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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】電気ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/18 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
H01B11/18 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020203572
(22)【出願日】2020-12-08
(65)【公開番号】P2022090952
(43)【公開日】2022-06-20
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】323004813
【氏名又は名称】株式会社TOTOKU
(74)【代理人】
【識別番号】110003904
【氏名又は名称】弁理士法人MTI特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】中山 毅安
(72)【発明者】
【氏名】中山 順盟
(72)【発明者】
【氏名】山崎 哲
(72)【発明者】
【氏名】今村 博人
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-087494(JP,A)
【文献】特表2012-531017(JP,A)
【文献】特開平04-147517(JP,A)
【文献】特開昭62-105314(JP,A)
【文献】実開平02-041332(JP,U)
【文献】特開2000-331544(JP,A)
【文献】特開2002-324444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は2以上の同軸線と、該同軸線を間に挟んで該同軸線を囲む一組の導電性フィルムとを備え、前記一組の導電性フィルムは、接着剤層を片面に有する第1の導電性フィルムと、接着剤層を有さない第2の導電性フィルムとで構成されており、前記第1の導電性フィルムと前記第2の導電性フィルムとが前記同軸線を囲む囲み部と、前記第1の導電性フィルムと前記第2の導電性フィルムとが直接接着する固定部とを有前記第1の導電性フィルム及び前記第2の導電性フィルムがいずれも絶縁層を有する場合において、前記第2の導電性フィルムの絶縁層の厚さが、前記第1の導電性フィルムの絶縁層の厚さよりも薄い、ことを特徴とする電気ケーブル。
【請求項2】
前記第1の導電性フィルムは、接着剤層と絶縁層と導電層とがその順で積層された第1タイプ、又は、接着剤層と導電層と絶縁層とがその順で積層された第2タイプ、であり
前記第2の導電性フィルムは、絶縁層と導電層とがその順で積層されたAタイプであり
前記固定部は、前記接着剤層を介して前記第1の導電性フィルム及び前記第2の導電性フィルムを構成する前記絶縁層同士、前記導電層同士、又は前記絶縁層と前記導電層、が直接固定されている、請求項1に記載の電気ケーブル。
【請求項3】
前記固定部は、前記接着剤層を介して前記第1の導電性フィルム及び前記第2の導電性フィルムを構成する導電層同士が直接固定されている、請求項1に記載の電気ケーブル。
【請求項4】
前記第2の導電性フィルムの絶縁層の厚さは、前記第1の導電性フィルムの絶縁層の厚さの0.5倍以下である、請求項に記載の電気ケーブル。
【請求項5】
前記同軸線が、中心導体と、該中心導体の外周に設けられた絶縁体とで構成されている、請求項1~のいずれか1項に記載の電気ケーブル。
【請求項6】
前記同軸線は、前記固定部を間に介して複数連結されている、請求項1~のいずれか1項に記載の電気ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量で伝送損失の小さい電気ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
シールド特性に優れた同軸ケーブルとして、外部導体を有する同軸ケーブルが知られている。優れたシールド特性は、中心導体の外周を絶縁体で被覆した2本又はそれ以上の同軸線を並列させた多芯平行ケーブルにおいても同様に要求され、例えば特許文献1,2で提案されている。
【0003】
