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特許7606885化粧シミュレーションシステム、化粧シミュレーション方法、化粧シミュレーションプログラム、及び、化粧シミュレーション装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】化粧シミュレーションシステム、化粧シミュレーション方法、化粧シミュレーションプログラム、及び、化粧シミュレーション装置
(51)【国際特許分類】
   G06T 1/00 20060101AFI20241219BHJP
   A45D 44/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
G06T1/00 340A
A45D44/00 A
G06T1/00 510
G06T1/00 315
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021032680
(22)【出願日】2021-03-02
(65)【公開番号】P2022133792
(43)【公開日】2022-09-14
【審査請求日】2024-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(73)【特許権者】
【識別番号】518104186
【氏名又は名称】公立大学法人長野大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106781
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 稔也
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 啓二
(72)【発明者】
【氏名】丸木 航
(72)【発明者】
【氏名】田中 法博
【審査官】小池 正彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-198382(JP,A)
【文献】兼子亜弓,外2名,化粧肌の分光画像計測とCG 再現,日本色彩学会誌,2015年,第39巻,第5号,p.80-83,https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F10750640&contentNo=1
【文献】田中法博,外1名,分光反射率分析に基づいた化粧と肌のCG再現,長野大学紀要第41巻第1号(2019),2019年,第41巻,第1号,p.65-72,https://nagano.repo.nii.ac.jp/record/1268/files/nagano_41-01-07.pdf
【文献】小島伸俊,外1名,いま“顔”が面白い~顔の画像処理とその応用~ 4.化粧顔画像の解析・合成,映像情報メディア学会誌,第62巻,第12号,2008年12月01日,p.1928-1932
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 1/00
A45D 44/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧料が塗布される塗布対象物における化粧前の第1RGB値から前記化粧前の前記塗布対象物における第1分光反射率を算出する第1分光反射率算出部と、
前記第1分光反射率と前記化粧前の前記塗布対象物における反射特性を規定する第1反射特性パラメータと照明光の分光分布及び幾何条件とで表現される第1三次元反射特性モデルを用いて前記化粧前の前記塗布対象物における第1色信号を算出する第1色信号算出部と、
前記化粧料の第2分光反射率と前記化粧料の反射特性を規定する第2反射特性パラメータと前記照明光の前記分光分布及び前記幾何条件とで表現される第2三次元反射特性モデルを用いて前記化粧料の第2色信号を算出する第2色信号算出部と、
前記第1色信号及び前記第2色信号から前記塗布対象物に前記化粧料を塗布した化粧状態の前記塗布対象物における第3色信号を算出する第3色信号算出部と、
前記第3色信号から前記化粧状態の前記塗布対象物における第2RGB値を算出する第2RGB値算出部と、
前記第2RGB値から前記化粧状態の前記塗布対象物を含む三次元オブジェクトを生成するオブジェクト生成部と、を備える化粧シミュレーションシステム。
【請求項2】
前記第1RGB値を前記第1分光反射率に変換するための第1変換関数であって、前記化粧前における前記塗布対象物の色に応じた前記第1変換関数を記憶する分光変換データベースをさらに備え、
前記第1分光反射率算出部は、前記化粧前における前記塗布対象物の色に応じた前記第1変換関数を用いて前記第1分光反射率を算出する
請求項1に記載の化粧シミュレーションシステム。
【請求項3】
前記第1分光反射率から前記第2分光反射率を算出するための第2変換関数であって、前記化粧前における前記塗布対象物の色に応じた前記第2変換関数を記憶する化粧料データベースと、
前記第1分光反射率と前記化粧前における前記塗布対象物の色に応じた前記第2変換関数とを用いて前記第2分光反射率を算出する第2分光反射率算出部と、をさらに備え、
前記第2色信号算出部は、前記第2分光反射率算出部が算出した前記第2分光反射率を含む前記第2三次元反射特性モデルを用いて前記第2色信号を算出する
請求項2に記載の化粧シミュレーションシステム。
【請求項4】
前記化粧料データベースは、前記化粧料の製品ごとの前記第2変換関数及び前記第2反射特性パラメータを記憶しており、
前記第2分光反射率算出部は、前記化粧料の製品ごとの前記第2変換関数を用いて前記第2分光反射率を算出し、
前記第2色信号算出部は、前記第2分光反射率算出部が算出した前記第2分光反射率と、前記化粧料の製品ごとの前記第2反射特性パラメータとを含む前記第2三次元反射特性モデルを用いて前記第2色信号を算出する
請求項3に記載の化粧シミュレーションシステム。
【請求項5】
前記化粧料データベースは、前記化粧料に含まれる光輝剤の分光反射率と、前記光輝剤の反射特性を規定する前記光輝剤の反射特性パラメータと、前記光輝剤の大きさを規定する形状情報と、前記光輝剤の分散状態を規定する分散情報と、を記憶しており、
前記第2色信号算出部は、前記第2三次元反射特性モデルを用いて前記化粧料の前記第2色信号を算出し、さらに、前記光輝剤における前記形状情報及び前記分散情報から推定される前記光輝剤が点在する領域において、前記光輝剤の分光反射率と前記光輝剤の反射特性パラメータと前記照明光の前記分光分布及び前記幾何条件とで表現される第3三次元反射特性モデルを用いて前記光輝剤の色信号を算出し、
前記第3色信号算出部は、前記第1色信号、前記第2色信号、及び、前記光輝剤の色信号から前記化粧前の前記塗布対象物に前記光輝剤を含む前記化粧料を塗布した前記化粧状態の前記塗布対象物における前記第3色信号を算出する
請求項4に記載の化粧シミュレーションシステム。
【請求項6】
前記第2分光反射率及び前記第2反射特性パラメータのうち少なくとも一方は、前記化粧料に対して実測された実測値である
請求項1または2に記載の化粧シミュレーションシステム。
【請求項7】
前記照明光の前記分光分布と、前記照明光を発生させる照明光源の空間分布であって、前記三次元オブジェクトを中心とした全方位についての前記空間分布と、を照明環境ごとに記憶する照明環境データベースをさらに備え、
前記第1色信号算出部は、前記照明環境ごとの前記照明光の前記分光分布を含む前記第1三次元反射特性モデルを用いて前記第1色信号を算出し、
前記第2色信号算出部は、前記照明環境ごとの前記照明光の前記分光分布を含む前記第2三次元反射特性モデルを用いて前記第2色信号を算出する
請求項1ないし6のうち何れか一項に記載の化粧シミュレーションシステム。
【請求項8】
前記第1分光反射率算出部、前記第1色信号算出部、前記第2色信号算出部、前記第3色信号算出部、前記第2RGB値算出部、及び、前記オブジェクト生成部のうち少なくとも何れか一つとして機能するGPUをさらに備える
請求項1ないし7のうち何れか一項に記載の化粧シミュレーションシステム。
【請求項9】
化粧料が塗布される塗布対象物における化粧前の第1RGB値から前記化粧前の前記塗布対象物における第1分光反射率を算出する工程と、
前記第1分光反射率と前記化粧前の前記塗布対象物における反射特性を規定する第1反射特性パラメータと照明光の分光分布及び幾何条件とで表現される第1三次元反射特性モデルを用いて前記化粧前の前記塗布対象物における第1色信号を算出する工程と、
前記化粧料の第2分光反射率と前記化粧料の反射特性を規定する第2反射特性パラメータと前記照明光の前記分光分布及び前記幾何条件とで表現される第2三次元反射特性モデルを用いて前記化粧料の第2色信号を算出する工程と、
前記第1色信号及び前記第2色信号から前記化粧前の前記塗布対象物に前記化粧料を塗布した化粧状態の前記塗布対象物における第3色信号を算出する工程と、
前記第3色信号から前記化粧状態の前記塗布対象物における第2RGB値を算出する工程と、
前記第2RGB値から前記化粧状態の前記塗布対象物を含む三次元オブジェクトを生成する工程と、を含む
化粧シミュレーション方法。
【請求項10】
コンピュータに、
化粧料が塗布される塗布対象物における化粧前の第1RGB値から前記化粧前の前記塗布対象物における第1分光反射率を算出する処理と、
前記第1分光反射率と前記化粧前の前記塗布対象物における反射特性を規定する第1反射特性パラメータと照明光の分光分布及び幾何条件とで表現される第1三次元反射特性モデルを用いて前記化粧前の前記塗布対象物における第1色信号を算出する処理と、
前記化粧料の第2分光反射率と前記化粧料の反射特性を規定する第2反射特性パラメータと前記照明光の前記分光分布及び前記幾何条件とで表現される第2三次元反射特性モデルを用いて前記化粧料の第2色信号を算出する処理と、
前記第1色信号及び前記第2色信号から前記化粧前の前記塗布対象物に前記化粧料を塗布した化粧状態の前記塗布対象物における第3色信号を算出する処理と、
前記第3色信号から前記化粧状態の前記塗布対象物における第2RGB値を算出する処理と、
前記第2RGB値から前記化粧状態の前記塗布対象物を含む三次元オブジェクトを生成する処理と、を実行させる
化粧シミュレーションプログラム。
【請求項11】
化粧料が塗布される塗布対象物における化粧前の第1RGB値から前記化粧前の前記塗布対象物における第1分光反射率を算出する第1分光反射率算出部と、
