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特許7606912スペーサ、スペーサ付きデッキプレート及び合成スラブ構造
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】スペーサ、スペーサ付きデッキプレート及び合成スラブ構造
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/18 20060101AFI20241219BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20241219BHJP
   E04B 5/40 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
E04C5/18 104
E04G21/12 105D
E04B5/40 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021062136
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022157736
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】加藤 鐘悟
(72)【発明者】
【氏名】神谷 洋介
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】実開昭52-145024(JP,U)
【文献】実開昭58-186019(JP,U)
【文献】特開2014-070336(JP,A)
【文献】特開平08-144413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/18-5/20
E04B 5/40
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜部を介して互いに連続する複数の山頂部と谷底部が連なって波形状をなすデッキプレートにおいて前記傾斜部、前記山頂部、及び前記谷底部のそれぞれが延在する長手方向に配される鉄筋を持するスペーサであって、
前記鉄筋を収容して支持する溝部が形成された支持部と、
前記溝部の延在方向に交差する短手方向において互いに対向する前記支持部の一対の縁部から、前記支持部に対して所定の角度をなして前記短手方向において互いに離れるようにして前記支持部から延びる一対の脚部と、
を備え、
前記一対の脚部それぞれ前記支持部とは反対の側には、前記短手方向において互いに異なる側に突出する係合突部が形成されており
前記溝部の延在方向における一方の端部には、前記延在方向における他方に向かって前記溝部の途中の位置まで延びる、前記鉄筋を嵌め込み可能な切欠き部が形成されており、
1対の前記係合突部のそれぞれは、前記延在方向における前記他方の側に形成されていて、前記谷底部と前記傾斜部との間の移行部に形成された凹部に係合可能であり、
前記スペーサは、前記鉄筋が前記切欠き部に嵌め込まれた状態で、前記凹部に係合した1対の前記係合突部を回動の起点として前記長手方向に沿って、前記支持部が前記谷底部に対して交差している倒れ状態から前記支持部が前記谷底部に対して平行又は略平行でありかつ前記山頂部を越えた位置にある起立状態へと回動である
ことを特徴とするスペーサ。
【請求項2】
前記支持部は、記切欠き部の位置で前記延在方向に沿って他方から一方に向かって互いに接近するようにびる一対の羽根部を有する
ことを特徴とする請求項に記載のスペーサ。
【請求項3】
前記一対の羽根部は、前記延在方向に沿って、前記支持部における前記一方の端部から前記他方の端部に向かって互いに離れるように傾斜して形成されていることを特徴とする請求項に記載のスペーサ。
【請求項4】
前記一対の脚部が互いに接近及び離反するように弾性変形自在に形成されていることを特徴とする請求項1からまでのいずれか一項に記載のスペーサ。
【請求項5】
前記支持部とは異なる位置で前記一対の脚部を連結する連結部を備えることを特徴とする請求項1からまでのいずれか一項に記載のスペーサ。
【請求項6】
前記一対の脚部は、前記支持部と前記係合突部との間にあり、前記一対の脚部のそれぞれの前記係合突部が突出する方向において互いに異なる側に突出する腕部を有し、
1対の前記腕部のそれぞれは、1対の前記係合突部のそれぞれが前記移行部に形成された前記凹部に係合した際に、前記移行部に接するとを特徴とする請求項1からまでのいずれか一項に記載のスペーサ。
