(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】風制御システムおよび風制御方法
(51)【国際特許分類】
F24F 11/81 20180101AFI20241219BHJP
F24F 11/46 20180101ALI20241219BHJP
F24F 11/64 20180101ALI20241219BHJP
F24F 110/10 20180101ALN20241219BHJP
F24F 110/30 20180101ALN20241219BHJP
F24F 140/60 20180101ALN20241219BHJP
F24F 140/40 20180101ALN20241219BHJP
【FI】
F24F11/81
F24F11/46
F24F11/64
F24F110:10
F24F110:30
F24F140:60
F24F140:40
(21)【出願番号】P 2021103931
(22)【出願日】2021-06-23
【審査請求日】2024-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩村 卓嗣
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 正樹
【審査官】佐藤 正浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-282959(JP,A)
【文献】特開平03-263541(JP,A)
【文献】特開平08-200782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/81
F24F 11/46
F24F 11/64
F24F 110/10
F24F 110/30
F24F 140/60
F24F 140/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内に配置されている生産機器と、
前記室内に給気する空調機と、
前記室内の温度を計測する温度計と、
前記室内に所定風量の風を供給する可変風量装置と、
前記可変風量装置を制御する風制御装置と、を備え、
前記風制御装置は、
前記生産機器の発熱量を計算する計算部と、
前記可変風量装置が供給する風の風量を決定する決定部と、を備え、
前記決定部は、前記室内の温度が下降中であり、かつ、前記計算された発熱量が前記生産機器の顕熱の最大値を下回る場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を低減させ、前記室内の温度が上昇中であり、かつ、前記計算された発熱量が上昇した場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を増大させる風制御システム。
【請求項2】
前記計算部は、前記生産機器を撮影するサーモカメラが計測した前記生産機器の表面温度を用いて前記生産機器の発熱量を計算する請求項1に記載の風制御システム。
【請求項3】
前記計算部は、前記生産機器に接続された電流計が計測した電流値を用いて前記生産機器の発熱量を計算する請求項1に記載の風制御システム。
【請求項4】
前記可変風量装置が供給する風の温度を制御するターミナルヒータを備え、
前記決定部は、前記室内に供給される風量が、前記室内の清浄度を所定レベル以上にするのに必要となる風量の最小値であり、かつ、前記室内の温度が目標温度を下回る場合には、前記ターミナルヒータを制御して前記室内の温度を上昇させる請求項1から請求項3の何れか1項に記載の風制御システム。
【請求項5】
前記決定部は、前記室内の温度が下降中であり、かつ、前記計算された発熱量が前記生産機器の顕熱の最大値を下回り、なおかつ、目標温度を下回る場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を低減させ、前記室内の温度が上昇中であり、かつ、前記計算された発熱量が上昇し、なおかつ、前記目標温度を上回る場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を増大させる請求項1から請求項4の何れか1項に記載の風制御システム。
【請求項6】
前記室内がクリーンルームである請求項1から請求項5の何れか1項に記載の風制御システム。
【請求項7】
クリーンルームに配置されている生産機器と、
前記クリーンルームに給気する空調機と、
前記クリーンルームの温度を計測する温度計と、
前記クリーンルームに所定風量の風を供給する可変風量装置と、
前記可変風量装置を制御する風制御装置と、を備え、
前記風制御装置は、
前記可変風量装置が供給する風の風量を決定する決定部と、を備え、
