(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】高強度小孔径のポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜
(51)【国際特許分類】
C08J 9/00 20060101AFI20241219BHJP
B29C 67/20 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C08J9/00 A CEW
B29C67/20 B
(21)【出願番号】P 2021029375
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2020082449
(32)【優先日】2020-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】宮前 宏平
(72)【発明者】
【氏名】島谷 俊一
(72)【発明者】
【氏名】小鍋 一雄
(72)【発明者】
【氏名】三浦 拳
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-501632(JP,A)
【文献】特開2015-127412(JP,A)
【文献】特開2012-176361(JP,A)
【文献】特開2015-127413(JP,A)
【文献】特開2010-058025(JP,A)
【文献】国際公開第2020/080896(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B29C 44/00-44/60
B29C 67/20
B29C 55/00-55/30
B29C 61/00-61/10
B29C 48/00-48/96
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS K3832に基づくイソプロピルアルコールによるバブルポイントが600kPa以上であって、かつ、JIS K6251に基づく押出方向(MD)の引張強さが90MPa以上であり、押出方向(MD)及び押出方向と垂直な方向(CD)との引張強さの比が0.5~2.0であるポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜。
【請求項2】
示差走査熱量計を用い、10℃/分の速度で400℃まで昇温した時の360~385℃におけるポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜の結晶融解熱量が、5.0J/g以上である請求項1に記載の多孔膜。
【請求項3】
示差走査熱量計を用い、
10℃/分の速度で400℃まで1度目の昇温(1st.RUN)をし、
10℃/分の速度で200℃まで冷却し、
10℃/分の速度で400℃まで2度目の昇温(2nd.RUN)をして得られたDSC曲線を用いて求められる、2度目の昇温(2nd.RUN)の290~335℃における、ポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜の結晶融解熱量(J/g)(H4)が、20J/g 以下である請求項1または2に
記載の多孔膜。
【請求項4】
下記式にて示される多孔膜の焼成度(S)が0.8以上である請求項
3に記載の多孔膜。
焼成度(S)=(H1-H3)/(H1-H4)
H1:示差走査熱量計を用い、10℃/分の速度で400℃まで昇温した時の300~360℃における、300℃以上の加熱履歴の無い、最終的に得られる多孔膜を構成する原料のポリテトラフルオロエチレン、変性ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレンと変性ポリテトラフルオロエチレンとの混合物のいずれかの結晶融解熱量(J/g)
H3:前記1度目の昇温(1st.RUN)の300~360℃における、ポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜の結晶融
解熱量(J/g)
H4:前記の通り
【請求項5】
気孔率が70%以上である請求項1~4のいずれか1項に記載の多孔膜。
【請求項6】
多孔膜の膜厚が30μm以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の多孔膜。
【請求項7】
ポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜の製造に用いるポリテトラフルオロエチレンが、標準比重が2.15以下であって、下記式を満たすポリテトラフルオロエチレンである請求項1~6のいずれか1項に記載の多孔膜。
H1-H2 ≧ 12
H1:前記の通り
H2:300℃以上の加熱履歴の無いポリテトラフルオロエチレン、変性ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレンと変性ポリテトラフルオロエチレンとの混合物のいずれか100gに対し、28.7mlの150~180℃の沸点を有するナフサを加えて3分間混合し、25℃にて2時間静置した後、押出機を用い、シリンダー断面積/出口断面積の比(RR)を100、成形温度25±1℃、ラム押出速度0.5m/分にて押出成形して得られたビード状押出物を、25±1℃にて1.5時間乾燥し、更に150℃にて2時間、ナフサを蒸発除去した後、成形温度300℃、100%/secの速度(延伸速度100%/sec)にて押出方向に25倍延伸して得られた成形物の、示差走査熱量計を用い、10℃/分の速度で400℃まで昇温した時の300~360℃における結晶融解熱量(J/g)
【請求項8】
ポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜の製造に用いる変性ポリテトラフルオロエチレンが、テトラフルオロエチレンと、0.005~1モル%の、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、フルオロアルキルエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、エチレンから選択される少なくとも1種のモノマーとの共重合体である請求項1~7のいずれか1項に記載の多孔膜。
【請求項9】
請求項7または8に記載のポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンに、150~290℃の沸点を有する炭化水素系溶剤を加えて混合し、押出機を用いRR35~120にて押出して得られるシート状またはビード状押出物を得て、当該押出物に対して、押出方向(MD)への圧延及び押出方向と垂直な方向(CD)への圧延をそれぞれ少なくとも1回ずつ以上併用して、厚み400μm以下となるよう圧延することによって圧延物を得て、150℃以上に加熱して前記炭化水素系溶剤を蒸発除去した後、MD及びCDに逐次2軸延伸して得られる多孔膜を、ポリテトラフルオロエチレンの融点以上の温度で焼成するポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載のシート状またはビード状押出物からの圧延物のMDとCDとの引張強さの比が0.5~2.0である請求項9に記載の多孔膜の製造方法。
【請求項11】
MDにおける下記式にて示される歪速度を20%/sec以上とし、且つ、MDに5倍以上、CDに5倍以上、逐次2軸延伸する請求項9または10に記載の多孔膜の製造方法。
歪速度(%/sec) = ((Vex-Vin)/L) × 100
a)連続延伸の場合
Vex :縦(押出方向)延伸装置の出口の速度(mm/sec)
Vin :縦(押出方向)延伸装置の入口の速度(mm/sec)
