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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】コロイダルディスパージョンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/02 20060101AFI20241219BHJP
   C08F 8/44 20060101ALI20241219BHJP
   C08F 6/06 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
C08J3/02 B CEY
C08F8/44
C08F6/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024544423
(86)(22)【出願日】2024-04-18
(86)【国際出願番号】 JP2024015384
【審査請求日】2024-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2023074538
(32)【優先日】2023-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【弁理士】
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】福家 翼
(72)【発明者】
【氏名】秋月 伸介
(72)【発明者】
【氏名】井上 侑紀
(72)【発明者】
【氏名】安東 弘喜
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106008790(CN,A)
【文献】特開平07-113063(JP,A)
【文献】特開昭61-120667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/02
C08F 8/44
C08F 6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
50℃以上180℃以下の温度下で、グリシジル基を1つ有する反応性溶媒(x)中にカルボキシ基含有エチレン性不飽和モノマー(a)を含むモノマー混合物を滴下して、第1樹脂(A)を含むワニスを得る工程と、
70℃以上98℃以下の温度下で、前記ワニスに塩基性化合物を添加して、前記第1樹脂(A)に残存するカルボキシ基を中和した後、さらに脱イオン水を投入して、転相乳化させ、中和された前記第1樹脂(A)の粒子を含むコロイダルディスパージョンを得る工程と、を備え、
前記ワニスの固形分濃度は、85質量%以上であり、
前記ワニスに含まれる前記第1樹脂(A)の重量平均分子量は、13000以上80000以下であり、
中和された前記第1樹脂(A)の粒子の平均粒径は、20nm以上200nm以下であり、
前記ワニスを得る工程は、
50℃以上130℃未満の温度下で、前記反応性溶媒(x)中に、前記カルボキシ基含有エチレン性不飽和モノマー(a)を含む前記モノマー混合物を滴下して、前記モノマー混合物の重合を行って、前記第1樹脂(A)の前駆体を得る工程と、
130℃以上180℃以下に昇温し、前記反応性溶媒(x)と前記前駆体とを反応させて、前記第1樹脂(A)を含むワニスを得る工程と、を含む、コロイダルディスパージョンの製造方法。
【請求項2】
有機溶剤を除去する工程を備えない、請求項1記載のコロイダルディスパージョンの製造方法。
【請求項3】
中和された前記第1樹脂(A)の粒子の平均粒径は、20nm以上150nm以下である、請求項1または2記載のコロイダルディスパージョンの製造方法。
【請求項4】
前記ワニスを得る工程で使用される前記反応性溶媒(x)の質量は、前記ワニス100質量部に対して、20質量部以上60質量部以下である、請求項1または2記載のコロイダルディスパージョンの製造方法。
【請求項5】
前記第1樹脂(A)の粒子の溶解パラメータは、10.0以上11.3以下である、請求項1または2記載のコロイダルディスパージョンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイダルディスパージョンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染が深刻化し、国際的に有機溶剤の排出規制が強化されている。塗料分野においても、従来の有機溶剤系の塗料から、水を媒体にした水性塗料への移行が進んでいる。なかでも、自動車塗装用塗料の水性化は、有機溶剤の削減効果が高いとされている。水性塗料には、水性化された樹脂が配合される。樹脂の水性化の方法としては、例えば、乳化剤を用いた乳化重合法が挙げられる。乳化重合は、簡便であるうえ、有機溶剤を必要としないため、有機溶剤の使用削減に非常に有効である。しかしながら、この方法は溶媒として水を使用するため、使用できる原料モノマーが限定され、樹脂設計の自由度が低い。さらに、乳化重合では乳化剤が用いられるため、得られた樹脂を用いた塗膜は、耐水性が低下し易い。
【0003】
そこで、有機溶剤中で樹脂を重合し、その後、樹脂を水性化する方法(間接乳化法)が提案されている。例えば、特許文献1および2では、有機溶剤中で樹脂を重合(溶液重合)した後、減圧蒸留により当該有機溶剤を除去し、その後、樹脂を中和してエマルションを得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-199114号公報
【文献】特開2018-2900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、溶液重合の際、有機溶剤が使用されるため、有機溶剤の使用削減という点で依然として課題がある。
【0006】
本発明は、有機溶剤の使用を低減しながら、分散安定性に優れたコロイダルディスパージョンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
50℃以上180℃以下の温度下で、グリシジル基を1つ有する反応性溶媒(x)中にカルボキシ基含有エチレン性不飽和モノマー(a)を含むモノマー混合物を滴下して、第1樹脂(A)を含むワニスを得る工程と、
70℃以上98℃以下の温度下で、前記ワニスに塩基性化合物を添加して、前記第1樹脂(A)に残存するカルボキシ基を中和した後、さらに脱イオン水を投入して、転相乳化させ、中和された前記第1樹脂(A)の粒子を含むコロイダルディスパージョンを得る工程と、を備え、
前記ワニスの固形分濃度は、85質量%以上であり、
前記ワニスに含まれる前記第1樹脂(A)の重量平均分子量は、13000以上80000以下であり、
前記中和された第1樹脂(A)の前記粒子の平均粒径は、20nm以上200nm以下である、コロイダルディスパージョンの製造方法。
[2]
有機溶剤を除去する工程を備えない、上記[1]のコロイダルディスパージョンの製造方法。
[3]
前記中和された第1樹脂(A)の前記粒子の平均粒径は、20nm以上150nm以下である、上記[1]または[2]のコロイダルディスパージョンの製造方法。
