(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】TRBC使用の分子的評価
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20241219BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241219BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20241219BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
C12M1/00 A
C12Q1/6876 Z
(21)【出願番号】P 2021505668
(86)(22)【出願日】2019-07-18
(86)【国際出願番号】 GB2019052011
(87)【国際公開番号】W WO2020025928
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-05-20
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517215973
【氏名又は名称】オートラス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】オヌオハ, シモビ
(72)【発明者】
【氏名】ザピガ, メガン
(72)【発明者】
【氏名】マ, ビアオ
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0201991(US,A1)
【文献】特表2017-510257(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103205420(CN,A)
【文献】暮らしっく不動産[online],MacBook Pro (13-inch, Mid 2012)のメモリ交換 CPUとメモリとHD,公開日:2017
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
C12M 1/00
C12Q 1/6876
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞のT細胞受容体β鎖(TRBC)遺伝子のタイプを推測する方法であって、
(a)前記細胞で発現されたJ遺伝子のタイプを決定するステップであって、
(i)前記
細胞から抽出された核酸から、前記J遺伝子の少なくともセグメントのヌクレオチド配列を決定すること;および
(ii)(i)で決定された前記ヌクレオチド配列を、
配列番号1~16のいずれか1つから選択される1つまたは複数のJ遺伝子の参照ヌクレオチド配列と比較すること、および
(iii)(ii)の前記J遺伝子の参照ヌクレオチド配列に対する、(i)の前記J遺伝子の前記セグメントの前記ヌクレオチド配列の配列同一性から、前記J遺伝子のタイプを同定することであって、
前記細胞で発現された前記J遺伝子のタイプが、前記J遺伝子の前記セグメントの前記ヌクレオチド配列が100%の配列同一性を有する(ii)の前記J遺伝子の前記参照ヌクレオチド配列の前記J遺伝子のタイプに基づいて決定される、こと
を含む、ステップ、および
(b)(a)から、前記細胞で発現されたTRBC遺伝子のタイプを推測するステップであって、J
1遺伝子が決定される場合、C
1遺伝子が推測され、J
2遺伝子が決定される場合、C
2遺伝子が推測される、ステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記核酸が、ゲノムDNA(gDNA)を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記J遺伝子の前記セグメントが、T細胞受容体遺伝子のJ領域全体を含む、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記J遺伝子の前記セグメントが、T細胞受容体遺伝子のCDR3に含まれている、請求項1から
3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記J遺伝子の前記セグメントが、
【表7】
からなる群より選択される、請求項1から
4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ステップ(i)が、
(1)前記核酸を、前記J遺伝子の少なくともセグメントの増幅のための試薬と接触させるステップ;
(2)インキュベートして、増幅させるステップ;
(3)前記J遺伝子の増幅したセグメントのヌクレオチド配列を決定するステップ
を含む、請求項1から
5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記増幅のための試薬が、T細胞受容体遺伝子のV領域に配置された少なくとも1つのフォワードプライマーおよびT細胞受容体遺伝子のJ領域に配置された少なくとも1つのリバースプライマーを含むか、または前記増幅のための試薬が、T細胞受容体遺伝子のV領域に配置された少なくとも1つのリバースプライマーおよびT細胞受容体遺伝子のJ領域に配置された少なくとも1つのフォワードプライマーを含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
(2a)前記J遺伝子の増幅されたセグメントの電気泳動を行うステップ;
(2b)ヌクレオチドシーケンシングのために、ステップ(2a)からの優勢な増幅生成物を選択するステップ
をさらに含む、請求項
6または請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(a)が、前記細胞に対してクローン性の決定またはイムノシーケンスを行って、前記J遺伝子に関するヌクレオチド配列情報を提供するステップ、および前記ヌクレオチド配列情報から、前記J遺伝子のタイプを決定するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ヌクレオチド配列を決定するステップが、NGS分析を含む、請求項1から
9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、細胞の集団内に存在し、ステップ(a)が、
(i)前記細胞の集団から核酸を抽出するステップ;
(iia)前記核酸から、前記J遺伝子の少なくともセグメントのヌクレオチド配列を決定して、ヌクレオチド配列の集団を生成するステップ;
(iib)前記ヌクレオチド配列の集団から、ヌクレオチド配列を選択するステップ;
(iii)(iib)で選択された前記ヌクレオチド配列を、
配列番号1~16のいずれか1つから選択される1つまたは複数のJ遺伝子の参照ヌクレオチド配列と比較するステップ、および
(iv)(iii)の前記J遺伝子の参照ヌクレオチド配列に対する、(iib)の前記J遺伝子の前記セグメントの前記ヌクレオチド配列の配列同一性によって、前記J遺伝子のタイプを同定するステップであって、(iib)の前記J遺伝子の前記セグメントの前記ヌクレオチド配列が、(iii)の前記J遺伝子の参照ヌクレオチド配列に対して100%の配列同一性を有する、ステップ
を含む、請求項1から1
0のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記細胞が、末梢T細胞リンパ腫(PTCL)を有するかまたは有する疑いのある被験体由来である、請求項1から1
1のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記細胞が、末梢T細胞リンパ腫(PTCL)細胞である、請求項1から1
2のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
以下:
【表8】
からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む核酸プローブ。
【請求項15】
請求項1
4に記載の少なくとも2つの異なる核酸プローブを含む核酸アレイ。
【請求項16】
コンピューター
に請求項1から1
3のいずれか一項に記載の方法のステップ(a)から(b)を実行するように
命令するプログラ
ムであって、前
記プログラム
が、前記決定されたJ遺伝子のタイプから前記細胞において発現される前記TRBC遺伝子のタイプを推測する
よう命令し、J
1遺伝子が決定される場合、C
1遺伝子が推測され、J
2遺伝子が決定される場合、C
2遺伝子が推測される
、プログラ
ム。
【請求項17】
請求項
16に記載
のプログラ
ムを有するデータキャリアまたは記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば末梢T細胞リンパ腫(PTCL)、特に、PTCLなどの特定の細胞で発現される定常領域の遺伝子のタイプを決定することにおけるT細胞受容体β鎖(TRBC)使用の分子的評価の分野にある。
【背景技術】
【0002】
末梢T細胞リンパ腫(PTCL)は、非ホジキンリンパ腫の10%から15%に相当し、23個の異なる実体で構成される。疾患のうちこのサブセットにおける標準的治療は、変動的であり、患者の65%は、難治性であるかまたは標準的療法の後に再発する。PTCLに特異的な標的の不足が、これらの疾患のための標的化免疫療法の開発を妨げてきた。
【0003】
αβTCRは、汎T細胞抗原である。αβTCRは、正常なT細胞でのその発現を除けば、PTCLを処置するための非常に有望な標的である。
【0004】
したがって、T細胞白血病および/またはリンパ腫の処置への1つのアプローチは、T細胞受容体を抗原として標的化することである。このアプローチは、その抗原を有している細胞の効率的な破壊をもたらすことができ、これは、B細胞悪性疾患に対して非常に有効であったアプローチである。しかしながら、B細胞のアブレーションとは対照的に、患者からのT細胞集団の除去は、それほど許容されていない。T細胞区画のアブレーションに関連する重度の毒性は、健康なT細胞で発現される抗原の標的化のリスクを増大させる。これは、極めて毒性が高く、患者を危険なほどに感染に曝した状態にする。
【0005】
TCRβ鎖組換えの特色は、β鎖定常領域に関連する2つの遺伝子:TRBC1およびTRBC2があることである。各T細胞(したがって各T細胞がん)は、不可逆的にTRBC1またはTRBC2のいずれかを選択して、TCRに取り込む。
【0006】
およそ35%の正常かつウイルス特異的なT細胞は、TRBC1を発現し、65%はTRBC2を発現する。TRBC1を発現する腫瘍を標的化することは、腫瘍細胞を枯渇させ、一方で残りのT細胞は、放置されて拡大増殖し、T細胞区画を満たし、感染と戦うはずである。
【0007】
成熟T細胞がんを処置するための、TRBC1を標的化するが、TRBC2を標的化しないCAR T細胞が記載されている。この戦略の成功の鍵は、正しいTCRベータ定常領域を発現するリンパ腫を有する患者の選択である。
【0008】
当該分野では、T細胞(T細胞がん)のTRBC1またはTRBC2のタイプを決定することが課題となっている。
【0009】
T細胞リンパ腫患者の総合診断をカバーし、それにより被験体から単離された腫瘍試料中の全T細胞のうちのあるパーセンテージが、TRBC1またはTRBC2陽性であると確認される戦略が記載されている。抗TRBC1キメラ抗原受容体(CAR)T細胞を使用する、TRBC1+T細胞の標的化された殺滅が記載されている(Maciocia et al 2017 Nature Medicine volume 23, pages 1416-1423)。TRBC1/TRBC2を発現する細胞は、TRBC1発現細胞に特異的なJOVI-1 mAbを使用して区別された。これは労力を要し、IHC方法は主観的なことがあり、これらは、このアプローチの欠点である。
【0010】
