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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】設計支援システム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/13 20200101AFI20241219BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20241219BHJP
【FI】
G06F30/13
G06F30/20
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024150704
(22)【出願日】2024-09-02
【審査請求日】2024-09-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和5年9月4日発行、”Proceedings of the 18th IBPSA Conference”の第0338-0345頁に公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和6年7月20日発行、「2024年日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集」の第419-420頁に公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和6年8月6日、ウェブサイト https://papers.ssrn.com/sol3/Delivery.cfm/410d96a3-0534-4d3d-8eed-78d91e9080a8-MECA.pdf?abstractid=4916863&mirid=1&type=2 に公開
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】小野 永吉
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2024-065271(JP,A)
【文献】特開2024-106175(JP,A)
【文献】特開2021-056811(JP,A)
【文献】国際公開第2024/052958(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
G06Q 50/08
G06Q 50/16 -50/163
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のユーザのそれぞれが選択可能な複数の空間を有する建物のゾーニング計画を支援する設計支援システムであって、
複数の前記ユーザの働き方のデータを収集する働き方データ収集部と、
複数の前記ユーザの前記空間に対する好みのデータを収集する好みデータ収集部と、
前記働き方のデータ、前記好みのデータ、および複数の前記空間のそれぞれに対して算出される価値のデータである空間価値データから複数の前記ユーザのそれぞれがどの前記空間を選択するか、を模擬するモデルである空間選択行動モデルを生成する空間選択行動モデル生成部と、
前記空間選択行動モデルから複数の前記空間のゾーニング計画を評価する空間評価部と、
を備える、
設計支援システム。
【請求項2】
前記好みのデータは、前記ユーザの熱的嗜好を示す熱的嗜好データを含んでおり、
前記空間価値データは、前記熱的嗜好データに対する前記空間の適合度を含む、
請求項1に記載の設計支援システム。
【請求項3】
前記建物の温熱環境、および前記建物のエネルギー消費を模擬するエネルギーシミュレーションモデルを生成するエネルギーシミュレーションモデル生成部と、
前記エネルギーシミュレーションモデルおよび前記空間選択行動モデルから、前記建物のエネルギー効率を評価するエネルギー効率評価部と、
を備える、
請求項1または請求項2に記載の設計支援システム。
【請求項4】
前記エネルギーシミュレーションモデルからユーザの熱的快適性を評価する快適性評価部を備える、
請求項3に記載の設計支援システム。
【請求項5】
複数の前記空間をパラメータ化して、空間評価、熱的快適性およびエネルギー評価のうち少なくとも1つが高いレイアウトを探索する探索部と、
を備える、
請求項1または請求項2に記載の設計支援システム。
【請求項6】
前記ゾーニング計画は、複数の前記空間に設けられる空調システムのゾーニング計画を含む、
請求項1または請求項2に記載の設計支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数のユーザのそれぞれが選択可能な複数の空間を有する建物のゾーニング計画のための設計支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、主観調査システム、客観調査システム、シミュレータ、計画要件抽出システム、記憶部、基本データ入力システム、およびデータ出力システムを備えたオフィス計画支援システムが記載されている。シミュレータは、ユーザの行動を模擬するシミュレーションを行う。主観調査システムは主観調査データを収集し、客観調査システムは客観調査データを収集する。客観調査データは、総合近接要求度である組織間近接度を含む。計画要件抽出部は、計画要件生成部を有する。計画要件生成部は、主観調査データおよび客観調査データに基づいて必要面積を算出し、組織間近接度と必要面積に基づいて各組織を配する階を割り付けるスタッキング処理を実施する。
【0003】
特許文献2には、オフィスのワークスペースのレイアウトの選択候補を選定するときの支援を行う設計支援装置が記載されている。設計支援装置は、ユーザの行動のシミュレートを行う実行部と、ユーザごとに業務環境の満足度に関する指標を算出する算出部と、満足度の情報を用いてレイアウトの選択候補を選定する選定部と、種々の情報を生成する生成部とを含む。上記の満足度は、生理的快適さの指標を含む。選定部は、生理的に快適と感じるユーザにとって最適なオフィスレイアウトを選択候補として提示する。
【0004】
