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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】溶接システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20241220BHJP
【FI】
B23K9/12 311
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024521568
(86)(22)【出願日】2023-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2023008572
(87)【国際公開番号】W WO2023223637
(87)【国際公開日】2023-11-23
【審査請求日】2024-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2022081791
(32)【優先日】2022-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100151378
【弁理士】
【氏名又は名称】宮村 憲浩
(74)【代理人】
【識別番号】100157484
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 智之
(72)【発明者】
【氏名】福光 洋一
(72)【発明者】
【氏名】川本 篤寛
(72)【発明者】
【氏名】松井 海斗
(72)【発明者】
【氏名】藤原 潤司
(72)【発明者】
【氏名】西村 仁志
(72)【発明者】
【氏名】古山 雄也
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-277047(JP,A)
【文献】特開2011-177744(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0193115(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第01923995(DE,A1)
【文献】実開昭52-074325(JP,U)
【文献】特開昭59-150637(JP,A)
【文献】特開2003-251466(JP,A)
【文献】特開2017-066480(JP,A)
【文献】特開平06-328249(JP,A)
【文献】特開平08-174222(JP,A)
【文献】特開平09-277053(JP,A)
【文献】登録実用新案第3160612(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00、9/06 - 9/133、
10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを付勢し、前記溶接ワイヤに給電する強制給電機構を先端に有するチップと、
前記チップを先端に備え、溶接箇所に向かって前記溶接ワイヤを供給するトーチと、
前記トーチを保持する自動機と、
前記自動機に取り付けられ、前記溶接ワイヤの曲がり癖を矯正する溶接ワイヤ矯正機と、を備え
前記溶接ワイヤ矯正機は、前記チップから突出する前記溶接ワイヤを略ストレートにし、
前記自動機は、前記溶接ワイヤの供給源から前記トーチまでの間の前記溶接ワイヤの送給経路の少なくとも一部において、前記溶接ワイヤが曲げ角度180°未満、かつ、曲げ半径150mm以上となる姿勢で溶接を実行し、
前記送給経路に接続される接続部と、
前記接続部を前記自動機に固定する接続ユニットと、をさらに備え、
前記接続ユニットは、前記接続ユニット自体が回転する機構を有する、
溶接システム。
【請求項2】
前記送給経路に接続される接続部は、前記溶接ワイヤの軸芯を回転中心として回転する機構を有する、
請求項に記載の溶接システム。
【請求項3】
前記溶接ワイヤ矯正機は、前記トーチの上部に設けられる、
請求項に記載の溶接システム。
【請求項4】
前記トーチは、溶接ワイヤ送給用モータを有し、
前記溶接ワイヤ矯正機は、前記溶接ワイヤの供給源の近傍に設けられる、
請求項1または2に記載の溶接システム。
【請求項5】
前記トーチは、トーチネックを有し、
前記トーチネックの曲げ角度は、前記トーチネックが曲がっていないと仮定した場合における前記溶接ワイヤの曲げ角度よりも小さい、
請求項に記載の溶接システム。
【請求項6】
前記トーチは、トーチネックを有し、
前記トーチネックの曲げ角度は、前記トーチネックが曲がっていないと仮定した場合における前記溶接ワイヤの曲げ角度よりも小さい、
請求項に記載の溶接システム。
【請求項7】
前記トーチは、トーチネックを有し、
前記トーチネックの曲げ半径は、前記トーチネックが曲がっていないと仮定した場合における前記溶接ワイヤの曲げ半径よりも大きい、
請求項に記載の溶接システム。
【請求項8】
前記トーチは、トーチネックを有し、
前記トーチネックの曲げ半径は、前記トーチネックが曲がっていないと仮定した場合における前記溶接ワイヤの曲げ半径よりも大きい、