前記決定部は、前記クリーンルームの温度が下降中であり、かつ、目標温度を下回る場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を低減させ、前記クリーンルームの温度が上昇中であり、かつ、前記目標温度を上回る場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を増大させる風制御システム。
【請求項8】
風制御装置が、
室内に配置されている生産機器の発熱量を計算する計算ステップと、
可変風量装置が前記室内に供給する風の風量を決定する決定ステップと、を実行し、
前記決定ステップにて、前記室内の温度が下降中であり、かつ、前記計算された発熱量が前記生産機器の顕熱の最大値を下回る場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を低減させ、前記室内の温度が上昇中であり、かつ、前記計算された発熱量が上昇した場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を増大させる風制御方法。
【請求項9】
風制御装置が、
クリーンルームに配置されている生産機器の発熱量を計算する計算ステップと、
可変風量装置が前記クリーンルームに供給する風の風量を決定する決定ステップと、を実行し、
前記決定ステップにて、前記クリーンルームの温度が下降中であり、かつ、目標温度を下回る場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を低減させ、前記クリーンルームの温度が上昇中であり、かつ、前記目標温度を上回る場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を増大させる風制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風制御システムおよび風制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物の室内に供給する風の風量を制御し、室内の温度を制御する技術の研究や開発が盛んである。例えば、特許文献1には、「熱交換器(11)と、送風ファン(12)とを内蔵する主空調機(1)を、各空調空間に配設した複数の風量調節ユニット(3)と連通連結し、各風量調節ユニット(3)に各空調空間への吐出風量を調節するダンパ装置を設け、かつ、各空調空間に空間温度設定手段(5)と空間温度センサ(4)とを設け、同設定温度値とセンサ出力との比較値に基づいて、制御手段を介してダンパ装置を駆動制御し、各風量調節ユニット(3)から各空調空間への吐出風量を調整するように構成した空調システムにおいて、上記比較値に基づいて、さらに制御手段に、全風量調節ユニット(3)が必要とする合計必要風量を演算させ、同演算値に基づいて、主空調機(1)の送風ファン(12)の駆動制御も併せて行うようにしたことを特徴とする空調システム」について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建物の室内に生産機器が配置されている場合、室内の温度は生産機器からの発熱量によって変化する。よって、室内の温度を制御する場合、生産機器からの発熱量を加味して室内に供給する風の風量を制御することが好ましい。しかし、特許文献1の発明を含む従来技術に関しては、生産機器からの発熱量が考慮されていなかった。このため、室内の温度制御に関するエネルギ消費が大きいという問題があった。
特に、建物の室内が医薬品製造工場や半導体製造工場などのクリーンルームである場合、室内の温度管理を厳格に行うことが要求されることが多い。従来では、クリーンルームに配置された生産機器からの発熱量を考慮することなく前記要求を満たしていた。その結果、クリーンルームの温度の制御に関するエネルギ消費が大きいという問題があった。
このような観点から、本発明は、室内の温度制御に要するエネルギ消費を低減する風制御システムおよび風制御方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明は、室内に配置されている生産機器と、前記室内に給気する空調機と、前記室内の温度を計測する温度計と、前記室内に所定風量の風を供給する可変風量装置と、前記可変風量装置を制御する風制御装置と、を備え、前記風制御装置は、前記生産機器の発熱量を計算する計算部と、前記可変風量装置が供給する風の風量を決定する決定部と、を備え、前記決定部は、前記室内の温度が下降中であり、かつ、前記計算された発熱量が前記生産機器の顕熱の最大値を下回る場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を低減させ、前記室内の温度が上昇中であり、かつ、前記計算された発熱量が上昇した場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を増大させる風制御システムである。