前記第1分光反射率と前記化粧前の前記塗布対象物における反射特性を規定する第1反射特性パラメータと照明光の分光分布及び幾何条件とで表現される第1三次元反射特性モデルを用いて前記化粧前の前記塗布対象物における第1色信号を算出する第1色信号算出部と、
前記化粧料の第2分光反射率と前記化粧料の反射特性を規定する第2反射特性パラメータと前記照明光の前記分光分布及び前記幾何条件とで表現される第2三次元反射特性モデルを用いて前記化粧料の第2色信号を算出する第2色信号算出部と、
前記第1色信号及び前記第2色信号から前記塗布対象物に前記化粧料を塗布した化粧状態の前記塗布対象物における第3色信号を算出する第3色信号算出部と、
前記第3色信号から前記化粧状態の前記塗布対象物における第2RGB値を算出する第2RGB値算出部と、
前記第2RGB値から前記化粧状態の前記塗布対象物を含む三次元オブジェクトを生成するオブジェクト生成部と、を備える
化粧シミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布対象物に化粧料を塗布した状態を再現するための化粧シミュレーションシステム、化粧シミュレーション方法、化粧シミュレーションプログラム、及び、化粧シミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザの顔画像を用いて化粧料を塗布した後の顔のシミュレーション画像を表示する化粧シミュレーションシステムが知られている。例えば、特許文献1には、未化粧状態におけるユーザの顔画像に化粧料ごとのパターンを重畳することで、化粧料を塗布した状態の顔のシミュレーション画像を生成する化粧シミュレーション方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-257194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
顔に化粧料を塗布した場合、化粧料が塗布された領域は、肌の色と化粧料の色とが組み合わされた色を有する。すなわち、使用者の肌の色が異なる場合には、同じ化粧料を塗布した場合であっても、化粧料が塗布された領域は、異なる色を有する。しかし、上記のようなユーザの顔画像に対して単純に化粧料のパターンを重畳する方法では、肌の色がシミュレーション画像に反映されず、シミュレーション画像とユーザが実際に化粧をした際の外観との乖離が大きくなってしまう。したがって、上記方法では、再現精度の高い化粧シミュレーションを行うことが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する化粧シミュレーションシステムは、化粧料が塗布される塗布対象物における化粧前の第1RGB値から前記化粧前の前記塗布対象物における第1分光反射率を算出する第1分光反射率算出部と、前記第1分光反射率と前記化粧前の前記塗布対象物における反射特性を規定する第1反射特性パラメータと照明光の分光分布及び幾何条件とで表現される第1三次元反射特性モデルを用いて前記化粧前の前記塗布対象物における第1色信号を算出する第1色信号算出部と、前記化粧料の第2分光反射率と前記化粧料の反射特性を規定する第2反射特性パラメータと前記照明光の前記分光分布及び前記幾何条件とで表現される第2三次元反射特性モデルを用いて前記化粧料の第2色信号を算出する第2色信号算出部と、前記第1色信号及び前記第2色信号から前記化粧前の前記塗布対象物に前記化粧料を適用した化粧状態の前記塗布対象物における第3色信号を算出する第3色信号算出部と、前記第3色信号から前記化粧状態の前記塗布対象物における第2RGB値を算出する第2RGB値算出部と、前記第2RGB値から前記化粧状態の前記塗布対象物を含む三次元オブジェクトを生成するオブジェクト生成部と、を備える。
【0006】
上記課題を解決する化粧シミュレーション方法は、化粧料が塗布される塗布対象物における化粧前の第1RGB値から前記化粧前の前記塗布対象物における第1分光反射率を算出する工程と、前記第1分光反射率と前記化粧前の前記塗布対象物における反射特性を規定する第1反射特性パラメータと照明光の分光分布及び幾何条件とで表現される第1三次元反射特性モデルを用いて前記化粧前の前記塗布対象物における第1色信号を算出する工程と、前記化粧料の第2分光反射率と前記化粧料の反射特性を規定する第2反射特性パラメータと前記照明光の前記分光分布及び前記幾何条件とで表現される第2三次元反射特性モデルを用いて前記化粧料の第2色信号を算出する工程と、前記第1色信号及び前記第2色信号から前記化粧前の前記塗布対象物に前記化粧料を塗布した化粧状態の前記塗布対象物における第3色信号を算出する工程と、前記第3色信号から前記化粧状態の前記塗布対象物における第2RGB値を算出する工程と、前記第2RGB値から前記化粧状態の前記塗布対象物を含む三次元オブジェクトを生成する工程と、を含む。
【0007】
上記課題を解決する化粧シミュレーションプログラムは、コンピュータに、化粧料が塗布される塗布対象物における化粧前の第1RGB値から前記化粧前の前記塗布対象物における第1分光反射率を算出する処理と、前記第1分光反射率と前記化粧前の前記塗布対象物における反射特性を規定する第1反射特性パラメータと照明光の分光分布及び幾何条件とで表現される第1三次元反射特性モデルを用いて前記化粧前の前記塗布対象物における第1色信号を算出する処理と、前記化粧料の第2分光反射率と前記化粧料の反射特性を規定する第2反射特性パラメータと前記照明光の前記分光分布及び前記幾何条件とで表現される第2三次元反射特性モデルを用いて前記化粧料の第2色信号を算出する処理と、前記第1色信号及び前記第2色信号から前記化粧前の前記塗布対象物に前記化粧料を塗布した化粧状態の前記塗布対象物における第3色信号を算出する処理と、前記第3色信号から前記化粧状態の前記塗布対象物における第2RGB値を算出する処理と、前記第2RGB値から前記化粧状態の前記塗布対象物を含む三次元オブジェクトを生成する処理と、を実行させる。
【0008】
上記課題を解決する化粧シミュレーション装置は、化粧料が塗布される塗布対象物における化粧前の第1RGB値から前記化粧前の前記塗布対象物における第1分光反射率を算出する第1分光反射率算出部と、前記第1分光反射率と前記化粧前の前記塗布対象物における反射特性を規定する第1反射特性パラメータと照明光の分光分布及び幾何条件とで表現される第1三次元反射特性モデルを用いて前記化粧前の前記塗布対象物における第1色信号を算出する第1色信号算出部と、前記化粧料の第2分光反射率と前記化粧料の反射特性を規定する第2反射特性パラメータと前記照明光の前記分光分布及び前記幾何条件とで表現される第2三次元反射特性モデルを用いて前記化粧料の第2色信号を算出する第2色信号算出部と、前記第1色信号及び前記第2色信号から前記化粧前の前記塗布対象物に前記化粧料を適用した化粧状態の前記塗布対象物における第3色信号を算出する第3色信号算出部と、前記第3色信号から前記化粧状態の前記塗布対象物における第2RGB値を算出する第2RGB値算出部と、前記第2RGB値から前記化粧状態の前記塗布対象物を含む三次元オブジェクトを生成するオブジェクト生成部と、を備える。
【0009】
上記各構成によれば、第1三次元反射特性モデルを用いて第1色信号を算出し、第2三次元反射特性モデルを用いて第2色信号を算出することで、化粧状態における塗布対象物の色信号として、化粧料に塗布対象物の色が反映された状態の第3色信号を算出できる。そして、第3色信号から第2RGB値を算出することで化粧状態における塗布対象物の三次元オブジェクトが生成される。これにより、シミュレーション結果として、塗布対象物の色や照明光による陰影、光沢が反映された化粧状態における塗布対象物の三次元オブジェクトを得ることができる。したがって、単に塗布対象物に化粧料の色を重畳する場合よりも、再現精度の高い化粧シミュレーションを行うことができる。また、化粧状態における照明光による陰影、光沢を再現できるため、化粧料を塗布対象物に塗布した状態の質感を再現できる。そして、例えば、ユーザに対してカウンセリングを行う際に、上記化粧シミュレーションを用いることで、ユーザに対して最適な化粧料を提案できる。
【0010】
上記化粧シミュレーションシステムにおいて、前記第1RGB値を前記第1分光反射率に変換するための第1変換関数であって、前記化粧前おける前記塗布対象物の色に応じた前記第1変換関数を記憶する分光変換データベースをさらに備え、前記第1分光反射率算出部は、前記化粧前における前記塗布対象物の色に応じた前記第1変換関数を用いて前記第1分光反射率を算出してもよい。上記構成によれば、塗布対象物の色に応じた第1変換関数に基づいて第1分光反射率を算出することで、第1分光反射率として、より実際の塗布対象物に近い分光反射率を算出できる。したがって、より再現精度の高い化粧シミュレーションを行うことができる。
【0011】
上記化粧シミュレーションシステムにおいて、前記第1分光反射率から前記第2分光反射率を算出するための第2変換関数であって、前記化粧前における前記塗布対象物の色に応じた前記第2変換関数を記憶する化粧料データベースと、前記第1分光反射率と前記化粧前における前記塗布対象物の色に応じた前記第2変換関数とを用いて前記第2分光反射率を算出する第2分光反射率算出部と、をさらに備え、前記第2色信号算出部は、前記第2分光反射率算出部が算出した前記第2分光反射率を含む前記第2三次元反射特性モデルを用いて前記第2色信号を算出してもよい。上記構成によれば、第1分光反射率と、塗布対象物の色に応じた第2変換関数とに基づいて第2分光反射率を算出することで、実際に化粧料が塗布対象物に塗布されて塗布対象物になじんだ状態での化粧料の分光反射率により近い第2分光反射率を算出できる。したがって、より再現精度の高い化粧シミュレーションを行うことができる。
【0012】
上記化粧シミュレーションシステムにおいて、前記化粧料データベースは、前記化粧料の製品ごとの前記第2変換関数及び前記第2反射特性パラメータを記憶しており、前記第2分光反射率算出部は、前記化粧料の製品ごとの前記第2変換関数を用いて前記第2分光反射率を算出し、前記第2色信号算出部は、前記第2分光反射率算出部が算出した前記第2分光反射率と、前記化粧料の製品ごとの前記第2反射特性パラメータとを含む前記第2三次元反射特性モデルを用いて前記第2色信号を算出してもよい。上記構成によれば、化粧料の製品ごとの第2分光反射率及び第2反射特性パラメータを用いて第2色信号を算出することで、化粧料の製品ごとの色及び反射特性が反映された三次元オブジェクトを生成できる。したがって、より再現精度の高い化粧シミュレーションを行うことができる。
