(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】電離放射線変換デバイスおよび電離放射線の検出方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/24 20060101AFI20241220BHJP
【FI】
G01T1/24
(21)【出願番号】P 2022541162
(86)(22)【出願日】2021-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2021025154
(87)【国際公開番号】W WO2022030154
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2024-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2020134152
(32)【優先日】2020-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】根上 卓之
(72)【発明者】
【氏名】関本 健之
(72)【発明者】
【氏名】松井 太佑
(72)【発明者】
【氏名】金子 幸広
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-535537(JP,A)
【文献】特表2018-503060(JP,A)
【文献】特表2019-512164(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0115405(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0170412(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/24
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項11】
第1電極、
第2電極、および、
前記第1電極および前記第2電極の間に配置された電離放射線変換層、
を備え、
ここで、
前記第1電極は、第1金属を含有し、
前記第2電極は、第2金属および金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1つを含有し、
前記電離放射線変換層は、ペロブスカイト化合物を含有し、および
前記電離放射線変換層の電子親和力の値から前記第1電極の仕事関数の値を引いた差が、0eV以上かつ0.4eV以下である、
電離放射線変換デバイス、を用い、
前記電離放射線変換デバイスによって、前記ペロブスカイト化合物に電離放射線が照射されることにより発生した電荷を検出する、
電離放射線の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電離放射線変換デバイスおよび電離放射線の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線のような電離放射線を電気信号に変えるデバイスは種々あり、物質から発せられる電離放射線の強度を測定することや、電離放射線を物質に照射した結果、物質を透過する電離放射線を測定することで物質の内部情報を得ることができる。電離放射線を電気信号に変換する材料は種々考案され実用化されている。一般的にこの材料は原子番号が大きい原子を含むことが望ましい。現在使用されるのはアモルファスセレンやヨウ化セシウムである。近年、ヨウ化鉛メチルアンモニウムに代表されるペロブスカイト化合物がその材料として着目されている。
【0003】
電離放射線を電気信号に変える場合、前述の材料を厚くすることで、その感度を上げることが可能である。
【0004】
非特許文献1では、X線を電荷に変換するペロブスカイト化合物として、ヨウ化鉛メチルアンモニウムが使用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Nature Photonics Vol.9, p.444
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、電離放射線に対して高い感度を有する電離放射線変換デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の電離放射線変換デバイスは、
第1電極、
第2電極、および、
前記第1電極および前記第2電極の間に配置された電離放射線変換層、
を備え、
ここで、
前記第1電極は、第1金属を含有し、
前記第2電極は、第2金属および金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1つを含有し、