WO2016051205A1は、T細胞の集団の単型(monotypia)を調査する方法であって、T細胞の集団における、T細胞受容体ベータ鎖定常領域TRBC1およびTRBC2、ならびに/またはT細胞受容体ガンマ鎖定常領域TRGC1およびTRGCの発現を検出するステップを含む、方法を開示している。記載された技術は、定常領域のIHCおよび/またはRNAベースの直接検出に焦点を当てている。これらの方法は、信頼できない場合があり(例えばIHC)、および/またはRNAの保存/抽出を必要とする場合があり(例えば直接検出)、これらのどちらも、これらの方法の欠点である。
【0011】
WO2015/132598(AU2015225944に対応)は、T細胞悪性疾患の処置で使用するためのTRBC1およびTRBC2特異的キメラ抗原受容体(CAR)を記載している。しかしながら、悪性疾患のTRBC1/TRBC2のタイプを正確に決定することは、当該分野において課題のままである。
本発明は、先行技術に関連する課題を克服しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2016/051205号
【文献】国際公開第2015/132598号
【非特許文献】
【0013】
【文献】Maciocia et al 2017 Nature Medicine volume 23, pages 1416-1423
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
TRBC1を発現する腫瘍またはTRBC2を発現する腫瘍のみを標的化することは、腫瘍細胞を枯渇させ、一方で残りのT細胞は、放置されて拡大増殖し、T細胞区画を満たし、感染と戦うはずである。
【0015】
腫瘍がTRBC1またはTRBC2を発現する細胞で構成されているかどうかを決定するための、患者の腫瘍の分子診断を可能にする方法が、本明細書に記載される。本方法は、核酸、好ましくはゲノムDNAを得ることができるあらゆる患者試料に対して診断を行うことを可能にするという点で、他の方法より重要な利点を提供する。
【0016】
したがって、本発明は、患者からの試料のTRBCタイピングを可能にする診断テストを提供する。この方式で、患者にとって適切な療法(すなわち、TRBC1を発現する細胞を標的化するか、またはTRBC2を発現する細胞を標的化するための)を選択することができる。
【0017】
本発明により教示されるアプローチは、有利には、試料中の細胞のTRBCタイプを決定するためにゲノムDNA分析を使用する。本発明者らは、TCR遺伝子の、J領域(接合領域)のC領域(定常領域)への驚くほど近い遺伝子連鎖を発見した。本発明者らは、細胞のTRBCタイプが、J領域を研究すること、新たに発見されたJ領域のC領域への連鎖を利用すること、および目的のC領域のTRBCタイプを推測することによって読み出すことができるということを見抜いた。
【0018】
C領域およびJ領域が、非常に大量の介在核酸によって分離されていることを考えると、このアプローチの成功は驚くべきことである。この遺伝学的距離の量は、通常、J領域とC領域との間のより一層緩い連鎖をもたらすと予想される。これらの理由のために、このようなJ領域とC領域との間の信頼できる緊密な連鎖が観察され、本発明の診断方法を可能にしていることは非常に驚くべきことである。
【0019】
この正確な遺伝学的アプローチが、いずれの「目による」免疫組織化学(IHC)ベースの方法より優れており、より正確であることは、本発明のさらなる利点である。
【0020】
先行技術のアプローチは、試料のTRBCタイプを決定するための抗体の使用を教示している。しかしながら、抗体ベースのアプローチは、そのアウトプットを評価するために、主観的な判断および/またはヒトの介入を必要とする。二値の回答(TRBC1またはTRBC2)が提供されることは、本発明の利点である。
【0021】
存在するJ領域遺伝子の決定とC領域遺伝子の推測との間の、極めて高い信頼度および極めて低い誤り率(例えば組換え率)は、非常に驚くものである。当業者が、2つの遺伝子が連鎖している可能性を予期していたとしても、それらが本発明により教示されるような信頼できる診断情報を提供するほどに緊密に連鎖しているとは決して予測しなかったであろう。
【0022】
多くの抗体は、固定された組織ではそれらのエピトープと結合せず、どちらかと言えば新鮮な、または凍結された組織でのみそれらと結合することが当該分野において周知である。当該分野において周知のように、組織の固定は、タンパク質構造に影響を与える可能性があり、それゆえに、抗体が、一方または他の試料タイプに存在しない/利用可能ではないエピトープを認識することがよくある。遺伝学的方法を使用することによって、試験が、固定された、または新鮮な、または凍結した組織に対して等しくよく機能することは、本発明の利点である。したがって本発明は、あらゆる試料タイプに広く適用可能であり、IHC分析などの先行技術のアプローチの制限を克服する。
【0023】
したがって、一態様において、本発明は、細胞のT細胞受容体β鎖(TRBC)遺伝子のタイプを決定する方法であって、
(a)前記細胞で発現されたJ遺伝子のタイプを決定するステップ、および
(b)(a)から、前記細胞で発現されたTRBC遺伝子のタイプを推測するステップ
を含む、方法に関する。
【0024】
「J遺伝子」は、当該分野におけるその通常の意味を有する。好適には、「J遺伝子」は、T細胞受容体遺伝子のジャンクションまたは接合セグメント(J領域)を指す。
【0025】
好適には、用語「V領域」は、当該分野におけるその通常の意味を有し、すなわち、T細胞受容体遺伝子の可変領域または可変セクション(V領域)である。
【0026】
好適には、用語「C領域」は、当該分野におけるその通常の意味を有し、すなわち、T細胞受容体遺伝子の定常領域または定常セクション(C領域)である。
【0027】
好適には、用語「D領域」は、当該分野におけるその通常の意味を有し、すなわちT細胞受容体遺伝子の多様性領域または多様性セクション(D領域)である。
【0028】
さらなる指針が必要な場合、注釈付き参照配列を以下に提供する。
【0029】
好適には、ステップ(a)は、
(i)前記細胞から、核酸を抽出するステップ;
(ii)前記核酸から、前記J遺伝子の少なくとも1つのセグメントのヌクレオチド配列を決定するステップ;および
(iii)(ii)で決定されたヌクレオチド配列を、1つまたは複数のJ遺伝子の参照ヌクレオチド配列と比較するステップ、および
(iv)(iii)のJ遺伝子の参照ヌクレオチド配列に対する、(ii)の前記J遺伝子のセグメントのヌクレオチド配列の配列同一性から、J遺伝子のタイプを同定するステップ
を含む。
【0030】
好適には、前記J遺伝子の参照ヌクレオチド配列は、表1の通りである。
【0031】
(iii)のJ遺伝子の参照ヌクレオチド配列に対する(ii)の前記J遺伝子のセグメントのヌクレオチド配列の配列同一性を考慮すると、適切な科学的/統計的な信頼度でJ遺伝子の参照ヌクレオチド配列を同定するのに(すなわちJ遺伝子のタイプを同定するのに)十分なレベルの配列同一性が必要である。好適には、J遺伝子の参照ヌクレオチド配列に対して100%の配列同一性の一致が必要である。好適には、配列同一性は、J遺伝子の参照ヌクレオチド配列の長さ全体にわたり評価される。好適には、クエリー配列およびJ遺伝子の参照ヌクレオチド配列は、配列同一性決定を行う前に、アライメントする必要がある場合がある。配列のアライメントは、目視で行ってもよいし、または以下で論じられるような公知の配列アライメントツールを使用して行ってもよい。
【0032】
好適には、前記核酸は、ゲノムDNA(gDNA)を含む。
【0033】
好適には、前記J遺伝子の前記セグメントは、T細胞受容体遺伝子のJ領域全体を含む。
【0034】
好適には、前記J遺伝子の前記セグメントは、T細胞受容体遺伝子のCDR3に含まれている。
【0035】
好適には、前記J遺伝子の前記セグメントは、
【表1-1】
からなる群より選択される。
【0036】
好適には、ステップ(ii)は、
(1)前記核酸を、前記J遺伝子の少なくともセグメントの増幅のための試薬と接触させるステップ;
(2)インキュベートして、増幅させるステップ;
(3)前記J遺伝子の増幅したセグメントのヌクレオチド配列を決定するステップ
を含む。
【0037】
好適には、前記増幅のための試薬は、T細胞受容体遺伝子のV領域に配置された少なくとも1つのフォワードプライマーおよびT細胞受容体遺伝子のJ領域に配置された少なくとも1つのリバースプライマーを含むか、または前記増幅のための試薬は、T細胞受容体遺伝子のV領域に配置された少なくとも1つのリバースプライマーおよびT細胞受容体遺伝子のJ領域に配置された少なくとも1つのフォワードプライマーを含む。
【0038】
好適には、前記方法は、
(2a)前記J遺伝子の増幅されたセグメントの電気泳動を行うステップ;
(2b)ヌクレオチドシーケンシングのために、ステップ(2a)からの優勢な増幅生成物を選択するステップ
をさらに含む。
【0039】
好適には、ステップ(a)は、前記細胞に対してクローン性の決定またはイムノシーケンシングを行って、前記J遺伝子に関するヌクレオチド配列情報を提供するステップ、および前記ヌクレオチド配列情報から、J遺伝子のタイプを決定するステップを含む。
【0040】
好適には、ヌクレオチド配列を決定するステップは、NGS分析を含む。
【0041】
一実施形態において、好適には、前記細胞は、細胞の集団内に存在し、ステップ(a)は、
(i)前記細胞の集団から核酸を抽出するステップ;
(iia)前記核酸から、前記J遺伝子の少なくともセグメントのヌクレオチド配列を決定して、ヌクレオチド配列の集団を生成するステップ;
(iib)前記ヌクレオチド配列の集団から、ヌクレオチド配列を選択するステップ;
(iii)(iib)で選択されたヌクレオチド配列を、1つまたは複数のJ遺伝子の参照ヌクレオチド配列と比較するステップ、および
(iv)(iib)の前記J遺伝子のセグメントのヌクレオチド配列の、(iii)のJ遺伝子の参照ヌクレオチド配列に対する配列同一性によって、J遺伝子のタイプを同定するステップ
を含む。
【0042】
ヌクレオチド配列をNGSによって決定する場合、および/または細胞の集団からの核酸についてヌクレオチド配列を決定する場合、配列決定手順の間に、複数のヌクレオチド配列が生成されることに留意されたい。これは、熟練した操作者には周知である。したがって、NGS装置によって決定されたら、「生の」ヌクレオチド配列データを評価しなければならない。不適切なデータは、捨てられる。
【0043】
例えば、試料は、2つまたはそれより多くのクローン再編成を用いて検出することができる。D/J再編成などの不完全な再編成からのデータは、好適には、捨てられる。完全なV/J再編成に焦点が当てられる。したがって、2つまたはそれより多くのクローン再編成を示す試料の場合、データの列が、不完全な再編成、例えばD/J再編成または無-J再編成(none-J rearrangement)または他の不完全な再編成に関する場合、その列は捨てられる。V/J再編成配列データが保持される。好適には、ヌクレオチド配列データは、V/J再編成された核酸からのものである。
【0044】
例えば、試料は、クローン性を示していなくてもよい。クローン性を評価するための指針は当該分野において周知であり、以下で説明され、表3に提示される。例えば、トップの総リード%が1.0%未満である場合、データは、非クローン性とみなされる。非クローン性のデータは、好適には、捨てられる。クローン性のデータに焦点が当てられる。好適には、ヌクレオチド配列データは、クローン性核酸からのものである。
【0045】
例えば、LymphoTrack NGSシステムを使用すれば、最小限のDNAインプット要件は、試料1つ当たり50ngである。LymphoTrack NGSシステムのIFU280410によれば、50ng未満の核酸を有する試料は、「評価不可能」とみなされる。評価不可能なデータは、好適には、捨てられる。評価可能なデータに焦点が当てられる。好適には、ヌクレオチド配列データは、評価可能な試料からのものである。好適には、ヌクレオチド配列データは、少なくとも50ngの核酸を含む試料からのものである。
【0046】
好適には、前記細胞は、末梢T細胞リンパ腫(PTCL)を有するかまたは有する疑いのある被験体由来である。
【0047】
好適には、前記細胞は、末梢T細胞リンパ腫(PTCL)細胞である。
【0048】
