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特許7607013荷電粒子光学系の調整方法および荷電粒子線装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】荷電粒子光学系の調整方法および荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/153 20060101AFI20241219BHJP
   H01J 37/28 20060101ALN20241219BHJP
【FI】
H01J37/153 A
H01J37/28 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022174717
(22)【出願日】2022-10-31
(65)【公開番号】P2024065714
(43)【公開日】2024-05-15
【審査請求日】2023-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】森下 茂幸
(72)【発明者】
【氏名】河野 祐二
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-220413(JP,A)
【文献】特開2009-054565(JP,A)
【文献】国際公開第2012/014870(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0365442(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0032709(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0112873(US,A1)
【文献】MCAULIFFE T P ET AL,4D-STEM elastic stress state characterisation of a TWIP steel nanotwin,ARXIV.ORG,2004.03982,米国,CORNELL UNIVERSITY LIBRARY,2020年04月,Page 2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多極子と転送光学系が交互に配置され、3段以上の前記多極子を有する収差補正装置を含む荷電粒子光学系を備えた荷電粒子線装置における荷電粒子光学系の調整方法であって、
少なくとも1つの前記多極子を使用せずに、少なくとも2つの前記多極子を使用して収差を調整し、
使用した前記多極子の間に配置されていない前記転送光学系を用いて収差以外の前記荷電粒子光学系のパラメータを調整する、荷電粒子光学系の調整方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記荷電粒子光学系は、試料に荷電粒子線を照射するための照射光学系を含み、
前記照射光学系は、前記収差補正装置を含み、
前記収差補正装置において、前記多極子が3段配置され、前記転送光学系が3段配置され、
1段目の前記多極子を使用せずに、2段目の前記多極子および3段目の前記多極子を使用して収差を調整し、
1段目の前記転送光学系を用いて、収差以外の前記荷電粒子光学系のパラメータを調整する、荷電粒子光学系の調整方法。
【請求項3】
請求項2において、
1段目の前記転送光学系を用いて、荷電粒子線の収束角の調整、コンデンサー絞りの逆空間へのフォーカス合わせ、およびクロスオーバーの位置の調整のうちの少なくとも1つを行う、荷電粒子光学系の調整方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記荷電粒子光学系は、試料に荷電粒子線を照射するための照射光学系を含み、
前記照射光学系は、前記収差補正装置を含み、
前記収差補正装置において、前記多極子が3段配置され、前記転送光学系が3段配置され、
3段目の前記多極子を使用せずに、1段目の前記多極子および2段目の前記多極子を使用して収差を調整し、
3段目の前記転送光学系を用いて、収差以外の前記荷電粒子光学系のパラメータを調整する、荷電粒子光学系の調整方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記荷電粒子光学系は、試料を透過した荷電粒子を結像させるための結像光学系を含み、
前記結像光学系は、前記収差補正装置を含み、
前記収差補正装置において、前記多極子が3段配置され、前記転送光学系が3段配置され、
1段目の前記多極子を使用せずに、2段目の前記多極子および3段目の前記多極子を使用して収差を調整し、
1段目の前記転送光学系を用いて、収差以外の前記荷電粒子光学系のパラメータを調整する、荷電粒子光学系の調整方法。
【請求項6】
請求項1において、
前記荷電粒子光学系は、試料を透過した荷電粒子を結像させるための結像光学系を含み、
前記結像光学系は、前記収差補正装置を含み、
前記収差補正装置において、前記多極子が3段配置され、前記転送光学系が3段配置され、
3段目の前記多極子を使用せずに、1段目の前記多極子および2段目の前記多極子を使用して収差を調整し、
3段目の前記転送光学系を用いて、収差以外の前記荷電粒子光学系のパラメータを調整する、荷電粒子光学系の調整方法。
【請求項7】
多極子と転送光学系が交互に配置され、3段以上の前記多極子を有する収差補正装置を含む荷電粒子光学系を含み、
前記収差補正装置の全部の前記多極子を用いて収差が調整される第1モードと、
少なくとも1つの前記多極子を使用せずに、少なくとも2つの前記多極子を使用して収差が調整され、使用した前記多極子の間に配置されていない前記転送光学系を用いて収差以外の前記荷電粒子光学系のパラメータが調整される第2モードと、
を備える、荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記荷電粒子光学系は、試料に荷電粒子線を照射するための照射光学系を含み、
前記照射光学系は、前記収差補正装置を含み、
前記収差補正装置において、前記多極子が3段配置され、前記転送光学系が3段配置され、
前記第2モードでは、
1段目の前記多極子を使用せずに、2段目の前記多極子および3段目の前記多極子を使用して収差が調整され、
1段目の前記転送光学系を用いて、収差以外の前記荷電粒子光学系のパラメータが調整される、荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項7において、
前記荷電粒子光学系は、試料に荷電粒子線を照射するための照射光学系を含み、
前記照射光学系は、前記収差補正装置を含み、
前記収差補正装置において、前記多極子が3段配置され、前記転送光学系が3段配置され、
前記第2モードでは、
3段目の前記多極子を使用せずに、1段目の前記多極子および2段目の前記多極子を使用して収差が調整され、
3段目の前記転送光学系を用いて、収差以外の前記荷電粒子光学系のパラメータが調整される、荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項7において、
前記荷電粒子光学系は、試料を透過した荷電粒子を結像させるための結像光学系を含み、
前記結像光学系は、前記収差補正装置を含み、
前記収差補正装置において、前記多極子が3段配置され、前記転送光学系が3段配置され、
前記第2モードでは、
1段目の前記多極子を使用せずに、2段目の前記多極子および3段目の前記多極子を使用して収差が調整され、
1段目の前記転送光学系を用いて、収差以外の前記荷電粒子光学系のパラメータが調整される、荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項7において、
前記荷電粒子光学系は、試料を透過した荷電粒子を結像させるための結像光学系を含み、
前記結像光学系は、前記収差補正装置を含み、
前記収差補正装置において、前記多極子が3段配置され、前記転送光学系が3段配置され、
前記第2モードでは、
3段目の前記多極子を使用せずに、1段目の前記多極子および2段目の前記多極子を使用して収差が調整され、
3段目の前記転送光学系を用いて、収差以外の前記荷電粒子光学系のパラメータが調整される、荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子光学系の調整方法および荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透過電子顕微鏡や、走査電子顕微鏡等の電子顕微鏡において、収差補正は、高分解能像を取得するうえで重要な技術である。
【0003】
例えば、特許文献1には、6極子を2段配置した2段6極子場型球面収差補正装置が開示されている。2段6極子場型球面収差補正装置では、対物レンズの正の球面収差を、6極子によって生じる負の球面収差で補正する。
【0004】