特許文献1には、シールド効果が高くかつシールドストリップ性の優れた蒸着テープ縦添え2心平行極細同軸ケーブルが提案されている。このケーブルは、内部導体の外周を絶縁体で被覆したコアを2本並列に配列し、これら2本のコアの外周に、プラスチックテープの片面又は両面に金属蒸着層が形成される第1の複合テープを、その金属蒸着層が外側となるように縦添えし、第1の複合テープの外周に横巻シールドを施し、その横巻シールドの外周に、プラスチックテープの片面又は両面に金属蒸着層が形成される第2の複合テープを、その金属蒸着層が内側となるように巻き付け、第2の複合テープの外周をジャケットで被覆したものである。すなわち、このケーブルは、内部導体に対して金属蒸着テープを縦添えし、縦添えされた金属蒸着テープの外周にシールドテープを横巻している。
【0004】
特許文献2には、導体セット及びドレインワイヤへの接続を簡略化し、ケーブル接続部位の寸法を低減し、ケーブルのマス終端に適した遮蔽電気ケーブルが提案されている。この遮蔽電気ケーブルは、ケーブルの長さLに沿って延在し、かつ、ケーブルの幅Wに沿って互いに間隔を置いて配置されている1つ以上の導体セットを含み、各導体セットは、0~20GHzの周波数範囲にわたって約-20dB/メートル未満の挿入損失を有し、第1及び第2遮蔽フィルムは、ケーブルの対向する側に配置され、横断面において、第1フィルム及び第2フィルムのカバー部分が組み合わされて、各導体セットを実質的に包囲し、第1フィルム及び第2フィルムの挟まれた部分が組み合わされて、各導体セットのそれぞれの側にケーブルの挟まれた部分を形成するように配置されたものである。すなわち、この遮蔽電気ケーブルは、内部導体の上下から遮蔽シートを重ね合わせている。
【0005】
なお、特許文献3に記載の配線部材は、複数の線状伝送部材が並列された配線部材であって、線状伝送部材を構成する被覆が直接固定されたシート材に、線状伝送部材を構成する被覆とは異なる材料によって形成されたカバーを良好に付ける技術である。詳しくは、シート材が、前記被覆が直接固定されている第1固定用部分と、前記第1固定用部分よりも前記カバーと直接固定しやすく前記カバーが直接固定されている第2固定用部分とを含むように、固定部分を2つに分けて固定するように構成されているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-31046号公報
【文献】特開2017-76624号公報
【文献】特許6579297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のケーブルでは、シールド性の確保のためにシールド用テープが3重に重ねられており、径が太くなり、電気ケーブルが重くなるという難点がある。また、特許文献2の遮蔽電気ケーブルでは、上下から同じ構成の遮蔽シートを重ね合わせるので、シールド用テープを構成する絶縁層と接着剤層とがそれぞれ2層ずつ存在するため、その空間距離が2倍となり、ノイズが発生しやすくなるという難点がある。なお、特許文献3は、複数並列された線状伝送部材の良好な固定方法であるが、この方法では、特許文献1と同様に径が太くなってしまい、重い電気ケーブルとなってしまう。
【0008】
また、伝送特性のさらなる向上が要請される電気ケーブルでは、特に5G(第5世代移動通信システム)を利用した自動車に用いる差動ケーブル等として、伝送損失をより小さくできる電気ケーブルの開発が期待されている。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、軽量で伝送損失の小さい電気ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る電気ケーブルは、1又は2以上の同軸線と、該同軸線を間に挟んで該同軸線を囲む一組の導電性フィルムとを備え、前記一組の導電性フィルムは、接着剤層を片面に有する第1の導電性フィルムと、接着剤層を有さない第2の導電性フィルムとで構成されており、前記第1の導電性フィルムと前記第2の導電性フィルムとが前記同軸線を囲む囲み部と、前記第1の導電性フィルムと前記第2の導電性フィルムとが直接接着する固定部とを有する、ことを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、1又は2以上の同軸線を間に挟む一組の導電性フィルムのうち、第1の導電性フィルムのみが接着剤層を有するので、通常2層分存在する接着剤層の厚さが半分になって中心導体と各導電性フィルムとの距離が近づいて伝送損失を小さくすることができると同時に軽量化することができる。また、接着剤層を含む絶縁性層の合計厚さが減少するので、ノイズを抑制することができる。
【0012】
