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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】駆動方法、駆動回路及び変位駆動装置
(51)【国際特許分類】
   B06B 1/06 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
B06B1/06 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020186384
(22)【出願日】2020-11-09
(65)【公開番号】P2021194638
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2020103564
(32)【優先日】2020-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
(72)【発明者】
【氏名】橘 和宗
(72)【発明者】
【氏名】清水 寛之
(72)【発明者】
【氏名】岸本 純明
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-157586(JP,A)
【文献】特開2014-172314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B06B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界誘起歪を発現するセラミックスと、前記セラミックスの内部に設けられた複数の正極内部電極と前記セラミックスの表面に設けられ前記複数の正極内部電極に接続された正極外部電極とを含む正極と、前記セラミックスの内部に前記セラミックスを介して前記複数の正極内部電極に対向して設けられた複数の負極内部電極と前記セラミックスの表面に設けられ前記複数の負極内部電極に接続された負極外部電極とを含む負極と、を有する誘電体素子の、前記正極と前記負極の間に印加され、所定の駆動周波数を有する駆動電圧波形であって、前記駆動電圧波形のうち一方のピーク電圧である第1駆動最大電圧が、前記駆動周波数における前記セラミックスのブレークダウン電圧の0.37倍と0.84倍の間の電圧であり、前記駆動電圧波形のうち他方のピーク電圧である第2駆動最大電圧が、前記第1駆動最大電圧と反対の極性において前記セラミックスの抗電界の0.1倍と0.8倍の間の電圧である駆動電圧波形を前記正極と前記負極の間に印加する
駆動方法。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動方法であって、
前記セラミックスは、抗電界が1kV/mm未満又はキュリー温度が300℃未満である
駆動方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の駆動方法であって、
前記駆動電圧波形は、正弦波、三角波、ハーバーサイン波、ガウシアン波又はこれらのバースト波である
駆動方法。
【請求項4】
電界誘起歪を発現するセラミックスと、前記セラミックスの内部に設けられた複数の正極内部電極と前記セラミックスの表面に設けられ前記複数の正極内部電極に接続された正極外部電極とを含む正極と、前記セラミックスの内部に前記セラミックスを介して前記複数の正極内部電極に対向して設けられた複数の負極内部電極と前記セラミックスの表面に設けられ前記複数の負極内部電極に接続された負極外部電極とを含む負極と、を有する誘電体素子の、前記正極と前記負極の間に印加され、所定の駆動周波数を有する駆動電圧波形であって、前記駆動電圧波形のうち一方のピーク電圧である第1駆動最大電圧が、前記駆動周波数における前記セラミックスのブレークダウン電圧の0.37倍と0.84倍の間の電圧であり、前記駆動電圧波形のうち他方のピーク電圧である第2駆動最大電圧が、前記第1駆動最大電圧と反対の極性において前記セラミックスの抗電界の0.1倍と0.8倍の間の電圧である駆動電圧波形を生成し、前記正極と前記負極の間に印加する
駆動回路。
【請求項5】
請求項4に記載の駆動回路であって、
前記セラミックスは、抗電界が1kV/mm未満又はキュリー温度が300℃未満である
駆動回路。
【請求項6】
電界誘起歪を発現するセラミックスと、前記セラミックスの内部に設けられた複数の正極内部電極と前記セラミックスの表面に設けられ前記複数の正極内部電極に接続された正極外部電極とを含む正極と、前記セラミックスの内部に前記セラミックスを介して前記複数の正極内部電極に対向して設けられた複数の負極内部電極と前記セラミックスの表面に設けられ前記複数の負極内部電極に接続された負極外部電極とを含む負極と、を有する誘電体素子と、
前記誘電体素子が接合された駆動対象物と、
前記正極と前記負極の間に印加され、所定の駆動周波数を有する駆動電圧波形であって、前記駆動電圧波形のうち一方のピーク電圧である第1駆動最大電圧が、前記駆動周波数における前記セラミックスのブレークダウン電圧の0.37倍と0.84倍の間の電圧であり、前記駆動電圧波形のうち他方のピーク電圧である第2駆動最大電圧が、前記第1駆動最大電圧と反対の極性において前記セラミックスの抗電界の0.1倍と0.8倍の間の電圧である駆動電圧波形を生成し、前記正極と前記負極の間に印加する駆動回路と
を具備する変位駆動装置。
【請求項7】
請求項6に記載の変位駆動装置であって、
前記セラミックスは、抗電界が1kV/mm未満又はキュリー温度が300℃未満である
変位駆動装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の変位駆動装置であって、
前記誘電体素子及び前記駆動対象物はアクチュエータを構成する
変位駆動装置。
【請求項9】
