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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】組電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/291 20210101AFI20241219BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20241219BHJP
   H01M 50/209 20210101ALI20241219BHJP
   H01M 50/262 20210101ALI20241219BHJP
【FI】
H01M50/291
H01M10/04 W
H01M50/209
H01M50/262 S
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022505811
(86)(22)【出願日】2021-01-19
(86)【国際出願番号】 JP2021001688
(87)【国際公開番号】W WO2021181894
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2020042867
(32)【優先日】2020-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻島 裕司
(72)【発明者】
【氏名】吉田 武史
(72)【発明者】
【氏名】藤原 豊樹
(72)【発明者】
【氏名】南 圭亮
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-207539(JP,A)
【文献】特開2018-181765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20
H01M 10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の角形二次電池が、スペーサを介して、その厚み方向に互いに押圧された状態で配列した組電池であって、
前記角形二次電池は、正極板及び負極板がセパレータを介して巻回された扁平状の電極体が、該電極体の巻回軸を、角形の電池ケースの長側面に平行にして、前記電池ケースに収容されており、
前記電極体は、正極合剤層と負極合剤層とがセパレータを介して対向した扁平部を有し、
前記スペーサは、
前記扁平部と対向する前記電池ケースの長側面のうち、前記巻回軸方向の両端部側であって、前記巻回軸に垂直な方向に沿った部位を押圧する一対の第1押圧部と、
前記一対の第1押圧部の間にあって、前記巻回軸に沿った部位を押圧する第2押圧部とを有し、
前記第2押圧部の前記巻回軸方向の長さをL、前記一対の第1押圧部間の長さをSとしたとき、L/S≧1/2を満たす、組電池。
【請求項2】
前記スペーサは、前記扁平部と対向する前記電池ケースの長側面のうち、前記一対の第1押圧部の中間であって、前記巻回軸に垂直な方向に沿った部位を押圧する第3押圧部をさらに有し、
前記第3押圧部の前記巻回軸に垂直な方向の長さをH、前記一対の第1押圧部間の前記巻回軸に垂直な方向の長さをWとしたとき、H/W≦1/2を満たす、請求項1に記載の組電池。
【請求項3】
前記第2押圧部は、分割された複数の領域を有し、前記第2押圧部の前記巻回軸方向の長さLは、前記複数の領域の長さの総和である、請求項に記載の組電池。
【請求項4】
前記一対の第1押圧部、及び前記第2押圧部で、H型押圧部を構成している、請求項1に記載の組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の角形二次電池が配列された組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の角形二次電池で構成された組電池は、角形二次電池と板状のスペーサとを交互に配列させて、角形二次電池の周囲を拘束バンド等で拘束している。そのため、電池ケースの側面全体が、板状のスペーサによって均等に荷重されている。その結果、電池ケース内に収容された電極体全体も、均一に押圧されている。
【0003】