一態様において、本発明は、末梢T細胞リンパ腫(PTCL)を処置する方法であって、
(a)上述した通りに、前記被験体からのPTCL細胞のT細胞受容体β鎖(TRBC)のタイプを決定するステップ;および
(b)(a)で決定されたT細胞受容体β鎖(TRBC)のタイプに標的化されたCAR T細胞を前記被験体に投与するステップ
を含む、方法に関する。
【0049】
一態様において、本発明は、末梢T細胞リンパ腫(PTCL)の処置で使用するための、T細胞受容体β鎖(TRBC)のタイプ1に標的化されたCAR T細胞、またはT細胞受容体β鎖(TRBC)のタイプ2に標的化されたCAR T細胞であって、前記処置は、上述した処置する方法を含む、CAR T細胞に関する。
【0050】
一態様において、本発明は、
【表1-2】
からなる群より選択される、ヌクレオチド配列を含む、またはヌクレオチド配列からなる核酸プローブに関する。
【0051】
一態様において、本発明は、上述した少なくとも2つの異なる核酸プローブを含む核酸アレイに関する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【発明を実施するための形態】
【0053】
TCR多様性は、各TCR鎖が、可変(V)、多様性(D)、接合(J)および定常(C)領域を選択するときに起こる体細胞組換えによって生成される。TCR β鎖のジャンクション領域は、定常ドメインで隔離されている。VDJ組換えは、ゲノムDNAレベルで起こり、mRNA転写は、あらゆる介在配列をスプライシングで切り出し、TCR Cβ鎖の全長タンパク質の翻訳を可能にする。DNAレベルでのTRBC1およびTRBC2定常領域間の大きい介在領域の存在により、TRBJ1-1~TRBJ1-6を選択するTCRは、TRBC1を使用し、TRBJ2-1~TRBJ2-7を選択するTCRは、TRBC2を使用することが、本明細書で開示される。したがって、本発明者らは、使用されるJ領域を同定することによって、TCRのC領域の使用を推測することが可能であることを実証する。
【0054】
TCRは、所与のT細胞が抗原に曝露されるとき、体細胞超変異に供されない。したがって、一旦再編成が起こったら、所与のT細胞クローンの特異性は、変化しないままである。TCRクローン性試験は、慣例的に、T細胞リンパ増殖性障害のための診断ツールとして使用される。簡単に言えば、VDJが組み換えられた可変領域を増幅するのにマルチプレックスプライマーが使用され、優勢なクローンの存在は、電気泳動を介して可視化でき、優勢なPCR生成物のシーケンシングは、腫瘍のクローン型を解明することができる。TCRクローン性とNGSシーケンシングの組合せは、ゲノムの数百万ものセグメントを同時に測定することを可能にし、膨大な数の浸潤T細胞の存在下におけるクローンの同定などの従来のシーケンシングに関連する限界を克服することができる。
【0055】
T細胞受容体β鎖(TRBC)の定常領域に関する2つの遺伝子、すなわちTRBC1およびTRBC2があることが公知である。これらの2つの遺伝子は、遺伝学的重複によって生じたものと考えられ、機能的に同等とみなされる。2つの遺伝子産物は、4つのアミノ酸が異なるだけである。これらの類似性にもかかわらず、腫瘍がクローン性であるため、この差は有利に利用できる。それゆえに、所与の悪性疾患における細胞のそれぞれは、それから腫瘍が発生する元のT細胞と同じTRBC遺伝子を有すると予想される。それゆえに、所与の患者において、悪性細胞の全てが、TRBC1またはTRBC2のいずれかであると予想される。
【0056】
いずれの所与の個体においても、正常なT細胞のおよそ35%が、TRBC1を発現し、残りの65%が、TRBC2を発現する。これは、全てのTRBC1を発現する細胞を選択的に標的化し、同時に、全てのTRBC2を発現する細胞を生存したままにする機会(またはその逆)を提供する。この方法で、悪性疾患を標的化でき、同時にこれは、その患者における同じTRBCタイプの健康なT細胞の集団も標的化すると予想され、他のTRBCタイプを発現する健康なT細胞集団の残りを標的化しないと予想される。それゆえに、どちらのTRBCタイプが標的化されても、健康なT細胞集団の残りの部分は患者内に維持されるはずであり、それにより患者は免疫エフェクター機能を維持したままになり、同時に患者の悪性疾患が低減または排除される。この洗練された療法を実施するために、あらゆる所与の患者の悪性細胞で発現されるTRBC遺伝子を正確かつ効率的に決定することが極めて重要である。本発明は、この問題の解決法を提供する。
【0057】
本発明者らは、健康なヒトT細胞のNGS分析を介して、圧倒的多数の場合において、TRBJ1がC1に連鎖し、TRBJ2がC2に連鎖していることを実証した。したがって、患者腫瘍におけるTRBC1またはTRBC2発現の診断は、クローン性ベースのアッセイを使用するJ領域の分析を介して行うことができる。
【0058】
TRBC1またはTRBC2を発現する腫瘍を同定するのに使用された以前の戦略は、フローサイトメトリーアッセイまたは新鮮な組織でのみ機能する抗体染色方法の使用を前提とする。記載された方法はDNAをゲノムレベルで照会するため、固定された組織は、原材料として使用することができ、これは本発明の利点である。
【0059】
本発明は、T細胞リンパ腫におけるTRBC使用の分子的評価に関する。好適には、分子的評価は、核酸ベースの評価である。
【0060】
好適には、細胞は、in vitroの細胞である。
【0061】
本発明は、NGS分析を使用して、J1/C1およびJ2/C2間の連鎖を利用する。
【0062】
細胞/試料
本発明は、T細胞受容体β鎖を発現するあらゆる細胞に適用することができる。好適には、細胞は、哺乳動物細胞であり、好適には、細胞は、霊長類細胞であり、好適には、細胞は、ヒト細胞である。好適には、細胞は、T細胞であるか、またはT細胞由来である。
【0063】
T細胞由来の細胞は、新生物性細胞、例えばリンパ腫細胞および/または腫瘍細胞を含む。
【0064】
好適には、細胞は、新生物性細胞であり得る。好適には、細胞は、悪性細胞であり得る。好適には、細胞は、がん細胞であり得る。好適には、細胞は、腫瘍細胞であり得る。
【0065】
好適には、細胞は、目的の被験体からの試料中に含まれているか、またはその中に存在する。好適には、試料は、被験体における腫瘍または疑いのある腫瘍から採取した試料であり得る。
【0066】
好適には、試料は、生検材料、例えば腫瘍生検材料であり得る。
【0067】
好適には、試料は、血液試料であり得る。これは、本発明を使用して微小残存病変(MRD)をモニタリングする場合、特に有利である。
【0068】
試料は、扁桃試料であり得る。
【0069】
好適には、本方法は、in vitroの方法である。好適には、試料は、in vitroの試料である。好適には、試料は、被験体から予め収集されたものである。好適には、本方法は、ヒトまたは動物の体からの試料の収集を含まない。好適には、本方法は、ヒトまたは動物の体に実施されない。好適には、本方法は、ヒトまたは動物の体の存在を必要としない。
【0070】
コンピューターでの実施
好適には、本方法は、少なくとも部分的に、in silicoで実行することができる。
【0071】
上述した本発明の実施形態が、少なくとも部分的に、ソフトウェア制御されたデータ処理装置を使用して実施される限りにおいて、このようなソフトウェアによる制御を提供するコンピュータープログラムおよびこのようなコンピュータープログラムが保存される記憶媒体は、本発明の態様として想定されることが理解されるであろう。
【0072】
したがって本発明は、前記データ処理装置を操作する方法、本方法を実行するための装置のセットアップ、および/またはコンピュータープログラムそれ自体を提供する。本発明はまた、プログラムを搭載する物理媒体、例えばコンピュータープログラム製品、例えば、プログラムを搭載する、データキャリア、記憶媒体、コンピューター読取り可能な媒体またはシグナルにも関する。
【0073】
ソフトウェアによって制御された試料取り扱い装置が採用される場合、このようなコンピュータープログラムには明らかに、試料を提供することなどのステップが包含されると予想される。しかしながら、操作者の選択においてこのようなステップが手動で実行される場合、コンピューターによって実施される方法のステップが、本方法のデータを処理するステップを含むかまたはそれからなることが理解されるであろう。
【0074】
一態様において、本発明は、コンピューターで実行される場合、上述した方法のステップ(a)および(b)を実行するように、好適には、上述した方法のステップ(ii)から(iv)、より好適には、上述した方法のステップ(iia)から(iv)を実行するように、最も好適には、上述した方法のステップ(iii)および(iv)を実行するように動作可能なコンピュータープログラム製品に関する。
【0075】
一態様において、本発明は、上述したコンピュータープログラム製品を有するデータキャリアまたは記憶媒体に関する。
【0076】
細胞の集団
本発明は、T細胞の集団に適用することができる。例えば、本発明は、目的の試料中の、T細胞の集団、またはT細胞由来の細胞に適用することができる。このシナリオでは、その集団内の目的の特定の細胞のTRBCタイプを決定することが重要であり得る。その集団内の目的の細胞の選択は、例えば、目的の組織からの試料、例えば目的の腫瘍もしくは疑いのある腫瘍からの試料を使用することによって物理的に行ってもよいし、または例えば、分析に供された細胞の集団から決定されたヌクレオチド配列の集団内から特定のクローンを選択することによって、コンピューターで行ってもよい。例えば、優勢なクローン、すなわち、分析された集団内において最大数の「リード」または核酸分子を示すクローンの配列を選択することが望ましい場合がある。代替として、増幅された核酸を、例えば電気泳動によって分離してもよいし、その段階で、シーケンシングのために優勢なクローンを選択してもよい。分析内で個々のクローン(それゆえに個々の細胞)を選び出すために使用される特定の様式は、操作者の選択の範疇である。この方式で、本発明は、細胞の集団に実行される分析内において、特定の1つまたは複数の細胞に有利に適用することができる。
【0077】
核酸
広範な態様において、核酸は、細胞中に存在するあらゆる核酸であり得る。
【0078】
好適には、核酸は、DNAまたはRNAである。好適には、核酸は、DNAを含むかまたはそれからなる。好適には、核酸は、ゲノムDNA(gDNA)を含むかまたはそれからなる。
【0079】
核酸、例えばDNAは、好適には、熟練者に公知のあらゆる技術を使用して、試料中の細胞から抽出される。好適には、核酸は、標準的な商業的に入手可能なDNA抽出キットを使用して抽出される。最も好適には、核酸は、QIAGEN Ltd.、Skelton House、Lloyd Street North、Manchester、M15 6SH、U.K.からのGeneRead DNA FFPEキット(カタログ番号/ID:180134)を使用して抽出される。
【0080】
必要に応じて、本発明の方法は、ステップ(a)および(b)で決定された情報から、末梢T細胞リンパ腫(PTCL)のクローン型を推測する、さらなる必要に応じたステップを含む。
【0081】
好適には、本発明で分析される核酸は、ゲノムDNA(gDNA)である。一実施形態において、本発明は、分析される出発材料/核酸としてRNAを使用して実施され得る。しかしながら、RNAは、生検材料などの試料中にそれを保存するために、ある特定の処置を必要とする。最初の試料または生検材料にこの処置が行われない場合、患者に再生検を行うことを必要とする場合があり、これは、望ましくない2回目の侵襲的手順である。したがって、分析される核酸が好適にはgDNAであることは、本発明の利点である。gDNAは、典型的にはRNAより安定である。
【0082】