圧電材料からなる圧電体と、前記圧電体の内部に設けられた複数の正極内部電極と前記圧電体の表面に設けられ前記複数の正極内部電極に接続された正極外部電極とを含む正極と、前記圧電体の内部に前記圧電体を介して前記複数の正極内部電極に対向して設けられた複数の負極内部電極と前記圧電体の表面に設けられ前記複数の負極内部電極に接続された負極外部電極とを含む負極と、を有する圧電素子の、前記正極と前記負極の間に印加され、所定の駆動周波数を有する駆動電圧波形であって、前記駆動電圧波形のうち一方のピーク電圧である第1駆動最大電圧が、前記駆動周波数における前記圧電体のブレークダウン電圧の0.37倍と0.84倍の間の電圧であり、前記駆動電圧波形のうち他方のピーク電圧である第2駆動最大電圧が、前記第1駆動最大電圧と反対の極性において前記圧電材料の抗電界の0.1倍と0.8倍の間の電圧である駆動電圧波形を前記正極と前記負極の間に印加する
駆動方法。
【請求項10】
請求項9に記載の駆動方法であって、
前記駆動電圧波形は、正弦波、三角波、ハーバーサイン波、ガウシアン波又はこれらのバースト波である
駆動方法。
【請求項11】
圧電材料からなる圧電体と、前記圧電体の内部に設けられた複数の正極内部電極と前記圧電体の表面に設けられ前記複数の正極内部電極に接続された正極外部電極とを含む正極と、前記圧電体の内部に前記圧電体を介して前記複数の正極内部電極に対向して設けられた複数の負極内部電極と前記圧電体の表面に設けられ前記複数の負極内部電極に接続された負極外部電極とを含む負極と、を有する圧電素子の、前記正極と前記負極の間に印加され、所定の駆動周波数を有する駆動電圧波形であって、前記駆動電圧波形のうち一方のピーク電圧である第1駆動最大電圧が、前記駆動周波数における前記圧電体のブレークダウン電圧の0.37倍と0.84倍の間の電圧であり、前記駆動電圧波形のうち他方のピーク電圧である第2駆動最大電圧が、前記第1駆動最大電圧と反対の極性において前記圧電材料の抗電界の0.1倍と0.8倍の間の電圧である駆動電圧波形を生成し、前記正極と前記負極の間に印加する
駆動回路。
【請求項12】
圧電材料からなる圧電体と、前記圧電体の内部に設けられた複数の正極内部電極と前記圧電体の表面に設けられ前記複数の正極内部電極に接続された正極外部電極とを含む正極と、前記圧電体の内部に前記圧電体を介して前記複数の正極内部電極に対向して設けられた複数の負極内部電極と前記圧電体の表面に設けられ前記複数の負極内部電極に接続された負極外部電極とを含む負極と、を有する圧電素子と、
前記圧電素子が接合された振動体と、
前記正極と前記負極の間に印加され、所定の駆動周波数を有する駆動電圧波形であって、前記駆動電圧波形のうち一方のピーク電圧である第1駆動最大電圧が、前記駆動周波数における前記圧電体のブレークダウン電圧の0.37倍と0.84倍の間の電圧であり、前記駆動電圧波形のうち他方のピーク電圧である第2駆動最大電圧が、前記第1駆動最大電圧と反対の極性において前記圧電材料の抗電界の0.1倍と0.8倍の間の電圧である駆動電圧波形を生成し、前記正極と前記負極の間に印加する駆動回路と
を具備する変位駆動装置。
【請求項13】
請求項12に記載の変位駆動装置であって、
前記圧電素子及び前記振動体は圧電アクチュエータを構成し、前記振動体の振動により、前記振動体に触覚を発生させる
変位駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体素子の駆動方法、駆動回路及び変位駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電装用タッチパネルに代表される触覚技術を用いたパネル等において、パネル上にあたかもボタンがあるように感じる技術や、運転中にパネルを目視することなく触覚によりボタンの位置を把握できる技術が注目を集めている。
【0003】
これらの技術において触覚を発生させるための振動デバイスには、電磁式の偏心モータやLRA(Linear Resonant Actuator)、圧電アクチュエータ等が用いられている。圧電アクチュエータは応答速度が速い特性から、対応可能な駆動周波数が広く、多彩な触覚を表現できることから、次世代の触覚用モジュール部品として特に注目を集めている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-197762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、圧電アクチュエータの駆動振幅は電磁式に比べて小さく、駆動振幅を大きくするためには圧電素子の駆動電圧を大きくする必要であった。しかしながら、バイポーラ(双極性)駆動では抗電界の制約があり、駆動電圧振幅を抗電界以上に大きくした場合、脱分極する問題があった。また、分極方向へのユニポーラ(単極性)駆動では、抗電界の影響を受けないものの、駆動電圧振幅を過剰に上げた場合に信頼性を損ねるという問題や、駆動回数に応じて変位が小さくなるという問題があった。
【0006】
さらに、圧電材料として代表的なPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)は圧電特性が高い一方で、環境への配慮から鉛を含まない非鉛への置き換えも検討されている。環境面において懸案される。一方、鉛を含まない圧電材料はBiやSb等の規制物質やLi、Ta又はNb等の高価な材料を必要とし、コスト面が問題となる。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、誘電体素子の変位量を、信頼性を損ねない範囲で最大化することが可能な駆動方法、駆動回路及び変位駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る駆動方法は、電界誘起歪を発現するセラミックスと、上記セラミックスの内部に設けられた複数の正極内部電極と上記セラミックスの表面に設けられ上記複数の正極内部電極に接続された正極外部電極とを含む正極と、上記セラミックスの内部に上記セラミックスを介して上記複数の正極内部電極に対向して設けられた複数の負極内部電極と上記セラミックスの表面に設けられ上記複数の負極内部電極に接続された負極外部電極とを含む負極と、を有する誘電体素子の、上記正極と上記負極の間に印加され、所定の駆動周波数を有する駆動電圧波形であって、上記駆動電圧波形のうち一方のピーク電圧である第1駆動最大電圧が、上記駆動周波数における上記セラミックスのブレークダウン電圧の0.37倍と0.84倍の間の電圧であり、上記駆動電圧波形のうち他方のピーク電圧である第2駆動最大電圧が、上記第1駆動最大電圧と反対の極性において上記セラミックスの抗電界の0.1倍と0.8倍の間の電圧である駆動電圧波形を上記正極と上記負極の間に印加する。