また、特許文献2には、6極子を3段配置した3段6極子場型球面収差補正装置が開示されている。3段6極子場型球面収差補正装置では、2段6極子場型球面収差補正装置では補正できない6回非点収差を補正できる。
【0005】
また、特許文献3には、6極子を4段配置した4段6極子場型球面収差補正装置が開示されている。4段6極子場型球面収差補正装置では、3段6極子場型球面収差補正装置では補正できない6次スリーローブ収差を補正できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-92078号公報
【文献】特開2009-054565号公報
【文献】特開2019-179650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電子顕微鏡では、手法に応じて電子光学系のパラメータを変更する。
【0008】
例えば、走査透過電子顕微鏡を用いて、試料の電磁場を可視化する手法として、微分位相コントラスト法(以下、DPC法ともいう)が知られている。DPC法では、試料中の電磁場による電子線の偏向量を測定し、電磁場を可視化する。DPC法では、電子線の収束角やクロスオーバー位置などの収差以外のパラメータを調整しなければならない。
【0009】
しかしながら、収差以外のパラメータを調整するために電子光学系にレンズを追加すると、装置が大型化してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る荷電粒子光学系の調整方法の一態様は、
多極子と転送光学系が交互に配置され、3段以上の前記多極子を有する収差補正装置を含む荷電粒子光学系を備えた荷電粒子線装置における荷電粒子光学系の調整方法であって、
少なくとも1つの前記多極子を使用せずに、少なくとも2つの前記多極子を使用して収差を調整し、
使用した前記多極子の間に配置されていない前記転送光学系を用いて収差以外の前記荷電粒子光学系のパラメータを調整する。
【0011】
このような荷電粒子光学系の調整方法では、収差補正装置を用いて収差以外のパラメータを調整できる。そのため、このような荷電粒子光学系の調整方法では、装置を大型化させることなく、荷電粒子光学系の調整の自由度を向上できる。
【0012】
本発明に係る荷電粒子線装置の一態様は、
多極子と転送光学系が交互に配置され、3段以上の前記多極子を有する収差補正装置を含む荷電粒子光学系を含み、
前記収差補正装置の全部の前記多極子を用いて収差が調整される第1モードと、
少なくとも1つの前記多極子を使用せずに、少なくとも2つの前記多極子を使用して収差が調整され、使用した前記多極子の間に配置されていない前記転送光学系を用いて収差以外の前記荷電粒子光学系のパラメータが調整される第2モードと、
を備える。
【0013】
このような荷電粒子線装置では、収差補正装置を用いて収差以外のパラメータを調整できる。そのため、このような荷電粒子線装置では、装置を大型化させることなく、荷電粒子光学系の調整の自由度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係る電子顕微鏡の構成を示す図。
図2】分割型検出器の検出面を模式的に示す図。
図3】照射光学系の構成を示す図。
図4】電子光学系の第1モードを説明するための図。
図5】電子光学系の第2モードを説明するための図。
図6】制御部における電子光学系の調整処理の一例を示すフローチャート。
図7】電子光学系の第2モードの変形例を説明するための図。
図8】第2実施形態に係る電子顕微鏡の構成を示す図。
図9】結像光学系の構成を示す図。
図10】電子光学系の第1モードを説明するための図。
図11】電子光学系の第2モードを説明するための図。
図12】第3実施形態に係る電子顕微鏡の収差補正装置の構成を示す図。
図13】4段の多極子の各々が発生させる3回非点収差を説明するための図。
図14】制御部における電子光学系の調整処理の一例を示すフローチャート。
図15】第4実施形態に係る電子顕微鏡の収差補正装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0016】
また、以下では、本発明に係る荷電粒子線装置として、電子線を試料に照射する電子顕微鏡を例に挙げて説明するが、本発明に係る荷電粒子線装置は電子線以外の荷電粒子線(イオンビーム等)を試料に照射する装置であってもよい。
【0017】
1. 第1実施形態
1.1. 電子顕微鏡
まず、第1実施形態に係る電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成を示す図である。
【0018】
電子顕微鏡100は、図1に示すように、電子源10と、照射光学系20および結像光学系40を含む電子光学系2と、試料ステージ30と、STEM検出器50と、分割型検
出器52と、制御部60と、を含む。電子顕微鏡100は、収差補正装置26が照射光学系20に組み込まれた走査透過電子顕微鏡(STEM)である。
【0019】
電子源10は、電子線を放出する。電子源10は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する電子銃である。
【0020】
電子光学系2は、照射光学系20および結像光学系40を含む。
【0021】
照射光学系20は、電子源10から放出された電子線を試料Sに照射する。照射光学系20は、例えば、電子源10から放出された電子線を収束させて電子プローブを形成し、形成した電子プローブで試料Sを走査する。
【0022】
結像光学系40は、試料Sを透過した電子を結像させる。結像光学系40によって、試料Sを透過した電子線がSTEM検出器50に導かれる。
【0023】
STEM検出器50は、試料Sを透過した電子を検出する。STEM検出器50は、例えば、試料Sで高角度に非弾性散乱された電子を円環状の検出器で検出する暗視野STEM検出器である。
【0024】
分割型検出器52は、試料Sを透過した電子を検出する検出面53が複数の検出領域に分割された検出器である。
【0025】
図2は、分割型検出器52の検出面53を模式的に示す図である。
【0026】
分割型検出器52の検出面53は、図2に示すように、複数の検出領域D1,D2,D3,D4に分割されている。分割型検出器52は、円環状の検出面53を角度方向(円周方向)に4等分することで形成された、4つの検出領域D1,D2,D3,D4を備えている。各検出領域D1,D2,D3,D4では、独立して電子を検出できる。
【0027】
なお、検出面53における検出領域の数は特に限定されない。図示はしないが、分割型検出器52は、検出面53がその動径方向および偏角方向(円周方向)に分割されることにより形成された、複数の検出領域を有していてもよい。例えば、分割型検出器52は、検出面53が動径方向に4つ、偏角方向に4つに分割されることにより形成された、16個の検出領域を有してもよい。
【0028】
分割型検出器52は、例えば、電子を光に変換する電子-光変換素子(シンチレーター)と、電子-光変換素子を複数の検出領域D1,D2,D3,D4に分割するとともに各検出領域D1,D2,D3,D4からの光を伝送する光伝送路(光ファイバー束)と、光伝送路から伝送された検出領域D1,D2,D3,D4ごとの光を電気信号に変換する複数の光検出器(光電子増倍管)と、を含む。分割型検出器52は、検出領域D1,D2,D3,D4ごとに、検出された電子の強度に応じた検出信号を出力する。なお、分割型検出器52は、複数の検出領域を有する半導体検出器であってもよい。
【0029】
試料ステージ30は、試料ホルダー32に保持された試料Sを支持する。試料ステージ30によって、試料Sを位置決めできる。
【0030】
制御部60は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)などの記憶装置(メモリ)と、を含む。記憶装置には、各種制御を行うためのプログラム、およびデータが記憶されている。制御部60の機能は、プロセッサでプログラムを実行することにより実現で
きる。制御部60は、電子顕微鏡100の各部を制御する。制御部60は、不図示の駆動回路を介して電子顕微鏡100の各部を制御する。
【0031】
図3は、照射光学系20の構成を示す図である。
【0032】
照射光学系20は、図3に示すように、コンデンサーレンズ21と、コンデンサーレンズ22と、コンデンサー絞り23と、偏向器24と、コンデンサーレンズ25と、収差補正装置26と、を含む。照射光学系20は、さらに、対物レンズが試料Sの前方につくる前方磁界28を含む。
【0033】
コンデンサーレンズ21、コンデンサーレンズ22、およびコンデンサーレンズ25は、電子源10側からこの順で配置されている。コンデンサー絞り23は、コンデンサーレンズ22内に配置されている。偏向器24は、コンデンサーレンズ22とコンデンサーレンズ25との間に配置されている。偏向器24によって電子線を偏向できる。
【0034】
収差補正装置26は、コンデンサーレンズ25と対物レンズの前方磁界28との間に配置されている。
【0035】