【0013】
上記化粧シミュレーションシステムにおいて、前記化粧料データベースは、前記化粧料に含まれる光輝剤の分光反射率と、前記光輝剤の反射特性を規定する前記光輝剤の反射特性パラメータと、前記光輝剤の大きさを規定する形状情報と、前記光輝剤の分散状態を規定する分散情報と、を記憶しており、前記第2色信号算出部は、前記第2三次元反射特性モデルを用いて前記化粧料の前記第2色信号を算出し、さらに、前記光輝剤における前記形状情報及び前記分散情報から推定される前記光輝剤が点在する領域において、前記光輝剤の分光反射率と前記光輝剤の反射特性パラメータと前記照明光の前記分光分布及び前記幾何条件とで表現される第3三次元反射特性モデルを用いて前記光輝剤の色信号を算出し、前記第3色信号算出部は、前記第1色信号、前記第2色信号、及び、前記光輝剤の色信号から前記化粧前の前記塗布対象物に前記光輝剤を含む前記化粧料を塗布した前記化粧状態の前記塗布対象物における前記第3色信号を算出してもよい。上記構成によれば、化粧料に含まれる光輝剤の分光反射率を含む第3三次元反射特性モデルを用いて光輝剤の色信号を算出できる。そして、第1色信号、第2色信号、及び、光輝剤の色信号に基づいて算出される第3色信号から第2RGB値を算出することで、化粧状態における光輝剤の光沢が再現された三次元オブジェクトを生成できる。また、形状情報及び分散情報から推定される光輝剤が点在する領域において、光輝剤の色信号を算出することで、実際の化粧料に含まれる光輝剤の粒形状及び光輝剤の分散状態を再現できる。したがって、より再現精度の高い化粧シミュレーションを行うことができる。
【0014】
上記化粧シミュレーションシステムにおいて、前記第2分光反射率及び前記第2反射特性パラメータのうち少なくとも一方は、前記化粧料に対して計測された実測値であってもよい。上記構成によれば、第2三次元反射特性モデルを構成するパラメータである第2分光反射率及び第2反射特性パラメータのうち少なくとも一方として、化粧料に対する実測値を用いることで、様々な化粧料のシミュレーションを容易に行うことができる。例えば、新たな化粧料が開発された際には、新たな化粧料の第2分光反射率及び第2反射特性パラメータを実測することで、本システムでシミュレーションを行うことができる。
【0015】
上記化粧シミュレーションシステムにおいて、前記照明光の前記分光分布と、前記照明光を発生させる照明光源の空間分布であって、前記三次元オブジェクトを中心とした全方位についての前記空間分布と、を照明環境ごとに記憶する照明環境データベースをさらに備え、前記第1色信号算出部は、前記照明環境ごとの前記照明光の前記分光分布を含む前記第1三次元反射特性モデルを用いて前記第1色信号を算出し、前記第2色信号算出部は、前記照明環境ごとの前記照明光の前記分光分布含む前記第2三次元反射特性モデルを用いて前記第2色信号を算出してもよい。上記構成によれば、照明環境ごとの照明分光分布に基づいて第1色信号及び第2色信号を算出することで、照明環境ごとの照明光による陰影、光沢などの照明効果が反映された三次元オブジェクトを生成できる。したがって、より再現精度の高い化粧シミュレーションを行うことができる。
【0016】
上記化粧シミュレーションシステムにおいて、前記第1分光反射率算出部、前記第1色信号算出部、前記第2色信号算出部、前記第3色信号算出部、前記第2RGB値算出部、及び、前記オブジェクト生成部のうち少なくとも何れか一つとして機能するGPUをさらに備えてもよい。上記構成によれば、GPUを用いて化粧シミュレーションシステムにおける処理を実行することで、リアルタイムでの画像処理が可能となり、より好適に化粧シミュレーションを行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のような構成によれば、化粧料に塗布対象物の色を反映させることで、単に塗布対象物に化粧料の色を重畳する場合よりも化粧シミュレーションの再現精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】化粧シミュレーションシステムの全体構成を示す模式図。
図2】ユーザ端末の構成を示すブロック図。
図3】サーバの構成を示すブロック図。
図4】サーバが備えるGPUの機能ブロック図。
図5】第1三次元オブジェクトが表示されたアプリ画像を表す模式図。
図6】化粧料選択領域が表示されたアプリ画像を表す模式図。
図7】化粧シミュレーションシステムにおける処理手順を示すフローチャート。
図8】化粧シミュレーションシステムにおける反射の幾何学モデルを示す模式図。
図9図8に示す反射の幾何学モデルにおける反射光分布を示す模式図。
図10】化粧料に含まれる光輝剤の多層膜で生じる干渉光を表す模式図。
図11】第2三次元オブジェクトが表示されたアプリ画像を表す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔第1実施形態〕
以下、化粧シミュレーションシステム、化粧シミュレーション方法、化粧シミュレーションプログラム、及び、化粧シミュレーション装置の第1実施形態について図1図11を参照して説明する。
【0020】
〔全体構成〕
図1に示すように、化粧シミュレーションシステム1は、ユーザ端末10と、サーバ20とを備える。ユーザ端末10は、ユーザ2が所有する情報処理装置であって、一例として、スマートフォンである。なお、ユーザ端末10は、タブレット、ラップトップパソコン、デスクトップパソコンなどの情報処理装置であってもよい。
【0021】
サーバ20は、化粧シミュレーションシステム1における各種処理を実行するサーバコンピュータであって、化粧シミュレーションを行うための化粧シミュレーション装置の一例である。具体的に、サーバ20は、化粧前の状態である未化粧状態における顔の三次元オブジェクト30である第1三次元オブジェクト30aを生成する。また、サーバ20は、化粧後の状態である化粧状態における顔の三次元オブジェクト30である第2三次元オブジェクト30bを生成する。
【0022】
ユーザ端末10及びサーバ20は、通信回線であるネットワーク3を介して接続されている。ネットワーク3は、一例として、携帯電話の4G、5Gなどの移動通信システム、Wi‐Fi(登録商標)などの無線LAN通信システムである。
【0023】
ユーザ端末10には、アプリケーションプログラムとしての三次元オブジェクト表示プログラムがインストールされている。三次元オブジェクト表示プログラムは、ユーザ端末10に第1三次元オブジェクト30a及び第2三次元オブジェクト30bを表示する処理を実行させるプログラムである。三次元オブジェクト表示プログラムは、ネットワークを介してアプリケーション配信装置からダウンロードされ、ユーザ端末10にインストールされる。
【0024】
ユーザ端末10は、タッチパネル13を備える。タッチパネル13には、未化粧状態の三次元オブジェクトである第1三次元オブジェクト30aや化粧状態の三次元オブジェクト30であるシミュレーション結果としての第2三次元オブジェクト30bが表示される。
【0025】
〔ユーザ端末〕
図2に示すように、ユーザ端末10は、制御部11と、メモリ12と、タッチパネル13と、撮像部14と、通信部15とを備える。制御部11は、一例として、CPUであり、ユーザ端末10における全体の動作を制御する。
【0026】
メモリ12は、メインメモリとデータ記憶部とを備える。メモリ12が備えるメインメモリは、一例として、RAMであり、ユーザ端末10のデータやプログラムなどを一時的に記憶する。メモリ12が備えるデータ記憶部は、不揮発性メモリであって、一例として、フラッシュメモリである。メモリ12が備えるデータ記憶部には、例えば、三次元オブジェクト表示プログラムなど、ユーザ端末10における各種処理を実行するためのプログラムが記憶されている。
【0027】
タッチパネル13は、液晶パネルや有機ELパネルなどの表示デバイスと、位置入力デバイスとを組み合わせたタッチ操作入力が可能なディスプレイである。すなわち、タッチパネル13は、ユーザ端末10において、三次元オブジェクト30が表示される表示部であり、また、サーバ20に対して操作入力を行う操作部である。
【0028】
撮像部14は、一例として、CCDやCMOS等の撮像素子を備えるRGBカメラである。撮像部14は、可視光等の光を検出し、赤、緑、青のRGB値で構成された画像データを出力する。以下では、撮像部14で取得された画像のRGB値を第1RGB値とする。
【0029】
撮像部14は、第1RGB値で構成される未化粧状態でのユーザ2の顔画像を取得する。第1三次元オブジェクト30aは、撮像部14が取得した未化粧状態でのユーザ2の顔画像を構成する第1RGB値に基づいて生成される。
【0030】
通信部15は、ネットワーク3を介して、サーバ20と通信する。具体的に、通信部15は、ユーザ端末10からの信号をサーバ20に送信し、また、サーバ20が生成した第1三次元オブジェクト30a及び第2三次元オブジェクト30bなどのデータを受信する。
【0031】
〔サーバ〕
図3に示すように、サーバ20は、制御部21と、メモリ24と、通信部25とを備える。制御部21は、一例として、CPU22とGPU23とを備える。CPU22は、サーバ20における三次元オブジェクト30の生成処理以外の全体の動作を制御する。GPU23は、サーバ20における三次元オブジェクト30の生成処理を実行する。
【0032】
メモリ24は、メインメモリとデータ記憶部とを備える。メモリ24が備えるメインメモリは、一例として、RAMであり、サーバ20のデータやプログラムなどを一時的に記憶する。メモリ24が備えるデータ記憶部は、不揮発性メモリであって、一例として、HDDやSSDなどのフラッシュメモリである。
【0033】
メモリ24が備えるデータ記憶部には、例えば、化粧シミュレーションプログラムなど、サーバ20における各種処理を実行するためのプログラムが記憶されている。化粧シミュレーションプログラムは、第1三次元オブジェクト30a及び第2三次元オブジェクト30bを生成する処理をサーバ20に実行させるプログラムである。化粧シミュレーションプログラムにおける処理は、制御部21が備えるGPU23によって制御される。
【0034】
メモリ24は、データ記憶部としての分光変換データベース24aと、照明環境データベース24bと、化粧料データベース24cとを備える。分光変換データベース24aは、第1三次元オブジェクト30aにおいて、化粧料が塗布される対象である塗布対象物を構成する第1RGB値を未化粧状態における塗布対象物の分光反射率である第1分光反射率S(λ)に変換するための第1変換関数Mを記憶する。本実施形態では、分光変換データベース24aは、塗布対象物の一例である顔における素肌及び唇のそれぞれについて、第1RGB値を第1分光反射率S(λ)に変換するための第1変換関数Mを記憶する。
