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特許7606844電気抵抗材料、電流検出用抵抗器、及び電気抵抗材料の製造方法
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  • 特許-電気抵抗材料、電流検出用抵抗器、及び電気抵抗材料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】電気抵抗材料、電流検出用抵抗器、及び電気抵抗材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/00 20060101AFI20241219BHJP
   H01C 17/12 20060101ALI20241219BHJP
   H01C 13/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
H01C7/00 210
H01C17/12
H01C13/00 J
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020168415
(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公開番号】P2022060753
(43)【公開日】2022-04-15
【審査請求日】2023-07-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 玲那
(72)【発明者】
【氏名】仲村 圭史
【審査官】上谷 奈那
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-147305(JP,A)
【文献】特開2005-154884(JP,A)
【文献】特開平06-020803(JP,A)
【文献】特開平02-017605(JP,A)
【文献】特開昭49-077174(JP,A)
【文献】国際公開第98/048431(WO,A1)
【文献】特開昭52-155397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/00
H01C 17/12
H01C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム及びクロムを含む混合体からなる電気抵抗材料であって、
前記混合体は、前記アルミニウム及び前記クロムが化学結合しない状態で存在する分散状態であって、
前記クロムの含有量が前記混合体の全質量基準で7質量%以上13質量%以下であり、
前記アルミニウムの含有量が前記混合体の全質量基準で87質量%以上93質量%以下であり、
抵抗温度係数が-150ppm/℃以上+100ppm/℃以下である、
電気抵抗材料。
【請求項2】
請求項1に記載の電気抵抗材料であって、
前記混合体は、前記アルミニウムと前記クロムとの化合物を有しない、
電気抵抗材料。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電気抵抗材料であって、
体積抵抗率が17μΩ・cm以上50μΩ・cm以下である、
電気抵抗材料。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の電気抵抗材料であって、
膜状である、
電気抵抗材料。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の電気抵抗材料であって、
厚み寸法が、100μm以上のバルク状である、
電気抵抗材料。
【請求項6】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の電気抵抗材料を抵抗体とする電流検出用抵抗器。
【請求項7】
アルミニウム及びクロムを含むとともに前記クロムの含有量が7質量%以上13質量%以下の混合体をスパッタリングによって形成し、
形成後の工程で前記混合体に加えられる温度を250℃以下とする電気抵抗材料の製造方法。
【請求項8】
請求項に記載の電気抵抗材料の製造方法であって、
前記工程は、熱処理工程を含み、
前記熱処理工程は、形成された前記混合体を、150℃以上250℃以下で熱処理を施す、電気抵抗材料の製造方法。
【請求項9】
請求項に記載の電気抵抗材料の製造方法であって、
前記熱処理工程は、
窒素雰囲気下において、150℃以上250℃以下でおよそ60分間の熱処理を行う、電気抵抗材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気抵抗材料、電流検出用抵抗器、及び電気抵抗材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クロム-アルミニウム合金が開示されている。このクロム-アルミニウム合金は、クロム中のアルミニウムの含有量が、10~50重量%の組成域とされており、体積抵抗率が、500μΩ・cm以上とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭62-77436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このクロム-アルミニウム合金を電気抵抗材料として抵抗体を製造すると、抵抗体の抵抗値が大きくなる。
