(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】荷電粒子銃
(51)【国際特許分類】
H01J 37/06 20060101AFI20241219BHJP
H01J 37/12 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
H01J37/06 A
H01J37/12
(21)【出願番号】P 2024557525
(86)(22)【出願日】2024-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2024027702
【審査請求日】2024-09-27
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2024/011554
(32)【優先日】2024-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】722007161
【氏名又は名称】中和科学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】弁理士法人日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 和広
(72)【発明者】
【氏名】張 ハン
(72)【発明者】
【氏名】山内 泰
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-276498(JP,A)
【文献】特開2022-042331(JP,A)
【文献】特表2009-517844(JP,A)
【文献】Shaozheng Ji et al.,Influence of cathode geometry on electron dynamics in an ultrafast electron microscope,STRUCTURAL DYNAMICS,2017年07月17日,volume 4, 054303
【文献】竹松英夫 ほか,タングステンポイントフィラメントの電界放出模様の観察 (III) バイアス電圧の影響について,愛知工業大学研究報告,1968年12月01日,number 04, pages 31-37
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を放出するエミッタと、
該エミッタ直下に配置された電界抑制電極と該電界抑制電極の直下に配置された引出し電極とからなる複合引出し電極と、を具備し、
該エミッタ半径rが1μm以下であり、
該エミッタの電位を基準として該エミッタから放出される荷電粒子が負電荷の場合には該電界抑制電極に印加される電圧Vsuが0V以上の正電圧であり、該エミッタから放出される荷電粒子が正電荷の場合には該電界抑制電極に印加される電圧Vsuが0V以下の負電圧であり、
該電界抑制電極に印加される電圧Vsuと該引出し電極に印加される電圧値Vexとの差の絶対値|Vex-Vsu|が20kV以下であり、該電界抑制電極の穴の半径Rと該電界抑制電極と該引出し電極との距離Lとの比R/Lが0.0079以上3.645以下である、
ことを特徴とする荷電粒子銃。
【請求項2】
前記エミッタと前記電界抑制電極との距離L
0が前記電界抑制電極と前記引出し電極との距離Lとで0以上4×L以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子銃。
【請求項3】
前記電界抑制電極に印加される電圧Vsu、前記引出し電極に印加される電圧Vexとの組み合わせ電圧{Vsu,Vex}によって、前記複合引出し電極を一つの電子レンズとして動作させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子銃。
【請求項4】
前記組み合わせ電圧{Vsu,Vex}によってエミッタ先端にかかる電界強度を変化させて放出電流量とエミッタから放出される荷電粒子の軌道を調整する、
ことを特徴とする請求項3に記載の荷電粒子銃。
【請求項5】
前記組み合わせ電圧{Vsu,Vex}によって、エミッタ先端にかかる電界強度を一定にし、放出電流を一定に維持したまま放出された荷電粒子の軌道を調整する、
ことを特徴とする請求項3に記載の荷電粒子銃。
【請求項6】
前記組み合わせ電圧{Vsu,Vex}によって放出される荷電粒子ビームの換算輝度と角電流密度を調整する、
ことを特徴とする請求項3に記載の荷電粒子銃。
【請求項7】
前記電界抑制電極のエミッタ側の面の穴の側面がお椀状または傾斜している、
ことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子銃。
【請求項8】
前記電界抑制電極の穴の半径Rと、前記電界抑制電極と前記エミッタ先端との距離L0との比L0/Rが1以下となる、
ことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子銃。
【請求項9】
前記エミッタは、熱電子放出源、熱電界放出型電子源、冷陰極型電子源、ナノチップ、カーボンナノチューブ、超電導電子源、積層型電子源、エミッタアレイ、液体金属イオン源、ヘリウムイオン源のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子銃。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れかに記載の荷電粒子銃を具備した、