L :延伸間距離(2組のロール間の距離)(mm)
b)非連続延伸の場合
(Vex-Vin):2軸延伸装置の延伸速度(mm/sec)
L :延伸間距離(延伸後のシート状物の大きさから延伸前のシート状圧延物の大きさを引いた値)(mm)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜厚が薄く、小孔径、高気孔率であって、且つ延伸方向のみならずこれに直交する方向での引き裂けにも強く、高い強度を有するポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微量のモノマーとの共重合体を含むポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、その優れた耐熱性、耐薬品性、撥水性、耐候性及び低誘電率のため、様々な分野に利用されている。PTFEは延伸により容易に多孔化するため、これまで様々な特性を持つ多くのPTFE多孔膜およびその製法が発明されている。
【0003】
PTFE多孔膜は、通気性が高く、且つ高い撥水性を有するため、防水通気性を有するウェアー、自動車部品の内圧調整としてのベントフィルター、通信機器の防水通音膜等の用途に用いられている。
防水性能は、耐水圧試験の数値で示され、例えば、100m防水の携帯電話等に用いられる膜には1MPaの耐水圧が求められるが、1MPaの耐水圧を有する膜は、その孔径が数十ナノメートル以下であることが必要となる。
また、防水通音膜は、膜を介しての通話音声等の信号に減衰や変質があってはならず、多孔膜自身の固有の振動による信号の減衰や付帯音の付加を防止するため、孔径が小さく、膜厚が薄く、且つ気孔率が高いこと、すなわち、面密度(単位面積当たりの膜の重量)が小さいことが要求される。面密度は気孔率と膜厚から求められ、例えば、膜厚30μm、気孔率70%であれば、面密度は約20g/m2となる。防水通音の用途においては、この面密度は10g/m2以下、好ましくは数g/m2であり、加えて、高強度であることも要求される。
【0004】
防塵用途としては、空気清浄機用或いは掃除機用のフィルター、ごみ焼却炉用等の集塵用バグフィルター、半導体製造のためのクリーンルーム用エアーフィルター等に用いられている。
また、PTFEの純粋性から、すなわち、溶出物が殆ど無いことから、超純水製造用のファイナルフィルターとして、従来の限外濾過膜に代わり用いられつつある。
【0005】
加えて、耐薬品性にも優れるため、腐食性液体、有機溶媒、或いは半導体製造用途における回路基板のエッチング液等のろ過用途、及びエッチング液中の有価物の回収等の用途にも用いられている。
半導体製造用途では、近年、回路の集積度が高まってきており、エッチング液中にナノオーダーの微粒子が存在すると集積回路の配線上に微粒子が残留し、製造上の歩留まりを低下させる原因となるため、エッチング液中のナノオーダーの微粒子を除去可能な、ナノオーダーの孔径を有するPTFE多孔膜が求められているが、透過量を減少させることなく、膜厚が薄く、且つ、ろ過圧力やろ過操作に耐える強度を有するナノオーダーの孔径を有するPTFE多孔膜を得ることは困難であった。
一般に、PTFE多孔膜は、それ自体で目的とする用途に使用される場合もあるが、多くは基材に溶着して、基材と複合、一体化されて使われる。この場合の基材とは、不織布や布、メッシュの類で、これらの基材は、ろ過やフィルター性能や防水防塵などの機能は有しないが、多孔膜を保持する役割として使用される。
上記した、ろ過、集塵、捕集、防塵の目的でPTFE多孔膜が使われる際には、ろ過、
集塵、捕集、防塵を効率よく行うために、PTFE多孔膜の膜厚を薄くする必要がある。特に基材との複合化では膜厚は薄くすることが望ましい。例えば、液体のろ過の用途では、一般に30~50μm厚みのPTFE多孔膜が市販されてはいるが、その膜厚は薄ければ薄いほど好ましく、30μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μmであれば、好適に用いることができる。
通音用途でも同様であり、PTFE多孔膜の膜厚は、30μm以下、さらには20μm以下が好ましく、エアーフィルターやバグフィルターでは10μm以下の厚みにしないと効率よく粒子の捕集ができない。
この場合、PTFE多孔膜の膜厚が薄くなると強度の低下が起こり、取り扱いも困難となり、また、基材と複合化しても、強度不足のため、所望の目的が達成できない困ことがある。
【0006】
一般に、PTFE多孔膜は、以下の工程で製造されることが多い。
1.PTFEと助剤(炭化水素系溶剤等)とを混合する。
2.シリンダー断面積/出口断面積の比(RR)を大きくし、押出成形によりPTFEにシェアー(剪断力)を与え繊維化させながらシート状またはビード状押出物を得る。
3.得られた押出物を、圧延機(ロール)等で適宜圧延しシート状とした後、炭化水素系溶剤を蒸発除去する。
4.得られたシート状物を、高温で押出方向(以下、MDということがある。)、及び押出方向と垂直な方向(以下、CDということがある。)に延伸後、PTFEの融点以上の温度以上(342~343℃以上)で焼成して、PTFE多孔膜を得る。
【0007】
しかしながら、この様な一般的な方法では、小孔径のPTFE多孔膜を得ることが困難である。さらに薄膜の多孔膜においては、膜の製造過程において、あるいは、使用条件によって多孔膜が裂けるという問題が生じることがある。ここで多孔膜が裂ける原因は、ロールで厚みを調整する圧延工程にあると考えられる。多孔膜の通気性を確保するため圧延工程での厚みを薄くすると、延伸時に裂けが発生するだけでなく、MDとCDの延伸倍率等の調整を行っても、得られた多孔膜はMDの引張強さが強く、CDの引張強さが弱い傾向がある。このようなMDとCDの引張強さの比が大きいことが、裂けやすい多孔膜ができる原因の1つと考えられる。
特許文献1では、PTFEディスパージョンをアルミ箔上にキャスティングし、乾燥させPTFEを主体とする無孔質フッ素樹脂膜を作製し、該フッ素樹脂膜を市販の小孔径を有するPTFE多孔膜と積層させた後、該アルミ箔を酸などで溶解させて除去し、さらに、これを低倍率で延伸し、小孔径を有するPTFE多孔膜が一体化したフィルターとして、半導体用途に使用している。
【0008】
また、特許文献2では、PTFEディスパージョンにポリイミドフィルムを浸漬してPTFE塗布膜を形成し、乾燥・焼成工程を繰り返してPTFE膜を得た後、該PTFE膜をポリイミドフィルムから剥離し、該剥離したPTFE膜をCD、MDに逐次延伸している。この方法により得られる多孔膜は、信号の減衰や変質が無く、薄く、面密度の小さいPTFE膜として、防水通音膜用途に使用している。
【0009】
特許文献3では、PTFE多孔膜の製造工程のうち、延伸前のフィルムの片面を加熱して該フィルムの厚み方向に温度勾配を形成した半焼成フィルムを、押出方向(MD)及び押出方向と垂直な方向(CD)に逐次に延伸し熱固定することにより、厚み方向に平均孔径が連続的に減少し、加熱面の平均孔径が0.05μm~10μmである、非対称構造を有する、気体及び液体等の精密濾過に使用される濾過効率の高い延伸フィルムを作製している。
【0010】
しかしながら、特許文献1のアルミ箔を除去工程における酸による溶解や、特許文献2
のポリイミドフィルムからPTFE膜の剥離は容易ではなく、PTFE膜の破れ等も発生する。また、特許文献3も複雑な工程を必要とする。これらの従来公知の技術は限定された用途においては効果があるものの、他の用途においては膜の面密度が高くなったり、膜強度が不足したりする等の問題が有り、小孔径で膜厚が薄く、高気孔率で、高強度のすべての特性を有するPTFE多孔膜を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2013/084858号公報
