(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】マイクロ波処理装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/68 20060101AFI20241220BHJP
【FI】
H05B6/68 320P
H05B6/68 320Z
(21)【出願番号】P 2022501728
(86)(22)【出願日】2021-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2021002532
(87)【国際公開番号】W WO2021166563
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2023-11-06
(31)【優先権主張番号】P 2020027701
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100151378
【氏名又は名称】宮村 憲浩
(74)【代理人】
【識別番号】100157484
【氏名又は名称】廣田 智之
(72)【発明者】
【氏名】細川 大介
(72)【発明者】
【氏名】細川 周子
(72)【発明者】
【氏名】大森 義治
(72)【発明者】
【氏名】中村 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】夘野 高史
【審査官】西村 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-142452(JP,A)
【文献】特開2018-081908(JP,A)
【文献】国際公開第2011/027529(WO,A1)
【文献】特開2010-272216(JP,A)
【文献】国際公開第2013/038715(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を収容するように構成された加熱室と、
所定の周波数帯域における任意の周波数を有するマイクロ波を発生するように動作可能なマイクロ波発生部と、
前記マイクロ波を増幅し、増幅された前記マイクロ波を入射電力として出力するように動作可能な増幅部と、
前記入射電力を前記加熱室に供給するように構成された給電部と、
前記入射電力と前記加熱室から前記給電部に戻る反射電力とを検出するように動作可能な検出部と、
前記マイクロ波発生部および前記増幅部を制御するように動作可能な制御部と、
前記入射電力および前記反射電力を、前記マイクロ波の前記周波数および加熱の開始からの経過時間とともに記憶するように動作可能な記憶部と、を備え、
前記制御部は、前記マイクロ波発生部に、前記所定の周波数帯域にわたって周波数掃引を行わせるように動作可能であり、前記周波数掃引の間に検出された前記入射電力および前記反射電力に基づいて前記マイクロ波発生部および前記増幅部を制御するように動作可能であり、前記マイクロ波の前記周波数を変化させる際に、前記マイクロ波の出力を停止する停止時間を設定し、前記マイクロ波の前記周波数に応じて前記停止時間を変化させるように動作可能である、マイクロ波処理装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記周波数掃引における前記周波数の各々に関する前記入射電力に対する前記反射電力の割合である反射波率を算出し、前記停止時間を前記反射波率が低いほど長く設定するように動作可能である、請求項1に記載のマイクロ波処理装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記周波数掃引における前記周波数の各々に関する前記入射電力に対する前記反射電力の割合である反射波率を算出し、前記反射波率が所定の値を超えた前記周波数の前記マイクロ波には前記停止時間を設定しないように動作可能である、請求項1に記載のマイクロ波処理装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記周波数に応じて前記マイクロ波の出力におけるデューティ比を変更するように動作可能である、請求項1に記載のマイクロ波処理装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記周波数掃引における前記周波数の各々に関する前記入射電力に対する前記反射電力の割合である反射波率を算出し、前記反射波率が高いほど前記デューティ比を高く設定するように構成された、請求項4に記載のマイクロ波処理装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記周波数掃引における前記周波数の各々に関する前記入射電力に対する前記反射電力の割合である反射波率を算出し、前記反射波率が所定の値を超えた前記周波数の前記マイクロ波には前記デューティ比を100%に設定するように動作可能である、請求項4に記載のマイクロ波処理装置。
【請求項7】
被加熱物を収容するように構成された加熱室と、
所定の周波数帯域における任意の周波数を有するマイクロ波を発生するように動作可能なマイクロ波発生部と、
前記マイクロ波を増幅し、増幅された前記マイクロ波を入射電力として出力するように動作可能な増幅部と、
前記入射電力を前記加熱室に供給するように構成された給電部と、
前記入射電力と前記加熱室から前記給電部に戻る反射電力とを検出するように動作可能な検出部と、
前記マイクロ波発生部および前記増幅部を制御するように動作可能な制御部と、
前記入射電力および前記反射電力を、前記マイクロ波の前記周波数および加熱の開始からの経過時間とともに記憶するように動作可能な記憶部と、を備え、
前記制御部は、前記マイクロ波発生部に、前記所定の周波数帯域にわたって周波数掃引を行わせるように動作可能であり、前記周波数掃引の間に検出された前記入射電力および前記反射電力に基づいて前記マイクロ波発生部および前記増幅部を制御するように動作可能であり、前記マイクロ波発生部に、前記入射電力に対する前記反射電力の割合である反射波率が最も低い反射波率の周波数と最も高い反射波率の周波数と2番目に低い反射波率の周波数と2番目に高い反射波率の周波数とを少なくとも順番に発生させるように動作可能である、マイクロ波処理装置。
【請求項8】