ところで、電池の充放電に伴い、電極体が膨張収縮する。このとき、電極体は巻回軸を中心に膨張収縮し、特に巻回軸方向中央部での膨張収縮が大きいため、電極体の巻回軸方向中央部での面圧が上昇し、電極体の巻回軸方向端部での面圧が下降する。その結果、電極体内の電解液が巻回軸方向中央部から端部に押し出され,電解液が電極体外に漏出して電池のハイレート特性が劣化してしまうという課題がある。
【0004】
このような課題を解決するために、特許文献1には、隣り合う角形二次電池の間に、電極体と対向する電池ケースの側面のうち、電極体の巻回軸方向両端部に一対のスペーサを介在させた組電池が開示されている。これにより、一対のスペーサによって、電極体の巻回軸方向両端部が押圧されるため、充放電に伴う電解液の電極体外への漏出を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-230837号公報
【発明の概要】
【0006】
電極体の巻回軸方向両端部のみの押圧では、膨張収縮が大きい電極体の巻回軸方向中央部を押圧していないため、ハイレート充放電による電極体の膨張収縮量が大きく、電極体の中央部から端部に押し出される電解液の量が多くなり、電解液の電極体外への漏出を抑制しきれない。そのため、特許文献1に開示された技術だけでは、ハイレート特性の劣化を十分に抑制することができない。
【0007】
本開示に係る組電池は、複数の角形二次電池が、スペーサを介して、その厚み方向に互いに押圧された状態で配列した組電池であって、角形二次電池は、正極板及び負極板がパレータを介して巻回された扁平状の電極体が、該電極体の巻回軸を、角形の電池ケースの長側面に平行にして、電池ケースに収容されており、電極体は、正極合剤層と負極合剤層とがセパレータを介して対向した扁平部を有し、スペーサは、扁平部と対向する電池ケースの長側面のうち、巻回軸方向の両端部側であって、巻回軸に垂直な方向に沿った部位を押圧する一対の第1押圧部と、一対の第1押圧部の間にあって、巻回軸に沿った部位を押圧する第2押圧部とを有する。
【0008】
本開示によれば、ハイレート特性の劣化を抑制した組電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の一実施形態における角形二次電池の構成を模式的に示した図で、図1(a)は上面図、図1(b)は、図1(a)のIb-Ib線に沿った断面図、図1(c)は、図1(b)のIc-Ic線に沿った断面図、図1(d)は、図1(b)のId-Id線に沿った断面図である。
図2図2は、本実施形態における電極体の構成を示した側面図である。
図3図3は、本実施形態における組電池の構成を模式的に示した斜視図である。
図4A図4Aは、従来のスペーサの構成を示した図である。
図4B図4Bは、検討したスペーサの構成を示した図である。
図4C図4Cは、本実施形態におけるスペーサの構成を示した図である。
図5A図5Aは、電池ケースの長側面をスペーサで押圧した状態を示した断面図である。
図5B図5Bは、電池ケースの長側面をスペーサで押圧した状態を示した断面図である。
図5C図5Cは、電池ケースの長側面をスペーサで押圧した状態を示した断面図である。
図5D図5Dは、電池ケースの長側面をスペーサで押圧した状態を示した断面図である。
図6図6は、スペーサの他の実施形態を示した側面図である。
図7図7は、スペーサの他の実施形態を示した側面図である。
図8A図8Aは、スペーサの変形例を示した側面図である。
図8B図8Bは、スペーサの変形例を示した側面図である。
図8C図8Cは、スペーサの変形例を示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。
【0011】
図1は、本開示の一実施形態における角形二次電池の構成を模式的に示した図で、図1(a)は上面図、図1(b)は、図1(a)のIb-Ib線に沿った断面図、図1(c)は、図1(b)のIc-Ic線に沿った断面図、図1(d)は、図1(b)のId-Id線に沿った断面図である。本実施形態における角形二次電池は、電解質として有機電解質、有機溶媒などの「非水系」が用いられた電池で、その種類は特に限定されない。非水電解質二次電池の代表的な例として、リチウムイオン二次電池が挙げられる。
【0012】
図1(a)~図1(d)に示すように、本実施形態における角形二次電池10は、電極体11と、電極体11を収容した角形の電池ケース20と、電池ケース20の開口部を封口した封口板21とを備えている。電極体11は、正極板及び負極板がセパレータを介して巻回された扁平状の構造をなす。電極体11は、電極体11の巻回軸Jが、電池ケース20の長側面20aに平行になるように、電池ケース20に収容されている。
