(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】MnZn系フェライト、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/34 20060101AFI20241219BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20241219BHJP
C04B 35/38 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
H01F1/34 140
C01G49/00 B
C04B35/38
(21)【出願番号】P 2020167723
(22)【出願日】2020-10-02
【審査請求日】2023-07-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】三角 彰太
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-120064(JP,A)
【文献】特開平08-148323(JP,A)
【文献】特開2005-119892(JP,A)
【文献】特開2005-108977(JP,A)
【文献】特開平6-310320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00
C04B 35/38
H01F 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe
2O
3とZnOとMnOを主成分として含有し、
前記主成分100mol%中、Fe
2O
3が
53.8~56.0mol%、ZnOが
6.0mol%より大きく10.0mol%
以下、残部がMnOであり、
前記主成分100質量%に対し、副成分として、SiO
2を0.005~0.060質量%、CaOを0.010~0.060質量%、Co
2O
3を0.10~
0.30質量%、TiO
2を
0.10~0.30質量%
、ZrO
2
を0.010~0.100質量%含有し、
平均結晶粒径が4μm以下であり、
焼結密度が4.8g/cm
3以上であ
り、
下式(1)で表される、25℃、2MHz、50mTにおける単位体積磁心損失(Pcv)の磁場印加前に対する変化率が73%以下である、MnZn系フェライト。
式(1): (Pcv-Pcv
0
)/Pcv
0
×100
ただしPcv
0
は、磁場を印加する前の単位体積磁心損失である。
【請求項2】
25℃、2MHz、50mTにおける単位体積磁心損失(Pcv)が1500mW/cm
3以下である、請求項
1に記載のMnZn系フェライト。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のMnZn系フェライトの製造方法であって、
焼結後に、主成分100mol%中、Fe
2O
3が
53.8~56.0mol%、ZnOが
6.0mol%より大きく10.0mol%
以下、残部がMnOとなるように、各主成分を含む原料を混合する工程と、
前記主成分100質量%に対し、焼結後にSiO
2が0.005~0.060質量%、CaOが0.010~0.060質量%、Co
2O
3が0.10~
0.30質量%、TiO
2が
0.10~0.30質量%
、ZrO
2
が0.010~0.100質量%含有するように、各副成分を含む原料を添加する工程と、
得られた混合粉末を、D90粒子径が1.2μm以下の解砕粉末となるまで解砕する工程を有する、MnZn系フェライトの製造方法。
【請求項4】
更に、解砕粉末を成型して、1050~1150℃で熱処理する工程を有する、請求項
3に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MnZn系フェライト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MnZn系フェライトは、高透磁率、高磁束密度、小さな磁場に対しても磁化しやすいなどの特性を有し、通信機器用途や電源用途などに広く用いられている。MnZn系フェライトは、用途に応じた特性が得られるよう種々の検討がなされている(例えば特許文献1~2)。
【0003】