また、本発明は、風制御装置が、室内に配置されている生産機器の発熱量を計算する計算ステップと、可変風量装置が前記室内に供給する風の風量を決定する決定ステップと、を実行し、前記決定ステップにて、前記室内の温度が下降中であり、かつ、前記計算された発熱量が前記生産機器の顕熱の最大値を下回る場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を低減させ、前記室内の温度が上昇中であり、かつ、前記計算された発熱量が上昇した場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を増大させる風制御方法である。
かかる構成によれば、風制御装置は、生産機器の発熱量に応じて可変風量装置による風量のフィードフォワード制御をすることができる。室内の温度が下降中(所定時間Δtあたりの温度変化が負の値)であり、計算された発熱量が生産機器の顕熱の最大値を下回る場合には、可変風量装置の風量を最大値にしなくとも室内の温度を目標温度にすることができる。このため、風量を低減させることで、可変風量装置のエネルギ消費を低減させることができる。また、室内の温度が上昇中(所定時間Δtあたりの温度変化が正の値)であり、計算された発熱量が上昇した場合(所定時間Δtあたりの発熱量の変化量が正の値)には可変風量装置を制御して風量を増大させることで、室内の温度を目標温度にしつつも、風量を増大させる機会を最小限に抑えることができる。このため、長期的にみれば、可変風量装置のエネルギ消費を低減させることができる。
したがって、室内の温度制御に要するエネルギ消費を低減することができる。
【0006】
また、前記計算部は、前記生産機器を撮影するサーモカメラが計測した前記生産機器の表面温度を用いて前記生産機器の発熱量を計算することが好ましい。
かかる構成によれば、生産機器の発熱量を計算する構成を簡易にできる。
【0007】
また、前記計算部は、前記生産機器に接続された電流計が計測した電流値を用いて前記生産機器の発熱量を計算することが好ましい。
かかる構成によれば、生産機器の発熱量を計算する構成を簡易にできる。
【0008】
また、前記可変風量装置が供給する風の温度を制御するターミナルヒータを備え、前記決定部は、前記室内に供給される風量が、前記室内の清浄度を所定レベル以上にするのに必要となる風量の最小値であり、かつ、前記室内の温度が目標温度を下回る場合には、前記ターミナルヒータを制御して前記室内の温度を上昇させることが好ましい。
かかる構成によれば、可変風量装置の風量の制御だけでは室内の温度を目標温度に到達させることができなくても、ターミナルヒータを制御することで、目標温度に確実に到達させることができる。換言すれば、ターミナルヒータを駆動させる機会を最小限に抑えることができる。よって、風制御システム全体のエネルギ消費を低減することができる。
【0009】
また、前記決定部は、前記室内の温度が下降中であり、かつ、前記計算された発熱量が前記生産機器の顕熱の最大値を下回り、なおかつ、目標温度を下回る場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を低減させ、前記室内の温度が上昇中であり、かつ、前記計算された発熱量が上昇し、なおかつ、前記目標温度を上回る場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を増大させることが好ましい。
かかる構成によれば、風制御装置は、可変風量装置による風量のフィードバック制御をすることができる。室内の温度が下降中であり、かつ、前記計算された発熱量が前記生産機器の顕熱の最大値を下回り、なおかつ、目標温度を下回る場合には、可変風量装置の風量を最大値にしなくとも室内の温度を目標温度にすることができる。このため、風量を低減させることで、可変風量装置のエネルギ消費を低減させることができる。また、室内の温度が上昇中であり、かつ、前記計算された発熱量が上昇し、なおかつ、目標温度を上回る場合には可変風量装置を制御して風量を増大させることで、室内の温度を目標温度にしつつも、風量を増大させる機会を最小限に抑えることができる。このため、長期的にみれば、可変風量装置のエネルギ消費を低減させることができる。
【0010】
また、前記室内がクリーンルームであることが好ましい。
かかる構成によれば、クリーンルームの温度の制御に関するエネルギ消費を低減することができる。
【0011】
また、本発明は、クリーンルームに配置されている生産機器と、前記クリーンルームに給気する空調機と、前記クリーンルームの温度を計測する温度計と、前記クリーンルームに所定風量の風を供給する可変風量装置と、前記可変風量装置を制御する風制御装置と、を備え、前記風制御装置は、前記可変風量装置が供給する風の風量を決定する決定部と、を備え、前記決定部は、前記クリーンルームの温度が下降中であり、かつ、目標温度を下回る場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を低減させ、前記クリーンルームの温度が上昇中であり、かつ、前記目標温度を上回る場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を増大させる風制御システムである。