前記電離放射線変換層は、ペロブスカイト化合物を含有し、
前記電離放射線変換層の電子親和力の値から前記第1電極の仕事関数の値を引いた差が、0eV以上かつ0.4eV以下である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の目的は、電離放射線に対して高い感度を有する電離放射線変換デバイスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の電離放射線変換デバイス100の断面図を示す。
【
図2】
図2は、本開示の電離放射線変換デバイス200の断面図を示す。
【
図3】
図3は、第1実施形態による電極および電離放射線変換層のエネルギーバンド構造の一例を示す。
【
図4】
図4は、第1実施形態による電離放射線変換デバイスの断面エネルギーバンド構造の一例を示す。
【
図5】
図5は、第2実施形態による第2電極および電離放射線変換層のエネルギーバンド構造の一例を示す。
【
図6】
図6は、第2実施形態による電離放射線変換デバイスの断面エネルギーバンド構造の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
電離放射線変換層において、吸収した電離放射線(例えば、X線)を電子-正孔対に変換し、電子および正孔を有効に取り出すには、電離放射線変換層とそれに接する電極とがオーミック接触あるいは電子および正孔の輸送を阻害しないエネルギー障壁キャリアの小さい接触を形成する必要がある。
【0011】
本発明者らは、この課題を解決するために、電離放射線変換層に含まれる電離放射線変換材料としてペロブスカイト化合物を検討した。
【0012】
本開示の電離放射線変換デバイスによれば、電離放射線変換層と第1電極ならびに第2電極とでエネルギー障壁がない、あるいは小さい接触を形成することができる。すなわち、本開示の電離放射線変換デバイスは、電離放射線に対して高い感度を有し、変換損失が少ない。
【0013】
本開示において、「電離放射線」とは、α線、β線、中性子線、陽子線、X線、またはγ線を意味する。
【0014】
(本開示の実施形態)
以下、本開示の実施形態が、図面を参照しながら説明される。
【0015】
本開示の電離放射線変換デバイスは、第1電極、第2電極、および、第1電極および第2電極の間に配置された電離放射線変換層、を備える。ここで、第1電極は、第1金属を含有する。第2電極は、第2金属および金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1つを含有する。電離放射線変換層は、ペロブスカイト化合物を含有する。電離放射線変換層の電子親和力の値から第1電極の仕事関数の値を引いた差が、0eV以上かつ0.4eV以下である。
【0016】
以上の構成によれば、本開示の電離放射線変換デバイスは、電離放射線に対して高い感度を有する。すなわち、本開示の電離放射線変換デバイスは、電離放射線を効率よく電荷に変換できる。
【0017】
電離放射線変換デバイスは、例えば、電離放射線検出器、撮像装置、または線量計として使用され得る。
【0018】
図1は、本開示の電離放射線変換デバイス100の断面図を示す。
【0019】
電離放射線変換デバイス100は、第1電極11、第2電極13、および、第1電極および第2電極の間に配置された電離放射線変換層12、を備える。
【0020】
電離放射線変換層12は、ペロブスカイト化合物を含有する。
【0021】
本開示において、「ペロブスカイト化合物」とは、ABX3により表される化合物また
はその類縁体である。
【0022】
ABX3により表される化合物は、例えば、BaTiO3、MgSiO3、CsPbI3、CsPbBr3または(CH3NH3)PbI3である。
【0023】
ABX3により表される化合物の類縁体は、以下の(i)または(ii)の構造を有す
る。
(i)ABX3により表される化合物において、Aサイト、Bサイト、またはXサイト
の一部が欠損した構造(例えば、(CH3NH3)3Bi2I9)
(ii)ABX3により表される化合物において、Aサイト、Bサイト、またはXサイ
トが異なる複数の価数の材料によって構成される構造(例えば、Cs(Ag0.5Bi0.5)I3)
【0024】
ペロブスカイト化合物は、2種以上のカチオンおよび1種以上の1価のアニオンを含んでいてもよい。
【0025】