【文献】特許第6178034号公報
【文献】特許第4850814号公報
【文献】国際公開第2007/119829号公報
【文献】特許第5054007号公報
【文献】特開2010-99889
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、膜厚が薄く、小孔径、高気孔率であって、MDの引張強さとCDの引張強さの差が小さいため両者の引張強さの比が1に近く、且つ高強度を有する新規なポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜を提供するとともに、製造過程において多孔膜の裂けが防止されているポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜の製造方法を提供するものである。本発明によって、膜厚が薄く、強度も強いポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、JIS K3832に基づくイソプロピルアルコール(IPA)によるバブルポイントが600kPa以上であって、かつ、JIS K6251に基づく引張強さが90MPa以上であり、押出方向(MD)及び押出方向と垂直な方向(CD)との引張強さの比が0.5~2.0であるポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜を提供する。
【0014】
また、本発明は、示差走査熱量計を用い、10℃/分の速度で400℃まで昇温した時の360~385℃におけるポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜の結晶融解熱量が、5.0J/g以上である多孔膜を提供する。
なお、本出願において結晶融解熱量は、示差走査熱量計を用い、ある温度範囲でベースラインを引いて計測される。たとえば本項目においては、300~360℃、または360℃~385℃における結晶融解熱量(J/g)を計測する。
【0015】
示差走査熱量計を用い、
10℃/分の速度で400℃まで1度目の昇温(1st.RUN)をし、
10℃/分の速度で200℃まで冷却し、
10℃/分の速度で400℃まで2度目の昇温(2nd.RUN)をして得られたDSC曲線を用いて求められる、2度目の昇温(2nd.RUN)の290~335℃における、ポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜の結晶融解熱量(J/g)(H4)が、20J/g以下である多孔膜は本発明の好ましい態様である。
【0016】
次の式(以下、式(1)ということがある。)にて示される多孔膜の焼成度(S)が0
.8以上であるポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜は、本発明の好ましい態様である。
焼成度(S)=(H1-H3)/(H1-H4) (式(1))
H1:示差走査熱量計を用い、10℃/分の速度で400℃まで昇温した時の300~360℃における、300℃以上の加熱履歴の無い、最終的に得られる多孔膜を構成する原料のポリテトラフルオロエチレン、変性ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレンと変性ポリテトラフルオロエチレンとの混合物のいずれかの結晶融解熱量(J/g)
H3:前記1度目の昇温(1st.RUN)の300~360℃における、ポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜の結晶融解熱量(J/g)
H4:示差走査熱量計を用い、10℃/分の速度で400℃まで1度目の昇温(1st.RUN)をし、10℃/分の速度で200℃まで冷却し、10℃/分の速度で400℃まで2度目の昇温(2nd.RUN)をして得られたDSC曲線を用いて求められる、2度目の昇温(2nd.RUN)の290~335℃における、ポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜の結晶融解熱量(J/g)
【0017】
気孔率が70%以上であるポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜は、本発明の好ましい態様である。
【0018】
多孔膜の膜厚が30μm以下であるポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜は、本発明の好ましい態様である。
【0019】
標準比重が2.15以下であって、次の式(以下、式(2)ということがある。)を満たすポリテトラフルオロエチレンから得られたポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜は、本発明の好ましい態様である。
H1-H2 ≧ 12 (式(2))
H1:示差走査熱量計を用い、10℃/分の速度で400℃まで昇温した時の300~360℃における、300℃以上の加熱履歴の無いポリテトラフルオロエチレンの結晶融解熱量(J/g)
H2:300℃以上の加熱履歴の無いポリテトラフルオロエチレン、変性ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレンと変性ポリテトラフルオロエチレンとの混合物のいずれか100gに対し、28.7mlの150~180℃の沸点を有するナフサを加えて3分間混合し、25℃にて2時間静置した後、押出機を用い、シリンダー断面積/出口断面積の比(RR)を100、成形温度25±1℃、ラム押出速度0.5m/分で押出成形して得られたビード状押出物を、25±1℃にて1.5時間乾燥し、更に150℃にて2時間、ナフサを蒸発除去した後、成形温度300℃、100%/secの速度(延伸速度100%/sec)にて押出方向に25倍延伸して得られた成形物の、示差走査熱量計を用い、10℃/分の速度で400℃まで昇温した時の300~360℃における結晶融解熱量結晶融解熱量(J/g)
【0020】
変性ポリテトラフルオロエチレンが、テトラフルオロエチレンと、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、フルオロアルキルエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、エチレンから選択される少なくとも1種のモノマーとの共重合体或いはそれらの混合物である多孔膜は、本発明の好ましい態様である。共重合体中の斯かる少なくとも1種のモノマーは、共重合体全体に対し0.005~1モル%である。
【0021】
本発明はまた、前記特定のポリテトラフルオロエチレンに、150~290℃の沸点を
有する炭化水素系溶剤を加えて混合し、押出機を用いRR35~120にて押出して得られるシート状またはビード状押出物に、押出方向(MD)への圧延、及び押出方向と垂直な方向(CD)への圧延を少なくとも1回以上併用して、厚み400μm以下となるよう圧延し、150℃以上に加熱して該炭化水素系溶剤を蒸発除去した後、MD及びCDに逐次2軸延伸して得られる多孔膜を、ポリテトラフルオロエチレンの融点以上の温度で焼成して得られるポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜の製造方法を提供する。
【0022】
そしてMDにおける次の式(以下、式(3)ということがある。)にて示される歪速度を20%/sec以上とし、MDに5倍以上、CDに5倍以上、逐次2軸延伸するポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜の製造方法は、本発明の好ましい態様である。