請求項に記載の溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、絶縁ガイドが当該給電チップの先端部に設けられた溶極式ガスシールドアーク溶接用溶接チップが開示されている。溶極式ガスシールドアーク溶接用溶接チップは、給電チップと、給電チップの先端側に位置する絶縁ガイドと、給電チップの先端部に着脱可能に連結されたガイドホルダーからなる。給電チップは、溶接トーチ本体の先端部に着脱可能に連結され、中心部に形成された溶接ワイヤ挿通孔を通過する溶接ワイヤに電流を供給する。絶縁ガイドは、給電チップを通過した溶接ワイヤを被溶接材に向けて案内すると共に、溶接ワイヤの給電チップからの突き出し長さを長く保持する。ガイドホルダーは、絶縁ガイドを給電チップの先端側に保持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-112261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、溶接ワイヤ突出し長さを長くしても、溶接箇所の狙いずれをより効果的に抑制する溶接システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、溶接ワイヤを付勢し、前記溶接ワイヤに給電する強制給電機構を先端に有するチップと、前記チップを先端に備え、溶接箇所に向かって前記溶接ワイヤを供給するトーチと、前記トーチを保持する自動機と、前記自動機に取り付けられ、前記溶接ワイヤの曲がり癖を矯正する溶接ワイヤ矯正機と、を備え、前記溶接ワイヤ矯正機は、前記チップから突出する前記溶接ワイヤを略ストレートにし、前記自動機は、前記溶接ワイヤの供給源から前記トーチまでの間の前記溶接ワイヤの送給経路の少なくとも一部において、前記溶接ワイヤが曲げ角度180°未満、かつ、曲げ半径150mm以上となる姿勢で溶接を実行し、前記送給経路に接続される接続部と、前記接続部を前記自動機に固定する接続ユニットと、をさらに備え、前記接続ユニットは、前記接続ユニット自体が回転する機構を有する、溶接システムを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、溶接ワイヤ突出し長さを長くしても、溶接箇所の狙いずれをより効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施の形態1に係る溶接ロボットの外観側面図
図2】第2送給経路が屈曲した溶接ロボットの要部斜視図
図3】接続ユニットの斜視図
図4】カバー部材が取り外された接続ユニット斜視図
図5】接続ユニットによる第2送給経路におけるフレキシブルコンジットの屈曲リリース構造を説明する図
図6】第2接続部の平面図
図7図6に示すA-A断面図
図8】第2接続部の要部斜視図
図9】第1接続部の平面図
図10】第1接続部の拡大平面図
図11】ベアリング機構の一例を示す要部斜視図
図12】トーチネックの要部拡大図
図13】曲率半径Φ=1200以上となるトーチネックの曲げ角度および曲げ半径の相関テーブル
図14】実施の形態1の変形例に係る溶接ロボットの外観側面図
図15】HEAT溶接の原理図
図16】溶接箇所の狙いずれ例について説明する図
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本開示に至る経緯)
従来のアーク溶接方法において、溶接ロボットは、給電チップと溶接ワイヤとの間の距離(溶接ワイヤの突出し長さ)を通常よりも長く保持し、突出し長さに比例して溶接ワイヤに印加されるジュール熱を増加させることによって、同じ溶接電流であっても溶接ワイヤ溶融量を増加させていた。しかし、パック,スプール等に巻き付けられた溶接ワイヤは、巻き癖がついており、所定の曲率を有する。よって、溶接ロボットは、溶接ワイヤの突出し長さを長くすると、溶接ワイヤ自体の巻き癖により、溶接箇所の位置ずれ(狙いずれ)が大きくなることがあった。
【0009】
また、従来、給電チップの先端にセラミック材料を使用した絶縁ガイドを設けて、溶接箇所の位置ずれを抑制するHEAT溶接を行う溶接ロボットがある。以下、図15および図16のそれぞれを参照して、絶縁ガイドを備える溶接ロボットにより実行されるHEAT溶接について説明する。
【0010】
図15は、HEAT溶接の原理図である。なお、図15に示すチップ95は、説明を分かりやすくするために、強制給電チップ15(図1参照)の図示を省略している。
【0011】
HEAT溶接は、同じ電流値において溶接ワイヤ13に印加される熱量(ジュール熱)を増加させることで、溶接ワイヤ13の溶着量を増大させることができる溶接である。ジュール熱Wの算出式は、W=I×V=I×(I・R)=I ×Rである。
【0012】
HEAT溶接を行う溶接ロボットは、溶接ワイヤ13の突出し長さD1,D2に比例して大きくなる抵抗値Rにより、溶接ワイヤ13に印加されるジュール熱を増加させることで溶接ワイヤ13の溶融量を増加させ、溶接効率を高めることができる。図15に示すように、溶接ワイヤ13の抵抗値Rは、突出し長さD1よりも突出し長さD2の方が大きくなる。しかし、このような溶接ロボットは、図16に示すように、突出し長さが大きいため、溶接箇所の位置ずれ(狙いずれ)が大きくなるという課題がある。そこで、従来、溶接ロボットは、チップの先端に絶縁ガイドを設けることで、溶接ワイヤ13の曲げ癖に起因する狙いずれをより小さくしていた。
【0013】
図16は、溶接箇所の狙いずれ例について説明する図である。なお、図16に示すチップ95は、説明を分かりやすくするために、強制給電チップ15(図1参照)の図示を省略している。
【0014】
位置Pt0は、溶接箇所を示す。図16に示すように、溶接ロボットは、チップ95の位置を溶接箇所(位置Pt0)に合わせて溶接を行っても、溶接ワイヤ13の曲げ癖により、溶接箇所の位置ずれ(狙いずれ)が発生することがあった。
【0015】
さらに、絶縁ガイドは、溶接時の耐熱性を向上させるため、セラミック材料を用いて形成される。よって、絶縁ガイドを備えるチップは、材料費が高額になったり、給電により軟化した溶接ワイヤが絶縁ガイドの内径部に詰まったり、融着したりするという課題があった。
【0016】
以下、適宜図面を参照しながら、本開示に係る溶接システムを具体的に開示した各実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるものであり、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。