また、本発明は、風制御装置が、クリーンルームに配置されている生産機器の発熱量を計算する計算ステップと、可変風量装置が前記クリーンルームに供給する風の風量を決定する決定ステップと、を実行し、前記決定ステップにて、前記クリーンルームの温度が下降中であり、かつ、目標温度を下回る場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を低減させ、前記クリーンルームの温度が上昇中であり、かつ、前記目標温度を上回る場合には前記可変風量装置を制御して前記風量を増大させる風制御方法である。
かかる構成によれば、風制御装置は、可変風量装置による風量のフィードバック制御をすることができる。クリーンルームの温度が下降中であり、かつ、目標温度を下回る場合には、可変風量装置の風量を最大値にしなくともクリーンルームの温度を目標温度にすることができる。このため、風量を低減させることで、可変風量装置のエネルギ消費を低減させることができる。また、クリーンルームの温度が上昇中であり、かつ、目標温度を上回る場合には可変風量装置を制御して風量を増大させることで、クリーンルームの温度を目標温度にしつつも、風量を増大させる機会を最小限に抑えることができる。このため、長期的にみれば、可変風量装置のエネルギ消費を低減させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、室内の温度制御に要するエネルギ消費を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】室温下降時におけるフィードフォワード制御のフローチャートである。
【
図3】室温上昇時におけるフィードフォワード制御のフローチャートである。
【
図4】フィードフォワード制御による風量の変化を示すグラフである。
【
図5】室温下降時におけるフィードバック制御のフローチャートである。
【
図6】室温上昇時におけるフィードバック制御のフローチャートである。
【
図7】フィードバック制御による風量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0015】
[構成]
図1に示すように、本実施形態の風制御システム100は、建物の室内Rに吹き出す風の風量を制御するシステムである。建物は、例えば、医薬品製造工場や半導体製造工場である。室内Rは、例えば、所定レベル以上の清浄度を必要とするクリーンルームである。
風制御システム100は、生産機器1と、空調機2と、温度計3と、VAV4と、風制御装置5と、サーモカメラ6と、ターミナルヒータ7と、電流計8とを備えている。
生産機器1は、稼働すると所定量だけ発熱する機器である。生産機器1は、室内Rに1または複数台配置されている。
空調機2は、室内Rに給気する機器である。
温度計3は、室内Rの温度、つまり、室温を計測する。
VAV4は、室内Rに所定風量の風を供給する可変風量装置(variable air volume system)である。
風制御装置5は、VAV4を制御する。風制御装置5は、計算部51と、決定部52とを備えている。計算部51は生産機器1の発熱量を計算する。決定部52は、VAV4が供給する風の風量を決定する。計算部51および決定部52は、例えば、風制御装置5が備える制御盤(図示略)に実装できる。
サーモカメラ6は、生産機器1を撮影し、生産機器1の表面温度を計測できる。
ターミナルヒータ7は、VAV4が供給する風の温度を制御する。ターミナルヒータ7の後段には、室内Rの吹出口Vが配置されており、吹出口Vから室内Rに風が吹き出される。
電流計8は、生産機器1に接続し生産機器1の電流値を計測する。また、電流計8は、生産機器1の電源となる電動機(図示略)にも接続している。
【0016】
風制御装置5は、温度計3が計測した室温のデータを取得できる。また、風制御装置5は、サーモカメラ6が計測した生産機器1の表面温度のデータを取得できる。また、風制御装置5は、電流計8が計測した生産機器1の電流値のデータを取得できる。
風制御装置540は、入力部、出力部、制御部、および、記憶部といったハードウェアを備える。例えば、制御部がCPU(Central Processing Unit)から構成される場合、その制御部を含むコンピュータによる情報処理は、CPUによるプログラム実行処理で実現される。また、そのコンピュータに含まれる記憶部は、CPUの指令により、そのコンピュータの機能を実現するためのさまざまなプログラムを記憶する。これによりソフトウェアとハードウェアの協働が実現される。前記プログラムは、記録媒体に記録したり、ネットワークを経由したりすることで提供可能となる。出力部は、画面表示をする表示部の機能を含めてもよい。
