(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】開孔ビット
(51)【国際特許分類】
C21B 7/12 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
C21B7/12 302
(21)【出願番号】P 2020119519
(22)【出願日】2020-07-10
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】594086152
【氏名又は名称】株式会社丸和技研
(74)【代理人】
【識別番号】100179165
【氏名又は名称】宇都宮 将之
(72)【発明者】
【氏名】嘉屋 文康
(72)【発明者】
【氏名】緒方 勤
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-133594(JP,A)
【文献】実公平08-010517(JP,Y2)
【文献】中国特許出願公開第105018674(CN,A)
【文献】韓国登録実用新案第20-0415893(KR,Y1)
【文献】特開2017-082288(JP,A)
【文献】特開2018-178626(JP,A)
【文献】特開2006-307258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 7/00 - 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
台金に繰粉排出溝、突出端面、ブレード部、噴出口を形成する溶鉱炉の出銑口用開孔ビットであって、
当該開孔ビットは略円錐形状の砕削部を有し、
当該砕削部の略円錐形状の傾斜表面上に少なくとも3以上の前記ブレード部を設け、
当該ブレード部は、前記開孔ビットを先端部から見た際に、略均等になるように前記開孔ビットの斜面にブレード部の数等分で形成し、
前記開孔ビット内部には中空部を形成し、
前記繰粉排出溝は当該開孔ビットの外周に少なくとも1以上形成し、
前記突出端面は隣り合う当該繰粉排出溝との間にそれぞれ形成され、
前記噴出口は前記開孔ビットの円錐形状の傾斜表面上と前記繰粉排出溝の表面上に少なくとも1以上形成される、
ことを特徴とする溶鉱炉の出銑口用開孔ビット。
【請求項2】
台金に繰粉排出溝、突出端面、ブレード部、噴出口を形成する溶鉱炉の出銑口用開孔ビットであって、
当該開孔ビットは略円錐形状の砕削部を有し、
当該砕削部の略円錐形状の傾斜表面上に少なくとも1以上の前記ブレード部を設け、
当該ブレード部は逃げ角γを0~15°、刃物角βを60~100°、すくい角αを-1
5~15°になるように形成し、
前記開孔ビット内部には中空部を形成し、
前記繰粉排出溝は当該開孔ビットの外周に少なくとも1以上形成し、
前記突出端面は隣り合う当該繰粉排出溝との間にそれぞれ形成され、
前記噴出口は前記開孔ビットの円錐形状の傾斜表面上と前記繰粉排出溝の表面上に少なくとも1以上形成される、
ことを特徴とする溶鉱炉の出銑口用開孔ビット。
【請求項3】
台金に繰粉排出溝、突出端面、ブレード部、噴出口を形成する溶鉱炉の出銑口用開孔ビットであって、
当該開孔ビットは先端側が砕削部、後端側がロッド固定部であり、
当該開孔ビットは略円錐形状の砕削部を有し、
当該砕削部の略円錐形状の傾斜表面上に少なくとも1以上の前記ブレード部を設け、
当該ブレード部が、第1の略三角形状ブレード部形成部材と第2の略台形形状ブレード部形成部材を含む2以上のブレード部形成部材から形成され、
前記台金にブレード部取付溝部を設け、当該ブレード部取付溝部に前記ブレード部を固定し、
前期略円錐状の開孔ビットの中央よりやや上の箇所から後端側に向けて略円錐形状の斜面と略平行な形で形成される第2の略台形形状ブレード部取付溝部を形成し、
当該第2の略台形形状ブレード部取付溝部の先端側の端部から略L字状に、当該L字状の1辺が前記開孔ビットのロッド固定部の後端面と略平行になる様に第1の略三角形状ブレード部取付溝部を形成し、