【0035】
第1変換関数Mは、多数の人々を対象として塗布対象物のRGB値及び分光反射率を実測し、塗布対象物のRGB値及び分光反射率の対応関係を実測対象者の塗布対象物の色ごとに統計的に分析することで得られる変換マトリクスである。第1変換関数Mは、一例として、400nm~700nmの可視波長域を5nm間隔に区分した61×3の変換行列である。
【0036】
具体例として、分光変換データベース24aは、塗布対象物の一例である肌に含まれるメラニン色素量に応じて、第1タイプの肌と、第2タイプの肌と、第3タイプの肌との3つのタイプに分けて、肌の色に応じた第1変換関数Mを記憶する。第1タイプの肌は、メラニン色素量が第2タイプ及び第3タイプよりも少ない第1範囲内にある肌であって、肌に光を当てた時の各波長の相対反射率が高い肌である。第2タイプの肌は、メラニン色素量が第1範囲より多い第2範囲内にある肌であって、肌に光を当てた時の各波長の相対反射率が中程度の肌である。第3タイプの肌は、メラニン色素量が第2範囲より多い第3範囲内にある肌であって、肌に光を当てた時の各波長の相対反射率が低い肌である。なお、分光変換データベース24aは、例えば、肌のRGB値を所定の範囲ごとに区分し、肌のRGB値における区分ごとの第1変換関数Mを記憶してもよい。
【0037】
照明環境データベース24bは、三次元オブジェクト30に照射される照明光の分光分布である照明分光分布E(λ)と、照明光を発生させる照明光源の空間分布との組合せである光源情報を照明環境ごとに記憶する。ここでの照明光源は、例えば、三次元オブジェクト30に対して照明光を直接照射する直接光源と、照明環境中に存在する物体が直接光源からの照明光を三次元オブジェクト30に向けて反射する反射光源とがあるものの、本実施形態ではこれらは特に区別されない。したがって、照明環境データベース24bは、三次元オブジェクト30を中心とした全方位について、直接光源と反射光源とを含めた照明光源の空間分布と、照明光源から照射される照明光の照明分光分布E(λ)を記憶する。なお、照明光源の空間分布は、三次元オブジェクト30に対する照明光の入射角度などの幾何条件を規定するための情報として用いられる。
【0038】
また、ここでの照明環境とは、三次元オブジェクト30に対して特定のシーンにおける照明効果を再現するための照明分光分布E(λ)及び照明光源の空間分布の組合せである。照明環境の具体例としては、人工の直接光源が適用される屋内環境、また、自然の直接光源が適用される屋外環境などがあり、屋外環境としては、朝、昼、夕、夜などの時間帯ごとに区分される。人工の直接光源としては、例えば、白熱電球、蛍光灯、LEDライトなどであり、自然の直接光源としては、例えば、太陽、月などである。
【0039】
照明分光分布E(λ)、及び、照明光源の空間分布は、例えば、実際の照明環境において、全方位の分光画像を取得して、可視波長域(例えば、400~700nm)において、5nmごとの分光分布を全方位に対してサンプリングすることで求めることができる。この場合、照明環境データベース24bは、分光画像の各画素における照明分光分布E(λ)を記憶する。詳述すると、分光画像における各画素の位置は、三次元オブジェクト30を中心とした全方位の空間に分布する照明光源の空間分布を特定する情報となる。そして、各画素に割り当てられた照明分光分布E(λ)は、三次元オブジェクト30に照射される照明光の照明分光分布E(λ)となる。換言すると、分光画像における各画素を照明光源とみなし、各画素に照明分光分布E(λ)を割り当てることで、全方位における照明光源の空間分布と、各照明光源から照射される照明光の照明分光分布E(λ)とを得ることができる。このような手法によれば、実際の照明環境において、各直接光源及び各反射光源を区別せずにシーン全体の照明光源をまとめて処理できる。したがって、照明光の境界が区別できない複数の照明光源が存在する場合であっても、照明環境の再現が可能となる。
【0040】
化粧料データベース24cは、第2変換関数T(λ)を化粧料の製品ごとに記憶する。第2変換関数T(λ)は、第1分光反射率S(λ)に基づいて、化粧料の分光反射率である第2分光反射率S(λ)を算出するための変換マトリクスである。ここでの化粧料とは、塗布対象物に塗布される化粧料であって、例えば、ファンデーション、チーク、アイカラー、リップなどである。すなわち、化粧料データベース24cは、ファンデーション、チークなどの化粧料の種類ごと、かつ、各化粧料の色、用途等のバリエーションごとの第2変換関数T(λ)を記憶する。
【0041】
より具体的に、化粧料データベース24cは、化粧料の製品ごとに、塗布対象物の色に応じた第2変換関数T(λ)を記憶する。例えば、化粧料データベース24cは、肌に塗布される化粧料であれば、化粧料の製品ごとに、第1タイプの肌、第2タイプの肌、第3タイプの肌のそれぞれについての第2変換関数T(λ)を記憶する。
【0042】
第2変換関数T(λ)は、例えば、多数の人々を対象として、被験者の塗布対象物における分光反射率Sと、被験者の塗布対象物に化粧料を塗布した状態の分光反射率Sとを実測し、分光反射率S及び分光反射率Sの変化量から測定対象者の塗布対象物の色ごとに統計的に算出される。
【0043】
また、化粧料データベース24cは、化粧料の反射特性パラメータを化粧料の製品ごとに記憶する。詳細は後述するが、反射特性パラメータとは、物体表面の粗さなど物体の表面性状に依存するパラメータであって、物体表面における照明光の入射角に対する反射光の強度や光沢の広がりなどの反射特性を規定するパラメータである。化粧料の反射特性パラメータは、例えば、実際の化粧料に対して光沢計などの測定機器で計測された実測値から求めることができる。
【0044】
他にも、化粧料データベース24cは、アイカラーなどの化粧料に含まれるパールやラメなどの光輝剤の分光反射率及び反射特性パラメータを記憶してもよい。なお、光輝剤の分光反射率は、化粧料が肌に塗布された状態でも塗布対象物の色の影響を受けにくいことから、肌自体の分光反射率と独立した反射成分で計算される。したがって、第2変換関数T(λ)による算出処理は行われない。そのため、光輝剤の分光反射率は、測定機器で計測された実測値が記憶される。
【0045】
通信部25は、ネットワーク3を介して、ユーザ端末10と通信する。具体的に、通信部25は、ユーザ端末10からの信号を受信し、また、サーバ20が生成した第1三次元オブジェクト30a及び第2三次元オブジェクト30bなどのデータをユーザ端末10に送信する。
【0046】
〔GPU〕
図4に示すように、制御部21が備えるGPU23は、オブジェクト生成部23a、第1分光反射率算出部23b、第1色信号算出部23c、第2分光反射率算出部23d、第2色信号算出部23e、第3色信号算出部23f、及び、第2RGB値算出部23gとして機能する。
【0047】
オブジェクト生成部23aは、未化粧状態での顔画像の第1RGB値に基づいて、未化粧状態での顔の三次元オブジェクト30である第1三次元オブジェクト30aを生成する。また、オブジェクト生成部23aは、後述する第2RGB値算出部23gが算出した第2RGB値に基づいて、化粧状態における顔の三次元オブジェクト30である第2三次元オブジェクト30bを生成する。
【0048】
第1分光反射率算出部23bは、第1RGB値及び第1変換関数Mに基づいて、第1分光反射率S(λ)を算出する。第1色信号算出部23cは、化粧前の塗布対象物における三次元反射特性モデルである第1三次元反射特性モデルに基づいて、第1三次元オブジェクト30aに対して照明光が反射した際の色信号である第1色信号C(λ)を算出する。
【0049】
ここでの三次元反射特性モデルとは、物体の光反射のプロセスを記述した数学モデルであり、三次元反射特性モデルを構成する物体の分光反射率及び反射特性パラメータによって、物体の色や質感が規定される。そして、三次元反射特性モデルに対して、照明光の分光分布と照明光の入射角度などの幾何条件とを与えることで、照明光が物体に反射した際の色信号が算出される。すなわち、第1三次元反射特性モデルとは、未化粧状態の塗布対象物における光反射のプロセスを記述した数学モデルである。
【0050】
また、ここでの色信号とは、照明光が物体に反射して人の目やカメラなどの視覚系に入射する電磁波の分光分布(エネルギースペクトル分布)である。色信号は、RGB等色関数などを用いて実際に人間が知覚するRGB値などの色情報に変換される。なお、第1色信号C(λ)は、未化粧状態の塗布対象物に対して照明光が反射した際の色信号に相当する。
【0051】
第2分光反射率算出部23dは、第1分光反射率S(λ)及び第2変換関数T(λ)に基づいて、第2分光反射率S(λ)を算出する。第2色信号算出部23eは、化粧料の三次元反射特性モデルである第2三次元反射特性モデルに基づいて、化粧料に対して照明光が反射した際の色信号である第2色信号C(λ)を算出する。第2三次元反射特性モデルとは、化粧料における光反射のプロセスを記述した数学モデルである。なお、以下では、未化粧状態の塗布対象物についての反射特性パラメータを第1反射特性パラメータとし、化粧料についての反射特性パラメータを第2反射特性パラメータとする。
【0052】
第3色信号算出部23fは、第1色信号C(λ)及び第2色信号C(λ)に基づいて第2三次元オブジェクト30bの色信号である第3色信号C(λ)を算出する。第3色信号C(λ)は、化粧状態の塗布対象物、すなわち、塗布対象物と当該塗布対象物に塗布された化粧料とに対して照明光が反射した際の色信号に相当する。第2RGB値算出部23gは、第3色信号算出部23fが算出した第3色信号C(λ)に基づいて第2三次元オブジェクト30bのRGB値である第2RGB値を算出する。第2RGB値は、化粧状態の塗布対象物におけるRGB値に相当する。
【0053】
〔アプリ画像〕
図5に示すように、ユーザ端末10のタッチパネル13には、三次元オブジェクト表示プログラムによって表示されるアプリケーション画像であるアプリ画像40が表示される。アプリ画像40は、三次元オブジェクト表示領域41と、操作領域42とを備える。三次元オブジェクト表示領域41は、第1三次元オブジェクト30aまたは第2三次元オブジェクト30bが表示される領域である。
【0054】