本発明に係る電気ケーブルにおいて、前記第1の導電性フィルムは、接着剤層と絶縁層と導電層とがその順で積層された第1タイプ、接着剤層と導電層と絶縁層とがその順で積層された第2タイプ、及び、接着剤層と導電層とがその順で積層された第3タイプから選択され、前記第2の導電性フィルムは、絶縁層と導電層とがその順で積層されたAタイプ、及び、導電層のみで構成されたBタイプから選択され、前記固定部は、前記接着剤層を介して前記第1の導電性フィルム及び前記第2の導電性フィルムを構成する前記絶縁層同士、前記導電層同士、又は前記絶縁層と前記導電層、が直接固定されている。
【0013】
本発明に係る電気ケーブルにおいて、前記固定部は、前記接着剤層を介して前記第1の導電性フィルム及び前記第2の導電性フィルムを構成する前記導電層同士が直接固定されている。
【0014】
本発明に係る電気ケーブルにおいて、前記第1の導電性フィルム及び前記第2の導電性フィルムがいずれも絶縁層を有する場合、前記第2の導電性フィルムの絶縁層の厚さが、前記第1の導電性フィルムの前記絶縁層の厚さよりも薄い。
【0015】
本発明に係る電気ケーブルにおいて、前記第2の導電性フィルムの絶縁層の厚さは、前記第1の導電性フィルムの絶縁層の厚さの0.5倍以下である。
【0016】
本発明に係る電気ケーブルにおいて、前記同軸線が、中心導体と、該中心導体の外周に設けられた絶縁体とで構成されている。
【0017】
本発明に係る電気ケーブルにおいて、前記同軸線は、前記固定部を間に介して複数連結されている。こうした形態は、ノイズの発生と同様にクロストークが発生しやすいが、通常2層分存在する接着剤層の厚さが半分にすることができるので、ノイズの抑制とともにクロストークも抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、軽量で伝送損失の小さい電気ケーブルを提供することができる。特に、一組の導電性フィルムのうち第1の導電性フィルムのみが接着剤層を有するので、通常2層分存在する接着剤層の厚さが半分になって中心導体と各導電性フィルムとの距離が近づいて伝送損失を小さくすることができると同時に軽量化することができる。特に5G(第5世代移動通信システム)を利用した自動車等に用いる差動ケーブルとして好ましく利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る電気ケーブルの一例を示す断面構成図ある。
図2】本発明に係る電気ケーブルの他の例を示す断面構成図である。
図3】本発明に係る電気ケーブルのさらに他の例を示す断面構成図である。
図4】同軸線を構成する絶縁体を中空構造体とした一例を示す断面図である。
図5】第1の導電性フィルムの例を示す断面構成図である。
図6】第2の導電性フィルムの例を示す断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る電気ケーブルの実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態及び図面に記載した形態と同じ技術的思想の発明を含むものであり、本発明の技術的範囲は実施形態の記載や図面の記載のみに限定されるものでない。
【0021】
本発明に係る電気ケーブル10は、図1図3に示すように、1又は2以上の同軸線3と、その同軸線3を間に挟んで同軸線3を囲む一組の導電性フィルム11,21とを備えている。そして、一組の導電性フィルムは、接着剤層14を片面に有する第1の導電性フィルム11と、接着剤層を有さない第2の導電性フィルム21とで構成されており、第1の導電性フィルム11と第2の導電性フィルム21とが同軸線3を囲む囲み部5と、第1の導電性フィルム11と第2の導電性フィルム21とが直接接着する固定部6とを有することに特徴がある。
【0022】
この電気ケーブル10は、1又は2以上の同軸線3を間に挟む一組の導電性フィルム11,21のうち、第1の導電性フィルム11のみが接着剤層14を有するので、通常2層分存在する接着剤層14の厚さが半分になって中心導体1と各導電性フィルム11,21との距離が近づいて伝送損失を小さくすることができると同時に軽量化することができる。また、接着剤層14を含む絶縁性層(接着剤層+絶縁層)の合計厚さが減少するので、ノイズを抑制することができる。
【0023】
以下、各構成要素を説明する。
【0024】
<同軸線>
同軸線3は、電気ケーブル10を構成する必須のものであり、中心導体1と、中心導体1の外周に設けられた絶縁体2とで構成されている。本発明に係る電気ケーブル10において、この同軸線3は、図1及び図2に示すように2つが隣り合って設けられたり、図3に示すように1つだけで設けられたりする。なお、図示しないが、3つ以上の同軸線3が並設されたものであってもよい。「並設」とは、並んで設けられることを意味し、通常は隣り合う同軸線同士は接触しているが、必ずしも接触していなくても構わない。差動ケーブルとして利用する場合は、偶数の同軸線3で構成される。