前記開孔ビット内部には中空部を形成し、
前記繰粉排出溝は当該開孔ビットの外周に少なくとも1以上形成し、
前記突出端面は隣り合う当該繰粉排出溝との間にそれぞれ形成され、
前記噴出口は前記開孔ビットの円錐形状の傾斜表面上と前記繰粉排出溝の表面上に少なくとも1以上形成される、
ことを特徴とする溶鉱炉の出銑口用開孔ビット。
【請求項4】
前記台金にブレード部取付溝部を設け、当該ブレード部取付溝部に前記ブレード部を固定することを特徴とする請求項1又は2に記載の溶鉱炉の出銑口用開孔ビット。
【請求項5】
前記ブレード部形成部材の1方が略三角形状、他方が略台形形状であることを特徴とする
請求項3に記載の出銑口用開孔ビット。
【請求項6】
前記開孔ビットにおいて、先端側が砕削部、後端側がロッド固定部からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の出銑口用開孔ビット。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか1項の溶鉱炉の出銑口用開孔ビット、及び当該開孔ビットに連結される中空ロッドが中心軸を共有する状態で螺合されている高炉の出銑口開孔機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶鉱炉の出銑口に充填されているマッドを出銑口開孔機で開孔し、銑鉄を流し出すための開孔ビットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
銑鉄を製造する高炉は、高温で鉄鉱石を溶かした溶鉄を取り出す出銑を行うために、一般的には炉下部に設けた出銑口を開孔する必要がある。溶鉄を排出していない際の出銑口は、不定形耐火物(マッド)で充填して封鎖しているためである。この出銑口の開孔作業は、開孔ビットをパイプロッドの先端に固定し、出銑口開孔機に装着した後、回転や打撃等により開孔する。この開孔作業の際に用いる開孔ビットとしては、種々の形状のものが使用される。
【0003】
これまでの開孔作業時には、開孔する場所を決めるのに時間を要していたり、開孔位置が決まらないため、開孔ビットがマッド面で揺動するために、ロッドが折れていたり、出銑マッド面を傷つけたりといった問題が生じることがあった。また、出銑マッド内に混在する地金(高炉から高温液体状の銑鉄が冷やされた固まったもの等)等の高硬度の異物により、開孔時間が増加(状況によっては中断)したり、開孔ビットの消耗が激しくなったりすることもあった。
【0004】
そのため、従来では事前に出銑口開孔機に装着したロッドの先端で一定距離を開孔し、その後ロッドを引抜いて開孔ビットを装着して改めて充填マッドを開孔する2段階方式が行われることもあった。しかし、2段階方式で開孔作業を行うため、作業も煩雑となり、生産性が向上しないばかりか、危険な作業も伴うため作業環境面でもあまり好ましいものではなかった。さらに、地金等の高硬度の異物の存在により開孔作業ができなくなった場合、一旦作業を中断し、強制的に地金等を除去する作業を強いられることになる。
【0005】
そこで1段階方式である開孔方法を可能とするため、前記ロッド及び開孔ビットの内部に高圧水を通過させて冷却し、ビットの先端から水(液状、ミスト状等も含む、以下同じ)を噴出して砕削屑を除去する方法が知られている(例えば特許文献1)。
【0006】
また、出銑口充填マッドを一段階開孔することを可能とした開孔ビットも知られている(例えば特許文献2)。この開孔ビットは、ビット自身が振動するおそれがなく中心軸に沿って充填マッド内を推進し充填マッドをすぐに開孔することができる点で優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-13113号