【0005】
このような抵抗体を電流検出用の抵抗器に用いると、抵抗器での電力損失が大きくなる。このため、電流検出用の抵抗器の電気抵抗材料としては不向きであった。
【0006】
そこで本発明は、抵抗値が低い抵抗体を形成することが可能な電気抵抗材料、電流検出用抵抗器、及び電気抵抗材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、アルミニウム及びクロムを含む混合体からなる電気抵抗材料であって、前記混合体は、前記アルミニウム及び前記クロムが化学結合しない状態で存在する分散状態であって、前記クロムの含有量が前記混合体の全質量基準で7質量%以上13質量%以下であり、前記アルミニウムの含有量が前記混合体の全質量基準で87質量%以上93質量%以下であり、抵抗温度係数が-150ppm/℃以上+100ppm/℃以下である。
【発明の効果】
【0008】
本態様によれば、クロムの含有量を、7質量%以上13質量%以下で構成することで、電気抵抗材料の体積抵抗率を小さくすることができる。これにより、この電気抵抗材料を用いることで、抵抗値が低い抵抗体を形成することが可能となる。
【0009】
そして、この抵抗体を用いることで、抵抗値が低い抵抗器を形成することができるので、抵抗器での電力損失を抑制することが可能となる。このため、この電気抵抗材料は、電流検出用の抵抗器の材料に適する。
【0010】
また、このような抵抗材料を混合体で構成することにより、抵抗温度係数が、-150ppm/℃以上+100ppm/℃以下に収めることができる。このため、温度変化に対して抵抗値が大きく変化する電気抵抗材料と比較して、電流検出用の抵抗器の材料に適した電気抵抗材料となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態に係る抵抗材料を構成する混合体の構造を示す図である。
図2図2は、実施形態に係る電気抵抗材料の製造方法の各工程を示す図である。
図3図3は、混合体におけるクロムの含有量と体積抵抗率(ρ)との関係を示す図である。
図4図4は、混合体におけるクロムの含有量と抵抗温度係数(TCR)との関係を示す図である。
図5図5は、第一比較例の構造を示す図である。
図6図6は、第二比較例の構造を示す図である。
図7図7は、熱処理工程で加えられる熱処理温度と体積抵抗率(ρ)との関係を示す図である。
図8図8は、熱処理工程で加えられる熱処理温度と抵抗温度係数(TCR)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
近年、環境対応のため、各国で排ガス規制が強化されており、電気自動車(EV:Electric Vehicle)の開発が進んでいる。
【0013】
電気自動車においては、一回の充電で走行できる距離を延ばすため、軽量化が要求されており、電気自動車の部品を構成する部材がアルミニウムに置き換えられている。電気自動車で用いられる部品としては、バッテリの電極及び電線が挙げられ、バッテリの電極の材料及び電線の材料をアルミニウムに置き換えることが検討されている。
【0014】
また、電気自動車には、電流検出用の抵抗器であるシャント抵抗が用いられており、発明者は、アルミニウムを主とした電気抵抗材料で抵抗器を構成することで、抵抗器の軽量化を図ることを考えた。
【0015】
しかし、アルミニウムを主とした電気抵抗材料は、ほとんど開発されておらず、抵抗値が低く、かつ抵抗温度係数が低い電気抵抗材料は存在しなかった。
【0016】
そこで、アルミニウムを主とするとともに体積抵抗率が低い電気抵抗材料を開発するに至った。なお、開発する電気抵抗材料は、通常の電気抵抗材料と比較して、抵抗温度係数が低いことが好ましい。
【0017】
以下、本発明の実施形態ついて説明するが、実施形態で示す電気抵抗材料の製造方法、電気抵抗材料、及び電気抵抗材料を用いた抵抗器は、電気自動車で用いられるシャント抵抗に限定されるものではなく、一般的な抵抗器に用いることができる。また、以下の実施形態で説明する電気抵抗材料は、他の部品の材料として用いてもよい。
【0018】
[電気抵抗材料]
実施形態に係る電流検出用抵抗器に用いられる電気抵抗材料について説明する。本実施形態に係る電流検出用抵抗器は、電気抵抗材料で形成される抵抗体と、抵抗体に電気的に接続される端子とを備える。
【0019】
抵抗体を形成する電気抵抗材料は、アルミニウム(Al)とクロム(Cr)とから成る混合体で構成されている。
【0020】
上述の混合体は、当該混合体の全質量である、100[質量%]を基準として、クロムの含有量が、7[質量%]以上13[質量%]以下である。また、混合体は、当該混合体の全質量を基準として、アルミニウムの含有量が、87[質量%]以上93[質量%]以下の範囲で定められる。これにより、抵抗体の軽量化が図られる。
【0021】