【0009】
この駆動方法によれば、主に駆動する側とは反対型にも抗電界を超えない範囲で電圧を振ることによって、駆動電圧振幅を大きくすることができ、かつインプリント効果による変特性の低下を防止することが可能となる。したがって、駆動安定性や駆動信頼性を損ねずに、誘電体素子の変位量を最大化することができる。また、この駆動方法では、誘電体素子の材料として電界誘起歪を発現するセラミックス用いることができ、高い圧電性や高い強誘電性を有する材料を用いる必要がないため、環境負荷やコスト負荷を低減することが可能である。
【0010】
上記セラミックスは、抗電界が1kV/mm未満又はキュリー温度が300℃未満であってもよい。
【0011】
上記駆動電圧波形は、正弦波、三角波、ハーバーサイン波、ガウシアン波又はこれらのバースト波であってもよい。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る駆動回路は、電界誘起歪を発現するセラミックスと、上記セラミックスの内部に設けられた複数の正極内部電極と上記セラミックスの表面に設けられ上記複数の正極内部電極に接続された正極外部電極とを含む正極と、上記セラミックスの内部に上記セラミックスを介して上記複数の正極内部電極に対向して設けられた複数の負極内部電極と上記セラミックスの表面に設けられ上記複数の負極内部電極に接続された負極外部電極とを含む負極と、を有する誘電体素子の、上記正極と上記負極の間に印加され、所定の駆動周波数を有する駆動電圧波形であって、上記駆動電圧波形のうち一方のピーク電圧である第1駆動最大電圧が、上記駆動周波数における上記セラミックスのブレークダウン電圧の0.37倍と0.84倍の間の電圧であり、上記駆動電圧波形のうち他方のピーク電圧である第2駆動最大電圧が、上記第1駆動最大電圧と反対の極性において上記セラミックスの抗電界の0.1倍と0.8倍の間の電圧である駆動電圧波形を生成し、上記正極と上記負極の間に印加する。
【0013】
上記セラミックスは、抗電界が1kV/mm未満又はキュリー温度が300℃未満であってもよい。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る変位駆動装置は、誘電体素子と、駆動対象物と、駆動回路とを具備する。
上記誘電体素子は、電界誘起歪を発現するセラミックスと、上記セラミックスの内部に設けられた複数の正極内部電極と上記セラミックスの表面に設けられ上記複数の正極内部電極に接続された正極外部電極とを含む正極と、上記セラミックスの内部に上記セラミックスを介して上記複数の正極内部電極に対向して設けられた複数の負極内部電極と上記セラミックスの表面に設けられ上記複数の負極内部電極に接続された負極外部電極とを含む負極と、を有する
上記駆動対象物は、上記誘電体素子が接合されている。
上記駆動回路は、上記正極と上記負極の間に印加され、所定の駆動周波数を有する駆動電圧波形であって、上記駆動電圧波形のうち一方のピーク電圧である第1駆動最大電圧が、上記駆動周波数における上記セラミックスのブレークダウン電圧の0.37倍と0.84倍の間の電圧であり、上記駆動電圧波形のうち他方のピーク電圧である第2駆動最大電圧が、上記第1駆動最大電圧と反対の極性において上記セラミックスの抗電界の0.1倍と0.8倍の間の電圧である駆動電圧波形を生成し、上記正極と上記負極の間に印加する。
【0015】
上記セラミックスは、抗電界が1kV/mm未満又はキュリー温度が300℃未満であってもよい。
【0016】
上記誘電体素子及び上記駆動対象物はアクチュエータを構成してもよい。
【0017】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る駆動方法は、圧電材料からなる圧電体と、上記圧電体の内部に設けられた複数の正極内部電極と上記圧電体の表面に設けられ上記複数の正極内部電極に接続された正極外部電極とを含む正極と、上記圧電体の内部に上記圧電体を介して上記複数の正極内部電極に対向して設けられた複数の負極内部電極と上記圧電体の表面に設けられ上記複数の負極内部電極に接続された負極外部電極とを含む負極と、を有する圧電素子の、上記正極と上記負極の間に印加され、所定の駆動周波数を有する駆動電圧波形であって、上記駆動電圧波形のうち一方のピーク電圧である第1駆動最大電圧が、上記駆動周波数における上記圧電体のブレークダウン電圧の0.37倍と0.84倍の間の電圧であり、上記駆動電圧波形のうち他方のピーク電圧である第2駆動最大電圧が、上記第1駆動最大電圧と反対の極性において上記圧電材料の抗電界の0.1倍と0.8倍の間の電圧である駆動電圧波形を上記正極と上記負極の間に印加する。
【0018】
上記駆動電圧波形は、正弦波、三角波、ハーバーサイン波、ガウシアン波又はこれらのバースト波であってもよい。