特許文献3には、フリーアドレスオフィスに対応した空調制御システムが記載されている。空調制御システムは、温冷感に関する執務者の嗜好データと空調制御日の執務者の出社予定データとを格納するデータベースと、嗜好データおよび出社予定データに基づいて執務空間に空調温度分布を設定する設定手段とを備える。空調制御システムは、さらに、制御手段と報知手段とを有する。制御手段は空調温度分布に基づいて執務空間の空調制御を行い、報知手段は空調温度分布を執務者に報知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6111238号公報
【文献】特開2021-56811号公報
【文献】特開2019-219097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、複数のユーザが執務を行うワークプレイスでは、複数のユーザのそれぞれが自分の好きな空間を選べるフリーアドレスが導入されることが多くなっている。このようなワークプレイスでは、空間に適切な多様性を持たせて、ユーザが自由に働く空間を選択できる性質である空間選択性を高めることが求められる。空間選択性を高めることは、ユーザの自己効力感を高め、ユーザの知的生産性および満足度の向上につながる。
【0007】
本開示は、空間に適切な多様性を持たせて空間選択性を高めることができる設計支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本開示に係る設計支援システムは、複数のユーザのそれぞれが選択可能な複数の空間を有する建物のゾーニング計画を支援する設計支援システムである。設計支援システムは、複数のユーザの働き方のデータを収集する働き方データ収集部と、空間に対する複数のユーザの好みのデータを収集する好みデータ収集部と、働き方のデータ、好みのデータ、および複数の空間のそれぞれに対して算出される価値のデータである空間価値データから複数のユーザのそれぞれがどの空間を選択するか、を模擬するモデルである空間選択行動モデルを生成する空間選択行動モデル生成部と、空間選択行動モデルから複数の空間のゾーニング計画を評価する空間評価部と、を備える。
【0009】
この設計支援システムは、複数のユーザのそれぞれが選択可能な複数の空間を有する建物のゾーニング計画を行うときに用いられる。設計支援システムでは、働き方データ収集部が複数のユーザの働き方のデータを収集し、好みデータ収集部が空間に対する複数のユーザの好みのデータを収集する。働き方のデータ、好みのデータ、および、各空間に対して定められている価値のデータである空間価値データから、各ユーザがどの空間を選択するかを示すモデルである空間選択行動モデルが作成され、空間選択行動モデルを用いて複数の空間が評価される。よって、ユーザの嗜好、ユーザの実際の働き方、および空間そのものの価値から作成された空間選択行動モデルに基づいて複数の空間が評価されることにより、ユーザがいつどの空間を選ぶかに関する情報から複数の空間を適切に評価できる。したがって、複数のユーザのそれぞれの状況に応じた最適な空間のゾーニングが可能となるので、空間に適切な多様性を持たせつつ空間選択性を高めることができる。その結果、ユーザの自己効力感を高め、ユーザの知的生産性および満足度を高めることができる。
【0010】
(2)上記(1)において、好みのデータは、ユーザの熱的嗜好を示す熱的嗜好データを含んでいてもよく、空間価値データは、熱的嗜好データに対する空間の適合度を含んでもよい。この場合、熱的嗜好データが加味されて空間選択行動モデルが作成されることにより、ユーザの熱的嗜好を加味した空間のゾーニングが可能となる。したがって、空間選択性をさらに高めることができる。
【0011】
(3)上記(1)または(2)において、設計支援システムは、建物の温熱環境、および建物のエネルギー消費を模擬するエネルギーシミュレーションモデルを生成するエネルギーシミュレーションモデル生成部と、エネルギーシミュレーションモデルおよび空間選択行動モデルから、建物のエネルギー効率を評価するエネルギー効率評価部と、を備えてもよい。この場合、建物の温熱環境、および建物のエネルギー消費を予測するエネルギーシミュレーションモデルと空間選択行動モデルから建物のエネルギー効率が評価される。したがって、建物のエネルギー消費を低減させることができる。
【0012】
(4)上記(3)において、設計支援システムは、エネルギーシミュレーションモデルからユーザの熱的快適性を評価する快適性評価部を備えてもよい。この場合、エネルギーシミュレーションモデルからユーザの熱的快適性が評価されるので、建物の温熱環境に基づく快適性を高めることができる。
【0013】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、設計支援システムは、複数の空間をパラメータ化して、空間評価、熱的快適性およびエネルギー評価のうち少なくとも1つが高いレイアウトを探索する探索部と、を備えてもよい。この場合、探索部によって空間評価、熱的快適性、およびエネルギー評価のうち少なくとも1つが高いレイアウトを探索することができる。
【0014】
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、ゾーニング計画は、複数の空間に設けられる空調システムのゾーニング計画を含んでもよい。この場合、複数のユーザのそれぞれの状況に応じた最適な空調システムのゾーニングが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、空間に適切な多様性を持たせて空間選択性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、ゾーニング計画の例を示す図である。
図2図2は、実施形態に係る設計支援システムの機能構成を示すブロック図である。
図3図3は、熱的嗜好データの例を示す図である。
図4図4は、空間選択性とエネルギー効率との関係の例を示す図である。
図5図5は、ゾーニング計画の例を示す図である。
図6図6は、実施形態に係る設計支援方法の工程の例を示すフローチャートである。