歪速度(%/sec) = ((Vex-Vin)/L )× 100 (式(3))
a) 連続延伸の場合
Vex :縦(押出方向)延伸装置の出口の速度(mm/sec)
Vin :縦(押出方向)延伸装置の入口の速度(mm/sec)
L :延伸間距離(2組のロール間の距離)(mm)
b) 非連続延伸の場合
(Vex-Vin):2軸延伸装置の延伸速度(mm/sec)
L :延伸間距離(延伸後のシート状物の大きさから延伸前のシート状圧延物の大きさを引いた値)(mm)
【発明の効果】
【0023】
本発明のPTFE多孔膜(ポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフロオロエチレンからなるもの)は、膜厚が薄く、小孔径、高気孔率であって、MDとCDの引張強さの差が小さいため引張強さの比が1に近く、且つ高い強度を有する。また、本発明の製法を用いることで、製造過程での延伸による多孔膜の裂けも防止することができる。
本発明は、通信機器用の防水通音用途、高耐水性を必要とする自動車用のベントフィルター、集塵用バグフィルターやエアーフィルター等の防塵用途、及び腐食性液体、有機溶媒、或いは半導体製造用途における回路基板のエッチング液等のろ過用途、並びにエッチング液中の有価物の回収等の用途等に用いることができる。本発明はまた、複雑な工程を必要とせずに、PTFE多孔膜を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】連続式延伸装置及び非連続式延伸装置の模式図
【
図3】実施例1のPTFEの示差走査熱量計にて求められたDSC曲線
【
図4】実施例1のPTFE多孔膜の示差走査熱量計にて求められたDSC曲線
【
図5】実施例1のPTFE多孔膜の表面の電子顕微鏡写真(倍率:5000倍)
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のJIS K3832に基づくイソプロピルアルコール(IPA)によるバブルポイントが、600kPa以上、好ましくは700kPa以上、より好ましくは750kPa以上である。バブルポイントが600kPa以上であることは、PTFE多孔膜の孔径がナノオーダーの微粒子を除去可能な小孔径で有ることを示している。一般に、PTFE多孔膜の最大孔径は、バブルポイントを用い、次式にて算出される。
【0026】
PTFE多孔膜の最大孔径(直径:nm)= 4 × γ × cosΘ/P ×109
γ:IPAの表面張力(Pa・m)
Θ:IPAと多孔膜の接触角(Θ=0)
P:バブルポイント圧力(Pa)
【0027】
バブルポイントが600kPaの場合、上記の式で算出される本発明のPTFE多孔膜の最大孔径は約130nmであるが、PTFE多孔膜には、130nm以下の孔径も多数存在するため、液体のろ過においては、十数ナノの粒子を捕集することが可能である。一般に、バブルポイントが400kPa未満である場合には、ナノオーダーの微粒子の除去が困難であり、防水性も低下するとなるため好ましくない。
本発明のPTFE多孔膜は、バブルポイントが600kPa以上であるため、多孔膜の孔径が小さく且つ高強度であり、ベントフィルターや防水通音の用途における100m近い水圧においても裂けること無く水漏れのない多孔膜である。
【0028】
本発明のJIS K6251に基づく引張強さは、引張応力を断面積で除した値(MPa)であるため、膜厚の影響を受けず、膜厚が異なるPTFE多孔膜も引張強さそれ自体の値での比較が可能である。本発明のPTFE多孔膜の引張強さは、90MPa以上、より好ましくは100Mpa以上であることが望ましい。引張強さが90MPa以上である場合には、PTFE多孔膜が十分な強度を有し、PTFE多孔膜の薄膜化、及び液体或いは気体のろ過圧力やろ過操作に耐え、透過量の増加が可能となるため好ましい。引張強さが90MPa未満の場合には、PTFE多孔膜の薄膜化が困難であることに加え、ろ過膜製造における基材との接着工程或いは基材と共にプリーツ形状に加工する工程において、薄膜化したPTFE多孔膜は、強度が不足し裂けてしまうため好ましくない。
また、前記の特許文献2によれば、防水通音膜の用途では、引張強さは30MPa以上であることが記載されているが、本発明のPTFE多孔膜は90MPa以上の引張強さを有し、より薄膜にすることが可能であるため、通音特性を更に向上させることが可能となる。加えて、該特許に記載される防水通音製の部材との溶着も可能である。
PTFE多孔膜の引張強さは、PTFEの焼成条件に相関関係が有る。前記式(1)により算出される焼成度(S)が0.8以上である場合には、バブルポイントが高く、且つ引張強さの大きなPTFE多孔膜となる。一方、焼成度(S)が高すぎる場合には、延伸によるPTFE繊維構造が破壊され、PTFE多孔膜の孔径が大きくなるため、焼成度(S)は0.98未満で有ることが好ましい。
焼成度(S)は、当業者において一般的に用いられるが、本発明の特定の焼成度(S)であれば、大きな引張強さと小孔径の両方を備えたPTFE多孔膜が可能となる。
【0029】
PTFE多孔膜の押出方向(MD)での引張強さと、押出方向と垂直な方向(CD)での引張強さの比は、0.5~2.0の範囲にあることが好ましい。好ましくは0.5~1.8、より好ましくは0.6~1.5であることが望ましい。一般にPTFE多孔膜は、MDの引張強さとCDの引張強さの差が小さくその比が1に近いことが、多孔膜に外力がかかった時に裂け難くなるため好ましい。
【0030】
本発明のPTFE多孔膜は、示差走査熱量計を用い、10℃/分の速度で400℃まで昇温した時の360~385℃におけるPTFE多孔膜の結晶融解熱量が、5.0J/g以上であることが好ましい。より好ましくは、6.0J/g以上である。10℃/分の速度で400℃まで昇温した時の360~385℃におけるPTFE多孔膜の結晶融解熱量が5.0J/g未満の場合には、90MPa以上の引張強さを得ることができず、引張強さに劣る膜となる。
【0031】
PTFE多孔膜において、示差走査熱量計による300℃以上の温度範囲における吸熱のピークは、PTFE重合時に形成された未焼成の結晶に由来する300~360℃における吸熱ピークと、未焼成のPTFEの結晶が融点温度以上で融解したのち、冷却によって再配列した結晶に由来する327℃における吸熱ピークが一般的であるが、本発明のP
TFE多孔膜は、これら2つの吸熱ピーク以外に、360~385℃における吸熱ピークが認められる。この360~385℃における吸熱ピークは、本発明で使用するPTFEそれ自体、該PTFEのシート状またはビード状の押出物、該押出物を圧延したシート状圧延物には発現せず、シート状圧延物を延伸した延伸膜(PTFE多孔膜)において初めて発現する。さらに、このPTFE多孔膜を385℃で焼成してもこの吸熱ピークは消滅しないため、PTFEの繊維化により生じた新たなPTFEの結晶と考えられる。この新たなPTFEの結晶は375℃付近で融解する非常に大きく強固なPTFEの結晶であるため、この360~385℃におけるPTFE多孔膜の結晶融解熱量が5.0J/g以上であることが、引張強さの強いPTFE多孔膜の指標となる。
【0032】
本発明のPTFE多孔膜は、示差走査熱量計を用い、
10℃/分の速度で400℃まで1度目の昇温(1st.RUN)をし、
10℃/分の速度で200℃まで冷却し、
10℃/分の速度で400℃まで2度目の昇温(2nd.RUN)をして得られたDSC曲線を用いて求められる、2度目の昇温(2nd.RUN)の290~335℃における、ポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜の結晶融解熱量(J/g)(H4)が、20J/g以下、好ましくは18J/g以下である。