【0025】
(中心導体)
中心導体1は、同軸線3の長手方向に延びる1本の素線で構成されるもの、又は複数本の素線を撚り合わせて構成されるものである。素線は、良導電性金属からなるものであればその種類は特に限定されないが、銅線、銅合金線、アルミニウム線、アルミニウム合金線、銅アルミニウム複合線等の良導電性の金属導体、又はそれらの表面にめっき層が施されたものを好ましく挙げることができる。銅線、銅合金線が特に好ましい。めっき層としては、はんだめっき層、錫めっき層、金めっき層、銀めっき層、ニッケルめっき層等が好ましい。素線の断面形状も特に限定されないが、断面形状が円形であることが好ましいが、略円形であっても角形形状であってもよい。
【0026】
中心導体1の断面形状も特に限定されない。円形(楕円形を含む。)であってもよいし矩形等であってもよいが、円形であることが好ましい。なお、中心導体1が撚線の場合は、撚線全体としての断面外形形態が、円形状(楕円形状を含む。)であってもよいし矩形状等であってもよい。中心導体1の外径は、電気抵抗(交流抵抗、導体抵抗)が小さくなるように、できるだけ大きいことが望ましいが、同軸線3の外径を細径化するためには、例えば0.09~1mm程度の範囲内を挙げることができる。中心導体1の表面には、必要に応じて絶縁皮膜(図示しない)が設けられていてもよい。絶縁皮膜の種類と厚さは特に限定されないが、例えばはんだ付け時に良好に分解するものが好ましく、熱硬化性ポリウレタン皮膜等を好ましく挙げることができる。
【0027】
(絶縁体)
絶縁体2は、中心導体1の外周に、長手方向に連続して設けられている低誘電率の絶縁層である。絶縁体2の材料は特に限定されず、要求されるインピーダンス特性に応じて任意に選択されるが、例えばPFA(ε2.1)、ETFE(ε2.5)、FEP(ε2.1)等、誘電率が2.0~2.5の低誘電率のフッ素系樹脂が好ましく、なかでも、PFA樹脂が好ましい。なお、絶縁体2の材料に着色剤を含有させてもよい。絶縁体2の厚さも特に限定されず、要求されるインピーダンス特性に応じて任意に選択されるが、例えば0.15~1.5mm程度の範囲内とすることが好ましい。絶縁体2の形成方法は特に限定されないが、中実構造、中空構造、発泡構造のいずれも押し出しで容易に形成できる。特に低誘電率材料を採用した中空構造は、伝送特性を低下させることなく絶縁体2の厚さを薄くできるので、同軸線3の外径を小さくすることができ、その結果、電気ケーブル10の体積を小さくでき、また、電気ケーブル10の厚さを薄くすることができる。
【0028】
図4は、中空構造の絶縁体2の例である。この中空構造は、構造体内部に空隙部2Aを有し、例えばその空隙部2Aを、内環状部2B、外環状部2C及び連結部2Dで囲む断面形態等とすることができる。空隙部2Aは、絶縁体2の中に連続して設けられているが、その形態は、丸形でも矩形でもよく特に限定されない。こうした中空構造の絶縁体2は、側圧強度に優れるので潰れにくく、高周波特性を安定なものとすることができる。なお、中空構造の絶縁体2は、押出ダイを走行する中心導体1の外周に樹脂押出しして成形することができる。内環状部2B、外環状部2C及び連結部2Dのそれぞれの厚さは特に限定されないが、例えば0.01~0.05mm程度の範囲内であり、形成された中空構造の絶縁体2の外径は、例えば0.4~1.0mm程度の範囲内とすることができる。
【0029】
<一組の導電性フィルム>
上記した1又は2以上の同軸線3は、図1図3に示すように、一組の導電性フィルム11,21の間に挟まれて囲まれている。一組の導電性フィルム11,21は、接着剤層14を片面に有する第1の導電性フィルム11(図5参照)と、接着剤層を有さない第2の導電性フィルム21(図6参照)とで構成されている。電気ケーブル10は、こうした第1の導電性フィルム11と第2の導電性フィルム21とが同軸線3を囲む囲み部5と、第1の導電性フィルム11と第2の導電性フィルム21とが直接接着する固定部6とを有する。
【0030】
(第1の導電性フィルム)
第1の導電性フィルム11は、図5に示すように、接着剤層14を片面に有する。その形態は、図5(A)に示すように接着剤層14と絶縁層13と導電層12とがその順で積層された第1タイプの導電性フィルム11Aであってもよいし、図5(B)に示すように接着剤層14と導電層12と絶縁層13とがその順で積層された第2タイプの導電性フィルム11Bであってもよしいし、図5(C)に示すように接着剤層14と導電層12とがその順で積層された第3タイプの導電性フィルム11Cであってもよい。こうした接着剤層14は、第1の導電性フィルム11の片面のみに設けられており、両面には設けられていないし、第2の導電性フィルム21にも設けられていない。