【0017】
まず、図1を参照して、溶接ロボット11の概要について説明する。図1は、実施の形態1に係る溶接ロボット11の外観側面図である。
【0018】
実施の形態1に係る溶接ロボット11は、溶接システムの一例であって、強制給電チップ15と、トーチ19と、マニピュレータ17と、溶接ワイヤ矯正機21とを有する。
【0019】
チップの一例としての強制給電チップ15は、溶接箇所に向かって溶接ワイヤ13を機械的に付勢し、溶接ワイヤ13に給電する強制給電機構(不図示)を有する。トーチ19は、強制給電チップ15を先端に備え、強制給電チップ15の先端から溶接母材上の溶接箇所に向かって溶接ワイヤ13を供給する。自動機の一例としてのマニピュレータ17は、トーチ19を保持する。溶接ワイヤ矯正機21は、マニピュレータ17に取り付けられ、供給源の一例であるワイヤ供給源33からトーチ19の先端に向かって供給される溶接ワイヤ13の曲がり癖を矯正する。
【0020】
溶接ロボット11は、生産ライン(不図示)に設置されるベース部(不図示)と、ベース部の上部に取り付けられ、水平回転する旋回部(不図示)と、マニピュレータ17とを用いて構成される。マニピュレータ17は、旋回部に取り付けられ前後方向に揺動する上腕部25、上腕部25に取り付けられ上下方向に揺動する前腕部27、前腕部27に取り付けられた3次元での自由度を有する手首部29等を用いて構成される。マニピュレータ17は、上腕部25、前腕部27、手首部29等の他、溶接ロボット11を搬送可能な自動搬送設備を含んでもよい。
【0021】
溶接ロボット11は、ベース部、旋回部、上腕部25、前腕部27等の各部の動作により手首部29に取り付けられたトーチ19の姿勢を制御することで、自在な姿勢で溶接母材へのアーク溶接(HEAT溶接)を実行する。
【0022】
実施の形態1に係る溶接ロボット11は、トーチ19の上部(つまり、トーチ19側)に溶接ワイヤ送給用モータ31を有し、ワイヤ供給源33側に溶接ワイヤ矯正機21を有する。溶接ワイヤ送給用モータ31は、ワイヤ供給源33から溶接ワイヤ13を引き出し、ワイヤ供給源33からトーチ19の先端に向かって溶接ワイヤ13を送給する。
【0023】
また、溶接ワイヤ送給用モータ31は、溶接を実行している間、トーチ19の先端に向かって溶接ワイヤ13を正送(供給)させる動作と、トーチ19の先端から溶接ワイヤ13を逆送(回収)させる動作とを高速で交互に実行する。
【0024】
溶接ワイヤ送給用モータ31は、例えば、7~10mm,毎秒約140回のサイクルで溶接ワイヤ13の正送,逆送動作を実行する。なお、上述した正送,逆送動作における溶接ワイヤ13のストローク長さ,サイクル速度等は一例であって、これに限定されないことは言うまでもない。
【0025】
ここで、実施の形態1におけるトーチ19は、溶接ワイヤ送給用モータ31により溶接ワイヤ13を高速で正送,逆送させながら溶接する。溶接ロボット11は、逆送時の溶接ワイヤ13の戻り代(余長)(例えば、7~10mm)を許容可能な送給経路(第2送給経路39)が必要となる。
【0026】
溶接ワイヤ13は、送給経路を通ってワイヤ供給源33からトーチ19に送給される。送給経路は、第1供給経路35と第2供給経路39とで構成される。第1供給経路35は、ワイヤ供給源33と溶接ワイヤ矯正機21との間を接続する。第2供給経路39は、接続ユニット37とトーチ19との間を接続する。なお、本実施の形態において、用語「送給経路」は、これら第1送給経路35および第2送給経路39の総称として用いられる。
【0027】
ワイヤ供給源33に接続された第1送給経路35は、第1接続部41により溶接ワイヤ矯正機21に接続される。溶接ワイヤ矯正機21は、接続ユニット37に接続される。接続ユニット37は、第2接続部43により第2送給経路39に接続される。
【0028】
第2送給経路39は、例えばフレキシブルコンジットにより構成され、フレキシブルコンジット内部に溶接ワイヤ13が挿通される。第2送給経路39は、第2接続部43および第3接続部45のそれぞれに接続されて、第2送給経路39を構成する。なお、フレキシブルコンジットは、溶接ワイヤ13を滑らかに挿通可能なガイドチューブである。
【0029】
第3接続部45は、トーチ19に接続される。溶接ワイヤ13は、トーチ19内部から溶接箇所に向かって送り出され、トーチ19内部の強制給電機構により給電されることで融解し、溶接母材に溶着する。
【0030】
なお、本実施の形態1における溶接ロボット11は、第2送給経路39がフレキシブルコンジットにより構成される例について説明するが、送給経路全体(第1送給経路35および第2送給経路39のそれぞれ)がフレキシブルコンジットを用いて構成されてもよい。
【0031】
溶接ワイヤ13は、溶接ワイヤ矯正機21で曲げ癖が矯正されて略ストレートとなった状態で、トーチ19先端から溶接母材に向かって送り出される。溶接ロボット11は、第2送給経路39を通過中の溶接ワイヤ13に過度な曲げ癖を付けないように、第2送給経路39の曲がりを抑制可能にマニピュレータ17の姿勢を制御する。
【0032】
溶接ロボット11は、第2送給経路39において、溶接ワイヤ13が曲げ角度180°未満,かつ、曲げ半径150mm以上となるようにマニピュレータ17の姿勢を制御する。また、溶接ロボット11は、第2送給経路39の屈曲,捩り等をリリース(開放)可能な機構を備える。
【0033】
図3は、接続ユニット37の斜視図である。
【0034】
接続ユニット37は、ベースブロック47のベース板部49がマニピュレータ17に固定される。ベースブロック47は、接続部の一例としての第2接続部43(図1参照)が、カバー部材51に覆われてベアリング等の回転自在にする機構により支持される。
【0035】
なお、図1に示すように、接続ユニット37の溶接ワイヤ13の送給方向上流側に溶接ワイヤ矯正機21が接続される。また、第2接続部43の溶接ワイヤ13の送給方向下流側に第2送給経路39が接続される。