【0019】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る駆動回路は、圧電材料からなる圧電体と、上記圧電体の内部に設けられた複数の正極内部電極と上記圧電体の表面に設けられ上記複数の正極内部電極に接続された正極外部電極とを含む正極と、上記圧電体の内部に上記圧電体を介して上記複数の正極内部電極に対向して設けられた複数の負極内部電極と上記圧電体の表面に設けられ上記複数の負極内部電極に接続された負極外部電極とを含む負極と、を有する圧電素子の、上記正極と上記負極の間に印加され、所定の駆動周波数を有する駆動電圧波形であって、上記駆動電圧波形のうち一方のピーク電圧である第1駆動最大電圧が、上記駆動周波数における上記圧電体のブレークダウン電圧の0.37倍と0.84倍の間の電圧であり、上記駆動電圧波形のうち他方のピーク電圧である第2駆動最大電圧が、上記第1駆動最大電圧と反対の極性において上記圧電材料の抗電界の0.1倍と0.8倍の間の電圧である駆動電圧波形を生成し、上記正極と上記負極の間に印加する。
【0020】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る変位駆動装置は、圧電素子と、振動体と、駆動回路とを具備する。
上記圧電素子は、圧電材料からなる圧電体と、上記圧電体の内部に設けられた複数の正極内部電極と上記圧電体の表面に設けられ上記複数の正極内部電極に接続された正極外部電極とを含む正極と、上記圧電体の内部に上記圧電体を介して上記複数の正極内部電極に対向して設けられた複数の負極内部電極と上記圧電体の表面に設けられ上記複数の負極内部電極に接続された負極外部電極とを含む負極と、を有する
上記振動体は、上記圧電素子が接合されている。
上記駆動回路は、上記正極と上記負極の間に印加され、所定の駆動周波数を有する駆動電圧波形であって、上記駆動電圧波形のうち一方のピーク電圧である第1駆動最大電圧が、上記駆動周波数における上記圧電体のブレークダウン電圧の0.37倍と0.84倍の間の電圧であり、上記駆動電圧波形のうち他方のピーク電圧である第2駆動最大電圧が、上記第1駆動最大電圧と反対の極性において上記圧電材料の抗電界の0.1倍と0.8倍の間の電圧である駆動電圧波形を生成し、上記正極と上記負極の間に印加する。
【0021】
上記圧電素子及び上記振動体は圧電アクチュエータを構成し、上記振動体の振動により、上記振動体に触覚を発生させてもよい。
【発明の効果】
【0022】
以上のように本発明によれば、誘電体素子の変位量を、信頼性を損ねない範囲で最大化することが可能な駆動方法、駆動回路及び変位駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1の実施形態に係る変位駆動装置の模式図である。
図2】上記変位駆動装置が備える圧電素子の断面図である。
図3】上記変位駆動装置が備える駆動回路が生成する駆動電圧波形であ
図4】上記変位駆動装置が備える駆動回路が生成する駆動電圧波形である。
図5】従来の圧電素子の動電圧波形であるバイポーラ駆動の駆動電圧波形である。
図6】従来の圧電素子の動電圧波形であるユニポーラ駆動の駆動電圧波形である。
図7】本発明の第2の実施形態に係る変位駆動装置の模式図である。
図8】上記変位駆動装置が備える誘電体素子の断面図である。
図9】圧電アクチュエータに一般的に必要とされる誘電材料のP-Eヒステリシスループの例である。
図10】上記誘電体素子を構成する誘電材料のP-Eヒステリシスループの例である。
図11】本発明の実施例及び比較例に係る圧電アクチュエータの変位計測方法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る変位駆動装置について説明する。変位駆動装置は振動発生装置を含む。
【0025】
[変位駆動装置の構成]
図1は本実施形態に係る変位駆動装置100の模式図である。同図に示すように、変位駆動装置100は、圧電アクチュエータ101及び駆動回路102を備える。圧電アクチュエータ101は振動体103と圧電素子104から構成されたユニモルフ型圧電アクチュエータである。
【0026】
振動体103は、振動体103に触れるユーザに触覚を提示する。振動体103は金属、ガラス又は樹脂材料等からなる板状の部材とすることができ、例えば、液晶パネルや電子機器の筐体等である。振動体103の形状やサイズは特に限定されない。
【0027】
圧電素子104は、振動体103に接合され、振動を発生させる。図2は圧電素子104の断面図である。同図に示すように圧電素子104は、圧電体111、正極112及び負極113を備える。圧電体111はPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電材料からなる。
【0028】
正極112は、正極内部電極114及び正極外部電極115を備える。正極内部電極114は導電性材料からなり、圧電体111中に複数層が設けられている。正極外部電極115は導電性材料からなり、圧電体111の表面に形成され、正極内部電極114と接続されている。
【0029】
負極113は、負極内部電極116及び負極外部電極117を備える。負極内部電極116は導電性材料からなり、圧電体111中に複数層が設けられている。負極外部電極117は導電性材料からなり、圧電体111の表面に形成され、負極内部電極116と接続されている。
【0030】
図2に示すように、正極内部電極114と負極内部電極116は交互に配置され、圧電体111を介して対向する。正極外部電極115及び負極外部電極117は圧電素子104の表面及び裏面において離間して設けられている。図1に示すように正極外部電極115には正極配線105が接続され、正極外部電極115は正極端子として機能する。負極外部電極117には負極配線106が接続され、負極外部電極117は負極端子として機能する。
【0031】
圧電素子104では、正極112と負極113の間に電圧を印加すると、逆圧電効果により圧電体111に変形が生じ、振動が発生する。圧電素子104は図2に示すように、正極112と負極113を圧電体111を介して交互に積層した積層構造を有するものであってもよく、他の構造を有するものであってもよい。圧電素子104は樹脂等によって振動体103に接合されたものとすることができる。また、圧電素子104は2つ以上が振動体103に接合されてもよい。