【0013】
電極体11の巻回軸J方向の両端部において、正極板及び負極板の端辺12、13が、それぞれ、集電体16、17を介して、封口板21に固定された正極端子14及び負極端子15に接続されている。正極板及び負極板の端辺12、13は、正極及び負極の合剤層が形成されていない領域(正極芯材及び負極芯材)である。
【0014】
電極体11は、図2に示すように、電池ケース20の長側面20aに平行であって、正極合剤層と負極合剤層とがセパレータを介して対向した扁平部11aを有している。また、電極体11は、巻回軸Jに垂直な方向の両端部に、湾曲部11b、11bを有している。
【0015】
正極端子14及び負極端子15は、絶縁板18、19を介して、封口板21に固定されている。封口板21には、電池ケース20内の圧力が所定の値以上に上昇したときに、電池内のガスを放出するガス排出弁22が設けられている。封口板21には、注液孔(不図示)が設けられ、注液孔から電解液を電池ケース20内に注液した後、注液孔を栓23で封止している。
【0016】
図3は、本実施形態における組電池1の構成を模式的に示した斜視図である。
【0017】
図3に示すように、組電池1は、図1に示した形状の複数の角形二次電池10が、スペーサ(不図示)を介して、配列方向Aに互いに押圧された状態で配列している。複数の角形二次電池10は、例えば、拘束バンド(不図示)等により拘束されている。
【0018】
上述したように、角形二次電池10の充放電に伴う電極体11の膨張収縮により、電極体11内の電解液が中央部から端部に移動し、電極体11外に漏出するおそれがある。
【0019】
図4Aは、特許文献1に開示されたスペーサの構成を示した図である。図4Aに示すように、スペーサは、電極体11の扁平部11aと対向する電池ケース20の長側面20aのうち、巻回軸J方向の両端部側であって、巻回軸Jに垂直な方向に沿った部位を押圧する一対の押圧部(第1押圧部)30、30を有している。これにより、一対の第1押圧部30、30によって、電極体11の両端部が押圧されるため、充放電に伴う電解液の電極体外への漏出を抑制することができる。
【0020】
しかしながら、上述したように、電極体11の巻回軸方向両端部のみの押圧では、膨張収縮が大きい電極体11の巻回軸方向中央部を押圧していないため、ハイレート充放電による電極体11の膨張収縮量が大きく、電極体の中央部から端部に押し出される電解液の量が多くなり、電解液の電極体11外への漏出を抑制しきれない。そのため、図4Aに示したスペーサの構成だけでは、ハイレート特性の劣化を十分に抑制することができない。
【0021】
そこで、本発明者等は、電極体11内での電解液枯渇に起因したハイレート特性の劣化を抑制するために、膨張収縮が大きい電極体11の中央部を、さらに、他の押圧部で押圧することを検討した。押圧部として、図4B図4Cに示す形状の押圧部を検討した。
【0022】
図4Bに示す押圧部(第3押圧部)32は、電極体11の扁平部11aと対向する電池ケース20の長側面20aのうち、一対の第1押圧部30、30の中間であって、巻回軸Jに垂直な方向に沿った部位を押圧する。
【0023】
図4Cに示す押圧部(第2押圧部)31は、電極体11の扁平部11aと対向する電池ケース20の長側面20aのうち、一対の第1押圧部30、30の間にあって、巻回軸Jに沿った部位を押圧する。
【0024】
図4A図4Cに示した構成のスペーサを用いて組電池を作製し、以下の方法により、サイクル試験を実施し、ハイレート特性の評価を行った。
【0025】
(角形二次電池の作製)
図1に示した構造の角形二次電池(リチウムイオン二次電池)を、以下の手順で作製した。
【0026】
アルミニウム箔からなる正極芯材の両面に、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質を含む正極合剤層を形成して、帯状の正極板を作製した。銅箔からなる負極芯材の両面に、黒鉛からなる負極活物質を含む負極合剤層を形成して、帯状の負極板を作製した。作製した帯状の正極板及び負極板を、ポリオレフィン製のセパレータを介して巻回し、所定の圧力でプレスして扁平状の電極体11を作製した。プレス圧の一例は、50kN以上、150kN以下であり、より好ましくは100kN以上、120kN以下である。