被加熱物を収容するように構成された加熱室と、
所定の周波数帯域における任意の周波数を有するマイクロ波を発生するように動作可能なマイクロ波発生部と、
前記マイクロ波を増幅し、増幅された前記マイクロ波を入射電力として出力するように動作可能な増幅部と、
前記入射電力を前記加熱室に供給するように構成された給電部と、
前記入射電力と前記加熱室から前記給電部に戻る反射電力とを検出するように動作可能な検出部と、
前記マイクロ波発生部および前記増幅部を制御するように動作可能な制御部と、
前記入射電力および前記反射電力を、前記マイクロ波の前記周波数および加熱の開始からの経過時間とともに記憶するように動作可能な記憶部と、を備え、
前記制御部は、前記マイクロ波発生部に、前記所定の周波数帯域にわたって周波数掃引を行わせるように動作可能であり、前記周波数掃引の間に検出された前記入射電力および前記反射電力に基づいて前記マイクロ波発生部および前記増幅部を制御するように動作可能であり、前記周波数掃引における前記周波数の各々に関する前記入射電力に対する前記反射電力の割合である反射波率を算出し、前記マイクロ波発生部に、前記反射波率の最も高い周波数から順に前記マイクロ波を発生させるように動作可能である、マイクロ波処理装置。
【請求項9】
被加熱物を収容するように構成された加熱室と、
所定の周波数帯域における任意の周波数を有するマイクロ波を発生するように動作可能
なマイクロ波発生部と、
前記マイクロ波を増幅し、増幅された前記マイクロ波を入射電力として出力するように動作可能な増幅部と、
前記入射電力を前記加熱室に供給するように構成された給電部と、
前記入射電力と前記加熱室から前記給電部に戻る反射電力とを検出するように動作可能な検出部と、
前記マイクロ波発生部および前記増幅部を制御するように動作可能な制御部と、
前記入射電力および前記反射電力を、前記マイクロ波の前記周波数および加熱の開始からの経過時間とともに記憶するように動作可能な記憶部と、を備え、
前記制御部は、前記マイクロ波発生部に、前記所定の周波数帯域にわたって周波数掃引を行わせるように動作可能であり、前記周波数掃引の間に検出された前記入射電力および前記反射電力に基づいて前記マイクロ波発生部および前記増幅部を制御するように動作可能であり、前記周波数掃引における前記周波数の各々に関する前記入射電力に対する前記反射電力の割合である反射波率を算出し、前記マイクロ波発生部に、前記反射波率が所定の値を超えた前記周波数の前記マイクロ波のみを発生させるように動作可能である、マイクロ波処理装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記マイクロ波発生部に、前記反射波率が前記所定の値を超えた前記周波数の前記マイクロ波のみを前記加熱の開始から終了まで発生させるように動作可能である、請求項9に記載のマイクロ波処理装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記加熱の開始から終了までの時間の最初の半分が経過するまでに、前記反射波率を算出するように動作可能である、請求項9に記載のマイクロ波処理装置。
【請求項12】
被加熱物を収容するように構成された加熱室と、
所定の周波数帯域における任意の周波数を有するマイクロ波を発生するように動作可能なマイクロ波発生部と、
前記マイクロ波を増幅し、増幅された前記マイクロ波を入射電力として出力するように動作可能な増幅部と、
前記入射電力を前記加熱室に供給するように構成された給電部と、
前記入射電力と前記加熱室から前記給電部に戻る反射電力とを検出するように動作可能な検出部と、
前記マイクロ波発生部および前記増幅部を制御するように動作可能な制御部と、
前記入射電力および前記反射電力を、前記マイクロ波の前記周波数および加熱の開始からの経過時間とともに記憶するように動作可能な記憶部と、を備え、
前記制御部は、前記マイクロ波発生部に、前記所定の周波数帯域にわたって周波数掃引を行わせるように動作可能であり、前記周波数掃引の間に検出された前記入射電力および前記反射電力に基づいて前記マイクロ波発生部および前記増幅部を制御するように動作可能であり、前記制御部は、前記加熱室の温度に基づいて、前記マイクロ波発生部に前記周波数掃引を行なわせ、前記マイクロ波の発振条件である前記マイクロ波の前記周波数および出力レベルを再設定するように動作可能である、マイクロ波処理装置。
【請求項13】
前記制御部は、前記加熱室の温度が所定値変化するたびに、前記マイクロ波発生部に前記周波数掃引を行なわせ、前記マイクロ波の前記発振条件を再設定するように動作可能である、請求項12記載のマイクロ波処理装置。
【請求項14】
前記制御部は、前記加熱室の温度が所定温度を通過するたびに、前記マイクロ波発生部に前記周波数掃引を行なわせ、前記マイクロ波の前記発振条件を再設定するように動作可能である、請求項12に記載のマイクロ波処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マイクロ波発生部を備えたマイクロ波処理装置(Microwave treatment device)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体発振素子を有し、マイクロ波の周波数および出力レベルを制御して被加熱物をより均一に加熱しようとするマイクロ波処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来のマイクロ波処理装置は、マイクロ波の入射波と反射波との差に基づいて、各周波数における被加熱物に吸収されたマイクロ波電力の量を算出する。従来のマイクロ波処理装置は、この情報に基づいて各周波数におけるマイクロ波の出力レベルおよび発振時間を調整することで、加熱の均一化を図るものである。
【0004】
マイクロ波の周波数が変わると、加熱室内のマイクロ波分布、すなわち、被加熱物に対する加熱パターンが変わる。このため、従来のマイクロ波処理装置では、各周波数における被加熱物に吸収された電力を同等にすることを重要視している。
【0005】
従来のマイクロ波処理装置は、マイクロ波の入射波と反射波との差が被加熱物に吸収された電力の量であると推定し、各周波数における被加熱物に吸収された電力が同等になるようにマイクロ波の周波数、出力レベル、および、発振時間を制御する。
