(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】窒化ホウ素粉末、及び窒化ホウ素粉末の製造方法、並びに、樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20241219BHJP
H01B 3/30 20060101ALI20241219BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241219BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C01B21/064 G
H01B3/30 N
C08L101/00
C08K3/38
(21)【出願番号】P 2021085296
(22)【出願日】2021-05-20
【審査請求日】2024-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 福將
(72)【発明者】
【氏名】竹田 豪
(72)【発明者】
【氏名】野上 直嗣
(72)【発明者】
【氏名】楯岡 悠
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/079912(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/124126(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/196643(WO,A1)
【文献】特開2014-040341(JP,A)
【文献】国際公開第2014/136959(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
H01B 3/30
C08L 101/00
C08K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素の一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含み、
前記凝集粒子の圧壊強さが3.0~7.0MPaであり、
比表面積が1.5~3.0m
2/gであり、配向性指数が6.0~10.0であ
り、
前記配向性指数は、X線回折スペクトルから取得される(002)面及び(100)面に対応するピーク強度をそれぞれI(002)及びI(100)としたときに、I(002)/I(100)で算出される値である、窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
前記凝集粒子の平均粒子径が5~90μmである、請求項1に記載の窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
前記凝集粒子の平均粒子径が15~90μmである、請求項1又は2に記載の窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
純度が99.0質量%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の窒化ホウ素粉末。
【請求項5】
樹脂と、請求項1~4のいずれか一項に記載の窒化ホウ素粉末と、を含有する、樹脂組成物。
【請求項6】
酸素を含む雰囲気下で、炭窒化ホウ素粉末を600~1000℃の温度で焼成して、焼成物を得る工程と、
前記焼成物とホウ素源とを含
み、炭酸カルシウムを含まない混合物を
ゲージ圧10~13kPaの加圧下、1900℃以上の温度で加熱することによって、窒化ホウ素の一次粒子を生成し、前記一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を得る工程と、を有し、
前記ホウ素源の含有量が前記混合物の全量を基準として3
6~45質量
%である、窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項7】
酸素を含む雰囲気下で、炭窒化ホウ素粉末を600~1000℃の温度で焼成して、焼成物を得る工程と、
前記焼成物とホウ素源とを含み、炭酸カルシウムを含まない混合物をゲージ圧40~80kPaの加圧下、1900℃以上の温度で加熱することによって、窒化ホウ素の一次粒子を生成し、前記一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を得る工程と、を有し、
前記ホウ素源の含有量が前記混合物の全量を基準として36質量%以下である、窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項8】
酸素を含む雰囲気下で、炭窒化ホウ素粉末を600~1000℃の温度で焼成して、焼成物を得る工程と、
前記焼成物、ホウ素源、及び炭酸カルシウムを含む混合物を
ゲージ圧10~80kPaの加圧下、1900℃以上の温度で加熱することによって、窒化ホウ素の一次粒子が生成し、前記一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を得る工程と、を有
し、
前記炭酸カルシウムの含有量が前記焼成物の全量を基準として0.5~4.0質量%である、窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項9】
前記ホウ素源は、ホウ酸及び酸化ホウ素からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項6~8のいずれか一項に記載の窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項10】