ことを特徴とする荷電粒子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子源を搭載した荷電粒子銃において、荷電粒子源から放出される荷電粒子ビームの輝度および角電流密度を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子を放出する装置の一例として、冷陰極型電界放出電子銃を例に図面を元に説明する。
図8に従来の冷陰極型電界放出電子銃を示す。前記冷陰極型電界放出電子銃は図示していない高真空を維持した容器に入れられている。エミッタ101と引出し電極102の間には前記引出し電極102に印加された引出し電圧によって電界が形成され、特に前記エミッタ101の先端には強電界が形成され、前記エミッタ101の先端から電子(荷電粒子104)が放出される。前記電界の強さは前記エミッタ101と前記引出し電極102との間の電位分布として等電位線107の密度で図示してある。図示するように、前記エミッタ101の先端の前記等電位線107の密度が極めて高くなり、強電界であることを示している。前記エミッタ101には加速電源108から加速電圧が印加されている。前記引出し電極102には引出し電源109から引出し電圧が印加されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】A. V. Crewe, D. N. Eggenberger, J. Wall, L. M. Welter, “Electron Gun Using a Field Emission Source”, The review of scientific instruments, Vol.39, Num.4, 1967
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図8に示すように、荷電粒子104を前記エミッタ101から放出させるためには十分に強い電界が前記エミッタ101の先端に形成されている必要がある。
図9に冷陰極型電界放出電子銃を例に前記エミッタ101の先端に強電界が形成されている場合を示す。前記エミッタ101の先端付近には表面形状に従って円弧状の前記等電位線107が密に形成されており、前記放出された荷電粒子104(電子)は前記等電位線107の法線方向に力を受けて飛んで行くため、各方向に放出された前記荷電粒子104(電子)の荷電粒子軌道漸近線113が最小に交わる仮想光源114が形成される。前記エミッタ101を下流から見ると、放出された前記荷電粒子104は前記仮想光源114から放出されているように見える。従って、前記エミッタ101の放出面から放出される荷電粒子104(電子)で形成される荷電粒子ビームの放出角が大きく、前記エミッタ101と図示していない試料との間にある絞り115によって角度制限をした荷電粒子ビームを使用するのが一般的である。しかしながら、前記放出角116を小さく角度制限してしまうと、前記絞り115を通過する前記荷電粒子104の数が減り、前記絞り115を通過した電子ビームを例えば荷電粒子顕微鏡で使用した場合、観測値の信号対雑音比が極端に悪くなってしまうという問題点があった。また、前記信号対雑音比をよくするために、前記絞り115の穴径を大きくして前記放出角116を大きくすると、前記エミッタ101の下流にある図示していない電子レンズの収差が大きくなり、例えば荷電粒子顕微鏡で使用した場合、図示していない試料位置での荷電粒子ビーム径が大きくなり、分解能が悪くなってしまうという問題点があった。また、前記荷電粒子ビームの放出角が大きいと、前記荷電粒子ビームを形成する前記荷電粒子104(電子)の大半は図示していない前記引出し電極102または前記絞り115に衝突し、前記引出し電極102または前記絞り115の表面から二次電子117とガス分子118とを発生させる。放出された前記二次電子117は加速されて前記エミッタ101に衝突し該エミッタ101を破損させたり、放出された前記ガス分子118は真空度を劣化させ、前記エミッション量を減少させたり、放電による前記エミッタ101の破損を誘発する問題があった。
【0005】
本発明の目的は、上述した従来技術の問題点を解決し、エミッタから大電流を放出させても真空度を劣化させず、エミッタから放出された電子ビームを角度制限しても信号対雑音比を落とすことなく、高分解能が維持できる荷電粒子銃を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、荷電粒子源を搭載した荷電粒子銃であって、荷電粒子を放出するエミッタと、前記エミッタ直下に配置された電界抑制電極と前記電界抑制電極の直下に配置された引出し電極とからなる複合引出し電極と、を具備したことを特徴とする。
【0007】
また、前記荷電粒子銃は、前記エミッタの半径rが1μm以下の場合において、該エミッタの電位を基準として該エミッタから放出される荷電粒子が負電荷の場合には該電界抑制電極に印加される電圧Vsuが0V以上であり、該エミッタから放出される荷電粒子が正電荷の場合には該電界抑制電極に印加される電圧Vsuが0V以下であり、前記電界抑制電極に印加される電圧Vsuと前記引出し電極に印加される電圧値Vexとの差の絶対値|Vex-Vsu|が20kV以下であり、前記電界抑制電極の穴の半径Rと前記電界抑制電極と前記引出し電極との距離Lとの比R/Lが0.0079以上3.645以下であることを特徴とする。
【0008】
また、前記荷電粒子銃は、前記エミッタの半径rが100nm以下の場合において、該エミッタの電位を基準として該エミッタから放出される荷電粒子が負電荷の場合には該電界抑制電極に印加される電圧Vsuが0V以上であり、該エミッタから放出される荷電粒子が正電荷の場合には該電界抑制電極に印加される電圧Vsuが0V以下であり、前記電界抑制電極に印加される電圧Vsuと前記引出し電極に印加される電圧値Vexとの差の絶対値|Vex-Vsu|が20kV以下であり、前記電界抑制電極の穴の半径Rと前記電界抑制電極と前記引出し電極との距離Lとの比R/Lが0.0079以上、1.825以下であることを特徴とする。
