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特許7607002ケイ酸アルカリ水溶液およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】ケイ酸アルカリ水溶液およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/32 20060101AFI20241219BHJP
   C01B 33/193 20060101ALI20241219BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C01B33/32
C01B33/193 ZAB
C01B33/18 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022062996
(22)【出願日】2022-04-05
(65)【公開番号】P2023153621
(43)【公開日】2023-10-18
【審査請求日】2024-04-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000228903
【氏名又は名称】東ソー・シリカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】中村 優一郎
(72)【発明者】
【氏名】金満 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】今別府 勇太
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 駿佑
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-119510(JP,A)
【文献】特表2018-530512(JP,A)
【文献】特表2021-518328(JP,A)
【文献】国際公開第2018/167682(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0030585(US,A1)
【文献】国際公開第2018/167646(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
C01B 33/20-39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%表示でSiO2濃度に対するP25濃度の比P25/SiO2が1.0×10-3以上であり、SiO2濃度が8.9質量%~16.7質量%であり、光路長1cm、波長500nmにおける透過率(%T)が65%以上である、ケイ酸アルカリ水溶液。
【請求項2】
モル%表示で(Na2O+K2O)濃度に対するSiO2濃度の比SiO2/(Na2O+K2O)が2.8~3.5である、請求項1に記載のケイ酸アルカリ水溶液。
【請求項3】
モル%表示でNa2O濃度に対するK2O濃度の比K2O/Na2Oが0.03~0.30である、請求項1又は2に記載のケイ酸アルカリ水溶液。
【請求項4】
目開き1μmのフィルタでケイ酸アルカリ水溶液をろ過した際に、フィルタ上に捕捉される固形分量が、ろ過前のケイ酸アルカリ水溶液の質量に対して100質量ppm未満である、請求項1又は2に記載のケイ酸アルカリ水溶液。
【請求項5】
湿式法シリカの原料として利用される、請求項1又は2に記載のケイ酸アルカリ水溶液。
【請求項6】
シリカ成分を含む植物灰、水酸化ナトリウムおよび水を混合して得られた原料ケイ酸アルカリ水溶液を、目開き50μm未満のフィルタによるろ過処理および吸着材を用いた吸着処理の両方に供してケイ酸アルカリ水溶液を得ることを含む、ケイ酸アルカリ水溶液の製造方法。
【請求項7】
前記ろ過処理の後に前記吸着処理を実施する、請求項6に記載のケイ酸アルカリ水溶液の製造方法。
【請求項8】
シリカ成分を含む植物灰、水酸化ナトリウムおよび水を混合して得られた原料ケイ酸アルカリ水溶液を、目開き50μm以上のフィルタによるろ過処理に供し、その後、目開き50μm未満のフィルタによるろ過処理および吸着材を用いた吸着処理の両方に供してケイ酸アルカリ水溶液を得ることを含む、ケイ酸アルカリ水溶液の製造方法。
【請求項9】
シリカ成分を含みかつ白色度が30以上である植物灰、水酸化ナトリウムおよび水を混合して得られた原料ケイ酸アルカリ水溶液を、目開き50μm未満のフィルタによるろ過処理に供してケイ酸アルカリ水溶液を得ることを含む、ケイ酸アルカリ水溶液の製造方法。
【請求項10】
シリカ成分を含みかつ白色度が30以上である植物灰、水酸化ナトリウムおよび水を混合して得られた原料ケイ酸アルカリ水溶液を、吸着材を用いた吸着処理に供してケイ酸アルカリ水溶液を得ることを含む、ケイ酸アルカリ水溶液の製造方法。
【請求項11】
前記植物灰がもみ殻灰である、請求項6~10のいずれか1項に記載のケイ酸アルカリ水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物灰を使用して製造した(植物由来の)ケイ酸アルカリ水溶液およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ酸ナトリウムは別名「水ガラス」とも呼ばれ、湿式法シリカや合成ゼオライトの原料として、土建用地盤硬化剤、洗浄剤、繊維およびパルプなどに関する分野において幅広く使用されている。一般的なケイ酸ナトリウムの製造方法としては、シリカ(SiO2)成分の多い天然の砂(珪砂や珪石、ケイ酸白土など)を水酸化ナトリウム水溶液に溶解して製造する湿式法(化学式A)、または砂とソーダ灰を混合して溶融炉に入れ、加熱融解し、透明体となったときに取り出して冷却固化する乾式法(化学式B)が広く知られている。
・化学式A
2NaOH+nSiO2 → Na2O・nSiO2+H2O n:モル比
(ケイ酸ナトリウム水溶液)
・化学式B
Na2CO3+nSiO2 → Na2O・nSiO2+CO2 n:モル比
(ケイ酸ナトリウムカレット)
【0003】
従来の砂由来のケイ酸ナトリウムから製造される湿式法シリカは、BET比表面積が高く、ミクロ細孔~メソ細孔を有しているため、工業用ゴム、タイヤおよびシリコーンゴムなどの補強用の充填剤、紙用充填剤、塗料用の艶消し剤、歯磨き粉用などの研磨剤、ならびにフィルム用のアンチブロッキング剤など多岐にわたり広く利用されている。
【0004】
近年、地球環境を守るための持続的に再生が可能な社会の実現が求められるようになった。そのための具体策の一つとして、バイオマスボイラーやバイオマス発電など、化石燃料を使用しないバイオマス技術の普及が各地で進んでいる。そのような技術を使用する設備では、シリカ成分の多い植物(もみ殻や稲わら、麦わら、バガス、竹などイネ科の植物)が燃料として使用されることが多い。しかしながら、これらの設備では、シリカ成分の多い燃焼灰(植物灰)の廃棄処理が問題となっている。
【0005】
そこで、この問題を解決する一つの方法として、シリカ成分を多く含む植物灰(特にもみ殻灰)を水酸化ナトリウム水溶液に溶解し、アルカリ成分を含有するケイ酸水溶液を製造し、これを湿式法シリカの原料として再利用する試みが以前から行われている(例えば、特許文献1および特許文献2)。
【0006】
なお、原料として植物灰を使用したケイ酸水溶液は、通常、アルカリ成分としてナトリウムに加えてカリウムを含有する。したがって、これ以降の説明では、アルカリ成分が特にナトリウムに限定されている場合を除き、一般に用いられる「ケイ酸ナトリウム」(Na2O・nSiO2)の呼称に替えて、アルカリ成分を含むケイ酸を「ケイ酸アルカリ」と称する。本件発明および本件明細書においてケイ酸アルカリはケイ酸ナトリウムを含む意味である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2007-510613号公報