【請求項7】
前記一対の脚部のそれぞれは、前記支持部前記係合突部の間にあり前記脚部の一部が前記係合突部が突出する側とは反対側に凹んで形成された凹部を有することを特徴とする請求項1からまでのいずれか一項に記載のスペーサ。
【請求項8】
傾斜部を介して互いに連続する複数の山頂部と谷底部が連なった波形状をなすデッキプレートと、
前記傾斜部の間で前記谷底部から離間した位置において、前記傾斜部、前記山頂部、及び前記谷底部のそれぞれが延在する長手方向に配される鉄筋を支持するスペーサと、
を備え、
前記スペーサは、
前記鉄筋を収容して支持する溝部が形成された支持部と、
前記溝部の延在方向に交差する短手方向における前記支持部の両端部から前記支持部に対して所定の角度をなして前記短手方向において互いに離れるようにして前記支持部から延びる一対の脚部と、
を有し、
前記一対の脚部それぞれ前記支持部とは反対側には、前記短手方向において互いに異なる側に突出する係合突部が形成されており、
前記溝部の延在方向における一方の端部には、前記延在方向における他方に向かって前記溝部の途中の位置まで延びる、前記鉄筋を嵌め込み可能な切欠き部が形成されており、
1対の前記係合突部のそれぞれは、前記延在方向における前記他方の側に形成されていて、前記谷底部と前記傾斜部との間の移行部に形成された凹部に係合しており、
前記スペーサは、前記鉄筋が前記切欠き部に嵌め込まれた状態で、前記凹部に係合した1対の前記係合突部を回動の起点として前記長手方向に沿って、前記支持部が前記谷底部に対して交差している倒れ状態から前記支持部が前記谷底部に対して平行又は略平行でありかつ前記山頂部を越えた位置にある起立状態へと回動である
ことを特徴とするスペーサ付きデッキプレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペーサ、スペーサ付きデッキプレート及び合成スラブ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成スラブ構造に使用される、山頂部、谷底部及びこれらを繋ぐ傾斜部を有し、長手方向に交差した断面が波形状であるデッキプレート上において鉄筋を支持する配筋用のスペーサが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記のスペーサは、2つの支持脚部と2つの載置部とを有する2組のゲート状の構成を組み合わせて構成されており、各ゲートそれぞれにおいてワイヤメッシュ等の荷重を支持するとともに、全体としては荷重を4つの支持脚部に分散している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-060047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、合成スラブを施工する場合、まず、デッキプレートを施工現場に搬入し、梁と梁との間に敷き込んで接合し、小口を塞ぐ。その後、デッキプレートに対して配筋工事を実施する。配筋工事において、配筋用スペーサは、山頂部を跨ぐようにしてデッキプレートにおける山頂部と山頂部との間で谷底部に脚部が載置されるように配置される。
【0006】
複数の配筋用スペーサを、デッキプレート上に等間隔に配置した後に、各配筋用スペーサ上に丸鋼又は異形棒鋼により形成された網目状のワイヤメッシュを敷設する。その後、コンクリートを打設し、養生することでデッキプレート上にコンクリート層が形成される。これにより、合成スラブ構造が完成する。
【0007】
従来の配筋用スペーサは、デッキプレートの敷設後に施工現場で配設していく必要があり、配筋用スペーサを施工現場で配設する作業負担を軽減したいという要望があった。この場合、デッキプレートを出荷する際に工場において配筋用スペーサをデッキプレートに固定することも考えられるが、輸送時にデッキプレート同士を重ねた際に重ね代が嵩張り輸送効率が低下することがある。