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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】結晶成長装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 19/04 20060101AFI20241219BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20241219BHJP
   C30B 19/10 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C30B19/04
C30B29/36 A
C30B19/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022557320
(86)(22)【出願日】2021-09-22
(86)【国際出願番号】 JP2021034873
(87)【国際公開番号】W WO2022085360
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2020176924
(32)【優先日】2020-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朱 燦
(72)【発明者】
【氏名】原田 俊太
(72)【発明者】
【氏名】宇治原 徹
(72)【発明者】
【氏名】党 一帆
(72)【発明者】
【氏名】郁 万成
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-2041370(KR,B1)
【文献】特開2017-100906(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022536(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形状を有しており、原料融液を収容可能な坩堝と、
前記坩堝の上方から前記坩堝の内部へ挿入することが可能であるとともに回転昇降可能な支持軸であって、下端に種結晶を取り付けることが可能な前記支持軸と、
前記支持軸に対して交差する方向に配置されており、前記支持軸の中心軸を中心とした円形形状を有している所定部材と、
を備え、
前記所定部材は、
第1の所定部材と、
前記第1の所定部材よりも上方側に配置されている第2の所定部材と、
を備えており、
結晶成長時において、前記所定部材が前記坩堝の上端部よりも下方側に位置している、結晶成長装置。
【請求項2】
筒形状を有しており、原料融液を収容可能な坩堝と、
前記坩堝の上方から前記坩堝の内部へ挿入することが可能であるとともに回転昇降可能な支持軸であって、下端に種結晶を取り付けることが可能な前記支持軸と、
前記支持軸に対して交差する方向に配置されており、前記支持軸の中心軸を中心とした円形形状を有している所定部材と、
前記坩堝の内壁に配置されている隔壁であって、前記坩堝の中心軸を中心とした円形の開口部を有する前記隔壁と、
を備え、
前記隔壁は、
第1の隔壁と、
前記第1の隔壁よりも上方側に配置されている第2の隔壁と、
を備えており、
前記隔壁の前記坩堝の中心軸の方向の厚さは、一定の第1厚さであり、
前記開口部の内径は前記所定部材の外径よりも大きく、
前記坩堝の中心軸は前記支持軸の中心軸と一致しており、
結晶成長時において、前記所定部材が前記坩堝の上端部よりも下方側に位置しており、前記所定部材の少なくとも一部が前記第1厚さの範囲内に位置している、結晶成長装置。
【請求項3】
筒形状を有しており、原料融液を収容可能な坩堝と、
前記坩堝の上方から前記坩堝の内部へ挿入することが可能であるとともに回転昇降可能な支持軸であって、下端に種結晶を取り付けることが可能な前記支持軸と、
前記支持軸に対して交差する方向に配置されており、前記支持軸の中心軸を中心とした円形形状を有している所定部材と、
前記坩堝の内壁に配置されている隔壁であって、前記坩堝の中心軸を中心とした円形の開口部を有する前記隔壁と、
を備え、
前記隔壁の前記坩堝の中心軸の方向の厚さは、一定の第1厚さであり、