[4]
前記ワニスを得る工程で使用される前記反応性溶媒(x)の質量は、前記ワニス100質量部に対して、20質量部以上60質量部以下である、上記[1]~[3]いずれかのコロイダルディスパージョンの製造方法。
[5]
前記反応性溶媒(x)は、さらに疎水性基を有しており、
前記ワニスを得る工程は、
130℃以上180℃以下の温度下で、前記反応性溶媒(x)中に、第1のカルボキシ基含有エチレン性不飽和モノマー(a1)を含む第1のモノマー混合物を滴下して、疎水性樹脂(A1)を合成し、前記疎水性樹脂(A1)を含む液状物を得る第1工程と、
70℃以上180℃以下の温度下で、前記液状物中に、第2のカルボキシ基含有エチレン性不飽和モノマー(a2)を含む第2のモノマー混合物を滴下して、カルボキシ基含有樹脂(A2)を合成し、前記疎水性樹脂(A1)および前記カルボキシ基含有樹脂(A2)を有する前記第1樹脂(A)を含む前記ワニスを得る第2工程と、を備える、上記[1]~[4]いずれかのコロイダルディスパージョンの製造方法。
[6]
前記反応性溶媒(x)は、前記疎水性基として、炭素数5~24の直鎖または分岐したアルキル基を有する、上記[5]のコロイダルディスパージョンの製造方法。
[7]
前記ワニスを得る工程は、
50℃以上130℃未満の温度下で、前記反応性溶媒(x)中に、前記カルボキシ基含有エチレン性不飽和モノマー(a)を含む前記モノマー混合物を滴下して、前記モノマー混合物の重合を行って、前記第1樹脂(A)の前駆体を得る工程と、
130℃以上180℃以下に昇温し、前記反応性溶媒(x)と前記前駆体とを反応させて、前記第1樹脂(A)を含むワニスを得る工程と、を含む、上記[1]~[4]いずれかのコロイダルディスパージョンの製造方法。
[8]
前記第1樹脂(A)の粒子の溶解パラメータは、10.0以上11.3以下である、上記[1]~[7]のコロイダルディスパージョンの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有機溶剤の使用を低減しながら、分散安定性に優れたコロイダルディスパージョンの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示に係るコロイダルディスパージョンの製造方法は、50℃以上180℃以下の温度下で、グリシジル基を1つ有する反応性溶媒(x)中にカルボキシ基含有エチレン性不飽和モノマー(a)を含むモノマー混合物を滴下して、第1樹脂(A)を含むワニスを得る工程と、70℃以上98℃以下の温度下で、前記ワニスに塩基性化合物を添加して、前記第1樹脂(A)に残存するカルボキシ基を中和した後、さらに脱イオン水を投入して、転相乳化させ、中和された前記第1樹脂(A)の粒子を含むコロイダルディスパージョンを得る工程と、を備える。
【0010】
溶液重合では、通常、原料モノマーの重合反応熱を制御(除熱)するため、多量の有機溶剤中に原料モノマーが滴下される。有機溶剤は、重合反応を均一に進行させるためにも重要な成分である。一方、有機溶剤は、コロイダルディスパージョンおよび水性塗料には不要な成分である。通常、水性塗料を調製する前に、有機溶剤のほとんどを除去する工程が行われる。
【0011】
反応性溶媒(x)を用いることにより、有機溶剤の使用を削減しながら、反応熱の制御や均一な反応を行うことができる。その結果、ワニスの固形分濃度を高くすることができる。
【0012】
ワニスの固形分濃度が85質量%以上、つまり有機溶剤の含有量が15質量%未満であるため、有機溶剤を除去することなく、コロイダルディスパージョンを製造することができる。すなわち、コロイダルディスパージョンの製造において、有機溶剤を除去する工程を省略することができて、環境負荷を低減できる。さらに、有機溶剤の使用量が少ないため、コロイダルディスパージョンの臭気も低減できる。
【0013】
ワニスの固形分濃度は、ワニスを150℃で加熱したときの残分から算出される。
【0014】
ワニスに含まれる第1樹脂(A)の重量平均分子量は、13,000以上80,000以下である。第1樹脂(A)の重量平均分子量が13,000未満であると、コロイダルディスパージョンにおける第1樹脂(A)の粒子の分散安定性が低下したり、塗膜強度が低くなる。第1樹脂(A)の重量平均分子量が80,000を超えると、ワニスの粘度が高くなる。
【0015】
中和された第1樹脂(A)の粒子(以下、単に「樹脂粒子」と称する場合がある。)の平均粒径は、20nm以上200nm以下である。中和樹脂粒子の平均粒径が200nmを超えると、沈降し易くなって、分散安定性に劣る。中和樹脂粒子の平均粒径は小さい方が望ましいが、下限値は20nmであってよい。
【0016】
中和樹脂粒子の平均粒径は、レーザ回折・散乱方式の粒度分布測定装置を用いた体積基準の粒度分布における、50%平均粒径(D50)である。
【0017】
本開示において、「コロイダルディスパージョン」は、分散した上記の中和樹脂粒子を含む水分散液を意味し、分散質としての上記の中和樹脂粒子と、分散媒としての脱イオン水と、を含む。
【0018】
有機溶剤を除去する工程とは、反応系から意図的に有機溶剤を除去することをいう。有機溶剤を除去する工程が省略できるとは、反応系から意図的に有機溶剤を除去するような作業を省略することができることを意味する。意図的に溶媒を除去する方法としては、例えば、常圧蒸留および減圧蒸留が挙げられる。一般的には、溶剤除去性の点で、減圧蒸留が用いられる。減圧蒸留では、例えば、0.05Pa以上0.1Pa未満の減圧下、30℃以上200℃以下の温度で、10分以上200分以下、蒸留が行われる。本開示では、ワニスの製造が開始されてから、コロイダルディスパージョンを得るまでの間に、例えばこのような減圧蒸留を行うことなく、コロイダルディスパージョンを得ることができる。
【0019】
樹脂粒子は分散安定性に優れるため、少ない脱イオン水でコロイダルディスパージョンを得ることができる。すなわち、得られるコロイダルディスパージョンは、高固形分濃度である。コロイダルディスパージョンを用いて水性の塗料組成物を調製する際に、追加で溶媒(水)を添加することを要せず(あるいは、追加される溶媒量を少なくすることができるため)、高固形分濃度の水性塗料組成物を得ることができる。そのため、タレのない塗膜が得られる。
【0020】
樹脂粒子は比較的高い疎水性を有する。そのため、コロイダルディスパージョンは、疎水性の樹脂を良く分散させることができる。疎水性の樹脂とは、例えば、後述の方法により実測される溶解パラメータ(SP値)が9.5以上(典型的には、10.0以上)12.0以下の樹脂である。疎水性の樹脂の種類は特に限定されない。疎水性の樹脂としては、例えば、SP値9.5以上12.0以下のメラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂が挙げられる。以下、他の樹脂を分散させる性能を、分散性能と称する。
【0021】
コロイダルディスパージョンは、初期の分散性能に加え、長期にわたって分散状態を維持することができる(以下、分散安定性能と称する。)
【0022】