【0031】
導電層12としては、銀層、銅層、銅合金層、アルミニウム層、アルミニウム合金層等を好ましく挙げることができる。導電層12は、絶縁層13上に蒸着やめっきにより成膜されたもの、又は接着剤層(例えばポリエステル系熱可塑性接着性樹脂等)を介して貼り合わされた金属箔等を好ましく挙げることができる。導電層12の厚さは特に限定されず、形成手段によっても異なるが、蒸着やめっきで成膜したものは0.01~8μm程度の範囲内から任意に選択することができ、金属箔を貼り合わせたものは5~30μm程度の範囲内から任意に選択することができる。
【0032】
絶縁層13としては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリイミドフィルム等を好ましく用いることができる。絶縁層13の厚さは、例えば2~25μm程度の範囲内のものから任意に選択される。なお、第1の導電性フィルムの絶縁層13の厚さと、第2の導電性フィルム21の絶縁層23の厚さを変えてもよく、その場合は、厚い方を9~25μmの範囲内とし、薄い方を2~12μmの範囲内とすることができる。
【0033】
接着剤層14としては、各種電線ケーブルに適用されるフィルムに設けられる接着剤層であれば特に限定されない。例えば、加熱接着が可能なウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤等からなる接着剤層を好ましく挙げることができる。また、EVA(エチレン酢酸ビニル)、熱可塑性ゴム、アクリル系粘着剤、熱硬化性樹脂、ポリエステル系接着剤等からなる接着剤層であってもよい。また、導電材(AgペーストやCペースト等)を含有する導電性接着剤層であってもよい。なお、これ以外の材料からなる接着剤層14であってもよく、その接着手段は特に限定されない。接着剤層14の厚さは、構成する接着剤の種類によっても異なるが、例えば1~10μm程度の範囲内のものから任意に選択される。
【0034】
(第2の導電性フィルム)
第2の導電性フィルム21は、図6に示すように接着剤層を有さず、図6(A)に示すように絶縁層23と導電層22とがその順で積層されたAタイプの導電性フィルム21Aであってもよいし、図6(B)に示すように導電層22のみで構成されたBタイプの導電性フィルム21Bであってもよく、これらから選択される。
【0035】
導電層22及び絶縁層23の構成材料及び厚さは、第1の導電性フィルム11を構成する導電層12及び絶縁層13と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0036】
なお、第1の導電性フィルム11及び第2の導電性フィルム21がいずれも絶縁層13,23を有する場合、第2の導電性フィルム21の絶縁層23の厚さが、第1の導電性フィルム11の絶縁層13の厚さよりも薄いことが好ましい。こうすることにより、伝送損失の低減、クロストークの低減、ノイズの低減ができるという利点がある。特に、第2の導電性フィルム21の絶縁層23の厚さは、第1の導電性フィルム11の絶縁層13の厚さの0.5倍以下であることが好ましい。
【0037】
(囲み部と固定部)
囲み部5は、図1図3に示すように、第1の導電性フィルム11と第2の導電性フィルム21とが同軸線3を囲む部分である。この囲み部5では、第1の導電性フィルム11にのみ設けられた接着剤層14は同軸線3に接着するが、第2の導電性フィルム21には接着剤層が設けられていないので第2の導電性フィルム21は同軸線3に接着していない。一方、固定部6は、第1の導電性フィルム11と第2の導電性フィルム21とが直接接着する部分である。この固定部6では、第1の導電性フィルム11にのみ設けられた接着剤層14を介し、第1の導電性フィルム11及び第2の導電性フィルム21を構成する絶縁層同士、導電層同士、又は、絶縁層と導電層、が直接固定されている。なお、接着されて固定する相手が、絶縁層同士であるか、導電層同士であるか、絶縁層と導電層であるかは、第1の導電性フィルム11と第2の導電性フィルム21の層構成及びその貼り合わせ面によって特定される。
【0038】
図5(A)~(C)に示すに第1の導電性フィルム11と、図6(A)(B)に示す第2の導電性フィルム21とは、それぞれ任意に組み合わせて用いることができるが、好ましくは、第1の導電性フィルム11を構成する接着剤層14を挟んで、第1の導電性フィルム11の導電層12及び絶縁層13と、第2の導電性フィルム21の導電層22及び絶縁層23が対称になるようにして貼り合わされていることが好ましい。具体的には、図5(A)に示すに第1の導電性フィルム11の接着剤14と、図6(A)に示す第2の導電性フィルム21の絶縁層23とが貼り合わされる態様、図5(B)に示すに第1の導電性フィルム11の接着剤14と、図6(A)に示す第2の導電性フィルム21の導電層22とが貼り合わされる態様、又は、図5(C)に示すに第1の導電性フィルム11の接着剤14と、図6(B)に示す第2の導電性フィルム21とが貼り合わされる態様、が好ましい。