前記開口部の内径は前記所定部材の外径よりも大きく、
前記坩堝の中心軸は前記支持軸の中心軸と一致しており、
前記所定部材の前記支持軸の中心軸の方向の厚さ、前記開口部の内径と前記所定部材の外径との間のギャップ、前記所定部材の直径、の少なくとも1つは、機械学習による回帰モデルを用いて決定されており、
前記回帰モデルは、シミュレーションで求められた前記原料融液の内部の温度分布と前記原料融液の蒸発量とを含んだ教師データによって前記機械学習によって導出されたモデルであり、
結晶成長時において、前記所定部材が前記坩堝の上端部よりも下方側に位置しており、前記所定部材の少なくとも一部が前記第1厚さの範囲内に位置している、結晶成長装置。
【請求項4】
前記所定部材は、前記支持軸から側方へ突出しており、前記支持軸の中心軸の中心から延びた形状を有している、請求項1~3の何れか1項に記載の結晶成長装置。
【請求項5】
前記所定部材の外寸は前記坩堝の内寸よりも小さい、請求項1~4の何れか1項に記載の結晶成長装置。
【請求項6】
前記所定部材の前記支持軸の中心軸の方向の厚さは、一定の第2厚さであり、
前記第2厚さは前記第1厚さよりも小さい、請求項またはに記載の結晶成長装置。
【請求項7】
前記開口部の内径と前記所定部材の外径との間のギャップは0.1mm以上である、請求項2または3に記載の結晶成長装置。
【請求項8】
前記所定部材は、前記支持軸の中心軸に対して垂直である、請求項1~の何れか1項に記載の結晶成長装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年10月21日に出願された日本国特許出願第2020-176924号に基づく優先権を主張する。その出願の全ての内容はこの明細書中に参照により援用されている。本明細書では、結晶成長装置に関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
SiC単結晶の製造方法として、高温に熱した原料融液(溶媒)を収容した坩堝を用いて、SiC種結晶を液相中で結晶成長させる方法(液相成長法ともいう)が知られている(例えば、特開2016-28015号公報および特再公表2016-059788号公報を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
液相成長法では、原料融液が蒸発し、坩堝の内壁などに付着する。付着した原料融液が冷却されることにより、固形成分が凝固してしまう。これにより、原料融液の量や組成が変化し、液相成長の環境が意図せず変化をしてしまうため、原料溶液の蒸発を抑制することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書で開示する結晶成長装置は、略筒形状を有しており、原料融液を収容可能な坩堝を備える。結晶成長装置は、坩堝の上方から坩堝の内部へ挿入することが可能であるとともに回転昇降可能な支持軸を備える。支持軸は、下端に種結晶を取り付けることが可能である。結晶成長装置は、支持軸に対して交差する方向に配置されている所定部材を備える。結晶成長時において、所定部材が坩堝の上端部よりも下方側に位置している。
【0005】
結晶成長時において、所定部材を、坩堝の上部を覆う蓋として機能させることができる。所定部材が備えられていない場合に比して、坩堝内部の気密性を高めることができる。これにより、坩堝内の蒸気圧を高くすることができるため、原料融液の蒸発を抑制することが可能となる。
【0006】
所定部材は、支持軸から側方へ突出しており、支持軸の中心軸の中心から延びた形状を有していてもよい。
【0007】
所定部材の外寸は坩堝の内寸よりも小さくてもよい。
【0008】
坩堝は、略円筒形状を有していてもよい。所定部材は、支持軸の中心軸を中心とした円形形状を有していてもよい。
【0009】
所定部材は、第1の所定部材と、第1の所定部材よりも上方側に配置されている第2の所定部材と、を備えていてもよい。
【0010】
結晶成長装置は、坩堝の内壁に配置されている隔壁をさらに備えていてもよい。隔壁は、坩堝の中心軸を中心とした円形の開口部を有している。隔壁の坩堝の中心軸の方向の厚さは、一定の第1厚さであってもよい。開口部の内径は所定部材の外径よりも大きくてもよい。坩堝の中心軸は支持軸の中心軸と一致していてもよい。結晶成長時において、所定部材の少なくとも一部が第1厚さの範囲内に位置していてもよい。
