(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】環境制御システム及び環境制御方法
(51)【国際特許分類】
F24F 11/80 20180101AFI20241219BHJP
F24F 11/64 20180101ALI20241219BHJP
F24F 110/10 20180101ALN20241219BHJP
F24F 120/20 20180101ALN20241219BHJP
【FI】
F24F11/80
F24F11/64
F24F110:10
F24F120:20
(21)【出願番号】P 2024019596
(22)【出願日】2024-02-13
【審査請求日】2024-02-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100128107
【氏名又は名称】深石 賢治
(72)【発明者】
【氏名】小野 永吉
(72)【発明者】
【氏名】三原 邦彰
(72)【発明者】
【氏名】挾間 貴雅
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-241163(JP,A)
【文献】特許第7383101(JP,B1)
【文献】特開2010-025548(JP,A)
【文献】特開平06-094292(JP,A)
【文献】特開2016-008782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/80
F24F 11/64
F24F 110/10
F24F 120/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに関連する複数の領域の温熱環境を制御する環境制御システムであって、
前記複数の領域毎の温熱環境に係る制御用情報を取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得された前記複数の領域の制御用情報を互いに比較して、前記複数の領域の少なくとも何れかについて温熱環境の制御に係る設定値を設定する設定手段と、
を備え、
前記取得手段は、前記制御用情報として、前記領域の利用者によって設定された、前記温熱環境の制御に係る設定値を取得し
、
前記設定手段は、前記制御用情報に応じて、段階的に前記設定値を設定する環境制御システム。
【請求項2】
前記設定手段は、前記複数の領域についての前記設定値が、予め設定した大きさのレンジに含まれるように、当該設定値を設定する請求項1に記載の環境制御システム。
【請求項3】
前記取得手段は、前記制御用情報として、前記領域の利用者の温熱環境の好みを示す情報を取得する請求項1又は2に記載の環境制御システム。
【請求項4】
前記設定手段は、前記設定値として、空間の温度を設定する請求項1又は2に記載の環境制御システム。
【請求項5】
互いに関連する複数の領域の温熱環境を制御する環境制御システムの動作方法である環境制御方法であって、
前記複数の領域毎の温熱環境に係る制御用情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにおいて取得された前記複数の領域の制御用情報を互いに比較して、前記複数の領域の少なくとも何れかについて温熱環境の制御に係る設定値を設定する設定ステップと、
を含み、
前記取得ステップにおいて、前記制御用情報として、前記領域の利用者によって設定された、前記温熱環境の制御に係る設定値を取得
し、
前記設定ステップにおいて、前記制御用情報に応じて、段階的に前記設定値を設定する環境制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間の温熱環境を制御する環境制御システム及び環境制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在広く普及しているオープンオフィス(仕切りのない大部屋事務所を多くの人が共有しているオフィス)の空調システムでは、仮想的に空間を区切った空調ゾーン毎の空調が行われる。例えば、空調ゾーン毎にセンサと空調制御装置(ターミナルユニット)を設けて、そのセンサの値が設定値となるように空調制御装置によって供給熱量が調整される。
【0003】