図7図7は、変形例に係る設計支援方法の工程の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、図面を参照しながら本開示に係る設計支援システムの実施形態を説明する。本開示に係る設計支援システムは、下記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。図面の説明において同一または相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。図面は、理解の容易化のため、一部を簡略化または誇張して描いている場合があり、寸法比率等は図面に記載のものに限定されない。
【0018】
例えば、オフィス計画においては、建物内の空間的なゾーニングが設計者によって決められる。「建物」は、人が仕事をしたり研究をしたりするために建てられたものを示している。建物は、複数の空間を有する。「空間」は、ユーザが活動(アクティビティ)を行う建物の場所を示している。「空間」は、例えば、部屋、またはパーティション等で仕切られた一区画を示している。「ユーザ」は、建物を使用する人を示している。
【0019】
「ゾーニング」とは、建物において、どのようなスペースをどこにどれだけの面積で配置するかを示している。「ゾーニング計画」とは、ゾーニングの計画を示している。図1に示されるように、本実施形態に係る設計支援システムは、建物Mの複数の空間Sのゾーニング計画を評価する。例えば、本実施形態に係る設計支援システムは、後述する空間選択行動モデルから複数の空間Sのゾーニング計画を評価する。本実施形態に係る設計支援システムは、複数の空間Sの間の境界Bを移動させ空間Sの面積を変化させてもよい。ゾーニング計画は、複数の空間Sに設けられる空調システムのゾーニング計画を含んでもよい。
【0020】
ところで、従来、ゾーニングでは、ユーザに対して行われた働き方のアンケートの結果が分析され、設計者が自らの経験と思考によって要件を整理しながら設計を行っていた。しかしながら、この方法では、入力となる働き方に関するデータと、出力となる計画要件および具体的なゾーニングレイアウトとの関係が必ずしも論理的定量的に明確ではなく、ユーザの働き方に即した最適な設計となっているかどうかは明らかでなかった。
【0021】
特に近年、フレキシブルワークプレイスが普及しつつある。フレキシブルワークプレイスでは、仕事等のアクティビティと、ユーザの好みにしたがって、ユーザが最適な場所を選択しながら働くワークスタイルを志向するものである。アクティビティは、ユーザの活動を示しており、例えば、文書作成、打ち合わせ、および休憩である。特にフレキシブルワークプレイスの設計では、働き方に関するデータ等の入力データの重要性が増していると考えられる。
【0022】
上記のような需要の下、ユーザの働き方に関するデータを入力としてゾーニング計画を数値的に最適化する手法が求められる。フレキシブルワークプレイスでは、ユーザは空間の選択を行う必要がある。このとき、ユーザのアクティビティおよび好みに適合した空間が、一定距離以下の箇所に存在し、かつ利用可能であること(例えば空席があること)が重要である。つまり、ユーザが自由に働く空間を選択できる性質である空間選択性という観点で最適化できる手法が求められる。
【0023】
各空間の使用状況は、建物のエネルギー消費量に影響を与えるため、エネルギー消費量を最小化する観点において最適化する手法が求められる。本実施形態に係る設計支援システムは、例えば、建物運用時のエネルギー消費量の中で大きな割合を占める空調エネルギーについて、ユーザの温熱環境の好みである熱的嗜好と、熱的嗜好に基づく空間選択行動とを加味して最小化する。例えば、フレキシブルワークプレイスでは、熱的嗜好が近いユーザを1つの空調ゾーンに集めることにより、ユーザの熱的快適性を高めるとともにエネルギーの消費を抑制できる。本実施形態では、ユーザの選択行動に着目し空間に適切な多様性を持たせて空間選択性を高めることにより、ユーザの自己効力感を高め、知的生産性および満足度を向上させることができる。
【0024】
図2は、本実施形態の一例としての設計支援システム1の機能構成を示すブロック図である。設計支援システム1は、複数のユーザのそれぞれが選択可能な複数の空間を有する建物のゾーニング計画を支援する。図2に示されるように、一例としての設計支援システム1は、端末Tと、設計支援プログラム10とを含む。端末Tは、例えば、コンピュータを含む。設計支援プログラム10は、例えば、端末Tにインストールされ、ユーザが操作可能なアプリケーションであってもよい。当該アプリケーションの種類は、特に限定されない。
【0025】
端末Tは、例えば、設計支援システム1および設計支援プログラム10の機能を実行可能な機器である。端末Tは、携帯端末であってもよい。携帯端末は、例えば、スマートフォンを含む携帯電話、タブレット、カメラまたはノートパソコン等、携帯可能な端末を示している。端末Tは、携帯端末以外の端末であってもよく、例えば、パソコンであってもよい。
【0026】
端末Tは、オペレーティングシステムおよびソフトウェア(アプリケーション)等を実行するプロセッサ(例えばCPU)と、ROMおよびRAMによって構成される主記憶部と、フラッシュメモリ等によって構成される補助記憶部と、無線通信モジュール等によって構成される通信制御部と、ボタン等の入力装置と、ディスプレイ等の出力装置とを備える。ただし、端末Tの構成は、上記に限定されず適宜変更可能である。以下では、主記憶部と補助記憶部をまとめて記憶部と称することがある。
【0027】
端末Tでは、アプリケーションとしての設計支援プログラム10が実行される。設計支援プログラム10は、例えば、端末Tにおいて実行されるアプリケーションである。しかしながら、設計支援プログラム10の少なくとも一部の機能が、端末Tの外部のサーバによって実行されてもよい。設計支援プログラム10は、当該サーバからダウンロードされるものであってもよい。
【0028】