収差補正装置26は、照射光学系20に組み込まれている。収差補正装置26は、照射光学系20の球面収差を補正する球面収差補正装置である。収差補正装置26は、第1多極子260aと、第2多極子260bと、第3多極子260cと、第1転送光学系262aと、第2転送光学系262bと、第3転送光学系262cと、を含む。収差補正装置26は、多極子と転送光学系が交互に配置され、3段の多極子および3段の転送光学系を有する3段6極子場型球面収差補正装置である。
【0036】
第1多極子260a、第2多極子260b、および第3多極子260cは、光軸OAに沿って配置されている。収差補正装置26では、電子線の進行方向に、第1多極子260a、第2多極子260b、第3多極子260cの順で配置されている。
【0037】
第1多極子260aは、磁場6極子場を発生させる。磁場6極子場は、3回対称の磁場である。第1多極子260aは、例えば、6極子、または12極子である。なお、第1多極子260aは、6極子場を発生させることができれば、6極子や12極子に限定されない。
【0038】
第2多極子260bは、第1多極子260aと同様の構成を有している。すなわち、第2多極子260bは、例えば、6極子、または12極子であり、6極子場を発生させる。
【0039】
第3多極子260cは、第1多極子260aと同様の構成を有している。すなわち、第3多極子260cは、例えば、6極子、または12極子であり、6極子場を発生させる。
【0040】
第1転送光学系262aは、第1多極子260aと第2多極子260bとの間に配置されている。第1転送光学系262aは、第1多極子260aの光学主面(多極子面)を第2多極子260bの光学主面に転送する。第1転送光学系262aは、第1多極子260aで得られた像と等価な像を第2多極子260bに転送する。第1転送光学系262aは、例えば、複数の電子レンズで構成され、図示の例では、2つの電子レンズで構成されている。
【0041】
第2転送光学系262bは、第2多極子260bと第3多極子260cとの間に配置されている。第2転送光学系262bは、第2多極子260bの光学主面を第3多極子260cの光学主面に転送する。第2転送光学系262bは、第2多極子260bで得られた
像と等価な像を第3多極子260cに転送する。第2転送光学系262bは、例えば、複数の電子レンズで構成され、図示の例では、2つの電子レンズで構成されている。
【0042】
第3転送光学系262cは、第3多極子260cと対物レンズの前方磁界28との間に配置されている。第3転送光学系262cは、第2多極子260bの光学主面を対物レンズの前焦点面に転送する。第3転送光学系262cは、第3多極子260cで得られた像と等価な像を対物レンズの前焦点面に転送する。第3転送光学系262cは、例えば、複数の電子レンズで構成され、図示の例では、2つの電子レンズで構成されている。
【0043】
第1多極子260aは、電子線の進行方向に対して厚みを有している。すなわち、第1多極子260aは、光軸OAに沿った厚みを有している。第1多極子260aは、厚みのある6極子場における3回非点と3回非点のコンビネーション収差(combination aberration)として負の球面収差を発生させる。
【0044】
ここで、コンビネーション収差とは、ある場所で発生した収差(収差1)がある距離伝搬することにより入射点が変わり、別の収差(収差2)の影響を受けたとき、収差1と収差2の組み合わせにより生まれる組み合わせ収差のことである。
【0045】
同様に、第2多極子260bは、光軸OAに沿った厚みを有しており、厚みのある6極子場における3回非点と3回非点のコンビネーション収差として負の球面収差を発生させる。同様に、第3多極子260cは、光軸OAに沿った厚みを有しており、厚みのある6極子場における3回非点と3回非点のコンビネーション収差として負の球面収差を発生させる。
【0046】
収差補正装置26では、第1多極子260a、第2多極子260b、および第3多極子260cの各々が負の球面収差を発生させ、照射光学系20の正の球面収差を打ち消す。これにより、照射光学系20の球面収差を補正できる。
【0047】
さらに、収差補正装置26では、第1多極子260aが発生させる6極子場に由来する6回非点収差、第2多極子260bが発生させる6極子場に由来する6回非点収差、および第3多極子260cが発生させる6極子場に由来する6回非点収差を、これら3つの6極子場を相対的に特定角度に設定することによって、打ち消す。
【0048】
例えば、第2多極子260bが発生させる6極子場は、第1多極子260aが発生させる6極子場に対して光軸OAを中心として時計回りに40°回転している。また、第3多極子260cが発生させる6極子場は、第1多極子260aが発生させる6極子場に対して光軸OAを中心として時計回りに80°回転している。これにより、3段の6極子場の各々が発生させる6回非点収差を打ち消すことができる。
【0049】
なお、6回非点収差を打つ消すための3段の6極子場の回転角度の関係は、上記の例に限定されない。6回非点収差を打つ消すための3段の6極子場の回転角度の関係は、例えば、特開2009-054565号公報に記載されている。
【0050】
なお、図示はしないが、照射光学系20は、電子線を2次元的に偏向する走査偏向器を含んでいる。走査偏向器によって、電子線で試料Sを走査できる。
【0051】
電子顕微鏡100では、電子源10から放出された電子線は、照射光学系20によって集束され電子プローブを形成する。電子プローブは、照射光学系20によって2次元的に偏向される。これにより、電子プローブで試料Sを走査できる。試料Sを透過した電子線は、結像光学系40によってSTEM検出器50に導かれ、STEM検出器50で検出さ
れる。例えば、電子プローブによる走査と同期して、試料Sを透過した電子をSTEM検出器50で検出することで、走査透過電子顕微鏡像(STEM像)を取得できる。照射光学系20には収差補正装置26が組み込まれているため、高分解能のSTEM像を取得できる。
【0052】
また、電子顕微鏡100では、微分位相コントラスト法(DPC法)により、微分位相コントラスト像(DPC像)を取得できる。例えば、電子顕微鏡100は、電子線で試料Sを走査して試料S中の電磁場による電子線の偏向を各点で計測し、電磁場を可視化する。試料S中の電磁場による電子線の偏向は、分割型検出器52を用いて検出できる。例えば、検出領域D1の検出信号I1と検出領域D3の検出信号I3の差I1-I3、および検出領域D2の検出信号I2と検出領域D4の検出信号I4の差I2-I4から、試料Sの電磁場による電子線の偏向量および偏向方向を求めることができる。DPC像は、DPC法で取得された試料中の電磁場を可視化した走査透過電子顕微鏡像(STEM像)である。
【0053】
1.2. 動作
1.2.1. 動作モード
電子顕微鏡100では、電子光学系2は、収差補正装置26を3段6極子場型球面収差補正装置として動作させる第1モードと、収差補正装置26を2段6極子場型球面収差補正装置として動作させる第2モードと、を備えている。第1モードは、高分解能のSTEM像を取得するために適したモードである。第2モードは、DPC像を取得するために適したモードである。制御部60は、ユーザーの指示に応じて、電子光学系2を第1モードで動作させたり、第2モードで動作させたりする。
【0054】
1.2.2. 第1モード
図4は、電子光学系2の第1モードを説明するための図である。図4には、第1モードにおける電子線の経路の一例を示している。
【0055】
第1モードでは、電子線を大きく収束させて、収束角の大きい電子線で電子プローブを形成できる。これにより、微小で高強度の電子プローブを得ることができ、高分解能のSTEM像を取得できる。
【0056】
例えば、図4に示すように、コンデンサー絞り23と収差補正装置26との間に配置されたコンデンサーレンズ22およびコンデンサーレンズ25を用いて電子線の収束角を調整する。さらに、コンデンサーレンズ22およびコンデンサーレンズ25を用いて試料面へのフォーカスを調整する。すなわち、コンデンサーレンズ22およびコンデンサーレンズ25を用いて電子線を試料面にフォーカスさせる。
【0057】
また、収差補正装置26を3段6極子場型球面収差補正装置として用いて球面収差および6回非点収差を補正する。すなわち、第1多極子260a、第2多極子260b、および第3多極子260cを励磁する。収差補正装置26によって照射光学系20の収差を補正することにより、微小で高強度の電子プローブを得ることができる。
【0058】
1.2.3. 第2モード
図5は、電子光学系2の第2モードを説明するための図である。図5には、第2モードでの電子線の経路の一例を示している。
【0059】
DPC像を取得するためには、電子線の収束角の調整および試料面へのフォーカスの調整に加えて、コンデンサー絞り23の逆空間へのフォーカス合わせおよびクロスオーバーの位置の調整が必要となる場合がある。DPC像を取得する際には、例えば、コンデンサ