このような空調システムとして一般的に用いられているものとして、単一ダクト変風量空調システム(VAVシステム)がある(例えば、特許文献1参照)。VAVシステムでは、空調ゾーン毎に温度センサがあり、そのセンサの測定値が予め設定した温度設定値となるように、VAVユニット空調空気の供給量(風量)が調節される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オープンオフィスでは複数の空調ゾーンは隣接して存在するが、VAVシステムでは、一般的に制御の安定性及び簡便さの観点から、それぞれの空調ゾーンは独立して制御される。例えば、空調ゾーン毎に温度設定値が互いに独立して設定されて、温度設定値に基づく制御が行われる。そのため、隣接する空調ゾーンと比べて、極端に温度が高い又は低い等の不合理な状況になることがある。この状況では、複数のターミナルユニット(例えば、VAVシステムのVAVユニット)間でアンバランスな負荷が発生する。これによって、室内環境及びエネルギー効率に悪影響が生じる。例えば、アンバランスが生じている空調ゾーンでは、給気温度が低すぎて冷房過剰となったり、給気温度が高すぎてファンの動力過多になったりする。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、互いに関連する複数の領域の温熱環境を適切に制御することができる環境制御システム及び環境制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る環境制御システムは、互いに関連する複数の領域の温熱環境を制御する環境制御システムであって、複数の領域毎の温熱環境に係る制御用情報を取得する取得手段と、取得手段によって取得された複数の領域の制御用情報を互いに比較して、複数の領域の少なくとも何れかについて温熱環境の制御に係る設定値を設定する設定手段と、を備える。
【0008】
本発明に係る環境制御システムでは、複数の領域の制御用情報が互いに比較されて、複数の領域の少なくとも何れかについて温熱環境の制御に係る設定値が設定される。従って、各領域の温熱環境の制御は、互いに関連する別の領域の温熱環境に係る状況に応じて行われる。この結果、本発明に係る環境制御システムによれば、互いに関連する複数の領域の温熱環境を適切に制御することができる。
【0009】
取得手段は、制御用情報として、領域の利用者によって設定された、温熱環境の制御に係る設定値を取得する。この構成によれば、領域の利用者によって設定された設定値に応じて、互いに関連する複数の領域の温熱環境を適切に制御することができる。
【0010】
設定手段は、複数の領域についての設定値が、予め設定した大きさのレンジに含まれるように、当該設定値を設定することとしてもよい。この構成によれば、互いに関連する複数の領域の温熱環境を確実かつ適切に制御することができる。
【0011】
設定手段は、制御用情報に応じて、段階的に設定値を設定する。この構成によれば、互いに関連する複数の領域の温熱環境を更に適切に制御することができる。
【0012】
取得手段は、制御用情報として、領域の利用者の温熱環境の好みを示す情報を取得することとしてもよい。この構成によれば、領域の利用者の温熱環境の好みに応じて、互いに関連する複数の領域の温熱環境を適切に制御することができる。
【0013】
設定手段は、設定値として、空間の温度を設定することとしてもよい。この構成によれば、互いに関連する複数の領域における空間の温度を適切に制御することができる。
【0014】
ところで、本発明は、上記のように環境制御システムの発明として記述できる他に、以下のように環境制御方法の発明としても記述することができる。これらはカテゴリが異なるだけで、実質的に同一の発明であり、同様の作用及び効果を奏する。
【0015】
即ち、本発明に係る環境制御方法は、互いに関連する複数の領域の温熱環境を制御する環境制御システムの動作方法である環境制御方法であって、複数の領域毎の温熱環境に係る制御用情報を取得する取得ステップと、取得ステップにおいて取得された複数の領域の制御用情報を互いに比較して、複数の領域の少なくとも何れかについて温熱環境の制御に係る設定値を設定する設定ステップと、を含み、取得ステップにおいて、制御用情報として、領域の利用者によって設定された、温熱環境の制御に係る設定値を取得し、設定ステップにおいて、制御用情報に応じて、段階的に設定値を設定する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、互いに関連する複数の領域の温熱環境を適切に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る環境制御システムの構成を示す図である。
【
図3】空調ゾーンの利用者によって設定された室温の設定値を用いた新たな設定値の決定の例を説明するためのグラフである。
【
図4】空調ゾーンの利用者の室温の好みを示す情報を用いた新たな設定値の決定の例を説明するためのグラフである。
【
図5】空調ゾーンの利用者の室温の好みを示す情報を用いた新たな設定値の決定の別の例を説明するためのグラフである。
【