【0017】
(風量制御)
決定部52は、VAV4の単位時間(例えば1時間)当たりの供給回数を決定することで、所定期間に室内Rに供給する風の風量を決定できる。1回で供給される風の風量は、例えば、室内Rの容積分とし、室内Rの空気を入れ替え可能な風量とすることができるが、これに限定されない。また、1回分の風の供給に要する時間は適宜設定できる。例えば、室内Rへの風の供給が連続するように、1回分の風の供給に要する時間を設定できる。具体的には、室内Rへの単位時間当たりの供給回数を20回とした場合、1回分の風の供給に要する時間を3分間と設定できる。
また、決定部52は、所定期間に室内Rに供給する風の風量の最大値(以下、単に、「風量の最大値」と呼ぶ場合がある)を決定できる。例えば、風量の最大値は、生産機器1の顕熱の最大値に基づいて設定できる。つまり、生産機器1からどれだけ大きな発熱があっても室内Rの室温を制御可能となるように風量の最大値を設定できる。例えば、風量の最大値は、単位時間当たりの供給回数を30回とすることができる。
また、決定部52は、所定期間に室内Rに供給する風の風量の最小値(以下、単に、「風量の最小値」と呼ぶ場合がある)を決定できる。例えば、風量の最小値は、室内Rの清浄度の所望レベルに基づいて設定できる。つまり、室内Rの最低限必要となる清浄度を達成可能となるように風量の最小値(最低換気風量)を設定できる。例えば、風量の最小値は、単位時間当たりの供給回数を15回とすることができる。
【0018】
(発熱量の計算(その1))
計算部51は、サーモカメラ6が計測した生産機器1の表面温度を用いて生産機器1の発熱量を計算できる。例えば、計算部51は、下記式1を用いて生産機器1の発熱量を計算できる。
qs = ε・σ・(Tr + 273)4・Ar
= ε・Cb・{(Tr + 273)/100}4・Ar
= C・{(Tr + 273)/100}4・Ar ・・・式1
ここで、qsは、生産機器1の発熱量(放射電熱量)[W]である。εは、灰色体の放射率である。σは、ステファン・ボルツマン定数(5.67×10-8[W/(m2・K4)])である。Trは、生産機器表面温度[℃]である。Arは、生産機器表面積[m2]である。Cbは、黒体の放射定数(5.67[W/(m2・K4)])である。Cは、灰色体の放射定数である。サーモカメラ6は、生産機器1の撮影画像に基づいてTrとArを計測できる。生産機器1が複数存在する場合には、発熱量は、式1から得られる生産機器1の各々の発熱量の合計値となる。
【0019】
(発熱量の計算(その2))
電流計8が計測した電流値、つまり、生産機器1の消費電力(または生産機器1の発熱量)と室温との間に相関関係があることが確認されている。具体的には、生産機器1の消費電力(または生産機器1の発熱量)が大きいほど、(定常状態に達した)室温が上昇する傾向が確認されている。なお、風制御装置5は、生産機器1の消費電力(または生産機器1の発熱量)と室温との間の相関関係を示すマップを学習器として記憶している。風制御装置5は、室温設定のフィードフォワード制御にマップを活用できる。
計算部51は、生産機器1に接続された電流計8が計測した電流値を用いて生産機器1の発熱量を計算できる。電流値を用いた生産機器1の発熱量の計算は、生産機器1に電力を供給する電動機(図示略)の発熱量の計算を必要とする。これら発熱量の計算は、電動機と生産機器1との位置関係で決まる。
第1に、電動機と生産機器1がともに同じ室内Rにある場合である。この場合、電動機の発熱量と生産機器1の発熱量との合計値を生産機器1の発熱量とみなして計算する。電動機の発熱量と生産機器1の発熱量との合計値は、φ1・φ2・P/ηmとなる。ここで、Pは、電動機の定格出力(ネームプレート表示の[kW])である。φ1は、電動機の稼働率である。φ2は、電動機に関する(所要動力/定格出力)である。ηmは、電動機のモータのモータ効率である。なお、Pが0~0.4[kW]であるとき、ηmは、0.60である。Pが0.7~3.7[kW]であるとき、ηmは、0.80である。Pが5.5~15[kW]であるとき、ηmは、0.85である。Pが20[kW]以上であるとき、ηmは、0.90である。第1の場合にある生産機器1は、例えば、小型冷蔵庫、小型扇風機などの一般の工場内にある機械である。
第2に、室外にある電動機が室内Rにある生産機器1を駆動する場合である。この場合、室内Rにある生産機器1の発熱量は、φ1・φ2・Pとなる。第2の場合にある生産機器1、例えば、室外の電動機でシャフトにより駆動される機械である。
なお、上記第2の場合において、室外にある電動機の発熱量は、φ1・φ2・P・{(1/ηm)-1}となる。
【0020】
[処理]