【文献】特開2006-307258号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、ロッド、開孔ビット及び充填マッドを冷却した状態で1段階開孔を行うものであるため、開孔ビットの中心線の回りの回転振動による振れを防止することは困難であり、開孔中心線に沿う一発開孔をスムーズに適格に行うことは困難であった。
【0009】
また、上記特許文献2に記載の方法では、マッドの開孔位置を決めて開孔を始めた後はビットの平坦面でマッドを削り進めることなるため、開孔に少し時間がかかることもあり、より短時間で開孔できるような改良の余地があった。
【0010】
また、上記開示された技術は、出銑マッド内に混在する地金(高炉から高温液体状の銑鉄が冷やされた固まったもの等)等の高硬度の異物対策は考慮されていないものである。出銑マッド内に地金が形成されていた場合、従来の開孔ビットを使用する場合は開孔作業を一旦中断し、作業中の開孔ビットを一旦引き抜いて地金除去用のロッド等を用いて地金を除去する作業などが発生してしまい、作業時間が大幅に長引いてしまうといった課題が残る。
【0011】
そこで、本発明の主たる課題は、出銑口充填マッドを1段階開孔し、かつ、開孔時の直進性や掘削性を向上させることにある。また、出銑マッド内に混在する地金(高炉から高温液体状の銑鉄が冷やされた固まったもの等)等の高硬度の異物があったとしても、地金等を除去する作業を行うことなく通常の作業で開孔することにある。さらには、これにより生産性向上やコスト削減を実現させる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の(1)~(7)に関する。
(1)台金に繰粉排出溝、突出端面、ブレード部、噴出口を形成する溶鉱炉の出銑口用開孔ビットであって、当該開孔ビットは略円錐形状の砕削部を有し、当該砕削部の略円錐形状の傾斜表面上に少なくとも1以上の前記ブレード部を設け、前記開孔ビット内部には中空部を形成し、前記繰粉排出溝は当該開孔ビットの外周に少なくとも1以上形成し、前記突出端面は隣り合う当該繰粉排出溝との間にそれぞれ形成され、前記噴出口は前記開孔ビットの円錐形状の傾斜表面上と前記繰粉排出溝の表面上に少なくとも1以上形成される、ことを特徴とする溶鉱炉の出銑口用開孔ビット。
(2)前記台金にブレード部取付溝部を設け、当該ブレード部取付溝部に前記ブレード部を固定することを特徴とする前記(1)に記載の溶鉱炉の出銑口用開孔ビット。
(3)前記ブレード部を少なくとも3以上形成することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の溶鉱炉の出銑口用開孔ビット。
(4)前記ブレード部が2以上のブレード部形成部材から形成されることを特徴とする前記(1)から(3)のいずれか1つに記載の出銑口用開孔ビット。
(5)前記ブレード部形成部材の1方が略三角形状、他方が略台形形状であることを特徴とする前記(4)に記載の出銑口用開孔ビット。
(6)前記開孔ビットにおいて、先端側が砕削部、後端側がロッド固定部からなることを特徴とする前記(1)から(5)のいずれか1つに記載の出銑口用開孔ビット。
(7)前記(1)から(6)のいずれか1つに記載の溶鉱炉の出銑口用開孔ビット、及び前記中空ロッドが中心軸を共有する状態で螺合されている高炉の出銑口開孔機。
【発明の効果】
【0013】
本発明の開孔ビットによれば、出銑口充填マッドを1段階開孔し、かつ、開孔時の直進性や掘削性を向上させることが可能となる。さらに、出銑マッド内に形成された地金等の高硬度の異物があった場合でも、別途地金等を除去する作業を行うことなく、通常の開孔作業の工程で地金を避けつつ開孔することが可能となるため作業効率も改善される。また、従来のボタン形状の超硬チップを使用した開孔ビットと比べると、この様な金属製の地金が存在する場合であっても、ブレード部を有する開孔ビットであれば刃物で金属を切削するように地金を削ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態の開孔ビットの(a)平面図と(b)正面図を示す。
