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特許7606829ゴム変性ポリスチレン系樹脂、スチレン系樹脂組成物、及び成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ゴム変性ポリスチレン系樹脂、スチレン系樹脂組成物、及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/04 20060101AFI20241219BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20241219BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20241219BHJP
   C08F 279/06 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C08L51/04
C08K5/01
C08K5/10
C08F279/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020125525
(22)【出願日】2020-07-22
(65)【公開番号】P2022021746
(43)【公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】平塚 義嗣
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-263415(JP,A)
【文献】特開平02-077066(JP,A)
【文献】特開昭62-018454(JP,A)
【文献】特開2000-103933(JP,A)
【文献】特開平10-072512(JP,A)
【文献】特開2011-162639(JP,A)
【文献】特開平04-227605(JP,A)
【文献】特開2010-234536(JP,A)
【文献】特開平06-016744(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0140672(US,A1)
【文献】国際公開第2020/025805(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 51/04
C08K 5/01
C08K 5/10
C08F 279/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム変性ポリスチレン系樹脂と、流動パラフィンとを含有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記ゴム変性ポリスチレン系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位及びスチレン系単量体単位を有するスチレン系共重合体と、前記スチレン系共重合体を含むマトリックス樹脂相に分散されたゴム状重合体粒子とを有し、前記ゴム状重合体粒子には前記スチレン系共重合体が内包されており、
前記スチレン系共重合体は、スチレン系単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位から構成され、
前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸s-ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸ラウリル又はアクリル酸t-ブチルの単量体単位であり、
前記ゴム状重合体粒子のゴム成分は、ポリブタジエンであり、
前記ゴム状重合体粒子の平均粒子径は1.0μm以上4.0μm以下であり、サラミ型
構造を有し、かつ前記ゴム状重合体粒子の含有量は、前記ゴム状重合体粒子及び前記スチ
レン系共重合体の合計量100質量%に対して、13.2質量%以上28.4質量%以下であり、
前記マトリックス樹脂相の90質量%以上100質量%以下を前記スチレン系共重合体が占めており、かつ前記スチレン系共重合体全体における前記スチレン系単量体単位の含有量は、85~99質量%であり、
前記スチレン系共重合体の還元粘度は、0.76以上0.9以下であり、
面衝撃強度が0.3kg・cm以上1.2kg・cm以下であり、
前記流動パラフィンは、前記スチレン系共重合体100質量部に対して、0.1~2.0質量部含有する、スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記ゴム状重合体粒子の表面は、前記スチレン系共重合体によりグラフトされた、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記スチレン系共重合体のメルトマスフローレイトは、3.0~12g/10minである、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
エステル系ラジカル捕捉剤をさらに有する、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1又は4のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物を成形してなる、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム変性ポリスチレン系樹脂、スチレン系樹脂組成物、及びこれらの成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂は、透明性、光沢及び耐候性に優れることから、自動車部品、電気関係部品、照明器具、ディスプレーなどの幅広い分野において使用されているが、衝撃強度が低く、用途が限定されている。特に、工業材料用途としてポリスチレン系樹脂を使用する場合、弾性率等の剛性をいかに低下させずに耐衝撃性を改良するかが重要となる。そのため、このような耐衝撃性を改良したポリスチレン系樹脂である耐衝撃ポリスチレン(HIPS)は、ゴム状粒子をポリスチレン樹脂マトリックスに分散した構造であることから、耐衝撃性、寸法安定性、成形加工性等に優れ、多岐にわたる技術分野において使用されている。
【0003】
しかし、近年の技術分野の多様化に伴い、以前より増して高い水準の耐衝撃強度、成形加工性等が要求されている。耐衝撃ポリスチレン(HIPS)の耐衝撃強度をさらに向上させる技術としては、例えば特許文献1及び2が挙げられる。一般的には、耐衝撃性を高めるには耐衝撃ポリスチレン(HIPS)中のゴム状粒子の配合量を上げることが知られている。しかし、ゴム状重合体の配合量を上げると、剛性、流動性が低下するという問題が生じることから、特許文献1の技術では、ポリスチレン樹脂マトリックスの連続相を構成する成分中に特定の分岐構造を有するビニル芳香族重合体成分を導入することにより、耐衝撃強度を損なう事なく、流動性を一層高めたゴム変性ビニル芳香族組成物を提供できる旨が開示されている。