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、輸送時のデッキプレートの重ね代を抑制することができるとともに、配筋作業の手間を減じることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係るスペーサは、傾斜部を介して互いに連続する複数の山頂部と谷底部が連なって波形状をなすデッキプレートにおいて長手方向に配される鉄筋を、前記谷底部において前記山頂部を越えた位置で支持するスペーサであって、前記鉄筋を支持する支持部と、前記支持部の互いに対向する一対の縁部から前記支持部に対して所定の角度をなして互いに同じ方向に延びる一対の脚部と、を備え、前記一対の脚部はそれぞれ、前記支持部とは反対の側で各前記脚部が向く互いに異なる側に突出していて、前記谷底部と前記傾斜部との間の移行部に係合して前記長手方向における回動を可能にする係合突部を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係るスペーサにおいて、前記支持部は、前記鉄筋を収容する溝部を有していてもよい。
【0011】
本発明の一態様に係るスペーサにおいて、前記支持部は、前記溝部の延在方向における一方の端部に、他方の端部に向かって延びる切欠き部が形成されており、前記切欠き部の位置で互いに接近するように、前記脚部の前記他方の端部とは反対の側に延びる一対の羽根部を有していてもよい。
【0012】
本発明の一態様に係るスペーサにおいて、前記一対の羽根部は、前記延在方向に沿って、前記支持部における前記一方の端部から前記他方の端部に向かって互いに離れるように傾斜して形成されていてもよい。
【0013】
本発明の一態様に係るスペーサにおいて、前記一対の脚部が互いに接近及び離反するように弾性変形自在に形成されていてもよい。
【0014】
本発明の一態様に係るスペーサにおいて、前記支持部とは異なる位置で前記一対の脚部を連結する連結部を備えていてもよい。
【0015】
本発明の一態様に係るスペーサにおいて、前記一対の脚部は、前記支持部と前記係合突部との間においてそれぞれが向く側に突出して、前記移行部にそれぞれ当接する腕部を有していてもよい。
【0016】
本発明の一態様に係るスペーサにおいて、前記一対の脚部は、前記支持部の側と前記係合突部の側との間を延在する、互いに向かい合う側に凹に形成された凹部を有していてもよい。
【0017】
さらに、上記課題を解決するための本発明に係るスペーサ付きデッキプレートは、傾斜部を介して互いに連続する複数の山頂部と谷底部が連なった波形状をなすデッキプレートと、前記傾斜部の間で前記谷底部から離間した位置において前記デッキプレートの長手方向に配される鉄筋を支持するスペーサと、を備え、前記スペーサは、前記鉄筋を支持する支持部と、前記鉄筋を支持する支持方向に延びる前記支持部の両端部から前記支持部に対して角度をなして互いに同じ方向に延びる一対の脚部と、を有し、前記一対の脚部はそれぞれ、前記支持部とは反対側の他方の端部で各前記脚部が向く互いに異なる側に突出していて、前記谷底部と前記傾斜部との間の移行部に係合して前記長手方向における回動を可能にする係合突部を有することを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様に係るスペーサ付きデッキプレートにおいて、前記スペーサは、前記支持部が前記谷底部とは反対の側に前記山頂部を越えている第1回動位置と、前記支持部が前記山頂部に対して前記谷底部の側に位置している第2回動位置と、の間を回動自在であってもよい。
【0019】
本発明の一態様に係るスペーサ付きデッキプレートにおいて、前記支持部に前記鉄筋が支持されていてもよい。
【0020】
さらに、上記課題を解決するための本発明に係る合成スラブ構造は、傾斜部を介して互いに連続する複数の山頂部と谷底部が連なった波形状をなすデッキプレートと、前記デッキプレートの長手方向に配されている鉄筋と、前記傾斜部の間で前記山頂部を越えた位置において前記鉄筋を支持しているスペーサと、を備え、前記スペーサは、前記鉄筋を支持する支持部と、前記鉄筋を支持する支持方向に延びる前記支持部の両端部から前記支持部に対して角度をなして互いに同じ方向に延びる一対の脚部と、を有し、前記一対の脚部はそれぞれ、前記支持部とは反対側の他方の端部で各前記脚部が向く互いに異なる側に突出していて、前記谷底部と前記傾斜部との間の移行部に係合して前記長手方向における回動を可能にする係合突部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、輸送時のデッキプレートの重ね代を抑制することができるとともに、配筋作業の手間を減じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1A】本実施の形態に係るスペーサ付きデッキプレートを用いた合成スラブ構造を示す図である。