【0032】
駆動回路102は、正極配線105及び負極配線106を介して圧電素子104と接続され、圧電素子104に駆動信号を供給する。具体的には駆動回路102は、後述する駆動電圧波形を生成し、正極112と負極113の間に供給する。
【0033】
変位駆動装置100は以上のような構成を有する。変位駆動装置100は、スマートフォンや触覚機能デバイス等の各種電子機器に搭載することが可能である。
【0034】
[駆動電圧波形について]
駆動回路102が生成する駆動電圧波形について説明する。駆動回路102が生成する駆動電圧波形は、一方のピーク電圧である第1駆動最大電圧が、0Vと駆動周波数における圧電体111のブレークダウン電圧(絶縁破壊電圧)の間の電圧である。また駆動電圧波形のうち他方のピーク電圧である第2駆動最大電圧が、第1駆動最大電圧と反対の極性において圧電材料の抗電界の0.1倍と0.8倍の間の電圧である。
【0035】
図3は、駆動回路102が生成する駆動電圧波形である。図3に示すようにこの駆動電圧波形において一方のピーク電圧と他方のピーク電圧は極性が反対であり、プラス側のピーク電圧を第1駆動最大電圧Vp+とし、マイナス側のピーク電圧を第2駆動最大電圧Vp-とする。
【0036】
また、駆動電圧波形の周波数(駆動周波数)における圧電体111のブレークダウン電圧をブレークダウン電圧BVとし、図3に示すようにプラス側のブレークダウン電圧BVをBV+とする。さらに、圧電体111を構成する圧電材料の抗電界を抗電界Ecとする。図3に示すようにプラス側の抗電界Ecを抗電界Ec+とし、マイナス側の抗電界Ecを抗電界Ec-とする。
【0037】
駆動回路102が生成する駆動電圧波形は、第1駆動最大電圧Vp+が0Vより大きく、ブレークダウン電圧BV+未満の電圧である。さらに、第2駆動最大電圧Vp-が抗電界Ec-の0.8倍以上0.1倍以下である。即ち、第1駆動最大電圧Vp+と第2駆動最大電圧Vp-は以下の(式1)及び(式2)を満たす。
【0038】
0V<Vp+<BV+ (式1)
0.8Ec-≦Vp-≦0.1Ec- (式2)
【0039】
なお、圧電素子104の変位量を大きくするためにはVp+>Ec+が好適である。
【0040】
また、図3は分極方向がプラス側(>0V)の駆動電圧波形であるが、分極方向はマイナス側(<0V)であってもよい。図4は、駆動回路102が生成する、分極方向がマイナス側である駆動電圧波形である。
【0041】
図4に示すように、この駆動電圧波形においても一方のピーク電圧と他方のピーク電圧は極性が反対であり、マイナス側のピーク電圧を第1駆動最大電圧Vp-とし、プラス側のピーク電圧を第2駆動最大電圧Vp+とする。また、図4に示すようにマイナス側のブレークダウン電圧BVをBV-とする。図4に示すようにプラス側の抗電界Ecを抗電界Ec+とし、マイナス側の抗電界Ecを抗電界Ec-とする。
【0042】
駆動回路102が生成する駆動電圧波形は、第1駆動最大電圧Vp-がブレークダウン電圧BV-より大きく、0V未満である。さらに、第2駆動最大電圧Vp+が抗電界Ec+の0.1倍以上0.8倍以下である。即ち、第1駆動最大電圧Vp-と第2駆動最大電圧Vp+は以下の(式3)及び(式4)を満たす。
【0043】
BV-<Vp-<0V (式3)
0.1Ec+≦Vp+≦0.8Ec+ (式4)
【0044】
なお、圧電素子104の変位量を大きくするためにはVp-<Ec-が好適である。
【0045】
駆動回路102は、図3又は図4に示す駆動電圧波形を生成し、正極配線105及び負極配線106を介して正極112と負極113の間にその駆動電圧波形を供給する。なお、駆動回路102が生成する駆動電圧波形は図3及び図4に示すような正弦波に限られず、第1駆動最大電圧及び第2駆動最大電圧が上記条件を満たすものであればよい。具体的には駆動回路102が生成する駆動電圧波形は、正弦波、三角波、ハーバーサイン波、ガウシアン波又はこれらのバースト波であってもよい。
【0046】
[変位駆動装置による効果]
駆動回路102が生成する駆動電圧波形について、従来の駆動電圧波形との比較の上で説明する。図5は、従来の駆動電圧波形であるバイポーラ駆動の駆動電圧波形を示すグラフである。同図に示すように、バイポーラ駆動においては|Vp+|=|Vp-|であり、脱分極を防止するため|Ec|>|Vp|とする必要がある。このため、圧電材料の抗電界Ecが小さいと駆動電圧振幅Vp-pを大きくできず、圧電アクチュエータの変位を大きくすることができない。
【0047】
また図6は、従来の駆動電圧波形であるユニポーラ駆動の駆動電圧波形を示すグラフである。図6では駆動電圧波形は全体が0Vよりプラス側であるが、全体が0Vよりマイナス側であってもよい。同図に示すように、ユニポーラ駆動においてはプラス側又はマイナス側に偏った電圧により駆動し続けることにより、インプリント効果により駆動時の誘電率が低下し、駆動し続けることにより変位特性が低下する。
【0048】
これに対し、本実施形態に係る駆動回路102が生成する駆動電圧波形(図3及び図4参照)は、主に駆動する側とは反対型にも抗電界Ecを超えない範囲で電圧を振ることによって、駆動電圧振幅Vp-pを大きくすることができ、かつインプリント効果による変特性の低下を防止することが可能となる。したがって、駆動安定性や駆動信頼性を損ねずに、圧電素子104の変位量を最大化することができる。
【0049】
なお、上記のように第2駆動最大電圧Vpは抗電界Ecの0.1倍と0.8倍の間の電圧が好適であるが、第2駆動最大電圧Vpが抗電界Ecの0.1倍より小さいと、ユニポーラ駆動と同様にインプリント効果が発生する。また、第2駆動最大電圧Vpが抗電界Ecの0.8倍を超えると脱分極や絶縁性の低下が生じる。したがって、第2駆動最大電圧Vpは抗電界Ecの0.1倍と0.8倍の間の電圧が好適である。