H4が小さいほど、本発明のPTFE多孔膜の製造に用いるPTFEの標準比重(SSG)も小さく、高分子量のPTFEであることが分かる。H4が20J/gを超える場合には、斯かるSSGが大きく、すなわち、PTFEの分子量が低いため、本発明の目的とする小孔径、高強度を有するPTFE多孔膜を得ることが困難となるため、好ましくない。
【0033】
本発明のPTFE多孔膜の気孔率は、PTFE多孔膜の体積に対する空孔の総体積の割合をいい、アルキメデス法、重量気孔率法、水銀気孔率法によって測定することが可能である。本発明のPTFE多孔膜の気孔率は、ASTM D792に従って本発明のPTFE多孔膜の密度を測定することで求めることができ、70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上であって、100%未満である。気孔率は、PTFE多孔膜の液体のろ過性能や通気性を向上させる上で高い方が好ましく、腐食性液体、有機溶媒、或いは半導体製造用途における回路基板のエッチング液等の液体のろ過用、及び気体のろ過、ベントフィルター用等の気体ろ過用、或いは防水通音用の多孔膜として優れた特性を得ることができる。また、気孔率が高い方が、防水通音の用途で求められる面密度(単位面積当たりの膜の重量)が小さくなるため好ましい。
【0034】
本発明のPTFE多孔膜の膜厚は、30μm以下のものが好ましい。より好ましくは25μm以下であり、さらにより好ましくは20μm以下である。PTFE多孔膜はより薄膜であることが好ましいが、一般的には、薄膜化するほどPTFE多孔膜の強度が低下し、生産工程上の問題も発生し易くなる。本発明のPTFE多孔膜は十分な強度を有しているため、30μm以下の薄膜とすることが可能であり、膜厚10μm以下とした場合でも、気孔率85%以上でも十分な強度を有しているため、面密度(単位面積当たりの膜の重量)約3g/m2を有する防水通音膜の作製も可能となる。
【0035】
本発明のPTFE多孔膜の製造に用いるPTFEは、ASTM D4895に基づく標準比重(SSG)が2.15以下であることが好ましい。好ましくは2.14以下である。SSGはPTFEの分子量と相関があり、SSGが小さいほどPTFEの分子量が高いことを示している。一般に、PTFEの分子量が高くなるほど、シェアー(剪断力)によりPTFEの一次粒子が繊維化し易く、小孔径のPTFE多孔膜を作成することが可能となる。また、PTFEの分子量が高くなるほど、引張強さも高くなる。
なお、多孔膜を形成するPTFEは、PTFEの特性を損なわない範囲で、テトラフル
オロエチレン(TFE)と共重合可能なコモノマーにより変性された熱溶融性を有さない変性PTFE、PTFEと変性PTFEとの混合物であってもよい。変性PTFEとしては、例えば、特許文献4に記載されるTFEとTFE以外の微量の単量体との共重合体が挙げられ、より具体的にはテトラフルオロエチレンと、0.005~1モル%、好ましくは0.01~0.1モル%、より好ましくは0.01~0.05モル%の、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、フルオロアルキルエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、エチレンから選択される少なくとも1種のモノマーとの、溶融成形性を有さない共重合体が挙げられる。パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、炭素数1~6のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)で有ることが好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)がより好ましい。フルオロアルキルエチレンとしては、炭素数1~8のフルオロアルキルエチレンで有ることが好ましく、パーフルオロブチルエチレンがより好ましい。
【0036】
しかしながら、変性PTFEの中には、分子量が低いにもかかわらず、SSGが小さい場合がある。これは、SSGの測定が、一旦結晶融解温度以上に昇温後、冷却して再結晶した量を比重で計測していることに起因する。すなわち、再結晶化させる場合、TFE単独の重合体に比べて、微量のTFE以外の単量体(コモノマー)の存在のため再結晶化が阻害され、結晶化度が低下するため、比重の値も小さくなる。従って、SSGが2.15以下であってもその分子量が低くなる場合がある。このような樹脂では、一次粒子が繊維化しにくく、小孔径の多孔膜を作製することができない。
【0037】
そのため、本発明のPTFE多孔膜の製造に用いるPTFEは、SSGが2.15以下であって、300℃以上の加熱履歴が無く、前記式(2)を満たすPTFEであることがより好ましい。SSGが2.15以下であって、300℃以上の加熱履歴が無いPTFEは、押出方向に延伸された際にシェアー(剪断力)により一次粒子が容易に繊維化し一次粒子の結晶の一部が破壊される。PTFEが繊維化し易いほど、小孔径のPTFE多孔膜を作成することができる。一方、繊維化せずに残ったPTFE一次粒子の結晶融解熱量は、示差走査熱量計を用い測定することが可能であるため、PTFEの繊維化前後の結晶融解熱量の差によりPTFEの繊維化の度合いが判別でき、小孔径を有するPTFE多孔膜の製造可否を判別することが可能となる。
【0038】
前記式(2)で示されるH1-H2は12以上である。
前記式(2)でのH2の計測に用いられるナフサは、150~180℃の沸点を有する、炭素数8~14の分岐鎖飽和炭化水素の少なくとも1種からなる炭化水素系溶剤であって、例えば、エクソンモービル社製アイソパーG(炭素数9~12、沸点 160~176℃)、及び出光興産社製スーパーゾルFP25(炭素数11~13、沸点150℃以上)等を挙げることができるが、H2におけるビード状押出物からの溶剤除去の容易さの点から、出光興産社製のスーパーゾルFP25が好ましい。PTFEの繊維化は、炭化水素系溶剤の種類及びその添加量に影響されるが、添加量がより大きく影響するため、PTFE100gに対し、出光興産社製スーパーゾルFP25を28.7mL添加することが好ましい。
また、H2は、長さ50mmのビード状押出物の両端を固定して押出方向に25倍延伸して得られた成形物を用いて計測される。ビード状押出物の押出成形は、PTFE多孔膜製造装置、或いは直径約1mmの押出物を成形可能な押出成形機を用いることができ、該ビード状成形物の延伸は、延伸装置或いは引張試験機を用いることができる。
本発明の延伸方法では、前記式(2)と前記PTFE多孔膜のIPAによるバブルポイントには相関性が有り、標準比重が2.15以下のPTFEが前記式(2)を満たす場合、IPAによるバブルポイントが400kPa以上、且つ細孔径で引張強さに優れたPT
FE多孔膜となる。また、差走査熱量計を用い、10℃/分の速度で400℃まで昇温した時の360~385℃における結晶融解熱量が、5.0J/g以上の多孔膜となる。
【0039】
本発明のPTFE多孔膜の製造に用いるPTFEは、テトラフルオロエチレン(TFE)を重合開始剤(過マンガン酸カリウム、シュウ酸)、含フッ素系界面活性剤および重合安定剤(高級パラフィン)、コハク酸、イオン強度調整剤(塩化亜鉛)の存在下、水性媒体中で乳化重合法により重合して得られるPTFE一次粒子を含有する水性分散液を、乾燥或いは造粒/乾燥することにより、SSGが2.15以下であって、前記式(2)を満たすPTFEとして得ることができる。PTFEの特性を損なわない範囲で、テトラフルオロエチレン(TFE)と共重合可能なコモノマーにより変性された変性PTFE、PTFEと変性PTFEとの混合物であってもよいことは、前記したとおりである。