図1B】コンクリート部を部分的に除いて合成スラブ構造を示す斜視図である。
図2】デッキプレートの構成を説明するための図である。
図3A】本実施の形態に係るスペーサを上方から見た斜視図である。
図3B】本実施の形態に係るスペーサを下方から見た斜視図である。
図3C】本実施の形態に係るスペーサの平面図である。
図3D】本実施の形態に係るスペーサの正面図である。
図3E】本実施の形態に係るスペーサの側面図である。
図4】スペーサの支持部における羽根部の領域を拡大した拡大図である。
図5A】スペーサをデッキプレートに設置する工程を示す図である。
図5B】スペーサの倒れ状態を示す図である。
図5C】スペーサに鉄筋を取り付ける工程を示す図である。
図6A】スペーサが倒れ状態においてデッキプレートに設置された状態を示す図である。
図6B】スペーサを起立状態にする動作を示す図である。
図6C】スペーサを起立状態Sにした状態を示す図である。
図7】輸送時にスペーサ付きデッキプレートを重ねた状態を示す図である。
図8】変形例に係るスペーサの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
本実施の形態に係るスペーサ付きデッキプレート1は、図1A及び図1Bに示すように、例えば、鉄筋コンクリート構造物の天井又は床用の合成スラブ構造200に用いられるものである。例えば、本実施の形態に係るスペーサ10は、図示のデッキプレート100に適用される。
【0025】
図1Aは、本実施の形態に係るスペーサ付きデッキプレート1を用いた合成スラブ構造200を示す図である。図1Bは、コンクリート部70を部分的に除いて合成スラブ構造200を示す斜視図である。以下において、デッキプレート100が梁と梁とに架け渡される方向を、デッキプレート100の長手方向Lとし、長手方向Lに交差してデッキプレート100が延びる方向を短手方向Wとする。デッキプレート100は、それぞれ長手方向Lに延在する山頂部110及び谷底部120が傾斜部130を介して互いに短手方向Wに連続して波形状をなしている。
【0026】
スペーサ付きデッキプレート1を用いた合成スラブ構造200は、デッキプレート100と、スペーサ10と、鉄筋30と、溶接金網50と、コンクリート部70と、を備える。デッキプレート100は、構造物において互いに対向して配置された、例えば、H型鋼からなる梁と梁との間に架け渡される。
【0027】
図2は、デッキプレート100の構成を説明するための図である。デッキプレート100は、亜鉛メッキ等の表面処理が施された薄板状の鋼板をロールフォーミング等することによって形成した波型鋼板である。デッキプレート100は、山頂部110と、谷底部120と、傾斜部130と、を有する。
【0028】
デッキプレート100のプレート単体では、2つの山頂部110と、1つの谷底部120と、2組の一対の傾斜部130とからなり、短手方向Wに沿った断面において波型形状に形成されている。デッキプレート100は、長手方向Lの両端部においてエンドクローズ加工が施されていてもよい。
【0029】
山頂部110は、梁と梁との間に架け渡された状態において、梁に対して上側に位置する平坦に形成された部分であり、長手方向Lに延在する板状の部分である。山頂部110は、溝111を有する。溝111は、谷底部120の側に凹に形成されている。溝111は、長手方向Lに延在し、溝111が1つの場合には短手方向Wにおいて真ん中又は略真ん中に設けられている。
【0030】
山頂部110における溝111により、山頂部110の強度が向上する。溝111は、山頂部110に1つ形成されている場合に限らず、複数形成されていてもよい。なお、溝111は、形成されていなくてもよい。
【0031】
谷底部120は、山頂部110に対して平行又は略平行であり、梁と梁との間に架け渡された状態において、山頂部110に対して梁に載置される平坦に形成された部分である。谷底部120は、長手方向Lに延在する板状の部分である。谷底部120は、短手方向Wにおいて山頂部110とは重ならない。
【0032】
傾斜部130は、山頂部110と谷底部120とを連結する部分であり、長手方向Lに延在する板状の部分である。傾斜部130は、短手方向Wにおいて山頂部110の両端部の側から斜めに谷底部120に向かって斜めに延びている。傾斜部130は、山頂部110及び谷底部120に対して所定の角度、例えば、鈍角を形成するように傾斜している。
【0033】