微小残存病変(MRD)を分析する場合、RNAが分析される場合がある。しかしながら、MRDをモニタリングする段階では、典型的には腫瘍VDJ領域の配列が決定されている。したがって、患者におけるMRDを追跡する場合、単にその患者からの試料から抽出されたRNA中の公知の転写物を、例えばその配列のCDR中のプライマーを使用することによって検出することが、典型的であると予想される。この方式で、申し分のない特異性が、(例えば)CDR3をコードする部分などの核酸の好適な部分に向けられたプライマーにより達成される。それゆえに、本発明のTRBC1/2のタイピング方法は、MRDのモニタリングにも適用できる一方で、これは、有利なことに、患者の処置中にすでに決定された腫瘍クローンの特異的な転写物を検出するRNAベースのアプローチと組み合わせることができる。
【0083】
CDR(相補性決定領域)は当該分野において周知である。これらの領域を説明および定義する、例えば(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))およびそれに続く多数の刊行物を参照されたい。
【0084】
T細胞受容体β鎖(TRBC)遺伝子-参照配列
好適には、本明細書の全ての配列は、ヒトTRBCを参照して論じられる。
【0085】
野生型ヒト遺伝子のGenBank配列を参照することが有用であり得る。
【0086】
V-D-J-C領域を含む全体的な遺伝子座/複合遺伝子の構造は、当該分野において公知であり、C1タイプ、C2タイプ、J1タイプおよびJ2タイプの配列を含む。少なくとも、7つのJ1バリアントおよび9つのJ2バリアントがある。さらなる指針が必要な場合、本発明者らは、表1を参照する。
【0087】
GenBankは、Benson, D. et al, Nucleic Acids Res. 45(D1):D37-D42 (2017)に記載される配列データベースである。より詳細には、GenBankは、国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)、国立医学図書館(National Library of Medicine)、38A、8N805、8600 Rockville Pike、Bethesda、MD20894、USAによって管理されている通りのものである。好適には、配列データベースの現在のバージョンに依拠する。代替として、出願日に有効なリリースに依拠する。誤解を避けるために言えば、NCBI-GenBankリリース225.0(2018年4月15日)に依拠する。
【0088】
何らかのさらなる指針が必要な場合において、本発明者らは、以下の参照配列(配列番号31):>38675309_B97#1_TRBC2を参照する。
【化1】
【0089】
好適には、接合またはJ領域は、上記の下線で示される配列に対応する配列を含むか、またはより好適にはそれからなる。より好適には、接合またはJ領域は、上記の下線で示される配列を含むか、またはより好適にはそれからなる。
【0090】
より詳細には、配列番号31は、再編成されたベータ鎖のための参照配列である。これは、本発明者らによってシーケンシングされたNGSライブラリーからの例である。
【0091】
本明細書において特定のヌクレオチドが数字のアドレスを使用して言及される場合、番号付けは、上記で示したような野生型TRBCヌクレオチド配列(例えば配列番号31)を参照しながらなされている。この配列は、目的の特徴/残基の場所を特定するために当該分野においてよく理解されている通りに使用されることとする。これは、必ずしも厳密な数え上げ作業とは限らず、文脈に注意を払う必要がある。例えば、目的の配列がわずかに異なる長さを有する場合、その配列における正しいヌクレオチドの配置は、配列をアライメントし、等価な、または対応するヌクレオチドを選び出すことを必要とする場合がある。これは十分に、熟練した読者の範囲内である。
【0092】
V/D/J/C領域の決定
明らかに、個々の患者間に配列のバリエーションがあることが予測される。これは、個々の遺伝学的な変動性/対立遺伝子の差のために、全ての哺乳動物遺伝子に当てはまる。しかしながら、周知の通り、これは、特に、本発明の主題であるTRBC遺伝子領域などの高度可変領域に関する場合である。それゆえに、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列を検査すること、およびそれがV/J/D/C領域であるか、または上記のどれでもないかを決定することにおいて、標準的なアプローチ、例えばソフトウェア(例えばIMGT(商標)ソフトウェア)を使用する生物情報科学的なアプローチを採用してもよい。
【0093】
IMGT(商標)、すなわち国際的なImMunoGeneTics information system(商標)http://www.imgt.orgは、Marie-Paule Lefranc(Universite de MontpellierおよびCNRS)によって1989年に作成された、免疫遺伝学およびイムノインフォマティクスにおける包括的な参照である。IMGT(商標)は、ヒトおよび他の脊椎動物種の、免疫グロブリン(IG)または抗体、T細胞受容体(TR)、主要組織適合性(MH)において、ならびに、脊椎動物および無脊椎動物の免疫系(RPI)の、免疫グロブリンスーパーファミリー(IgSF)、MHスーパーファミリー(MhSF)および関連タンパク質において特殊化された高品質の総合知識源である。IMGT(商標)は、IMGT-ONTOLOGYおよびIMGT Scientificのチャートルールの概念に基づく、配列、ゲノムおよび構造免疫遺伝学データへの共通のアクセスを提供する。
【0094】
何らかのさらなる情報が必要な場合、本発明者らは、Lefranc M-P, Giudicelli V, Duroux P, Jabado-Michaloud J, Folch G, Aouinti S, Carillon E, Duvergey H, Houles A, Paysan-Lafosse T, Hadi-Saljoqi S, Sasorith S, Lefranc G, Kossida S. Nucleic Acids Res. 2015 Jan;43(Database issue):D413-22. "IMGTTM, the international ImMunoGeneTics information systemTM 25 years on.", Lefranc, M.-P., Front Immunol. 2014 Feb 05;5:22 "Immunoglobulin (IG) and T cell receptor genes (TR): IMGTTM and the birth and rise of immunoinformatics."を参照する。IMGT(商標)ツールの使用は、十分に熟練者の能力の範囲内であり、完全な詳細は、公開され、1989から定期的にアップデートされており、例えば、Lefranc, M.-P., Cold Spring Harb Protoc. 2011 Jun 1;2011(6) "IMGTTM, the International ImMunoGeneTics Information System"である。
【0095】
起こる可能性が低いがさらなる指針が必要な場合、J領域を同定するために、当業者は、IMGT/V-questなどの公知のアライメントツールを用いて配列をアライメントしてもよい(Nucleic Acids Res., 31, 307-310 (2003))。IMGT/V-QUESTは、免疫グロブリン(IG)およびT細胞受容体(TR)の可変領域およびドメインのヌクレオチド配列のための配列アライメントソフトウェアである。IMGTアウトプットは、ジャンクションのヌクレオチドおよびアミノ酸配列を含む。
【0096】
VDJ再編成の分析は、以下で例示される。
【0097】
以下に示されるように、IMGTは、B97#1 TCRの配列(配列番号31)を分析するためのものであった。
a)V領域の翻訳およびアライメント
【化2】
注釈:
1)L36092 Homsap TRBV29-1*01 F Folch, G. and Lefranc, M.-P., Exp. Clin. Immunogenet., 17, 42-54 (2000))(L36092-GenBank生殖細胞系ベータT細胞受容体遺伝子座)
2)38675309_B97#1_TRBC2(配列番号31)
b)ジャンクション領域の分析(IMGT)
【化3】
注釈:
1)L36092 Homsap TRBV29-1*01 F (Folch, G. and Lefranc, M.-P., Exp. Clin. Immunogenet., 17, 42-54 (2000))(L36092-GenBank生殖細胞系ベータT細胞受容体遺伝子座)
2)38675309_B97#1_TRBC2(配列番号31)
【0098】
他のバイオインフォマティクスツールを使用して、V/D/J/C領域を同定するための類似の分析を実行することができ、その一例は、MiXCRソフトウェアである(Bolotin et al 2015 Nature Methods Vol 12 No.5 pages 380-381)。Bolotin et alは、本開示の配列中のV/D/J/C領域の同定において有用な定量化されたクローン型に対する生の配列からの大きいイムノーム(immunome)データを処理するユニバーサルフレームワークを提供するソフトウェアを開示している。Bolotin et al 2015は、単にこのような分析方法の教示のために具体的に参照により組み込まれ、それ以外の目的はない。ソフトウェアは、例えばMiLaboratory LLC、534 S.Andres Dr.、Solana Beach、CA 92075、USAから入手可能である。
【0099】
変異は、当該分野におけるその通常の意味を有し、1つまたは複数のヌクレオチド、モチーフまたはドメインの置換またはトランケーションまたは欠失または付加を指し得る。
【0100】
試料
好適には、試料は、生検材料を含んでいてもよい。好適には、試料は、腫瘍生検材料、または疑いのある腫瘍からの生検材料を含んでいてもよい。好適には、試料は、血液を含んでいてもよい。好適には、試料は、T細胞に富む生検材料、例えばリンパ節生検材料または脾臓生検材料を含んでいてもよい。
【0101】
様々な試料タイプ、例えば扁桃生検材料を使用して発明を実証したことに留意すべきである。扁桃は、T細胞に富む組織である。これは、本発明の有効性を実証することにおいて非常に有用であるが、本発明を患者に適用する場合に、必ずしも例示的な試料タイプではない。したがって、扁桃は本発明にとって好適な試料であるが、より好適には、試料は、腫瘍生検材料、疑いのある腫瘍の生検材料、リンパ節生検材料、脾臓生検材料、または血液を含み、より好適には、試料は、腫瘍生検材料または血液を含む。
【0102】
試料が腫瘍からのものである場合、好適には、試料は、あらゆる腫瘍のタイプまたはサブタイプからのものであり得る。好適には、試料は、以下の実施例のセクションで述べられるあらゆる腫瘍のタイプまたはサブタイプからのものであり得る。
【0103】
読み出し
原則的に、試料由来の核酸、例えばPCR増幅された核酸から、配列情報を読み出すあらゆる方法を使用することができる。例えば、PCR生成物は、例えばゲル電気泳動を使用することによってサイズで分離されてもよく、優勢な生成物は、切り出され、シーケンシングされてもよい。代替として、TRBC1/2に特異的なプライマーは、最初の増幅ステップの後に、例えば二次PCRで使用することができ、それによって、試料がTRBC1またはTRBC2であるかどうかの指標が得られる。しかしながら、より好適には、最初の増幅後に、分析されるJ領域に特異的なPCRプライマーをPCR反応で使用してもよく、それによって、どのJ領域が試料中に存在するかが示され、それによって、本発明の方法に従ってC領域の正体の推測が可能になる。
【0104】
原則的に、核酸プローブのハイブリダイゼーションは、PCR生成物のJ領域の正体を検出するのに使用してもよいし、または増幅された核酸は、1つまたは複数のプローブ核酸を担持するアレイに適用することもでき、ハイブリダイゼーションを起こすことができ、PCR生成物におけるJ領域の正体は、そのようなプローブ配列に対するハイブリダイゼーションパターンを分析することによって読み出すことができる。
【0105】
C/J領域