【0009】
また、前記荷電粒子銃は、前記エミッタの半径rが100nm以上1μm以下の場合において、該エミッタの電位を基準として該エミッタから放出される荷電粒子が負電荷の場合には該電界抑制電極に印加される電圧Vsuが0V以上であり、該エミッタから放出される荷電粒子が正電荷の場合には該電界抑制電極に印加される電圧Vsuが0V以下であり、前記電界抑制電極に印加される電圧Vsuと前記引出し電極に印加される電圧値Vexとの差の絶対値|Vex-Vsu|が20kV以下であり、前記電界抑制電極の穴の半径Rと前記電界抑制電極と前記引出し電極との距離Lとの比R/Lが0.365以上、3.645以下であることを特徴とする。
【0010】
また、前記荷電粒子銃は、前記エミッタと前記電界抑制電極との距離L0が前記電界抑制電極と前記引出し電極との距離Lとで0以上4×L以下であることを特徴とする。
【0011】
また、前記荷電粒子銃は、前記電界抑制電極と前記引出し電極には、それぞれ独立して電位が印加されていることを特徴とする。
【0012】
また、前記荷電粒子銃は、前記電界抑制電極に印加されている電位が前記引出し電極に印加されている電位よりも低いことを特徴とする。
【0013】
また、前記荷電粒子銃は、前記電界抑制電極の穴から前記エミッタ側に電位分布が凸状に染み出していることを特徴とする。
【0014】
また、前記荷電粒子銃は、前記エミッタ先端が凸状に染み出した電位分布に刺さるように配置され、前記エミッタ先端部には凹状に電位分布が形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、前記荷電粒子銃は、前記電界抑制電極の前記エミッタ側の面の穴の側面がお椀状または傾斜していることを特徴とする。
【0016】
また、前記荷電粒子銃は、前記電界抑制電極の穴の半径Rと、前記電界抑制電極と前記エミッタ先端との距離L0との比L0/Rが1以下となることを特徴とする。
【0017】
また、前記荷電粒子銃は、前記電界抑制電極に印加される電圧Vsuと前記引出し電極に印加される電圧Vexとの組み合わせ電圧{Vsu,Vex}によって前記複合引出し電極を一つの電子レンズとして動作させることを特徴とする。
【0018】
また、前記荷電粒子銃は、前記組み合わせ電圧{Vsu,Vex}によって、前記エミッタ先端にかかる電界強度を変化させて放出電流量を調整することを特徴とする。
【0019】
また、前記荷電粒子銃は、前記組み合わせ電圧{Vsu,Vex}によって、前記エミッタと前記複合引出し電極の間の電位分布を変化させて前記エミッタから放出される荷電粒子の軌道を調整することを特徴とする。
【0020】
また、前記荷電粒子銃は、前記組み合わせ電圧{Vsu,Vex}によって、放出電流量と荷電粒子軌道を調整することを特徴とする。
【0021】
また、前記荷電粒子銃は、前記組み合わせ電圧{Vsu,Vex}によって、前記エミッタ先端にかかる電界強度を一定にし、放出電流を一定に維持したまま放出された荷電粒子の軌道を調整することを特徴とする。
【0022】
また、前記荷電粒子銃は、前記組み合わせ電圧{Vsu,Vex}によって、放出される荷電粒子ビームの換算輝度と角電流密度を調整することを特徴とする。
【0023】
また、前記荷電粒子銃において、前記エミッタは、熱電子放出源、熱電界放出型電子源、冷陰極型電子源、ナノチップ、カーボンナノチューブ、超電導電子源、積層型電子源、エミッタアレイ、液体金属イオン源、ヘリウムイオン源のいずれかである、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
高輝度荷電粒子源は、輝度は高いが角電流密度が小さく、大電流時には輝度が著しく低下してしまったが、本発明によって大電流時にも輝度の低下を小さく抑えることができ、角電流密度を上げることができる。
【0025】
2つの電極に印加される電圧を調整することにより、荷電粒子源から放出される荷電粒子ビームの特性(輝度、角電流密度)を高輝度モードと大角電流密度モードにすることができる。
【0026】
高輝度モードと大角電流密度モードは分離したものではなく、2つのモードの程度を連続的に変えることができる。
【0027】
本発明を荷電粒子顕微鏡に適用した場合、高輝度モードでは高い空間分解能で試料表面の解析ができ、大角電流密度モードでは電子ビームを角度制限しても信号対雑音比を落とすことなく高い空間分解能を維持しつつ大電流で試料表面の解析ができる。
【0028】
本発明を荷電粒子顕微鏡に適用した場合、観察する試料の特性に応じて高輝度モードと大角電流密度モードの程度を連続的に変えることで、試料に最適な条件で観察できる。
【0029】
大角電流密度モードにすると、放出される荷電粒子ビームの放出角度が小さくなり、荷電粒子を引き出すために電圧を印加されている電極に荷電粒子が衝突せず、電極からガスが発生しないため、エミッタ周辺の真空度の劣化を引き起こさない。また、電極に荷電粒子が衝突しないため、電極表面に汚染物を付着させず、付着物が帯電することによる放電でエミッタを損傷することがない。
【0030】
本発明を荷電粒子顕微鏡に適用した場合、角電流密度を変化させることができるので、エミッタから見て試料側に電流量調整用の電子レンズを必要とせず、該荷電粒子顕微鏡をコンパクトにすることができる。
【0031】
本発明を荷電粒子顕微鏡に適用した場合、エミッタから放射される荷電粒子をすぐに光軸に平行にできるので、高コヒーレントな荷電粒子ビームで試料を観察できる。
【0032】
