(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】多層基板
(51)【国際特許分類】
H05K 3/46 20060101AFI20241219BHJP
H01P 3/08 20060101ALI20241219BHJP
H01P 3/02 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
H05K3/46 Z
H01P3/08 200
H01P3/02 200
(21)【出願番号】P 2021075840
(22)【出願日】2021-04-28
【審査請求日】2024-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】株式会社PILLAR
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】夏原 悠佑
(72)【発明者】
【氏名】奥長 剛
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0258338(US,A1)
【文献】国際公開第2017/090181(WO,A1)
【文献】特開2017-34215(JP,A)
【文献】特開2002-76644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と前記第1面とは反対側の第2面とを有し、第1誘電体によって形成された第1基板と、
第3面と前記第3面とは反対側の第4面とを有し、第2誘電体によって形成された第2基板とを備え、
前記第1基板と前記第2基板とは、前記第2面と前記第3面とが直接的または間接的に対向するように積層されており、
前記第1面
の全体に積層された第1伝送グランドと、
前記第4面に積層された第2伝送グランドと、
前記第1基板と前記第2基板との間に配置された伝送パターンとをさらに備え、
前記第2誘電体の誘電率は、前記第1誘電体の誘電率よりも高く、
前記第4面は、前記第2伝送グランドが積層された積層部分、および、前記第2伝送グランドが積層されていない非積層部分を含む、多層基板。
【請求項2】
前記非積層部分は、平面視において前記伝送パターンと重なるように位置する
請求項1に記載の多層基板。
【請求項3】
前記伝送パターンは、
差動伝送路が形成されるように配置される第1伝送パターンおよび第2伝送パターンを含む
請求項1または2に記載の多層基板。
【請求項4】
前記第1伝送パターンおよび前記第2伝送パターンは、同一面上に並んで配置される
請求項3に記載の多層基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2013-239511号公報(特許文献1)は、多層基板を開示する。この多層基板においては、誘電体層の両面の各々にグランド層が形成され、誘電体層中に配線層が形成されている。この多層基板において、誘電体層は複数の誘電体層によって構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多層基板が複数の誘電体層を含む場合に、複数の誘電体層の各々の誘電率が異なることがある。このような構成を採用する目的の一つは、多層基板における伝送ロスを改善することである。しかしながら、このような構成が採用されたとしても、条件次第で、多層基板における伝送ロスが十分に改善されないことを本発明者(ら)は見出した。上記特許文献1は、このような問題の解決手段を開示していない。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、各々の誘電率が異なる複数の誘電体層を備える多層基板において、伝送ロスを改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点に係る多層基板は、第1面と前記第1面とは反対側の第2面とを有し、第1誘電体によって形成された第1基板と、第3面と前記第3面とは反対側の第4面とを有し、第2誘電体によって形成された第2基板とを備え、前記第1基板と前記第2基板とは、前記第2面と前記第3面とが直接的または間接的に対向するように積層されており、前記第1面に積層された第1伝送グランドと、前記第4面に積層された第2伝送グランドと、前記第1基板と前記第2基板との間に配置された伝送パターンとをさらに備え、前記第2誘電体の誘電率は、前記第1誘電体の誘電率よりも高く、前記第4面は、前記第2伝送グランドが積層された積層部分、および、前記第2伝送グランドが積層されていない非積層部分を含む。
【0007】
上記多層基板では、第2基板の第4面に非積層部分が形成されているため、伝送パターンから放出される電気力線が第2基板側に偏ることが抑制される。このため、多層基板における伝送ロスを改善できる。
【0008】
本発明の第2観点に係る多層基板は、第1観点に係る多層基板であって、前記非積層部分は、平面視において前記伝送パターンと重なるように位置する。
【0009】
上記多層基板では、伝送パターンから放出される電気力線が第2基板側に偏ることがより抑制される。
【0010】
本発明の第3観点に係る多層基板は、第1観点または第2観点に係る多層基板であって、前記伝送パターンは、差動伝送路が形成されるように配置される第1伝送パターンおよび第2伝送パターンを含む。
【0011】
本発明の第4観点に係る多層基板は、第3観点に係る多層基板であって、前記第1伝送パターンおよび前記第2伝送パターンは、同一面上に並んで配置される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に関する多層基板によれば、各々の誘電率が異なる複数の誘電体層を備える多層基板において、伝送ロスを改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図4】