谷底部120と傾斜部130との間の移行部140には膨出部141が形成されている。膨出部141は、一対の傾斜部130において互いに反対の側に突出した部分である。膨出部141と谷底部120との間に、後述するスペーサ10が係合する係合凹部142が形成されている。短手方向Wに沿った係合凹部142の短手方向Wに沿った断面は湾曲している。後述するスペーサ10は、係合凹部142において膨出部141による凹みに係合する。
【0034】
図3Aは、本実施の形態に係るスペーサ10を上方から見た斜視図である。図3Bは、本実施の形態に係るスペーサ10を下方から見た斜視図である。図3Cは、本実施の形態に係るスペーサ10の平面図である。図3Dは、本実施の形態に係るスペーサ10の正面図である。図3Eは、本実施の形態に係るスペーサ10の側面図である。本実施の形態に係るスペーサ10は、傾斜部130を介して互いに連続する複数の山頂部110と谷底部120が連なって波形状をなすデッキプレート100において長手方向Lに配される鉄筋30を、谷底部120において山頂部110を越えた位置で支持するスペーサ10であって、鉄筋30を支持する支持部11と、支持部11の互いに対向する一対の縁部11cから支持部11に対して角度をなして互いに同じ方向に延びる一対の脚部21と、を備え、一対の脚部21はそれぞれ、支持部11とは反対の側で各脚部21が向く互いに異なる側に突出していて、谷底部120と傾斜部130との間の移行部140に係合して長手方向Lにおける回動を可能にする係合突部23を有することを特徴とする。以下、スペーサ10の構成について具体的に説明する。
【0035】
以下の説明において、「スペーサ10の起立状態S」とは、デッキプレート100にスペーサ10が設置された状態(以下、「設置状態」ともいう)において、支持部11が谷底部120に対して平行又は略平行な状態でありかつ山頂部110を越えた位置にある状態をいう(例えば、図1等)。また、「スペーサ10の倒れ状態D」とは、デッキプレート100におけるスペーサ10の設置状態において、支持部11が谷底部120に対して交差している状態をいう(例えば、図5A等)。
【0036】
スペーサ10は、長手方向Lに谷底部120において所定の間隔をあけて複数設けられていて、谷底部120に設置された起立状態Sにおいて、デッキプレート100の長手方向Lに沿って配される鉄筋30を、山頂部110を越えて谷底部120から所定の高さだけ離間した位置で支持する。支持部11は、長手方向Lに沿って鉄筋30を谷底部120の側から支持する。
【0037】
スペーサ10は、例えば、鋼板により形成されている。スペーサ10は、支持部11と、一対の脚部21と、を備える。スペーサ10は、支持部11及び一対の脚部21が連続して、つまり一体に形成された部材である。なお、支持部11において鉄筋30を支持する方向は、デッキプレート100の長手方向Lに一致する(以下、「支持方向L」ともいう)。
【0038】
支持部11は、例えば、平面視において矩形又は略矩形に形成されている。支持部11は、溝部12を有する。溝部12は、起立状態Sにおいて、谷底部120に向かって円弧状に凹に形成されており、デッキプレート100の長手方向Lに沿って延びている。溝部12は、デッキプレート100の短手方向Wにおいて真ん中又は略真ん中に位置する。
【0039】
溝部12は、その延在方向に沿って鉄筋30を収容する。つまり、鉄筋30は、溝部12において部分的に収容される。支持部11は、切欠き部13を有する。切欠き部13は、溝部12において支持方向Lにおける支持部11の一方の端部11aに、他方の端部11bに向かって延びるように形成されている。切欠き部13の他方の端部11b側の縁13aは、他方の端部11bに向かって円弧状に形成されている。
【0040】
さらに支持部11は、一対の羽根部15を有する。羽根部15はそれぞれ、溝部12の延在方向に沿って延びる溝部12の互いに対向する縁部に設けられている。一対の羽根部15は、切欠き部13の位置で互いに接近するように延びる。一対の羽根部15は、支持部11又は脚部21とは反対の側に、起立状態Sにおいて上方に延びている。
【0041】
図4は、スペーサ10の支持部11における羽根部15の領域を拡大した拡大図である。一対の羽根部15は、支持方向Lに沿って、支持部11における一方の端部11aから他方の端部11bに向かって互いに離れるように傾斜して形成されている。一方の端部11aの側における一対の羽根部15の間隔d1は、他方の端部11bの側における一対の羽根部15の間隔d2よりも小さくなっている(d1<d2)。一対の羽根部15は、間隔d1の位置から間隔d2の位置に向かって連続的に広がっていく。なお、間隔d1は、支持する鉄筋30の直径よりも小さく設計されていて、間隔d2は、鉄筋30の直径と同じ又は直径より大きく設計されている。