コロイダルディスパージョンに含まれる中和樹脂粒子の平均粒径が小さいほど、コロイダルディスパージョンは、高い分散性能および分散安定性能を有する。分散性能および分散安定性能の観点から、中和樹脂粒子の平均粒径は、20nm以上150nm以下であってよい。
【0023】
樹脂粒子のSP値は、10.0以上11.3以下であり得る。SP値が10.0以上11.3以下の樹脂粒子を含むコロイダルディスパージョンは、より高い分散性能および分散安定性能を示す。樹脂粒子のSP値は、10.2以上であってよく、10.4以上であってよく、10.6以上であってよい。樹脂粒子のSP値は、11.2以下であってよく、11.0以下であってよい。
【0024】
SP値が10.0以上11.3以下であって、かつ平均粒径が20nm以上150nm以下の樹脂粒子を含むコロイダルディスパージョンは、特に高い分散性能および分散安定性能を示す。SP値は、中和前の樹脂粒子に相当する値である。
【0025】
コロイダルディスパージョンには、中和後の樹脂粒子が含まれる。中和樹脂粒子において、中和カルボキシ基の多くは、その高い親水性により、樹脂粒子の表面近傍に存在し、樹脂粒子内部には中和されていないカルボキシ基が存在し得る。そのため、樹脂粒子内部は疎水性である。コロイダルディスパージョンは、疎水性樹脂を樹脂粒子内部に取り込むことにより、分散することができる。すなわち、疎水性樹脂に対する分散性能および分散安定性能には、中和カルボキシ基を含まない樹脂粒子内部の樹脂成分が影響する。コロイダルディスパージョンは、中和カルボキシ基を含まない疎水性部分を有する樹脂粒子を含むため、疎水性樹脂に対する分散性能および分散安定性能を発揮する。
【0026】
SP値は、solubility parameter(溶解性パラメーター)の値の略で、溶解性の尺度となるものである。SP値は数値が大きいほど極性が高く、逆に数値が小さいほど極性が低いことを示す。
【0027】
例えば、SP値は次の方法によって実測することができる[参考文献:SUH、CLARKE、J.P.S.A-1、5、1671~1681(1967)]。
具体的には、コロイダルディスパージョン(固形分質量0.5g)を100mlガラスビーカーに秤量し、150℃で1時間加熱して、有機溶剤および水を除去する。その後、アセトン10mlをホールピペットを用いて加え、マグネティックスターラーにより、樹脂粒子を完全に溶解させて、サンプルとする。このサンプルに対して測定温度20℃で、50mlビュレットを用いて貧溶媒を滴下し、濁りが生じた点を滴下量とする。貧溶媒は、高SP貧溶媒としてイオン交換水を用い、低SP貧溶媒としてn-ヘキサンを使用して、それぞれ濁点測定を行う。有機溶剤のSP値δは下記計算式によって与えられる。
【0028】
δ=(Vml 1/2δml+Vmh 1/2δmh)/(Vml 1/2+Vmh 1/2
=V/(φ+φ
δ=φδ+φδ
i:溶媒の分子容(ml/mol)
φi:濁点における各溶媒の体積分率
δi:溶媒のSP値
ml:低SP貧溶媒混合系
mh:高SP貧溶媒混合系
【0029】
SP値の算出に供されるサンプルは、コロイダルディスパージョンを150℃で1時間加熱されたものである。この加熱により樹脂粒子表面にあるカルボキシ基を中和していた塩基性化合物が除去されて、樹脂粒子は中和されていない状態になる。すなわち、上記の方法によれば、中和前の樹脂粒子のSP値に相当するSP値が算出される。SP値は、他の方法により、中和前の樹脂粒子を用いて直接的に測定されてもよい。
【0030】
分散性能は、分散の対象となる樹脂の量の影響を受ける。固形分濃度が10質量%以上20質量%以下のコロイダルディスパージョンは、例えば、固形分濃度40質量%以下の疎水性樹脂を分散させることができる。
【0031】
(1)ワニスを得る工程
50℃以上180℃以下の温度下で、グリシジル基を1つ有する反応性溶媒(x)中にカルボキシ基含有エチレン性不飽和モノマー(a)を含むモノマー混合物を滴下する。
【0032】
本工程では、いわゆる溶液重合が行われる。反応性溶媒(x)が、重合反応の溶媒としても機能するため、得られるワニスの固形分濃度を85質量%以上に、言い換えれば、有機溶剤量をワニスの15質量%未満に抑えることができる。ワニスの固形分濃度は、87質量%以上であり得、90質量%以上であり得る。
【0033】
本工程では、モノマー混合物のラジカル重合、および、反応性溶媒(x)のグリシジル基とカルボキシ基含有モノマー(a)のカルボキシ基との開環付加反応が進行する。これにより、第1樹脂(A)が合成される。この合成は加熱下で行われるため、溶融状態の第1樹脂(A)を含むワニスが得られる。モノマー混合物は、カルボキシ基含有エチレン性不飽和モノマー(a)と、その他のエチレン性不飽和モノマーとを含む。第1樹脂(A)は、典型的にはアクリル樹脂である。
【0034】
ワニスを得る工程(第1樹脂(A)の合成工程とも言える。)は、2段階以上に分けて行われてよい。以下に、2段階以上に分けてワニスを得る2つの実施形態を説明する。ただし、本開示におけるワニスを得る工程は、これらの実施形態に限定されるものではない。
【0035】
(1-1)ワニスを得る工程の第1実施形態
本実施形態は、反応性溶媒(x)が疎水性基を有する場合に適している。
本実施形態において、ワニスを得る工程は、130℃以上180℃以下の温度下で、1つのグリシジル基および疎水性基を有する反応性溶媒(x)中に、第1のカルボキシ基含有エチレン性不飽和モノマー(a1)を含む第1のモノマー混合物を滴下して、疎水性樹脂(A1)を合成し、疎水性樹脂(A1)を含む液状物を得る第1工程と、70℃以上180℃以下の温度下で、上記の液状物中に、第2のカルボキシ基含有エチレン性不飽和モノマー(a2)を含む第2のモノマー混合物を滴下して、カルボキシ基含有樹脂(A2)を合成し、疎水性樹脂(A1)およびカルボキシ基含有樹脂(A2)を有する第1樹脂(A)を含むワニスを得る第2工程と、を備える。
【0036】
本実施形態では、1段階ごとに異なる原料モノマーを用いて重合することができるため、樹脂設計の自由度が大きくなる。
【0037】
第2工程の後、中和を行うことにより、カルボキシ基含有樹脂(A2)が親水化されて親水性樹脂となる。次いで転相乳化を行うことにより、コア部としての疎水性樹脂(A1)と、シェル部としての親水性樹脂(A2’)とを有するコアシェル構造の樹脂粒子が得られる。
【0038】
「コア部」と「シェル部」とは、化学的に架橋していてよく、架橋していなくてよい。本開示において、コアシェル構造の樹脂粒子は、その内部に疎水性樹脂(A1)を有し、外側に親水性樹脂(A2’)を有しており、疎水性樹脂(A1)の少なくとも一部が親水性樹脂(A2’)により覆われている。
【0039】
(1-1-1)第1工程
第1工程では、130℃以上180℃以下の温度下で、1つのグリシジル基および疎水性基を有する反応性溶媒(x)中に、第1のカルボキシ基含有エチレン性不飽和モノマー(a1)を含む第1のモノマー混合物を滴下する。第1のモノマー混合物は、第1のカルボキシ基含有エチレン性不飽和モノマー(a1)と、その他のエチレン性不飽和モノマーとを含む。
【0040】