ペロブスカイト化合物は、実質的に、2種以上のカチオンおよび1種以上の1価のアニオンからなっていてもよい。「ペロブスカイト化合物が、実質的に、2種以上のカチオンおよび1種以上の1価のアニオンからなる」とは、ペロブスカイト化合物を構成する全元素の合計の物質量に対して、2種以上のカチオンおよび1種以上の1価のアニオンの合計の物質量が90モル%以上であることを意味する。ペロブスカイト化合物は、2種以上のカチオンおよび1種以上の1価のアニオンからなっていてもよい。
【0026】
電離放射線に対する感度を高めるために、2種以上のカチオンは、Pb2+、Sn2+、Ge2+、およびBi3+からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0027】
1価のアニオンは、例えば、ハロゲンアニオンまたは複合アニオンである。ハロゲンアニオンの例は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素である。複合アニオンの例は、SCN-、NO3
-、またはHCOO-である。
【0028】
ペロブスカイト化合物は、例えば、化学式ABX3(Aは1価のカチオンであり、Bは
2価のカチオンであり、かつ、Xはハロゲンアニオンである)により表される化合物であってもよい。
【0029】
1価のカチオンは、有機カチオンまたはアルカリ金属カチオンである。
【0030】
有機カチオンの例は、メチルアンモニウムカチオン(すなわち、CH3NH3
+)、ホル
ムアミジニウムカチオン(すなわち、NH2CHNH2
+)、フェニルエチルアンモニウム
カチオン(すなわち、C6H5C2H4NH3
+)、またはグアニジニウムカチオン(すなわち、CH6N3
+)である。
【0031】
アルカリ金属カチオンの例は、セシウムカチオン(すなわち、Cs+)または、ルビジ
ウムカチオン(すなわち、Rb+)である。
【0032】
ペロブスカイト化合物は、複数の1価のカチオンを含んでいてもよい。例えば、上述の有機カチオンのうち少なくとも1つと、金属カチオンのうちの少なくとも1つとが、混合されていてもよい。
【0033】
2価のカチオンは、例えば、第13族元素から第15属元素のカチオンである。2価のカチオンは、例えば、鉛カチオン(すなわち、Pb2+)、錫カチオン(すなわち、Sn2+)、またはゲルマニウムカチオン(すなわち、Ge2+)である。電離放射線をより効率よく変換するために、2価の金属カチオンは、Pb2+であってもよい。
【0034】
ペロブスカイト化合物は、例えば、CsPbI3またはCsPbBr3である。
【0035】
電離放射線に対する感度をより高めるために、ペロブスカイト化合物は、1価の有機カチオン、第14族元素のカチオン、およびハロゲンアニオンから構成されていてもよい。すなわち、ペロブスカイト化合物は、有機無機ペロブスカイト化合物であってもよい。
【0036】
電離放射線に対する感度を高めるために、有機無機ペロブスカイト化合物は、有機カチオンとしてメチルアンモニウムカチオン(以下、「MA」という)およびホルムアミジニウムカチオン(以下、「FA」という)からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0037】
第14族元素のカチオンは、例えば、Pb2+またはSn2+である。
【0038】
有機無機ペロブスカイト化合物は、例えば、CH3NH3PbI3、CH3CH2NH3PbI3、HC(NH2)2PbI3、またはCH3NH3PbBr3である。
【0039】
有機無機ペロブスカイト化合物は、電離放射線の吸収係数が高く、効率よく電離放射線を電荷に変換できる。さらに、有機カチオンを含むことで電荷の再結合を抑制でき、効率よく電荷を取り出すことができる。
【0040】
電離放射線を効率よく変換するために、電離放射線変換層12は、ペロブスカイト化合物を30モル%以上含有していてもよい。電離放射線変換層12は、ペロブスカイト化合物を80モル%以上含有していてもよい。電離放射線変換層12は、ペロブスカイト化合物からなっていてもよい。
【0041】
電離放射線を効率よく変換するために、電離放射線変換層12は、0.1μm以上かつ1cm以下の厚みを有していてもよい。望ましくは、電離放射線変換層12は、100μm以上かつ1mm以下の厚みを有していてもよい。
【0042】
第1電極11は、第1金属を含有する。
【0043】
第1金属は、Mg、Zr、Hf、Mn、Cd、Ga、In、およびBiからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。これにより、第1電極11と電離放射線変換層12との界面の接触抵抗を低減できる。
【0044】
第2電極13は、第2金属および金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1つを含有する。
【0045】