【0042】
一対の脚部21は、支持部11の互いに対向する縁部のうち、支持方向Lに沿って延びる縁部から支持部11に対して所定の角度をなして互いに同じ方向に延びる。具体的に、一対の脚部21は、支持部11に対して鈍角をなして延びている。つまり、一対の脚部21は、互いに離れるようにして支持部11から延びている。一対の脚部21は、側面視において矩形又は略矩形に形成されている(例えば、図3E参照)。
【0043】
一対の脚部21は、同一の鋼板により連続して形成されているので、互いに接近及び離反するように弾性変形自在である。一対の脚部21はそれぞれ、支持部11とは反対の側に係合縁部22を有する。
【0044】
係合縁部22はそれぞれ、互いの脚部21から互いに離れる方向に延出している。係合縁部22は、短手方向Wに支持部11に対して平行又は略平行に延びている。係合縁部22は、設置状態において、谷底部120に接触している。係合縁部22の支持方向Lに沿って延在する縁部は、支持方向Lに沿って支持部11の一方の端部11aから、他方の端部11bに向かうに連れて各脚部21に接近するように斜めに延在する。
【0045】
各係合縁部22はそれぞれ、一方の端部11aの側に互いに異なる側に突出する係合突部23を有する。係合突部23は、支持方向Lにおいて係合縁部22における支持部11の他方の端部11bの側に設けられている。つまり、係合突部23は、係合縁部22における縁が各脚部21に最も接近した位置に設けられている。
【0046】
係合突部23が係合凹部142に係合した状態において、スペーサ10は、デッキプレート100の長手方向Lにおいて起立状態Sと倒し状態Dとの間を回動自在となる。なお、一方の端部11aの側における係合縁部22の先端は、短手方向Wにおいて係合突部23と同じ又は略同じ位置である。これにより、設置状態において、係合縁部22は、長手方向Lにおける両端においてデッキプレート100の係合凹部142に係合している。
【0047】
脚部21はそれぞれ腕部24を有する。腕部24は、脚部21において、支持部11の他方の端部11bの側及び係合突部23が設けられた側に設けられている。腕部24はそれぞれ、支持部11と係合縁部22との間で互いに異なる側に突出している。つまり、腕部24は、係合突部23と同じ方向に各脚部21から突出している。
【0048】
腕部24は、張出部25と、当接部26と、を有する。設置状態において、張出部25は、脚部21から短手方向Wに張り出している。設置状態における倒れ状態Dにおいて、腕部24は、当接部26においてデッキプレート100の移行部140の係合凹部142に長手方向Lに沿って当接するようになっている。当接部26は、脚部21とは反対の側の張出部25の端部から長手方向Lに支持部11における一方の端部11aの側に向かって延びている。
【0049】
一対の脚部21にはそれぞれ凹部27が形成されている。凹部27は、互いに向かい合う側に凹に形成されている。凹部27は、支持部11と係合縁部22との間を脚部21の長さ方向(支持方向Lに交差する方向)に延在している。つまり、凹部27は、支持部11から係合縁部22に向かって所定の長さをもって延びている。
【0050】
鉄筋30は、デッキプレート100の長手方向Lに沿って設けられたスペーサ10に支持されて、デッキプレート100の長手方向Lに延びている。鉄筋30は、例えば、鋼を圧延して表面にリブや節と呼ばれる凹凸の突起を設けた異形鉄筋である。ただし、これに限らず、補強用の鉄筋30としては、例えば、丸鋼や角鋼等のその他種々の形状および種類の鉄筋を用いるようにしてもよい。溶接金網50は、例えば、鋼製の線材により格子状に形成されていて、スペーサ10及び鉄筋30の上に載せられている。
【0051】
コンクリート部70は、コンクリートをデッキプレート100の上面に打設して固化することにより形成されている。スペーサ10、鉄筋30及び溶接金網50は、コンクリート部70内に埋設された状態にある。
【0052】
次に、スペーサ付きデッキプレート1の組立工程について説明する。図5Aは、スペーサ10をデッキプレート100に設置する工程を示す図である。図5Bは、スペーサ10の倒れ状態Dを示す図である。図5Cは、スペーサ10に鉄筋30を取り付ける工程を示す図である。