特許文献1には、300~500kHzの高周波数において広い温度範囲で磁心損失が低く、且つ高温環境下での磁心損失の経時変化が小さいMnZn系フェライト焼結体として、特定量のFe2O3、ZnO、及びMnOからなる主成分と、特定量のSiO2、CaCO3、Co3O4、ZrO2、及びTa2O5からなる副成分とを含有し、平均結晶粒径が3μm以上8μm未満であり、焼結体密度が4.65g/cm3以上のMnZn系フェライト焼結体が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、1MHz以上の高い周波数でも広い温度範囲及び動作磁束密度で低電力損失であるMn-Znフェライトとして、主成分としてFe、Mn及びZn、第一の副成分としてCo、Ca及びSi、第二の副成分としてVa族元素を特定量含有し、3.2μm未満の平均結晶粒径及び1Ω・m以上の体積低効率を有する低損失Mn-Znフェライトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/181242号
【文献】国際公開第2006/054749号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
MnZn系フェライトは、高周波において更なる損失の低減が求められている。一方、本発明者は、損失低減の手法によっては、高磁場印加時に磁気特性が変化してしまう場合があるとの知見を得た。
【0007】
本発明は上記の課題を解決するものであり、高周波での損失の低減と、高磁場下での磁気特性の変化のいずれも抑制可能なMnZn系フェライト及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るMnZn系フェライトは、
Fe2O3とZnOとMnOを主成分として含有し、
前記主成分100mol%中、Fe2O3が53.2~56.0mol%、ZnOが3.0~12.0mol%、残部がMnOであり、
前記主成分100質量%に対し、副成分として、SiO2を0.005~0.060質量%、CaOを0.010~0.060質量%、Co2O3を0.10~0.40質量%、TiO2を0.05~0.30質量%含有し、
平均結晶粒径が4μm以下であり、
焼結密度が4.8g/cm3以上である。
【0009】
上記MnZn系フェライトの一実施形態は、副成分として、更にZrOを0.010~0.100質量%含有する。
【0010】
上記MnZn系フェライトの一実施形態は、25℃、2MHz、50mTにおける単位体積磁心損失(Pcv)が1500mW/cm3以下である。
【0011】
上記MnZn系フェライトの一実施形態は、下式(1)で表される、25℃、2MHz、50mTにおける単位体積磁心損失(Pcv)の変化率が100%以下である。
式(1): (Pcv-Pcv0)/Pcv0 ×100
ただしPcv0は、磁場を印加する前の単位体積磁心損失である。
【0012】
本発明に係るMnZn系フェライトの製造方法は、
前記本発明に係るMnZn系フェライトの製造方法であって、
焼結後に、主成分100mol%中、Fe2O3が53.2~56.0mol%、ZnOが3.0~12.0mol%、残部がMnOとなるように、各主成分を含む原料を混合する工程と、
前記主成分100質量%に対し、焼結後にSiO2が0.005~0.060質量%、CaOが0.010~0.060質量%、Co2O3が0.10~0.40質量%、TiO2が0.05~0.30質量%含有するように、各副成分を含む原料を添加する工程と、
得られた混合粉末を、D90粒子径が1.2μm以下の解砕粉末となるまで解砕する工程を有する。
【0013】
上記製造方法の一実施形態は、更に、解砕粉末を成型して、1050~1150℃で熱処理する工程を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、高周波での損失の低減と、高磁場下での磁気特性の変化のいずれも抑制可能なMnZn系フェライト及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るMnZn系フェライト及びその製造法について説明する。
なお、数値範囲を示す「~」は特に断りがない限り、その下限値及び上限値を含むものとする。
【0016】
[MnZn系フェライト]
本発明に係るMnZn系フェライト(以下、本MnZn系フェライトとも記す)は、Fe2O3とZnOとMnOを主成分として含有し、
前記主成分100mol%中、Fe2O3が53.2~56.0mol%、ZnOが3.0~12.0mol%、残部がMnOであり、
前記主成分100質量%に対し、副成分として、SiO2を0.005~0.060質量%、CaOを0.010~0.060質量%、Co2O3を0.10~0.40質量%、TiO2を0.05~0.30質量%含有し、
平均結晶粒径が4μm以下であり、
