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  • 特許-アルカリ乾電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-19
(45)【発行日】2024-12-27
(54)【発明の名称】アルカリ乾電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/06 20060101AFI20241220BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241220BHJP
   H01M 6/06 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
H01M4/06 U
H01M4/62 C
H01M6/06 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022508054
(86)(22)【出願日】2020-12-08
(86)【国際出願番号】 JP2020045586
(87)【国際公開番号】W WO2021186805
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2020048354
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樟本 靖幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康文
(72)【発明者】
【氏名】中堤 貴之
(72)【発明者】
【氏名】福井 厚史
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-208753(JP,A)
【文献】特開平2-194103(JP,A)
【文献】特開平2-226657(JP,A)
【文献】国際公開第2018/066204(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/163485(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/056491(WO,A1)
【文献】特開2018-60636(JP,A)
【文献】特表2018-514932(JP,A)
【文献】米国特許第3281278(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/06
H01M 4/62
H01M 6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配されたセパレータと、前記正極、前記負極および前記セパレータ中に含まれるアルカリ電解液と、を備え、
前記負極は、亜鉛を含む負極活物質と、添加剤と、を含み、
前記添加剤は、芳香族カルボン酸およびスズ粉末を含む、アルカリ乾電池。
【請求項2】
前記負極中に含まれるスズ粉末の量は、前記負極活物質100質量部あたり0.05質量部以上、1質量部以下である、請求項1に記載のアルカリ乾電池。
【請求項3】
前記負極中に含まれる芳香族カルボン酸の量は、前記負極活物質100質量部あたり0.05質量部以上、0.5質量部以下である、請求項1または2に記載のアルカリ乾電池。
【請求項4】
前記芳香族カルボン酸は、芳香族ジカルボン酸を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のアルカリ乾電池。
【請求項5】
前記芳香族ジカルボン酸は、フタル酸を含む、請求項4に記載のアルカリ乾電池。
【請求項6】
前記フタル酸は、テレフタル酸を含む、請求項5に記載のアルカリ乾電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルカリ乾電池の負極の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ乾電池(アルカリマンガン乾電池)は、マンガン乾電池に比べて容量が大きく、大きな電流を取り出すことができるため、広く利用されている。アルカリ乾電池は、正極と、負極と、正極と負極との間に配されたセパレータと、正極、負極、およびセパレータに含まれるアルカリ電解液とを備える。負極は、亜鉛を含む負極活物質を含む。
【0003】