【0036】
次に、図4および図5を参照して、接続ユニット37による第2送給経路39の溶接ワイヤ13のリリース機構について説明する。図4は、カバー部材51が取り外された接続ユニット37の斜視図である。図5は、接続ユニット37による第2送給経路39におけるフレキシブルコンジットの屈曲リリース構造を説明する図である。
【0037】
接続ユニット37は、第2接続部43と、ユニット本体63とを用いて構成される。第2接続部43は、プラグ75Aと、カプラ77Aと用いて構成される。ユニット本体63は、ベースブロック47、パンベアリング53、パンブラケット55、およびチルトベアリング61のそれぞれを用いて構成される。
【0038】
プラグ75Aは、第2接続部43にフレキシブルコンジットを固定する。カプラ77Aは、フレキシブルコンジットをプラグ75Aに対して回転方向S(図6参照)に回転自在に接続する。
【0039】
ベースブロック47は、パンベアリング53を介してパンブラケット55を支持する。パンベアリング53は、ベース板部49に垂直な回転中心を有し、この回転中心を中心にパンブラケット55をパン方向Pに回転自在に支持する。
【0040】
パンブラケット55は、略L金具形状に形成された水平板部57においてパンベアリング53に支持される。パンブラケット55の垂直板部59には、チルトベアリング61を介して第2接続部43が支持される。チルトベアリング61は、パンベアリング53の回転中心に垂直な回転中心で第2接続部43をチルト方向Tに回転自在に支持する。
【0041】
パンベアリング53とチルトベアリング61とは、回転する機構を構成する。接続ユニット37は、この回転する機構を介してフレキシブルコンジットの第2接続部43を、パン方向Pおよびチルト方向Tに回転自在に支持する。
【0042】
パンベアリング53は、パン方向Pに回転することで、第2接続部43の方向をパン方向Pに回転することができる。これにより、溶接ロボット11は、マニピュレータ17の姿勢により、第2送給経路39において溶接ワイヤ13が曲げ角度180°未満,かつ、曲げ半径150mm未満となる場合に、第2接続部43の方向を調整できる。
【0043】
チルトベアリング61は、チルト方向Tに回転することで、第1送給経路35と第2送給経路39との間で溶接ワイヤ13の正送,逆送を実現可能にする。つまり、チルトベアリング61は、第1送給経路35における溶接ワイヤ13のワイヤ長(つまり、第1送給経路35の経路長)と、第2送給経路39における溶接ワイヤ13のワイヤ長(つまり、第2送給経路39の経路長)とを制御できる。
【0044】
具体的に、接続ユニット37は、マニピュレータ17の動きに追従してフレキシブルコンジットが曲げられた際、曲げ半径R1=150mm未満となる場合、チルトベアリング61によってフレキシブルコンジットの曲げ半径R1をリリースさせる方向(つまり、ワイヤ供給源33側に回収する方向)にチルト回転する。これにより、溶接ワイヤ13は、曲げ半径R1から曲げ半径R2となり、第2送給経路39における溶接ワイヤ13の曲げ半径R2=150mm以上を維持できる。
【0045】
なお、図5では曲げ半径R1から曲げ半径R2にリリースする例について説明したが、溶接ワイヤ13のリリース方法は、これに限定されない。例えば、溶接ロボット11は、第2送給経路39における溶接ワイヤ13に曲げ角度180°未満、かつ、曲げ半径が150mm以上となる複数の異なる曲げ部が形成されるように溶接ワイヤ13をトーチ19側に向かって送り出してもよい。また、このような場合、溶接ロボット11は、図6で説明するベアリング機構を用いた溶接ワイヤ13の捩りのリリース手法と、チルトベアリング61を用いた溶接ワイヤ13の屈曲のリリース手法とを合わせて用いてもよい。
【0046】
これにより、溶接ロボット11は、マニピュレータ17の姿勢、あるいは溶接ワイヤ送給用モータ31による溶接ワイヤ13の正送,逆送動作により、第2送給経路39において溶接ワイヤ13が曲げ角度180°未満,または、曲げ半径150mm未満となる場合に、チルトベアリング61によって第2送給経路39における溶接ワイヤ13の長さを調整できる。したがって、溶接ロボット11は、第2送給経路39において溶接ワイヤ13が曲げ角度180°未満,または、曲げ半径150mm未満となり、溶接ワイヤ13に曲げ癖がつくことをより効果的に抑制できる。
【0047】
図2を参照して、第2送給経路39における溶接ワイヤ13のリリース機構について説明する。図2は、第2送給経路39が屈曲した溶接ロボット11の要部斜視図である。
【0048】
溶接ロボット11は、マニピュレータ17の背面部分(具体的には、上腕部25と前腕部27との連結部)に接続ユニット37を備える。接続ユニット37は、第1送給経路35と、第2送給経路39とを接続する。接続ユニット37は、第2送給経路39の第2接続部43を保持し、第2送給経路39の屈曲に合わせて、フレキシブルコンジットの軸芯回りに回転することで、第2送給経路39の屈曲をリリースする。
【0049】
これにより、溶接ロボット11は、第2送給経路39で溶接ワイヤ13の屈曲をリリースすることで、マニピュレータ17の姿勢によって溶接ワイヤ13に曲げ癖がつかないように制御できる。
【0050】
次に、図6を参照して、第2送給経路39の溶接ワイヤ13の捩れをリリースするリリース機構について説明する。図6は、第2接続部43の平面図である。
【0051】
溶接ロボット11は、第2送給経路39における溶接ワイヤ13の屈曲(捩れ)をリリースする2つ目の機構として、溶接ワイヤ13の軸芯回りに回転可能なベアリング機構を備える。ベアリング機構は、例えば第2送給経路39の第2接続部43に設けられ、回転方向Sに回転することで溶接ワイヤ13の捩れをリリースする。
【0052】