【文献】特表2007-522069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および特許文献2などの公知技術に基づいて、もみ殻灰や他の植物灰からケイ酸アルカリ水溶液を製造し、湿式法シリカを製造することは不可能ではない。
【0009】
しかしながら、植物灰由来のケイ酸アルカリ水溶液は、砂から作られるものよりも多くの着色を引き起こす不純物や異物を含んでおり、これら着色したケイ酸アルカリ水溶液から作られる湿式法シリカもまた、不純物や異物が多く、かつ着色した(白色度の低い)低品質な湿式法シリカにしかならない。そのため、植物灰由来のケイ酸アルカリ水溶液から製造された従来の湿式法シリカは、安価で汎用的な用途に使用する、または、植物灰由来のケイ酸アルカリ水溶液を砂由来のケイ酸アルカリ水溶液に少量だけ混合して使用するなど、限られた用途および用法でしか利用できなかった。
【0010】
天然の砂は産地ごとに品質が一定であるため、従来の砂由来のケイ酸アルカリであれば、用途目的に応じて砂の原産地を変える等により、不純物等の品質に対処することが可能である。しかしながら、植物灰を使用する場合、植物灰自体が不純物と異物を多く含みかつ品質が不安定であるため、不純物や異物、着色の問題を解決するための対処方法を見出すことは困難である。
【0011】
これらの理由により、植物灰由来のケイ酸アルカリ水溶液から製造された湿式法シリカは、期待されている程には普及していない。
【0012】
また、従来技術の手法は、長時間酸素と接触させる(特許文献1)、高温で燃焼を行う(特許文献2)など、二酸化炭素の発生量が多くかつエネルギー消費量も多い手法であり、近年の環境問題に対する配慮という観点から適切なものとは言えない。
【0013】
加えて、湿式法シリカを使用している需要者からは、環境に配慮した原料(ケイ酸アルカリ)を使用しつつ、高機能かつ高品質な湿式法シリカの供給が求められている。
【0014】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、従来の砂由来のケイ酸アルカリ水溶液を使用した場合と同程度に白色度が高い湿式法シリカの製造を可能にする植物灰由来のケイ酸アルカリ水溶液を提供することである。
【0015】
また、本発明の第2の目的は、そのように充分な品質のケイ酸アルカリ水溶液の製造を可能とするケイ酸アルカリ水溶液の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、透過率が高い植物灰由来のケイ酸アルカリ水溶液を原料として湿式法シリカを製造することにより、従来の砂由来のケイ酸アルカリ水溶液を使用した場合と同程度に白色度が高い湿式法シリカを製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
本発明の構成は、以下の通りである。
[1]
質量%表示でSiO2濃度に対するP25濃度の比P25/SiO2が1.0×10-3以上であり、SiO2濃度が8.9質量%~16.7質量%であり、光路長1cm、波長500nmにおける透過率(%T)が65%以上である、ケイ酸アルカリ水溶液。
[2]
モル%表示で(Na2O+K2O)濃度に対するSiO2濃度の比SiO2/(Na2O+K2O)が2.8~3.5である、[1]に記載のケイ酸アルカリ水溶液。
[3]
モル%表示でNa2O濃度に対するK2O濃度の比K2O/Na2Oが0.03~0.30である、[1]又は[2]に記載のケイ酸アルカリ水溶液。
[4]
目開き1μmのフィルタでケイ酸アルカリ水溶液をろ過した際に、フィルタ上に捕捉される固形分量が、ろ過前のケイ酸アルカリ水溶液の質量に対して100質量ppm未満である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のケイ酸アルカリ水溶液。
[5]
湿式法シリカの原料として利用される、[1]~[4]のいずれか1つに記載のケイ酸アルカリ水溶液。
[6]
シリカ成分を含む植物灰、水酸化ナトリウムおよび水を混合して得られた原料ケイ酸アルカリ水溶液を、目開き50μm未満のフィルタによるろ過処理および吸着材を用いた吸着処理の一方または両方に供してケイ酸アルカリ水溶液を得ることを含む、ケイ酸アルカリ水溶液の製造方法。
[7]
植物灰がもみ殻灰である、[6]に記載のケイ酸アルカリ水溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の植物灰由来のケイ酸アルカリ水溶液を原料として使用することにより、従来の砂由来のケイ酸ナトリウム水溶液を使用した場合と同程度に白色度が高く高品質な湿式法シリカの製造が可能となる。
【0019】
また、本発明の製造方法により、従来の砂由来のケイ酸アルカリ水溶液を使用した場合と同程度の白色度が高い湿式法シリカの製造を可能にする植物灰由来のケイ酸アルカリ水溶液を提供できる。
【0020】
加えて、本発明では、通常であれば廃棄される植物灰を再利用できるため、環境に配慮したケイ酸アルカリ水溶液の供給が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、ケイ酸アルカリ水溶液の粗ろ過におけるろ過残渣を示す画像である。
図2図2は、ケイ酸アルカリ水溶液(実施例4、比較例1、比較例4)の波長200nm~800nmにおける透過率スペクトルである。
図3図3は、ケイ酸アルカリ水溶液(実施例1、実施例5、参考例1)の波長200nm~800nmにおける透過率スペクトルである。
図4図4は、ケイ酸アルカリ水溶液(比較例3)の波長200nm~800nmにおける透過率スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<ケイ酸アルカリ水溶液>
本発明のケイ酸アルカリ水溶液は、質量%表示でSiO2濃度に対するP25濃度の比P25/SiO2が1.0×10-3以上であり、SiO2濃度が8.9質量%~16.7質量%であり、光路長1cm、波長500nmにおける透過率(%T)が65%以上である、ケイ酸アルカリ水溶液である。
【0023】
本発明のケイ酸アルカリ水溶液は、シリカ成分を含む植物の燃焼灰である植物灰を使用して製造される。植物灰には、リン成分が含まれており、酸化物換算したときのリン酸(P25)は植物灰固有に含まれる成分である。主なシリカ源として植物灰を使用した本発明のケイ酸アルカリ水溶液では、質量%表示でSiO2濃度に対するP25濃度の比が、砂由来のケイ酸アルカリ水溶液に比べて高くなり、比P25/SiO2が1.0×10-3以上となる。一般的に、シリカ源として砂のみを使用したケイ酸アルカリ水溶液中の比P25/SiO2が1.0×10-3以上となることはない。したがって、比P25/SiO2に基づくP25の存在によって、ケイ酸アルカリ水溶液が植物灰由来であること(つまり、シリカ源の少なくとも一部に植物灰が使用されていること)を判別することができる。本発明のケイ酸アルカリ水溶液において、比P25/SiO2は、1.5×10-3以上、1.8×10-3以上、または2.0×10-3以上であってもよい。比P25/SiO2の上限は、特に制限されず、植物灰の種類に依存するが、例えば20×10-3以下である。不純物を低減する観点から、比P25/SiO2は、15×10-3以下であることが好ましく、13×10-3以下であることがより好ましく、10×10-3以下であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明のケイ酸アルカリ水溶液において、光路長1cm、波長500nmにおける透過率(%T)は65%以上である。
【0025】