複数のアルカリ乾電池を直列に接続して機器を使用する際に、それらのうちの1つが誤ってプラスマイナスを逆向きにして接続され、充電されることがある。また、一次電池であるアルカリ乾電池が、誤って二次電池用の充電器に装填され、充電されることもある。
【0004】
アルカリ乾電池が誤使用により充電されると、電池内部で水素が発生し、それに伴い電池内圧が上昇する。水素の発生量が多くなり、電池内圧が所定値に達すると、安全弁が作動して、電池内部の水素が外部に放出される。このとき、水素の外部への放出とともにアルカリ電解液が外部に漏出し、外部に漏出したアルカリ電解液により機器が故障してしまうことがある。
【0005】
特許文献1は、負極の主たる活物質として亜鉛を用い、正極の主たる活物質として二酸化マンガンもしくはオキシ水酸化ニッケルを用い、不織布からなるセパレータを用い、電解液として水酸化カリウム水溶液を用いた単三形アルカリ電池であって、この電池中に酸化亜鉛が0.08g以上0.1g以下添加されていることを特徴とする単三形アルカリ電池を提案している。
【0006】
特許文献2は、正極と、負極と、セパレータと、少なくとも前記セパレータに保持されたアルカリ電解液とを備えたアルカリ乾電池であって、前記負極は、負極活物質である亜鉛合金粉末と、ゲル状アルカリ電解液とを含み、前記ゲル状アルカリ電解液は、第4級アンモニウム塩を前記亜鉛合金粉末100重量部に対して0.00002M重量部(Mは、前記第4級アンモニウム塩の分子量)以上含んでおり、前記アルカリ電解液と前記ゲル状アルカリ電解液中のアルカリ電解液とは、それぞれ、亜鉛化合物を0.3mol/l以上含んでいるアルカリ乾電池を提案している。
【0007】
特許文献3は、二酸化マンガンを含む正極、亜鉛を含む負極、前記正極と前記負極との間に配されるセパレータ、およびアルカリ電解液を具備するアルカリ乾電池であって、前記セパレータの透気度は、0.5~5.0ml/sec/cm2であり、前記二酸化マンガンの電位は、270~330mV(vs. Hg/HgO)であり、前記アルカリ電解液は、酸化亜鉛を2.0~4.5重量%含むことを特徴とするアルカリ乾電池を提案している。
【0008】
特許文献4は、苛性アルカリ水溶液を電解液とするアルカリ電池において、アリールカルボン酸、その置換誘導体、及びそれらの塩のうちから選ばれた少なくとも1種以上の化合物を負極活物質の防食剤として添加したことを特徴とするアルカリ電池を提案している。
【0009】
特許文献5は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配されたセパレータと、前記正極、前記負極、および前記セパレータに含まれる電解液とを備え、前記電解液は、アルカリ水溶液を含み、前記負極は、亜鉛を含む負極活物質と、添加剤とを含み、前記添加剤は、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、およびそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記負極に含まれる前記負極活物質の量は、前記電解液に含まれる水100質量部あたり176~221質量部であり、前記負極に含まれる前記添加剤の量は、前記負極活物質100質量部あたり0.1~1.0質量部である、アルカリ乾電池を提案している。
【0010】
特許文献6は、2重量%以下の水銀で汞化するか又は無汞化の耐食性亜鉛合金粉を主体とし、これに粒状、繊維状又は鱗片状で少くともその表面が耐アルカリ性、易汞化性で亜鉛より貴な金属又は合金からなる導電材を混在した亜鉛負極を有する亜鉛アルカリ一次電池を提案している。
【0011】
特許文献7は、亜鉛を含むアノードと、水性のアルカリ電解液と、セパレータと、二酸化マンガンを含むカソードとを具備する電気化学電池において、前記アノードは更に亜鉛と物理的に混合される導電性金属粉末を含むことを特徴とする電気化学電池を提案している。
【0012】
特許文献8は、アルカリ電気化学セル用のゲル状負極であって、前記負極は、亜鉛系粒子、アルカリ電解質、ゲル化剤、ならびにアルカリ金属水酸化物、有機リン酸エステル界面活性剤、金属酸化物、及びスズからなる群から選択される2つ以上の添加物を含む、ゲル状負極を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2006-156158号公報
【文献】特開2011-216218号公報
【文献】国際公開第2010/140295号公報
【文献】特開昭61-208753号公報
【文献】国際公開第2018/163485号公報
