(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】変速制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/16 20200101AFI20241219BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20241219BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20241219BHJP
F16H 59/48 20060101ALI20241219BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20241219BHJP
F16H 61/08 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B60W30/16
B60L15/20 K
B60W60/00
F16H59/48
F16H61/02
F16H61/08
(21)【出願番号】P 2021138543
(22)【出願日】2021-08-27
【審査請求日】2024-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】521537852
【氏名又は名称】ダイムラー トラック エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100176946
【氏名又は名称】加藤 智恵
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】小関 哲郎
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-111320(JP,A)
【文献】特開2019-137195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/16
B60L 15/20
B60W 60/00
F16H 59/48
F16H 61/02
F16H 61/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械式自動変速機を搭載した電動車両の変速制御装置であって、
前記電動車両と先行車両との車間距離を自動で制御するオートクルーズの作動中に、
前記電動車両からみた前記電動車両と前記先行車両との相対加速度が第一所定値以上であって且つ前記電動車両の加速度が第二所定値以下であることを含む早期化条件の成否を判定する判定部と、
前記判定部で前記早期化条件が成立していると判定された場合は、前記判定部で前記早期化条件が成立していないと判定された場合よりも、前記機械式自動変速機のシフトアップのタイミングを早める制御部と、を備えた
ことを特徴とする変速制御装置。
【請求項2】
前記早期化条件は、
前記電動車両からみた前記電動車両と前記先行車両との相対速度が第三所定値以上であることを更に含む
ことを特徴とする、請求項1に記載の変速制御装置。
【請求項3】
前記早期化条件は、前記電動車両の速度が第四所定値以下であることを更に含む
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の変速制御装置。
【請求項4】
前記早期化条件は、前記電動車両と前記先行車両との前記車間距離が第五所定値以上であることを更に含む
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の変速制御装置。
【請求項5】
前記早期化条件は、
少なくとも登坂において正の値となる勾配について、前記電動車両が
登坂時に走行している路面の
前記勾配が第六所定値以下であることを更に含む
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、電動車両に搭載された機械式自動変速機を制御する変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、省電費や搭載性の観点から、電動車両において小型モータを採用するとともに変速機を搭載させることが検討されている。例えば特許文献1には、自動変速機を搭載したハイブリッド車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば商用車としての電動車両には、トルクコンバータ付きの自動変速機や無段変速機と比べて安価な機械式自動変速機(AMT;Automated Manual Transmission)を搭載させることが検討されている。しかしながら、機械式自動変速機を搭載した電動車両では、変速の際にトルク抜けが生じるため、電動車両の強みであるシームレスな加速や再発進性能が損なわれる虞がある。特に、先行車両との車間距離を自動で制御するオートクルーズの作動下において、先行車両の加速に伴い自車両が加速している最中にシフトアップが行われると、トルク抜けが生じることでドライバビリティが低下しうる。