これにより、溶接ロボット11は、第2送給経路39において溶接ワイヤ13が曲げ角度180°未満,または、曲げ半径150mm未満となり、溶接ワイヤ13に捩れに起因する曲げ癖がつくことをより効果的に抑制できる。
【0053】
図7は、図6に示すA-A断面図である。
【0054】
第2接続部43におけるベアリング機構は、玉軸受,ころ軸受65等により実現される。図7は、一例として、ころ軸受65を示す。ころ軸受65は、内筒部67と、複数のころ69を介して内筒部67の外径側に回転自在に組み付けられた外筒部71とを備える。フレキシブルコンジットが内筒部67に固定される。複数のころ69は保持器よりに保持される。外筒部71は、接続ユニット37にねじ73で固定される。
【0055】
ころ軸受65は、第2送給経路39の溶接ワイヤ13に捩れが生じた場合に、接続ユニット37に固定された外筒部71に対して内筒部67が回転する。フレキシブルコンジットは、内筒部67が回転方向Sに回転することで、回転方向Sにねじれる。
【0056】
これにより、溶接ロボット11は、第2送給経路39のフレキシブルコンジット内に挿通されている溶接ワイヤ13の捩れをリリースできる。
【0057】
図8は、第2接続部43の要部斜視図である。なお、図8に示す第2接続部43は、説明を分かりやすくするために、第2接続部43を覆う外側部材を省略している。
【0058】
第2送給経路39における第2接続部43側のフレキシブルコンジットの端に、プラグ75Aが固定される。プラグ75Aは、外周に形成された周溝81を有し、接続ユニット37に挿入される。接続ユニット37には、この周溝81に、溶接ワイヤ13の軸芯に直交する方向で係合する係合ピン83が固定される。溶接ロボット11は、第2送給経路39に捩れが生じた場合、ベアリング機構により接続ユニット37に固定されている係合ピン83に対してプラグ75Aを回転させることにより、第2送給経路39の捩れをリリースできる。
【0059】
次に、図9を参照して、第1送給経路35の溶接ワイヤ13の捩れをリリースするリリース機構について説明する。図9は、第1接続部41の平面図である。
【0060】
溶接ワイヤ13の軸芯回りに回転するベアリング機構は、第1接続部41に設けられてもよい。ベアリング機構は、第1送給経路35のフレキシブルコンジットに固定されるプラグ75Bと、このプラグ75に回転自在に接続されるカプラ77Bとを用いて構成される。
【0061】
第1接続部41は、ベアリング機構を備えることで、溶接ワイヤ矯正機21に送り出される溶接ワイヤ13の真直性を低下させないことで、溶接ワイヤ矯正機21による溶接ワイヤ13の矯正を容易にできる。なお、第1接続部41は、溶接ワイヤ矯正機21の上流側に位置するため、ベアリング機構が省略されてもよい。
【0062】
図10は、第1接続部41の拡大平面図である。なお、図10に示す第1接続部41は、説明を分かりやすくするために、カプラ77Bの図示を省略している。
【0063】
カプラ77Bには、プラグ75Bが挿入される挿入穴(不図示)が設けられる。挿入穴の内周面には、半径方向内側に付勢される複数の玉79のそれぞれが、内周方向に保持される。プラグ75Bの外周には、これらの玉79が進入する周溝81が形成される。第1接続部41は、カプラ77Bの軸線に沿う方向の移動により玉79のそれぞれが半径方向外側に退避可能となり、プラグ75Bの脱着が可能となる。
【0064】
以上により、溶接ロボット11は、第1送給経路35に捩れが生じた場合に、ベアリング機構により接続ユニット37に固定されているカプラ77Bに対してプラグ75Bを回転させることにより、第1送給経路35の屈曲,捩れ等をリリースできる。
【0065】
図11は、ベアリング機構の一例を示す要部斜視図である。
【0066】
ベアリング機構は、上述した2つのベアリング機構に限定されず、他の構成を有してもよい。例えば、図11に示すベアリング機構は、第2送給経路39の溶接ワイヤ13の送給方向上流側のフレキシブルコンジットの端に固定されるプラグ75Cを有する。プラグ75Cは、プラグ75Cの外周面に形成された複数の半球面の凹部85を有する。複数の凹部85は、プラグ75Cの周方向に配列されている。接続ユニット37は、プラグ75Cを受け入れる挿入穴と、挿入穴の内周に設けられた内周溝と、内周溝に保持された複数の玉79とを有する。複数の玉79のそれぞれは、複数の凹部85の対応するひとつに進入可能であり、半径方向外側に退避可能である。
【0067】
以上により、図11に示すベアリング機構を有する溶接ロボット11は、第2送給経路39に捩れが生じた場合、接続ユニット37の内周溝に沿ってプラグ75に係合される玉79を転動させることにより、第2送給経路39における溶接ワイヤ13の屈曲,捩れ等をリリースできる。
【0068】
なお、上述した各ベアリング機構は、第1接続部41あるいは第2接続部43のいずれに適用されてもよい。例えば、図6図8および図11を参照して説明したベアリング機構は、第1接続部41に適用されてもよいし、第1接続部41および第2接続部43のそれぞれに適用されてもよい。同様に、図9および図10を参照して説明したベアリング機構は、第2接続部43に適用されてもよいし、第1接続部41および第2接続部43のそれぞれに適用されてもよい。
【0069】
以上により、実施の形態1に係る溶接ロボット11は、接続ユニット37、接続部等にベアリング機構、パンベアリング53、あるいはチルトベアリング61等の機構を備えることにより、溶接ワイヤ13の屈曲,捩り等をリリースできる。これにより、溶接ロボット11は、溶接ワイヤ13の真直性の低下を抑制しつつ、溶接ワイヤ13をよりストレートに近づけた状態で、ワイヤ供給源33からトーチ19へ溶接ワイヤ13を供給できる。したがって、溶接ロボット11は、溶接ワイヤ13の曲げ癖,捩り等に起因する溶接箇所の位置ずれ(狙いずれ)をより効果的に抑制し、より高品質な溶接を実現可能にする。