【0027】
上述の正極芯体には、アルミニウム、アルミニウム合金など、電池の作動電圧範囲における正極の電位範囲で安定な金属の箔等を用いることができる。正極芯体の厚みは、例えば5μm以上、20μm以下である。正極合材層は、正極活物質、導電材、及び結着材を含む。正極合材層の厚みは、正極芯体の片面側で、例えば15μm以上、80μm以下であり、好ましくは20μm以上、50μm以下である。
【0028】
正極活物質は、リチウム含有遷移金属複合酸化物を主成分として構成される。リチウム含有遷移金属複合酸化物に含有される金属元素としては、Ni、Co、Mn、Al、B、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W等が挙げられる。好適なリチウム含有遷移金属複合酸化物の一例は、Ni、Co、Mnの少なくとも1種を含有する複合酸化物である。なお、リチウム含有遷移金属複合酸化物の粒子表面には、酸化アルミニウム、ランタノイド含有化合物等の無機化合物粒子などが固着していてもよい。
【0029】
正極合材層に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、炭素繊維等の炭素材料が例示できる。正極合材層に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)などが併用されてもよい。
【0030】
上述の負極芯体には、銅、銅合金など、電池の作動電圧範囲において負極の電位範囲で安定な金属の箔を用いることができる。負極芯体の厚みは、例えば5μm以上、20μm以下である。負極合材層は、負極活物質及び結着材を含む。負極合材層の厚みは、負極芯体の片面側で、例えば20μm以上、80μm以下であり、好ましくは30μm以上、60μm以下である。
【0031】
負極合材層には、負極活物質として、例えばリチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出する炭素系活物質が含まれる。好適な炭素系活物質は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の人造黒鉛などの黒鉛である。また、負極活物質には、Si及びSi含有化合物の少なくとも一方で構成されるSi系活物質が用いられてもよく、炭素系活物質とSi系活物質が併用されてもよい。
【0032】
負極合材層に含まれる結着材には、正極の場合と同様に、PTFE、PVdF等の含フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどを用いてもよいが、好ましくはスチレン-ブタジエンゴム(SBR)が用いられる。また、負極合材層には、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、PVAなどが含まれていてもよい。CMC又はその塩は、負極合材スラリーを適切な粘度範囲に調整する増粘材として機能し、またSBRと同様に結着材としても機能する。
【0033】
電池性能等の観点および電解液の移動量・保持性能の観点から、負極合材層の好適な一例は、体積基準のメジアン径が8μm以上、12μm以下の負極活物質と、SBRと、CMC又はその塩とを含む。体積基準のメジアン径は、レーザー回折散乱法で測定される粒度分布において体積積算値が50%となる粒径であって、50%粒径(D50)又は中位径とも呼ばれる。負極合材層の充填密度は、主に負極活物質の充填密度によって決定され、負極活物質のD50、粒度分布、形状等が充填密度に大きく影響する。SBR、CMC又はその塩の含有量は、負極合材層の質量に対して、それぞれ、0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.5質量%以上3質量%以下がより好ましい。
【0034】
負極合材層の充填密度は特に限定されないが、電池性能等の観点および電解液の移動量・保持性能の観点から、0.9mg/cm以上、2.0mg/cmが好ましい。例えば1.0mg/cm以上、1.4mg/cm以下、より好ましくは1.10mg/cm以上1.30mg/cm以下である。
【0035】