本発明の主要な部分は、CからJへの緊密な連鎖を利用すること、それによって、Jタイプから間接的にTRBC1/2のステータスを推測することである。
【0106】
本発明の利点は、RNAなどの他の核酸より多くの数の組織タイプおよび貯蔵条件で保存されているgDNAからの検出(例えば核酸増幅を介した)を可能にすることである。したがって、好適には、本発明によって照合される核酸は、gDNAである(すなわち、出発材料または分析される材料は、好適には、gDNAである)。
【0107】
これは利点である。なぜなら、原材料がgDNAなどのDNAである場合、J領域とC領域との間のイントロンが、現行のシーケンシング技術を使用してカバーするには大きすぎるからである。それゆえに本発明は、J領域の分析からC領域のタイプを推測することによって、技術的な利点をもたらす。
【0108】
- PCR戦略
細胞のJタイプを決定するために、典型的には、その細胞のJ領域のヌクレオチド配列情報が必要である。現在のところ、細胞からのgDNAの直接シーケンシングは、実用的ではない。それゆえに、ヌクレオチド配列情報を得るために、中間増幅ステップ、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が、ヌクレオチド配列情報を生成するのに十分な核酸を生産するために使用される。
【0109】
有利には、2ステップのPCR戦略を使用することができる。
【0110】
例えば、第1のPCR(「PCR1」)は、定性的であり、これは、混合物中で低濃度のいくつかの異なるプライマーを使用してシードコピーを作製するためであり、第2のPCR(「PCR2」)は、定量的であり、これは、これらのシードコピーを、アダプタープライマー(時にはアンカープライマーまたはユニバーサルプライマーと呼ばれる)を使用して増幅して(すなわち、どちらのV/J配列が存在するかは無関係に、同じプライマーを使用して)、NGSに十分な材料を生産するためである。
【0111】
当然ながら、熟練した読者は、1回のPCRで原材料から直接増幅できる可能性が高いことを理解するであろう。それゆえに、2ステップのPCR戦略が、必須ではないが、有利である。実際には、第2の「ネステッド」PCRステップを実行することが有利であり、これは、例えばクローン集団の収量および/または検出を増加させる利益を有する。
【0112】
マルチプレックスPCR
好適には、最初のステップとして、一旦DNAが調製されたら、それはマルチプレックスPCRに供される。これは、V領域からのいくつかのプライマー、および/またはD領域からのいくつかのプライマー、および/またはJ領域からのいくつかのプライマー、最も好適には、VおよびDおよびJ領域のそれぞれからのいくつかのプライマーを含有していてもよい。したがって、これらのプライマーは、照合されるヌクレオチド配列にわたり、それらの個々の部位でアニールし、PCR反応の後に、増幅生成物を分析して、完全性/信頼度を確実にし、シーケンシングに進行させることができる。好適には、マルチプレックスPCR生成物は、PCR生成物の本質的にレパートリー全体がシーケンシングされるように、NGSシーケンシングアプローチで使用される。この時点で、クローン性を決定する、および/または明らかに過剰に存在するクローン(すなわち目的のクローン/目的の腫瘍を表す)を選び出すために、標準的なデータ分析技術が使用される。このクローン性の決定は、当該分野において公知のあらゆる好適な技術によって行うことができ、最も好適には、LymphoTrack Dx TRBアッセイ-MiSeqキットのためのIFU、最も好適には、参照により本明細書に組み込まれるIFU(使用についての指示)280410に従うことによって行われる。
【0113】
T細胞クローン性を決定するための代替方法
公知のTCRベースのクローン性アッセイは、DNAの制限酵素消化、それに続くゲル電気泳動および公知のTCR遺伝子に関するプローブを使用したサザンブロッティングを採用してきた。この技術は、本発明の実施において有効であり有用であるが、大きな労力を要する可能性があり、完了まで数日かかる可能性があり、泳動するのに相当量の無傷のDNAを必要とする可能性があり、低い感度を有する可能性がある。
【0114】
したがって、クローン性を決定するために、PCRベースの技術を使用することが有利な場合がある。PCRベースの技術は、クローン性評価に慣例的に使用される。PCRベースのT細胞クローン性アッセイをさらに標準化するために、国際的に容認されたPCRプライマーセットが導入されてきた。PCRベースのTCRクローン性分析において最も高い頻度で使用されるプライマーは、BIOMEDプライマーセット(van Dongen et al 2003)と呼ばれる。van Dongen et al 2003 (Leukaemia 2003 volume 17 pages 2257-2317)は、本開示で使用することができるある特定のPCR方法を開示している。より詳細には、van Dongen et al 2003は、クローン性の決定のための標準的なプライマーのセットを開示しており、具体的には、van Dongen 2003の
図4b、
図5a、
図6b、
図7b、
図8b、
図10b、
図11a、
図12aおよび
図13aを参照されたい。したがって、van Dongen et al 2003は、単にこのようなPCR方法およびPCRプライマーの教示のために具体的に参照により組み込まれ、それ以外の目的はない。
【0115】
これらのBIOMED(van Dongen 2003)プライマーをベースとしたアッセイは、Ig/TCR遺伝子のPCR生成物を、ヘテロ二重鎖分析またはジーンスキャニング(GeneScanning)によりクローン性に関して分析することを可能にする。このようなアッセイからのPCR生成物の増幅およびシーケンシングは、J領域を同定するのに使用でき、したがって本明細書に記載されるC領域の推測を可能にする。
【0116】
しかしながら、このようなアッセイは、浸潤T細胞からのアーティファクトを含む場合があり、再編成されたTCR配列は、生検材料内の非クローン性T細胞のバックグラウンドで観察されない可能性があることに留意されたい。この状況では、NGSによって生成物をシーケンシングすることが望ましい。この理由のために、本明細書に記載される好ましい実施形態の場合のようにNGS技術を使用することが有利である。
【0117】
代替として、クローン性は、Immunoseq TCRBアッセイ(Adaptive Biotechnologies、1551 Eastlake Ave E、Ste 200、Seattle、WA 98102、USA)を使用することによって決定することができる。
【0118】
プライマー
標準的なプライマー、例えば、LymphoTrack(登録商標)Dx TRBアッセイキット-MiSeq(Invivoscribe、例えば10222 Barnes Canyon Road、Building 1、San Diego、CA 92121、USA)に提供されるものなどが使用できる。
【0119】
標準的なプライマー、例えばBIOMEDプライマーセット(van Dongen et al 2003-上記を参照)に提供されるものなどを使用できる。
【0120】
読み出し
上述の可能性のあるアプローチ、または当業者公知の核酸配列を読み出す他のあらゆる方法にもかかわらず、最も好適には、ヌクレオチド配列情報は、核酸、例えばPCRで増幅された核酸を次世代シーケンシング(NGS)に供することによって読み出される(決定される)。これは、定量的情報を提供して、NGSデータ中の優勢なクローンを容易に同定することを可能にするため、有利である。さらに、これは、単一のステップを意味し、すなわちPCR増幅された核酸は、「1ステップ」の手順で直接NGSシーケンシングすることができる。代替の方法、例えば上記のプローブまたはプライマーベースのアプローチは、有効であるが、より時間を要し、および/または高価なステップを実行する必要があると予想されるため、NGSシーケンシングとの組合せの利点を有さない。したがって、最も好適には、配列情報は、NGSによって読み出される。
【0121】
最も好適には、ヌクレオチド配列情報は、LymphoTrack Dx TRBアッセイ-MiSeqアッセイ(Invivoscribe、例えば10222 Barnes Canyon Road、Building 1、San Diego、CA 92121、USA)を使用することによって読み出される(決定される)。
【0122】
本発明は、定量的情報を得る利点をもたらすため、これは、微小残存病変のモニタリングに適用することができる。例えば、本発明を微小残存病変のモニタリングに適用することにおいて、目的のクローン(すなわちT細胞のがん細胞)のパーセンテージは、NGSデータから得られるが、それに対してその特定の患者の疾患の特徴的な転写物の存在または非存在を単に検出すること(例えばそのCDR/可変領域に対するプライマーを使用すること)は、質問に対して二値(はい/いいえ)の回答、またはMRDが存在するかどうかのみを与えるであろう。MRDを検出またはモニタリングするために本発明を使用することによって、NGSの読み出しとの組合せによって提供される定量的情報は、有用であり、それゆえに有利である。
【0123】
J領域からC領域への連鎖が利用されること、すなわち、J領域の正体を決定することにより、C領域の正体を推測することは、本発明の主要な部分である。
【0124】
J領域のタイピング
上記から明らかであると予想されるように、目的のJ領域から配列情報を得るのに使用される特定の試薬/技術は、本発明にとって重要ではない。情報を得るのにNGSを使用することは、論じられたような利点を提供する。
【0125】
しかしながら、シーケンシングを行うのに本明細書で開示された具体的なNGS方法を使用することを必要とする代わりに、1つまたは複数の現存するNGSベースのクローン性の決定方法からの情報は、C領域の使用を推測するのに使用できる可能性がある。
【0126】
例えば当業者は、クローン性の決定を可能にするキットを使用し、その情報をJ領域をタイピングするのに使用してもよい。次いでこのJ領域のタイプに関する情報は、本発明者らが本明細書において実証するC領域の相関と共に使用して、記載される通りにTCRベータ定常領域の使用を推測することができる。
【0127】
したがって、熟練した読者は、本発明は、本明細書において例示された特定のプライマーセットおよび/または設計パラメーターは、一定の利点を提供するが、これらに過度に限定されるべきではないことを理解することができる。そうではなく、熟練者は、配列決定(例えば、クローン性の決定、これは、より一般的には「イムノシーケンシング」と称される)のための「既製の」または商業的に入手可能なキットまたはサービスを使用することができる。
【0128】
簡単に言えば、イムノシーケンシングは、T細胞またはB細胞の集団における免疫レパートリーの配列決定を指す。本発明の場合、目的の細胞は、T細胞である。概要において、このプロセスは、目的の核酸セグメント、例えばTCRの主要なCDRに焦点を当てた第1のPCR増幅を含む。これに続き、典型的には、異なるプライマーを使用する第2の増幅が行われ、このプライマーは、配列決定を容易にするために便利にタグ付けされる。この第2の増幅の後、次いで核酸生成物は、最も典型的には、同じ元の試料を起源とする数百万もの個々の配列の大規模並列決定を利用するNGS(次世代シーケンシング)技術を使用してシーケンシングされる。次いでこの配列データは、捕獲され、目的の質問に答えるためにコンピューターにより分析される。本発明の文脈において、イムノシーケンシングからのアウトプットは、J領域の配列を検査するのに使用されると予想され、それによって、各配列中に存在する特定のJ遺伝子の決定が可能になる。それゆえに、あらゆる商業的に入手可能なイムノシーケンシング(クローン性試験)キットまたはサービスが本発明で使用可能であるが、このようなキットまたはサービスのいずれもがJ領域の配列情報を提供することが極めて重要である。
【0129】