【0053】
まず、工場で製造されたデッキプレート100にスペーサ10を組み付ける。デッキプレート100の谷底部120に、長手方向Lにおいて所定の間隔をあけてスペーサ10を設置する。脚部21に対して互いに接近させるような力を加える。脚部21が互いに接近させられた状態においてスペーサ10を、係合突部23が谷底部120の側にあるようにして、デッキプレート100の谷底部120に倒れ状態Dにおいて設置する。
【0054】
次いで、脚部21に加えられていた力を除くことにより、一対の脚部21は、互いに離れるようにして元の状態に戻り、係合突部23がデッキプレート100の係合凹部142に進入して、スペーサ10は、デッキプレート100に係合する。また、設置状態において、腕部24の当接部26は、それぞれ相対するデッキプレート100の移行部140における膨出部141に当接している。
【0055】
次いで、倒れ状態Dにあるスペーサ10に鉄筋30を接近させる。スペーサ10の倒し状態Sにおいて、スペーサ10の切欠き部13は、谷底部120とは反対の側に開口しており、鉄筋30は、長手方向Lに設置された各スペーサ10の切欠き部13に嵌め込まれる。鉄筋30を嵌め込む際には、スペーサ10の支持部11における端部11aの側における一対の羽根部15に鉄筋30が最初に接触する。倒れ状態Dにおいて支持された鉄筋30は、傾斜部130の間で谷底部120から離間した位置であって山頂部110を越えない位置において支持されている。なお、予め鉄筋30が取り付けられた状態のスペーサ10をデッキプレート100に設置するようにしてもよい。
【0056】
端部11aの側における羽根部15の間隔d1は、鉄筋30の直径よりも小さく設計されているが、羽根部15における抵抗に抗して鉄筋30を押し込む。これにより、一対の羽根部15は、鉄筋30により互いに押し拡げられ、鉄筋30は、切欠き部13において羽根部15の間隔d2の領域に収容される。
【0057】
次に、倒れ状態Dにあるスペーサ10の起立動作Sについて説明する。図6Aは、スペーサ10が倒れ状態Dにおいてデッキプレート100に設置された状態を示す図である。図6Bは、スペーサ10を起立状態Sにする動作を示す図である。図6Cは、スペーサ10を起立状態Sにした状態を示す図である。
【0058】
例えば、工場で製造されたスペーサ付きデッキプレート1を設置現場まで搬送し、梁と梁との間に架け渡す。次いで作業者は、鉄筋30を斜め上方に持ち上げるようにして、スペーサ10を引き起こす。この場合、同一の鉄筋30を支持するスペーサ10において、鉄筋30が切欠き部13において羽根部15に接触し、かつ、係合突部23が係合凹部142に係合していることにより、各スペーサ10は、係合突部23を回動の起点として長手方向Lに沿って回動しながら起立し始める。
【0059】
スペーサ10の係合縁部22が谷底部120に接触してスペーサ10が起立状態Sになる前に、係合縁部22は、一方の端部11aの側でデッキプレート100の膨出部141に接触する。この場合、スペーサ10を谷底部120に向かって押し付けるような力を、鉄筋30を介してスペーサ10に加えることで係合縁部22の一方の端部11aが係合凹部142に嵌まり込む。これにより、スペーサ10は、谷底部120に起立状態Sにおいて設置される。スペーサ10の起立状態Sにおいて支持部11は、山頂部110を越えている。つまり、鉄筋30は、山頂部110より高い位置にある。
【0060】
次いで、デッキプレート100の長手方向Lに延在する複数の鉄筋30に対して、例えば、金網を設置する又は交差する方向に他の鉄筋を配筋し、デッキプレート100の上面にコンクリートを打設し固化してコンクリート部70が形成されることにより合成スラブ構造200が完成する。
【0061】
本実施の形態に係るスペーサ10によれば、デッキプレート100の一の谷底部120において、互いに対向する傾斜部130との間の係合凹部142に嵌まり込む係合突部23により、スペーサ10は、鉄筋30を支持した状態のまま、デッキプレート100上において起立状態Sと倒れ状態Dとの間を自在に回動することができる。
【0062】
例えば、工場からスペーサ付きデッキプレート1を搬出する際には、スペーサ10を倒れ状態Dにしておくことができる。図7は、輸送時にスペーサ付きデッキプレート1を重ねた状態を示す図である。スペーサ10を倒れ状態Dにすることにより、スペーサ付きデッキプレート1を上下方向に重ねた場合であっても、重ね方向における嵩張りを抑えることができる。さらに、下側のスペーサ付きデッキプレート1におけるスペーサ10によって、上側のデッキプレート100を支持することができる。なお、鉄筋30が支持部11に収容されていてもよい。