【文献】特開昭61-96665号公報
【文献】特表2003-502808号公報
【文献】特表2018-514932号公報
【発明の概要】
【0014】
アルカリ乾電池の誤使用による充電が続くと、負極で電解液中の亜鉛イオンの還元による亜鉛の析出が進み、電解液中の亜鉛イオンが減少する。電解液中の亜鉛イオンが減少すると、亜鉛の析出反応に対する抵抗が大幅に増大し、負極電位が急速に低下して、早期に水素発生電位に到達してしまう。その結果、水素発生量が増大し、安全弁の作動により、水素の外部への放出とともにアルカリ電解液が外部に漏出してしまう。これに対して、特許文献1~3の提案では十分に対処することが困難である。一方、特許文献4~8は、電池の誤使用による問題に対処する手段を提供するものではない。
【0015】
本開示の一側面は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配されたセパレータと、前記正極、前記負極および前記セパレータ中に含まれるアルカリ電解液と、を備え、前記負極は、亜鉛を含む負極活物質と、添加剤と、を含み、前記添加剤は、芳香族カルボン酸およびスズ粉末含む、アルカリ乾電池に関する。
【0016】
本開示によれば、アルカリ乾電池が誤使用により充電された場合に、電池外部へのアルカリ電解液の漏出を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本開示の一実施形態におけるアルカリ乾電池の一部を断面とする正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示の実施形態に係るアルカリ乾電池は、正極と、負極と、正極と負極との間に配されたセパレータと、正極、負極、およびセパレータ中に含まれるアルカリ電解液(以下、単に電解液と称する。)と、を備える。
【0019】
負極は、亜鉛を含む負極活物質と、添加剤と、を含む。添加剤は、芳香族カルボン酸およびスズ(錫:Sn)粉末を含む。
【0020】
アルカリ乾電池が誤使用により充電されると、負極では電解液中に含まれる亜鉛イオン(Zn2+)が還元されて負極活物質表面に亜鉛が析出する反応が生じる。そのため、負極電位は、亜鉛イオンの還元電位である-1.4V(vs.Hg/HgO)付近に維持される。アルカリ乾電池の充電がさらに続くと、電解液中の亜鉛イオンが減少し、上記の亜鉛の析出反応に対する抵抗が増大し、負極電位は、電解液中の水の分解電位(水素発生電位)である-1.7V(vs.Hg/HgO)以下に低下する。なお、電解液中の亜鉛イオンは、亜鉛錯イオン:Zn(OH) 2-として存在する。
【0021】
一方、負極に上記添加剤を含ませることにより、負極活物質表面における亜鉛の腐食(ZnOの生成)、ZnOの溶解、亜鉛の再析出のサイクルが加速し、負極電位が亜鉛イオンの還元電位付近に維持されることで、水素発生が抑制され、内圧上昇による安全弁の作動が起こりにくくなる。
【0022】
ZnOの生成、溶解、亜鉛の再析出のサイクルが加速するメカニズムは明確ではないが、スズ粉末は、誤使用による充電による亜鉛の析出形態を変化させ、亜鉛の比表面積を増大させると推察される。ZnおよびSnの体積抵抗率はそれぞれ5.5μΩcmおよび11.5μΩcmである。SnはZnよりも体積抵抗率が高いため、Znの析出はZn表面で優先的に生じる。亜鉛を含む負極活物質粉末にスズ粉末を混在させると、負極活物質に近接するスズ粉末は、負極活物質粉末の表面の一部を遮蔽する。亜鉛イオンは、スズ粉末で遮蔽された表面を迂回して析出するため、Znがデンドライト状に成長しやすくなる。よって、亜鉛の比表面積が増大する。
【0023】
析出する亜鉛の比表面積が大きくなることで、電解液中の水と亜鉛との反応性が高くなり、比表面積の大きな亜鉛表面で比較的多量のZnOが生成する。ZnOは電解液中に溶解する。芳香族カルボン酸は、電解液中で亜鉛イオンと錯体を形成するため、ZnOの溶解を促進する役割を果たす。ZnOの溶解で電解液中に放出された亜鉛イオンは、誤使用による充電により負極活物質表面に再析出する。このようなサイクルが継続することで、負極電位が亜鉛の還元電位付近に維持され、負極電位の低下による水素発生が抑制される。
【0024】