【0040】
本発明のPTFE多孔膜は、前記したPTFEに、150~290℃の沸点を有する炭化水素系溶剤を加えて混合し、押出機を用いRR35以上にて押出し、押出物をMD、CDに圧延し、150℃以上に加熱して前記炭化水素系溶剤を蒸発除去した後、押出方向(MD)及び押出方向と垂直な方向(CD)に逐次2軸延伸して得られる多孔膜を、PTFEの融点以上の温度で焼成することにより製造できる。なお、押出物をMD、CDに圧延するに際して、MD圧延とCD圧延の順番はどのようなものでも構わないが、それぞれを少なくとも1回ずつ、押出物が所定の厚みになるまで行うことが必要である。
【0041】
本発明のPTFE多孔膜の製造に用いられる炭化水素系溶剤は、前記式(2)の計測に用いられるナフサの他、150~290℃の沸点を有する、炭素数8~16の少なくとも1種からなる直鎖式飽和炭化水素系溶剤及び/または分岐鎖式飽和炭化水素系溶剤、例えば、直鎖式飽和炭化水素系溶剤としては、ノルパー13(炭素数12~14、沸点 222~243℃)、ノルパー15(炭素数9~16、沸点 255~279℃)を、分岐鎖式飽和炭化水素系溶剤としてはエクソンモービル社製 アイソパーG(炭素数9~12、沸点 160~176℃)、アイソパーH(炭素数10~13、沸点 178~188℃)、アイソパーM(炭素数11~16、沸点 223~254℃)、出光興産社製スーパーゾルFP25(炭素数11~13、沸点150℃以上)等を挙げることができるが、圧延の際の溶剤の蒸発を防ぎ、加温により容易に除去可能であり、且つ無臭であることから、アイソパーMを用いることが好ましい。
【0042】
製造方法に関し、より具体的には以下の通りである。
1.押出成形を円滑にするため、前記炭化水素系溶剤(好ましくは、エクソンモービル社製アイソパーM)を、PTFEに対し20重量%以下、好ましくは18重量%以下、より好ましくは16重量%以下の量を加えて3~5分間混合し、20℃以上で12時間以上静置する。
【0043】
2.(必要に応じて、25℃±1℃にて、円柱状の予備成形物を得た後)、押出機を用い、RRを35~120、好ましくは50~120、より好ましくは50~80、成形温度40~60℃、好ましくは40~50℃、ラム押出速度10~60mm/分、好ましくは20~30mm/分で押出成形し、シート状押出物を得る。シート状押出物に代えて、ビード状押出物とすることも可能である。ビード状に押出を行う場合、ビードの径に応じて、成形温度をシート状に押出する際の温度よりも5℃~10℃高く設定した方が好ましい場合がある。速度は、同じでも、特に問題はない。なお、以下では、シート状押出物とビード状押出物とをまとめて、シート状押出物として記載する。
ラム押出速度が10mm/分未満の場合には、生産性が低下するため好ましくなく、押出速度が60mm/分を超える場合には、押出圧の上昇や、均一な押出物が得られ難くなるため、好ましくない。
RRが35未満の場合には、PTFEの一次粒子に十分なシェアー(剪断力)がかから
ずPTFE一次粒子が繊維化しないため、押出物の強度が低下し、好ましくない。
また、RRを高くするにつれ、押出成形時の押出圧力が上がり、RRが120を超える場合には大型の成形機が必要となるため、好ましくない。
【0044】
加えて、成形温度が40℃未満の場合には、前記炭化水素系溶剤とPTFEのなじみが悪く、流動性が低下するため好ましくなく、60℃を超える場合には、炭化水素系溶剤の蒸発するため、好ましくない。
【0045】
3.前記シート状押出物に、2組のロールを用い、MDとCDの2方向における圧延をそれぞれ少なくとも1回ずつ併用して、所定の厚み以下のシート状圧延物を得る。この際、炭化水素系溶剤蒸発除去後のシート状押出物のMDとCDの引張強さの比が、0.5~2.0になるよう、シート状圧延物の厚みと強さの関係に着目しつつ、MDとCDの2方向における各々の圧延倍率を各々決定する。得られたシート状圧延物のMDとCDにおける引張強さの比が0.5~2.0であることが好ましい。
【0046】
MDへの圧延としては、押出後のシートを適当な長さに切断後、
図1a)に示したように圧延を行う。CDへの圧延は、
図1b)に示したように、MDに対して90℃回転させて繰り出して、CDに変形させる。これら2つの方向への圧延を併用して、400μm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下にシート状押出物を圧延しシート状圧延物を得る。
シート状圧延物の厚みを、400μm以下にすることで、最終的に30μm以下の厚みの多孔膜を得ることが容易となる。一般に、多孔膜の厚みの調整は、圧延の厚みと、MD及びCDの延伸倍率で調整される。しかしながら、延伸倍率は多孔膜の通気性やバブルポイント等の性能に大きく影響を与える条件でもあるため、厚み調整のためだけにMD及びCDの延伸倍率を変えることができないのは、多孔膜製造に従事する者には容易に理解できることである。圧延厚みを400μm以下とすることで、目的の性能の膜を得る際の延伸条件を厳しく制限されることなく、最終的に30μm以下の膜を得ることが可能である。
【0047】
本発明では、シート状押出物にMD圧延とCD圧延を少なくとも1回併用することが必要であるが、その順序は問わない。押出機を用いRR35~120にて押出されたシート状押出物を、MDへの圧延として40℃以上に加温された2組のロールで上下にニップして厚みを減少させた後に、CDへの圧延として延伸ではなく2組のロールを用い、シートを90℃回転させてCDから繰り出してニップし、CDに変形させると共に厚みを減少させ、2組のロールをMDへの厚み減少とCDへの厚み減少の両方に用いることが好ましい。
【0048】
一般に、炭化水素系溶剤(助剤)を含んだPTFEシートは、ロールや延伸などの方法に関わらず、外力を加えて厚みを減じさせた方向に強さが強くなる傾向にある。これは、PTFEのテープ基材や多孔膜の作製に従事する者では、容易に理解できる現象である。例えば、押出後のシートを2組のロールにてMDに厚みを半分に減ずると、CDの長さに変形がなければ、MDに変形してMDの長さが約2倍になり、強さも2倍になる。一方、CDに長さを2倍に伸ばすと厚みが約半分となり、強さも2倍となる。このため、ロールのみでMDに厚みを減じていくとMD引張強さの強いシートができ、MDとCDの引張強さの比も大きくなる。
【0049】
また、炭化水素系溶剤を含んでCDに延伸しても、CD引張強さの強いシートができ、CDへの延伸も、広義のCD圧延としてみなすことができる。上記の特許文献5では押出したシートを押出方向と垂直な方向(CD)に3.7倍延伸した後に、加熱して該炭化水素系溶剤を蒸発除去した後、MD及びCDに逐次2軸延伸し、焼成してMDとCDの引張
強さの差が小さいPTFE多孔膜を作製している。この様なCD延伸を行う装置としては、連続延伸の場合には、CD延伸に用いるテンターが好適に用いられるが、より簡便な方法として上記の特許文献6が報告している様な装置を用い、目的に応じて、押出後のシートをロールでMDに圧延後に、CD圧延を連続的に行うこともできる。
【0050】
本発明は、後記する4.の炭化水素系溶剤蒸発除去後のシート状圧延物のMDの引張強さとCDの引張強さの比(強度比)が、0.5~2.0、好ましくは、0.5~1.8、より好ましくは0.6~1.7になるようMDとCDの2方向における圧延倍率を各々決めることが好ましい。この工程を加えることにより、後記する4.のMDとCDの2軸延伸におけるMD延伸とCD延伸の倍率調整すること無く、得られるPTFE多孔膜のMDとCDの引張強さの差が小さくなり強度比を1に近づけ、強度に優れたPTFE多孔膜とすることができる。そのため、PTFE多孔膜の裂け防止効果を得られることに加え、MD,CDの引張強さそれ自体も大きく向上させることができる。