本発明を荷電粒子顕微鏡に適用した場合、放出角度が小さく、荷電粒子ビーム径が光軸から大きく離れないため、エミッタから見て試料側にある電子レンズが発生する収差を小さく抑えることができ、試料表面に荷電粒子ビームを収束しても収差による荷電粒子ビーム径の拡がりが小さい。
【0033】
本発明を半導体試料検査用に特化した荷電粒子顕微鏡に適用した場合、試料に照射する電流量が大きくても高い空間分解能で試料表面を観察、測定できるため、試料観察にかかる時間が小さく、測定速度を高めることができる。
【0034】
本発明を透過型電子顕微鏡に適用した場合、高コヒーレントな荷電粒子ビームで試料を観察できる。
【0035】
本発明をエミッタ先端半径が1μm以下のエミッタを具備した荷電粒子顕微鏡に適用した場合、電流密度の高い高コヒーレントな荷電粒子ビームで試料を観察できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図2】本発明による複合引出し電極の動作例を説明する概略図である。
【
図3】本発明による複合引出し電極の動作例を説明する概略図である。
【
図4】本発明による複合引出し電極の実施例を説明する概略図である。
【
図5】本発明による複合引出し電極の動作例を説明する概略図である。
【
図6】本発明による複合引出し電極の動作例を説明する荷電粒子軌道図である。
【
図7】本発明による荷電粒子銃の他の実施例を示す概略構成図である。
【
図8】従来の荷電粒子銃の構成を示す概略構成図である。
【
図9】従来の荷電粒子銃の動作を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0038】
荷電粒子装置は、荷電粒子源を搭載した荷電粒子銃を具備する。
【0039】
荷電粒子銃は、荷電粒子を放出するエミッタと、前記エミッタを中心とした光軸上で前記エミッタ直下に配置される電界抑制電極と前記電界抑制電極直下に配置される引出し電極とで構成される複合引出し電極と、を具備する。
【0040】
前記エミッタの半径rが1μm以下である場合、該エミッタの電位を基準として該エミッタから放出される荷電粒子が負電荷の場合には該電界抑制電極に印加される電圧Vsuが0V以上であり、該エミッタから放出される荷電粒子が正電荷の場合には該電界抑制電極に印加される電圧Vsuが0V以下であり、前記電界抑制電極に印加される電圧Vsuと前記引出し電極に印加される電圧値Vexとの差の絶対値|Vex-Vsu|が20kV以下であり、前記電界抑制電極の穴の半径Rと前記電界抑制電極と前記引出し電極との距離Lとの比R/Lが0.0079以上3.645以下である。
【0041】
また、前記エミッタの半径rが100nm以下である場合、該エミッタの電位を基準として該エミッタから放出される荷電粒子が負電荷の場合には該電界抑制電極に印加される電圧Vsuが0V以上であり、該エミッタから放出される荷電粒子が正電荷の場合には該電界抑制電極に印加される電圧Vsuが0V以下であり、前記電界抑制電極に印加される電圧Vsuと前記引出し電極に印加される電圧値Vexとの差の絶対値|Vex-Vsu|が20kV以下であり、前記電界抑制電極の穴の半径Rと前記電界抑制電極と前記引出し電極との距離Lとの比R/Lが0.0079以上、1.825以下である。
【0042】
また、前記エミッタの半径rが100nm以上1μm以下である場合、該エミッタの電位を基準として該エミッタから放出される荷電粒子が負電荷の場合には該電界抑制電極に印加される電圧Vsuが0V以上であり、該エミッタから放出される荷電粒子が正電荷の場合には該電界抑制電極に印加される電圧Vsuが0V以下であり、前記電界抑制電極に印加される電圧Vsuと前記引出し電極に印加される電圧値Vexとの差の絶対値|Vex-Vsu|が20kV以下であり、前記電界抑制電極の穴の半径Rと前記電界抑制電極と前記引出し電極との距離Lとの比R/Lが0.365以上、3.645以下である。
【0043】
前記エミッタと前記電界抑制電極との距離L0が前記電界抑制電極と前記引出し電極との距離Lとで0以上4×L以下である。
【0044】
前記電界抑制電極の穴の半径Rと、前記電界抑制電極と前記エミッタ先端との距離L0との比L0/Rが、1以下となる。
【0045】
前記電界抑制電極に印加される電圧と前記引出し電極に印加される電圧とで、前記エミッタ側に前記電界抑制電極の穴から凸形に染み出した電位分布を形成し、前記エミッタの先端に強電界を形成する。
【0046】
前記電界抑制電極と前記引出し電極には、それぞれ独立して電位が印加されており、前記電界抑制電極に印加されている電位が、前記引出し電極に印加されている電位よりも低い。
【0047】
前記電界抑制電極の穴から前記エミッタ側に電位分布が凸状に染み出しているが、前記エミッタ先端が凸状に染み出した電位分布に刺さるように配置され、前記エミッタ先端部には凹状に電位分布が形成されている。
【0048】
前記電界抑制電極の前記エミッタ側の面の穴の側面がお椀状または傾斜している。
【0049】
エミッタは、例えば、熱電子放出源、熱電界放出型電子源、冷陰極型電子源、ナノチップ、カーボンナノチューブ、超電導電子源、積層型電子源、エミッタアレイ、液体金属イオン源、ヘリウムイオン源などである。
【実施例1】
【0050】