図6】本発明の実施形態に係る環境制御システムで実行される処理である環境制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面と共に本発明に係る環境制御システム及び環境制御方法の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1に本実施形態に係る環境制御システム10を示す。環境制御システム10は、空間の温熱環境を制御するシステム(装置)である。制御の対象となる空間は、互いに関連する複数の領域を含む空間である。複数の領域は、それぞれの利用者(在室者)によって利用される。制御の対象となる空間は、例えば、オープンオフィス(仕切りのない大部屋事務所を多くの人が共有しているオフィス)である。制御の対象となる空間は、上記のように空間的に連続した複数の領域であってもよい。本実施形態では、制御の対象となる空間に含まれる複数の領域それぞれを空調ゾーンと呼ぶ。なお、制御の対象となる空間は、後述するように互いに関連する複数の領域を含む空間であれば必ずしも上記のものである必要はない。
【0020】
制御の対象となる温熱環境は、例えば、室温(室内空気温度)である。以下の説明では一例として、環境制御システム10は、空間の室温を制御するものとして説明する。なお、制御の対象となる温熱環境は、室温である必要はなく、利用者が空間を利用した際に感じる熱的な感覚に影響を与えるものであればよい。例えば、制御の対象となる温熱環境は、壁、床及び天井の表面温度、放射温度及び作用温度、並びに総合温熱評価指標であるSET*(標準新有効温度)又はPMV(予想平均温冷感申告)等のものであってもよい。
【0021】
制御の対象となる空間には、空調システム20が設けられている。環境制御システム10は、空調システム20を制御することで室温を制御する。なお、環境制御システム10は、空調システム20の機能の一部であってもよい。
【0022】
環境制御システム10は、具体的には、CPU(Central Processing Unit)、メモリ等のハードウェアを含むコンピュータである。環境制御システム10の後述する各機能は、これらの構成要素がプログラム等により動作することによって発揮される。なお、環境制御システム10は、1つのコンピュータで実現されてもよいし、複数のコンピュータがネットワークにより互いに接続されて構成されるコンピュータシステムにより実現されていてもよい。環境制御システム10は、以下に示す温熱環境の制御に必要な情報の取得及び温熱環境の制御等のために通信機能を有していてもよい。
【0023】
空調システム20は、制御の対象となる空間の空調を行うシステムである。空調システム20は、制御の対象となる空間に含まれる複数の空調ゾーンそれぞれに対して空調を行う。空調システム20は、例えば、VAVシステムである。VAVシステムでは、空調ゾーン毎に室温の設定値が設定されて、設定値に応じた空調が行われる。例えば、空調ゾーン毎に温度センサが設けられており、温度センサの測定値が設定値となるように空調が行われる。設定値の設定は、例えば、空調ゾーンの利用者によって行われる。また、後述するように、環境制御システム10による空調システム20の制御は、設定値の設定によって行われる。
【0024】
VAVシステムでは、各空調ゾーンにはそれぞれターミナルユニット(VAVユニット)が設けられており、当該ターミナルユニットを介して同一のダクトから空調空気が供給される。即ち、VAVシステムにおける複数の空調ゾーンは、この点で互いに関連している。上記の通り、複数の空調ゾーンは、空間的に連続しているという関連を有していてもよいし、上記のように同一の空調系統から空調が行われるという関連を有していてもよい。なお、複数の空調ゾーンが、同一の空調系統から空調が行われる(即ち、熱供給を受ける)という関連を有している場合、当該複数の複数の空調ゾーンは、必ずしも空間的に連続したものである必要はない。例えば、複数の複数の空調ゾーンは、間仕切り等によって物理的に互いに仕切られた、空調を行う空間として連続していないものであってもよい。
【0025】
なお、空調システム20は、VAVシステムである必要はなく、環境制御システム10の制御対象となる、互いに関連する複数の空調ゾーンの空調を設定値によって行うものであればよい。例えば、空調システム20は、VAVシステム以外の同一の空調系統と各空調ゾーンに対応する複数のターミナルユニットを有するものであってもよい。このようなシステムとしては、複数のターミナルユニット(CAVユニット、放射冷暖房パネル+電動弁及びマルチパッケージ型空調機室内機)を備える定風量空調システム(CAVシステム)、放射冷暖房システム及びマルチパッケージ型空調システム等がある。また、環境制御システム10による温熱環境の制御は、空調システム20以外の手段によって行われてもよい。
【0026】
引き続いて、本実施形態に係る環境制御システム10の機能を説明する。
図1に示すように、環境制御システム10は、取得部11と、設定部12とを備えて構成される。
【0027】
取得部11は、複数の領域毎の温熱環境に係る制御用情報を取得する取得手段である。取得部11は、制御用情報として、領域の利用者によって設定された、温熱環境の制御に係る設定値を取得してもよい。取得部11は、制御用情報として、領域の利用者の温熱環境の好みを示す情報を取得してもよい。