通常、植物灰には不純物や異物が多く含まれている。従来の方法により、不純物や異物の多い植物灰を使用してケイ酸アルカリ水溶液を製造すると、ケイ酸アルカリ水溶液中に不純物や異物が混入して上記透過率(%T)が低下してしまう。本発明のケイ酸アルカリ水溶液では、不純物や異物の量を低減することで、上記透過率を65%以上にしている。上記透過率が65%以上であることにより、白色度の高い湿式法シリカを製造しやすくなる。本発明のケイ酸アルカリ水溶液において、上記透過率は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。特に、透過率が80%以上であれば、白色度90以上の湿式法シリカを製造しやすくなる。
【0026】
透過率(%T)は、ホウケイ酸ガラス製の10mm角セル(標準型、光路長1cm)を使用し、純水を比較基準として分光光度計によって測定される、波長500nmでの測定値をいう。波長500nmは、可視光線波長(380nm~780nm)の中で青と緑の境界付近の波長であり、シリカの白色度と相関が取り易い波長である。
【0027】
本発明のケイ酸アルカリ水溶液中のSiO2濃度は8.9質量%~16.7質量%である。一般的に、湿式法シリカの原料として用いられるケイ酸アルカリ水溶液のSiO2濃度が上記範囲内である。そのため、SiO2濃度が上記範囲にあることにより、既存のケイ酸アルカリ水溶液と同様の用途で本発明のケイ酸アルカリ水溶液を使用しやすくなる。
【0028】
本発明のケイ酸アルカリ水溶液は、植物灰由来のナトリウム成分およびカリウム成分を含む。本発明のケイ酸アルカリ水溶液において、モル%表示で(Na2O+K2O)濃度に対するSiO2濃度の比SiO2/(Na2O+K2O)は2.8~3.5であることが好ましい。一般的に湿式法シリカの原料として用いられるケイ酸アルカリ水溶液において、モル比SiO2/(Na2O+K2O)(通常、K2O量は非常に少ない)は2.8~3.5の範囲である。そのため、モル比SiO2/(Na2O+K2O)が上記範囲であることにより、既存のケイ酸アルカリ水溶液と同様の用途で本発明のケイ酸アルカリ水溶液を使用しやすくなる。
【0029】
本発明のケイ酸アルカリ水溶液において、モル%表示でNa2O濃度に対するK2O濃度の比K2O/Na2Oは0.03~0.30であることが好ましい。モル比K2O/Na2Oが0.30以下であることにより、湿式法シリカを中和合成する際に中和反応のバラつきが生じにくくなるなど、湿式法シリカの品質安定性の問題が生じにくくなる。また、モル比K2O/Na2Oが0.03以上であれば、砂由来のケイ酸アルカリなど別の種類のケイ酸アルカリと混合するなどしてモル比K2O/Na2Oを調整しやすい。モル比K2O/Na2Oは、好ましくは0.04~0.20の範囲であり、より好ましくは0.05~0.15の範囲である。
【0030】
ケイ酸アルカリ中のモル比K2O/Na2Oは、ケイ酸アルカリが植物灰由来であるか否かの判断基準の1つとなり得る。通常、砂由来のケイ酸アルカリでは、モル比K2O/Na2Oは0.01未満である。したがって、モル比K2O/Na2Oが0.01以上である場合、後処理でK2O濃度を増加させる調整を行っていることが明らかな場合を除き、ケイ酸アルカリ水溶液が植物灰を含むといえる場合が多い。
【0031】
Na2O濃度およびK2O濃度の合計(Na2O+K2O)は、例えば3.5質量%~5.0質量%であることができる。一般的に湿式法シリカの原料として用いられるケイ酸アルカリ水溶液において、Na2O+K2Oの合計濃度(通常、K2O量は非常に少ない)は3.5質量%~5.0質量%の範囲である。そのため、Na2O+K2Oの合計濃度が上記範囲であることにより、既存のケイ酸アルカリ水溶液と同様の用途で本発明のケイ酸アルカリ水溶液を使用しやすくなる。
【0032】
本発明のケイ酸アルカリ水溶液において、目開き(粒子保持能)1μmのフィルタでケイ酸アルカリ水溶液をろ過した際に、フィルタ上に捕捉される固形分量は、ろ過前のケイ酸アルカリ水溶液の質量に対して100質量ppm未満であることが好ましい。上記固形分量は、ろ過前のケイ酸アルカリ水溶液の質量に対して90質量ppm未満であることが好ましく、80質量ppm未満であることがより好ましい。特に、後述する吸着処理およびろ過を実施した場合には、上記固形分量を50質量ppm未満、好ましくは40質量ppm未満、より好ましくは30質量ppm未満にすることも可能である。
【0033】
使用するフィルタの材質は、目開き1μmであれば、特に限定されない。例えば、試験用ろ紙(例えば、規格5C、ADVANTEC社製)でろ過し、ろ紙を充分に純水で洗浄し、105℃で2時間乾燥させる。ろ紙上に残った固形分質量(未溶解残渣の質量)と、ろ過に供したケイ酸アルカリ水溶液の質量とに基づいて、未溶解残渣の質量%濃度は次式によって求めることができる。
【数1】
【0034】
本発明者らが行った実験によれば、従来の植物灰由来の湿式法シリカにおける着色の問題は、植物灰由来のケイ酸アルカリ水溶液中の不純物や異物が原因であると判明した。すなわち、従来の植物灰由来のケイ酸アルカリ水溶液中には多くの不純物や異物が存在し、その不純物や異物がケイ酸アルカリ水溶液を濁らせ着色する。そして、そのようなケイ酸アルカリ水溶液を用いて湿式法シリカを製造した結果、湿式法シリカに不純物や異物が混入し、湿式法シリカの白色度が低下するという問題が生じる。
【0035】
後述するように、植物灰には、未燃焼により残留した炭素成分、ならびに黒鉛系異物およびガラス化したシリカ成分などの不溶性異物が含まれており、植物灰由来のケイ酸アルカリ水溶液では未溶解残渣が生じやすい。未溶解残渣が多いケイ酸アルカリ水溶液をそのまま原料として湿式法シリカを製造した場合、湿式法シリカに多くの不純物や異物が混入してしまう。例えば、艶消し用途では、このような異物が、塗装後の表面上に点在して突起部となり、艶消し性能を低下させかつ外観上の美観を損ねる原因となる。また、製品の品質を低下させるために、工業用ゴム、タイヤおよび歯磨きなどの用途でも、湿式法シリカへの不純物や異物の混入は好ましくない。そこで、白色度の高い湿式法シリカを得るために、ケイ酸アルカリ水溶液中の未溶解残渣の質量%濃度を上記範囲に調整することにより、湿式法シリカへの不純物や異物の混入を抑制している。
【0036】
本発明のケイ酸アルカリ水溶液は、所定のろ過処理および吸着処理の一方または両方を実施する本発明のケイ酸アルカリ水溶液の製造方法(後述のケイ酸アルカリ水溶液の製造方法)によって、得ることができる。また、実施例で示すように、本明細書で説明する所定の燃焼方法によって白色度が高い植物灰を得、この植物灰、水酸化ナトリウムおよび水を混合する、ケイ酸アルカリ水溶液の製造方法によって、得ることもできる。
【0037】
比較として、例えば、特許文献1および2の方法では、得られたケイ酸アルカリ水溶液に対し、ろ過処理などの精製処理がされていない。そのため、植物灰中の不純物や異物の存在によって、上記のような従来のケイ酸アルカリ水溶液は透明とはならず、白色度の高い湿式法シリカをつくることは出来なかった。このことは、実施例に記載の比較例3の結果によって実証されている。
【0038】
<ケイ酸アルカリ水溶液の製造方法>
本発明のケイ酸アルカリ水溶液の製造方法は、シリカ成分を含む植物灰、水酸化ナトリウムおよび水を混合して得られた原料ケイ酸アルカリ水溶液を、目開き50μm未満のフィルタによるろ過処理および吸着材を用いた吸着処理の一方または両方に供してケイ酸アルカリ水溶液を得ることを含む。この製造方法により、上述した本発明のケイ酸アルカリ水溶液を得ることができる。
【0039】
<シリカ成分を含む植物灰>
本発明のケイ酸アルカリ水溶液を製造する際に使用する植物灰は、シリカ成分を含む植物材料の燃焼灰である。植物材料の種類および部位は、シリカ成分を含む植物および部位であれば、特に制限されない。シリカ成分を含む植物としては、例えば稲(稲わら、もみ殻)、麦、サトウキビ、竹などイネ科の植物が挙げられる。汚泥付着等の汚染が少なく、集積所に集まり、入手が容易である等の理由から、脱穀後のもみ殻(米殻)が最も好ましい。
