(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 283/01 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
C08F283/01
(21)【出願番号】P 2020509784
(86)(22)【出願日】2019-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2019009098
(87)【国際公開番号】W WO2019188089
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-12-08
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2018061215
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】長井 陽介
(72)【発明者】
【氏名】井上 聡
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】岸 智之
【審判官】藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-033834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 283/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル樹脂と、
式(1)で表される脂環式多官能アリルエステルと、
【化1】
[式中、nは2~4のいずれかの整数を表わし、Zはn価の脂環式炭化水素基である。]
1分間半減期温度が100~250℃の範囲であり、
分子量が100~400であるパーオキシケタール類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、及びパーオキシカーボネート類からなる群より選択される少なくとも1種の開始剤とを含有し、
1分間半減期温度が100~250℃の範囲であり、分子量が100~400であるパーオキシケタール類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、及びパーオキシカーボネート類からなる群より選択される開始剤の含有量が、開始剤100重量%中50重量%以上であ
り、
不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して、式(1)で表される脂環式多官能アリルエステルの含有量が30重量部以上であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物を熱硬化することによって得られることを特徴とする硬化物。
【請求項3】
請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、コンデンサー、コイル、抵抗体等の電子部品において、信頼性や生産性向上を目的として、封止用樹脂が用いられるようになってきている。封止用樹脂として求められる性能は、電子部品の形状や大きさによって異なるが、物理的性能として、耐湿性・低応力性・高熱伝導性・耐衝撃性等が挙げられる。この性能を満足する樹脂としてジアリルフタレート樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられている。
【0003】
公知の不飽和ポリエステル樹脂組成物、ビニルエステル樹脂組成物といった樹脂組成物は、架橋剤として、一般に反応性に優れるスチレンが用いられている(特許文献1参照)。しかしながら、海洋汚染等の環境問題、及び揮発性有機化合物(VOC)、さらには保存安定性の問題があるために、スチレンを使用しない樹脂組成物の開発が望まれている。
【0004】
また、特許文献2では、不飽和ポリエステル樹脂とジアリルフタレートモノマーを含む絶縁用樹脂組成物において、特定のパーオキシカーボネートを開始剤として用いることにより、比較的低温(80~130℃)にて硬化させ得ることが記載されている。しかしながら、ジアリルフタレートモノマーはフタレートに由来するため、用途によっては使用が避けられる場合がある。そのため、より広い汎用性を有し、ジアリルフタレートモノマーを用いた場合と同程度の硬化性(特に低温での硬化性)に優れる樹脂組成物の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2981330号公報
【文献】特開2010‐209142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、VOC等の環境問題がなく、架橋剤としてジアリルフタレートモノマーを用いた場合と同程度の硬化性(特に低温での硬化性)に優れる熱硬化性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、
不飽和ポリエステル樹脂と、
式(1)で表される脂環式多官能アリルエステルと、
【0008】
【0009】
[式中、nは2~4のいずれかの整数を表わし、Zはn価の脂環式炭化水素基である。]
1分間半減期温度が100~250℃の範囲であり、
分子量が100~400であるパーオキシケタール類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、及びパーオキシカーボネート類からなる群より選択される1種の開始剤とを含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物を用いることにより、硬化性(特に低温での硬化性)に優れる樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
項1. 不飽和ポリエステル樹脂と、
式(1)で表される脂環式多官能アリルエステルと、
【0011】
【0012】
[式中、nは2~4のいずれかの整数を表わし、Zはn価の脂環式炭化水素基である。]
1分間半減期温度が100~250℃の範囲であり、
分子量が100~400であるパーオキシケタール類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、及びパーオキシカーボネート類からなる群より選択される1種の開始剤とを含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