操作領域42は、例えば、切換オブジェクト42a、化粧領域選択オブジェクト42b、化粧料選択オブジェクト42c、照明選択オブジェクト42d、及び、操作オブジェクト42eを備える。切換オブジェクト42aは、化粧料ごとにシミュレーション結果のON、OFFを切り換えるオブジェクトである。
【0055】
化粧領域選択オブジェクト42bは、三次元オブジェクト30における化粧料が適用される領域である化粧領域31を手動で指定するためのオブジェクトである。化粧領域31を指定する方法の一例としては、三次元オブジェクト表示領域41に表示された第1三次元オブジェクト30aにおいて、化粧料を塗布したい領域をタップ操作入力で指定する。化粧領域31としては、例えば、ファンデーションやチークであれば顔の肌全体が指定され、アイカラーであれば目元付近の肌が指定され、リップであれば唇が指定される。なお、化粧領域31は、画像認識機能等を用いて自動で設定される構成でもよい。
【0056】
化粧料選択オブジェクト42cは、シミュレーションしたい化粧料の製品を選択するためのオブジェクトである。図6に示すように、化粧料選択オブジェクト42cをタップ操作することで、三次元オブジェクト表示領域41に化粧料選択領域43が表示される。化粧料選択領域43には、化粧料データベース24cに登録された化粧料が、製品オブジェクト43aとして製品ごとに表示される。製品オブジェクト43aをタップ操作することで、化粧シミュレーションにおいて適用される化粧料の製品が選択される。
【0057】
具体例として、ファンデーションの場合では、リキッドファンデーション、パウダーファンデーションなどファンデーションの種類ごと、及び、色ごとに表示された製品オブジェクト43aの中から、シミュレーションしたい製品の製品オブジェクト43aを選択する。
【0058】
照明選択オブジェクト42dは、化粧シミュレーションにおける照明環境を選択するためのオブジェクトである。化粧料選択オブジェクト42cをタップ操作することで、三次元オブジェクト表示領域41に照明選択領域(非図示)が表示される。照明選択領域には、照明環境データベース24bに登録された各種照明環境が、照明オブジェクトとして照明環境ごとに表示される。照明オブジェクトをタップ操作することで、化粧シミュレーションにおいて適用される照明環境が選択される。
【0059】
操作オブジェクト42eは、三次元オブジェクト表示領域41に表示された第1三次元オブジェクト30aまたは第2三次元オブジェクト30bを移動、回転、拡大、縮小させるためのオブジェクトである。
【0060】
〔第1実施形態の作用〕
次に、化粧シミュレーションシステム1の作用について説明する。
図7に示すように、ステップS1において、ユーザ端末10の制御部11は、撮像部14に未化粧状態でのユーザ2の顔画像を取得する処理を実行させる。そして、制御部11は、第1RGB値で構成される未化粧状態でのユーザ2の顔画像データを生成してサーバ20に送信する処理を実行する。
【0061】
ここで取得される顔画像は、第1三次元オブジェクト30aを生成できるのであれば、例えば、1枚の画像でもよいし、角度を変えて撮影された複数枚の画像であってもよく、動画から取得される画像であってもよい。
【0062】
また、ステップS1において顔画像を撮影する際には、撮影環境における照明等の様々な要因の影響を受ける。より化粧シミュレーションに適した顔画像を取得する観点から、例えば、撮影環境における影響を低減するための補正として、撮影された顔画像に対してメモリ12に記憶させた画像処理プログラムなどによって明度や彩度などを調整してもよい。
【0063】
ステップS2において、サーバ20のオブジェクト生成部23aは、ユーザ端末10から送信された未化粧状態でのユーザ2の顔画像を構成する第1RGB値に基づいて、第1三次元オブジェクト30aを生成する処理を実行する。さらに、オブジェクト生成部23aは、生成した第1三次元オブジェクト30aのデータをユーザ端末10に送信して、タッチパネル13に表示させる処理を実行する。これにより、タッチパネル13には、アプリ画像40の三次元オブジェクト表示領域41において、第1三次元オブジェクト30aが表示される。
【0064】
次いで、ユーザ2は、タッチパネル13に表示された操作領域42のオブジェクトに対してタップ操作入力を行い、化粧料が適用される化粧領域31を設定し、さらに、シミュレーションする化粧料の製品及び照明環境を選択する。ユーザ端末10の制御部11は、ユーザ2が設定した化粧領域31と、ユーザ2が選択した化粧料の製品及び照明環境とを特定する信号をサーバ20に送信する。なお、例えば、チークとファンデーションのように、異なる種類の化粧料を複数選択してもよい。
【0065】
ステップS3において、第1分光反射率算出部23bは、第1三次元オブジェクト30aを構成する第1RGB値に基づいて、化粧領域31における第1分光反射率S(λ)を算出する処理を実行する。具体的に、第1分光反射率算出部23bは、分光変換データベース24aから化粧領域31における塗布対象物の色に応じた第1変換関数Mを読み出し、化粧領域31における第1分光反射率S(λ)を算出する処理を実行する。
【0066】
ここで読み出される第1変換関数Mは、例えば、第1三次元オブジェクト30aの化粧領域31を構成する第1RGB値に応じて自動で決定されてもよいし、ユーザ2がカラーコードのような色見本から塗布対象物に近い色を選択することで決定されてもよい。
【0067】
第1分光反射率S(λ)は、第1変換関数Mと、第1RGB値における各要素の値であるR,G,Bとを用いて、400nm~700nmの可視波長域を5nm間隔で区分した離散的な61次元の分光反射ベクトルsとして近似できる。第1分光反射率S(λ)は、以下の式(1),(2)で表すことができる。
【0068】
【数1】
【0069】
塗布対象物の色に応じた第1変換関数Mに基づいて第1分光反射率S(λ)を算出することで、塗布対象物が有する実際の分光反射率により近い第1分光反射率S(λ)を算出できる。また、例えば、塗布対象物が顔における肌の場合、一般的に、分光光度計などの測定機器における測定範囲が小さいことから、顔における肌全体の分光反射率を直接測定することは困難である。これに対して、本実施形態のように、未化粧状態の顔画像が有する第1RGB値から第1分光反射率S(λ)を算出することで、好適に未化粧状態における塗布対象物の分光反射率を得ることができる。
【0070】
なお、本実施形態では、例えば、髪の毛やピアスなどのアクセサリなど、化粧料が適用されない領域、すなわち、化粧領域31以外の領域では、第1RGB値から第1分光反射率S(λ)を算出する処理は実行されない。これにより、第1RGB値から第1分光反射率S(λ)を算出する際の計算処理を簡略化できる。
【0071】
ステップS4において、第1色信号算出部23cは、第1分光反射率S(λ)、第1反射特性パラメータ、照明光の照明分光分布E(λ)、及び、照明光の幾何条件で表現される第1三次元反射特性モデルに基づいて第1色信号C(λ)を算出する処理を実行する。
【0072】
具体的に、第1色信号算出部23cは、照明環境データベース24bからユーザ2によって選択された照明環境における照明分光分布E(λ)及び照明光源の空間分布を読み出す。そして、第1色信号算出部23cは、第1三次元反射特性モデルを用いて、第1色信号C(λ)を算出する処理を実行する。
【0073】
第1三次元反射特性モデルは、第1分光反射率S(λ)、照明分光分布E(λ)、第1拡散反射関数D、及び、第1鏡面反射関数Gを用いて、以下の式(3)で表すことができる。なお、第1拡散反射関数Dは、未化粧状態の塗布対象物における拡散反射を規定する関数である。第1鏡面反射関数Gは、未化粧状態の塗布対象物における鏡面反射を規定する関数である。また、第1三次元反射特性モデルでは、右辺第1項が拡散反射成分を表し、右辺第2項が鏡面反射成分を表す。
【0074】
【数2】
【0075】
ここで、図8及び図9を参照して、本実施形態における反射の幾何学モデルについて説明する。図8に示すように、仮想空間50は、仮想点51と、仮想光源52と、仮想視点53とを備える。仮想点51は、仮想光源52からの光を受ける第1三次元オブジェクト30aの表面S上の点である。仮想光源52は、仮想点51に対して照明光を照射する。仮想視点53は、仮想点51を観測する視点である。
【0076】
また、照明方向ベクトルLは、仮想点51から仮想光源52に向かうベクトルである。法線ベクトルNは、表面S上の仮想点51における法線方向のベクトルである。視線方向ベクトルVは、仮想点51から仮想視点53に向かうベクトルである。照明方向ベクトルL、法線ベクトルN、及び、視線方向ベクトルVは、三次元反射特性モデルにおける照明光の幾何条件を規定するためのパラメータである。そして、照明方向ベクトルLと法線ベクトルNとのなす角を入射角θとし、法線ベクトルNと視線方向ベクトルVとのなす角を受光角θとする。
【0077】
一般的に、物体が照明光を受けた場合、物体表面において生じる色信号C(λ)は、物体の分光反射率S(λ)と、照明光の分光分布E(λ)とを用いて、C(λ)=E(λ)S(λ)として表現される。
【0078】
本実施形態では、単に物体の分光反射率及び照明光の分光分布から物体の色信号を算出するだけでなく、物体表面における拡散反射及び鏡面反射を考慮した三次元反射特性モデルを用いることで、物体表面の光沢や質感をより正確に再現している。
【0079】
具体的に、仮想点51が仮想光源52からの光を受けた場合、仮想点51において全方位に生じる拡散反射光と、入射角θと受光角θとが近似する場合に生じる鏡面反射光とで構成される反射光が生じる。
【0080】
図9に示すように、仮想点51において生じる反射光の強度分布は、拡散反射光強度αと、鏡面反射光強度Iとを足し合わせた強度分布である反射光分布RDで表現される。仮想点51において生じる反射光の強度は、受光角θに応じて異なる値を示す。具体的に、図9における仮想点51から反射光分布RDまでの距離が受光角θrにおける反射光の強度を表す。
【0081】
拡散反射光強度αは、拡散反射光の強度を規定するための反射特性パラメータである。拡散反射光強度αは、入射角θに対して受光角θが何れの値であってもほぼ一定の値である。鏡面反射光強度Iは、拡散反射光強度αに対する鏡面反射光の相対的な強度を規定するための反射特性パラメータである。鏡面反射光強度Iは、入射角θに対して受光角θの値が近づくにつれて増大し、入射角θと受光角θとが一致したときに最大値となる。
【0082】