ここで、芳香族カルボン酸とは、芳香環と、芳香環に直接結合するカルボキシル基とを有する化合物の総称である。芳香族カルボン酸は、少なくとも1つのカルボキシル基を有すればよいが、カルボキシル基を2つ以上有する芳香族ポリカルボン酸が、電解液中で亜鉛イオンと安定な錯体を形成し易い点で望ましく、中でも芳香族ジカルボン酸が好ましい。芳香族カルボン酸が有する少なくとも1つのカルボキシル基は、塩を形成していてもよい。すなわち、芳香族カルボン酸は、芳香族カルボン酸塩であってもよい。COOH基のHと置換されるカチオンは、アルカリ金属イオン、第二族元素のイオン、オニウムカチオン、アンモニウムイオンなどが挙げられる。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウムなどが例示される。第二族元素としては、マグネシウム、カルシウムなどが例示される。芳香族カルボン酸は、電解液中で電離してアニオンとして存在してもよい。
【0025】
芳香環は、ベンゼン環でもよく、ナフタレン環でもよく、それ以外でもよいが、ベンゼン環が好ましい。芳香環には、亜鉛イオンとの錯体形成を大きく阻害しない置換基が結合していてもよい。芳香族ジカルボン酸としては、例えば、ベンゼンジカルボン酸(すなわちフタル酸類)、ベンゼンジカルボン酸の誘導体などが挙げられる。誘導体には、ベンゼン環に結合するカルボキシル基以外の置換基(例えばメチル基など)を有する化合物が含まれるが、エステルは含まない。フタル酸類の中では、特にテレフタル酸がZnOの溶解を促進する効果が大きい点で好ましい。芳香族カルボン酸の90質量%以上が芳香族ジカルボン酸であることが望ましく、芳香族ジカルボン酸の90質量%以上がフタル酸類であることが望ましく、フタル酸類の90質量%以上がテレフタル酸であることが望ましい。
【0026】
負極中に含まれる芳香族カルボン酸(好ましくは芳香族ジカルボン酸(更に好ましくはテレフタル酸))の量は、例えば、負極活物質100質量部あたり0.05質量部以上、0.5質量部以下であってもよく、0.05質量部以上、0.3質量部以下であってもよく、0.08質量部以上、0.2質量部以下であってもよい。この範囲では、誤使用による充電時に水素発生を抑制する効果が十分に大きくなる。また、より良好な放電性能を得ることができる。芳香族カルボン酸は、負極の作製に用いられる電解液に予め添加しておいてもよい。電解液中の芳香族カルボン酸の濃度を、例えば0.05質量%以上、0.5質量%以下としてもよい。
【0027】
スズ粉末は、水素発生過電圧が大きく、比重が亜鉛に近いため、負極活物質に均一に分散しやすく、かつ電池の放電反応に不利益与えないため添加剤として適している。スズ粉末は、金属状態のスズを主成分とする粉末であればよい。スズ粉末は、微量の他元素を含むスズ合金であってもよいし、微量のスズ酸化物を含んでもよい。スズ粉末は、例えば20質量%以下のスズ以外の元素を含み、残部が金属スズである粉末であってもよい。
【0028】
なお、負極活物質として亜鉛合金を用いる場合、亜鉛合金にはスズが含まれ得る。しかし、負極活物質中に亜鉛合金の成分として含まれるスズは、物理的に負極活物質の表面の一部を遮蔽する作用をほとんど有さず、亜鉛の比表面積を増大させる効果も期待できない。スズ粉末は、負極活物質とは別の粉末であり、負極活物質とスズ粉末の粒子同士が混合されることが要求される。
【0029】
負極活物質としては、亜鉛粉末、亜鉛合金粉末などが用いられる。亜鉛合金は、耐食性の観点から、例えば、インジウム、ビスマスおよびアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。亜鉛合金中のインジウム含有量は、例えば、0.01~0.1質量%である。亜鉛合金中のビスマス含有量は、例えば、0.003~0.02質量%である。亜鉛合金中のアルミニウム含有量は、例えば、0.001~0.03質量%である。亜鉛合金中において亜鉛以外の元素が占める割合は、耐食性の観点から、0.025~0.08質量%であるのが好ましい。
【0030】
負極活物質は、通常、粉末状の形態で使用される。負極の充填性および負極内での電解液の拡散性の観点から、負極活物質粉末の平均粒径(D50)は、例えば、100~200μm、好ましくは110~160μmである。なお、本明細書中、平均粒径(D50)とは、体積基準の粒度分布におけるメジアン径である。平均粒径は、例えば、レーザ回折/散乱式粒子分布測定装置を用いて求められる。
【0031】
添加剤であるスズ粉末の平均粒径(D50)は、負極活物質粉末より小さいことが望ましく、例えば0.1~100μmであってもよく、0.1~10μmであってもよい。ただし、スズ粉末の平均粒径D50sは、負極活物質粉末の平均粒径D50zに対して過度に大きくなければよい。例えばD50s/D50z<1を満たす範囲であればよく、D50s/D50z<0.1を満たしてもよい。