【0028】
取得部11によって取得される制御用情報は、環境制御システム10による制御に用いられる情報である。制御用情報は、空調ゾーン毎の温熱環境に係る情報である。制御用情報は、例えば、空調ゾーンの利用者によって設定された室温の設定値である。例えば、取得部11は、空調システム20から送信される当該室温の設定値を受信することで取得する。例えば、空調システム20は、何れかの空調ゾーンの利用者によって室温の設定値が設定(変更)されたら、又は空調システム20の起動時等に、全ての空調ゾーンについての室温の設定値を環境制御システム10に送信するようにしておく。
【0029】
なお、空調ゾーンの利用者によって設定された設定値は、制御対象の空調ゾーンのうち、何れかの空調ゾーンに係るものであればよい。即ち、利用者によって設定値が設定された空調ゾーンとは別の何れかの空調ゾーンでは、空調ゾーンの利用者によって設定されたものではない設定値であってもよい。例えば、当該別の何れかの空調ゾーンでは、環境制御システム10によって設定された設定値であってもよい。この場合でも、取得部11は、制御対象の全ての空調ゾーンについての情報を取得する。
【0030】
また、制御用情報は、例えば、空調ゾーンの利用者の室温の好み(熱的快適性)を示す情報であってもよい。空調ゾーンの利用者は、環境制御システム10による制御の時点、例えば、取得部11によって制御用情報が取得される時点で当該空調ゾーンを利用している利用者であってもよい。この場合、具体的には、制御用情報は、空調ゾーンの利用者が快適と感じる室温の範囲(温度レンジ)である。取得部11は、利用者毎の情報を取得してもよい。
【0031】
この場合、例えば、予め空調ゾーンの利用者となり得る者毎に、快適と感じる室温の範囲の情報を用意しておき、環境制御システム10に記憶させておく。快適と感じる室温の範囲は、例えば、予めのアンケート等から把握することができる。具体的には、アンケートのデータから、
図2に示す快適確率カーブ(快適確率曲線)を作成し、快適確率80%以上となる室温の範囲(温度レンジ)を個人毎に求める。なお、
図2に示す快適確率カーブは、8人の被験者のものである。この方法は、例えば、Ono,E., Lei, Y., Mihara, K., & Chong, A. (2022). The impact of resolution of occupancydata on personal comfort model-based HVAC control performance. In The 9th ACMInternational Conference on Systems for Energy-Efficient Buildings, Cities, andTransportation (BuildSys ’22)に示されている。あるいは、PMV又はSET
*といった平均的な人の快適性を予測する従来のモデルによって、温度レンジを定めてもよい。
【0032】
取得部11は、空調ゾーンの利用者を示す情報を取得して、環境制御システム10に記憶された当該利用者の室温の好みを示す情報を読み出して取得する。空調ゾーンの利用者を示す情報の取得は、空間における個人の検出に係る従来の方法(例えば、空調ゾーンをカメラによって撮像して得られた映像を用いる方法、又はビーコンを用いる方法)が用いられて行われればよい。また、空調ゾーンの利用者は、予め設定されて環境制御システム10に記憶されおり、取得部11は、記憶した情報を取得してもよい。また、もし、温熱環境の好みが把握されていない利用者(環境制御システム10に温熱環境の好みが記憶されていない利用者)がいた場合には、取得部11は、その人の好みとして標準的な温度レンジ(利用者全員の平均値、又はPMV若しくはSET*から推定できるレンジ)を用いてもよい。
【0033】
取得部11は、上記の空調ゾーンの利用者によって設定された室温の設定値、及び空調ゾーンの利用者の室温の好みを示す情報の何れか一方を取得してもよいし、それらの両方を取得してもよい。また、取得部11は、空調ゾーン毎の温熱環境に係る情報であり、環境制御システム10による制御に用いられる情報であれば、上記以外の情報を制御用情報として取得してもよい。また、取得部11は、上記以外の任意の方法で制御用情報を取得してもよい。取得部11は、取得した制御用情報を設定部12に出力する。
【0034】
設定部12は、取得部11によって取得された複数の領域の制御用情報を互いに比較して、複数の領域の少なくとも何れかについて温熱環境の制御に係る設定値を設定する設定手段である。設定部12は、複数の領域についての設定値が、予め設定した大きさのレンジに含まれるように、当該設定値を設定してもよい。設定部12は、制御用情報に応じて、段階的に設定値を設定してもよい。設定部12は、設定値として、空間の温度を設定してもよい。例えば、設定部12は、以下のように設定値を設定する。