【0004】
また、特許文献2の技術では、可塑剤として配合されたイソパラフィン系重合体と、スチレン系モノマー及び(メタ)アクリル酸アルキルの共重合体、更にはゴム質重合体の存在下にスチレン系モノマーと(メタ)アクリル酸アルキルとをグラフト共重合して得られる樹脂と、を含有するスチレン系樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-169920号公報
【文献】特開平11-071490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術のように、高い流動性を示すポリスチレン系樹脂組成物であっても、成形加工時に発生する金型汚れという問題が確認された。そして、この金型汚れは、上記特許文献1の技術に限らず、特許文献2に記載の可塑剤を含むゴム変性共重合樹脂組成物でも同様の金型汚れが確認された。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決するものであり、成形加工時に発生しうる金型汚れを低減し、且つ、流動性と耐衝撃性とを両立したゴム変性ポリスチレン系樹脂、当該ゴム変性ポリスチレン系樹脂を含有するスチレン系樹脂組成物及び当該樹脂組成物を成形して得られる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を進めた結果、ゴム状重合体粒子及びスチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を有するゴム変性スチレン系樹脂により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。特に、ゴム変性スチレン系樹脂と、エステル系ラジカル捕捉剤と、流動パラフィンとを含む系においては、優れた流動性及び耐衝撃性を維持しつつ、成形加工時に発生しうる金型汚れを低減することができる。
すなわち、本発明は下記に示すとおりである。
【0009】
[1]本実施形態は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位及びスチレン系単量体単位を有するスチレン系共重合体と、前記スチレン系共重合体を含むマトリックス樹脂相に分散されたゴム状重合体粒子を含有するゴム変性スチレン系樹脂と、を有し、
前記ゴム状重合体粒子には前記スチレン系共重合体が内包されていることを特徴とする、ゴム変性ポリスチレン系樹脂である。
[2]本実施形態において、前記ゴム状重合体粒子の表面は、前記スチレン系共重合体によりグラフトされることが好ましい。
【0010】
[3]本実施形態において、前記ゴム状重合体粒子は、前記スチレン系共重合体100質量部に対して、10~30質量部含有することが好ましい。
【0011】
[4]本発明に係るスチレン系樹脂組成物は、上記[1]~[3]に記載のゴム変性ポリスチレン系樹脂と、流動パラフィンとを含有することが好ましい。
【0012】
[5]本発明に係るスチレン系樹脂組成物は、エステル系ラジカル捕捉剤をさらに含有することが好ましい。
【0013】
[6]本実施形態において、前記流動パラフィンは、前記スチレン系共重合体100質量部に対して、0.1~2.0質量部含有することが好ましい。
【0014】
[7]本実施形態は、上記[4]~[6]のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物を成形してなる、成形体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、成形加工時に発生しうる金型汚れを低減し、また、成形体の機械的強度を十分に向上させることが可能なゴム変性ポリスチレン系樹脂、及び当該樹脂を含有するスチレン系樹脂組成物、並びに当該樹脂組成物を成形して得られる成形体を提供することにある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
本実施形態のゴム変性ポリスチレン系樹脂は、スチレン系共重合体と、当該スチレン系共重合体を含むマトリックス樹脂相に分散されたゴム状重合体粒子系樹脂とを、含有する。そして、前記スチレン系共重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位及びスチレン系単量体単位を有する。さらに、前記ゴム状重合体粒子は、前記スチレン系共重合体を内包する。
【0018】
ゴム変性ポリスチレン系樹脂中のスチレン系共重合体又は(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の存在により、比較的高い流動性及び優れた耐衝撃性を示し、成形時に金型汚れを低減できる。より詳細には、例えば、従来の耐衝撃性スチレンの代替として、本実施形態のゴム変性ポリスチレン系樹脂を組成物の成分として使用することにより、可塑剤(例えば、流動パラフィン)の量を低減できるため、可塑剤等の低分子由来の金型汚れを低減できる。
【0019】
「ゴム変性ポリスチレン系樹脂」
本実施形態のゴム変性ポリスチレン系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位及びスチレン系単量体単位を有するスチレン系共重合体を含むマトリックス樹脂相と、当該マトリックス樹脂相に分散されたゴム状重合体粒子と、を含有し、前記ゴム状重合体粒子は、前記スチレン系共重合体を内包する構成である。
以下、ゴム変性ポリスチレン系樹脂の必須成分であるスチレン系共重合体及びゴム状重合体粒子を説明する。
【0020】
(スチレン系共重合体)
本実施形態のスチレン系共重合体は、ゴム状重合体粒子の内部と外部とに存在しており、外部のスチレン系共重合体をマトリックス樹脂相と称している。また、ゴム状重合体粒子の内部にスチレン系共重合体が存在する場合は、後述のサラミ型構造又はコアシェル型構造を形成する。換言すれば、ゴム状重合体(粒子)の存在下でスチレン系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を重合させて得られるゴム変性スチレン系樹脂とすることもできる。
【0021】
以下、スチレン系共重合体の構成成分であるスチレン系単量体単位、及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、任意成分であるその他単量体単位について説明する。
【0022】
<スチレン系単量体単位>
本実施形態において、スチレン系共重合体を構成するスチレン系単量体としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。特に工業的観点からスチレンが好ましい。スチレン系単量体としては、これらを単独又は混合して使用できる。
【0023】