【
図2】本発明の実施形態の開孔ビットの断面図を示す。
【
図3】本発明の実施形態の開孔ビットのブレード部を装着する前の(a)平面図と(b)正面図を示す。
【
図4】本発明の実施形態の開孔ビットのブレード部を装着する前の断面図を示す。
【
図5】本発明の実施形態の開孔ビットをロッドに取り付けた状態を示す。
【
図6】本発明の実施形態の開孔ビットを用いて出銑口に充填されているマットを開 孔する状態の概略図を示す。
【
図7】本発明の実施形態の開孔ビットが地金が形成された充填マッドを開孔する状 態の示す概略図である。
【
図8】本実施形態の開孔ビットと従来の開孔ビットにおける充填マッドの内部に地 金が形成された際の開孔作業の状態を示す。
【
図9】
刃物の形状における、すくい角α、刃物角β、逃げ角γを説明する図である
。
【
図10】
本発明の実施形態の(a)第1のブレード部形成部材2’と (b)第2
のブレード部形成部材を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参酌して説明する。
図1の(a)は本実施形態の開孔ビット1の平面図、
図1の(b)は本実施形態の開孔ビット1の正面図を示す。
図1において、2は充填マットを削るブレード部、3は空気や水等の噴出口、4は充填マットを掘削することにより発生する繰粉を排出するための繰粉排出溝、5はロッドを取り付けるためのロッド取付部、6は突出端面を示す。
【0016】
本実施形態の前記ブレード部2は2種の形状のブレード部形成部材を組み合わせることにより形成する。開孔ビット1の先端側に形成される第1のブレード部形成部材2’は
図2と
図10に示す断面のように略三角形状のものであり、開孔ビット1の後端側に形成される第2のブレード部形成部材2’’は
図2と
図10に示す断面のように略台形状のものを用いる。また、前記ロッド取付部5は開孔ビット1の中心軸線を共有するものである(厳密に同一の中心軸線を共有するものではなくても良い)。本実施形態のロッド取付部5は円柱形状のものを形成する。
【0017】
本実施形態の開孔ビット1は、上端側に略円錐状の形態の砕削部10を形成し、後端側にロッド取付部5を形成する。本実施形態においては、砕削部10とロッド取付部5は同じ台金から削り出しすることで形成した。また、台金にブレード部2を設けない状態の砕削部10は、正面図(
図3(a))でみると略円錐状の先端部が、ロッド固定部5の後端部と略平行な面を有する形状となる。さらに、本実施形態においては砕削部10の斜面表面上のブレード部2とブレード部2の間に噴出口3を1つ設け、当該噴出口3の突出端面6と突出端面6の間の繰粉排出溝部4にも噴出口3を1つ設ける。本実施形態によれば、ブレード部2を3個使用して開孔作業を行うためスムーズな回転破削が可能となり、噴出口3は上記の箇所に形成するだけで砕削屑を外部に排出することが可能になる。
【0018】
また、本実施形態においては、砕削部10の略円錐状の傾斜表面上に3個のブレード部2を設置するためのブレード部取付溝部8を形成した。当該ブレード部取付溝部8は、開孔ビット1を先端部から見た場合(
図1(a)、
図3(a)の正面図参照)、略均等になるように開孔ビット1の斜面に3等分で形成した(例えば本実施例では3等分としたが、2等分や4等分、5等分以上としてもよいし、等分としなくてもよい。)。
当該ブレード部取付溝部8は、開孔ビット1の砕削部10の略円錐状の先端部は正面から見たときに平面となる。これは
図1~