前記窒化ホウ素粉末の比表面積が1.5~3.0m
2
/gである、請求項6~9のいずれか一項に記載の窒化ホウ素粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ホウ素粉末、及び窒化ホウ素粉末の製造方法、並びに、樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、CPU等の電子部品においては、使用時に発生する熱を効率的に放熱することが課題となっている。この課題に対して、従来、電子部品を実装するプリント配線板の絶縁層の高熱伝導化や、電子部品又はプリント配線板を電気絶縁性の熱インターフェース材(Thermal Interface Materials)を介してヒートシンクに取り付けることが行われてきた。このような絶縁層及び熱インターフェース材には、熱伝導率が高いセラミックス粉末が用いられる。
【0003】
セラミックス粉末としては、高熱伝導率、高絶縁性、低比誘電率等の特性を有している窒化ホウ素粉末が注目されている。例えば、特許文献1には、凝集体の形状を一層球状化して充填性を高めると共に、粉末強度の向上を図り、更には高純度化により、当該粉末を充填した伝熱シート等の絶縁性の向上および耐電圧の安定化を達成した六方晶窒化ホウ素粉末として、一次粒子の長径と厚みの比が平均で5~10で、一次粒子の凝集体の大きさが平均粒径(D50)で2μm以上200μm以下で、嵩密度が0.5~1.0g/cm3であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末が開示されている。
【0004】
六方晶窒化ホウ素粒子は、面内方向(a軸方向)の熱伝導率が400W/(m・K)であるのに対して、厚み方向(c軸方向)の熱伝導率が2W/(m・K)であり、結晶構造と鱗片状に由来する熱伝導率の異方性が大きい。さらに、六方晶窒化ホウ素粉末を樹脂に充填すると、粒子同士が同一方向に揃って配向する。そのため、例えば、熱インターフェース材の製造時に、六方晶窒化ホウ素粒子の面内方向(a軸方向)と熱インターフェース材の厚み方向が垂直になり、六方晶窒化ホウ素粒子の面内方向(a軸方向)の高熱伝導率を十分に活かすことができなかった。
【0005】
一方、特許文献2では、窒化ホウ素一次粒子が凝集してなる窒化ホウ素凝集粒子が開示されており、所定の成形圧力を加えた場合でも凝集粒子の崩壊が抑制できる程度に上記凝集粒子の強度を高めることによって、窒化ホウ素一次粒子が同一方向に揃って配向することを抑制する旨が記載されている。
【0006】
さらに、特許文献3では、樹脂との混練やシート化の過程で強い応力がかかる手段にも用いることができるように、所定の平均粒径を有する炭化ホウ素を加圧窒化し、その後脱炭結晶化することによって得られる、粒子強度に優れる塊状窒化ホウ素を含む窒化ホウ素粉末が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-98882号公報
【文献】特開2016-135731号公報
【文献】国際公開第2018/066277号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2,3に開示されるように、一次粒子が凝集した窒化ホウ素凝集粒子では、一次粒子が同一方向に配向して熱伝導率の異方性が生じ、成形体の放熱性が低下し得ることから、これを抑えるために凝集粒子の強度を高めることが重要と考えられている。一方で、上述のような強度に優れる凝集粒子を樹脂と混練し、成形等する際には、得られる成形体中にボイド等を発生し得る。成形体等におけるボイド等の発生を抑制するためには、樹脂との混練条件や成形条件を厳しく(例えば、成形圧を大きくする等)する必要が生じ得る。このような場合に必要とされる混練機及び成形機等は高価なものとなり、成形体の製造単価が上昇する傾向にある。
【0009】
汎用の混練機及び成形機等を用い、緩やかな条件で樹脂との混練及び成形を行った場合であっても、従前の強度に優れる窒化ホウ素粉末を用いた場合と同等の性能を発揮し得る窒化ホウ素粉末があれば有用である。
【0010】
本開示の目的は、混練やシート成形における条件を緩和した場合であっても、絶縁性及び放熱性に優れる成形体を提供可能な窒化ホウ素粉末、及びその製造方法を提供することを目的とする。本開示の目的はまた、上述の窒化ホウ素粉末を含む新規樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一側面は、窒化ホウ素の一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含み、上記凝集粒子の圧壊強さが3.0~7.0MPaであり、比表面積が1.5~3.0m2/gであり、配向性指数が6.0~10.0である、窒化ホウ素粉末を提供する。
【0012】
上記窒化ホウ素粉末は、圧壊強さが比較的小さな凝集粒子を含み、所定の比表面積を有することから、樹脂等との混練時、又はシート等への成形時に印加される力によって、凝集粒子中に樹脂が容易に含浸し、また凝集粒子の少なくとも一部が崩壊することによって得られる樹脂組成物及び成形体中のボイドの発生等を抑制することができる。また上記窒化ホウ素粉末は配向性指数が小さな値となっていることから、上述のような凝集粒子の一部に崩壊が発生することで一次粒子の配向が生じる場合であっても、成形体における放熱性等の物性に大きな異方性が生じることを抑制できる。
【0013】
上記窒化ホウ素粉末における上記凝集粒子の平均粒子径が5~90μmであってよい。
【0014】
上記窒化ホウ素粉末における上記凝集粒子の平均粒子径はまた15~90μmであってもよい。