なお、混合体は、アルミニウム及びクロム以外の不純物を含まないことが望ましいが、当該混合体の全質量を基準として、1.0[質量%]以下の不可避的不純物を含んでもよい。この不可避的不純物の含有量は、0.1[質量%]以下であることが好ましく、不可避的不純物の含有量が、0.01[質量%]以下であれば、さらに好ましい。
【0022】
混合体が不純物を含む場合であっても、アルミニウムの含有量を、87[質量%]以上93[質量%]以下の範囲で調整する。言い換えると、不純物を含んだアルミニウム全体の含有量を、87[質量%]以上93[質量%]以下とする。
【0023】
また、混合体は、上述のクロム含有量において、-150[ppm/℃]以上+100[ppm/℃]以下の抵抗温度係数を実現する。
【0024】
抵抗温度係数は、抵抗値の変化率と温度変化量とに基づいて求められる。例えば、第一温度T1で第一抵抗値R1を示す混合体を第二温度T2に変化させた際に第二抵抗値R2となる場合、抵抗温度係数TCR[ppm/℃]は、次の演算式で求められる。
【0025】
TCR={(R2-R1)/R1}/{(T2-T1)×1000000}
【0026】
混合体で構成された電気抵抗材料は、アルミニウム及びクロムが化学結合しない状態、つまり金属粒子が粒子形状のまま、均一に分散している状態で存在する分散状態である。
【0027】
アルミニウム及びクロムが化学結合した状態としては、アルミニウムとクロムとが化学結合して化合物が形成された状態が挙げられる。また、アルミニウム及びクロムが化学結合した状態としては、アルミニウムとクロム以外の他元素とが結合して化合物が形成された状態が挙げられる。さらに、アルミニウム及びクロムが化学結合した状態としては、クロムとアルミニウム以外の他の元素とが結合して化合物が形成された状態が挙げられる。
【0028】
したがって、混合体で構成された電気抵抗材料には、化合物が形成されておらず、電気抵抗材料は、アルミニウム及びクロムの化合物を有しない。
【0029】
ここで、混合体で構成された電気抵抗材料は、アルミニウム及びクロムが化学結合しない状態で存在する分散状態が好ましいが、抵抗温度係数及び体積抵抗率に影響を与えない範囲であれば、アルミニウム及びクロムが化学結合した状態を含んでもよい。また、電気抵抗材料は、化合物を有しない状態が好ましいが、抵抗温度係数及び体積抵抗率に影響を与えない範囲であれば、アルミニウム及びクロムの化合物を含んでもよい。
【0030】
厳密に説明すると、混合体で構成された電気抵抗材料は、抵抗温度係数及び体積抵抗率に影響を与えない範囲であれば、アルミニウムとクロムとが化学結合して形成された化合物を含んでもよい。また、混合体で構成された電気抵抗材料は、抵抗温度係数及び体積抵抗率に影響を与えない範囲であれば、アルミニウムとクロム以外の他元素とが結合して化合物を含んでもよい。また、電気抵抗材料は、抵抗温度係数及び体積抵抗率に影響を与えない範囲であれば、クロムとアルミニウム以外の他の元素とが結合して化合物を含んでもよい。
【0031】
これらの化合物は、単独で又は組み合わせで電気抵抗材料に含まれてもよく、電気抵抗材料に含まれる各化合物を合計した含有量は、電気抵抗材料の全質量を基準として、1.0[質量%]以下とする。好ましくは、電気抵抗材料に含まれる各化合物を合計した含有量は、電気抵抗材料の全質量を基準として、0.1[質量%]以下であることが好ましく、各化合物を合計した含有量は、0.01[質量%]以下であれば、さらに好ましい。
【0032】
ここで、電気抵抗材料に含まれる各化合物は、電気抵抗材料に含まれる不可避的不純物の一部又は全部を構成するものとする。
【0033】
混合体で構成された電気抵抗材料は、体積抵抗率が、17[μΩ・cm]以上50[μΩ・cm]以下である。
【0034】
ここで、アルミニウムにクロムを固溶する場合、アルミニウムへのクロムの固溶量は、0.7[質量%]程度に制限される。このため、アルミニウムにクロムを固溶して電気抵抗材料を形成する場合、電気抵抗材料の体積抵抗率を、17[μΩ・cm]以上50[μΩ・cm]以下に設定することは困難である。
【0035】
そこで、本実施形態では、アルミニウム及びクロムを含む混合体で電気抵抗材料を構成することで、電気抵抗材料の体積抵抗率を、17[μΩ・cm]以上50[μΩ・cm]以下とする。
【0036】
ここで、体積抵抗率は、物質の単位長さを一辺とする立方体の電気抵抗値をいい、本実施形態では、単位を[μΩ・cm]とする。
【0037】
そして、電気抵抗材料は、膜状である。膜状としては、例えば厚膜状、薄膜状、及び超薄膜状が挙げられる。本実施形態の電気抵抗材料は、一例として厚み寸法が、10[μm]未満の薄膜状とし、好ましくは、3[μm]以下0.1[μm]以上とする。
【0038】
この電気抵抗材料において、厚み寸法の下限は、電気抵抗材料を構成する部材で定まるものとする。
【0039】
なお、本実施形態では、膜状の電気抵抗材料を例に挙げて説明するが、電気抵抗材料の形状は、これに限定されるものではない。
【0040】
例えば、他の実施形態として、電気抵抗材料を、バルク状とする。バルク状とは、肉厚形状のことである。その一例として、厚み寸法が、100[μm]以上の電気抵抗材料が挙げられ、好ましくは、電気抵抗材料の厚み寸法を、200[μm]以上4000[μm]とする。