【0032】
負極中に含まれるスズ粉末の量は、例えば、負極活物質100質量部あたり0.05質量部以上、1質量部以下であってもよく、0.1質量部以上、0.5質量部以下であってもよく、0.2質量部以上、0.4質量部以下であってもよい。この範囲では、負極容量に対する影響が無視できる程度に小さく、かつ誤使用による充電時に水素発生を抑制する効果も十分に大きくなる。
【0033】
負極中に含まれるスズ粉末の質量(Ms)に対する芳香族カルボン酸(好ましくはフタル酸)の質量(Mac)の比(Mac/Ms)は、芳香族カルボン酸とスズ粉末との相乗効果を適正に制御する観点から、例えば、0.05<Mac/Ms<10としてもよく、0.05<Mac/Ms<3としてもよい。
【0034】
正極は、上記の添加剤を含んでもよい。負極に添加した添加剤のほとんどは、負極中に留まるが、負極中の電解液に含まれる添加剤の僅かな一部は、正極中の電解液へ移動してもよい。
【0035】
本開示の一実施形態に係るアルカリ乾電池としては、円筒形電池、コイン形電池などが挙げられる。
【0036】
以下、本実施形態に係るアルカリ乾電池を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。さらに、他の実施形態との組み合わせも可能である。
【0037】
図1は、本開示の一実施形態に係るアルカリ乾電池の横半分を断面とする正面図である。図1は、インサイドアウト型の構造を有する円筒形電池の一例を示す。図1に示すように、アルカリ乾電池は、中空円筒形の正極2と、正極2の中空部内に配されたゲル状の負極3と、これらの間に配されたセパレータ4と、電解液とを含み、これらが、正極端子を兼ねた有底円筒形の電池ケース1内に収容されている。電解液には、アルカリ水溶液が用いられる。
【0038】
正極2は、電池ケース1の内壁に接して配されている。正極2は、二酸化マンガンと電解液とを含む。正極2の中空部内には、セパレータ4を介して、ゲル状の負極3が充填されている。負極3は、亜鉛を含む負極活物質および上記添加剤に加え、通常、電解液とゲル化剤とを含む。
【0039】
セパレータ4は、有底円筒形であり、電解液を含む。セパレータ4は、円筒型のセパレータ4aと、底紙4bとで構成されている。セパレータ4aは、正極2の中空部の内面に沿って配され、正極2と負極3とを隔離している。よって、正極と負極との間に配されたセパレータとは、円筒型のセパレータ4aを意味する。底紙4bは、正極2の中空部の底部に配され、負極3と電池ケース1とを隔離している。
【0040】
電池ケース1の開口部は、封口ユニット9により封口されている。封口ユニット9は、ガスケット5、負極端子を兼ねる負極端子板7、および負極集電体6からなる。負極集電体6は負極3内に挿入されている。ガスケット5には環状の薄肉部5aを有する安全弁が設けられている。負極集電体6は、頭部と胴部とを有する釘状であり、胴部はガスケット5の中央筒部に設けられた貫通孔に挿入され、負極集電体6の頭部は負極端子板7の中央部の平坦部に溶接されている。電池ケース1の開口端部は、ガスケット5の外周端部を介して負極端子板7の周縁部の鍔部にかしめつけられている。電池ケース1の外表面には外装ラベル8が被覆されている。
【0041】
以下、アルカリ乾電池の詳細について説明する。
【0042】
(負極)
負極は、亜鉛を含む負極活物質(亜鉛、亜鉛合金などの粉末)と、添加剤(芳香族ジカルボン酸とスズ粉末)と、ゲル化剤と、電解液とを混合することにより得られる。
【0043】
ゲル化剤としては、特に制限されないが、例えば、吸水性ポリマーなどが使用できる。吸水性ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムが挙げられる。
【0044】
負極に含まれるゲル化剤の量は、負極活物質100質量部あたり、例えば、0.5~2.5質量部である。
【0045】
負極には、粘度の調整などのために、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、ポリオキシアルキレン基含有化合物やリン酸エステルなどが挙げられ、中でも、リン酸エステルおよびそのアルカリ金属塩が好ましい。界面活性剤は、負極の作製に用いられる電解液に予め添加してもよい。
【0046】
(負極集電体)
ゲル状負極に挿入される負極集電体の材質としては、例えば、金属、合金などが挙げられる。負極集電体は、好ましくは、銅を含み、例えば、真鍮などの銅および亜鉛を含む合金製であってもよい。負極集電体は、必要により、スズメッキなどのメッキ処理がされていてもよい。