風制御装置5の処理について説明する。風制御装置5の処理は、VAV4を制御して、室内Rの温度を目標温度にするための処理である。風制御装置5の処理には、室温下降時のフィードフォワード制御、室温上昇時のフィードフォワード制御、室温下降時のフィードバック制御、および、室温上昇時のフィードバック制御の4種類がある。風制御装置5は、例えば、温度計3が計測した室温の履歴に基づいて、室温下降時(所定時間Δtあたりの温度変化が負の値)および室温上昇時(所定時間Δtあたりの温度変化が正の値)を判定できる。
【0021】
(室温下降時のフィードフォワード制御)
室温下降時であった場合、風制御装置5は、
図2に示す室温下降時のフィードフォワード制御を開始する。
図2に示すように、風制御装置5の決定部52は、VAV4が供給する風の風量Qを最大値Qmaxに決定する(ステップA1)。このような決定は、生産機器1の顕熱の最大値qsmaxに基づく。次に、風制御装置5の計算部51は、生産機器1の発熱量qsを計算する(ステップA2)。発熱量qsの計算は、すでに説明した発熱量の計算(その1)または(その2)に基づく。次に、決定部52は、計算した発熱量qsが顕熱の最大値qsmaxより小さいか否か判定する(ステップA3)。小さくない場合(ステップA3でNo)、qs=qsmaxであり、ステップA1に戻る。
【0022】
一方、小さい場合(ステップA3でYes)、決定部52は、VAV4が供給する風の風量Qを最大値Qmaxより低減するように決定する(ステップA4)。決定した風量Qは、計算した発熱量qsに起因する室温変化を抑えることができる風量であることが好ましい。具体的には、Q=(qs×3.6)/(Cp・p・Δt)という計算式から風量Qを決定するのが好ましい。ここで、qsは生産機器1の発熱量であり、Cpは空気の比熱(≒1.0J/(kg・K)であり、pは空気の密度(≒1.2kg/m
3)であり、Δtは吹き出し温度差(K)である。次に、決定部52は、風量Qが最小値Qminであるか否か判定する(ステップA5)。ここで、風量Qが最小値Qminは、室内Rの清浄度を維持するための最低換気風量である。最小値Qminでない場合(ステップA5でNo)、決定部52は、風量Qを維持し、
図2の処理を終了する。一方、最小値Qminである場合(ステップA5でYes)、決定部52は、室温Tが目標温度Tsよりも小さいか否か判定する(ステップA6)。小さい場合(ステップA6でYes)、風制御装置5は、ターミナルヒータ7を制御してVAV4が供給する風の温度を上昇させ(ステップA7)、
図2の処理を終了する。一方、小さくない場合(ステップA6でNo)、室温Tが目標温度Tsに到達する途中段階であり、風制御装置5は処理を維持し、
図2の処理を終了する。
【0023】
(室温上昇時のフィードフォワード制御)
室温上昇時であった場合、風制御装置5は、
図3に示す室温上昇時のフィードフォワード制御を開始する。
図3に示すように、風制御装置5の決定部52は、VAV4が供給する風の風量Q(Qmin≦Q≦Qmax)を所定値に決定する(ステップB1)。次に、風制御装置5の計算部51は、生産機器1の発熱量qsを計算する(ステップB2)。次に、決定部52は、生産機器1の発熱量qsが上昇中であるか否か判定する(ステップB3)。つまり、決定部52は、計算した発熱量qsの時間変化Δqsが正であるか否か判定する。上昇中でない場合(ステップB3でNo)、ステップB1に戻る。この場合、ステップB1で決定した風量Qで発熱量qsに起因する室温変化を抑えることができており、適切な室温制御が達成されている。一方、上昇中である場合(ステップB3でYes)、決定部52は、VAV4が供給する風の風量Qを増大するように決定し(ステップB4)、
図3の処理を終了する。決定した風量Qは、計算した発熱量qsに起因する室温変化を抑えることができる風量であることが好ましい。
なお、ステップB1でQ=Qmaxである場合、生産機器1の顕熱の最大値qsmaxに対する室温制御は可能であるため、ステップB3でΔqsが正になることは無く、ステップB4による風量Qの増大は無い。
【0024】
図2および
図3のフィードフォワード制御を行った場合、風量Qの時間変化は、
図4のグラフに示すようになる。時刻t0~t1の期間は、Q=Qmaxである。生産機器1の発熱量に対して風量Qが過剰になると、室温が低下し始める(時刻t1以降)。室温下降時である場合、風制御装置5は、風量Qを低減する(ステップA4参照)。フィードフォワード制御の性質上、風量制御は連続的に行うことができ、風制御装置5は、風量Qを線形的に低減できる(時刻t1~t2)。時刻t2~t3の期間では、風量QはQmaxよりも小さい所定値(≧Qmin)となる(ステップA5~ステップA7参照)。風量Qを低減したため一般的には室温は下降から上昇に転じる。場合によっては、ターミナルヒータ7の制御により室温は上昇する。