セパレータには、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。セパレータ(多孔性シート)は、例えばポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、及びアラミドから選択される少なくとも1種を主成分とする多孔質基材を含む。中でも、ポリオレフィンが好ましく、特にポリエチレン、及びポリプロピレンが好ましい。
【0036】
セパレータは、樹脂製の多孔質基材のみで構成されていてもよく、多孔質基材の少なくとも一方の面に無機物粒子等を含む耐熱層などが形成された複層構造であってもよい。また、樹脂製の多孔質基材が、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン等の複層構造を有していてもよい。セパレータの厚みは、例えば10μm以上、30μm以下である。セパレータは、例えば、平均孔径が0.02μm以上、5μm以下、空孔率が30%以上、70%以下である。一般的に、電極体は2枚のセパレータを含むが、各セパレータには同じものを用いることができる。
【0037】
ここで、電極体11の幅(巻回軸J方向の長さ)を116.3mm、高さ(巻回軸Jに垂直方向の長さ)を57.6mm、厚みを10.5mmとした。また、正極合剤層と負極合剤層とがセパレータを介して対向した扁平部11aの幅を90mm、高さを50mmとした。
【0038】
作製した電極体11を、アルミニウム製の電池ケース20に収容した後、電池ケース20の開口部を封口板21で封口した。注液孔から電解液を電池ケース20内に注液した後、注液孔を栓で封止して、角形二次電池10を作製した。作製した角形二次電池10の容量は、5.0Ahとした。
【0039】
電極体は電池ケースとの絶縁のため、絶縁シート(不図示)に覆われた状態で電池ケースに収容される。電池ケースの内側全面にフィルムを貼り付けたり、樹脂をコーティングすることで電極体と電池ケースの絶縁性を確保してもよい。
【0040】
電池ケースは金属製であり成形が容易であって剛性があるものであればよいが、アルミニウム製又はアルミニウム合金製であることが好ましい。寸法は特に限定されないが、一例としては、横方向長さが120mm以上、140mm以下、高さが60mm以上、70mm以下、厚みが11mm以上、14mm以下である。電極巻回体平坦部に対向する面の缶厚み肉厚は0.3mm以上、1.5mm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.4mm以上、1.1mm以下であり、特に好ましくは0.5mm以上、0.7mm以下である。0.3mm以上ないと強度不足であり、さらには電池ケースのひっかき傷に対して缶内部の十分な密閉性を確保できないおそれがある。また、1.5mm以上では、剛性が高いため、電池ケース外からスペーサで押圧しても、電極体に狙いどおりの押圧がかからないおそれがある。
【0041】
ここで、電池ケース20の幅を120mm、高さを65mm、厚みを12.6mmとした。電極体11の扁平部11aと対向する電池ケース20の長側面20aの肉厚を0.6mmとした。LiPFを電解質とする濃度1.3mol/L,粘度4.0mPa/sの電解液を36g注液した。
【0042】
電解液は、イオン伝導性の観点から非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とで構成されることが好ましい。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いてもよい。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。
【0043】
非水電解液の25℃での粘度は、2.0mPa・s以上、6.0mPa・s以上が好ましく、さらに好ましくは3.0mPa・s以上、5.0mPa・s以下であり、特に好ましくは3.5mPa・s以上、4.5mPa・s以下である。2.0mPa・s未満の場合、充放電による電解液の移動量が大きく、電極体外への電解液の漏出を抑制しきれないおそれがある。6.0mPa・sを超える場合、イオン伝導性が低下し、入出力が低下するおそれがある。
【0044】