【0015】
上記窒化ホウ素粉末の純度が99.0質量%以上であってよい。
【0016】
本開示の一側面は、樹脂と、上述の窒化ホウ素粉末と、を含有する樹脂組成物を提供する。
【0017】
上記樹脂組成物は、上述の窒化ホウ素粉末を含有することから、混練における条件を緩和した場合であっても容易に製造することができる。また上記樹脂組成物はシート成形等における条件を緩和した場合であっても、ボイド等の発生を抑制することができる。
【0018】
本開示の一側面は、酸素を含む雰囲気下で、炭窒化ホウ素粉末を600~1000℃の温度で焼成して、焼成物を得る工程と、上記焼成物とホウ素源とを含む混合物を1900℃以上の温度で加熱することによって、窒化ホウ素の一次粒子を生成し、上記一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を得る工程と、を有し、上記ホウ素源の含有量が上記混合物の全量を基準として32質量%以上である、窒化ホウ素粉末の製造方法を提供する。
【0019】
上記製造方法は、炭窒化ホウ素粉末を予め酸素を含む雰囲気下で焼成することによって炭素の含有量を低減し、その後、炭窒化ホウ素を含む焼成物を、従来よりも多くのホウ素源を用いて焼成することによって、窒化ホウ素の一次粒子の成長を促し、一次粒子間の隙間が大きい凝集粒子を得ることができる。このような作用によって、上述の窒化ホウ素粉末を製造することができる。
【0020】
本開示の一側面は、酸素を含む雰囲気下で、炭窒化ホウ素粉末を600~1000℃の温度で焼成して、焼成物を得る工程と、上記焼成物、ホウ酸、及び炭酸カルシウムを含む混合物を1900℃以上の温度で加熱することによって、窒化ホウ素の一次粒子を生成し、上記一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を得る工程と、を有する、窒化ホウ素粉末の製造方法を提供する。
【0021】
上記製造方法は、炭窒化ホウ素粉末を予め酸素を含む雰囲気下で焼成することによって炭素の含有量を低減し、その後、炭窒化ホウ素を含む焼成物を、ホウ素源及び炭酸カルシウムと共に焼成することによって、窒化ホウ素の一次粒子の成長を促し、一次粒子間の隙間が大きい凝集粒子を得ることができる。このような作用によって、上述の窒化ホウ素粉末を製造することができる。
【0022】
上述の製造方法において上記混合物の加熱は、10~80kPaの加圧下で行われてよい。
【0023】
上記ホウ素源は、ホウ酸及び酸化ホウ素からなる群より選択される少なくとも一種を含んでよい。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、混練やシート成形における条件を緩和した場合であっても、絶縁性及び放熱性に優れる成形体を提供可能な窒化ホウ素粉末、及びその製造方法を提供できる。本開示によればまた、上述の窒化ホウ素粉末を含む新規樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0026】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0027】
窒化ホウ素粉末の一実施形態は、窒化ホウ素の一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含む。上記凝集粒子の圧壊強さが3.0~7.0MPaである。また上記窒化ホウ素粉末は、比表面積が1.5~3.0m2/gであり、且つ配向性指数が6.0~10.0である。窒化ホウ素粉末は、凝集粒子の他、一次粒子を含んでもよい。窒化ホウ素の一次粒子は、例えば、鱗片状の六方晶窒化ホウ素粒子であってよい。
【0028】
凝集粒子の圧壊強さの上限値は、例えば、6.9MPa以下、又は6.8MPa以下であってよい。圧壊強さの上限値が上記範囲内であることで、樹脂との混練の際に凝集粒子の少なくとも一部が適度に崩壊し、ボイドの発生を抑制することによって得られる樹脂組成物及び成形体の絶縁性をより向上させることができる。凝集粒子の圧壊強さの下限値は、例えば、3.5MPa以上、3.8MPa以上、又は4.0MPa以上であってよい。圧壊強さの下限値が上記範囲内であることで、樹脂との混練によって得られる樹脂組成物及び成形体の放熱性をより向上させることができる。凝集粒子の圧壊強さは、例えば、窒化ホウ素粉末を製造する際の一次粒子の粒成長を制御すること等によって調整できる。凝集粒子の圧壊強さは上述の範囲内で調整してよく、例えば、3.5~6.9MPa、3.8~6.9MPa、4.0~6.9MPa、又は4.0~6.8MPaであってよい。
【0029】
本明細書における圧壊強さは、JIS R 1639-5:2007「ファインセラミックス-か(顆)粒特性の測定方法-第5部:単一か粒圧壊強さ」の記載に準拠して測定される値を意味する。凝集粒子1個の圧壊強さσ(単位:MPa)は、凝集粒子内の位置によって変化する無次元数α(α=2.48)、圧壊試験力P(単位:N)及び粒子径d(単位:μm)の値から、σ=α×P/(π×d2)という式を用いて算出される。測定は、20個以上の凝集粒子に対して行い、累積破壊率63.2%時点の値を算出した。測定には、微小圧縮試験器を用いることができる。微小圧縮試験器としては、例えば、株式会社島津製作所製の「MCT-W500」(製品名)等を使用することができる。
【0030】
