびに脂質代謝に関連する参考文献を示す。
下方制御:
63の代謝物が、logFC<-1で非常に有意に下方制御されるため、表4(図10)は、選択された代謝物のみを示す。
【0214】
エンリッチメント分析は、代替脂質代謝、ならびに糖酸および糖リン酸の下方制御を裏付ける。これに関連して、図17は、解糖に関与する主な代謝物を示す。炎症の代謝制御において、解糖は重要な役割を果たす。免疫細胞は、細胞エネルギーおよび生体分子を供給する異なる代謝プログラムを発展させており、次いで、代謝状態の変化および困難な代謝状態に対処することを可能にしている。本発明者らの上位の下方制御代謝物には、ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)が含まれる。DHAPは、脂質生合成および解糖における非常に重要な中間代謝物である。
【0215】
さらなる代謝物が、ペントースリン酸経路(PPP)に含まれ、該経路は、炎症、グルコース、および血管細胞損傷に非常に重要な役割を果たす。IL-β(SCA-744において下方制御される)がPPPを活性化することが示されている。次に、これは、NADPHオキシダーゼの過剰活性化を導く。PPPの過剰活性化は、血管損傷および酸化ストレスの非常に重要な機構である。SCA-744は、解糖およびNADH、ならびにATPを有意に下方制御した。
【0216】
グリセロリン脂質およびリゾリン脂質を含む脂質代謝の改変は、135の代謝物のエンリッチメント分析によって裏付けられる(FDR<0.05、絶対logFC<0.5)。261の代謝物(FDR<0.05、図2)を含むエンリッチメント分析は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、およびプラスミノーゲンなどのクラスのさらなる代謝物が改変され、大部分は上方制御されることを示す。不飽和リゾリン脂質、ならびに不飽和脂肪酸(FA)はこの分析において、下方制御される。不飽和FAは、炎症性シグナル伝達分子、例えばロイコトリエンの前駆体であるため、これは特に興味深い。低い度合いの脂肪酸不飽和もまた、より低い脂質過酸化を導く。炎症において、特に、アテローム性動脈硬化症の病因形成において、リポタンパク質過酸化は、非常に重要な役割を果たす
【0217】
エンリッチメント分析のさらなる知見は、アミノ酸代謝が減少することである。アミノ酸代謝は、mTORによって制御され、続いてこれは、グリセロ脂質代謝およびオートファジーならびにタンパク質ホメオスタシスに関連する。
【0218】
オートファジーは、ストレス条件;栄養飢餓、タンパク質ホメオスタシスおよび病原体感染下で活性化され、そして癌および神経変性性疾患を含む、多様な病理学的状態において、制御解除される。一般的に、ROSはオートファジーを誘導し、そしてオートファジーは次に、酸化損傷を減少させるように働くことが認められている18
【0219】
これに関連して、ストレスの多数の型が、オートファジーを活性化する。タンパク質、脂質、炭水化物および核酸の分解は、他の代謝物の中でもアミノ酸、脂肪酸を細胞質に遊離させて、再利用のため内部栄養素を提供する。近年、神経変性性疾患および腫瘍抑制におけるオートファジーのありうる役割、ならびに炎症および抗酸化ストレスにおけるその役割がますます調べられてきている。
【0220】
メタボローム分析
代謝物の上方および下方制御は、SCA-744が脂肪細胞-炎症軸に影響を及ぼし、そして抗炎症および抗酸化効果、ならびに改変された脂質代謝を有することを裏付ける。加えて、チミンおよびアデニンヌクレオチド、ならびにジペプチドおよびアミノ酸が下方制御される。SCA-744は、ヌクレオチドおよびアミノ酸生合成に影響を及ぼす。
【0221】
分子機能に関連する遺伝子オントロジー分析
分子機能に関連する遺伝子オントロジー分析は、カルシウム、細胞外マトリックス、グリコサミノグリカン、イオウ化合物、およびヘパリン結合の有意な機能を示す。図18
【0222】
実施例12: 哺乳動物細胞におけるSCA-744およびSCA-754の細胞傷害性
哺乳動物細胞におけるSCA-744およびSCA-754の細胞傷害性のin vitro評価。SCA-744およびSCA-754処理の72時間後、標準ATP法、CellTiter-Glo(登録商標)発光細胞生存度アッセイを用いて、細胞生存度を評価した。50%の有効濃度、EC50値を濃度-効果曲線から得た。SCA-744のEC50は2mMであり、SCA-754に関しては1mMであった。図19
【0223】
実施例13:SCA-744および変異体(SCA-754、CAL-Xとも称される)の酸化性ストレス保護
いくつかのin vivoおよびin vitro研究は、MPP+が細胞に対して酸化ストレスを発揮することを見出している22。MPP+毒性は、ドーパミン作動性ニューロンへのその取り込みに基づく。MPP+は、ミトコンドリア内に集積し、複合体-Iを阻害してATP枯渇、反応性酸素種(ROS)産生の増加、およびアポトーシス細胞死を導く23。MPP+処理、ならびにSCA-744およびCAL-Xインキュベーションの12時間後、標準的ATP法、CellTiter-Glo(登録商標)発光細胞生存度アッセイを用いて、細胞生存度を評価した。0.1~1000μMのSCA-744およびCAL-Xでの処理は、MPP+誘導性アポトーシスから、神経芽細胞腫細胞を保護した(図19C)。興味深いことに、SCA-744[1μM]に比較して、CAL-X MPP+保護は5倍、より有効であった[0.2μM]。総合すると、これらの結果によって、SCA-744およびCAL-Xが酸化ストレスによって誘導されるミトコンドリア機能不全を保護すると示唆される。図19D
【0224】
実施例14: 哺乳動物細胞における、過酸化水素H 誘導性ストレスに対するSCA-744の保護
24時間のインキュベーション時間を用いると、HELA細胞におけるSCA-744の毒性およびレスキュー効果を決定するために十分であった。50%の有効濃度、EC50値を濃度-効果曲線から得た。SCA-744のEC50は50mMの毒性H濃度に関して、200nMであった。図20
【0225】
参考文献:
【0226】
【化14】
【0227】
参考文献(表3および4)
【0228】
【化15-1】
【0229】
【化15-2】
図1
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図10-4】
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19-1】
図19-2】
図19-3】
図19-4】
図20