電解質塩には、例えばLiPF等のリチウム塩が使用される。電解質塩の濃度は電解液粘度の観点から、0.7mol/L以上、1.5mol/L以下であることが好ましい。非水電解液の量は20g以上、150g以下が好ましく、さらに好ましくは25g以上、75g以下であり、特に、電極巻回体、電池ケースが上記寸法を有する場合、正極板と負極板とセパレータ内の空隙、また正極板と負極板とセパレータの層間に形成される空隙を満たす観点から、非水電解液の量は30g以上、50g以下が好ましい。非水電解液の量が20g以下の場合、充放電時に電極体内の電解液が枯渇しやすくなるおそれがある。一方、電解液が150g以上の場合、電池ケース内の残空間が減少し、電解液の分解によって発生したガスによる電池内の内圧が上昇するおそれがある。
【0045】
(組電池の作製)
作製した角形二次電池10を絶縁フィルムで覆い、図4A図4Cに示した構成のスペーサを、それぞれ、電池ケース20の長側面20aに、絶縁フィルム上から貼り付けた。スペーサを貼り付けた角形二次電池10を交互に配列し、組電池1を作製した。角形二次電池10は、正極端子14と負極端子15とが交互に並ぶように向きを変えて配列し、隣接する角形二次電池の正極端子14と負極端子15とをバスバーで接続して、複数の角形二次電池を電気的に直列接続した。スペーサを構成する各押圧部30、31、32の幅を10mmとし、厚みを0.3mmとした。
【0046】
スペーサの厚みは、0.1mm以上であることが好ましい。厚みが0.1mm未満であると電極体に狙い通りの押圧ができない。一方、組電池の全長を小さくして車両への積載効率を向上する観点から、スペーサ厚みは3.0mm以下であることが好ましい。
【0047】
(サイクル試験)
電池温度25℃で、初期電池容量の60%から80%まで50Aで充電した後、電池容量が80%から60%まで放電するサイクルを、休止せずに3000サイクル繰り返した。
【0048】
サイクル試験後の角形二次電池を、電池容量50%から240Aで放電した際の10秒後の抵抗値を測定し、初期の抵抗値に対する抵抗上昇率を求めた。
【0049】
表1は、その結果を示した表である。ここで、スペーサとして、図4Aに示した一対の第1押圧部30、30を用いた場合の抵抗上昇率を100としている。
【0050】
表1に示すように、スペーサとして、図4Bに示したように、一対の第1押圧部30、30に加えて、第3押圧部32を用いた場合、抵抗上昇率は、一対の第1押圧部30、30のみを用いた場合に比べて、100.9と増加していた。
【0051】
これに対して、スペーサとして、図4Cに示したように、一対の第1押圧部30、30に加えて、第2押圧部31を用いた場合、抵抗上昇率は、一対の第1押圧部30、30のみを用いた場合に比べて、87.3と減少していた。
【0052】
【表1】
【0053】
このような結果は、以下の理由によるものと考えられる。
【0054】
図5A図5Cは、それぞれ、電池ケース20の長側面20aを、図4A図4Cに示したスペーサで押圧した状態を示した図で、巻回軸Jに沿った断面図を示す。また、図5Dは、図4Cで、巻回軸Jから外れたVd-Vd線に沿った断面図である。
【0055】
図5Aに示すように、電池ケース20の長側面20aの両端部を、一対の第1押圧部30、30で押圧することによって、充放電に伴う電解液の電極体11外への漏出量R1’を抑制することができる。しかしながら、膨張収縮が大きい電極体11の中央部を押圧していないため、ハイレート充放電による電極体11の膨張収縮量が大きく、電極体の内部で移動する電解液の量R1が多くなり、電解液の電極体外への漏出量R1’を抑制しきれない。結果、電解液が電極体11外に漏出し、電極体11内で電解液が枯渇する。そのため、一対の第1押圧部30、30のみでは、ハイレート特性の劣化を十分に抑制することができない。
【0056】
図5Bに示すように、電池ケース20の長側面20aを、一対の第1押圧部30、30に加えて、一対の第1押圧部30、30の中間に、巻回軸Jに垂直な方向に沿った部位を押圧する第3押圧部32を加えることによって、電極体11の中央部における膨張収縮を押さえ、電極体内での電解液の移動量R2を抑制することができる(R1>R2)。
【0057】
しかしながら、電極体の膨張収縮は巻回軸上で最も大きいことから、巻回軸Jに垂直な方向に沿った部位のみを押圧する第3押圧部32では、電極体11の膨張収縮の低減効果が十分ではなく、電解液の移動量R2の抑制効果が十分ではない。
【0058】