項2. 項1に記載の熱硬化性樹脂組成物を熱硬化することによって得られることを特徴とする硬化物。
項3. 項1に記載の熱硬化性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、架橋剤として、式(1)で表される脂環式多官能アリルエステルを含有し、かつ、開始剤として、1分間半減期温度が100~250℃の範囲であり、分子量が100~400であるパーオキシケタール類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、及びパーオキシカーボネート類からなる群より選択される1種を含有するため、ジアリルフタレートモノマーを用いた場合と同程度の最高到達温度及び硬化時間が得られ、硬化性(特に低温での硬化性)に優れる。さらに、本発明の熱硬化性樹脂組成物を熱硬化することによって得られる硬化物、及び本発明の熱硬化性樹脂組成物を成形してなる成形品は、耐衝撃性(衝撃強度、曲げ強さ、荷重たわみ温度)等の機械的強度や、体積抵抗率に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に熱硬化性樹脂組成物について詳細に説明する。
【0015】
熱硬化性樹脂組成物
本発明の熱硬化性脂組成物は、不飽和ポリエステル樹脂と、
式(1)で表される脂環式多官能アリルエステルと、
【0016】
【0017】
[式中、nは2~4のいずれかの整数を表わし、Zはn価の脂環式炭化水素基である。]
1分間半減期温度が100~250℃の範囲であり、
分子量が100~400であるパーオキシケタール類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、及びパーオキシカーボネート類からなる群より選択される1種の開始剤とを含有することを特徴とする。
【0018】
不飽和ポリエステル樹脂
本発明で用いる不飽和ポリエステル樹脂は、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。不飽和ポリエステル樹脂は、一般的に、多価アルコールを多塩基酸(不飽和多塩基酸や飽和多塩基酸)と重縮合(エステル化)させて得られた化合物であり、所望の特性に応じて適宜選択して用いることができる。
【0019】
本発明における不飽和ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、例えば、3,000~50,000である。なお、本明細書において「重量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(昭和電工株式会社製Shodex GPC-101)を用いて常温(25℃)で測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて求めた値のことを意味する。
【0020】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂の合成に用いられる多価アルコールとしては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。多価アルコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールA、グリセリン等を例示することができる。これらの多価アルコールは、単独又は複数を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、耐熱性、機械的強度及び成形性の観点から、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、水素化ビスフェノールAが好ましい。
【0021】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂の合成に用いられる不飽和多塩基酸としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。不飽和多塩基酸の例としては、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等を例示することができる。これらは、単独又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0022】
不飽和ポリエステル樹脂の合成に用いられる飽和多塩基酸としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。飽和多塩基酸の例としては、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘット酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、テトラクロロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸等を例示することができる。これらは、単独又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0023】
上記多塩基酸の中でも、耐熱性、機械的強度及び成形性等の観点からは、不飽和多塩基酸が好ましく、無水マレイン酸及びフマル酸がより好ましい。一方、本発明の効果がより好適に得られるという観点からは、飽和多塩基酸が好ましく、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸がより好ましく、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸が更に好ましく、イソフタル酸が特に好ましい。
【0024】
不飽和ポリエステル樹脂としては、特に限定されず、単独もしくは2種以上を併用してもよいが、本発明の効果がより好適に得られるという理由から、不飽和ポリエステル樹脂の合成に用いられる多塩基酸として飽和多塩基酸が使用された、飽和多塩基酸系不飽和ポリエステル樹脂が好ましく、不飽和ポリエステル樹脂の合成に用いられる多塩基酸としてイソフタル酸が使用された、イソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂がより好ましい。
【0025】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂は、上記のような原料を用いて公知の方法で合成することができる。この合成における各種条件は、使用する原料やその量に応じて適宜設定する必要があるが、一般的に、窒素等の不活性ガス気流中、140~230℃の温度にて加圧又は減圧下でエステル化させればよい。このエステル化反応では、必要に応じてエステル化触媒を使用することができる。触媒の例としては、酢酸マンガン、ジブチル錫オキサイド、シュウ酸第一錫、酢酸亜鉛、及び酢酸コバルト等の公知の触媒を例示することができる。これらは、単独又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0026】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂の含有量は、特に限定されないが、熱硬化性樹脂組成物全量に対して、10~98重量%の範囲が好ましく、15~95重量%の範囲がより好ましく、20~90重量%の範囲が更に好ましく、30~80重量%の範囲が特に好ましく、40~70重量%の範囲が最も好ましい。上記範囲内であれば、本発明の効果を十分に得ることができる。
【0027】
脂環式多官能アリルエステル(架橋剤)
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、式(1)で表される脂環式多官能アリルエステルを含有する。
【0028】
【0029】
[式中、nは2~4のいずれかの整数を表わし、Zはn価の脂環式炭化水素基である。]
【0030】
式(1)において、n価の脂環式炭化水素基の炭素数は3~18であることが好ましく、4~12であることがより好ましく、4~10であることが更に好ましい。中でも、脂環式炭化水素基を構成する全ての炭素原子が環構造を形成していることが好ましい。すなわち、n価の脂環式炭化水素基は、3~18員環であることが好ましく、4~12員環であることがより好ましく、4~10員環であることが更に好ましい。
n価の脂環式炭化水素基は、飽和のn価の脂環式炭化水素基であってもよく、一部において不飽和結合を有していてもよい。中でも、飽和のn価の脂環式炭化水素基が好ましい。尚、本発明において、脂環式とは芳香性を有しない環状構造を有することを意味し、脂環式炭化水素基とは芳香性を有しない環状構造を有する炭化水素基を意味する。
【0031】
式(1)で示される脂環式多官能アリルエステルを例示するとシクロブタンジカルボン酸ジアリル、シクロブテンジカルボン酸ジアリル、シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル(ヘキサヒドロフタル酸ジアリル)、テトラヒドロフタル酸ジアリル等の式(2)~(9)で表される化合物等の脂環式多官能アリルエステルが挙げられ、これらの中でも、シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル(ヘキサヒドロフタル酸ジアリル)、テトラヒドロフタル酸ジアリルであることが好ましく、シクロヘキサンジカルボン酸ジアリルがより好ましい。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
なお、式(2)~(9)中のnは、前記式(1)におけるnと同じ意味である。
【0041】
式(2)~(9)において、環構造内で架橋されていてもよく、環構造内で架橋されたものの例として、アダマンタン、ノルボルナン等を例示することができる。
【0042】
式(2)~(9)の環上におけるCOOCH2‐CH=CH2基の置換位置は何れの組み合わせであっても良く、それらの混合物でも良い。特に、2つのCOOCH2‐CH=CH2基が6員環に結合するときに、2つのCOOCH2‐CH=CH2基は、オルト配向、メタ配向、及びパラ配向のいずれでもよいが、オルト配向又はパラ配向であることが好ましい。
【0043】
脂環式多官能アリルエステルとしては、シクロブタンジカルボン酸ジアリル、シクロヘプタンジカルボン酸ジアリル、シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル(ヘキサヒドロフタル酸ジアリル)、ノルボルナンジカルボン酸ジアリル、シクロブテンジカルボン酸ジアリル、シクロヘプテンジカルボン酸ジアリル、シクロヘキセンジカルボン酸ジアリル(テトラヒドロフタル酸ジアリル)、ノルボルネンジカルボン酸ジアリル等を例示することができる。
中でも、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジアリル、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリルが好ましく、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリルがより好ましい。
【0044】
本発明の式(1)で表される脂環式多官能アリルエステルは、式(10)で表わされるカルボン酸化合物、又はそれらの酸無水物とハロゲン化アリル又はアリルアルコールとを例えば、酸性物質、塩基性物質、触媒、溶媒の存在下、反応させることにより製造することができる。式(10)で表わされるカルボン酸化合物は試薬や工業薬品として入手可能である。
Z-(COOH)n ・・・(10)
[式中、n、及びZに関しては、前記式(1)におけるn、及びZと同じ意味である。]
【0045】
式(10)で表わされるカルボン酸化合物としては、例えば1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、2-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸等が挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0046】
ハロゲン化アリルとしては、例えばアリルクロリド、アリルブロミド、アリルヨージド等が挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。ハロゲン化アリルの使用量に特に制限は無いが、式(10)で表わされるカルボン酸化合物に対して、通常、2~20モル当量の範囲であるのが好ましく、反応速度及び容積効率の観点からは、2.3~10モル当量の範囲であるのがより好ましい。これらのハロゲン化アリルは試薬や工業薬品として入手可能である。
【0047】
アリルアルコールは試薬や工業薬品として入手可能である。アリルアルコールの使用量に特に制限は無いが、式(10)で表わされるカルボン酸化合物に対して、通常、2~10モル当量の範囲であるのが好ましく、2~5モル当量の範囲であるのがより好ましい。
【0048】