第1工程では、反応性溶媒(x)のグリシジル基と第1のカルボキシ基含有モノマー(a1)のカルボキシ基との開環付加反応とともに、第1のモノマー混合物の重合反応が起きる。これにより、疎水性樹脂(A1)が合成されて、当該疎水性樹脂(A1)を含む液状物が得られる。疎水性樹脂(A1)は、水性塗料において、塗膜を形成するベース樹脂になる。
【0041】
(1-1-2)第2工程
第2工程では、70℃以上180℃以下の温度下で、上記の液状物中に、第2のカルボキシ基含有エチレン性不飽和モノマー(a2)を含む第2のモノマー混合物を滴下する。第2のモノマー混合物は、第2のカルボキシ基含有エチレン性不飽和モノマー(a2)と、その他のエチレン性不飽和モノマーとを含む。第2工程は、100℃以上180℃以下の温度下で行われてよい。
【0042】
第2工程では、主に、第2のモノマー混合物の重合が進行して、カルボキシ基含有樹脂(A2)が合成される。後工程で塩基性化合物が添加されると、このカルボキシ基が中和されて、カルボキシ基含有樹脂(A2)は親水化され、親水性樹脂(A2’)となる。親水性樹脂(A2’)は、第1樹脂(A)を水に分散させるための分散成分として作用して、樹脂粒子の粒径を小さくするとともに、その分散安定性を向上させる。
【0043】
第2工程に続いて、重合開始剤を追加して、撹拌および加熱するエージングを行ってもよい。エージングは、例えば、第2工程と同じ温度で、0.5時間以上3時間以下行われる。
【0044】
得られる第1樹脂(A)の重量平均分子量は、13,000以上80,000以下である。第1樹脂(A)の重量平均分子量は、15,000以上であってよく、16,000以上であってよい。第1樹脂(A)の重量平均分子量は、60,000以下であってよく、45,000以下であってよい。
【0045】
第1樹脂(A)重量平均分子量は、例えば、第1工程および第2工程おける重合条件、原料モノマーの種類、重合開始剤の量および種類、エージングの条件によって、調整され得る。例えば、第2工程および/またはエージングの時間を長くすると、第1樹脂(A)の重量平均分子量は大きくなり易く、エージングの時間を短くすると、第1樹脂(A)の重量平均分子量は小さくなり易い。
【0046】
得られる第1樹脂(A)(この場合、疎水性樹脂(A1)および親水性樹脂(A2’)を含んでいる。)のガラス転移温度(Tg)は、例えば、0℃以上50℃以下であってよい。第1樹脂(A)のTgが50℃以下であると、中和および転相乳化における系の粘度の増大が抑制されて、生産性の低下が抑制される。第1樹脂(A)のTgが0℃以上であると、分散安定性がさらに向上し得る。第1樹脂(A)のTgは、5℃以上であってよく、10℃以上であってよい。第1樹脂(A)のTgは、40℃以下であってよく、30℃以下であってよい。
【0047】
Tgは、原料モノマーの種類および量から計算によって求めてよく、示差走査型熱量計(DSC)によって測定されてもよい。第1樹脂(A)のTgは、樹脂粒子のTgとほぼ同じであるため、樹脂粒子のTgを第1樹脂(A)のTgとしてみなしてよい。樹脂粒子のTgは、コロイダルディスパーションを150℃で加熱したときの残分を用いて、上記方法によって、算出あるいは測定される。
【0048】
(第1,第2のモノマー混合物)
疎水性樹脂(A1)およびカルボキシ基含有樹脂(A2)の合成には、1種以上の原料モノマーが組み合わせて用いられる。各原料モノマーは、エチレン性不飽和基を有する。
【0049】
疎水性樹脂(A1)およびカルボキシ基含有樹脂(A2)の合成に使用される原料モノマーは、それぞれ同じであってよく、異なっていてよい。疎水性樹脂(A1)およびカルボキシ基含有樹脂(A2)の合成に使用される原料モノマーの組み合わせは、それぞれ同じであってよく、異なっていてよい。疎水性樹脂(A1)およびカルボキシ基含有樹脂(A2)の合成に使用される複数の原料モノマーの配合割合は、それぞれ同じであってよく、異なっていてよい。
【0050】
《第1,第2のカルボキシ基含有モノマー(a1)、(a2)》
第1,第2のカルボキシ基含有モノマー(a1)、(a2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、2-アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-アクリロイルオキシエチルコハク酸、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、イソクロトン酸、α-ハイドロ-ω-((1-オキソ-2-プロペニル)オキシ)ポリ(オキシ(1-オキソ-1,6-ヘキサンジイル))、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、3-ビニルサリチル酸、3-ビニルアセチルサリチル酸、β-カルボキシエチルアクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。(メタ)アクリル酸は、アクリル酸およびメタアクリル酸を表わす。
【0051】
第1のカルボキシ基含有モノマー(a1)と第2のカルボキシ基含有モノマー(a2)とは、同じであってよく、異なっていてよい。
【0052】
《その他のエチレン性不飽和モノマー》
各モノマー混合物は、カルボキシ基含有モノマーとともに、他のエチレン性不飽和モノマーを含んでよい。
【0053】
他のエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アリルアルコール、メタリルアルコール、および、これらとε-カプロラクトンとの付加物等の水酸基含有エチレン性不飽和モノマー;上記のカルボキシ基含有モノマーのエステル;スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸-n、i及びt-ブチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸ラウリル等のアクリル酸直鎖脂肪族エステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニル等のアクリル酸脂環式エステル;;アクリルアミド、メタクリルアミド等の重合性アミド化合物;重合性芳香族化合物、重合性ニトリル、重合性アルキレンオキシド化合物、多官能ビニル化合物、重合性アミン化合物、α-オレフィン、ジエン、重合性カルボニル化合物、重合性アルコキシシリル化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0054】
なかでも、各モノマー混合物は、カルボキシ基含有モノマーとともに、(メタ)アクリル酸脂環式エステルを含んでよい。これにより、第1樹脂(A)の疎水性が高くなって、得られる塗膜の耐水性が向上し得る。各モノマー混合物は、カルボキシ基含有モノマーとともに、水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(以下、水酸基含有モノマーと称する場合がある。)を含んでよい。水酸基は硬化反応の起点となり得るため、水酸基含有モノマーを用いると、得られる塗膜の硬度が高くなり易い。各モノマー混合物は、カルボキシ基含有モノマーとともに、(メタ)アクリル酸脂環式エステルおよび水酸基含有モノマーの両方を含んでよい。