図4で示す通り、2つの形状のブレード部を砕削部に形成するための構造であるからである。略円錐状の中央よりやや上の箇所から砕削部10後端側に向けて略円錐形状の斜面と略平行な形で形成される第2のブレード部取付溝部を形成する。さらに、当該第2のブレード部取付溝部の先端側の端部から略L字状に、当該L字状の1辺が開孔ビットのロッド固定部5の後端面と略平行になる様に第1のブレード部取付溝部を形成する。これらの構造により、略L字状の第1のブレード部取付溝部に略三角形状のブレード部を挿入して固定することが可能となり、さらに砕削部の斜面に形成された第2のブレード部取付溝部に沿うようにブレード部を挿入して取り付けることが可能となる。この様なブレード部を取付ける構造により、開孔作業を行う際には、第1のブレード部取付溝部の略L字状の1辺(ロッド固定部5の後端面と略平行になる辺)で打撃・回転による力を受ける事が可能となり、より強い力で砕削することが可能になり、ブレード部2の交換頻度等も少なくすることが可能となる。ブレード部2は先端に形成されているため、打撃力を直接受ける部材となる。打撃力を台金に受けやすい構造にするために、平行面を設けた。また、刃先は打撃力を受ける部材のため、割れ、欠けの損傷が起こる可能性がある。この点で、ブレード部を1体型のものを用いた場合と比較して、ブレード部全体の損傷をより抑えることができ、砕削能力を向上させることができる。これにより、ブレード部が損傷しても損傷部分が最小限になるように、2分割としたブレード部2を使用することがより好ましい。
【0019】
当該開孔ビット1は平面図で見ると(
図1(a)、
図3(a))、開孔ビット1の外周を複数に分けた状態(例えば本実施例では3等分としたが、2等分や4等分、5等分以上としてもよいし、等分としなくてもよい。)で、それぞれ砕削部10の略円錐形状の中ほどから下端にわたってその外周面を切り欠いて繰粉排出溝部4を設けた形状をしている。すなわち、開孔ビット1の砕削部10の箇所の外周面には、前記繰粉排出溝部4(合計3カ所)と、隣り合う繰粉排出溝部4,4の間にそれぞれ形成される突出端面6(合計3カ所)とが形成され、前記繰粉排出溝部と同じ数だけ形成されることになる。なお、本実施例では前記繰粉排出溝部4および突出端面6の数は、ともに3つずつであり、これにより、開孔ビット本体1の平面視は繰粉排出溝部が中央に向かって凹んだ形状となる。従って、本実施形態では繰粉排出溝部は
図1(a)や
図3(a)で示すように平面図で見た際に略円弧状に切り欠いた形状となる。
【0020】
図2は本実施形態の開孔ビット1の断面図を示す。本実施形態の開孔ビット1は中空部7を有しており、
図1で図示した空気や水の噴出口3の経路に繋がっている。この構造により、開孔作業により発生した充填マットやビットやチップ砕削屑等を、繰粉排出溝部4を通じて充填マット40の開孔口から出銑口外に排出しながら、出銑口30の充填マットを開孔して出銑する。
【0021】
図3は本実施形態の開孔ビット1のブレード部を装着する前の図面を示し((a):平面図、(b):正面図)、
図4は本実施形態の開孔ビット1のブレード部を装着する前の断面図を示す。ここで、8はブレード部取付溝部であり、本実施形態においては当該ブレード取付溝部8にブレード部2を差し込んで固定することによりブレード部を台金に形成する。
【0022】
本実施形態の開孔ビット1にはブレード部2を3個形成した。ブレード部の材質は特に限定するものではなく、鉄や鋼等、台金と同一の素材を用いても良い。例えば、クロムやマンガンを多く含んだ合金鋼(高クロム鋼、高マンガン鋼)や鋳鋼(高クロム鋳鋼、高マンガン鋳鋼)であったり、硬質粒子(超硬粒やサーメット粒)を含んだ合金鋼や鋳鋼などもブレード部2の材料として使用できる。より効率よく開孔を行うためには炭化タングステンとコバルトを混合して焼結させた超硬合金や、それらに炭化チタンや炭化タンタル等を添加した素材を使用することが好ましい。一般的に刃物の形状は、
図9に示すようにすくい角α、逃げ角γを有し、すくい角は工具進行方向の前面に発生した切屑をすくい取る役目の角度、逃げ角は被削物と干渉しないように設ける角度である。刃物の先端角度を刃物角βといい、硬い被削物は刃物角を大きく、柔らかい被削物は、刃物角を小さくすることが一般的である。逃げ角γは大きくすると刃先の強度が低下するため、0~15°程度が望ましく、本実施形態の開孔ビットでは10°のものを使用した(