窒化ホウ素粉末の比表面積の上限値は、例えば、2.9m2/g以下、2.7m2/g以下、又は2.6m2/g以下であってよい。比表面積の上限値が上記範囲内であると、窒化ホウ素の一次粒子が適度に大きく、凝集粒子内の空隙率を高め、樹脂との混練の際に凝集粒子内への樹脂の浸透を容易とすることができ、樹脂組成物及び成形体の絶縁性をより向上させることができる。窒化ホウ素粉末の比表面積の下限値は、例えば、1.6m2/g以上、1.8m2/g以上、又は2.0m2/g以上であってよい。比表面積の下限値が上記範囲内であることで、凝集粒子における一次粒子の密度の低下を抑制することができ、樹脂との混練によって得られる樹脂組成物及び成形体の放熱性の低下を抑制することができる。窒化ホウ素粉末の比表面積は、例えば、窒化ホウ素粉末を製造する際の一次粒子の粒成長を制御すること等によって調整できる。窒化ホウ素粉末の比表面積は上述の範囲内で調整してよく、例えば、1.6~2.9m2/g、1.8~2.7m2/g、又は2.0~2.8m2/gであってよい。
【0031】
本明細書における比表面積は、JIS Z 8830:2013「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」の記載に準拠し、比表面積測定装置を用い測定される値を意味し、窒素ガスを使用したBET一点法を適用して算出される値である。比表面積測定装置としては、例えば、QUANTACHROME社製の「MONOSORB MS-22型」(製品名)等を使用することができる。
【0032】
窒化ホウ素粉末の配向性指数の上限値は、例えば、9.8以下、又は9.6以下であってよい。配向性指数の上限値が上記範囲内であることで、樹脂との混練の際に凝集粒子の少なくとも一部が崩壊し、配向性が上昇した場合であっても、樹脂組成物及び成形体における放熱性等に大きな異方性が生じることを抑制し、実用上十分な範囲に収めることができる。窒化ホウ素粉末の配向性指数の下限値は、例えば、6.0以上、又は6.5以上であってよい。窒化ホウ素粉末の配向性指数は、例えば、窒化ホウ素粉末を製造する際の一次粒子の粒成長を制御すること等で調整ができる。窒化ホウ素粉末の配向性指数は上述の範囲内で調整してよく、例えば、6.0~9.8、6.0~9.6、又は6.5~9.6であってよい。
【0033】
本明細書における配向性指数は、以下の方法に沿って測定される値を意味する。窒化ホウ素粉末に対するX線回折測定を行うことによって、窒化ホウ素粉末のX線回折スペクトルを取得し、当該X線回折スペクトルから、(002)面及び(100)面に対応するピーク強度I(002)及びI(100)を取得する。得られたピーク強度を用いて、窒化ホウ素粉末の配向性指数[I(002)/I(100)]を算出する。X線回折装置としては、例えば、株式会社リガク製の「ULTIMA-IV」(製品名)等を使用することができる。
【0034】
窒化ホウ素粉末における上記凝集粒子の平均粒子径の上限値は、例えば、90μm以下、80μm以下、又は70μm以下であってよい。平均粒子径の上限値が上記範囲内であることで、得られる窒化ホウ素粉末を充填材として用いて調製される放熱部材をより薄くすることが可能となる。窒化ホウ素粉末における上記凝集粒子の平均粒子径の下限値は、例えば、5μm以上、10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上、又は35μm以上であってよい。平均粒子径の下限値が上記範囲内であることで、樹脂との混練によって得られる樹脂組成物及び成形体の熱伝導率をより向上させることができる。窒化ホウ素粉末における上記凝集粒子の平均粒子径は上述の範囲内で調整してよく、例えば、5~90μm、又は15~90μmであってよい。
【0035】
本明細書における凝集粒子の平均粒子径は、体積基準の累積粒度分布における50%累積径(メディアン径)を意味する。より具体的には、窒化ホウ素粉末に対するレーザー回折散乱法で得られる体積基準の累積粒度分布における累積値が50%となったときの粒子径(D50)を意味する。レーザー解析散乱法は、JIS Z 8825:2013「粒子径解析-レーザー回折・散乱法」に記載の方法に準拠して測定する。測定には、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置等を使用することができる。レーザー回折散乱法粒度分布測定装置は、例えば、ベックマンコールター社製の「LS-13 320」(製品名)等を使用できる。測定の際はホモジナイザーによる処理を行わずに、凝集粒子が存在する状況で測定を行う。
【0036】
窒化ホウ素粉末の純度はより高いものであってよい。窒化ホウ素粉末の純度の下限値は、例えば、99.0質量%以上、99.5質量%以上、又は99.8質量%以上であってよい。窒化ホウ素粉末の純度の上限値は特に制限されるものではなく、100質量%であってよく、99.9質量%以下であってよい。
【0037】
本明細書における窒化ホウ素粉末の純度は、後述する滴定によって決定される値を意味する。まず、窒化ホウ素粉末のサンプルを水酸化ナトリウムでアルカリ分解させ、水蒸気蒸留法によって分解液からアンモニアを蒸留して、ホウ酸水溶液に捕集する。この捕集液を対象として、硫酸規定液で滴定行う。滴定の結果からサンプル中の窒素原子(N)の含有量を算出する。得られた窒素原子の含有量から、式(I)に基づいて、サンプル中の窒化ホウ素の含有量を決定し、窒化ホウ素粉末の純度を算出することができる。なお、窒化ホウ素の式量は24.818g/molとし、窒素原子の原子量は14.006g/molとする。
サンプル中の窒化ホウ素の含有量[質量%]=窒素原子(N)の含有量[質量%]×1.772・・・式(I)
【0038】
本開示に係る窒化ホウ素粉末は一次粒子の配向が十分に抑制されており、比表面積が所定の範囲内であり、適度な空隙を含む塊状粒子を含有するものであって、上記塊状粒子は比較的軽度な圧力を加えることで崩壊し得るものとなっていることから、絶縁性及び放熱性が求められる樹脂組成物への充填材としての使用に適する。樹脂組成物の一実施形態は、樹脂と、上述の窒化ホウ素粉末とを含有する。