酸性物質としては、例えばp-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、硫酸等が挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。酸性物質の使用量は、式(10)で表わされるカルボン酸化合物に対して0.001~0.1モル当量の範囲であるのが好ましく、0.005~0.05モル当量の範囲であるのがより好ましい。
【0049】
塩基性物質としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属の水素化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸化物、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸水素化物、アルコラート等が一般に用いられるが、第4級アンモニウム化合物や脂肪族アミンや芳香族アミンのような有機塩基を用いることも可能である。これらは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。塩基性物質の使用量は、式(10)で表わされるカルボン酸化合物に対して0.5~30モル当量の範囲であるのが好ましく、2~15モル当量の範囲であるのがより好ましい。
【0050】
触媒としては、例えば銅、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、バナジウム等の遷移金属や遷移金属塩が用いられるが、このうち銅化合物が好適に用いられる。
銅化合物としては特に限定はなく、ほとんどの銅化合物が用いられるが、塩化第一銅、臭化第一銅、酸化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、硫酸第一銅、硫酸第二銅、塩化第二銅、水酸化第二銅、臭化第二銅、リン酸第二銅、硝酸第一銅、硝酸第二銅、炭酸銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅等が好ましい。その中でも特に、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、硫酸第一銅、硫酸第二銅、酢酸第二銅は容易に入手可能で安価な点で好適である。これらは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0051】
反応は、溶媒の存在下又は不存在下に実施できる。溶媒としては、反応に悪影響を与えない限り特に制限はないが、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の飽和脂肪族炭化水素;ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、スルホラン等が挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。溶媒を使用する場合、その使用量に特に制限はないが、式(10)で表わされるカルボン酸化合物に対して、通常、0.01~20倍重量の範囲であるのが好ましく、0.1~10倍重量の範囲であるのがより好ましい。本反応の場合、溶媒を特に使用しなくても脂環式多官能アリルエステルを効率よく製造することができる。
【0052】
特に、塩基性物質を水溶液として反応に用いる場合、反応を促進させるために相間移動触媒を使用するのが好ましい。相間移動触媒に特に制限はないが、例えばトリオクチルメチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド等の第四級アンモニウム塩;テトラブチルホスホニウムクロリド等のホスホニウム塩;15-クラウン-5、18-クラウン-6等のクラウンエーテル等が挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。相間移動触媒を使用する場合、その使用量は、式(10)で表わされるカルボン酸化合物に対して、通常、0.001~1モル当量の範囲であるのが好ましく、0.01~0.4モル当量の範囲であるのがより好ましい。
【0053】
反応温度は、十分な反応速度を得、かつ副反応を効果的に抑え高収率を得る意味において、通常、-30~150℃の範囲であるのが好ましく、-10~120℃の範囲であるのがより好ましい。また、反応時間は10分~15時間の範囲であるのが好ましく、副反応抑制の観点からは10分~10時間の範囲であるのが好ましい。
【0054】
反応は、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気下で実施するのが好ましい。また、反応は大気圧下でも加圧下でも実施できるが、製造設備面の観点からは、大気圧下で実施するのが好ましい。反応は、例えば攪拌型反応装置に原料を一度に、又は分割して仕込み、上述した反応温度で所定時間反応させることにより行なうことができる。
【0055】
反応終了後、得られた反応混合液を中和した後、必要に応じて水、飽和食塩水等で洗浄してから濃縮し、さらに蒸留、カラムクロマトグラフィー等の、有機化合物の精製において通常用いられる精製操作を行なうことによって、純度の高い脂環式多官能アリルエステルを取得できる。
【0056】
本発明の熱硬化性樹脂組成物において、不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して、脂環式多官能アリルエステルを5重量部以上含有することが好ましく、10重量部以上含有することがより好ましく、15重量部以上含有することが更に好ましく、30重量部以上含有することが特に好ましく、60重量部以上含有することが最も好ましく、80重量部以上含有することがより最も好ましく、200重量部以下含有することが好ましく、180重量部以下含有することがより好ましく、150重量部以下含有することが更に好ましく、120重量部以下含有することがより好ましい。
【0057】
開始剤
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、パーオキシケタール類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、及びパーオキシカーボネート類からなる群より選択される1種の開始剤を含有する。これらの開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