【0040】
本発明で使用する植物灰の品質は特に制限されないが、不純物や異物の少ないケイ酸アルカリ水溶液を工業的に効率良く生産する観点から、炭素成分の含有量が少なく白色度の高い植物灰を使用することが好ましい。植物灰中の炭素量は、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることが好ましい。植物灰中の炭素量の下限は、特に限定されず、実際的には0.05質量%以上であり、0.1質量%以上でもよい。植物灰の白色度は、30以上であることが好ましく、40以上であることがより好ましく、50以上であることがさらに好ましい。植物灰の白色度の上限は、特に限定されず、実際的には90以下であり、70以下でもよい。
【0041】
上述のような白色度が高くかつ不純物や異物が少ない植物灰を得るためには、植物材料を流動させながら550℃~900℃で燃焼させることが可能な燃焼炉を使用することが好ましい。燃焼温度は、600℃~800℃であることがより好ましく、650℃~750℃であることが更に好ましい。
【0042】
ここで、シリカ成分を含む植物材料を流動させながら550℃~900℃で燃焼させる上記燃焼方法と植物灰中の不純物や異物との関係について説明する。白色度の高い植物灰を作るために、本発明者らは、植物灰中の不純物と異物の種類およびその発生原因を詳細に調べた。その結果、550℃より低い温度で燃焼した場合および不充分な材料流動等により燃焼が不均一である場合に、植物材料が未燃焼となりやすく、水溶性炭化水素成分が植物灰中に残留しやすいことが分かった。水溶性炭化水素成分は、ケイ酸アルカリ水溶液に溶解してろ過で除去することが難しく、水溶液の着色原因となる。また、燃焼の際に充分な酸素が供給されない場合に、植物材料中の炭化水素成分が炭化して不溶性の黒鉛系異物が植物灰中に生成されることが分かった。加えて、700℃以上の燃焼温度で植物材料を一挙に燃焼した場合には、ガラス化したシリカ成分が不溶性異物として植物灰中に生成されやすいことが分かった。この場合、材料表面のシリカ成分がガラス化したことにより材料内部で未燃焼および酸素不足の状態になりやすく、水溶性炭化水素成分および不溶性の黒鉛系異物も生成されやすいことが分かった。高温下で一挙に燃焼して得た植物灰を使用してケイ酸アルカリ水溶液を製造すると、ガラス化したシリカ成分に加えて、水溶性炭化水素成分および不溶性の黒鉛系異物も、ケイ酸アルカリ水溶液に混入してしまい、ケイ酸アルカリ水溶液の品質低下が顕著となる。また、一見して白色の灰に見えても、水溶性炭化水素成分、不溶性の黒鉛系異物、およびガラス化したシリカ成分などの不純物や異物は植物灰中に一定量存在することが確認された。植物灰中の不純物や異物の上記発生過程を考慮すると、白色度の高い植物灰を得るためには、上述した燃焼方法により、シリカ成分のガラス化を抑制しながら充分な酸素下で植物材料を均一に燃焼することが有効である。
【0043】
上記燃焼方法において、植物材料の燃焼には、燃焼炉を使用することが好ましい。燃焼炉の型式は、特に制限されない。上述したように、白色度が高くかつ不純物や異物が少ない植物灰を得るためには、燃焼中に植物材料を流動させる流動装置を備える燃焼炉であって、植物材料を流動させながら550℃~900℃で燃焼させることが可能な燃焼炉を使用することが好ましい。例えば、燃焼炉は、植物材料を酸素で燃焼させる直接燃焼炉でもよく、植物材料を無酸素または低酸素の状態で加熱して有機ガスを発生させた後、材料を燃焼させるガス化燃焼炉でもよい。また、植物灰が黒鉛系の異物を多く含む場合には、例えば同一の燃焼炉における二次燃焼によって、一次燃焼の熱を再利用しながら炭素成分を除去してもよい。
このような方法によれば、植物灰の品質が安定しやすいため、本発明のケイ酸アルカリ水溶液のシリカ源としてより良好な植物灰となる。
【0044】
<水酸化ナトリウム水溶液>
本発明の製造方法において使用する水酸化ナトリウムおよび水は公知のものを使用できる。水酸化ナトリウム水溶液と植物灰を混合する態様において、水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、特に制限されず、公知のものを使用することができる。一般的には、ケイ酸アルカリ水溶液の生産性の観点から、可能な限り高濃度の水酸化ナトリウム水溶液と植物灰を混合し、その後、所望のSiO2濃度になるように水で希釈することが好ましい。一方、植物灰は見かけ密度が非常に小さいため、水酸化ナトリウム水溶液の濃度が高すぎると、植物灰を水酸化ナトリウム水溶液へ投入しにくい場合がある。植物灰および水酸化ナトリウム水溶液を混合しやすくする観点から、水酸化ナトリウム水溶液の濃度は20質量%以下であることが実際的であり、15質量%以下または10質量%以下であっても良い。
【0045】
<ケイ酸アルカリ水溶液の詳細な製造条件>
本発明のケイ酸アルカリ水溶液は、シリカ成分を含む植物灰、水酸化ナトリウムおよび水を混合して得られる。植物灰、水酸化ナトリウムおよび水の混合の順序は特に制限されない。植物灰と水酸化ナトリウムを同時にまたは個別に水に入れてもよく、植物灰と水酸化ナトリウムの混合物を水に入れてもよく、水酸化ナトリウムを水に溶かした水酸化ナトリウム水溶液に植物灰を入れてもよく、植物灰を水に溶かした水溶液に水酸化ナトリウムを入れてもよい。
【0046】
使用する水、水酸化ナトリウム、植物灰の量と混合比率は、植物灰の種類ならびにケイ酸アルカリ水溶液の目標とするSiO2濃度および用途などの条件に応じて適宜調整することができる。ガラス化したシリカ成分は溶解しにくいため、植物灰中のシリカ成分の全てを水溶液に溶解させる必要はない。植物灰中のシリカ成分の概ね90質量%~95質量%を溶解させるような方法であれば、エネルギー使用量や時間的に生産性よくケイ酸アルカリ水溶液を製造できる。
【0047】
例えば、植物灰に含まれるシリカ成分のうち90%が水溶液に溶解すると仮定した場合、植物灰の投入量は、水溶液中の水酸化ナトリウム質量に対して3倍の質量を目安に投入し溶解すると、モル%表示で(Na2O+K2O)濃度に対するSiO2濃度の比SiO2/(Na2O+K2O)を2.8~3.5に調整し易い。
【0048】
本発明の製造方法において、植物灰、水酸化ナトリウムおよび水を混合溶解するその他の条件は特に制限されない。
【0049】
混合溶解は、例えば、撹拌付きの溶解槽(容器)で、常圧(大気圧)下または加圧下で60℃~100℃および1時間~5時間の範囲で適宜選択して行われる。
【0050】
本発明の製造方法は、上記のようにして得られた原料ケイ酸アルカリ水溶液を、目開き50μm未満のフィルタによるろ過処理および吸着材を用いた吸着処理の一方または両方に供してケイ酸アルカリ水溶液を得ることを含む。従前の植物灰には、前述したとおり、黒鉛系の異物、シリカ成分がガラス化した異物、および水溶性の炭化水素化合物などの不純物が混在している。これらの不純物や異物が、ケイ酸アルカリ水溶液および湿式法シリカに混入すると、それらの着色原因となる。したがって、例えば従前の植物灰を水酸化ナトリウム水溶液に溶解させただけでは、本発明が目的とする品質の湿式法シリカを得ることはできない。本発明では、原料ケイ酸アルカリ水溶液に上記ろ過処理および吸着処理の一方または両方を実施することで、ケイ酸アルカリ水溶液中の不純物や異物を除去する。
【0051】
ろ過処理で使用するフィルタの目開きは、不溶性の異物を除去するため、50μm未満である。異物をより充分に除去する観点から、フィルタの目開きは、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。フィルタの目開きが10μm以下の場合はろ過性(生産性)が著しく悪化するため、生産性と品質を考慮しながら適宜選択すれば良い。フィルタの材質は、特に制限されず、ろ紙、ろ布およびメンブレンフィルタなど各種のフィルタを使用できる。異物をより充分に除去する観点から、目開き50μm未満のフィルタによるろ過処理は、複数回実施してもよい。当該ろ過処理を複数回実施する場合には、見開きが大きい順に実施するのが一般的である。