【0041】
この電気抵抗材料の厚み寸法の上限値は、一例として、電気抵抗材料の外形寸法以下とすることができる。
【0042】
(抵抗材料の構造)
図1は、本実施形態に係る電気抵抗材料10を構成する混合体12の構造を示す図である。混合体12は、アルミニウムで構成されたアルミニウム粒子14と、クロムで構成されたクロム粒子16とを含んで構成されている。
【0043】
混合体12は、アルミニウムにクロムが固溶した状態と異なる。この混合体12では、隣接するアルミニウム粒子14とクロム粒子16とが、互いに密着した状態で配置されている。
【0044】
アルミニウム粒子14の平均粒径は、100[nm]以下であり、クロム粒子16の平均粒径は、100[nm]以下である。
【0045】
混合体12は、アルミニウム粒子14が構成するアルミニウムとクロム粒子16が構成するクロムとが化学結合しない状態で存在する分散状態18を成す。これにより、混合体12は、アルミニウムとクロムとが結合した化合物を有しない。
【0046】
ここで、「アルミニウムとクロムとが結合した化合物を有しない」とは、混合体で構成された電気抵抗材料の全質量を基準として、化合物の含有量が、1.0[質量%]以下のことである。
【0047】
[電気抵抗材料の作用効果]
本実施形態の電気抵抗材料10は、アルミニウム及びクロムを含む混合体12からなる電気抵抗材料10である。電気抵抗材料10は、クロムの含有量が混合体12の全質量基準で、7[質量%]以上13[質量%]以下であり、抵抗温度係数が-150[ppm/℃]以上+100[ppm/℃]以下である。
【0048】
この構成によれば、電気抵抗材料10を、クロムの含有量が、7[質量%]以上13[質量%]以下である混合体12で構成することで、電気抵抗材料10の体積抵抗率(ρ)を小さくすることができる。これにより、この電気抵抗材料10を用いることで、抵抗値が低い抵抗体を形成することが可能となる。
【0049】
そして、この電気抵抗材料10からなる抵抗体を用いることで、抵抗値が低い抵抗器を形成することができる。このため、抵抗器での電力損失を抑制することが可能となるので、電気抵抗材料10は、電流検出用の抵抗器の材料に適した電気抵抗材料となる。
【0050】
また、このような混合体12は、抵抗温度係数(TCR)が、-150[ppm/℃]以上+100[ppm/℃]以下であり、一般的な電気抵抗材料と比較して、温度変化に対する抵抗値の変化が小さい。このため、温度変化に対して抵抗値が大きく変化する電気抵抗材料と比較して、電流検出用の抵抗器の材料に適した電気抵抗材料10となる。
【0051】
また、本実施形態の電気抵抗材料10は、アルミニウム及びクロムが化学結合しない状態で存在する分散状態18である。さらに、本実施形態の電気抵抗材料10は、アルミニウム及びクロムの化合物を有しない。
【0052】
この構成によれば、電気抵抗材料10においてアルミニウム及びクロムを均一に分散させることができるので、抵抗温度係数(TCR)などの抵抗特性が向上する。また、電気抵抗材料10の構成物の大きさのバラツキを抑制することができるので、体積抵抗率(ρ)の設定を安定的に行うことが可能となる。
【0053】
また、本実施形態の電気抵抗材料10は、体積抵抗率(ρ)が、17[μΩ・cm]以上50[μΩ・cm]以下である。
【0054】
この構成によれば、体積抵抗率(ρ)が、50[μΩ・cm]を超える電気抵抗材料10を抵抗体として抵抗器を形成する場合と比較して、抵抗器での電力損失の抑制が容易となる。
【0055】
また、体積抵抗率(ρ)が、17[μΩ・cm]未満の電気抵抗材料10を抵抗体として抵抗器を形成する場合と比較して、抵抗体と端子との境界を明確化することができる。これにより、例えば抵抗体の幅寸法等を調整して抵抗値を設定する等の作業を容易に行うことが可能となる。
【0056】
さらに、本実施形態の電気抵抗材料10は、膜状であり、抵抗体を膜状に形成することができる。これにより、膜状の抵抗体で抵抗器を形成することができるので、抵抗器の高精度化が可能となる。
【0057】
ここで、他の実施形態として示した電気抵抗材料10は、厚み寸法が、100[μm]以上のバルク状である。この場合、バルク状の抵抗体で抵抗器を形成することで、抵抗器の許容電流の増大が可能となる。
【0058】
そして、本実施形態の抵抗器は、電気抵抗材料10を抵抗体とする。これにより、電力損失が小さく、かつ抵抗温度係数(TCR)が小さい抵抗器を提供することが可能となる。それゆえ、電気抵抗材料10で構成された抵抗器は、電流検出用として用いることができる。
【0059】
[電気抵抗材料の製造方法]
次に、前述した電気抵抗材料10の製造方法の一例を、図面を用いて説明する。
【0060】
図2は、実施形態に係る電気抵抗材料の製造方法の各工程を示す図である。電気抵抗材料10の製造方法は、図2に示すように、混合体12を形成する為の準備を行う準備工程P1と、混合体12を形成する混合体成膜工程P2と、形成した混合体12に熱処理を施す熱処理工程P3とを備える。