ー絞り23を逆空間(焦点面)にフォーカスさせる。また、DPC像を取得する際には、例えば、偏向器24の位置にクロスオーバーの位置を合わせる。
【0060】
しかしながら、図4に示す第1モードでは、コンデンサーレンズ22およびコンデンサーレンズ25を用いて電子線の収束角の調整および試料面へのフォーカスの調整を行っているため、コンデンサー絞り23の逆空間へのフォーカス合わせおよびクロスオーバーの位置の調整ができない。このように、第1モードでは、照射光学系20の調整の自由度が不足している。
【0061】
したがって、第2モードでは、収差補正装置26の第1多極子260aを励磁せずに、第2多極子260bおよび第3多極子260cを励磁して収差を補正する。このとき、第2多極子260bと第3多極子260cとの間に配置されていない第1転送光学系262aを用いて、コンデンサー絞り23の逆空間へのフォーカス合わせおよびクロスオーバーの位置の調整を行う。
【0062】
第2モードでは、収差補正装置26は、2段6極子場型球面収差補正装置として機能する。例えば、2段目の第3多極子260cは、1段目の第2多極子260bが発生させる6極子場とは極性が逆の6極子場を発生させる。第2転送光学系262bは、第2多極子260bの光学主面を第3多極子260cの光学主面に転送する。第3転送光学系262cは、第2多極子260bの光学主面を対物レンズの前焦点面に転送する。
【0063】
2段6極子場型球面収差補正装置として機能する収差補正装置26では、1段目の第2多極子260bおよび2段目の第3多極子260cの各々が負の球面収差を発生させ、照射光学系20の正の球面収差を打ち消す。これにより、照射光学系20の球面収差を補正できる。
【0064】
また、2段目の第3多極子260cは、1段目の第2多極子260bが発生させる6極子場とは極性が逆の6極子場を発生させるため、2段目の6極子場では、1段目の6極子場で発生した3回非点とは逆向きの3回非点が発生する。これにより、1段目の6極子場で発生した3回非点と2段目の6極子場で発生した3極子場を打ち消すことができる。
【0065】
なお、2段6極子場型球面収差補正装置では、3段6極子場型球面収差補正装置では打つ消すことができた6回非点収差が残る。
【0066】
第2モードでは、上記のように第1多極子260aを使用しないため、第1転送光学系262aを収差補正以外の目的で使用できる。すなわち、コンデンサーレンズ22およびコンデンサーレンズ25に加えて、第1転送光学系262aを構成する2つの電子レンズを収差補正以外の目的で使用できる。第2モードでは、例えば、第1転送光学系262aを構成する2つの電子レンズを転送光学系として機能させずに、コンデンサー絞り23の逆空間へのフォーカス合わせおよびクロスオーバーの位置の調整に用いることができる。
【0067】
したがって、第2モードでは、コンデンサーレンズ22およびコンデンサーレンズ25を用いて電子線の収束角の調整および試料面へのフォーカスの調整を行うことができ、かつ、第1転送光学系262aを構成する2つの電子レンズを用いてコンデンサー絞り23の逆空間へのフォーカス合わせおよびクロスオーバーの位置の調整を行うことができる。
【0068】
この結果、第2モードでは、収差を補正した状態で収束角を小さくすることができ、DPC法において試料構造に対応したコントラストを強めることができる。
【0069】
1.3. 電子光学系の調整方法
図6は、制御部60における電子光学系2の調整処理の一例を示すフローチャートである。
【0070】
制御部60は、動作モードの選択を受け付ける(S100)。例えば、ユーザーが第1モードまたは第2モードのいずれかを選択すると、制御部60は、この動作モードの選択を受け付ける。動作モードの選択は、ボタンや、マウス、キーなどの入力機器の操作、GUI(Graphical User Interface)における操作などによって行われる。
【0071】
制御部60は、第1モードが選択された場合(S102のM1)、収差補正装置26の第1多極子260a、第2多極子260b、および第3多極子260cを励磁し、収差補正装置26を3段6極子場型球面収差補正装置として動作させる(S104)。これにより、照射光学系20の球面収差を補正しつつ、収差補正装置26が発生させる6極子場に起因する6回非点収差を補正できる。
【0072】
制御部60は、収差以外の電子光学系2のパラメータを調整する(S106)。
【0073】
制御部60は、例えば、コンデンサーレンズ22およびコンデンサーレンズ25を用いて、電子線の収束角および電子線の試料面へのフォーカスを調整する。制御部60は、例えば、あらかじめ設定された収束角となるようにコンデンサーレンズ22およびコンデンサーレンズ25を動作させる。また、制御部60は、電子線が試料面にフォーカスするようにコンデンサーレンズ22およびコンデンサーレンズ25を動作させる。フォーカスの調整は、例えば、周知のオートフォーカス機能を用いて行われる。
【0074】
以上の処理により、電子光学系2を第1モードで動作できる。電子光学系2を第1モードで動作させることによって、微小で高強度の電子プローブを得ることができ、高分解能のSTEM像を取得できる。
【0075】
制御部60は、第2モードが選択された場合(S102のM2)、収差補正装置26の第1多極子260aの励磁をゼロとし、第2多極子260bおよび第3多極子260cを励磁し、収差補正装置26を2段6極子場型球面収差補正装置として動作させる(S108)。
【0076】
制御部60は、収差以外の電子光学系2のパラメータを調整する(S110)。
【0077】
制御部60は、コンデンサーレンズ22およびコンデンサーレンズ25を用いて、電子線の収束角および電子線の試料面へのフォーカスを調整する。
【0078】
また、制御部60は、収差補正装置26の第1転送光学系262aを構成する2つの電子レンズを用いて、コンデンサー絞り23の逆空間へのフォーカス合わせおよびクロスオーバーの位置の調整を行う。制御部60は、例えば、コンデンサー絞り23の像を取得して、コンデンサー絞り23が逆空間にフォーカスされるように第1転送光学系262aを動作させる。制御部60は、例えば、クロスオーバーの位置が偏向器24の位置に合うように、第1転送光学系262aを構成する2つの電子レンズを動作させる。
【0079】
以上の処理により、電子光学系2を第2モードで動作できる。電子光学系2を第2モードで動作させることによって、例えば、DPC法によりDPC像を取得できる。
【0080】
なお、上記では、制御部60が電子光学系2の調整を行う場合について説明したが、電子光学系2の調整をユーザーが手動で行ってもよい。
【0081】
1.4. 効果
電子顕微鏡100における電子光学系2の調整方法では、第1多極子260aを使用せずに、第2多極子260bおよび第3多極子260cを使用して収差を調整し、使用した第2多極子260bおよび第3多極子260cの間に配置されていない第1転送光学系262aを用いて収差以外の電子光学系2のパラメータを調整する。そのため、電子光学系2の調整方法では、収差補正装置26を用いて収差以外のパラメータを調整できる。したがって、装置を大型化させることなく、電子光学系2の調整の自由度を向上できる。
【0082】
例えば、図4に示す第1モードでは、収差補正以外のパラメータの調整に用いることができるレンズがコンデンサーレンズ22およびコンデンサーレンズ25の2つである。そのため、電子線の収束角、試料面へのフォーカス、コンデンサー絞り23の逆空間へのフォーカス、およびクロスオーバーの位置を調整する場合、第1モードでは電子光学系2の調整の自由度が不足している。
【0083】
また、電子光学系2の調整の自由度を向上させるために、レンズを追加すると、装置の高さが大きくなり、装置が大型化してしまう。また、装置の部品点数が多くなり、装置が高価になってしまう。
【0084】
これに対して、第2モードでは、収差補正装置26の1つの多極子を使用せずに、使用した2つの多極子の間に配置されていない転送光学系を用いて、電子光学系2の収差以外のパラメータを調整できる。そのため、装置を大型化させることなく、電子光学系2の調整の自由度を向上できる。第2モードでは、コンデンサーレンズ22、コンデンサーレンズ25、および第1転送光学系262aを構成する2つの電子レンズを用いて、電子線の収束角、試料面へのフォーカス、コンデンサー絞り23の逆空間へのフォーカス、およびクロスオーバーの位置を調整できる。なお、DPC法では、高分解能のSTEM像を得る場合ほどの分解能は要求されないため、2段6極子場型球面収差補正装置でも良好なDPC像を得ることができる。
【0085】
電子顕微鏡100における電子光学系2の調整方法では、第2モードにおいて、第1転送光学系262aを用いて、電子線の収束角の調整、コンデンサー絞り23の逆空間へのフォーカス合わせ、およびクロスオーバーの位置の調整のうちの少なくとも1つを行う。そのため、電子顕微鏡100では、装置を大型化させることなく、これらのパラメータを調整できる。
【0086】