【0050】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る変位駆動装置について説明する。変位駆動装置は振動発生装置を含む。
【0051】
[変位駆動装置の構成]
図7は本実施形態に係る変位駆動装置200の模式図である。同図に示すように、変位駆動装置200は、アクチュエータ201及び駆動回路202を備える。アクチュエータ201は駆動対象物203と誘電体素子204から構成されたユニモルフ型圧電アクチュエータである。
【0052】
駆動対象物203は、例えば振動板であり、駆動対象物203に触れるユーザに触覚を提示する。駆動対象物203は金属、ガラス又は樹脂材料等からなる板状の部材とすることができ、例えば、液晶パネルや電子機器の筐体等である。駆動対象物203の形状やサイズは特に限定されない。
【0053】
誘電体素子204は、駆動対象物203に接合され、駆動対象物203を駆動する。誘電体素子204は、例えば駆動対象物203に振動を発生させることができる。図8は誘電体素子204の断面図である。同図に示すように誘電体素子204は、誘電体211、正極212及び負極213を備える。誘電体211は誘電材料からなり、具体的には電界誘起歪を発現するセラミックスからなる。
【0054】
このセラミックスは、電界誘起歪の発現を伴うものであれば、抗電界Ecが1kV/mm未満又はキュリー温度Tcが300℃未満のものであってもよい。このような材料としてはBT(BaTiO)が挙げられる(実施例参照)。また誘電体211を構成する誘電材料は強誘電体が好適であるが、電界誘起歪の発現を伴う材料であれば常誘電体に近い材料であってもよい。
【0055】
正極212は、正極内部電極214及び正極外部電極215を備える。正極内部電極214は導電性材料からなり、誘電体211中に複数層が設けられている。正極外部電極215は導電性材料からなり、誘電体211の表面に形成され、正極内部電極214と接続されている。
【0056】
負極213は、負極内部電極216及び負極外部電極217を備える。負極内部電極216は導電性材料からなり、誘電体211中に複数層が設けられている。負極外部電極217は導電性材料からなり、誘電体211の表面に形成され、負極内部電極216と接続されている。
【0057】
図8に示すように、正極内部電極214と負極内部電極216は交互に配置され、誘電体211を介して対向する。正極外部電極215及び負極外部電極217は誘電体素子204の表面及び裏面において離間して設けられている。図7に示すように正極外部電極215には正極配線205が接続され、正極外部電極215は正極端子として機能する。負極外部電極217には負極配線206が接続され、負極外部電極217は負極端子として機能する。
【0058】
誘電体素子204では、正極212と負極213の間に電圧を印加すると、電界誘起歪により誘電体211に変形が生じる。誘電体素子204は図8に示すように、正極212と負極213を誘電体211を介して交互に積層した積層構造を有するものであってもよく、他の構造を有するものであってもよい。誘電体素子204は樹脂等によって駆動対象物203に接合されたものとすることができる。また、誘電体素子204は2つ以上が駆動対象物203に接合されてもよい。
【0059】
駆動回路202は、正極配線205及び負極配線206を介して圧電素子204と接続され、圧電素子204に駆動信号を供給する。具体的には駆動回路202は、後述する駆動電圧波形を生成し、正極212と負極213の間に供給する。
【0060】
変位駆動装置200は以上のような構成を有する。変位駆動装置200は、スマートフォンや触覚機能デバイス等の各種電子機器に搭載することが可能である。
【0061】
[駆動電圧波形について]
駆動回路202が生成する駆動電圧波形について説明する。駆動回路202が生成する駆動電圧波形は第1の実施形態と同様とすることができる。即ち駆動回路202が生成する駆動電圧波形は、分極方向がプラス側(>0V)の場合上記(式1)及び(式2)を満たし(図3参照)、分極方向がマイナス側(<0V)の場合、上記(式3)及び(式4)を満たす(図4参照)ものとすることができる。
【0062】
駆動回路202は、図3又は図4に示す駆動電圧波形を生成し、正極配線205及び負極配線206を介して正極212と負極213の間にその駆動電圧波形を供給する。なお、駆動回路202が生成する駆動電圧波形は図3及び図4に示すような正弦波に限られず、第1駆動最大電圧及び第2駆動最大電圧が上記条件を満たすものであればよい。具体的には駆動回路202が生成する駆動電圧波形は、正弦波、三角波、ハーバーサイン波、ガウシアン波又はこれらのバースト波であってもよい。
【0063】
[変位駆動装置による効果]
変位駆動装置200では、上記のような駆動電圧波形(図3及び図4参照)を駆動回路202が生成し、誘電体素子204に供給する。第1の実施形態と同様に、主に駆動する側とは反対型にも抗電界Ecを超えない範囲で電圧を振ることによって、駆動電圧振幅Vp-pを大きくすることができ、かつインプリント効果による変特性の低下を防止することが可能となる。したがって、駆動安定性や駆動信頼性を損ねずに、圧電素子204の変位量を最大化することができる。
【0064】
また、変位駆動装置200では、上記のような駆動電圧波形(図3及び図4参照)を用いることにより、誘電体211を形成する誘電材料の条件を広げることができる。圧電アクチュエータに一般的に必要とされる誘電材料としては、キュリー温度Tcが300℃以上かつ抗電界Ecが1kV/mmであり、耐リフロー性と耐バイポーラ駆動性能を有する材料を用いる必要がある。図9は、圧電アクチュエータに一般的に必要とされる誘電材料のP-Eヒステリシスループの例であり、横軸は電界(P)、縦軸は分極(E)である。
【0065】