図2のγ参照)。また、刃物角βが小さくなると刃物強度が低下して欠けやすくなるため刃物角βの好適範囲として60~100°が好ましく(本実施形態では80°のものを使用)、すくい角αもなるべく小さくすることがよく、-15~15°くらいが望ましく(すくい角は負のすくい角が有る場合がある)、本実施形態の開孔ビットでは、0°のものを使用した。
【0023】
本実施形態の開孔ビット1に使用するブレード部2は、
図1(b)に示す通り正面図で見た際に、略円錐形状の先端部で3つのブレード部2の一方端が集まった状態で開孔ビット1の先端部を構成する形状となる。これにより、ブレード部2を設けた状態の砕削部10の形状も正面図で見た際には先端の平面が存在せずに略円錐形状となる。
【0024】
本実施形態ではブレード部2はブレード取付溝部8に挿し込んで真鍮ろうを用いてろう付によって固定する。本実施形態では、ろう材として真鍮ろうを用いて固定したがそれに限定されるものではなく、他のろう材、例えば銀ろうを用いてもよいし、溶接やその他の方法でもブレード部2を取り付けることが可能である。
【0025】
図5は本実施形態の開孔ビット1を中空ロッド20に取り付けた図を示す。本実施形態の開孔ビット1は、溶鉱炉の出銑口に充填されているマッドを開孔する際に使用される一般的な中空ロッド20と接続される。開孔ビットと中空ロッドの取り付け方は特に限定されるものではなく、ロッド取付部5を開孔ビット1の後端面(底面)に突設してこのロッド取付部5とロッドの先端面を溶接したり、ロッド取付部5の内部に雌ねじを形成し、中空ロッド先端に設けた雄ねじと螺合させて接続させたり、ロッド取付部5の外部表面に雄ねじを形成し、中空ロッド先端に凹状に設けた雌ねじと螺合させて接続させたりすることもできる。なお、本実施形態では、ロッド取付部5の内部に雌ねじを形成し、中空ロッド先端に設けた雄ねじと螺合させて接続させた。
【0026】
図6は、本実施形態の開孔ビット1をロッド20に装着して出銑口に充填されているマッドを開孔する状態の概略図を示す。当該ロッド20の開孔ビット1が装着される端部と反対の他方端側は図示しない出銑口開孔機に接続されている。出銑口開孔機に支持した中空ロッド20及び開孔ビット1を溶鉱炉の出銑口の中心線に沿って回転させながら前進させ、出銑口開孔機による打撃力を、ロッドを通じて開孔ビットに加えることによって当該開孔ビット1の斜面表面上に設けたブレード部2の一方端が集まった先端部から出銑口の充填マッド内に中心線に沿って推進する。この際に、開孔ビット1の先端がブレード部の一方端が集まった先端部を有しているため、当該先端部が中心線内にあって、開孔ビット1の円錐形状が充填マッドを回転しながら押圧し、当該ブレード部2が先端部から開孔ビット1の斜面表面に形成されることにより、中心線から外れることなく打撃力と回転力とによって中心線の方向に前進する。それと同時に開孔ビット1の斜面表面に形成したブレード部2が打撃・回動しつつ、充填マッドを砕削し、砕削屑は噴出口3から高圧噴出される空気や水によって前記繰粉排出溝から出銑口外に排出され、これを継続して中心線の方向に出銑口が一段階の操作で開孔される。なお、本実施形態で使用する中空ロッド20の長さは約6~6.5m、外径φ34~42.7mmであって、当該ロッド20の先端に中心軸線を共有する開孔ビット1の後端面を接続する。
【0027】
図7は充填マッドの内部に地金が形成された際の開孔作業の状態を示す。出銑口を開孔する際に、開孔作業の削孔時に充填マッドの削孔壁にき裂が生じたり、炉内に押し出された充填マッドの一部に横穴が形成されたりする場合がある(
図7(a)(b))。その後、炉内の溶銑を出銑する際に、このき裂や横穴に溶銑が残り冷えて固まった際に充填マッドの内部に地金が形成されるというのが地金の形成される理由の一つと考えられている(