図1に本発明の一実施例を示す。以下、図面を元に詳述する。荷電粒子104を放出するエミッタ101の直下に配置された複合引出し電極106は電界抑制電極103と前記電界抑制電極103の直下に配置された引出し電極102とからなり、前記電界抑制電極103には電界抑制電源110から電界抑制電圧が印加され、前記引出し電極102には引出し電源109から引出し電圧が印加される。それぞれに印加された電圧によって、前記エミッタ101と前記電界抑制電極103との間には前記電界抑制電極103の穴から前記エミッタ101側に凸形の電位分布を染み出させる。図中、前記電位分布を等電位線107で示しており、前記等電位線107の密度が高いと電界強度が強いことを示している。前記エミッタ101は前記凸形の電位分布に突き刺さるように配置され、前記エミッタ101の先端には強電界が形成される。前記強電界によって前記エミッタ101の先端から前記荷電粒子104が放出されるが、放出された前記荷電粒子104は前記等電位線107の法線方向に力を受けて飛んでいくため、前記凸形の電位分布によって前記放出荷電粒子104は光軸105から大きく外れずに飛んで行く。
【0051】
本発明において、前記エミッタ101の電位を基準として該エミッタから放出される荷電粒子104が負電荷の場合には該電界抑制電極103に印加される電圧Vsuが0V以上であり、該エミッタ101から放出される荷電粒子104が正電荷の場合には該電界抑制電極103に印加される電圧Vsuが0V以下であるが、前記凸形電位分布をわかりやすく説明するために、該エミッタ101から放出される荷電粒子104は負電荷とし、前記電界抑制電極103の電位は前記エミッタ101と今同電位とする。
【0052】
該電界抑制電極103に印加される電圧Vsuが0Vより大きい場合でも、放出された前記荷電粒子104は前記等電位線107の法線方向により力を受けて飛んでいくため、前記凸形の電位分布によって前記放出荷電粒子104はより光軸105に沿う軌道をとるので、本発明を説明するのに一般性を失わない。逆に該電界抑制電極103に印加される電圧Vsuが0Vより小さい場合では、前記エミッタ101から放出される荷電粒子量か減ってしまい、かつ、前記複合引出し電極106によるレンズ作用が強すぎて、クロスオーバーを形成してしまい、より角電流密度を小さくしてしまう。
【0053】
前記引出し電極102には前記エミッタ101の先端から前記荷電粒子104が放出される高電圧が印加されているが、前記電界抑制電極103によって、前記エミッタ101側には前記電界抑制電極103の穴から染み出す電位分布が凸形となる。つまり、前記電界抑制電極103は前記引出し電極102に印加された電圧によって作られる電位分布の形状を凸形にするのに寄与しているのみである。ただし、必ずしも前記電界抑制電極103の電位が前記エミッタ101と同電位である必要はなく、前記電界抑制電極103に電圧が印加されている場合もある。つまり、前記複合引出し電極106は前記電界抑制電極103と前記引出し電極102に印加する電圧によって前記電位分布の形状と前記エミッタ101の先端にかかる電界強度を変化させることができる。例えば、前記エミッタ101の先端にかかる電界強度を一定に保ったまま、前記電位分布の形状を変化することができる。このことによって、放出電流量を一定のまま、前記荷電粒子104の軌道を変えることができる。
【0054】
図2に前記複合引出し電極106を構成する前記電界抑制電極103と前記引出し電極102にそれぞれ電圧Vsuと電圧Vexとが印加されている場合を示す。電圧{Vsu,Vex}の組み合わせによって、前記複合引出し電極106を一つの電子レンズとして動作させる。前記電圧組み合わせによって、前記等電位線107の形状で示される電位分布の形状が変わり、前記エミッタ101の先端にかかる電界強度も変わり、前記エミッタ101から放出される荷電粒子104の量(電流量)と前記荷電粒子104の軌道が変化する。今、前記電圧の組み合わせを2通りとして、それぞれ{Vsu1,Vex1},{Vsu2,Vex2}の電圧組み合わせが印加された場合、前記電圧組み合わせによって放出される前記荷電粒子をそれぞれ荷電粒子(Vsu1,Vex1)104a、荷電粒子(Vsu2,Vex2)104bと明示的に示してある。前記引出し電極102より下流では等電位とすると前記荷電粒子104は力を受けずに直進するため、前記電圧組み合わせによって前記荷電粒子104の軌道の漸近線がそれぞれ荷電粒子軌道漸近線(Vsu1,Vex1)113aと荷電粒子軌道漸近線(Vsu2,Vex2)113bが引け、それぞれが前記光軸105と交わる位置にそれぞれ仮想光源(Vsu1,Vex1)114a、仮想光源(Vsu2,Vex2)114bが形成される。
【0055】
図3に前記電界抑制電極103が無い場合と有る場合の前記エミッタ101の先端部分の電位分布形状と前記荷電粒子104の軌道の違いを示す。
図3(a)は前記電界抑制電極103が無い場合を示し、前記引出し電極102に印加される電圧でのみ前記荷電粒子104を前記エミッタ101から放出される従来の構成と方法である。前記エミッタ101の先端にはくさび状の電位分布が形成される。
図3(b)は前記電界抑制電極103が前記エミッタ101と前記引出し電極102との間に配置された場合を示し、前記エミッタ101と前記電界抑制電極103の間には前記電界抑制電極103の穴から前記凸形の電位分布が染み出している。前記エミッタ101は該凸形電位分布に突き刺さるように配置され、前記エミッタ101から放出された前記荷電粒子104(Vsu,Vex)は前記光軸105の方向に力を受けるため、前記荷電粒子104(Vsu,Vex)の前記放出角116は
図3(a)に示した場合に比べて小さくすることができる。
図3(c)は
図3(b)に示す前記電界抑制電極103と前記引出し電極102とで構成される前記複合引出し電極106を明示的に示したものである。該複合引出し電極106はあたかも一つの電極のように扱え、かつ、電位分布の形状と電界強度の2つを同時に変えることができる。このことから該複合引出し電極106により換算輝度Brと角電流密度I’とを同時に変えることができるようになる。以下、上述した動作を原理的に詳述する。
【0056】