設計支援システム1の各機能は、プロセッサまたは主記憶部に設計支援プログラム10を読み込ませて設計支援プログラム10を実行することによって実現される。プロセッサは、設計支援プログラム10にしたがって前述した通信制御部、入力装置または出力装置を動作させ、記憶部におけるデータの読み出しおよび書き出しを行う。端末Tの処理に用いられるデータは記憶部に格納される。
【0029】
設計支援システム1は、複数のコンピュータによって構成される分散処理システムであってもよいし、クライアントサーバシステム、またはクラウドシステムであってもよい。設計支援プログラム10は、例えば、メインモジュール、データ取得モジュール、判定モジュール、および出力モジュールを含む。データ取得モジュール、判定モジュールおよび出力モジュールが実行されることによって設計支援プログラム10の各機能要素が機能する。設計支援プログラム10は、一例として、CD-ROM、DVD-ROM、または半導体メモリ等、有形の記憶媒体に固定的に記録された上で提供されるものであってもよい。設計支援プログラム10は、搬送波に重畳されたデータ信号として通信ネットワークを介して提供されるものであってもよい。
【0030】
例えば、設計支援プログラム10は、機能的構成要素として、働き方データ収集部11と、好みデータ収集部12と、空間選択行動モデル生成部13と、空間評価部14と、エネルギーシミュレーションモデル生成部15と、エネルギー効率評価部16と、快適性評価部17と、探索部18と、表示制御部19と、記憶部20とを含む。
【0031】
表示制御部19は、例えば、端末Tのディスプレイに、設計支援プログラム10の機能を操作するための操作画面を表示する。表示制御部19は、例えば、設計支援プログラム10の表示制御部19以外の機能からの命令にしたがって端末Tのディスプレイに設計支援プログラム10の各種画面を表示する。例えば、表示制御部19は、端末Tのディスプレイへの画面表示を司る機能である。記憶部20は、設計支援プログラム10によって端末Tに入出力されたデータを記憶する機能である。
【0032】
働き方データ収集部11は、複数のユーザの働き方のデータを収集する。「働き方のデータ」を以下では「働き方データ」とすることがある。働き方データ収集部11は、例えば、複数のユーザに対するアンケートの結果を収集することによって複数のユーザの働き方データを取得する。ユーザの働き方データは、例えば、建物の内部にユーザがいる比率、および、建物のどこでどのようなアクティビティをどのくらいの時間行っているかのデータを含む。この場合、ユーザの働き方データは、ユーザがどの空間でどのような仕事をどのくらいの時間行ったかを含む。
【0033】
ユーザの働き方データは、例えば、(平均的な1日における)勤務開始時間、勤務終了時間、アクティビティの時間割合、およびアクティビティの継続時間、の少なくともいずれかを含んでもよい。また、ユーザの働き方データは、一定期間(例えば1週間~1月程度)内におけるユーザの毎日のアクティビティ(何時に出社し、どのようなアクティビティを誰とどこで行い、何時に退社したか)のデータを含んでもよい。
【0034】
働き方データ収集部11は、例えば、主観調査によってユーザの働き方データを収集する。しかしながら、働き方データ収集部11は、客観調査によってユーザの働き方データを収集してもよい。働き方データ収集部11は、例えば、ビーコンおよびカメラの少なくともいずれかによって建物の内部におけるユーザの位置およびアクティビティを空間ごとおよび時間ごとに取得することによって働き方データを収集してもよい。このように、働き方データ収集部11は種々の方法でユーザの働き方データを収集可能である。
【0035】
好みデータ収集部12は、空間に対する複数のユーザの好みのデータを収集する。好みのデータは、例えば、ユーザの熱的嗜好を示す熱的嗜好データを含む。「好みのデータ」を以下では「好みデータ」とすることがある。好みデータ収集部12は、例えば、複数のユーザに対するアンケートの結果を収集することによって複数のユーザの好みデータを取得する。
【0036】
好みデータは、例えば、建物の内部におけるユーザが好きな空間のデータを含む。熱的嗜好データは、温熱環境に対するユーザの好みデータを含む。例えば、熱的嗜好データは、図3に示されるように、温かい環境と涼しい環境のどちらが好きかを示すデータを含む。熱的嗜好データは、ユーザが好む気温(一例として23℃)の平均値や範囲であってもよい。しかしながら、熱的嗜好データは、これに限られず、物理的な環境計測が行われた環境下において取得された当該環境を好むか好まないかのデータを含んでもよい。
【0037】
好みデータは、閉鎖的な空間と開放的な空間のどちらが好きかを示すデータを含んでもよい。好みデータは、窓側と廊下側のどちらが好きかを示すデータを含んでもよい。好みデータは、狭い空間と広い空間のどちらが好きかを示すデータを含んでもよい。好みデータは、明るい空間と暗い空間のどちらが好きかを示すデータを含んでもよい。好みデータは、にぎやかな空間と静かな空間のどちらが好きかを示すデータを含んでもよい。好みデータは、アクティビティごとの好みを示すデータを含んでもよい。好みデータ収集部12は、例えば、主観調査によってユーザの好みデータを収集する。しかしながら、好みデータ収集部12は、客観調査によってユーザの好みデータを収集してもよい。
【0038】
空間選択行動モデル生成部13は、例えば、複数の空間のそれぞれに対して算出される価値のデータである空間価値データを取得する。空間価値データは、例えば、予め記憶部20に記憶される。空間価値データは、例えば、空間のタイプとアクティビティとの適合度を含む。空間のタイプとは、空間の種別を示している。空間のタイプは、例えば、クワイエットスペース、セミクワイエットスペース、オープンミーティングスペース、セミクローズドミーティングスペース、クローズドミーティングスペース、およびリチャージスペースの少なくともいずれかを含む。
【0039】