しかしながら変位駆動装置200では、上記のような駆動電圧波形を用いることにより、電界誘起歪の発現を伴う材料であれば、抗電界Ecが1kV/mm未満又はキュリー温度Tcが300℃未満のセラミックスを誘電体211の材料として用いることが可能となる。また、誘電体211の材料は図9に示すような高い強誘電性を必要としない。図10は、誘電体211を構成する誘電材料のP-Eヒステリシスループの例であり、横軸は電界(P)、縦軸は分極(E)である。
【0066】
一般的に用いられる圧電アクチュエータの誘電材料では、DC分極による分極処理が必要である。この分極処理では、分極度合いの違い、即ち分極位相の回転度数による差異が生じやすく、変位特性にばらつきが生じやすく、分極度合いを揃えるための複雑な機構を有す分極装置が必要であり、工程コストへの負担も大きい。これに対し、変位駆動装置200では、誘電体211の材料として電界誘起歪の発現を伴うセラミックスを用いることにより、分極処理が不要となる。電解誘起歪は分極の有無に関係なく発現するためである。
【0067】
このように、誘電体211の材料として電界誘起歪の発現を伴うセラミックスを用いると、未分極であることを前提とするため、抗電界Ecが高い必要がない。また、脱分極の概念もないため、製造工程で高温に晒されてもなんら問題なく、キュリー温度Tcが300℃未満であっても問題がない。なお、圧電素子204においても性能検査等のために予備分極を実施してもよい。
【0068】
以上のように、変位駆動装置200では、誘電体211の材料として高い圧電性や高い強誘電性を有しない材料を用いることができ、圧電アクチュエータに一般的に必要とされる誘電材料よりも環境負荷やコスト負荷が少ない誘電材料を選択することが可能である。さらに、誘電体素子204は分極処理を必要としないため、複雑で効果な分極装置や分極処理工程が不要となり、生産タクトの向上や生産設備コストの抑制が可能である。また、分極度合いを確認するための検査も必要としないため、検査工程の削減も可能である。
【実施例
【0069】
上記第1の実施形態に係るユニモルフ型圧電アクチュエータ101(図1参照)を作製した。振動体103はステンレスからなる板であり、長さ40mm、幅15mm、厚み0.3mmである。圧電素子104は長さ30mm、幅15mm、厚み0.3mmとし、振動体103に樹脂接着剤により接合した。圧電体111を構成する圧電材料の抗電界Ecは1.1kV/mmであり、圧電素子104のブレークダウン電圧は9.5kV/mmであった。
【0070】
図11は、圧電アクチュエータの変位計測方法を示す模式図である。同図に示すように、固定基板301上に固定部302及び固定部303を設け、振動体103の両端を固定部302及び固定部303にそれぞれ固定した。振動体103の自由長を自由長Lとして示す。レーザードップラー振動計(LDV)304により、振動体103の中央部(1/2L)のベンディング変位を計測した。下記の[表1]は測定結果を示す表である。
【0071】
【表1】
【0072】
実施例1では駆動波形は正弦波、駆動周波数:100Hz、第1駆動最大電圧Vp+:3.5kV/mm、第2駆動最大電圧Vp-:-0.8kV/mm、Vp-p:4.3kV/mmとした。第1駆動最大電圧Vp+は0Vとブレークダウン電圧(9.5kV/mm)の間の電圧である。第2駆動最大電圧Vp-は抗電界Ec-(-1.1kV/mm)の0.1倍と0.8倍の間の電圧である。
【0073】
レーザードップラー振動計304による変位計測結果は26.5μmであった。また、40℃90%RHの高湿度下において20Mサイクルの連続駆動の後、変位を計測すると、変位低下率は-1%であり、非常に高い特性安定性が得られた。このように、実施例1では、変位量と特性安定性は共に良好であった。
【0074】
実施例2では駆動波形は正弦波、駆動周波数:100Hz、第1駆動最大電圧Vp+:5kV/mm、第2駆動最大電圧Vp-:-0.8kV/mm、Vp-p:5.8kV/mmとした。第1駆動最大電圧Vp+は0Vとブレークダウン電圧(9.5kV/mm)の間の電圧である。第2駆動最大電圧Vp-は抗電界Ec-(-1.1kV/mm)の0.1倍と0.8倍の間の電圧である。
【0075】
レーザードップラー振動計304による変位計測結果は32.8μmであった。また、40℃90%RHの高湿度下において20Mサイクルの連続駆動の後、変位を計測すると、変位低下率は-2%であり、高い特性安定性が得られた。このように、実施例2では、変位量と特性安定性は共に良好であった。
【0076】
実施例3では駆動波形は正弦波、駆動周波数:100Hz、第1駆動最大電圧Vp+:8kV/mm、第2駆動最大電圧Vp-:-0.8kV/mm、Vp-p:8.8kV/mmとした。第1駆動最大電圧Vp+は0Vとブレークダウン電圧(9.5kV/mm)の間の電圧である。第2駆動最大電圧Vp-は抗電界Ec-(-1.1kV/mm)の0.1倍と0.8倍の間の電圧である。
【0077】
レーザードップラー振動計304による変位計測結果は45.4μmであった。また、40℃90%RHの高湿度下において20Mサイクルの連続駆動の後、変位を計測すると、変位低下率は-4%であり、高い特性安定性が得られた。このように、実施例3では、変位量と特性安定性は共に良好であった。
【0078】
比較例1では駆動波形は正弦波、駆動周波数:100Hzである。第1駆動最大電圧Vp+:3.5kV/mm、第2駆動最大電圧Vp-:0kV/mm、Vp-p:3.5kV/mmとした。第1駆動最大電圧Vp+は0Vとブレークダウン電圧(9.5kV/mm)の間の電圧である。第2駆動最大電圧Vp-は抗電界Ec-(-1.1kV/mm)の0.1倍と0.8倍の間の電圧ではなく、0.1倍より大きい電圧である。
【0079】
レーザードップラー振動計304による変位計測結果は23.1μmであった。また、40℃90%RHの高湿度下において20Mサイクルの連続駆動の後、変位を計測すると、変位低下率は-7%であり、特性安定性は低いものとなった。このように、比較例1では、変位量は良好であったものの、特性安定性は不十分であった。
【0080】