【0061】
また、混合体成膜工程P2では、電気抵抗材料10を構成する混合体12を形成する方法としてスパッタリング法を用いる。スパッタリング法は、アルミニウム及びクロムを基材に交互に照射して基材に膜状の混合体12を形成する方法である。
【0062】
(準備工程)
準備工程P1では、スパッタリングターゲットとなるアルミニウム用成膜材料及びクロム用成膜材料を製造する。アルミニウム用成膜材料及びクロム用成膜材料の製造方法としては、一例として、原材料粉末を融点以下の温度で加熱して原材料粉末を固め、各成膜材料を形成する焼結法が挙げられる。
【0063】
なお、アルミニウムの成膜用インゴット及びクロムの成膜用インゴットを入手可能な場合には、この準備工程P1を省略することができる。
【0064】
(混合体成膜工程)
混合体成膜工程P2は、スパッタリング法で混合体12を形成する。
【0065】
この混合体成膜工程P2では、アルミニウム用成膜材料を用いてスパッタリングを行った後にクロム用成膜材料を用いてスパッタリングを行う方法である。
【0066】
先ず、準備工程P1で形成したアルミニウム用成膜材料を、真空チャンバの一方に配置し、真空チャンバの他方に基材を配置する。次に、真空チャンバにアルゴンガス(Ar)を入れる。
【0067】
そして、アルミニウム用成膜材料を陰極とするとともに基材を陽極とし、高圧を印加する。このとき陽極と陰極とに加える電力は、130[W]以上160[W]以下とする。
【0068】
これにより、アルゴンガスをイオン化し、イオン化したアルゴンガスを高速でアルミニウム用成膜材料に衝突させる。この衝突でアルミニウム用成膜材料から飛び出したアルミニウム粒子が基材に付着する。
【0069】
次に、真空チャンバの一方に配置されたアルミニウム用成膜材料を、準備工程P1で形成したクロム用成膜材料に交換し、真空チャンバにアルゴンガス(Ar)を入れる。
【0070】
そして、クロム用成膜材料を陰極とするとともに基材を陽極として高圧を印加する。このとき陽極と陰極とに加える電力は、1[W]以上20[W]以下とする。
【0071】
これにより、アルゴンガスをイオン化し、イオン化したアルゴンガスを高速でクロム用成膜材料に衝突させる。この衝突でクロム用成膜材料から飛び出したクロム粒子が基材に付着する。以上の工程により、基材の表面にアルミニウム粒子とクロム粒子とを含む混合体12を成膜、形成する。
【0072】
この混合体成膜工程P2で行うスパッタリングの条件は、真空チャンバ内のアルゴンガスのガス流量を、10[sccm]以上30[sccm]以下、ガス圧力を、0.25[Pa]以上0.45[Pa]以下、保持時間を、40[分]以上80[分]以下とする。
【0073】
保持時間は、基材に形成される混合体12の厚み寸法が、必要な厚みとなるように調整する。
【0074】
また、クロム用成膜材料に印加するDC電力は、混合体12に含有させるクロムの含有量に基づいて、1[W]以上20[W]以下の範囲でクロムの含有量と膜厚に合わせて保持時間を設定する。
【0075】
この条件でスパッタリングを行うことで、基材に形成された混合体におけるクロムの含有量を、7[質量%]以上13[質量%]以下とする。
【0076】
このように、スパッタリングによって混合体12を形成することで、原材料を溶かして成形する溶解法を用いた場合と比較して、アルミニウムとクロムとがおおむね均一に分散した分散状態18の混合体12を形成することができる。
【0077】
そして、アルミニウムにクロムを均一に分散するためには、クロムの粒子を小さくする必要がある。そこで、混合体12を構成するクロム粒子16の平均粒子径を、100[nm]以下とする。好ましくは、混合体12を構成するアルミニウム粒子14の平均粒子径を、100[nm]以下とする。
【0078】
また、スパッタリングにより混合体12を形成するため、アルミニウム及びクロムの化合物の形成を抑制することができる。好ましくは、混合体12にアルミニウム及びクロムの化合物が形成されないようにする。
【0079】
(熱処理工程)
熱処理工程P3では、混合体成膜工程P2で形成した混合体12に熱処理を施し、混合体12を安定化する。
【0080】
この熱処理工程P3では、窒素雰囲気において、混合体成膜工程P2で形成された混合体に、150[℃]以上250[℃]以下で、およそ60分間の熱処理を行う。
【0081】
熱処理は、窒素雰囲気で行われることが好ましい。
【0082】
この熱処理の温度条件は、150[℃]以上250[℃]以下とすることが好ましい。
【0083】
[電気抵抗材料の製造方法の作用効果]
本実施形態の電気抵抗材料10の製造方法では、アルミニウム及びクロムを含むとともにクロムの含有量が、7[質量%]以上13[質量%]以下の混合体12をスパッタリングによって形成する。そして、形成後の工程で混合体12に加えられる温度を、250[℃]以下とする。
【0084】
このように、クロムの含有量が、7[質量%]以上13[質量%]以下の混合体12で電気抵抗材料10を構成することで、電気抵抗材料10の体積抵抗率(ρ)を小さくすることができる。これにより、この電気抵抗材料10を用いることで、抵抗値が低い抵抗体を形成することが可能となる。