【0039】
なお、同軸線3の中心導体1と各導電性フィルム11,21との距離を正確に同じにしたい場合は、図5(A)(C)に示す第1の導電性フィルム11の接着剤層14の厚さと、図6(A)に示す第2の導電性フィルム21の絶縁層23の厚さとを同じにして、図5(A)(C)に示すに第1の導電性フィルム11の接着剤14と、図6(A)に示す第2の導電性フィルム21の絶縁層23とが貼り合わされる態様とすることが望ましい。又は、図5(B)に示す第1の導電性フィルム11の接着剤層14及び絶縁層13の合計厚さと、図6(A)に示す第2の導電性フィルム21の絶縁層23の厚さとを同じにして、図5(B)に示すに第1の導電性フィルム11の接着剤14と、図6(A)に示す第2の導電性フィルム21の絶縁層23とが貼り合わされる態様とすることが望ましい。
【0040】
同軸線3の表面の絶縁体2が誘電率の小さいフッ素系樹脂で構成されている場合、接着剤層14は絶縁体2に接着し難いが、本発明に係る電気ケーブル10では、囲み部5に位置する接着剤層14で同軸線3を一組の導電性フィルム11,21に固着させているわけではなく、囲み部5の両側に位置する固定部6,6で固定している。こうした固定方法は、伝送損失を低減できるとともに、材料を削減してコストダウンできるという利点がある。
【0041】
接着剤層14の誘電率や絶縁層13の誘電率は、同軸線3が有する絶縁体2(例えばフッ素樹脂の誘電率は2.1である。)に比べて誘電率が高い。例えば、接着剤層14を構成するEVAの誘電率は3~3.2程度であり、絶縁層13を構成するポリエチレンテレフタレートフィルムの誘電率も3~3.2程度である。そのため、伝送損失が発生しやすくなるが、本発明では、接着剤層14が第1の導電性フィルム11の片面のみに設けられており、後述する第2の導電性フィルム21には設けられていないので、電気ケーブル10全体で見たとき、その厚さが通常2層分存在する接着剤層の厚さが半分程度にすることができる。その結果、中心導体1と各導電性フィルム11,21との距離が近づき、伝送損失を小さくすることができるとともに、ノイズを抑制することができる。
【0042】
なお、図2(B)に示すように、第1の導電性フィルム11を平らに設け、その上に複数の同軸線3が載り、その上から第2の導電性フィルム21を覆う形態としてもよい。
【0043】
<その他>
電気ケーブル10には、押出樹脂や樹脂テープからなる外被体(図示しない)を設けてもよい。外被体は、電気ケーブル10の最外層として設けられ、絶縁性があればその材質は特に限定されない。押出樹脂としては、外被体として一般的な同軸ケーブルに適用されている種々のものを使用することができ、例えばPFA、ETFE、FEP等のフッ素系樹脂であってもよいし、塩化ビニル樹脂であってもよいし、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂であってもよいし、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂であってもよい。
【0044】
樹脂テープとしては、例えば融着層付きの樹脂テープ等を挙げることができる。樹脂テープの材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、エチレン-四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、フッ素化樹脂共重合体(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂:PFA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、等を挙げることができる。融着層は、樹脂テープの片面に設けられ、その材質としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができる。
【実施例
【0045】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