【0047】
(正極)
正極は、通常、正極活物質である二酸化マンガンに加え、導電剤および電解液を含む。また、正極は、必要に応じて、さらに結着剤を含有してもよい。
【0048】
二酸化マンガンとしては、電解二酸化マンガンが好ましい。二酸化マンガンの結晶構造としては、α型、β型、γ型、δ型、ε型、η型、λ型、ラムスデライト型が挙げられる。
【0049】
二酸化マンガンは粉末の形態で用いられる。正極の充填性および正極内での電解液の拡散性などを確保し易い観点からは、二酸化マンガンの平均粒径(D50)は、例えば、25~60μmである。
【0050】
成形性や正極の膨張抑制の観点から、二酸化マンガンのBET比表面積は、例えば、20~50m2/gの範囲であってもよい。なお、BET比表面積とは、多分子層吸着の理論式であるBET式を用いて、表面積を測定および計算したものである。BET比表面積は、例えば、窒素吸着法による比表面積測定装置を用いることにより測定できる。
【0051】
導電剤としては、例えば、アセチレンブラックなどのカーボンブラックの他、黒鉛などの導電性炭素材料が挙げられる。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛などが使用できる。導電剤は、繊維状などであってもよいが、粉末状であることが好ましい。導電剤の平均粒径(D50)は、例えば、3~20μmである。
【0052】
正極中の導電剤の含有量は、二酸化マンガン100質量部に対して、例えば、3~10質量部、好ましくは5~9質量部である。
【0053】
アルカリ乾電池が誤使用により充電された際に電池内部で発生した水素を吸収するために、銀や、AgO、AgO、Ag、AgNiOなどの銀化合物を、正極に添加してもよい。
【0054】
正極は、例えば、正極活物質、導電剤、アルカリ電解液、必要に応じて結着剤を含む正極合剤をペレット状に加圧成形することにより得られる。正極合剤を、一旦、フレーク状や顆粒状にし、必要により分級した後、ペレット状に加圧成形してもよい。
【0055】
ペレットは、電池ケース内に収容された後、所定の器具を用いて、電池ケース内壁に密着するように二次加圧してもよい。
【0056】
(セパレータ)
セパレータの材質としては、例えば、セルロース、ポリビニルアルコールなどが例示できる。セパレータは、上記材料の繊維を主体として用いた不織布であってもよく、セロファンやポリオレフィン系などの微多孔質フィルムであってもよい。不織布と微多孔質フィルムとを併用してもよい。不織布としては、セルロース繊維およびポリビニルアルコール繊維を主体として混抄した不織布、レーヨン繊維およびポリビニルアルコール繊維を主体として混抄した不織布などが例示できる。
【0057】
図1では、円筒型のセパレータ4aと、底紙4bとを用いて、有底円筒形のセパレータ4を構成している。有底円筒形のセパレータは、これに限らず、アルカリ乾電池の分野で使用される公知の形状のセパレータを用いればよい。セパレータは、1枚のシートで構成してもよく、セパレータを構成するシートが薄ければ、複数のシートを重ね合わせて構成してもよい。円筒型のセパレータは、薄いシートを複数回巻いて構成してもよい。
【0058】
セパレータの厚みは、例えば、200~300μmである。セパレータは、全体として上記の厚みを有しているのが好ましく、セパレータを構成するシートが薄ければ、複数のシートを重ねて、上記の厚みとなるようにしてもよい。
【0059】
(電解液)
電解液は、正極、負極およびセパレータ中に含まれる。電解液としては、例えば、水酸化カリウムを含むアルカリ水溶液が用いられる。電解液中の水酸化カリウムの濃度は、20~50質量%が好ましい。電解液に、さらに酸化亜鉛を含ませてもよい。電解液中の酸化亜鉛の濃度は、例えば、1~5質量%である。
【0060】
負極中に含まれるスズ粉末の質量(Ms)に対するアルカリ乾電池(セル)中に含まれるKOHの質量(Mk)の比(Mk/Ms)は、電解液により芳香族カルボン酸とスズ粉末との相乗効果を適正に制御する観点から、例えば、20<Mk/Ms<580としてもよい。
【0061】
(ガスケット)