【0039】
樹脂は、例えば、液晶ポリマー、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、ポリオレフィン(ポリエチレン等)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、及びAES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂が挙げられる。
【0040】
樹脂の含有量の下限値は、樹脂組成物の全体積を基準として、例えば、15体積%以上、20体積%以上、又は30体積%以上であってよい。樹脂の含有量の上限値は、樹脂組成物の全体積を基準として、例えば、60体積%以下、50体積%以下、又は40体積%以下であってよい。
【0041】
窒化ホウ素粉末の含有量の下限値は、樹脂組成物の全体積を基準として、例えば、30体積%以上、40体積%以上、50体積%以上、又は60体積%以上であってよい。窒化ホウ素粉末の含有量の下限値が上記範囲内であることで、樹脂組成物の熱伝導率を向上させ、優れた放熱性を有する成形体を得られ得る。窒化ホウ素粉末の含有量の上限値は、樹脂組成物の全体積を基準として、例えば、85体積%以下、80体積%以下、又は70体積%以下であってよい。窒化ホウ素粉末の含有量の上限値が上記範囲内であることで、樹脂組成物の成形性が低下することを抑制できる。
【0042】
樹脂組成物は、樹脂及び窒化ホウ素粉末に加えて、上記樹脂を硬化させる硬化剤を更に含有してよい。硬化剤は、樹脂の種類によって適宜選択することができる。樹脂がエポキシ樹脂である場合、硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック化合物、酸無水物、アミノ化合物、及びイミダゾール化合物等が挙げられる。硬化剤の含有量の下限値は、樹脂100質量部に対して、例えば、0.5質量部以上、又は1.0質量部以上であってよい。硬化剤の含有量の上限値は、樹脂100質量部に対して、例えば、15.0質量部以下、又は10.0質量部以下であってよい。
【0043】
上述の窒化ホウ素粉末は、例えば、炭化ホウ素を、窒素を含む雰囲気下で焼成し、炭窒化ホウ素を経由して脱炭することによって窒化ホウ素を製造する方法(以下、B4C法ともいう)を応用することによって製造することができる。より具体的には、ホウ酸等の助剤と炭窒化ホウ素との混合物を焼成する前に、予め、酸素を含む雰囲気下において炭窒化ホウ素を焼成し炭窒化ホウ素中の炭素を低減させ、炭素含有量を低減した炭窒化ホウ素を、従来よりも配合量を高めたホウ酸と焼成する、又は、ホウ酸に加えて、凝集粒子の圧壊強さの調整剤としての炭酸カルシウムと共に焼成することによって、上述の窒化ホウ素粉末を調製できる。
【0044】
窒化ホウ素粉末の一実施形態は、炭化ホウ素粉末を、窒素加圧雰囲気下で2000~2300℃の温度で焼成して炭窒化ホウ素粉末を得る工程(以下、加圧窒化工程ともいう)と、酸素を含む雰囲気下で、炭窒化ホウ素粉末を600~1000℃の温度で焼成して、焼成物を得る工程(以下、炭素低減工程ともいう)と、上記焼成物とホウ素源(例えば、ホウ酸)とを含む混合物を1900℃以上の温度で加熱することによって、窒化ホウ素の一次粒子を生成し、上記一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を得る工程(以下、結晶化工程ともいう)と、を有し、上記ホウ酸の含有量が上記混合物の全量を基準として32質量%以上である、窒化ホウ素粉末の製造方法を提供する。
【0045】
加圧窒化工程では、炭化ホウ素粉末(B4C粉末)を、窒素加圧雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素粉末(B4CN4粉末)を得る。加圧窒化工程における焼成温度の下限値は、2000℃以上、又は2100℃以上であってよい。上記焼成温度の下限値を上記範囲内とすることで、得られる炭窒化ホウ素の結晶性を高め、六方晶炭窒化ホウ素の割合を高めることができる。加圧窒化工程において、六方晶炭窒化ホウ素の割合を高めておくことによって、窒化ホウ素粉末の放熱性をより向上させることができる。加圧窒化工程における焼成温度の上限値は、2300℃以下、又は2250℃以下であってよい。当該焼成温度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、2000~2300℃であってよい。
【0046】
加圧窒化工程における圧力(雰囲気圧力)の下限値は、例えば、0.60MPa以上、0.70MPa以上、又は0.80MPa以上であってよい。加圧窒化工程における圧力の下限値を上記範囲内とすることで、炭化ホウ素の窒化を十分に進行させることができる。加圧窒化工程における圧力(雰囲気圧力)の上限値は、例えば、1.00MPa以下、又は0.90MPa以下であってよい。加圧窒化工程における圧力の上限値を上記範囲内とすることで、窒化ホウ素粉末の製造コストの上昇を抑制することができる。当該圧力は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.60~1.00MPa、又は0.80~0.90MPaであってよい。
【0047】
加圧窒化工程における窒素加圧雰囲気の窒素ガス濃度は、例えば、95体積%以上、98体積%以上、又は99.9体積%以上であってよい。加圧窒化工程における焼成時間は、窒化が十分進む範囲であれば特に限定されず、例えば、6~30時間、8~25時間、又は10~20時間であってよい。
【0048】