【0063】
スペーサ付きデッキプレート1を施工現場において敷き詰めた後には、係合突部23を回動の起点にしてスペーサ10を引き起こし、起立状態Sへ簡単に移行することができる。これにより、施工現場でのデッキプレート100における配筋作業の負担を軽減することができる。
【0064】
また、スペーサ10は、起立状態Sにおいて、支持部11に設けられた溝部12において鉄筋30を、鉄筋30の延在方向に安定的に支持することができる。
【0065】
また、溝部12における切欠き部13により、鉄筋30を支持した状態においてスペーサ10を回動させることができる。さらに、羽根部15により、確実な鉄筋30の保持が可能になる。
【0066】
また、羽根部15において、溝部12の延在方向において互いの間隔が変化しているので、スペーサ10に対する鉄筋30の取り付けが容易になる。さらに、羽根部15間における最小の間隔d1は鉄筋30の直径より小さく、最大の間隔d2は鉄筋30の直径以上である。したがって、スペーサ10の回動時において鉄筋30は、スペーサ10に確実に保持されたままとなり、スペーサ10の回動を阻害するような干渉は起こらない。
【0067】
また、脚部21は、互いに向かって弾性変形自在であるので、デッキプレート100の係合凹部142への係合突部23の嵌め込みが容易になる。
【0068】
また、腕部24により、倒れ状態Dにあるスペーサ10は、デッキプレート100の移行部140に当接している。これにより、スペーサ付きデッキプレート1の搬送時に衝撃等によってスペーサ10が短手方向Wにずれることを防ぐことができる。
【0069】
また、スペーサ付きデッキプレート1の搬送時に、スペーサ付きデッキプレート1同士が重なって、上側に重なるスペーサ付きデッキプレート1が下側のスペーサ付きデッキプレート1におけるスペーサ10に乗ることがあるが、脚部21の長さ方向に延びる凹部27が設けられているので、脚部21における強度が向上する。
【0070】
また、スペーサ10の起立状態Sにおいて、支持部11は、山頂部110を越えた位置にあるので、鉄筋30を使用して、金網や鉄筋を配筋する作業が容易になり、合成スラブ構造200の構築が容易になる。
【0071】
<その他>
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、スペーサ10の変形例に係るスペーサ10Aを図8に示す。
【0072】
図8は、変形例に係るスペーサ10Aの斜視図である。以下においては、スペーサ10と異なる部分について説明し、同じ構成には同じ符号を付し、説明を省略する。上記実施の形態に係るスペーサ10において、一対の脚部21は、支持部11により連結されていたが、スペーサ10は、さらに連結部16を有していてもよい。連結部16は、鋼板により形成されている。連結部16は、腕部24の間に設けられており、支持部11に対して係合縁部22の側に設けられている。
【0073】
連結部16により、スペーサ10の剛性が高まる。さらに、デッキプレート100に長手方向Lに沿って配置された各スペーサ10における連結部16に、さらに別の鉄筋を簡単に架け渡すことができる。なお、連結部16と腕部24とは一体に形成されていてもよい。
【0074】
また、上記の実施の形態において、凹部27は、脚部21の長さ方向に沿って延びているが、例えば、支持部11の溝部12の延在方向に沿って延びていてもよい。この場合、複数の凹部27が、脚部21の長さ方向に沿って互いに間隔をあけて設けられている。
【符号の説明】
【0075】
1…スペーサ付きデッキプレート、10,10A…スペーサ、11…支持部、11a,11b…端部、11c…縁部、12…溝部、13…切欠き部、13a…縁、15…羽根部、16…連結部、21…脚部、22…係合縁部、23…係合突部、24…腕部、25…張出部、26…当接部、27…凹部、30…鉄筋、50…溶接金網、70…コンクリート部、100…デッキプレート、110…山頂部、111…溝、120…谷底部、130…傾斜部、140…移行部、141…膨出部、142…係合凹部、200…合成スラブ構造
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7
図8