【0035】
設定部12は、取得部11から制御用情報を入力する。設定部12は、予め記憶した基準に基づいて、入力した制御用情報から、以下のように温熱環境の制御に係る設定値を新たに設定して、温熱環境の制御を行う。例えば、設定部12は、温熱環境の制御に係る設定値として、室温(空間の温度)の設定値を新たに設定する。設定部12による制御は、取得部11によって取得される制御用情報の種別に応じて行われる。以下、制御用情報の種別毎に設定部12による制御を説明する。
【0036】
室温の設定値については、省エネ性の観点では、空調ゾーン間での温度差が小さく、かつ冷房であれば高い設定値が、暖房であれば低い設定値がよい。快適性の観点では、各空調ゾーンの利用者の好みの温度になっているのがよい。但し、好みの温度には、そもそも幅があり、ピンポイントではない。また、好みの温度は、空調ゾーンの利用者が取った過去のアクティビティによっても変化する。そのため、空調ゾーンの利用者自身も、自分にとって本当に好ましい温度を知らない可能性がある。そこで、室温の極端な設定値(例えば、25±2℃の範囲に含まれない温度)であった場合に、一定時間経過後にそれを正常値側に修正したとしても、大多数の利用者の快適性には悪影響を与えないと仮定する。設定部12による温熱環境の制御は、例えば、上記を考慮したものであってもよい。
【0037】
取得部11によって取得される制御用情報が、空調ゾーンの利用者によって設定された室温の設定値である場合、設定部12は、以下のように新たに設定(変更)する設定値を決定する。設定部12は、制御用情報によって示される全ての空調ゾーンの設定値を比較して、全ての空調ゾーンの設定値が予め設定した温度差レンジに収まるように、空調ゾーンの新たな設定値を決定する。なお、温度差レンジは、温度の幅(設定値(具体的には設定温度間の差)の大きさのレンジ)を示すものである。空調ゾーンの設定値の変更は、制御対象の空調ゾーンの何れかで行われればよい。また、設定部12は、制御用情報の比較の結果、何れの空調ゾーンにおいても変更の条件を満たしていなければ、何れの空調ゾーンにおいても設定値の変更を行わない。
【0038】
全ての空調ゾーンの設定値が、予め設定した温度差レンジに収まることで、各空調ゾーンに設けられる空調システム20の複数のターミナルユニット間でアンバランスな負荷が発生することを防止することができる。これによって、室内環境及びエネルギー効率に悪影響が生じることを防止することができる。例えば、特定の空調ゾーンにおいて、給気温度が低すぎて冷房過剰となったり、給気温度が高すぎてファンの動力過多になったりすることを防止することができる。また、これによって、省エネを実現することができる。
【0039】
上記の温度差レンジは、上記の目的に沿うように予め設定され、例えば、1~2℃以内の値とされる。また、温度差レンジは、制御対象の空調システム20の各空調ゾーンにおける設定値の相違による各ターミナルユニットの負荷等の影響を、例えば、シミュレーション評価によって調べてから、設定されてもよい。温度差レンジは、季節毎に異なる値に設定されてもよい。温度差レンジは、環境制御システム10の試運転時又は運用後にチューニングが行われてもよい。また、環境制御システム10で用いられるその他のパラメータについても、上記の温度差レンジと同様に設定されてもよい。
【0040】
例えば、設定部12は、制御用情報によって示される全ての空調ゾーンの設定値のうちの最高温度を上限とした、温度差レンジ分の温度レンジを設定する。なお、温度レンジは、温度の絶対値である上限及び下限を有するレンジである。例えば、温度レンジは、24~26℃というものである。この場合の温度差レンジは、26-24=2℃である。
図3(a)に示すようにゾーン1、ゾーン2及びゾーン3の3つの空調ゾーンがある場合、設定部12は、最高温度の設定値であるゾーン1の設定値A1を上限とした、温度差レンジ分の温度レンジR1を設定する。
【0041】
設定部12は、制御用情報によって示される全ての空調ゾーンの設定値のうち、温度レンジR1に含まれない設定値、即ち、温度レンジR1の下限未満の設定値について、新たな設定値を決定する。例えば、設定部12は、温度レンジR1に含まれない設定値について、温度レンジR1の下限の値を新たな設定値として決定する。例えば、
図3(a)に示すように、温度レンジR1に含まれないゾーン2の設定値A2について、温度レンジR1の下限である設定値B2が新たな設定値として決定される。なお、制御用情報によって示される全ての空調ゾーンの設定値のうち、温度レンジR1に含まれる設定値(例えば、
図3(a)のゾーン1,3の設定値A1,A3)については、新たに設定値が決定(変更)されなくてもよい。
【0042】
あるいは、設定部12は、制御用情報によって示される全ての空調ゾーンの設定値のうちの最低温度を下限とした、温度差レンジ分の温度レンジを設定する。