【0055】
得られる塗膜の物性が向上する点で、第1のモノマー混合物において、カルボキシ基含有モノマーの質量は、第1のモノマー混合物100質量部に対して、5質量部以上30質量部以下であってよい。カルボキシ基含有モノマーの上記質量は、10質量部以上であってよい。カルボキシ基含有モノマーの上記質量は、25質量部以下であってよい。
【0056】
第1のモノマー混合物において、(メタ)アクリル酸脂環式エステルの質量は、第1のモノマー混合物100質量部に対して、5質量部以上40質量部以下であってよい。(メタ)アクリル酸脂環式エステルの上記質量は、10質量部以上であってよい。(メタ)アクリル酸脂環式エステルの上記質量は、35質量部以下であってよい。
【0057】
第1のモノマー混合物において、水酸基含有モノマーの質量は、第1のモノマー混合物100質量部に対して、5質量部以上30質量部以下であってよい。水酸基含有モノマーの上記質量は、7質量部以上であってよい。(メタ)アクリル酸脂環式エステルの上記質量は、25質量部以下であってよい。
【0058】
得られる親水性樹脂(A2’)の分散機能が向上する点で、第2のモノマー混合物において、カルボキシ基含有モノマーの質量は、第2のモノマー混合物100質量部に対して、5質量部以上30質量部以下であってよい。カルボキシ基含有モノマーの上記質量は、10質量部以上であってよい。カルボキシ基含有モノマーの上記質量は、25質量部以下であってよい。
【0059】
第2のモノマー混合物において、(メタ)アクリル酸脂環式エステルの質量は、第2のモノマー混合物100質量部に対して、5質量部以上40質量部以下であってよい。(メタ)アクリル酸脂環式エステルの上記質量は、7質量部以上であってよい。(メタ)アクリル酸脂環式エステルの上記質量は、35質量部以下であってよい。
【0060】
第2のモノマー混合物において、水酸基含有モノマーの質量は、第2のモノマー混合物100質量部に対して、5質量部以上30質量部以下であってよい。水酸基含有モノマーの上記質量は、10質量部以上であってよい。(メタ)アクリル酸脂環式エステルの上記質量は、25質量部以下であってよい。
【0061】
第1のカルボキシ基含有モノマー(a1)、第2のカルボキシ基含有モノマー(a2)および、反応性溶媒(x)は、例えば、コアシェル構造の樹脂粒子における疎水性樹脂(A1)と親水性樹脂(A2’)との質量割合(疎水性樹脂(A1):親水性樹脂(A2’)、質量%)が95:5から60:40となるように、混合される。
【0062】
親水性樹脂(A2’)の上記質量割合が5%以上であると、樹脂粒子の水への分散性がより向上し、水性塗料組成物の保存安定性が向上する。親水性樹脂(A2’)の上記質量割合が40%以下であると、塗膜の耐水性が向上し得る。疎水性樹脂(A1):親水性樹脂(A2’)は、90:10から70:30であってよく、85:15から75:25であってよい。
【0063】
(反応性溶媒(x))
反応性溶媒(x)は、カルボキシ基含有モノマー(主に、第1のカルボキシ基含有モノマー(a1))と化学的に反応するとともに、低粘度であるため、重合反応の溶媒として機能する。
【0064】
反応性溶媒(x)の23℃および回転数60rpmの条件下でB型粘度計により測定される粘度ηは、例えば、1mPa・s以上50mPa・s以下である。これにより、反応性溶媒(x)が優れた溶媒として機能し得る。反応性溶媒(x)の粘度ηは、2mPa・s以上であってよく、5mPa・s以上であってよい。反応性溶媒(x)の粘度ηは、35mPa・s以下であってよく、20mPa・s以下であってよい。
【0065】
反応性溶媒(x)は、溶液重合温度(130℃以上180℃以下の範囲内)より高い沸点を有する。反応性溶媒(x)の沸点は、例えば、130℃以上300℃以下である。反応性溶媒(x)の沸点は、140℃以上であってよく、180℃以上であってよい。反応性溶媒(x)の沸点は、290℃以下であってよく、280℃以下であってよい。
【0066】
反応性溶媒(x)は、グリシジル基を1つだけ有しているため、反応性溶媒(x)同士の反応および架橋反応が抑制されて、所望の疎水性樹脂(A1)を得ることができる。所望の疎水性樹脂(A1)は、炭素-炭素結合を主鎖として有し、側鎖として疎水性基を有する。
【0067】
反応性溶媒(x)は、1つのグリシジル基と疎水性基とを有する。反応性溶媒(x)は、モノカルボン酸グリシジルエステルであってよい。モノカルボン酸グリシジルエステルは、例えば、下記一般式(1):
【化1】
(式中、Rは一価の有機基である。)
で表される。
【0068】
Rは、一価の有機基であって、かつ、疎水性基を含む。疎水性基としては、炭化水素基が挙げられる。炭化水素基は、炭素および水素を含む基であって、炭化水素から1個の水素原子を脱離させた基を意味する。炭化水素基としては、例えば、炭素数1~28の、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素等が挙げられる。脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよく、飽和または不飽和のいずれであってもよい。炭素に結合する水素は、ハロゲン原子等により置換されていてもよい、
【0069】
疎水性基は、炭素数5~24の直鎖または分岐したアルキル基であってよい。これにより、第1樹脂(A1)は、鎖長の長いアルキル基を側鎖として有する。この長いアルキル基は第1樹脂(A1)に可塑性を付与するため、ワニスの粘度が低減して、重合反応がより均一に進行し得る。さらに、水性塗料組成物配合される他の疎水性材料(例えば、架橋剤および顔料)と、第1樹脂(A)との混合性が向上して、得られる塗膜の耐水性が一層向上し得る。上記アルキル基の炭素数は、7~18であってよく、8~15であってよい。上記アルキル基は、飽和していてよい。上記アルキル基は、分岐していてよい。なかでも、Rが疎水性基であってよく、炭素数5~24の分岐した飽和アルキル基であってよい。
【0070】
反応性溶媒(x)の使用量は、例えば、第1モノマー混合物、第2モノマー混合物、反応性溶媒およびその他の溶剤の合計質量(以下、「総仕込み量」と称する場合がある。)100質量部に対して、20質量部以上60質量部以下であってよい。これにより、反応熱の制御が容易となるとともに、重合反応が均一に進行し得る。反応性溶媒(x)の上記使用量は、25質量部以上であってよい。反応性溶媒(x)の上記使用量は、40質量部以下であってよい。総仕込み量は、得られるワニスの質量と同じであるとみなしてよい。
【0071】
(重合開始剤)
第1工程、第2工程およびエージングにおいて、重合開始剤が使用され得る。重合開始剤の総使用量は、例えば、原料モノマーの種類および量に応じて適宜設定される。重合開始剤の総使用量は、例えば、第1モノマー混合物および第2モノマー混合物の合計100質量部に対して、0.2質量部以上2.0質量部以下であってよい。重合開始剤の上記使用量は、0.2質量部以上であってよい。重合開始剤の上記使用量は、1.5質量部以下であってよい。