尚、本明細書における「スチレン系単量体単位」とは、スチレン系単量体由来の繰り返し単位を意味し、より詳細には、スチレン系単量体が重合反応又は架橋反応により、当該単量体中の不飽和二重結合が単結合になった構造単位をいう。尚、他の「単量体単位」の意味も上記と同様の意味である。
【0024】
スチレン系共重合体の好ましい形態において、当該スチレン系共重合体全体におけるスチレン系単量体単位の含有量は、好ましくは80~99質量%であり、より好ましくは85~99質量%であり、更により好ましくは90~98質量%である。
【0025】
本実施形態において、スチレン系共重合体中のスチレン系単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、及びその他の単量体単位の含有量は、スチレン系共重合体を核磁気共鳴測定装置(H-NMR)で測定したときのスペクトルの積分比から求めることができる。
【0026】
<(メタ)アクリル酸エステル単量体単位>
本実施形態において、(メタ)アクリル酸エステル単量体は、炭素原子数4~15のアルキル鎖をエステル置換基として有する(メタ)アクリル酸エステル単量体が好ましい。この際、当該炭素原子数4~15のアルキル鎖は、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を含む。(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル等が挙げられる。これらの中でも工業的の観点から、(メタ)アクリル酸エステル単量体は、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、及び(メタ)アクリル酸t-ブチルであることが好ましい。
【0027】
スチレン系共重合体の好ましい形態において、当該スチレン系共重合体全体における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは1~15質量%であり、更により好ましくは2~10質量%である。当該含有量を1質量%以上とすることにより、樹脂の流動性を向上させることができる。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量を20質量%以下とすることにより、吸水性を抑制することができる。
【0028】
本実施形態において、スチレン系共重合体は、スチレン単量体単位と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを含有する二元以上の共重合体であれば特に限定されることはなく、二元~四元共重合体であることが好ましく、二元~三元共重合体であることがより好ましく、二元共重合体であることが特に好ましい。
【0029】
<その他の単量体単位>
本実施形態におけるスチレン系共重合体は、必要により、スチレン系単量体と共重合可能な他の単量体単位を含有してもよい。本実施形態におけるスチレン系共重合体の任意成分である他の単量体単位としては、(メタ)アクリル酸単量体単位などが挙げられる。当該(メタ)アクリル酸単量体としては、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。
【0030】
また、スチレン系共重合体の必須成分である(メタ)アクリル酸エステル単量体(単位)は、(メタ)アクリル酸系単量体(単位)との分子間相互作用によって(メタ)アクリル酸単量体(単位)の脱水反応を抑制するために、及び、樹脂の機械的強度を向上させる効果も奏する。更には、(メタ)アクリル酸エステル単量体は、耐候性、表面硬度等の樹脂特性の向上にも寄与する。
【0031】
尚、(メタ)アクリル酸系単量体(単位)と(メタ)アクリル酸エステル単量体(単位)とが隣り合わせで結合した場合、高温、高真空の脱揮装置を用いると、条件によっては脱アルコール反応が起こり、六員環酸無水物が形成される場合がある。本実施形態のスチレン系共重合体は、この六員環酸無水物を含んでいてもよいが、流動性を低下させることから、生成される六員環酸無水物はより少ない方が好ましい。
【0032】
本実施形態におけるスチレン系共重合体の具体例としては、例えば、スチレン-アクリル酸イソプロピル共重合体、スチレン-アクリル酸t-ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸s-ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸イソブチル共重合体、若しくはスチレン-アクリル酸n-ブチル共重合体等のスチレン-アクリル系二元共重合体;スチレン-アクリル酸-アクリル酸n-ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸-アクリル酸s-ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸-アクリル酸t-ブチル共重合体、若しくはスチレン-アクリル酸-アクリル酸イソブチル共重合体等のスチレン-アクリル系三元共重合体;スチレン-メタクリル酸イソプロピル共重合体、スチレン-メタクリル酸t-ブチル共重合体、スチレン-メタクリル酸s-ブチル共重合体、スチレン-メタクリル酸イソブチル共重合体、若しくはスチレン-メタクリル酸n-ブチル共重合体等のスチレン-メタクリル系二元共重合体;が好ましく、スチレン-アクリル酸t-ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸s-ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸イソブチル共重合体又はスチレン-アクリル酸n-ブチル共重合体で表されるスチレン-アクリル酸ブチル二元共重合体がより好ましい。
【0033】
本実施形態において、スチレン系共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体のいずれでもよいが、分散性の観点からランダム共重合体が好ましい。
また、本実施形態において、スチレン系共重合体は、ゴム状重合体粒子の表面にグラフトされていてもよい。
【0034】
本実施形態において、スチレン系共重合体の還元粘度は、特に限定されないが、好ましくは0.6以上1.0以下であり、より好ましくは0.7以上0.9以下である。還元粘度が0.6より小さいと組成物の衝撃強度が低下する恐れがあり、1.0を超えると樹脂粘度が高く、成形性が低下する。尚、本発明における還元粘度の測定方法は、「実施例」の欄に記載の方法で行っている。
【0035】
本実施形態におけるスチレン系共重合体のメルトマスフローレイトは、2~15g/10minが好ましく、2.5~12.0g/10minがより好ましく、特に好ましくは、3.0~10.0g/10minである。尚、スチレン系共重合体のメルトマスフローレイトは、JIS K 7210-1に従って、200℃、5kg荷重で測定した値である。