第2金属は、PtおよびSeからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。これにより、第2電極13と電離放射線変換層12との界面の接触抵抗を低減できる。
【0046】
金属酸化物は、MoO3およびWO3からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。これにより、第2電極13と電離放射線変換層12との界面の接触抵抗を低減できる。
【0047】
第1電極11は、第1金属を50モル%以上含有していてもよい。第1電極11は、第1金属を90モル%以上含有していてもよい。望ましくは、第1電極11は、第1金属からなっていてもよい。
【0048】
第2電極13は、第2金属および金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1つを50モル%以上含有していてもよい。第2電極13は、第2金属および金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1つを90モル%以上含有していてもよい。望ましくは、第2電極13は、第2金属および金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1つからなっていてもよい。第2電極13は、第2金属からなっていてもよく、金属酸化物からなっていてもよい。
【0049】
図2は、本開示の電離放射線変換デバイス200の断面図を示す。
【0050】
電離放射線変換デバイス200は、電離放射線変換デバイス100の構成に加えて、電荷蓄積部14、薄膜トランジスタ15、および電圧印加部16を備える。
【0051】
電荷蓄積部14は、第2電極13と電気的に接続されている。
【0052】
薄膜トランジスタ15は、第2電極13および電荷蓄積部14と電気的に接続されている。
【0053】
電離放射線変換デバイス200の上面視において、第1電極11および電離放射線変換層12は、薄膜トランジスタ15のほぼ全面を覆うように配置されている。
【0054】
次に、
図2を用いて直接変換方式の電離放射線変換デバイス200の動作の概略を説明する。電離放射線発生器から放射された電離放射線は、人体等の被検体を透過した後,電離放射線変換層12に入射する。電離放射線変換層12では、ペロブスカイト化合物に放射された電離放射線(例えば、X線)の量に応じた電荷(正孔-電子対)が励起される。発生した電荷は、電圧印加部16により電離放射線変換層12に印加される電圧の極性に従い第2電極(すなわち、画素電極)13に移動し、薄膜トランジスタ15内の電荷蓄積部14に蓄積される。その後、薄膜トランジスタ15を線順次に走査することで、電荷蓄積部14に蓄積された電荷情報をデータバスラインから読み出すことができる。読み出された電荷情報はディジタル画像信号に変換されて順次出力される。
【0055】
電離放射線変換層12に含まれるペロブスカイト化合物に電離放射線が照射されることにより発生した電荷を検出することで、電離放射線を検出してもよい。以上の検出方法によれば、感度よく電離放射線を検出できる。
【0056】
(第1実施形態)
第1実施形態では、有機無機ペロブスカイト化合物を含む電離放射線変換層は、第1電極および第2電極に接している。ここで、第1電極および第2電極は、電離放射線変換層の電子親和力と同じかそれより小さい仕事関数を有する。
【0057】
図3は、第1実施形態による電極および電離放射線変換層のエネルギーバンド構造の一例を示す。
図3では、電離放射線変換層に接していない場合の電極の仕事関数(φ1)と、第1電極および第2電極に接していない場合の電離放射線変換層の電子親和力(χ)が示される。ここで、第1電極および第2電極は、いずれも電離放射線変換層の電子親和力(χ)よりも小さい仕事関数(φ1)を有する。
【0058】
図4は、第1実施形態による電離放射線変換デバイスの断面エネルギーバンド構造の一例を示す。
【0059】
図4では、電離放射線変換層が第1電極および第2電極に接している場合のエネルギーバンド図が模式的に示される。
【0060】
図4から、電離放射線変換層は、第1電極および第2電極との間にエネルギー障壁がないことがわかる。したがって、電離放射線によって電離放射線変換層で生成された電子を有効に取り出すことができる。ここで、電離放射線変換層の電子親和力と第1電極および第2電極の仕事関数のエネルギー差(χ-φ1)が大きい場合は、接触界面での電子の捕獲確率が高くなり、再結合が生じ得る。その結果、電子が消失する。
【0061】
電離放射線変換層の電子親和力の値から第1電極の仕事関数の値を引いた差、および、電離放射線変換層の電子親和力の値から第2電極の仕事関数の値を引いた差が、いずれも0eV以上かつ0.4eV以下であれば、エネルギー障壁を形成せずに、接触界面での電子の捕獲を防ぐことができる。