本実施形態における窒化ホウ素粉末の製造方法においては、上述の加圧窒化工程に代えて、別途調製された炭窒化ホウ素粉末又は市販の炭窒化ホウ素粉末を使用することもできる。この場合、加圧窒化工程は省略することができる。
【0049】
炭素低減工程では、炭窒化ホウ素粉末を、酸素を含む雰囲気下で焼成することによって、炭窒化ホウ素粉末における炭素の少なくとも一部を脱炭し、炭窒化ホウ素粉末における炭素含有量を低減する。炭素低減工程を有することによって、続く結晶化工程における脱炭の効率を向上させることができる。本工程によって得られる焼成物は、炭窒化ホウ素及び窒化ホウ素を含む。炭窒化ホウ素粉末中の炭素含有量が低減されることによって結晶化工程での収率向上が見込めるだけでなく、使用する原料のホウ素源量を低減することが可能となり、焼成に使用する炉の負担を軽減することができる点から製品の合成に係る費用を抑制できる。
【0050】
炭素低減工程における酸素を含む雰囲気は、例えば、大気等であってよい。炭素低減工程における圧力(雰囲気圧力)は、例えば、0.1~0.5MPa、0.1~0.3MPa、又は0.1~0.2MPaであってよく、大気圧(0.1MPa)であってよい。
【0051】
炭素低減工程における焼成温度の下限値は、例えば、600℃以上、650℃以上、又は700℃以上であってよい。当該焼成温度の下限値が上記範囲内であることで、炭窒化ホウ素中の炭素の含有量をより低減することができる。炭素低減工程における焼成温度の上限値は、例えば、1000℃以下、又は950℃以下であってよい。当該焼成温度の上限値が上記範囲内であることで焼成後の炭窒化ホウ素の酸化を抑制できる。
【0052】
炭素低減工程における焼成時間の下限は、例えば、6時間以上、又は7時間以上であってよい。当該焼成時間の下限値が上記範囲内であることで、炭窒化ホウ素中の炭素含有量を充分に低減することが可能となる。また、当該焼成時間の上限は特に限定されないが、例えば、20時間以下、又は15時間以下であってよい。当該焼成時間の上限が上記範囲内であると、当該工程の処理効率が低下することをより十分に抑制できる。
【0053】
結晶化工程は、炭素低減工程で得られた上記焼成物とホウ素源とを含む混合物を加熱することによって、窒化ホウ素の一次粒子を生成し、上記一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を得る。すなわち、結晶化工程では、炭窒化ホウ素を脱炭化させるとともに、窒化ホウ素の結晶化度を高め、所定の窒化ホウ素一次粒子が凝集した凝集粒子を含む窒化ホウ素粉末を得る。
【0054】
ホウ素源は、例えば、ホウ酸及び酸化ホウ素からなる群より選択される少なくとも一種を含んでよい。ホウ素源は、より具体的には、ホウ酸、酸化ホウ素、又はこれらの混合物が挙げられる。結晶化工程で加熱する混合物は、炭窒化ホウ素及びホウ素源に加えて、B4C法において使用される公知の添加物を含有してもよい。
【0055】
混合物におけるホウ素源の配合量は、上記混合物の全量を基準として、32質量%以上である。ホウ素源の配合量の下限値は、上記混合物の全量を基準として、例えば、34質量%以上、又は36質量%以上であってよい。ホウ素源の配合量の下限値を上記範囲内とすることで、窒化ホウ素の一次粒子の粒子成長を促進し、比表面積の大きな凝集粒子を調製することができ、更には得られる凝集粒子の圧壊強さを低減することができる。混合物におけるホウ素源の配合量の上限値は、上記混合物の全量を基準として、例えば、50質量%以下、45質量%以下、又は40質量%以下であってよい。ホウ素源の配合量の上限値を上記範囲内とすることで、得られる凝集粒子の圧壊強さが本明細書中で規定の範囲よりも低下することをより抑制し、窒化ホウ素粉末の取扱い性が低下することを十分に抑制できる。混合物におけるホウ素源の配合量は上述の範囲内で調整してよく、上記混合物の全量を基準として、例えば、32~50質量%、34~50質量%、又は36~45質量%であってよい。
【0056】
結晶化工程において混合物を加熱する焼成温度の下限値は、例えば、1900℃以上、又は2000℃以上であってもよい。当該焼成温度の下限値を上記範囲内とすることで、粒成長を十分に進行させることができる。結晶化工程において混合物を加熱する焼成温度の上限値は、例えば、2200℃以下、又は2150℃以下であってよい。当該焼成温度の上限値を上記範囲内とすることで、窒化ホウ素粉末の黄色化を抑制ことができる。結晶化工程における焼成温度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、1900~2200℃、又は2000~2150℃であってよい。結晶化工程における混合物を加熱する焼成温度は、加圧窒化工程における炭化ホウ素粉末の焼成温度よりも低いことが好ましい。
【0057】
結晶化工程は、常圧下で行ってもよく、また加圧し大気圧以上の圧力で行ってもよい。なお、本明細書中における雰囲気圧力は全てゲージ圧を示している。結晶化工程における圧力(雰囲気圧力)の下限値は、例えば、10kPa以上、15kPa以上、又は20kPa以上であってよい。上記圧力の下限値を上記範囲内とすることで、ホウ酸等の助剤が系外に除去されることを抑制し、窒化ホウ素粒子の反応場をより一層均一なものとすることができる。結晶化工程における圧力(雰囲気圧力)の上限値は、例えば、80kPa以下、60kPa以下、又は40kPa以下であってよい。上記圧力の上限値を上記範囲内とすることで、結晶化工程中に凝集粒子が崩壊することをより抑制することができる。結晶化工程における圧力(雰囲気圧力)は上述の範囲内で調整してよく、例えば、10~80kPa、10~60kPa、又は20~40kPaであってよい。