室温上昇中である場合、風制御装置5は、時刻t3~t4の期間で風量Qを増大する(ステップB1~B4参照)。フィードフォワード制御の性質上、風量制御は連続的に行うことができ、風制御装置5は、風量Qを線形的に増大できる。時刻t4以降の期間は、時刻t0~t1の期間と同じになる。
【0025】
クリーンルームの室内Rに吹き出される風の風量は、室内Rの清浄度を維持する目的であれば、最低換気風量Qminでよいが、従来では、生産機器1の発熱量qsに起因する室温変化を確実に抑えることができる風量、つまり風量の最大値Qmaxに固定するように制御していた。しかし、常時、風量を最大値Qmaxにすることで、室内Rの温度制御に関するエネルギ消費が大きくなるという問題があった。本実施形態のフィードフォワード制御によれば、生産機器1の発熱量qsに応じて風量を最大値Qmaxから所定量だけ低減する。このため、
図4に示す面積S1に相当するエネルギ消費を抑えることができる。
【0026】
つまり、室内Rの温度が下降中(所定時間Δtあたりの温度変化が負の値)であり、計算された発熱量qsが生産機器1の顕熱の最大値qsmaxを下回る場合には、VAV4の風量を最大値Qmaxにしなくとも室内Rの温度(室温T)を目標温度Tsにすることができる。このため、風量を低減させることで、VAV4のエネルギ消費を低減させることができる。また、室内Rの温度が上昇中(所定時間Δtあたりの温度変化が正の値)であり、計算された発熱量qsが上昇した場合(所定時間Δtあたりの発熱量の変化量が正の値)にはVAV4を制御して風量を増大させることで、室内R温度を目標温度Tsにしつつも、風量を増大させる機会を最小限に抑えることができる。このため、長期的にみれば、VAV4のエネルギ消費を低減させることができる。したがって、室内の温度制御に要するエネルギ消費を低減することができる。
また、VAV4の風量の制御だけでは室内Rの温度(室温T)を目標温度Tsに到達させることができなくても、ターミナルヒータ7を制御することで、目標温度Tsに確実に到達させることができる。換言すれば、ターミナルヒータ7を駆動させる機会を最小限に抑えることができる。よって、風制御システム全体のエネルギ消費を低減することができる。
【0027】
(室温下降時のフィードバック制御)
室温下降時であった場合、風制御装置5は、
図5に示す室温下降時のフィードバック制御を開始する。
図5に示すように、風制御装置5の決定部52は、VAV4が供給する風の風量Qを最大値Qmaxに決定する(ステップC1)。次に、決定部52は、室温Tが目標温度Tsよりも小さいか否か判定する(ステップC2)。室温Tが目標温度Tsに到達する途中段階である場合には、小さくない(ステップC2でNo)と判定され、風制御装置5は処理を維持し、ステップC1に戻る。
【0028】
一方、小さい場合(ステップC2でYes)、決定部52は、VAV4が供給する風の風量Qを最大値Qmaxより低減するように決定する(ステップC3)。決定した風量Qは、、室温Tが目標温度Tsに到達可能な風量であることが好ましい。次に、決定部52は、風量Qが最小値Qminであるか否か判定する(ステップC4)。最小値Qminでない場合(ステップC4でNo)、決定部52は、風量Qを維持し、
図5の処理を終了する。一方、最小値Qminである場合(ステップC4でYes)、決定部52は、室温Tが目標温度Tsよりも小さいか否か判定する(ステップC5)。小さい場合(ステップC5でYes)、風制御装置5は、ターミナルヒータ7を制御してVAV4が供給する風の温度を上昇させ(ステップC6)、
図5の処理を終了する。一方、室温Tが目標温度Tsに到達する途中段階である場合には、小さくない(ステップC5でNo)と判定され、風制御装置5は処理を維持し、
図5の処理を終了する。
【0029】
(室温上昇時のフィードバック制御)
室温上昇時であった場合、風制御装置5は、
図6に示す室温上昇時のフィードバック制御を開始する。
図6に示すように、風制御装置5の決定部52は、VAV4が供給する風の風量Q(Qmin≦Q≦Qmax)を所定値に決定する(ステップD1)。次に、決定部52は、室温Tが目標温度Tsよりも小さいか否か判定する(ステップD2)。室温Tが目標温度Tsに到達する途中段階である場合には、小さくない(ステップD2でNo)と判定され、風制御装置5は処理を維持し、ステップD1に戻る。一方、小さい場合(ステップD2でYes)、決定部52は、VAV4が供給する風の風量Qを増大するように決定し(ステップD3)、
図6の処理を終了する。決定した風量Qは、目標温度Tsに到達可能な風量であることが好ましい。
なお、ステップD1でQ=Qmaxである場合、室温制御の設計上、最終的にはT=Tsとなることが見込まれるため、ステップD3による風量Qの増大は無い。
【0030】
図5および
図6のフィードバック制御を行った場合、風量Qの時間変化は、