図3(b)に示すように、設定部12は、最低温度の設定値であるゾーン2の設定値A2を下限とした、温度差レンジ分の温度レンジR1を設定する。
【0043】
設定部12は、制御用情報によって示される全ての空調ゾーンの設定値のうち、温度レンジR1に含まれない設定値、即ち、温度レンジR1の上限を超える設定値について、新たな設定値を決定する。例えば、設定部12は、温度レンジR1に含まれない設定値について、温度レンジR1の上限の値を新たな設定値として決定する。例えば、
図3(b)に示すように、温度レンジR1に含まれないゾーン1の設定値A1及びゾーン3の設定値A3について、温度レンジR1の上限である設定値B1,B3が新たな設定値として決定される。なお、制御用情報によって示される全ての空調ゾーンの設定値のうち、温度レンジR1に含まれる設定値(例えば、
図3(b)のゾーン2の設定値A2)については、新たに設定値が決定(変更)されなくてもよい。
【0044】
あるいは、設定部12は、制御用情報によって示される全ての空調ゾーンの設定値を、温度差レンジに収めるようにするための設定値の修正幅の合計値が最小になるように、全ての設定値を含む温度レンジ及び各空調ゾーンの新たな設定値を決定してもよい。このように新たな設定値を決定することで、空調ゾーン全体として、環境制御システム10による制御の影響をできるだけ小さくすることができる。
【0045】
取得部11によって取得される制御用情報が、空調ゾーンの利用者の室温の好みを示す情報である場合、設定部12は、以下のように新たに設定(変更)する設定値を決定する。この場合も、設定部12は、空調ゾーンの室温の設定値を取得する。設定値の取得は、制御用情報が、空調ゾーンの利用者によって設定された室温の設定値である場合と同様に行われればよい。
【0046】
図4に示すように、設定部12は、各空調ゾーンについて、制御用情報によって示される利用者が快適と感じる室温の範囲(温度レンジ)から、快適と感じる人数が予め設定された割合(例えば、80%)以上となる最大の温度レンジR2を算出する。なお、この割合を調節することで省エネ寄りの運用にも、快適性寄りの運用にもなり得る。この調整は、制御対象の空間のオーナー又は運転管理者の好みで行うことができる。続いて、設定部12は、各空調ゾーンのそれらの温度レンジR2を比較して、それらの温度レンジR2全てに含まれる温度レンジR3を設定する。
【0047】
設定部12は、全ての空調ゾーンの設定値のうち、温度レンジR3に含まれない設定値、即ち、温度レンジR3の上限を超える設定値及び下限未満の設定値について、新たな設定値を決定する。例えば、設定部12は、温度レンジR3を超える設定値について、温度レンジR3の上限の値を新たな設定値として決定する。また、設定部12は、温度レンジR3の下限未満の設定値について、温度レンジR3の下限の値を新たな設定値として決定する。
【0048】
例えば、
図4に示すように、温度レンジR3の上限を超えるゾーン1の設定値A1について、温度レンジR3の上限である設定値B1が新たな設定値として決定される。また、温度レンジR3の下限未満のゾーン2の設定値A2について、温度レンジR3の下限である設定値B2が新たな設定値として決定される。なお、全ての空調ゾーンの設定値のうち、温度レンジR3に含まれる設定値(例えば、
図4のゾーン3の設定値A3)については、新たに設定値が決定(変更)されなくてもよい。
【0049】
このような設定値とすることで、設定値を一定の温度差レンジに収めることができると共に、各空調ゾーンにおいて利用者の快適性を担保することができる。また、快適性と省エネ性とがトレードオフとなる可能性があるが、上記の温度レンジR2を算出するための、快適と感じる人数の割合を変更することで、快適性と省エネ性とのどちらをより重視するかを調整することが可能である。
【0050】
また、制御用情報として、空調ゾーンの利用者の室温の好みを示す情報を用いる場合、設定部12は、制御用情報として、空調ゾーンの利用者によって設定された室温の設定値を用いた場合に新たな設定値の決定に用いた予め設定された温度差レンジを用いて新たな設定値を決定してもよい。これを用いることで、快適性と省エネ性との両方の点でより適切な設定値を設定することができる。この場合、例えば、設定部12は、以下のように新たな設定値を決定する。
【0051】
設定部12は、空調ゾーンの利用者の室温の好みを示す情報に基づいて、上記と同様に温度レンジR3を設定する。また、設定部12は、空調システム20による現時点の空調が冷房であるか、暖房であるかを示す情報を取得する。
【0052】
設定部12は、設定した温度レンジR3と、上記の予め設定された温度差レンジとを比較する。
図5(a)に示すように、予め設定された温度差レンジD1よりも、好みに基づく温度レンジR3の幅が小さい場合、設定部12は、好みに基づく温度レンジR3に基づいて、上記と同様に設定値を決定する。
【0053】