例えば、必要なデータを得るのに使用することができるキットは、LymphoTrack(登録商標)Dx TRBアッセイキット-MiSeq(Invivoscribe、例えばInvivoscribe SARL、ZI Athelia IV-Le Forum-Bat B、515 Avenue de la Tramontane、13600 La Ciotat、France)および/またはImmunoseq TCRBアッセイ(Adaptive Biotechnologies、1551 Eastlake Ave E、Ste 200、Seattle、WA 98102、USA)である。より好適には、必要なデータを得るのに使用することができるキットは、LymphoTrack(登録商標)Dx TRBアッセイキット-MiSeq(Invivoscribe、例えば10222 Barnes Canyon Road、Building 1、San Diego、CA 92121、USA)および/またはclonoSEQアッセイまたはImmunoseq TCRBアッセイ(Adaptive Biotechnologies、1551 Eastlake Ave E、Ste 200、Seattle、WA 98102、USA)である。
【0130】
適応性のあるバイオテクノロジーキット/サービス(上記参照)を参照すれば、これは、試料内の個々のクローンのそれぞれに対する「固有な」IDまたはタグとして役立つCDR3領域に焦点を当てている。このキットにおいて、最初のPCR反応のためのフォワードプライマーは、V領域に配置され、最初の増幅のためのリバースプライマーは、J領域に配置される。したがって、この方式で、J領域の適切なセグメントが分析され、そのためこのようなキットは、本発明で使用するのに好適である。本発明の状況において、個々のクローンのJ領域の配列情報は、キット/サービスのアウトプットから採取でき、この情報から、細胞で発現されるJ遺伝子のタイプを決定でき、そのJ遺伝子のタイプから、そのクローンで発現されるTRBC遺伝子のタイプを本発明に従って推測することができる。
【0131】
好適には、核酸抽出プロトコール(行われる場合)は、製造元の指示の通りである。
【0132】
核酸シーケンシング
当然ながら、熟練者は、必要なヌクレオチド配列情報を決定する、すなわち本明細書に記載されるJ領域の1つまたは複数の特徴的なセグメントのヌクレオチド配列を決定するために、彼ら自身のシーケンシングプロトコールを実施することができる。
【0133】
実質的に、このようなアプローチは、目的のT細胞からのJ領域のヌクレオチド配列情報にアクセスすることを必要とする。これは、例えば、J領域の関連セグメントを取り囲む核酸セクションの増幅、それに続いて、例えば標準的なNGSアプローチを使用する配列決定などの標準的なアプローチを使用して行うことができる。当然ながら、他のアプローチは同等に、例えば、電気泳動によって増幅生成物を分離すること、および優勢な生成物をシーケンシングすることによって、またはさらには目的の組換え核酸のクローニングおよびin vitroの操作によって、または所望される場合、特定のJタイプに特異的なプライマーを使用する診断PCRによって採用することができる。
【0134】
このような技術は、慣例的であり、本明細書で提供される詳細な開示を考慮して当業者による実施が可能であるとみなされる。何らかのさらなる指針が必要な場合、主要な要素を以下で概説する。
【0135】
- プライマーの設計
プライマーの設計は、当業者により、手作業か、あるいは自由に利用できるツール、例えば、Eurofins Genomicsのプライマー設計ツール(Eurofins Genomics、Anzinger Str.7a、85560 Ebersberg、Germany)、または国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)、米国立医学図書館(U.S.National Library of Medicine)、8600 Rockville Pike、Bethesda MD、20894 USAからのPrimer-BLASTサービス、またはBioCompもしくはSeqWEBスーツ(以前はAccelrys GCGパッケージ/GCG Wisconsinパッケージ)のPrime+プログラム、または他のあらゆる好適なツールを使用するかのいずれかによって達成することができる。
【0136】
代替として、非常に多くの商業的に入手可能なプライマーの設計および生産サービスを使用することができ、例えば、ThermoFisher(Thermo Fisher Scientific、168 Third Avenue、Waltham、MA USA 02451)、Eurofins Genomics(上記を参照)、または他のあらゆる好適なサービスプロバイダーからのものを使用することができる。
【0137】
増幅反応においてPCRバイアスを回避することが重要である。これは、正確な定量的情報を確実に得るために重要である。
【0138】
PCRバイアスは、標準的な技術を使用して低減または排除することができる。例えば、概説すると、これは、第1の増幅または予備的な増幅のために、同じ初期濃度で第1の範囲のプライマーを使用することを含む。次いでこの増幅の結果を分析する。典型的には、PCRバイアスは、得られた増幅された核酸混合物中に、異なるPCR生成物が異なる濃度で見出される場合に観察される。理論に制限されることは望まないが、その原因は、典型的には最初の混合物中のプライマーの効率または性能が異なることにある。次いでPCRプライマー濃度を調整して、最も良い性能を示すプライマー(すなわち最高濃度の増幅された核酸をもたらすもの)の濃度を低減し、基準を下回る性能のプライマー(すなわち増幅された生成物中に最低濃度の核酸をもたらすもの)の濃度を増加させる。この方式で、PCRバイアスの作用は、劇的に低減または排除することができ、最終的な増幅された核酸混合物中においてPCR生成物のより均等な濃度分布をもたらす。このタイプのPCRバイアスを低減または排除するための最適化は、当業者にとって慣例的なことであり、上記で概説したような「トライアンドエラー」分析によって実行することができる。
【0139】
加えて、または代替として、PCRバイアスは、後述されるプールから選択されるプライマーを使用することによって低減または排除することができる。
【0140】
- ネステッド/アンカープライマーの設計
当該分野において一般的に、定性的な最初の増幅に続いて、定性的な増幅に使用される最初のプライマーの5’末端に配置されたユニバーサルプライマーを使用する定量的な増幅を行ってもよい。したがって、二次的な/ユニバーサルの/定量的な増幅をその後行うことができるように、最初の増幅で使用されるプライマーに、「ネスト」または「アンカー」5’テールが取り込まれていてもよい。好適なネストまたはアンカー配列は、当該分野において周知の通りに、操作者によって選択される。
【0141】
例示的なネステッドプライマー(プライマー伸長)またはアンカー配列は、以下に提供される。
【0142】
データ品質
得られた総シーケンシングリードの数は、データ品質に影響を与える可能性があり、同様に、得られたリードの総数のうちの単一のクローンに起因し得る総シーケンシングリードの比率もデータ品質に影響を与える可能性がある。データが信頼できるかどうかを決定することにおいて、標準的な統計技術が適用され、例えばLymphoTrack Dx TRBアッセイ-MiSeqキットの使用についての指示(IFU)、最も好適には、IFU(使用についての指示)280410の通りに適用される。
【0143】
J領域の決定
好適には、NGSを使用して、試料由来の/試料から増幅した核酸の配列情報が提供される。
【0144】
次いで、この配列情報を照合して、どのJ領域が標的配列中に存在するかを決定する。
【0145】
配列の比較は目視を含むあらゆる手段によって行うことができるが、典型的には、特定のJ領域の公知の配列特徴をNGS分析からの配列情報と比較するためのコンピューターアルゴリズムが使用される。クエリー配列(公知のJ領域配列)と標的配列(患者試料からの核酸のNGS分析からの配列)との間の一致は、その対応するJ領域の存在を示す。
【0146】
存在する特定のJ領域の正体の診断に役立つかまたはそれを示すJ領域配列の要約は、以下の通りである。
【表1-3】
【0147】
熟練者は、場合によって、表1における配列の一部が、依然として、それらが存在する特定のJ領域の正体の診断に役立つかまたはそれを示すままであることを常に条件として、それらを例えば約30bpに短くすることがある。
【0148】
J1の異なるサブタイプ(例えばJ1-1、J1-2、J1-3など)があることが上記の表から見ることができる。また同様にJ2の異なるサブタイプ(J2-1、J2-2、J2-2Pなど)があることも見ることができる。
【0149】
用語「J遺伝子のタイプ」は、本明細書で使用される場合、J領域の正体を意味し、すなわちJ領域がJ1であるかまたはJ2であるかを意味する。したがって、試料中に存在するJ1またはJ2領域を同定するためのプロセスは、典型的には以下の通りである:
・目的のJ領域からの(すなわち目的の細胞/試料からの)配列データを参照J領域配列と比較する。
・配列比較から、細胞/試料中に存在するJ遺伝子のタイプ(すなわちJ1またはJ2遺伝子)を決定する。
【0150】
以下の表2に、J領域においてアニールできるプライマーの例を提供する。
【表2-1】
【0151】
フォワードプライマーは、熟練した操作者によって設計することができる。
【0152】
J1またはJ2の決定がなされたら、最終ステップは、J領域の知見からC領域の正体を推測することである。
【0153】
用語「C遺伝子のタイプ」または「TRBC遺伝子のタイプ」は、本明細書で使用される場合、C領域の正体、すなわちC領域がC1であるかまたはC2であるかを意味する。
【0154】
したがって、好適には、最終的なステップは、以下の通りである:
・J1遺伝子の存在が決定される場合、C1遺伝子の存在が推測され、J2遺伝子の存在が決定される場合、C2遺伝子の存在が推測される。
【0155】
特徴的なJ領域配列(参照配列)を、標的配列(目的の細胞/試料からのヌクレオチド配列)と比較する場合、好適には100%の一致が必要である。
【0156】
不完全な組換え体
場合によっては、細胞が、不完全なV/D鎖再編成を受けていることが予想される。これらの状況において、D-J接合(V-J接合よりむしろ)を観察することが可能である場合がある。典型的には、D-J接合で収集されたあらゆる情報が無視され、V-J接合が選択される。
【0157】
臨床上の検討事項
この文書で提供される例示的なデータから、転写物のおよそ0.1115%がJ2-C1またはJ1-C2であり得る(0.1027%のJ1-C2+0.0088%のJ2-C1=0.1115%)ことがわかり得る。連鎖が転写物レベルであることに留意しなければならない。それゆえに、この0.1115%は、誤診のリスクではなく、これは、細胞表面上のTCRが、細胞内の核酸レベルで生産される代替の転写物に起因する予測されるもの「以外」であり得る率である。言い換えれば、本発明の方法は、J領域から推測される通りのTRBC1またはTRBC2のいずれかである細胞中の単一の再編成されたTCR β遺伝子をロバストに同定するが、その細胞内において、場合によってはそれでもなお非常に低レベルの代替の転写物が生産されている可能性がある。したがって、実際面で、これは、細胞は、予測される組合せの99.8885%を提示すると予想されるが、この一定の転写のバリエーションのために0.1115%の予想外の組合せを提示する可能性があることを意味する。あらゆる実際面で、これは、本発明の方法の患者/処置/診断への使用に対して、最小かまたはゼロの作用を有する。これは、決して0.1115%の誤り率/誤診ではない。
【0158】
より詳細に言えば、0.115%の誤り率は、細胞上に提示されるTCRに関するものであり、患者を診断するという意味におけるいかなる種類の誤り率も指していないことに留意しなければならない。それゆえに、細胞内の天然プロセスの転写の変動性に起因して、場合によっては(例えば)J1-C2またはJ2-C1である生産されたTCRが存在するとしても、あらゆる実際的な意味において、その患者における圧倒的多数のT細胞は、それでもなお本発明の方法によって決定された特定のJ/Cの組合せを正確に提示すると予想される。それゆえに、本発明の方法によって提供される情報に基づく処置は、それでもなお有効であると予想され、個々の細胞で生産された転写物におけるあらゆる天然の変動性は、本発明の診断の価値に負の影響を与えないことが、本発明の利点である。