さらに、電極体11の中央部を、巻回軸Jに垂直な方向に沿って、押力Fで押圧すると、電極体11の弾性により、電極体11の両端部では、電極体11が押し広げられる。そのため、電極体11の両端部において、一対の第1押圧部30、30による押力F’が、図5Aに示した一対の第1押圧部30、30による押力Fよりも小さくなる。すなわち、一対の第1押圧部30、30による電解液の電極体11外への漏出抑制効果が、第3押圧部32を加えることによって、低減されてしまう。その結果、電解液の電極体外への流出量R2’多くなり、電極体11内で電解液が枯渇する(R2’>R1’)。
【0059】
その結果、図4Bに示したように、一対の第1押圧部30、30に加えて、第3押圧部32を用いた場合、抵抗上昇率が、一対の第1押圧部30、30のみを用いた場合に比べて増加したものと考えられる。
【0060】
一方、図5Cに示すように、電池ケース20の長側面20aを、一対の第1押圧部30、30に加えて、一対の第1押圧部30、30の間に、巻回軸Jに沿った部位を押圧する第2押圧部31を加えることによって、図5Bに示したのと同様に、電極体11の中央部における膨張収縮を押さえることができる。すなわち、第2押圧部31によって、膨張収縮の最も大きい電極体11の巻回軸J上を押圧するため、膨張収縮の抑制効果が大きく、電解液の移動量R3を効果的に抑制することができる(R1>R2>R3)。
【0061】
また、巻回軸J上では、第2押圧部31での押圧により、図5Bと同様に電極体11の両端部において、一対の第1押圧部30、30による押力F’が、図5Aに示した一対の第1押圧部30、30による押力Fよりも小さくなる。一方、図5Dに示すように、巻回軸上以外の部分では、第1押圧部30、30による押力Fを阻害する押圧部が存在しない。従って、電極体11の両端部で、電極体11が押し広げられることはない。そのため、図5Aに示した一対の第1押圧部30、30による押力Fは減少せず、一対の第1押圧部30、30による電解液の電極体11外への漏出抑制効果を維持することができ、電極体外への電解液の流出量R3’を抑制することができる(R2’>R1’>R3’)。
【0062】
上記2つの効果により、電解液の移動量R3を効果的に抑制しつつ、電解液の電極体外への流出量R3’を効果的に抑制することができるため、ハイレート充放電において、電極体11内での電解液の枯渇を抑制することができる。その結果、図4Cに示したように、一対の第1押圧部30、30に加えて、第2押圧部31を用いた場合、抵抗上昇率が、一対の第1押圧部30、30のみを用いた場合に比べて減少したものと考えられる。
【0063】
以上、説明したように、複数の角形二次電池10が、スペーサを介して配列方向に互いに押圧された状態で配列した組電池1において、スペーサを、電極体11の扁平部11aと対向する電池ケース20の長側面20aのうち、巻回軸J方向の両端部側であって、巻回軸Jに垂直な方向に沿った部位を押圧する一対の第1押圧部30、30と、一対の第1押圧部30、30の間にあって、巻回軸Jに沿った部位を押圧する第2押圧部31とで構成することによって、ハイレート特性の劣化を抑制することができる。
【0064】
また、一対の第1押圧部30、30のみによって、電極体11の両端部を巻回軸に対して垂直方向のみに押圧する場合と比較し、巻回軸Jに沿った部位を押圧する第2押圧部31を加えることによって、組電池が落下した時の電極体の移動量を抑制することができるため、組電池の落下耐性も向上することができる。
【0065】
図4Cに示したように、本実施形態におけるスペーサは、一対の第1押圧部30、30、及び第2押圧部31で、H型押圧部を構成しているが、図6に示すように、第2押圧部31が、必ずしも一対の第1押圧部30、30に当接していなくてもよい。
【0066】
図6に示すように、第2押圧部31の巻回軸J方向の長さをL、一対の第1押圧部30、30間の長さをSとしたとき、L/Sが、それぞれ1、2/3、1/2、1/3のスペーサを用いて、組電池を作製し、上記と同様のサイクル試験を実施して、ハイレート特性の評価を行った。ここで、L/S=1のスペーサは、H型押圧部である。
【0067】
表2は、その結果を示した表である。
【0068】
【表2】
【0069】
表2に示すように、第2押圧部31の長さLが、L/S≧1/2を満たすスペーサを用いた場合、抵抗上昇率は減少している。一方、L/S=1/3のスペーサを用いた場合、抵抗上昇率はほとんど減少していない。これは、第2押圧部31の長さLが短すぎると、電極体11の中央部における膨張収縮を押さえる効果が十分に発揮できなかったためと考えられる。従って、ハイレート特性の劣化を抑制する効果を得るためには、L/S≧1/2を満たすスペーサを用いることが好ましい。