【0051】
このような強度比で圧延されたシートは、MD圧延のみで同じ厚みに作製したシート状圧延物に比べて後記する4.のMD及びCDへの逐次2軸延伸が容易であり、一般的にはシートが裂けるため延伸ではPTFE多孔膜ができない延伸速度や温度条件でも、裂けることなく多孔膜の製造可能となり、歩留まりが上がり生産性が向上する
更に、本発明のPTFE多孔膜は、MD圧延のみで作製された多孔膜に比べ、多孔膜の孔径も小さくなるため、JIS K3832に基づくイソプロピルアルコールによるバブルポイントの高い多孔膜を得ることが出来る。
【0052】
尚、後記する4.の炭化水素系溶剤蒸発除去後のシート状圧延物のMDとCDの引張強さの比が3以上となった場合、得られる多孔膜のMDとCDの引張強さに大きな差がないように、MD延伸及びCD延伸の倍率を調整することがよく行われるが、その場合、多孔膜のMDおよびCDの引張強さそれ自体が劣るため好ましくない。
【0053】
4.前記シート状圧延物中の記炭化水素系溶剤を150℃以上、好ましくは200℃以上で、5分以上、好ましくは15分以上蒸発除去する。その後、延伸装置を用い、成形温度150~320℃、好ましくは300℃、前記式(3)にて示される歪速度20%/sec以上、好ましくは40%/sec以上として、MD及びCDに逐次2軸延伸して延伸物を得た後、PTFEの融点以上、好ましくは350~400℃、より好ましくは370℃~385℃で、10~120秒間焼成(熱固定)して本発明のPTFE多孔膜を得る。
【0054】
前記シート状押出物を200μm以下に圧延しておくことによって、シート状圧延物中の前記炭化水素系溶剤が蒸発除去し易く、30μm以下の厚みを有するPTFE多孔膜を成形し易くなる。
延伸物を得る際の歪速度は大きい方が好ましいが、歪速度が大きい場合、加熱時間確保するために大型の設備が必要となるため、歪速度は130%/sec以下であることが好ましい。
【0055】
本発明の前記式(3)により示される歪速度は、変形の際の速さに関するものであり、20%/sec以上、好ましくは30%/sec以上、より好ましくは60%/secである。この歪速度が大きいほど、バブルポイントが高い、すなわち、小孔径のPTFE多孔膜を得ることができる。押出方向(MD)における歪速度及び押出方向と垂直な方向(CD)における歪速度を同一にする必要はなく、目的に応じて各々の方向の歪速度を決めることができる。歪速度はMDの延伸に特に有効であり、CDの延伸における歪速度は、MDの歪速度より小さくても、本発明の目的とする小孔径を有するPTFE多孔膜を得ることができる。
【0056】
PTFE多孔膜を得るための延伸工程においては、2軸延伸機を用い、シート状圧延物を非連続的(バッチ式)に延伸する非連続延伸方法が用いられる。本発明においては、目的とするPTFE多孔膜の特性に応じて、延伸方法や延伸装置を適宜選択することにより、PTFE多孔膜を得ることができる。
MD及びCDにおける延伸倍率は5倍以上、好ましくは7倍以上、より好ましくは10倍以上である。また、MD及びCDにおける延伸倍率を同倍率にする必要はなく、目的に応じて各々の方向の延伸倍率を決めることができる。圧延後の厚みにもよるが、押出方向の延伸倍率が7倍以上であることが、PTFE多孔膜の厚みを30μm以下にし易くなるため望ましい。
【0057】
連続延伸方法においては、先ず、前記シート状圧延物を、加熱可能且つ上下でニップ(挟圧)可能なロール(ニップロール)を複数組有する縦(押出方向)延伸装置を用い、ロール各組の速度を変えて、前記シート状圧延物の押出方向(MD)と同一方向に連続的に延伸する。複数組のロールを用いて押出方向(MD)に連続延伸する場合、それぞれの組のロールの回転速度に速度比をつけることが好ましい。例えば、
図2a)において、入口側の組のロール回転速度よりも、出口側の組のロールの回転速度を早くすることが、より大きな延伸(10倍以上の高倍率での延伸)が可能となるため好ましい。ロールの直径は限定されないが、一般的には約200mmΦである。
また、各々のロールの組の間に加熱ゾーンを備えた装置、例えば、
図2a)に示す加熱炉を有する装置を用いて押出方向(MD)に連続延伸する方法も好適に用いられる。
【0058】
図2a)に示す2組のニップ(挟圧)可能なロール(ニップロール)を有する押出方向(MD)延伸装置を用い、前記式(3)におけるVexを500mm/sec、Vinを100mm/sec、Lを1000mm(すなわち、2組のロール間の距離を1000mm)とすると、歪速度は40%/sec(((500-100)/1000)×100=40)となる。
次に、連続的に押出方向と垂直な方向(CD)に延伸可能なテンターを用い、押出方向(MD)に連続延伸されたシート状延伸物の両側をチャックで掴み、加熱しながらチャックを動かすことにより、押出方向と垂直な方向(CD)に連続的に延伸して、PTFE多孔膜を得る。
【0059】
非連続延伸方法においては、前記シート状圧延物を所定形状・大きさに切断し、2軸延伸機を用い、切断されたシート状圧延物の4隅或いは周囲をチャックで固定し、該チャックをMD及びCDに逐次延伸する(
図2b)。このバッチ式を繰り返して非連続的にPTFE多孔膜を得る。
非連続延伸方法においては、前記式(3)における、(Vex-Vin)を延伸速度(チャックを動かす速度)とする。L(延伸間距離)は、延伸後のシート状物の大きさ(サイズ)から延伸前のシート状圧延物の大きさ(サイズ)を引いた値とする。例えば、MD延伸速度を400mm/secとし、Lを400mm(すなわち、延伸前のPTFEシートのサイズを100mm角とし、500mm角まで延伸した場合、Lは400mmとなる)とすると、歪速度は100%/sec((400/(500-100))×100=100)となる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0061】
(標準比重(SSG))
ASTM D4895に従い、PTFEの標準比重を求めた。
【0062】
(バブルポイント)
マイクロトラックベル社製 Pololax1000を用い、JIS K3832に従い、イソプロピルアルコール(IPA)によるバブルポイントを測定した。
【0063】
(引張強さ、及び通気性)
表1に示す条件にて得られたPTFE多孔膜から作成された多孔膜サンプル片(MD延伸方向50mm、CD延伸方向10mm)を用い、JIS K6251に従い、引張強さをオリエンテック社製 テンシロンRTC1310Aを用いて、25℃、チャック間隔22mm、引張速度200mm/分にて引張強さを測定し、通気性をフラジール形試験機を用いて測定した。
【0064】
(気孔率)
PTFEの真密度(2.2g/cm3)、及びASTM D792に従い測定された本発明のPTFE多孔膜の密度を用い、次式によりPTFE多孔膜の気孔率を求めた。
気孔率(%)
=(1-(PTFE多孔膜の密度/PTFE多孔膜中のPTFEの真密度))×100
【0065】
(膜厚)
ピーコック社製 ダイヤルシックネスゲージを用いて測定した。
【0066】
(結晶融解熱量)
1.前記H1の結晶融解熱量は、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 Diamond DSC)を用い、300℃以上の加熱履歴の無いPTFE10mgを、10℃/分の速度で400℃まで昇温して得られたDSC曲線から、300~360℃における結晶融解熱量(J/g)を求めた。
【0067】
2.前記H2の結晶融解熱量は、下記H2測定用サンプル10mgを用いる以外は、上記1.と同様にして、300~360℃における結晶融解熱量(J/g)を求めた。