【0036】
(ゴム状重合体粒子)
本実施形態におけるゴム状重合体粒子は、粒子状に形成されたゴム状重合体をいい、ゴム状重合体を含有する粒子体であれば特に制限されることはない。上記ゴム状重合体を含有する粒子体とは、ゴム状重合体粒子全体の5質量%以上をゴム状重合体が占めていることが好ましい。
【0037】
本実施形態におけるゴム状重合体粒子の形態は、ゴム状重合体内にスチレン系共重合体を含む相が内包された内包粒子(ミクロ相分離構造、コアシェル型構造及びサラミ型構造を含む)、並びに当該内包粒子の表面にスチレン系共重合体がグラフトされた表面グラフト化内包粒子を含む。
本実施形態において好ましい内包粒子の形態としては、以下の(1)~(2)の構造が挙げられる。
(1)スチレン共重合体を含む相をコアとし、ゴム状重合体をシェルとするコアシェル型構造体、
(2)スチレン共重合体を含む相をコアがゴム状重合体内に複数内包したサラミ型構造体
【0038】
本実施形態におけるゴム状重合体粒子のゴム成分としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、又はこれらゴム成分を一部又は全部水素添加した飽和ゴムなどを使用できる。また、これらのゴム成分は、ポリスチレン及び/又はスチレン系共重合体を内包した形態を含む。本実施形態において、ゴム状重合体粒子の成分としては、ポリブタジエン又はスチレン-ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンには、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン及びシス含有率の低いローシスポリブタジエンの双方を用いることができる。また、スチレン-ブタジエン共重合体の構造としては、ランダム構造及びブロック構造の双方を用いることができる。これらのゴム状重合体は1種以上用いることができる。また、ブタジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴムを用いることもできる。
【0039】
また、該ハイシスポリブタジエンは、公知の製造法、例えば有機アルミニウム化合物とコバルト又はニッケル化合物を含んだ触媒を用いて、1,3ブタジエンを重合して容易に得ることができる。
【0040】
本実施形態において、ゴム状重合体粒子の平均粒子径は、1.0μm以上4.0μm以下であることが好ましく、1.5μm以上3.8μm以下であることがより好ましく、2.0μm以上3.5μm以下であることがさらに好ましい。ゴム状重合体粒子の平均粒子径が1.0μmより小さいと樹脂の耐衝撃性が得られにくい傾向があり、4.0μmより大きいと機械的強度及び外観が低下する傾向がある。
【0041】
本実施形態における、ゴム状重合体の平均粒子径は、実施例に記載の通り、デジタルコールター原理を採用した粒度分布測定機(Multisizer III ベックマン・コールター社製)を使った体積基準のメジアン径をいう。
【0042】
また、本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体の分散状態は、以下の方法により確認することができる。
四酸化オスミウムで染色したゴム変性スチレン系樹脂から厚さ75nmの超薄切片を作製し、電子顕微鏡を用いて倍率10000倍の写真を撮影する。写真中、黒く染色された粒子がゴム状重合体であり、白領域がスチレン系共重合体を含むマトリックス樹脂相である。本測定は、写真を200dpiの解像度でスキャナーに取り込み、画像解析装置IP-1000(旭化成社製)の粒子解析ソフトを用いて測定する。
【0043】
本実施形態のゴム変性ポリスチレン系樹脂において、ゴム状重合体粒子の含有量は、ゴム状重合体粒子及びスチレン系共重合体の合計量100質量%に対して、10質量%以上30質量%以下であり、好ましくは12質量%以上28質量%以下、より好ましくは15質量%以上25質量%以下である。当該含有量を10質量%以上30質量%以下とすることにより、優れた耐衝撃性及び剛性を両立しやすくなる。
尚、本明細書において、ゴム状重合体粒子の含有量の算出方法は、以下のクロロホルム不溶分の測定方法を用いている。
【0044】
<<トルエン不溶分の測定>>
沈殿管にゴム状重合体粒子を含むゴム変性ポリスチレン系樹脂1gを精秤した。当該精秤したゴム状重合体粒子を含む樹脂の質量をW1とする。そして、トルエン20ミリリットルを加え23℃で2時間振とう後、遠心分離機((株)佐久間製作所製SS-2050A(ローター:6B-N6L))にて4℃以下、20000rpm(遠心加速度45100G)で60分間遠心分離する。沈殿管を約45度にゆっくり傾け、上澄み液をデカンテーションして取り除く。その後、トルエンを含んだ不溶分を160℃、3kPa以下の条件で1時間真空乾燥し、デシケータ内で室温まで冷却後、トルエン不溶分の質量を精秤し、当該室温まで冷却後のトルエン不溶分の質量をW2とする。そして、下記数式(1)により、トルエン不溶分を求める。
トルエン不溶分(%)=(W2/W1)×100 数式(1)
本明細書において、以上により算出したトルエン不溶分を、ゴム変性ポリスチレン系樹脂中のゴム状重合体粒子の含有量としている。
【0045】
本実施形態におけるゴム状重合体粒子は、内側にスチレン系共重合体を内包し、且つ、ゴム状重合体粒子の表面にはスチレン系共重合体がグラフトされていることが好ましい。スチレン系共重合体がゴム状重合体粒子の表面にグラフトされることにより、マトリックス樹脂中への分散性が向上する。
【0046】
(マトリックス樹脂相)
本実施形態におけるマトリックス樹脂相は、スチレン系共重合体を必須成分として含む連続相である。本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂は、換言すると、マトリックス樹脂相の海相と、ゴム状重合体粒子の島相とを備える海島構造である。
【0047】
当該マトリックス樹脂相は、スチレン系共重合体を主成分として含有し、必要により、副成分を含む相である。尚、上記「スチレン系共重合体を主成分として含有する」とは、マトリックス樹脂相の90%以上100質量%以下をスチレン系共重合体が占めることをいう。
【0048】
当該副成分は、主にゴム変性ポリスチレン系樹脂の製造の際に生じる副生成物に該当するものであり、ポリスチレン(A)、(メタ)アクリル酸エステル重合体(B)、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とその他の単量体単位との共重合体(C)、及びその他の単量体単位とスチレン系単量体単位との共重合体(D)からなる群から選択される少なくとも1種の重合体が挙げられる。
【0049】