例えば、受光角θが入射角θと大きく異なる受光角θr1である場合、仮想視点53aにおいて観測される反射光の強度は、拡散反射光強度αの値となる。これに対して、受光角θが入射角θと近似する受光角θr2である場合、仮想視点53bにおいて観測される反射光の強度は、拡散反射光強度αと鏡面反射光強度Iとを足し合わせた値となる。
【0083】
第1拡散反射関数Dは、第1拡散反射光強度αと、照明光の幾何条件としての照明方向ベクトルL及び法線ベクトルNとを用いて、以下の式(4)で表すことができる。第1拡散反射光強度αは、未化粧状態の塗布対象物における拡散反射光の強度を規定するための第1反射特性パラメータである。ここでは、第1拡散反射光強度α=1として扱う。なお、以下の計算で用いられる照明光の幾何条件は、照明光源の空間分布、三次元オブジェクト30の形状、及び、三次元オブジェクト30を観測する視点位置等から算出される。
【0084】
【数3】
【0085】
また、反射光分布RDにおいて、鏡面反射光が生じる範囲は、鏡面反射パラメータmで表現される。鏡面反射パラメータmは、物体表面の粗さなど物体の表面性状に依存するパラメータであって、光沢の広がりを規定する反射特性パラメータである。鏡面反射パラメータmが大きいほど、鏡面反射光が生じる範囲が大きくなる。
【0086】
第1鏡面反射関数Gは、第1鏡面反射光強度I1、及び、第1鏡面反射パラメータmと、照明光の幾何条件としての照明方向ベクトルL、法線ベクトルN、及び、視線方向ベクトルVとを用いて、以下の式(5)~(7)で表すことができる。なお、式(6)は、Beckmann関数である。また、第1鏡面反射光強度Iは、未化粧状態の塗布対象物における拡散反射光の強度を規定するための第1反射特性パラメータである。そして、第1鏡面反射パラメータmは、未化粧状態の塗布対象物における光沢の広がりを規定するための第1反射特性パラメータである。第1鏡面反射光強度I及び第1鏡面反射パラメータmは、あらかじめ任意の値が設定される。
【0087】
【数4】
【0088】
なお、第1鏡面反射光強度I及び第1鏡面反射パラメータmは、例えば、未化粧状態でのユーザ2の顔に対して、照明光の入射角度を変えた複数の画像から求めることもできる。例えば、ステップS1において、未化粧状態でのユーザ2の顔画像を取得する際に、ユーザ2の顔に対して照明光の入射角度を変えた複数の画像を取得することで、第1鏡面反射光強度I及び第1鏡面反射パラメータmを求めることもできる。
【0089】
このように、第1三次元反射特性モデルを用いて第1色信号C(λ)を算出することで、未化粧状態における塗布対象物の色、及び、照明光によって生じる陰影や光沢を第1色信号C(λ)として再現できる。
【0090】
ステップS5において、第2分光反射率算出部23dは、化粧領域31において、第1分光反射率S(λ)及び第2変換関数T(λ)に基づいて、第2分光反射率S(λ)を算出する処理を実行する。具体的に、第2分光反射率算出部23dは、化粧料データベース24cから化粧領域31における塗布対象物の色に応じた第2変換関数T(λ)を読み出し、化粧領域31における第2分光反射率S(λ)を算出する処理を実行する。
【0091】
なお、ここで読み出される第2変換関数T(λ)は、例えば、ステップS3において、第1変換関数Mと合わせて決定されてもよく、ユーザ2がカラーコードのような色見本から塗布対象物に近い色を選択することで決定されてもよい。第2分光反射率S(λ)は、第1分光反射率S(λ)と、第2変換関数T(λ)とを用いて、以下の式(8)で表すことができる。
【0092】
【数5】
【0093】
第1分光反射率S(λ)と、塗布対象物の色に応じた第2変換関数T(λ)とに基づいて第2分光反射率S(λ)を算出することで、実際に化粧料が塗布対象物に塗布されてなじんだ状態での化粧料の分光反射率により近い第2分光反射率S(λ)を算出できる。
【0094】
ステップS6において、第2色信号算出部23eは、第2分光反射率S(λ)、第2反射特性パラメータ、照明光の照明分光分布E(λ)、及び、照明光の幾何条件で表現される第2三次元反射特性モデルに基づいて、第2色信号C(λ)を算出する処理を実行する。
【0095】
具体的に、第2色信号算出部23eは、化粧料データベース24cからユーザ2によって選択された化粧料の第2反射特性パラメータを読み出す。さらに、第2色信号算出部23eは、照明環境データベース24bからユーザ2によって選択された照明環境における照明分光分布E(λ)及び照明光源の空間分布を読み出す。そして、第2色信号算出部23eは、第2三次元反射特性モデルを用いて、第2色信号C(λ)を算出する処理を実行する。
【0096】
第2三次元反射特性モデルは、第2分光反射率S(λ)、照明分光分布E(λ)、第2拡散反射関数D、及び、第2鏡面反射関数Gを用いて、以下の式(9)~(11)で表すことができる。なお、第2拡散反射関数Dは、化粧料における拡散反射を規定する関数である。第2鏡面反射関数Gは、化粧料における鏡面反射を規定する関数である。また、式(11)に含まれるB(N,V,L,m)は、Beckmann関数である。式(9)では、右辺第1項が拡散反射成分を表し、右辺第2項が鏡面反射成分を表す。
【0097】
【数6】
【0098】
第2三次元反射特性モデルにおいて、第2拡散反射光強度αは、化粧料の製品ごとに設定されるパラメータであって、化粧料の拡散反射光の強度を規定するための第2反射特性パラメータである。ここでは、第2拡散反射光強度α=1として扱う。第2鏡面反射光強度Iは、化粧料の製品ごとに設定されるパラメータであって、化粧料の鏡面反射光の強度を規定するための第2反射特性パラメータである。第2鏡面反射パラメータmは、化粧料の製品ごとに設定されるパラメータであって、化粧料の光沢の広がりを規定するための第2反射特性パラメータである。
【0099】
また、シミュレーションする化粧料として、例えば、ファンデーション及びチークのように複数の化粧料が選択された場合、ステップS6において、第2色信号算出部23eは、各化粧料の第2色信号C(λ)を算出する処理を実行する。
【0100】
このように、第2三次元反射特性モデルを用いて第2色信号C(λ)を算出することで、化粧料の色、及び、照明光によって生じる陰影や光沢を第2色信号C(λ)として再現できる。
【0101】
なお、ステップS6において、第2色信号算出部23eは、アイカラーなどの化粧料に含まれるパール、ラメなどの光輝剤について、光輝剤の三次元反射特性モデルである第3三次元反射特性モデルを用いて、光輝剤の色信号C(λ)を算出することもできる。この場合、光輝剤を含む化粧料のベース部分、すなわち、化粧料における光輝剤以外の部分についての第2色信号C(λ)が第2三次元反射特性モデルによって算出され、光輝剤の色信号C(λ)が第3三次元反射特性モデルによって算出される。
【0102】
図10に示すように、化粧料に含まれる光輝剤60は、複数の薄膜61が積層された多層膜構造を有する。仮想光源52からの光が光輝剤60に照射された際には、仮想視点53において、各薄膜61の厚さdに依存する干渉光が観測される。したがって、このような多層膜による干渉光について、光輝剤の色信号C(λ)を算出することで、虹色のような光輝剤の干渉色を再現できる。なお、光輝剤60における薄膜61の数および厚さdなどの多層膜構造についての情報は、化粧料データベース24cに記憶される。
【0103】
第3三次元反射特性モデルは、光輝剤の分光反射率S、光輝剤の反射特性パラメータ、照明分光分布E(λ)、及び、照明光の幾何条件を用いて、以下の式(12),(13)で表すことができる。なお、第3三次元反射特性モデルでは、光輝剤の鏡面反射成分のみについての色信号C(λ)を算出しており、拡散反射成分は無視している。また、光輝剤は、照明光の幾何条件に依存する分光反射率Sを有する。式(13)に含まれるB(N,V,L,m)は、Beckmann関数である。
【0104】
【数7】
【0105】
光輝剤鏡面反射関数Gは、光輝剤における鏡面反射を規定する関数である。鏡面反射光強度Iは、光輝剤の反射特性パラメータであって、光輝剤ごとの鏡面反射光の強度を規定するパラメータである。鏡面反射パラメータmは、光輝剤の反射特性パラメータであって、光輝剤ごとの光沢の広がりを規定するパラメータである。
【0106】
また、光輝剤の色信号C(λ)を算出する処理は、化粧領域31内で光輝剤が点在する領域において実行される。具体的に、化粧領域31内で光輝剤が点在する領域は、光輝剤の粒形状の大きさなどを規定する形状情報、及び、実際に化粧料が塗布された領域中での光輝剤の分散状態を規定する分散情報に基づいて推定できる。化粧領域31内で光輝剤が点在する領域を推定し、当該領域において光輝剤の色信号C(λ)を算出することで、実際の化粧料に含まれる光輝剤の粒形状、及び、光輝剤の分散状態を再現できる。なお、光輝剤の形状情報及び分散情報は、予め化粧料データベース24cに記憶される。
【0107】
なお、光輝剤の色信号C(λ)を算出する際に、光輝剤の色信号C(λ)における特定の波長におけるスペクトル強度を高める補正を行ってもよい。また、第3三次元反射特性モデルは、光輝剤の配向性を規定する配向パラメータ、各薄膜61の厚さdなどのパラメータを含む構成であってもよい。
【0108】
ステップS7において、第3色信号算出部23fは、第1色信号C(λ)及び第2色信号C(λ)に基づいて第2三次元オブジェクト30bの色信号である第3色信号C(λ)を算出する処理を実行する。なお、化粧領域31のうち複数の化粧料が重畳される領域においては、それぞれの化粧料の第2色信号C(λ)を足し合わせることで、第3色信号C(λ)が算出される。
【0109】
具体例として、第3色信号算出部23fは、化粧領域31のうちファンデーションとチークとが重畳される領域において、第1色信号C(λ)、第2色信号C2f(λ),C2c(λ)、及び、重み係数w~wを用いた以下の式(14)に基づいて第3色信号C(λ)を算出する処理を実行する。第2色信号C2f(λ)は、化粧料の一例であるファンデーションの色信号である。第2色信号C2c(λ)は、化粧料の一例であるチークの色信号である。また、重み係数w~wは、各色信号に対して重み付けをするための係数であり、シミュレーションにおける化粧料の厚みや、化粧料を重ねて塗布する順序などによって適宜決定される。
【0110】
【数8】
【0111】
このように、第1色信号C(λ)及び第2色信号C(λ)に基づいて第3色信号C(λ)を算出することで、化粧状態における塗布対象物の色信号として、化粧料に塗布対象物の色が反映された状態の第3色信号C(λ)を算出できる。
【0112】