【0006】
従来の技術は、マイクロ波の伝送経路、および、加熱室の壁面におけるマイクロ波の散逸を考慮する。これにより、各周波数における被加熱物に吸収された電力の推定における精度を改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術を電子レンジに適用しても、実際の調理において十分な加熱の均一性を達成することは難しい。
【0009】
電子レンジで食品を加熱すると、温度変化に伴って食品の誘電率は変化する。特に、冷凍食品の場合、温度上昇によりその一部分が融解すると、その融解部分の誘電率は急激に上昇する。このため、マイクロ波の周波数および出力レベルを制御しても、冷凍食品の融解部分へのマイクロ波の集中を抑制することは困難である。その結果、加熱ムラが発生する。
【0010】
電子レンジの加熱室において、マイクロ波は、給電部に近い被加熱物の部分には他の部分よりも集中する傾向が強い。このため、マイクロ波の周波数および出力レベルを制御しても、冷凍食品の融解部分へのマイクロ波の集中を抑制することは困難である。その結果、加熱ムラが発生する。
【0011】
本開示の目的は、被加熱物をより均一に加熱することができるマイクロ波処理装置を提供することである。
【0012】
本開示の一態様のマイクロ波処理装置は、被加熱物を収容するための加熱室と、マイクロ波発生部と、増幅部と、給電部と、検出部と、制御部と、記憶部と、を備える。
【0013】
マイクロ波発生部は、所定の周波数帯域における任意の周波数を有するマイクロ波を発生する。増幅部は、マイクロ波を増幅し、増幅されたマイクロ波を入射電力として出力する。給電部は、入射電力を加熱室に供給する。検出部は、入射電力と加熱室から給電部に戻る反射電力とを検出する。記憶部は、入射電力と反射電力とを、マイクロ波の周波数と加熱の開始からの経過時間とに関連付けて記憶する。
【0014】
制御部は、マイクロ波発生部に、所定の周波数帯域にわたって周波数掃引を行わせる。制御部は、周波数掃引の間に検出された入射電力および反射電力に基づいてマイクロ波発生部および増幅部を制御する。
【0015】
本態様によれば、加熱の均一性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態に係るマイクロ波処理装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2A】
図2Aは、実施例1による周波数と出力レベルと停止時間との時間的変化の一例を模式的に示す図である。
【
図2B】
図2Bは、実施例1による周波数ごとに設定される停止時間の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、(a)反射波率の周波数特性の一例を示す図、および、(b)実施例2による周波数ごとに設定される停止時間の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、(a)反射波率の周波数特性と設定された閾値との一例を示す図、および、(b)閾値を考慮した場合の周波数ごとに設定される停止時間の一例を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、実施例4による周波数と出力レベルとデューティ比との時間的変化の一例を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、実施例4による周波数ごとに設定されるデューティ比の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、(a)反射波率の周波数特性の一例を示す図、および、(b)実施例5による周波数ごとに設定されるデューティ比の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、(a)反射波率の周波数特性の一例を示す図、および、(b)閾値を考慮した場合の周波数ごと設定されるデューティ比の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例7による周波数と反射波率との時間的変化の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施例8による周波数と反射波率との時間的変化の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、実施例9による周波数と反射波率との時間的変化の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、反射波率の周波数特性と設定された閾値との一例を示す図である。
【
図12】
図12は、加熱室内の各温度における反射波率の周波数特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(本開示の基礎となった知見)
上記従来の技術では、被加熱物に吸収された電力を指標として、マイクロ波の周波数、出力レベル、および、発振時間を制御する。しかし、従来の技術では、加熱の均一性に対する効果は限定的であり、マイクロ波の局所的集中を大幅に抑制するものではない。
【0018】
被加熱物の種類、形状、大きさ、および、置き場所に所定の制限を設ければ、加熱の均一性に対して一定の効果を奏する可能性はある。しかし、従来の技術を、電子レンジによる実際の調理に適用するのは困難である。
【0019】
被加熱物をより均一に加熱するには、いかにして加熱中の食品内の温度差を抑制するかが重要である。発明者らは、以下の発明を想い到った。この発明は、被加熱物の熱伝導と被加熱物の表面からの熱放射とに基づいて、マイクロ波の周波数、出力レベル、および、発振時間を制御するものである。これにより、局所的な温度上昇、および、局所的な誘電率の変化を抑制し、その結果、被加熱物をより均一に加熱することができる。
【0020】
本開示の第1態様のマイクロ波処理装置は、被加熱物を収容するための加熱室と、マイクロ波発生部と、増幅部と、給電部と、検出部と、制御部と、記憶部と、を備える。
【0021】