上記ポリスチレン(A)とは、上述したスチレン系単量体を重合した単独重合体又は共重合体であり、スチレン系単量体又はポリスチレン(A)は、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることもできる。ポリスチレンは、本発明の効果を損なわない範囲で、上記のスチレン系単量体単位以外の他のビニル系単量体単位を更に含有することを排除しないが、典型的にはスチレン系単量体単位からなる。
【0050】
上記(メタ)アクリル酸エステル重合体(B)とは、上述した(メタ)アクリル酸エステル単量体を1種又は2種以上重合した単独重合体又は共重合体であり、(メタ)アクリル酸エステル単量体又は(メタ)アクリル酸エステル重合体は、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることもできる。そして、(メタ)アクリル酸エステル重合体(B)には、スチレン単量体単位は含まれない。
【0051】
上記共重合体(C)とは、上述した(メタ)アクリル酸エステル単量体と、その他の単量体単位(例えば、(メタ)アクリル酸単量体単位)とをそれぞれ少なくとも1種以上重合した共重合体であり、メタ)アクリル酸単量体又は共重合体(C)は、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることもできる。そして、共重合体(C)には、スチレン単量体単位は含まれない。
【0052】
上記共重合体(D)とは、上述したその他の単量体単位(例えば、(メタ)アクリル酸単量体単位)とスチレン系単量体単位(メタ)アクリル酸エステル単量体とをそれぞれ1種以上重合した共重合体であり、(メタ)アクリル酸又は共重合体(D)は、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることもできる。そして、共重合体(D)には、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は含まれない。
マトリックス樹脂相の10%以下を副成分が占めることが好ましく、より好ましくは5%以下である。
【0053】
<ゴム変性スチレン系樹脂の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物に用いることができるゴム変性スチレン系樹脂の製造方法の例を示す。
典型的な態様において、ゴム変性スチレン系樹脂は、スチレン系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体を、ゴム状重合体の存在下で重合させて、スチレン系重合体中にゴム状重合体が分散している海島構造を形成することを含む方法によって製造できる。スチレン系単量体の重合方法に関しては特に制約はなく、スチレン系単量体にゴムを溶かした溶液を用いて、通常の塊状重合、溶液重合、懸濁重合等を行うことができる。また、メルトフローレート調整のために、溶媒や連鎖移動剤を適宜選択して使用することが好ましい。溶媒としてはトルエン、エチルベンゼン、キシレン等を使用できる。溶媒の使用量は特に限定されるものではないが、重合原料液の全量100質量%に対して、0~50質量%の範囲が好ましい。連鎖移動剤としては、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマー等が用いられ、α-メチルスチレンダイマーが好ましい。連鎖移動剤の使用量は、重合原料液の全量100質量%に対して好ましくは0.01~2質量%、より好ましくは0.03~1質量%、さらに好ましくは0.05~0.2質量%の範囲である。重合反応温度は好ましくは80~200℃、さらに好ましくは90~180℃の範囲である。反応温度が80℃以上であれば生産性が良好で、工業的に適当であり、一方200℃以下であれば、低分子量重合体が多量に生成することを回避でき好ましい。スチレン系重合体の目標分子量が重合温度のみで調整できない場合は、開始剤量、溶媒量、連鎖移動剤量等で制御すればよい。反応時間は一般に0.5~20時間、好ましくは2~10時間である。反応時間が0.5時間以上であれば反応が良好に進行し、一方、20時間以下であれば、生産性が良好で工業的に適当である。
【0054】
上記の製造方法において、ゴム変性スチレン系樹脂中のゴム状重合体の分散粒子の粒子径については、反応器内の撹拌機の回転数により制御が可能であり、トルエン不溶分の量については開始剤量による制御が可能であり、トルエン不溶分のトルエンに対する膨潤指数は回収系の押出機の温度により制御が可能である。
【0055】
ゴム変性スチレン系樹脂のゴム状重合体の量は、目標とする含有量になるように原材料中のゴム状重合体の含有量や重合率を調整することによって制御することができる。本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂は、前記製造法により製造できるが、別の方法として、前記の製造方法により得られたゴム変性スチレン系樹脂に、ゴム状重合体を含有しないポリスチレン樹脂等のスチレン系樹脂を混合し希釈することによっても製造することができる。
【0056】
重合開始剤として用いられる有機過酸化物としては、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、パーオキシエステル類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類などが挙げられる。
重合溶媒としては、エチルベンゼン、トルエン、キシレン等を用いることが可能である。
【0057】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂を製造する際の回収工程の前後の任意の段階、又はゴム変性スチレン系樹脂を押出加工、成形加工する段階において、必要に応じ本発明の目的を損なわない範囲で各種添加剤、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、ヒンダートフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤、滑剤、流動パラフィンなどの可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、各種染料や顔料、蛍光増白剤、光拡散剤、選択波長吸収剤を添加してもよい。
【0058】
「スチレン系樹脂組成物」
本発明に係るスチレン系樹脂組成物は、上記のゴム変性スチレン系樹脂と、流動パラフィン及び/又はエステル系ラジカル捕捉剤とを含有することが好ましい。
【0059】
<エステル系ラジカル捕捉剤>
本実施形態に係るスチレン系樹脂組成物は、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれる(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と同様の化学構造を備えたエステル系ラジカル捕捉剤を含有する。これにより、スチレン系樹脂組成物中にエステル系ラジカル捕捉剤が均一に分散して、金型汚れを低減できると考えられる。特に、流動パラフィンと併用することにより、優れた流動性及び耐衝撃性を維持しつつ、金型汚れを低減することができる。