前記エミッタ101の性能を評価する指標に前記換算輝度Brと前記角電流密度I’とがあり、それぞれ数1,数2であらわされる。
【0057】
【0058】
【0059】
ここで、
I:エミッション電流量[A]
r:光源半径[m]
θ:荷電粒子放出角[rad]
V:引出し電圧[V]
π:円周率
である。
【0060】
前記換算輝度Brは保存量であり、軸上のどの収束点でも変化せず、前記エミッタ101固有のものである。前記エミッション電流量Iは前記エミッタ101の物性に起因する因子(例えば、仕事関数、結晶性、方位等)と前記エミッタ101の外部環境(例えば、真空度、温度、エミッタ表面にかかる電界強度F等)に起因する因子とがあるが、今、前記電界強度F以外の因子は一定と仮定し、前記エミッション電流量Iは前記電界強度Fのみの関数とする。従って、前記エミッタ101の先端での前記電界強度Fが一定であれば、前記エミッション電流量Iも一定とする。
【0061】
図3(a)に示す場合、前記エミッション電流量Iは前記引出し電極102に印加される電圧によって一意に決まってしまう。また、前記電位分布および電界強度も一意に決まってしまうため、前記エミッタ101から放出される前記荷電粒子104(Vex)の軌道も決まり、前記放出角116も決まってしまう。一方、
図3(b)および
図3(c)に示す前記複合引出し電極106を用いた場合、前記電圧組み合わせ{Vsu,Vex}によって前記エミッション電流量I,前記荷電粒子104(Vsu,Vex)の軌道および前記放出角116が決まる。この場合の換算輝度Brも数1および数2で算出されるが、数1中の引出し電圧Vは前記引出し電極102に印加される電圧Vexとなる。該電圧Vexと前記電界抑制電極103に印加される電圧によって前記エミッション電流量Iと前記光源半径rと前記荷電粒子放出角θが変化する。ここで前記光源半径rとは前記仮想光源114(Vsu,Vex)のことである。前記複合引出し電極106を一つの電極とみた場合、前記複合引出し電極によるレンズ作用によって生じる収差(球面収差および色収差)の大きさが前記仮想光源114(Vsu,Vex)の大きさに反映された換算輝度Br
~となる。
【0062】
今、前記エミッション電流量Iが一定となるように前記電圧組み合わせ{Vsu,Vex}を2つ、{Vsu1,Vex1},{Vsu2,Vex2}とする場合を考える。前記荷電粒子104(Vsu,Vex)は前記等電位線の法線方向に力を受けるため、前記複合引出し電極106において、前記電界抑制電極103に印加する電圧を高めると前記荷電粒子104(Vsu,Vex)は光軸から発散する方向に進み、前記引出し電極102に印加する電圧を高めると前記荷電粒子104(Vsu,Vex)は光軸に収束する方向に進む。今、2つの前記電圧組み合わせが等しい状態{Vsu0,Vex0}から、Vex1<Vex0<Vex2の状態にする。Vex1が小さくなるため、前記エミッション量Iを維持するためにVsu1>Vsu0としなければならない。この場合、前記荷電粒子104a(Vsu1,Vex1)はより発散する。また、Vex2は大きくなるため、前記エミッション量Iを維持するためにVsu2<Vsu0としなければならない。この場合、前記荷電粒子104b(Vsu2,Vex2)はより収束する。また、それぞれの前記電界組み合わせの換算輝度は数1および数2から、それぞれ数3と数4であらわされる。
【0063】
{Vsu1,Vex1}の場合の指標を1とし、{Vsu2,Vex2}の場合の指標を2で表現する。
【0064】
【0065】
【0066】
今、前記エミッション量Iは一定であるから、前記エミッタ101の先端にかかる電界強度Fも一定であるから、数3,数4であらわされる換算輝度は等しい(Br1=Br2)。よって、r2は数5となる。
【0067】
【0068】
θ1>θ2、Vex1<Vex2であるから、必ずしもr1<r2となるわけではない。しかしながら、上述したように前記複合引出し電極106を一つの電極とみなして、該電極で形成されるレンズ作用による収差が加わり、仮想光源はr2よりも大きくなり(r3とする)、前記換算輝度Br2は低下する(これをBr2~とする)。該換算輝度Br2~が新たな保存量となる。一方、前記角電流密度I’は前記放出角116(θ2)が小さくなり、数2から大きくなる。従って、前記電圧組み合わせ{Vsu,Vex}を調節することによって前記換算輝度Br2~と角電流密度I’を変化させることができる。この際、前記換算輝度Br2~が前記複合引出し電極106の収差によって低下するが、該複合引出し電極106を前記エミッタ101の先端から1mm以内に配置すれば、前記荷電粒子104(Vsu,Vex)が前記光軸105に近いため前記収差が小さくなり、前記換算輝度Br2~の低下も小さくなる。よって、該複合引出し電極106を構成する前記電界抑制電極103と前記引出し電極102にそれぞれ印加する電圧を調節することで、前記換算輝度Br2~と前記角電流密度I’との背反関係を成立させる。
【0069】
特に高輝度電子源と呼ばれる電界放出型電子源の場合、前記電界放出型電子源は高輝度である反面、角電流密度が小さく大電流を要する装置には不向きであるが、該複合引出し電極106を用いた場合には、前記換算輝度Br2~と前記角電流密度I’との背反関係によって最適な前記換算輝度Br2~と前記角電流密度I’に調節することができる。
【0070】
前記複合引出し電極106において、前記電界抑制電極103の穴から前記エミッタ101側に凸型に染み出した電位分布はDavisson-calbicの式(表記していない)で表されるが、
図1に示した前記電界抑制電極103の軸上中心での電位Φ
0は数6となる。
【0071】
【0072】
ここで、
R:電界抑制電極穴半径[m]