【0070】
図12は、トーチネック87の要部拡大図である。
【0071】
トーチ19は、溶接箇所にアクセスしやすくするため、トーチネック87に曲げ形状を有する。トーチネック87の曲げ形状は、トーチ19先端から溶接箇所に向かって突出する溶接ワイヤ13の変形を抑制するために、曲げ角度θがより小さく、曲げ半径R3(曲率半径)がより大きく形成されることが好ましい。
【0072】
ここで、溶接ワイヤ13は、一般的に、軟鋼またはSUS(Stainless Used Steel)等の材料が使用される。軟鋼およびSUSは、外力が加えられて曲がった際の残留歪みが異なる。
【0073】
実施の形態1に係る溶接ロボット11は、トーチネック87は、強制給電チップ15の先端から突出する溶接ワイヤ13の曲率半径Φが1200以上となるように、曲げ角度θおよび曲げ半径R3を有する。
【0074】
トーチネック87は、位置Ps1を中心とし、曲げ角度θおよび曲げ半径R3を有する曲率円89Aに沿う曲げ形状を有する。溶接ワイヤ13は、トーチネック87によって、位置Ps2を中心とする曲率半径Φを有する曲率円89Bを描くように強制給電チップ15の先端から突出する。
【0075】
以降、図13を参照して、強制給電チップ15の先端から突出する溶接ワイヤ13の曲率半径Φ=1200以上となる溶接ロボット11のトーチネック87の曲げ角度θおよび曲げ半径R3について説明する。
【0076】
図13は、曲率半径Φ=1200以上となるトーチネック87の曲げ角度θおよび曲げ半径R3の相関テーブルである。なお、図13に示す相関テーブルは、溶接ワイヤ13の直径が1.2mmの場合の曲げ角度θおよび曲げ半径R3の相関関係を示す。
【0077】
曲げ半径R3は、図12に示すトーチネック87の曲率半径である。曲げ角度θは、図12に示すトーチネック87に施された曲げ加工の角度である。相関テーブルの塗りつぶし範囲は、強制給電チップ15の先端から突出する溶接ワイヤ13が曲率半径Φが1200以上となる範囲を示す。
【0078】
図13に示すように、トーチネック87は、例えば曲げ半径R3=100mmであれば、曲げ角度θ=10°~60°であれば、溶接ワイヤ13の曲率半径Φ=1200以上を実現できる。また、トーチネック87は、曲げ半径R3=40mmのトーチネック87であれば、曲げ角度θ=10°~20°であれば、溶接ワイヤ13の曲率半径Φ=1200以上を実現できる。なお、実施の形態1に係る溶接ロボット11は、トーチネック87が曲げ半径R3=40mm以下であってもよいし、曲げ角度θ=10°以下であってもよい。
【0079】
次に、溶接ロボット11の動作を説明する。
【0080】
溶接ロボット11は、溶接作業を開始すると、溶接ワイヤ送給用モータ31を駆動させて、スプール巻きまたはパック巻きされた溶接ワイヤ13をワイヤ供給源33から引き出して、トーチ19の先端に向かって送給する。ワイヤ供給源33から引き出された溶接ワイヤ13は、第1送給経路35に入る。第1送給経路35に入った溶接ワイヤ13は、溶接ワイヤ矯正機21に入る。溶接ワイヤ矯正機21は、直交して配置された2セットのユニットを有する。各ユニットは、引き込まれた溶接ワイヤ13を加圧する少なくとも3つのローラを有する。溶接ワイヤ矯正機21は、溶接ワイヤ13を略ストレートに矯正する。
【0081】
溶接ワイヤ矯正機21により略ストレートに矯正された溶接ワイヤ13は、接続ユニット37を通り、第2送給経路39に入る。溶接ワイヤ13は、第2送給経路39からトーチ19に入り、トーチ19先端の強制給電チップ15へ送り出される。強制給電チップ15で給電された溶接ワイヤ13は、強制給電チップ15から溶接母材上の溶接箇所に向かって突出する。
【0082】
溶接ロボット11は、マニピュレータ17の各部の姿勢変化によってトーチ19が後方(ワイヤ供給源33側)へ変位した場合、湾曲した第2送給経路39のフレキシブルコンジットに曲率を大きくするような力を与える。第2送給経路39は復元力(反力)により接続ユニット37を後方へと揺動させ、第2送給経路39は小さい曲率を保つ。溶接ワイヤ13は、このようなフレキシブルコンジットの内部を挿通するため、第2送給経路39内での溶接ワイヤ13の変形が抑止される。以上により、溶接ロボット11は、安定した溶接ワイヤ13の送給を実行できる。
【0083】
なお、溶接ワイヤ13のより高い矯正効果を実現するためには、溶接ワイヤ矯正機21は、強制給電チップ15の近傍に取り付けられることが望ましい。以下、溶接ワイヤ矯正機21をトーチ19の上部に備える溶接ロボットについて説明する。
【0084】
(実施の形態1の変形例)
実施の形態1に係る溶接ロボット11は、トーチ19の上部に溶接ワイヤ送給用モータ31を備え、ワイヤ供給源33側に溶接ワイヤ矯正機21を備える構成例について説明した。実施の形態1の変形例に係る溶接ロボット91は、トーチ19の上部に溶接ワイヤ矯正機21を備え、ワイヤ供給源33側に溶接ワイヤ送給用モータ31と同様の機能を実現可能な溶接ワイヤ送給装置93を備える構成例について説明する。
【0085】
なお、以降の説明では、実施の形態1に係る溶接ロボット11と同様の構成に同一の符号を付与することで説明を省略する。
【0086】
図14は、実施の形態1の変形例に係る溶接ロボット91の外観側面図である。
【0087】
実施の形態1の変形例に係る溶接ロボット91は、溶接システムの一例であって、トーチ19の上部に溶接ワイヤ矯正機21を備える。溶接ワイヤ13は、溶接ワイヤ送給装置93によって、ワイヤ供給源33からトーチ19の先端に向かって送給される。溶接ワイヤ送給装置93は、マニピュレータ17の背中部分に固定され、第1送給経路35と第2送給経路39との間に設けられている。
【0088】