【0062】
例えば、電離放射線に対して高い感度を有する有機無機ペロブスカイト化合物としてFAPbI3およびMAPbI3が挙げられる。
【0063】
FAPbI3の電子親和力は4.22eVである。電離放射線変換層がFAPbI3からなる場合、第1電極および第2電極は、4.22eV以下の仕事関数を有する材料から構成され得る。当該材料の例は、Zr、Hf、Mn、Cd、Ga、In、またはBiである。Zr、Hf、Mn、Cd、Ga、In、およびBiの仕事関数は、それぞれ4.05eV、3.90eV、4.10eV、4.22eV、4.20eV、4.12eV、および4.22eVである。当該材料は、4.22eV以下の仕事関数を有する合金であってもよい。
【0064】
MAPbI3の電子親和力は3.92eVである。したがって、電離放射線変換層がM
APbI3からなる場合、第1電極および第2電極は、3.92eV以下の仕事関数を有
する材料から構成され得る。当該材料の例は、MgまたはHfである。MgおよびHfの仕事関数は、それぞれ3.66eVおよび3.90eVである。当該材料は、3.92eV以下の仕事関数を有する合金であってもよい。
【0065】
以上のように、電離放射線変換層の電子親和力よりも小さい仕事関数を有する金属または金属酸化物を用いれば、電離放射線変換層と電極との接触抵抗を低減できる。
【0066】
第1電極は、第2電極と同一の金属を含有していてもよい。これにより、
図4における両界面(すなわち、第1電極と電離放射線変換層との界面、および、第2電極と電離放射線変換層との界面)でのエネルギーバンドの曲がり(すなわち、内部電界)が等しくなる。その結果、電圧を印加した場合に電離放射線変換層の内部に一定の電界が掛かり、電荷が一定に加速されて取り出すことができる。
【0067】
例えば、第1電極および第2電極は、いずれもInを含有していてもよい。第1電極および第2電極は、いずれもInからなっていてもよい。
【0068】
(第2実施形態)
第2実施形態では、有機無機ペロブスカイト化合物を含む電離放射線変換層は、第1電極および第2電極に接している。ここで、第2電極は、電離放射線変換層の電子親和力と禁制帯幅の和と同じかそれより大きい仕事関数を有する。
【0069】
図5は、第2実施形態による第2電極および電離放射線変換層のエネルギーバンド構造の一例を示す。
【0070】
図5では、第2電極に接していない場合の電離放射線変換層の電子親和力(χ)および禁制帯幅(Eg)と、電離放射線変換層に接していない場合の第2電極の仕事関数(φ2)が示される。ここで、第2電極は、電離放射線変換層の電子親和力(χ)と禁制帯幅(Eg)の和よりも大きい仕事関数(φ2)を有する。
【0071】
図6は、第2実施形態による電離放射線変換デバイスの断面エネルギーバンド構造の一例を示す。
【0072】
図6では、電離放射線変換層は、第1電極および第2電極に接している場合のエネルギーバンド図が模式的に示される。ここで、電離放射線変換層の電子親和力(χ)と第1電極の仕事関数(φ1)のエネルギー差(χ-φ1)(すなわち、電離放射線変換層の電子親和力の値から第1電極の仕事関数の値を引いた差)は、0eV以上かつ0.4eV以下である。
【0073】
図6から、第2電極は、電離放射線変換層との間にエネルギー障壁がないことがわかる。したがって、電離放射線によって電離放射線変換層で生成された正孔を、第2電極から有効に取り出すことができる。ここで、電離放射線変換層の電子親和力と禁制帯幅の和と第2電極の仕事関数のエネルギー差((χ+Eg)-φ2)の絶対値が大きい場合は、接触界面での正孔の捕獲確率が高くなり、再結合が生じ得る。その結果、正孔が消失する。
【0074】
電離放射線変換層の電子親和力の値と電離放射線変換層の禁制帯幅の値との合計から、第2電極の仕事関数の値を引いた差が、-0.4eV以上かつ0eV以下であれば、エネルギー障壁を形成せずに、接触界面での正孔の捕獲を防ぐことができる。
【0075】
上述のように、電離放射線に対して高い感度を有する有機無機ペロブスカイト化合物としてFAPbI3およびMAPbI3が挙げられる。
【0076】
FAPbI3の電子親和力と禁制帯幅の和は5.61eVである。電離放射線変換層が
FAPbI3からなる場合、第2電極は、5.61eV以上の仕事関数を有する材料から
構成され得る。当該材料の例は、PtまたはSeである。PtおよびSeの仕事関数は、それぞれ5.65eVおよび5.90eVである。当該材料は、5.61eV以上の仕事関数を有する合金であってもよい。
【0077】
MAPbI3の電子親和力と禁制帯幅の和は5.53eVである。したがって、電離放