【0052】
また、本発明の製造方法において、目開き50μm未満のフィルタによるろ過処理を実施する前に、目開き50μm以上のフィルタによるろ過処理を行っても良い。目開き50μm以上のフィルタによるろ過処理は、未溶解の粗粒子が多い場合等に必要に応じて適宜実施することができる。
【0053】
吸着処理は、ろ過処理によって除去しにくい水溶性不純物を除去することができる。
【0054】
吸着処理実施の有無は、ケイ酸アルカリ水溶液中の不純物の量および種類に応じて適宜決定される。例えば、波長500nmにおける前述の透過率(%T)が10%未満であるケイ酸アルカリ水溶液に対してはろ過および吸着処理の両方を実施することが好ましい。
【0055】
これに対し、いずれか一方の処理後に65%以上の上記透過率(%T)を達成できる場合(例えば植物灰中の不純物や異物が少なかった場合)であれば、ろ過および吸着処理はそのいずれか一方のみでもよい。具体的には、不溶性異物を除去できれば充分である場合にはろ過のみを実施すればよく、水溶性不純物を除去できれば充分である場合には、吸着処理のみを実施すればよい。また、上記透過率(%T)が65%以上であるケイ酸アルカリ水溶液に対し、透過率をさらに向上させるためにろ過および吸着処理の一方またはその両方を実施してもよく、ろ過後に吸着処理を実施し、残存する吸着剤を除去するために再度ろ過を行ってもよい。
【0056】
吸着処理で使用する吸着材は、特に制限されず、公知の吸着材を使用できる。吸着材としては、例えば珪藻土、粘土鉱物、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、活性アルミナが挙げられる。吸着材は活性炭であることが好ましい。吸着処理の時間は、ケイ酸アルカリ水溶液中の不純物や異物量に応じて適宜調整でき、例えば12時間~40時間であり、15時間~30時間であることが好ましい。吸着処理で使用する吸着材の量は、ケイ酸アルカリ水溶液中の不純物量に応じて適宜調整でき、例えばケイ酸アルカリ水溶液1,000gに対し5g~20gであり、8g~15gでもよい。
【0057】
植物灰中のシリカ成分およびアルカリ成分は一定でないため、ケイ酸アルカリ水溶液中のK2O、SiO2濃度にはバラつきが生じやすい。そのため、必要に応じて、上記ろ過処理および吸着処理の一方または両方を行った後に、最終的な濃度調整や各モル比の調整を行う。SiO2質量%の調整は、水希釈またはシリカ材料(例えば、市販のシリカ粉末)の追加添加によって行うことができる。モル%表示で(Na2O+K2O)濃度に対するSiO2濃度の比SiO2/(Na2O+K2O)の調整は、水酸化ナトリウムの添加によって行うことができる。
【0058】
<ケイ酸アルカリ水溶液のその他の条件>
本発明のケイ酸アルカリ水溶液は、シリカ源の一部に、砂由来(珪砂や珪石、ケイ酸白土など)のシリカ材料を使用しても良い。湿式法シリカの品質を重視する場合には、砂由来のシリカ材料の割合を増やすことができ、環境への配慮(植物灰の再利用)を重視する場合には、植物灰の割合を増やすことができる。環境への配慮の観点から、植物灰を可能な限り多く使用することが好ましい。シリカ源中の植物灰の割合は、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。原料ケイ酸アルカリ水溶液の調製において、シリカ源として砂由来のシリカ材料を使用せず、植物灰の量を100質量%とすることもできる。
【0059】
砂由来のシリカ材料は、上記ケイ酸アルカリ水溶液を調製する際に、シリカ源の一部として添加されても良い。また、砂由来のシリカ材料は、植物灰由来のケイ酸アルカリ水溶液と砂由来のケイ酸ナトリウム水溶液を別々に作りそれらの水溶液を使用する前に混ぜる形態で、使用されても良い。
【0060】
本発明のケイ酸アルカリ水溶液は、必要に応じて、添加剤を含むことができる。添加剤としては特に制限されず、公知の添加剤を使用できる。例えば、アルミン酸ナトリウムなどの酸化アルミニウム(Al23)源を添加することができる。このような添加剤を含むケイ酸アルカリ水溶液から製造する湿式法シリカは、シリコーンゴム、工業用ゴムおよびタイヤの補強剤として、補強性能を向上させる効果がある。
【0061】
以上、本発明の製造方法によれば、植物灰中の黒鉛系の異物、シリカ成分がガラス化した異物、および水溶性の炭化水素化合物などの不純物や異物をケイ酸アルカリ水溶液から充分に除去することができる。その結果、砂由来のケイ酸アルカリ水溶液を使用した場合と同程度に白色度が高い湿式法シリカの製造が可能な植物灰由来のケイ酸アルカリ水溶液を提供できる。
【0062】
加えて、本発明では、通常であれば廃棄される植物灰を再利用できるため、環境に配慮したケイ酸アルカリ水溶液の供給が可能である。また、本発明の製造方法によって得られるケイ酸アルカリ水溶液では、不純物や異物の含有量が少ないため、高品質な湿式法シリカの製造が可能となる。
【0063】
<ケイ酸アルカリ水溶液の使用用途>
本発明のケイ酸アルカリ水溶液は、湿式法シリカ製造用の原料として使用することができる。本発明のケイ酸アルカリ水溶液は植物灰由来であるにもかかわらず、上記透過率(%T)が65%以上であり、着色原因となる不純物や異物の含有量が少ない。本発明のケイ酸アルカリ水溶液を原料として使用することにより、植物灰を使用して製造されたにも関わらず、従来の砂由来のケイ酸アルカリ水溶液を使用した場合と同程度に白色度が高い湿式法シリカの製造が可能である。また、本発明のケイ酸アルカリ水溶液は、不純物や異物の含有量が少ないため、不純物や異物の少ない高品質な湿式法シリカの製造が可能となる。
【0064】
本発明のケイ酸アルカリ水溶液を原料として製造される湿式法シリカの種類は、特に制限されず、例えば沈澱法シリカ(ホワイトカーボン)でもよく、ゲル法シリカでもよい。この理由は、湿式法シリカであれば、ケイ酸アルカリ水溶液からシリカを析出するプロセスは基本的に全て同じ傾向を示すためである。湿式法シリカの合成プロセスの一例を下記に示す(化学式C)。
・化学式C(湿式法シリカの合成プロセスの例)
2O・nSiO2+H2SO4 → nSiO2+M2SO4+H2
ここで、Mはナトリウムおよびカリウムを含むアルカリを表し、nはモル比を表す。
【0065】
本発明のケイ酸アルカリ水溶液を原料として製造した湿式法シリカは、白色度が高くかつ異物が少ないため、工業用ゴムやタイヤ用の補強充填剤として充分な補強性を有する。さらには、シリコーンゴム用の補強充填剤、紙用充填剤(裏抜け防止剤)、塗料の艶消し剤、歯磨き用などの研磨剤、およびフィルムのアンチブロッキング剤など、透明性や白色度を重視する用途においても、公知の砂由来のケイ酸アルカリ水溶液と同様に使用することが可能である。
【0066】
また、本発明のケイ酸アルカリ水溶液中の不純物や異物が少ないため、本発明のケイ酸アルカリ水溶液は、湿式法シリカ以外の公知の用途、例えば、合成ゼオライトの原料、土建用地盤硬化剤ならびに洗浄剤、繊維およびパルプ用の添加剤などにも使用できる。本発明のケイ酸アルカリ水溶液を使用することにより、従来の植物灰由来のケイ酸アルカリ水溶液に比べて、上記のような材料および製品に異物が混入する問題が生じにくくなる。
【実施例
【0067】
以下具体的に実施例を挙げて説明する。但し、これに限定する意図はない。
【0068】
<植物灰の燃焼条件>