図5(b)に示すように、予め設定された温度差レンジD1よりも、好みに基づく温度レンジR3の幅が大きく、かつ空調システム20による現時点の空調が冷房である場合、設定部12は、好みに基づく温度レンジR3の上限を上限とした、予め設定された温度差レンジD1分の温度レンジを設定する。即ち、この場合、設定部12は、好みに基づく温度レンジR3の高温側に、予め設定された温度差レンジD1の温度レンジを設定する。設定部12は、設定した温度レンジに基づいて、上記と同様に設定値を決定する。
【0054】
図5(c)に示すように、予め設定された温度差レンジD1よりも、好みに基づく温度レンジR3の幅が大きく、かつ空調システム20による現時点の空調が暖房である場合、設定部12は、好みに基づく温度レンジR3の下限を下限とした、予め設定された温度差レンジD1分の温度レンジを設定する。即ち、この場合、設定部12は、好みに基づく温度レンジR3の低温側に、予め設定された温度差レンジD1の温度レンジを設定する。設定部12は、設定した温度レンジに基づいて、上記と同様に設定値を決定する。
【0055】
上述した例では、制御用情報が、空調ゾーンの利用者によって設定された室温の設定値、又は空調ゾーンの利用者の室温の好みを示す情報であったが、設定部12は、それらの両方を用いて新たな設定値を決定してもよい。これらの両方を用いることでも、快適性と省エネ性との両方の点でより適切な設定値を設定することができる。
【0056】
例えば、設定部12は、設定値に基づく温度レンジR1と、好みに基づく温度レンジR3との重複部分の温度レンジを設定し、設定した温度レンジに基づいて、上記と同様に設定値を決定してもよい。例えば、設定値に基づく温度レンジR1が26.0~27.0℃となり、好みに基づく温度レンジR3が25.5~26.5℃となった場合、それらに共通する26.0~26.5℃の範囲に収まるように設定値を決定してもよい。
【0057】
また、設定部12は、複数の領域の制御用情報を互いに比較して行われるものであれば、上記以外の方法で、新たな設定値を決定してもよい。
【0058】
設定部12は、空調ゾーン毎に、上記のように新たに決定した設定値によって空調が行われるよう、当該設定値を空調システム20に通知して設定する。空調システム20は、設定された設定値に従って、対応する空調ゾーンについて空調を行う。
【0059】
設定部12は、新たに決定した設定値の前の設定値が設定されたタイミング(例えば、利用者による設定値が変更されたタイミング)から、予め設定した時間が経過した後(例えば、30分~1時間後)に上記の制御を行うこととしてもよい。また、設定部12は、設定値の新たな決定を、当該予め設定した時間が経過した後のタイミングで行ってもよい。これは、既往研究において、異なる温度環境に曝露されてから人体が適応して熱的中立に至るまでの時間が15~20分程度と報告されていることを考慮したものである。例えば、外部から入室してきて一時的に暑い時に設定温度を下げたとして、30分後には概ね定常状態に至っていると考えれば、30分後以降に設定変更を行うのが妥当である。
【0060】
設定部12は、新たに設定した設定値と設定前の設定値との差が、予め設定した値よりも大きい場合、段階的に設定値を設定して上記の制御を行ってもよい。例えば、上記の差が1℃を超えている場合、設定部12は、30分~1時間に1℃ずつの勾配で設定値を設定して、最終的に新たに設定した設定値となるようにしてもよい。米国の冷凍空調暖房学会ASHRAEの標準では、温度(作用温度)変化は1時間に2.2℃以内とするべきと定められている。以上が、本実施形態に係る環境制御システム10の機能である。
【0061】
引き続いて、
図6のフローチャートを用いて、本実施形態に係る環境制御システム10で実行される処理(環境制御システム10が行う動作方法)である環境制御方法を説明する。本処理では、取得部11によって、複数の空調ゾーン毎の温熱環境に係る制御用情報が取得される(S01、取得ステップ)。続いて、設定部12によって、複数の空調ゾーンの制御用情報が互いに比較されて、複数の空調ゾーンの少なくとも何れかについて温熱環境の制御に係る新たな設定値が算出される(S02、設定ステップ)。続いて、設定部12によって、新たな設定値が、空調システム20に通知されて空調に用いられる設定値として設定される(S03)。続いて、空調システム20によって、新たな設定値が用いられて、対応する空調ゾーンにおける空調が行われる。以上が、本実施形態に係る環境制御方法である。
【0062】
本実施形態では、複数の領域の制御用情報が互いに比較されて、複数の領域の少なくとも何れかについて温熱環境の制御に係る設定値が設定される。従って、各領域の温熱環境の制御は、互いに関連する別の領域の温熱環境に係る状況に応じて行われる。この結果、本実施形態によれば、互いに関連する複数の領域の温熱環境を適切に制御することができる。
【0063】