ガスケットの材質としては、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。ガスケットは、例えば、上記材質を用いて所定の形状に射出成型することにより得られる。ガスケットは、通常、防爆用の薄肉部を有する。薄肉部は、破断を容易にする観点から環状に形成されていることが好ましい。図1のガスケット5は、環状の薄肉部5aを有する。内圧上昇時に薄肉部を破断しやすくする観点から、ガスケットの材質は、6,10-ナイロン、6,12-ナイロン、およびポリプロピレンが好ましい。
【0062】
(電池ケース)
電池ケースには、例えば、有底円筒形の金属ケースが用いられる。金属ケースには、例えば、ニッケルめっき鋼板が用いられる。正極と電池ケースとの間の密着性を良くするためには、金属ケースの内面を炭素被膜で被覆した電池ケースを用いるのが好ましい。
【0063】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
<実施例1>
下記の(1)~(3)の手順に従って、図1に示す単3形の円筒形アルカリ乾電池(LR6)を作製した。
【0065】
(1)正極の作製
正極活物質である電解二酸化マンガン粉末(平均粒径(D50)35μm)に、導電剤である黒鉛粉末(平均粒径(D50)8μm)を加え、混合物を得た。電解二酸化マンガン粉末および黒鉛粉末の質量比は92.4:7.6とした。なお、電解二酸化マンガン粉末は、比表面積が41m2/gであるものを用いた。混合物に電解液を加え、充分に攪拌した後、フレーク状に圧縮成形して、正極合剤を得た。混合物および電解液の質量比は100:1.5とした。
【0066】
電解液には、水酸化カリウム(濃度35質量%)および酸化亜鉛(濃度2質量%)を含むアルカリ水溶液を用いた。
【0067】
フレーク状の正極合剤を粉砕して顆粒状とし、これを10~100メッシュの篩によって分級して得られた顆粒11gを、外径13.65mmの所定の中空円筒形に加圧成形して、正極ペレットを2個作製した。
【0068】
(2)負極の作製
負極活物質である亜鉛合金粉末(平均粒径(D50)130μm)と、スズ粉末(平均粒径(D50)1.5μm)と、テレフタル酸と、電解液と、ゲル化剤とを混合し、ゲル状の負極3を得た。電解液には、正極の作製で用いた電解液と同じものを用いた。
【0069】
亜鉛合金としては、0.02質量%のインジウムと、0.01質量%のビスマスと、0.005質量%のアルミニウムとを含む亜鉛合金(ZnBiAlIn)を用いた。電解液には、正極の作製で用いた電解液と同じものを用いた。
【0070】
ゲル化剤には、架橋分岐型ポリアクリル酸および高架橋鎖状型ポリアクリル酸ナトリウムの混合物を用いた。
【0071】
スズ粉末の量は、負極活物質100質量部あたり0.25質量部とした。テレフタル酸の量は、負極活物質100質量部あたり0.14質量部とした。負極活物質と、電解液と、ゲル化剤との質量比は、100:50:1とした。
【0072】
(3)アルカリ乾電池の組立て
ニッケルめっき鋼板製の有底円筒形の電池ケース(外径13.80mm、円筒部の肉厚0.15mm、高さ50.3mm)の内面に、日本黒鉛(株)製のバニーハイトを塗布して厚み約10μmの炭素被膜を形成し、電池ケース1を得た。電池ケース1内に正極ペレットを縦に2個挿入した後、加圧して、電池ケース1の内壁に密着した状態の正極2を形成した。有底円筒形のセパレータ4を正極2の内側に配置した後、上記電解液を注入し、セパレータ4に含浸させた。この状態で所定時間放置し、電解液をセパレータ4から正極2へ浸透させた。その後、6gのゲル状負極3を、セパレータ4の内側に充填した。
【0073】
負極中に含まれるスズ粉末の質量(Ms)に対するアルカリ乾電池(セル)中に含まれるKOHの質量(Mk)の比(Mk/Ms)は114とした。
【0074】
セパレータ4は、円筒型のセパレータ4aおよび底紙4bを用いて構成した。円筒型のセパレータ4aおよび底紙4bには、質量比が1:1であるレーヨン繊維およびポリビニルアルコール繊維を主体として混抄した不織布シート(坪量28g/m2)を用いた。底紙4bに用いた不織布シートの厚みは0.27mmであった。セパレータ4aは、厚み0.09mmの不織布シートを三重に巻いて構成した。
【0075】
負極集電体6は、一般的な真鍮(Cu含有量:約65質量%、Zn含有量:約35質量%)を、釘型にプレス加工した後、表面にスズめっきを施すことにより得た。負極集電体6の胴部の径は1.15mmとした。ニッケルめっき鋼板製の負極端子板7に負極集電体6の頭部を電気溶接した。その後、負極集電体6の胴部を、ポリアミド6,12を主成分とし、薄肉部の安全弁を有するガスケット5の中心の貫通孔に圧入した。このようにして、ガスケット5、負極端子板7、および負極集電体6からなる封口ユニット9を作製した。