図1の多層基板に生じる電界の例を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0015】
[1.多層基板の構成]
図1は、本実施形態に従う多層基板10の平面を模式的に示す図である。
図2は、
図1のD2-D2線に沿う断面を模式的に示す図である。以下では、
図1における左右方向を幅方向、および、
図1において左右方向と直交する方向を前後方向と称する。なお、ここで規定した方向は、あくまでも説明のためであり、本実施形態に従う多層基板10の向きを限定するものではない。
【0016】
図2に示されるように、多層基板10は、上から下に積層された、第1伝送グランド21、第1基板31、伝送パターン40、第2基板32、および、第2伝送グランド22を含む。
【0017】
第1基板31は、第1面31Aと第1面31Aとは反対側の第2面31Bとを有する。第1基板31を構成する材料は、例えば、ガラスエポキシ樹脂またはガラスフッ素樹脂等の誘電体である。第1基板31の誘電率Dk1は、特に限定されないが、例えば、2~10とすることができる。第1伝送グランド21は、第1基板31の第1面31Aのほぼ全面に薄膜状に形成されている。
【0018】
第2基板32は、第3面32Aと第3面32Aとは反対側の第4面32Bとを有する。第2基板32を構成する材料は、例えば、ガラスエポキシ樹脂またはガラスフッ素樹脂等の誘電体である。第2基板32の誘電率Dk2は、特に限定されないが、例えば、2~10とすることができる。ただし、第2基板32の誘電率Dk2は、第1基板31の誘電率Dk1よりも高い。第2基板32の誘電率Dk2が第1基板31の誘電率Dk1よりも高い限り、第1基板31および第2基板32は、同一の材料で構成されていてもよいし異なる材料で構成されていてもよい。
【0019】
多層基板10において、第1基板31と第2基板32とは、第1基板31の第2面31Bと第2基板32の第3面32Aとが直接的に対向するように積層されている。
【0020】
伝送パターン40は、第1基板31と第2基板32との間に配置される。本実施形態では、伝送パターン40は、第2基板32の第3面32A上に配置される。伝送パターン40は、差動伝送路が形成されるように配置される第1伝送パターン41および第2伝送パターン42を含む。第1伝送パターン41および第2伝送パターン42は、左右方向に所定の間隔を空けて配置される。第1伝送パターン41および第2伝送パターン42は、前後方向に延びている。なお、伝送パターン40、第1伝送グランド21、および、第2伝送グランド22を構成する材料は、例えば、金、銀、銅、銅合金、または、アルミニウム等の金属材料である。
【0021】
多層基板10において、第2基板32の第4面32Bは、第2伝送グランド22が積層された積層部分32Yと、第2伝送グランド22が積層されていない非積層部分32Zとに区分される。積層部分32Yにおいては、第2伝送グランド22が前後方向に延びている。第4面32Bにおいて、非積層部分32Zが存在する位置は、任意に選択可能である。本実施形態では、非積層部分32Zは、平面視において第1伝送パターン41および第2伝送パターン42と重なるように位置する。本実施形態では、非積層部分32Zは、例えば、第1伝送パターン41および第2伝送パターン42の下方に位置する。第2基板32の第4面32Bが非積層部分32Zを有する理由について、次に説明する。
【0022】
[2.第2基板の第4面が非積層部分を有する理由]
誘電率の高い基板と誘電率の低い基板とが積層された多層基板(例えば、多層基板10)においては、次のような利点がある。例えば、全ての基板を誘電率の低い誘電体(例えば、ガラスフッ素樹脂)により形成するよりも、安価に多層基板を形成することができる。また、例えば、全ての基板を誘電率の高い誘電体(例えば、ガラスエポキシ樹脂)により形成するよりも、伝送ロスの低い多層基板を形成することができる。
【0023】
しかし、例えば、多層基板10において、第2伝送グランド22を第2基板32の第4面32Bのほぼ全面に薄膜状に形成した場合、このような利点が十分に得られないことを本発明者(ら)は見出した。
【0024】
図3は、比較対象の多層基板10Xの断面を模式的に示す図である。多層基板10Xは、上から下に積層された、第1伝送グランド21X、第1基板31X、伝送パターン41X、42X、第2基板32X、および、第2伝送グランド22Xを含む。第2伝送グランド22Xは、第2基板32Xの第4面32XAのほぼ全面に薄膜状に形成されている。第2基板32Xの誘電率は、第1基板31Xの誘電率よりも高い。
【0025】
多層基板10Xでは、第2伝送グランド22Xが第2基板32Xの第4面32XAのほぼ全面に薄膜状に形成されているため、伝送パターン41X、42Xから放出される電気力線は、誘電率の高い第2基板32X側に集中する。すなわち、第2基板32Xに電界が集中する。したがって、多層基板10Xにおいては、誘電率の低い第1基板31Xが一部に採用されているにもかかわらず、第1基板31Xを採用することによる効果が十分に得られず、伝送ロスが十分に改善されない。
【0026】
図4は、多層基板10において生じる電界の例を模式的に示す図である。
図4に示されるように、多層基板10は、第2基板32の第4面32Bが非積層部分32Zを有する、換言すれば、誘電率の高い第2基板32のグランドを一部無くしているため、第2基板32を形成する誘電体を経由していた電気力線の一部が、第1基板31を形成する誘電体を経由するようになる。このため、第1基板31および第2基板32の各々における電界強度が略同一となる。その結果、多層基板10によれば、