【0005】
本件は、上記のような課題に鑑み創案されたものであり、機械式自動変速機を搭載した電動車両のドライバビリティを確保することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本件は上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現できる。
本適用例に係る変速制御装置は、機械式自動変速機を搭載した電動車両の変速制御装置であって、前記電動車両と先行車両との車間距離を自動で制御するオートクルーズの作動中に、前記電動車両からみた前記電動車両と前記先行車両との相対加速度が第一所定値以上であって且つ前記電動車両の加速度が第二所定値以下であることを含む早期化条件の成否を判定する判定部と、前記判定部で前記早期化条件が成立していると判定された場合は、前記判定部で前記早期化条件が成立していないと判定された場合よりも、前記機械式自動変速機のシフトアップのタイミングを早める制御部と、を備えている。
【0007】
このように、早期化条件が成立している場合には機械式自動変速機のシフトアップのタイミングを早めることで、電動車両が加速しきった段階でのシフトアップによるトルク抜けを回避できる。よって、ドライバビリティを確保できる。
【発明の効果】
【0008】
本件によれば、機械式自動変速機を搭載した電動車両のドライバビリティを確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る変速制御装置が適用された電動車両の模式的な構成図である。
【
図2】変速制御装置で実施される早期化制御の手順を例示したフローチャートである。
【
図3】変速制御装置で実施される早期化制御の作用を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して、本件の実施形態(適用例)について説明する。この実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0011】
[1.装置構成]
図1に示すように、本実施形態に係る変速制御装置1は、走行用の電動モータ2を備えた電動車両10に適用されている。ここでは、電動車両10がトラック(電動トラック)であるものとする。ただし、電動車両10は、トラックに限られず、バスや乗用車であってもよい。
【0012】
電動モータ2は、直流電力と交流電力とを相互に変換するインバータ4を介してバッテリ3に接続されている。バッテリ3は、電動車両10に搭載された二次電池である。電動モータ2は、バッテリ3から電力が供給されることで、電動車両10の駆動輪6を回転させる動力を発生する。電動モータ2は、このような発動機としての機能に加えて、駆動輪6の回転力から電力を発生する発電機としての機能も兼ね備えている。
【0013】
インバータ4は、電動車両10の力行時には、バッテリ3から出力される直流電力を交流電力に変換して電動モータ2に供給する。一方、インバータ4は、電動車両10の回生時には、電動モータ2から出力される交流電力を直流電力に変換してバッテリ3に供給する。
【0014】
電動車両10は、電動モータ2と駆動輪6との間の動力伝達経路上に設けられた機械式自動変速機5を搭載している。機械式自動変速機5は、手動式変速機をベースとしてそのギア段の切替を自動化した、いわゆるAMT(Automated Manual Transmission)である。以下、機械式自動変速機5を「AMT5」ともいう。本実施形態では、Hi段とLo段との二つのギア段に変速可能な二速のAMT5を例示する。このような二速のAMT5では、Hi段が最高ギア段となる。
【0015】
電動車両10には、加速度センサ11,速度センサ12,勾配センサ13,前方センサ14が設けられる。加速度センサ11は、電動車両10の加速度αs(以下、「自車加速度αs」ともいう)を検出する。速度センサ12は、電動車両10の速度Vs(以下、「自車速度Vs」ともいう)を検出する。勾配センサ13は、電動車両10が走行している路面の勾配θ(以下、「路面勾配θ」ともいう)を検出する。前方センサ14は、電動車両10の前方の情報を検出する。前方センサ14で検出された情報は、電動車両10の前方を走行する先行車両の有無を判定したり、電動車両10と先行車両との車間距離D,相対加速度αr,相対速度Vrなどを算出したりするために用いられる。