【0159】
本発明者らは、本方法は、「予想外の」組合せ(例えばJ1-C2またはJ2-C1)がケースの1%未満で観察されるという意味で、少なくとも99%正確であることを主張する。言い換えれば、本発明者らは、ケースの少なくとも99%が、本発明のベースとなるJ遺伝子とC遺伝子との注目すべきかつ驚くべきほど近い連鎖を反映していることを主張する。
【0160】
さらなる実施形態
【0161】
一態様において、本発明は、
(a)細胞で発現されるJ遺伝子のタイプを決定するステップ、および
(b)(a)から、前記細胞で発現されるT細胞受容体β鎖(TRBC)遺伝子のタイプを推測するステップ
を含む方法に関する。
【0162】
一態様において、本発明は、ステップ(a)が、
(ai)前記細胞からの前記J遺伝子の少なくともセグメントのヌクレオチド配列を決定するステップ;および
(aii)(ai)で決定されたヌクレオチド配列を、1つまたは複数のJ遺伝子の参照ヌクレオチド配列と比較するステップ、および
(aiii)(aii)のJ遺伝子の参照ヌクレオチド配列に対する、(ai)の前記J遺伝子のセグメントのヌクレオチド配列の配列同一性から、J遺伝子のタイプを同定するステップ
を含む、上述した方法に関する。
【0163】
さらなる利点
先行技術の方法、例えばIHCは、凍結した組織の使用を必要とする場合があるが(例えばJOVI-1の分析のために)、これは、労力を要し、必ずしも利用可能であるとは限らない。加えて、IHC方法の定性的な性質は、誤診に至る可能性があり、および/または診断病理学者によってなされる解釈の誤りを起こしやすい可能性がある。したがって、IHCは、主観的な場合があり、および/または操作者の誤りを起こしやすい可能性があり、これらは、当該分野において問題である。抽出プロトコールおよびシーケンシングが慣例的であり、自動化が可能であるため、ゲノムアッセイにおける操作者の誤りを減らすことは、本発明の利点である。
【0164】
本発明のさらなる利点は、分子診断は、疾患に関与するクローンが同定されたら、高い精度での血液中の微小残存病変(MRD)の追跡を可能にすることである。
【0165】
特許出願WO2016/051205は、RNAscope方法を記載している。しかしながら、RNAscopeアッセイは、プローブがRNAを検出する点で限界があり、これは、プローブ結合を可能にするのに十分な長さと完全性を有することを必要とする。RNAscopeは固定された組織からの材料の検出を可能にするはずだが、ゲノム評価は、DNAから決定することができ、したがって、アッセイのためにより安定な原材料を提供し、これは、本発明の利点である。さらに、最近の刊行物によれば、第3の転写物があることが示されている(TRBCXとして公知。Lethe et al 2017 (Immunity, Inflammation and Disease 2017; 5(3): 346-354)を参照)。これは、プローブ設計を介したTRBC1/2 RNA転写物間の区別を不可能にすると予想され、したがってRNAscopeは、本出願のためのアッセイとして好適ではない可能性があると予想され、この問題は、有利なことに本発明によって解決される。
【0166】
例えば定性的なアッセイまたはIHCなどの「目視による」方法などの先行技術の方法と比較して、より高いレベルの精度が提供されることは、本発明のさらなる利点である。
【0167】
先行技術の実施者が、V/D鎖ジャンクション(すなわちJ領域)を、特定のC領域の正体と関連付けていなかったことは、本発明の利点である。TRBC遺伝子内におけるJタイプとCタイプとの間の非常に驚くほど近い連鎖を含むこの有用な知見は、本発明のベースとなる驚くべき進歩である。
【0168】
さらなる特定の好ましい態様は、添付の独立請求項および従属請求項で述べられる。従属請求項の特色は、必要に応じて、さらに、請求項で明示的に述べられたもの以外の組合せで、独立請求項の特色と組み合わせることができる。
【0169】
装置の機構が、機能を提供するように動作可能であると記載される場合、これは、その機能を提供する装置の機構、またはその機能を提供するように適合もしくは構成されている装置の機構を含むことが理解されるであろう。
【実施例】
【0170】
ここで本発明を一例として記載するが、これは、限定ではなく、特許請求の範囲に記載される本発明の実施形態を例示することを意図する。
【0171】
(実施例1)
接合領域と定常領域との相関
5’RACEを使用して、4つの正常なヒト扁桃試料からTRBC転写物を増幅した。4×10
6個の固有なT細胞転写物のNGS分析を示す
図2を参照されたい。
【0172】
長さ約530~620bpのPCR生成物をプールし、Miseq illuminaシーケンシングを使用してシーケンシングした。2×300bpのペアエンドリードを獲得した。
【0173】
【0174】
(実施例2)
DNAへの適用
本発明者らは、
図3を参照する。
好適には、DNAは、ゲノムDNAである。
【0175】
(実施例3)
配列の読み出し
本発明者らは、
図4を参照する。
IMGTアウトプットが示される。
【0176】
(実施例4)
この研究において、様々なTRBC1/2を発現する細胞株を試験した(表4)。
【0177】
様々なT細胞リンパ腫試料からのデータも提示する(表5)。
【0178】
本発明者らはまた、例示的な核酸抽出プロトコールおよび例示的なNGSプロトコールも提供する。
【0179】
この実施例において、データは、InvivoscribeからのLymphoTrack(登録商標)Dx TRBアッセイを使用して得られる。
【0180】
方法
ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)細胞株(Jurkat、MJ、H9、HPBおよびRaji)およびFFPE T細胞リンパ腫試料を、LymphoTrack Dx TRBアッセイ-MiSeqアッセイを用いて分析した。本明細書において別段の記述がない限り、Qiagen GeneRead DNA FFPEキットを製造元からの指示に従って使用して、各細胞株およびT細胞リンパ腫試料からのDNAを、10~15個の5μMのFFPE切片から抽出した。
【0181】
Qubit 3.0を使用してDNA濃度を定量化した。LymphoTrack Dx TRBアッセイ-MiSeqにより、アッセイのIFU(280410)に従ってDNAを個別に試験した。MiSeq試行からのFASTQファイルを、LymphoTrack Dxソフトウェア-MiSeq v2.4.3により、ソフトウェアのIFU(280344)に従って分析した。
【0182】
FFPE組織ブロックの切片作製
1.パラフィン包埋組織ブロックを、切片作製の前に氷上で冷やす。コールドワックスにより、組織検体内のより硬い要素のための支持体を提供することにより、より薄い切片を得ることが可能になる。融解する氷からブロックに透過する少量の水分が、組織をより簡単に切断しやすくすると予想される。
【0183】
2.水槽を超純水で満たし、40~45℃に加熱する。
【0184】
3.ホルダー中にブレードを置き、それを確実に固定し、すきま角を設ける。すきま角は、ナイフのファセットとブロックの面との接触を防止する。すきま角を設ける際の指針については、マイクロトーム製造元の指示に従う。Leicaブレードの場合、これは通常、1°から5°の間である(
図1)。
【0185】
4.パラフィンブロックを挿入し、ブレードがブロックを真っすぐに切断するような方向に配置する。
【0186】
5.慎重にブレードをブロックに近づけ、数枚の薄い切片に切断して、位置決めが正しいことを確実にする。必要に応じて調整する。
【0187】
6.代表的な切片を切断できる水平面に組織表面が露出するようにブロックをトリミングする。トリミングは通常、10~30μmの厚さでなされる。
【0188】
7.切片を約4~5μmの厚さで切断する(最初の数枚の切片は、トリミングによって生じた穴を含有する可能性が高いため、恐らくそれらを捨てなければならないだろう)。
【0189】
8.ピンセットを使用して、切片のリボンをピックアップし、オートクレーブした、またはDNアーゼ非含有のマイクロチューブ(1.5mL)に移す。
【0190】
9.Qiagen GeneRead DNA FFPEキットを製造元からの指示に従って使用して、DNA単離を進める。
【0191】
核酸抽出手順
使用することができる数々のDNA抽出キットがある。この実施例では、DNAは、QiagenのGeneRead DNA FFPEキットを使用して抽出される。
【0192】
GeneRead DNA FFPE手順は、パラフィンを除去し、それをQIAamp MinEluteカラムに結合させる前にDNA試料からのホルマリン架橋を元に戻す。加熱して架橋を除去した後、DNAは、酵素ウラシル-N-グリコシラーゼ(UNG)による脱アミノ化シトシン残基の特異的な除去に利用できるようになる。最適化された反応混合物は、UNGが、FFPE試料から得られたDNAから、人工的に誘導されたウラシルを特異的に除去できる条件をもたらす。DNAのスピンカラムへの結合の後、塩などの残留した汚染物質を、緩衝液AW1およびAW2、ならびにエタノールによって洗い落とす。エタノールは、それに続く酵素反応に干渉する可能性があるため、全ての残留したエタノールを追加の遠心分離ステップによって除去する。DNAを溶出させ、この段階で、DNAは次世代シーケンシングのワークフローにすぐ使用できる。
【0193】
配列決定手順
この実施例において、配列は、NGSプロトコール-LymphoTrack Dx TRBアッセイ-MiSeqアッセイを使用して決定される:
【0194】
1.手袋をはめた手を使用して、冷凍庫からマスターミックスを取り出す。チューブを融解させ、穏やかにボルテックスして混合する。
【0195】
2.封じ込めのフードまたはデッドエアーボックス中で、PCRプレートの個々のウェルに45ulのマスターミックスをピペットで入れる。マスターミックスのそれぞれにつき1つのウェルとし、試料、陽性、陰性または鋳型なしの対照1つ当たり1つのマスターミックスとする。
【0196】
3.マスターミックスのそれぞれに、0.2ulのEagleTaq DNAポリメラーゼ(EagleTaq、5U/uLで)を添加する。
【0197】
4.それぞれのマスターミックス反応物を含有するウェルに、5ulの試料DNA(10ng/uLの最低濃度で)および5uLの対照試料を添加し、ピペットで5~10回吸引排出して混合する。
【0198】
5.鋳型なしの対照のためのそれぞれのマスターミックスを含有するウェルに、5uLの分子生物学的グレードの水を添加し、ピペットを5~10回吸引排出して混合する。
【0199】
6.以下のサーマルサイクラープログラムを使用して標的DNAを増幅する:
【表2-2】
【0200】
7.サーマルサイクラーから増幅プレートを取り出す。
【0201】
8.Agencourt AMPure XP PCR精製システムを使用して、PCR生成物を精製する。各50ulの反応物に35ulの粒子を添加し、25ulの溶出液でDNAを溶出させる。
【0202】
9.KAPAライブラリー定量化キットをキットの指示に従って使用して、アンプリコンを定量化する。qPCRに進める前に、アンプリコンを1:4,000に希釈する。
【0203】
10.試料(鋳型なしの対照を含まない)からの等量のアンプリコンをプールし、1:1,000に希釈し、KAPAライブラリー定量化キットを使用してライブラリーを定量化する。
【0204】
11.ライブラリーを変性させ、MiSeq試薬キットv2の場合は12pMに、MiSeq e=試薬キットv3(MCS v2.6)の場合は12~20pMに希釈する。
【0205】
12.600ulの変性および希釈したライブラリーをMiSeq試薬カートリッジにローディングする。
【0206】
13.Illumina Experiment Manager(v1.4~v1.13)を使用して、MiSeq試料シートをセットアップする。