【0085】
また、混合体12をスパッタリングで形成し、形成後の工程で混合体12に加えられる温度を、250[℃]以下とすることで、アルミニウムとクロムとの化合物の形成を抑制することができる。
【0086】
これにより、形成される電気抵抗材料10において、アルミニウム及びクロムを均一に分散させることができる。また、電気抵抗材料10の構成物の大きさのバラツキを抑制することが可能となる。
【0087】
また、クロムの含有量に応じて定まる体積抵抗率(ρ)の安定化が可能となるとともに、抵抗温度係数(TCR)を小さくすることが可能となる。
【0088】
そして、この電気抵抗材料10を用いることにより、抵抗値が低く、かつ抵抗温度係数(TCR)が小さい抵抗器を形成することができる。したがって、電流検出用の抵抗器の材料に適した電気抵抗材料10の製造が可能となる。
【0089】
また、本実施形態の電気抵抗材料10の製造方法では、熱処理工程P3を含み、熱処理工程P3は、形成された混合体12を、150[℃]以上で熱処理を施す。
【0090】
これにより、熱処理が、150[℃]未満で行われる場合と比較して、熱処理による混合体の成形性の向上が可能となる。
【0091】
さらに、本実施形態の電気抵抗材料10の製造方法では、熱処理工程P3は、窒素雰囲気下において、250[℃]以下で、約60分間の熱処理を行う。
【0092】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は、本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0093】
なお、本実施形態では、アルミニウム用成膜材料を用いてスパッタリングを行った後にクロム用成膜材料を用いてスパッタリングを行う場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。
【0094】
例えば、クロム用成膜材料でスパッタリングを行った後にアルミニウム用成膜材料でスパッタリングを行ってもよい。また、アルミニウム用成膜材料とクロム用成膜材料とを同時に用いてスパッタリングを行ってもよい。この場合、クロムの含有率に応じて、アルミニウム用成膜材料に印加するDC電力とクロム用成膜材料に印加するDC電力とを異なる大きさに設定する。
【0095】
また、本実施形態では、アルミニウム及びクロムを均一に分散させた状態で、250[℃]以下の温度で電気抵抗材料10を製造する方法として、スパッタリング法を用いたが、これに限定されるものではない。
【0096】
電気抵抗材料10を製造する他の方法として、例えば、電気抵抗材料10を蒸着で形成する蒸着法、コールドスプレー法、又は低温焼成法が挙げられる。
【0097】
また、スパッタリング法により電気抵抗材料10を膜状に形成したが、これに限定されるものではない。
【0098】
例えば、水アトマイズなど急速に冷却される状態で、平均粒径が5[μm]以下のアルミニウム粒子14及びクロム粒子16からなる微細な粉末を作製し、この粉末を用いたコールドスプレー法で膜状の電気抵抗材料10を形成する方法が挙げられる。また、低温の焼成工法で膜状の電気抵抗材料10を成形する方法が挙げられる。
【実施例
【0099】
本発明の実施形態に係る電気抵抗材料を作製し、作製した電気抵抗材料の抵抗温度係数(TCR)と体積抵抗率(ρ)とを測定した。以下、供試体の作製方法及びその評価方法について説明する。
【0100】
[供試体の作製]
<電気抵抗材料の作製>
・供試体1の作製
【0101】
始めに、準備工程において、スパッタリングターゲットとなるアルミニウム用成膜材料及びクロム用成膜材料を製造する。
【0102】
この準備工程では、株式会社高純度化学研究所製の純度99.9%のアルミニウム(Al)を、アルミニウムの融点である、660.3[℃]以下の温度で加熱して固め、アルミニウム用成膜材料を形成する。
【0103】
また、株式会社高純度化学研究所製のクロム(Cr)の純度99.9%の粉末を、クロムの融点である、1907.0[℃]以下の温度で加熱して原材料を固め、クロム用成膜材料を形成する。
【0104】
次に、混合体成膜工程において、実施形態で示したスパッタリング法で混合体12を形成する。この混合体成膜工程で行うスパッタリングの条件を下記に示す。
【0105】
・放電ガス:アルゴンガス
・ガス流量:20[sccm]
・ガス圧力:0.35[Pa]
・DC電力:Al 145[W]
Cr 5.5[W]
・保持時間:約60[分]
【0106】
なお、ガス流量の単位を示す[sccm]は「Standard Cubic Centimeter per Minute」の略であり、標準条件である1[気圧]、0[℃] において、時間当たりに流体が流れる体積を示す。
【0107】
これにより、供試体1の電気抵抗材料を得た。
【0108】
・供試体2の作製
クロム用成膜材料に加えるDC電力を、6[W]とした以外は、供試体1と同様の処理を行って、供試体2の電気抵抗材料を得た。
【0109】
・供試体3の作製