本発明に用いることのできる開始剤は、1分間半減期温度が100℃以上であり、125℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましい。また、1分間半減期温度が250℃以下であり、200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましい。さらに、分子量は100以上であればよく、150以上が好ましい。また、分子量は400以下であればよく、350以下が好ましい。なお、本明細書において、「1分間半減期温度」とは、1分間で過酸化物の濃度が初期値の半分に減少する温度をいう。
具体的には、1分間半減期温度は以下のようにして求めることができる。まず、過酸化物をある一定温度(T)で熱分解させた際、過酸化物の初期濃度をa、また、過酸化物の分解量をxとし、時間(t)とlna/(a-x)の関係をプロットし、得られた直線の傾き定数kを求める。温度(T)における半減期は、その定義である式 k(t1/2)=ln2に、先に求めたkを代入することで求めることができる。さらに、同様の手順を繰り返すことで異なる温度毎に、その温度での半減期(t1/2)をそれぞれ求め、得られたln(t1/2)と1/Tとをプロットする。
このようにして得られた直線を外挿することで、このプロットした図から半減期(t1/2)が1分間である温度、すなわち1分間半減期温度を求めることができる。
【0059】
開始剤の水素引抜能は、特に限定されないが、3%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、7%以上が更に好ましく、70%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、20%以下が更に好ましい。なお、本明細書において、「水素引抜能」とは、開始剤の存在下でシクロヘキサン及びα-メチルスチレンダイマーを反応させたときに生成するシクロヘキサン-MSD付加生成物の量から求められる値であり、Polymer Journal 第29巻、No.4の366~369頁に記載されている測定方法に準拠して測定される値を意味する。
【0060】
以下に、本発明における、開始剤を例示する。なお、カッコ内の温度は1分間半減期温度を表す。
【0061】
ジアルキルパーオキサイド類の具体例としては、例えば、ジクミルパーオキサイド(175.2℃)、2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン(179℃)、tert-ブチルクミルパーオキサイド(173.3℃)、ジ-tert-ブチルパーオキサイド(193℃)、2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン3(193℃)等が挙げられる。
【0062】
パーオキシケタール類の具体例としては、例えば、1,1-ビス(tert-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(147℃)、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン(142.1℃)、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(153.8℃)、2,2-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ブタン(159.9℃)、1,1-ジ(tert-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(149.2℃)、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート(172.5℃)が挙げられる。
【0063】
パーオキシエステル類の具体例としては、例えば、tert-ブチルパーオキシネオデカノエート(103.5℃)、tert-ヘキシルパーオキシネオデカノエート(100.9℃)、tert-ブチルパーオキシネオヘプタノエート(104.6℃)、tert-ヘキシルパーオキシピバレート(109.1℃)、tert-ブチルパーオキシピバレート(110.3℃)、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(124.3℃)、tert-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(121℃)、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(134℃)、tert-ブチルパーオキシイソブチレート(136.1℃)、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート(166.0℃)、tert-ブチルパーオキシアセテート(159.9℃)、tert-ブチルパーオキシベンゾエート(166.8℃)、tert-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(155.0℃)、tert-ブチルパーオキシラウレート(159.4℃)、tert-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(158.8℃)、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(161.4℃)、2,5-ジメチル-2,5-ジ-ベンゾイルパーオキシヘキサン(162℃)、tert-ヘキシルパーオキシベンゾエート(160.3℃)が挙げられる。
【0064】
パーオキシカーボネート類の具体例としては、例えば、tert-アミルパーオキシイソプロピルカーボネート(114℃)、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(156℃)、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート(156℃)、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシル-モノカルボネート(161.4℃)が挙げられる。
【0065】
これらの開始剤の中でも、硬化性(特に低温での硬化性)に優れる点で、パーオキシケタール類、パーオキシエステル類が好ましく、パーオキシケタール類がより好ましい。