複数の化粧料が重畳された状態のシミュレーションを行う場合でも、第1色信号C(λ)及び各化粧料の第2色信号C(λ)に基づいて第3色信号C(λ)を算出することで、最表面の化粧料に塗布対象物の色と下地となる化粧料の色とが反映された色信号を算出できる。
【0113】
なお、ステップS7において、第3色信号算出部23fは、第1色信号C(λ)、第2色信号C(λ)、及び、光輝剤の色信号C(λ)に基づいて、第3色信号C(λ)を算出する処理を実行することもできる。
【0114】
具体例として、第3色信号算出部23fは、化粧領域31のうちファンデーションと光輝剤としてパール及びラメを含むアイカラーとが重畳される領域において、以下の式(15)に基づいて、第3色信号C(λ)を算出する処理を実行する。第2色信号C2e(λ)は、アイカラーのうち光輝剤を除いた部分の色信号である。色信号CGp(λ)は、アイカラーに含まれる光輝剤の一例であるパールの色信号である。色信号CGl(λ)は、アイカラーに含まれる光輝剤の一例であるラメの色信号である。
【0115】
【数9】
【0116】
このように、第1色信号C(λ)、第2色信号C(λ)、及び、光輝剤の色信号C(λ)に基づいて化粧状態の色信号を算出することで、化粧料に含まれる光輝剤の色や光沢が反映された第3色信号C(λ)を算出できる。
【0117】
ステップS8において、第2RGB値算出部23gは、第3色信号算出部23fが算出した第3色信号C(λ)に基づいて、第2三次元オブジェクト30bのRGB値である第2RGB値を算出する処理を実行する。具体的に、第2RGB値算出部23gは、第3色信号C(λ)及びRGB等色関数を用いた以下の式(16)に基づいて第2RGB値を算出する処理を実行する。なお、式(16)における左辺のR,G,Bは、第2RGB値における各要素の値である。
【0118】
【数10】
【0119】
ステップS9において、オブジェクト生成部23aは、第2RGB値算出部23gが算出した第2RGB値に基づいて、第2三次元オブジェクト30bを生成する処理を実行する。さらに、オブジェクト生成部23aは、生成した第2三次元オブジェクト30bのデータをユーザ端末10に送信して、タッチパネル13に表示させる処理を実行する。
【0120】
図11に示すように、タッチパネル13には、アプリ画像40の三次元オブジェクト表示領域41において、第2三次元オブジェクト30bが表示される。第2三次元オブジェクト30bの化粧領域31には、塗布対象物の一例である肌の色や下地となる化粧料の色、及び、照明光による陰影が反映された化粧状態の肌が表示される。また、化粧領域31のうち受光角θが入射角θと近似する領域である光沢領域32では、鏡面反射による光沢が再現された状態が表示される。以上の処理により、化粧シミュレーションが完了する。
【0121】
なお、第2三次元オブジェクト30bが表示された状態で、別の化粧料を選択することで、再度ステップS3~S8の処理を実行し、別の化粧料が適用された第2三次元オブジェクト30bを生成、表示させることもできる。この際、例えば、一度算出した第1色信号C(λ)をメモリ24のメインメモリに記憶させることで、ステップS3,S4の処理を省略してもよい。このように、様々な化粧料を繰り返しシミュレーションすることで、自身の希望に合う化粧料を探すこともできる。
【0122】
第1色信号C(λ)及び第2色信号C(λ)を照明環境ごとの照明分光分布E(λ)及び照明光源の空間分布に基づいて算出することで、シミュレーション結果としての第2三次元オブジェクト30bにも照明環境が反映される。したがって、実際の様々な照明環境の照明効果を反映した化粧シミュレーションを行うことができる。また、実際の照明環境における分光分布の実測値から算出される照明分光分布E(λ)を用いることで、様々な照明環境を容易に再現できる。
【0123】
ステップS2~S8の処理をサーバ20が備えるGPU23が実行することで、ステップS2~S8の処理を高速で行うことができ、リアルタイムでの化粧シミュレーションが可能となる。
【0124】
また、例えば、化粧シミュレーションシステム1を用いて、ユーザ2に対して各種化粧料のシミュレーションを行うことで、ユーザ2の要望に合わせた最適な化粧料を提案するためのカウンセリングを行うこともできる。
【0125】
〔第1実施形態の効果〕
上記第1実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1-1)第1三次元反射特性モデルを用いて第1色信号C(λ)を算出し、第2三次元反射特性モデルを用いて第2色信号C(λ)を算出することで、化粧状態における塗布対象物の色信号として、化粧料に塗布対象物の色が反映された第3色信号C(λ)を算出できる。そして、第3色信号C(λ)から第2RGB値を算出することで、化粧状態の塗布対象物を含む第2三次元オブジェクト30bを生成できる。これにより、シミュレーション結果として、化粧料に塗布対象物の色が反映された化粧状態の第2三次元オブジェクト30bを得ることができる。したがって、単に塗布対象物の領域に化粧料の色を重畳する場合よりも、再現精度の高い化粧シミュレーションを行うことができる。また、照明光による光沢を再現できるため、第2三次元オブジェクト30bにおいて、塗布対象物に化粧料を塗布した状態の質感を再現できる。
【0126】
(1-2)塗布対象物としての肌や唇の色に応じた第1変換関数Mに基づいて第1分光反射率S(λ)を算出することで、より実際の肌や唇における分光反射率に近い第1分光反射率S(λ)を算出できる。
【0127】
(1-3)第1分光反射率S(λ)と、塗布対象物の色に応じた第2変換関数T(λ)とに基づいて第2分光反射率S(λ)を算出することで、実際に化粧料が塗布対象物に塗布されて塗布対象物になじんだ状態での化粧料の分光反射率により近い第2分光反射率S(λ)を算出できる。
【0128】
(1-4)化粧料の製品ごとの第2分光反射率S(λ)及び第2反射特性パラメータを用いて第2色信号C(λ)を算出することで、シミュレーション結果として、化粧料の製品ごとの色及び反射特性が反映された第2三次元オブジェクト30bを生成できる。
【0129】
(1-5)第3三次元反射特性モデルを用いることで、化粧料に含まれる光輝剤の色信号C(λ)を算出できる。そして、第1色信号C(λ)、第2色信号C(λ)、及び、光輝剤の色信号C(λ)に基づいて算出される第3色信号C(λ)から第2RGB値を算出することで、化粧状態における光輝剤の光沢が再現された第2三次元オブジェクト30bを生成できる。また、形状情報及び分散情報から推定される光輝剤が点在する領域において、光輝剤の色信号C(λ)を算出することで、実際の化粧料に含まれる光輝剤の粒形状及び光輝剤の分散状態を再現できる。
【0130】
(1-6)第1色信号C(λ)及び第2色信号C(λ)を照明環境ごとの照明分光分布E(λ)及び照明光源の空間分布に基づいて算出することで、シミュレーション結果としての第2三次元オブジェクト30bにも照明環境が反映される。したがって、照明環境を反映した再現精度の高い化粧シミュレーションを行うことができる。
【0131】
(1-7)GPU23を用いて化粧シミュレーションシステム1におけるステップS2~S8の処理を実行することで、リアルタイムでの画像処理が可能となり、より好適に化粧シミュレーションを行うことができる。
【0132】
(1-8)化粧シミュレーションシステム1を用いて、ユーザ2に対して各種化粧料のシミュレーションを行うことで、ユーザ2の要望に合わせた最適な化粧料を提案するためのカウンセリングを行うこともできる。
【0133】
〔第2実施形態〕
上記第1実施形態では、分光反射率ベースの計算処理で算出された第1色信号C(λ)及び第2色信号C(λ)に基づいて第3色信号C(λ)を算出し、さらに、第3色信号C(λ)に基づいて第2RGB値を算出する処理を実行する例について説明した。上述の処理に代えて、RGB値ベースの計算処理を実行することで第2RGB値を求めることもできる。第2実施形態として、RGB値ベースの計算処理を実行する場合の作用について以下に説明する。
【0134】
なお、第2RGB値を求めるためのRGB値ベースの計算処理は、化粧領域31のうち高い再現精度が必要とされない領域において実行される。すなわち、高い再現精度が必要とされる領域では、上記第1実施形態に記載される分光反射率ベースの計算処理によって第2RGB値が算出される。また、第2実施形態において、第2RGB値を求めるためのRGB値ベースの計算処理は、図7に示すステップS2以降の処理として第2RGB値算出部23gによって実行される。
【0135】
まず、第2RGB値算出部23gは、第1RGB値、第1拡散反射関数D、第1鏡面反射関数G、及び、照明光のRGB値に基づいて、第3RGB値を算出する処理を実行する。第3RGB値は、塗布対象物に対して照明光が照射されることで陰影、光沢などの照明効果が反映された状態における塗布対象物のRGB値である。第3RGB値R,G,Bは、以下の式(17)で表すことができる。また、照明光のRGB値R,G,Bは、照明分光分布E(λ)及びRGB等色関数を用いて、以下の式(18)で表すことができる。なお、照明光のRGB値は、照明環境ごとに照明環境データベース24bに記憶される。
【0136】
【数11】
【0137】
次いで、第2RGB値算出部23gは、第1RGB値及び化粧料変換係数に基づいて、第4RGB値を算出する処理を実行する。第4RGB値は、化粧料が塗布対象物に塗布されて塗布対象物になじんだ状態での化粧料のRGB値である。すなわち、第4RGB値には、ステップS2で選択された照明環境における照明光による陰影、光沢などの照明効果は反映されていない。また、化粧料変換係数は、第2変換関数T(λ)に基づいて算出される係数であって、第1RGB値を第4RGB値に変換するための係数である。化粧料変換係数は、化粧料ごとに予め化粧料データベース24cに記憶される。第4RGB値R,G,Bは、以下の式(19)で表すことができる。また、化粧料変換係数RT,T,は、第2変換関数T(λ)及びRGB等色関数を用いて、以下の式(20)で表すことができる。
【0138】
【数12】
【0139】
次いで、第2RGB値算出部23gは、第4RGB値、第2拡散反射関数D、第2鏡面反射関数G、及び、照明光のRGB値に基づいて、第5RGB値を算出する処理を実行する。第5RGB値は、化粧料に対して照明光が照射されることで陰影、光沢などの照明効果が反映された化粧料のRGB値である。第5RGB値R,G,Bは、以下の式(21)で表すことができる。
【0140】
【数13】
【0141】