【0072】
重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、2,2-ジ(t-アミルパーオキシ)ブタン、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-t-アミルパーオキサイド(DTA)、t-ブチルパーオクトエート、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)が挙げられる。
【0073】
(有機溶剤)
ワニスは、15質量%未満の質量割合で、反応性溶媒(x)以外の有機溶剤を含み得る。他の有機溶剤としては、例えば、溶液重合温度(130℃以上180℃以下の範囲内)より高い沸点を有する高沸点溶媒が挙げられる。
【0074】
高沸点溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジメチルカルビトール、ブチルカルビトール、ブチルジカルビトール、ブチルセロソルブ、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。
【0075】
環境負荷低減の観点から、水性塗料組成物は、低温硬化性を有していることも望まれている。低温硬化性の観点からも、高沸点溶媒の質量割合は少ないことが望ましい。ワニスにおける高沸点溶媒の質量割合は、13質量%未満であってよく、10質量%未満であってよい。
【0076】
(1-2)ワニスを得る工程の第2実施形態
本実施形態において、ワニスを得る工程は、50℃以上130℃未満の温度下で、反応性溶媒(x)中に、カルボキシ基含有エチレン性不飽和モノマー(a)を含むモノマー混合物を滴下して、モノマー混合物の重合を行って、第1樹脂(A)の前駆体を得る工程と、130℃以上180℃以下に昇温し、反応性溶媒(x)と前駆体とを反応させて、第1樹脂(A)を含むワニスを得る工程と、を含む。
【0077】
本実施形態では、エポキシ環の開環反応が低温で起こり難いことを利用して、エチレン性不飽和モノマーの重合反応と、開環反応とを段階的に行っている。本実施形態によれば、揮発性の高い原料モノマーを使用する場合にも、確実に重合反応を進行させることができて、第1樹脂(A)に疎水性部分を含ませることができる。
【0078】
第1樹脂(A)の前駆体を得る工程の温度は、50℃以上であってよい。第1樹脂(A)の前駆体を得る工程の温度は、110℃以下であってよい。
【0079】
モノマー混合物に含まれる原料モノマー、反応性溶媒(x)、重合開始剤および有機溶媒としては、第1実施形態における例示と同様のものが挙げられる。各成分の使用量は、第1実施形態における第1モノマー混合物および第2モノマー混合物の合計質量を、本実施形態におけるモノマー混合物の質量と読み替えて、第1実施形態と同様の範囲であってよい。
【0080】
(2)中和および転相乳化工程
まず、70℃以上98℃以下の温度下で、ワニスに塩基性化合物を添加して、第1樹脂(A)に残存するカルボキシ基を中和する。これにより、第1樹脂(A)は水分散可能になる。その後、70℃以上98℃以下の温度下で、ワニスに脱イオン水を投入して転相乳化させる。これにより、樹脂粒子を含むコロイダルディスパージョンが得られる。
【0081】
中和および転相乳化する際のワニスの温度が70℃以上98℃以下であると、塩基性化合物および脱イオン水の揮発を抑制しながら、第1樹脂(A)を十分に軟化させることができる。これにより、第1樹脂(A)は脱イオン水中に微分散し易くなる。特に、ワニスの温度が、第1樹脂(A)のTg以上であると、第1樹脂(A)はさらに微分散し易くなる。
【0082】
転相乳化によって形成される樹脂粒子の平均粒径は、20nm以上200nm以下である。樹脂粒子の平均粒径は、180nm以下であってよく、160nm以下であってよく、150nm以下であってよい。樹脂粒子の平均粒径は、25nm以上であってよく、30nm以上であってよい。一態様において、樹脂粒子の平均粒径は、20nm以上150nm以下であってよい。
【0083】
転相乳化は、例えば、中和された第1樹脂(A)を含むワニスと脱イオン水との混合物を撹拌しながら行われる。攪拌により、樹脂粒子の平均粒径はより小さくなり得る。
【0084】
樹脂粒子の平均粒径は、例えば、ラジカル重合の条件、原料モノマーの種類、転相乳化時の攪拌条件によって、調整され得る。例えば、中和率を低くすると、樹脂粒子の平均粒径は大きくなり易く、中和率を高くすると、樹脂粒子の平均粒径は小さくなり易い。
【0085】
コロイダルディスパージョンの固形分濃度は、例えば、30質量%以上45質量%以下である。コロイダルディスパージョンの固形分濃度は、34質量%以上であってよく、36質量%以上であってよい。コロイダルディスパージョンの固形分濃度は、42質量%以下であってよく、40質量%以下であってよい。
【0086】
コロイダルディスパージョンの固形分濃度は、コロイダルディスパージョンを150℃で加熱したときの残分から算出される。
【0087】
23℃および回転数60rpmの条件下でB型粘度計により測定されるコロイダルディスパージョンの粘度η60は、例えば、50mPa・s以上700mPa・s以下である。これにより、コロイダルディスパージョンを、溶媒で希釈することなく、水性塗料組成物に配合することができる。コロイダルディスパージョンの粘度η60は、80mPa・s以上であってよく、100mPa・s以上であってよい。コロイダルディスパージョンの粘度η60は、630mPa・s以下であってよく、600mPa・s以下であってよく、500mPa・s以下であってよく、300mPa・s以下であってよく、295mPa・s以下であってよく、290mPa・s以下であってよい。
【0088】
粘度η60は、23℃、回転数60rpmの条件下にて、B型粘度計(例えば、商品名:ビスコメータ VT-06、2号ロータ、リオン株式会社製)を用い、JIS-Z8803「液体の粘度測定方法 9.単一円筒形回転粘度計による粘度測定方法」に準じて測定される。
【0089】
(塩基性化合物)
塩基性化合物としては、例えば、ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソブチルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジ-sec-ブチルアミン、ジアミルアミン、N-エチル-1,2-ジメチルプロピルアミン、N-メチルヘキシルアミン、ジ-n-オクチルアミン、ジアリルアミン等の第2級脂肪族アミン化合物;トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリアリルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-メチルジアリルアミン、N,N-ジメチルアリルアミン等の第3級脂肪族アミン化合物;ピペリジン、2-ピペコリン、3-ピペコリン、4-ピペコリン、2,4-ルペチジン、2,6-ルペチジン、3,5-ルペチジン、3-ピペリジンメタノール等の第2級環状アミン化合物;N-メチルピペリジン、N-メチルピペラジン、N-メチルモルホリン等の第3級環状アミン化合物;ピリジン、4-エチルピリジン等の芳香族アミン化合物が挙げられる。