すなわち、溶接ロボット91では、溶接ワイヤ13は、溶接ワイヤ送給装置93によりワイヤ供給源33から第1送給経路35を通って引き出され、第2送給経路39に入って溶接ワイヤ矯正機21へ送給される。溶接ワイヤ矯正機21に入った溶接ワイヤ13は、フレキシブルコンジットを通過することなく直近のトーチ19に入り、トーチ19の先端に設けられた強制給電チップ15を経て給電された後、溶接母材上の溶接箇所に向かって突出する。
【0089】
以上により、実施の形態1の変形例に係る溶接ロボット91では、溶接ワイヤ矯正機21がトーチ19の直近に配置されている。溶接ワイヤ矯正機21によって矯正された略ストレートな溶接ワイヤ13がトーチ19に送給される。
【0090】
これにより、溶接ロボット91は、よりストレートである溶接ワイヤ13を強制給電チップ15から溶接箇所に向かって送り出すことができるため、溶接箇所の位置ずれをより小さくできる。また、溶接ロボット91は、溶接箇所の位置ずれを小さくすることで、溶接品質を向上できる。
【0091】
また、実施の形態1の変形例に係る溶接ロボット91は、ワイヤ供給源33と、ワイヤ供給源33から溶接ワイヤ矯正機21に至る送給経路(つまり、第1送給経路35および第2送給経路39のそれぞれ)とによって溶接ワイヤ13に曲げ癖を与える。しかし、溶接ワイヤ13は、トーチ19の上部に配置された溶接ワイヤ矯正機21により矯正されてトーチ19に入る。したがって、実施の形態1の変形例に係る溶接ロボット91は、送給経路上に溶接ワイヤ13の屈曲をリリースするための各種機構(ベアリング機構、パンベアリング53、およびチルトベアリング61等)を省略できる。
【0092】
以上により、実施の形態1および実施の形態1の変形例に係る溶接ロボット11,91(溶接システムの一例)は、溶接ワイヤ13を付勢し、溶接ワイヤ13に給電する強制給電機構を先端に有する強制給電チップ15(チップの一例)と、強制給電チップ15を先端に備え、溶接箇所に向かって溶接ワイヤ13を供給するトーチ19と、トーチ19を保持するマニピュレータ17(自動機の一例)と、マニピュレータ17に取り付けられ、溶接ワイヤ13の曲がり癖を矯正する溶接ワイヤ矯正機21と、を備える。
【0093】
これにより、実施の形態1および実施の形態1の変形例に係る溶接ロボット11,91は、溶接ワイヤ13の曲がり癖を溶接ワイヤ矯正機21によって矯正し、曲がり癖が矯正された溶接ワイヤ13をトーチ19の先端の強制給電チップ15から溶接箇所に向かって突出する。このことが溶接ワイヤ13の突出し長さが長くなっても、溶接箇所の位置ずれ(狙いずれ)をより小さく抑制できる。つまり、溶接ロボット11,91は、溶接ワイヤ13の矯正をトーチ19で行わなくてもよいため、従来トーチで使用されていた絶縁ガイドが不要となる。したがって、溶接ロボット11,91は、安価なトーチ19を用いて、HEAT溶接の溶接効率を高めつつ、溶接の狙いずれを抑制することができる。
【0094】
また、以上により、実施の形態1および実施の形態1の変形例に係る溶接ロボット11,91における溶接ワイヤ矯正機21は、強制給電チップ15から突出する溶接ワイヤ13を略ストレートにする。これにより、実施の形態1および実施の形態1の変形例に係る溶接ロボット11,91では、溶接ワイヤ矯正機21により略ストレートとなった溶接ワイヤ13が、屈曲自在な送給経路(第1送給経路35および第2送給経路39)と所定の曲げ角度θで屈曲するトーチネック87とを通過して強制給電チップ15から突出可能になる。絶縁ガイドなしでも溶接箇所の位置ずれ(狙いずれ)をより小さく抑制できる。
【0095】
また、以上により、実施の形態1に係る溶接ロボット11におけるマニピュレータ17は、溶接ワイヤ13のワイヤ供給源33(供給源の一例)からトーチ19までの間の送給経路の少なくとも一部において、溶接ワイヤ13が曲げ角度180°未満、かつ、曲げ半径150mm以上となる姿勢で溶接を実行する。これにより、実施の形態1に係る溶接ロボット11は、溶接中に、送給経路における溶接ワイヤ13の真直度の低下を抑制できる。
【0096】
つまり、フレキシブルコンジット(つまり、第2送給経路39)は、マニピュレータ17の動作に追従するため、曲げ半径(U字に曲げられた箇所の曲率円の最小曲率半径(最小曲げ半径)を意味する。)が150mm以上、かつ、曲げ角度(U字に曲げられた箇所のうち曲率円に沿う円弧の最小角度(最小曲げ角度)を意味する。)が180°未満の状態を維持される。また、フレキシブルコンジットは、例えばS字に曲げられると、曲げ角度180°のU字曲げ部が少なくとも2箇所存在するが、このような場合、2つのU字曲げ部のいずれもが、曲げ半径150mm以上となる。
【0097】
これにより、つまり、溶接ロボット11の送給経路は、最小曲げ半径が150mmとなる。すなわち、溶接ロボット11は、溶接中のマニピュレータ17の動きに起因する第2送給経路39の変位により、第2送給経路39に挿通された溶接ワイヤ13に新たな曲がり癖の発生を抑制し、溶接ワイヤ13の真直度の低下を抑制できる。
【0098】
また、以上により、実施の形態1に係る溶接ロボット11は、送給経路に接続される第2接続部43(接続部の一例)と、第2接続部43をマニピュレータ17に固定する接続ユニット37とを備える。接続ユニット37は、接続ユニット37自体が回転する機構(例えば、パンベアリング53あるいはチルトベアリング61)を有する。これにより、実施の形態1に係る溶接ロボット11は、第2送給経路39を構成するフレキシブルコンジットの端部が第2接続部43に接続され、第2接続部43をマニピュレータ17に固定する接続ユニット37自体がパンベアリング53あるいはチルトベアリング61により回転することで、第2送給経路39における溶接ワイヤ13の長さを調整できる。したがって、溶接ロボット11は、第2送給経路39で溶接ワイヤ13に曲がり癖,捩れ等がつくことをより効果的に抑制できる。
【0099】