【0207】
14.MiSeq試行を開始させる。
【0208】
15.付随のLymphoTrack Dxソフトウェア-MiSeqパッケージを使用して、獲得したデータを分析し、可視化する。
【0209】
LymphoTrack Dxソフトウェア-MiSeqパッケージの解釈および報告
表3に列挙した基準を使用して、クローン性の決定の前に、トップの統合されたリード配列およびそれらの頻度を同定するために統合されたリードの要約の報告を使用すべきである。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【0210】
結果
T細胞リンパ腫試料の診断および組織学データは、表6に見出すことができる。
【0211】
以下の表を参照すれば、「総数」は、NGS装置から得られたリードの総数を意味する。「長さ」は、得られたリードの長さを意味する。「V遺伝子」は、検出されたV遺伝子のタイプを指す。「J遺伝子」は、検出されたJ遺伝子のタイプを指す。「総リードパーセンテージ」は、決定された通りのこの特異的な遺伝子配列と一致したリードの総数のうちのパーセンテージである。
【0212】
表中のある特定の列は、単一の試料からの1つより多くのV遺伝子またはJ遺伝子のタイプを示すことが観察されることになるが、これは、D-J接合が、V-J接合と同様に検出される場合起こり得る。この文書の他所で説明されるように、検出されたいずれのD-J接合も、それらは不完全な組換え事象を表すために捨てられる。好適には、決定されたJ遺伝子のタイプは、V-J接合したJ遺伝子(J領域)に由来する。
【0213】
細胞株
表4に、細胞株についての、DNA濃度、アンプリコン濃度ならびにトップ1および/または2のクローン再編成を要約する:
【表4-1】
【0214】
1つの細胞株試料(MJ)において、2つのクローン再編成が検出された。D/J再編成は、不完全な再編成であり、V-J-Cの組合せでスプライシングで切り出されると予想される。D/J再編成などの不完全な再編成からのデータは、好適には、捨てられる。完全なV/J再編成に焦点が当てられる。したがって、「MJ」の場合、「Db1」データの列は、不完全な再編成であるために捨てられる。Vb28データの列は、保持される。
【0215】
1つの細胞株試料(Raji)において、1.0%未満のトップの%総リードが検出されたが、これは非クローン性である。非クローン性であるデータは、好適には、捨てられる。クローン性のデータに焦点が当てられる。
【0216】
上記で説明したように捨てられたデータに従って、表4Aが作成される。
【表4-2】
J1-C1およびJ2-C2の相関に基づいて、MJは、C1である。
【0217】
3つの細胞株試料(Jurkat、HPB-ALLおよびH9)において、1つのV-J再編成が検出された。J1-C1およびJ2-C2の相関に基づいて、JurkatおよびH9細胞は、C1であり、HPB-ALL細胞は、C2である。
【0218】
全ての細胞株データは、報告された文献と一致する。
【0219】
試料
表5に、T細胞リンパ腫試料のDNA濃度、アンプリコン濃度ならびにトップ1および/または2のクローン再編成を要約する。
【0220】
4つのT細胞リンパ腫試料(F19542.1a、F19539.1c、F19538.A1bおよびTS18-1512A)において、2つのクローン再編成が検出される。D/J再編成などの不完全な再編成からのデータは、好適には、捨てられる。完全なV/J再編成に焦点が当てられる。したがって、これらの試料の場合、データの「Db1」または「Db2」の列は、不完全な再編成であるために捨てられる。Vb13、Vb29-1、Vb12-4およびVb6-4データの列は、保持される。
【0221】
2つの試料(TS18-1508AおよびTS18-1499A)において、無-J再編成もしくはD-J再編成のいずれか、および/または1.0%未満のトップの%総リードが検出され、非クローン性とみなされる。LymphoTrackキットのIFU280410に従って、より好適には上記の表3に従って、非クローン性または評価不可能と決定された残りの試料からのデータは、捨てられる。非クローン性のデータは、好適には、捨てられる。クローン性のデータに焦点が当てられる。
【0222】
上記で説明したように捨てられたデータに従って、表5Aが作成される。
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【表6】
【0223】
J1-C1およびJ2-C2の相関(表5A)に基づいて、F19542.1aは、C1であり、F19539.1cおよびTS18-1512Aは、C2である。
【0224】
1つの試料(F45038.b)において、1つのV-J再編成(Vb12-4/Jb1-6)が検出される。J1-C1およびJ2-C2の相関に基づいて、この試料は、C1である。
【0225】
まとめると、LymphoTrack Dx TRBアッセイ-MiSeqによって試料がクローン性であると決定される場合、その試料は、TRBC1(C1)またはTRBC2(C2)陽性であるとして同定され、その場合、J1配列の存在は、C1陽性を決定し、またはJ2配列の存在は、C2陽性を決定する。
【0226】
本発明の例示的な実施形態を、添付の図面を参照しながら本明細書において詳細に開示したが、本発明は、示された正確な実施形態に限定されないこと、ならびに当業者によって、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲およびそれらの均等物から逸脱することなく、それらに様々な変更および改変を実行することができることが理解されるであろう。
【0227】
上記の明細書中で述べられた全ての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。
特定の実施形態では、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
細胞のT細胞受容体β鎖(TRBC)遺伝子のタイプを決定する方法であって、
(a)前記細胞で発現されたJ遺伝子のタイプを決定するステップ、および
(b)(a)から、前記細胞で発現されたTRBC遺伝子のタイプを推測するステップを含む、方法。
(項目2)
ステップ(a)が、
(i)前記細胞から、核酸を抽出するステップ;
(ii)前記核酸から、前記J遺伝子の少なくともセグメントのヌクレオチド配列を決定するステップ;および
(iii)(ii)で決定された前記ヌクレオチド配列を、1つまたは複数のJ遺伝子の参照ヌクレオチド配列と比較するステップ、および
(iv)(iii)の前記J遺伝子の参照ヌクレオチド配列に対する、(ii)の前記J遺伝子の前記セグメントの前記ヌクレオチド配列の配列同一性から、前記J遺伝子のタイプを同定するステップ
を含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記J遺伝子の参照ヌクレオチド配列が、表1の通りである、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記核酸が、ゲノムDNA(gDNA)を含む、項目2または項目3に記載の方法。
(項目5)
前記J遺伝子の前記セグメントが、T細胞受容体遺伝子のJ領域全体を含む、項目2から4のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
前記J遺伝子の前記セグメントが、T細胞受容体遺伝子のCDR3に含まれている、項目2から5のいずれかに記載の方法。
(項目7)
前記J遺伝子の前記セグメントが、
【表7】
からなる群より選択される、項目2から6のいずれかに記載の方法。
(項目8)
ステップ(ii)が、
(1)前記核酸を、前記J遺伝子の少なくともセグメントの増幅のための試薬と接触させるステップ;
(2)インキュベートして、増幅させるステップ;
(3)前記J遺伝子の増幅したセグメントのヌクレオチド配列を決定するステップ
を含む、項目2から7のいずれかに記載の方法。
(項目9)
前記増幅のための試薬が、T細胞受容体遺伝子のV領域に配置された少なくとも1つのフォワードプライマーおよびT細胞受容体遺伝子のJ領域に配置された少なくとも1つのリバースプライマーを含むか、または前記増幅のための試薬が、T細胞受容体遺伝子のV領域に配置された少なくとも1つのリバースプライマーおよびT細胞受容体遺伝子のJ領域に配置された少なくとも1つのフォワードプライマーを含む、項目9に記載の方法。
(項目10)
(2a)前記J遺伝子の増幅されたセグメントの電気泳動を行うステップ;
(2b)ヌクレオチドシーケンシングのために、ステップ(2a)からの優勢な増幅生成物を選択するステップ
をさらに含む、項目8または項目9に記載の方法。
(項目11)
ステップ(a)が、前記細胞に対してクローン性の決定またはイムノシーケンスを行って、前記J遺伝子に関するヌクレオチド配列情報を提供するステップ、および前記ヌクレオチド配列情報から、前記J遺伝子のタイプを決定するステップを含む、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記ヌクレオチド配列を決定するステップが、NGS分析を含む、項目2から11のいずれかに記載の方法。
(項目13)
前記細胞が、細胞の集団内に存在し、ステップ(a)が、
(i)前記細胞の集団から核酸を抽出するステップ;
(iia)前記核酸から、前記J遺伝子の少なくともセグメントのヌクレオチド配列を決定して、ヌクレオチド配列の集団を生成するステップ;
(iib)前記ヌクレオチド配列の集団から、ヌクレオチド配列を選択するステップ;
(iii)(iib)で選択された前記ヌクレオチド配列を、1つまたは複数のJ遺伝子の参照ヌクレオチド配列と比較するステップ、および
(iv)(iii)の前記J遺伝子の参照ヌクレオチド配列に対する、(iib)の前記J遺伝子の前記セグメントの前記ヌクレオチド配列の配列同一性によって、前記J遺伝子のタイプを同定するステップ
を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目14)
前記細胞が、末梢T細胞リンパ腫(PTCL)を有するかまたは有する疑いのある被験体由来である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目15)
前記細胞が、末梢T細胞リンパ腫(PTCL)細胞である、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目16)
末梢T細胞リンパ腫(PTCL)を処置する方法であって、
(a)項目1から15のいずれかに従って、前記被験体からのPTCL細胞のT細胞受容体β鎖(TRBC)のタイプを決定するステップ;および
(b)(a)で決定されたT細胞受容体β鎖(TRBC)のタイプに標的化されたCAR T細胞を前記被験体に投与するステップ
を含む、方法。
(項目17)
末梢T細胞リンパ腫(PTCL)の処置で使用するための、T細胞受容体β鎖(TRBC)のタイプ1に標的化されたCAR T細胞、またはT細胞受容体β鎖(TRBC)のタイプ2に標的化されたCAR T細胞であって、前記処置は、項目16に記載の方法を含む、CAR T細胞。
(項目18)
以下:
【表8】
からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む核酸プローブ。
(項目19)
項目18に記載の少なくとも2つの異なる核酸プローブを含む核酸アレイ。
(項目20)
コンピューターで実行される場合、項目1から15のいずれか一項に記載の方法のステップ(a)から(b)を実行するよう、より好適には、項目2から15のいずれか一項に記載の方法のステップ(ii)から(iv)を実行するように、より好適には、項目2から15のいずれか一項に記載の方法のステップ(iia)から(iv)を実行するように、最も好適には、項目2から15のいずれか一項に記載の方法のステップ(iii)から(iv)を実行するように動作可能なコンピュータープログラム製品。
(項目21)
項目20に記載のコンピュータープログラム製品を有するデータキャリアまたは記憶媒体。
【配列表】