【0016】
電動車両10の運転席の近傍には、オートクルーズスイッチ16と変速モードスイッチ17とが設けられる。オートクルーズスイッチ16は、電動車両10と先行車両との車間距離Dを自動で制御するオートクルーズの作動及び非作動をドライバが選択するための装置である。一方、変速モードスイッチ17は、AMT5におけるギア段の切替(変速)を自動で行なう自動変速モードとこの切替を手動で行なう手動変速モードとをドライバが選択するための装置である。これらのスイッチ16,17は、例えば、プッシュボタンやレバーといった機械的な構成であってもよいし、タッチパネル上に設けられる仮想的な構成であってもよい。
【0017】
変速制御装置1は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成された電子制御装置であり、電動車両10のネットワーク網の通信ラインに接続されている。変速制御装置1は、AMT5におけるギア段の切替を制御する。
【0018】
[2.制御構成]
ここでは、変速制御装置1で実施される早期化制御について詳述する。早期化制御は、特定の条件(後述の早期化条件)が成立する場合に、この条件が成立しない通常の場合と比べて、AMT5のシフトアップのタイミングを早める制御である。特定の条件が成立する場合とは、具体的にいえば、電動車両10が加速すると予想されるものの、まだ完全には加速しきっていない場合である。
【0019】
本実施形態の早期化制御は、オートクルーズの作動中に実施される。また、早期化制御はAMT5のシフトアップを自動的に行なう制御であることから、自動変速モードの選択中であって、且つ、AMT5の現状のギア段が最高ギア段ではないことを条件として実施される。すなわち、本実施形態の早期化制御は、オートクルーズの非作動中や、手動変速モードの選択中や、AMT5の現状のギア段が最高ギア段(Hi段)である場合には、実施されない。
【0020】
このように、本実施形態の早期化制御は、下記の前提条件A1~A3がいずれも成立していることを前提として実施される。
前提条件A1:オートクルーズの作動中である
前提条件A2:自動変速モードが選択されている
前提条件A3:現状のギア段が最高ギア段ではない
【0021】
前提条件A1の成否は、オートクルーズスイッチ16への操作に応じて判断される。また、前提条件A2の成否は、変速モードスイッチ17への操作に応じて判断される。さらに、前提条件A3の成否は、変速制御装置1で把握しているAMT5の現状のギア段に応じて判断される。
【0022】
変速制御装置1は、早期化制御を実施するための要素として、判定部1A及び制御部1Bを備えている。ここでは、判定部1A及び制御部1Bがいずれもソフトウェアで実現されるものとする。ただし、判定部1A及び制御部1Bは、ハードウェア(電子回路)で実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとが併用されて実現されてもよい。
【0023】
判定部1Aは、上記の前提条件A1~A3がいずれも成立する場合に、早期化条件の成否を判定する。早期化条件は、早期化制御を実施するための条件であって、少なくとも以下の二つの条件B1,B2を含む。
条件B1:相対加速度αrが第一所定値X1以上である(αr≧X1)
条件B2:自車加速度αsが第二所定値X2以下である(αs≦X2)
【0024】
本実施形態の判定部1Aは、前方センサ14で検出された情報から公知の手法により算出される相対加速度αrを予め記憶された第一所定値X1と比較することで、条件B1の成否を判定する。ここで、電動車両10の前方に先行車両が存在しない場合には、相対加速度αrが算出されないため、条件B1は不成立となる。
【0025】
相対加速度αrは、先行車両の加速度αfが自車加速度αsよりも大きい場合(αf>αs)に正の値として算出され、先行車両の加速度αfが自車加速度αsよりも小さい場合(αf<αs)に負の値として算出される。また、第一所定値X1は、正の値として予め設定されている。したがって、条件B1が成立することは、先行車両の加速度αfが自車加速度αsよりも第一所定値X1以上大きいことを意味する。なお、加速度αf,αsは、先行車両及び電動車両10の前方を正の方向とした値である。
【0026】