以下の表1は、空間のタイプと、アクティビティとの適合度の例を示す。表1のルーチン、フォーカス、クリエイティブ、コラボレイティブ、ディスカッション、コーディネート、オンライングループ、リチャージおよびランチは、アクティビティの例を示している。表1中の数値が大きい関係ほど、空間のタイプとアクティビティの適合度が高い。例えば、アクティビティが「フォーカス」のときには、クワイエットスペースとの適合度が最も高く(「1」)、クローズドミーティングスペースおよびセミクローズドミーティングスペースとの適合度が最も低い(「0」)。アクティビティが「コーディネート」のときには、クローズドミーティングスペースとの適合度が最も高く(「1」)、クワイエットスペース、セミクワイエットスペース、およびリチャージスペースとの適合度が最も低い(「0」)。
【表1】
【0040】
空間価値データは、例えば、移動距離を含む。移動距離は、例えば、建物の出入口からの距離である。空間価値データが移動距離を含む場合、ユーザの移動距離を加味したゾーニングが可能となる。空間価値データは、例えば、混雑度を含んでもよい。混雑度は、例えば、空間が混雑している割合を示す。また、混雑度は、空間の収容人数に対する実際の使用人数の割合の平均値であってもよい。空間価値データが混雑度を含む場合、空間の混雑の程度を加味したゾーニングが可能となる。
【0041】
空間価値データは、温熱環境を含んでもよい。温熱環境は、例えば、室温(室内空気温度)である。しかしながら、温熱環境は、室温でなくてもよく、ユーザが空間を使用したときに感じる熱的な感覚に影響を与えるもの、または熱的嗜好であってもよい。さらに、温熱環境は、壁、床および天井の表面温度、放射温度および作用温度、ならびに、総合温熱評価指標であるSET*(標準新有効温度)またはPMV(予想平均温冷感申告)であってもよい。また、各空間の運用上の設定(例えば、クールゾーンやウォームゾーンなど)であってもよい。
【0042】
空間選択行動モデル生成部13は、働き方データ、好みデータ、および空間価値データから複数のユーザのそれぞれがどの空間を選択するか、を模擬するモデルである空間選択行動モデルを生成する。空間選択行動モデルは、例えば、空間選択性を示すモデルであってもよい。空間選択性は、ユーザが働く空間を自由に選択できる性質を示している。空間選択性が高いほどユーザが空間を自由に選択でき、空間選択性が低いほどユーザが空間を自由に選択できないことを示している。空間選択性は、数値化されてもよい。
【0043】
空間選択行動モデルは、条件付きロジットモデルであってもよい。空間選択行動モデルが条件付きロジットモデルである場合、空間選択行動に影響を与える任意の要因を追加することができる。
【0044】
空間選択行動モデルは、一例として、各空間の価値がユーザごとに算出され、ユーザが選択し得る最大の空間価値を足し合わせた数値を、空間選択性を示す目的関数として計算してもよい。例えば、空間選択行動モデルには、アクティビティと空間の適合性、混雑度、移動距離、および温熱環境が要因として与えられる。空間選択行動モデル生成部13は、例えば、以下の式(1)に示される目的関数を用いてもよい。式(1)は、空間価値データを最大化させるための目的関数を示している。
【数1】

式(1)において、Nstepは1時間ごとのステップを示しており、Npeopleはユーザの人数を示しており、wfunction,mnkはアクティビティと空間の適合性、wdistance,mnkは移動距離、wcrowdedness,mnkは混雑度、wthermalは温熱環境に関する各空間の価値をそれぞれ示している。なお、空間選択性を示す目的関数はこの限りではなく、ユーザが空間価値の高い空間を選択できる可能性を高めることを意図したものであればよい。例えば、空間価値がある閾値以上となる空間を選択できる割合や、空間価値がある閾値以上となる空間が複数(例えば2つ以上)存在する割合などを目的関数としてもよい。
【0045】
このように、空間選択行動モデル生成部13は、アクティビティと空間の適合性、移動距離、混雑度、および温熱環境を目的関数として空間選択行動モデルを生成してもよい。さらに、空間選択行動モデル生成部13は、アクティビティの時系列シミュレーションの結果であるアクティビティモデルと空間選択行動モデルとによって構成されるエージェントモデルを生成してもよい。
【0046】
空間評価部14は、空間選択行動モデルから複数の空間のゾーニング計画を評価する。空間評価部14は、例えば、ゾーニング計画を各空間のタイプと面積からパラメータ化し設計変数とする。図1の例では、建物Mの内部が複数の空間Sとして分けられ、各空間Sにタイプが設定され、例えば、空間評価部14が複数の空間Sの間の境界Bを移動させることにより複数の空間Sの面積を変化させる。しかしながら、これはパラメータ化の一例であり、空間Sのタイプと面積の2変数を操作する方法であればよく、当該方法は上記の限りではない。
【0047】
エネルギーシミュレーションモデル生成部15は、建物の温熱環境、および建物のエネルギー消費を模擬するエネルギーシミュレーションモデルを生成する。エネルギー効率評価部16は、例えば、建物に設けられた機器が消費するエネルギー量、および建物における温熱環境の時系列シミュレーションをエネルギーシミュレーションモデルとして生成してもよい。「建物に設けられた機器」は、例えば、空調、照明、および情報機器を含む電気機器である。
【0048】
エネルギーシミュレーションモデル生成部15は、年間にわたって電気機器のエネルギー消費量および温熱環境の時系列シミュレーションを行うモデルを作成してもよい。エネルギー消費量に関する目的関数は、建物のエネルギー消費量を最小化させる。エネルギー消費量に関する目的関数は、例えば、年間積算の電気機器が要する消費電力量の合計値を最小化させる。
【0049】
エネルギーシミュレーションモデル生成部15は、米国エネルギー省が提供しているEnergyPlusなどのシミュレーションツールを使用してもよい。エネルギーシミュレーションモデル生成部15は、予め、建物のジオメトリ、建物を構成する壁体の熱物性、および、空調システムに関する情報を入力し、当該情報を基にエネルギーシミュレーションモデルを作成してもよい。
【0050】
また、エネルギーシミュレーションモデル生成部15は、エージェントモデルから求めた各空間の使用人数、および電気機器の運転スケジュールからエネルギーシミュレーションモデルを生成してもよい。このとき、エネルギーシミュレーションモデル生成部15は、電気機器の運転スケジュール、および電気機器の使用率を、空間の使用人数によって変化させてもよい。この場合、実際の建物の運用状況に近いシミュレーションを行うことが可能となる。