上述したように従来、複数の空調ゾーンの室温の設定値によっては、複数のターミナルユニット間でアンバランスな負荷が発生する。利用者によって設定される設定値は、一部の人の嗜好に左右されやすく、必ずしも多数の利用者にとって快適な状況になっているとは限らない。また、設定値に対して極端な操作をしたとしても、誰かが操作するまで設定値が戻らない。結果的に、多数の人にとって快適でもなく、省エネでもない空調がなされていることが多い。本実施形態によれば、互いに関連する空調ゾーンの温熱環境に係る状況の関係に着目して制御が行われるので、上記の課題を解決した、複数の空調ゾーンの快適性及び省エネ性の両面からの適切な制御を行うことができる。
【0064】
本実施形態のように、制御用情報は、領域の利用者によって設定された、温熱環境の制御に係る設定値(例えば、室温の設定値)であってもよい。この構成によれば、領域の利用者によって設定された設定値に応じて、互いに関連する複数の領域の温熱環境を適切に制御することができる。但し、制御用情報は、複数の領域毎の温熱環境に係る情報であれば、必ずしも上記のものである必要はない。
【0065】
本実施形態のように、複数の領域についての設定値が、予め設定した大きさのレンジ(例えば、上記の予め設定された温度差レンジ)に含まれるように、当該設定値を設定することとしてもよい。この構成によれば、互いに関連する複数の領域の温熱環境を確実かつ適切に制御することができる。但し、設定値の設定は、必ずしも上記のように行われる必要はない。
【0066】
本実施形態のように、設定部12は、制御用情報に応じて、段階的に設定値を設定することとしてもよい。この構成によれば、互いに関連する複数の領域の温熱環境を更に適切に制御することができる。
【0067】
本実施形態のように、制御用情報は、領域の利用者の温熱環境の好み(例えば、利用者が快適と感じる室温の範囲)を示す情報であってもよい。この構成によれば、領域の利用者の温熱環境の好みに応じて、互いに関連する複数の領域の温熱環境を適切に制御することができる。但し、制御用情報は、複数の領域毎の温熱環境に係る情報であれば、必ずしも上記のものである必要はない。
【0068】
本実施形態のように、設定部12は、設定値として、空間の温度を設定することとしてもよい。この構成によれば、互いに関連する複数の領域における空間の温度を適切に制御することができる。但し、温熱環境に係る設定値、即ち、制御対象の温熱環境は、必ずしも空間の温度である必要なく、任意のものであってもよい。
【0069】
本開示の環境制御システム及び環境制御方法は、以下の構成を有する。
[1] 互いに関連する複数の領域の温熱環境を制御する環境制御システムであって、
前記複数の領域毎の温熱環境に係る制御用情報を取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得された前記複数の領域の制御用情報を互いに比較して、前記複数の領域の少なくとも何れかについて温熱環境の制御に係る設定値を設定する設定手段と、
を備える環境制御システム。
[2] 前記取得手段は、前記制御用情報として、前記領域の利用者によって設定された、前記温熱環境の制御に係る設定値を取得する[1]に記載の環境制御システム。
[3] 前記設定手段は、前記複数の領域についての前記設定値が、予め設定した大きさのレンジに含まれるように、当該設定値を設定する[1]又は[2]に記載の環境制御システム。
[4] 前記設定手段は、前記制御用情報に応じて、段階的に前記設定値を設定する[1]~[3]の何れかに記載の環境制御システム。
[5] 前記取得手段は、前記制御用情報として、前記領域の利用者の温熱環境の好みを示す情報を取得する[1]~[4]の何れかに記載の環境制御システム。
[6] 前記設定手段は、前記設定値として、空間の温度を設定する[1]~[5]の何れかに記載の環境制御システム。
[7] 互いに関連する複数の領域の温熱環境を制御する環境制御システムの動作方法である環境制御方法であって、
前記複数の領域毎の温熱環境に係る制御用情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにおいて取得された前記複数の領域の制御用情報を互いに比較して、前記複数の領域の少なくとも何れかについて温熱環境の制御に係る設定値を設定する設定ステップと、
を含む環境制御方法。
【符号の説明】
【0070】
10…環境制御システム、11…取得部、12…設定部、20…空調システム。
【要約】
【課題】 互いに関連する複数の領域の温熱環境を適切に制御する。
【解決手段】 環境制御システム10は、互いに関連する複数の領域の温熱環境を制御するシステムであって、複数の領域毎の温熱環境に係る制御用情報を取得する取得部11と、取得部11によって取得された複数の領域の制御用情報を互いに比較して、複数の領域の少なくとも何れかについて温熱環境の制御に係る設定値を設定する設定部12とを備える。
【選択図】
図1