電子顕微鏡100では、収差補正装置26の全部の多極子を用いて収差が調整される第1モードと、第1多極子260aを使用せずに、第2多極子260bおよび第3多極子260cを使用して収差が調整され、使用した第2多極子260bと第3多極子260cとの間に配置されていない第1転送光学系262aを用いて収差以外の電子光学系2のパラメータが調整される第2モードと、を備える。そのため、電子顕微鏡100では、第1モードを用いて高分解能のSTEM像を取得でき、第2モードを用いてDPC像を取得できる。また、電子顕微鏡100では、装置を大型化させることなく、電子光学系2の調整の自由度を向上できる。
【0087】
1.5. 変形例
図7は、電子光学系2の第2モードの変形例を説明するための図である。
【0088】
上述した図5に示す第2モードでは、1段目の第1多極子260aを励磁せずに、2段目の第2多極子260bおよび3段目の第3多極子260cを励磁して収差を調整し、第1転送光学系262aを用いて収差以外のパラメータを調整した。これに対して、図7に示す第2モードでは、3段目の第3多極子260cを励磁せずに、1段目の第1多極子2
60aおよび2段目の第2多極子260bを励磁して収差を調整し、第3転送光学系262cを用いて収差以外のパラメータを調整する。
【0089】
図7に示す第3多極子260cを励磁しない第2モードは、図5に示す第1多極子260aを励磁しない第2モードに比べて、電子線の収束角を極端に小さくする場合に適している。図7に示す第3多極子260cを励磁しない第2モードは、例えば、極微電子回折に適している。極微電子回折は、平行に近い入射電子線をナノメートルオーダーの微小領域に照射し、比較的シャープな回折図形を得て、結晶構造の定性解析や定量解析をする手法である。
【0090】
ここで、収束角を極端に小さくした場合、対物レンズの球面収差よりも電子源10(電子銃)の球面収差の方が支配的になる場合がある。この場合、第3多極子260cを励磁しない第2モードでは、コンデンサーレンズ21、コンデンサーレンズ22、およびコンデンサーレンズ25を用いて電子源10と収差補正装置26との間の縮小率を制御して、電子源10の球面収差を補正できる。さらに、第3転送光学系262cを用いて縮小率を小さくできる。この結果、電子源10の球面収差を補正できる。
【0091】
第1変形例では、電子光学系2は、図4に示す第1モード、図5に示す第1多極子260aを励磁しない第2モードに加えて、図7に示す第3多極子260cを励磁しない第2モードを備えている。制御部60は、この3つの動作モードの選択を受け付けて、選択された動作モードとなるように電子光学系2を制御する。
【0092】
このように電子顕微鏡100では、3段の多極子を有する収差補正装置26を含み、1つの多極子を使用せずに、2つの多極子を使用して収差を調整し、励磁した多極子の間に配置されていない転送光学系を用いて収差以外の電子光学系2のパラメータを調整する。したがって、電子顕微鏡100では、装置を大型化させることなく、電子光学系2の調整の自由度を向上できる。
【0093】
電子顕微鏡100における調整方法では、収差補正装置26では、3段目の第3多極子260cを励磁せずに、1段目の第1多極子260aおよび2段目の第2多極子260bを励磁して収差を調整し、3段目の第3転送光学系262cを用いて収差以外の電子光学系2のパラメータを調整する。そのため、装置を大型化させることなく、電子光学系2の調整の自由度を向上できる。
【0094】
2. 第2実施形態
2.1. 電子顕微鏡
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡について、図面を参照しながら説明する。図8は、第2実施形態に係る電子顕微鏡200の構成を示す図である。以下、第2実施形態に係る電子顕微鏡200において、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0095】
上述した図1に示す電子顕微鏡100は、収差補正装置26が照射光学系20に組み込まれた走査透過電子顕微鏡(STEM)であったが、図8に示す電子顕微鏡200は、収差補正装置42が結像光学系40に組み込まれた透過電子顕微鏡(TEM)である。
【0096】
電子顕微鏡200は、図8に示すように、電子源10と、照射光学系20および結像光学系40を含む電子光学系2と、試料ステージ30と、検出器54と、制御部60と、を含む。
【0097】
結像光学系40は、収差補正装置42と、バイプリズム44と、を含む。
【0098】
収差補正装置42は、結像光学系40の収差を補正する。収差補正装置42の詳細については後述する。
【0099】
バイプリズム44は、電子線ホログラムを得るために用いられる電子波の干渉計である。バイプリズム44は、電子線に対して垂直に配置される糸状の電極と、糸状の電極の両側に配置された接地電極と、を含む。糸状の電極には正の電圧を印加し、その一方の側を試料Sを透過した散乱波(物体波)が通るようにし、他方の側を電子源10から直接やってくる波(参照波)が通るように設置する。二つの波は正電極に引き寄せるように偏向され重なることによって干渉縞(ホログラム)を形成する。このホログラムの中に試料Sによる振幅と位相変化の情報が含まれている。
【0100】
検出器54は、試料Sを透過した電子を検出する。検出器54は、結像光学系40によって結像された像を撮影する撮像装置である。検出器54は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)カメラ等のデジタルカメラである。
【0101】
図9は、電子顕微鏡200の結像光学系40の構成を示す図である。
【0102】
結像光学系40は、図9に示すように、対物レンズが試料Sの後方につくる後方磁界41と、収差補正装置42と、倍率調整レンズ43と、バイプリズム44と、中間レンズ45と、中間レンズ46と、を含む。結像光学系40は、図示はしないが、さらに、投影レンズを含む。
【0103】
収差補正装置42は、後方磁界41と倍率調整レンズ43との間に配置されている。収差補正装置42は、結像光学系40の球面収差を補正する球面収差補正装置である。収差補正装置42は、第1多極子420aと、第2多極子420bと、第3多極子420cと、第1転送光学系422aと、第2転送光学系422bと、第3転送光学系422cと、を含む。収差補正装置42は、多極子と転送光学系が交互に配置され、3段の多極子および3段の転送光学系を有する3段6極子場型球面収差補正装置である。
【0104】
第1多極子420a、第2多極子420b、および第3多極子420cの構成は、上述した第1多極子260a、第2多極子260b、および第3多極子260cと同様である。
【0105】
第1転送光学系422aは、後方磁界41と第1多極子420aとの間に配置されている。第1転送光学系422aは、後焦点面を第1多極子420aの光学主面(多極子面)に転送する。第1転送光学系422aは、対物レンズで得られた像と等価な像を第1多極子420aに転送する。第1転送光学系422aは、例えば、複数の電子レンズで構成され、図示の例では、2つの電子レンズで構成されている。
【0106】
第2転送光学系422bは、第1多極子420aと第2多極子420bとの間に配置されている。第2転送光学系422bは、第1多極子420aの光学主面を第2多極子420bの光学主面に転送する。第2転送光学系422bは、第1多極子420aで得られた像と等価な像を第2多極子420bに転送する。第2転送光学系422bは、例えば、複数の電子レンズで構成され、図示の例では、2つの電子レンズで構成されている。
【0107】
第3転送光学系422cは、第2多極子420bと第3多極子420cとの間に配置されている。第3転送光学系422cは、第2多極子420bの光学主面を第3多極子420cの光学主面に転送する。第3転送光学系422cは、第2多極子420bで得られた像と等価な像を第3多極子420cに転送する。第3転送光学系422cは、例えば、複
数の電子レンズで構成され、図示の例では、2つの電子レンズで構成されている。
【0108】
収差補正装置42で結像光学系40の収差を補正する原理は、収差補正装置26で照射光学系20の収差を補正する原理と同様でありその説明を省略する。
【0109】
倍率調整レンズ43は、収差補正装置42の後段に配置されている。収差補正装置42から射出した電子は、倍率調整レンズ43によって制限視野絞り面SAに所定の倍率で結像される。
【0110】
バイプリズム44は、倍率調整レンズ43と中間レンズ45との間に配置されている。
【0111】
中間レンズ45および中間レンズ46は、倍率調整レンズ43と投影レンズとの間に配置されている。中間レンズ45は、例えば焦点合わせに用いられ、中間レンズ46は例えば像の拡大に用いられる。
【0112】
不図示の投影レンズは、中間レンズ45および中間レンズ46で拡大された像をさらに拡大し、検出器54上に結像する。
【0113】