また、以上により、実施の形態1に係る溶接ロボット11は、送給経路に接続される第2接続部43が、溶接ワイヤ13の軸芯を回転中心として回転するベアリング機構(機構の一例)を有する。これにより、実施の形態1に係る溶接ロボット11は、フレキシブルコンジットの中心軸(つまり、溶接ワイヤ13の軸芯)を中心に回転方向Sに回転することで、溶接ワイヤ13の捻れをリリースできる。溶接ワイヤ13の捩れは、フレキシブルコンジットおよび溶接ワイヤ13の螺旋状のカールを招き、溶接ワイヤ13の曲げ半径を小さくする。溶接ワイヤ13の捻れをリリースすることで、フレキシブルコンジットおよび溶接ワイヤ13の曲げ半径を大きくできる。したがって、溶接ロボット11は、第2接続部43の回転により、第2送給経路39全体において、フレキシブルコンジットおよび溶接ワイヤ13を曲げ半径150mm以上に維持できる。
【0100】
また、以上により、実施の形態1の変形例に係る溶接ロボット91において、溶接ワイヤ矯正機21は、トーチ19の上部に設けられる。これにより、実施の形態1の変形例に係る溶接ロボット91は、トーチ19の直前で溶接ワイヤ13の曲がり癖を矯正する。略ストレートに矯正された溶接ワイヤ13がトーチ19に直接供給される。したがって、強制給電チップ15に供給される溶接ワイヤ13は、トーチネック87のみで屈曲されることになる。溶接ロボット91は、溶接ワイヤ矯正機21によりトーチ19の直近で溶接ワイヤ13を矯正するため、溶接ワイヤ13の真直度の低下をより抑制できる。
【0101】
また、以上により、実施の形態1に係る溶接ロボット11におけるトーチ19は、溶接ワイヤ送給用モータ31を有する。溶接ワイヤ矯正機21は、溶接ワイヤ13のワイヤ供給源33(供給源の一例)の近傍に設けられる。これにより、実施の形態1に係る溶接ロボット11は、トーチ19と第2送給経路39との間で溶接ワイヤ13を正送,逆送動作によりストロークさせることができる。
【0102】
上述したストローク制御が行われるアーク溶接制御方法は、短絡が発生する短絡期間で溶接ワイヤ送給を逆送することにより、短絡期間に送給される溶接ワイヤの送給量を減少させることができ、溶接ワイヤ送給を逆送としない場合と比べて、短い時間で短絡状態を開放させてアークを発生させることができる。また、このようなアーク溶接制御方法は、短絡解放後に、溶接ワイヤ送給を逆送から正送として溶接電流を所定のピーク電流に上昇させることにより、安定して溶接ワイヤを燃え上がらせて溶滴を形成することができる。これにより、アーク溶接制御方法を採用する溶接ロボット11は、長時間短絡による溶接ワイヤ13のはじき,短絡周期の乱れ等をより効果的に防止でき、より安定した溶接を実現できる。
【0103】
また、溶接ワイヤ送給を逆送する場合、溶接ロボット11は、溶接ワイヤ送給方向の上流側では、溶接ワイヤ13が逆送される分、軸線方向に溶接ワイヤ13が変形可能となるための余長が確保されている必要がある。溶接ロボット11は、トーチ19に設けられた溶接ワイヤ送給用モータ31と、マニピュレータ17の後部(ワイヤ供給源33側)に搭載された溶接ワイヤ矯正機21との間が、フレキシブルコンジットによって接続される。フレキシブルコンジットの後端は、接続ユニット37を介して溶接ワイヤ矯正機21と接続される。これにより、第2送給経路39は、溶接ワイヤ送給用モータ31と接続ユニット37を接続するフレキシブルコンジットが、逆送のために必要な溶接ワイヤ13の余長を収容(許容)できる。
【0104】
また、以上により、実施の形態1および実施の形態1の変形例に係る溶接ロボット11,91におけるトーチ19は、トーチネック87を有する。トーチネック87の曲げ角度は、トーチネック87が曲がっていない(トーチネック87の曲げ角度が0°)と仮定した場合における溶接ワイヤ13の曲げ角度よりも小さい。言い換えると、トーチネック87の曲げ角度は、溶接ワイヤ矯正機21により矯正され、トーチネック87内を通過する溶接ワイヤ13の曲率を大きくする角度よりも小さい。なお、ここでいう、「通過する溶接ワイヤ13の曲率を大きくする角度」とは、本来、溶接ワイヤ矯正機21により矯正された溶接ワイヤ13が有している曲がりが大きくなった(つまり、曲げ角度が大きくなった)角度のことである。これにより、実施の形態1および実施の形態1の変形例に係る溶接ロボット11,91は、トーチネック87の曲げ角度が、通過する溶接ワイヤ13の曲率を大きくする角度よりも大きいので、溶接ワイヤ13をさらに大きく曲げず、略ストレートの状態のまま、強制給電チップ15の先端から溶接ワイヤ13を突出することが可能となる。
【0105】
以上、添付図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例、修正例、置換例、付加例、削除例、均等例に想到し得ることは明らかであり、それらについても本開示の技術的範囲に属すると了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した各種の実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本開示は、溶接ワイヤ突出し長さを長くしても、溶接箇所の狙いずれをより効果的に抑制する溶接システムの提示として有用である。
【符号の説明】
【0107】
11,91 溶接ロボット
13 溶接ワイヤ
15 強制給電チップ
17 マニピュレータ
19 トーチ
21 溶接ワイヤ矯正機
23 ロボット
31 溶接ワイヤ送給用モータ
35 第1送給経路
37 接続ユニット
39 第2送給経路
41 第1接続部
43 第2接続部
45 第3接続部
53 パンベアリング
61 チルトベアリング
63 ユニット本体
65 ころ軸受
75 プラグ
87 トーチネック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16