【0090】
塩基性化合物は、例えば、第1樹脂(A)が有するカルボキシ基の中和率が70%以上100%以下になる量、添加される。中和率がこの範囲であると、第1樹脂(A)の水分散性が向上し、平均粒径がより小さくなり得る。中和率は、50%以上であってよく、55%以上であってよく、60%以上であってよく、65%以上であってよく、70%以上であってよく、75%以上であってよく、80%以上であってよく、85%以上であってよく、90%以上であってよい。
【0091】
中和率は、カルボキシ基に対する塩基性化合物の使用当量と同意義である。中和率は、下記式により算出される。
【0092】
第1樹脂(A)の酸価は、例えば、10mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であってよい。第1樹脂(A)の酸価は、15mgKOH/g以上であってよく、20mgKOH/g以上であってよい。第1樹脂(A)の酸価は、40mgKOH/g以下であってよく、35mgKOH/g以下であってよい。
【0093】
第1樹脂(A)の酸価は、JISの規定に基づいて、原料モノマーの組成から算出されてよく、JIS K 0070に準じて、水酸化カリウム水溶液を用いる中和滴定法により求められてよい。第1樹脂(A)の酸価は、樹脂粒子の酸価とほぼ同じであるため、樹脂粒子の酸価を第1樹脂(A)の酸価としてみなしてよい。樹脂粒子の酸価は、コロイダルディスパーションを用いて上記の中和滴定法により求めた酸価を、コロイダルディスパーションの固形分濃度で除すことにより算出できる。
【0094】
(水性塗料組成物)
本開示に係る方法により得られるコロイダルディスパージョンは、水性の塗料組成物の調製に好適に用いられる。水性塗料組成物は、溶媒として、水を全溶媒の50質量%以上(特には、80質量%以上)の割合で含む。
【0095】
コロイダルディスパージョンは、水性塗料組成物に、塗膜形成樹脂として配合され得、顔料分散剤として配合され得る。樹脂粒子が水酸基を有している場合(モノマー混合物が水酸基含有モノマーを含む場合)、水性塗料組成物に含まれる架橋剤と反応することができる。そのため、本開示により得られるコロイダルディスパーションを用いると、得られる塗膜の各種物性が向上し得る。
【0096】
水性塗料組成物は、例えば、上記のコロイダルディスパージョンと、架橋剤と、顔料と、必要に応じて、脱イオン水と、各種添加剤と、を含む。水性塗料組成物は、必要に応じて、従来公知の塗膜形成樹脂および/または顔料分散剤を含み得る。顔料としては、例えば、着色顔料、光輝性顔料、体質顔料が挙げられる。添加剤としては、例えば、表面調整剤、粘性制御剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、消泡剤が挙げられる。
【実施例
【0097】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0098】
[実施例1]
(1)第1工程(疎水性アクリル樹脂(A1)の調製)
攪拌機、温度調節機、冷却管および滴下装置を備えた反応容器に、反応性溶媒(CAE、炭素原子数9の分岐アルキル基を有するモノカルボン酸のグリシジルエステル、商品名:カーデュラーE10P、ヘキシオン社製、粘度7mPa・s、沸点251~278℃)30部を仕込み、攪拌しながら165℃に昇温し、還流させた。別途、アクリル酸(AA)9.47部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)5.8部、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)11.6部、n-ブチルアクリレート(NBA)7.5部、スチレン(ST)16.9部、重合開始剤(DTA、商品名;ルペロックスDTA、アルケマ吉富社製)0.28部、および、高沸点溶剤(ジプロプレングリコールモノメチルエーテル(DPM))6.5部の混合物を調製した。この混合物を、上記反応容器に、165℃下で3.5時間かけて滴下し、重合反応および開環付加反応させた。
【0099】
(2)第2工程(カルボキシ基含有アクリル樹脂(A2)の調製)およびエージング
別途、AAを3.43部、HEMAを3.8部、CHMAを2.7部、NBAを2.9部、STを5.8部、重合開始剤(ルペロックスDTA)を0.11部、高沸点溶剤(DPM)を2.4部の混合物を調製した。上記の反応容器に、この混合物を攪拌しながら165℃下で、1時間かけて要して滴下し、そのまま1時間重合させた。さらに、上記の反応容器に、重合開始剤(ルペロックスDTA)0.1部と高沸点溶剤(DPM)0.1部との混合物を加え、攪拌しながら165℃下で、1時間重合反応させた。
【0100】
このようにして、疎水性樹脂(A1)およびカルボキシ基含有樹脂(A2)を有するアクリル樹脂(A)を含む、固形分濃度91質量%のワニスを得た。得られたアクリル樹脂(A)の重量平均分子量は32,000であった。
【0101】
(重量平均分子量)
重量平均分子量は、GPC装置として「HLC8220GPC」(商品名、東ソー(株)製)、カラムとして「Shodex KF-606M」、「Shodex KF-603」(いずれも昭和電工(株)製、商品名)の4本を用いて、移動相:テトラヒドロフラン、測定温度:40℃、流速:0.6cc/分、検出器:RIの条件で、測定した。
【0102】
(3)中和および転相乳化
ワニスに、80℃下、アクリル樹脂100部に対して5.33部の割合で塩基性化合物(ジメチルエタノールアミン、DMEA)を加え、15分間攪拌した。カルボキシ基の中和率は90%とした。続いて、80℃下、中和後のワニスに脱イオン水150部を滴下しながら攪拌し、乳白色のコロイダルディスパージョンを得た。
【0103】
コロイダルディスパーションの固形分濃度は38質量%、粘度η60は130mPa・s、pHは8.2であった。コロイダルディスパージョンに含まれるアクリル樹脂粒子は、コアシェル構造であると予想され、その平均粒径は85nm、Tgは20℃、酸価は34mgKOH/gであった。なお、アクリル樹脂粒子のTgおよび酸価は、第1樹脂(A)のTgおよび酸価とみなして差し支えない。
【0104】
(酸価(AV))
コロイダルディスパージョン1gをテトラヒドロフラン(THF)50mlに溶解させ、JIS K 0070に準じた水酸化カリウム水溶液を用いる中和滴定法によって、コロイダルディスパージョンの酸価を求めた。次いで、この酸価をコロイダルディスパージョンの固形分濃度で除すことにより、樹脂粒子の固形分酸価を算出し、これをアクリル樹脂(A)の酸価とした。
【0105】
(ガラス転移温度(Tg))
コロイダルディスパーションを1時間150℃で加熱して、加熱残分を得た。セイコー電子工業社製のDSC(Differental Scaning Calorymeter)を用いて、昇温速度10℃/分でデータを得、ベースラインと変曲点接線の交点をTgとした。このTgをアクリル樹脂(A)のTgとした。
【0106】
(SP値)