図3に示されるように第2基板32Xの第4面32XAのほぼ全面に第2伝送グランド22Xが形成される場合と比較して、各伝送パターン41、42から放出される電気力線が第2基板32側に偏ることが抑制されるため、多層基板10における伝送ロスを改善できる。
【0027】
[3.特徴]
本実施形態に従う多層基板10においては、第2基板32の第4面32Bが非積層部分32Zを有するため、伝送パターン41、42から放出される電気力線が第2基板32側に偏ることが抑制される。このため、多層基板10における伝送ロスを改善できる。
【0028】
[4.変形例]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例は、適宜組み合わせることができる。
【0029】
<4-1>
伝送パターン40の形状は特には限定されず、上述したような直線状のほか、L字状、T字状など、種々の形状にすることができる。また、伝送パターン40は、1つであってもよい。また、多層基板10が、例えば、第1基板31の上に積層され、第1基板31の誘電率Dk1よりも高い誘電率を有する第3基板を含む場合、第1伝送パターン41を第2基板32の第3面32Aに配置し、第2伝送パターン42を第1基板31の第1面31Aに配置してもよい。この変形例では、第1伝送グランド21は、第3基板の表面に積層される。この変形例では、第3基板の表面は、第1伝送グランド21が積層された積層部分、および、第1伝送グランド21が積層されていない非積層部分を含むようにしてもよい。この変形例では、第3基板の表面の非積層部分は、平面視において第1伝送パターン41および第2伝送パターン42と重なるように位置することが好ましい。この変形例では、第3基板のほぼ全面に第1伝送グランド21が形成される場合と比較して、各伝送パターン41、42から放出される電気力線が第3基板側に偏ることが抑制されるため、多層基板10における伝送ロスを改善できる。
【0030】
<4-2>
図5に示されるように、第1基板31と第2基板32とは、ボンディングフィルム50を介して積層されていてもよい。すなわち、第1基板31と第2基板32とは、第2面31Bと第3面32Aとがボンディングフィルム50を介して間接的に対向するように積層されていてもよい。
【0031】
[5.試験]
本発明者(ら)は、実施例の多層基板を製造し、多層基板の寸法および第2基板の第4面の非積層部分の幅方向の寸法と、伝送ロスとの関係を確認する試験を実施した。試験は、第1試験および第2試験を含む。なお、以下では、説明の便宜上、実施例の多層基板を構成する要素のうち、実施形態と同じ要素には、実施形態と同様の符号を付して説明する。なお、以下では、幅方向の寸法を単に幅と称する場合がある。
【0032】
<5-1.第1試験>
第1試験は、伝送パターン41、42の幅、および、非積層部分32Zの幅と、伝送ロスとの関係を確認する試験である。第1試験は、シミュレーションによって生成した実施例1~3の多層基板10の解析モデルを用いて実施された。
【0033】
実施例1~3における多層基板10の各寸法は、次のとおりである。多層基板10の幅は、2mmである。多層基板10の前後方向の長さは、10mmである。第1伝送グランド21、第2伝送グランド22、第1伝送パターン41、および、第2伝送パターン42の厚さは、0.018mmである。第1基板31および第2基板32の厚さは、0.127mmである。実施例1の多層基板10の第1伝送パターン41および第2伝送パターン42の幅は、それぞれ、0.1mmである。実施例2の多層基板10の第1伝送パターン41および第2伝送パターン42の幅は、それぞれ、0.2mmである。実施例3の多層基板10の第1伝送パターン41および第2伝送パターン42の幅は、それぞれ、0.3mmである。第1試験では、実施例1~3の多層基板10の非積層部分32Zの幅を変化させながら、伝送ロスを算出した。
【0034】
図6は、第1試験の結果を示す図である。
図6に示されるように、実施例1~3において、第2基板32の第4面32Bに非積層部分32Zが形成されることにより、伝送ロスが改善されていることが確認された。特に、非積層部分32Zの幅が0.2mm~1.0mmに含まれる場合、伝送ロスがより好適に改善されることが確認された。また、伝送パターン41、42の幅が広いほど、伝送ロスが最も小さくなるときの非積層部分32Zの幅が広いことが確認された。
【0035】
<5-2.第2試験>
第2試験は、多層基板10の幅、および、非積層部分32Zの幅と、伝送ロスとの関係を確認する試験である。第2試験は、シミュレーションによって生成した実施例4~6の多層基板10の解析モデルを用いて実施された。
【0036】
実施例4~6における多層基板10の各寸法は、多層基板10の幅以外は、実施例2の多層基板10と同じである。実施例4の多層基板10の幅は、2mmである。実施例5の多層基板10の幅は、3mmである。実施例6の多層基板10の幅は、4mmである。第2試験では、第1試験と同様の方法によって、実施例4~6の多層基板10の非積層部分32Zの幅を変化させながら、伝送ロスを算出した。
【0037】
図7は、第2試験の結果を示す図である。
図7に示されるように、実施例4~6において、第2基板32の第4面32Bに非積層部分32Zが形成されることにより、伝送ロスが改善されていることが確認された。特に、非積層部分32Zの幅が0.2mm~1.0mmに含まれる場合、伝送ロスがより好適に改善されることが確認された。なお、多層基板10の幅を変更することによる伝送ロスへの影響は確認されなかった。
【符号の説明】
【0038】
10 :多層基板
21 :第1伝送グランド
22 :第2伝送グランド
31 :第1基板
31A:第1面
31B:第2面
32 :第2基板
32A:第3面
32B:第4面
32Y:積層部分
32Z:非積層部分
40 :伝送パターン