具体的な化合物としては、硬化性(特に低温での硬化性)に優れる点で、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、1,1-ジ(tert-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ヘキシルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシル-モノカルボネートが好ましく、1,1-ジ(tert-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレートがより好ましく、1,1-ジ(tert-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサンが更に好ましい。
【0066】
本発明の熱硬化性樹脂組成物において、不飽和ポリエステル樹脂と脂環式多官能アリルエステルの合計を100重量部として、上記特定の開始剤を0.01重量部以上含有することが好ましく、0.05重量部以上含有することがより好ましく、0.1重量部以上含有することが更に好ましく、0.5重量部以上含有することが更に好ましく、10重量部以下含有することが好ましく、8重量部以下含有することがより好ましく、5重量部以下含有することが更に好ましく、3重量部以下含有することが更に好ましい。
【0067】
本発明の熱硬化性樹脂組成物において、開始剤100重量%中の上記特定の開始剤の含有量は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上、特に好ましくは98重量%以上、最も好ましくは99.5重量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0068】
本発明の熱硬化性樹脂組成物において、上記特定の開始剤と共に、更に上記特定の開始剤以外の開始剤を使用してもよい。該開始剤としては、メチルエチルケトンパーオキサイド(171℃)、シクロヘキサノンパーオキサイド(174℃)等のケトンパーオキサイド類、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(246.6℃)、p-メタンハイドロパーオキサイド(199.5℃)、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド(232.5℃)等のハイドロパーオキサイド類、ジラウロイルパーオキサイド(116.4℃)、ベンゾイルパーオキサイド(130℃)等のジアシルパーオキサイド類等が挙げられる。これらの開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
無機充填剤
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて無機充填剤を添加してもよい。無機充填剤として、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、石英ガラス、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム等の金属類の水和物、ガラス粉末、タルク、マイカ等を例示することができる。無機充填剤の粒径は、0.1~100μmである。好ましくは、0.5~60μmである。粒径が小さすぎると、組成物粘度が大きくなり、強化繊維に十分含浸せず、材料内部にエアーを混入しやすくなり、成形品に巣が入りやすい。一方、粒径が大きすぎると、粒子の比表面積が小さくなることにより、流動性が低下する。
【0070】
本発明の無機充填剤の添加量は、不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して、10~1000重量部であればよく、200~800重量部がより好ましい。添加量が少ないと、成形前の材料の取扱い性が低下する。また、添加量が多いと、粘度が大幅に上昇し、成形加工時の流動性が低下するとともに、強化繊維に対する含浸性が低下し、材料内部にエアーを混入しやすくなり、成形品に巣が入りやすい。
【0071】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上記の成分に加えて、繊維強化剤、低収縮剤、離型剤、増粘剤、顔料、減粘剤等の当該技術分野において公知の成分を、本発明の効果を阻害しない範囲において含むことができる。
【0072】
本発明に用いられる繊維強化剤としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。繊維強化材の例としては、ガラス繊維、パルプ繊維、テトロン(登録商標)繊維、ビニロン繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、ワラストナイト等の様々な有機繊維及び無機繊維を例示することができる。中でも、繊維長1.5~25mm程度に切断したチョップドストランドガラスを用いることが好ましい。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
本発明に用いられる低収縮剤としては、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、飽和ポリエステル、スチレン-ブタジエン系ゴム等の低収縮剤として一般に使用されている熱可塑性ポリマーが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0074】
本発明に用いられる離型剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、カルナバワックス等を例示することができる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
本発明に用いられる増粘剤としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等の金属酸化物、及びイソシアネート化合物等を例示することができる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0076】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、当該技術分野において通常行われる方法、例えば、遊星ミル、ニーダー等を用いて混練することによって製造することができる。
【0077】