マイクロ波発生部は、所定の周波数帯域における任意の周波数を有するマイクロ波を発生する。増幅部は、マイクロ波を増幅し、増幅されたマイクロ波を入射電力として出力する。給電部は、入射電力を加熱室に供給する。検出部は、入射電力と加熱室から給電部に戻る反射電力とを検出する。記憶部は、入射電力と反射電力とを、マイクロ波の周波数と加熱の開始からの経過時間とに関連付けて記憶する。
【0022】
制御部は、マイクロ波発生部に、所定の周波数帯域にわたって周波数掃引を行わせる。制御部は、周波数掃引の間に検出された入射電力および反射電力に基づいてマイクロ波発生部および増幅部を制御する。
【0023】
本開示の第2態様のマイクロ波処理装置において、第1態様に基づきながら、制御部は、マイクロ波の周波数を変化させる際に、マイクロ波の出力を停止する停止時間を設定する。制御部は、マイクロ波の周波数に応じて停止時間を変化させる。
【0024】
本開示の第3態様のマイクロ波処理装置において、第2態様に基づきながら、制御部は、周波数掃引における周波数の各々に関する入射電力に対する反射電力の割合である反射波率を算出する。制御部は、停止時間を反射波率が低いほど長く設定する。
【0025】
本開示の第4態様のマイクロ波処理装置において、第2態様に基づきながら、制御部は、周波数掃引における周波数の各々に関する入射電力に対する反射電力の割合である反射波率を算出する。制御部は、反射波率が所定の値を超えた周波数のマイクロ波には停止時間を設定しない。
【0026】
本開示の第5態様のマイクロ波処理装置において、第2態様に基づきながら、制御部は、周波数に応じてマイクロ波の出力におけるデューティ比を変更する。
【0027】
本開示の第6態様のマイクロ波処理装置において、第5態様に基づきながら、制御部は、周波数掃引における周波数の各々に関する入射電力に対する反射電力の割合である反射波率を算出する。制御部は、反射波率が高いほどデューティ比を高く設定する。
【0028】
本開示の第7態様のマイクロ波処理装置において、第5態様に基づきながら、制御部は、周波数掃引における周波数の各々に関する入射電力に対する反射電力の割合である反射波率を算出する。制御部は、反射波率が所定値を超えた周波数のマイクロ波にはデューティ比を100%に設定する。
【0029】
本開示の第8態様のマイクロ波処理装置において、第1態様に基づきながら、制御部は、マイクロ波発生部に、入射電力に対する反射電力の割合である反射波率がより高い周波数のマイクロ波と、反射波率がより低い周波数のマイクロ波とを交互に発生させる。
【0030】
本開示の第9態様のマイクロ波処理装置において、第8態様に基づきながら、制御部は、マイクロ波発生部に、反射波率がより高い周波数の場合は周波数の高い順にマイクロ波を発生させる。制御部は、マイクロ波発生部に、反射波率がより低い周波数の場合は周波数の低い順にマイクロ波を発生させる。
【0031】
本開示の第10態様のマイクロ波処理装置において、第1態様に基づきながら、制御部は、周波数掃引における周波数の各々に関する入射電力に対する反射電力の割合である反射波率を算出する。制御部は、マイクロ波発生部に、反射波率の最も高い周波数から順にマイクロ波を発生させる。
【0032】
本開示の第11態様のマイクロ波処理装置において、第1態様に基づきながら、制御部は、周波数掃引における周波数の各々に関する入射電力に対する反射電力の割合である反射波率を算出する。制御部は、マイクロ波発生部に、反射波率が所定の値を超えた周波数のマイクロ波のみを発生させる。
【0033】
本開示の第12態様のマイクロ波処理装置において、第11態様に基づきながら、制御部は、マイクロ波発生部に、反射波率が所定の値を超えた周波数のマイクロ波のみを加熱の開始から終了まで発生させる。
【0034】
本開示の第13態様のマイクロ波処理装置において、第11態様に基づきながら、制御部は、加熱の開始から終了までの時間の最初の半分が経過するまでに、反射波率を算出する。
【0035】
本開示の第14態様のマイクロ波処理装置において、第1態様から第13態様のいずれか一つに基づきながら、制御部は、加熱室内の温度に基づいて、マイクロ波発生部に周波数掃引を行なわせ、マイクロ波の発振条件であるマイクロ波の周波数および出力レベルを再設定する。
【0036】
本開示の第15態様のマイクロ波処理装置において、第14態様に基づきながら、制御部は、加熱室内の温度が所定値だけ変化するたびに、マイクロ波発生部に周波数掃引を行なわせ、マイクロ波の発振条件を再設定する。
【0037】
本開示の第16態様のマイクロ波処理装置において、第14態様に基づきながら、制御部は、加熱室の温度が所定温度を通過するたびに、マイクロ波発生部に周波数掃引を行なわせ、マイクロ波の発振条件を再設定する。
【0038】
このような構成により、加熱室内の温度変化に伴う加熱室内の共振周波数の変化の影響を減少し、一定の条件下で再設定のタイミングを定めることで、安定してより均一な加熱が可能となる。
【0039】
以下、本開示の実施の形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0040】
図1は、本開示の実施の形態に係るマイクロ波処理装置の一例を示す概略構成図である。
図1に示すように、本実施の形態に係るマイクロ波処理装置は、加熱室1と、マイクロ波発生部3と、増幅部4と、給電部5と、検出部6と、制御部7と、記憶部8とを備える。
【0041】
加熱室1は、負荷である食品などの被加熱物2を収容する。マイクロ波発生部3は半導体素子で構成される。マイクロ波発生部3は、所定の周波数帯域における任意の周波数のマイクロ波を発生することができ、制御部7により指定された周波数のマイクロ波を発生する。
【0042】
増幅部4は半導体素子で構成される。増幅部4は、マイクロ波発生部3により発生されたマイクロ波を制御部7の指示に応じて増幅し、増幅されたマイクロ波を出力する。
【0043】
給電部5はアンテナとして機能し、増幅部4により増幅されたマイクロ波を入射電力として加熱室1に供給する。すなわち、給電部5は、マイクロ波発生部3により発生されたマイクロ波に基づく入射電力を加熱室1に供給する。入射電力のうち、被加熱物2などにより消費されない電力は、加熱室1から給電部5に戻る反射電力となる。
【0044】