オートクルーズの作動中は、車間距離Dを一定値に保持するために、先行車両の加速に応じて電動車両10が加速すると予想される。このことから、条件B1が成立する状況では、先行車両の加速度αfに合わせて自車加速度αsが上昇を始める可能性が高いといえる。
【0027】
判定部1Aは、加速度センサ11で検出された自車加速度αsを予め記憶された第二所定値X2と比較することで、条件B2の成否を判定する。第二所定値X2は、AMT5のシフトアップが求められる自車加速度αsよりも小さい正の値として予め設定されている。したがって、条件B2が成立することは、AMT5のシフトアップが求められるほど電動車両10が加速しきっていないことを意味する。
【0028】
本実施形態の早期化条件は、上記の条件B1,B2に加えて、下記の条件B3~B6を含んでいる。条件B1~B6はいずれも、早期化条件が成立するための必要条件である。すなわち、本実施形態の判定部1Aは、条件B1~B6の全てが成立する場合に早期化条件が成立していると判定し、条件B1~B6の少なくとも一つが成立しない場合には早期化条件が成立していないと判定する。
【0029】
条件B3:相対速度Vrが第三所定値X3以上である(Vr≧X3)
条件B4:自車速度Vsが第四所定値X4以下である(Vs≦X4)
条件B5:車間距離Dが第五所定値X5以上である(D≧X5)
条件B6:路面勾配θが第六所定値X6以下である(θ≦X6)
【0030】
判定部1Aは、前方センサ14で検出された情報から公知の手法により算出される相対速度Vrを予め記憶された第三所定値X3と比較することで、条件B3の成否を判定する。ここで、電動車両10の前方に先行車両が存在しない場合には、相対速度Vrが算出されないため、条件B3は不成立となる。
【0031】
相対速度Vrは、上記の相対加速度αrと同様に、先行車両の速度Vfが自車速度Vsよりも大きい場合(Vf>Vs)に正の値として算出され、先行車両の速度Vfが自車速度Vsよりも小さい場合(Vf<Vs)に負の値として算出される。また、第三所定値X3は、正の値として予め設定されている。したがって、条件B3が成立することは、先行車両の速度Vfが自車速度Vsよりも第三所定値X3以上大きいことを意味する。なお、速度Vf,Vsは、先行車両及び電動車両10の前方を正の方向とした値である。
【0032】
オートクルーズの作動中は、車間距離Dを一定値に保持するために、先行車両の速度Vfに応じて電動車両10が加速すると予想される。このことから、条件B3が成立する状況では、先行車両の速度Vfに合わせて自車速度Vsが上昇し始める可能性が高いといえる。
【0033】
判定部1Aは、速度センサ12で検出された自車速度Vsを予め記憶された第四所定値X4と比較することで、条件B4の成否を判定する。第四所定値X4は、AMT5のシフトアップが求められる自車速度Vs(後述の閾値Th)よりも小さい正の値として予め設定されている。したがって、条件B4が成立することは、AMT5のシフトアップが求められるほど大きな自車速度Vsで電動車両10が走行していないことを意味する。
【0034】
判定部1Aは、前方センサ14で検出された情報から公知の手法により算出される車間距離Dを予め記憶された第五所定値X5と比較することで、条件B5の成否を判定する。第五所定値X5は、オートクルーズで維持される車間距離Dの目標値よりも大きい値として予め設定されている。したがって、条件B5が成立することは、オートクルーズの目標値よりも車間距離Dが開いていることを意味する。
【0035】
オートクルーズの作動中は、車間距離Dを一定値に保持するために、車間距離Dの拡大に応じて電動車両10が加速すると予想される。このことから、条件B5が成立する状況では、開いた車間距離Dを縮めるべく自車速度Vsや自車加速度αsが上昇を始める可能性が高いといえる。
【0036】
判定部1Aは、勾配センサ13で検出された路面勾配θを予め記憶された第六所定値X6と比較することで、条件B6の成否を判定する。路面勾配θは、少なくとも登坂において正の値として検出される。また、第六所定値X6は、仮にAMT5のシフトアップを行なった場合にトルク不足による失速が生じるような登坂の路面勾配θよりも小さい正の値として予め設定されている。したがって、条件B6が成立することは、仮にAMT5のシフトアップを行なったとしてもトルクが確保されるような緩やかな斜面を電動車両10が登坂中であることを意味する。
【0037】