比較例2では駆動波形は正弦波、駆動周波数:100Hzである。第1駆動最大電圧Vp+:1kV/mm、第2駆動最大電圧Vp-:-1kV/mm、Vp-p:2kV/mmとした。第1駆動最大電圧Vp+は0Vとブレークダウン電圧(9.5kV/mm)の間の電圧である。第2駆動最大電圧Vp-は抗電界Ec-(-1.1kV/mm)の0.1倍と0.8倍の間の電圧ではなく、0.8倍より小さい電圧である。
【0081】
レーザードップラー振動計304による変位計測結果は16.8μmであった。また、40℃90%RHの高湿度下において20Mサイクルの連続駆動の後、変位を計測すると、変位低下率は0%であり、高い特性安定性が得られた。このように、比較例2では、特性安定性は良好であったものの、変位量は不十分であった。
【0082】
比較例3では駆動波形は正弦波、駆動周波数:100Hzである。第1駆動最大電圧Vp+:8kV/mm、第2駆動最大電圧Vp-:0kV/mm、Vp-p:8kV/mmとした。第1駆動最大電圧Vp+は0Vとブレークダウン電圧(9.5kV/mm)の間の電圧である。第2駆動最大電圧Vp-は抗電界Ec-(-1.1kV/mm)の0.1倍と0.8倍の間の電圧ではなく、0.1倍より大きい電圧である。
【0083】
レーザードップラー振動計304による変位計測結果は41.3μmであった。また、40℃90%RHの高湿度下において20Mサイクルの連続駆動の後、変位を計測すると、変位低下率は-12%であり、特性安定性は低いものとなった。このように、比較例3では、変位量は良好であったものの、特性安定性は不十分であった。
【0084】
比較例4では駆動波形は正弦波、駆動周波数:100Hzである。第1駆動最大電圧Vp+:10kV/mm、第2駆動最大電圧Vp-:0kV/mm、Vp-p:10kV/mmとした。第1駆動最大電圧Vp+は0Vとブレークダウン電圧(9.5kV/mm)の間の電圧ではなく、ブレークダウン電圧より大きい電圧である。第2駆動最大電圧Vp-は抗電界Ec-(-1.1kV/mm)の0.1倍と0.8倍の間の電圧ではなく、0.1倍より大きい電圧である。
【0085】
比較例4では圧電体111においてブレークダウンが生じ、レーザードップラー振動計304によって変位が計測されなかった。
【0086】
以上のように実施例1乃至3では変位量と特性安定性の両方が良好となる結果が得られた。一方、比較例1乃至4では、変位量と特性安定性の両方が良好となる結果は得られなかった。したがって、第1駆動最大電圧を0Vとブレークダウン電圧の間の電圧とし、第2駆動最大電圧を抗電界の0.1倍と0.8倍の間の電圧とすることにより、変位量と特性安定性が共に優れる変位駆動装置を実現することが可能である。
【0087】
上記第2の実施形態に係る誘電体素子204(図8参照)を作製した。誘電体素子204は1層あたり26μmの誘電体を、正極内部電極214及び負極内部電極216を交互に10層積層したものであり、3216形状を有する。各種の誘電材料からなる誘電体素子204を作製し、上記駆動電圧波形(駆動電圧-2V~+104V、駆動周波数10Hz、図3参照)によって誘電体素子204を駆動した。レーザードップラー振動計を用いて、誘電体素子204上方(Z方向、図8参照)からレーザーを照射し、誘電体素子204の厚み方向(Z方向)における伸縮の変位量を計測した。さらに、分極方向への変位量/電界強度/層数を変位量d33として算出した。下記の[表2]は誘電体素子204の構成及び測定結果を示す表である。
【0088】
【表2】
【0089】
上記[表2]における「材料」は各実施例における誘電体素子204の誘電体211を構成する誘電材料である。下記の[表3]は、実施例4及び5に係るBT1の組成と実施例6に係るBT2の組成を示す表である。下記の[表4]は、実施例7に係るLNKN1の組成を示す表である。実施例8に係るPZT1の組成は、PZT-PZN(Pb(Zr1/2Ti1/2)O-Pb(Zn1/3Nb2/3)O)である。
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
実施例4、7及び8に係る誘電体素子204は25℃、3.5kV/mm、15minの条件で分極し、変位計測を実施した。一方、実施例5及び6に係る誘電体素子204は未分極の状態で変位計測を実施した。
【0093】
上記[表2]に示すように、実施例7に係るLNKN1及び実施例8に係るPZT1は共にキュリー温度Tcが300℃以上、抗電界Ecが1kV/mm以上の材料である。実施例7では変位量d33は190pm/Vであり、実施例8では変位量d33は450pm/Vであった。
【0094】
一方、実施例4-6に係るBT1及びBT2は、キュリー温度Tcが300℃未満、抗電界Ecが1kV/mm未満の材料である。実施例4及び5では変位量d33が370pm/V、実施例6では変位量d33が390pm/Vであった。したがって、キュリー温度Tcが300℃未満、抗電界Ecが1kV/mm未満の材料であってもキュリー温度Tcが300℃以上、抗電界Ecが1kV/mm以上の材料と比較して遜色のない変位量が得られた。
【0095】
また、実施例4-6から、誘電体素子204は未分極の状態であっても、分極した状態と同程度の変位量が得られた。したがって、誘電体素子204は分極処理を必要としないものである。
【符号の説明】
【0096】
100、200…変位駆動装置
101…圧電アクチュエータ
102、202…駆動回路
103、203…駆動対象物
104…圧電素子
105、205…正極配線
106、206…負極配線
111…圧電体
112、212…正極
113、213…負極
114、214…正極内部電極
115、215…正極外部電極
116、216…負極内部電極
117、217…負極外部電極
201…アクチュエータ
204…誘電体素子
211…誘電体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11