焼結密度が4.8g/cm3以上であることを特徴とする。
【0017】
本発明者は、上記のように各金属酸化物を上記特定の割合で含み、平均結晶粒径が4μm以下、焼結密度が4.8g/cm3以上となるようにMnZn系フェライトを調整することにより、高周波(特に1MHz~3MHz)における損失の低減が可能で、且つ、高磁場印加後の磁気特性の変化も抑制できるとの知見を得て本発明を完成させた。
本発明者は、ヒステリシスループがパーミンバー特性を有するMnZn系フェライトにより高周波における損失の低減が可能になるとの知見を得ていた。当該パーミンバー特性を有するMnZn系フェライトは磁壁の移動を抑制(ピンニング)することで磁壁移動に伴う残留損失が低減されている。しかしながら高磁場を印加した場合、磁壁のピンニングが不十分となり磁壁の可動性が増すことにより損失の低減が不十分となる場合があった。一方、上記本MnZn系フェライトは、各成分を上記特定の割合で含有し、且つ結晶粒径を4μm以下と小さくすることで、結晶粒内の磁壁の数を減らし磁壁移動に伴う残留損失が低減される。具体的には、本MnZn系フェライトは、例えば、25℃、2MHz、50mTにおける単位体積磁心損失(Pcv)が1500mW/cm3以下に抑制が可能である。また、本MnZn系フェライトは、例えば、下式(1)で表される、25℃、2MHz、50mTにおける単位体積磁心損失(Pcv)の磁場印加前に対する変化率を100%以下とすることが可能である。
式(1): (Pcv-Pcv0)/Pcv0 ×100
このように本MnZn系フェライトは、高磁場印加時においても、高磁場を印加しない状態と同様に高周波における損失の低減が可能という特徴を有する。
【0018】
本MnZn系フェライトは、Fe2O3とZnOとMnOを主成分とする。本MnZn系フェライトにおいては当該主成分100mol%中、Fe2O3は53.2~56.0mol%、ZnOが3.0~12.0mol%、残部(33.0~43.8mol%)がMnOである。
【0019】
Fe2O3を53.2mol%以上、好ましくは53.5mol%以上とすることで、高磁束密度のMnZn系フェライトが得られる。一方、Fe2O3を56.0mol%以下、好ましくは55.0mol%以下、より好ましくは54.8mol%以下とすることで、他の成分との組み合わせによりMnZn系フェライトのパーミンバー化が抑制され、高磁場印加時における損失を低減できる。
【0020】
ZnOを3mol%以上、好ましくは6mol%以上とすることで、他の成分との組み合わせによりMnZn系フェライトのパーミンバー化が抑制されるとともに、焼結性に優れ結晶密度を4.8g/cm3以上に調整しやすくなる。一方、ZnOを12.0mol%以下、好ましくは11.0mol%以下とすることで高磁束密度のMnZn系フェライトが得られる。
【0021】
また本MnZn系フェライトは副成分として、少なくともSiO2、CaO、Co2O3、及びTiO2を含有する。
【0022】
SiO2を0.005質量%以上、好ましくは0.010質量%以上とすることで、高い比抵抗を有する粒界相が十分に形成され、高周波における渦電流の発生を抑制する。またSiO2を含有することで、MnZn系フェライトの機械強度が向上する。一方、SiO2を0.060質量%以下、好ましくは0.050質量%以下とすることで、肥大化するSiO2の発生を抑制し、損失の悪化を抑制できる。
【0023】
CaOを0.010質量%以上、好ましくは0.030質量%以上とすることで、高い比抵抗を有する粒界相が十分に形成され、高周波における渦電流の発生を抑制する。一方、CaOを0.050質量%以下、好ましくは0.045質量%以下とすることで、不純物として残留するCaOを抑制し、損失の悪化を抑制できる。
【0024】
Co2O3を0.10質量%以上、好ましくは0.20質量%以上とすることで、高温環境下における損失を抑制することができる。一方、Co2O3を0.40質量%以下、好ましくは0.30質量%以下とすることで、パーミンバー化が抑制され、高磁場印加時における損失を低減できる。
【0025】
TiO2を0.05質量%以上、好ましくは0.10質量%以上とすることで、パーミンバー化が抑制され、高磁場印加時における損失を低減できる。一方、TiO2を0.30質量%以下、好ましくは0.25質量%以下とすることで、パーミンバー化が抑制され、高磁場印加時における損失を低減できる。
【0026】
本MnZn系フェライトは、本発明の効果を奏する範囲で更に他の成分を含有してもよい。他の成分としては、必要に応じて添加される他の金属酸化物や、不可避的に含まれる元素などが挙げられる。