判定部1Aによる条件B1~B6の成否の判定手法は、上記の例に限定されない。判定部1Aは、各種センサ11~14で検出された検出値に代えて、変速制御装置1内や他の制御装置で算出又は推定された値に基づいて条件B1~B6の成否を判定してもよい。例えば、条件B2の成否判定では、加速度センサ11で検出された自車加速度αsに代えて、自車速度Vsの時間的な変化に基づいて算出された自車加速度αsが用いられてもよい。
【0038】
制御部1Bは、判定部1Aで早期化条件が成立していると判定された場合には、自車速度Vsが所定の閾値Thを越える前(すなわちVs≦Thのとき)に、AMT5におけるLo段からHi段へのシフトアップを行なう。一方、制御部1Bは、判定部1Aで早期化条件が成立していないと判定された場合には、自車速度Vsが閾値Thを越えた後(すなわちVs>Thのとき)に、AMT5におけるLo段からHi段へのシフトアップを行なう。このように、制御部1Bは、判定部1Aで早期化条件が成立していると判定された場合には、判定部1Aで早期化条件が成立していないと判定された場合よりも、AMT5のシフトアップのタイミングを早める。
【0039】
閾値Thは、早期化条件が成立しない通常の場合に、自動変速モードにおいてLo段からHi段へのシフトアップのタイミングを判定するための値である。閾値Thは、例えば、50~60[km/h]の範囲内の値に設定される。早期化条件が成立しない通常の場合には、自車速度Vsが閾値Thを越えたことを以って、AMT5におけるシフトアップが行なわれる。
【0040】
一方、早期化条件が成立する場合には、早期化制御が実施されるため、自車速度Vsが閾値Thを越えるよりも前にAMT5におけるシフトアップが行なわれる。この場合には、早期化制御後に自車速度Vsが上昇して閾値Thを越えたとしても、既にシフトアップが行なわれていることから、自車速度Vsが閾値Thを越える時点での変速が行なわれない。このため、自車速度Vsが閾値Thを越える時点でのトルク抜けが回避される。
【0041】
なお、エンジンを駆動源とする車両では、変速機のシフトアップを低車速域で行なうと、トルク不足により失速が生じうる。これに対し、電動モータ2を備えた電動車両10では、低車速域でも電動モータ2によりトルクが確保されるため、上記のようにシフトアップを早めたとしても、失速の可能性を低減できる。
【0042】
上記の閾値Thは、自車速度Vsに代えて、アクセルペダルの踏み込み量であるアクセル開度について設定されてもよい。より具体的にいえば、制御部1Bは、早期化条件が成立している場合には、アクセル開度が閾値Thを越える前に上記のシフトアップを行ない、早期化条件が成立していない場合には、アクセル開度が閾値Thを越えた後に上記のシフトアップを行なってもよい。
【0043】
アクセル開度は、ドライバによって操作されるアクセルペダルの操作量であることから、ドライバの加速意思を反映する。具体的には、アクセル開度が大きいほど、ドライバの加速意思が大きいといえる。このため、アクセル開度が閾値Thを越える前に早期化制御を実施する制御部1Bは、ドライバの加速意思が小さいうちに上記のシフトアップを行なうといえる。
【0044】
[3.フローチャート]
図2は、早期化制御の手順を例示したフローチャートである。
図2のフローは、変速制御装置1において繰り返し実施される。
図2に示すように、変速制御装置1では、まず前提条件A1~A3の成否が判定される(ステップS1~S3)。ここでは、前提条件A1~A3の成否が順に判定される例を示す。ただし、前提条件A1~A3の成否の判定順は特に限定されない。
【0045】
ステップS1~S3で前提条件A1~A3がそれぞれ成立していると判定されると、ステップS4に進み、早期化条件の成否判定が行なわれる。このように、ステップS1~S3の全てでYESルートに進んだ場合は、ステップS4以降の判定処理に進む。
一方、ステップS1~S3のいずれかでNOルートに進んだ場合は、前提条件A1~A3の少なくとも一つが成立しないこととなるため、早期化条件の成否判定が行なわれることなく、フローをリターンする。なお、ステップS1~S3の判定処理は、例えば判定部1Aで実施されてもよいし、変速制御装置1内の他の要素で実施されてもよいし、変速制御装置1外の要素で実施されてもよい。
【0046】
ステップS4~S9では、判定部1Aにより早期化条件の成否判定が実施される。ここでは、早期化条件に含まれる上記の条件B1~B6の成否がステップS4~S9で順に判定される例を示す。ただし、条件B1~B6の成否の判定順は特に限定されない。
【0047】