クロム用成膜材料に加えるDC電力を、7[W]とした以外は、供試体1と同様の処理を行って、供試体3の電気抵抗材料を得た。
【0110】
・供試体4の作製
クロム用成膜材料に加えるDC電力を、7.5[W]とした以外は、供試体1と同様の処理を行って、供試体4の電気抵抗材料を得た。
【0111】
・供試体5の作製
クロム用成膜材料に加えるDC電力を、8[W]とした以外は、供試体1と同様の処理を行って、供試体5の電気抵抗材料を得た。
【0112】
・供試体6の作製
クロム用成膜材料に加えるDC電力を、9[W]とした以外は、供試体1と同様の処理を行って、供試体6の電気抵抗材料を得た。
【0113】
・供試体7の作製
クロム用成膜材料に加えるDC電力を、15[W]とした以外は、供試体1と同様の処理を行って、供試体7の電気抵抗材料を得た。
【0114】
・供試体8の作製
クロム用成膜材料に加えるDC電力を、17[W]とした以外は、供試体1と同様の処理を行って、供試体8の電気抵抗材料を得た。
【0115】
・供試体9の作製
クロム用成膜材料に加えるDC電力を、20[W]とした以外は、供試体1と同様の処理を行って、供試体9の電気抵抗材料を得た。
【0116】
[供試体の評価]
<混合体におけるクロム含有量の測定>
混合体におけるクロムの含有量の測定には、日本電子株式会社製の「JSM-7900F」を用いた。
【0117】
<抵抗値及び体積抵抗率(ρ)の測定>
【0118】
抵抗値及び体積抵抗率(ρ)の測定には、KEYSIGHT社製の「半導体デバイスパラメータアナライザB1500A」を用いるとともに、周囲温度が、25[℃]の条件で体積抵抗率(ρ)の測定を行った。
【0119】
<TCRの測定>
抵抗温度係数(TCR)の演算には、25[℃]で測定した抵抗値と、100[℃]で測定した抵抗値とを用いた。
【0120】
[評価結果]
各供試体の電気抵抗材料の抵抗温度係数(TCR)と体積抵抗率(ρ)の測定結果を第1表に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
また、図3は、混合体におけるクロム(Cr)の含有量と体積抵抗率(ρ)との関係を示す図であり、図3には、第1表の測定結果が点で示されている。図4は、混合体におけるクロムの含有量と抵抗温度係数(TCR)との関係を示す図であり、図4には、第1表の測定結果が点で示されている。
【0123】
第1表及び図3の結果によれば、混合体12の体積抵抗率を示す体積抵抗率(ρ)は、クロム(Cr)の含有量におおよそ比例するように、クロム(Cr)の含有量が増加するに従って大きくなる。
【0124】
ここで、本実施形態における電気抵抗材料10は、電流検出用の抵抗器で用いる。このため、抵抗器での電力損失を抑えるために、電気抵抗材料10は、体積抵抗率(ρ)が、50[μΩ・cm]以下であることが要求される。
【0125】
これに伴い、電気抵抗材料10を構成する混合体12におけるクロム(Cr)の含有量は、この測定結果から、13[質量%]以下とする。
【0126】
この電気抵抗材料10で構成される抵抗器の抵抗体は電極に電気的に接続される。ここで、一例として抵抗体の形状を調整して抵抗値を設定するために抵抗体と電極との境界を明確にする必要がある。このため、抵抗体の体積抵抗率を、電極の体積抵抗率の十倍以上にすることが要求される。
【0127】
一般的な材料で形成された電極の体積抵抗率は、常温度で、1.7[μΩ・cm]であり、電気抵抗材料10の体積抵抗率は、17.0[μΩ・cm]以上とする必要がある。
【0128】
このため、電気抵抗材料10を構成する混合体12のクロム(Cr)の含有量は、この測定結果から、7[質量%]以上とする。
【0129】
また、第1表及び図4の結果によれば、混合体12の抵抗温度係数(TCR)は、クロム(Cr)の含有量が、7[質量%]未満になると、+100[ppm/℃]を超える。また、混合体12の抵抗温度係数(TCR)は、クロム(Cr)の含有量が、13[質量%]を超えると、-150[ppm/℃]未満となる。
【0130】
このように、混合体12のクロム(Cr)の含有量を、7[質量%]以上13[質量%]以下とすることで、抵抗温度係数(TCR)を、-150[ppm/℃]以上+100[ppm/℃]以下とすることができる。
【0131】
[熱処理試験]
続いて、上述のように得られた供試体のなかから、抵抗温度係数(TCR)及び体積抵抗率(ρ)がいずれも良好な値を示した、供試体5について、さらに、熱処理を実行し、抵抗温度係数(TCR)及び体積抵抗率(ρ)の変化を観察した。
【0132】
<熱処理>
供試体5について、以下の条件で熱処理を行った。
【0133】
窒素雰囲気下
昇温速度: 150[℃/min]
熱処理時間: 目的温度に到達してから60分間載置
【0134】
<熱処理試験における熱測定>
【0135】
<熱処理温度の測定>
熱処理する際の温度設定は、アルバック真空理工製の「赤外線高速ランプアニール装置 RTA-4000」で行った。また、抵抗値及び体積抵抗率(ρ)の測定には、KEYSIGHT社製の「半導体デバイスパラメータアナライザB1500A」を用いるとともに、熱処理後の混合体12の体積抵抗率(ρ)を、周囲温度が、25[℃]の条件で測定した。