植物灰を作製するための植物材料は、もみ殻と稲わらを用いた。もみ殻と稲わらは、125℃、2時間かけて充分乾燥させた。空気穴および蓋を備えた2mm厚のステンレス製匣鉢(300mm×300mm×115mm(高さ))に、500gのもみ殻(見掛け密度:約110g/L)または10cm程度にカットした250gの稲わらを入れ、これを2段重ねて卓上マッフル炉(型式:KDF S100G、(株)デンケン社製)にて空気雰囲気下で燃焼した。植物灰は、最大でも1回に200g前後しか得られないため、燃焼処理は必要な量の植物灰が得られるまで同一条件で複数回実施し、最後に混合した。また、900℃燃焼の際には、ステンレス製匣鉢に替えて、空気穴および蓋を備えたムライト製匣鉢(外寸210mm×210mm×70mm(高さ)、内寸194mm×194mm×56mm(高さ))を使用した。
【0069】
上記方法で灰a~灰fの6種類の植物灰を得た。各試料の燃焼条件は、下記表1のとおりである。表1において、複数回の燃焼処理が示された燃焼条件は、500℃で予備燃焼(1回以上)を行い、取り出した灰を撹拌し、その後、次の燃焼処理を実施したことを表す。例えば、表1において、灰bの燃焼条件「500℃×2hr、600℃×2hr」は、500℃で2時間の予備燃焼を1回行った後、600℃で2時間の燃焼処理を実施したことを表す。植物灰fは、特許文献1に記載の方法に従い、空気過剰の状態において材料の流動なしに700℃で2時間、もみ殻を燃焼した灰である。
【0070】
<植物灰の分析>
●植物灰の白色度
白色度計(型式:NW-12 日本電色工業(株)社製)を用いて測定した。
【0071】
●植物灰中の炭素量(質量%)
炭素量は、酸素気流中燃焼-非分散赤外線吸収法による炭素分析装置(型式:CS744、LECOジャパン合同会社製)を用いて、温度1,350℃、酸素流入圧0.24MPa、測定時間50秒の条件で試料に加熱処理を行い、装置内の赤外線検出器(NDIR)でCOガスおよびCO2ガスを定量することにより測定した。植物灰は、前処理として105℃で2時間乾燥させた。
【0072】
●植物灰中の炭素以外の無機成分組成(質量%)
走査型蛍光エックス線分析装置(型式:ZSX PrimusII、リガク社製)を用いて、まず炭素を除く元素について定性分析を行い、検出された無機不純物の種類を確認し、その後、検出された無機不純物の定量分析を行った。測定試料は、植物灰をリング状の型に入れ加圧成型を行って作製したものである。定量した無機成分組成(炭素を除く)について、装置付属の解析ソフトで酸化物換算して濃度(質量%)を求めた。
【0073】
●灰化率(質量%)
125℃、2時間かけて十分に乾燥した後のもみ殻等の植物の質量に対する燃焼後の燃焼灰の質量%を測定した。
【数2】
【0074】
●植物灰の見掛け密度(かさ比重)(g/L)
植物灰の見掛け密度は、JIS K5101-12-1:2004(顔料試験法-見掛け密度又は見掛け比容-静置法)に基づき、専用測定器(目開き0.5mmのふるい、漏斗、容量30mLのシリンダ受器、受器台及び漏斗台)を用いて求める。篩の上から刷毛で試料(植物灰)を漏斗に落とし、へらを用いて受器に山盛りに溜まった試料の山の部分を削り取り、その後、試料の質量を測定した。単位をg/Lとする植物灰の見掛け密度(かさ比重)を、その質量に基づいて次式によって算出した。
【数3】
【0075】
●植物灰のかさ密度(見掛比重)(g/mL)
植物灰のかさ密度は、JIS K6220-1:2015(ゴム用配合剤-有機薬品-試験方法-第1部:全般)の「7.8 かさ密度」の項に基づき、専用測定器具(一般鋼材を用いて作製した内径22.00±0.05mm、内部深さ100mmのシリンダ、および外径21.80±0.05mm、長さ115mm、質量190gで内部に空洞のあるピストン)を用いて測定した。試料(植物灰)を入れる前のシリンダにピストンを自然に落下させて入れ、シリンダの上部に突出したピストンの高さを測定した。次いで、秤量した約1gの試料をシリンダに入れ、ピストンを5秒間かけて緩やかに落とし、木片でシリンダ側壁を軽くたたいてピストンをよくなじませ、シリンダの上部に突出したピストンの高さを測定した。シリンダ上部に突出したピストンの高さの変化とシリンダ内の底面積を用いて、単位をg/mLとするかさ密度(見掛比重)を次式によって算出した。
【数4】
【0076】
各試料における植物灰中の炭素量および炭素以外の無機成分組成は、表1に記載のとおりである。
【0077】
灰a~灰fの燃焼条件と含有成分:
【表1】
【0078】
<ケイ酸アルカリ水溶液の調製方法>
●一次処理(材料の混合とろ過)
撹拌装置を備えた3Lのステンレス容器に5.8質量%に調整した水酸化ナトリウム水溶液1,740gを投入し、85℃に加温した。続いて、撹拌を続けながら植物灰300gを試料液に投入し、85℃を維持したまま2時間かけて溶解し、試料液を室温まで冷却した。ここでは、植物灰に含まれるSiO2のうち90%が水酸化ナトリウム水溶液に溶解すると仮定し、目標SiO2濃度を12.0質量%と設定した。容量3Lの吸引ろ過瓶に150mmΦの磁性ブフナー漏斗(ヌッチェ)を取り付け、ポリエステル製平織ろ布(目開き約50μm×400μm)を使用し、試料液を吸引しながら粗ろ過を行って未溶解残渣を取り除いた。これにより、一次処理後のケイ酸アルカリ水溶液を得た。
【0079】
未溶解残渣は、すべての植物灰で確認され、その量は湿潤ベースで10~20質量%であった。この量は、乾燥後の固形分に換算すると約1~4質量%に相当する。図1は、植物灰a~植物灰dおよび植物灰fの未溶解残渣の写真である。未溶解残渣量は水分を含むため定量的な評価は難しいが、未溶解残渣の総量と最終燃焼温度との相関性を確認することはできなかった。これに対し、未溶解残渣の色は、最終燃焼温度によって違いがあった。具体的には、900℃で燃焼した植物灰dの残渣は、未溶解ガラスが主成分の淡黄色~白色系の残渣であり、その他は灰色~黒色系の残渣であり、このように最終燃焼温度が低い程、未溶解残渣は濃い黒色であった。なお、上記のろ過後に必要な量のケイ酸アルカリ水溶液が得られなかった場合には、同一条件で複数回処理を繰り返し、最後に混合して試料を得た。
【0080】
●アルカリ濃度とSiO2濃度の測定(濃度調整用の簡易測定)
一次処理後のケイ酸アルカリ水溶液について、以下に示す滴定法によりアルカリ濃度(Na2O+K2Oの質量%濃度)とSiO2濃度(質量%濃度)を測定した。
【0081】
アルカリ濃度:
容量300mLのコニカルビーカーに1mgの単位まで正確に秤量した約2gの試料と約100mLの蒸留水を入れ、指示薬としてメチルオレンジ(0.1質量%水溶液)を2~3滴、試料液に加え、50mLビューレットを用いて1N-HClで滴定した。一滴で橙色を呈した点を終点とし、そのときの1N-HClの消費量から次式によってアルカリ濃度を求めた。
【数5】
【0082】
SiO2濃度:
上記アルカリ濃度滴定終点液に、フッ化ナトリウム試薬5.0gを加え、よく振り混ぜた。その後、メチルレッドキシレンアノールFF指示薬約0.5mLを試料液に加え、1N-HClで滴定した。液が赤色を呈したときに更に1N-HClを2.0mL追加し、その滴定量a(mL)を記録した。ここで、メチルレッドキシレンアノールFF指示薬は、メチルレッド0.8gとキシレンシアノールFF0.2gをエタノール1,000mL中に溶解させたものである。
【0083】
次に、10mLビューレットを用いて1N-NaOHで逆滴定を行い、試料液の色が茶橙色となったとき、pHが5.8~6.0の範囲に入っていることを確認して終点とし、その滴定量b(mL)を記録し、次式によってSiO2濃度を求めた。
【数6】
【0084】
●ケイ酸アルカリ水溶液の二次処理(必要に応じて)