電子顕微鏡200では、電子源10から放出された電子線は、照射光学系20で集束されて試料Sに照射される。試料Sには、例えば、平行ビームが照射される。試料Sを透過した電子線は、結像光学系40によって透過電子顕微鏡像(TEM像)を結像する。TEM像は、検出器54で撮影される。電子顕微鏡200では、収差補正装置42によって結像光学系40の収差を補正できるため、高分解能のTEM像を得ることができる。
【0114】
また、電子顕微鏡200では、電子線ホログラフィーによって位相再生像を得ることができる。電子線ホログラフィーとは、電子波の干渉性を利用し、試料によって電子波が受ける位相変化を再生する手法である。例えば、試料Sを透過して位相変化を受けた波(物体波)と電子源10から真空を通過し試料Sの影響を受けない波(参照波)を、バイプリズム44で干渉させて干渉縞(ホログラム)を得る。得られたホログラムをフーリエ変換し、バックグラウンドを作る等間隔の主干渉成分をマスクして取り除き、試料Sを透過した回折波の変調成分(サイドバンド)を抽出して逆フーリエ変換を行うことにより、試料下面での位相を再生する。これにより、位相再生像を得ることができる。
【0115】
2.2. 動作
2.2.1. 電子顕微鏡の動作モード
電子顕微鏡200では、電子顕微鏡100と同様に、電子光学系2は、収差補正装置42を3段6極子場型球面収差補正装置として動作させる第1モードと、収差補正装置42を2段6極子場型球面収差補正装置として動作させる第2モードと、を備えている。制御部60は、ユーザーの指示に応じて、電子光学系2を第1モードで動作させたり、第2モードで動作させたりする。
【0116】
2.2.2. 第1モード
図10は、電子光学系2の第1モードを説明するための図である。図10には、第1モードにおける電子線の経路の一例を示している。
【0117】
第1モードでは、収差補正装置42を3段6極子場型球面収差補正装置として用いて球面収差および6回非点収差を補正する。これにより、高分解能のTEM像を取得できる。
【0118】
2.2.3. 第2モード
図11は、電子光学系2の第2モードを説明するための図である。図11には、第2モ
ードでの電子線の経路の一例を示している。
【0119】
ホログラムを取得するためには、例えば、制限視野絞り面SAの倍率の調整、バイプリズム44の上流側のクロスオーバー位置の調整、およびバイプリズム44の下流側の像面の倍率の調整が必要となる場合がある。
【0120】
しかしながら、上述した図10に示す第1モードでは、収差補正装置42と制限視野絞り面SAとの間には、倍率調整レンズ43しかない。このように、第1モードでは、結像光学系40の調整の自由度が不足している。
【0121】
したがって、第2モードでは、収差補正装置42の第3多極子420cを励磁せずに、第1多極子420aおよび第2多極子420bを励磁して収差を補正する。このとき、第1多極子420aと第2多極子420bとの間に配置されていない第3転送光学系422cを用いて収差以外の結像光学系40のパラメータを調整する。
【0122】
第2モードでは、収差補正装置42は、2段6極子場型球面収差補正装置として機能する。例えば、2段目の第2多極子420bは、1段目の第1多極子420aが発生させる6極子場とは極性が逆の6極子場を発生させる。第1転送光学系422aは、対物レンズの後焦点面を第1多極子420aの光学主面に転送する。第2転送光学系422bは、第1多極子420aの光学主面を第2多極子420bの光学主面に転送する。
【0123】
第2モードでは、上記のように第3多極子420cを使用しないため、第3転送光学系422cを収差補正以外の目的で使用できる。すなわち、倍率調整レンズ43に加えて、第3転送光学系422cを構成する2つの電子レンズを収差補正以外の目的で使用できる。第2モードでは、例えば、第3転送光学系422cを構成する2つの電子レンズを転送光学系として機能させずに、制限視野絞り面SAの倍率の調整、バイプリズム44の上流側のクロスオーバー位置の調整、およびバイプリズム44の下流側の像面の倍率の調整に用いることができる。
【0124】
したがって、第2モードでは、倍率調整レンズ43および第3転送光学系422cを構成する2つの電子レンズを用いて、制限視野絞り面SAの倍率の調整、バイプリズム44の上流側のクロスオーバー位置の調整、およびバイプリズム44の下流側の像面の倍率の調整を行うことができる。
【0125】
この結果、第2モードでは、収差を補正した状態で、ホログラムを取得できる。
【0126】
2.3. 電子光学系の調整方法
電子顕微鏡200における制御部60の調整処理は、収差以外のパラメータの調整処理が異なる点を除いて、上述した図6に示す電子顕微鏡100における制御部60の調整処理と同様であり、その詳細な説明を省略する。電子顕微鏡200においても電子顕微鏡100と同様に、ユーザーの選択に応じて、結像光学系40を第1モードで動作させたり第2モードで動作させたりできる。
【0127】
2.4. 効果
電子顕微鏡200における電子光学系2の調整方法では、結像光学系40は、収差補正装置42を含み、3段目の第3多極子420cを使用せずに、1段目の第1多極子420aおよび2段目の第2多極子420bを使用して収差を調整し、3段目の第3転送光学系422cを用いて、収差以外の電子光学系2のパラメータを調整する。そのため、装置を大型化させることなく、電子光学系2の調整の自由度を向上できる。
【0128】
電子顕微鏡200では、収差補正装置42の全部の多極子を用いて収差が調整される第1モードと、第3多極子420cを使用せずに、第1多極子420aおよび第2多極子420bを使用して収差が調整され、使用した第1多極子420aと第2多極子420bとの間に配置されていない第3転送光学系422cを用いて収差以外の電子光学系2のパラメータが調整される第2モードと、を備える。そのため、電子顕微鏡200では、第1モードを用いて高分解能のTEM像を取得でき、第2モードを用いてホログラムを取得できる。また、装置を大型化させることなく、電子光学系2の調整の自由度を向上できる。
【0129】
2.5. 変形例
2.5.1. 第1変形例
上述した図11に示す例では、第2モードにおいて、第3多極子420cを励磁せずに、第1多極子420aおよび第2多極子420bを励磁して収差を調整し、励磁した第1多極子420aと第2多極子420bとの間に配置されていない第3転送光学系422cを用いて収差以外の電子光学系2のパラメータを調整した。これに対して、第2モードにおいて、第1多極子420aを励磁せずに、第2多極子420bおよび第3多極子420cを励磁して収差を調整し、第2多極子420bと第3多極子420cとの間に配置されていない第1転送光学系422aを用いて収差以外の電子光学系2のパラメータを調整してもよい。
【0130】
第1変形例では、電子顕微鏡200は、図10に示す第1モード、図11に示す第3多極子420cを励磁しない第2モードに加えて、第1多極子420aを励磁しない第2モードを備えている。制御部60は、この3つの動作モードの選択を受け付けて、選択された動作モードとなるように電子光学系2を制御する。
【0131】
このように電子顕微鏡200では、3段の多極子を有する収差補正装置26を含み、1つの多極子を励磁せずに、2つの多極子を励磁して収差を調整し、励磁した多極子の間に配置されていない転送光学系を用いて収差以外の電子光学系2のパラメータを調整する。したがって、電子顕微鏡200では、装置を大型化させることなく、電子光学系2の調整の自由度を向上できる。
【0132】
2.5.2. 第2変形例
第1実施形態に係る電子顕微鏡では、図3に示すように収差補正装置26が照射光学系20に組み込まれ、第2実施形態に係る電子顕微鏡では、図9に示すように収差補正装置26が結像光学系40に組み込まれたが、照射光学系20に収差補正装置26が組み込まれ、かつ、結像光学系40に収差補正装置42が組み込まれてもよい。
【0133】
3. 第3実施形態
3.1. 電子顕微鏡
次に、第3実施形態に係る電子顕微鏡について説明する。第3実施形態に係る電子顕微鏡は、収差補正装置26が4段6極子場型球面収差補正装置である点を除いて図1に示す電子顕微鏡100の構成と同様である。以下、上述した第1実施形態に係る電子顕微鏡100の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0134】
図12は、第3実施形態に係る電子顕微鏡の収差補正装置26の構成を示す図である。
【0135】
収差補正装置26は、図12に示すように、第1多極子260aと、第2多極子260bと、第3多極子260cと、第4多極子260dと、第1転送光学系262aと、第2転送光学系262bと、第3転送光学系262cと、第4転送光学系262dと、を含む。収差補正装置26は、多極子と転送光学系が交互に配置され、4段の多極子および4段の転送光学系を有する4段6極子場型球面収差補正装置である。
【0136】