【0051】
エネルギー効率評価部16は、エネルギーシミュレーションモデルおよび空間選択行動モデルから、建物のエネルギー効率を評価する。エネルギー効率評価部16は、例えば図4に示されるように、エネルギー効率と空間選択性との関係を示すグラフを生成してもよい。
【0052】
快適性評価部17は、エネルギーシミュレーションモデルからユーザの熱的快適性を評価する。熱的快適性は、例えば、温熱環境に対する満足度を示す心の状態である。快適性評価部17は、例えば、各空間の温熱環境に関する時系列シミュレーションデータと当該空間を使用しているユーザの熱的嗜好とから各ユーザの快適性を評価する。上記の時系列シミュレーションデータは、例えば、所定時間(一例として1時間)ごとに計算された空気温度、放射温度および湿度を含む。熱的快適性の目的関数は、例えば、熱的嗜好を加味したユーザの熱的快適性を最大化させる。熱的快適性の目的関数は、一例として、年間にわたる全ての空間の延べ在室者数に対する快適であったユーザの割合を最大化してもよい。
【0053】
探索部18は、複数の空間をパラメータ化して、空間評価、熱的快適性およびエネルギー評価のうち少なくとも1つが高いレイアウトを探索する。「空間評価」は、例えば、空間選択性である。「レイアウト」は、建物における複数の空間の配置を示している。探索部18は、空間価値データを最大化させるための目的関数の値、熱的快適性を最大化させるための目的関数の値、および、建物のエネルギー消費量を最小化させるための目的関数の値、に基づいて建物のレイアウトを評価する。すなわち、探索部18は、複数の空間のそれぞれに付与された空間価値の最大化、熱的快適性の最大化、および建物のエネルギー消費量の最小化を加味してレイアウトを評価する。
【0054】
例えば図4および図5に示されるように、探索部18は、空間選択性とエネルギー効率との関係から建物のレイアウトの探索および表示を行ってもよい。図4および図5では、空間選択性とエネルギー効率との関係を示すグラフの点Aにおいて、探索部18によって探索された建物Mのレイアウトが端末Tのディスプレイに表示された例を示している。
【0055】
探索部18は、例えば、空間選択性とエネルギー効率との関係を加味して建物Mにどのタイプの空間をどの程度割り当てるかを決定する。図5では、建物Mの2階に第1空間、第2空間および第5空間が割り当てられ、建物Mの3階に第2空間、第3空間および第4空間が割り当てられた例を示している。第1空間はクワイエットスペース、第2空間はセミクワイエットスペース、第3空間はオープンミーティングスペース、第4空間はセミクローズドミーティングスペース、第5空間はリチャージスペース、をそれぞれ示している。しかしながら、図5はあくまで一例であり、探索部18による建物Mのレイアウトの探索は上記の例に限定されない。
【0056】
次に、図6を参照しながら、設計支援システム1を用いて建物の空間のゾーニング計画を評価する設計支援方法の例を説明する。図6のフローチャートは、本実施形態に係る設計支援方法の工程の例を示している。まず、予め調査されたデータに基づいて空間選択行動モデルのパラメータを求め、建物のエネルギーシミュレーションモデルを作成する(ステップS1)。
【0057】
前述したエージェントモデルは、例えば、アクティビティの時系列シミュレーションを行うアクティビティモデルと、各計算ステップでアクティビティに基づいて空間選択行動をシミュレートする空間選択行動モデルで構成する。アクティビティモデルとしては、Wang et al. (2011)に示されているマルコフ連鎖モデルが用いられてもよい。この場合、アクティビティの時間割合と継続時間のデータのみから、状態遷移確率行列を算出することができ、前ステップの状態から現ステップの状態を確率的に求めることが可能となる。
【0058】
空間選択行動モデルとしては、Cha et al. (2017)に示されている条件付きロジットモデルが用いられてもよい。この場合、空間選択行動に影響を与える任意の要因を追加することができる。例えば、アクティビティと空間の適性、混雑度、移動距離、および温熱環境が要因として与えられる。アクティビティと空間の適性については、前述した表1のように、設計者の設計意図、建物オーナー・マネージャーの運用意図等に基づいて、各空間がどのようなアクティビティのために設計されているのか、どのように使われるかが仮定される。上記の温熱環境については、下記の表2に示されるように、嗜好ごとに涼しい/普通/暖かい空間を選択する重みが仮定されてもよい。
【表2】
【0059】
エージェントモデルのパラメータを決定するため、働き方データ収集部11が主観調査および客観調査の少なくともいずれかによってユーザの働き方データを収集し、好みデータ収集部12が主観調査および客観調査の少なくともいずれかによってユーザの好みデータを収集してもよい。前述したように、働き方データについては、例えば、平均的な1日における勤務開始時間、勤務終了時間、主要なアクティビティの時間割合、および、継続時間が主観調査で収集されてもよい。モデルの予測精度向上のためにより正確なデータを収集する場合、働き方データ収集部11は、1週間~1月程度の期間、毎日の具体的なアクティビティ(何時に出社し、どのようなアクティビティを誰とどこで行い、何時に退社したか)といったデータを収集してもよい。働き方データ収集部11が客観調査によって働き方データを収集する場合、AIカメラおよびビーコンの少なくともいずれかの技術を用いることで、ユーザがいつどこにいたのかを正確にトラッキングすることができる。
【0060】
好みデータ収集部12は、例えば、温熱環境に対する嗜好(涼しい空間で働くのが好きか、暖かい空間で働くのが好きか等)の情報を主観調査で収集する。このデータに基づき、エージェントモデルでシミュレーションするときに、各空間の温熱環境に基づいて選択確率を変化させることができる。また、好みデータ収集部12は、閉鎖的/開放的な空間を好むか、窓側を好むか、など、オフィス空間、環境または什器等に関する情報を収集しておいてもよい。この場合、収集した情報をエージェントモデルのパラメータとして考慮することができる。