(H2測定用のサンプル)
300℃以上の加熱履歴の無いPTFE100gに対し、28.7mlの150~180℃の沸点を有するナフサ(出光興産社製 スーパーゾルFP25)を加えて3分間混合し、25℃にて2時間静置した後、押出機を用い、シリンダー断面積/出口断面積の比(RR)を100、成形温度25℃±1℃、ラム押出速度0.5m/分で押出成形して得られたビード状押出物を、25℃±1℃にて1.5時間乾燥し、更に150℃にて2時間、ナフサを蒸発除去した後、51mmの長さに切断し両端を固定して、成形温度300℃、100%/secの速度(延伸速度100%/sec)の速度にて押出方向に25倍延伸して得られた成形物を、H2測定用サンプルとした。
【0068】
3.PTFE多孔膜の結晶融解熱量は、前記示差走査熱量計を用い、表1に示す条件にて得られたPTFE多孔膜10mgを、
10℃/分の速度で400℃まで1度目の昇温(1st.RUN)をし、
10℃/分の速度で200℃まで冷却し、
10℃/分の速度で400℃まで2度目の昇温(2nd.RUN)をして得られたDSC曲線を用い、
H3として、1度目の昇温時(1st.RUN)の300~360℃における結晶融解熱量(J/g)を求め、
H4として、2度目の昇温時(2nd.RUN)の290~335℃における結晶融解熱量(J/g)を求めた。
【0069】
(PTFE多孔膜の構造)
PTFE多孔膜を白金パラジウム合金でスパッタ蒸着した後、電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 SU-8000)にて観察した。
【0070】
(PTFE)
攪拌翼及び温度調節用ジャケットを備えた、内容量が4リットルのステンレス鋼(SUS316)製オートクレーブに、パラフィンワックスを60g、脱イオン水を2300ml、及びフルオロモノエーテル酸(式C3F7-O-CF(CF3)COOH)のアンモニウム塩を12g、及びフルオロポリエーテル酸(C3F7-O-[CF(CF3)CF2]n-CF(CF3)COOH)のアンモニウム塩を0.05g、コハク酸を0.75g、シュウ酸を0.026g、塩化亜鉛を0.01g仕込み、80℃に加温しながら窒素ガスで3回系内を置換し酸素を除いた後、真空引きを行った。その後、テトラフルオロエチレン(TFE)で内圧を2.75MPaにし、111rpmで攪拌しながら、内温を63℃に保った。
【0071】
次に、2000mlの水に40mgの過マンガン酸カリウム(KMnO4)を溶かした水溶液510mlをポンプで注入した。過マンガン酸カリウムの注入が終了した時点で、内温を85℃に昇温し、引き続きTFEを供給した。TFEの消費が740gになった時点で、攪拌を停止した。オートクレーブ内のガスを常圧まで放出し、真空引きを行い、窒素ガスで常圧に戻した後で内容物を取り出し反応を終了した。
得られたPTFEディスパージョンの固形分は27%であり、一次粒子の平均粒子径は0.23μmであった。このPTFEディスパージョンを190℃で11時間乾燥してPTFEファインパウダーを得た。得られたPTFEファインパウダーの標準比重(SSG)などを表1に示す。
【0072】
(実施例1~4)
前記PTFEファインパウダーを用い、エクソンモービル社製 アイソパーMを、表2に示す量加えて、Willy A.Bachofen AG社製 Turbulaシェイカーを用いて5分間混合し、25℃で24時間静置した後、予備成形機の直径80mmΦのシリンダーに投入しシリンダー上部に蓋をし、室温(約15~30℃)にて、50mm/分の速度で圧縮成形し円柱状の予備成形物を得た。得られた予備成形物を、押出機を用い、RR36、成形温度50℃、押出速度20mm/分にて、押出ダイス(厚み1mm×幅140mm)を用いて押出成形し、シート状押出物を得た。得られたシート状押出物を長さ120mmにカットし、50℃に加温された2組のロールにて、表2に示す圧延後厚みになるまで押出方向(MD)、及び押出方向と垂直な方向(CD)にそれぞれ複数回圧延した。その後、200℃で15分間、前記アイソパーMを蒸発除去しシート状圧延物を得た後、該シート状圧延物を正方形(90mm角)に切断した。シート状圧延物の押出方向(MD)及び押出方向と垂直な方向(CD)との引張強さの比(MD/CD強度比)を表2に示す。
【0073】
二軸延伸装置(東洋精機製作所社製 EX10-S5型)を用い、該正方形(90mm角)の圧延物の周囲をチャックで固定し(2軸延伸装置のチャック掴み代を除くサイズ:72mm角)、成形温度300℃にて、表2に示す延伸速度(チャックを動かす速度)及び歪速度にて、MD及びCDに逐次10倍延伸して延伸物(2軸延伸装置のチャック掴み代を除くサイズ:720mm角)を得た(バッチ式)。得られた延伸物に対し、370℃に加熱したプレート2枚を該延伸物から上下5mmの距離に各々10秒間保持し、延伸物を焼成した後、周囲のチャックを取り外してPTFE多孔膜を得た。
得られたPTFE多孔膜のバブルポイント、MDとCDの引張強さ、MD/CD強度比、気孔率、膜厚、通気性、PTFE多孔膜の結晶融解熱量(H3及びH4)、及び焼成度を表2に示す。また、実施例1にて得られたPTFE多孔膜のDSC曲線を
図4に、電子
顕微鏡写真を
図5に示す。
【0074】
(比較例1)
CDへの圧延を行わず、MD圧延のみとした以外は実施例1と同様にして、PTFE多孔膜の作製を試みたが、延伸の際、炭化水素系溶剤蒸発除去後のシート状圧延物が裂けてしまい多孔膜を作製することができなかった。結果を表1に示す。
【0075】
(比較例2)
CDへの圧延を行わず、MD圧延のみとした以外は実施例2と同様にして、PTFE多孔膜を作製した。シートのMD/CD強度比、得られたPTFE多孔膜のバブルポイント、MDとCDの引張強さ、MD/CD強度比、気孔率、膜厚、通気性、PTFE多孔膜の結晶融解熱量(H3及びH4)、及び焼成度を表2に示す。
【0076】
(比較例3)
二軸延伸装置で、MD延伸倍率7.5倍、CD延伸倍率10倍とした以外は比較例2と同様にして、PTFE多孔膜を作製した。得られたPTFE多孔膜のバブルポイント、MDとCDの引張強さ、MD/CD強度比、気孔率、膜厚、通気性、PTFE多孔膜の結晶融解熱量(H3及びH4)、及び焼成度を表2に示す。
【0077】
(比較例4)
CDへの圧延を行わず、MD圧延のみで400μmとし、延伸速度を144mm/secとした以外は、比較例2と同様にして多孔膜を作製した。得られた膜の膜厚は、22.8μmであった。
(比較例5)
延伸速度を288mm/secとした以外は、比較例4と同様にして多孔膜を作製した。得られた膜の膜厚は、21.8μmであった。
【0078】
【0079】
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明により、小孔径で膜厚が薄く、高気孔率であって、且つ高い強度、MDとCDの
引張強さの差が小さい特性を有するポリテトラフルオロエチレン及び/または変性ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜、及びその製造方法を提供される。
本発明は、通信機器用の防水通音用途、高耐水性を必要とする自動車用のベントフィルター、集塵用バグフィルターやエアーフィルター等の防塵用途、及び腐食性液体、有機溶媒、或いは半導体製造用途における回路基板のエッチング液等のろ過用途、並びにエッチング液中の有価物の回収等の用途等に好適に使用できるものである。
【符号の説明】
【0081】
1及び2:2軸延伸機入口側の1組のロール
3及び4:2軸延伸機出口側の1組のロール
5:加熱炉
6:シート状圧延物
7:縦(押出方向)延伸膜
8:2軸延伸機の固定チャック
9:シート状圧延物
10:2軸延伸膜(PTFE多孔膜)