【0136】
[熱処理試験結果]
熱処理試験の結果を以下に示す。
【0137】
この熱処理工程P3の熱処理において、混合体12に加えられる温度が、300[℃]を超えると、アルミニウム(Al)とクロム(Cr)との化合物(Al7Cr)の形成が開始される。
【0138】
図5は、第一比較例30の構造を示す図であり、図6は、第二比較例32の構造を示す図である。図5及び図6には、300[℃]を超えて加熱した混合体12に化合物が形成された化合物形成状態20、22が示されている。
【0139】
各比較例30、32の混合体12は、アルミニウムで構成されたアルミニウム粒子14と、クロムで構成されたクロム粒子16とを含む。各比較例30、32において、アルミニウム粒子14の平均粒径は、100[nm]以下であり、クロム粒子16の平均粒径は、100[nm]以下である。
【0140】
各比較例30、32の混合体12には、アルミニウム粒子14が構成するアルミニウム(Al)とクロム粒子16が構成するクロム(Cr)とが化学結合した化合物(Al7Cr)34、36が形成されている。
【0141】
各比較例30、32の混合体12は、隣接するアルミニウム粒子14、クロム粒子16、及び化合物34、36は、互いに密着した状態で配置されている。
【0142】
第一比較例30の化合物34の平均粒径は、アルミニウム粒子14及びクロム粒子16の平均粒径より大きく、最大部分の外形寸法は、100[nm]を超えている。
【0143】
また、第二比較例32の化合物36は、樹枝状に形成されている。この化合物36の平均粒径は、アルミニウム粒子14及びクロム粒子16の平均粒径より大きく、最大部分の外形寸法は、100[nm]を超えている。
【0144】
各比較例30、32では、アルミニウムとクロムとの分散状態が不均一となり、抵抗温度係数(TCR)等の抵抗特性が大幅に悪化する。このため、良好な抵抗特性を得るためには、熱処理の温度条件を、300[℃]以下とする必要がある。
【0145】
図7は、熱処理工程で加えられる熱処理温度と体積抵抗率(ρ)との関係を示す図であり、クロム(Cr)の含有量が、7.3[質量%]の混合体12を熱処理する際の温度に対する混合体12の体積抵抗率(ρ)の測定結果が示されている。
【0146】
図7が示す測定結果から、混合体12を、250[℃]以下で熱処理すれば、体積抵抗率(ρ)の変動を抑えることができ、体積抵抗率(ρ)を、クロム(Cr)の含有量に基づいて定めた設定値(18.7[μΩ・cm])の付近に設定することができる。
【0147】
一方、混合体12を、250[℃]以上で熱処理すると、体積抵抗率(ρ)が、クロム(Cr)の含有量に基づいて定めた設定値(18.7[μΩ・cm])から乖離する。さらに、混合体12を、300[℃]以上で熱処理すると、体積抵抗率(ρ)が設定値(18.7[μΩ・cm])から大幅に乖離する。
【0148】
ここで、混合体12を、300[℃]以上で熱処理すると、アルミニウムとクロムとの化合物の形成が開始される。混合体12に化合物が形成された化合物形成状態20、22では、アルミニウムとクロムとが均一に分散した分散状態18と比較して、電子散乱が減少する。すると、抵抗値が低下するとともに、抵抗温度係数(TCR)が上昇する。
【0149】
図8は、熱処理工程で加えられる熱処理温度と抵抗温度係数(TCR)との関係を示す図である。図8には、クロム(Cr)の含有量が、7.3[質量%]の混合体12を、60分間熱処理した場合の熱処理温度に対する混合体12の抵抗温度係数(TCR)の測定結果が示されている。
【0150】
図8が示す測定結果から、混合体12を、250[℃]以下で熱処理した場合、抵抗温度係数(TCR)は、±10[ppm/℃]以内であり、250[℃]以下で熱処理すれば、抵抗温度係数(TCR)を、±100[ppm/℃]以内に抑えることができる。
【0151】
一方、混合体12を、300[℃]以上で熱処理すると、抵抗温度係数(TCR)が、±1000[ppm/℃]を超えてしまう。
【0152】
この測定結果から、熱処理工程P3での熱処理は、250[℃]以下で実施するものとする。
【0153】
そして、この熱処理工程によって電気抵抗材料10の製造が完了する。このため、混合体成膜工程以後の工程において、混合体12が、250[℃]を超える温度に加熱されることはなく、混合体12に加えられる温度は、250[℃]以下とされる。
【0154】
これにより、アルミニウム及びクロムを含むとともにクロムの含有量が、7[質量%]以上13[質量%]以下の混合体12であって抵抗温度係数(TCR)が、-150[ppm/℃]以上+100[ppm/℃]以下の電気抵抗材料10が形成される。
【0155】
また、この電気抵抗材料10は、体積抵抗率(ρ)が、17[μΩ・cm]以上50[μΩ・cm]以下となる。
【符号の説明】
【0156】
10 電気抵抗材料
12 混合体
14 アルミニウム粒子
16 クロム粒子
18 分散状態
TCR 抵抗温度係数
ρ 体積抵抗率
P2 混合体成膜工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8