【0070】
本実施形態におけるスペーサは、図7に示すように、一対の第1押圧部30、30、及び第2押圧部31に加えて、一対の第1押圧部30、30の中間であって、巻回軸Jに垂直な方向に沿った部位を押圧する第3押圧部32をさらに有していてもよい。
【0071】
図7に示すように、第3押圧部32の巻回軸Jに垂直な方向の長さをH、一対の第1押圧部30、30の巻回軸Jに垂直な方向の長さをWとしたとき、H/Wが、それぞれ1/3、1/2、1/3、1のスペーサを用いて、組電池を作製し、上記と同様のサイクル試験を実施して、ハイレート特性の評価を行った。
【0072】
表3は、その結果を示した表である。
【0073】
【表3】
【0074】
表3に示すように、第3押圧部32の長さHが、H/W≦1/2を満たすスペーサを用いた場合、抵抗上昇率は減少している。一方、H/W≧2/3を満たすスペーサを用いた場合、抵抗上昇率はほとんど減少していなか、わずかに上昇している。これは、第3押圧部32の長さHが長すぎると、図4Bに示したスペーサと同様に、一対の第1押圧部30、30による電解液の電極体11外への漏出抑制効果が低減されたためと考えられる。従って、ハイレート特性の劣化を抑制する効果を得るためには、H/W≦1/2を満たすスペーサを用いることが好ましい。
【0075】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。例えば、第2押圧部31は、図8A図8Cに示すように、分割された複数の領域31aを有していてもよい。この場合、複数の領域31aの巻回軸J上に沿った方向の長さの総和をLとしたとき、L/S≧1/2(Sは、一対の第1押圧部30、30間の長さ)を満たしていればよい。形成したスペーサ間の空間に冷媒(空気や水)を流動することで、電池の冷却効果を高めることができる。
【0076】
本実施形態において、スペーサを構成する各押圧部30、31、32の材料は特に限定されない。各押圧部30、31、32の材料として、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート等の樹脂、アルミニウム合金、ステンレス鋼等の金属を用いることができる。
【0077】
本実施形態において、各押圧部30、31、32を電池ケース20の長側面20aへ貼り付ける方法は特に限定されない。例えば、各押圧部30、31、32を電池ケース20の長側面20aに直接貼り付けてもよい。また、角形二次電池10間の絶縁性を確保するために、角形二次電池10を絶縁性フィルムで覆って、その上から、各押圧部30、31、32を電池ケース20の長側面20aに貼り付けてもよい。また、平板なベース部に、スペーサの形状を有する突起を設けて、各押圧部30、31、32を形成し、角形二次電池10の間に、各押圧部30、31、32が形成されたベース部を介挿してもよい。絶縁性フィルムで覆った上から、各押圧部30、31、32を電池ケース20の長側面20aに貼り付けることで、電池間の絶縁性を確保しつつ、ベース部を介入する場合と比較して組電池の全長を短くすることができるため、車両への積載効率を向上することができる。
【0078】
電池ケースを絶縁フィルムで覆う場合は、絶縁フィルムの厚みは0.15mm以下であることが好ましい。0.15mm以上の場合、絶縁フィルムの弾性により、スペーサによる電極巻回体の押圧力が低下するため、電極体に狙い通りの押圧ができない。
【0079】
また、上記実施形態において、第2押圧部31を巻回軸Jに沿って設けたが、本開示の効果が損なわれない範囲で、巻回軸Jから外れた位置に設けてもよい。
【0080】
また、本実施形態において、各押圧部30、31、32は、直線形状が好ましいが、本開示の効果が損なわれない範囲で、任意の形状にしてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 組電池
10 角形二次電池
11 電極体
11a 扁平部
11b 湾曲部
12,13 正極板及び負極板の端辺
14 正極端子
15 負極端子
16,17 集電体
20 電池ケース
20a 長側面
21 封口板
30,30 一対の第1押圧部
31 第2押圧部
32 第3押圧部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8A
図8B
図8C