上記の通りにして、中和樹脂粒子のSP値を算出した。
【0107】
[実施例2-11、比較例1,2]
原料モノマーの種類および中和率等を表1、表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、コロイダルディスパージョンを得た。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
[比較例3]
反応性溶媒を用いずに、以下のようにしてコアシェル型のアクリル樹脂(B)の粒子を含むディスパージョンを得た。
【0111】
(a)マクロモノマー(コア部)の調製
攪拌機、温度調節機、冷却管および滴下装置を備えた反応容器に、メチルイソブチルケトン(MIBK)23.7部を仕込み、110℃に加熱した。続いて、表3に記載の原料モノマーと、MIBK4.8部中にtert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサネート8.3部を溶解させた溶液とを、90分かけて並行して等速滴下した。反応容器を110℃で30分間保った後、MIBK3.2部中にtert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサネート0.3部を溶解させた溶液を、30分かけて等速滴下した。続いて、110℃で60分間攪拌した。反応容器を110℃に維持したまま、さらに無水メタクリル酸0.8部を加え、2時間保持した。その後、60℃まで冷却して、マクロモノマーを得た。
【0112】
(b)コアシェル型のアクリル樹脂(B)の調製
別途、冷却及び加熱装置を備えた反応器に、MIBK39.7部を仕込み、110℃まで加熱した。その後、表3に記載の原料モノマーと、MIBK8.6部中にtert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサネート2.1部を溶解させた溶液とを、90分かけて並行して等速滴下した。
【0113】
上記反応容器を110℃で30分間保った後、MIBK2.9部中にtert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサネート0.3部を溶解させた溶液を、30分かけて等速滴下した。続いて、110℃で60分間攪拌した後、混合物を70℃まで冷却した。
【0114】
このようにして、コアシェル型のアクリル樹脂(B)を含む、固形分濃度55質量%のワニスv1を得た。得られたアクリル樹脂(B)の重量平均分子量は15,000であった。
【0115】
(c)脱溶剤
ワニスv1(181.8部)から、MIBK81.8部を減圧下で留去した。次いで、DPM15部を添加して、ワニスv2を得た。減圧蒸留は、約5kPa、温度90℃で120分行った。
【0116】
(d)中和および転相乳化
ワニスv2に、80℃下、アクリル樹脂(B)100部に対して2.53部の割合でDMEAを加え、15分間攪拌した(中和率75%)。続いて、80℃下、中和後のワニスに脱イオン水155部を滴下しながら攪拌し、乳白色のコロイダルディスパージョンを作製した。得られたアクリル樹脂(B)のディスパージョンの樹脂固形分は36質量%であった。
【0117】
(c)脱溶剤、(d)中和および転相乳化の条件等をまとめて表4に示す。
【0118】
【表3】
【0119】
【表4】
【0120】
[評価]
コロイダルディスパージョンについて、以下の評価を行った。結果を表6に示す。
【0121】
(1)分散安定性
コロイダルディスパージョンを40℃の温度下で、1カ月間静置した。沈降の有無を目視で観察し、以下の基準に従って評価した。
【0122】
A:1カ月を経過した時点で沈降なし
B:1週間を経過した時点で沈降なし
C:24時間を経過した時点で沈降が確認された
D:1時間を経過した時点で沈降が確認された
【0123】
(2)臭気
コロイダルディスパージョンの臭気の有無を、官能評価よって以下の判断基準で評価した。
無し:鼻にツンとくる刺激臭はなく、ほぼ臭いがしない
有り:シンナー臭および/または刺激臭がする
【0124】
(3)コロイダルディスパージョンの疎水性樹脂に対する分散性能
・サンプルの調製
疎水性メラミン樹脂(SP値:10.1、商品名:サイメル250、Allnex社製)と、界面活性剤(アセチレングリコール系、商品名:サーフィノール465、エボニックインダストリーズ社製)と、有機溶剤(イソパラフィン、商品名:メルベイユ30、出光興産(株)製)とを、固形分比が下記表のようになるように混合した。続いて、ディスパーで攪拌しながらコロイダルディスパージョンを添加し、さらに10分間攪拌した。次いで、ディスパーで攪拌しながら、総量が100質量%になるように純水を添加し、さらに3分間攪拌した。このようにしてサンプルを調製した。
【0125】
【表5】
【0126】
・初期分散性能
上記サンプルを、固形分濃度が0.01質量%となるように水で希釈した。希釈サンプルに含まれる樹脂の粒子径を動的光散乱法(機器名:ELSZ-2000ZS,大塚電子)で3回測定し、キュムラント解析によりキュムラント径を取得した。取得されたキュムラント径を平均化して、メラミン樹脂の分散径とした。分散径が、300nm以下であれば、コロイダルディスパージョンは、初期分散性能に優れるといえる。
【0127】
・分散安定性能
上記サンプルを透明の瓶に入れ、室温で静置した。1日後および5日後に、瓶を傾けて、底に沈殿が存在する否かを目視で観察した。5日後に沈殿が確認できない場合、コロイダルディスパージョンは、分散安定性能に優れるといえる。
【0128】
(評価基準)
A:5日経過後も沈降なし
B:5日経過後に沈殿が確認できる
C:1日経過後に沈殿が確認できる
D:調製時にサンプルの流動性がなく、分散が確認できない
【0129】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0130】
本開示の製造方法は、有機溶剤の使用を低減しながら、分散安定性に優れたコロイダルディスパージョンを得ることができる。得られたコロイダルディスパージョンは、水性塗料組成物に好適に用いられる。
【0131】
本願は、2023年4月28日付けで日本国にて出願された特願2023-074538に基づく優先権を主張し、その記載内容の全てが、参照することにより本明細書に援用される。
【要約】
50℃以上180℃以下の温度下で、グリシジル基を1つ有する反応性溶媒(x)中にカルボキシ基含有エチレン性不飽和モノマー(a)を含むモノマー混合物を滴下して、第1樹脂(A)を含むワニスを得る工程と、70℃以上98℃以下の温度下で、前記ワニスに塩基性化合物を添加して、前記第1樹脂(A)に残存するカルボキシ基を中和した後、さらに脱イオン水を投入して、転相乳化させ、中和された前記第1樹脂(A)の粒子を含むコロイダルディスパージョンを得る工程と、を備え、前記ワニスの固形分濃度は、85質量%以上であり、前記ワニスに含まれる前記第1樹脂(A)の重量平均分子量は、13000以上80000以下であり、前記中和された第1樹脂(A)の前記粒子の平均粒径は、20nm以上200nm以下である、コロイダルディスパージョンの製造方法。