本実施形態におけるエステル系ラジカル捕捉剤は、ヒドロキシフェニル環を有する化合物であることが好ましく、より詳細には、以下の一般式(1)で表されることがより好ましい。
【化1】
(上記一般式(1)中、X及びXは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基又は置換若しくは非置換のフェニル基を表し、L及びLは、それぞれ独立して、単結合又は炭素原子数1~23個のアルキレン基を表し、当該アルキレン基中の1以上のメチレン基は、互いに隣接しないよう-CH=CH-に置換されてもよい。)
【0060】
本実施形態に係るスチレン系樹脂組成物は、エステル系ラジカル捕捉剤を含有しているため、特に、成形時の加熱により生じる比較的低分子成分(例えば、ゴム変性スチレン系樹脂の熱分解物等)の生成量又はそれによる金型汚れを低減できると考えられる。可塑剤として流動パラフィン又は他の添加剤を含有する場合、流動パラフィン等の熱分解物又は経時的劣化を抑制し金型汚れを低減できると考えられる。これにより、高い流動性を維持しつつ、金型汚れを低減できるスチレン系樹脂組成物を提供できる。
【0061】
上記一般式(1)中、Xは、水素原子、メチル基又は置換基Rを有するフェニル基を表すことが好ましく、水素原子又は置換されてもよいヒドロキシフェニル基を表すことがより好ましい。当該置換基Rとしては、水酸基、アミノ基又は炭素原子数1~8の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。そして、当該炭素原子数1~8の直鎖状又は分岐状のアルキル基中の1以上の水素原子は、置換基R’を有するフェニル基にさらに置換されてもよい。この場合、置換基R’は、水酸基、アミノ基又は炭素原子数1~8の直鎖状又は分岐状のアルキル基であることが好ましい。
上記置換基Rを有するフェニル基としては、以下の一般式(1-1)又は一般式(1-2)で表される基が好ましい。
【化2】
(上記一般式(1-1)中、R~Rはそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、又は炭素原子数1~8の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、Lは炭素原子数1~4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表す。)
(上記一般式(1-2)中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、又は炭素原子数1~8の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、Lは炭素原子数1~4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表す。)
なお、炭素原子数1~8の直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、s-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1-メチルヘキシル基、又は1-メチルヘプチル基などが挙げられる。また、炭素原子数1~4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、t-ブチル基、又はs-ブチル基などが挙げられる。
【0062】
上記一般式(1)中、Lは、炭素原子数2~5個のアルキレン基を表し、当該アルキレン基中の1以上のメチレン基は、互いに隣接しないよう-CH=CH-に置換されてもよい。当該アルキレン基としては、上記炭素原子数1~8の直鎖状又は分岐状のアルキル基のうち、炭素原子数2~5のアルキル基から水素原子を一つ取り除いた基が好ましい。
上記一般式(1)中、Lは、単結合又は炭素原子数10~21個のアルキレン基を表し、当該アルキル基中の1以上のメチレン基は、互いに隣接しないよう-CH=CH-に置換されてもよい。
上記一般式(1)中、Xは、水素原子、メチル基又は置換基Rを有するフェニル基が好ましく、置換されたヒドロキシフェニル基を表すことがより好ましい。当該置換基Rを有するフェニル基としては、上述の一般式(1-1)又は(1-2)で表される基が好ましい。
【0063】
本実施形態において、エステル系ラジカル捕捉剤としては、以下の式(1-1.1)及び(1-2.1)で表される化合物が好ましい。
【化3】
(上記式中、R~Rはそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、又は炭素原子数1~8の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、Lは炭素原子数1~4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し、m1及びm2は1以上25以下の整数を表す。)
【0064】
本実施形態に係るスチレン系樹脂組成物中におけるエステル系ラジカル捕捉剤の含有量は、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、0.01~1質量%であることが好ましく、より好ましくは0.02~0.5質量%、特に好ましくは0.05~0.3質量%である。当該含有量にすることにより、充分なラジカルトラップ効果を発揮することができる。
【0065】
本実施形態におけるエステル系ラジカル捕捉剤の定量及び同定は、当業者にとって一般的な方法により容易に測定できる。例えば、スチレン系樹脂組成物又は当該組成物の成形体の断片を、トルエンなどマトリックス樹脂を溶解する溶媒に溶解させて、可溶分1(マトリックス樹脂、及び酸化防止剤等)及び不溶分1(ゴム状重合体及び酸化防止剤)に分離する。そして、不溶分1を、酸化防止剤だけを溶解させる溶媒に溶解させ、可溶分2(酸化防止剤)及び不溶分2(ゴム状重合体)に分離する。さらに、可溶分1及び可溶分2を濃縮(乾燥・風乾・減圧乾燥等)あるいはカラムクロマトグラフィー等を用いて低分子量成分と高分子量成分とに分離して、酸化防止剤を含有する成分を回収する。そして回収された酸化防止剤を含む成分の分析については、熱分解GC-MS、H-NMR又は13C-NMRなどの各種分析装置によって同定、定量及び分子量の測定を行うことができる。
【0066】
<流動パラフィン>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、流動性を向上させる観点で、流動パラフィンを含有することが好ましい。当該流動パラフィンの含有量は、スチレン系共重合体100質量部に対して、0.1質量以上2.0質量%以下であることが好ましく、0.3質量以上1.8質量%以下であることがより好ましく、0.5質量以上1.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0067】