【0011】
隔壁は、第1の隔壁と、第1の隔壁よりも上方側に配置されている第2の隔壁と、を備えていてもよい。
【0012】
所定部材の支持軸の中心軸の方向の厚さは、一定の第2厚さであってもよい。第2厚さは第1厚さよりも小さくてもよい。
【0013】
開口部の内径と所定部材の外径との間のギャップは0.1mm以上であってもよい。
【0014】
所定部材は、支持軸の中心軸に対して垂直であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】結晶成長装置の基本構成を示す図である。
図2A】実施例1に係る結晶成長装置1の概略構成図である。
図2B図2AのII―II線における概略断面図である。
図3】結晶成長工程の完了時の状態を示す、結晶成長装置1の概略構成図である。
図4】比較例の結晶成長装置である。
図5】本実施例の結晶成長装置である。
図6】実施例2に係る結晶成長装置1aの概略構成図である。
図7】実施例4に係る結晶成長装置1bの概略構成図である。
図8】実施例4に係る結晶成長装置1cの概略構成図である。
図9】実施例4に係る結晶成長装置1dの概略構成図である。
図10】実施例4に係る結晶成長装置1eの概略構成図である。
図11】実施例4に係る結晶成長装置1fの概略構成図である。
図12】実施例4に係る結晶成長装置1gの概略構成図である。
図13】実施例4に係る結晶成長装置1hの概略構成図である。
図14】実施例4に係る結晶成長装置1iの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<結晶成長装置の基本構成>
図1に、結晶成長装置1Pの概略構成図を示す。結晶成長装置1Pは、SiC結晶を液相成長させる装置である。結晶成長装置1Pは、回転軸12、支持軸13、坩堝15、を備える。回転軸12は、坩堝15を回転可能に支持する軸である。坩堝15は炭素素材(黒鉛)で形成されている。坩堝15は、略円筒の形状を有している。坩堝15の内壁15wには、内壁面の全周にわたって隔壁31Pが配置されている。隔壁31Pは、坩堝15の内壁に脱着自在である。
【0017】
坩堝15には原料融液17が収容される。原料融液17は、Siの溶液である。坩堝15から炭素原子が溶融する。また原料融液17には、炭素を溶解し易くするための添加元素が添加されている。添加元素の例としては、低融点金属(Al、Sn、Gaなど)、遷移金属(Ti、Cr、Ni、Feなど)、各種の希土類元素、などが挙げられる。本実施例では、Cr(クロム)と、Crに比して少量のAl(アルミニウム)を用いた。
【0018】
支持軸13は、結晶支持部20を備える。結晶支持部20は、支持軸13の下端に配置されている。結晶支持部20の下面20uは、支持軸13の中心軸CA1を中心とした円形形状である。下面20uには、種結晶16が取り付けられる。種結晶16は、SiC結晶18を成長させるためのSiCテンプレートである。本実施例では、種結晶16は、円盤のウエハ形状(6インチ径)を有する、4H-SiC単結晶を用いた。種結晶16の結晶成長面は(0001)面から[11-20]に1度傾斜した面とした。
【0019】
<効果>
原料融液17が蒸発すると、坩堝15の内壁などに付着する。付着した原料融液17が冷却されることにより凝固し、固体物が内壁等に付着してしまう。特に、蒸気圧の高いCrやAlなどの添加元素が蒸発することで、これらの元素を含んだ固体物が付着することが問題となる。また、結晶成長時間が長くなるほど、原料融液17の蒸発量が多くなるため、固体物の付着量も多くなってしまう。本技術に係る結晶成長装置1Pでは、結晶支持部20を坩堝15内部へ挿入した状態(すなわち、SiC結晶を成長させる状態)では、隔壁31Pは、坩堝15の上端部15uよりも下方側に位置している。これにより、隔壁31Pを、坩堝15の上部を覆う蓋として機能させることができるため、坩堝15内部の気密性を高めることができる。原料融液17の液面における蒸気圧を高くすることができるため、原料融液17の蒸発を抑制することができる。CrやAlなどの固形物の付着を抑制することが可能となる。