図7のグラフに示すようになる。時刻t0~t1の期間は、Q=Qmaxである。室温下降時である場合、風制御装置5は、風量Qを低減する(ステップC3参照)。フィードバック制御の性質上、室温変化に追従することになるため、風量制御は断続的に行われ、風制御装置5は、風量Qを階段状に低減できる(時刻t1~t2)。時刻t2~t3の期間では、風量QはQmaxよりも小さい所定値(≧Qmin)となる(ステップC4~ステップC6参照)。風量Qを低減したため一般的には室温は下降から上昇に転じる。場合によっては、ターミナルヒータ7の制御により室温は上昇する。
室温上昇中である場合、風制御装置5は、時刻t3~t4の期間で風量Qを増大する(ステップD1~D3参照)。フィードバック制御の性質上、室温変化に追従することになるため、風量制御は断続的に行われ、風制御装置5は、風量Qを階段状に増大できる。時刻t4以降の期間は、時刻t0~t1の期間と同じになる。
【0031】
本実施形態のフィードバック制御によれば、室温Tをモニタリングして風量を最大値Qmaxから所定量だけ低減する。このため、
図7に示す面積S2に相当するエネルギ消費を抑えることができる。
つまり、室内Rの温度が下降中であり、かつ、目標温度Tsを下回る場合には、VAV4の風量を最大値Qmaxにしなくとも室内Rの温度を目標温度Tsにすることができる。このため、風量を低減させることで、VAV4のエネルギ消費を低減させることができる。また、室内Rの温度が上昇中であり、かつ、目標温度Tsを上回る場合にはVAV4を制御して風量を増大させることで、室内Rの温度を目標温度Tsにしつつも、風量を増大させる機会を最小限に抑えることができる。このため、長期的にみれば、VAV4のエネルギ消費を低減させることができる。
【0032】
[変形例]
(a):室温下降時のフィードフォワード制御、室温上昇時のフィードフォワード制御、室温下降時のフィードバック制御、および、室温上昇時のフィードバック制御は、適宜組み合わせることができる。例えば、風制御装置5は、室温上昇時は、室温上昇時のフィードフォワード制御を実行し、室温下降時は、室温下降時のフィードバック制御を実行することができる。このような制御が室内の温度制御に関する省エネルギ化として有利である。
また、風制御装置5は、室温下降時において、室温下降時のフィードフォワード制御をし、所定条件を満たした場合、室温下降時のフィードバック制御に切り替えてもよい。風制御装置5は、室温下降時において、室温下降時のフィードバック制御をし、所定条件を満たした場合、室温下降時のフィードフォワード制御に切り替えてもよい。
また、風制御装置5は、室温上昇時において、室温上昇時のフィードフォワード制御をし、所定条件を満たした場合、室温上昇時のフィードバック制御に切り替えてもよい。風制御装置5は、室温上昇時において、室温上昇時のフィードバック制御をし、所定条件を満たした場合、室温上昇時のフィードフォワード制御に切り替えてもよい。
(b):フィードバック制御は、室温下降時または室温上昇時とは無関係に、計測した現在の室温が目標温度Tsになるように都度実行してもよい。
(c):温度計3が計測した室温が一定であった場合、風制御装置5は、室温下降時のフィードフォワード制御、室温上昇時のフィードフォワード制御、室温下降時のフィードバック制御、および、室温上昇時のフィードバック制御をしなくともよい。なお、室温が一定である場合とは、計測した室温Tが目標温度Tsに一致する場合である。一致しない場合には、室温Tが目標温度Tsに一致するように、風制御装置5は、室温下降時のフィードフォワード制御、室温上昇時のフィードフォワード制御、室温下降時のフィードバック制御、および、室温上昇時のフィードバック制御を実行することが好ましい。
(d):風制御装置5は、計測された室温Tが目標温度Tsよりも大きい場合に、室温下降時のフィードフォワード制御、または、室温下降時のフィードバック制御を実行することが好ましいが、室温Tが目標温度Tsよりも小さい場合に実行することを妨げない。また、風制御装置5は、計測された室温Tが目標温度Tsよりも小さい場合に、室温上昇時のフィードフォワード制御、または、室温上昇時のフィードバック制御を実行することが好ましいが、室温Tが目標温度Tsよりも大きい場合に実行することを妨げない。
【0033】
(e):本実施形態で説明した種々の技術を適宜組み合わせた技術を実現することもできる。
(f):本実施形態で説明したソフトウェアをハードウェアとして実現することもでき、ハードウェアをソフトウェアとして実現することもできる。
(g):その他、ハードウェア、ソフトウェア、フローチャートなどについて、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0034】
100 風制御システム
1 生産機器
2 空調機
3 温度計
4 VAV(可変風量装置)
5 風制御装置
6 サーモカメラ
7 ターミナルヒータ
8 電流計
51 計算部
52 決定部
R 室内
V 吹出口