【0061】
ステップS1では、例えば、エネルギーシミュレーションモデル生成部15が、年間にわたって空調、照明およびコンセントのエネルギー消費量、ならびに室内温熱環境の時系列シミュレーションを行うモデルを作成してもよい。このとき、例えば米国エネルギー省が提供しているEnergyPlusなどのシミュレーションツールが用いられる。エネルギーシミュレーションモデル生成部15は、予め、建物ジオメトリ、壁体の熱物性、および空調システムに関する情報を入力し、モデルを作成しておいてもよい。また、エネルギーシミュレーションモデル生成部15は、エージェントモデルのシミュレーション結果を受けて、各空間の在室人数や空調、照明およびコンセントの運転スケジュールを与えられるようにしておいてもよい。
【0062】
ステップS2では、例えば、探索部18が最適化アルゴリズムで複数のレイアウトを生成する。このとき、探索部18が、メタヒューリスティクスを用いてレイアウトに関する複数のパラメータセットを生成してもよい。メタヒューリスティクスは、例えば、遺伝的アルゴリズムである。
【0063】
ステップS3では、例えば、空間選択行動モデル生成部13が、各レイアウトに対して空間選択行動モデルにおける複数の空間の使われ方をシミュレートして使われ方データを生成し、空間選択性を評価する。このとき、空間選択行動モデル生成部13は、レイアウトとエージェントモデルとを組合せ、一定の期間である評価対象期間のユーザ1人1人の行動をシミュレートする。このとき、前述したエージェントモデルが用いられることにより、各レイアウトが有する各タイプの配置、面積および温熱環境の設定によって、ユーザの空間選択行動が変化し、各空間における在室人数および使われ方データが変化する。このとき、第1の目的関数である空間選択性を、エージェントモデルを用いて評価する。
【0064】
ステップS4では、例えば、エネルギー効率評価部16が、計算した全ゾーンでの使われ方データを基にエネルギーシミュレーションモデルで温熱環境とエネルギー消費量を評価する。「ゾーン」は、例えば、空間を示している。例えば、エネルギーシミュレーションモデル生成部15は、エージェントモデルで求めた各ゾーンの在室人数データをエネルギーシミュレーションモデルへ与えてエネルギー温熱環境シミュレーションを行う。このとき、エネルギーシミュレーションモデル生成部15は、空調、照明およびコンセント等の運転スケジュール、ならびに、使用率を在室人数に応じて変化させてもよい。この場合、より実際の建物の運用状況に近いシミュレーションを行うことができる。また、各ゾーンの温熱環境に関する制御設定値(例えば室内空気温度設定値)を決めるとき、当該計算ステップにおいて対象ゾーンに在室している人の温熱環境の嗜好(熱的嗜好)を加味して決めてもよい。この場合、熱的嗜好に基づく空間選択行動の結果として熱的快適性を向上しやすくすることができる。
【0065】
例えば、エネルギー効率評価部16が、以上の入力を行いシミュレーションした結果から、熱的快適性およびエネルギー消費量を評価する。熱的快適性については、各ゾーンの温熱環境に関する時系列シミュレーションデータ(例えば1時間刻みの空気温度、放射温度、湿度など)と各計算ステップで当該ゾーンに在室している人の温熱環境の好みに基づいて、それぞれの人の快適性を評価する。前述したように、熱的快適性に関する目的関数については、例えば、年間にわたる全ゾーンの延べ在室者数に対する快適であった人の割合を最大化すればよい。エネルギー消費量に関する目的関数については、例えば、年間積算の空調・照明・コンセントに要する消費電力量の合計値を最小化すればよい。
【0066】
ステップS5では、例えば、探索部18が、ステップS4で求めた3つの目的関数の値に基づいてレイアウトを評価し、最適化の次ステップ(次世代)へ引き継ぐレイアウトや変異させるレイアウト等を決定する。そして、探索部18は、収束判定を行う。収束していると判定した場合には、設計支援方法の一連の工程が完了する。一方、収束していないと判定した場合には、再度ステップS2を実行する。ステップS2では、探索部18が、世代交代を行うときに新しいパラメータセットを生成してもよい。その後、ステップS3~ステップS5を実行し、必要に応じてステップS2~ステップS5の実行を繰り返すことにより、世代が更新され目的関数値の良いレイアウトを探索することができる。例えば、予め定めた世代数に達した場合、または、目的関数値の変化が十分小さくなった場合に世代更新を終了して収束判定がYESとなり、設計支援方法の一連の工程が完了する。
【0067】
次に、変形例に係る設計支援方法の工程について図7を参照しながら説明する。変形例に係る設計支援方法は、ステップS11を有し、ステップS4に代えて、ステップS12およびステップS13が設けられる点が前述した設計支援方法とは異なる。以下では、ステップS11~ステップS13について説明する。
【0068】
ステップS11では、例えば、空間選択行動モデル生成部13が、レイアウトに対する空調ゾーンの割り当てを行う。空間選択行動モデル生成部13は、最適化アルゴリズムが生成したレイアウト(空間機能ゾーニング)に対して空調システムの制御単位である空調ゾーンを割り当てる。例えば、空間機能ゾーニングは空調のゾーニングと同一である(完全に1対1で対応する)が、同一でなくてもよい。1つの空間機能ゾーンが複数の空調ゾーンを含んでもよいし、1つの空調ゾーンが複数の空間機能ゾーンを含んでもよい。また、空間選択行動モデル生成部13が、割り当てた空調ゾーンに対して温熱環境設定(Cool/Neutral/Warm)を与えることで、ユーザの熱的嗜好に基づく空間選択行動を支援することができる。
【0069】
ステップS12では、例えば、使われ方データに基づいてエネルギーシミュレーションモデル生成部15が空調負荷計算を行い、各空調ゾーンの空調機器の容量を決定する。空調負荷計算は、例えば、前述したエネルギーシミュレーションモデルを用いて行われてもよい。
【0070】