【0020】
以下、本明細書が開示する技術が適用された結晶成長装置の実施例について説明する。なお、以下で参照する各図において、上述の結晶成長装置1Pの各要素と実質的に機能が共通する構成要素については共通の符号を付し、その説明を省略することがある。
【実施例1】
【0021】
<結晶成長装置1の構成>
図2Aに、結晶成長装置1の概略構成図を示す。図2Bに、図2AのII―II線における概略断面図を示す。図2Bでは、分かりやすさのために、第2板状部材22および第2隔壁32をグレーで塗りつぶしている。また図2Bでは、坩堝収容部11および高周波コイル14の記載を省略している。結晶成長装置1は、坩堝収容部11、回転軸12、支持軸13、高周波コイル14、坩堝15、回転部19、駆動部30、を備える。
【0022】
坩堝収容部11は、坩堝15を収容している。坩堝収容部11は、坩堝15からの放熱を抑制し、坩堝15を一定の温度に保つ機能を有する。坩堝収容部11の上部には、内径ID3を有する円形の開口部OP3が形成されている。回転部19は、回転軸12を回転させる部位である。回転軸12は、坩堝15を回転可能に支持する軸である。回転軸12の中心軸CA3は、坩堝15の中心軸CA2と一致している。
【0023】
坩堝15の上部には、内径ID4を有する円形の開口部OP2が形成されている。坩堝15の内壁15wには、内壁面の全周にわたって第1隔壁31および第2隔壁32が配置されている。第1隔壁31および第2隔壁32は、坩堝15の中心軸CA2を中心とした円形の開口部OP1を備えている。第2隔壁32は、第1隔壁31よりも上方側に配置されている。第1隔壁31および第2隔壁32は、一体の隔壁として機能する。第1隔壁31の下面と第2隔壁32の上面との間の距離が、この一体の隔壁の厚さT1に該当する。
【0024】
駆動部30は、支持軸13を回転させるとともに、上下方向(図2AのZ軸方向)に移動させる部位である。高周波コイル14は、不図示の電源装置からの電源供給を受けて、坩堝15を誘導加熱する。
【0025】
<支持軸13の構成>
支持軸13は、結晶支持部20、第1板状部材21、第2板状部材22、を備える。下面20uの直径DDは、支持軸13の直径ADよりも大きい。第1板状部材21および第2板状部材22は、支持軸13の中心軸CA1を中心とした円形形状を有している。第1板状部材21および第2板状部材22は、支持軸13から側方へ、中心軸CA1に対して垂直に突出している。第2板状部材22は、第1板状部材21よりも上方側に配置されている。第1板状部材21および第2板状部材22は、一体の板状部材として機能する。第1板状部材21の下面と第2板状部材22の上面との間の距離が、この一体の板状部材の厚さT2に該当する。本実施形態では、厚さT2は厚さT1と同一とされている。
【0026】
下面20uの直径DDは、第1板状部材21および第2板状部材22の外径ODと等しい。また直径DDおよび外径ODは、坩堝15の内径ID4、開口部OP1の内径ID1、開口部OP2の内径ID4、開口部OP3の内径ID3よりも小さい。従って、結晶支持部20を、開口部OP1~OP3を介して坩堝15の内部へ挿入することが可能である。
【0027】
結晶支持部20を坩堝15内部へ挿入した状態(すなわち、SiC結晶を成長させる状態)では、第1板状部材21および第2板状部材22は、坩堝15の上端部15uよりも下方側に位置している。そして第1板状部材21および第2板状部材22の周囲が、第1隔壁31および第2隔壁32によって囲われている状態となる。これにより、第1板状部材21および第2板状部材22を、坩堝15の上部を覆う蓋として機能させることができる。第1板状部材21および第2板状部材22の外径ODと、開口部OP1の内径ID1と、の間のギャップGPは、0.1mm以上であることが好ましい。本実施例では2mmとした。坩堝15の中心軸CA2は、支持軸13の中心軸CA1と一致している。従って、ギャップGPを全周に亘って一定に維持しながら、坩堝15と支持軸13とを相対回転させることが可能である。
【0028】