検出部6は例えば方向性結合器で構成される。検出部6は入射電力および反射電力の量を検出し、その情報を制御部7に通知する。すなわち、検出部6は、入射電力検出部および反射電力検出部の両方として機能する。
【0045】
検出部6は、例えば約-40dBの結合度を有し、入射電力および反射電力の約1/10000程度の電力を抽出する。抽出された入射電力および反射電力は検波ダイオード(図示せず)で整流化され、コンデンサ(図示せず)で平滑化されて、入射電力および反射電力に応じた情報に変換される。制御部7は、これらの情報を受信する。
【0046】
記憶部8は半導体メモリなどで構成され、制御部7からのデータを記憶し、記憶したデータを読み出して制御部7に送信する。特に、記憶部8は、検出部6により検出された入射電力および反射電力の量を、マイクロ波の周波数と加熱の開始からの経過時間とともに記憶する。
【0047】
制御部7は、CPU(Central processing unit)を含むマイクロプロセッサで構成される。制御部7は、検出部6および記憶部8からの情報に基づいて、マイクロ波発生部3および増幅部4を制御して、マイクロ波処理装置における調理制御を実行する。
【0048】
制御部7は、マイクロ波発生部3に周波数掃引を行わせる。周波数掃引とは、所定の周波数帯域にわたって周波数を所定の周波数間隔で順に変えるマイクロ波発生部3の動作である。本実施の形態では、所定の周波数帯域は2400MHz~2500MHzである。
【0049】
制御部7は、周波数掃引の後に、被加熱物2の加熱に用いる周波数を所定の周波数帯域から選択する。具体的には、制御部7は、周波数掃引の間に検出された入射電力および反射電力の値に基づいて、入射電力に対する反射電力の割合(%)である反射波率を算出する。制御部7は、反射波率に基づいて、マイクロ波発生部3におけるマイクロ波の発振周波数と、増幅部4におけるマイクロ波の増幅率とを制御して、加熱のための周波数のマイクロ波を加熱室1に供給する。
【0050】
加熱室1の内壁は、加熱室1に供給されたマイクロ波を繰り返し反射する。この際に生じるマイクロ波間の干渉によって、加熱室1内の被加熱物2に対する加熱パターンが決まる。
【0051】
マイクロ波の波長は、周波数に応じて変化する。マイクロ波の波長の変化は、マイクロ波によって強く加熱される場所と、弱く加熱される場所とを変化させる。このため、反射を繰り返すマイクロ波間の干渉が変化し、それに伴って加熱パターンも変化する。すなわち、マイクロ波の周波数および出力レベルを適切に制御すると、被加熱物2をより均一に加熱することができる。
【0052】
以下、本実施の形態における制御部7による種々の制御方法を、実施例1~実施例11として説明する。互いに矛盾しなければ、下記実施例のうちの少なくとも二つを任意に組み合わせてもよい。
【0053】
(実施例1)
本実施の形態の実施例1について説明する。
図2Aは、実施例1によるマイクロ波の周波数と出力レベルと停止時間との時間的変化の一例を模式的に示す。
図2Bは、実施例1によるマイクロ波の周波数ごとに設定される停止時間の一例を示す。
【0054】
図2Aに示すように、実施例1では、マイクロ波の周波数を切り替える際に、制御部7は、マイクロ波発生部3によるマイクロ波の出力を停止する。本実施の形態では、マイクロ波発生部3がマイクロ波を出力する期間を出力時間と呼び、マイクロ波発生部3がマイクロ波の出力を停止する期間を停止時間と呼ぶ。
【0055】
具体的には、例えば、
図2Aに示すように、出力時間OT1~OT5はすべて12秒である。停止時間ST1、ST2、ST3、ST4はそれぞれ、6秒、10秒、2秒、15秒である。周波数F1、F2、F3、F4、F5はそれぞれ、2405MHz、2414MHz、2430MHz、2438MHz、2445MHzである。
【0056】
この方法によれば、停止時間において被加熱物2内に熱が伝わり、被加熱物2の表面から熱が放射される。従って、直前の周波数のマイクロ波での加熱パターンにより生じた加熱ムラを減少させることができる。
【0057】
このようにして、次の周波数のマイクロ波を供給し始める前に、加熱ムラにより生じた被加熱物2における誘電率のムラを低減させることができる。その結果、誘電率の上昇した被加熱物2の部分へのマイクロ波の集中を抑制することができ、加熱の均一性を向上させることができる。
【0058】
周波数によって加熱パターンと加熱ムラとは変化する。加熱ムラを低減させるための停止時間は周波数毎に異なる。
【0059】
図2Bに示すように、マイクロ波の周波数に応じて停止時間を変更することで、加熱の均一性を向上させることができる。実施例1において、必要最小限の停止時間を設定すれば、調理時間が必要以上に長くならないようにすることができる。停止時間の代わりに、マイクロ波の出力レベルを大幅に低下させる低出力時間を設けてもよい。
【0060】
(実施例2)
本実施の形態の実施例2について説明する。
図3の(a)は、反射波率の周波数特性の一例を示す。
図3の(b)は、実施例2によるマイクロ波の周波数ごとに設定される停止時間の一例を示す。上記の通り、反射波率とは、入射電力に対する反射電力の割合(%)である。
【0061】
図3の(a)に示すように、一般的に反射波率は周波数によって異なる。マイクロ波発生部3に戻らないマイクロ波の大部分は、被加熱物2において散逸される。しかし、一部のマイクロ波は、被加熱物2以外のマイクロ波処理装置の部品においても散逸される。
【0062】
その部品には、例えば、加熱室1の内壁、加熱室1内に配置されたヒータ、ドアガラスなどの加熱室1内の部品、導波管およびアンテナ(これらは給電部5に相当する)などが含まれる。
【0063】
反射波率が低下するにつれて、被加熱物2におけるマイクロ波の散逸は大きくなる。しかし、被加熱物2全体において、マイクロ波は必ずしも均一に散逸するわけではない。すなわち、反射波率が低下すると、被加熱物2の加熱ムラは大きくなる傾向がある。
【0064】
このため、
図3の(a)および
図3の(b)に示すように、実施例2では、制御部7は、
図3の(b)のグラフの形状が
図3の(a)のグラフの形状と上下逆になるように、すなわち、停止時間が反射波率に反比例するように、停止時間を設定する。実施例2によれば、加熱の均一性を向上させることができる。
【0065】
(実施例3)
本実施の形態の実施例3について説明する。