同軸線3は、中心導体1として外径0.51mmの銀めっき軟銅線(AWG24)を用いた。絶縁体2は、中空構造体用ダイスニップルにて350℃でPFA樹脂(デュポン社製)を押出しして、図4に示すように、空隙部2Aが内環状部2B、外環状部2C及び連結部2Dで囲まれた断面形態の中空構造体を形成した。この中空構造体において、内環状部2Bの厚さは0.128mm、外環状部2Cの厚さは0.154mm、連結部2Dの厚さは0.161mmであり、中空構造体(絶縁体2)の外径は1.36mmであり、空隙部2Aの空隙率は絶縁体全体(中空構造体全体)の面積に対して30%であった。誘電率εは約1.6であった。こうして同軸線3を作製した。
【0047】
作製した2本の同軸線3を接触させて並べ、一組(2枚)の導電性フィルム11,21をその2本の同軸線を挟んで囲むようにして設けた。導電性フィルム11,21は、図5(A)の第1の導電性フィルム11と図6(A)の第2の導電性フィルム21を用いた。第1の導電性フィルム11は、厚さ0.012mmのPET樹脂(絶縁層13)の一方の面に厚さ0.015mmのアルミニウム箔(導電層12)が設けられ、他方の面に厚さ0.003mmのEVA接着性樹脂(接着剤層14)が設けられたものである。第2の導電性フィルム21は、厚さ0.012mmのPET樹脂(絶縁層23)の一方の面に厚さ0.015mmのアルミニウム箔(導電層22)が設けられ、接着剤層は設けられていないものである。貼り合わせは、第1の導電性フィルム11の接着剤層14と第2の導電性フィルム21の絶縁層23とで同軸線3を挟むようにして加熱しつつ貼り合わせた。図1に示すように、一組の導電性フィルム11,21が同軸線3を囲む部分は囲み部5であり、同軸線間の貼り合わせ部分は固定部6である。こうして、図1に示す態様の実施例1の電気ケーブル10Aを作製した。表1に各厚さを示した。
【0048】
[実施例2~6]
実施例1において、第1の導電性フィルム11の絶縁層13又は導電層12の厚さと、第2の導電性フィルム21の絶縁層23又は導電層22の厚さとを変更し、図1に示す態様の実施例2~6の電気ケーブル10Aを作製した。表1に各厚さを示した。
【0049】
[実施例7]
実施例1において、導電性フィルム11,21を、図5(B)の第1の導電性フィルム11と図6(A)の第2の導電性フィルム21を用いた。第1の導電性フィルム11は、厚さ0.004mmのPET樹脂(絶縁層13)上に厚さ0.015mmのアルミニウム箔(導電層12)が設けられ、さらにその導電層12上に厚さ0.005mmのEVA接着性樹脂(接着剤層14)が設けられたものである。第2の導電性フィルム21は、厚さ0.012mmのPET樹脂(絶縁層23)の一方の面に厚さ0.015mmのアルミニウム箔(導電層22)が設けられ、接着剤層は設けられていないものである。貼り合わせは、第1の導電性フィルム11の接着剤層14と第2の導電性フィルム21の導電層22とで同軸線3を挟むようにして加熱しつつ貼り合わせた。こうして、図1に示す態様の実施例7の電気ケーブル10Aを作製した。表1に各厚さを示した。
【0050】
[実施例8~10]
実施例7において、第1の導電性フィルム11の絶縁層13又は導電層12の厚さと、第2の導電性フィルム21の絶縁層23又は導電層22の厚さとを変更し、図1に示す態様の実施例8~9の電気ケーブル10Aを作製した。表1に各厚さを示した。
【0051】
[実施例11]
実施例1において、導電性フィルム11,21を、図5(C)の第1の導電性フィルム11と図6(B)の第2の導電性フィルム21を用いた。第1の導電性フィルム11は、厚さ0.030mmのアルミニウム箔(導電層12)上に厚さ0.005mmのEVA接着性樹脂(接着剤層14)が設けられたものである。第2の導電性フィルム21は、厚さ0.030mmのアルミニウム箔(導電層22)であり、接着剤層は設けられていないものである。貼り合わせは、第1の導電性フィルム11の接着剤層14と第2の導電性フィルム21とで同軸線3を挟むようにして加熱しつつ貼り合わせた。こうして、図1に示す態様の実施例11の電気ケーブル10Aを作製した。表1に各厚さを示した。
【0052】
[実施例12]
実施例1と同様に作製した2本の同軸線3を接触させて並べ、そうした2本一組の同軸線3を一定間隔を空けてさらに並べ、実施例1と同じ一組(2枚)の導電性フィルム11,21をそれら2本一組の同軸線を挟んで囲むようにして設けて、図2(A)に示す態様の実施例12の電気ケーブル10Aを作製した。表2に各厚さを示した。
【0053】
[実施例13~15]
実施例12において、第1の導電性フィルム11の絶縁層13又は導電層12の厚さと、第2の導電性フィルム21の絶縁層23又は導電層22の厚さとを変更し、図2(A)に示す態様の実施例13~15の電気ケーブル10Aを作製した。表2に各厚さを示した。
【0054】