本発明の硬化物は、本発明の熱硬化性樹脂組成物を熱硬化することによって得られる。また、本発明の成形品は、本発明の熱硬化性樹脂組成物を成形してなる。成形及び熱硬化の方法としては、特に限定されず、当該技術分野において通常行われる方法、例えば、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形等を用いることができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0079】
後述の実施例及び比較例で用いた材料を以下に説明する。
【0080】
不飽和ポリエステル樹脂
不飽和ポリエステル樹脂:日本ユピカ株式会社製 ユピカ8552
【0081】
開始剤
開始剤1;パーブチルE(tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシル-モノカルボネート;1分間半減期温度161.4℃、分子量246.35、水素引抜能49%、日油株式会社製)
開始剤2;パーヘキシルZ(tert-ヘキシルパーオキシベンゾエート;1分間半減期温度160.3℃、分子量222.3、水素引抜能27%、日油株式会社製)
開始剤3;パーヘキサHC(1,1-ジ(tert-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン;1分間半減期温度149.2℃、分子量316.47、水素引抜能10%、日油株式会社製)
開始剤4;パーブチルZ(tert-ブチルパーオキシベンゾエート;1分間半減期温度166.8℃、分子量194.2、水素引抜能56%、日油株式会社製)
開始剤5;パーブチルC(tert-ブチルクミルパーオキサイド;1分間半減期温度173.3℃、分子量208.3、水素引抜能65%、日油株式会社製)
開始剤6;パークミルD(ジクミルパーオキサイド;1分間半減期温度175.2℃、分子量270.38、水素引抜能60%、日油株式会社製)
開始剤7;パーヘキサV(n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート;1分間半減期温度172.5℃、分子量334.46、水素引抜能45%、日油株式会社製)
【0082】
架橋剤
2-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル:合成例1で得られた化合物1
ジアリルフタレートモノマー:株式会社大阪ソーダ製
【0083】
合成例1:1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル(架橋剤)の合成
500mLのフラスコにアリルアルコール170.5g(2.93mol)、トルエン150.1g(1.63mol)、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸241.1g(1.40mol)、ドデシルベンゼンスルホン酸7.18g(0.022mol)を仕込み、磁気撹拌子で撹拌させオイルバスで還流させた。20時間後、加熱を止め、フラスコを冷却した。得られた反応液に対して中和、水洗を行い、低沸分をロータリーエバポレーターで留去し、得られた濃縮液を減圧蒸留することで目的の1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリルを110.6g得た。得られた化合物1を実施例に用いた。
【0084】
実施例及び比較例に用いた熱硬化性樹脂組成物の成分の組成を表1、2に示す。表内組成の数値単位は重量部である。
【0085】
【0086】
【0087】
熱硬化性樹脂組成物の調製
表1~2に示す組成に従い、不飽和ポリエステル樹脂と架橋剤との重量合計が50gとなるように不飽和ポリエステル樹脂と架橋剤をそれぞれ秤量し、遊星ミル(倉敷紡績株式会社製マゼルスターKK250S)を用いて合計5分間混練した。次に、80~90℃に加温させつつ、不飽和ポリエステル樹脂が架橋剤に溶解するまで、遊星ミルでの撹拌を行った。不飽和ポリエステル樹脂が架橋剤に溶解し、均一になったところで加温、及び撹拌をやめ、室温になるまで冷却した。室温まで冷却させたのち、表1~2に記載の配合量の開始剤を添加し、遊星ミルで30℃以上の熱を持ち過ぎないように撹拌を行い、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0088】
高温硬化特性試験
外径18mm×高さ165mmの試験管(型番:P-18SM(日電理化硝子株式会社製))に、底部から7.5cmの位置まで熱硬化性樹脂組成物を注ぎ込み、K型熱電対を注ぎ込んだ樹脂の高さの中心部(底部より3.75cm)のところに合わせた。表1及び2について、注ぎ込んだ熱硬化性樹脂組成物の液面がオイルバスの液面の1cm下になるように試験管の高さを併せて、樹脂温度が80℃から最高到達温度に達するまでの時間(硬化時間)と最高到達温度を測定した。なお、高温硬化特性試験は、JISK6901に準じて行った。
測定結果を表3~4に示す。(表3の結果:実施例1~4、比較例1~4は硬化温度130℃、表4の結果:実施例5~8、比較例5~8は硬化温度160℃で反応をおこなった。)
【0089】
【0090】
【0091】
表3~4に示すように、脂環式多官能アリルエステルを架橋剤として用いた実施例では、架橋剤としてジアリルフタレートモノマーを用いた比較例と同程度の最高到達温度と硬化時間を示している。この結果より、架橋剤として、脂環式多官能アリルエステルを用い、特定の開始剤と組み合わせた際に、ジアリルフタレートを用いた場合と同等の硬化性(特に低温での硬化性)を有することが示唆された。
【0092】
水素引抜能が大きい過酸化物を使用するとアリルラジカルが引き抜かれた際に共鳴安定化が起こり、重合は進まなくなるため、硬化時間は長くなると推定される。パーヘキシル系、パーオキシケタール系は水素引抜能が小さく、その中でも特に1,1-ジ(tert-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(パーヘキサHC)は水素引抜能が小さい為、二重結合への付加が起こり易く硬化時間が短くなったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、電気的特性及び機械的特性を実質的に損なうことなく非常に優れた流動性を有した熱硬化性樹脂組成物に関するものである。本発明の熱硬化性樹脂組成物は、優れた流動性を生かし、例えば小型・肉薄のコイルボビン、スイッチケース、端子板、コネクター、マグネットスイッチ等の電気・電子部品等に使用できる。