ステップS13では、例えば、エネルギー効率評価部16が、上記の使われ方データおよび空調システムに基づいてエネルギーシミュレーションモデルで温熱環境とエネルギー消費量を評価する。以上、変形例に係る設計支援方法では、ユーザが求める温熱環境に対応する適度な分布を持った空調ゾーニングを提供でき、ユーザの快適性をさらに高めることができる。また、空調機器の容量を過剰に設計すること(オーバーサイジング)を抑制し、容量の適正化とエネルギー消費量の抑制を図ることができる。
【0071】
次に、本実施形態に係る設計支援システム1から得られる作用効果についてより詳細に説明する。図1および図2に示されるように、設計支援システム1は、複数のユーザのそれぞれが選択可能な複数の空間Sを有する建物Mのゾーニング計画を行うときに用いられる。設計支援システム1では、働き方データ収集部11が複数のユーザの働き方のデータを収集し、好みデータ収集部12が空間Sに対する複数のユーザの好みのデータを収集する。
【0072】
働き方のデータ、好みのデータ、および、各空間Sに対して定められている価値のデータである空間価値データから、各ユーザがどの空間Sを選択するかを示すモデルである空間選択行動モデルが作成され、空間選択行動モデルを用いて複数の空間Sが評価される。よって、ユーザの嗜好、ユーザの実際の働き方、および空間Sそのものの価値から作成された空間選択行動モデルに基づいて複数の空間Sが評価されることにより、ユーザがいつどの空間を選ぶかに関する情報から複数の空間Sを適切に評価できる。したがって、複数のユーザのそれぞれの状況に応じた最適な空間Sのゾーニングが可能となるので、空間Sに適切な多様性を持たせつつ空間選択性を高めることができる。その結果、ユーザの自己効力感を高め、ユーザの知的生産性および満足度を高めることができる。
【0073】
前述したように、好みのデータは、ユーザの熱的嗜好を示す熱的嗜好データを含んでいてもよく、空間価値データは、熱的嗜好データに対する空間Sの適合度を含んでもよい。この場合、熱的嗜好データが加味されて空間選択行動モデルが作成されることにより、ユーザの熱的嗜好を加味した空間Sのゾーニングが可能となる。したがって、空間選択性をさらに高めることができる。
【0074】
前述したように、設計支援システム1は、建物Mの温熱環境、および建物Mのエネルギー消費を模擬するエネルギーシミュレーションモデルを生成するエネルギーシミュレーションモデル生成部15と、エネルギーシミュレーションモデルおよび空間選択行動モデルから、建物Mのエネルギー効率を評価するエネルギー効率評価部16と、を備えてもよい。この場合、建物Mの温熱環境、および建物Mのエネルギー消費を予測するエネルギーシミュレーションモデルと空間選択行動モデルから建物Mのエネルギー効率が評価される。したがって、建物Mのエネルギー消費を低減させることができる。
【0075】
前述したように、設計支援システム1は、エネルギーシミュレーションモデルからユーザの熱的快適性を評価する快適性評価部17を備えてもよい。この場合、エネルギーシミュレーションモデルからユーザの熱的快適性が評価されるので、建物の温熱環境に基づく快適性を高めることができる。
【0076】
前述したように、設計支援システム1は、複数の空間Sをパラメータ化して、空間評価、熱的快適性およびエネルギー評価のうち少なくとも1つが高いレイアウトを探索する探索部18を備えてもよい。この場合、探索部18によって、空間評価、熱的快適性およびエネルギー評価の少なくとも1つが高いレイアウトを探索することができる。
【0077】
前述したように、ゾーニング計画は、複数の空間Sに設けられる空調システムのゾーニング計画を含んでもよい。この場合、複数のユーザのそれぞれの状況に応じた最適な空調システムのゾーニングが可能となる。より具体的には、最適化プロセスの中で空間機能的なゾーニングに加えて空調ゾーニングを同時に行うことで、ユーザが求める温熱環境に対応する適度な分布を持った空調ゾーニングを提供でき、ユーザの快適性をさらに高めることができる。また、空調機器の容量を過剰に設計すること(オーバーサイジング)を抑制し、容量の適正化とエネルギー消費量の抑制を図ることができる。
【0078】
以上、本開示に係る設計支援システムおよび設計支援方法の実施形態および変形例について説明した。しかしながら、本開示は、前述した実施形態または変形例に限られるものではない。すなわち、本発明が特許請求の範囲に記載された要旨の範囲内において種々の変形および変更が可能であることは、当業者によって容易に認識される。すなわち、設計支援システムの各構成の機能、ならびに、設計支援方法の工程の内容および順序は、上記の要旨の範囲内において適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0079】
1…設計支援システム、10…設計支援プログラム、11…働き方データ収集部、12…好みデータ収集部、13…空間選択行動モデル生成部、14…空間評価部、15…エネルギーシミュレーションモデル生成部、16…エネルギー効率評価部、17…快適性評価部、18…探索部、19…表示制御部、20…記憶部、A…点、B…境界、M…建物、S…空間、T…端末。
【要約】
【課題】空間に適切な多様性を持たせて空間選択性を高めることができる設計支援システムを提供する。
【解決手段】一実施形態に係る設計支援システムは、複数のユーザのそれぞれが選択可能な複数の空間を有する建物のゾーニング計画を支援する設計支援システム1である。設計支援システム1は、複数のユーザの働き方のデータを収集する働き方データ収集部11と、複数のユーザの空間に対する好みのデータを収集する好みデータ収集部12と、働き方のデータ、好みのデータ、および複数の空間のそれぞれに対して算出される価値のデータである空間価値データから複数のユーザのそれぞれがどの空間を選択するか、を模擬するモデルである空間選択行動モデルを生成する空間選択行動モデル生成部13と、空間選択行動モデルから複数の空間のゾーニング計画を評価する空間評価部14と、を備える。
【選択図】図2


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7