第1板状部材21、第2板状部材22、第1隔壁31、第2隔壁32材料の融点は、原料融液17から輻射される熱の温度よりも高く、例えば1000℃以上である。このような高融点の材料の例としては、例えば、炭素、珪素、炭化珪素、酸化マグネシウム、酸化チタンなどが挙げられる。本実施形態では、材料として炭素を用いた。
【0029】
<結晶成長の具体例>
結晶成長装置1を用いたSiC結晶の成長工程について説明する。ステップS1において、原料融液17を作成する。具体的には、支持軸13を坩堝15内から上方へ引き抜く。坩堝15内にSi原料および添加元素(Cr、Al)を収容する。高周波コイル14でSi原料を加熱溶融し、原料融液17を作成する。
【0030】
ステップS2において、支持軸13の下面20uに種結晶16を取り付ける。そして、結晶支持部20を、開口部OP1~OP3を介して坩堝15内に挿入する。種結晶16を原料融液17に接触させる。これにより、図2Aに示す状態となる。図2Aは、結晶成長工程の開始時の状態を示す図である。
【0031】
ステップS3において、結晶成長を行う。具体的には、種結晶16を原料融液17に接触させるとともに、回転軸12および支持軸13を回転させる。原料融液17を結晶成長温度に維持する。SiC結晶18の成長に伴い、支持軸13を所定速度で引き上げる。これにより、図3に示すように、SiC結晶18を成長させることができる。図3は、結晶成長工程の完了時の状態を示す図である。
【0032】
<効果>
本実施例の結晶成長装置1では、一体の板状部材(第1板状部材21および第2板状部材22)および一体の隔壁(第1隔壁31および第2隔壁32)を備えている。そして、結晶成長の開始(図2A)から終了(図3)までの全期間において、一体の板状部材の厚さT2の少なくとも一部を、一体の隔壁の厚さT1の範囲内に位置させている。換言すると、坩堝15の側面からみたときに、一体の板状部材と一体の隔壁とが必ず重複するように、SiC結晶18を引き上げる。これにより、結晶成長の全期間において、一体の板状部材と一体の隔壁との間の隙間を、ギャップGPの一定値に維持することができる。一体の板状部材と一体の隔壁により、坩堝15の上部を覆うことができるため、坩堝15内部の気密性を高めることができる。原料融液17の液面における蒸気圧を高くすることができるため、原料融液17の蒸発を抑制することができる。CrやAlなどの固形物の付着を抑制することが可能となる。
【0033】
図4(比較例)および図5(本実施例)に示すように、液状の原料融液17が坩堝15の内壁を伝って上昇することで、ギャップGPから上方側へ原料融液17が漏れ出てしまう場合がある。図4の比較例に示すように、1重の板状部材121および隔壁131を備える場合には、ギャップGPから上方へ漏れ出た原料融液17は、坩堝15の上部空間15s1および坩堝収容部11の内部空間11sに露出する。上部空間15s1および内部空間11sの体積は大きいため、漏れ出た原料融液17が蒸発しても上部空間15s1および内部空間11sの蒸気圧は上昇しにくい。従って、板状部材121および隔壁131の下側に存在する下側空間15s2の蒸気圧を高めることが困難である。一方、図5の本実施例では、一体の板状部材は、2重の第1板状部材21および第2板状部材22により挟まれた空間SP1を備えている。また、一体の隔壁は、第1隔壁31および第2隔壁32により挟まれた空間SP2を備えている。第1板状部材21と第1隔壁31との間のギャップGPから上方へ原料融液17が漏れ出た場合においても、この空間SP1およびSP2内に原料融液17を閉じ込めることができる。そして、原料融液17からの輻射熱により、空間SP1およびSP2内の原料融液17を蒸発させることができる。空間SP1およびSP2の体積は、上部空間15s1および内部空間11sの体積に比して十分に小さいため、空間SP1およびSP2内の蒸気圧を高めることができる。従って、高い蒸気圧を有する空間SP1および空間SP2により、その下方側の下側空間15s2を密閉することができるため、下側空間15s2の蒸気圧を高めることができる。これにより、原料融液17の蒸発を抑制することが可能となる。
【実施例2】
【0034】
図6に、実施例2に係る結晶成長装置1aを示す。実施例2の結晶成長装置1aは、実施例1の結晶成長装置1(図2A)に比して、第3隔壁33および第4隔壁34をさらに備えている点が異なる。実施例1と同一の構成には同一符号を付すことで、説明を省略する。