他の金属酸化物としては、例えば、ZrO2、Ta2O5、Nb2O5、Bi2O3、MoO3などが挙げられ、中でもZrO2が好ましい。また、不可避的に含まれる元素としては、C(炭素原子)、P(リン原子)、B(ホウ素原子)などが挙げられる。
【0027】
ZrO2を0.01質量%以上、好ましくは0.04質量%以上とすることで、高い比抵抗を有する粒界相が十分に形成され、高周波における渦電流の発生を抑制する。一方、ZrO2を0.1質量%以下、好ましくは0.08質量%以下とすることで、不純物として残留するZrO2を抑制し、損失の悪化を抑制できる。
【0028】
ZrO2を除く他の金属酸化物及び元素の合計の含有量は、主成分100質量%に対して0.1質量%以下が好ましく、0.01質量%以下が更に好ましい。
【0029】
本MnZn系フェライトは、例えば、スイッチング周波数が高周波数(例えば1~3MHz)のスイッチング電源回路に用いられるインダクタのコア材として好適に用いることができる。また、本MnZn系フェライトは高磁場を印加しても磁気特性の変化が抑制されるため、例えば、大電流が流れる可能性のあるトランスやチョークコイル等に好適に用いることができる。
【0030】
[MnZn系フェライトの製造方法]
次に、MnZnフェライトの製造方法(以下、本製造方法とも記す)の一実施形態について説明する。
本製造方法は、前記本MnZn系フェライトを好適に製造できる製造方法であって、少なくとも、焼結後に、主成分100mol%中、Fe2O3が53.2~56.0mol%、ZnOが3.0~12.0mol%、残部がMnOとなるように、各主成分を含む原料を混合する工程(混合工程)と、前記主成分100質量%に対し、焼結後にSiO2が0.005~0.060質量%、CaOが0.010~0.060質量%、Co2O3が0.10~0.40質量%、TiO2が0.05~0.30質量%含有するように、各副成分を含む原料を添加する工程(添加工程)と、得られた混合粉末を、D90粒子径が1.2μm以下の解砕粉末となるまで解砕する工程(解砕工程)を有するものであればよい。本製造方法は、前記混合工程の後に主成分の混合粉末にバインダーを加えて顆粒とする乾燥・造粒工程;得らえた顆粒を仮焼する仮焼工程;前記解砕粉末に対する乾燥・造粒工程;解砕粉末又はその顆粒を成型する成形工程;当該成形体を熱処理する熱処理工程(焼結工程)などの工程をさらに有していてもよい。
【0031】
上記混合工程では、焼結後の主成分が前記本MnZnフェライトの組成となるように主成分を混合する。主成分の混合前の形態は特に限定されないが、取り扱いが容易で均一に混合できる点から、粉末状であることが好ましい。主成分の原料粉末は混合して、必要に応じて解砕することで混合粉末とする。混合及び解砕方法は、公知の方法の中から適宜選択すればよい。具体的には例えば、アトライタやビーズミルなどが挙げられる。混合粉末の粒子径は、特に限定されないが、均一性などの点から、メジアン径D50が0.5μm~1.5μmとなるように調整することが好ましい。粒径のD50及び後述するD90は各々対象となる粒子の粒度分布を測定し、粒子径の頻度の累積が50%となる粒子径(D50)、90%となる粒子径(D90)である。なお、混合粉末の粒度分布は粒度分布測定装置で測定することができる。
【0032】
上記主成分の混合粉末に対し、乾燥・造粒工程を実施してもよい。乾燥・造粒工程では、例えば、混合工程で得られた混合粉末に、混合粉末の全質量を100質量部としたときに0.5~1質量部のポリビニルアルコールなどのバインダーを加え、スプレードライヤーなどを用いて噴霧することで顆粒を得ることができる。
得られた顆粒は、次いで、例えば空気雰囲気下750℃で1時間程度仮焼して仮焼物としてもよい(仮焼工程)。
【0033】
次いで、焼結後の副成分が前記本MnZnフェライトの組成となるように仮焼物に副成分を添加する。副成分の添加前の形態は特に限定されないが、取り扱いが容易で均一に混合できる点から、粒子状であることが好ましい。
【0034】
副成分を添加した後、得られた混合粉末を解砕して解砕粉末を得る。解砕は、得られるMnZn系フェライトの平均結晶粒径が4μm以下となるように適宜調整すればよい。例えば、解砕後の粒径のD90が1.2μm以下になるまで仮焼物を解砕するなどの方法が挙げられる。
【0035】
乾燥・造粒工程では、解砕工程において得られた解砕粉末に解砕粉末の全質量を100質量部としたときに、0.5~1.0質量部のポリビニルアルコールなどのバインダーを加え、スプレードライヤーなどで噴霧することで顆粒を得る。このとき、顆粒のメジアン径D50は40μm以上、200μm以下となることが望ましい。