【0076】
次に、封口ユニット9を電池ケース1の開口部に設置した。このとき、負極集電体6の胴部を、負極3内に挿入した。電池ケース1の開口端部を、ガスケット5を介して、負極端子板7の周縁部にかしめつけ、電池ケース1の開口部を封口した。外装ラベル8で電池ケース1の外表面を被覆した。このようにして、アルカリ乾電池A1を作製した。
【0077】
[評価]
上記で作製した電池A1を用いて、以下の評価試験を行った。電池A1を1個準備し、0.1Aの逆接電流を通電する回路に接続し、逆接続開始から60分後の電池の漏液の有無を調査した。
【0078】
上記の評価試験を5回行い、漏液した電池の個数(漏液数)を求めた。
【0079】
なお、上記の評価試験は、低負荷(30Ω)の機器に4個直列に電池を装填する際に1個の電池が誤ってプラスマイナス逆向きに接続された場合を想定して行われた。60分間の充電時間は、使用者が、機器に電池を装填してから、機器の動作の異常に気付いて、電池の取り付けを確認し、電池を取り外すまでに要する時間を考慮して設定した。
【0080】
<比較例1>
負極の作製において、添加剤としてスズ粉末を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にしてアルカリ乾電池B1を作製し、評価した。
【0081】
<比較例2>
負極の作製において、添加剤としてテレフタル酸を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にしてアルカリ乾電池B2を作製し、評価した。
【0082】
<比較例3>
負極の作製において、添加剤としてスズ粉末を用いず、負極活物質である亜鉛合金として0.02質量%のインジウムと、0.01質量%のビスマスと、0.005質量%のアルミニウムと、0.01質量%のスズを含む亜鉛合金(ZnBiAlInSn)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてアルカリ乾電池B3を作製し、評価した。
【0083】
<比較例4>
負極の作製において、添加剤としてスズ粉末もテレフタル酸も用いなかったこと以外は、実施例1と同様にしてアルカリ乾電池B4を作製し、評価した。
【0084】
評価結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
負極にテレフタル酸とスズ粉末とを添加した実施例1の電池A1では、漏液数は0であった。一方、テレフタル酸とスズ粉末の少なくとも一方を用いなかった比較例1~4では、80%以上の電池で漏液が見られた。また、比較例3では、スズを含む亜鉛合金を負極活物質に用いたが、スズ粉末を用いる場合のような効果は見られなかった。
【0087】
<実施例2~5>
負極の作製において、負極活物質100質量部あたりのスズ粉末の量を0.25質量部に固定し、負極活物質100質量部あたりのテレフタル酸の量を表2に示すように変化させたこと以外は、実施例1と同様にしてアルカリ乾電池A2~A5を作製し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
<実施例6~9>
負極の作製において、負極活物質100質量部あたりのテレフタル酸の量を0.14質量部に固定し、負極活物質100質量部あたりのスズ粉末の量を表3に示すように変化させたこと以外は、実施例1と同様にしてアルカリ乾電池A6~A9を作製し、評価した。評価結果を表3に示す。
【0090】
【表3】
【0091】
表2、3より、負極中に含まれるスズ粉末の量を負極活物質100質量部あたり0.05質量部以上、1質量部以下に制御する場合や、負極中に含まれる芳香族カルボン酸の量を負極活物質100質量部あたり0.05質量部以上、0.5質量部以下に制御する場合には、漏液が起こらないことが理解できる。以上より、上記範囲で添加剤を用いることで、より効果的に水素発生を抑制し得ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本開示の実施形態は、乾電池を電源とするあらゆる機器(特に低負荷の機器)に適用できる。低負荷の機器としては、例えば、ラジオ、時計、ポータブル音楽プレーヤーなどが挙げられる。
【符号の説明】
【0093】
1 電池ケース
2 正極
3 負極
4 有底円筒形のセパレータ
4a 円筒型のセパレータ
4b 底紙
5 ガスケット
5a 薄肉部
6 負極集電体
7 負極端子板
8 外装ラベル
9 封口ユニット
図1