L:電界抑制電極と引出し電極との距離[m]
Vsu:引出し電圧[V]
α:係数[-]
である。
【0073】
もし、前記電界抑制電極103の厚さが極めて小さい場合には、前記係数αは数7で表され、約0.318である。また、前記電界抑制電極103の厚さを1mmとして数値計算による電場解析をしたところ前記係数αは0.274であったことから、一般性を失わずに前記係数αは数8で表される。
【0074】
【0075】
【0076】
図1において、前記エミッタ101の先端から電子を(熱)電界放出させるには、一般的に5×10
7[V/m]以上の電界強度Feを前記エミッタ101の先端にかける必要があるが、一般的に前記電界強度Feは数9で表される。
【0077】
【0078】
ここでβは前記エミッタ101と前記電界抑制電極103の形状とディメンジョンに起因する形状因子係数である。今、電子を(熱)電界放射させるとし、前記βを不定として前記電界抑制電極103に印加する電圧範囲をナノチップ(nano tip)の場合とシッョトキーエミッタ(TFE:Thermal Field Emission)または冷陰極(CFE:Cold Field Emission)の場合で考えると、それぞれ前記Φ0の値は数10及び数11となる。
【0079】
【0080】
【0081】
前記電圧Φ
0の範囲と前記係数αの範囲から、数6を変形して得られる数12と数13の数値を
図4に示す。
【0082】
【0083】
【0084】
特に、数13で表す前記R/LはVex=500V,1kV,2kV,5kV,10kV,20kVの場合を示したが、この数値に限定されず一般性を失わず500V以上20kV以下で連続と考えてよい。また、前記R/Lは電極位置に関する比を表しているため、本発明による荷電粒子銃における前記複合引出し電極106に要求される条件となる。また、前記電圧Φ0は数10または数11に限定されるものではなく、前記エミッタ101の先端半径が1μmの場合として、前記複合引出し電極106の前記R/Lが数14を満たす。
【0085】
【0086】
また、前記エミッタ101の先端半径が100nm以下の場合として、前記複合引出し電極106の前記R/Lが数15を満たす。
【0087】
【0088】
また、前記エミッタ101の先端半径が100nm以上1μm以下の場合として、前記複合引出し電極106の前記R/Lが数16を満たす。
【0089】
【0090】
前記数14乃至数16は前記複合引出し電極106を用いて前記エミッタ101の先端から電子を(熱)電界放射させるための前記電界抑制電極103の穴径Rと前記電界抑制電極103と前記引出し電極102との距離Lとの比を示したものであるが、
図1に示す前記荷電粒子104の軌道は前記複合引出し電極106に印加される前記電圧組み合わせ{Vsu,Vex}または、前記エミッタ101の先端と前記電界抑制電極103との距離L
0の値によっては、前記複合引出し電極106で作られる電子レンズとしての作用によって前記エミッタ101の先端から放出された後前記光軸105上でクロスオーバーをもつ場合もある。
図5を用いて前記荷電粒子104の軌道を説明する。前記複合引出し電極106による電子レンズとしての電子レンズ主面122は前記電界抑制電極103の中心近傍にできるが説明を簡略化するために前記電界抑制電極の中心とする。また、仮想光源位置は前記エミッタ101の先端近傍に作られるため説明を簡略化するために前記仮想光源位置は前記エミッタ101の先端とする。前記電界抑制電極103の中心を前記電子レンズ主面122とした電子レンズは単孔レンズとなり同図において明示的に単孔レンズ121と示してある。前記単孔レンズ121の焦点距離fはDavisson-calbicの式(表記していない)から前記エミッタ101と前記電界抑制電極103との電位が等しい場合には数17で表される。
【0091】
【0092】
従って、前記光軸105と平行に入射した前記荷電粒子104cは前記光軸105と前記クロスオーバーを持ち、該クロスオーバーは前記電子レンズ主面122から前記エミッタ101と反対側にある。また、前記電子レンズ主面122から前記エミッタ101側に距離L0で仮想光源114があり、前記荷電粒子104dが前記クロスオーバーを前記エミッタ101と反対側に前記電子レンズ主面122からL1の距離にある場合、数18に示す関係がある。
【0093】
【0094】
よって、数18からL1は数19で表される。
【0095】
【0096】
数17から、L0=f=4×Lの場合、前記仮想光源114から出た前記荷電粒子104eは前記電子レンズ主面122を通過後、前記光軸105と平行になる。
【0097】
数19から、L0<f=4×Lの場合、L1<0となり、前記クロスオーバーは虚像として前記電子レンズ主面122の前記エミッタ101側にできる。仮想光源位置を前記電子レンズ主面122から前記エミッタ101側に距離L0aとし前記クロスオーバーが前記電子レンズ主面122から前記エミッタ101側に距離L1aにできるとして、該クロスオーバーを前記仮想光源114として前記荷電粒子104fが放出される。
【0098】
従って、本発明による荷電粒子銃において、前記エミッタ101から前記荷電粒子104が放出後クロスオーバーを作らない条件が数20で表される。
【0099】
【0100】
本発明による荷電粒子銃において、前記エミッタ101の半径rが50nmのナノチップである場合、例えば、前記電界抑制電極103の穴の半径R、前記電界抑制電極103と前記引出し電極102との距離L、前記エミッタ101の先端と前記電界抑制電極103との距離L0、前記エミッタ101に印加される電圧Vem、前記電界抑制電極103に印加される電圧Vsu、前記引出し電極102に印加される電圧Vexが次のようにすると、数15及び数20を満たす。