射線変換層がMAPbI3からなる場合、第2電極は、5.53eV以上の仕事関数を有
する材料から構成され得る。当該材料の例は、PtまたはSeである。当該材料は、5.53eV以上の仕事関数を有する合金であってもよい。
【0078】
第2電極は、金属酸化物から構成されていてもよい。当該金属酸化物の例は、WO3ま
たはMoO3である。WO3およびのMoO3の仕事関数は、それぞれ5.6eVおよび5
.7eVである。
【0079】
第2電極において、電離放射線変換層と接する面と反対の面に金属膜を形成してもよい。高い導電率を有する金属膜を用いることで、電離放射線変換層に面内で均一に電圧を印加できる。その結果、例えば、電離放射線検出の解像度を向上させることができる。
【0080】
以上のように、第2電極の材料として、電離放射線変換層の電子親和力と禁制帯幅の和よりも大きい仕事関数を有する金属または金属酸化物を用いれば、電離放射線変換層と第2電極との接触抵抗を低減できる。
【0081】
なお、電離放射線変換膜の電子親和力あるいは伝導帯下端のエネルギー準位は、逆光電子分光法により測定することができる。また、以下の価電子帯上端のエネルギー準位と光透過スペクトルやフォトルミネッセンスから測定した禁制帯幅との和から求めることもできる。電離放射線変換膜の電子親和力と禁制帯幅の和となる価電子帯上端のエネルギー準位は、XPS法(X線光電子分光法)、UPS法(紫外線光電子分光)、またはPYS法(Photoelectron. Yield Spectroscopy)により測定することができる。
【0082】
電極の仕事関数は、同様にXPS法、UPS法、またはオージェ電子分光法により測定することができる。
【0083】
(電離放射線の検出方法)
本開示の電離放射線の検出方法は、上述の本開示の電離放射線変換デバイスを用いて、電離放射線を検出する方法である。
【0084】
すなわち、本開示の電離放射線の検出方法は、例えば、
第1電極、
第2電極、および、
前記第1電極および前記第2電極の間に配置された電離放射線変換層、
を備え、
ここで、
前記第1電極は、第1金属を含有し、
前記第2電極は、第2金属および金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1つを含有し、
前記電離放射線変換層は、ペロブスカイト化合物を含有し、および
前記電離放射線変換層の電子親和力の値から前記第1電極の仕事関数の値を引いた差が、0eV以上かつ0.4eV以下である、
電離放射線変換デバイス、を用いる。本開示の電離放射線の検出方法では、当該電離放射線変換デバイスによって、前記ペロブスカイト化合物に電離放射線が照射されることにより発生した電荷を検出する。
【0085】
(電離放射線変換デバイスの製造方法)
以下、電離放射線変換デバイスの製造方法の一例が、
図1を参照しながら説明される。
【0086】
まず、基板(図示せず)上に第2電極13が形成される。基板としては、例えば、ガラスやシリコンを用いることができる。基板上に、スパッタ法により、例えば、Inからなる層が第2電極13として形成される。第2電極13の膜厚は、例えば、500nmである。
【0087】
次に、第2電極13上に電離放射線変換層12が形成される。
【0088】
第2電極13上に、スピンコート法により電離放射線変換層のシード層が形成される。シード層は、例えば、ヨウ化メチルアンモニウム(すなわち、CH3NH3I)およびPbI2をそれぞれ含むジメチルスルホキシド溶液を、第2電極13上に3000rpmでス
ピンコートする方法で、CH3NH3PbI3層を形成できる。シード層の膜厚は、例えば
、300nmである。
【0089】
次に、シード層を形成した基板を過飽和状態のCH3NH3IおよびPbI2を含むγ-
ブチルラクトン溶液に浸漬することで、CH3NH3PbI3層が結晶成長する。このよう
にして、電離放射線変換層12が形成される。電離放射線変換層12の膜厚は、例えば、300μmである。
【0090】
最後に、電離放射線変換層12上に第1電極11が形成される。電離放射線変換層12上に、スパッタ法により、例えば、Inからなる層が形成される。第1電極11の膜厚は、例えば、500nmである。
【0091】
以上のようにして、電離放射線変換デバイスが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本開示の電離放射線変換デバイスは、例えば、電離放射線検出器において利用される。
【符号の説明】
【0093】
11 第1電極
12 電離放射線変換層
13 第2電極
14 電荷蓄積部
15 薄膜トランジスタ
16 電圧印加部
100、200 電離放射線変換デバイス