図4の(a)は、反射波率の周波数特性と設定された閾値との一例を示す。
図4の(b)は、
図4の(a)に示す閾値を考慮した場合のマイクロ波の周波数ごとに設定される停止時間の一例を示す。
【0066】
反射波率が高くなるにつれて、被加熱物2におけるマイクロ波の散逸は減少する。被加熱物2全体におけるマイクロ波の散逸が減少すれば、被加熱物2の温度が部分的に上昇することもない。すなわち、反射波率が高くなると、被加熱物2の加熱ムラは減少する傾向がある。このため、反射波率が一定の値を超えると停止時間を設ける必要がなくなる。
【0067】
実施例3では、制御部7は、閾値を設定し(
図4の(a)参照)、その閾値より反射波率が高い周波数では、制御部7は停止時間をゼロに設定する(
図4の(a)および
図4の(b)参照)。実施例3によれば、加熱の均一性を向上させるとともに、調理時間が必要以上に長くならないようにすることができる。
【0068】
この閾値は、被加熱物の種類および大きさ、並びに、マイクロ波の出力レベルにより異なる値に設定する必要がある。マイクロ波の出力レベルが例えば250Wの場合、反射波率の所定範囲内(40%~90%、実施例3では40%)に閾値を設定すると、加熱の均一性が向上することが実験において示されている。
【0069】
周波数および被加熱物2は不変の場合において、マイクロ波の出力レベルを増加させると加熱ムラが大きくなる。加熱ムラを抑制するためには、反射波率のより大きい周波数のマイクロ波のみを使用する必要がある。従って、制御部7は、出力レベルに比例して反射波率の閾値を大きく設定する。
【0070】
(実施例4)
本実施の形態の実施例4について説明する。
図5Aは、実施例4によるマイクロ波の周波数と出力レベルとデューティ比との時間的変化の一例を模式的に示す。
図5Bは、実施例4によるマイクロ波の周波数ごとに設定されるデューティ比の一例を示す。デューティ比とは、出力時間と停止時間との合計に対する出力時間の比率(%)である。
【0071】
実施例4では、制御部7は、各周波数に対してあらかじめ定められた出力時間および停止時間が設定されたデューティ制御を行う。デューティ制御とは、所定または可変のデューティ比でのマイクロ波の出力のオンオフ制御である。
【0072】
例えば、
図5Aに示すように、周波数F2のマイクロ波に対するデューティ比は、周波数F1のマイクロ波に対するデューティ比よりも大きく設定される。周波数F3のマイクロ波に対するデューティ比は、周波数F1のマイクロ波に対するデューティ比よりも小さく設定される。
【0073】
具体的には、周波数F1、F2、F3はそれぞれ、2405MHz、2414MHz、2430MHzである。周波数F2のマイクロ波の大きさは、周波数F1と同じに設定され、周波数F3のマイクロ波の大きさは、周波数F1よりも大きく設定されてもよい。
【0074】
この方法によれば、周波数を切り替える際の停止時間において、被加熱物2内に熱が伝わり、被加熱物2の表面から熱が放射される。従って、直前の周波数のマイクロ波での加熱パターンにより生じた加熱ムラを減少させることができる。
【0075】
このようにして、次の周波数のマイクロ波を供給し始める前に、加熱ムラにより生じた被加熱物2における誘電率のムラを低減させることができる。その結果、被加熱物2の誘電率の上昇した部分へのマイクロ波の集中を抑制することができ、加熱の均一性を向上させることができる。
【0076】
周波数によって加熱パターンと加熱ムラとは変化する。加熱ムラを低減させるためのデューティ比は周波数毎に異なる。実施例4によれば、
図5Bに示すように、周波数に応じてデューティ比を変更することで、加熱の均一性を向上させることができる。必要以上にデューティ比を下げないようにすることで、調理時間が必要以上に長くならないようにすることができる。
【0077】
デューティ制御の代わりに、制御部7は、マイクロ波発生部3に、同一周波数を有する、高出力レベルのマイクロ波とゼロに近いより低出力レベルのマイクロ波とを所定の時間比で交互に発生させてもよい。
【0078】
(実施例5)
本実施の形態の実施例5について説明する。
図6の(a)は、反射波率の周波数特性の一例を示す。
図6の(b)は、実施例5によるマイクロ波の周波数ごとに設定されるデューティ比の一例を示す。
【0079】
図6の(a)に示すように、一般的に反射波率は周波数によって異なる。反射波率が低下するにつれて、被加熱物2におけるマイクロ波の散逸は大きくなり、被加熱物2の加熱ムラが大きくなる傾向がある。
【0080】
実施例5では、
図6の(a)および
図6の(b)に示すように、制御部7は、
図6の(b)のグラフの形状が
図6の(a)のグラフの形状と同じになるように、すなわち、デューティ比が反射波率に比例するように、デューティ制御を行う。実施例5によれば、加熱ムラを低減させ、加熱の均一性を向上させることができる。
【0081】
(実施例6)
本実施の形態の実施例6について説明する。
図7の(a)は、反射波率の周波数特性と設定された閾値との一例を示す。
図7の(b)は、
図7の(a)に示す閾値を考慮した場合のマイクロ波の周波数ごとに設定されるデューティ比の一例を示す。
【0082】
反射波率が高くなるにつれて、被加熱物2におけるマイクロ波の散逸は減少する。被加熱物2全体におけるマイクロ波の散逸が減少すれば、被加熱物2の温度が部分的に上昇することもない。すなわち、反射波率が高くなると、加熱ムラが減少する傾向がある。実施例6では、制御部7は、閾値を設定し、反射波率がその閾値を超えると、デューティ制御を止めて常にマイクロ波発生部3にマイクロ波を出力させ続ける。
【0083】
設定された閾値(
図7の(a)参照)より反射波率が高い周波数に対して、制御部7はデューティ比を100%に設定する(
図7の(a)および
図7の(b)参照)。実施例6によれば、加熱の均一性を向上させるとともに、調理時間が必要以上に長くならないようにすることができる。
【0084】
この閾値は、被加熱物の種類および大きさ、並びに、マイクロ波の出力レベルにより異なる値である必要がある。しかしながら、マイクロ波の出力レベルが例えば250Wの場合、反射波率の所定範囲内(40%~90%、実施例6では40%)に閾値を設定すると、加熱の均一性が向上することが実験において示されている。
【0085】