上記滴定法による測定結果に基づき、酸化物換算したときのSiO2濃度が目標SiO2濃度12.0質量%に近付くように、湿式法シリカおよび水の一方または両方を添加して成分の微調整を行った(追加溶解または追加加熱溶解)。本実施例および比較例においては、植物灰d、植物灰eおよび植物灰fをそれぞれ使用して得られたケイ酸アルカリ水溶液に二次処理を実施した。植物灰d由来のケイ酸アルカリ水溶液に対しては、湿式法シリカ(シリカ純度約93質量%、Nipsil LP、東ソー・シリカ社製)のみを添加し、加熱溶解を行ってSiO2濃度を調整した。植物灰e由来のケイ酸アルカリ水溶液に対しては、水および上記湿式法シリカを添加し、加熱溶解を行ってSiO2濃度を調整した。植物灰f由来のケイ酸アルカリ水溶液に対しては、上記湿式法シリカのみを添加し、加熱溶解を行ってSiO2濃度を調整した。植物灰fは、特許文献1に記載の方法に従って、空気過剰の状態において材料の流動なしに700℃で2時間もみ殻灰を燃焼した灰である。植物灰fの場合には、もみ殻の表面部分が先にガラス化し、ガラス化成分の多くは一次処理時の粗ろ過の残渣として除去される。したがって、植物灰dおよび植物灰eに比べて、SiO2濃度の調整に際し、より多くの湿式法シリカ量が必要であった。
【0085】
一次処理および必要に応じて二次処理を実施した試料液を、実施例および比較例で使用するケイ酸アルカリ水溶液の原液とした。以降の説明において、植物灰aを使用して得られた原液を「ケイ酸アルカリa」と称し、同様に植物灰b~植物灰fをそれぞれ使用して得られた原液を「ケイ酸アルカリb」~「ケイ酸アルカリf」と称する。
【0086】
加えて、参考例1として、次の方法により、市販の珪砂を原料とするケイ酸アルカリ水溶液を製造した。
珪砂由来のケイ酸ナトリウム水溶液:
容量5Lの圧力容器(オートクレーブ)に3,000gの水を仕込み、市販の珪砂を原料として製造された1,500gのケイ酸ナトリウムカレット(中モルグレード、Na2O:24.51%、SiO2:75.44%、純度99.9%以上、トクヤマ社製)を、圧力0.7MPaおよび温度160℃の条件下で60分間かけて溶解した。容器から2,000gのケイ酸ナトリウム水溶液を取り、これを水で2倍に希釈し、室温まで冷却した。その後、容量5Lの吸引ろ過瓶に150mmΦの磁性ブフナー漏斗(ヌッチェ)を取り付け、ポリエステル製平織ろ布(目開き約50μm×400μm)を使用して吸引しながら粗ろ過を行った。粗ろ過により未溶解残渣成分を取り除いて、珪砂由来のケイ酸ソーダ(ケイ酸アルカリ)水溶液を得た。
【0087】
<ケイ酸アルカリ水溶液の実施例および比較例>
植物灰a~植物灰fをそれぞれ用いてケイ酸アルカリa~ケイ酸アルカリfを調製して、実施例1~実施例3ならびに比較例1~比較例3のケイ酸アルカリ水溶液を得た。参考例1のケイ酸アルカリ水溶液も含め、各水溶液について、下記の測定を行った。
【0088】
●組成分析および不純物測定
目開き1μmのメンブレンフィルタ付きシリンジで抽出したケイ酸アルカリ水溶液試料を純水で希釈した。高分解能ICP発光分光分析装置(型式:PS3520DDII、(株)日立ハイテクサイエンス社製)を用い、各元素の検量線用標準液に基づいて試料の定量分析(単位:質量%)を行った。希釈倍率は、SiO2、Na2OおよびK2Oの定量分析のときは10,000倍(検量線用標準液:20質量ppm)、P25、CaO、MgO、Al23、Fe23、MnOの定量分析のときは1,000倍(検量線用標準液:10質量ppm)とした。
【0089】
●モル比
上記で測定したSiO2、Na2OおよびK2O質量濃度を、モル量に換算してSiO2/(Na2O+K2O)モル比とK2O/Na2Oモル比を求めた。具体的には、各成分のモル質量を60.08(SiO2)、61.98(Na2O)および94.19(K2O)とし、各モル比を次式により計算した。
【数7】
【0090】
●ケイ酸アルカリ水溶液の透過率(%T)の測定
市販の紫外可視分光光度計(型式:V-730、日本分光社製)を用いて波長200nm~800nmの透過率を測定した。測定では、ホウケイ酸ガラス製、光路長10mmの分光光度用標準セル(型式:S10-G-10、ジーエルサイエンス社製)を用い、純水での測定値を比較基準として行った。可視光波長(波長380nm~780nm)の中で着色の視認が容易な波長500nm(青と緑の境界付近)での透過率(%T)を、ケイ酸アルカリ水溶液の透過率(%T)とした。
【0091】
●ケイ酸アルカリ水溶液の未溶解残渣(質量ppm)の測定
湿式法シリカの原料とされるケイ酸アルカリ水溶液の未溶解残渣(目開き1μmのフィルタでろ過した際に、フィルタ上に捕捉される固形分量)を測定した。容量2Lの吸引ろ過瓶に110mmΦの磁性ブフナー漏斗(ヌッチェ)を取り付け、目開き1μmのろ紙(規格5C、ADVANTEC社製)を使用して1,000gのケイ酸アルカリ水溶液に対し吸引ろ過を行った。ろ過終了後、さらに1,000gの純水で洗浄し、箱型乾燥機により105℃で2時間乾燥した。その後、ろ紙上に捕捉された固形分の質量を求め、次式によって未溶解残渣の質量ppm濃度を求めた。
【数8】
【0092】
●ケイ酸アルカリ水溶液の比重(参考値)
250mLのメスシリンダーに20±0.5℃に調整したケイ酸アルカリ水溶液を入れ、比重計(浮きばかり)を入れ静止した時点での目盛りを読み取った。
【0093】
<湿式法シリカの製造と物性評価>
湿式法シリカであれば、ケイ酸アルカリ水溶液からシリカを析出するプロセスは基本的に全て同じ傾向を示すので、ケイ酸アルカリa~ケイ酸アルカリfをそれぞれ使用して、湿式法シリカのうち沈澱法シリカを下記方法により製造し、その物性を確認した(実施例1~実施例3、比較例1~比較例3)。加えて、珪砂由来のケイ酸ナトリウム水溶液を使用して沈澱法シリカを製造し、参考例1として品質を確認した。参考例1におけるケイ酸ナトリウムカレットおよびその水溶液は不純物を殆ど含まず、白色度の高い湿式法シリカの原料として広く一般に使用されている。物性は、下記表2に示す。
【0094】
●湿式法シリカの製造
撹拌装置を備えた2Lのステンレス容器に、pHが11.8±0.2になるように温水495mLと試験に供するケイ酸アルカリ水溶液36mLを仕込み、75℃まで昇温した。温度とpHを維持するように撹拌を続けながらケイ酸アルカリ水溶液366mLと20質量%希硫酸約108mLを一定の流量で60分間かけて滴下した。その後、ケイ酸アルカリ水溶液の滴下を止め、pHが3になったら希硫酸の滴下も止めて中和反応を終了させた。容量2Lの吸引ろ過瓶に150mmΦの磁性ブフナー漏斗(ヌッチェ)を取り付け、目開き8μmのろ紙(規格5A、ADVANTEC社製)を使用して試料液に対し吸引ろ過を行い、更に600mLの純水で水洗し、125℃で8時間かけて静置乾燥を行い、これにより湿式法シリカ(沈澱法シリカ)を得た。
【0095】
●湿式法シリカの白色度
得られた湿式法シリカ粉末を乳鉢にて3分程度軽く再粉砕したのち、植物灰の白色度測定の場合と同一の方法で湿式法シリカの白色度を測定した。湿式法シリカの白色度が85以上である場合、高機能湿式法シリカとしての品質を満足するため、その原料であるケイ酸アルカリ水溶液をGOOD評価とし、湿式法シリカの白色度が85未満である場合、湿式法シリカは着色品(変色品)と判断し、その原料であるケイ酸アルカリ水溶液をNG評価とした。
【0096】
●湿式法シリカのBET比表面積(参考値)
全自動比表面積測定装置(型式:Macsorb HMmodel-1210、マウンテック社製)を用いて1点法で、湿式法シリカ粉末のBET比表面積を測定した。
【0097】
●湿式法シリカ中の炭素量(参考値)
植物灰の炭素量測定の場合と同一の方法で湿式法シリカ中の炭素量を測定した。
【0098】
実施例1~実施例3、比較例1~比較例3および参考例1の分析結果を下記表2に示す。
【表2】
【0099】
<ろ過、吸着処理を行ったケイ酸アルカリ水溶液、砂由来のケイ酸アルカリ水溶液を混合した場合の実施例および比較例>