【0058】
結晶化工程における焼成時間の下限値は、例えば、0.5時間以上、1.0時間以上、又は3.0時間以上であってよい。当該焼成時間の下限値を上記範囲内とすることで、粒成長を十分に進行させることができる。結晶化工程における焼成時間の上限値は、例えば、40.0時間以下、30.0時間以下、20.0時間以下、又は10.0時間以下であってよい。当該焼成時間の上限値を上記範囲内とすることで、製造コストの上昇を抑制することができる。当該焼成時間は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.5~40.0時間、又は1.0~30.0時間であってよい。
【0059】
窒化ホウ素粉末の製造方法は、その他の工程を有してもよい。その他の工程としては、例えば、粉砕工程、及び分級工程等が挙げられる。窒化ホウ素粉末の製造方法では、例えば、結晶化工程の後に、粉砕工程を行ってもよい。粉砕工程においては、一般的な粉砕機又は解砕機を用いることができる。例えば、ボールミル、振動ミル、ジェットミル等を用いることができる。なお、本明細書における「粉砕」には「解砕」も含むものとする。
【0060】
窒化ホウ素粉末の一実施形態は、炭化ホウ素粉末を、窒素加圧雰囲気下で2000~2300℃の温度で焼成して炭窒化ホウ素粉末を得る工程と、酸素を含む雰囲気下で、炭窒化ホウ素粉末を600~1000℃の温度で焼成して、焼成物を得る工程と、上記焼成物、ホウ素源(例えば、ホウ酸)、及び炭酸カルシウムを含む混合物を2000℃以上の温度で加熱することによって、窒化ホウ素の一次粒子を生成し、上記一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を得る工程(以下、結晶化工程ともいう)と、を有する。本実施形態における炭窒化ホウ素粉末を得る工程及び焼成物を得る工程は、それぞれ、上述の加圧窒化工程及び炭素低減工程の説明を適用できる。本実施形態に係る製造方法は、ホウ酸に加えて、凝集粒子の圧壊強さの調整剤としての炭酸カルシウムを、炭素含有量が低減された炭窒化ホウ素粉末と共に焼成する点で、上述の製造方法と異なる。この点について、以下に説明する。
【0061】
本実施形態における結晶化工程は、凝集粒子の圧壊強さの調整剤としての炭酸カルシウム(CaCO3)を、炭窒化ホウ素を含む上記焼成物及びホウ素源と共に焼成してもよい。本発明者らの検討によって、炭窒化ホウ素の脱炭及び窒化ホウ素の結晶化が行われる固体-液体反応において、炭酸カルシウムを添加することで得られる凝集粒子の圧壊強さを容易に調整できることが見い出された。すなわち、炭酸カルシウムは、窒化ホウ素の凝集粒子の圧壊強さの調整剤として機能する。また、炭酸カルシウムを添加することで、ホウ素源の配合量を低減した場合であっても、窒化ホウ素の一次粒子の粒成長が十分に促進されるため、本実施形態においては、ホウ素源の配合量を少なくしてもよい。
【0062】
混合物における炭酸カルシウムの配合量の上限値は、上記焼成物の全量を基準として、例えば、4.0質量%以下、3.5質量%以下、又は3.0質量%以下であってよい。炭酸カルシウムの配合量の上限値を上記範囲内とすることで、窒化ホウ素の一次粒子の粒子成長を促進し、比表面積の大きな凝集粒子を調製することができ、更には得られる凝集粒子の圧壊強さを低減することができる。混合物における炭酸カルシウムの配合量の下限値は、上記焼成物の全量を基準として、例えば、0.5質量%以上、0.8質量%以上、又は1.0質量%以上であってよい。炭酸カルシウムの配合量の下限値を上記範囲内とすることで、得られる凝集粒子の圧壊強さが低下し、窒化ホウ素粉末の配向性指数の上昇を抑制することができる。混合物における炭酸カルシウムの配合量は上述の範囲内で調整してよく、上記焼成物の全量を基準として、例えば、0.5~4.0質量%、0.6~6.0質量%、又は0.8~8.0質量%であってよい。
【0063】
上記混合物の調製は、炭酸カルシウムを炭窒化ホウ素に均一に作用させる観点から、ボールミル、低周波共振音響ミキサー等を用いてもよい。ホウ素源、炭酸カルシウム及び上記焼成物をボールミル等によって混合し、混合物を調製することで、凝集粒子の圧壊強さをより均一にすることができる。
【0064】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、共通する構成については互いの説明を適用することができる。また本開示は、上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0065】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
[炭化ホウ素粉末の作製]
オルトホウ酸(日本電工株式会社製、以下、単に「ホウ酸」という。)100質量部と、アセチレンブラック(HS100、デンカ株式会社製)35質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合したのち、黒鉛ルツボ中に充填した。この黒鉛ルツボをアーク炉に入れ、アルゴン雰囲気で、2200℃にて5時間加熱し、塊状の炭化ホウ素(B4C)粉末を合成した。合成した塊状の炭化ホウ素粉末をボールミルで1時間粉砕し、篩網を用いて粒径45μm以下に篩分けした。篩分け後の炭化ホウ素粉末を更に硝酸水溶液で洗浄して鉄分等の不純物を除去し、濾過及び乾燥させることによって、平均粒子径24.5μmの炭化ホウ素粉末(B4C粉末)を作製した。
【0067】
[炭窒化ホウ素粉末の作製]
作製した炭化ホウ素粉末を窒化ホウ素ルツボに充填した。抵抗加熱炉を用い、窒素ガスの雰囲気で、2100℃、0.85MPaの条件で炭化ホウ素粉末を25時間加熱すること(加圧窒化工程)によって、炭窒化ホウ素(B4CN4)粉末を得た。