周波数および被加熱物2は不変の場合において、マイクロ波の出力レベルを増加させると加熱ムラが大きくなる。加熱ムラを抑制するためには、反射波率のより大きい周波数のマイクロ波のみを使用する必要がある。従って、制御部7は、出力レベルに比例して反射波率の閾値を大きく設定する。
【0086】
(実施例7)
本実施の形態の実施例7について説明する。
図8は、実施例7によるマイクロ波の周波数と反射波率との時間的変化の一例を模式的に示す。
【0087】
反射波率が低下するにつれて、被加熱物2におけるマイクロ波の散逸が大きくなり、被加熱物2の加熱ムラが大きくなる傾向がある。反射波率が高くなるにつれて、マイクロ波の散逸は小さくなり、加熱ムラが減少する傾向がある。
【0088】
図8に示すように、実施例7では、制御部7は、周波数F1のマイクロ波による加熱開始後、マイクロ波発生部3に、反射波率が低下するように発振周波数を周波数F2に切り替えさせる。その後、制御部7は、マイクロ波発生部3に、反射波率が上昇するように発振周波数を周波数F3に切り替えさせる。制御部7は、マイクロ波発生部3にこの動作を繰り返し実行させる。
【0089】
すなわち、周波数F2のマイクロ波は、周波数F1のマイクロ波よりも反射波率が低い。周波数F3のマイクロ波は、周波数F2のマイクロ波よりも反射波率が高い。周波数F4のマイクロ波は、周波数F3のマイクロ波よりも反射波率が低い。
【0090】
周波数F5のマイクロ波は、周波数F4のマイクロ波よりも反射波率が高い。周波数F6のマイクロ波は、周波数F5のマイクロ波よりも反射波率が低い。周波数F7のマイクロ波は、周波数F6のマイクロ波よりも反射波率が高い。周波数F8のマイクロ波は、周波数F7のマイクロ波よりも反射波率が低い。
【0091】
具体的には、周波数F1、F2、F3、F4、F5、F6、F7、F8はそれぞれ、2405MHz、2414MHz、2430MHz、2438MHz、2445MHz、2459MHz、2483MHz、2499MHzである。
【0092】
実施例7によれば、反射波率の高い周波数のマイクロ波による加熱の際に、被加熱物2内に熱が伝わり、被加熱物2の表面から熱が放射される。その結果、反射波率の低い周波数のマイクロ波による加熱で生じた加熱ムラを減少させることができる。すなわち、加熱の均一性が向上する。
【0093】
実施例1~3に記載のように、周波数を切り替える際に停止時間を設定することで、加熱の均一性が向上する。一方、実施例7は均一加熱だけでなく、加熱時間の短縮にも効果的である。
【0094】
(実施例8)
本実施の形態の実施例8について説明する。
図9は、実施例8によるマイクロ波の周波数と反射波率との時間的変化の一例を模式的に示す。
【0095】
実施例8では、
図9に示すように、制御部7は、実施例7と同様に、反射波率が交互に増減するようにマイクロ波発生部3にマイクロ波の周波数を切り替えさせる。
【0096】
それに加えて、反射波率がより高い周波数に関しては、制御部7は、マイクロ波発生部3に、最も高い周波数から順にマイクロ波を発生させる。反射波率がより低い周波数に関しては、制御部7は、マイクロ波発生部3に、最も低い周波数から順にマイクロ波を発生させる。
【0097】
すなわち、制御部7は、マイクロ波発生部3に次のような動作を実行させる。マイクロ波発生部3は、反射波率が最も低い周波数F1のマイクロ波を発生させ、次に、反射波率が最も高い周波数F8のマイクロ波を発生する。その後、マイクロ波発生部3は、反射波率が2番目に低い周波数F3のマイクロ波を発生させ、次に、反射波率が2番目に高い周波数F6のマイクロ波を発生する。
【0098】
その後、マイクロ波発生部3は、反射波率が3番目に低い周波数F5のマイクロ波を発生させ、次に、反射波率が3番目に高い周波数F4のマイクロ波を発生する。その後、マイクロ波発生部3は、反射波率が4番目に低い周波数F7のマイクロ波を発生させ、次に、反射波率が4番目に高い周波数F2のマイクロ波を発生する。
【0099】
具体的には、周波数F1、F2、F3、F4、F5、F6、F7、F8はそれぞれ、2405MHz、2414MHz、2430MHz、2438MHz、2445MHz、2459MHz、2483MHz、2499MHzである。
【0100】
実施例8によれば、制御を簡素化しつつ、加熱の均一性を向上させることができる。制御の簡素化とは、各周波数におけるマイクロ波の出力レベルおよび発振時間、並びに、発生する周波数の順番などを決定するのに必要なパラメータの数を減らすことを意味する。
【0101】
この方法では、加熱ムラの大きい加熱と加熱ムラの小さい加熱とが、その度合いの順に交互に行われる。これにより、例えば、全ての周波数で同じ出力レベルのマイクロ波を用いる場合に、各周波数における加熱時間を同一にすることができる。その結果、制御をより簡素化することができる。
【0102】
(実施例9)
本実施の形態の実施例9について説明する。
図10は、実施例9によるマイクロ波の周波数と反射波率との時間的変化の一例を模式的に示す。
図10に示すように、制御部7は、マイクロ波発生部3に、反射波率がより高い周波数のマイクロ波から順に発生させる。
【0103】
実施例9では、周波数F1~周波数F7のマイクロ波は、この順で、反射波率が高く、加熱ムラが少ない。すなわち、周波数F1~周波数F4に対する反射波率は、周波数F5~周波数F7のそれよりも高い。加熱ムラがより小さい周波数のマイクロ波での加熱の際に、被加熱物2内に熱が伝わり、被加熱物2の表面から熱が放射される。
【0104】
具体的には、周波数F1、F2、F3、F4、F5、F6、F7はそれぞれ、2405MHz、2414MHz、2430MHz、2438MHz、2445MHz、2459MHz、2483MHzである。
【0105】
その結果、反射波率の低い周波数のマイクロ波による加熱で生じた加熱ムラが、反射波率の高い周波数のマイクロ波による加熱時に減少する。すなわち、加熱の均一性が向上する。
【0106】
実施例1~3に記載のように、周波数を切り替える際に停止時間を設定する制御方法よりも、実施例9では1周波数当りの加熱時間を短く設定する。これにより、加熱の均一性が向上する傾向がある。
【0107】
これは、1周波数当りの加熱時間が長いほど、反射波率がより小さい周波数のマイクロ波による加熱において加熱ムラが大きくなり、局所的にタンパク質が変性したことによる。