図7(c)(d))。地金が残った状態で次の開孔作業を行う場合は前述の通り不都合が生じるため好ましくない。
【0028】
図8(a)は従来の開孔ビットを用いた開孔状態を示すもので、
図8(b)本実施形態の開孔ビット1を用いた開孔状態を示すものである。従来の開孔ビットだと地金に当たった際に、地金は突起部による打撃力で砕かれず、回転力によって削っていくイメージになる。地金がない部分は突起部で充填マッドを砕いていくため、地金部をよけて曲がっていく。(
図8(a))。これに対して、本実施形態の開孔ビット1を使用した場合、開孔ビット1の先端部(ブレード部2の一方端が集まっている箇所)が地金に当たった後に、打撃力によってブレードに地金が食い込み、回転によって地金を削っていき、地金を除去していくためそのまま直進していくことが可能である。従来の開孔ビットの場合は、開孔面と傾斜開孔面に設置されたチップの先端が、ほぼ同一面に設けられることから、開孔ビットのゲージ径内に地金のような金属質の材料が入っていると、削孔性が悪くなり、地金を破砕できずに避けて進行したり(曲がって進行)、超硬チップが地金に接触したりすることで、摩耗が激しくなったり、割れや欠けが著しく激しくなることで、削孔不可の状態になることが考えられる。曲がって削孔を進めると、局部的に削孔径が大きくなり、最悪の場合は炉壁を傷めてしまうことも考えられる。マッド材の充填量を最小限にするためには、同径で削孔を終えることが理想であり、孔壁を傷めないためにも、本実施形態の開孔ビットを使用して直進的に削孔することが求められる。
【0029】
本実施形態の開孔ビット1を使用することにより、開孔ビットの先端が鋭い形状であることにより充填マッドに錐が入る様に位置決めが容易であり、開孔し始めることができ、開孔時の直進性や掘削性を向上させることができる点で優れる。また、同様に略円錐状の開孔ビットの斜面表面上にブレード部を設けるため、出銑マッド内に混在する地金(高炉から高温液体状の銑鉄が冷やされた固まったもの等)等の高硬度の異物が存在したとしても、そのまま開孔作業を継続して行うことができる。これにより、開孔時間が増加(状況によっては中断)したり、開孔ビットの消耗が激しくなったりすることもなく、作業効率や経済性の面でも優れるものである。
【0030】
<その他の形態例>
(1)本実施形態においてはブレード部を別に形成してブレード取付溝部に挿し込んで使用したが、本発明はこれに限定されるものではなく、台金と一体成型によりブレード部を形成しても良い。
(2)本実施形態では前記ブレード部2として2つの形状のブレード部形成部材を組み合わせて使用したが、特にこれに限定されるものではなくブレード部2のみを一体成型することによって使用しても良いし、2以上のブレード部形成部材を使用しても良いし、2つ以上の形状のブレード部形成部材を使用しても良い。
(3)本実施形態では、砕削部10は台金から形成する際に先端部が平面となるように形成したが、それに限定されるものではなく、台金の状態から略円錐形状に形成し、その他にブレード部取付溝部を斜面表面に形成しブレード部を差し込んで形成しても良い。
(4)本実施形態では、繰粉排出溝部は略円弧状で切り欠いた形状としたが、略V字状、
略三角形状、略凹形状等で切り欠いた形状でも良い。
(5)本実施形態の開孔ビット1にはブレード部2を3個設けたが、特にこれに限定されるものではなく、3個より少なくても多くても本発明の効果を得られる範囲で使用可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 開孔ビット
2 ブレード部
2’ 第1のブレード部形成部材
2’’ 第2のブレード部形成部材
3 噴出口
4 繰粉排出溝
5 ロッド取付部
6 突出端面
7 中空部
8 ブレード部取付溝部
10 砕削部
20 中空ロッド
30 出銑口
40 充填マッド
50 地金
70 き裂
80 横穴