【0036】
成型工程においては、乾燥・造粒工程で得られた顆粒を所定の形状に成形する。所定の形状とは用途等に応じて設計すればよい。例えば、外径が19mm、内径が13mm、高さが11mmのトロイダル型のコアに成形する。
【0037】
成形後の顆粒は熱処理することで、焼結体(本MnZnフェライト)とする。熱処理(焼結)条件は1050~1150℃で数時間加熱することが好ましい。1050℃以上で熱処理することで、焼結密度4.8g/cm3以上を達成しやすくなる。一方、1150℃以下で熱処理することで、平均結晶粒径4μm以下を達成しやすくなる。
【0038】
上記の製造方法によれば、平均結晶粒径が4μm以下、焼結密度が4.8g/cm3以上である、MnZn系フェライトが好適に製造される。
【実施例】
【0039】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、これらの記載により本発明を制限するものではない。
【0040】
[実施例1]
焼結後のFe2O3含有量が54.0mol%、ZnO含有量が10.0mol%、MnO含有量が36.0mol%として合計100mol%となるように、各原料粉末を秤量して混合した。上記混合物の全質量100質量部に対して0.5質量部相当のポリビニルアルコールを加え、スプレードライヤーで噴霧することで顆粒を得た。次に、当該顆粒を空気雰囲気中750℃で1時間仮焼して仮焼物を得た。次いで、主成分100質量%に対し、副成分として、SiO2を0.03質量%、CaOを0.04質量%、Co2O3を0.2質量%、TiO2を0.2質量%、ZrO2を0.08質量%となるように、各原料粉末を添加した。
次に、解砕工程として仮焼物と添加物の混合物を、解砕後の粒径のD90が1.2μm以下になるように解砕機で解砕して解砕粉末を得た。次に乾燥・造粒工程としてこの解砕粉末に、解砕粉末の全質量を100質量部としたときに、1質量部のポリビニルアルコールを加え、スプレードライヤーで噴霧することで顆粒を得た。次に成型工程、および焼結工程としてこの顆粒を外径が16mm、内径が10mm、高さが5mmのトロイダル型のコアに成形し、1100℃で焼結して焼結体(MnZn系フェライト)を得た。
【0041】
[実施例2~16]
実施例1において、焼結後の主成分及び副成分の含有割合が表1の通りとなるように原料を混合及び添加した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~16のMnZn系フェライトを得た。
【0042】
[比較例1]
実施例1において、解砕時間を短くし解砕後の粉末の粒径のD90を4.82μmとした以外は、実施例1と同様にして、比較例1のMnZn系フェライトを得た。
【0043】
[比較例2~12]
実施例1において、焼結後の主成分及び副成分の含有割合が表1の通りとなるように原料を混合及び添加した以外は、実施例1と同様にして、比較例2~12のMnZn系フェライトを得た。
【0044】
<評価>
解砕粒径D90は、上記実施例及び比較例の製造過程で得られた解砕粉末のスラリーを湿式粒度分布測定装置にて測定して求めた。
平均結晶粒径は、実施例及び比較例で得られた各MnZn系フェライトを鏡面研磨した後、エッチングにて粒界相を溶解し、顕微鏡にて観察した画像から画像解析により算出した。なお、測定は各々100個の結晶粒について行った。
焼結密度はアルキメデス法により測定を行った。
また、MnZn系フェライトのPcv及びPcv0はBHアナライザにて測定し、Pcv変化率は、前記式(1)により算出した。結果を表1に示す。
【0045】
【0046】
[結果のまとめ]
主成分100mol%中、Fe2O3が53.2~56.0mol%、ZnOが3.0~12.0mol%、残部がMnOであり、主成分100質量%に対し、副成分として、SiO2を0.005~0.060質量%、CaOを0.010~0.060質量%、Co2O3を0.10~0.40質量%、TiO2を0.05~0.30質量%含有し、平均結晶粒径が4μm以下であり、焼結密度が4.8g/cm3以上である、実施例1~16のMnZn系フェライトは、25℃、2MHz、50mTにおける単位体積磁心損失(Pcv)が1500mW/cm3以下であり、また、当該Pcvの磁場印加前に対する変化率が100%以下であることが示された。以上のことから、本MnZn系フェライトは高周波での損失の低減と、高磁場下での磁気特性の変化のいずれも抑制可能であることが明らかとなった。