【0108】
(実施例10)
本実施の形態の実施例10について説明する。
図11は、反射波率の周波数特性と設定された閾値との一例を示す。
【0109】
図11に示すように、実施例10では、制御部7は、反射波率が所定の閾値より高い周波数帯(周波数帯FB1、FB2、FB3、FB4)の周波数のマイクロ波のみを使用する。これは、加熱ムラが比較的小さい周波数のマイクロ波のみを使用することである。従って、この制御をより長く行なえば、その分、加熱の均一性が向上する。
【0110】
この閾値は、被加熱物の種類および大きさ、並びに、マイクロ波の出力レベルにより異なる値に設定する必要がある。しかしながら、マイクロ波の出力レベルが例えば250Wの場合、反射波率の所定範囲内(40%~90%、実施例10では40%)に閾値を設定すると、加熱の均一性が向上することが実験において示されている。
【0111】
周波数および被加熱物2は不変の場合において、マイクロ波の出力レベルを増加させると加熱ムラが大きくなる。加熱ムラを抑制するためには、反射波率のより大きい周波数のマイクロ波のみを使用する必要がある。従って、制御部7は、出力レベルに比例して反射波率の閾値を大きく設定する。
【0112】
制御部7は、マイクロ波発生部3の動作開始から終了まで、すなわち、加熱の開始から終了まで、閾値より反射波率が高い周波数のマイクロ波のみを使用する。これにより、さらに加熱の均一性が向上する。
【0113】
加熱の開始から終了まで閾値より反射波率が高い周波数のマイクロ波のみを使用して、加熱前半の少なくともいずれかの時間にこの制御が行われると、加熱の均一性が向上する。
【0114】
これは、加熱終了時の加熱ムラへの影響が大きい加熱の初期段階において、加熱ムラを抑制することができるからである。加熱の初期段階で加熱ムラが大きいと、加熱終了までの長い期間、誘電率の高い被加熱物2の部分にマイクロ波が局所的に集中する。
【0115】
(実施例11)
本実施の形態の実施例11について説明する。
図12は、加熱室1内の各温度における反射波率の周波数特性の一例を示す。
【0116】
図12に示すように、反射波率の周波数特性は、加熱室1の温度によって変化する。具体的には、加熱室1の温度が上昇するにつれ、反射波率の周波数特性は、その波形をほぼ維持したまま周波数のより低い左側にシフトする。
【0117】
これは、加熱室1内の温度が上昇するにつれて、加熱室1におけるマイクロ波の共振周波数が低下することによる。この現象が生じる一つの理由は、加熱室1の壁面の金属が膨張し、加熱室1内の体積が僅かに増加することである。他の理由は、ドアガラスの誘電率の上昇により、ドアガラス内でのマイクロ波の波長の圧縮率が上昇することである。
【0118】
例えば、マイクロ波とは別に、輻射加熱および対流加熱を用いたオーブン加熱などにおいて、このような状態が発生する。
【0119】
従って、制御部7は、加熱室1の温度に基づいて周波数掃引を行ない、反射波率の周波数特性を再取得する。制御部7は、反射波率の周波数特性に基づいてマイクロ波の発振条件を再設定する。
【0120】
発振条件とは、マイクロ波の周波数および出力レベルを意味する。制御部7は、マイクロ波発生部3にマイクロ波の周波数を変更させ、増幅部4にマイクロ波の出力レベルを変更させて、発振条件を再設定する。これにより、加熱の均一性を向上させることができる。
【0121】
図12に示す三つのグラフにおいて、加熱室1内の温度上昇幅はほぼ同じであり、その温度上昇に応じて反射波率の周波数特性はほぼ同じ周波数だけ左側にシフトしている。従って、制御部7は、加熱室1の温度が所定値だけ変化するたびに周波数掃引を行ない、反射波率の周波数特性を再取得し、マイクロ波の発振条件を再設定する。これにより、加熱の均一性を向上させることができる。
【0122】
反射波率の周波数特性を再取得するべきタイミングを示す加熱室1の温度変化の程度は、加熱室1の形状および壁面の材質、並びに、被加熱物2の種類および大きさなどに依存する。
図12に示す周波数特性の測定条件は次の三つである。(1)加熱室1の容積は50リットルである。(2)壁面は琺瑯処理をした鋼板である。(3)加熱室1に被加熱物2が置かれていない。
【0123】
図12に示す周波数特性の場合、シフトの程度を考慮して、最大で100℃ごとに、好ましくは20℃ごとに反射波率の周波数特性を再取得するべきである。
【0124】
制御部7は、加熱室1内の温度が所定温度を超え、または、下回った場合、都度、反射波率の周波数特性を再取得し、マイクロ波の発振条件を再設定してもよい。換言すると、加熱室1内の温度が所定温度を超え、または、下回った場合とは、加熱室1内の温度が所定温度を通過した場合である。
【0125】
再設定のタイミングを示す条件を明確に定義することにより、加熱室1内の温度変化に伴う加熱室1内の共振周波数の変化の影響を低減させることができる。その結果、より均一な加熱を安定的に行うことができる。
【0126】
反射波率の周波数特性の再取得を行なうべき加熱室1の温度は、輻射加熱および対流加熱を用いたオーブン加熱における設定温度の半分に設定するのが望ましい。上記温度は、その設定温度と室温との差の半分の温度でもよい。
【0127】
実施例1~実施例11において、制御部7は、反射波率の代わりに加熱室1におけるマイクロ波の散逸率を用いてもよい。加熱室1におけるマイクロ波の散逸率とは、入射電力に対する入射電力と反射電力との差の割合(%)である。
【0128】
制御部7は、加熱室1の内壁、ヒータ、ドアガラスなどの加熱室1内の部品、伝送経路などにおけるマイクロ波の散逸を推定し、その数値に基づいて反射波率を補正してもよい。
【0129】
制御部7は、赤外線センサなどを用いて得られた被加熱物2の温度に基づいて、被加熱物2におけるマイクロ波の散逸を推定し、その数値を反射波率の代わりに使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本開示に係るマイクロ波処理装置は、上記の加熱調理器の他に、乾燥装置、陶芸用加熱装置、生ゴミ処理機、半導体製造装置、化学反応装置などに適用可能である。
【符号の説明】
【0131】
1 加熱室
2 被加熱物
3 マイクロ波発生部
4 増幅部
5 給電部
6 検出部
7 制御部
8 記憶部