そして、第2RGB値算出部23gは、第3RGB値、第5RGB値、及び、重み係数wに基づいて、第2RGB値を算出する処理を実行する。具体例として、化粧領域31のうち、ファンデーションとチークとが重畳される領域において、第2RGB値算出部23gは、以下の式(22)に基づいて第2RGB値を算出する処理を実行する。R5f,G5f,B5fは、ファンデーションの第5RGB値である。R5c,G5c,B5cは、チークの第5RGB値である。
【0142】
【数14】
【0143】
なお、化粧料に含まれる光輝剤は、RGB値ベースでの計算処理が困難である。そのため、光輝剤における干渉色が再現された第6RGB値は、上記の式(12)を用いて分光反射率ベースで光輝剤の色信号C(λ)を算出した後、光輝剤の色信号C(λ)及びRGB等色関数から算出される。また、第6RGB値を算出する処理は、第2RGB値算出部23gによって実行される。第6RGB値R,G,Bは、以下の式(23)で表すことができる。
【0144】
【数15】
【0145】
そして、第2RGB値算出部23gは、第3RGB値、第5RGB値、第6RGB値、及び、重み係数wに基づいて、光輝剤を含む化粧料が塗布された状態の第2RGB値を算出する処理を実行することもできる。具体例として、第2RGB値算出部23gは、化粧領域31のうち、ファンデーションと光輝剤としてパール及びラメを含むアイカラーとが重畳される領域において、以下の式(24)に基づいて第2RGB値R,G,Bを算出する処理を実行する。R5e,G5e,B5eは、アイカラーのうち光輝剤を除いた部分の第5RGB値である。R6p,G6p,B6pは、アイカラーに含まれる光輝剤の一例であるパールの第6RGB値である。R6l,G6l,B6lは、アイカラーに含まれる光輝剤の一例であるラメの第6RGB値である。
【0146】
【数16】
【0147】
以上のようにしてRGB値ベースの計算処理によって算出された第2RGB値は、図7に示すステップS9において、オブジェクト生成部23aが第2三次元オブジェクト30bを生成する処理を実行するために用いられる。
【0148】
RGB値ベースの計算処理によって第2RGB値を算出する場合、赤、緑、青の三色についての3次元の計算処理が行われる。これに対して、第1実施形態のように分光反射率から算出した色信号に基づいて第2RGB値を算出する場合、400nm~700nmの可視光領域を5nmごとに区分した61次元の計算処理が行われる。
【0149】
すなわち、RGB値ベースの計算処理によって第2RGB値を算出することで、分光反射率から算出した色信号に基づいて第2RGB値を算出する処理よりも化粧シミュレーションにおける計算処理を簡略化できる。したがって、化粧領域31のうち高い再現精度が必要とされない領域においてRGB値ベースの計算処理を行うことで、化粧シミュレーションの再現精度を大きく低下させずに計算処理を簡略化できる。
【0150】
〔第2実施形態の効果〕
上記第2実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(2-1)RGB値ベースの計算処理によって第2RGB値を算出することで、分光反射率から算出した色信号に基づいて第2RGB値を算出する処理よりも化粧シミュレーションにおける計算処理を簡略化できる。したがって、化粧領域31のうち高い再現精度が必要とされない領域においてRGB値ベースの計算処理を行うことで、化粧シミュレーションの再現精度を大きく低下させずに計算処理を簡略化できる。
【0151】
なお、上記第2実施形態は、さらに、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・RGB値ベースの計算処理を用いて算出された第3RGB値及び第5RGB値に基づいて第2RGB値を算出する構成を例示した。しかし、これに限定されず、第3RGB値及び第5RGB値の何れかを分光ベースの計算によって求めてもよい。具体的に、第3RGB値に代えて、第1色信号C(λ)をRGB等色関数によってRGB値に変換した値を用いてもよい。また、第5RGB値に代えて、第2色信号C(λ)をRGB等色関数によってRGB値に変換した値を用いてもよい。このような構成によれば、精度を必要としない任意の計算処理のみをRGB値ベースで計算することができるため、より好適に化粧シミュレーションの計算処理を簡略化できる。
【0152】
なお、上記第1実施形態及び第2実施形態は、さらに、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・上記第1及び第2実施形態では、化粧シミュレーションが行われる対象が顔であり、化粧料が塗布される塗布対象物が顔における肌または唇である構成を例示した。しかし、これに限定されず、本化粧シミュレーションシステム1は、顔以外であっても、化粧料が塗布される領域であれば適用可能である。化粧料が塗布される塗布対象物は、例えば、髪の毛であってもよい。その場合、塗布される化粧料は、例えば、ヘアマニキュアである。また、化粧料が塗布される塗布対象物は、例えば、爪であってもよい。その場合、塗布される化粧料は、例えば、マニキュアである。
【0153】
・GPU23を用いて化粧シミュレーションシステム1におけるステップS2~S8の処理を実行する構成を例示したが、これに限定されず、例えば、サーバ20にGPU23を設けずに、CPU22によってステップS2~S8の処理を実行してもよい。この場合、サーバ20におけるステップS2~S8の処理速度が低下するものの、GPU23を設けないことも可能となる。また、例えば、CPU22の性能に応じて、ステップS2~S8の処理のうち、何れかの処理をCPU22が実行してもよい。
【0154】
・第1色信号C(λ)及び第2色信号C(λ)を照明環境ごとの照明分光分布E(λ)及び照明光源の空間分布に基づいて算出する構成を例示した。しかし、これに限定されず、例えば、1種類の照明分光分布E(λ)及び照明光源の空間分布のみを用いて第1色信号C(λ)及び第2色信号C(λ)を算出する構成であってもよい。この場合、照明環境ごとの化粧シミュレーションを行うことができなくなるものの、照明環境を選択する手順などが不要となるため、第1色信号C(λ)及び第2色信号C(λ)を算出する処理が簡略化される。また、例えば、照明分光分布E(λ)として、400~700nmの可視光領域において一様な強度を有する分光分布を用いれば、第1~第3三次元反射特性モデルにおいて、照明分光分布E(λ)についての計算を省略できる。
【0155】
・ステップS5において、第1分光反射率S(λ)と、塗布対象物の色に応じた第2変換関数T(λ)とに基づいて第2分光反射率S(λ)を算出する構成を例示した。しかし、これに限定されず、分光光度計などの計測機を用いて化粧料の分光反射率を実測し、化粧料における分光反射率の実測値を第2分光反射率S(λ)として用いてもよい。この場合、第1分光反射率S(λ)と第2変換関数T(λ)とに基づいて第2分光反射率S(λ)を算出する場合よりも第2色信号Cの再現精度が若干低下するものの、様々な化粧料についての化粧シミュレーションを容易に行うことができる。例えば、新たな化粧料が開発された際には、新たな化粧料の第2分光反射率及び第2反射特性パラメータを実測することで、本化粧シミュレーションシステム1における化粧シミュレーションを行うことができる。なお、この場合、ステップS5の処理は省略される。
【0156】
・塗布対象物の色に応じた第1変換関数Mに基づいて第1分光反射率S(λ)を算出する構成を例示した。しかし、これに限定されず、例えば、塗布対象物の色によらず、肌や唇など塗布対象物ごとに設定される汎用的な第1変換関数Mに基づいて第1分光反射率S(λ)を算出してもよい。この場合、シミュレーション結果としての第2三次元オブジェクト30bと、実際の化粧後の外観との差異が若干大きくなるものの、第1三次元オブジェクト30aを構成する第1RGB値に応じて第1変換関数Mを決定する処理、または、ユーザ2が色見本から塗布対象物に近い色を選択する手順が不要となる。したがって、第1RGB値から第1分光反射率S(λ)を算出する処理を簡略化できる。
【0157】
・ユーザ端末10が備える撮像部14を用いてユーザ2の顔画像を取得する構成を例示したが、これに限定されず、例えば、デジタルカメラなどの外部装置で取得した顔画像を用いて第1三次元オブジェクト30aを生成してもよい。
【0158】
・オブジェクト生成部23aが未化粧状態でのユーザ2の顔画像から第1三次元オブジェクト30aを生成する処理を実行する構成を例示した。しかし、これに限定されず、例えば、他のソフトウェアで生成された未化粧状態における顔の三次元オブジェクトをインポートして、第1三次元オブジェクト30aとして用いてもよい。この場合、インポートされた三次元オブジェクトを構成するRGB値が第1RGB値となる。
【0159】
・本実施形態では、サーバ20が備えるGPU23を用いて化粧シミュレーションシステム1におけるステップS2~S8の処理を実行する構成を例示した。しかし、これに限定されず、例えば、ユーザ端末10の制御部11にGPUを設け、ユーザ端末10に化粧シミュレーションプログラムをインストールして、ユーザ端末10が備えるGPUによってステップS2~S8の処理を実行してもよい。
【0160】
・化粧シミュレーションシステム1は、例えば、三次元オブジェクト表示プログラムを用いて、シミュレーション結果としての第2三次元オブジェクト30bに適用された化粧料を購入する処理を実行可能な構成であってもよい。この場合、サーバ20には、決済処理を実行する決済部が設けられる。これにより、例えば、化粧シミュレーションシステム1において自身の希望に合う化粧料を探した後、当該化粧料を購入できる。
【符号の説明】
【0161】
1…化粧シミュレーションシステム
10…ユーザ端末
11…制御部
12…メモリ
13…タッチパネル
14…撮像部
20…サーバ
21…制御部
23…GPU
23a…オブジェクト生成部
23b…第1分光反射率算出部
23c…第1色信号算出部
23d…第2分光反射率算出部
23e…第2色信号算出部
23f…第3色信号算出部
23g…第2RGB値算出部
24…メモリ
24a…分光変換データベース
24b…照明環境データベース
24c…化粧料データベース
30…三次元オブジェクト
30a…第1三次元オブジェクト
30b…第2三次元オブジェクト
31…化粧領域
32…光沢領域
40…アプリ画像
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11