【0068】
得られた炭窒化ホウ素粉末を、大気雰囲気下で、850℃、常圧条件下で、12時間加熱すること(炭素低減工程)によって、焼成物を得た。
【0069】
[窒化ホウ素粉末の作製]
上記焼成物とホウ素源の混合物100質量%に対して、ホウ素源であるホウ酸の配合量が36質量%となるようにホウ酸を添加し、ヘンシェルミキサーによって混合して、混合物を得た。混合物を窒化ホウ素ルツボに充填し、抵抗加熱炉を用いて加熱することによって脱炭して、一次粒子が凝集した凝集粒子を有する窒化ホウ素粉末を合成した(結晶化工程)。結晶化工程における条件としては、圧力13kPaの窒素ガスの雰囲気で、室温から2000℃まで昇温し、2000℃において5時間保持した。合成した窒化ホウ素粉末を乳鉢によって10分間解砕した後、篩目75μmのナイロン篩にて分級を行った。このようにして、平均粒子径が39μmである窒化ホウ素粉末を得た。
【0070】
(実施例2~4、比較例1、2)
ホウ素源であるホウ酸の配合量及び結晶化工程における圧力を表1に記載したとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にして、窒化ホウ素粉末を調製した。
【0071】
(実施例5、比較例3,5,6)
ホウ素源であるホウ酸に加えて、圧壊強さの調整剤としての炭酸カルシウムを配合し、ホウ素源であるホウ酸の配合量、及び圧壊強さの調整剤として炭酸カルシウムの配合量を表1に記載したとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして窒化ホウ素粉末を調製した。
【0072】
(比較例4)
製造工程中の炭窒化ホウ素の炭素低減工程を行わず、結晶化工程における原料ホウ酸源の配合量を、炭窒化ホウ素とホウ素源であるホウ酸の混合物100質量%に対して60質量%としたこと以外は実施例1と同様にして窒化ホウ素粉末を調製した。
【0073】
<窒化ホウ素粉末の評価>
実施例1~5、及び比較例1~6で調製した窒化ホウ素粉末のそれぞれについて、凝集粒子の圧壊強さ、比表面積、及び配向性指数を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
<窒化ホウ素粉末の充填材としての評価>
実施例1~5、及び比較例1~6で調製した窒化ホウ素粉末のそれぞれを用いて調製した樹脂組成物を用いて、評価用シートを作成した。そして、後述する方法によって、成形体における相対密度、成形体の絶縁破壊電圧の測定及び絶縁性の評価、並びに、成形体の熱伝導率の測定及び放熱性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
[評価用シートの調製]
ナフタレン型エポキシ樹脂(DIC社製、HP4032)100質量部と、硬化剤としてイミダゾール化合物(四国化成社製、2E4MZ-CN)10質量部との混合物に対し、窒化ホウ素粉末が60体積%となるように混合して樹脂組成物を得た。樹脂との混練には株式会社シンキー製のあわとり練太郎を用いた。混練の条件は、1600rpmで3分間とした。得られた樹脂組成物をPETフィルム上に厚さが0.3mmになるように塗布した。その後、温度150℃、50kgf/cm2の条件で60分間の比較的温和な条件で加熱及び加圧を行うことによって、0.3mmの樹脂シート(評価用シート)を作製した。
【0076】
[成形体の相対密度の測定]
上記評価用シートの相対密度の測定を行った。相対密度は、アルキメデス法に基づいて測定される実測密度、及び理論密度の値から、(相対密度)={(実測密度)/(理論密度)}×100の式に基づいて算出した。理論密度は、窒化ホウ素粉末を60体積%、エポキシ樹脂が40体積%となるように配合したことから、1.842[g/cm3](=窒化ホウ素の理論密度(2.27g/cm3)×0.60+エポキシ樹脂の密度(1.2g/cm3)×0.40)を用いた。
【0077】
[絶縁破壊電圧の測定、及び絶縁性の評価]
上記評価用シートについて絶縁破壊電圧の測定を行った。得られた評価用シートを対象として、JIS C 6481-1996「プリント配線板用銅張積層板試験方法」の記載に準拠して、耐圧試験器(菊水電子工業株式会社製、装置名:TOS-8650)を用い、絶縁破壊電圧を測定した。絶縁性は、比較例1で調製した窒化ホウ素粉末を用いた評価用シートの絶縁破壊電圧を基準とした相対値で評価した。
【0078】
[熱伝導率の測定、及び放熱性の評価]
上記評価用シートを対象として、熱伝導率の測定を行った。熱伝導率H(単位:W/(m・K))は、熱拡散率A(単位:m2/秒)、密度B(単位:kg/m3)、及び比熱容量C(単位:J/(kg・K))の値から、H=A×B×Cの式に基づいて算出した。熱拡散率Aは、評価用シートを縦:10mm、横:10mm、厚さ:0.3mmに加工し、レーザーフラッシュ法によって求めた。測定装置は、キセノンフラッシュアナライザ(NETZSCH社製、製品名:LFA447NanoFlash)を用いた。密度Bは、アルキメデス法を用いて求めた。比熱容量Cは、DSC(株式会社リガク製、製品名:ThermoPlusEvoDSC8230)を用いて求めた。放熱性は、比較例1で調製した窒化ホウ素粉末を用いた評価用シートの熱伝導率を基準とした相対値で評価した。
【0079】
【産業上の利用可能性】
【0080】
本開示によれば、混練やシート成形における条件を緩和した場合であっても、絶縁性及び放熱性に優れる成形体を提供可能な窒化ホウ素粉末、及びその製造方法を提供できる。本開示によればまた、上述の窒化ホウ素粉末を含む新規樹脂組成物を提供できる。