以下で説明するように、ケイ酸アルカリaおよびケイ酸アルカリbに対しろ過および吸着処理の一方または両方を実施して、湿式法シリカの品質に与える影響を評価した(ケイ酸アルカリ水溶液の実施例4および実施例5ならびに比較例4)。さらに、植物灰由来のケイ酸アルカリ水溶液と砂由来のケイ酸アルカリ水溶液とを混合した場合の品質確認を行った(ケイ酸アルカリ水溶液の実施例6~実施例8)。
【0100】
<比較例4>
容量3Lの吸引ろ過瓶に110mmΦの磁性ブフナー漏斗(ヌッチェ)を取り付け、ろ紙(目開き1μm、規格5C、ADVANTEC社製)を使用してケイ酸アルカリa(約2,000g)に対し吸引しながらろ過のみを行った。以下、上記ろ紙によるろ過を「5Cろ過」と称する。つまり、比較例4では、比較例1のケイ酸アルカリaに5Cろ過を実施して、ケイ酸アルカリ水溶液中に存在する固形異物を除去した。さらに、5Cろ過後のケイ酸アルカリaを原料として湿式法シリカを製造し、その品質を分析した。
【0101】
<実施例4>
ケイ酸アルカリa(約2,000g)に対し市販の粉末活性炭を20g投入し、24時間静して試料中の成分の吸着処理を実施した。その後、容量3Lの吸引ろ過瓶に150mmΦの磁性ブフナー漏斗(ヌッチェ)を取り付け、試料に対し5Cろ過を行った。つまり、実施例4では、比較例1のケイ酸アルカリaに吸着処理を実施して水溶液中の不純物を吸着除去し、かつ5Cろ過を実施してケイ酸アルカリ水溶液中に存在する固形異物を除去した。さらに、5Cろ過後のケイ酸アルカリaを原料として湿式法シリカを製造し、その品質を分析した。
【0102】
<実施例5>
容量3Lの吸引ろ過瓶に110mmΦの磁性ブフナー漏斗(ヌッチェ)を取り付け、ケイ酸アルカリb(約2,000g)に対し5Cろ過を行った。さらに、5Cろ過後のケイ酸アルカリbを原料として湿式法シリカを製造し、その品質を分析した。
【0103】
<実施例6~実施例8>
実施例5で得た5Cろ過後のケイ酸アルカリ水溶液と、参考例1のケイ酸アルカリ水溶液とを4:6(実施例6:植物灰由来の水溶液が40質量%。以下同様)、6:4(実施例7)および8:2(実施例8)でそれぞれ混合したケイ酸アルカリ水溶液を製造した。さらに、それらのケイ酸アルカリ水溶液を原料として湿式法シリカを製造し、その品質を分析した。
【0104】
比較例4および実施例4~実施例8の分析結果を下記表3に示す。
【表3】
【0105】
<結果の説明>
表1に示す植物灰b~植物灰dの結果から、予備燃焼を行い、植物材料を充分に燃焼させることにより、植物灰中の不燃焼による炭素含有不純物が減少することが分かる。これに対し、植物灰aおよび植物灰eの結果から、燃焼温度が不充分であることにより、炭素含有不純物が多く残留することが分かる。また、植物灰fの結果から、予備燃焼なしに高温で燃焼する場合にも、炭素含有不純物が多く残留することが分かる。これは、高温燃焼により植物材料の表面がガラス化してしまい、酸素が充分に供給されない等の理由で材料内部では不燃焼状態になるためと考えられる。
【0106】
表2に示す実施例1~実施例3の結果から、予備燃焼を行い、試料を充分に燃焼させ植物灰を使用してケイ酸アルカリ水溶液を製造した場合、ケイ酸アルカリ水溶液をろ過および吸着処理に供さずとも、ろ過残渣が少なくかつ透過率が高いことから、ケイ酸アルカリ水溶液中の不溶性異物や水溶性炭素化合物の量は少ないことが分かる。さらに、そのような植物灰を原料として湿式法シリカを製造した場合、湿式法シリカ中の不純物も減少し、充分な白色度の湿式法シリカが得られることが分かる。これに対し、比較例1、比較例2および比較例3の結果から、燃焼温度が不充分である植物灰および単に高温燃焼しただけの植物灰を使用してケイ酸アルカリ水溶液を製造した場合、炭素含有不純物が多く残留することが分かる。さらに、そのような植物灰を原料として湿式法シリカを製造した場合、湿式法シリカ中の不純物も増加し、充分な白色度の湿式法シリカが得られないことが分かる。
【0107】
表3に示す比較例4、実施例4および実施例5の結果から、ケイ酸アルカリ水溶液に、ろ過および吸着処理の一方または両方を実施することにより、ケイ酸アルカリ水溶液の品質が飛躍的に向上することが分かる。
【0108】
特に、比較例1、比較例4、実施例4の比較から、品質が不充分なケイ酸アルカリ水溶液に吸着処理およびろ過を実施することにより、その品質を、白色度90超の湿式法シリカの製造を可能にする程度まで改善できることが分かる。
【0109】
図2に、比較例1、比較例4、実施例4におけるケイ酸アルカリ水溶液の透過率スペクトル(波長200nm~800nm)を示す。波長500nmにおける透過率(%T)が高いほど、透明性が高いことを示している。比較例1のケイ酸アルカリa(500℃で燃焼した植物灰a、一次処理を行ったのみ)の波長500nmにおける透過率は4.4%であり、ケイ酸アルカリaを原料として製造した沈澱法シリカの白色度は58であった。ケイ酸アルカリaに5Cろ過を実施した比較例4では、ケイ酸アルカリ水溶液中に溶解した着色成分が残留しているものの、波長500nmにおける透過率は32.8%まで改善した。比較例4のケイ酸アルカリ水溶液を原料とする湿式法シリカの白色度も75まで改善したが、湿式法シリカの品質としては不充分であった。これに対し、ケイ酸アルカリaに上記吸着処理と5Cろ過を実施した実施例4では、波長500nmにおける透過率は94.5%まで向上し、かつ湿式法シリカの白色度も94まで向上し、充分な品質を有する湿式法シリカが得られた。
【0110】
図3に、実施例1、実施例5、参考例1におけるケイ酸アルカリ水溶液の透過率スペクトル(波長200nm~800nm)を示す。実施例1は、最終温度600℃で燃焼した植物灰bを使用してケイ酸アルカリbを製造し、その後、それを原料として湿式法シリカを製造した場合である。実施例5は、ケイ酸アルカリbに5Cろ過を実施し、その後、それを原料として湿式法シリカを製造した場合である。参考例1は、珪砂由来のケイ酸アルカリ水溶液を使用して湿式法シリカを製造した場合である。
【0111】
ケイ酸アルカリbでは、固形異物であるろ過残渣が0.41質量%あるものの、ケイ酸アルカリ水溶液に溶解した着色成分は肉眼ではほとんど確認できない状態であり、波長500nmにおける透過率は65.7%であった。ケイ酸アルカリbを原料として製造した湿式法シリカの白色度は85であり、高機能性湿式法シリカとして充分な白色度であった。ケイ酸アルカリbに5Cろ過を実施した実施例5では、波長500nmにおける透過率は94.4%まで改善し、沈澱法シリカの白色度も91まで向上した。砂由来のケイ酸アルカリ水溶液を原料として製造した湿式法シリカの白色度に匹敵する品質であった。
【0112】
植物灰由来のケイ酸アルカリ水溶液の品質は、参考例1のような砂由来のケイ酸アルカリ水溶液の品質に及ばない場合もある。このような場合には、必要に応じて、砂由来のケイ酸アルカリ水溶液と混合して使用することで、植物灰由来のケイ酸アルカリ水溶液の品質を更に向上させることも可能である(実施例6~実施例8)。
【0113】
図4に、比較例3におけるケイ酸アルカリ水溶液の透過率スペクトル(波長200nm~800nm)を示す。特許文献1に記載の方法に従って製造した植物灰f由来のケイ酸アルカリ水溶液では、波長500nmにおける透過率は55.4%であり、それを原料として製造した湿式法シリカの白色度は73であり、充分な白色度の湿式法シリカは得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明のケイ酸アルカリ水溶液を原料として合成した湿式法シリカは、工業用ゴムやタイヤ用では高い補強性を持つことが出来ることに加え、透明性や白色度を重視するシリコーンゴム用の補強充填剤、紙用充填剤(裏抜け防止剤)、塗料の艶消し剤や歯磨き用などの研磨剤、フィルムのアンチブロッキング剤などとして(従来の砂由来のケイ酸アルカリ水溶液と同様の)利用が可能であるため、環境に配慮したケイ酸アルカリ水溶液として有用である。
図1
図2
図3
図4