[実施例16]
実施例12において、導電性フィルム11,21を、図5(B)の第1の導電性フィルム11と図6(A)の第2の導電性フィルム21を用いた。第1の導電性フィルム11は、厚さ0.009mmのPET樹脂(絶縁層13)上に厚さ0.015mmのアルミニウム箔(導電層12)が設けられ、さらにその導電層12上に厚さ0.003mmのEVA接着性樹脂(接着剤層14)が設けられたものである。第2の導電性フィルム21は、厚さ0.004mmのPET樹脂(絶縁層23)の一方の面に厚さ0.030mmのアルミニウム箔(導電層22)が設けられ、接着剤層は設けられていないものである。貼り合わせは、第1の導電性フィルム11の接着剤層14と第2の導電性フィルム21の導電層22とで同軸線3を挟むようにして加熱しつつ貼り合わせた。こうして、図2(A)に示す態様の実施例16の電気ケーブル10Aを作製した。表2に各厚さを示した。
【0055】
[実施例17~19]
実施例16において、第1の導電性フィルム11の絶縁層13又は導電層12の厚さと、第2の導電性フィルム21の絶縁層23又は導電層22の厚さとを変更し、図2(A)に示す態様の実施例17~19の電気ケーブル10Aを作製した。表2に各厚さを示した。
【0056】
[実施例20]
実施例12において、導電性フィルム11,21を、図5(C)の第1の導電性フィルム11と図6(B)の第2の導電性フィルム21を用いた。第1の導電性フィルム11は、厚さ0.030mmのアルミニウム箔(導電層12)上に厚さ0.005mmのEVA接着性樹脂(接着剤層14)が設けられたものである。第2の導電性フィルム21は、厚さ0.030mmのアルミニウム箔(導電層22)であり、接着剤層は設けられていないものである。貼り合わせは、第1の導電性フィルム11の接着剤層14と第2の導電性フィルム21とで同軸線3を挟むようにして加熱しつつ貼り合わせた。こうして、図2(A)に示す態様の実施例20の電気ケーブル10Aを作製した。表2に各厚さを示した。
【0057】
[比較例1]
比較例1は、実施例1において、第2の導電性フィルム21にも接着剤層を設けて第1の導電性フィルム11と同じ形態にしたものを用いた。貼り合わせは、第1の導電性フィルム11の接着剤層14と第2の導電性フィルム21の接着剤層とで同軸線3を挟むようにして加熱しつつ貼り合わせた。こうして、比較例1の電気ケーブルを作製した。表1に各厚さを示した。それ以外は実施例1と同様とした。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
[評価]
実施例1~20及び比較例1の電気ケーブルの、ノイズ、伝送損失及びクロストークを測定した結果を表3と表4に示した。また、第1の導電性フィルム11と第2の導電性フィルム21のうち、導電層と絶縁層と接着剤層の合計厚さが薄い方の導電性フィルムの耐久性の測定結果を表3,4に併せて示した。ノイズは、銅パイプ法(「ケーブルの電磁波シールド特性の評価技術に関する研究」、埼玉県産業技術センター研究報告、第7巻、2009年)に基づいて測定した。伝送損失は、ネットワークアナライザを用いて電気ケーブル1mの減衰量を測定した。クロストークは、ネットワークアナライザを用いて電気ケーブル1mのFEXTを測定した。耐久性は、第1の導電性フィルム11と第2の導電性フィルム21のうち合計厚さが薄い方の導電性フィルムを測定に供し、その導電性フィルムを引張試験器で引っ張ったときの破断荷重で評価した。
【0061】
表2中、伝送損失xの評価について、ランクAは「x≧-5.8db」の場合であり、ランクBは「-5.8db>x≧-6.2db」の場合であり、ランクCは「-6.2db>x」の場合である。ノイズyの評価について、ランクAは「y<-22db」の場合であり、ランクBは「-22≦y<-18db」の場合であり、ランクCは「y≦-18db」の場合である。耐久性の評価については、長さ100mmで幅10mmの導電性フィル(合計厚さが薄い方の導電性フィルム)を20mm引っ張ったときの厚さが、引っ張る前の厚さの70%以上の場合をランクAとし、70%未満の場合をランクBとした。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【符号の説明】
【0064】
1 中心導体
2 絶縁体
2A 空隙部
2B 内環状部
2C 外環状部
2D 連結部
3 同軸線
5 囲み部
6 固定部
10 電気ケーブル
10A,10B 2芯平行電気ケーブル
10C 単芯電気ケーブル
11 第1の導電性フィルム
12 導電層
13 絶縁層
14 接着剤層
21 第2の導電性フィルム
22 導電層
23 絶縁層

図1
図2
図3
図4
図5
図6