ステップS4~S9で条件B1~B6がそれぞれ成立していると判定されると、早期化条件が成立していることとなる。すなわち、ステップS4~S9の全てでYESルートに進んだ場合は、判定部1Aにおいて「早期化条件が成立している」と判定される。この場合にはステップS10に進み、制御部1Bにより早期化制御が実施される。具体的にいえば、早期化制御が実施されない通常の場合よりも早いタイミングでAMT5のシフトアップが行なわれる。
【0048】
一方、ステップS4~S9で条件B1~B6のいずれかが成立していないと判定されると、早期化条件が成立していないこととなる。すなわち、ステップS11~S16のいずれかでNOルートに進んだ場合は、判定部1Aにおいて「早期化条件が成立していない」と判定される。例えば、先行車両が存在しない場合や、自車加速度αsが電動車両10の加速度αfと略同じである場合には、条件B1が成立しないため、ステップS4からNOルートに進む。この場合には、早期化制御が実施されることなく、フローをリターンする。
【0049】
[4.タイムチャート]
図3は、AMT5におけるシフトアップのタイミングを例示するタイムチャートである。
図3には、早期化制御が行なわれる場合を実線で示し、早期化制御が行なわれない通常の場合を破線で示す。
【0050】
図3に実線で示すように、早期化制御が行なわれる場合は、例えば、時刻t0から上昇し始めた自車速度Vsがより急な傾きで上昇しようとする(自車加速度αsが上昇しようとする)時刻t1に、AMT5のLo段からHi段へのシフトアップが開始される。ここで、シフトアップが開始された時刻t1からシフトアップが完了する時刻t2までは、ギア段の切替に伴いトルク抜けが生じるため、自車速度Vsの上昇が抑えられる。そして、シフトアップが完了した時刻t2から自車速度Vsが閾値Thを越える時刻t3までは、時刻t0から時刻t1よりも急な傾きで自車速度Vsが上昇する。さらに、自車速度Vsが閾値Thを越えた時刻t3以降は、自車速度Vsがより急な傾きで上昇する。
【0051】
このように、早期化制御が行なわれる場合は、自車速度Vsが閾値Thを越える前であって電動車両10が完全に加速しきる前である時刻t2に、AMT5のシフトアップが完了する。このため、シフトアップが完了した時刻t2以降は、AMT5が既にHi段に切り替わっており、シフトアップが行なわれないことから、加速中のシフトアップによるトルク抜けの発生が回避される。よって、ドライバビリティが確保される。
【0052】
一方、
図3に破線で示すように、早期化制御が行なわれない場合は、時刻t0から時刻t3までの間、AMT5のシフトアップが行なわれることなく、自車速度Vsが上昇(電動車両10が加速)を続ける。そして、自車速度Vsが閾値Thを越える時刻t3にAMT5のシフトアップが開始される。ここでも、シフトアップが開始された時刻t3からシフトアップが完了する時刻t4までは、ギア段の切替に伴いトルク抜けが生じるため、自車速度Vsの上昇が抑えられる。そして、シフトアップが完了した時刻t4以降は、自車速度Vsが一定の傾きで上昇を続ける。
【0053】
このように、早期化制御が行なわれない場合は、自車速度Vsが閾値Thを越える時点であって電動車両10が加速しきった後である時刻t3に、AMT5のシフトアップが開始される。このため、自車速度Vsの急上昇中にシフトアップによるトルク抜けが発生することで、ドライバに違和感を与えやすくなるとともにドライバビリティが低下しうる。
【0054】
[5.効果]
変速制御装置1によれば、オートクルーズの作動中に上記の条件B1,B2を含む早期化条件が成立している場合には、早期化条件が成立していない場合よりもAMT5のシフトアップのタイミングを早めるため、電動車両10が加速しきった段階でのシフトアップによるトルク抜けを回避できる。このように、自車速度Vsや自車加速度αsが比較的小さい段階で敢えてシフトアップを行なうことで、自車速度Vsや自車加速度αsが比較的大きい段階でシフトアップを行なう場合よりも、トルク抜けのインパクトを低減できる。よって、AMT5を搭載した電動車両10のドライバビリティを確保できる。これにより、電動車両10の強みであるシームレスな加速や再発進性能を発揮しやすくなる。
【0055】
また、オートクルーズの作動中は先行車両に合わせて電動車両10の走行状態が制御されるため、電動車両10と先行車両との相対加速度αrが第一所定値X1以上であるという条件B1によれば、先行車両の加速度αfに応じた自車加速度αsの上昇を予想できる。したがって、条件B1を含む早期化条件によれば、自車加速度αsがこれから上昇しようとする状況で上記のシフトアップを行なえる。このため、自車加速度αsが大きく上昇しきった段階でのシフトアップによるトルク抜けを回避できる。
【0056】