上記流動パラフィンとは、ミネラルオイルとも称され、パラフィン系炭化水素を含むオリゴマー状及び重合体である。上記流動パラフィンは、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、パラフィン・ワックスを含み、パラフィン炭化水素とアルキルナフテン炭化水素との混合物である。15℃における比重が0.8494以下のものも、15℃における比重が0.8494を超えるものも含む。また、上記流動パラフィンのナフテン含有量は、当該流動パラフィン100質量%に対して、15質量%以上55質量%以下であることが好ましく、20質量%以上45質量%以下であることがより好ましく、19質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。
【0068】
本実施形態において、流動パラフィンの動粘度(40℃)は、使用目的に応じて適宜設定することができるが、3~500mm/sであることが好ましく、5~400mm/sであることがより好ましく、6~300mm/sであることがさらに好ましく、7~150mm/sであることが特に好ましい。
【0069】
また、上記流動パラフィンの動粘度の測定方法は、JIS K2283に準じる方法で測定しており、具体的には、測定温度40℃、ウベローデ粘度計(粘度計番号2番)による自動粘度測定装置(VMC-252型)(株式会社離合社製)を用いている。
【0070】
本発明に使用可能な代表的な流動パラフィンとしては、特に制限されることは無いが、例えば、Sonneborn社製のPL-380;出光興産(株)製のダフニーオイル(登録商標)CP68N、CP50S、三光化学工業製の流動パラフィンPS350S、LP530-SP;Formosa製のF380N;SEOJIN CHEMICAL社製のPARACOS KF-550、PARACOS KF-350;シェルケミカルズジャパン社製Edelex226が好適である。
【0071】
これらの流動パラフィン又は添加剤の添加方法は特に限定される訳では無く、公知の方法、例えば、ゴム変性スチレン系樹脂の重合開始前、重合途中の反応液に対して、又は、重合終了後に添加することができる。さらに、先述のゴム変性スチレン系樹脂の製造方法に記載の、各成分からゴム変性スチレン系樹脂を製造する段階、具体的には各成分を配合する際や、押出機の途中から添加することや、樹脂を成形する際の成形機においても添加することができる。
【0072】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物における流動パラフィンの定量及び同定は、当業者にとって一般的な方法により容易に測定できる。本明細書において、流動パラフィンの含有量(質量%)は、以下の手順で試料を調製した後、以下の測定条件で液体クロマトグラフィーにより測定した。
(試料調製)
スチレン系樹脂組成物2gを精秤し、メチルエチルケトン40mLを加えて23℃で40分間振とうし、メタノール200mL中に滴下し、60℃で10分間加温した後、23℃に冷却し、穴径0.45μmのメンブランフィルターで濾過した。濾別した濾液を減圧蒸留濃縮し、80℃で30分間乾燥した後、23℃に冷却し、ノルマルヘキサンに溶解させ、10mLの試料を得た。
(測定条件)
機器:島津製作所製高速液体クロマトグラフィー LC-10A
カラム:平均粒子径5μmの全多孔性シリカゲル、内径4.6mm、長さ250mm
溶媒:ノルマルヘキサン
温度:23℃
溶媒流量:2g/min
注入量:200μm
また、流動パラフィンの同定については、熱分解GC-MS、H-NMR又は13C-NMRなどの各種分析装置によって行うことができる。
【0073】
<その他の成分>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物には、本発明の要旨を超えない範囲で一般的な各種添加剤を、公知の作用効果を達成するために添加することもできる。例えば、離型剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、染料、顔料、帯電防止剤、防曇剤、各種充填剤等を、目的に合った効果を達成するために添加することができる。
尚、上記スチレン系樹脂組成物中の上記各種添加剤は、スチレン系樹脂組成物の総量100質量%に対して1質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0074】
本明細書では成形品の一例として、射出成形により得られた成形品に対して、各種機械的特性の評価を行っているが、本実施形態のスチレン系樹脂組成物を使用する限り、他の成形方法、例えばブロー成形等を採用した成形品であっても、その機械的特性の傾向は、変わらないと考えられる。
【0075】
<<成形>>
本実施形態の成形体は、上記実施形態のスチレン系樹脂組成物を成形して得ることができる。本実施形態の成形体は、上記の実施形態のスチレン系樹脂組成物を成形して得たものであれば特に限定されないが、当該成形体が厚さ1mm以下の部分を有することが好ましい。厚さ1mm以下の部分を有する成形体において、上記のスチレン系樹脂組成物を好適に用いることができる。
【0076】
<成形体の製造方法>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物から成形体を得る製造方法は、特に限定されず、公知の成形方法、例えば押出成形加工や射出成形加工により製造することができる。具体的には押出成形加工としては、例えば、押出成形、カレンダ成形、中空成形、押出発泡成形、異形押出成形、ラミネート成形、インフレーション成形、Tダイフィルム成形、シート成形、真空成形、圧空成形、ダイレクトブロー成形などが挙げられる。また、射出成形加工としては、例えば、射出成形、RIM成形、射出発泡成形、インジェクションブロー成形、射出延伸ブロー成形などが挙げられる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記例に限定されることは無く、適宜変更を加えることができる。
【実施例
【0077】
以下、本発明を実施例及び比較例に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されると解されるべきでない。まず、実施例、比較例を評価するために用いた評価方法について以下説明する。
【0078】
(1)面衝撃強度