【0035】
第1隔壁31~第4隔壁34は、一体の隔壁として機能する。第1隔壁31の下面と第4隔壁34の上面との間の距離が、この一体の隔壁の厚さT3に該当する。第1板状部材21および第2板状部材22からなる一体の板状部材の厚さT2は、厚さT3よりも小さい。結晶成長時には、一体の板状部材の厚さT2の少なくとも一部が、一体の隔壁の厚さT3の範囲内に位置するように、SiC結晶18を引き上げる。実施例1の結晶成長装置1(図2Aおよび図3)における一体の隔壁の厚さT1に比して、厚さT3を厚くできるため、SiC結晶18の引き上げ距離を大きくすることができる。SiC結晶18のインゴットを長尺化できるため、コスト低減が可能となる。
【実施例3】
【0036】
実施例3では、第1板状部材21および第2板状部材22の形状を、機械学習アルゴリズムを用いて最適化する形態について説明する。ここで第1板状部材21および第2板状部材22の形状とは、以下に示す様々な形状であってよい。例えば、厚さT2(第1板状部材21の下面と第2板状部材22の下面との間の距離)や、空間SP1の高さ(第1板状部材21の上面と第2板状部材22の下面との間の距離)であってもよい。第1板状部材21自体の厚さや、第2板状部材22自体の厚さであってもよい。ギャップGPの値であってもよい。第1板状部材21および第2板状部材22の外径ODであってもよい。またこれらの形状の複数の組み合わせであってもよい。
【0037】
第1板状部材21および第2板状部材22の形状を演算する回帰モデルは、機械学習(例:ニューラルネットワーク)による回帰を用いて作成される。機械学習による回帰モデルの作成には、教師データの収集が必要である。そこで本明細書の技術では、解析ソフトを用いたシミュレーションにより教師データを収集した。
【0038】
具体的に説明する。CADデータから、結晶成長装置1の3次元モデルを作成する。そして入力パラメータセットを用いて、シミュレーション計算を実施する。入力パラメータセットの一例としては、高周波コイル14に供給する電力、坩堝収容部11内の気温、坩堝15の回転速度、支持軸13の回転速度などを使用した。シミュレーションを実施する度に、1つの入力パラメータセットに対する出力結果(原料融液17の内部の温度分布、原料融液17の蒸発量)が得られる。複数の入力パラメータセットに対してシミュレーションを繰り返すことにより、複数の教師データが得られる。そして、取得した複数の教師データを用いて機械学習を行い、回帰モデルを作成する。
【0039】
作成した回帰モデルを用いて、第1板状部材21および第2板状部材22の形状を演算する。第1板状部材21および第2板状部材22の形状によって、原料融液17の内部の温度分布や原料融液17の蒸発量は変化する。従って、原料融液17の蒸発量の抑制と原料融液17内部の適切な温度分布とを両立できるような形状を、回帰モデルを用いて探索する。これにより、第1板状部材21および第2板状部材22の形状の最適化が可能となる。なお、第1隔壁31および第2隔壁32の形状についても、回帰モデルによる最適化が可能である。
【実施例4】
【0040】
実施例4では、様々な変形構造例を有する結晶成長装置1b~1iを列挙する。実施例1と同一の構成には同一符号を付すことで、説明を省略する。図7に示す結晶成長装置1bは、支持軸13から突出している板状部材を有さない例である。第1隔壁31bおよび第2隔壁32bは、坩堝15の内壁に脱着自在である。従って、内径ID1よりも結晶支持部20の直径DDの方が大きい場合においても、結晶支持部20を坩堝15に出し入れすることが可能である。
【0041】
図8の結晶成長装置1cは、図7の結晶成長装置1bに対して、1枚の厚い第1隔壁31cを備えている。
【0042】
図9の結晶成長装置1dは、図7の結晶成長装置1bに対して、結晶支持部20を備えていない。支持軸13の下端に種結晶16dが配置されている。
【0043】
図10の結晶成長装置1eでは、第1板状部材21eと第1隔壁31eとが互いに嵌め合うように、断面形状に凹凸部を備えている。図11の結晶成長装置1fでは、第1板状部材21fと第1隔壁31fとが互いに嵌め合うように、断面形状にテーパ部を備えている。これにより、原料融液17の気密性を高めることができる。