図13は、4段の多極子の各々が発生させる3回非点収差を説明するための図である。図13には、第1多極子260aが発生させる6極子場によって作られる3回非点収差B1、第2多極子260bが発生させる6極子場によって作られる3回非点収差B2、第3多極子260cが発生させる6極子場によって作られる3回非点収差B3、および第4多極子260dが発生させる6極子場によって作られる3回非点収差B4を模式的に示している。
【0137】
4段6極子場型球面収差補正装置において、3回非点収差B1の強度と3回非点収差B2の強度は、等しい。3回非点収差B2の向きは、3回非点収差B1を60°回転させた向きである。また、3回非点収差B3の強度と3回非点収差B4の強度は、等しい。3回非点収差B4の向きは、3回非点収差B3を60°回転させた向きである。
【0138】
また、3回非点収差B2の向きは、3回非点収差B3の向きと同じである。3回非点収差B3の強度は、3回非点収差B2の強度よりも小さい。例えば、3回非点収差B2の強度と、3回非点収差B3の強度との比B2:B3は、例えば、B2:B3=1:x、ただしxは0.4<x<0.8である。比B2:B3は、対物レンズの焦点距離、対物レンズの球面収差係数、転送倍率、転送光学系の焦点距離、転送光学系の球面収差係数、多極子の厚さ等に応じて設定される。
【0139】
収差補正装置26では、4段の多極子で、上述した3回非点収差B1、3回非点収差B2、3回非点収差B3、および3回非点収差B4を発生させることによって、3回非点収差、球面収差、6回非点収差、および6次スリーローブ収差を補正できる。
【0140】
第1多極子260aおよび第2多極子260bでは、それぞれ3回非点収差が発生する。第1多極子260aで発生した3回非点収差と、第2多極子260bで発生した3回非点収差とは打ち消しあう。第3多極子260cおよび第4多極子260dでは、それぞれ3回非点収差が発生する。第3多極子260cで発生した3回非点収差と、第4多極子260dで発生した3回非点収差とは打ち消しあう。したがって、収差補正装置26では、3回非点収差を補正できる。
【0141】
第1多極子260aは、負の球面収差を発生させる。同様に、第2多極子260b、第3多極子260c、および第4多極子260dは、それぞれ負の球面収差を発生させる。これら4段の多極子で発生させた負の球面収差で、照射光学系20の正の球面収差を打ち消すことができる。これにより、収差補正装置26では、照射光学系20の球面収差を補正できる。
【0142】
収差補正装置26では、第1多極子260a、第2多極子260b、第3多極子260c、および第4多極子260dの各々が発生させる6回非点収差と、転送光学系に生じる球面収差と多極子が発生させる6極子場より生じる収差とのコンビネーション収差により発生する6回非点収差と、のバランスをとることによって6回非点収差を補正できる。
【0143】
収差補正装置26では、第1多極子260aおよび第2多極子260bで発生した六次スリーローブ収差と、第3多極子260cおよび第4多極子260dで発生した6次スリーローブ収差とが、打ち消しあう。これにより、収差補正装置26では、6次スリーローブ収差を補正できる。
【0144】
3.2. 動作
3.2.1. 動作モード
第3実施形態に係る電子顕微鏡では、電子光学系2は、収差補正装置26を4段6極子
場型球面収差補正装置として動作させる第1モードと、収差補正装置26を2段6極子場型球面収差補正装置または3段6極子場型球面収差補正装置として動作させる第2モードと、を備えている。
【0145】
3.2.2. 第1モード
第1モードでは、収差補正装置26を4段6極子場型球面収差補正装置として動作させる。そのため、高次の収差を補正でき、より高分解能のSTEM像を取得できる。
【0146】
3.2.3. 第2モード
第3実施形態に係る電子顕微鏡は、収差補正装置26を2段6極子場型球面収差補正装置として動作させる第2モードと、収差補正装置26を3段6極子場型球面収差補正装置として動作させる第2モードと、を備える。
【0147】
収差補正装置26を2段6極子場型球面収差補正装置として動作させる第2モードでは、隣り合う2つの多極子を励磁して収差を補正し、残りの2つの多極子を励磁せずに、励磁した2つの多極子の間に配置されていない転送光学系を用いて収差以外のパラメータを調整する。
【0148】
例えば、第1多極子260aおよび第2多極子260bを励磁せずに、第3多極子260cおよび第4多極子260dを励磁して収差を補正する。また、励磁した第3多極子260cおよび第4多極子260dとの間に配置されていない第1転送光学系262aおよび第2転送光学系262bを用いて収差以外のパラメータを調整する。
【0149】
また、第3多極子260cおよび第4多極子260dを励磁せずに、第1多極子260aおよび第2多極子260bを励磁して収差を補正し、第3転送光学系262cおよび第4転送光学系262dを用いて収差以外のパラメータを調整してもよい。
【0150】
また、第1多極子260aおよび第4多極子260dを励磁せずに、第2多極子260bおよび第3多極子260cを励磁して収差を補正し、第1転送光学系262aおよび第4転送光学系262dを用いて収差以外のパラメータを調整してもよい。
【0151】
このように、収差補正装置26を2段6極子場型球面収差補正装置として動作させる第2モードでは、隣り合う2つの多極子を励磁して収差を補正し、励磁した2つの多極子の間に配置されていない転送光学系を用いて収差以外のパラメータを調整できる。4段の多極子を有する収差補正装置26を2段6極子場型球面収差補正装置として動作させる第2モードでは、2つの転送光学系を収差以外のパラメータの調整に用いることができるため、電子光学系2の調整の自由度を向上できる。
【0152】
収差補正装置26を3段6極子場型球面収差補正装置として動作させる第2モードでは、例えば、第1多極子260aを励磁せずに、第2多極子260b、第3多極子260c、および第4多極子260dを励磁して収差を補正する。このとき、第2多極子260bと第3多極子260cとの間、第3多極子260cと第4多極子260dとの間に配置されていない第1転送光学系262aを用いて収差以外のパラメータを調整する。
【0153】
また、第4多極子260dを励磁せずに、第1多極子260a、第2多極子260b、および第3多極子260cを励磁して収差を補正する。このとき、第1多極子260aと第2多極子260bとの間、第2多極子260bと第3多極子260cとの間に配置されていない第4転送光学系262dを用いて収差以外のパラメータを調整する。
【0154】
このように、4段の多極子および4段の転送光学系を有する収差補正装置26では、少
なくとも1つの多極子を励磁せずに、少なくとも2つの多極子を励磁して収差を調整する。このとき、励磁した多極子間に配置されていない転送光学系を用いて収差以外のパラメータを調整する。
【0155】
第3実施形態に係る電子顕微鏡では、要求される分解能や、調整が必要な電子光学系2のパラメータの数に応じて、第2モードにおいて、収差補正装置26を2段6極子場型球面収差補正装置として動作できるし、収差補正装置26を3段6極子場型球面収差補正装置として動作できる。
【0156】
3.3. 電子光学系の調整方法
図14は、制御部60における電子光学系2の調整処理の一例を示すフローチャートである。以下では、上述した図6に示す調整処理と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0157】
制御部60は、動作モードの選択を受け付ける(S200)。
【0158】
制御部60は、第1モードが選択された場合(S202のM1)、収差補正装置26の第1多極子260a、第2多極子260b、第3多極子260c、および第4多極子260dを励磁し、収差補正装置26を4段6極子場型球面収差補正装置として動作させる(S204)。これにより、照射光学系20の球面収差を補正しつつ、6回非点収差および6次スリーローブ収差を補正できる。
【0159】
制御部60は、収差以外の電子光学系2のパラメータを調整する(S206)。制御部60は、コンデンサーレンズ22およびコンデンサーレンズ25を用いて、電子線の収束角および電子線の試料面へのフォーカスを調整する。
【0160】
以上の処理により、電子光学系2を第1モードで動作できる。
【0161】
制御部60は、第2モードが選択された場合(S202のM2)、収差補正装置26を2段6極子場型球面収差補正装置として動作させるか、収差補正装置26を3段6極子場型球面収差補正装置として動作させるかの選択を受け付ける(S208)。
【0162】
制御部60は、2段6極子場型球面収差補正装置による動作が選択された場合(S208のM2-1)、例えば、収差補正装置26の第1多極子260aおよび第2多極子260bの励磁をゼロとし、第3多極子260cおよび第4多極子260dを励磁し、収差補正装置26を2段6極子場型球面収差補正装置として動作させる(S210)。
【0163】
制御部60は、収差以外の電子光学系2のパラメータを調整する(S212)。
【0164】