【0101】
R/L=0.4
R=0.2mm
L=0.5mm
L0=0.2mm
Vm=0V
Vsu=0V
Vex=2.2kV
【0102】
また、前記エミッタ101の半径rが0.5μmのショットキーエミッタである場合、例えば、前記電界抑制電極103の穴の半径R、前記電界抑制電極103と前記引出し電極102との距離L、前記エミッタ101の先端と前記電界抑制電極103との距離L0、前記エミッタ101に印加される電圧Vem、前記電界抑制電極103に印加される電圧Vsu、前記引出し電極102に印加される電圧Vexが次のようにすると、数16及び数20を満たす。
【0103】
R/L=0.5
R=1mm
L=2mm
L0=0.5mm
Vem=0V
Vsu=0V
Vex=20kV
【0104】
図6(a)に前記エミッタ101を電界放出型電子源として前記複合引出し電極106を用い、該複合引出し電極106を構成する前記引出し電極102と前記引出し電極102にそれぞれ印加する電圧組み合わせ{Vsu=150V,Vex=150V}で前記荷電粒子104(電子)を前記エミッタ101から前記エミッション電流量10nA放出させた場合の電位分布計算結果と該荷電粒子104(電子)の軌道計算結果を示す。換算輝度2.4×10
9[A/m
2/sr/V]、角電流密度7.22×10
-7[A/sr]である。
図6(b)に前記エミッタ101を
図6(a)に示すものと同じとし、前記複合引出し電極106を用い、該複合引出し電極106を構成する前記引出し電極102と前記引出し電極102にそれぞれ印加する電圧組み合わせ{Vsu=0V,Vex=6000V}で前記荷電粒子104(電子)を前記エミッタ101から放出させた場合の電位分布計算結果と該荷電粒子104(電子)の軌道計算結果を示す。
図6(a)に示す前記エミッタ101の先端にかかる電界強度となり前記エミッション電流も同じである。換算輝度2.65×10
8[A/m
2/sr/V]、角電流密度7.97×10
-5[A/sr]である。このように、該換算輝度と該角電流密度の背反関係を成立させる。
【0105】
図6(b)に示すように、前記電界抑制電極103の穴のエミッタ側はお椀形状、または斜面であるため、前記エミッタ側染み出した等電位線107は前記電界抑制電極103の穴の斜面に沿ってより凸形状に染み出し、該等電位線107の法線方向に前記エミッタ101の先端から放出された前記荷電粒子104は力を受け、より前記光軸105の方向に曲げられる。
【0106】
また、前記等電位線107の法線は前記電界抑制電極103の半径Rが小さくなると前記電界抑制電極103の穴のエミッタ側に前記等電位線107が染み出さなくなるので、前記電界抑制電極の穴の半径Rと、前記電界抑制電極と前記エミッタ先端との距離L0との比L0/Rが1以下とする。
【実施例2】
【0107】
荷電粒子銃は、荷電粒子を放出するエミッタと、前記エミッタを中心とした光軸上で前記エミッタ直下に配置される電界抑制電極と前記電界抑制電極直下に配置される引出し電極とで構成される複合引出し電極と、前記エミッタの先端から該エミッタ針側に配置された抑制電極と、前記電界抑制電極に印加される電圧と前記引出し電極に印加される電圧と前記抑制電極に印加される電圧とで、前記エミッタ側に前記電界抑制電極の穴から凸形に染み出した電位分布を形成し、前記エミッタの先端に強電界を形成する。
【0108】
図7に本発明の一実施例を示す。以下、図面を元に詳述する。本実施例の動作は実施例1と同等であるが、前記エミッタ101の先端から該エミッタ針側に配置された抑制電極111は前記エミッタ101に温度が印加された場合に、該抑制電極111に抑制電源119から印加された抑制電圧によって、該エミッタ針から放出される熱電子120を図示していない試料側に飛んで行かないように跳ね返す。また、前記電界抑制電極103と前記引出し電極102と前記抑制電極111とにそれぞれ印加される電圧組み合わせによって、換算輝度と角電流密度とを最適に調整する。
【0109】
以上、本発明の実施例を述べたが、これらに限定されるものではない。例えば、荷電粒子源から放出される荷電粒子ビームの輝度および角電流密度を制御する方法も含まれる。
【符号の説明】
【0110】
101:エミッタ
102:引出し電極
103:電界抑制電極
104:荷電粒子
104a:荷電粒子(Vsu1,Vex1)
104b:荷電粒子(Vsu2,Vex2)
104c:荷電粒子
104d:荷電粒子
104e:荷電粒子
104f:荷電粒子
105:光軸
106:複合引出し電極
107:等電位線
108:加速電源
109:引出し電源
110:電界抑制電源
111:抑制電極
112:荷電粒子ビーム
113:荷電粒子軌道漸近線
113a:荷電粒子軌道漸近線(Vsu1,Vex1)
113b:荷電粒子軌道漸近線(Vsu2,Vex2)
114:仮想光源
114a:仮想光源(Vsu1,Vex1)
114b:仮想光源(Vsu2,Vex2)
115:絞り
116:放出角
117:二次電子
118:ガス分子
119:抑制電源
120:熱電子
121:単孔レンズ
122:電子レンズ主面
【要約】
高輝度荷電粒子源は高い輝度を持つ一方、その角電流密度が低く、大電流取得時には電子レンズ系の収差が大きくなり、空間分解能を劣化させる。
2枚の電極からなる複合引出し電極をエミッタ直下に配置された一つの電極として扱い、2つの電極に印加される電圧組み合わせによってエミッタ側に凸形の電位分布を形成し、エミッタ先端で凹形の電位分布を形成させることで、荷電粒子ビームの放出角度を狭め、角電流密度を調整する。該複合引出し電極によるレンズ作用はエミッタ先端直下で働くため収差が極めて小さく、大電流取得時においても、空間分解能の劣化がない。