【0044】
図12の結晶成長装置1gでは、第1部材21gおよび第1隔壁31gの断面が半円形状である。
【0045】
図13(A)は結晶成長装置1hの断面図であり、図13(B)はその上面図である。第1隔壁31hには、複数のホールH1が形成されている。また図14(A)は結晶成長装置1iの断面図であり、図14(B)はその上面図である。第1板状部材21iには、複数のホールH1が形成されている。ホールH1の配置はランダムでもよいし、規則的であってもよい。
【0046】
<変形例>
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0047】
第1板状部材21、第2板状部材22の形状は、中心軸CA1を中心とした円形に限られない。また坩堝15の形状は円筒に限られない。多角形などの様々な形状とすることができる。
【0048】
第1隔壁31および第2隔壁32は省略してもよい。第1板状部材21および第2板状部材22によって、坩堝15の上部を覆うことができるため、原料融液17の蒸発を抑制することができる。
【0049】
空間SP1およびSP2(図5)に、原料融液17と同様の組成を有する固形物を予め配置しておいてもよい。この固形物が輻射熱で溶融し蒸発することで、空間SP1およびSP2内の蒸気圧を確実に高めることができる。
【0050】
板状部材は、第1板状部材21および第2板状部材22の2枚構成に限られない。1枚であってもよいし、3枚以上であってもよい。隔壁は、第1隔壁31~第4隔壁34の複数枚の構成に限られない。1枚であってもよいし、5枚以上であってもよい。
【0051】
第1板状部材21および第2板状部材22は、支持軸13の中心軸CA1に対して垂直に突出している形態に限られない。斜め上方向や斜め下方向へ突出していてもよいし、曲面を有して突出していてもよい。
【0052】
板状部材は、坩堝15の内部に配置される形態に限られない。坩堝15の上方側に配置されていてもよい。例えば結晶成長装置は、坩堝15の上方であって坩堝収容部11の開口部OP3の近傍に配置されているシール部を備えていてもよい。シール部は、支持軸13から側方へ突出している複数の板状部材を備えている。複数の板状部材は、支持軸13の中心軸CA1を中心とした円形形状を有している。シール部の外径は、坩堝収容部11の開口部OP3の内径ID3よりも小さい。シール部によって、坩堝収容部11の気密性を高めることができる。
【0053】
下面20uの直径DDは、第1板状部材21および第2板状部材22の外径ODよりも小さくてもよい。成長させるSiC結晶18のウエハ径に合わせて、直径DDを適宜に設定可能である。
【0054】
本明細書の結晶成長装置1は、高温の融液を用いた液相成長法で成長させることができる結晶であれば、何れの結晶成長にも適用可能である。例えば、GaN、GaAs、AlN、などの各種の半導体結晶を成長させることができる。
【0055】
なお、原料溶液の材料は特に限定されず、一般的なものを使用することができる。例えば、原料溶液のSi源としては、SiまたはSi合金を用いることができる。原料溶液のC源としては、黒鉛、グラッシーカーボン、SiC、メタン、エタン、プロパン、アセチレンなどの炭化水素ガス、などを用いることができる。
【0056】
種結晶16としては、4H-SiCおよび6H-SiCに代表される種々の結晶多形を用いることができる。種結晶16の結晶成長面は(0001)面に限られず、様々な面を用いることができる。
【0057】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0058】
第1板状部材21および第2板状部材22は、所定部材の一例である。
【符号の説明】
【0059】
1、1a:結晶成長装置 13:支持軸 15:坩堝 16:種結晶 17:原料融液 18:SiC結晶 20:結晶支持部 21:第1板状部材 22:第2板状部材 31:第1隔壁 32:第2隔壁 CA1~CA3:中心軸 DD:直径 OD:外径 ID1~ID4:内径 T1、T2:厚さ
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14