制御部60は、例えば、コンデンサーレンズ22およびコンデンサーレンズ25を用いて、電子線の収束角および電子線の試料面へのフォーカスを調整する。また、制御部60は、収差補正装置26の第1転送光学系262aを構成する2つの電子レンズおよび第2転送光学系262bを構成する2つの電子レンズを用いて、コンデンサー絞り23の逆空間へのフォーカス合わせおよびクロスオーバーの位置の調整を行う。
【0165】
以上の処理により、第2モードにおいて、収差補正装置26を2段6極子場型球面収差補正装置として動作できる。
【0166】
制御部60は、3段6極子場型球面収差補正装置による動作が選択された場合(S208のM2-2)、例えば、収差補正装置26の第1多極子260aの励磁をゼロとし、第
2多極子260b、第3多極子260c、および第4多極子260dを励磁し、収差補正装置26を3段6極子場型球面収差補正装置として動作させる(S220)。
【0167】
制御部60は、収差以外の電子光学系2のパラメータを調整する(S222)。
【0168】
制御部60は、コンデンサーレンズ22およびコンデンサーレンズ25を用いて、電子線の収束角および電子線の試料面へのフォーカスを調整する。また、制御部60は、収差補正装置26の第1転送光学系262aを構成する2つの電子レンズを用いて、コンデンサー絞り23の逆空間へのフォーカス合わせおよびクロスオーバーの位置の調整を行う。
【0169】
以上の処理により、第2モードにおいて、収差補正装置26を3段6極子場型球面収差補正装置として動作できる。
【0170】
3.4. 効果
第3実施形態に係る電子顕微鏡における電子光学系2の調整方法では、多極子と転送光学系が交互に配置され、4段の多極子を有する収差補正装置26を含む電子光学系2を備えた電子顕微鏡における電子光学系2の調整方法であって、少なくとも1つの多極子を使用せずに、少なくとも2つの多極子を使用して収差を調整し、使用した多極子間に配置されていない転送光学系を用いて収差以外の照射光学系20のパラメータを調整する。したがって、装置を大型化させることなく、電子光学系2の調整の自由度を向上できる。
【0171】
第3実施形態に係る電子顕微鏡は、収差補正装置26の全部の多極子を用いて収差が調整される第1モードと、少なくとも1つの多極子を使用せずに、少なくとも2つの多極子を使用して収差が調整され、使用した多極子間に配置されていない転送光学系を用いて収差以外の照射光学系20のパラメータが調整される第2モードと、を備える。したがって、第1モードを用いて高分解能のSTEM像を取得でき、第2モードを用いて電子光学系2の様々なパラメータを調整できる。
【0172】
4. 第4実施形態
4.1. 電子顕微鏡
次に、第4実施形態に係る電子顕微鏡について説明する。第4実施形態に係る電子顕微鏡は、収差補正装置42が4段6極子場型球面収差補正装置である点を除いて、上述した図8および図9に示す電子顕微鏡200の構成と同様である。以下、上述した第1実施形態に係る電子顕微鏡、第2実施形態に係る電子顕微鏡、および第3実施形態に係る電子顕微鏡の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0173】
図15は、第4実施形態に係る電子顕微鏡の収差補正装置26の構成を示す図である。
【0174】
収差補正装置42は、図15に示すように、第1多極子420aと、第2多極子420bと、第3多極子420cと、第4多極子420dと、第1転送光学系422aと、第2転送光学系422bと、第3転送光学系422cと、第4転送光学系422dと、を含む。収差補正装置42は、多極子と転送光学系が交互に配置され、4段の多極子および4段の転送光学系を有する4段6極子場型球面収差補正装置である。
【0175】
図15に示す収差補正装置42を構成する4段の多極子の配置と、図12に示す収差補正装置26における4段の多極子の配置とは、対物レンズに関して対称となる。収差補正装置42では、収差補正装置26と同様の原理で、3回非点収差、球面収差、6回非点収差、および6次スリーローブ収差を補正できる。
【0176】
4.2. 動作
4.2.1. 動作モード
第4実施形態に係る電子顕微鏡では、電子光学系2は、収差補正装置42を4段6極子場型球面収差補正装置として動作させる第1モードと、収差補正装置42を2段6極子場型球面収差補正装置または3段6極子場型球面収差補正装置として動作させる第2モードと、を備えている。
【0177】
4.2.2. 第1モード
第1モードでは、収差補正装置26を4段6極子場型球面収差補正装置として動作させる。そのため、高次の収差を補正でき、より高分解能のTEM像を取得できる。
【0178】
4.2.3. 第2モード
第2モードでは、上述した第3実施形態に係る電子顕微鏡と同様に、収差補正装置26を2段6極子場型球面収差補正装置として動作させる第2モードと、収差補正装置26を3段6極子場型球面収差補正装置として動作させる第2モードと、を備える。第2モードでは、倍率調整レンズ43および励磁した多極子間に配置されていない転送光学系を構成する2つの電子レンズを用いて、制限視野絞り面SAの倍率の調整、バイプリズム44の上流側のクロスオーバー位置の調整、およびバイプリズム44の下流側の像面の倍率の調整を行う。
【0179】
4.3. 電子光学系の調整方法
第4実施形態に係る電子顕微鏡における制御部60の調整処理は、収差以外のパラメータの調整処理が異なる点を除いて、上述した図14に示す第3実施形態に係る電子顕微鏡における制御部60の調整処理と同様でありその説明を省略する。
【0180】
4.4. 効果
第4実施形態に係る電子顕微鏡の電子光学系2の調整方法では、多極子と転送光学系が交互に配置され、4段の多極子を有する収差補正装置26を含む電子光学系2を備えた電子顕微鏡における電子光学系2の調整方法であって、少なくとも1つの多極子を使用せずに、少なくとも2つの多極子を使用して収差を補正し、使用した多極子間に配置されていない転送光学系を用いて収差以外の結像光学系40のパラメータを調整する。したがって、装置を大型化させることなく、電子光学系2の調整の自由度を向上できる。
【0181】
第4実施形態に係る電子顕微鏡は、収差補正装置26の全部の多極子を用いて収差が調整される第1モードと、少なくとも1つの多極子を使用せずに、少なくとも2つの多極子を使用して収差が調整され、使用した多極子間に配置されていない転送光学系を用いて収差以外の結像光学系40のパラメータが調整される第2モードと、を備える。したがって、第1モードを用いて高分解能のTEM像を取得でき、第2モードを用いて電子光学系2の様々なパラメータを調整できる。また、第4実施形態に係る電子顕微鏡では、装置を大型化させることなく、電子光学系2の調整の自由度を向上できる。
【0182】
4.5. 変形例
第3実施形態に係る電子顕微鏡では、収差補正装置26が照射光学系20に組み込まれ、第4実施形態に係る電子顕微鏡では、収差補正装置42が結像光学系40に組み込まれたが、照射光学系20に収差補正装置26が組み込まれ、かつ、結像光学系40に収差補正装置42が組み込まれてもよい。
【0183】
5. 変形例
上述した第1~第4実施形態では、本発明に係る荷電粒子線装置が電子線を制御する電子光学系2を備えた電子顕微鏡である場合について説明したが、本発明に係る荷電粒子線装置は荷電粒子線を制御する荷電粒子光学系を備えた荷電粒子線装置であればよい。電子
線以外の荷電粒子線としては、例えば、イオンビームが挙げられる。
【0184】
また、上述した第1~第4実施形態では、多極子が磁場6極子場を発生させる場合について説明したが、多極子は電場6極子場を発生させてもよいし、磁場6極子場と電場6極子場の重畳場を発生させてもよい。
【0185】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0186】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0187】
2…電子光学系、10…電子源、20…照射光学系、21…コンデンサーレンズ、22…コンデンサーレンズ、23…コンデンサー絞り、24…偏向器、25…コンデンサーレンズ、26…収差補正装置、28…前方磁界、30…試料ステージ、32…試料ホルダー、40…結像光学系、41…後方磁界、42…収差補正装置、43…倍率調整レンズ、44…バイプリズム、45…中間レンズ、46…中間レンズ、50…STEM検出器、52…分割型検出器、53…検出面、54…検出器、60…制御部、100…電子顕微鏡、200…電子顕微鏡、260a…第1多極子、260b…第2多極子、260c…第3多極子、260d…第4多極子、262a…第1転送光学系、262b…第2転送光学系、262c…第3転送光学系、262d…第4転送光学系、420a…第1多極子、420b…第2多極子、420c…第3多極子、420d…第4多極子、422a…第1転送光学系、422b…第2転送光学系、422c…第3転送光学系、422d…第4転送光学系
図1
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