また、自車加速度αsが第二所定値X2以下であるという条件B2を含む早期化条件によれば、自車加速度αsが上がりきっていない状況で上記のシフトアップを行なうことができる。このため、自車加速度αsが上がりきった段階でのシフトアップによるトルク抜けを回避できる。なお、自車加速度αsが第二所定値X2よりも大きい(条件B2が成立しない)場合には上記のシフトアップを行なわないことで、急加速中のシフトアップによるトルク抜けを回避しやすくなる。これによっても、電動車両10のドライバビリティを確保できる。
【0057】
AMT5はトルクコンバータ付きの自動変速機や無段変速機と比べて安価であるため、AMT5を搭載した電動車両10によれば、コスト削減を図れるとともに、変速機を搭載しない電動車両と比べて電動モータ2の小型化も図れる。よって、電動車両10において省電費を実現できるとともに搭載性を高められる。
【0058】
上記のとおり、オートクルーズの作動中は先行車両に合わせて電動車両10の走行状態が制御されるため、電動車両10と先行車両との相対速度Vrが第三所定値X3以上であるという条件B3によれば、先行車両の速度Vfに応じて自車速度Vsの上昇を予想できる。したがって、条件B3を含む早期化条件によれば、自車速度Vsがこれから上昇しようとする状況で上記のシフトアップを行なえる。このため、自車速度Vsが大きく上昇しきった段階でのシフトアップによるトルク抜けを回避できる。よって、電動車両10のドライバビリティをより適切に確保できる。
【0059】
自車速度Vsが第四所定値X4以下であるという条件B4を含む早期化条件によれば、自車速度Vsが上がりきっていない状況で上記のシフトアップを行なうことができる。このため、自車速度Vsが上がりきった段階でのシフトアップによるトルク抜けを回避できる。よって、電動車両10のドライバビリティをより適切に確保できる。なお、自車速度Vsが第四所定値X4よりも大きい(条件B4が成立しない)場合には上記のシフトアップを行なわないことで、高速走行中のシフトアップによるトルク抜けを回避しやすくなる。これによっても、電動車両10のドライバビリティをより適切に確保できる。
【0060】
オートクルーズの作動中は車間距離Dが一定値となるように制御されるため、電動車両10と先行車両との車間距離Dが第五所定値X5以上であるという条件B5によれば、車間距離Dを保持するための自車速度Vsや加速度αsの上昇を予想できる。したがって、条件B5を含む早期化条件によれば、自車速度Vsや自車加速度αsがこれから上昇しようとする状況で上記のシフトアップを行なえる。このため、自車速度Vsや自車加速度αsが大きく上昇しきった段階でのシフトアップによるトルク抜けを回避できる。よって、電動車両10のドライバビリティをより適切に確保できる。
【0061】
急斜面の登坂時には大きなトルクが求められるのに対し、路面勾配θが第六所定値X6以下であるという条件B6を含む早期化条件によれば、大きなトルクが求められない状況で上記のシフトアップを行なうことができる。このため、シフトアップによるトルク不足を防止できる。よって、電動車両10の失速を防止しつつ、ドライバビリティを確保できる。
【0062】
[6.変形例]
上記の変速制御装置1の制御構成は一例である。早期化条件には少なくとも条件B1,B2が含まれていればよく、条件B3~B6は省略されてもよい。また、上記の早期化制御は、オートクルーズの非作動中に行われてもよい。
【0063】
上記の電動車両10の構成も一例である。AMT5は、三速以上のギア段を有していてもよい。この場合であっても、第一速から第二速や第二速から第三速へのシフトアップを上記の早期化制御により行なうことで、上記の実施形態と同様にドライバビリティを確保できる。また、上記の手動変速モードは省略されてもよい。この場合には、上記の前提条件A2が不要になるとともに、変速モードスイッチ17も電動車両10から省略される。
【符号の説明】
【0064】
1 変速制御装置
1A 取得部
1B 制御部
2 電動モータ
3 バッテリ
4 インバータ
5 AMT(機械式自動変速機)
6 駆動輪
10 電動車両
11 加速度センサ
12 速度センサ
13 勾配センサ
14 前方センサ
16 オートクルーズスイッチ
17 変速モードスイッチ
D 車間距離
Th 閾値
Vf 先行車両の速度
Vr 相対速度
Vs 自車速度(電動車両10の速度)
X1 第一所定値
X2 第二所定値
X3 第三所定値
X4 第四所定値
X5 第五所定値
X6 第六所定値
αf 先行車両の加速度
αr 相対加速度
αs 自車加速度(電動車両10の加速度)
θ 路面勾配