成形機EC-60N(東芝機械社製)で、金型温度を45℃、シリンダー温度220℃の条件にて、40mm×120mm×1~2.5mm厚みの3段試験片を作成した。試験はデュポン式ダート試験機(東洋精機社製)を用い、撃心受け台直径9.4mm、撃心突端の直径6.2mm、荷重200gの条件で、1mm厚みの試験片中央部に対してミサイルを落下させ、試験片が50%破壊を示す荷重により、破壊エネルギーを求め、これを面衝撃強度とした。測定した結果を下記の基準で評価した。
○:0.3kg・cm以上
×:0.3kg・cm未満
【0079】
(2)金型汚れの評価
住友重機械工業(株)製のインジェクションブロー成型機SG-125NPを用いて1サイクル7秒の連続成形を1000ショット実施後、金型表面をガーゼで強く拭い、ガーゼへの油状物質の付着状況で評価した。評価基準を以下に示す。
◎:油状物質の付着が全く認められない。
〇:油状物質の付着がわずかに認められる。
×:油状物質の付着がかなり認められる。
【0080】
(3)ゴム状重合体粒子の平均粒子径の測定
30μm径のアパーチャーチューブを装着したベックマン・コールター株式会社製COULTER MULTISIZER III (商品名)にて、ゴム変性ポリスチレン系樹脂0.05gをジメチルホルムアミド約5ml中に入れ約2~5分間放置した。次にジメチルホルムアミド溶解分を適度の粒子濃度として測定し、体積基準のメジアン径を求めた。
(4)MFRの測定
ゴム変性スチレン系樹脂のマトリックス樹脂のMFR(メルトマスフローレイト)は、JIS K 7210-1に従って、200℃、5kg荷重で測定した値である。
(5)還元粘度の測定
ゴム変性スチレン系樹脂の還元粘度は、トルエン溶液中で30℃、濃度0.5g/dLの条件で測定される値である。
(6)スチレン系共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単量体比
各単量体単位は次のようにプロトン核磁気共鳴(H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から、スチレン系共重合体の組成を定量した。
・試料調製:樹脂ペレット30mgをd-DMSO 0.75mLに60℃で4~6時間加熱溶解した。
・測定機器:日本電子(株)製 JNM ECA-500
・測定条件:測定温度25℃、観測核1H、積算回数64回、繰り返し時間11秒。
続いて、実施例、比較例で用いた樹脂及び原料成分を説明する。
【0081】
<実施例1:ゴム変性スチレン系樹脂の製造及び当該樹脂を含有するスチレン系組成物
(HIPS-1)の製造>
スチレン系単量体としてスチレン85.6質量%、アクリル酸ブチルとして2.0質量部、ゴム状重合体としてポリブタジエンゴム(旭化成株式会社製ジエン55AE)3.2質量%、溶剤としてエチルベンゼン8.0質量%、可塑剤として流動パラフィン(出光興産社製CP-68N)1.2質量%、重合開始剤として1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.002質量%、連鎖移動剤としてα-メチルスチレンダイマー0.08質量%を混合溶解した重合液を準備した。そして、攪拌機を備えた、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2リットルの層流型反応器-1に、当該重合液を2.7リットル/Hrで連続的に仕込み、前記反応器内の温度を125℃/130℃/135℃に調整した。攪拌機の回転数は毎分60回転とした。反応器出口の反応率は25%であった。
【0082】
続いて層流型反応器-1と直列に接続され、かつ攪拌機を備えた、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2リットルの層流型反応器-2に、上記で得られた反応液を送った。攪拌機の回転数は毎分20回転とし、前記反応器-2内の温度を135℃/136℃/139℃に設定した。続いて攪拌機を備えた、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2リットルの層流型反応器-3に前記反応器-2内で反応された反応液を送った。攪拌機の回転数は毎分10回転とし、反応器-3内の温度を138℃/139℃/144℃に設定した。
【0083】
続いて層流型反応器-3からの反応液を220℃、1.5~2.0kPaに調整された2段真空ベント付き押出機に供給し、未反応モノマーや溶媒等の揮発成分を取り除き、ストランド状に押し出した樹脂をカッティングして、最終物としてペレット状のスチレン系樹脂組成物(HIPS-1)を得た。
【0084】
<実施例2~3及び6:ゴム変性スチレン系樹脂の製造及びスチレン系樹脂組成物(HIPS-2~3,6)の製造と評価>
表1に示す原料比を用いて上記実施例1と同様の方法により、実施例2~3及び6のスチレン系樹脂組成物(HIPS-2,3及びHIPS-6)を製造した。そして、得られたペレット状のスチレン系樹脂組成物(HIPS-2,3及びHIPS-6)に対して、上述した(1)面衝撃強度、及び(2)金型汚れの評価の欄に記載の評価方法を用いて測定した。その結果を、以下の表1及び表2に示す。
【0085】
<実施例4及び5:ゴム変性スチレン系樹脂の製造及びスチレン系樹脂組成物(HIPS-4及びHIPS-5)の製造と評価>
重合液に、ラジカル捕捉剤としてオクタデシル-3-(3,5-ジーt-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを所定量添加した以外は、表1に示す原料比を用いて上記実施例1と同様の方法により、実施例4及び5のスチレン系樹脂組成物(HIPS-4)~(HIPS-5)を製造した。
【0086】
<実施例7:ゴム変性スチレン系樹脂(HIPS-10)の製造と評価>
流動パラフィンを添加しない点以外は上記実施例1と同様の方法により、表1に示す原料比を用いて実施例7のゴム変性スチレン系樹脂(HIPS-10)を製造した。そして、得られたペレット状のゴム変性スチレン系樹脂(HIPS-10)に対して、上述した(1)面衝撃強度、及び(2)金型汚れの評価の欄に記載の評価方法を用いて測定した。その結果を、以下の表1及び表2に示す。
【0087】
<比較例1~3:スチレン系樹脂組成物(HIPS-7~9)の製造と評価>
表1に示す原料比を用いて上記実施例1と同様の方法により、比較例1~3のスチレン系樹脂組成物(HIPS-7)~(HIPS-9)を製造した。そして、得られたペレット状のスチレン系樹脂組成物(HIPS-7)~(HIPS-9)に対して、上述した(1)面衝撃強度、及び(2)金型汚れの評価の欄に記載の評価方法を用いて測定した。その結果を、以下の表1及び表2に示す。
以下の表2の実験結果に示す通り、実施例のゴム変性ポリスチレン系樹脂(HIPS-10)を用いることにより、金型汚れを低減できることが確認される。また、ラジカル捕捉剤及び流動パラフィンをさらに添加すると、より優れた、耐衝撃性及び流動性と、金型汚れの低減とを両立することができる。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】